説明

内部補強架構付き構造物

【課題】スパン方向と桁行方向のそれぞれの架構が柱・梁のフレームを有し、長辺方向(桁行方向)と短辺方向(スパン方向)の曲げ剛性に差があり得る既存の、あるいは新設の例えば鉄筋コンクリート造、鉄骨造等の構造物に対し、長辺方向(桁行方向)の構面の短辺方向(スパン方向)の曲げ剛性を高め、長辺方向の曲げ剛性との差を縮小させる。
【解決手段】スパン方向と桁行方向のそれぞれの架構が柱2と梁3のフレームを有し、スパン方向に配列する一部の柱2、2間に、桁行方向に連続する廊下4が配置されている複数層の構造物1の内部において、
桁行方向の柱2・梁3のフレームの内、少なくとも桁行方向中間部位置の柱2を通るスパン方向の柱2・梁3のフレームを構成し、廊下4を区画する、並列する柱2、2間にスパン方向を向く耐震要素5を少なくとも地下最下層以上の層に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパン方向と桁行方向のそれぞれの架構が柱・梁のフレームを有する既存の、あるいは新設の例えば鉄筋コンクリート造、鉄骨造等の構造物の内部にスパン方向の耐震性を確保するための補強架構を配置した内部補強架構付き構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
柱・梁のフレームを有する例えば既存の鉄筋コンクリート造躯体等の構造物に耐震性能、あるいは制震性能を付与しようとする場合、既存構造物は多くの場合、スパン方向である短辺方向と桁行方向である長辺方向を持つ平面形状をし、短辺方向(スパン方向)には連層の耐震壁(耐力壁)が配置されていることが多いため、構造物に耐震性能を付与するための(耐震)補強架構は桁行方向に配置(付加)されれば済むことが多い(特許文献1〜3参照)。
【0003】
既存構造物が例えば長方形状である場合、構造物内部の短辺方向には長辺方向に間隔を置いて平行に配列する耐震壁(境界壁)を連層で配置することができている一方、短辺方向両側の構面には窓等の開口を確保する必要から、長辺方向には連続した耐震壁を配置することが難しいため、既存構造物に対して耐震補強架構を付加しようとすれば、長辺方向(桁行方向)に向けて配置する必然性が高いことによる。
【0004】
短辺方向と長辺方向の長さの差が大きくない場合には、二方向に補強架構を配置することもある(特許文献1参照)。補強架構を構造物の内部に配置することもあるが、構造物が既存である場合には、構造物の内部に補強架構を付加することは通路等に利用されている開口を閉塞し、動線を犠牲にすることもあり、補強架構をスパン方向に向けて構造物の内部に配置することは通常、行われない(特許文献3、4参照)。
【0005】
既存構造物に対し、桁行方向の補強架構の付加に伴い、スパン方向にも補強架構を配置することもあるが(特許文献5参照)、この場合のスパン方向の新設架構は桁行方向に補強架構を付加するために、既存構造物の桁行方向の構面から屋外側へ張り出す形で、増設で構築される増設梁であり、既存構造物の内部に配置される架構ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−203220号公報(請求項1、段落0017〜0024、図1、図2)
【特許文献2】特開2005−139770号公報(請求項1、図1、図3、図4)
【特許文献3】特開平9−273317公報(請求項1、段落0014〜0036、図1〜図7)
【特許文献4】特開平9−310511公報(請求項1、段落0014〜0023、図1〜図3)
【特許文献5】特開平10−46834公報(請求項3、段落0018〜0026、図1〜図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように既存構造物においてはスパン方向(短辺方向)に配置されている連層の耐震壁がスパン方向の耐震性と剛性を確保することができているとしても、スパン方向の一部区間に桁行方向に連続する廊下が存在している場合には、その開口がスパン方向の耐震壁の耐力と剛性を低下させている可能性がある。
【0008】
廊下はスパン方向に配列するいずれか一部の2本の柱間に配置され、そのスパン方向に形成される廊下の区間は構造物の高さ方向に統一されるため、構造物の内部を桁行方向に見たときには図2に示すように廊下の開口が高さ方向に連続的に配列する。図2は本発明のスパン方向の耐震要素が付加される前の、廊下の開口部が開放したままの状態にある既存構造物をスパン方向の断面を桁行方向に見たときの様子を示している。
【0009】
上下に隣接する層の開口部間にはスパン方向の梁があるだけになり、仮に廊下のスパン方向両側に耐震壁が接続されていたとしても、スパン全体ではスパン方向の曲げ剛性、またはせん断剛性が極端に低下するため、地震時の水平力に対する十分な抵抗力を保有しているとは言えない状況にある。
【0010】
このように、仮に特許文献1〜5のように構造物の桁行方向(長辺方向)に補強架構を配置することで、その方向の耐力と剛性を確保することができるとしても、スパン方向(短辺方向)に長辺方向の補強架構に見合う十分な補強架構を配置できなければ、桁行方向を向くスパン方向両側の構面のスパン方向の曲げ剛性が相対的に低下するため、その構面が地震力により湾曲するような曲げ変形を起こし易くなる。
【0011】
本発明は上記背景より、長辺方向(桁行方向)と短辺方向(スパン方向)の曲げ剛性に差があり得る構造物に対し、長辺方向(桁行方向)の構面の短辺方向(スパン方向)の曲げ剛性を高め、長辺方向の曲げ剛性との差を縮小し得る内部補強架構付き構造物を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明の内部補強架構付き構造物は、スパン方向と桁行方向のそれぞれの架構が柱・梁のフレームを有し、スパン方向に配列する一部の柱間に、桁行方向に連続する廊下が配置されている複数層の構造物の内部において、
