説明

再充電可能なリチウム電池のための高電圧負極活性材料

本発明は、再充電可能なリチウム電池のための活性材料に関し、この際、活性材料は、一般式LiTiまたはLi2.28Ti3.43を有する、ドープされたかまたはドープされていない炭素含有リチウムチタン酸化物ラムスデライトをベースとする。この活性材料は、一般式Li2−4c−Ti(式中、0.1<c<0.5である)を有する炭素置換されたラムスデライト相および一般式Li+xTi2−x(式中、0<x<0.33である)を有する0.1モル%を上回るスピネル相を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再充電可能なリチウム二次電池の負極のための活性材料に関し、この際、活性材料は、一般式LiTiまたはLi2.28Ti3.43を有するドープされたかまたはドープされていないラムスデライト型炭素含有リチウムチタン酸化物をベースとする。
【0002】
再充電可能なリチウム電池のためのアノード材料は、一般に炭素群から選択される。炭素材料は、極限条件における安全性の問題を有する。第一に、極めて早い速度および/または低い温度で充電する間にLiは炭素表面で堆積し、かつそれによってデンドライト型リチウムの形成が穏やかなショートを招きうる。第二に、酷使的な過熱が、グラファイト電位での電解質溶剤の還元生成物からなる不動態化層の溶解を招き;かつ結果として生じる溶剤の連続的還元は、熱暴走の最初の段階となりうる。
【0003】
グラファイトに代わる代替的な電気化学的活性アノード材料を見出すための多くの試みがなされている。特に、リチウムチタン酸化物、例えば、スピネル相LiTi12(Journal of Electrochemical Society 14120 (1994) L147に説明されている)またはラムスデライト相LiTi( Material Research Bulletin 32 (1997) 993に説明されている)は、炭素に対する幾つかの利点、すなわち、サイクル間の安全性を改善するLiに対する1.5V前後の高い平均電圧、低い不可逆損失およびより低い分極によって提案されている。スピネル構造は、リチウムを、スピネルの岩塩形への相転移により2相プロセス中に挿入することで、Liに対する1.55Vのプラトーを示し、かつ175Ah/kgの最大容量を獲得するが、その一方でラムスデライトは固溶体中に、Liに対して1〜2Vの電圧範囲で、1相プロセスに相当する平坦なS−形状の充放電曲線で、リチウムをトポタクチックに挿入する。
【0004】
チタン酸リチウム酸化物(LiTi)は、製造における低いコストおよびチタンの非毒性の理由から、有望な負極材料とされている。理論容量は198Ah/kgであるのに対して、実際の可逆容量は、低い電流密度(C/15)に関して120〜130Ah/kgであり、かつ高い電流密度(C)では110Ah/kgのみに達するに過ぎない。この可逆容量の結果として、リチウム導入の際に観察される分極および燃焼プロセスに要求される高い温度が、この化合物の適用分野を極めて制限する。
【0005】
より低い合成温度および低い電流密度での良好なサイクル耐性は、セラミック経路を使用して、LiTi中で少量のTi4+をFe3+で置換することによって達成することができる。しかしながら、第一放電曲線は、Fe3+/Fe2+の形質転換によるプラトーを示し、これが可逆容量を制限し、かつ他の性能に関しては、LiTiと比較して改善されているものではない。EP1623473 B1によれば、可逆容量は、一般式Li2+vTi3−wFeM’7−αによるラムスデライト構造を有するリチウムチタン酸化物が、以下の元素:Ti3+、Co2+、Co3+、Ni2+、Ni3+、Cu2+、Mg2+、Al3+、In3+、Sn4+、Sb3+、Sb5+の1個または2個で同時に置換されている場合に、140Ah/kgまで改善することができる。置換された材料は、より低い合成温度で得られ、これにより製造コストが減少する。
【0006】
