説明

円筒体と波形放熱板との溶接方法及び装置

【課題】円筒体と波形放熱板との突き合わせ部の溶接を、円筒体と放熱板の山部との突き合わせ部で溶接金属の余盛量を不足させることなく良好に行うことができる溶接方法を提供する。
【解決手段】円筒体2A,2Bと波形放熱板1の山部mとの突き合わせ部を増入熱区間αとして、この増入熱区間を溶接する際に溶接トーチ6A,6Bを被溶接物4の回転方向に変位させることにより溶接トーチと被溶接物との間の相対移動速度を遅くして増入熱区間αでの溶接金属の余盛量を確保し、上記増入熱区間以外の区間を減熱区間βとして、この減熱区間では、溶接トーチを被溶接物の回転方向と逆方向に変位させることにより溶接トーチと被溶接物との間の相対移動速度を速くして、溶接入熱が過多になるのを防ぎ、波形放熱板の山部と円筒体との突き合わせ部の溶接を良好に行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器等の電気機器のタンクを構成するために円筒体の外周に波形放熱板を溶接する溶接方法及びこの溶接方法を実施するために用いる溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変圧器等の電気機器を収容するタンクとして、例えば特許文献1に示されているように、中心軸線を一致させた状態で配置された一対の円筒体と、該一対の円筒体の隣り合う端部に巻き付けられた状態で両円筒体に溶接された波形放熱板とにより胴部を構成して、波形放熱板の各山部の内側に冷却媒体通路を形成するようにした波形タンクが用いられている。
【0003】
この種のタンクを製造する際には、山部と谷部とが交互に並ぶように帯状鋼板を波付け成形して波形放熱板を製造する工程と、中心軸線を一致させて水平方向に並べて配置された一対の円筒体の互いに対向する端部外周に波形放熱板を巻き付けて、一対の円筒体とこれらの外周に巻き付けられた波形放熱板とにより被溶接物を構成する工程と、この被溶接物の各円筒体と波形放熱板との突き合わせ部に形成された円周継手部を溶接する工程とを行う。
【0004】
この種の溶接を行う溶接装置は、少なくとも、被溶接物を円筒体の部分で保持する被溶接物回転装置と、溶接トーチとを備えていて、被溶接物回転装置に円筒体を保持させた状態で該円筒体に波形放熱板を巻き付けて被溶接物を構成する工程を行った後、被溶接物の一対の円筒体と波形放熱板との各突き合わせ部に形成された円周継手部を溶接トーチにより溶接する。
【0005】
一対の円筒体に波形放熱板を溶接する際には、各円筒体と波形放熱板との円周継手部に溶接トーチを指向させて、円筒体と波形放熱板とを中心軸線の回りに回転させながら継手部を円周溶接する。この場合、円筒体と波形放熱板とを回転させながら溶接を行うと、継手部には円周方向に沿って一様な溶接ビードが形成される。
【0006】
しかしながら、円周継手部に形成される溶接ビードが一様であると、円周継手部の各部のうち、波形放熱板の山部の直下及びその両側の裾部と円筒体との突き合わせ部(以下単に円筒体と放熱板の山部との突き合わせ部という。)では溶融金属の余盛が不足する傾向になり、その箇所で気密漏れ及び液密漏れが生じるおそれがある。波形放熱板の山部と円筒体との突き合わせ部で溶融金属の余盛が不足する状態が生じないようにするために、被溶接物の周速度を低下させたり、溶接電流を増加させたりして溶接入熱を増大させることが考えられるが、これらの方法により溶接入熱を増大させると、円筒体と放熱板の谷部との突き合わせ部で溶接入熱が過多になって金属の溶け落ちが発生し、溶接不良が発生するおそれがある。そのため、円筒体と波形放熱板の山部との突き合わせ部及び円筒体と放熱板の谷部との突き合わせ部との双方で満足がいく溶接金属の余盛量を得ることが難しかった。
【0007】
上記のような問題を解決するために、特許文献2や特許文献3に示されているように、溶接継手部の形状や溶接状態を検出するセンサを設けて、検出された継手部の形状や溶接状態に応じて溶接速度や溶接電流を制御する方法を採用することが行われている。例えば、波形放熱板の山部を検出するセンサを設けて、センサが山部を検出する毎に被溶接物の周速度を低下させることにより、円筒体と放熱板の山部との継手部で溶接金属の余盛量を増大させる方法が行われている。また溶接金属の余盛量を確保するために、溶接トーチにウィービング動作を行わせる方向も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平4−44117号公報
【特許文献2】特開平9−99368号公報
【特許文献3】特開平10−216940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
円筒体と波形放熱板の山部との溶接部で余盛が不足するのを防ぐために、波形放熱板の山部を検出するセンサを設けて、センサが山部を検出する毎に被溶接物の周速度を低下させることにより、円筒体と放熱板の山部との継手部で溶接金属の余盛量を増大させる方法をとった場合、被溶接物の慣性により、溶接箇所の周速を高い応答速度で変化させることができないため、溶接金属の余盛量を増やしたい箇所に適切に溶接ビードを形成することが難しいという問題があった。
【0010】
左右に配置された一対の円筒体に跨って波形放熱板を溶接する場合、各円筒体と放熱板との円周継手部の溶接を別々に行うと、後から溶接を行う円周継手部が、先に行われた溶接による熱歪みの影響を受けやすいため、左右の円筒体と波形放熱板との継手部の溶接は同時に行うことが望ましい。この場合、左右の継手部側で波形放熱板の山部が検出されるタイミングが一致している必要があるが、実際には、波形放熱板の成形時に生じるねじれ等の影響により、左右の継手部で山部が検出されるタイミングがずれることがある。左右の継手部で山部が検出されるタイミングがずれる場合には、左右の継手部のそれぞれに対して溶接速度を調節しないと、円筒体と放熱板の各山部との突き合わせ部で溶接金属の余盛量を十分に増やすことができない。ところが、被溶接物の周速度を制御することにより溶接速度を制御する方法によった場合には、左右の被溶接部の溶接速度を個別に調整することができないため、円筒体と波形放熱板の各山部との突き合わせ部で溶接金属の余盛量が不足する状態が生じるのを防ぐことができず、気密漏れ及び液密漏れを起こす箇所が生じるおそれをなくすことができなかった。
【0011】
円筒体と波形放熱板の山部との突き合わせ部で溶接金属の余盛量を確保するために、溶接トーチをウィービングさせる方法をとった場合には、円筒体と波形放熱板の山部との突き合わせ部の溶接を行う際にのみトーチをウィービングさせるようにするために、ティーチングプレイバック方式の溶接ロボットをはじめとする高価な機器を必要とするため、タンクの製造コストが高くなるのを避けられない。円周継手部の全周に亘って溶接トーチのウィービングを行わせた場合には、円筒体と放熱板の谷部との溶接部で入熱が過多になって金属の溶け落ちが生じるだけでなく、溶接ワイヤやシールドガスの消費量が多くなって、製造コストが高くなるという問題が生じる。
【0012】
円筒体と波形放熱板の山部との突き合わせ部で溶接金属の余盛量を確保するための制御を行うに際しては、波形放熱板の山部を高精度で検出するセンサを設ける必要がある。被溶接物の山部を高精度で検出するためには、センサとして、レーザセンサ等の光学式の非接触式センサを用いることが好ましい。溶接トーチと被溶接物との間にアークが発生していない状態では、レーザセンサ等の光学式のセンサを用いることにより被溶接物の各山部を高精度で検出することができる。しかしながら、溶接中は、強烈なアーク光の影響を受けるため、光学式のセンサによって被溶接物の各山部を精確に検出することは困難である。
【0013】
本発明の目的は、円筒体と波形放熱板の谷部との突き合わせ部で溶接入熱が過多になる状態を生じさせることなく、円筒体と波形放熱板の各山部との突き合わせ部で十分な溶接金属の余盛量を確保することができるようにした円筒体と波形放熱板との溶接方法及びこの溶接方法を実施するために用いる溶接装置を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、軸線方向に並べて配置された一対の円筒体と、両円筒体に跨って配置されて両円筒体に巻き付けられた波形放熱板とを溶接する場合に、両円筒体と波形放熱板との溶接を同時に行って、しかも各円筒体と波形放熱板の谷部との突き合わせ部で溶接入熱が過多になる状態を生じさせることなく、各円筒体と波形放熱板の各山部との突き合わせ部で十分な溶接金属の余盛量を確保することができるようにした円筒体と波形放熱板との溶接方法及びこの溶接方法を実施するために用いる溶接装置を提供することにある。
【0015】
本発明の更に他の目的は、被溶接物の山部を検出するセンサとしてレーザセンサ等の光学式センサを用いても、円筒体と波形放熱板の谷部との突き合わせ部で溶接入熱が過多になる状態を生じさせることなく、円筒体と波形放熱板の各山部との突き合わせ部で十分な溶接金属の余盛量を確保するための制御を行うことができる円筒体と波形放熱板との溶接方法及びこの溶接方法を実施するために用いる溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願においては、上記の目的を達成するため、少なくとも以下に示す第1ないし第10の発明が開示される。
第1の発明
本願に開示された第1の発明は、山部と谷部とが交互に並ぶように波付け成形された波形放熱板を円筒体の端部外周に巻き付けて構成した被溶接物を円筒体の中心軸線の回りに回転させ、円筒体と波形放熱板との突き合わせ部に形成された円周継手部に沿う溶接線に倣うように制御される溶接トーチにより、円周継手部を溶接する円筒体と波形放熱板との溶接方法に適用される。
【0017】
本発明においては、溶接トーチを、溶接線に倣う動作を行いつつ被溶接物の回転方向と同じ方向である第1の方向と、被溶接物の回転方向とは反対の方向である第2の方向とに変位させ得るようにしておき、円周継手部の各部のうち波形放熱板の各山部と円筒体との突き合わせ部を含む区間であって溶接金属の余盛量を他の区間よりも厚くする必要がある一定の区間及び該一定の区間を除く他の区間をそれぞれ増入熱区間及び減入熱区間として設定する。本発明においてはまた、溶接トーチが各増入熱区間の溶接を開始するタイミングで各増入熱区間に存在する波形放熱板の山部を検出するように配置されたセンサと、被溶接物の回転角を検出する回転検出手段とを設けておく。
【0018】