桁行方向の前記柱・梁のフレームの内、少なくとも桁行方向中間部位置の柱を通るスパン方向の前記柱・梁のフレームを構成し、前記廊下を区画する、並列する柱間にスパン方向を向く耐震要素が少なくとも地下最下層以上の層に配置されていることを構成要件とする。
【0013】
内部補強架構付き構造物は主に既存構造物が対象になるが、必ずしもその必要はなく、新設構造物で構築される場合もある。構造物はまた、スパン方向(短辺方向)と桁行方向(長辺方向)のそれぞれの架構が柱・梁のフレームを有する構造であればよいため、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造の場合がある。コンクリート造にはプレキャストコンクリートとプレストレストコンクリートが含まれる。
【0014】
「架構が柱・梁のフレームを有する」とは、架構が柱・梁フレーム(骨組み)を基本構造として備えることの意味で、フレーム単体のみからなる場合と、フレームの内周に耐震壁(壁板)やブレース等の耐震要素が接続(配置)されることがあることを言う。架構がフレーム単体のみであるか、フレームに耐震要素が付属するかは各方向の柱間の区間毎に、あるいは層毎に異なることもある。
【0015】
「桁行方向の柱・梁のフレームの内、桁行方向中間部位置の柱を通るスパン方向の柱・梁のフレーム」とは、桁行方向を向く柱・梁のフレーム(を含む架構)の内、桁行方向の中間部の位置に配置されているいずれかの柱を通り、スパン方向を向く柱・梁のフレームを含む架構(構面)を指す。「少なくとも」とは、耐震要素が配置されるスパン方向を向く架構(構面)が一枚あること、もしくは桁行方向に間隔を置いて複数枚、配列することを言う。
【0016】
スパン方向を向いて配置される耐震要素は構造物のスパン方向の耐力と剛性の向上に寄与するから、耐震要素が付加される構面の数は多い程、スパン方向の耐震性が向上するが、後述のように耐震要素が配置される構面(内部補強架構51)数が多ければ桁行方向の動線に影響し得るため、耐震要素が配置される構面の数は動線との関係で決められる。
【0017】
耐震要素は耐震壁(耐力壁)の場合とブレース等の場合があり、耐震壁は1枚の壁板のみの場合と、例えば厚さ方向に分離した壁板間に弾性体、粘弾性体等が介在した場合等がある。いずれの形式の場合も、耐震要素は面内方向の水平力に対する抵抗要素としての剛性を維持するため、面材として機能し、スパン方向の一構面に付き、複数個(複数枚)集合することで、耐震架構としての内部補強架構51を構成する。
【0018】
内部補強架構51には廊下以外の区間のスパン方向の柱間に配置される付加耐震要素6(請求項4)が含まれる。付加耐震要素6は既存の構造物内に既に配置されている耐震要素である場合と、既存の構造物に新設で構築される耐震要素である場合、あるいは新設の構造物として新規に構築される耐震要素である場合がある。耐震要素は廊下を区画する、並列する柱間に配置されることで、基本的に廊下の開口部を閉塞するが、ブレースである場合には、完全には閉塞する状態にならないこともある。
【0019】
「スパン方向を向く(廊下4の開口部を閉塞する)耐震要素が少なくとも地下最下層以上の層に配置されている」とは、地下層(地下階)が図10に示すように1層である場合には、地下最下層であるその少なくとも地下1層の廊下4の開口部に耐震要素5が配置されることを言い、地上層に耐震要素5が配置されるか否かを問わず、地上層に配置されることも含む趣旨である。地下層が複数層に亘る場合にも、少なくとも基礎寄りの地下最下層に耐震要素5が配置さればよく、地下最下層より上の地下層に配置されるか否かは問われない。
【0020】
請求項1では廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5が少なくとも地下最下層でよいことで、地上層(地上階)における廊下4の開口部が耐震要素5で閉塞されることがないため、地上層では廊下4の桁行方向の動線(連続性)を遮断させるか、迂回させる必要が生じない。このことは地上層のいずれかの層(階)の廊下4に耐震要素5を配置する場合(請求項2、請求項3)に、耐震要素5を配置しない層の廊下4にも言える。
【0021】
耐震要素5が少なくとも地下最下層(最下階)に配置されればよい理由は、地下最下層で廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5は基礎(フーチング)に接続し得ることから、スパン方向に配列する基礎(フーチング)7(11)、7(11)間に架設される地中梁8と耐震要素5が一体性を確保し、両者が一体となってスパン方向の構造物1の浮き上がりに抵抗する曲げ戻しモーメントを発揮することが期待されることにある。
【0022】
地下層の廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5が地下最下層にのみ配置されていても、例えば図10に示すようにスパン方向に少なくとも廊下4の片側に既設の、もしくは新設の付加耐震要素6が配置されるか、廊下4以外の開口部に耐震要素5が配置されれば、廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5とその少なくとも片側の付加耐震要素6や耐震要素5が内部補強架構51として一体となった状態になる。
【0023】
図10では地上層の下層寄りでは廊下4を挟んだ両側に付加耐震要素6が配置され、上層寄りでは廊下4を挟んだ一方側に付加耐震要素6が、他方側に耐震要素5が配置されている様子を示しているが、耐震要素5と付加耐震要素6が廊下4の片側に配置されるか、両側に配置されるかを含め、配置状態(組み合わせ)は任意である。
【0024】
