説明

円筒状ワーク切断装置

【課題】ドロスを極力低減させるとともに、スパッタについても効率的な集塵を行うことができる円筒状ワーク切断装置を提供する。
【解決手段】金属製の円筒状のワークを輪切り状に切断して金属リングを形成する円筒状ワーク切断装置において、回転されているワークWにレーザ光を照射してワークを切断するとき、レーザ光の照射位置P2における切断方向v2と、レーザ光の照射方向v1とが所定の鋭角θをなすように、加工ヘッド200の位置を制御するとともに、位置制御がなされた加工ヘッド200からのレーザ光がワークに照射されることにより生じるスパッタについての集塵を行う集塵手段700を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製で円筒状のワークを輪切り状に切断して金属リングを形成する円筒状ワーク切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような円筒状ワーク切断装置として、金属製薄板の両端縁を接合して得られる円筒状のワークを、円筒軸の周りに回転させながら、円筒軸に直交する方向に照射するレーザ光で輪切り状に切断し、金属リングを形成するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このように、レーザ光でワークを切断する場合、ワークを構成する金属が、レーザ光の照射により溶融し、スパッタとして飛散したり、再び凝固し、ドロスとして切断部分に付着したりする。これに対処するため、従来、スパッタの飛散を阻止するフードを設けたり、溶融金属の発生を抑制する冷却媒体を供給したりする措置が講じられている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載された円筒状ワーク切断装置では、円筒状のワークを保持して回転させる保持部材の側壁に冷却媒体用の通路を形成し、この通路に冷却媒体を流通させてワークを冷却することにより、切断部分以外のワーク部分が溶融するのを回避し、ドロスの発生量を低減させるようにしている。
【0005】
また、この装置においては、ワークに対するレーザ光の照射により発生する昇華金属ガスや溶融金属等を、吐出ノズルから吐出される圧縮エアや上述の冷却媒体とともに吸引ノズルで吸引することにより、切断箇所を清浄に保つようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−184246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、冷却媒体の供給や、吸引ノズルによる吸引によってはドロスの付着を防止できない場合もある。したがって、ドロスの付着を極力低減させる措置を講ずることが望まれる。また、かかる措置と併せて、レーザ光の照射により不可避的に発生するスパッタについても、簡便かつ効果的に集塵できる措置を講ずることが望まれる。
【0008】
本発明の目的は、このような従来技術の課題に鑑み、ドロスの発生を極力低減させるとともに、スパッタについても簡便に支障なく集塵を行うことができる円筒状ワーク切断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、金属製の円筒状ワークを輪切り状に切断して金属リングを形成する円筒状ワーク切断装置であって、前記円筒状のワークを中心軸線の周りに回転させる回転手段と、前記回転手段により回転されているワークにレーザ光を照射して該ワークを切断するレーザ光照射手段と、前記レーザ光照射手段の位置が、前記レーザ光の照射に先立ち、前記ワーク上の該レーザ光の照射位置におけるワークの切断方向と該レーザ光の照射方向とが所定の鋭角をなす位置となるように制御する制御手段と、前記ワークの切断に際し、前記制御手段による制御がなされた前記レーザ光照射手段の位置に応じた方向に飛散するスパッタについての集塵を行う集塵手段とを具備することを特徴とする。
【0010】
この構成において、レーザ光の照射によりワークが切断されるとき、切断面にはドラグラインが形成される。ドラグラインとは、溶融金属が凝固するときに形成される層状の線である。ドラグラインの傾きは、ワーク上のレーザ光の照射位置におけるワークの切断方向と、レーザ光の照射方向とがなす角度に関係する。また、ワーク表面に対するドラグラインの角度が垂直に近いほど、ドロスの付着量は少ない。
【0011】
したがって、ドラグラインのワーク表面に対する角度が極力垂直となるように上述の所定の鋭角を選択し、これを目標としてレーザ光照射手段の位置を制御することにより、ドロスの付着量を減少させることができる。
