説明

円筒体の衝突による反転を利用した緩衝機構

【課題】アルミニウム製その他の円筒材の塑性変形による反転を利用した緩衝機構に関し、交換可能なアルミニウム製円筒材を使用する緩衝機能を備え、不測の衝突事態に対して、一回の緩衝作動によってその機能を発揮し、該円筒材を交換することにより緩衝機構全体の再度の利用が可能となり、従来のメンテナンスを不要とする省エネルギー、費用節減に役立つところの、実用性のある緩衝機構を提供する。
【解決手段】衝突受けAと反転台Bの間に緩衝円筒材Cを配置し、緩衝円筒材をそれらの間に圧入し組み立てた緩衝機構において、一方に球面を形成し、他方に嵌合部を一体的に設けた円形体からなる衝突受けと、基台に円柱部を一体的に形成した反転台との間に、アルミニウム製その他の緩衝円筒材を圧入して構成したことを特徴とする緩衝機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、重量物体が不慮の事故などで他に衝突したときにおいて、円筒体の反転現象を利用した緩衝機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来エレベータにはトラブルが生じた際に乗る人の安全を確保するために、多重の安全装置が取り付けられている。中でもエレベータ緩衝器は安全システムの最終段階に位置するものであって、エレベータの“かご”がピット終端部に激突するの防ぐために、ピット下底上に備えつけられている。このエレベータ緩衝器はエレベータの定格速度に応じて、ばねまたは油圧式緩衝器が用いられているが、ばねは跳ね返りが問題となるために、定格速度60m/min以下の低速エレベータに取り付けられ、油圧式緩衝器は前記速度を超える高速用に用いられている。エレベータはメンテナンスが必要であり、そのための費用も生ずるが、中でも油圧式緩衝器は精度を要し高額な設備となる。しかしそこに用いられているの油成分は温度の影響を受け易く、また万一、建物火災の際には危険を生じるなどの問題を抱えている。
【0003】
上記の背景において、それらの事情を打開すべく、対応し得る手段として、円筒シェルの種々の軸圧潰挙動特性を調査し、その塑性変形現象をもって、エレベータ緩衝器への応用を図る試みが、本件特許出願の発明者 岡本紀明らによってなされている。
【0004】
その概略としては、衝突受けと反転台の間にアルミニウム製緩衝円筒材を配置し、この緩衝円筒材をそれらの間に圧入し組み立てた緩衝機構によって、エレベータが落下し衝突したときにおいて、緩衝円筒材の反転による塑性変形によって、落下の衝撃を緩衝しようとする着想である。
【0005】
【非特許文献】 「円筒シェルの種々の軸圧潰挙動特性とエレベータ緩衝器への応用」社団法人 日本機械学会論文集71巻710号A編(平成17年10月発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、アルミニウム製その他の円筒材の塑性変形による反転を利用した緩衝機構に関するもので、交換可能なアルミニウム製その他の円筒材を使用する緩衝機能を備え、不測の事態に対して、一回の緩衝作動によってその機能を発揮した後は、該円筒部品を交換することにより緩衝機構全体の再度の利用が可能となり、それらによって従来のメンテナンスを不要とする省エネルギー、費用節減に役立つところの、実用性のある緩衝機構を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
衝突受けと反転台の間にアルミニウム製その他の緩衝円筒材を配置し、この緩衝円筒材をそれらの間に圧入し組み立てた緩衝機構において、一方に球面(1)を形成し、他方に嵌合部(2)を一体的に設けた円形体(3)からなる衝突受け(A)と、基台(5)に上下に亙り比較的離れた嵌合突起部(2’)、同(2”)を設けた円錐部(6)を一体的に形成した反転台(B)との間に、アルミニウム製その他の緩衝円筒材(C)を圧入して構成したことを特徴とする緩衝機構であり、空気逃げ孔(4)が球面(1)に貫通して設けられていることを特徴とする前記記載の衝突受け(A)として、衝突受け(A)がこのように球面(1)に形成され、衝撃力導入に点接触状態により行われることにより衝突局部の圧潰を防止し、また偏心荷重を防止する作用を行う。