付加耐震要素6や耐震要素5が内部補強架構51として一体になる結果、付加耐震要素6や耐震要素5が全スパンに亘る連続した耐震要素(内部補強架構51)を形成した状態で、地中梁8と共に曲げ戻しモーメントを発揮することが可能になるため、構造物1をスパン方向に転倒(浮き上がり)させようとする地震時の水平力(地震力)に対して十分な抵抗力を発揮することが期待される。
【0025】
図10は図1と同様に、既存構造物の内部を示す図2に対し、廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5を含む、上記スパン方向を向く耐震要素5と付加耐震要素6からなる内部補強架構51を付加した後の様子を示している。図2では既存構造物の内部に既に配置されている付加耐震要素6をハッチングで示し、図10では地下層の廊下4の開口部を含め、スパン方向に隣接する柱2、2間の空間を閉塞させている耐震要素5をハッチングで示している。図1、図2ではハッチングのない、交差した線で示した領域は耐震要素5と付加耐震要素6がなく、開放していることを示している。
【0026】
図10に示すように地上層の廊下4の開口部に耐震要素5が配置されず、開放したままの状態にあるとしても、スパン方向に少なくとも廊下4の片側に既設の、あるいは新設の付加耐震要素6が配置されていれば、構造物1の全体では付加耐震要素6、あるいは耐震要素5と付加耐震要素6からなる巨大な連層耐震要素(内部補強架構51)が形成されているに等しいと言えるため、地上層の廊下4の区間にのみ、高さ方向に連続した開口が存在していることが、耐震要素(内部補強架構51)としての剛性と耐力の低下を招く程の問題になることはない。
【0027】
構造物1をスパン方向に転倒(浮き上がり)させようとする地震時の水平力(地震力)に対する抵抗力は図10に示すように構造物1のスパン方向外側に、桁行方向の構面に沿って構面外補強架構10が配置され、構面外補強架構10が間接的に廊下を閉塞した耐震要素5に連続していることにより(請求項5)、更には構面外補強架構10の基礎11がそれを除いた構造物1の基礎7と、地中梁8等によってスパン方向に連結されていることにより(請求項6)向上する。
【0028】
構造物1のスパン方向外側に構面外補強架構10が配置され、耐震要素5に連続すれば、構面外補強架構10を介して耐震要素5、あるいはそれを含む全スパンに亘る連続した耐震要素(内部補強架構51)と地中梁8等との一体性が確保されることに拠る。図10、図1では構面外補強架構10が構造物1のスパン方向両側に配置されているが、構造物1のスパン方向片側のみの場合もある。
【0029】
廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5が少なくとも地下最下層に配置されている内部補強架構付き構造物では(請求項1)、耐震要素5が地上層にも各層単位で配置され、この各層の耐震要素5が前記廊下4の開口部を構造物1の高さ方向に不連続状態にしていることで(請求項2)、構造物1内部でのスパン方向の耐震性が一層、向上する。「耐震要素5が地上層にも各層単位で配置され、廊下4の開口部を高さ方向に不連続状態にしていること」は請求項3の要件でもあるため、この要件の意義は以下のように請求項3の項目で説明する。
【0030】
請求項3に記載の発明の内部補強架構付き構造物は、スパン方向と桁行方向のそれぞれの架構が柱・梁のフレームを有し、スパン方向に配列する一部の柱間に、桁行方向に連続する廊下が配置されている複数層の構造物の内部において、
桁行方向の前記柱・梁のフレームの内、少なくとも桁行方向中間部位置の柱を通るスパン方向の前記柱・梁のフレームを構成し、前記廊下を区画する、並列する柱間にスパン方向を向く耐震要素が各層単位で配置され、この各層の耐震要素が前記廊下の開口部を構造物の高さ方向に不連続状態にしていることを構成要件とする。
【0031】
請求項3においても内部補強架構付き構造物は主に既存構造物が対象になるが、必ずしもその必要はなく、新設構造物もあり、構造種別も問われない。「架構が柱・梁のフレームを有する」、「桁行方向の柱・梁のフレームの内、桁行方向中間部位置の柱を通るスパン方向の柱・梁のフレーム」、「内部補強架構」の意味は請求項1の項目で述べた通りであり、スパン方向を向いて配置される耐震要素5の配置の仕方と構成も請求項1の項目で述べた通りである。
【0032】
「耐震要素が各層単位で配置される」とは、廊下の開口部を閉塞する耐震要素が必ずしも高さ方向に連層で配置されるとは限らないことを言い、高さ方向に連層で配置されることで、連層耐震壁を構成することも含む。
【0033】
「各層の耐震要素が廊下の開口部を構造物の高さ方向に不連続状態にしている」とは、廊下の開口部を閉塞する各層の耐震要素が構造物の高さ方向に断続的に、または連続的に(連層で)配置されることで、廊下の区間でスパン方向に架設されている梁を挟んで高さ方向に連続的に存在している各層の廊下の連続状態を解除するように、耐震要素が各層の廊下の開口部を高さ方向に分断させることを言う。各層の耐震要素が最下層から最上層までの全廊下を区画する、並列する柱間に、高さ方向に連続して配置される場合に、その耐震要素は連層耐震壁を構成する。
【0034】
スパン方向の梁のみで高さ方向に区画されている廊下の開口部は高さ方向に連続する開口部が線材で区画されている状態に等しく、線材にはその軸方向の剛性を期待することはできない。それに対し、線材に代わり、面材である耐震要素が上下に隣接する廊下の開口部を区画することで、開口部は高さ方向に分断されて不連続になると同時に、面材がその面内水平方向の剛性を持つため、廊下の開口部が存在した領域に剛性と耐力を付与する働きをする。廊下の開口部に線材に代わる面材が配置されることで、見かけ上は廊下を挟んで両側に位置する、例えば既存の連層耐震壁を含む巨大な耐震要素(耐震壁)の中に開口部が分散されて配置される形になる。
