説明

円環型圧電超音波共振器及びそれを用いた圧電超音波回転モータ

【課題】ダミー部を形成せずに同じ大きさの圧電セラミックの区画を円環型に配置して全ての地点における回転力が同一であり、出力が高い円環型圧電超音波共振器を提供する。
【解決手段】本発明は、円環型であり、印加される交流電界の波長の1/4の長さ毎に区画される圧電セラミックを備え、前記圧電セラミックは2つの区画からなる分極単位毎に交互に反対極性に分極され、前記各区画には正弦波交流電界及びそれと位相差を有する正弦波交流電界が交互に印加される。また、前記圧電セラミックの区画の個数は4の整数倍であり、前記圧電セラミックの各区画に印加される正弦波交流電界は隣接した区画に対して90°の位相差を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は円環型圧電超音波共振器及びそれを用いた圧電超音波回転モータに関するものとであり、更に詳しくは、圧電セラミックスに互いに異なる2相の交流電界を印加することで、円環型圧電超音波共振器に楕円の機械的変位を発生させて回転子を回転させることができる円環型圧電超音波共振器及びそれを用いた圧電超音波回転モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、圧電超音波モータは、低速であるにも拘らず、高いトルクで直接駆動が可能であるほか、速い応答時間を有し、幅広い速度領域で用いられることができ、移動子及び固定子が圧着されて滑ることなく制御が可能であるため、精密位置制御が可能であり、重さに比べて高い出力を出すことができるという長所がある。このような圧電超音波モータは、回転モータ及び線形モータの何れにも用いることができる。回転モータの共振器として、円環型の圧電超音波共振器を用いることができ、これはカメラレンズ駆動用モータ、公衆電話機のカード移送用モータ、自動車の折り畳み式サイドミラーの駆動モータ、自動車の稼動式ヘッドレストの動力源、ロールカーテンの巻き取りモータ、リモコンステレオのボリューム用モータなど多様な分野に用いられている。回転圧電超音波モータの共振器としては、円環型共振器(ring type resonator)が用いられる。
【0003】
以下、図1を参照して従来技術による円環型圧電超音波共振器を説明する。図1は、従来技術による円環型圧電超音波共振器を示す平面図である。図示のように、円環型超音波共振器の圧電セラミックは複数に区画される。大部分の区画10は、印加される電界の1/2波長の長さであり、交互に分極される。複数の区画の1つは第1ダミー部11であり、印加される電界の3/4波長の長さで形成され、分極されない。第1ダミー部11と向かい合う区画である第2ダミー部12は印加される電界の1/4波長の長さで形成され、分極されない。
【0004】
第1ダミー部11及び第2ダミー部12を基準に両側の区画には90°の位相差を有する正弦波の交流電界が印加される。即ち、図1において、第1ダミー部11及び第2ダミー部12の右側の区画1にはA sin wtの交流電界が印加され、左側の区画2にはA cos wtの交流電界が印加される。前記交流電界が印加されると、各区画は振動する。第1ダミー部11及び第2ダミー部12の長さが互いに異なるため、区画の振動が干渉して進行波(traveling wave)が形成される。即ち、全ての区画の長さが同一であれば定在波が形成されるが、第1及び第2ダミー部11、12により進行波が形成される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来技術による円環型圧電超音波共振器は、電界が印加されずに受動的に振動するダミー部があるため、各地点における回転力が均一でないこともあり、ダミー部では出力が0であるため、共振器の全体的な出力が低下してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ダミー部を形成せずに同じ大きさの圧電セラミックの区画を円環型に配置して、全ての地点における回転力が同一であり、出力が高い円環型圧電超音波共振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の第1観点による円環型圧電超音波共振器は、円環型であり、印加される交流電界の波長の1/4の長さ毎に区画される圧電セラミックを備え、前記圧電セラミックは2つの区画からなる分極単位毎に交互に反対極性に分極され、前記各区画には正弦波交流電界及びそれと位相差を有する正弦波交流電界が交互に印加されることを特徴とする。
【0008】
また、円環型圧電超音波共振器は、前記圧電セラミックの区画の個数は4の整数倍であることを特徴とする。
更に、円環型圧電超音波共振器は、前記圧電セラミックの各区画に印加される正弦波交流電界は隣接した区画に対して90°の位相差を有することを特徴とする。