【0012】
このような所定の鋭角は、上述の切断方向と照射方向とがなす鋭角を種々変更しながら試行的にワークの切断を行い、その試行の結果として得られるドラグラインの傾きやドロスの付着量に基づいて得ることができる。なお、所定の鋭角は、ワークの材質や回転速度、レーザ光の強度等により異なる値となる。
【0013】
このような所定の鋭角となるようにレーザ光が照射された場合、生じるスパッタは、ワークの内側及び外側の2方向に向かってほぼまとまって飛散する。この2方向は、所定の鋭角に応じて異なる2つの角度の方向となる。ワークの内側方向に飛散するスパッタは、ワークを回転させる回転手段に衝突して反射し、下方に落下してゆく。ワークの外側方向に飛散するスパッタは、障害物がなければその方向に沿って飛散してゆく。
【0014】
従って、本発明によれば、ワークの切断方向とレーザ光の照射方向とが所定の鋭角をなす位置となるようにレーザ光照射手段の位置を制御することによって、スパッタの飛散方向を、該制御後の位置に応じた2方向に限定することができる。そして、該2方向に飛散するスパッタについて支障なく集塵を行うことができる形状及び寸法の集塵手段を適切な位置に配置することにより、スパッタについての集塵を効率的に行うことができる。
【0015】
本発明のより具体的な態様においては、前記集塵手段は、前記レーザ光照射手段の位置に応じた方向に飛散するスパッタを捕獲する捕獲手段を備え、前記捕獲手段は、前記ワーク上の所定の表面に対向する範囲に存在し、前記ワーク上の所定の表面は、前記制御手段による位置の制御がなされたレーザ光照射手段による該ワーク上のレーザ光の照射位置から、前記回転手段による回転方向上流側の所定範囲にわたる該ワーク上の表面であるようにしてもよい。
【0016】
ワークの切断方向とレーザ光の照射方向とが所定の鋭角をなすようにレーザ光照射手段の位置が制御されている場合、スパッタの飛散方向は、上述のワーク上の所定の表面に対向する方向となる。したがって、本発明のより具体的な態様によれば、この方向の範囲に捕獲手段が存在するので、スパッタの集塵を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る円筒状ワーク切断装置の正面図である。
【図2】図1の装置における保持部の断面図である。
【図3】図1の装置における加工ヘッド、ワーク、及び集塵手段間の位置関係を示す図である。
【図4】図1の装置によりワークが切断される様子を、従来の場合と比較して示す図である。
【図5】図1の装置により切断されたワークの切断面を示す図である。
【図6】図4(b)の切断例に対する比較例を示す図である。
【図7】図6の比較例のようにして切断されたワークの切断面を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る円筒状ワーク切断装置におけるワーク、加工ヘッド、及び集塵手段の配置を示す図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る円筒状ワーク切断装置におけるワーク、加工ヘッド、及び集塵手段の配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の第1の実施形態に係る円筒状ワーク切断装置の正面図である。同図に示すように、この装置は、円筒状ワークWを保持してその円筒軸の周りに回転可能な保持部100と、保持部100により回転されるワークWにレーザ光を照射してワークWを輪切り状に切断する加工ヘッド200と、保持部100の基端側に連結されたスピンドル300と、スピンドル300を回転させるモータ400とを備える。
【0019】
モータ400の回転軸及びスピンドル300には、それぞれ図示していないプーリが設けられる。これらのプーリ間にはタイミングベルト500が掛け渡されており、スピンドル300はモータ400の回転に応じて回転するようになっている。保持部100の下方には、ワークWの切断時に生じるスパッタについての集塵を行う集塵手段700が設けられる。なお、モータ400、スピンドル300、保持部100等により、本発明における回転手段が構成される。
【0020】
円筒状ワーク切断装置はさらに、加工ヘッド200を保持してX、Y、Z方向に移動させるXYZステージ600を備える。XYZステージ600上には、ワークWの径を測定するレーザセンサ800が設けられる。円筒状ワーク切断装置の制御部は、レーザセンサ800の出力に基づき、レーザ光の焦点位置がワークWを適切に切断し得る位置となるように、XYZステージ600により、加工ヘッド200のX軸方向位置を制御する。