【0035】
廊下の開口部を閉塞する耐震要素は必ずしも連層で配置されなくても、面材であることで、廊下で分断されていた両側の連層耐震壁のスパン方向の連続性を高め、一体性を強める働きをし、廊下の存在によるスパン方向の剛性低下区間を解消させるか、低減させるため、スパン方向の地震力に対する抵抗力をスパン方向の構面に付与することができる。耐震要素が連層で配置される場合には、廊下で分断されているスパン方向両側の連層耐震壁が完全に連続し、一体化するため、スパン方向の剛性低下区間が完全になくなり、廊下を挟んだ両側の連層耐震壁の一体性が一層、強まる。
【0036】
廊下の区間が開放している状態は、複数層の構造物では上記のようにスパン方向に架設されている梁を挟んで構造物の高さ方向に連層で開放した状態であるため、スパン方向の剛性が廊下の区間で部分的に低下した状態にあると言える。この状態で、廊下への耐震要素の配置により廊下の開口部が高さ方向に閉塞し、開口部が不連続になることで、スパン方向の剛性低下区間がなくなるため、構造物はその方向の水平力に対する抵抗力を発揮し易くなる。
【0037】
例えば一枚の鋼板に1個、もしくは複数個の細かい貫通孔が連続状態でなく、断続的に、あるいは部分的に分散して形成されていたとしても、その有孔鋼板の面内方向の剛性は貫通孔のない盲板状態での面内方向の剛性より極端に低下することはなく、貫通孔がスリット状に連続した形の開口を有する鋼板より高い剛性を維持することはできる。この例での有孔鋼板は本発明の廊下の開口部を閉塞する耐震要素が集合して構成される上記の内部補強架構51に相当する。
【0038】
このことから、廊下を閉塞する耐震要素は下層から上層へかけて必ずしも連続して、すなわち連層で配置される必要がないことになり、一部の層の廊下を開放した状態のままにし、耐震要素が高さ方向に不連続に配置されていても、廊下が開放状態にある既存構造物のスパン方向の剛性と耐力を向上させることは可能である。この意味で、廊下を閉塞する耐震要素は廊下の開口部を構造物の高さ方向に不連続状態にしていればよく、必ずしも図1、図10に示すように高さ方向に連続して配置され、連層耐震壁を構成していなくてもよいことになる。
【0039】
前記のように廊下はスパン方向に配列するいずれか一部の2本の柱間に開口部として形成され、廊下を構成する開口部の区間は構造物の高さ方向に揃えられ、スパン方向の同一位置に配置される。この関係で、廊下(開口部)をその長さ方向(桁行方向)に見たときには、上記の通り、図2に示すように各層の開口部がスパン方向に架設される梁で区画されるものの、構造物全体では開口部が高さ方向に連続的に配列している。図2は廊下がスパン方向の中央部に位置する中廊下型の配置例を示しているが、スパン方向片側に寄った片廊下型の配置例の場合もある。
【0040】
図2は既存構造物の内部を桁行方向に見たときの、スパン方向に切断した縦断面図であり、図1、図10は図2に対し、廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5を含む、上記スパン方向の内部補強架構51を付加した後の様子を示している。図10は請求項1に対応し、図1は請求項3に対応する。図2、図1では廊下4の開口部を含め、スパン方向に隣接する柱2、2間の空間を閉塞させている耐震要素5と前記した付加耐震要素6をハッチングで示している。既存構造物を示す図2ではハッチングのない、交差した線で示した領域は耐震要素5と付加耐震要素6がなく、開放していることを示している。
【0041】
既存構造物の状態では図2に示すように全廊下4と、上層側における廊下4の片側の柱・梁の区間が開放し、それ以外の区間はハッチングで示すように閉塞している。廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5の配置後には図1に示すように既存状態で開放していた少なくとも一部の廊下4の開口部と上層側の開口部を、耐震要素5と付加耐震要素6からなる内部補強架構51が閉塞している。図1では全廊下4の開口部に耐震要素5を配置し、全開口部を閉塞しているが、上記のように必ずしもその必要はなく、全開口部の内、一開口部置きに耐震要素5が配置されることもある。
【0042】
図2に示すように全廊下4の開口部が構造物の高さ方向に連続的に配列している状態では、前記のようにスパン方向を向く、付加耐震要素6からなる連層耐震壁が廊下4の開口部を挟んで分断され、分断された両側の連層耐震壁(付加耐震要素6、6)間に連層耐震壁程度の曲げ剛性とせん断剛性を持たない梁のみの空間が存在しているため、連層耐震壁(付加耐震要素6、6)は廊下4の片側単位で地震力に抵抗することになり、両側の連層耐震壁が一体となって抵抗することにはならない。結果としてスパン方向を向く連層耐震壁は地震時の水平力に対する十分な抵抗力を保有していない。
【0043】
これに対し、請求項3では図2に示す既存構造物の廊下4の区間に、スパン方向の耐震要素5を付加した後の状態を示す図1に示すように廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5が配置されることで、廊下4で分断されていた両側の連層耐震壁(付加耐震要素6、6)がスパン方向に連続し、一体化が強まるため、スパン方向の剛性低下区間がなくなるか、少なくなり、スパン方向の地震力に対する抵抗力を確保することになる。
【0044】
図1では廊下4の開口部を全層に亘って新たな耐震要素5で閉塞しているが、新たな耐震要素5は上記のように高さ方向に不連続状態で配置されることもある。既存構造物に対する補強の場合には、少なくとも連層耐震壁(付加耐震要素6)が配置されている高さ方向の区間に耐震要素5が配置されれば、その既存の連層耐震壁の水平力に対する抵抗力を有効に発揮させることができるため、新たに付加される補強架構5の最上部の高さは既存の連層耐震壁の層に合わせればよい。