本発明に係わる溶接方法では、溶接トーチが被溶接物の溶接開始点に指向した状態にあるときの被溶接物の回転角度位置を被溶接物の溶接開始時位置として、溶接開始前に(溶接アークが発生していない状態で)、被溶接物を溶接開始時位置から溶接時の回転方向と同方向に回転させて、センサが最初に被溶接物の山部を検出した時に回転検出手段が検出している被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を先頭山部検出時回転角として記憶する山部検出過程を行い、溶接を開始するまでの間に被溶接物の回転角度位置を溶接開始時の位置に戻す。そして、山部検出過程で検出された先頭山部検出時回転角と、既知である被溶接物の山部間のピッチとを用いて、溶接トーチが各増入熱区間の溶接を開始するタイミングで回転検出手段が検出すべき被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を溶接時検出目標回転角として演算により求める。この溶接時検出目標回転角の演算は、溶接開始前に行ってもよく、溶接を行う過程で逐次行ってもよい。
溶接の過程では、回転検出手段により検出される被溶接物の溶接開始時位置からの回転角が演算された溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを基にして増入熱区間と減入熱区間とを検出する。増入熱区間を溶接する際には、溶接トーチを第1の方向に第1の設定速度で変位させることにより溶接トーチの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも遅くし、減入熱区間を溶接する際には、溶接トーチを第2の方向に第2の設定速度で変位させることにより、溶接トーチの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも速くする。
【0019】
上記の溶接方法によると、溶接トーチを往復変位させる制御を行うだけで、波形放熱板の各山部と円筒体との突き合わせ部で溶接入熱を増大させて溶接金属の余盛量を増大させることができ、また波形放熱板の各谷部と円筒体との突き合わせ部では溶接入力を減少させて溶接入熱が過多になるのを防ぐことができるため、波形放熱板の山部と円筒体との溶接部で気密漏れが生じたり、波形放熱板の谷部と円筒体との突き合わせ部で金属の溶け落ちが生じて溶接不良が生じるのを防ぐことができる。
【0020】
円筒体に巻き付ける前の波形放熱板は、図11(A)に示すように長方形状の輪郭形状を有するのが正常であるが、実際には、波付け加工の際に生じる歪みによって、図11(B)に示すように、波形放熱板の輪郭が扇形に近い形に変形することがある。このように波形放熱板の輪郭形状が変形している場合でも、その山部間のピッチは一定であると見なすことができるため、山部間のピッチを既知として、上記のように、山部検出過程で検出された先頭山部検出時回転角と被溶接物の山部間のピッチとを用いて、溶接トーチが各増入熱区間の溶接を開始するタイミングで回転検出手段が検出すべき溶接時検出目標回転角を演算しても支障を来さない。
【0021】
また上記のように構成すると、山部検出過程では、溶接開始時位置から最初に山部が検出される位置までの被溶接物の回転角を先頭山部検出時回転角として検出すればよいため、山部検出過程を短時間で行うことができる。溶接を行う際には、センサを用いることなく、演算された溶接時検出目標回転角を検出することにより、各増入熱区間の溶接を開始するタイミングを検出するため、センサとして、アーク光の影響を受けるレーザセンサ等の光学式の近接センサを用いることができる。また山部検出過程で2番目以降の山部を検出する必要がなく、溶接中も山部を検出する必要がないため、センサとしては、山部に直接接触して検出動作を行うリミットスイッチを用いることもできる。
【0022】
第2の発明
第2の発明は第1の発明に適用されるもので、本発明においては、溶接の過程で、回転検出手段により検出される被溶接物の溶接開始時位置からの回転角が演算された各溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを各増入熱区間の溶接を開始するタイミングとし、各増入熱区間の溶接を開始した後前記被溶接物の回転角が設定値に達した時のタイミングを各増入熱区間に続く減入熱区間の溶接を開始するタイミングとする。
【0023】
上記のように構成すると、増入熱区間を回転検手段により検出される回転角から検出することができるため、増入区間及び減入熱区間を精確に検出して、各増入熱区間及び減入熱区間の溶接を的確に行わせることができる。
【0024】
第3の発明
第3の発明は、第1の発明に適用されるもので、本発明においては、溶接の過程で、回転検出手段により検出される被溶接物の溶接開始時位置からの回転角が前記山部検出過程で検出された各溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを各増入熱区間の溶接を開始するタイミングとし、各増入熱区間の溶接を開始した後設定された時間が経過した時のタイミングを各増入熱区間に続く減入熱区間の溶接を開始するタイミングとする。
【0025】
被溶接物の回転速度を一定に制御しておけば、増入熱区間の長さを時間により精確に管理することができるため、上記のように、各増入熱区間の溶接を開始した後設定された時間が経過した時のタイミングを減入熱区間を開始するタイミングとしても支障を来さない。
【0026】
第4の発明
第4の発明は、第1の発明に適用される。通常被溶接物は、円筒体を2つ有して該2つの円筒体が中心軸線を一致させた状態で並べて配置され、波形放熱板は、2つの円筒体に跨がって配置されて両円筒体の隣り合う端部の外周に巻き付けられる。この場合、波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部及び前記波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部にそれぞれ円周継手部が形成される。
【0027】
このような被溶接物を溶接する場合には、各円周継手部に対して溶接トーチとセンサとを設け、山部検出過程を、波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部側と波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部側との双方で同時に行う。溶接を行う過程では、波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部側及び波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部側についてそれぞれ求められた溶接時検出目標回転角を用いてそれぞれの増入熱区間と減入熱区間とを検出して、両継手部の溶接を同時に行う。
【0028】
上記の方法によれば、第1の円筒体と波形放熱板との突き合わせ部及び第2の円筒体と波形放熱板との突き合わせ部にそれぞれ形成された第1及び第2の円周継手部を同時に溶接することができるため、各円周継手部を溶接した際に生じる熱歪みが他の円周継手部に悪影響を及ぼすおそれをなくして良好な溶接結果を得ることができる。
【0029】
第5の発明
第5の発明は、山部と谷部とが交互に並ぶように波付け成形された波形放熱板を円筒体の端部外周に巻き付けて構成した被溶接物を保持して該被溶接物を円筒体の中心軸線の回りに一定の速度で回転させる被溶接物回転装置と、溶接トーチと、円筒体と波形放熱板との突き合わせ部に形成された円周継手部に沿う溶接線を検知して溶接トーチを該溶接線に倣わせる倣い装置とを備えて、被溶接物を回転させながら溶接トーチにより円周継手部を溶接する円筒体と波形放熱板との溶接装置を対象とする。
【0030】
本発明に係わる溶接装置においては、下記の要素が設けられる。
(a)溶接トーチを保持して、溶接線の接線方向に沿って被溶接物の回転方向の前方側に向う方向である前進方向と被溶接物の回転方向の後方側に向う方向である後退方向とにスライド変位するスライダ。
(b)スライダを前進方向及び後退方向に駆動するスライダ駆動機構。
(c)円周継手部の各部のうち波形放熱板の各山部と円筒体との突き合わせ部を含む区間であって溶接金属の余盛量を他の区間よりも厚くする必要がある一定の区間及び該一定の区間を除く他の区間をそれぞれ増入熱区間及び減入熱区間として、溶接トーチが増入熱区間の溶接を開始するタイミングで該増入熱区間に存在する波形放熱板の山部を検出するセンサ。
(d)被溶接物の回転角を検出する回転検出手段。
(e)溶接トーチが被溶接物の溶接開始点に指向した状態にあるときの被溶接物の回転角度位置を被溶接物の溶接開始時位置として、溶接が開始される前の状態で、被溶接物を溶接開始時位置から溶接時の回転方向と同方向に回転させて、センサが最初に被溶接物の山部を検出した時に回転検出手段が検出している被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を先頭山部検出時回転角として記憶する山部検出過程を行う山部検出手段。
(f)山部検出手段が検出した先頭山部検出時回転角と被溶接物の山部間のピッチとを用いて、溶接トーチが各増入熱区間の溶接を開始するタイミングで回転検出手段が検出すべき被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を溶接時検出目標回転角として演算する溶接時検出目標回転角演算手段。
(g)回転検出手段により検出される被溶接物の溶接開始時位置からの回転角が演算された溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを基にして各増入熱区間と減入熱区間とを検出して、溶接トーチが増入熱区間を溶接する際には、溶接トーチを第1の方向に第1の設定速度で変位させることにより溶接トーチの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも遅くし、溶接トーチが減入熱区間を溶接する際には、溶接トーチを第2の方向に第2の設定速度で変位させることにより、溶接トーチの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも速くするようにスライダ駆動機構を制御するスライダ駆動制御装置。
【0031】
第6の発明