【0021】
ワークWは、矩形状の金属製薄板の両端を接合して円筒状に形成したものである。ワークWは、円筒状ワーク切断装置によって所定幅毎に切断され、CVT用金属ベルトを構成する金属リングに加工される。金属製薄板としては、たとえば、厚さが0.3〜0.4mm程度のマルエージング鋼が用いられる。
【0022】
図2は回転軸を含む面で切断した保持部100部分の断面図である。同図に示すように、保持部100は、ワークWの内面に接してワークWを支持するほぼ円筒形状の保持部材110と、保持部材110の内壁を押圧するほぼ円筒状の押圧部材120と、押圧部材120の径を変化させるための円錐面131及び141をそれぞれ有する第1径変化部材130及び第2径変化部材140と、第1径変化部材130及び第2径変化部材140間の位置を調整するための連結バー150及びコイルスプリング160とを備える。
【0023】
保持部材110には、その円筒軸方向に沿った第1スリット111が、基端側から先端近傍まで形成される。また、同様の第2スリット112が、先端側から基端近傍まで形成される。第1スリット111及び第2スリット112は同数、たとえば8個ずつ存在し、周方向に交互に配置される。これにより保持部材110は弾性的に径方向に伸縮自在となっている。
【0024】
保持部材110にはまた、円筒軸方向に所定間隔を置いて複数の周方向溝113が設けられる。各周方向溝113は、第1スリット111及び第2スリット112と交差する。
【0025】
保持部材110の基端及び先端の近傍は、ワークWを支持する支持面よりも径が小さな小径部114及び115となっている。小径部114及び115の周面には、該周面を一周する周溝116及び117が設けられる。周溝116及び117内にはOリング118が配置される。Oリング118は、保持部材110に対し、径方向に収縮する力を付与する。
【0026】
周溝116よりも基端側の小径部114の部分には、所定の角度範囲にわたり、周方向に沿った凸部119が設けられる。凸部119は、相互に180°離れた位置に位置する2つの第2スリット112の基端側の2箇所に設けられる。
【0027】
保持部材110は、スピンドル300の先端に固定された2つの円環状の連結部材310及び320を介してスピンドル300に連結される。このために、連結部材320は、保持部材110側端部において、環状の挿入口321を備える。挿入口321の入り口側における外側の周壁は、凸部119に対応する導入部を除き、径が小さくなった小径部322となっている。
【0028】
保持部材110は、凸部119が前記導入部に対応するように小径部114が連結部材320の挿入口321に嵌合され、回転されることにより、小径部322によって凸部119の軸方向への移動が阻止され、連結部材320に固定される。
【0029】
押圧部材120の外周面は、保持部材110の内壁を押圧し得るように、該内壁に対向する。押圧部材120の基端側の内側には、第1径変化部材130の円錐面131に対応する円錐面121が設けられる。押圧部材120の先端側の内側には、第2径変化部材140の円錐面141に対応する円錐面122が設けられる。円錐面121及び122はいずれも頂部側が押圧部材120の中心に向いている。
【0030】
押圧部材120には、その円筒軸方向に沿った図示していない基端側スリットが基端側端面から先端近傍まで形成される。また、同様に円筒軸方向に沿った先端側スリットが、先端側端面から基端近傍まで形成される。基端側スリット及び先端側スリットは同数、たとえば12個ずつ存在し、周方向に交互に配置される。これにより、圧部材120は弾性的に径方向に伸縮自在となっている。
【0031】
第1径変化部材130は、基端側の円柱状の部分と、その先端側に位置し、円錐面131を有する円錐台部分とを備える。該円柱状部分の径と、該円錐台部分の底面の径は同一であり、両部分は段差なく接続している。第1径変化部材130の中心軸上において、連結バー150が貫通する。第1径変化部材130の基端部に、連結バー150の基端部が固定される。
【0032】
第2径変化部材140は円錐台状の形状を有し、円錐面141を形成する。第2径変化部材140の中心軸上において連結バー150が貫通する。コイルスプリング160は、第1径変化部材130の円錐台部分の頂部と、円錐台状の第2径変化部材140の頂部との間に介在し、両者が離れる方向に付勢する。コイルスプリング160内を、連結バー150が通る。
【0033】
