説明

再吸収可能な角膜ボタン(RESORBABLECORNEABUTTON)

本発明は、健常な角膜内皮細胞を移植が必要な角膜組織に移植するために有用な、その表面上で、内皮細胞の成長および拡大を支持することができる生物分解性ポリマーからなる再吸収可能な角膜ボタン、およびそれを用いる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、医療インプラントおよび移植方法に関し、特に、角膜内皮欠損および障害の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜内皮欠損および障害
内皮の機能不全は、米国の角膜視野損失の主要な原因であり、1年で実施される38,000の角膜移植の半分以上の原因である[Aintablian, 2002 #1]。角膜は、透明で、凸面な、目の外側のほとんどの部分であり、視覚のシステムの主な屈折の要素である。体の大部分の組織とは異なり、角膜は適切に光を屈折させるために透明なままでなければならず、ほんの少しの結果の存在がこのプロセスを妨害することができるので、角膜は、栄養を与え、感染から防御する血管を含まない。代わりに、角膜は、その後ろの室を満たす涙および房水から栄養を受ける。角膜組織は、5つの基本的な層で配置され、ネイ比が最も内側の層である。内皮細胞は、角膜を綺麗に保つために必須である。通常、液は、目の中から中間の角膜層(間質)へゆっくり漏れる。内皮の主な仕事は、この過剰な液を間質から汲み出すことである。このポンプ作用がなければ、ストローマは水で膨潤し、かすみ、および最終的に不透明になる。健康な目では、角膜への液の移動と角膜からの液の汲み出しの間に完璧なバランスがある。一旦、内皮細胞が、疾患、外傷または加齢により破壊されると、それらは永久に損失する。内皮細胞の破壊が多すぎれば、浮腫および失明となり、角膜移植が唯一現在利用可能な治療である。
【0003】
角膜内皮障害の治療では、上皮、間質、デスメ膜および内皮を含む角膜の中央部分を代えることが、一般的に行われている。この目的のため、角膜の全層、円筒状部分は取り出され、ドナーの目の同じ部分に置き換えられる(いわゆる、全層角膜移植術)。の手順が優れた間質の移植片明快さを提供できるにもかかわらず、それは不十分に治癒して、表層角膜縫合を必要とする垂直間質の損傷の固有の課題によって、苦しむ。後者によって、不規則な乱視が生じて、視覚の、例えば、潰瘍形成、血管新生および移植片拒絶等の脅威の一因となる。
【0004】
角膜内皮障害のほとんどが、デスメ膜を内皮と共に置換することにより処置できることが認識されてきた。この目的のために、1993年に、WW Koが輪部切開を介した内皮置換の技術が開発された。動物モデルでの彼の結果は、Gerrit Mellesによる更なる開発を導き、彼は、1998年に、初めて人間の手術において後部層状角膜移植術の結果を刊行した。この技術は開発され、デスメ膜が、該内皮と共に、強角膜トンネルをを介して取り除き、そしてデスメ膜上の間質のスライスが運ばれる。そして、これは、ドナー膜が、該間質のスライス上で、内皮に置換される。そのスライスは、薄いナイフを用いて間質からカットされる。深表層内皮角膜移植術(deep lamellar endothelial keratoplasty)(DLEK)の手順は、表面角膜切開または縫合の必要なしで内皮置換を可能にすることにより、そして、元の正常な角膜トポグラフィーを維持することにより、PKP固有の問題を回避する。
【0005】
