説明

内視鏡の製造方法

【課題】内視鏡の製造方法において、半田付けするための被接着層の形成に要する時間を短縮し、製造効率を向上させることができるようにする。
【解決手段】保持枠22およびレンズ21の表面に、半田付けするための被接着層25、23を形成する被接着層形成工程と、この被接着層形成工程後に、被接着層25、23を介して、保持枠22とレンズ21とを半田付けする半田付け工程とを有する内視鏡の製造方法であって、被接着層形成工程は、微粒子原料をエアロゾル化し、被成膜体に噴射して成膜するエアロゾルデポジション法を用いて、被接着層25、23の成膜開始から成膜終了までの間で、微粒子原料の成分の少なくとも2種類を変化させ、微粒子原料の2種類の一方の成分比率を100%から0%に、他方の成分比率を0%から100%に変化させて成膜するようにした方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、医療用の内視鏡の先端部では、体腔内の環境でも安定した液密、気密状態を保つため、例えば金属などからなる硬質の保持枠に対して、例えばレンズやカバーガラスなどの種々の光学部材が半田付けによって固定されている。
この場合、光学部材および保持枠の少なくともいずれかの表面に、金属膜を成膜して半田付け可能な被接着層を形成してから半田付けすることが多い。
例えば、特許文献1には、レンズ枠の母材を加熱する工程と、イオンボンバード工程と、クロムを下地層として成膜する工程と、ニッケルを中間層として成膜する工程と、中間層が成膜されたレンズ枠を冷却する工程と、金を最表層として成膜する工程とを有するレンズ枠の成膜工程と、レンズの母材を加熱する工程と、クロムを下地層として成膜する工程と、ニッケルを中間層として成膜する工程と、中間層が成膜されたレンズを冷却する工程と金を最表層として成膜する工程とを有するレンズの成膜工程とを備えた内視鏡の製造方法が記載されている。
特許文献1の各成膜工程は、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングなどが用いられる。
また、特許文献2には、外筒の開口部の端面をメッキなどで半田付け可能に形成し、光学部材の周囲端面は真空蒸着、スパッタリングなどの真空プロセスによってメタライズした下地層を形成した後、メッキ処理によって下地層を覆うメタライズ層とこのメタライズ層の上に半田メッキ層を形成し、光学部材の端面と開口部の端面とを半田にて接合固定した内視鏡が記載されている。
【特許文献1】特開2006−239220号公報
【特許文献2】特開平9−265046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来の内視鏡の製造方法には、以下のような問題があった。
特許文献1、2のいずれの技術でも、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングなどの真空成膜法によって成膜するので、高真空の環境で成膜を行う必要があり、成膜時間に加えて、高真空への真空引きの時間やリーク時間などが必要となり、製造のリードタイムが長くなるという問題がある。
また、特許文献1では、これに加えて加熱工程、冷却工程を含むため、さらにリードタイムが長くなるという問題がある。
また、真空成膜法では、成膜材料の種類が金属や特定の化合物に限られてしまうため、半田の接着力を上げるためには被接着層を多層化しなければならず、製造に手間がかかるという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであって、半田付けするための被接着層の形成に要する時間を短縮し、製造効率を向上させることができる内視鏡の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の内視鏡の製造方法は、保持枠および光学部材の少なくともいずれかである被成膜部材の表面に、半田付けするための被接着層を形成する被接着層形成工程と、該被接着層形成工程後に、前記被接着層を介して、前記保持枠と前記光学部材とを半田付けする半田付け工程とを有する内視鏡の製造方法であって、前記被接着層形成工程は、微粒子原料をエアロゾル化し、被成膜体に噴射して成膜するエアロゾルデポジション法を用いて、前記被接着層の成膜開始から成膜終了までの間で、前記微粒子原料の成分の少なくとも2種類を変化させ、前記微粒子原料の2種類の一方の成分比率を100%から0%に、他方の成分比率を0%から100%に変化させて成膜するようにした方法とする。
この発明によれば、被接着層形成工程において、エアロゾルデポジション法を用いて、被接着層の成膜開始から成膜終了までの間で、微粒子原料の成分の少なくとも2種類を変化させ、微粒子原料の2種類の一方の成分比率を100%から0%に、他方の成分比率を0%から100%に変化させて成膜するので、微粒子原料の一方を被接着層を形成する側の部材と密着して接合強度に優れる材質とし、微粒子原料の他方を半田に対する接合性に優れた材質とすることで、半田付け工程において被接着層を形成した保持枠や光学部材に対する半田付けを良好に行うことができる。
この被接着層は、エアロゾルデポジション法で成膜するため、高真空の環境でなくてもまた加熱工程を行わなくても形成することができる。また、微粒子原料は、微粒子化できる材料であれば、特に制限が無く、成分比率も自由に設定することができるため、真空成膜法に比べて被接着層の材料の選択の幅を広げることが可能となる。
なお、微粒子原料の成分比率を100%から0%に、または0%から100%に変える変え方は、ステップ状に変化させてもよいし、連続的に変化させてもよい。
本明細書では、光学部材は、光を透過させて用いる部材一般を意味する。例えば、レンズ、光透過部材、プリズム、透過型回折格子などが挙げられる。
【0006】
また、本発明の内視鏡の製造方法では、前記微粒子原料の2種類の一方は、前記被成膜部材に密着する下地層材料からなり、前記微粒子原料の2種類の他方は、半田付け可能な金属で構成される最表層材料からなり、前記被成膜部材側に、前記下地層材料の成分比率が100%の下地層を形成し、前記被接着層の表面側に、前記最表層材料の成分比率が100%の最表層を形成することが好ましい。