さらに、PCT/EP2008/009763によれば、活性材料が、一般式Li2+v−4cTi3−wFeM’7−αを有し、かつ、以下の元素:Ti3+、Co2+、Co3+、Ni2+、Ni3+、Cu2+、Mg2+、Al3+、In3+、Sn4+、Sb3+、Sb5+の2個を含有する炭素冨化相を含む場合には、その比可逆性容量は、ラムスデライトチタン酸リチウムの理論値にほぼ近い190Ah/kgまで増加する。電気化学的結果は、1つ目は2.2〜1.6Vの間および2つ目は1.5Vを下回る2段階の電圧プロフィールを有する電気化学的曲線を示す。材料は、リチウム、チタンおよび鉄化合物、C前駆体化合物、ならびにMおよびM’化合物を粉砕および混合し、引き続いて、中性雰囲気中で高められた温度で焼結プロセスをおこなうことによって得られる。
【0007】
本発明の課題は、高いエネルギーおよび高い比出力の点で性能をさらに改善させることであり、同時に使用における安全性および環境に配慮して、これらすべてを合理的なコストで行うことである。
【0008】
これは、一般式Li2−4cTi(式中、0.1<c<0.5)を有する炭素置換されたラムスデライト相および一般式Li1+xTi2−x(0<x≦0.33)を有するスピネル相を含み、前記活性材料が、0.1モル%以上、かつ好ましくは1モル%以上のスピネル相を含有する、リチウム電池のための複合負極活性材料によって達成される。一つの実施態様において、この複合負極活性材料は、一般式Li2−4cTiを有する前記炭素置換ラムスデライト相および一般式Li1+xTi2−x(式中0<x≦0.33)を有する前記スピネル相の双方を少なくとも99モル%、および好ましくは少なくとも99.9モル%を含む。
【0009】
前記炭素置換されたラムスデライト相は、さらに元素Fe、MおよびM’を含み、かつ一般式Li2+v−4cTi3−wFeM’7−α[式中、MおよびM’は0.5〜0.8Åのイオン半径を有し、かつ酸素を有する八面体構造を形成する金属イオンであり;その際、−0.5≦v≦+0.5;y+z>0;x+y+z=wであり、かつ0<w≦0.3;0.1<c≦(2+v)/4であり;かつαは、関係式2α=−v+4w−3x−ny−n’z(式中、nおよびn’はそれぞれMおよびM’の形式酸化数である)によるMおよびM’の形式酸化数nおよびn’に関する]を有する。
【0010】
好ましくはMおよびM’は、Ti3+、Co2+、Co3+、Ni2+、Ni3+、Cu2+、Mg2+、Al3+、In3+、Sn4+、Sb3+、Sb5+;からなるリストから選択された異なる金属であり、かつ、好ましくはM=Ni2+およびM’=Al3+である。
【0011】
前記活性材料は、好ましくは1.0〜1.5質量%の炭素含量を有する。さらに好ましくは、スピネル含量は5〜16モル%、およびさらに8〜11モル%である。
【0012】
さらに本発明は、前記アノード材料を有する再充電可能な二次電池に関する。
【0013】
本発明による負極活性電極材料は、主にドープされていないかまたはドープされたC含有LiTiラムスデライト相およびスピネル型Li1+xTi2−x(式中、0<x≦0.33)の第2相を含有する複合材料から構成される。x=0.33の場合に、第2相はLiTi12から成る。ラムスデライト構造は、八面体環境中のTiとLiとから成る格子および四面体環境中のLi原子により部分的に占有されたチャネルを含む。構造的なリチウムおよびチタンの分布は、一般式:
(Li1.722.28[TiLi0.57(式中、リチウム原子は、チャネル(c)および八面体側(l)中に分配され、かつ、その際、チャネル中の2.28の空格子点で、電気化学反応におけるリチウム挿入に関しては任意である)によって記載することができる。構造中に挿入された炭素は、3個の酸素平面の形でCO2−基を形成することによってチャネルからの四面体リチウム原子を部分的に置換しうる。ラムスデライト相中のリチウム欠失は、リチウム冨化相Li1+xTi2−x(0<x≦0.33)の形成によって補われる。
【0014】