世界規模で全てのタイプのドナー臓器の全体的な不足がある。適用領域は、戦闘関連の怪我または病気から重篤に損傷され得る、神経、視覚、筋骨格および軟組織を含む。一つの顕著な例は、角膜への怪我または病気からの失明である。角膜失明(corneal blindness)は、国際的なスケールでの失明の原因として、白内障に次ぐ第二位である。角膜関連視覚障害または角膜失明に罹患している世界中で見積もられた1000万人が存在する。一度、角膜内皮細胞が、疾患、外傷または老化により破壊されえると、それらは永久に失われる。内皮細胞の破壊が多すぎれば、浮腫および失明となり、角膜移植が唯一現在利用可能な治療である。しかしながら、多くの問題がこの現在の処置の成功を著しく制限している:ドナーの利用可能性の不足(特に、臓器移植が文化的に許容されない国において)、組織回復のコスト、移植のためのその後の角膜の使用を排除する矯正レーザー手術の最近の流行、高い拒絶の確率(成人の20%の角膜同種移植および子供の50%の角膜同種移植が同種移植片拒絶となる)、広く許容される角膜代替物の不足、そして、現存している角膜人工器官がホスト組織によく組み込まれないこと。
【0006】
角膜内皮細胞のための担体としてのポリマーの使用が、以前より検討されてきた。例えば、PCT/US04/032934、PCT/US04/032933、およびPCT/US04/033194を参照、そして、その全体が引用により本明細書に組み込まれる。ポリマーは、内皮細胞層のための永久の非生物分解性担体として機能することができる。ポリマーの永久性は、受容者における現存する細胞と結合組織層の除去を必要とする。層が除去されなければ、二重前房(dual anterior chamber)として公知の合併症の可能性がある。
【0007】
内皮細胞は、適切に機能するために緻密な単一層を形成しなければならない。以前より、これらの細胞を生物分解性ポリマーにカプセルかする努力が試みられており、細胞は、単一層で培養されない限り、機能することを拒絶する。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
現代の角膜移植が直面する主な挑戦は、移植用に利用可能なドナー角膜組織の世界規模の不足である。本明細書で開示されるデバイスは、ドナー角膜の代用としての、生物分解性ポリマーフィルムおよび培養された細胞の組み合わせを利用することにより、この不足を補う。このポリマーフィルムは、培養された細胞層のための担体として機能する。一旦移植されると、ポリマーフィルムは溶解し、その場所に細胞層を残す。
【0009】
細胞の担体を生物分解性とすることにより、細胞層のみが残される。この方法は、結合組織層(デスメ膜)が無傷で、細胞層がギャップを有する状況で有利であり得る。
【0010】
接着および成長を支援し、結果的に、移植の間に細胞を運ぶビークルとしての生物ポリマー担体の使用は、特に、神経堤起源の細胞が、老化過程の間にしばしば損傷される、脳および目の後における、細胞置換療法の成功に重要である。バイオポリマーには7つの一般的なクラスがある:ポリヌクレオチド、ポリアミド、多糖、ポリイソプレン、リグニン、ポリホスフェートおよびポリヒドロキシアルカノエート。例えば、米国特許6,495,152参照。バイオポリマーは、コラーゲンIVから、表面がカーボン粒子で埋め込まれ、または第1アミンおよび任意のペプチドで処理された、または、第1アミンまたはカルボキシルを含むシランまたはシロキサン、または、例えば、脂肪除去およびコラーゲンII物質をグリコサミノグリカンと共に残すか、あるいは、精製されたコラーゲンIIの線維をグリコサミノグリカンおよび他の必要な添加物と混合させ得る、他の処置を施された天然軟骨物質を含むことが知られる他の修飾されたコラーゲン類(米国特許6,676,969)で共処理(co-cured)されたポリ有機シロキサン(polyorganosiloxane)組成物(米国特許4,822,741)の範囲に渡る。かかる付加的な添加物は、例えば、軟骨組織(chrondocyte)のコラーゲンII線維への接着を助けるコンドロネクチン(chondronectin)またはアンコリン(anchorin)II、および、軟骨惹起因子(cartilage inducing factor)(CIF)、インスリン様成長因子(IGF)および形質転換成長因子(TGF)等の成長因子を含む。
【0011】