円錐台状の第2径変化部材140の底面には、円盤状のカバー部材170が固定される。カバー部材170は、保持部材110の小径部115が嵌合可能な環状の嵌合溝171を有する。
【0034】
カバー部材170の中心を、連結バー150が貫通する。カバー部材170の軸方向外側に隣接する連結バー150部分に嵌合するナット180により、カバー部材170に対する第1径変化部材130の位置を調整することができるようになっている。
【0035】
スピンドル300は、基盤910(図1)上において、支持部材920により支持される。支持部材920とスピンドル300との間にはベアリング930が介在する。これにより、スピンドル300は、その回転軸の回りに回転自在となっている。
【0036】
スピンドル300は、保持部100にエアを供給するための貫通孔330を中心軸上に有する。第1径変化部材130の円柱状部分と、スピンドル300、第1連結部材310、第2連結部材320、及び保持部材110の基端部との間には隙間が存在する。この隙間に、貫通孔330が接続している。これにより、スピンドル300の貫通孔330から、保持部材110の第1スリット111及び第2スリット112に通じるエア供給路340が形成されている。
【0037】
保持部100とは反対側の貫通孔330の端部は、図示していない送気管に接続される。この送気管は、冷却媒体としての圧縮エアを供給する圧縮エア供給源に接続される。
【0038】
図3(a)は加工ヘッド200、ワークW、及び集塵手段700間の位置関係を示す。図中のAはワークW(保持部材110)の回転軸、RはワークWの回転方向を示す矢印、P1は加工ヘッド200により回転軸Aに向けてレーザ光を照射した場合のワークW上の照射位置、P2はワークWの切断を行うときのワークWに対するレーザ光の実際の照射位置である。
【0039】
ワークWについて切断加工を施す際には、図3(a)に示すように、加工ヘッド200によるワークWに対するレーザ光の照射位置が、ワークWの回転軸Aに向かってレーザ光を照射する場合の照射位置P1よりも、ワークWの回転方向Rにおける上流側の所定の照射位置P2となるように、加工ヘッド200のY軸方向の位置が制御される。ワークWは回転方向Rとは反対側の方向、すなわち回転方向Rの上流側へ向かって切断されることになる。
【0040】
このとき、図3(b)に示すように、照射位置P2へのレーザ光の照射によりワークWが切断される方向を、照射位置P2を含む回転軸Aに垂直な面内において、照射位置P2でワークWの表面に接しかつ該表面が移動してゆく方向とは逆の方向v1であると考えることができる。
【0041】
したがって、照射位置P2におけるレーザ光の入射方向をv2とすれば、ベクトルv1及びv2の成す角は、照射位置P2に対応する鋭角θとなる。照射位置P2へのレーザ光の入射角αで表せば、θ=90°−αとなる。
【0042】
ワークWの切断時には、このような加工ヘッド200及びワークWの位置関係となるように、加工ヘッド200は、図3(a)に示すように、加工ヘッド200の光軸がワークW(保持部材110)の回転軸Aに向いているラインL1上の位置から、Y軸の負の方向に所定の距離Dだけ移動したラインL2上に位置するように並進移動される。
【0043】
距離Dは、ワークWの厚み、回転速度等の条件に基づき、切断部分にドロスが付着しにくいように設定される。すなわち、制御手段は、ワークWの切断に先立ち、切断対象となるワークWの厚みや回転速度等に基づき、距離Dを取得し、XYZステージ600を制御して、加工ヘッド200をラインL2上の位置に位置させる。
【0044】
距離Dは、予め各種のワークWを用い、各種の条件下で試行的に切断を行うことにより得られた試行データに基づいて作成される対応テーブルを参照して取得することができる。試行データには、各試行におけるワークWの材料、厚み、回転速度、ワークWに生じたドラグラインの傾き、加工ヘッド200のラインL1上の位置からのY軸の負の方向への移動距離d、切断部分に付着したドロスの高さ等が含まれる。
【0045】
なお、ドラグラインとは、レーザ光によりワークWを切断するときに発生した溶融金属が凝固するときに切断面に形成される層状の線である。ドラグラインの傾きは、レーザ光による切断部分へのドロスの付着量に関係する。ドラグラインがワークWの表面に対して垂直であるほど、ドロスの付着量が少ないことがわかっている。
【0046】
上述の試行データに基づき、各ワークWの材料毎に、少なくとも1つのドラグラインの傾き、並びに該傾きに対応するワークWの厚み、保持部材110(ワークW)の回転速度、及び距離Dを対応付けた対応テーブルが構成される。テーブルに含められる少なくとも1つのドラグラインの傾きとしては、ドロスの付着量が少なかったときの値が採用される。