【0045】
また前記のように一枚の鋼板が貫通孔を有していたとしても、貫通孔が部分的であれば、その面内方向の剛性は貫通孔が連続する形の開口を有する鋼板の面内剛性よりは高い状態を維持することができる。このことから、図2に示すように廊下4以外の区間のスパン方向の柱間に付加耐震要素6が配置されている場合に、図1に示すように付加耐震要素6の一部に、廊下4の開口部に代わる壁内開口9が形成されていても(請求項4)、連層耐震壁(付加耐震要素6)の耐力と剛性が極端に低下することにはならない。
【0046】
この場合、桁行方向(長さ方向)に連続する廊下4はその開口部を閉塞する耐震要素5の配置位置で不連続になり、動線が耐震要素5を迂回し、変則的になるが、経路が長くなる程度のことで済む。耐震要素5の配置前の状態ではスパン方向の剛性が乏しく、構面がその方向に変形し易い状況にあるから、耐震要素5の配置によって変形の可能性が低下し、居住性が格段に向上することとの対比では、動線の迂回が格別な不利益になることはない。
【0047】
請求項4では壁内開口9の形成によって部分的に剛性の低下が生じ得るものの、図1に示すように壁内開口9が高さ方向に1層置きに形成され、廊下4を挟んで千鳥状に配列すれば、高さ方向に連続しての開口部の形成が避けられるため、スパン方向の構面に曲げ変形を起こし、居住性に影響する程度の剛性低下を招くことはない。
【0048】
図1は図2に示す既存の構造物に対し、全層の廊下4の開口部と、上層寄りの廊下4の片側の開口部を耐震要素5で閉塞した上で、下層から上層へかけ、1層毎に廊下を挟んで両側に交互に壁内開口9を形成した様子を示しているが、壁内開口9は高さ方向に連続していなければよいため、高さ方向への配列の仕方は任意であり、例えば2層毎に廊下4を挟んで交互に配置されることもある。
【0049】
廊下4の開口部を有する構造物が既存構造物である場合、廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5は既存構造物内の耐震要素(付加耐震要素6)と一体性を確保することで、構造物のスパン方向の全断面を閉塞する巨大な耐震要素(連層耐震壁)になるが、それだけの面積を持つ耐震要素がその方向(面内方向:スパン方向)の水平力(地震力)に十分に抵抗するだけの能力を持つには、その方向の水平力に対する基礎からの反力を期待する上で、スパン方向両側に、桁行方向の構面に沿って構面外補強架構10が配置されることが合理的である(請求項5)。
【0050】
構面外補強架構10は桁行方向の構面のスパン方向外側に配置(構築)されることで、原則的には桁行方向の構面1A(柱・梁のフレーム)から桁行方向の水平力を分担するため、構造物の桁行方向の耐震性を確保するが、スパン方向の柱・梁のフレームに接続されることで、スパン方向の耐震性の確保にも寄与する。構面外補強架構10はスパン方向の柱・梁のフレームに接続され、間接的に廊下4を閉塞した耐震要素5に連続させられることで(請求項5)、構造物のスパン方向の全断面を閉塞する、付加耐震要素6を含む巨大な耐震要素(連層耐震壁)との一体性を確保する。
【0051】
構面外補強架構10はスパン方向の巨大な耐震要素と一体化することで、スパン方向の耐震要素5、6が単独でその方向の水平力に抵抗する場合より、負担が軽減されることに加え、水平力が構面外補強架構10を支持する基礎11に流れ、基礎11から地盤に伝達されるため、スパン方向の耐震要素5、6の抵抗力が増大し、それだけ水平力に対する剛性も増大することになる。
【0052】
この場合、構面外補強架構10の基礎11が既存構造物の基礎7と分離しているとすれば、構造物1の浮き上がりに抵抗する曲げ戻しモーメントを発揮する地中梁8の境界梁として抵抗可能な長さが短いため、基礎7、11での十分な浮き上がり防止効果を期待することが難しくなることが想定される。
【0053】
このことから、構面外補強架構10の基礎11がそれを除いた構造物1の基礎7と、地中梁8等によってスパン方向に連結されていることで(請求項6)、境界梁として曲げ戻しモーメントを発揮する区間が長くなるため、構面外補強架構10にスパン方向の地震力に対する抵抗力を有効に発揮させることが可能になり、結果的に、構造物1がスパン方向の水平力に対する反力を構面外補強架構10から得ることができる。
【発明の効果】
【0054】
桁行方向の柱・梁のフレームの内、少なくとも桁行方向中間部位置の柱を通るスパン方向の柱・梁のフレームを構成し、廊下を区画する、並列する柱間にスパン方向を向く面材である耐震要素を各層単位で配置し、各層の耐震要素によって廊下の開口部を構造物の高さ方向に不連続状態にしているため、見かけ上は耐震要素が廊下を挟んで両側に位置する連層耐震壁と共に巨大な耐震要素(連層耐震壁)を構成することができる。
【0055】
この結果、廊下で分断されていた両側の連層耐震壁のスパン方向の連続性を高め、一体性を強めることができるため、廊下の存在によるスパン方向の剛性低下区間を解消させるか、低減させることができ、スパン方向の地震力に対する抵抗力をスパン方向の構面に付与することができる。

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図2に示す、廊下の開口部が開放している既存の構造物に対し、耐震要素を付加して廊下の開口部を閉塞すると共に、スパン方向両側の構面の外側に構面外補強架構を配置した後の様子を示した、構造物を桁行方向に見た縦断面図である。
【図2】廊下の開口部が開放し、廊下を挟んだ両側に連層耐震壁が配置されている既存構造物を示した、構造物を桁行方向に見た縦断面図である。
【図3】図1に示す耐震要素を付加する前の、図2に示す既存構造物を示した基礎(地下階)における平面図である。
