説明

内面溝付管の製造方法

【課題】形状不良が発生したり管の破断が生じることもなく、安定した内面二重溝付管の加工を行うことができ、伝熱性能の優れた内面二重溝付管を製造することができる内面溝付管の製造方法を提供する。
【解決手段】素管を引抜手段により引抜方向へ引抜く引抜工程と、素管を縮径させる縮径工程と、引抜手段により素管の引抜きを補助引抜手段により補助する補助引抜工程と、溝加工手段により素管内面に溝を形成する溝加工工程とを行う内面溝付管の製造方法であって、引抜方向に作用する荷重を荷重測定手段により測定する荷重測定工程と、引抜手段と補助引抜手段の少なくともいずれか一方を制御して、荷重を周期的に変化するように制御する制御工程を行う。制御工程では引抜手段と補助引抜手段の少なくともいずれか一方の巻取周速度を制御する。制御工程では補助引抜手段の素管の押し付け力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エアコン、給湯器、冷凍機、床暖房等の、ヒートポンプ機器において、熱交換器用の伝熱管として用いられる内面溝付管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンや給湯器などのヒートポンプ機器の熱交換器に用いられる伝熱管は、熱交換性能の向上を図るため、内面に溝加工を施した、例えば、銅製の内面溝付管が用いられることが多い。
【0003】
近年では、熱交換器の小型化、高効率化の要求に対応するため、内面に形成された溝を深くし、溝のねじれ角(リード角)を大きくし、フィンを鋭い形状にし、管の肉厚を薄くした内面溝付管が製造されている。
【0004】
さらに、フロン系冷媒を使用するヒートポンプ機器の熱交換器の熱交換性能の向上のために、内面に不連続の高さのフィンを形成させた内面溝付管(いわゆるクロス溝付管)が開発されている(特許文献1)。さらに、前記クロス溝付管を転造加工により製造するための製造方法が開示されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−178574号公報
【特許文献2】特開平9−70612号公報
【特許文献3】特開平9−314264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内面溝付管の溝付け加工は、溝付け加工直前の管内径と管内に挿入された溝付プラグの外径とが略等しくなるようにし、管と溝付プラグの噛み合いを向上させた状態で施される。特許文献2,3の製造方法も同様に、2回の溝付け加工において、直前のそれぞれの管内径が溝付プラグの外径と略等しくなるようにしなければならない。
【0007】
しかしながら、特許文献2,3の製造方法の場合、溝付プラグの外径に適合するように管内径を制御することは困難である。その結果、加工時に管と溝付プラグとの噛み合いが悪くなり、浮離現象がおこってしまい十分な溝を形成することができない場合があった。
【0008】
また、逆に内面フィンの先端部が、溝付プラグにあたってしまうと押しつぶされ拡管されながら加工されるので、引き抜き方向に対しての抵抗が増大し、破断し易くなるという問題が発生した。
【0009】
そこで本発明は、従来のように形状不良が発生したり、管の破断が生じたりすることもなく、安定した内面二重溝付管の加工を行うことができ、伝熱性能の優れた内面二重溝付管を製造することができる内面溝付管の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の手段により達成される。すなわち、本発明は、
(1)素管を引抜手段により引抜方向へ引抜く引抜工程と、
前記素管を縮径させる縮径工程と、
前記引抜手段により前記素管の引抜きを補助引抜手段により補助する補助引抜工程と、
溝加工手段により素管内面に溝を形成する溝加工工程と、
を行う内面溝付管の製造方法であって、
前記引抜方向に作用する荷重を荷重測定手段により測定する荷重測定工程と、
前記荷重測定手段が測定した荷重に基づいて前記引抜手段と前記補助引抜手段の少なくともいずれか一方を制御して、前記荷重を周期的に変化するように制御する制御工程を行う
ことを特徴とする内面溝付管の製造方法、
(2)(1)記載の内面溝付管の製造方法であって、
前記制御工程において、
前記引抜手段と前記補助引抜手段の少なくともいずれか一方の巻取周速度を制御する
ことを特徴とする内面溝付管の製造方法、
(3)(1)または(2)記載の内面溝付管の製造方法であって、
前記制御工程において、
前記補助引抜手段の素管の押し付け力を制御する