第6の発明は、第5の発明に適用されるもので、本発明においては、被溶接物が円筒体を2つ有して該2つの円筒体が中心軸線を一致させた状態で並べて配置され、波形放熱板は、2つの円筒体に跨がって配置されて両円筒体の隣り合う端部の外周に巻き付けられている。本発明においては、波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部及び波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部のそれぞれに円周継手部が形成されて、各円周継手部に対して溶接トーチとセンサとが設けられ、山部検出手段は、波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部側と波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部側との双方で同時に山部検出過程を行うように構成される。溶接時検出目標回転角演算手段は、山部検出手段が各突き合わせ部側で検出した先頭山部検出時回転角を用いて、各突き合わせ部を溶接する溶接トーチが各増入熱区間の溶接を開始するタイミングで前記回転検出手段が検出しているべき被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を各突き合わせ部の溶接時検出目標回転角として演算するように構成され、スライダ駆動制御装置は、波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部を溶接する溶接トーチを保持したスライダを駆動するスライダ駆動機構及び波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部を溶接する溶接トーチを保持したスライダを駆動するスライダ駆動機構を、溶接時検出目標回転角演算手段によりそれぞれの突き合わせ部に対して演算された溶接時検出目標回転角を用いて制御するように構成される。
【0032】
第7の発明
第7の発明は、第5または第6の発明に適用されるもので、本発明においては、スライダ駆動制御装置が、回転検出手段により検出される被溶接物の溶接開始時位置からの回転角が演算された各溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを各増入熱区間の溶接を開始するタイミングとし、各増入熱区間の溶接を開始した後被溶接物の回転角が設定値に達した時のタイミングを各増入熱区間に続く減入熱区間の溶接を開始するタイミングとするように構成される。
【0033】
第8の発明
第8の発明も第5または第6の発明に適用されるもので、本発明においては、スライダ駆動制御装置が、回転検出手段により検出される被溶接物の溶接開始時位置からの回転角が山部検出過程で検出された各溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを各増入熱区間の溶接を開始するタイミングとし、各増入熱区間の溶接を開始した後設定された時間が経過した時のタイミングを各増入熱区間に続く減入熱区間の溶接を開始するタイミングとするように構成される。
【0034】
第9の発明
第9の発明は、第5ないし第8の発明のいずれかに適用されるもので、本発明においては、センサが、被溶接物に向けて照射したレーザビームを用いて山部を検出するレーザセンサからなっている。本発明においては、アークが発生していない状態で被溶接物の山部を検出するため、センサとして高精度のレーザセンサーを用いることができる。
【0035】
第10の発明
第10の発明は、第5ないし第8の発明のいずれかに適用されるもので、本発明においては、センサが、被溶接物の山部に接触することにより検出動作を行うリミットスイッチからなっている。本発明では、山部検出過程で2番目以降の山部を検出する必要がなく、また溶接中も山部を検出する必要がないため、センサとしては、山部に直接接触して検出動作を行う安価なリミットスイッチを用いることができる。
【0036】
上記の各発明において、第1の設定速度と第2の設定速度とは等しく設定されていてもよく、異なる値に設定されていてもよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、溶接トーチを往復変位させる制御を行うだけで、波形放熱板の各山部と円筒体との突き合わせ部では溶接入熱を増大させて溶接金属の余盛量を増大させることができ、また波形放熱板の各谷部と円筒体との突き合わせ部では溶接入力を減少させて溶接入熱が過多になるのを防ぐことができるため、溶接装置の構成を複雑にすることなく、波形放熱板の山部と円筒体との溶接部で気密漏れが生じたり、波形放熱板の谷部と円筒体との突き合わせ部で金属の溶け落ちが生じて溶接不良が生じるのを防ぐことができる。
【0038】
本発明においてはまた、波形放熱板の山部を利用して、各増入熱区間を検出することができるため、増入熱区間で溶接トーチの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも遅くし、減入熱区間で溶接トーチの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも速くする制御を容易に行うことができる。
【0039】
また本発明によれば、溶接を行う際に、センサを用いることなく、演算された溶接時検出目標回転角を検出することにより、各増入熱区間の溶接を開始するタイミングを検出するため、センサとして、アーク光の影響を受けるレーザセンサ等の光学式の近接センサを用いることができる。
【0040】
第4の発明または第6の発明によれば、被溶接物が中心軸線が一致した2つの円筒体を有して、両円筒体の隣り合う端部に波形放熱板が巻き付けられている場合に、波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部及び波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部を同時に溶接することができるため、各突き合わせ部を溶接した際に生じる熱歪みが他の突き合わせ部に悪影響を及ぼすおそれをなくして良好な溶接結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係わる溶接装置により溶接される被溶接物を製造する方法を説明する説明図である。
【図2】(A)及び(B)はそれぞれ、本発明に係わる溶接装置により溶接される被溶接物の側面図及び正面図である。
【図3】(A)及び(B)はそれぞれ、本発明の一実施形態において、溶接開始前にセンサにより山部を検出して、溶接時に増入熱区間の溶接を開始するタイミングを検出するために用いるデータを取得する際の被溶接物と溶接トーチ及びセンサとの位置関係を示した側面図及び正面図である。
【図4】(A)及び(B)はそれぞれ、本発明の一実施形態において、センサを被溶接物の山部を検出する際の位置から上方に退避させ、溶接トーチを溶接時の位置から上方に退避させた状態を示した側面図及び正面図である。
【図5】本発明の一実施形態において、リミットスイッチからなるセンサが山部を検出している状態を示した側面図である。
【図6】(A)は本発明の一実施形態で溶接トーチを支持するために用いる可動フレームの側面図、(B)は同可動フレームの正面図である。
【図7】(A)は本発明の一実施形態で溶接トーチを支持するために用いるスライダの上面図、(B)は同スライダの正面図である。
【図8】同スライダに溶接トーチを支持した状態を示した側面図である。
【図9】(A)は本発明の一実施形態において、増入熱区間の溶接が開始される際のセンサと被溶接物との位置関係を示した側面図、(B)は増入熱区間を溶接する際のスライダの動作を説明するための正面図である。
【図10】(A)は減入熱区間の溶接が開始される際のセンサと被溶接物との位置関係を示した側面図、(B)は減入熱区間を溶接する際のスライダの動作を説明するための正面図である。
【図11】(A)は正常な波形放熱板の正面図である。(B)は加工時に歪みを生じた波形放熱板の一例を歪みを誇張して示した正面図である。
【図12】(A)ないし(D)は本発明の実施形態において、溶接開始前に行う山部検出過程を説明するための説明図である。
【図13】本発明に係わる溶接方法における増入熱区間及び減入熱区間と被溶接物の山部との関係と、溶接トーチの動作とを説明するための説明図である。
【図14】被溶接物の増入熱区間で溶接トーチを被溶接物の回転方向に変位させ、減入熱区間で溶接トーチを被溶接物の回転方向と反対方向に変位させて溶接を行う溶接装置の構成例を示したブロック図である。
【図15】本発明に係わる溶接装置の一実施形態の構成例を示したブロック図である。
【図16】本発明の実施形態において、山部検出手段を構成するためにマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムを示したフローチャートである。
【図17】本発明の実施形態において、山部検出手段を構成するためにマイクロプロセッサに実行させる他の処理のアルゴリズムを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、変圧器を収容する波形タンクを構成する波形放熱板1と円筒体(円筒フレーム)2A,2Bとを示している。波形放熱板1は、山部mと平坦な谷部vとが交互に並ぶように帯状の鋼板を波付け成形することにより製作される。波形タンクを製造する際には、図2に示すように、外径が等しい第1及び第2の円筒体2A及び2Bを、それぞれの中心軸線O−Oを一致させて水平方向に並べた状態で、溶接装置に設けられた図示しない被溶接物回転装置に保持させる。そして、波形放熱板1を第1及び第2の円筒体2A及び2Bの間に跨って配置して、被溶接物回転装置により第1及び第2の円筒体を回転させながら、図1に示すように、波形放熱板1を両円筒体2A及び2Bの隣り合う端部の外周に供給して、波形放熱板1を円筒体2A及び2Bの隣り合う端部の外周に巻き付けることにより、図2に示したような被溶接物4を構成する工程を行う。
【0043】
被溶接物回転装置は、水平方向に伸びる主軸と、被溶接物4の第1及び第2の円筒部2A及び2Bをそれぞれ主軸に対して同軸的に支持する第1及び第2の支持機構と、モータを駆動源として主軸を第1及び第2の支持機構とともに回転させる回転駆動装置とを備えた公知のものである。
【0044】
上記のようにして被溶接物4を構成した後、この被溶接物の第1の円筒体2Aと波形放熱板1との突き合わせ部に形成された第1の円周継手部5Aと、第2の円筒体2Bと波形放熱板1との突き合わせ部に形成された第2の円周継手部5Bとを円周溶接する。タンクに装柱金具を取り付けるため、波形放熱板1の一部には山部mが欠損している領域(山部欠損領域)γが設けられている。
【0045】
被溶接物4の第1の円周継手部5A及び第2の円周継手部5Bを円周溶接する際には、図3に示すように、第1及び第2の円周継手部5A及び5Bに対してそれぞれ設けられた第1及び第2の溶接トーチ6A及び6Bを円周継手部5A及び5Bに指向させて、被溶接物4を中心軸線O−Oの回りに回転させながら、第1の円周継手部5A及び第2の円周継手部5Bを同時に溶接する。