【0008】
基台(5)、円柱部(6)を貫通して、中心部に固定用ボルト穴(7)を設けたことを特徴とする前記記載の反転台(B)であり、これにより反転台(B)を強固に取り付けることができる構成とする。嵌合突起部(2’)、同(2”)にモリブテンなどの固体潤滑を施したことを特徴とする前記記載の反転台(B)、内部に潤滑油を作動させる上部潤滑油用環状孔(7)、同縦孔(7’)、潤滑油注入口(7”)、下部潤滑油用環状穴(8)、同縦孔(8’)、潤滑油注入口(8”)を設けたことを特徴とする前記記載の反転台(B)であり、これらにより緩衝用円筒体の反転が、座屈すること無く正常に行われるようにする。
【0009】
緩衝円筒材(C)の下端に、初期反転部(c)を設けたことを特徴とする前記記載の緩衝機構(S)により、反転時の反転誘導部として反転荷重時間の短縮を行う。衝突物体に対して縦方向に配備することを特徴とする前記記載の緩衝機構(S)により、とくにエレベータの落下衝突に対応し、また横方向に配備することを特徴とする前記記載の緩衝機構(S)により、鉄道車両の車止め、自動車自体などに配備して衝突の際に対応する。さらに衝突物体側に下面が緩衝機構(S)の軸心に垂直になるように調整し、緩衝機構(S)の衝突受け(A)の球面(1)の中心部に対応するように取り付ける衝突物体側の衝突板(a)により、衝突の際に、互いに傾くことがなく正常に作動するようにする。
【発明の効果】
【0010】
この発明は衝突受けと反転台の間にアルミニウム製その他の緩衝円筒材を配置し、緩衝円筒材をそれらの間に圧入し組み立てた緩衝機構において、一方に球面(1)を形成し、他方に嵌合部(2)を一体的に設けた円形体(3)からなる衝突受け(A)と、基台(5)に上下に亙り比較的離れた嵌合突起部(2’)、同(2”)を設けた円柱部(6)を一体的に形成した反転台(B)との間に、アルミニウム製その他の緩衝円筒材(C)を圧入して構成したことを特徴とする緩衝機構(S)は、空気逃げ孔(4)が球面(1)に貫通して設けられている衝突受け(A)として、衝突受け(A)がこのように球面(1)に形成されることによって、衝撃力導入治具として点接触により衝突局部の圧潰を防止し、また偏心荷重を防止する。
【0011】
基台(5)、円柱部(6)を貫通して、中心部に固定用ボルト穴(7)を設けたことを特徴とする反転台(B)は、これにより反転台(B)を強固に取り付けることができる構成となる。
嵌合突起部(2’)、同(2”)にモリブテンなどの固体潤滑を施したことを特徴とする前記記載の反転台(B)、および内部に潤滑油を作動させる上部潤滑油用環状孔(7)、同縦孔(7’)、潤滑油注入口(7”)、下部潤滑油用環状穴(8)、同縦孔(8’)、潤滑油注入口(8”)を設けたことを特徴とする反転台(B)は、これらにより緩衝円筒体の反転が、不測に変形、座屈すること無く、反転作動が正常に行われるように対応する。緩衝円筒材(C)の下端に反転時の反転誘導部として、初期反転部(c)を設けた緩衝機構(S)により、反転荷重時間の短縮を行う。横方向に配備する緩衝機構(S)により、鉄道車両の車止め、自動車のダンパーなどに配備して衝突の際などに適用する。衝突物体側の下面が緩衝機構(S)の軸心に垂直になるように調整し、緩衝機構(S)の衝突受け(A)の球面(1)の中心部に対応するように取り付けた衝突板(a)により、衝突の際に、傾くことのないように誘導できる。
【0012】