【0047】
なお、距離Dの代わりに、距離Dに対応する上述の入射角度αや鋭角θ(=90°−α)を対応付けたものであってもよい。
【0048】
入射角度αとしては、たとえば40°程度が該当する。このような入射角度αでレーザ光がワークWを照射位置P2において照射した場合、これにより生じるスパッタは、図3(a)に示すように、ワークWの内側方向d1及び外側方向d2の2方向へほぼまとまって飛散する。たとえば、照射位置P2におけるレーザ光の入射角度αが40°である場合、レーザ光の照射方向に対し、内側方向d1が成す角βは40°、外側方向d2が成す角γは42°となる。
【0049】
したがって、集塵手段700としては、このような方向に飛散するスパッタを効果的に捕獲できる捕獲手段を備えたものが採用される。具体的には、集塵手段700は、スパッタの捕獲手段として、上面が開放した直方体形状の箱のような集塵部701と、外側方向d2に沿って飛散するスパッタを集塵部701に向けて反射する平板状の反射部702とを備える。
【0050】
上述のようにワークの切断方向とレーザ光の照射方向とが所定の鋭角θをなす場合、スパッタの飛散方向は所定の方向となる。この方向は、ワークW上のレーザ光の照射位置P2から回転方向Rの上流側の所定範囲にわたるワークWの表面に対向する方向である。したがって、この方向の範囲に存在するように捕獲手段が配置される。所定範囲にわたるワークWの表面は、例えば照射位置P2から、ワークWの中心角で100°程度の範囲に含まれる表面が該当する。
【0051】
すなわち、集塵手段700は、集塵部701が保持部100の下方に位置し、反射部702が集塵部701に向けて、外側方向d2のスパッタを反射できる位置に配置される。集塵部701は、内側方向d1に沿って飛散し、保持部100に衝突し、反射して下降してくるスパッタを支障なく集塵できる大きさを有する。反射部702は、外側方向d2に沿って飛散するスパッタを漏れなく集塵部701に向けて反射できる大きさを有する。
【0052】
この構成において、ワークWの切断加工を行う際には、まず、保持部材110の外周に対してワークWの内周が対向するように、ワークWが保持部材110に装着される。このとき、保持部100は、図2の中心線Cの下半部で示されるように、第1径変化部材130及び第2径変化部材140は離間し、保持部材110は、Oリング118により径方向に収縮した状態にある。
【0053】
次に、図2の中心線Cの上半部で示されるように、ナット180が回転され、第2径変化部材140が第1径変化部材130の方向に変位される。これに伴ってコイルスプリング160が圧縮する。これにより、第1径変化部材130及び第2径変化部材140は相互に近接する方向に変位するので、押圧部材120は、第1径変化部材130及び第2径変化部材140の円錐面131及び141から受ける力により径が拡大する。
【0054】
押圧部材120の径が拡大すると、保持部材110の内壁が、押圧部材120の側面により押圧され、保持部材110の径が拡大する。このとき、カバー部材170の嵌合溝171に、小径部115が嵌合し、保持部材110の先端は、Oリング118を介してカバー部材170に固定される。
【0055】
これにより、ワークWは、歪みが矯正されるとともに、保持部材110によってクランプされる。この後、ナット180を逆方向に回し、コイルスプリング160の反発力により第1径変化部材130及び第2径変化部材140を離間させて、押圧部材120の径を若干元に戻し、又は初期の径に戻すようにしてもよい。
【0056】
次に、モータ400が駆動される。これにより、スピンドル300を介してワークWが回転される。ワークWの回転速度は、円筒状ワーク切断装置の制御手段により制御され、たとえば30〜200m/分の周方向に沿った速度に設定される。また、図示していないエア供給源からは、冷却媒体としての圧縮エアの供給が開始される。
【0057】
エア供給源から供給される圧縮エアは、エア供給路340を介して、保持部材110の第1スリット111及び第2スリット112に供給され、さらには、周方向溝113に供給される。このとき、上述の押圧部材120の径の戻しが行われていた場合には、保持部材110とワークWとの間には若干のクリアランスが存在するので、供給される圧縮エアは、このクリアランスにおいて空気膜を形成する。
【0058】
また、このようにして保持部材110の側壁に圧縮エアが到達することにより、該側壁が冷却効率に優れた冷やし金として機能する。なお、上述の押圧部材120の径の戻しが行われていなかった場合でも、圧縮エアが保持部材110とワークWとの間に侵入し、空気膜を形成する。