【0046】
第1及び第2の溶接トーチ6A及び6Bは、後述するように、被溶接物の中心軸線と直交する平面上で、被溶接物の接線方向(水平方向)と径方向(鉛直方向)との双方に変位し得るように設けられたステージ部に取り付けられたスライダに支持されている。溶接トーチ6A及び6Bは、後述する溶接トーチ移動機構により、被溶接物の中心軸線と直交する平面に沿って、被溶接物回転装置に保持された被溶接物の円周継手部の溶接を行う際の位置である溶接位置(図3Bに示した位置)と、この溶接位置から上方に離れた位置に設定された退避位置との間を変位させられるようになっている。第1及び第2の溶接トーチ6A及び6Bは、図3(B)に示す溶接位置にあるときに、それぞれの先端6a及び6bが被溶接物4の第1の円周継手部5A及び第2の円周継手部5Bに指向させられた状態で配置される。
【0047】
図6(A),(B)は、各溶接トーチを支持するステージ部7の構成を概略的に示している。図示のステージ部7は、水平板部7aと、垂直板部7bとによりL字形に形成されていて、水平方向に伸びるガイドレールを備えた第1のガイド部材8により、水平方向(Y方向)にスライド自在に支持されている。第1のガイド部材8は、図示しない固定フレームに支持された第2のガイド部材90により鉛直方向(Z方向)にスライド自在に支持されている。従って、ステージ部7は、水平方向及び鉛直方向の双方にスライドし得るように支持されている。
【0048】
図7に示されているように、ステージ部7の水平板部7aの上にスライダ支持テーブル9が支持され、支持テーブル9にガイド部材10を介してスライダ11がスライド自在に支持されている。スライダ11は、Y方向及びZ方向の双方に対して直角なX方向にスライドし得るように支持され、このスライダ11に支持部材12(図8参照)を介して溶接トーチ6Aまたは6Bが支持されている。
【0049】
ステージ部7及びスライダ11は、Y方向を被溶接物4の軸線方向に向け、Z方向を鉛直方向(被溶接物4の径方向)に向け、X方向を被溶接物4の接線方向に向けた状態で配置され、溶接トーチ6A,6Bは、それぞれの先端が円周継手部5A,5Bの溶接線に指向し得るようにして、スライダ11に支持されている。従って、溶接トーチ6A,6Bは、それぞれの先端が円周継手部5A,5Bに沿う溶接線に指向し得るようにして、被溶接物4の接線方向、軸線方向及び径方向にそれぞれ往復変位し得るように支持されている。
【0050】
図示してないが、Y方向駆動モータ及びZ方向駆動モータと、これらのモータの回転をY方向及びZ方向の直線変位に変換してステージ部7に伝達するY方向変位伝達機構及びZ方向変位伝達機構とが設けられ、Y方向駆動モータ及びZ方向駆動モータを回転させることにより、溶接トーチ6A,6BをY方向及びZ方向に変位させることができるようになっている。また溶接トーチ6A,6Bの先端の溶接線からのずれを検知するトーチ位置検知装置が設けられ、この検知装置により検知されたトーチの先端の溶接線からのずれを零にするようにY方向駆動モータ及びZ方向駆動モータを制御する倣い制御装置が設けられている。この倣い制御装置と、Y方向駆動モータ及びZ方向駆動モータと、ステージ部7を支持する機構とにより、溶接トーチ倣い装置が構成されている。
【0051】
本実施形態ではまた、X方向駆動モータと、このモータの回転をX方向の直線変位に変換してスライダ11に伝達するX方向変位伝達機構とが設けられ、X方向駆動モータを一方向及び他方向に回転させることにより、スライダ11を、被溶接物4の接線方向に沿って、被溶接物の回転方向の前方側に向う方向である前進方向と被溶接物の回転方向の後方側に向う方向である後退方向とにスライド変位させることができるようになっている。
【0052】
従って、各溶接トーチは、溶接トーチ倣い装置により、その先端が常に溶接線に指向するように倣い制御される状態を保って、スライダ駆動機構により、被溶接物の接線方向に沿って、被溶接物の回転方向と同じ方向である第1の方向と、被溶接物の回転方向と反対の方向である第2の方向とに変位させられる。スライダ11の後退方向の限界位置及び前進方向の限界位置は、ストッパにより機械的に規制されており、スライダ11の後退方向の限界位置が当該スライダの原点となっている。スライダ11は、この原点から前進方向への変位を開始し、その後、後退方向に変位させられて原点に戻される。
【0053】
本実施形態では、スライダ11を支持する機構(図5参照)と、上記X方向駆動モータと、X方向変位伝達機構とにより、溶接トーチを搭載したスライダ11を前進方向及び後退方向に駆動するスライダ駆動機構が構成されている。X方向駆動モータとしては、その回転軸が微小角度回転する毎にパルスを発生するエンコーダを内蔵したサーボモータが用いられ、エンコーダが発生するパルス数が設定値に達したときにモータの駆動を停止させる制御を行うことにより、スライダの前進方向及び後退方向への変位量を自在に制御し得るようになっている。また第2のガイド部材9にスライド自在に支持された第1のガイド部材8をZ方向駆動モータにより鉛直方向に駆動する機構により、溶接トーチを、被溶接物回転装置に保持された被溶接物4の円周継手部の溶接を行う際の位置である溶接位置と、この溶接位置から離れた位置に設定された退避位置とに変位させる溶接トーチ移動機構が構成されている。
【0054】
本実施形態では、溶接トーチ6A及び6Bをそれぞれに対して設定された退避位置に位置させたときに、被溶接物回転装置と溶接トーチ6A及び6Bの間に、被溶接物回転装置に保持させた円筒体2A及び2Bの外周に波形放熱板1を巻き付けて溶接の対象とする被溶接物4を構成する作業を許容するためのスペースが形成されるように、溶接トーチ6A及び6Bのそれぞれの退避位置が設定されている。
【0055】
上記ステージ部7及びスライダ11を含む溶接トーチの支持機構は、第1の溶接トーチ6A及び第2の溶接トーチ6Bのそれぞれに対して個別に設けられている。第1の溶接トーチ6Aに対して設けられたスライダ11及び第2の溶接トーチ6Bに対して設けられたスライダ11をそれぞれ第1のスライダ及び第2のスライダと呼び、第1及び第2のスライダのそれぞれを前進方向と後退方向とに駆動するスライダ駆動機構を第1及び第2のスライダ駆動機構と呼ぶ。また第1及び第2の溶接トーチ6A及び6Bをそれぞれ、被溶接物回転装置に保持された被溶接物4の第1及び第2の円周継手部5A及び5Bの溶接を行う際の位置である溶接位置と、この溶接位置から離れた位置に設定された退避位置とに変位させる溶接トーチ移動機構をそれぞれ第1及び第2の溶接トーチ移動機構と呼ぶ。以下の説明では、第1及び第2のスライダをそれぞれ符号11A及び11Bで示す。
【0056】
本発明においては、第1の円周継手部5Aの各部のうち、波形放熱板1の各山部mと第1の円筒体2Aとの突き合わせ部を含む区間であって、溶接金属の余盛量を他の区間よりも厚くする必要がある一定の区間及び該一定の区間を除く他の区間をそれぞれ第1の円周継手部5Aの増入熱区間(溶接入熱を増大させる区間)及び減入熱区間(溶接入熱を増入熱区間よりも減少させる区間)とする。
【0057】
同様に、第2の円周継手部5Bの各部のうち、波形放熱板1の各山部mと円筒体2Bとの突き合わせ部を含む区間であって、溶接金属の余盛量を他の区間よりも厚くする必要がある一定の区間及び該一定の区間を除く他の区間をそれぞれ第2の円周継手部5Bの増入熱区間及び減入熱区間とする。波形放熱板の山部及び谷部と増入熱区間α及び減入熱区間βとの関係の一例を図13に示した。
【0058】
後述するように、本発明においては、増入熱区間で溶接トーチを被溶接物の回転方向と同方向に変位させることにより、溶接トーチの被溶接物に対する相対速度を遅くし、減入熱区間では、溶接トーチを被溶接物の回転方向と反対の方向に変位させることにより、溶接トーチの被溶接物に対する相対速度を速くする。これにより、増入熱区間では溶接金属の余盛量を増大させて余盛量が不足するのを防ぎ、減入熱区間では増入熱区間よりも溶接金属の余盛量を減少させて、溶接金属の溶け落ちが生じるのを防止する。
【0059】
上記の溶接方法を実施するためには、溶接の過程で少なくとも増入熱区間の溶接を開始するタイミングを検出する必要がある。被溶接物の回転速度は一定であるため、増入熱区間の溶接を終了するタイミングは、溶接トーチを被溶接物の回転方向と同方向に変位させて溶接を行う時間を計測することにより検出することができる。また増入熱区間の溶接を開始した時点から、増入熱区間に相当する被溶接物の回転角を計測することによっても、増入熱区間の溶接を終了するタイミングを検出することができる。増入熱区間の溶接を終了するタイミングは減入熱区間の溶接を開始するタイミングである。
【0060】
増入熱区間の溶接を開始するタイミングは、溶接トーチが各増入熱区間の溶接を開始するタイミングで各増入熱区間に存在する波形放熱板の山部を検出するように設けたセンサにより検出することができる。このようなセンサを用いて増入熱区間の溶接を開始するタイミングを検出して、増入熱区間及び減入熱区間の溶接を行う溶接装置の構成例を図14に示した。
【0061】
図14に示された溶接装置においては、被溶接物1の第1及び第2の円周継手部に対してそれぞれ第1の溶接トーチ6A及び第2の溶接トーチ6Bが設けられ、これらの溶接トーチが第1のスライダ11A及び第2のスライダ11Bに搭載されている。また第1及び第2のスライダ11A及び11Bのそれぞれを前進方向と後退方向とに駆動する第1及び第2のスライダ駆動機構22A及び22Bが設けられ、第1の円周継手部5A側及び第2の円周継手部5B側にそれぞれ第1のセンサ21A及び第2のセンサ21Bが設けられている。
【0062】
第1のセンサ21Aは、第1の溶接トーチ6Aが第1の円周継手部5Aの増入熱区間の溶接を開始するタイミングで溶接すべき増入熱区間に存在する波形放熱板1の山部mを検出するように設けられ、第2のセンサ21Bは、第2の溶接トーチ6Bが第2の円周継手部5Bの増入熱区間の溶接を開始するタイミングで該増入熱区間に存在する波形放熱板1の山部mを検出するように設けられている。第1及び第2のセンサ21A及び第2のセンサ21Bは、対応する溶接トーチ6A及び6Bが増入熱区間の始点に達した際にその増入熱区間に存在する山部mを検出するように位置決めされて、溶接装置のフレーム(図示せず。)等に取り付けられている。第1及び第2のセンサ21A及び21Bの出力は、第1のスライダ駆動機構22A及び第2の駆動機構22Bをそれぞれ制御する第1のスライダ駆動制御装置23A及び第2のスライダ駆動制御装置23Bに与えられている。
【0063】