この場合、被接着層の被成膜部材側に下地層材料が100%の下地層が、表面側に最表層材料が100%の最表層が、それぞれ形成されるので、被成膜部材に良好に密着し、接合強度が向上されるとともに、半田に対する接合性を向上させることができる。
【0007】
また、本発明の下地層、最表層を形成する内視鏡の製造方法では、前記下地層と前記最表層との間に、半田と合金化可能な金属からなる微粒子原料により中間層を形成することが好ましい。
この場合、半田と合金化可能な金属からなる微粒子原料による中間層が形成されるので、最表層により中間層が覆われる。そのため、中間層の酸化が抑制されるとともに、中間層を構成する微粒子原料の表面側への析出を抑えることができ、また最表層の下層側でも半田との合金化が可能となり、これらが相俟って、半田との接合強度をより向上させることができる。
【0008】
また、本発明の下地層、中間層、最表層を形成する内視鏡の製造方法では、前記下地層と前記中間層との間に、前記下地層材料と前記中間層を形成する微粒子原料とが混合されそれぞれの成分比率が層厚方向に徐変された下地層側傾斜層を形成することが好ましい。
この場合、下地側傾斜層により、下地層と中間層との間の接合強度を向上させることができる。
【0009】
また、本発明の下地層、中間層、最表層を形成する内視鏡の製造方法では、前記中間層と前記最表層との間に、前記中間層を形成する微粒子原料と前記最表層材料とが混合されそれぞれの成分比率が層厚方向に徐変された最表層側傾斜層を形成することが好ましい。
この場合、最表層側傾斜層により、最表層と中間層との間の接合強度を向上させることができる。
【0010】
また、本発明の下地層、最表層を形成する内視鏡の製造方法では、前記下地層と前記最表層との間に、前記下地層材料と前記最表層材料とが混合されそれぞれの成分比率が層厚方向に徐変された中間傾斜層を形成することが好ましい。
この場合、中間傾斜層により、下地層と最表層との間の接合強度を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の内視鏡の製造方法では、前記微粒子原料の2種類の一方は、前記被成膜部材に含まれる物質を含む材料からなることが好ましい。
この場合、微粒子原料の2種類の一方は、被成膜部材に含まれる物質を含む材料からなるため、被成膜部材に対する接合強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の内視鏡の製造方法によれば、被接着層をエアロゾルデポジション法で成膜するため、高真空の環境や加熱工程を用いなくてもよいので、半田付けするための被接着層の形成に要する時間を短縮し、製造効率を向上させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0014】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る内視鏡の製造方法について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る内視鏡の製造方法によって製造された内視鏡の概略構成を示す模式的な斜視図である。図2(a)は、図1におけるA視の部分拡大図である。図2(b)は、図2(a)におけるB−B断面図である。図3は、本発明の第1の実施形態に係る内視鏡の製造方法によって形成された被接着層の模式的な断面図である。
なお、これらの図面では、見易さのため、各部の寸法比は誇張されている(以下の図面も同じ)。
【0015】
本実施形態の内視鏡の製造方法により製造される内視鏡100は、例えば、医療用など被検者の体腔内に挿入して用いることができるものである。
内視鏡100の概略構成は、図1に示すように、被検者の体内に挿入する細長の挿入部102と、挿入部102に接続された操作部107と、操作部107と電気的な接続をとるとともに、照明光を供給するユニバーサルコード108とからなる。
挿入部102の先端側には、先端から照明光を照射し体内からの反射光を撮像する先端部103、先端部103で受光した光を伝送する光ファイバーを収納するとともに湾曲動作可能とされた可撓管状の湾曲部104が設けられている。
【0016】
このため、先端部103には、照明光を出射する照明レンズや、反射光を撮像するための撮像レンズや、光を透過させる開口カバーなどの光学部材が、必要に応じて設けられている。図2(a)、(b)にこのような光学部材の保持部の一例を示す。
先端部103には、照明光を出射する照明ユニット26と、照明ユニット26から出射される照明光を先端側に照射するレンズ21(光学部材)と、照明ユニット26、レンズ21を同軸上に一体に保持する保持枠22と、レンズ21の先端側のレンズ側面21cを貫通させて保持枠22の先端面22dとを覆う先端カバー20とが設けられている。
【0017】
レンズ21は、照明光を一定の照明領域に照射するため、照明光を拡散または集光させる適宜の屈折力を有するレンズ面21a、21bを備える光学部材である。
レンズ21の光軸方向の一方の端部には、光軸方向の位置決めを行う位置決め面21dが形成されている。レンズ21の外周部は、円筒状のレンズ側面21cの全体に、レンズ21を保持枠22に半田付けするための被接着層23が形成されている。
本実施形態では、レンズ21の材料は、光学ガラスであるLAH58(株式会社オハラ製)を採用している。
【0018】
被接着層23は、本実施形態では、図3に示すように、レンズ側面21cから下地層30、最表層31がこの順に積層されてなる。
下地層30は、被成膜面であるレンズ側面21cとの良好な接合強度を得るための層部分であり、クロム、チタン、銅、シリコンのいずれかを、後述するエアロゾルデポジション法(以下、AD法と略称する)によって厚さ100nmに成膜されたものである。