【0059】
これに応じ、円筒状ワーク切断装置の制御手段は、与えられているワークWの材料と厚み、及び要求されるドラグラインの傾き、並びに自身が把握しているワークW(保持部材110)の回転速度に基づき、上述の対応テーブルを参照し、距離Dを求める。そして、XYZテーブル600を制御し、図3(a)のように、加工ヘッド200の位置が、ラインL1上の位置から距離Dだけ離れたラインL2上の位置となるように加工ヘッド200を平行移動させる。
【0060】
このとき同時に、制御手段は、XYZテーブル600を制御し、ワークWの回転軸Aの方向(Z軸方向)における加工ヘッド200の位置を、保持部材110の最も先端側の周方向溝113上に位置するワークWに対してレーザ光が照射される位置に設定する。また、加工ヘッド200のY方向位置を、レーザセンサ800の出力や、距離Dに応じ、ワークWを切断するための適切な位置に設定する。
【0061】
次に、制御手段は、加工ヘッド200を制御し、回転しているワークWに対し、レーザ光を照射する。レーザ光が照射されたワークWの部分は、温度が上昇して溶融し、切断されてゆく。ワークWが1回転すると、ワークWの最も先端側の部分が、1つ目の金属リングとして、他の部分から切り離される。なお、切断の最中に発生した溶融金属が凝固するときに、レーザ光に沿ってワークWに層状の線、すなわち上述のドラグラインが形成される。
【0062】
このレーザ光による切断に際しては、レーザ光の照射によりワークWの一部が昇華して発生する昇華金属ガスが凝集して切断部分に付着したり、溶融金属が切断部分に付着したりしてドロスの付着が発生するおそれがある。かかるドロスの付着は、保持部材110とワークWとの間に形成される空気膜や、加工ヘッド200からのアシストガスの突出により抑制される。
【0063】
また、このとき、図3(a)に示すように、レーザ光の照射により溶融した金属が、スパッタとなってワークWの内側方向d1及び外側方向d2に飛散する。内側方向d1に飛散したスパッタは、保持部材110等に衝突して反射し、集塵部701内に落下する。また、外側方向d2に飛散したスパッタは反射部702により反射され、集塵部701に落下する。これにより、スパッタは支障なく集塵手段700により集塵される。
【0064】
図4はこのようにしてワークWが切断される様子を、従来の場合と比較して示す。図4(a)は、加工ヘッド200が図3(a)におけるラインL1上に位置する状態で切断がなされる従来の場合の様子である。図4(b)は、加工ヘッド200がラインL2上に移動され、切断がなされる本実施形態の場合である。
【0065】
従来の場合、図4(a)に示すように、レーザ光31はワークWに対し、入射角度0°で、垂直に入射する。この場合、レーザ光31が作用してワークWを切断し、加工が進行している部分32は、ワークWの表面に対して傾斜している。
【0066】
このため、加工進行部分32の長さは比較的長く、その分、溶融金属が比較的多く発生し、発生した溶融金属34が切断部分33に滞留する時間も比較的長い。したがって、溶融金属34がドロスとなってワークWの切断部分33に付着し易い。なお、ドラグラインは加工進行部分32に沿って形成されるので、図4(a)の従来の場合、ドラグラインは切断方向v1に対し、反時計回りで鈍角を成す。
【0067】
これに対し、本実施形態の場合、図3(a)のように、加工ヘッド200がラインL1から距離Dだけ離れたラインL2上に位置し、ラインL2に沿ってレーザ光31が照射される。このため、図4(b)のように、レーザ光31はワークWに対し、距離Dに応じた入射角度αで入射する。すなわち、レーザ光の入射方向と切断方向v1とが所定の鋭角θ(=90°−α)を成す。なお、図中のNはワークWの表面についての法線である。
【0068】
この場合、レーザ光31が作用し、ワークWを切断している加工進行部分32は、ワークWに対してほぼ垂直となる。したがって、図4(a)の従来の場合に比べ、加工進行部分32の長さは短い。つまり、加工により生じる溶融金属は最小となり、溶融金属34が切断部分33に滞留する時間も最短となる。
【0069】
したがって、溶融金属34は、ドロスとなって切断部分33に付着する余裕が与えられることなくそのまま排出される。すなわち、上述の保持部材110とワークWとの間に形成される空気膜によるパージ作用や加工ヘッド200から吐出されるアシストガスにより、スムーズに排出されることになる。
【0070】