図14に示された溶接装置を用いて被溶接物4の波形放熱板1を第1の円筒体2A及び第2の円筒体2Bの外周に溶接する際には、被溶接物4を回転させながら、第1及び第2の溶接トーチ6A及び6Bにより、第1の円周継手部5A及び第2の円周継手部5Bを同時に溶接する。この場合、波形放熱板1の山部mと円筒体2A及び2Bとの突き合わせ部で十分な溶接金属の余盛量が得られるように溶接速度を設定すると、波形放熱板の谷部vと円筒体2A及び2Bとの突き合わせ部で入熱が過多になり、最悪の場合には、金属の溶け落ちが生じて溶接不良が生じる。また波形放熱板1の谷部vと円筒体2A及び2Bとの突き合わせ部で入熱が過多になることがないように溶接速度を設定すると、波形放熱板1の山部mと円筒体2A及び2Bとの突き合わせ部で十分な溶接金属の余盛量を得ることができなくなり、この突き合わせ部で溶接欠陥が生じて気密漏れ及び液密漏れが生じるおそれがある。
【0064】
上記のような問題が生じるのを防ぐため、図14に示された溶接装置では、前述のように増入熱区間α及び減入熱区間βを設定して、第1及び第2の円周継手部5A及び5Bのそれぞれの増入熱区間αを溶接する際に、第1及び第2の溶接トーチ6A及び6Bをそれぞれ第1の方向(被溶接物の回転方向)に変位させることにより、第1及び第2の溶接トーチの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも遅くし、第1及び第2の円周継手部5A及び5Bのそれぞれの減入熱区間βを溶接する際には、第1及び第2の溶接トーチ6A及び6Bをそれぞれ第2の方向(被溶接物の回転方向と反対の方向)に変位させることにより、第1及び第2の溶接トーチ6A及び6Bの被溶接物4に対する相対移動速度を被溶接物4の周速度よりも速くする。
【0065】
このような制御を行わせると、増入熱区間では、溶接速度を遅くして溶接入熱を増やすことができるため、溶接金属の余盛量を増大させることができる。また減入熱区間では、溶接速度を速くして溶接入熱が過多になるのを防ぐことができるため、金属の溶け落ちが生じるのを防ぐことができる。
【0066】
図14に示した溶接装置では、溶接の過程で、第1及び第2のセンサ21A及び21Bにより、被溶接物4の山部を検出することにより増入熱区間の溶接を開始するタイミングを検出している。しかしながら、第1及び第2のセンサ21A及び21Bはそれぞれ、第1及び第2の溶接トーチ6A及び6Bの近傍で被溶接物4の山部を検出するため、これらのセンサとしてレーザセンサのような光学的な非接触式センサを用いると、センサが溶接中に発生する強烈なアーク光の影響を受けて誤動作し、溶接欠陥が生じるおそれがある。
【0067】
このような問題が生じるのを防ぐため、本実施形態においては、第1及び第2のセンサ21A及び21Bによる山部の検出を溶接前に行って、被溶接物が溶接開始時位置から最初の山部が検出される位置まで回転する間の回転角を先頭山部検出時回転角として記憶させておき、溶接中は、センサを用いることなく、この回転角に基づいて各山部を検出して、各増入熱区間の溶接を開始するタイミングを検出する。
【0068】
本実施形態の溶接方法においては、被溶接物4の回転角を検出する回転検出手段を設けておき、溶接開始前に、被溶接物4を溶接開始時位置から溶接時の回転方向と同方向に回転させて、センサ21A及び21Bが被溶接物の最初の山部(先頭の山部)を検出した時に回転検出手段が検出している被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を先頭山部検出時回転角として記憶する山部検出過程を行う。先頭山部検出時回転角を記憶した後、溶接を開始するまでの間に被溶接物4の回転角度位置を溶接開始時の位置に戻す。
【0069】
本実施形態の溶接方法ではまた、山部検出過程で検出された先頭山部検出時回転角と、被溶接物の山部間のピッチとを用いて、溶接トーチ6A及び6Bが各増入熱区間αの溶接を開始するタイミングで回転検出手段が検出すべき被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を溶接時検出目標回転角として演算により求める。この演算は溶接を開始する前に行ってもよく、溶接を行う過程で逐次行うようにしてもよい。
【0070】
溶接の過程では、回転検出手段により検出される被溶接物4の溶接開始時位置からの回転角が、演算された溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを基にして増入熱区間αと減入熱区間βとを検出する。増入熱区間αを溶接する際には、溶接トーチ6A及び6Bを被溶接物の回転方向と同じ方向である第1の方向に第1の設定速度で変位させることにより、溶接トーチ6A及び6Bのそれぞれの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも遅くし、減入熱区間βを溶接する際には、溶接トーチ6A及び6Bを、被溶接物の回転方向と反対の方向である第2の方向に第2の設定速度で変位させることにより、溶接トーチ6A及び6Bの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも速くする。
【0071】
上記の溶接方法を実施する溶接装置の構成例を図15に示した。図15において、25はサーボモータ、26はサーボモータ24の回転を被溶接物4に伝達して被溶接物4を支持する溶接装置の主軸を回転させる回転駆動装置、27はサーボモータ25に設けられたエンコーダである。エンコーダ27は、サーボモータ25が微少角度回転する毎にパルスを発生する。
【0072】
28はエンコーダ27の出力を入力としてモータ25を制御する回転制御装置である。回転制御装置28は、エンコーダ27が発生するパルスからモータ26の回転速度と回転角度位置とを検出して、被溶接物4の回転速度を指示された設定速度に保ち、被溶接物4を指示された方向に回転させて、指示された位置で停止させるようにモータ27を制御する。本実施形態では、サーボモータ26と、回転駆動装置25と、エンコーダ27と、回転制御装置28とにより、被溶接物回転装置29が構成されている。
【0073】
第1のセンサ21A及び第2のセンサ21Bは、図14に示した装置で用いたものと同様のもので、山部検出位置にあるときに、第1の溶接トーチ6A及び第2の溶接トーチ6Bがそれぞれ第1及び第2の円周接手部5A及び5Bの各増入熱区間αの溶接を開始するタイミングで、各増入熱区間に存在する波形放熱板の山部mを検出するようにそれぞれの配設位置が定められている。第1のセンサ21A及び第2のセンサ21Bは、図示しない支持機構に支持されて、図3に示すように被溶接物4に近い位置に設定された山部検出位置と、図4に示すように被溶接物から離れた位置に設定された退避位置とに変位させられる。
【0074】
回転検出手段30は、エンコーダ27が発生するパルスを計数することにより、被溶接物4の回転角θを検出する手段であり、被溶接物の回転角をパルス数の形で検出する。本実施形態では、被溶接物の回転角θをパルス数で表わす。回転検出手段30は、被溶接物4が溶接方向に回転する際に、エンコーダ27からパルスが入力される毎にパルスの計数値を1ずつインクリメントし、被溶接物4が溶接方向と逆方向に回転する際に、エンコーダ27からパルスが入力される毎にパルスの計数値を1ずつデクリメントする。従って、被溶接物4が溶接開始時位置にあるときに回転検出手段30をリセットして被溶接物を溶接方向に回転させると、回転検出手段30が計数するパルスの計数値が被溶接物の回転角の増大に伴って増加していく。被溶接物4の回転方向を反転させて溶接方向と逆方向に回転させると、回転検出手段30が計数するパルスの計数値が減少していき、被溶接物を溶接開始時位置に戻すと、回転検出手段30が計数するパルスの計数値が零に戻る。
【0075】
31A及び31Bはそれぞれ第1及び第2の山部検出手段で、これらの検出手段はそれぞれ溶接開始前に、溶接開始時位置(溶接トーチが被溶接物の溶接開始点に指向した状態にあるときの被溶接物の回転角度位置)に停止している被溶接物4を、溶接時の回転方向と同方向に回転させて、第1及び第2のセンサ21A及び21Bが最初に被溶接物4の山部を検出した時に回転検出手段30が検出している被溶接物4の溶接開始時位置からの回転角を、先頭山部検出時回転角として記憶する山部検出過程を行う。
【0076】
32A及び32Bはそれぞれ第1及び第2の溶接時検出目標回転角演算手段である。第1及び第2の溶接時検出目標回転角演算手段32A及び32Bはそれぞれ、溶接開始前または溶接の過程で、山部検出過程で検出された先頭山部検出時回転角と被溶接物の山部間のピッチとを用いて、溶接トーチが各増入熱区間の溶接を開始するタイミングで回転検出手段が検出すべき被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を溶接時検出目標回転角として演算により求める。
【0077】
本実施形態で用いる第1及び第2のスライダ駆動制御装置23A及び23Bは、溶接を行う過程で、回転検出手段30により検出される被溶接物の溶接開始時位置からの回転角が演算された溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを基にして各増入熱区間と減入熱区間とを検出して、溶接トーチが増入熱区間を溶接する際に溶接トーチを第1の方向に第1の設定速度で変位させることにより溶接トーチの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも遅くし、溶接トーチが減入熱区間を溶接する際には、溶接トーチを第2の方向に第2の設定速度で変位させることにより、溶接トーチの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも速くするようにスライダ駆動機構22Bを制御する。
【0078】
スライダ駆動制御装置22A及び22Bは、回転検出手段30により検出される被溶接物4の溶接開始時位置からの回転角が演算された各溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを各増入熱区間の溶接を開始するタイミングとし、各増入熱区間の溶接を開始した後被溶接物の回転角が設定値に達した時のタイミングを各増入熱区間に続く減入熱区間の溶接を開始するタイミングとするように構成することができる。
【0079】
溶接中被溶接物の回転速度は一定に保たれているため、増入熱区間の溶接を時間により管理することもできる。すなわち、スライダ駆動制御装置22A及び22Bは、回転検出手段30により検出される被溶接物4の溶接開始時位置からの回転角が山部検出過程で検出された各溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを各増入熱区間の溶接を開始するタイミングとし、各増入熱区間の溶接を開始した後設定された時間が経過した時のタイミングを各増入熱区間に続く減入熱区間の溶接を開始するタイミングとするように構成することもできる。