最表層31は、半田付け可能な金属からなる層部分であり、良好な半田付けを行うことができ、下地層30との接合強度が良好となる金属からなる。本実施形態では、金、銀、ニッケル、白金、銅のいずれかを、AD法によって厚さ1000nmに成膜されたものである。ただし、銅を用いる場合には、下地層30、最表層31のいずれか一方に用いるものとする。
下地層30の厚さは、100nmより薄くてもよいが、20nm以上、100nm以下であることが好ましい。また、最表層31の厚さは、1000nmより薄くてもよいが、20nm以上、1000nm以下であることが好ましい。
【0019】
保持枠22は、略円筒状部材であり、先端側の表面22dから、レンズ21を挿入可能な内径を有する円形穴部が設けられている。この円形穴部は、保持枠22に円形穴として形成されたレンズ保持部22bの内周円筒面全体に、レンズ21を半田付けするための被接着層25が形成されてなる。
レンズ保持部22bの穴底部は、中心にレンズ21の外径より小径で、照明ユニット26を外嵌可能な内径を有する照明ユニット保持部22cが設けられている。照明ユニット保持部22cとレンズ保持部22bとの間には、レンズ21の位置決め面21dを受けて、光軸方向に位置決めするレンズ受け面22aが形成されている。
保持枠22の材質は、適宜の金属を採用することができる。本実施形態では、ステンレス鋼材であるSUS303を採用している。
【0020】
被接着層25は、本実施形態では、図3に示すように、レンズ保持部22bから、被接着層23と同様の下地層30、最表層31が積層されてなる。
被接着層25に用いる下地層30は、保持枠22の材質との接合強度が良好となる材料を選択することが好ましい。被成膜部材に含まれる物質からなる材料は、接合強度を向上させることができるため、より好ましい材料である。例えば、ステンレス鋼からなる保持枠22の場合、クロムは被成膜部材に含まれる物質となっているため、下地層30として好適である。
本実施形態では、被接着層25は厚さも含めて、被接着層23と同一の構成としているが、下地層30、最表層31の厚さは、レンズ21、保持枠22の材質や半田の種類に応じて、それぞれ異なる厚さとしてもよい。
【0021】
レンズ21の被接着層23と保持枠22の被接着層25との間には、半田層24が形成されている。半田層24の厚さは、本実施形態の場合、50μmとしている。
【0022】
このような構成の内視鏡100は、レンズ21のレンズ側面21c、保持枠22のレンズ保持部22bに、それぞれ被接着層23、25を形成する被接着層形成工程と、この被接着層形成工程後に、被接着層23、25を介して、レンズ21と保持枠22とを半田付けする半田付け工程とを備える方法により製造される。
以下では、このような本発明の実施形態に係る内視鏡の製造方法について、被接着層形成工程を中心に説明する。まず、AD法を行うための薄膜成膜装置について説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態に係る内視鏡の製造方法に用いることができる薄膜成膜装置の一例の概略構成を示す模式的な構成図である。
【0023】
図4に示すように、薄膜形成装置50は、第1のチャンバー51と、第1のガスボンベ52と、第2のチャンバー53と、第2のガスボンベ54と、薄膜処理室55とを備えており、第1のチャンバー51と第1のガスボンベ52との間に配管61が設けられ、第2のチャンバー53と第2のガスボンベ54との間に配管62が設けられ、第1のチャンバー51および第2のチャンバー53と薄膜処理室55との間に配管63が設けられている。
第1のチャンバー51には、下地層30を成膜するためのクロム、チタン、銅、シリコンのいずれかを微粒子化した微粒子原料3(下地層材料)が投入されている。また、第2のチャンバー53には、最表層31を成膜するための金、銀、ニッケル、白金、銅のいずれかを微粒子化した微粒子原料5(最表層材料)が投入されている。
第1のガスボンベ52(第2のガスボンベ54)には、微粒子原料3(微粒子原料5)と攪拌・混合してエアロゾル4(エアロゾル6)を形成するための高圧ガスが充填されている。高圧ガスの種類としては、Heガスを好適に用いることができるが、特にこれに制限されることなく、良好な成膜品質が得られればどのようなガスを用いてもよい。
【0024】
また、配管63には、第1のチャンバー51側に流量調整弁63a、第2のチャンバー53側に流量調整弁63bがそれぞれ設けられており、薄膜処理室55内にある先端部分には、配管63を通して供給されるエアロゾル4、6を被成膜部材70に向かって噴射するノズル63cが設けられている。特に図示しないが、ノズル63cと被成膜部材70との間には、エアロゾル4、6の噴射範囲を規制するマスク部材を配置してもよい。
薄膜処理室55の内部には、被成膜部材70を移動可能に保持する保持機構56が設けられている。
保持機構56は、保持機構56a上で、x軸、y軸(図4の裏面から表面に向かう方向)、z軸の3軸方向への移動および各軸回りの回転が制御可能に設けられた移動機構56bと、被成膜部材70を保持するため、移動機構56bの先端に設けられた保持部56cとを備える。
また、薄膜処理室55には、排気を行うために不図示の減圧ポンプに接続された配管64が設けられており、配管64には弁64aが設けられている。
が設けられている。
【0025】
本実施形態の被接着層形成工程は、レンズ21、保持枠22に共通のため、以下では、それらを被成膜部材70として説明する。
まず、第1のチャンバー51内に、微粒子原料3を投入する。ついで、この第1のチャンバー51内に第1のガスボンベ52からガスを導入し、微粒子原料3をガス攪拌してエアロゾル4を形成する。
また、第2のチャンバー53内に微粒子原料5を投入し、第2のガスボンベ54からガスを導入し、ガス攪拌してエアロゾル6を形成する。このとき、流量調整弁63a、63bはそれぞれ閉じておき、第1のチャンバー51と第2のチャンバー53の内部がそれぞれ加圧状態となるようにする。第1のチャンバー51、第2のチャンバー53の圧力としては、例えば、5kPa〜100kPaの範囲が好適である。
また、薄膜処理室55内の保持機構56の保持部56cに被成膜部材70を保持させ、ついで配管64に設けられた弁64aを開いて、減圧ポンプ(図示せず)により薄膜処理室55内部を大気圧下まで減圧した後、弁64aを閉じる。