この発明は、荷重に対し所望に設計できる交換可能なアルミニウム製その他の円筒材を使用する緩衝機能を備え、不測の衝突事態に対して、一回の緩衝作動によってその機能を発揮した後は、該円筒部品を交換することにより緩衝機構全体の再度の利用が可能となり、それらによって従来のメンテナンスを不要とする省エネルギー、費用節減に役立つところの、実用性のある緩衝機構を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明の緩衝機構(S)の実施の形態としては、図1(a)、図1(b)に示すように、一方に球面(1)を形成し、他方に嵌合部(2)を一体的に設けた円形体(3)からなる衝突受け(A)であり、衝突時の空気の空気逃げ孔(4)が球面(1)に貫通して設けられている。この球面(1)の構成により、球面(1)に衝突物体が点接触状態で衝突することにより、偏心荷重を防止し、また衝突局部の圧潰の防止を行うようになる。図2に示す反転台(B)は基台(5)に、上下に亙り比較的離れた嵌合突起部(2’)、同(2”)を設けた円柱部(6)を一体的に形成した構成であり、これら嵌合突起部(2’)、同(2”)の距離[間隔]は、円柱部(6)の直径よりも大とする。また嵌合突起部(2’)、同(2”)にはモリブテンなどの固体潤滑が施してある。基台(5)、円柱部(6)を貫通して中心部には固定用ボルト穴(7)を設ける。
【0014】
図3が緩衝機構(S)の使用前の組立て状態を示し、衝突受け(A)を図示では上方に、反転台(B)を下方に配置し、その間に緩衝円筒材(C)を配置し、緩衝円筒材(C)の上下においてそれらを圧入し組み立てて緩衝機構(S)とし、後述するように反転台(B)の中心部の固定用ボルト穴(7)によって据え付ける。図3が緩衝機構(S)の使用前の据え付け状態となる。衝突受け(A)、反転台(B)は鉄材など強度のある材質を用いで構成し、緩衝円筒材(C)には塑性変形を大きくできる材質として焼鈍アルミニウム材を用い、衝突時の荷重に対応するように、厚さ/半径比を連続座屈(正常な反転を妨げる)に対処するように適正範囲に設定し、引き抜き加工のまま、その他の機械加工は不要で用いるものとする。
【0015】
反転台(B)には図4に示すようにその内部には潤滑油を作用させる上部潤滑用環状孔(8)、同縦孔(8’)、潤滑油注入口(8”)、下部潤滑用環状穴(9)、同縦孔(9’)、潤滑油注入口(9”)を設ける。
【0016】
図5は緩衝機構(S)において緩衝円筒材(C)の下端に反転時の反転誘導部として初期反転部(c)を設けた例である。これにより反転を誘導し荷重時間の短縮が図られる。
【0017】
図6はこの緩衝機構(S)を、エレベータの緩衝機構とした例を示す。すなわちこの緩衝機構(S)を、エレベータ装置の下方の固定部分(H)に据付け配置し、エレベータ(E)の“かご”(K)[人、物品などが入る]が緩衝機構(S)に衝突した状態(仮線図示)を示すもので、その際、緩衝機構(S)の緩衝円筒材(C)は衝撃を吸収して図示下方のように反転部分(R)を形成し、衝撃を吸収、緩和する。この緩衝円筒材(C)は使いきりの交換部品として交換され、他の部材は再度、使用されることとなり、したがってメンテナンスは不要である。エレベータ(E)の“かご”(K)の底部には衝突板(a)を、その下面が正確に平面となるよう、すなわち緩衝機構(S)の軸心に垂直になるように調整して取り付け、緩衝機構(S)の衝突受け(A)の球面(1)の中心部に対応するようにする。(G)はエレベータのガイドレールである。
【0018】
図7はこの緩衝機構(S)を、鉄道用などの車止めの緩衝機構とした例であり、緩衝機構(S)を横方向に壁(W)に配置した例である。図示左側より車両が不慮の衝突により緩衝ブロック(Y)に衝突時には、仮線に示すように緩衝機構(S)によって緩衝を行い、緩衝円筒材(C)は反転して緩衝が行われる。(F)は車両用レールである。
【0019】
なお他に横置きとして自動車用ダンパーにも利用できる。その際には速度が速く運動のエネルギーが大きいので、大きな衝突力を吸収する必要があるので、緩衝円筒材(C)には熱処理した高強度のアルミニウム合金またはステンレス材がよい。
【0020】
前記のように基台(5)の嵌合突起部(2’)、同(2”)の距離[間隔]は、円柱部(6)の直径よりも大とする。これによりエレベータのような縦置きに対しては、地震などによる横方向からの力(円柱軸に直角)による転倒、傾きを抑制し、また、車両の車止めの場合や、自動車のダンパーなどの横置き状態の設置に対しては、自重や振動に対する根元(取り付け端)での傾き、位置ずれの抑制となる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