【0080】
図15に示した溶接装置では、溶接を開始する前に、第1及び第2の山部検出手段31A及び31Bにより山部検出過程を行う。この山部検出過程では、先ず図12(A)に示すように、溶接トーチ6A及び6Bが被溶接物4の第1及び第2の円周接手部5A及び5Bの溶接開始点Sに指向する状態で被溶接物4を停止させ、回転検出手段30の検出出力を零にリセットする。このときの被溶接物4の回転角度位置を、被溶接物の溶接開始時位置とする。本実施形態では、波形放熱板1の山部が設けられていない区間の中央部を溶接開始点Sとしている。この溶接開始点は、円筒体2A及び2B(図2参照)に巻き付けられた波形放熱板1の両端の突き合わせ部であり、既に溶接により接合されている。
【0081】
次いで、被溶接物4を溶接開始時位置から溶接時の回転方向と同方向(図12に示した例では時計方向)に回転させ、図12(B)に示したように、センサ21A,21Bが最初の山部(先頭山部)m1を検出した時に回転検出手段30が検出している溶接開始時位置からの回転角θ1(実際にはパルス数で表わす。)を、先頭山部検出時回転角としてメモリに記憶する。センサ21A,21Bが最初の山部m1を検出したところで被溶接物4を停止させ、次いで被溶接物4を溶接時の回転方向とは逆方向に回転させて、図12(C)に示すように、被溶接物4の回転角度位置を溶接開始時位置に戻す。このとき回転検出手段30が検出している回転角度(溶接開始時位置からの回転角)は零になっている。
【0082】
第1及び第2の溶接時検出目標回転角演算手段32A及び32Bは、上記のようにして求めた先頭山部検出回転角θ1と、既知の値である波形放熱板1の山部m1,m2,…相互間のピッチ(山部の基部側で測った山部の中心部間の間隔)Δθとを用いて、溶接トーチが各増入熱区間の溶接を開始するタイミングで回転検出手段30が検出すべき被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を溶接時検出目標回転角として演算する。山部間のピッチΔθは、円筒体に波形放熱板を巻き付けて仮溶接することにより被溶接物4を構成した段階で、第1及び第2の円周継手部5A及び5Bのそれぞれの側で測定しておく。波形放熱板を円筒体に巻き付けて被溶接物を構成する作業を行うと、巻き付けられた波形放熱板の隣り合う山部の先端部間の距離には多少のバラツキが生じるが、山部の基部相互間の間隔は変化しない。波形放熱板を製作する工程においては、山部のピッチを一定に管理しつつ波付け加工と波部の溶接とを行うため、波形放熱板の長手方向に沿って並んでいる一連の山部相互間のピッチは波形放熱板の長手方向のいずれの箇所で測っても一定である。従って、被溶接物を構成した状態での山部間のピッチは、被溶接物の周方向のいずれの箇所で測ってもほぼ一定である。図11(B)に示すように、波形放熱板が扇形に歪んでいる場合には、被溶接物の第1の円周継手部5A側と第2の円周継手部5B側とで山部相互間のピッチに無視できない差が生じるおそれがあるため、山部間のピッチΔθは、被溶接物を構成した段階で第1の円周継手部側及び第2の円周継手部側のそれぞれで測定しておくことが好ましい。
【0083】
本実施形態において、溶接開始後、最初に現れる増入熱区間の溶接を開始するタイミングで回転検出手段30が検出すべき溶接時検出目標回転角(被溶接物の溶接開始時位置からの回転角)は、回転検出手段30が山部検出過程で検出した先頭山部検出時回転角θ1そのものである。
【0084】
溶接開始後2番目に現れる増入熱区間の溶接を開始するタイミングで回転検出手段30が検出すべき溶接時検出目標回転角θ2は、先頭山部検出時回転角θ1に山部m相互間のピッチΔθを加算することにより求められ、溶接開始後3番目に現れる増入熱区間の溶接を開始するタイミングで回転検出手段30が検出すべき溶接時検出目標回転角θ3は、θ2に山部間のピッチΔθを加算することにより求められる。以下同様にして、4番目以降に現れる増入熱区間の溶接を開始するタイミングで回転検出手段30が検出すべき溶接時検出目標回転角を演算することができる。
【0085】
各増入熱区間の溶接を開始するタイミングで回転検出手段30が検出すべき溶接時検出目標回転角の具体的な演算例を下記に示す。
以下に示す例では、波形放熱板が28個の山部を有するものとし、波形放熱板の山部間のピッチを50mmとする。また被溶接物4の円筒部の外径を490mmとする。被溶接物が1回転する間にエンコーダ27が発生するパルス数を100000とし、サーボ制御により、0.0036°刻みで回転角度の位置決めを行うことができるものとする。
【0086】
ここで、第1の円周接手部5A側(図2Bの左側)で検出された先頭山部検出時回転角を示すパルス数をLPとすると、第1の円周接手部5A側の1番目ないし28番目の増入熱区間の溶接を開始する際に検出すべき溶接時検出目標回転角θ1ないしθ28をそれぞれ表すパルス数P1ないしP28は、下記の式により演算される。
P1=LP
P2=LP+[(100000*50*1)/(490*π)]
P3=LP+[(100000*50*2)/(490*π)]
・・・・・・
P28=LP+[(100000*50*27)/(490*π)]
【0087】
また第2の円周接手部5B側(図2Bの右側)で検出された先頭山部検出時回転角θ1を示すパルス数をRPとすると、第2の円周接手部5B側の1番目ないし28番目の増入熱区間の溶接を開始する際に検出すべき溶接時検出目標回転角θ1ないしθ28をそれぞれ表すパルス数P1′ないしP28′は、下記の式により演算される。
P1′=RP
P2′=RP+[(100000*50*1)/(490*π)]
P3′=RP+[(100000*50*2)/(490*π)]
・・・・・・
P28′=RP+[(100000*50*27)/(490*π)]
【0088】
上記のように山部検出過程を行って先頭山部検出時回転角θ1を検出し、これと山部間のピッチΔθとから、各増入熱区間の溶接を開始する位置で回転検出手段が検出すべき被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を溶接時検出目標回転角として演算した後、被溶接物を溶接開始時位置から一方向(図12の例では時計方向)に一定の回転速度で回転させながら、溶接トーチ6A,6Bと円周継手部5A,5Bとの間でそれぞれアークを発生させて、円周継手部5A,5Bの溶接を行う。溶接を行う際にはセンサ21A及び21Bを用いないため、これらのセンサは山部検出位置から離れた退避位置に退避させておく。
【0089】
溶接の過程では、回転検出手段30が検出している溶接開始時位置からの被溶接物の回転角が各溶接時検出目標回転角に一致したことから各増入熱区間αの始点を検出し、X方向駆動モータを一方向に回転させてスライダを前進方向に変位させることにより、溶接トーチを溶接方向と同じ方向である第1の方向に第1の設定速度で変位させる。溶接トーチの第1の方向への変位を開始した後、その変位量が設定値に達したときに、X方向駆動モータの回転方向を反転させてスライダの移動方向を反転させ、溶接トーチの第1の方向への変位を終了させるとともに、第2の方向への第2の設定速度での変位を開始させる。
【0090】
即ち、図9(A)に示すように、回転検出手段30が各溶接時検出目標回転角度を検出したとき(溶接トーチ6A,6Bがそれぞれ円周継手部5A,5Bの各増入熱区間αの始点に達したとき)に図9(B)に示すようにスライダ11A,11Bを被溶接物の周速度V1よりは低い第1の設定速度で前進方向(X1方向)に移動させる。このときスライダは被溶接物の接線方向に移動するが、溶接トーチは倣い制御装置により溶接線に倣うように制御されるため、溶接トーチは円周継手部の周方向に沿って第1の方向(被溶接物の回転方向)に変位する。従って、増入熱区間を溶接する際には、溶接トーチの被溶接物に対する相対移動速度が、被溶接物の周速度V1から溶接トーチの第1の方向への移動速度Vaを差し引いた速度V1−Vaまで低下して、溶接入熱が増加させられ、溶接金属の余盛量が増大させられる。
【0091】
またスライダが前進方向への変位を開始した後、その変位量が設定値に達したときに、X方向駆動モータの回転方向を反転させて、図10(B)に示したように、スライダ11A,11Bを後退方向(X2方向)に第2の設定速度で移動させ、溶接トーチ6A及び6Bを第2の方向(被溶接物の回転方向と反対の方向)に移動させる。スライダ11A,11Bが後退方向の限界位置(原点)に達したときに両スライダを停止させる。
【0092】
スライダ11A,11bが後退方向に変位しているときの溶接トーチの被溶接物4に対する相対移動速度は、被溶接物の周速度V1と溶接トーチの第2の方向への移動速度Vbとの和の速度(V1+Vb)まで速められる。従って、減入熱区間(増入熱区間以外の区間)βを溶接する際の溶接速度が上昇させられて溶接入熱が過多になるのが防止され、金属の溶け落ちが生じるのが防止される。
【0093】
本実施形態では、スライダ11A,11Bを後退方向に変位させる際に、必ず後退方向の限界位置(原点)まで変位させるように、第2の設定速度を設定して、スライダ11A,11Bを必ず原点に戻すようにしている。
【0094】
図13は、本実施形態における溶接トーチの前進動作及び後退動作と溶接速度との関係の一例を示したものである。同図(A)は波形放熱板の山部及び谷部と増入熱区間α及び減入熱区間βとの関係の一例を示しており、同図(B)はスライダの前進動作及び後退動作を示している。図13(B)において、Δxは、スライダのストロークを示している。また図13(C)は、スライダの変位に伴う溶接速度の変化を示している。この例では、増入熱区間αの溶接が開始される直前のタイミング(次の山部が検出されるタイミング)でスライダが原点に戻るように、スライダを後退させる際の移動速度(第2の設定速度)が調整されている。
【0095】
なおスライダを原点に戻すタイミングは必ずしも図13に示した例に限定されるものではなく、増入熱区間αの開始位置が検出されるタイミング(山部mが検出されるタイミング)よりも前のタイミングでスライダを始点に戻すようにしてもよい。このようにした場合には、減入熱区間βの終期に溶接速度が被溶接物の周速度まで上昇するが、減入熱区間全体を見ると溶接速度の平均値は減少するので、減入熱区間における溶接入熱を低減させるという目的は達成することができる。
【0096】