ここで、薄膜処理室55の圧力は、第1のチャンバー51および第2のチャンバー53との圧力差によってエアロゾル4、6が適宜の速度に加速されるような低圧であればよく、第1のチャンバー51および第2のチャンバー53の圧力に対して、例えば、5kPa程度の圧力差にすることが好ましい。
したがって、薄膜処理室55内の圧力は、例えば、50Pa〜1kPaとすることができ、例えば、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングなどの真空成膜法で必要となるような高真空状態に比べて、高圧状態で成膜することができる。このため、これらの真空成膜法を用いる場合に比べて、薄膜処理室55の減圧工程にかかる時間を低減することができ、被接着層形成工程にかかる時間を短縮することができる。
【0026】
次に、この状態で流量調整弁63aを開くことにより、第1のチャンバー51と薄膜処理室55との圧力差によって、ノズル63cから被成膜部材70に向けてエアロゾル4を高速噴射する。このとき、被成膜部材70は、エアロゾル4が、レンズ21のレンズ側面21c上に均等に噴射されていくように、移動機構56bによってノズル63cに対して相対移動させる。
エアロゾル4が、被成膜部材70の表面に噴射されると、AD法で周知のいわゆる常温衝撃固化現象によって、被成膜部材70の表面に、微粒子原料3が薄膜状に固着されていく。これにより、下地層30が形成されていく。
レンズ側面21c上に、所定厚さ、例えば、厚さ100nmの下地層30が形成されたら、流量調整弁63aを閉止する。
【0027】
次に、流量調整弁63bを開くことにより、同様にして、ノズル63cから被成膜部材70に向けてエアロゾル6を噴射する。
このとき、被成膜部材70は、エアロゾル6が、下地層30上に均等に噴射されていくように、移動機構56bによってノズル63cに対して相対移動させる。この結果、下地層30の上面に、微粒子原料5が薄膜状に固着されていく。これにより、最表層31が形成されていく。
下地層30上に、所定厚さ、例えば、厚さ1000nmの最表層31が形成されたら、流量調整弁63bを閉止する。
このようにして、被成膜部材70の表面に、下地層30、最表層31が積層される。すなわち、被成膜部材70がレンズ21、保持枠22の場合に、それぞれ、被接着層23、25が形成される。以上で、被接着層形成工程が終了する。
【0028】
本工程は、被接着層23(25)の成膜開始から成膜終了までの間で、レンズ側面21cから100nmの間で、微粒子原料3が100%となる下地層30、それより上層で、微粒子原料5が100%となる最表層31を形成するように、被成膜部材に向けて噴射する微粒子原料の成分を変化させて成膜するようにした工程となっている。
【0029】
なお、本工程では、微粒子原料3、5は、微粒子のままエアロゾル化されていればよいため、それぞれを溶融させたり、揮発させたりする必要はないが、微粒子原料3、5の固化現象を促進して成膜効率を向上するために、配管63にヒーター等を設置して、ノズル63cから噴射するエアロゾル4、6を加熱しておいてもよい。
また、図4は模式図のため、被成膜部材70の外周側にエアロゾル4、6が噴射されるように描かれているが、被成膜部材70が保持枠22の場合には、保持枠22の内周面側のレンズ保持部22bに向かって、エアロゾル4、6が噴射されるように、移動機構56bの姿勢を制御することは言うまでもない。
【0030】
次に、半田付け工程を行う。
すなわち、被接着層23が形成されたレンズ21を、被接着層25が形成されたレンズ保持部22b内に挿入して、レンズ21の位置決め面21dをレンズ受け面22aに当接させた状態で、被接着層23、25の間に溶融された半田を流し込んで半田付けを行う。
これにより、被接着層23、25の間に、半田層24が形成され、半田層24と被接着層23、25のそれぞれの最表層31で半田が合金化され、レンズ21が、保持枠22に接合される。
この結果、レンズ21の外周部が、保持枠22に対して、周方向に液密、気密状態に密着される。
このとき、最表層31は、下地層30を介してレンズ側面21cおよびレンズ保持部22bにそれぞれ接合されているため、良好な接着強度が得られる。
【0031】
以上では、保持枠22にレンズ21を半田付けする場合の例で説明したが、レンズ21に代えて、光透過部材であるガラス板やレンズ作用を有するガラス製の透過型回折格子などであっても同様に半田付けすることができる。
【0032】
このように、本実施形態に係る内視鏡の製造方法によれば、被接着層23、25をAD法で成膜するため、高真空の環境や加熱工程を用いなくてもよく、半田付けするための被接着層23、25の形成に要する時間を短縮し、製造効率を向上させることができる。
【0033】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る内視鏡の製造方法について説明する。
図5は、本発明の第2の実施形態に係る内視鏡の製造方法によって形成された被接着層の模式的な断面図である。図6は、本発明の第2の実施形態に係る内視鏡の製造方法に用いることができる薄膜成膜装置の一例の概略構成を示す模式的な構成図である。
【0034】
本実施形態の内視鏡の製造方法により製造される内視鏡100Aは、図1、2に示すように、上記第1の実施形態による内視鏡100の先端部103において、レンズ21、被接着層23、25に代えて、レンズ21A(光学部材)、被接着層23A、25Aを備えるものである。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0035】
レンズ21Aは、レンズ21と同様の形状のレンズであり、レンズ母材の材質を、光学ガラスよりも耐薬品性に優れる、Al(アルミナ)を主成分とするサファイアガラスに変更したものである。
被接着層23A(25A)は、図5に示すように、レンズ21Aのレンズ側面21c(保持枠22のレンズ保持部22b)から、下地層30、中間層32、最表層31がこの順に積層されたものである。
