説明

円偏光板及び有機EL表示装置

【課題】EL発光の利用効率を損ねることなく外光反射の抑制ができる円偏光板及びそれを用いた有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】第1の基板と、第1の基板上に形成された多数の周期的な直線状の金属ワイヤを有するワイヤグリッド偏光子と、ワイヤグリッド偏光子上に形成された光学異方性を有する液晶固定化層と、を備える円偏光板と、第2の基板と、第2の基板上に形成された反射電極と、反射電極上に形成された発光層を含む有機層と、有機層上に形成された光透過性の電極と、を備える有機EL表示基板と、円偏光板と有機EL表示基板とを接着層により固定化されることを特徴とする有機EL表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円偏光板及び有機EL表示装置に関し、特に、EL発光の利用効率を損ねることなく外光反射の抑制ができる円偏光板及びそれを用いた有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置は、薄型であることによる省スペース性及び軽量性、10V程度の印加電圧であっても高輝度な発光が得られるなどの特徴から、近年ディスプレイへの応用が期待されている。
【0003】
有機EL表示装置は、発光可能な有機層を電極で挟んだ構成を有する。有機層は基本的に正孔輸送層、発光層、及び電子輸送層を積層したものである。電極としては、光を取り出す側に例えばITO(Indium−Tin−Oxide)などの透明電極を用い、対向する位置に例えばアルミニウムなどの反射金属電極を用いる。このような構成において、両電極より各々電子と正孔を、電子輸送層及び正孔輸送層を介して発光層に注入し、発光層において電子と正孔を再結合させて発光させる。
【0004】
しかし、視認者が有機EL表示装置を見た場合、外光が反射金属電極に反射することで、あたかも鏡面のように観察され、コントラスト低下が問題となった。
【0005】
そこで、このような問題を解決するために、特許文献1には、円偏光板を光取り出し面に用いて外光反射をカットする技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
従来、このような円偏光板は、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルムのような親水性高分子フィルムにヨウ素または二色性染料を吸着させて延伸した偏光フィルムに、高分子延伸フィルムからなる位相差フィルムを積層させた構造となっている。ここで、有機EL表示装置の光取り出し面側に円偏光板を用いた場合、外光は偏光フィルムによって直線偏光となり、次に位相差が光の波長の1/4に制御された位相差フィルムを通過することで、円偏光となる。これが金属電極にて反射された際に円偏光状態が反転し、再び位相差フィルムを通過した際に、入射時から90°傾いた直線偏光となり、偏光フィルムに到達して吸収される。
【0007】
しかし、EL発光に対しても円偏光板内の偏光フィルムによって吸収がおこるため、輝度がおおよそ半分になってしまう。輝度が半減してしまうと、所望の値に対して必要な輝度がおおよそ2倍となり、現在有機ELデバイスの実現化のために大きな課題となっている素子寿命に大きな悪影響をおよぼしてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−226842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、EL発光の利用効率を損ねることなく外光反射の抑制ができる円偏光板及びそれを用いた有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る発明は、基板と、基板の片面に形成された多数の周期的な直線状の金属ワイヤを有するワイヤグリッド偏光子と、ワイヤグリッド偏光子上に形成された光学異方性を有する液晶固定化層と、を備えることを特徴とする円偏光板である。
【0011】
本発明の請求項2に係る発明は、金属ワイヤの周期が240nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の円偏光板である。
【0012】
本発明の請求項3に係る発明は、金属ワイヤの基板側に反射防止層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の円偏光板である。
【0013】
本発明の請求項4に係る発明は、液晶固定化層は、ワイヤグリッド偏光子を通過して直線偏光となった光が円偏光となるようなλ/4板であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の円偏光板である。