より好ましくは、円環型圧電超音波共振器は、前記圧電セラミックには、前記分極単位の最初の区画には外側に第1電極が形成され、前記分極単位の2番目の区画には内側に第2電極が形成され、前記第1電極及び第2電極は区画に交互に1つずつ接続され、前記第1電極に印加される正弦波交流電界が前記第2電極に印加される正弦波交流電界に比べて90°遅い位相差を有する場合、前記圧電セラミックが時計方向に進行波を生成し、前記第1電極に印加される正弦波交流電界が前記第2電極に印加される正弦波交流電界に比べて90°速い位相差を有する場合、前記圧電セラミックが反時計方向に進行波を生成することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第2観点による圧電超音波回転モータは、円環型であり、印加される交流電界の波長の1/4の長さ毎に4の整数倍の個数に区画される円環型圧電超音波共振器と、前記円環型圧電超音波共振器に接触して該円環型圧電超音波共振器の振動が伝達される固定子と、前記固定子の振動により発生する摩擦力により回転する回転子と、前記回転子の中心に付着されている回転軸と、前記円環型圧電超音波共振器、前記固定子及び前記回転子を収容し、前記回転軸が外部に突出し得るように収容するハウジングとを備え、前記円環型圧電超音波共振器は2つの区画からなる分極単位毎に交互に分極され、前記各区画には正弦波交流電界及びそれと90°の位相差を有する正弦波交流電界が交互に印加されることを特徴とする
【0010】
より好ましくは、圧電超音波回転モータは、前記回転子の下部には固定子と直接摩擦する摩擦リングが結合されていることを特徴とする。
また、圧電超音波回転モータは、前記固定子は、前記共振器と接触するベース部と、前記ベース部から前記回転子側に突出した突起とからなり、前記突起が前記摩擦リングと接触した状態で変形して摩擦リングに摩擦力を提供することを特徴とする。
更に、圧電超音波回転モータは、前記回転子を固定子側に加圧する板バネを更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧電セラミックにダミー部を形成せずに同じ長さに区画して、各区画を2つの区画からなる分極単位毎に交互に分極させ、各区画に90°の位相差を有する正弦波交流電界を交互に印加することで、全ての地点におけるエネルギーが均一であり、共振器の出力が高くなるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図2(a),(b)、図3、図4(a)〜(d)、図5(a)〜(d)、図6を参照して本発明による円環型圧電超音波共振器の一実施形態を説明する。
図2(a),(b)はそれぞれ、本発明の一実施形態による円環型圧電超音波共振器を示す平面図および断面図である。本発明による円環型圧電超音波共振器(以下、共振器ともいう)101は、図示のように、固定子102と圧着され、共振器101の振動が固定子102にそのまま伝達される。共振器101の進行波は固定子102にも進行波を形成し、このような波動は摩擦力に変換されて回転子(図示せず)を回転させる。円環型圧電超音波共振器101は、印加される電界の1/4波長の長さ毎に区画された圧電セラミックを含み、区画110は2つずつ交互に分極される。圧電超音波共振器101の周囲長さは波長の整数倍であり、従って、圧電セラミックの円周長さは印加される電界の波長の整数倍である。区画110の外側には第1電極120が備えられて正弦波交流電界が印加され、隣接した区画110には内側に第2電極130が備えられて第1電極で印加される電界に対して90°遅い位相差を有する正弦波の交流電界が印加される。本実施形態において、2つの区画110が交互に分極される。図2(a),(b)において、(+)又は(−)はセラミックの垂直方向に分極された形態を示す。2つの隣接した区画が同じ方向に分極されると、その次の2つの隣接した区画はそれらと反対方向に分極される。一方、区画110の内側でA sin wtの交流電界が印加され、隣接した区画110には外側でA cos wtの交流電界が印加されるが、このような電界は各区画に交互に印加される。即ち、1つの区画に正弦波交流電流が印加されると、隣接した区画には90°速い位相差又は90°遅い位相差を有する交流電流が印加される。結果的に、(−)分極とsin波動、(+)分極とcos波動、(+)分極とsin波動、(−)分極とcos波動が連続的に対応する。
【0013】
図3は、図2(a),(b)の円環型圧電超音波共振器に電界を印加した場合の振動変位を示すグラフである。図2(a),(b)のような分極と電界の連続的な配置により形成される変位は、下記式で表現することができる。
ξ(x、t) = Aejwtcoskx (式1)
ξ(x、t) = Aejwt+π/2cosk(x+λ/4) (式2)
ξ(x、t) = Aejwt+πcosk(x+λ/2) (式3)
ξ(x、t) = Aejwt+3π/2cosk(x+3λ/4) (式4)