ことを特徴とする内面溝付管の製造方法、
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の内面溝付管の製造方法によれば、従来のように形状不良が発生したり、管の破断が生じたりすることもなく、安定した内面二重溝付管の加工を行うことができ、伝熱性能の優れた内面二重溝付管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の内面溝付管の製造装置を示す断面図である。
【図2】本実施形態の内面溝付管を管軸に対して斜めに切断した一部を示す断面図である。
【図3】本実施形態の内面溝付管の管軸を通る面における断面図である。
【図4】本実施形態の内面溝付管の加工荷重の制御方法を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1は、本実施形態における内面溝付管11の製造装置12の断面図である。本実施形態における内面溝付管11は製造装置12を用いて製造することができる。
【0014】
前記製造装置12は、引抜方向(抽伸方向)(図1中のX方向)の上流側から下流側へ沿って、順に縮径部13、補助引抜装置17、溝加工部14、仕上げ加工部15を配設し、さらに下流側に、引抜装置16を備え、これら構成により素管11aを連続加工して内面溝付管11を製造している。
【0015】
詳しくは、前記製造装置12は、素管11aを引抜いて縮径させる縮径部13と、素管11a内面に多数の溝を形成する溝加工部14と、該溝加工部14の下流側で加工済みの内面溝付管11を巻き取る引抜装置16と、縮径部13と溝加工部14との間で素管11aを引抜く補助引抜装置17とで構成している。引抜装置16は巻取りドラム36とモータM1を有する。
【0016】
さらに、前記製造装置12は、固定台50に対して引抜方向Xへ移動可能に、縮径部13、補助引抜装置17、溝加工部14、仕上げ加工部15、及び、これらを収容するボックス32を支持する可動台33と、該可動台33の前記固定台50に対する移動に応じて作用する加工荷重Pを検出するロードセル35と、該ロードセル35により検出した前記加工荷重Pに基づいて、補助引抜装置17を制御する制御装置45とで構成している。
【0017】
以下、上述した各部の構成について説明する。
前記縮径部13は、通過する素管11aを縮径するための円筒状のダイス22を構成している。前記ダイス22は、上流側へ向けて末広がり状に開口したダイス孔22aを有している。
【0018】
さらに、前記縮径部13は、素管11aの内側にフローティングプラグ23を備えている。該フローティングプラグ23は、素管11aを介して前記ダイス22と係合可能に外周面の軸方向の一部を円錐台状に形成している。これにより、フローティングプラグ23は、前記ダイス22部分において回動自在に係合される。
【0019】
また、前記溝加工部14は、素管11a内側において、外周に複数の螺旋状溝が形成された溝付プラグ24を備えている。
【0020】
前記溝付プラグ24と前記フローティングプラグ23とは、連結棒25を介してそれぞれ独立して回動自在に連結されている。さらに、前記溝加工部14には、複数のボール26を備え、該複数のボール26は、素管11aの外側において該素管11aを押圧しながら管軸回りに回転自在に配設されている。
【0021】
前記溝加工部14は、溝付プラグ24が素管11aの内周面に当接し、素管11aが軸回りに回転しながら引抜方向へ引っ張られるとともに複数のボール26による押圧により、素管11aの内周面に多数の平行な螺旋状をした螺旋状溝を形成することができる。すなわち、前記溝加工部14を通過させることで、内面溝付管11を得ることができる。
【0022】
前記仕上げ加工部15では、整径ダイス27を備え、該整径ダイス27のダイス孔27aを内面溝付管11が通過することにより、例えば、前記溝加工部14におけるボール26の押圧により生じた管表面の歪み等を滑らかに整径する加工を行っている。
【0023】
前記引抜装置16は、巻取りドラム36、及び、巻取り用のモータM1を備え、該モータM1の回転駆動により内面溝付管11を引張りながら巻取りドラム36に巻き付けている。
【0024】
前記補助引抜装置17は、縮径部13と溝加工部14との間で、素管11aを引抜方向へ引き抜くことで引抜装置16による引抜きを補助している。すなわち、前記溝加工部14による溝加工は、素管11aを引抜く際の抵抗となり、この溝加工の際の引抜きの負荷が大きくなるが、補助引抜装置17により素管11aにかかる前記引抜き負荷を分散させることができる。