最大のスピネル相を提供するよう最適な炭素含量を確立することが可能である。この最適化は1〜1.5質量%の炭素原子に定められ、これにより11〜16モル%のスピネル含量を生じる。場合による炭素過剰量は、被覆として粒子間部分上に部分的に堆積しうる。PCT/EP2008/009763中に示されたよりも高い容量を獲得するために、ラムスデライト相にドーパントを添加する必要がないばかりか、他の元素によってTiを置換する必要がないことは、本発明の主な実施態様の活性材料の特別な利点であるが、これは、ラムスデライト相がドーパントまたは元素を含むといった特別な理由によるものであってもよい。例えば、合成に関するより低い温度および低い電流密度での良好なサイクル耐性は、LiTi中で少量のTi4+をFe3+で置換することによって達成することができ、かつ元素MおよびM’はさらに、挿入されたリチウムのための可能な位置の数を増加させるか、あるいは存在する空格子位置の入りやすさをより早くすることによって、電気化学的性能を改善することができる。他の潜在的利点は、EP1623473 B1で挙げられている。
【0015】
本発明の他の実施態様において、負極活性材料を含む再充電可能なリチウム電池を提供する。この電池は、前記に示すようなアノード活性材料を含む;リチウムの可逆的インターカレーション/デインターカレーション能力を有する公知のカソード活性材料、例えば高電圧の正極活性材料は、酸化物(例えばLiCoO、LiNi0.33Mn0.33Co0.33、LiNi0.80Co0.15Al0.05またはLiMn)の形を含むリチウムがインターカレーションされた化合物およびホスフェート材料から成り(例えばLiFePO);かつ公知の電極、例えばLiPFを含む溶液は以下に示すものであってもよい。アノードとしてこの材料を用いる再充電可能なリチウム電池は、高い電流密度で、1〜2.5Vの範囲でなめらかな電気化学的曲線を有する増加した容量を示し、かつ、従来のLi−Ti−Oラムスデライト化合物と比較してサイクル後に高い容量保持率を有する。180〜200Ah/kgの理論容量は、前記範囲1〜2.5Vで10A/kgの電流密度で得られる。
【0016】
さらに本発明は、リチウム化合物、チタン化合物、C前駆体化合物、およびに場合によっては鉄化合物およびMおよびM’化合物をボールミルで粉砕および混合する工程、引き続いて950℃を上回る温度で焼結するプロセスおよび焼結した材料を急冷する工程を含む、負極活性材料の製造方法に関し、その際、焼結プロセスは、還元剤を含む気体雰囲気中で実施される。
【0017】
還元剤は好ましくは、水素、炭化水素および一酸化炭素からなる群の1種またはそれ以上である。さらに好ましくは、還元剤を含む気体雰囲気は、アルゴンガスから成る。特に好ましくは、1〜10体積%Hおよびさらには3〜10体積%Hを有するアルゴン−酸素混合物から成るガス状雰囲気である。この方法は簡単であり、かつそのコストは低い。
【0018】
さらに本発明は、以下の詳細な説明および付属の図面において開示される。
【0019】
図1:本発明(実施例2)の活性複合材料のC/10比での定電流充電/放電曲線(点線)およびその導関数dx/dV(実線)を示す図である。図1中、xは、挿入されたリチウムの数およびVは電位を意味する。
【0020】
図2a、2b:異なる炭素含量で得られた合成された材料のXRDを示す図である。
【0021】
図3:0%の炭素(比較例1)および1.09質量%の炭素(実施例3)を含む、合成された材料の主要ピークのXRDピークプロフィールを示す図である。
【0022】
図4:炭素含量の関数における、斜方晶系空間群Pbnm中で示される格子パラメータΔa/a、Δb/bおよびΔc/cの評価を示す図である。
【0023】
図5:比較例1および実施例2〜6のC/10およびC比での容量値(Ah/kg)を示す図である。
【0024】
図6:本発明(実施例3)および比較例7(ex−situ混合により得られた複合材料)の活性複合材料の1〜2.5Vの範囲におけるC/10比での定電流充電/放電曲線を示す図である。
【0025】
図7:本発明(実施例8)の活性複合材料のC/10比での定電流充電/放電曲線(点線)およびその導関数dx/dV(実線)を示す図である。図7中、xは挿入されたリチウムの数およびVは電位を意味する。
【0026】
本発明の負極材料は、2個の活性相、ラムスデライトおよびスピネルを含有する複合材料であり、これは、チャネル中のリチウム四面体部位における炭素の部分的置換によって形成される。改質化されたラムスデライトは主要な活性相であり、かつ支持材料として作用する。このようにして形成された複合材料は、リチウムを、固溶体中に1〜2.5Vの範囲で、主にトポタクチックに挿入する。負極材料は、高い単位質量あたりの容量および単位体積あたりの容量の結果を提供し(180〜200Ah/kg、570〜635Ah/mで)、かつドープされていない材料に対する利点を保持する:
●5〜15Ah/kgの低い不可逆容量;
●優れたサイクル耐性;
●C/10比での50〜90mVの低い分極。
【0027】
本発明による化合物は、好ましくは以下の工程を用いてセラミックプロセス中で、in−sistuで製造することができる:
●リチウム化合物、チタン化合物、存在する場合には金属元素化合物、および炭素化合物を含む前駆体混合物の遊星形ボールミル中での反応性機械的粉砕および混合工程;特定の
パラメータ条件(容器装填量、ビーズの数、粉砕速度および粉砕時間)を使用する、
●反応温度までの高い割合の温度勾配を用いての、制御された雰囲気下での一工程熱処理;
●反応温度でのプラトー;
●制御された雰囲気下で室温までの急冷工程。
【0028】
この方法において、それぞれの金属元素は、金属酸化物または当該金属酸化物の無機または有機固体前駆体から選択することができる。好ましくは、以下の酸化物が考慮される:酸化リチウム(LiO)またはその前駆体および酸化チタン(アナターゼ型 TiO)または2個のチタニア相の混合物(アナターゼおよびルチル)。前駆体混合物中のそれぞれの酸化物の割合は、支持材料の化学量論比に相当する。
【0029】
炭素化合物は、短鎖(すなわち、スクロース、サッカロース)、長鎖(すなわち、セルロース、澱粉)または環状鎖(すなわち、アスコルビン酸)を含む、公知の固体炭化水素系化合物から選択される。公知の炭化水素系相、例えばこれらの類または化合物は、例えばグルコース、フルクトース、スクロース、アルコルビン酸、ポリオシド(例えば澱粉、セルロースおよびグリコーゲンの類の縮合物に相当するもの)が好ましい。複合材料中の炭素の割合は、熱処理中のガス流中でのCOおよびCOへの炭素分解を考慮して、使用された炭化水素系化合物に依存して算定することができる。炭素割合は、粒子間部分での過剰量が好ましい場合には調整することができる。粒子間部分における発熱炭素の形成および堆積は、材料の導電性を改善し、導電性被覆として作用する。
【0030】
熱処理は、還元雰囲気下で、高い温度、すなわち950℃を上回る温度で、かつ好ましくは980℃〜1050℃で、1時間30分〜2時間で、高い結晶性および制限された粒径を得るために実施する。室温まで急冷工程をおこない、そこで、製造される相は準安定性である。高い温度工程中で、(ドープされた)LiTi相中のリチウムは、活性炭素で置換され(したがって、構造中において可能なCの最大値である)、この場合、これは、共有結合を生じさせてTi−O−Cを形成する。この結合は、3個の酸素面におけるCO2−型基として作用する。ラムスデライト相中のリチウム欠損は、スピネル型
Li1+xTi2−x(0<x≦0.33)のリチウム冨化相の形成によって補われる。
【0031】
Ar/Hガスの使用は、2種の電気化学的活性相、すなわちラムスデライト相およびスピネル相のみから成る複合材料の形成を促進させる。気体混合物中の還元剤Hは、ラムスデライト相中で固溶体として混合原子価のチタン(Ti3+/Ti4+)形成を可能にするとされている。他の還元剤およびキャリアガス、例えばN/Hのガス混合物は、あまり純粋でない活性相を提供する。例えば、TiO構造に近いラムスデライト相およびリチウム冨化相LiTiOは、この場合、電気化学的に不活性であり、付加的に得ることができる。したがって、本発明において不純物が生じることは排除されないが、しかしながら不純物は、<1モル%またはそれ未満に量的に制限することができる。
【0032】
本発明による材料および製造方法が、再充電可能なリチウム電池の適用分野において、 − 単位質量あたりの容量および単位体積あたりの容量を改善させ、かつ、従来技術のドープされた、およびドープされていない双方のチタンベースの負極材料の性能を改善させること、
− 安全なサイクル電位を獲得すること;および
− 第1サイクルでの低い不可逆容量による高い可逆性を獲得すること、
を可能すると結論付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明(実施例2)の活性複合材料のC/10比での定電流充電/放電曲線(点線)およびその導関数dx/dV(実線)を示す図