ここで、Aは振幅、tは時間、wは角周波数、k(=w/c)は波数(wave number)、cは波動の進行速度であり、λは波長を示す。
【0014】
図3は、このような変位を示すものである。図示のように、時間(t)によって各区画における変位が変わって振動する。最大振幅の位置を詳察すると、前記のような円環型圧電超音波共振器の振動はS方向に進む進行波であることが確認できる。
通常、圧電セラミック共振器は金属などからなる弾性体基板の表面にセラミック圧電物質が積層されて形成されるが、このような構造は公知となっているので、詳細な説明は省略する。
【0015】
以下、図4(a)〜(d)及び図5(a)〜(d)を参照して本発明による円環型圧電超音波共振器の動作及び作用、効果を説明する。
図4(a)〜(d)は、図2(a),(b)の円環型圧電超音波共振器の変形を時間によって示す斜視図であり、図5(a)〜(d)は、図2(a),(b)の円環型圧電超音波共振器の第1電極に印加される正弦波交流電界が第2電極に印加される正弦波交流電極より90°速い位相差を有する場合の円環型圧電共振器の変形を時間によって示す斜視図である。
電界が印加されると、円環型圧電超音波共振器が変形する。印加される電界が一定周期の正弦波の形態であるため、変形も一定周期を有する振動変形である。前述したように、振動は進行波である。
【0016】
図4(a)〜(d)は、圧電セラミックの区画のうち、同じ分極を有する2つの区画からなる分極単位の最初の区画にA cos wtの交流電界が印加され、2番目の区画にA sin wtの交流電界が印加される場合を示している。このような場合、時計方向に波動が伝達される。
図5(a)〜(d)は、逆に、分極単位の最初の区画にA sin wtの交流電界が印加され、2番目の区画にA cos wtの交流電界が印加される場合を示している。このような場合、反時計方向に波動が伝達される。即ち、電界の調節により回転方向を変化させることができ、効果的に回転方向を制御できる。
円環型圧電超音波共振器の区画は何れも同じ間隔を有するため、製造が容易である。また、ダミー部がないため、全ての区画が振動して出力が大きく増加するという長所がある。
【0017】
以下、図6、図7A、図7Bを参照して本発明による圧電超音波共振器が適用されている圧電超音波回転モータを説明する。
図6は、本発明による円環型圧電超音波共振器を用いた圧電超音波回転モータを示す断面図であり、図7A及び図7Bは、本発明による円環型圧電超音波共振器を用いて回転子を回転させる過程を示す断面図である。
図6、図7A、図7Bに示すように、モータの回転モジュールは、円環型圧電超音波共振器101と、これに接触する固定子102と、円板型の回転子104と、回転子104に回転力を提供するために、回転子104に結合され、固定子102と接触して摩擦力の提供を受ける摩擦リング103と、回転子104を固定子102側に加圧する板バネ105と、回転軸106とを備える。固定子102は、円環型圧電超音波共振器101と接触するベース部102aと、ベース部102aから回転子104側に突出した突起102bとからなり、突起102bが摩擦リング103と接触した状態で変形して摩擦リング103に摩擦力を提供する。
【0018】
この回転モジュールは、モータのハウジング107内に収容され、回転軸106はハウジング107に備えられたベアリング108により回転可能に支持される。円環型圧電超音波共振器101は、電線109で電界の供給を受け、これはハウジング107に結合される。電界の供給はプリント基板(PCB;Printed Circuit Board)を用いて行うこともできる。
図7A及び図7Bに示すように、突起102bは進行する波動に応じて円板形状の回転子104に摩擦力を提供する。回転子104は、板バネ105により荷重Pで加圧されて圧迫される。図7Aは初期状態を示すものであり、図7Bは円環型圧電超音波共振器の変形によって固定子102が変形し、それによって回転子104が移動することを示すものである。固定子は回転せずに、振動により変形して進行波を生成する。固定子102の変形によって突起102bが上側部へ移動すれば、回転子104は一定圧力Pで圧迫されるため、突起102bが回転方向に変形し、摩擦リング103に回転方向に摩擦力を提供する。
摩擦リング103と、これに結合されている回転子104は突起102bの変形により押されて回転方向に変位が生じる。従って、回転子104が回転する。このような回転モータは従来技術による回転モータに比べて出力が高いほか、トルクが強く、精密に制御され得る。
【0019】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明に係る技術的思想の範囲から逸脱しない範囲内で様々な変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来技術による円環型圧電超音波共振器を示す平面図である。