【0025】
前記補助引抜装置17は、素管11aに対して上下各側、或いは、左右各側に配置された一対のベルト42a,42bを備えている。各ベルト42a,42bは、ループ状(無端状)に形成され、モータM2の回転駆動により回転可能にプーリー43に張架されている。ベルト42a,42bは、外周面に、その長さ方向に沿って複数のパッド44を連設したキャタピラ式に構成している。
【0026】
前記補助引抜装置17における一対のベルト42a,42bは、十分な引抜力を得ることと素管11aの変形を防止するといった観点からパッド44による素管11aの押し付け力が例えば、0.3MPaの所望の押し付け力に保たれるよう素管11aに対して上下各側に備えられている。
【0027】
前記パッド44には、図示しないが、縮径部13により縮径後の素管11aの外面との接触部分に、複数のパッド44の連設方向に対する切断面が円弧状となるパッド溝を形成している。なお、前記補助引抜装置17の上流側には、素管11aの外表面に付着した油膜や異物を除去するためのワイパーを備えてもよい(図示せず)。
【0028】
前記可動台33は、固定台50に対して引抜方向X、或いは、その逆方向に平行移動可能なように複数の車輪33aを介して固定台50に設置され、上述した縮径部13、溝加工部14、仕上げ加工部15、及び、補助引抜装置17を、ボックス32に収容した状態で設置している。
【0029】
ロードセル35は、固定台50上であって可動台33における引抜方向Xの下流側端部分に、素管11aの引抜き力に応じて可動台33から受ける加工荷重Pを検出可能に設けている。
【0030】
前記制御装置45は、ロードセル35により検出した加工荷重Pを電気信号化した荷重検出信号Sinが入力され、制御プログラムに従って、補助引抜装置17のモータM2の駆動を制御する制御信号Soutを出力する。
【0031】
さらに、前記制御装置45は、図示しないが信号の解析処理および演算処理を実行するための演算機(CPU)、必要な制御プログラムを格納するためのハードディスク、及び、前記荷重検出信号Sinを一時格納するためのメモリを備え、その他にも、制御パラメータを入力するキーボードなどの入力手段、モニタなどの表示手段を適宜備えることができる。
【0032】
本実施形態における内面溝付管11は、モータM1の速度とモータM2の速度を制御して速度比を変化させる、あるいは、補助引抜装置17のパッド44による素管11aの押し付け力を制御することにより、加工荷重Pを制御して、所望の溝形状の内面溝付管11を製造することができる。
【0033】
本実施形態における内面溝付管11の製造方法により、図2及び図3に示すように、フィン1の高さが一定ではない内面溝付管11、いわゆるクロス溝付管を製造することができる。
【0034】
図2は、本実施形態の内面溝付管を管軸に対して斜めに切断した一部を示す断面図である。内面溝付管11の内面にはフィン1と溝2がある。前記フィン1の頂部と溝2の高さの差をフィン1の高さという。フィン1は第一のフィン61、及び、第二のフィン71を有し、それらが交互に周期的に設けられている。
【0035】
図3は本実施形態の内面溝付管11の管軸を通る面における断面図である。フィン1及び溝2は、管の中心軸(図3の上下方向)に対するねじれ角βをもって配置されている。フィン1は、管の中心軸に対して長さLをもって周期的に第一のフィン61及び第二のフィン高さ71が設けられている。第一のフィン61は管軸方向に長さL1を有している。第二のフィン71は管軸方向に長さL2を有している。
【0036】
本実施形態の内面溝付管11の製造方法について説明する。まず本実施形態の内面溝付管11の製造の予備試験として、所望の材質の管(溝を付ける前の内面が平滑な管)について、上述した内面溝付管の製造装置12を用いて、あらかじめ加工荷重と溝の深さとの関係を測定しておく。すなわち、加工荷重Pを変化させ、第一のフィン高さH1及び第二のフィン高さH2を得るための加工荷重P1、P2を算出しておく。加工荷重Pの測定は、ロードセル35により可能である。
【0037】
次に、素管11aを内面溝付管の製造装置12にかけ、内面溝付管11の製造を行う。加工荷重Pを、前記の第一のフィン高さH1及び第二のフィン高さH2を得るための加工荷重P1、P2となるよう、モータM1の巻取周速度とモータM2の巻取周速度を制御する、あるいは、補助引抜装置17のパッド44による素管11aの押し付け力を制御する。
【0038】