【図2a】異なる炭素含量で得られた合成された材料のXRDを示す図
【図2b】異なる炭素含量で得られた合成された材料のXRDを示す図
【図3】0%の炭素(比較例1)および1.09質量%の炭素(実施例3)を含む、合成された材料の主要ピークのXRDピークプロフィールを示す図
【図4】炭素含量の関数における、斜方晶系空間群Pbnm中で示される格子パラメータΔa/a、Δb/bおよびΔc/cの評価を示す図
【図5】比較例1および実施例2−6のC/10およびC比での容量値(Ah/kg)を示す図
【図6】本発明(実施例3)および比較例7(ex−situ混合により得られた複合材料)の活性複合材料の1〜2.5Vの範囲におけるC/10比での定電流充電/放電曲線を示す図
【図7】本発明(実施例8)の活性複合材料のC/10比での定電流充電/放電曲線(点線)およびその導関数dx/dV(実線)を示す図
【0034】
以下の実施例は、本願発明をさらに詳細に説明するものである。
【0035】
比較例1:
比較例1(CE1)は、ドープされていないLiTiO材料に関する。合成プロセスはセラミック経路により実施される。前駆体LiCO(0.5489g)、ナノサイズのTiO(アナターゼ/ルチル)(1.7805g)の化学量論的混合物の反応性機械的粉砕工程を、Fritschの遊星形ボールミルPulverisette(登録商標)7(スピード8で15分)中で、攪拌ビーズ(agathe beads)(質量は、粉末装入量の10倍である)を用いて実施する。粉末の熱処理は、Ar/H(95/5)雰囲気下で、1工程の加熱プロセスで、アルミナトレイ中で実施される:加熱勾配は7℃/分で、1時間30分に亘って最終温度工程980℃まで維持し、引き続いての急冷工程は、材料が制御されたガス流下で室温に急冷されるまで実施され、これにより、ラムスデライト構造が安定化する。
【0036】
実施例2
実施例2(EX.2)は、本発明による炭素置換されたLiTi材料に関する。合成工程はセラミック経路により実施される。前記体LiCO(0.5213g)、ナノサイズのTiO(アナターゼ/ルチル)(1.6911g)、スクロース(0.100g)の化学量論的混合物の反応性機械的粉砕工程は、Fritschの遊星形ボールミルPulverisette(登録商標)7(スピード8で15分)中で、攪拌ビーズ(質量は、粉末装入量の10倍である)を用いて実施する。粉末の熱処理は、Ar/H(95/5)雰囲気下で1工程の加熱プロセスで、アルミナトレイ中で実施される:温度勾配は7℃/分で、1時間30分に亘って最終温度工程980℃まで維持し、引き続いての急冷工程は、材料が制御されたガス流下で室温に急冷されるまで実施され、これにより、ラムスデライト構造が安定化する。最終的な材料の炭素含量をさらに材料の燃焼により分析する。炭素含量は0.8質量%であり、これは、最終生成物1モルあたりの0.18モルの炭素に相当する。
【0037】
最終的な生成物のX線回折を用いて、ラムスデライト以外の相の存在を測定する場合の低い精度によって、実施例2の最終生成物中で、どの程度のスピネル相が存在するか測定することは困難である。しかしながら、複合材料の電気化学的特性が測定される場合には、スピネル相の存在は否定できない。電気化学的測定は、2個の電極の電池で、スウェージロック構造中で実施され、この際、正極は、本発明による複合材料85質量%および導電性カーボンブラック15質量%を含む。負極は、対電極として使用される金属リチウム箔である。1MのLiPFを含むエチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびプロピレンカーボネート(1:3:1)の混合溶液を、電極として使用する。充電−放電試験は、室温でC/10およびCの電流比で、かつ電位範囲1〜2.5V対Li/Liで、定電流様式下で実施する(この際、比Cは、1時間あたり1モルの活性材料あたり、交換されたLi1モルに相当する)。
【0038】
図1は、実施例2の複合材料の25℃およびC/10比(点線)での定電流充電/放電曲線および、その導関数dx/dV(実線)を示す。dx/dV曲線は、スピネル相の存在に関して特異的な、すなわち、スピネル型から岩塩型への相転移における1.55V対Liプラトーによって示される、典型的なピーク(図1の矢印)を表す。