【0014】
本発明の請求項5に係る発明は、基板が、カラーフィルタ基板であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の円偏光板である。
【0015】
本発明の請求項6に係る発明は、第1の基板と、第1の基板上に形成された多数の周期的な直線状の金属ワイヤを有するワイヤグリッド偏光子と、ワイヤグリッド偏光子上に形成された光学異方性を有する液晶固定化層と、を備える円偏光板と、第2の基板と、第2の基板上に形成された反射電極と、反射電極上に形成された発光層を含む有機層と、有機層上に形成された光透過性の電極と、を備える有機EL表示基板と、円偏光板と有機EL表示基板とを接着層により固定化されることを特徴とする有機EL表示装置である。
【0016】
本発明の請求項7に係る発明は、有機EL表示基板は、光透過性の電極から光を取り出すことを特徴とする請求項6に記載の有機EL表示装置である。
【0017】
本発明の請求項8に係る発明は、有機EL表示装置において、有機EL表示基板の反射電極と円偏光板のワイヤグリッド偏光子の反射面の距離が1μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項6または8に記載の有機EL表示装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、EL発光の利用効率を損ねることなく外光反射の抑制ができる円偏光板及びそれを用いた有機EL表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子を示す概略断面図である。
【図3】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る基板の接着方法を示す概略図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置に入射する外光を示す概略断面図である。
【図5】(a)〜(i)は、本発明の実施の形態に係る外光反射を示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るEL発光の取り出しを示す概略断面図である。
【図7】(a)〜(f)は、本発明の実施の形態に係るEL発光の取り出しを示す概略図である。
【図8】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る斜め方向からの観察の様子を示す説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置の一例を示す概略断面図である。図1(a)に示すように、本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置は、例えば円偏光板4と有機EL表示基板9が接着層5を介して対向して固定されている。なお、円偏光板4には、基板1、金属ワイヤ(ワイヤグリッド偏光子)2及び液晶固定化層3を有し、有機EL表示基板9には、基板8、反射電極7、有機EL層6(赤色発光層6R、緑色発光層6G、青色発光層6B)を有している。
【0022】
また、図1(b)に示すように、円偏光板がカラーフィルタ10の上に形成された、カラーフィルタ機能付円偏光板13であってもよい。この場合は、有機EL表示基板9の有機EL層6の各色(赤色発光層6R、緑色発光層6G、青色発光層6B)とカラーフィルタ10の各色(赤色カラーフィルタ層11R、緑色カラーフィルタ層11G、青色カラーフィルタ層11B)がそれぞれ対応して、対向して固定されていることが好ましい。
【0023】
次に、本発明の実施の形態に係る円偏光板4を構成する部材について説明する。円偏光板4は、ワイヤグリッド偏光子2の上に液晶固定化層3を積層することによって形成される。ワイヤグッド偏光子2に液晶固定化層3を積層することにより、円偏光板4としての機能と、反射層としての機能を備えた円偏光板4とすることができる。また、位相差層として液晶固定化層3を用いることで、従来のフィルムを延伸させて作製する位相差フィルムと比べて、膜厚を大幅に薄くできる。
【0024】
本発明の実施の形態に係る円偏光板4に用いられるワイヤグリッド偏光子2は、一方の偏光方向の光は高い透過率を持ち、もう一方の偏光方向の光は高い反射率を持つ。
【0025】
ここで、図2は、本発明の実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子2を示す概略断面図である。図2に示すように、例えばワイヤグリッド偏光子2は、ガラス等の基板1の表面に、アルミニウム、銀、クロム等の金属からなり、定周期で平行に配置された直線状の金属ワイヤからなる。ランダム偏光(自然偏光)の光を入射させると、金属ワイヤに平行に振動する電界ベクトルを持つような偏光14(偏光方向を電界ベクトルの振動方向として取り扱う)は反射し、金属ワイヤに直交に振動する偏光15は透過する。