このとき、前記の第一のフィン高さH1及び第二のフィン高さH2を周期的に得るためには、前記速度比あるいは前記押し付け力を周期的に変化させる必要がある。図4は、本実施形態の内面溝付管の加工荷重とフィン高さHの関係を示すグラフである。横軸は加工時間tである。上側のグラフは加工荷重Pの変化を示している。下側のグラフはフィン高さHの変化を示している。すなわち、上側のグラフのように加工荷重Pを制御することにより、フィン高さHは下側のグラフのように変化する。ここで、加工荷重Pを、交互にP1とP2となるように制御することで、溝2の深さは交互に高さH1と高さH2となる。
【0039】
前記加工荷重Pの制御間隔を周期Sとすると、管軸方向に第一のフィン高さH1及び第二のフィン高さH2からなる周期がLである溝が形成される。このとき、モータM1の巻取周速度をVとすると、L=V×Sの関係になる。よって、所望の形状の内面溝付管11を得るよう、L、V、Sを設定すればよいことになる。
【0040】
また、上述した実施形態では、モータM1の巻取周速度とモータM2の巻取周速度を制御する方法について述べたが、巻取周速度を制御パラメータとして制御するに限らず、モータM1、M2の加速度、トルク、回転角度、或いは、これら複数を制御パラメータとして制御してもよい。
さらに、上述した実施形態では、フィン1の高さは2種類としたが、2種以上の複数の高さを形成してもよい。
【0041】
また、図1では前記補助引抜装置17の駆動に、モータM2を1つ取り付けた例を示しているが、左右それぞれにモータを取り付けて2台で運転させてもよい。このような場合、サーボ機構のような目標運転制御値に追従できるようなモータを使用して、本発明のような破断が生じやすい難加工形状を有する内面溝付管加工時の加工荷重Pを、より詳細に制御できるようになって、設備運転の安定化に有効である。
【0042】
上述の実施形態と、この発明の構成との対応において、この実施形態の
縮径部13は、この発明の縮径手段に対応し、以下同様に、
溝加工部14は、溝加工手段に対応し、
引抜装置16は、引抜手段に対応し、
補助引抜装置17は、補助引抜手段に対応し、
可動部33は、可動手段に対応し、
ロードセル35は、荷重検出手段に対応し、
制御装置45は、制御手段に対応し、
固定台50は、設置部に対応する。
本発明は、上記実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【符号の説明】
【0043】
11…内面溝付管
12…製造装置
13…縮径部
14…溝加工部
16…引抜装置
17…補助引抜装置
33…可動台
35…ロードセル
45…制御装置
50…固定台
61…第一のフィン
71…第二のフィン
P…加工荷重
L…管軸方向の長さ
H…フィンの高さ
H1…第一のフィン高さ
H2…第二のフィン高さ
t…加工時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素管を引抜手段により引抜方向へ引抜く引抜工程と、
前記素管を縮径させる縮径工程と、
前記引抜手段により前記素管の引抜きを補助引抜手段により補助する補助引抜工程と、
溝加工手段により素管内面に溝を形成する溝加工工程と、
を行う内面溝付管の製造方法であって、
前記引抜方向に作用する荷重を荷重測定手段により測定する荷重測定工程と、
前記荷重測定手段が測定した荷重に基づいて前記引抜手段と前記補助引抜手段の少なくともいずれか一方を制御して、前記荷重を周期的に変化するように制御する制御工程を行う
ことを特徴とする内面溝付管の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の内面溝付管の製造方法であって、
前記制御工程において、
前記引抜手段と前記補助引抜手段の少なくともいずれか一方の巻取周速度を制御する
ことを特徴とする内面溝付管の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のいずれか1項に記載の内面溝付管の製造方法であって、
前記制御工程において、
前記補助引抜手段の素管の押し付け力を制御する
ことを特徴とする内面溝付管の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−247181(P2010−247181A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98752(P2009−98752)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】