図5は、本実施形態に従い、図4(b)のように切断されたワークWの切断面41を示す。図5中の破線42は、ワークWに形成されたドラグラインに沿ったラインである。本実施形態の場合、図5に示すように、切断されたワークWに形成されるドラグラインの角度は破線42で示されるように、ワークWの表面に対し、ほぼ直角となる。そして、切断面41の下部に、ドロスは付着していない。
【0071】
このようにして1つ目の金属リングの切断が終了すると、加工ヘッド200が、ワークWにおける次の切断位置に対応する位置に位置するように、ワークWの軸方向に沿って移動される。すなわち、保持部材110の先端側から2番目の周方向溝113上に位置するワークWにレーザ光が照射される位置に移動される。
【0072】
そして、この位置において、再び上述と同様にしてレーザ光が照射され、ワークWが切断され、2つ目の金属リングが形成される。このようにして、順次、周方向溝113上に加工ヘッド200が位置決めされ、金属リング形成されてゆく。ただし、この間、Y軸方向における加工ヘッド200の位置は、常に、図3(a)で示されるラインL2上の位置に維持される。
【0073】
図6は本実施形態に対する比較例を示す。図6の比較例では、本実施形態の場合とは逆の方向からレーザ光を入射させる場合にワークWが切断される様子が示されている。つまり、入射角度は図4(b)の場合と同じαであるが、レーザ光の入射方向と切断方向v1とが鈍角(=90°+α)を成す。そして、レーザ光31が作用し、ワークWを切断している加工進行部分32は、ワークWに対してかなり傾斜する。
【0074】
したがって、図4(b)の本実施形態の場合に比べ、加工進行部分32は長い。このため、加工により生じる溶融金属が多くなり、切断部分33に滞留する時間も長期化する。その分、溶融金属34は、ドロスとなって切断部分33に付着しやすくなる。
【0075】
図7は、この比較例のようにして切断されたワークWの切断面61を示す。切断面61の下部にはかなりの量のドロス62が付着している。また、ドラグラインに沿った破線63で示されるように、ドラグラインは切断方向v1に対し、反時計回りに、大きな鈍角を成す。
【0076】
以上説明したように、本実施形態によれば、加工ヘッド200を、ワークWの回転方向上流側へ並進移動させ、図3(b)のように、レーザ光の照射位置P2における切断方向v2と、レーザ光の照射方向v1とが所定の鋭角θ(=90°−入射角α)をなすようにしたため、レーザ光の照射により発生する溶融金属を減少させ、かつ速やかに排出することができる。したがって、ドロスが切断部分に付着するのを効果的に防止することができる。
【0077】
なお、ワークWに対するレーザ光の入射角度が所望の角度αとなるようにするためには、加工ヘッド200を回動させ、レーザ光の照射方向を変更する方法も考えられる。しかしながら、加工ヘッド200を回動可能に固定し、その回動の中心軸の周りに所定角度だけ正確に傾けて上述の入射角度αを得る動作を繰り返し高精度で行うのは困難である。不可避的に発生する加工ヘッド200の回動角度の調整誤差が、回動の中心軸から離れるほど拡大されるからである。
【0078】
この点、本実施形態によれば、図3(a)のように、加工ヘッド200を、レーザ光の照射方向が保持部材110の回転軸Aに向かう方向となるラインL1上の位置から、ワークWへのレーザ光の入射角度が角度αとなるラインL2上の位置に並進移動させるようにしたため、入射角度を簡便かつ支障なく角度αに設定することができる。
【0079】
すなわち、ラインL1上における加工ヘッド200の向き及び位置を、レーザ光の照射方向が保持部材110の回転軸Aに向かう方向となるように高い精度で合わせておくことにより、この位置から加工ヘッド200を、ワークWに対するレーザ光の入射角度が角度αとなるようなラインL2上の位置に並進移動させることは、簡便な機構により比較的高い精度で行うことができる。
【0080】
また、本実施形態によれば、上述の対応テーブルに基づいて、加工するワークWの材料や、厚み、回転速度等に対応するラインL1からラインL2までの距離Dを取得し、この距離だけ加工ヘッド200を平行移動させてレーザ光の照射を行うことにより、ワークWの種類に応じ、所望のドラグラインの傾きが生じるようなワークWの切断を行い、ドロスの付着量を減少させることができる。
【0081】
また、ワークW上のレーザ光の照射位置P2から回転方向Rの上流側の所定範囲にわたるワークWの表面に対向する方向の範囲において存在するように捕獲手段(集塵部701、反射部702)を配置するようにしたため、効率的にスパッタについての集塵を行うことができる。