【0026】
また、金属ワイヤの配置周期は、入射光の波長に対して十分小さい場合、例えば、2分の1以下であれば、偏光性を示す。その周期としては可視光の波長の場合は、例えば240nm以下であることが好ましい。ワイヤグリッド偏光子2の金属ワイヤの周期を240nm以下とすることで、可視光領域の広帯域で良好な光学特性が得られる。周期は小さくなるほど偏光特性が良くなるので、特に150nm以下となることがより好ましい。
【0027】
金属ワイヤの高さ(金属厚み)は、ワイヤグリッド偏光子2の偏光分離性能から必要な値が決まり、具体的には光の透過率が1%以下であればよく、好ましくは30nm以上の厚みであれば良好な性能を得ることができる。あまりに金属が薄いと、光の透過が無視できず、偏光分離性能が低下する。逆に金属が厚すぎると、光の利用効率が低下するため、厚みの上限は約200nmであることが好ましい。
【0028】
金属ワイヤの基板側に反射防止層(図示せず)を有することで、基板側から入射した外光の金属ワイヤにおける反射を防止することができる。反射防止層としては、例えばクロム酸化物等の反射率が低い物質を用いることができる。また、金属ワイヤが形成される側と反対側の基板上に、ワイヤグリッド偏光子2と同様の直線偏光透過方向を持ち、それと90°傾いた直線偏光は吸収するような偏光フィルムを貼り付けることで、反射防止層としてもよい。
【0029】
このようなワイヤグリッド偏光子2を作製する方法としては、ガラス等の基板1の表面に、クロム酸化物等の反射防止膜と、その上にアルミニウム、銀、クロム等の金属材料を真空蒸着法、スパッタリング法等の手法により薄膜形成する。また、基板1としては、例えばカラーフィルタ機能を備えた基板1であってもよい。カラーフィルタ機能を備えた基板1を用いることで、外光反射をさらに抑制することができ、EL発光に対しても色度を調整することができる。カラーフィルタの表面は、数μm程度の凹凸があるので、好ましくはそのような形状を平坦化するような膜を形成してから、反射防止膜及び金属膜を形成することもできる。
【0030】
金属材料上に光感光性樹脂(レジスト)を塗布して成膜し、レジストを所定のピッチのストライプパターンとなるように形成する。ストライプパターンの作製方法としては、レジストに光描画(マスク露光、縮小投影露光、干渉露光など)、電子線描画、X線描画などの手法で潜像を形成し、現像することで形成できる。特に大面積のストライプパターンを生産性よく作製する手法として、2光束干渉露光などの光描画手法が好ましく用いられる。
【0031】
その後、レジストが剥離されて金属表面が露出した部分を除去するために、イオンビームや各種湿式のエッチングを施すことで金属、反射防止膜を除去し、最後に残留のレジストを除去することで、金属膜のパターンニングが完成する。
【0032】
次に、本発明の実施の形態に係る円偏光板4に用いられる液晶固定化層3について説明する。固定化される液晶の配向の種類は、面内方向に位相差が発現するものであれば特に限定されない。例えば棒状液晶が面内に水平となるように揃うホモジニアス配向で得られる正のAプレート、棒状液晶が面内に水平となるように揃うホモジニアス配向で得られる正のCプレートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
このような、液晶固定化層3の形成方法としては、種々の方法を利用することができるが、ワイヤグリッド偏光子2上に、液晶性を示し、かつ光重合性または光架橋性を示す液晶化合物を含むコーティング液を塗布し、露光と加熱を併用して硬化させる方法が簡便である。
【0034】
このコーティング液は、液晶化合物及び溶剤に加え、キラル剤、光重合開始剤、熱重合開始剤、増感剤、連鎖移動剤、多官能モノマーまたはオリゴマー、樹脂、界面活性剤、貯蔵安定剤、密着向上剤などの成分を、液晶性を損なわない範囲で加えることができる。
【0035】
液晶材料の例としては、アルキルシアノビフェニル、アルコキシビフェニル、アルキルターフェニル、フェニルシクロヘキサン、ビフェニルシクロヘキサン、フェニルビシクロヘキサン、ピリミジン、シクロヘキサンカルボン酸エステル、ハロゲン化シアノフェノールエステル、アルキル安息香酸エステル、アルキルシアノトラン、ジアルコキシトラン、アルキルアルコキシトラン、アルキルシクロヘキシルトラン、アルキルビシクロヘキサン、シクロヘキシルフェニルエチレン、アルキルシクロヘキシルシクロヘキセン、アルキルベンズアルデヒドアジン、アルケニルベンズアルデヒドアジン、フェニルナフタレン、フェニルテトラヒドロナフタレン、フェニルデカヒドロナフタレン、及びこれらの誘導体、並びにこれらの化合物のアクリレートが挙げられる。