中間層32は、下地層30と最表層31との接合強度を向上するために設けられた層部分であり、半田と合金化可能な金属からなる。
本実施形態では、一例として、下地層30の厚さを50nmとし、最表層31の厚さを500nmとしており、中間層32は、ニッケル、白金、銅のいずれかを、AD法によって厚さ2000nmに成膜している。ただし、中間層32に銅を用いる場合、下地層30、最表層31は、銅以外の材料を採用する。また、中間層32に白金を用いる場合、最表層31には白金以外の材料を採用する。
中間層32の厚さは、100nm以上、4000nm以下とすることが好ましい。
【0036】
このような構成の被接着層23A、25Aの被接着層形成工程は、図6に示す薄膜形成装置50Aによって、上記第1の実施形態と略同様にして行うことができる。
薄膜形成装置50Aは、上記第1の実施形態に用いる薄膜形成装置50に、第3のチャンバー57、第3のガスボンベ58を追加したものである。
第3のチャンバー57には、中間層32を成膜するためのニッケル、白金、銅のいずれかを微粒子化した微粒子原料7が投入されている。
第3のガスボンベ58には、微粒子原料7と攪拌・混合してエアロゾル8を形成するための高圧ガスが充填されている。高圧ガスの種類としては、上記第1の実施形態と同様にHeガスを好適に用いることができるが、特にこれに制限されることなく、良好な成膜品質が得られればどのようなガスを用いてもよい。
そして、第3のチャンバー57は、流量調整弁63dを介して、配管63に接続されている。
【0037】
本実施形態の被接着層形成工程は、上記第1の実施形態と同様にして、所定厚さ、例えば50nmの下地層30を形成した後に、中間層32を成膜し、その後、上記第1の実施形態と同様にして、所定厚さ、例えば、500nmの最表層31を形成する。
このため、第3のチャンバー57には、予め微粒子原料7が投入され、第3のガスボンベ52から高圧ガスを導入し、微粒子原料7をガス攪拌してエアロゾル8を形成しておく。
また、第3のチャンバー57の圧力としては、上記第1の実施形態の第1のチャンバー51、第2のチャンバー53の圧力と同様の圧力範囲を採用することができる。
【0038】
中間層32を成膜するには、下地層30の成膜終了後、流量調整弁63dを開くことにより、ノズル63cから被成膜部材70に向けてエアロゾル8を噴射する。
このとき、被成膜部材70は、エアロゾル8が、下地層30上に均等に噴射されていくように、移動機構56bによってノズル63cに対して相対移動させる。これにより、下地層30の上面に、微粒子原料7が薄膜状に固着されていく。これにより、中間層32が形成されていく。
下地層30上に、所定厚さ、例えば、厚さ2000nmの中間層32が形成されたら、流量調整弁63dを閉止する。そして、上記第1の実施形態と同様にして、最表層31を成膜する。
このようにして、被成膜部材70の表面に、下地層30、中間層32、最表層31が積層される。すなわち、被成膜部材70がレンズ21A、保持枠22の場合に、それぞれ、被接着層23A、25Aが形成される。以上で、被接着層形成工程が終了する。
【0039】
本工程は、下地層30と最表層31との間に、半田と合金化可能な金属からなる微粒子原料7により中間層32を形成する工程になっている。
なお、半田付け工程は、上記第1の実施形態と同様のため説明を省略する。
【0040】
本実施形態の内視鏡の製造方法によれば、半田と合金化可能な金属からなる微粒子原料7による中間層32が形成されるので、最表層31により中間層32の表面側への析出を押さえるとともに、最表層31の下層側でも半田との合金化が可能となり、半田との接合強度をより向上させることができる。
中間層32は、最表層31によって覆われるため、酸化しやすい材料あるいは、酸化されると半田との接合性が劣ってしまう材料でも好適に採用することができる。このため、金などの酸化しにくい高価な材料に比べて、安価な材料、例えば、ニッケルなどを用いることで、良好な半田付けが可能な被接着層23A、25Aを、安価に形成することができる。
また、最表層31に用いる材料が、下地層30に用いる材料との接合強度が良好でない場合に、最表層31および下地層30に対してより接合強度が高い材質を中間層32として選択することで、最表層31の接合強度を向上することができる。
【0041】
また、本実施形態の被接着層形成工程は、第1のチャンバー51、第2のチャンバー53、第3のチャンバー57が、配管63によりノズル63cに接続された薄膜形成装置50Aによって行うことができるため、1つの薄膜処理室55内で、被成膜部材70を連続的に成膜処理することができる。そのため、真空成膜法などのように、成膜材料を切り替えるごとに、段取り替えをしたり、薄膜処理室内の雰囲気を切り替えたりする必要がなく、効率的な製造を行うことができる。
【0042】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態に係る内視鏡の製造方法について説明する。
図7(a)は、本発明の第3の実施形態に係る内視鏡の製造方法によって形成された被接着層の模式的な断面図である。図7(b)は、本発明の第3の実施形態に係る内視鏡の製造方法によって形成された被接着層の深さと成分比率との関係を示す模式的なグラフである。横軸は最表層からの深さ、縦軸は成分比率を示す。
【0043】
本実施形態の内視鏡の製造方法により製造される内視鏡100Bは、図1、2に示すように、上記第1の実施形態による内視鏡100の先端部103において、レンズ21、被接着層23、25に代えて、レンズ21A、被接着層23B、25Bを備えるものである。以下、上記第1、第2の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0044】
被接着層23B(25B)は、図7(a)に示すように、レンズ21Aのレンズ側面21c(保持枠22のレンズ保持部22b)から、下地層30、傾斜層33(中間傾斜層)、最表層31がこの順に積層されたものである。
傾斜層33は、下地層30の材料と最表層31の材料とが混合されそれぞれの成分比率が層厚方向に徐変された層部分である。