【0082】
図8は、本発明の第2の実施形態に係る円筒状ワーク切断装置におけるワークW、加工ヘッド200、及び集塵手段700の配置を示す。同図(a)では上方から見た配置が示されている。同図(b)では、同図(a)中の矢印B方向から見た様子が示されている。すなわち、ワークWの回転軸Aの向きは、鉛直方向に沿った向きとされる。
【0083】
本実施形態の円筒状ワーク切断装置の構成要素は、図1の場合と同様であるが、モータ400、スピンドル300、保持部100等のワークWの回転手段は、回転軸Aの向きに適合するように構成される。ワークWの位置及び回転方向Rに対する加工ヘッド200の位置関係は図3の場合と同様である。したがって、ワークWの切断時に生じるスパッタは、図3(a)の場合と同様に、ワークWの内側方向d1及び外側方向d2へ飛散する。
【0084】
集塵手段700は、図8に示すように、ワークWの下方に設置される。これにより、ワークWの内側方向d1へ飛散し、保持部材110で反射して下降してくるスパッタS1については、集塵部701で直接集塵することができ、外側方向d2へ飛散するスパッタS2については、反射部702により集塵部701上へ向けて反射させ、集塵することができる。他の点については、第1実施形態の場合と同様である。
【0085】
図9は本発明の第3の実施形態に係る円筒状ワーク切断装置におけるワークW、加工ヘッド200、及び集塵手段700の配置を示す。同図においては正面から見た様子が示されている。本実施形態の円筒状ワーク切断装置の構成要素は、図1の場合と同様のものであるが、加工ヘッド200は、鉛直方向に沿って上方からレーザ光を照射するように配置される。これに合わせて、XYZステージ600が構成される。
【0086】
ワークWの位置及び回転方向Rに対する加工ヘッド200の位置関係は図3の場合と同様である。したがって、ワークWの切断時に生じるスパッタは、図3(a)の場合と同様に、ワークWの内側方向d1及び外側方向d2へ飛散する。
【0087】
集塵手段700は、図9に示すように、レーザ光がワークWを照射する位置の下方に設置される。これにより、ワークWの内側方向d1へ飛散し、保持部100で反射して下降してくるスパッタS1については、集塵部701で直接集塵し、外側方向d2へ飛散するスパッタS2については、反射部702により集塵部701上に反射させて集塵することができる。他の点については、第1実施形態の場合と同様である。
【符号の説明】
【0088】
31…レーザ光、100…保持部、200…加工ヘッド(レーザ光照射手段)、300…スピンドル、400…モータ、500…タイミングベルト、600…XYZステージ(位置制御手段)、700…集塵手段、W…ワーク、θ…所定の鋭角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の円筒状ワークを輪切り状に切断して金属リングを形成する円筒状ワーク切断装置であって、
前記円筒状のワークを中心軸線の周りに回転させる回転手段と、
前記回転手段により回転されているワークにレーザ光を照射して該ワークを切断するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段の位置が、前記レーザ光の照射に先立ち、前記ワーク上の該レーザ光の照射位置におけるワークの切断方向と該レーザ光の照射方向とが所定の鋭角をなす位置となるように制御する制御手段と、
前記ワークの切断に際し、前記制御手段による制御がなされた前記レーザ光照射手段の位置に応じた方向に飛散するスパッタについての集塵を行う集塵手段とを具備することを特徴とする円筒状ワーク切断装置。
【請求項2】
前記集塵手段は、前記レーザ光照射手段の位置に応じた方向に飛散するスパッタを捕獲する捕獲手段を備え、
前記捕獲手段は、前記ワーク上の所定の表面に対向する範囲にわたって存在し、
前記ワーク上の所定の表面は、前記制御手段による位置の制御がなされたレーザ光照射手段による該ワーク上のレーザ光の照射位置から、前記回転手段による回転方向上流側の所定範囲にわたる該ワーク上の表面であることを特徴とする請求項1に記載の円筒状ワーク切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−166228(P2012−166228A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28577(P2011−28577)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】