【0036】
次に、コーティング液をワイヤグリッド偏光子2上に塗布する。この際、必要に応じて、ワイヤグリッド偏光子2の表面に配向機能を有する膜を形成しておく。塗布には、スピンコート法、スリットコート法、凸版印刷法、並びにその他の既知の塗布法を適用できる。
【0037】
続いて、成膜されたコーティング液を乾燥し、液晶化合物を含む薄膜を形成した後、露光及び加熱を行う。これによって、薄膜中の成分が重合または架橋することで、液晶化合物が配向状態を保ったまま固定化される。
【0038】
上記のようにして形成された液晶固定化層3は、可視光領域(400nm〜800nm)の広い波長範囲でλ/4板となることが好ましい。このような広帯域のλ/4板を得る方法としては、例えば波長550nmの光に対して1/4波長板として機能する液晶固定化層3と他の位相差特性を示す液晶固定化層3、例えば1/2波長板として機能する位相差層とを重畳する方法などにより得ることができる。従って、液晶固定化層3は1層または2層以上からなるものであってもよい。
【0039】
基板1がカラーフィルタである場合は、各表示色の波長の1/4となるように液晶固定化層3の位相差を領域ごとに制御することもできる。具体的には、緑の波長領域(中心波長550nm前後)では138nm程度であることが好ましく、青の波長領域(中心波長450nm前後)では113nm程度であることが好ましく、赤の波長領域(中心波長630nm前後)では158nm程度であることが好ましい。また、領域ごとの位相差の制御は、例えば上記液晶化合物を含む薄膜への露光量を領域ごとにかえ、その後の加熱工程を経ることによって、露光量の大きな領域では液晶化合物が露光時に配向性を保ったまま固まるために大きな位相差を、露光量の小さな領域では液晶化合物の配向が加熱時に熱によって乱れるために小さな位相差を発現することで可能となる。
【0040】
また、上記のような位相差を得るために必要な液晶固定化層3の膜厚は数μmであり、従来のフィルムを延伸させて作製する位相差フィルム(膜厚は100μm程度)と比べて、膜厚を大幅に薄くできる。
【0041】
また、ワイヤグリッド偏光子2の透過軸と液晶固定化層3の遅相軸または進相軸とのなす角度が45°であることが好ましい。このような構成により、円偏光状態が得られる。また、ワイヤグリッド偏光子2を通過した直線偏光がλ/4板を通過することで円偏光状態が得られる。
【0042】
次に、本発明の実施の形態に係る円偏光板4と対向して固定化される有機EL表示基板9について説明する。有機EL表示基板9は、例えば上面光取り出し型の素子であり、基板8の上に反射電極7を形成しその上に例えばITO(Indium−Tin−Oxide)等の透明導電膜からなる陽極を形成する。陽極の上に有機層を重ねた後、金属の陰極を形成する。ここで、陽極と陰極との間に有機層を有する構造を有機EL層6とする。有機層は多層構造とすることもでき、陽極から供給される正孔と陰極から供給される電子との再結合によって発光する発光層を含んでいる。陰極の厚みは、光を透過可能にするために例えば10nm程度が好ましい。発光した光の取り出しは上部から行われるため、陰極は透過率が高く、且つ電子が効率的に注入できるように、仕事関数の低い金属薄膜が好ましい。例えば、仕事関数の低いアルミニウムとリチウムの合金或いはマグネシウムと銀の合金を10nm程度に薄く成膜する。また、陰極は異なる材料を用いて多層構造とすることもできる。その上にITO等からなる透明導電膜を形成する。透明導電膜の膜厚としては、十分な面内導電性となるように、例えば100nm程度であることが好ましい。透明導電膜の材料としては酸化インジウム、酸化スズ、及び酸化亜鉛を1種類または2種類以上含有する酸化物透明導電膜であることが好ましい。また、透明導電膜の上にはSiN、SiO、等の無機膜からなる膜を形成し、酸素、水分等から素子を保護するようなパッシベーション膜とすることもできる。また、ITO等の透明導電膜にもバリア性があるため、パッシベーション膜として兼用することもできる。
【0043】
次に、上記のようにして得られた円偏光板4と有機EL表示基板9を対向して固定化する方法を説明する。図3(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る基板の接着方法を示す概略図である。図3(a)に示すように、本発明の実施の形態に係る固定化方法の一例としては、封止層16を基板外周部に設け、円偏光板4と有機EL表示基板9を接着するとともに、内部の各構成要素を外部環境の酸素、水分などから保護することができる。封止層16は、熱硬化性型、紫外線効果型等の接着剤から形成され、ガラスビーズ、シリカビーズ等を含む。これらのビーズ類は、円偏光板4と有機EL表示基板9との貼り合わせにおいて、基板間距離を規定する。