本実施形態では、一例として、下地層30の厚さ(図7(a)のh〜h、図7(b)の領域γ)を50nmとし、最表層31の厚さ(図7(a)のh〜h、図7(b)の領域α)を500nmとしている。
そして、傾斜層33は、一例として厚さ2000nmに形成され、その下地層30側最下位置(図示のh)から最表層31側の最上位置(図示のh)の範囲(図7(b)の領域β)で、hからhに向かって、下地層30の材料の成分比率が、曲線201に従って、100%から0%に徐々に減少し、最表層31の材料の成分比が、曲線200に従って、0%から100%に徐々に増大する傾斜成分分布を有している。
なお、傾斜層33の厚さは、100nm以上、4000nm以下とすることが好ましい。
【0045】
このような被接着層23B(25B)を形成する本実施形態の被接着層形成工程は、図4に示した薄膜形成装置50を用いて容易に行うことができる。
すなわち、上記第1の実施形態と同様にして、下地層30を形成した後、流量調整弁63aの開放率を徐々に低減し、流量調整弁63aの開放率の低減量に合わせて、流量調整弁63bを開放していく。これにより、配管63内に、エアロゾル4、6がそれぞれ流量調整弁63a、63bの開放率に対応する量だけ混合され、微粒子原料3、5の成分比が徐々に変化する状態で、ノズル63cから被成膜部材70に向けて噴射される。
このようにして下地層30の上面に傾斜層33が形成されていく。傾斜層33が、図示のhに到達すると、流量調整弁63aの開放率が0%、流量調整弁63bの開放率100%となり、最表層31上に、傾斜層33が形成される。このような傾斜層33は、従来の真空成膜法では形成することができないものである。
この後は、上記第1の実施形態の最表層31を形成する工程と同様であり、最表層31が所定厚さに到達したとき、弁64bを閉止して、被接着層形成工程を終了する。
このようにして、被接着層23B(25B)が形成される。半田付け工程は、上記第1の実施形態と同様のため説明を省略する。
【0046】
本実施形態の内視鏡の製造方法によれば、傾斜層33によって、下地層30と最表層31との間に、下地層30の性質を持つ層部分から最表層31の性質を持つ層部分に成分比率が徐変されるため、下地層30から最表層31に急峻に変化して、境界面が形成される第1の実施形態の場合に比べて、下地層30と最表層31との間の接合強度をより向上することができる。
すなわち、下地層30と最表層31とが境界面を介して積層される場合、下地層30と最表層31との接合強度は、下地層材料と最表層材料との間の接合特性で決まり、各材料の組合せによっては、境界面での接合強度が低くなる場合があるが、本実施形態によれば、接合強度をより向上することができるため、このような課題を解決することができる。
また、傾斜層33は、薄膜形成装置50の流量調整弁63a、63bの開放率を変化させるだけの一続きの工程として行うことができる。そのため、段取り替えなども不要であり、効率的な製造を行うことができる。
【0047】
次に、本実施形態の変形例の内視鏡の製造方法について説明する。
図8(a)は、本発明の第3の実施形態の変形例に係る内視鏡の製造方法によって形成された被接着層の模式的な断面図である。図8(b)は、本発明の第3の実施形態の変形例に係る内視鏡の製造方法によって形成された被接着層の深さと成分比率との関係を示す模式的なグラフである。横軸は最表層からの深さ、縦軸は成分比率を示す。
【0048】
本変形例は、上記第3の実施形態の被接着層形成工程において、被接着層23Bに代えて、被接着層23Cを形成する。
被接着層23Cは、図8(a)に示すように、レンズ21Aのレンズ側面21cから、下地層34、傾斜層35(中間傾斜層)、最表層31がこの順に積層されたものである。以下、上記第3の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0049】
下地層34は、レンズ21Aの主成分であるアルミナを微粒子化した微粒子原料3Cを用いたAD法によって形成されたものである。
傾斜層35は、下地層34の材料と最表層31の材料とが混合されそれぞれの成分比率が、上記第3の実施形態と同様に、層厚方向に徐変された層部分である。
本実施形態では、一例として、下地層34の厚さ(図8(a)のh〜h、図8(b)の領域γ)を50nmとし、最表層31の厚さ(図8(a)のh〜h、図8(b)の領域α)を500nmとしている。
そして、傾斜層35は、一例として厚さ2000nmに形成され、その下地層34側最下位置(図示のh)から最表層31側の最上位置(図示のh)の範囲(図8(b)の領域β)で、hからhに向かって、下地層34の材料の成分比率が、曲線203に従って、100%から0%に徐々に減少し、最表層31の材料の成分比が、曲線202に従って、0%から100%に徐々に増大する傾斜成分分布を有している。
この場合、サファイアガラス製のレンズ21Aは主成分がアルミナであるため、曲線203に示すように、レンズ21Aのレンズ側面21c(図示のh)よりレンズ21Aの内部側(図8(b)の領域δ)でも、成分比率は略変わらないことになる。
なお、傾斜層35の厚さは、100nm以上、4000nm以下とすることが好ましい。
【0050】
このような被接着層23Cは、薄膜形成装置50Aにおいて、微粒子原料3を、微粒子原料3Cに変えるだけで、上記第3の実施形態と同様にして形成することができる。
このように本変形例によれば、微粒子化さえできれば、セラミックスであっても、金属とまったく同様にして成膜できるAD法の特徴を生かして、被成膜部材と略同一材質からなる下地層34を形成することにより、被接着層23Cが下地層34により、レンズ21Aと一体的に密着され、良好な接合強度を備えるようにすることができる。
【0051】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態に係る内視鏡の製造方法について説明する。