【図4】図2に示す既存構造物に対して廊下の開口部を閉塞する耐震要素と構面外補強架構を付加(配置)した後の様子を示した図1の基礎(地下階)における平面図である。
【図5】図1に示す耐震要素を付加する前の、図2に示す既存構造物を示した1階における平面図である。
【図6】図2に示す既存構造物に対して廊下の開口部を閉塞する耐震要素と構面外補強架構を付加(配置)した後の様子を示した図1の1階における平面図である。
【図7】図1に示す耐震要素を付加する前の、図2に示す既存構造物を示した基準階における平面図である。
【図8】図2に示す既存構造物に対して廊下の開口部を閉塞する耐震要素と構面外補強架構を付加(配置)した後の様子を示した図1の基準階における平面図である。
【図9】構面外補強架構の構成例と桁行方向の構面との関係を示した図1の側面図である。
【図10】廊下の開口部を閉塞する耐震要素が少なくとも地下最下層以上の層に配置されている場合の図1の変形例を示した、構造物を桁行方向に見た縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0058】
図1はスパン方向と桁行方向のそれぞれの架構が柱2と梁3のフレームを有し、スパン方向に配列する一部の柱2、2間に、桁行方向に連続する廊下4が配置されている複数層の構造物において、前記廊下4を区画する、並列する柱2、2間にスパン方向を向く耐震壁、ブレース等の耐震要素5が各層単位で配置された内部補強架構51付き構造物(以下、構造物)1の具体例を示す。
【0059】
図1は図2に示す既存構造物に対して耐震要素5を付加した場合の例を示しているが、構造物1は耐震要素5を有する新設構造物として構築されることもある。内部補強架構51は後述のように桁行方向中間部の、ある柱2を通るスパン方向の構面内単位で、複数の耐震要素5が集合することにより構成される。
【0060】
図3は図2における基礎(フーチング)7の平面を、図4は図2に耐震要素5を付加した後の図1における基礎(フーチング)7の平面を示している。同様に図5は図2における地上1階の平面を、図6は図2に耐震要素5を付加した後の図1における地上1階の平面を、図7は図2における地上基準階(2階以上)の平面を、図8は図2に耐震要素5を付加した後の図1における地上基準階(2階以上)の平面を示している。
【0061】
図4、図6、図8ではそれぞれ図3、図5、図7に示す既存状態の基礎(フーチング)7に対して付加された箇所を実線で、既存の部分を破線で示している。以下では、図2に示す既存構造物に耐震要素5を付加することにより図1に示す構造物1を完成させる場合の例を用いて実施形態を説明する。図1に示す構造物1は請求項3に記載の発明の実施形態に相当する。
【0062】
図2は地下1階、地上8階建ての、スパン方向の中間部に廊下4が配置されている既存構造物を示している。図2においてハッチングを入れた領域は柱2、2と梁3、3とで区画された開口部が耐震壁やブレース等の付加耐震要素6で閉塞されていることを示している。図2は既存構造物を示しているから、付加耐震要素6は既存の耐震要素である。
【0063】
「付加耐震要素6」は図2に示す既存構造物における柱・梁の開口部に既存状態で配置されているか、内部補強架構51の付加時に新規に配置される耐震要素を指す。「耐震要素5」は構造物1が既存構造物であるか新設構造物であるかを問わずに、また対象となる開口部が廊下4であるか否かを問わずに新規に配置される耐震要素を指す。
【0064】
柱2、2と梁3、3の開口部内に交差する直線を入れた領域はその開口部が開放した状態にあることを示している。スパン方向中間部の開口部は廊下4であるから、地下階を含め、最下階から最上階まで開放した状態にあるが、廊下4以外の開口部が開放しているか、閉塞しているかは任意であり、特定されていない。図2の状態では構造物1の上層寄り4層における廊下4の片側の空間には付加耐震要素6が配置されていないから、図1ではこの既存状態で開放している廊下4の片側の開口部に新規に耐震要素5を配置している様子を示している。
【0065】
図2に示す既存構造物の地上層はスパン方向には3空間に区分され、中間に廊下4が位置し、両側に居室が配置されている場合の例(中廊下型)を示しているが、廊下4はスパン方向片側に位置している場合(片廊下型)もある。スパン方向両側の桁行方向を向く構面1A、1A下の基礎7はスパン方向の地震力(水平力)に対する抵抗力としての曲げ戻しモーメントを発揮し得るよう、図2、図3に示すようにスパン方向の地中梁8で連結されている。桁行方向の構面1Aはその方向に配列する柱2と梁3(桁)からなるフレームを基本構造とし、このフレームに腰壁、垂れ壁、袖壁等の非構造部材が接続されることもある。
【0066】
スパン方向を向く耐震要素5が配置される、廊下4を構成する、並列する柱2、2間は桁行方向の柱2・梁3のフレームの内、少なくとも桁行方向中間部位置の柱2を通るスパン方向の柱2・梁3のフレームを構成する。各層に配置された、廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5はその配置前の状態である図2に示すようにスパン方向の梁3を挟んで構造物1の高さ方向に連続している廊下4の開口部を実質的に閉塞することで、廊下4の開口部を高さ方向に不連続状態にする。耐震要素5は耐震壁の他、ブレースの場合もあるため、「実質的に閉塞」とは、開口部を完全に閉塞する場合と、一部に開口を形成可能な程度に開口部を閉塞する場合を含む趣旨である。
【0067】