【0044】
封止層16内部の基板間距離を均一にたもつために、基板間にガラスビーズ、シリカビーズ等の球状スペーサを分散させてもよい。また、円偏光板4上にフォトリソグラフィ法等によって設けたアクリル樹脂等の柱状スペーサを用いることもできる。
【0045】
また、円偏光板4と有機EL表示基板9の内部空間を充填剤によって充填することもできる。内部空間を充填層とすることで、内部空間界面における反射を抑制し、EL発光を効率よく透過させることができ、有機EL表示装置の強度も向上する。充填層の材料としては、可視光に対して十分な透過性があるものが好ましく、例えばSiN、SiO、のような無機材料、アクリル樹脂、シリコンゲルのような有機材料を含む。
【0046】
充填剤は、円偏光板4と有機EL表示基板9を貼り合わせる前に、円偏光板4あるいは有機EL表示基板9上に塗布または分散させてもよいし、それらが貼り合わされた後に、封止層16に設けた注入口を通して、基板間の間隙に充填されてもよい。
【0047】
また、円偏光板4と有機EL表示基板9を対向して固定化する別の方法としては、図3(b)に示すようにシート状に加工された熱硬化性型、紫外線効果型等の接着剤17を基板上に設け、円偏光板4と有機EL表示基板9を接着することもできる。円偏光板4と有機EL表示基板9を対向して固定化することによって、外光に対しては円偏光板4にて反射光が半減され、EL発光に対してはワイヤグリッド偏光子2に到達したときに半分の光は透過し、もう半分の光は反射され再利用されることにより、発光の利用効率の低下を抑制できる。
【0048】
図4は、本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置に入射する外光を示す概略断面図であり、図5(a)〜(i)は、本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置に入射した外光反射を示す概略図である。上記のように円偏光板4と有機EL表示基板9を対向して固定化することで作製した有機EL表示装置において、図4に示すように、円偏光板4側から有機EL表示装置に入射する外光18は、図5(a)に示すように非偏光状態となっているが、円偏光板4のワイヤグリッド偏光子2を通過する際に図5(b)に示すように直線偏光に変換されることで、光強度がおおよそ半分になる。次に、位相差が光の波長の1/4に制御された液晶固定化層3を透過すると、図5(c)に示すような円偏光状態が得られ、これが反射電極7にて反射される際に図5(d)に示すように円偏光状態が反転され、再び液晶固定化層3を通過した際に、図5(e)に示すように入射時から90°傾いた直線偏光となる。この直線偏光はワイヤグリッド偏光子2によって反射され、図5(f)〜(i)に示すように、先ほどと同様の経路をたどることで入射時と同じ向きの直線偏光となり、ワイヤグリッド偏光子2を通過して外部に放出される。このときの反射光の強度は、入射光のおおよそ半分となる。
【0049】
また、図6は、本発明の実施の形態に係るEL発光の取り出しを示す概略断面図であり、図7(a)〜(f)は、本発明の実施の形態に係るEL発光の取り出しを説明する概略図である。有機EL層6からのEL発光19は、図7(a)に示すように非偏光状態となっているが、円偏光板4のワイヤグリッド偏光子2に到達した際に、図7(c)に示すように金属ワイヤ(ワイヤグリッド偏光子2)に平行に振動する電界ベクトルを持つような偏光成分は反射し、図7(b)に示すように金属ワイヤ(ワイヤグリッド偏光子2)に直交に振動する偏光成分は透過する(図6の19a)。ワイヤグリッド偏光子2にて反射されたEL発光19は、位相差が光の波長の1/4に制御された液晶固定化層3を透過すると、図7(d)に示すような円偏光状態が得られ、これが反射電極7にて反射される際に、図7(e)に示すように円偏光状態が反転され、再び液晶固定化層3を通過した際に、図7(f)に示すように反射時から90°傾いた直線偏光となり、ワイヤグリッド偏光子2を通過して外部に放出される(図6の19b)。
【0050】
上記のように、本発明の実施の形態に係る円偏光板4を用いることで、外光反射率をおおよそ50%に抑制しつつ、EL発光19は減衰することなく取り出すことができる有機EL表示装置となる。
【0051】