【図2】(a),(b)はそれぞれ、本発明の一実施形態による円環型圧電超音波共振器を示す平面図および断面図である。
【図3】図2の円環型圧電超音波共振器に電界を印加した場合の振動変位を示すグラフである。
【図4】(a)〜(d)は図2(a),(b)の円環型圧電超音波共振器の変形を時間によって示す斜視図である。
【図5】(a)〜(d)は図2(a),(b)の円環型圧電超音波共振器に印加される電界を逆にして印加した場合の円環型圧電共振器の変形を時間によって示す斜視図である。
【図6】本発明による円環型圧電超音波共振器を用いた圧電超音波回転モータを示す断面図である。
【図7A】本発明による円環型圧電超音波共振器を用いて回転子を回転させる過程を示す断面図である。
【図7B】本発明による円環型圧電超音波共振器を用いて回転子を回転させる過程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0021】
101 円環型圧電超音波共振器
102 固定子
103 摩擦リング
104 回転子
105 板バネ
106 回転軸
107 ハウジング
108 ベアリング
109 電線
110 区画
120 第1電極
130 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環型であり、印加される交流電界の波長の1/4の長さ毎に区画される圧電セラミックを備え、
前記圧電セラミックは2つの区画からなる分極単位毎に交互に反対極性に分極され、
前記各区画には正弦波交流電界及びそれと位相差を有する正弦波交流電界が交互に印加されることを特徴とする円環型圧電超音波共振器。
【請求項2】
前記圧電セラミックの区画の個数は4の整数倍であることを特徴とする請求項1に記載の円環型圧電超音波共振器。
【請求項3】
前記圧電セラミックの各区画に印加される正弦波交流電界は隣接した区画に対して90°の位相差を有することを特徴とする請求項1に記載の円環型圧電超音波共振器。
【請求項4】
前記圧電セラミックには、前記分極単位の最初の区画には外側に第1電極が形成され、前記分極単位の2番目の区画には内側に第2電極が形成され、前記第1電極及び第2電極は区画に交互に1つずつ接続され、
前記第1電極に印加される正弦波交流電界が前記第2電極に印加される正弦波交流電界に比べて90°遅い位相差を有する場合、前記圧電セラミックが時計方向に進行波を生成し、前記第1電極に印加される正弦波交流電界が前記第2電極に印加される正弦波交流電界に比べて90°速い位相差を有する場合、前記圧電セラミックが反時計方向に進行波を生成することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の円環型圧電超音波共振器。
【請求項5】
円環型であり、印加される交流電界の波長の1/4の長さ毎に4の整数倍の個数に区画される円環型圧電超音波共振器と、
前記円環型圧電超音波共振器に接触して該円環型圧電超音波共振器の振動が伝達される固定子と、
前記固定子の振動により発生する摩擦力により回転する回転子と、
前記回転子の中心に付着されている回転軸と、
前記円環型圧電超音波共振器、前記固定子及び前記回転子を収容し、前記回転軸が外部に突出し得るように収容するハウジングとを備え、
前記円環型圧電超音波共振器は2つの区画からなる分極単位毎に交互に分極され、
前記各区画には正弦波交流電界及びそれと90°の位相差を有する正弦波交流電界が交互に印加されることを特徴とする圧電超音波回転モータ。
【請求項6】
前記回転子の下部には固定子と直接摩擦する摩擦リングが結合されていることを特徴とする請求項5に記載の圧電超音波回転モータ。
【請求項7】
前記固定子は、前記円環型圧電超音波共振器と接触するベース部と、前記ベース部から前記回転子側に突出した突起とからなり、
前記突起が前記摩擦リングと接触した状態で変形して摩擦リングに摩擦力を提供することを特徴とする請求項6に記載の圧電超音波回転モータ。
【請求項8】
前記回転子を固定子側に加圧する板バネを更に備えることを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載の圧電超音波回転モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2009−131145(P2009−131145A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291086(P2008−291086)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(595001181)コリア インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (25)
【Fターム(参考)】