この発明は、金属製円筒材、就中、アルミニウム焼鈍材の塑性変形による反転を利用した緩衝機構として、重量物体の衝突による不測の事態に対応して、一回の緩衝作動によってその機能を発揮した後は、該円筒部品を交換することにより緩衝機構全体の再度の利用が可能となり、エレベータ装置に適用したときにおいて、従来のメンテナンスを不要とし、作動性において確実性を持ち、省エネルギー、費用節減に役立つところの、実用性のある緩衝機構を提供するものである。さらに鉄道、自動車など車両関係にも応用可能な緩衝機構となる。なおこの緩衝機構は一個に止まらず、複数個を平均に配置して緩衝を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の緩衝機構の衝突受けを示す図。
【図2】この発明の緩衝機構の反転台を示す図。
【図3】この発明の緩衝機構の組立てた状態を示す図。
【図4】反転台の他の実施例を示す拡大断面図。
【図5】緩衝円筒材に初期反転部を付与した状態を示す図。
【図6】この発明の緩衝機構をエレベータに適用した説明図。
【図7】この発明の緩衝機構を鉄道用車止めに適用した説明図。
【符号の説明】
【0023】
(S) 緩衝機構
(A) 衝突受け
(B) 反転台
(C) 緩衝円筒材
(1) 球面
(2) 嵌合部
(2’),(2”) 嵌合突起部
(3) 円形体
(4) 空気逃げ孔
(5) 基台
(6) 円柱部
(7) 固定用ボルト穴
(a) 衝突板
(c) 初期反転部
(E) エレベータ
(F) 車両用レール
(G) ガイド
(H) 固定部分
(k) かご
(Y) 緩衝ブロック
(W) 壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突受けと反転台の間に緩衝円筒材を配置し、緩衝円筒材をそれらの間に圧入し組み立てた緩衝機構において、一方に球面を形成し、他方に嵌合部を一体的に設けた円形体からなる衝突受けと、基台に上下に亙り比較的離れた嵌合突起部を設けた円柱部を一体的に形成した反転台との間に、アルミニウム製その他の緩衝円筒材を圧入して構成したことを特徴とする緩衝機構。
【請求項2】
空気逃げ孔が球面に貫通して設けられていることを特徴とする請求項1記載の衝突受け。
【請求項3】
嵌合突起部に、モリブテンなどの固体潤滑を施したことを特徴とする請求項1記載の反転台。
【請求項4】
基台、円錐部を貫通して、中心部に固定用ボルト穴を設けたことを特徴とする請求項1記載の反転台。
【請求項5】
内部に潤滑油を作動させる上部潤滑用環状孔、同縦孔、潤滑油注入口、下部潤滑用環状穴、同縦孔、潤滑油注入口を設けたことを特徴とする請求項1記載の反転台。
【請求項6】
緩衝円筒材の下端に、初期反転部を設けたことを特徴とする請求項1記載の緩衝機構。
【請求項7】
衝突物体に対して縦方向または横方向に配備することを特徴とする請求項1記載の緩衝機構。
【請求項8】
衝突物体側に配備することを特徴とする請求項1記載の緩衝機構。
【請求項9】
下面が緩衝機構の軸心に垂直になるように調整し、緩衝機構の衝突受けの球面の中心部に対応することを特徴とする衝突物体側に取り付ける衝突板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−201578(P2008−201578A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67512(P2007−67512)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼刊行物名 「昇降機・遊戯施設等の最近の技術と進歩」技術講演会 講演論文集 ▲2▼発行日 平成19年1月17日 ▲3▼発行者名 社団法人 日本機械学会 ▲4▼該当ページ 第35〜38頁 ▲5▼タイトル 「焼鈍アルミ円筒の反転塑性を利用したエレベータ用緩衝器」
【出願人】(599149625)株式会社足立機械製作所 (2)
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【Fターム(参考)】