耐震要素5はそれが配置されるスパン方向の構面内で複数個(複数枚)、集合することにより、付加耐震要素6と共に構造物1の内部を耐震補強する内部補強架構51を構成する。「スパン方向の構面」は桁行方向に配列するいずれかの柱2を通るスパン方向のフレームを含む構面を指す。図面では図6に示すように内部補強架構51を構造物1の桁行方向の中央部、もしくはその付近に1枚、配置した場合を示しているが、内部補強架構51が配置されるスパン方向の構面は桁行方向に1枚とは限らず、内部補強架構51は桁行方向に複数枚、配置されることもある。
【0068】
内部補強架構51はスパン方向両側に位置する桁行方向の構面1Aの構面外方向(スパン方向)の曲げ剛性を補い、桁行方向の構面1Aが面外方向に曲げ変形しないように拘束する働きをするため、桁行方向に1枚、配置されるとすれば、図6に示すように桁行方向の中央部に配置されることが適切である。但し、桁行方向の構面1Aを曲げ変形に対して補強する上では、内部補強架構51は多い方がよく、その場合、複数枚の内部補強架構51は桁行方向に分散して配置され、その場合は必ずしも桁行方向の中央部に配置される必要はない。
【0069】
図1は耐震要素5が全層の廊下4の開口部に配置され、既存構造物の全廊下4を耐震要素5で閉塞している場合の例を示しているが、必ずしも全廊下4に耐震要素5が配置される必要はない。廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5は廊下4に面するスパン方向の梁3を挟んで連続する状態にある開口部を分断させ、不連続にすればよいため、1層置き、あるいは複数層置きに配置されることもある。
【0070】
図1ではまた、既存状態で付加耐震要素6によって閉塞されている開口部以外の、廊下4を含む全開口部、すなわち廊下4の開口部と、図2に示す既存状態で付加耐震要素6が配置されていない全開口部に耐震要素5を配置している様子を示している。但し、廊下4以外の全開口部、すなわち付加耐震要素6が配置されていない開口部にも必ずしも耐震要素5が配置される必要はなく、付加耐震要素6が配置されていない一部の開口部にのみ、耐震要素5が新たに配置されることもある。
【0071】
図1は内部補強架構51が配置されるスパン方向の構面内の全開口部に耐震要素5が配置されることで、内部補強架構51として想定される耐力と剛性が最も高くなる場合の例を示している。廊下4の開口部に耐震要素5が配置された層(階)では、廊下4が閉塞されることで、桁行方向に連続している廊下4の空間が不連続になり、動線が途切れるため、廊下4の不連続状態を解消するために、廊下4のいずれか片側に隣接する柱2・梁3からなるフレーム内に廊下4の開口部に代わる開口部が新たに形成されるか、フレーム内の既存の開口が開口部として使用される。
【0072】
廊下4の開口部に代わる開口部は廊下4のいずれか片側の柱2・梁3からなるフレームが開放したままの状態にある場合には、その開口部が廊下4の開口部に代わる開口部として利用されればよいが、図2、図1に示すように廊下4の両側のフレームに付加耐震要素6、もしくは耐震要素5が配置され、廊下4の両側のフレームがいずれも閉塞している場合には、図1に示すように廊下4の開口部に代わる開口部として壁内開口9が付加耐震要素6、もしくは耐震要素5の一部に形成される。廊下4のいずれか片側のフレームは廊下4の開口部を構成している柱2を含む柱2・梁3のフレームを指す。
【0073】
壁内開口9は廊下4の開口部に代わる開口部であり、廊下4の動線を迂回させる経路を構成するから、廊下4の開口部を構成している柱2を含む柱2・梁3のフレーム内に形成される。
【0074】
図1に示すように廊下4の両側のフレームが全層に亘って付加耐震要素6、もしくは耐震要素5によって閉塞している場合には、廊下4の両側の内、いずれか片側のフレームに壁内開口9が形成される。壁内開口9の形成によって桁行方向を向く廊下4を通る動線は平面では図6、図8に示すように廊下4から一旦、その片側の居室内に入り込み、付加耐震要素6、もしくは耐震要素5に形成されている壁内開口9を通過した後、再度、廊下4に戻る経路を辿ることになる。
【0075】
ここで、各層の壁内開口9が高さ方向に廊下4のいずれか片側に偏って形成されるとすれば、内部補強架構51としての剛性と耐力がスパン方向片側に偏り、剛性と耐力の低下部分が生じ得るため、図1では内部補強架構51の剛性と耐力が廊下4を挟んで均等になるよう、下層(上層)から上層(下層)へかけて廊下4を挟んで交互に壁内開口9を配置している。
【0076】
図1に示すように下層から上層へかけて廊下4を挟んで交互に壁内開口9を配置すれば、各層に壁内開口9が形成されながらも、内部補強架構51の全体としての剛性と耐力がスパン方向にも高さ方向にも均等になり、部分的な脆弱箇所がなくなるため、面内の水平力に対する抵抗要素である耐震補強架構としての機能の低下は回避される。
【0077】
構造物1が既存構造物で、桁行方向の耐震性能を補う必要がある場合には、桁行方向の構面1A、1Aの外側に、構造物1の桁行方向の地震力(水平力)を分担し、構造物1に桁行方向の耐震性を付与する構面外補強架構10、10が配置される。
【0078】
構面外補強架構10は図9に示すように基本的には桁行方向に間隔を置いて配列する柱10a、10aと、隣接する柱10a、10aをつなぐ梁10bと、柱10aと梁10bの交点間に架設されるブレース10c等からなり、既存構造物の基礎7に加え、地上層の複数箇所において桁行方向の構面1Aを構成するフレーム等に接合される。
【0079】
構面外補強架構10が地震時の水平力を負担したときに、ブレース10cに水平力を効率的に負担させることができるよう、柱10aは1層単位で分割され、分割された上下の柱10c、10c間に水平方向の相対移動を生じさせる積層ゴム支承等の免震装置が介在させられることもある。
【0080】
構面外補強架構10は基礎7のスパン方向外側の地中に新たに構築される基礎(フーチング)11上に構築され、基礎11は基礎7に直接、もしくは地中梁8を介して接合され、構面外補強架構10は地上において梁(桁)、スラブ、壁等の接続部材12を介して桁行方向の構面1Aに接合される。構面外補強架構10はまた、スパン方向の柱2・梁3のフレームに接続され、間接的に廊下4を閉塞した耐震要素5が構成する内部補強架構51に連続する。