【0039】
C/10の充電−放電試験は、比較例1(以下、第3表参照)で得られた値を上回る任意の改善を示すことなく、Cでの充填−放電試験中で、容量値は、比較例1に関して110mAh/gから実施例2に関して130mAh/gに増加する。最終的に、ラムスデライト相の格子パラメータは、以下第2表に示し、かつ説明するような炭素含量によって改質化される。スピネルの存在を定量的に表すのは難しいけれども、実施例2に関しては、少なくとも0.1モル%、および好ましくは1モル%前後であると考えられる。
【0040】
実施例3〜6
実施例3〜6(EX.3−6)は、第1表の前駆体の化学量論混合物を用いての炭素置換されたLiTiO7材料に関する。粉砕工程および燃焼工程は、実施例2に示されたものと同一である。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例3〜6に関して、最終材料の炭素含量はさらに材料の燃焼によって分析される。炭素含量は1.09〜3.8質量%の間で可変であり、これは、最終生成物1モル当たり0.29〜0.93モルの炭素に相当する(以下、第3表参照)。
【0043】
図2aおよび2bにおいて、得られた材料のX−線回折図は、主にラムスデライト相を示す。ラムスデライト支持体構造中の活性炭素の置換(炭素含量に関しては>0.8質量%)は、リチウム冨化スピネル相LiTi12またはLi1+xTi2−x(0<x≦0.33)の形成によって補われ、これは、特徴的なピーク18.34および43.08゜2θ(λCuKα)を有する。X−線回折図上で他のいずれの相も検出することはできず、これは、焼結プロセスを好ましくはアルゴン-水素雰囲気中で実施すべき事実を支持するものである。図2bは、スピネルピークの拡大図を示す。前記に示したように、スピネル相は実施例2において専ら出現し、かつ実施例3〜6においてはより顕著である。
【0044】
図3は、ドープされていない材料(CE1)と実施例3の炭素置換された材料との間のピークプロフィールの半値全幅(FWHM)における相違を示す。これは、合成プロセス中の炭素寄与率が、ラムスデライト材料の構造的特性を改質化することを明らかに示すものである。
【0045】
ラムスデライト相の格子パラメータは、第2表中に示すような炭素含量によって変更される。
【0046】
【表2】

【0047】
図4において、比較例1(CE1)の値に対して、第2表中の実施例2〜6(EX.2−6)の格子パラメータの相対的差異(Δa/aCE1;Δb/bCE1;Δc/cCE1、この際、Δa=aEX.2−6−aCE1:Δb=bEX.2−6−bCE1:Δc=cEX.2−6−cCE1)を、実施例の炭素含量の関数において報告する。炭素のイオン半径(0.15Å)はリチウムよりも小さく(0.59Å)、合成プロセス中の炭素導入は、特にパラメータaおよびb(ラムスデライト構造のチャネルサイズを制御するパラメータである)の格子の収縮をもたらす。1.2質量%を上回る炭素含量では、この格子は、チャネルの四面体部位中で置換された炭素の増加した量によって膨張する。炭素置換によりリチウムの欠失は、リチウム冨化スピネル相Li1+xTi2−x(0<x≦0.33)により補われ、それによりラムスデライト/スピネル構造が生じる。
【0048】
本発明による複合材料の電気化学的特性は、前記に示すようにして測定され、かつ結果は図5に示す。負極活性電極材料は、比C/10およびCで(炭素含量に関して好ましくは0.8質量%を上回る)で得られた、第1サイクルに関する増加した容量値を示し、これにより、1〜16モル%のスピネル相を得る(図5の実施例2〜6参照)。概略は第3表に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
第3表は、化合物が1.0〜1.5質量%の炭素を含む場合において最も多量のスピネルを示し、これはさらに、活性材料の最良の電気化学的性質を生じる。炭素含量が1.5質量%を超える場合には、より高い電気化学的性能は、導電性被覆として作用する化合物中での過剰量の炭素に帰するものである。
【0051】