図9(a)は、本発明の第4の実施形態に係る内視鏡の製造方法によって形成された被接着層の模式的な断面図である。図9(b)は、本発明の第4の実施形態に係る内視鏡の製造方法によって形成された被接着層の深さと成分比率との関係を示す模式的なグラフである。横軸は最表層からの深さ、縦軸は成分比率を示す。
【0052】
本実施形態の内視鏡の製造方法により製造される内視鏡100Dは、図1、2に示すように、上記第1の実施形態による内視鏡100の先端部103において、レンズ21、被接着層23、25に代えて、レンズ21A、被接着層23D、25Dを備えるものである。以下、上記第1、第2の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0053】
被接着層23D(25D)は、図9(a)に示すように、レンズ21Aのレンズ側面21c(保持枠22のレンズ保持部22b)から、下地層30、第1傾斜層36(下地層側傾斜層)、中間層32、第2傾斜層37(最表層側傾斜層)、最表層31がこの順に積層されたものである。
【0054】
第1傾斜層36は、下地層30の材料と中間層32の材料とが混合されそれぞれの成分比率が層厚方向に徐変された層部分である。
本実施形態では、一例として、下地層30の厚さ(図9(a)のk〜k、図9(b)の領域γ)を50nmとし、中間層32の厚さ(図9(a)のk〜k、図9(b)の領域β)を2000nmとしている。
そして、第1傾斜層36は、一例として厚さ100nmに形成され、その下地層30側最下位置(図示のk)から中間層32側の最上位置(図示のk)の範囲(図9(b)の領域β)で、kからkに向かって、下地層30の材料の成分比率が、曲線206に従って、100%から0%に徐々に減少し、中間層32の材料の成分比が、曲線205に従って、0%から100%に徐々に増大する傾斜成分分布を有している。
なお、第1傾斜層36の厚さは、20nm以上、1000nm以下とすることが好ましい。
【0055】
第2傾斜層37は、中間層32の材料と最表層31の材料とが混合されそれぞれの成分比率が層厚方向に徐変された層部分である。
本実施形態では、一例として、最表層31の厚さ(図9(a)のk〜k、図9(b)の領域α)を500nmとしている。
そして、第2傾斜層37は、一例として厚さ100nmに形成され、その中間層32側最下位置(図示のk)から最表層31側の最上位置(図示のk)の範囲(図9(b)の領域β)で、kからkに向かって、中間層32の材料の成分比率が、曲線205に従って、100%から0%に徐々に減少し、最表層31の材料の成分比が、曲線204に従って、0%から100%に徐々に増大する傾斜成分分布を有している。
なお、第2傾斜層37の厚さは、100nm以上、2000nm以下とすることが好ましい。
【0056】
このような構成の被接着層23D、25Dの被接着層形成工程は、図6に示す薄膜形成装置50Aによって、下地層30、中間層32、最表層31は、上記第2の実施形態と略同様にして、第1傾斜層36、第2傾斜層37は、上記第3の実施形態と略同様にして行うことができる。
すなわち、下地層30(領域γ)を成膜するときには、流量調整弁63aを全開して、流量調整弁63b、63dを閉止する。次に、第1傾斜層36(領域β)を成膜するときは、流量調整弁63aの開放率を徐々に低減し、流量調整弁63aの開放率の低減量に合わせて、流量調整弁63dの開放率を0%から100%に開放していく。
次に、中間層32(領域β)を成膜するときには、流量調整弁63aを閉止して、流量調整弁63dを全開する。次に、第2傾斜層37(領域β)を成膜するときは、流量調整弁63dの開放率を徐々に低減し、流量調整弁63dの開放率の低減量に合わせて、流量調整弁63bの開放率を0%から100%に開放していく。
次に、最表層31を成膜するときには、流量調整弁63d、63aを閉止した状態で、流量調整弁63bを全開する。以上で、被接着層形成工程を終了する。
このようにして、被接着層23D(25D)が形成される。半田付け工程は、上記第1の実施形態と同様のため説明を省略する。
【0057】
本実施形態の内視鏡の製造方法によれば、第1傾斜層36によって、下地層30と中間層32との間に、下地層30の性質を持つ層部分から中間層32の性質を持つ層部分に成分比率が徐変されるため、下地層30から中間層32に急峻に変化して、境界面が形成される第2の実施形態の場合に比べて、下地層30と中間層32との間の接合強度を向上することができる。
また、第2傾斜層37によって、中間層32と最表層31との間に、中間層32の性質を持つ層部分から最表層31の性質を持つ層部分に成分比率が徐変されるため、中間層32から最表層31に急峻に変化して、境界面が形成される第2の実施形態の場合に比べて、中間層32と最表層31との間の接合強度を向上することができる。
すなわち、下地層30と中間層32、および、中間層32と最表層31とが、それぞれ境界面を介して積層される場合、各材料の組合せによっては、境界面での接合強度が低くなる場合があるが、本実施形態によれば、上記第3の実施形態と同様に、接合強度をより向上することができるため、このような課題を解決することができる。
また、第1傾斜層36、第2傾斜層37は、薄膜形成装置50Aの流量調整弁63a、63b、63dの開放率を変化させるだけの一続きの工程として行うことができる。そのため、段取り替えなども不要であり、効率的な製造を行うことができる。
【0058】
なお、上記の説明では、光学部材および保持枠のいずれの表面にも被接着層を形成する場合の例で説明したが、光学部材および保持枠のいずれか一方の表面が半田付け可能な表面が形成されている場合には、光学部材および保持部材のいずれか他方にのみ、被接着層を形成してもよい。例えば、保持枠がステンレス鋼からなる場合、ステンレス鋼用の半田を用いれば、保持枠には被接着層を形成しなくてもよい。また、例えば、光学部材のガラス材料が、半田付け可能なガラス材料からなる場合には、光学部材には被接着層を形成しなくてもよい。
【0059】
また、上記の説明では、いずれも、下地層、最表層を有する場合の例で説明したが、被成膜部材との接合強度に問題が無ければ、例えば、上記第3、第4の実施形態において、下地層30、最表層31の厚さを略0として、被接着層が、略傾斜層33のみ(第3の実施形態)、または第1傾斜層36、中間層32、第2傾斜層37(第4の実施形態)のみからなるように変形してもよい。