本実施形態では、波形放熱板1が山部欠損領域γを有している。山部欠損領域では、センサにより山部が検出されないため、その殆どの区間でスライダが停止した状態に保持され、溶接速度は被溶接物の周速度となる。この区間で溶接速度を被溶接物の周速度とした場合に、溶接入熱が過多になる場合には、山部欠損領域が検出されたときに被溶接物の回転速度を速める制御を行うか、または溶接電流を低減する制御を行うようにすればよい。波形放熱板に設けられる山部の数は既知の値であるため、山部欠損領域γの検出は、山部が検出される回数をカウントすることにより行うことができる。
【0097】
図16及び図17を参照すると、第1の山部検出手段31A及び第2の山部検出手段31Bと、第1及び第2の溶接時検出目標回転角演算手段32A及び32bとをそれぞれ構成するためにマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムの一例を示すフローチャートが示されている。
【0098】
図16は第1の山部検出手段31Aと第1及び第2の溶接時検出目標回転角演算手段32A及び32bとを構成するためにマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムの一例を示したもので、このアルゴリズムによる場合には、先ずステップS101で回転検出手段30が検出している回転角を零にリセットし、次いでステップS102で被溶接物を溶接方向に一定の速度で回転させる。ステップS103で第1のセンサ21Aが山部を検出するのを待ち、山部が検出されたときにステップS104に進んで、回転検出手段30が検出している回転角を読み込んで、先頭山部検出時回転角として記憶させる。次いでステップS105で、第2のセンサ21Bが山部の検出と先頭山部検出時回転角の記憶とを完了して山部検出完了信号を発生しているか否かを確認する。ステップS105で第2のセンサが山部検出完了信号を発生していることが確認されたときに、ステップS106に進んでモータ27の回転方向を反転させて被溶接物を溶接時と反対の方向に回転させる。ステップS107で回転検出手段30が検出している回転角(溶接開始時位置から溶接方向への回転角)が0になったか否かを判定し、回転検出手段30が検出している回転角が0になったと判定されたとき(被溶接物の回転角度位置が溶接開始時位置に復帰したとき)に被溶接物の回転を停止させる。次いでステップS109で第1及び第2の円周継手部5A及び5Bに関して、溶接時検出目標回転角を演算してこの処理を終了する。図16のステップS101ないしS108により、第1の山部検出手段30Aが構成され、ステップS109により、第1及び第2の溶接時検出目標回転角演算手段32A及び32Bが構成される。
【0099】
また図17に示した処理は、第2の山部検出手段31Bの要部を構成するためのもので、この処理においては、ステップS201で第2のセンサ21Bが最初の山部を検出するのを待つ。第2のセンサ21Bが最初の山部を検出したと判定されたときにステップS202で回転検出手段30が検出している被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を読み込んで、第2の先頭山部検出時回転角としてメモリに記憶させる。次いでステップS203で山部検出完了信号を第1の山部検出手段31Aに与えてこの処理を終了する。
【0100】
上記の実施形態では、被溶接物の回転角から波形放熱板1の山部mが検出された後、スライダの前進方向への変位量が設定値に達したときにスライダの変位の方向を反転させて、スライダを後退方向に変位させるようにスライダを制御することにより、増入熱区間を溶接する間だけ溶接トーチを第1の方向に変位させるようにしたが、被溶接物の回転速度は一定であり、また増入熱区間の長さも一定であるため、波形放熱板の山部が検出された時点で時間の計測を開始させて、計測された時間が設定値に達するまでの間だけスライダを前進方向に変位させるようにしても、増入熱区間を溶接する間だけ溶接トーチを第1の方向に変位させるようにすることができる。
【0101】
即ち、図15に示した第1のスライダ駆動制御装置23Aは、被溶接物の回転角から山部mが検出されたときに設定時間Tsが経過するまでの間第1のスライダ11Aを第1の設定速度で前進方向に変位させることにより第1の円周継手部5Aの増入熱区間αを溶接する際の第1の溶接トーチ6Aの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも遅くし、山部が検出された後、設定時間Tsが経過したときに第1のスライダ11Aの移動方向を反転させて第1のスライダ11Aを第2の設定速度で後退方向に変位させることにより、第1の円周継手部5Aの減入熱区間を溶接する際の第1の溶接トーチ6Aの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも速くするように第1のスライダ駆動機構22Aを制御する構成としてもよい。
【0102】
同様に、第2のスライダ駆動制御装置23Bは、山部mが検出されたときに設定時間Tsが経過するまでの間第2のスライダ11Bを第1の設定速度で前進方向に変位させることにより第2の円周継手部の増入熱区間を溶接する際の第2の溶接トーチの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも遅くし、設定時間Tsが経過したときに第2のスライダ11Bの移動方向を反転させて第2のスライダを第2の設定速度で後退方向に変位させることにより、第2の円周継手部5Bの減入熱区間βを溶接する際の第2の溶接トーチ6Bの被溶接物に対する相対移動速度を被溶接物の周速度よりも速くするように第2のスライダ駆動機構を制御する構成としてもよい。
【0103】
上記に実施形態では、波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部側(第1の円周継手部5A側)及び波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部側(第2の円周継手部5B側)の双方で個別に山部検出過程を行って、第1及び第2の円周継手部側のそれぞれについて各増入熱区間の溶接を開始するタイミングを検出するための溶接時検出目標回転角を求め、これらの溶接時検出目標回転角を用いて、第1及び第2の円周継手部側で個別に増入熱区間の検出を行わせることにより、第1の円周継手部及び第2の円周継手部の溶接を同時に行わせるようにしている。
【0104】
このように構成しておくと、図11(B)に示すように、波形放熱板が歪んでいて、第1の円周継手部側と第2の円周継手部側とで山部の位置がずれている場合でも、各増入熱区間を正確に検出して第1の円周継手部及び第2の円周継手部のそれぞれの溶接を的確に行わせることができる。
【0105】
山部間のピッチは、第1の円周継手部側及び第2の円周継手部側のそれぞれで測っておくので、図11(B)に示すように、波形放熱板が歪んでいる場合でも、先頭山部検出時回転角と、山部間のピッチとを用いて各溶接時検出目標回転角を演算する方法をとって何等差し支えがない。
【0106】
上記の実施形態では、溶接を開始する前にすべての溶接時検出目標回転角を演算しておくようにしたが、溶接を行う過程で、逐次溶接時検出目標回転角を演算するようにしてもよい。例えば、各増入熱区間の溶接を開始するタイミングを検出した直後に、次の増入熱区間の溶接を開始するタイミングを検出するために用いる溶接時検出目標回転角を演算するようにしてもよい。
【0107】
上記の各実施形態では、中心軸線を共有した状態で配置された第1及び第2の円筒体2A及び2Bに跨って波形放熱板を溶接する場合を例にとったが、単一の円筒体の端部に波形放熱板を巻き付けて溶接する場合にも本発明を適用することができる。
【0108】
上記の実施形態において、スライダを前進方向に移動させる際の移動速度(第1の設定速度)及びスライダを後退方向に移動させる際の移動速度(第2の設定速度)は異なっていてもよく、等しくてもよい。
【0109】
上記の実施形態では、第1及び第2のセンサとしてレーザセンサのような光学式の非接触式センサを用いるとしたが、センサは被溶接物を溶接開始時位置から溶接方向に回転させた後最初に検出される山部のみを検出すればよいため、図5に示されているように、山部mに接触することにより検出動作を行う安価なリミットスイッチを第1及び第2のセンサ21A及び21Bとして用いることもできる。
【符号の説明】
【0110】
1 波形放熱板
2 円筒体
4 被溶接物
5A 第1の円周継手部
5B 第2の円周継手部
6A 第1の溶接トーチ
6B 第2の溶接トーチ
7 ステージ部
11 スライダ
11A 第1のスライダ
11B 第2のスライダ
21A 第1のセンサ
21B 第2のセンサ
22A 第1のスライダ駆動機構
22B 第2のスライダ駆動機構
23A 第1のスライダ駆動制御装置
23B 第2のスライダ駆動制御装置
25 回転駆動装置
26 サーボモータ
27 エンコーダ
28 回転制御装置
29 被溶接物回転装置
31A 第1の山部検出手段
31B 第2の山部検出手段
32A 第1の溶接時検出目標回転角演算手段
32B 第2の溶接時検出目標回転角演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
山部と谷部とが交互に並ぶように波付け成形された波形放熱板を円筒体の端部外周に巻き付けて構成した被溶接物を前記円筒体の中心軸線の回りに回転させ、前記円筒体と波形放熱板との突き合わせ部に形成された円周継手部に沿う溶接線に倣うように制御される溶接トーチにより、前記円周継手部を溶接する円筒体と波形放熱板との溶接方法であって、
前記溶接トーチは、前記溶接線に倣う動作を行いつつ前記溶接線に沿って前記被溶接物の溶接時の回転方向と同じ方向である第1の方向と、前記被溶接物の溶接時の回転方向とは反対の方向である第2の方向とに変位し得るように設けておき、
前記円周継手部の各部のうち前記波形放熱板の各山部と前記円筒体との突き合わせ部を含む区間であって溶接金属の余盛量を他の区間よりも厚くする必要がある一定の区間及び該一定の区間を除く他の区間をそれぞれ増入熱区間及び減入熱区間として設定しておき、
前記溶接トーチが各増入熱区間の溶接を開始するタイミングで各増入熱区間に存在する波形放熱板の山部を検出するように配置されたセンサと、前記被溶接物の回転角を検出する回転検出手段とを設けておき、
溶接トーチが被溶接物の溶接開始点に指向した状態にあるときの被溶接物の回転角度位置を被溶接物の溶接開始時位置として、溶接開始前に、前記被溶接物を溶接開始時位置から溶接時の回転方向と同方向に回転させて、前記センサが最初に前記被溶接物の山部を検出した時に前記回転検出手段が検出している被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を先頭山部検出時回転角として記憶する山部検出過程を行い、