スピネル/ラムスデライト比は、X−線回折図上のリートフェルト法を用いて計算された。炭素含量(cモル)は、ラムスデライト相およびスピネル相のみが材料中に存在すると仮定して計算された。この仮定は、前記に示す実施例2〜6のXRD分析をベースとする。理論容量は、炭素置換された複合材料にしたがって再度計算される。
【0052】
実施例6中で示された炭素含量(モル)は、c(0.5)の理論値を超える。これは、過剰の炭素が粒子間部分上に堆積し、導電性被覆として作用することを意味する。
【0053】
比較例7:
比較例7(CE7)は、別個に形成されたLiTiラムスデライト材料(83.5質量%)、LiTi12スピネル材料(15質量%)および熱分解された炭素(1.5質量%)の物理的混合物に関する。双方の材料の合成プロセスは、セラミック経路によって実施される。ラムスデライト材料は、前記に示すように980℃で得られ、かつスピネル材料は、その反応温度にしたがって最終温度800℃で合成される。3個の材料のこの物理的混合物は電池中で試験され、かつ本発明による材料と比較した。これについては以下に示す。
【0054】
in−situで形成されたリチウム冨化スピネル相の特殊性を、図6中で実証し、ここで、高い可逆容量値が、実施例3(点線)に関して比較例7(実線)と比較してC/10比で得られ(185Ah/kg)、ここで、2個の活性相および炭素を物理的に一緒に混合し、かつ前記に示すようにリチウム電池中で試験する。図によれば、低い不可逆容量および低い分極もまた本発明の利点である。
【0055】
実施例8:
実施例8は、一般式Li2+v−4cTi3−wFeNiAl7−α(式中、v=−0.14、w=0.14、x=0.025、y=0.1、z=0.025および0.1≦c≦0.465である)による4個の元素により置換されたラムスデライトに関する。LiCO(0.4008g)、TiO(1.3348g)、Fe(0.0116g)、NiO(0.0436g)、Al(0.0072)およびスクロース(0.2000g)の混合物は微細に粉砕し、かつ混合し、引き続いて前記実施例2〜6に示す燃焼プロセスを行った。最終材料の炭素含量は1.33質量%である。そのX−線回折図は、本発明の実施例と同様に、12%のスピネルを示す2個の電気化学的相から成る複合材料を示す。
【0056】
電気化学的測定は、前記に示すのと同一のパラメータを用いて実施し、かつ本発明と同様の高い容量を示し、それぞれ図7に例証するように190Ah/kgである。見掛け上、導関数dx/dVは、スピネル相の存在を特徴付ける典型的なピークを示す(図7中の矢印)。
【0057】
結論として、本発明は、制御された雰囲気下で減少した合成温度によりin−situで形成された2個の電気化学的活性相を含む複合材料を得ることが可能である。高い電流密度での高い可逆容量および良好なサイクル容量は、高い電力再充電可能なリチウムイオン電池における適用を可能にする。負極材料の高い作用電位および低い毒性は、高い安全性を可能にし、かつ環境に優しい。
【0058】
本発明は、好ましい実施態様に関して詳細に記載してとはいえ、当業者であればこれに関して、特許請求の範囲において明らかにされる本発明の要旨および範囲から逸脱することなしに種々の変更および置換を正しく理解することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li2−4cTi(式中、0.1<c<0.5である)を有する炭素置換されたラムスデライト相および一般式Li1+xTi2−x(式中、0<x≦0.33である)を有するスピネル相を含む、リチウム電池のための複合負極活性材料において、前記活性材料が、0.1モル%を上回る、および好ましくは1モル%を上回るスピネル相を含む、前記活性材料。
【請求項2】
ラムスデライト相が、さらに元素Fe、MおよびM’を含み、かつ一般式Li2+v−4cTi3−wFeM’7−α[式中、MおよびM’は0.5〜0.8Åのイオン半径を有し、かつ酸素を有する八面体構造を形成する金属イオンであり;その際、−0.5≦v≦+0.5;y+z>0;x+y+z=wであり、かつ0<w≦0.3;0.1<c≦(2+v)/4であり;かつαは、関係式2α=−v+4w−3x−ny−n’z(式中、nおよびn’はそれぞれMおよびM’の形式酸化数である)によるMおよびM’の形式酸化数nおよびn’に関する]を有する、請求項1に記載の活性材料。