したがって、本発明の目的は、ポリマーフィルムコーティングを有する再吸収可能な角膜ボタン支持マトリックス(resorbable corneal button support matrix)(ここで、該ポリマーフィルムはヒアルロン酸からなることができる)を提供することである。ヒアルロン酸は、生物分解性であり、目によく認容され、そして、細胞成長のための好適なフィルムに形成され得る。
【0012】
本発明のこれらの、そして他の目的は、それらに伴う利益と同様に、以下の好ましい実施態様の詳細な記載を参照されるとき、より簡単に明らかである。
【0013】
図面の簡単な説明
図1は、好ましい実施態様の正面図および側面図を示す。
図2は、本発明の実施態様の斜位像を示す。
図3は、角膜解剖の概略図を示す。
図4は、伝統的なDLEK手技の概略図を示す。
図5Aは、内皮細胞層が取り除かれ、そして移植片が直接的にデスメ膜上に置かれる、修飾されたDLEK手技の概略図を示す。
図5Bは、内皮細胞層が取り除かれず、そして移植片が残される内皮細胞上に置かれる、修飾されたDLEK手技の概略図を示す。
【0014】
詳細な説明と好ましい実施態様
本発明の好ましい実施態様を記載するにおいて、特定の用語が明確性のために再分類される。しかしながら、本発明は、そのように選択された特定の用語に限定されることを意図されないし、各々の特定の用語は、同様の目的を達成するために同様な方法で操作する技術的同等物の全てを含むことは理解され得る。
【0015】
図1−3で示される再吸収可能な(resorbable)角膜ボタン(RCB)デバイスの好ましい実施態様は、一般的に(10)として指定される。図1および2において、RCBデバイスの好ましい実施態様は、上に培養細胞(12)の層を有する円筒状の形に成型されたポリマーフィルムでコートされ得る支持マトリックス(11)を含む。
【0016】
細胞の成長または接着を支持するポリマーの能力を改善するために、以下の1以上からなる接着混合物が、合成の間に、支持マトリックス(11)組成物に埋め込まれ、または組み込まれ得る:ポリマーゲルの約1から500g/mlの範囲の濃度のフィブロネクチン、ポリマーゲルの1から500g/mlの範囲の濃度のラミニン、ポリマーゲルの0.1から100g/mlの範囲の濃度のRGDS、ポリマーゲルの1から500ng/mlの範囲の濃度のポリカルボフィルと結合したbFGF、ポリマーゲルの10から1000ng/mlの範囲の濃度のポリカルボフィルと結合したEGF、ポリマーゲルの1から1000ng/mlの範囲の濃度のNGF、およびポリマーゲルの1から500g/mlの範囲の濃度のヘパリン硫酸。
【0017】
本発明のアプローチは、また、フィブロネクチン、ラミニン、RGDS、コラーゲンタイプIV、ポリカルボフィルと結合したbFGF、ポリカルボフィルと結合したEGF等の接着蛋白質(attachment protein)を含むことができる。ポリカルボフィルは、軽度に架橋されたポリマーである。架橋剤は、ジビニルグリコールである。ポリカルボフィルは、また、その負電荷の源である多くのカルボキシル基を含む、弱いポリ酸である。これらの酸基は、細胞表面と水素結合を可能にする。ポリカルボフィルは、ムチンと、水中でその重量の40から60倍を吸着する能力を共有し、一般に、医師{いし}の処方せんなしで買うことができる下剤として使用される(エクアラクチン(Equalactin)、コンシルファイバー(Konsyl Fiber)、ミトロラン(Mitrolan)、ポリカーブ(Polycarb))(Park H, et al., J. Control Release 1985; 2:47-57)。ポリカルボフィルは非常に大きな分子であり、したがって、吸着されない。それは、また、非免疫原性であり、実験室においてさえも、そのポリマーに対する抗体を成長させることは可能ではない。
【0018】