また、有機EL表示基板9の反射電極7と円偏光板4のワイヤグリッド偏光子2の反射面の距離を30μm以下とすることで、ワイヤグリッド偏光子2で反射されたEL発光19が再度反射電極7で反射して外部に取り出される第2出射光20bが、隣接画素に入射することで起こりうる、有機EL表示装置を斜め方向から観察したときの視差が抑制できる。ここで、各々の基板の反射面の距離が大きい場合、斜め方向から本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置を観察したときの様子を図8(a)に示す。このような場合、ワイヤグリッド偏光子2で反射され再度反射電極7で反射されて外部に取り出されるEL発光19の第2出射光20bの出射位置が、本来の画素から大幅にずれることで、隣接画素との混色等の問題が発生する。ここで、各々の基板の反射面の距離を30μm以下とすることで、図8(b)に示すように第2出射光20bの出射位置のずれが減少し、有機EL表示装置を斜め方向から観察したときの視差が抑制できる。
【0052】
さらに、有機EL表示基板9の反射電極7と円偏光板4のワイヤグリッド偏光子2の反射面の距離を1μm以上とすることが好ましい。各々の基板の反射面の距離を1μm以上とすることで、第1出射光20aと第2出射光20bが干渉することなく、EL発光19の特性である色度及び輝度変化が抑制される。ここで、各々の基板の反射面の距離が可視光の波長オーダである場合、第2出射光20bとワイヤグリッド偏光子2で反射せずに透過した第1出射光20aとが干渉し、EL発光19の色度及び輝度が変化する。
【0053】
上記のような範囲に、有機EL表示基板9の反射電極7と円偏光板4のワイヤグリッド偏光子2の反射面の距離を実現するためには、間に入る位相差層を従来のフィルムを延伸させて作製する位相差フィルム(膜厚は100μm程度)を用いてでは不可能であるが、本発明の実施の形態に係る液晶固定化層(数μm)3を用いることで可能となる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【0055】
まず、図1(a)に示すように、円偏光板4を製造した。本実施例の円偏光板4に用いられるワイヤグリッド偏光子2は、まず、洗浄したガラス基板1上に、クロム酸化物と厚さ0.15μmのアルミニウム膜を成膜する。続いて、ポジ型のフォトレジストをアルミニウム膜上にスピン成膜する。次いで、2光束干渉露光にて露光を行い、現像を行うことでポジ型のフォトレジストのパターン露光部は除去され、アルミニウム膜が露出する。続いて、エッチング液より露出部を除去し、最後に残余のレジストも除去することで、ガラス基板1上に金属ワイヤを形成することができた。このとき、作製したワイヤグリッド偏光子2の金属ワイヤのピッチは約200μmであり、厚みは約0.15μmであった。
【0056】
次に、配向膜材料である日産化学工業株式会社製「SE−1410」を、乾燥膜厚が0.1μmになるようにワイヤグリッド偏光子2上にスピン成膜した。次いで、ホットプレートを用いた90℃での1分間の加熱により塗膜を乾燥させた。続いて、クリーンオーブンを用いて、塗膜を230℃で40分間焼成した。更に、この塗膜に対し、その主面に平行な一方向にラビング処理を施して、配向膜を得た。
【0057】
次に、水平配向重合性液晶としてBASFジャパン株式会社製「Paliocolor LC 242」、光重合開始剤としてチバ・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社製「イルガキュアー907」、界面活性剤としてビックケミー社製「BYK111」2%シクロヘキサノン溶液、シクロヘキサノンを撹拌してコーティング液を得た。このコーティング液を、スピンコート法を用いて、乾燥膜厚が1.6μmになるように配向膜上に塗布した。次いで、ホットプレートを用いた90℃での2分間の加熱により塗膜を乾燥させた。以上のようにして、配向膜上に液晶材料層を形成した。
【0058】
次に、液晶材料層に紫外線を照射し、クリーンオーブンを用いて液晶材料層を230℃で40分間焼成して、液晶固定化層3を得た。以上のようにして、図1(a)に示す円偏光板4を製造した。
【0059】
次に、図1(a)に示すように、有機EL表示基板9を製造した。本実施例の有機EL表示基板9は、ガラス基板8上にクロムからなる反射電極7、反射電極7上に陽極としてITOを成膜し、陽極上に正孔輸送層としてPEDOT:PSSを、正孔輸送層上に発光層としてMEHPPV(メトキシエチルヘキシロキシポリフェニルビニレン)を積層した。ここで、PEDOT:PSSの膜厚が50nm、MEHPPVの膜厚が80nmとなるようにそれぞれスピン成膜した。さらに、発光層上に電子が効率的に注入できるような仕事関数の低い第1の陰極としてカルシウムを真空蒸着法により4nmの厚さで成膜し、第1の陰極上に第2の陰極としてアルミニウムを2nmの厚さで成膜した。ここで、第2の陰極として用いたアルミニウムはその上に形成される透明電極をスパッタリング法により成膜する際に、第1の陰極であるカルシウムが化学的変質をすることを防ぐ役割がある。以上のようにして、有機EL層6を得た。次に、陰極上にスパッタリング法によって透明導電膜を成膜した。ここで透明導電膜としてはITOを用いた。さらに、透明導電膜上にCVD法によって窒化珪素を200nm成膜することで、パッシベーション膜とした。