【0081】
構面外補強架構10が内部補強架構51に接続され、両者が連続することで、スパン方向の水平力に対する抵抗要素である内部補強架構51が負担すべき水平力の一部が構面外補強架構10に伝達され、負担されることになる。構面外補強架構10に流れたスパン方向の水平力の一部は構面外補強架構10を支持する基礎11に伝達され、地中梁8で負担される。地中梁8は曲げ戻しモーメントを発揮することにより構造物1にスパン方向に作用する転倒モーメントに抵抗し、内部補強架構51の転倒を防止する。
【0082】
図10は廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5を少なくとも地下最下層に配置した場合の内部補強架構51の構成例を示している。図10に示す構造物1は請求項1に記載の発明の実施形態に相当する。
【0083】
図10は地下層が1層(地下1階)しかない場合の例であるから、廊下4の開口部を閉塞する耐震要素5はこの地下1階にのみ配置されるが、地下層が複数ある場合にはその内の少なくとも基礎7(11)寄りの最下層に耐震要素5が配置されればよい。地下層が複数ある場合に、最下層より上の層においては、全地下層の廊下4の開口部に耐震要素5を配置する場合と、1層置き、もしくは複数層置きに配置する場合がある。
【0084】
図10ではまた、地上層(地上階)における廊下4の開口部に耐震要素5を配置していない場合を示しているが、地上層における廊下4の開口部に耐震要素5を配置する場合には、図1の例の場合と同様に、耐震要素5は少なくとも高さ方向に連続的に存在している開口部の連続性を分断するように、1層置き、もしくは複数層置きに配置されればよい。
【0085】
図10では、図1において廊下4を挟んだ両側に高さ方向に交互に配列している壁内開口9を二点鎖線で示しているが、二点鎖線の壁内開口9は地上層のいずれかの廊下4の開口部に耐震要素5が配置される場合に、その層の廊下4以外の空間に配置されるか、配置されている耐震要素5、もしくは付加耐震要素6に廊下4の開口部に代わって形成されることがあることを意味している。
【符号の説明】
【0086】
1……内部補強架構付き構造物、1A……桁行方向の構面、
2……柱、3……梁、4……廊下、
5……耐震要素、51……内部補強架構、
6……付加耐震要素、7……基礎(フーチング)、8……地中梁、
9……壁内開口、
10……構面外補強架構、10a……柱、10b……梁、10c……ブレース、
11……基礎(フーチング)、12……接続部材。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパン方向と桁行方向のそれぞれの架構が柱・梁のフレームを有し、スパン方向に配列する一部の柱間に、桁行方向に連続する廊下が配置されている複数層の構造物の内部において、
桁行方向の前記柱・梁のフレームの内、少なくとも桁行方向中間部位置の柱を通るスパン方向の前記柱・梁のフレームを構成し、前記廊下を区画する、並列する柱間にスパン方向を向く耐震要素が少なくとも地下最下層以上の層に配置されていることを特徴とする内部補強架構付き構造物。
【請求項2】
前記耐震要素は地上層には各層単位で配置され、この各層の耐震要素が前記廊下の開口部を構造物の高さ方向に不連続状態にしていることを特徴とする請求項1に記載の内部補強架構付き構造物。
【請求項3】
スパン方向と桁行方向のそれぞれの架構が柱・梁のフレームを有し、スパン方向に配列する一部の柱間に、桁行方向に連続する廊下が配置されている複数層の構造物の内部において、
桁行方向の前記柱・梁のフレームの内、少なくとも桁行方向中間部位置の柱を通るスパン方向の前記柱・梁のフレームを構成し、前記廊下を区画する、並列する柱間にスパン方向を向く耐震要素が各層単位で配置され、この各層の耐震要素が前記廊下の開口部を構造物の高さ方向に不連続状態にしていることを特徴とする内部補強架構付き構造物。
【請求項4】
前記廊下以外の区間のスパン方向の柱間に付加耐震要素が配置され、この付加耐震要素の一部に、前記廊下の開口部に代わる壁内開口が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の内部補強架構付き構造物。
【請求項5】
桁行方向の構面のスパン方向外側に構面外補強架構が配置され、この構面外補強架構はスパン方向の柱・梁のフレームに接続され、間接的に前記廊下を閉塞した耐震要素に連続していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の内部補強架構付き構造物。
【請求項6】
前記構面外補強架構の基礎はそれを除いた構造物の基礎とスパン方向に連結されていることを特徴とする請求項5に記載の内部補強架構付き構造物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−117232(P2012−117232A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265961(P2010−265961)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【特許番号】特許第4667536号(P4667536)
【特許公報発行日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(503361444)
【出願人】(510207243)株式会社KSE network (4)
【出願人】(000149594)株式会社大本組 (40)
【Fターム(参考)】