溶接を開始するまでの間に前記被溶接物の回転角度位置を溶接開始時の位置に戻し、
溶接開始前または溶接の過程で、前記山部検出過程で検出された先頭山部検出時回転角と前記被溶接物の山部間のピッチとを用いて、前記溶接トーチが各増入熱区間の溶接を開始するタイミングで前記回転検出手段が検出すべき被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を溶接時検出目標回転角として演算により求め、
溶接の過程では、前記回転検出手段により検出される被溶接物の溶接開始時位置からの回転角が演算された溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを基にして増入熱区間と減入熱区間とを検出し、
前記増入熱区間を溶接する際には、前記溶接トーチを前記第1の方向に第1の設定速度で変位させることにより前記溶接トーチの前記被溶接物に対する相対移動速度を前記被溶接物の周速度よりも遅くし、前記減入熱区間を溶接する際には、前記溶接トーチを前記第2の方向に第2の設定速度で変位させることにより、前記溶接トーチの前記被溶接物に対する相対移動速度を前記被溶接物の周速度よりも速くすること、
を特徴とする円筒体と波形放熱板との溶接方法。
【請求項2】
前記溶接の過程では、前記回転検出手段により検出される被溶接物の溶接開始時位置からの回転角が演算された各溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを各増入熱区間の溶接を開始するタイミングとし、各増入熱区間の溶接を開始した後前記被溶接物の回転角が設定値に達した時のタイミングを各増入熱区間に続く減入熱区間の溶接を開始するタイミングとする請求項1に記載の円筒体と波形放熱板との溶接方法。
【請求項3】
前記溶接の過程では、前記回転検出手段により検出される被溶接物の溶接開始時位置からの回転角が前記山部検出過程で検出された各溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを各増入熱区間の溶接を開始するタイミングとし、各増入熱区間の溶接を開始した後設定された時間が経過した時のタイミングを各増入熱区間に続く減入熱区間の溶接を開始するタイミングとする請求項1に記載の円筒体と波形放熱板との溶接方法。
【請求項4】
前記被溶接物は、前記円筒体を2つ有して該2つの円筒体が中心軸線を一致させた状態で並べて配置され、
前記波形放熱板は、前記2つの円筒体に跨がって配置されて両円筒体の隣り合う端部の外周に巻き付けられ、
前記波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部及び前記波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部にそれぞれ前記円周継手部が形成されて、各円周継手部に対して前記溶接トーチとセンサとが設けられ、
前記山部検出過程は、前記波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部側と前記波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部側との双方で同時に行い、
溶接を行う過程では、波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部側及び波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部側についてそれぞれ求められた溶接時検出目標回転角を用いてそれぞれの増入熱区間と減入熱区間とを検出して両継手部の溶接を同時に行うこと、
を特徴とする請求項1に記載の円筒体と波形放熱板との溶接方法。
【請求項5】
山部と谷部とが交互に並ぶように波付け成形された波形放熱板を円筒体の端部外周に巻き付けて構成した被溶接物を保持して該被溶接物を前記円筒体の中心軸線の回りに一定の速度で回転させる被溶接物回転装置と、溶接トーチと、前記円筒体と波形放熱板との突き合わせ部に形成された円周継手部に沿う溶接線を検知して前記溶接トーチを該溶接線に倣わせる倣い装置とを備えて、前記被溶接物を回転させながら前記溶接トーチにより前記円周継手部を溶接する円筒体と波形放熱板との溶接装置であって、
前記溶接トーチを保持して、前記溶接線の接線方向に沿って前記被溶接物の回転方向の前方側に向う方向である前進方向と前記被溶接物の回転方向の後方側に向う方向である後退方向とにスライド変位するスライダと、
前記スライダを前記前進方向及び後退方向に駆動するスライダ駆動機構と、
前記円周継手部の各部のうち前記波形放熱板の各山部と前記円筒体との突き合わせ部を含む区間であって溶接金属の余盛量を他の区間よりも厚くする必要がある一定の区間及び該一定の区間を除く他の区間をそれぞれ増入熱区間及び減入熱区間として、前記溶接トーチが前記増入熱区間の溶接を開始するタイミングで該増入熱区間に存在する前記波形放熱板の山部を検出するセンサと、
前記被溶接物の回転角を検出する回転検出手段と、
溶接トーチが被溶接物の溶接開始点に指向した状態にあるときの被溶接物の回転角度位置を被溶接物の溶接開始時位置として、溶接が開始される前の状態で、前記被溶接物を溶接開始時位置から溶接時の回転方向と同方向に回転させて、前記センサが最初に前記被溶接物の山部を検出した時に前記回転検出手段が検出している被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を先頭山部検出時回転角として記憶する山部検出過程を行う山部検出手段と、
前記山部検出手段が検出した先頭山部検出時回転角と前記被溶接物の山部間のピッチとを用いて、前記溶接トーチが各増入熱区間の溶接を開始するタイミングで前記回転検出手段が検出すべき被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を溶接時検出目標回転角として演算する溶接時検出目標回転角演算手段と、
前記回転検出手段により検出される被溶接物の溶接開始時位置からの回転角が演算された溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを基にして各増入熱区間と減入熱区間とを検出して、前記溶接トーチが増入熱区間を溶接する際には、前記溶接トーチを前記第1の方向に第1の設定速度で変位させることにより前記溶接トーチの前記被溶接物に対する相対移動速度を前記被溶接物の周速度よりも遅くし、前記溶接トーチが減入熱区間を溶接する際には、前記溶接トーチを前記第2の方向に第2の設定速度で変位させることにより、前記溶接トーチの前記被溶接物に対する相対移動速度を前記被溶接物の周速度よりも速くするように前記スライダ駆動機構を制御するスライダ駆動制御装置と、
を具備したことを特徴とする円筒体と波形放熱板との溶接装置。
【請求項6】
前記被溶接物は、前記円筒体を2つ有して該2つの円筒体が中心軸線を一致させた状態で並べて配置され、
前記波形放熱板は、前記2つの円筒体に跨がって配置されて両円筒体の隣り合う端部の外周に巻き付けられ、
前記波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部及び前記波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部のそれぞれに前記円周継手部が形成されて、各円周継手部に対して前記溶接トーチとセンサとが設けられ、
前記山部検出手段は、前記波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部側と前記波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部側との双方で同時に山部検出過程を行うように構成され、
前記溶接時検出目標回転角演算手段は、前記山部検出手段が各突き合わせ部側で検出した先頭山部検出時回転角を用いて、各突き合わせ部を溶接する溶接トーチが各増入熱区間の溶接を開始するタイミングで前記回転検出手段が検出しているべき被溶接物の溶接開始時位置からの回転角を各突き合わせ部の溶接時検出目標回転角として演算するように構成され、
前記スライダ駆動制御装置は、前記波形放熱板と一方の円筒体との突き合わせ部を溶接する溶接トーチを保持したスライダを駆動するスライダ駆動機構及び前記波形放熱板と他方の円筒体との突き合わせ部を溶接する溶接トーチを保持したスライダを駆動するスライダ駆動機構を、前記溶接時検出目標回転角演算手段によりそれぞれの突き合わせ部に対して演算された溶接時検出目標回転角を用いて制御するように構成されていること、
を特徴とする請求項5に記載の円筒体と波形放熱板との溶接装置。
【請求項7】
前記スライダ駆動制御装置は、前記回転検出手段により検出される被溶接物の溶接開始時位置からの回転角が演算された各溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを各増入熱区間の溶接を開始するタイミングとし、各増入熱区間の溶接を開始した後前記被溶接物の回転角が設定値に達した時のタイミングを各増入熱区間に続く減入熱区間の溶接を開始するタイミングとするように構成されている請求項5または6に記載の円筒体と波形放熱板との溶接装置。
【請求項8】
前記スライダ駆動制御装置は、前記回転検出手段により検出される被溶接物の溶接開始時位置からの回転角が前記山部検出過程で検出された各溶接時検出目標回転角に一致するタイミングを各増入熱区間の溶接を開始するタイミングとし、各増入熱区間の溶接を開始した後設定された時間が経過した時のタイミングを各増入熱区間に続く減入熱区間の溶接を開始するタイミングとするように構成されている請求項5または6に記載の円筒体と波形放熱板との溶接装置。
【請求項9】
前記センサは、被溶接物に向けて照射したレーザビームを用いて山部を検出するレーザセンサからなっている請求項5ないし8のいずれかに記載の円筒体と波形放熱板との溶接装置。
【請求項10】
前記センサは、被溶接物の山部に接触することにより検出動作を行うリミットスイッチからなっている請求項5ないし8に記載の円筒体と波形放熱板との溶接装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2011−92998(P2011−92998A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218765(P2010−218765)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】