【0060】
また、上記の説明では、被接着層を構成する材料が、2種類または3種類の場合で説明したが、2種類以上の適宜数の材料を用いることができる。
例えば、4種類以上の材料を用いて、中間層を2種類以上設けてもよい。また、それに応じて、各中間層の間に隣接する中間同士の傾斜層を形成してもよい。
また、例えば、4種類以上の材料を用いて、下地層、中間層、最表層の少なくともいずれかを2種類以上の材料が混合された層として形成してもよい。
【0061】
また、上記の各実施形態、変形例に説明したすべての構成要素は、技術的に可能であれば、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る内視鏡の製造方法によって製造された内視鏡の概略構成を示す模式的な斜視図である。
【図2】図1におけるA視の部分拡大図、およびそのB−B断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る内視鏡の製造方法によって形成された被接着層の模式的な断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る内視鏡の製造方法に用いることができる薄膜成膜装置の一例の概略構成を示す模式的な構成図である。
【図5】発明の第2の実施形態に係る内視鏡の製造方法によって形成された被接着層の模式的な断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る内視鏡の製造方法に用いることができる薄膜成膜装置の一例の概略構成を示す模式的な構成図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る内視鏡の製造方法によって形成された被接着層の模式的な断面図、およびそれによって形成された被接着層の深さと成分比率との関係を示す模式的なグラフである。
【図8】本発明の第3の実施形態の変形例に係る内視鏡の製造方法によって形成された被接着層の模式的な断面図、およびそれによって形成された被接着層の深さと成分比率との関係を示す模式的なグラフである。
【図9】本発明の第4の実施形態に係る内視鏡の製造方法によって形成された被接着層の模式的な断面図、およびそれによって形成された被接着層の深さと成分比率との関係を示す模式的なグラフである。
【符号の説明】
【0063】
3、3C 微粒子原料(下地層材料)
4、4C、6、8 エアロゾル(エアロゾル化された微粒子原料)
5 微粒子原料(最表層材料)
7 微粒子原料
21、21A レンズ(光学部材)
21c レンズ側面
22 保持枠
22b レンズ保持部
23、23A、23B、23C、23D 被接着層
24 半田層
25、25A、25B、25D 被接着層
30、34 下地層
31 最表層
32 中間層
35 傾斜層(中間傾斜層)
36 第1傾斜層(下地層側傾斜層)
37 第2傾斜層(最表層側傾斜層)
50、50A 薄膜形成装置
63a、63b、63d 流量調整弁
63c ノズル
70 被成膜部材
100、100A、100B、100D 内視鏡
103 先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持枠および光学部材の少なくともいずれかである被成膜部材の表面に、半田付けするための被接着層を形成する被接着層形成工程と、該被接着層形成工程後に、前記被接着層を介して、前記保持枠と前記光学部材とを半田付けする半田付け工程とを有する内視鏡の製造方法であって、
前記被接着層形成工程は、
微粒子原料をエアロゾル化し、被成膜体に噴射して成膜するエアロゾルデポジション法を用いて、
前記被接着層の成膜開始から成膜終了までの間で、前記微粒子原料の成分の少なくとも2種類を変化させ、前記微粒子原料の2種類の一方の成分比率を100%から0%に、他方の成分比率を0%から100%に変化させて成膜するようにしたことを特徴とする内視鏡の製造方法。
【請求項2】
前記微粒子原料の2種類の一方は、前記被成膜部材に密着する下地層材料からなり、
前記微粒子原料の2種類の他方は、半田付け可能な金属で構成される最表層材料からなり、
前記被成膜部材側に、前記下地層材料の成分比率が100%の下地層を形成し、
前記被接着層の表面側に、前記最表層材料の成分比率が100%の最表層を形成することを特徴とする請求項1に記載の内視鏡の製造方法。
【請求項3】
前記下地層と前記最表層との間に、半田と合金化可能な金属からなる微粒子原料により中間層を形成することを特徴とする請求項2に記載の内視鏡の製造方法。
【請求項4】
前記下地層と前記中間層との間に、前記下地層材料と前記中間層を形成する微粒子原料とが混合されそれぞれの成分比率が層厚方向に徐変された下地層側傾斜層を形成することを特徴とする請求項3に記載の内視鏡の製造方法。
【請求項5】
前記中間層と前記最表層との間に、前記中間層を形成する微粒子原料と前記最表層材料とが混合されそれぞれの成分比率が層厚方向に徐変された最表層側傾斜層を形成することを特徴とする請求項3または4に記載の内視鏡の製造方法。
【請求項6】
前記下地層と前記最表層との間に、前記下地層材料と前記最表層材料とが混合されそれぞれの成分比率が層厚方向に徐変された中間傾斜層を形成することを特徴とする請求項2に記載の内視鏡の製造方法。
【請求項7】
前記微粒子原料の2種類の一方は、前記被成膜部材に含まれる物質を含む材料からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の内視鏡の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−104501(P2010−104501A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278291(P2008−278291)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】