【0060】
上記のように製作した円偏光板4と有機EL表示基板9を対向して接着層5を用いて固定化することで、本実施例の有機EL表示装置を製造した。このとき、有機EL表示基板9の反射電極と円偏光板4のワイヤグリッド偏光子2の反射面の距離は約6.0μmであった。
【0061】
本実施例の有機EL表示装置における外光反射率とEL発光透過率を、分光光度計を用いて測定したところ、円偏光板4を用いていない場合の外光反射率とEL発光透過率をそれぞれ100とした場合、外光反射率が26%、EL発光透過率が81%となり、EL発光の損失を極力抑えつつ、外光反射の抑制ができることを確認した。また、斜め方向から観察した場合でも、EL発光領域のぼけ、及び輝度または色度の変化は見られないことから、EL発光の第2出射光のずれや、EL発光の第1出射光と第2出射光の干渉効果が抑制されていることを確認した。
【符号の説明】
【0062】
1…透明基板、2…金属ワイヤ(ワイヤグリッド偏光子)、3…液晶固定化層、4…円偏光板、5…接着層、6R…赤色発光層、6G…緑色発光層、6B…青色発光層、7…反射電極、8…基板、9…有機EL表示基板、10…カラーフィルタ、11R…赤色カラーフィルタ層、11G…緑色カラーフィルタ層、11B…青色カラーフィルタ層、12…ブラックマトリクス、13…カラーフィルタ機能付円偏光板、14…金属ワイヤに平行に振動する偏光、15…金属ワイヤに直交に振動する偏光、16…封止層、17…シート状接着剤、18…外光、19…EL発光、20a…EL発光の第1出射光、20b…EL発光の第2出射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の片面に形成された多数の周期的な直線状の金属ワイヤを有するワイヤグリッド偏光子と、
前記ワイヤグリッド偏光子上に形成された光学異方性を有する液晶固定化層と、
を備えることを特徴とする円偏光板。
【請求項2】
前記金属ワイヤの周期が240nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の円偏光板。
【請求項3】
前記金属ワイヤの前記基板側に反射防止層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の円偏光板。
【請求項4】
前記液晶固定化層は、前記ワイヤグリッド偏光子を通過して直線偏光となった光が円偏光となるようなλ/4板であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の円偏光板。
【請求項5】
前記基板が、カラーフィルタ基板であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の円偏光板。
【請求項6】
第1の基板と、前記第1の基板上に形成された多数の周期的な直線状の金属ワイヤを有するワイヤグリッド偏光子と、前記ワイヤグリッド偏光子上に形成された光学異方性を有する液晶固定化層と、を備える円偏光板と、
第2の基板と、前記第2の基板上に形成された反射電極と、前記反射電極上に形成された発光層を含む有機層と、前記有機層上に形成された光透過性の電極と、を備える有機EL表示基板と、
前記円偏光板と前記有機EL表示基板とを接着層により固定化されることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項7】
前記有機EL表示基板は、前記光透過性の電極から光を取り出すことを特徴とする請求項6に記載の有機EL表示装置。
【請求項8】
前記有機EL表示装置において、前記有機EL表示基板の前記反射電極と前記円偏光板の前記ワイヤグリッド偏光子の反射面の距離が1μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項6または8に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−243769(P2010−243769A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92124(P2009−92124)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】