【請求項3】
MおよびM’がTi3+、Co2+、Co3+、Ni2+、Ni3+、Cu2+、Mg2+、Al3+、In3+、Sn4+、Sb3+、Sb5+から成る群から選択された異なる金属であり、かつ好ましくはM=Ni2+およびM’=Al3+である、請求項2に記載の活性材料。
【請求項4】
1.0〜1.5質量%の炭素含量を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の活性材料。
【請求項5】
5〜16モル%、および好ましくは8〜11モル%のスピネル相を含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の活性材料。
【請求項6】
一般式Li2−4cTiを有する炭素置換されたラムスデライト相および一般式Li1+xTi2−x(式中、0<x≦0.33である)を有するスピネル相の双方を、少なくとも99モル%、および好ましくは少なくとも99.9モル%含む、請求項1に記載の活性材料。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載のアノード材料を有する、再充電可能な二次電池。
【請求項8】
ボールミルによるリチウム化合物、チタン化合物、C前駆体化合物および場合によっては鉄化合物ならびにMおよびM’化合物を粉砕および混合する工程、これに引き続いての950℃を上回る温度での焼結プロセス、および焼結した材料の急冷工程を含む、請求項1から6までのいずれか1項に記載の複合相負極活性材料を製造するための方法において、焼結プロセスを、還元剤を含む気体雰囲気中で実施する、前記方法。
【請求項9】
還元剤が水素、炭化水素および一酸化炭素から成る群からの1種またはそれ以上である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
還元剤を含む気体雰囲気が、アルゴンガスから成る、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
気体雰囲気が、1〜10体積%のH、および好ましくは3〜10体積%のHを含むアルゴン−水素混合物から成る、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−522339(P2012−522339A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502472(P2012−502472)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/000794
【国際公開番号】WO2010/112103
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(509126003)ユミコア ソシエテ アノニム (23)
【氏名又は名称原語表記】Umicore S.A.
【住所又は居所原語表記】Rue du Marais 31, B−1000 Brussels, Belgium
【出願人】(500379381)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシャルシュ シアンティフィク (17)
【氏名又は名称原語表記】Centre National de la Recherche Scientifique
【住所又は居所原語表記】3 rue Michel Ange, FR−75016 Paris, France
【出願人】(510161082)サフト グルゥプ ソシエテ アノニム (2)
【氏名又は名称原語表記】Saft Groupe S.A.
【住所又は居所原語表記】12, rue Sadi Carnot, F−93170 Bagnolet, France
【出願人】(510161129)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE MONTPELLIER 2
【住所又は居所原語表記】Place Eugene Bataillon, F−34095 Montpellier Cedex 5, France
【Fターム(参考)】