本発明の一つの好ましい実施態様において、その合成の間にポリマー内に埋め込まれ、または組み込まれた自己支持ポリマー(self-sustaining polymer)は、1以上の以下からなる接着混合物(attachment mixture)を含む:PCT/US2004/032934に記載された、フィブロネクチン、ラミニン、RGDS、ポリカルボフィルと結合したbFGF、ポリカルボフィルと結合したEGF、およびヘパリン硫酸。ポリマーは、図1に示された形のような、好まれる角膜ボタン(corneal button)の形を有する、いずれの望まれる形に成型されることができ、その凹面表面上で培養されたヒト角膜内皮細胞が播種され、そして、コンフルエントになるまで増殖され得る。
【0019】
本発明が、また、正常ヒト角膜の半分の厚さに成型されることができ、DLEK手技を用いて半分の厚さの移植のための培養された日と角膜内皮細胞で被覆されることができる自己支持バイオポリマーを利用することが、また、意図される。
【0020】
薄いシートまたは微粒子形態において、好ましい実施態様では、コートされたバイオポリマーは、角膜内皮細胞成長のための支持マトリックスとして、そして、細胞移植手技の間の細胞運搬に対するビヒクルとして使用される。
【0021】
図3は、サブレイヤーに分割された角膜の説明を示す。最初は、内皮(13)として知られる細胞の単一層である。内皮の深みは、ボーマン(Bowman’s Layer)層(14)であり、その後で、中央間質(15)が続く。角膜の後部は、デスメ膜(16)が存在し、内皮(17)として知られる最後の細胞層である。
【0022】
図4は、伝統的なDLEK手技を示す。手技において、デスメ膜(16)、間質(15)の一部、および内皮(17)が取り除かれ、そして、移植片(implant)(18)により置換される。移植片(18)は、内皮細胞、デスメ膜、および間質(15)の一部を含む。DLEK手技において、外科医は、白目(強膜)に入り、傷害された角膜への「トンネル」を施すために特別な器具を使用する。角膜の後の部分は、そして、取り除かれ、角膜ドナーからの健常な移植組織の同様の部分により置き換えられる。角膜の小さい部分のみが実際に置き換えられるが、移植片は、全体の角膜を清澄に維持することを助けるだろう。
【0023】
DLEKは、伝統的な移植手術よりもいくつかの利点を持っている。角膜に縫い目が置かれない。臨床研究では、この結果、術後の顕著に少ない乱視およびより早い視野の回復を導いた。一般的に、除かれるべき縫い目がないので、フォローアップの試験はほとんど必要ない。進行中の研究は、角膜移植拒絶反応がDLEKによって、従来の移植よりありそうでないかどうかも検討している。
【0024】
図5Aおよび5Bは、本発明の修飾された手順を示し、デスメ膜(16)は取り除かれ、そして内皮細胞層(17)は取り除かれ得るか、取り除かれなくてもよい。ファッチジストロフィー(Fuch’s dystrophy)では、存在する内皮細胞層が修復されずに損傷され得る。この場合、それは完全に取り除かれなければならない。他の状況では、内皮細胞層は使い果たされ得るが、ほんの僅か損傷される。これらの状況では、存在する内皮細胞は除去されず、移植片が、それらの上に置かれる。図5Aは、内皮細胞層(17)が除去され、そして、移植片(10)が、直接デスメ膜(16)の上に置かれる状況を示す。図5Bは、内皮細胞層(17)が除去され、そして、移植片(10)が、存在する内皮細胞の上に置かれる状況を示す。
【0025】
デバイスの使用
好ましい実施態様では、薄いポリマー層が、支持マトリックスのために使用され得、ヒアルロン酸から形成される。内皮細胞は、移植を必要とする患者から回収され得る。これらの細胞は、成長し、拡大し、そして、特許出願PCT/US04/32933に記載された技術を用いてポリマー層上にシート化されてRCBを形成する。一旦、細胞がポリマー上でコンフルエントに達すれば、RCBは移植される状態にある。
【0026】
標準的なDLEK、角膜強膜の切開は、前房(anterior chamber)にアクセスするために実行される。好ましい実施態様において、既存の内皮細胞は取り除かれず、そしてRCBがその上に置かれる。一度前房内に置かれると、RCBの細胞はポンプ機能を発揮し始める。細胞により作り出される吸引作用は、RCBを存在する角膜の密接して近くに維持し得る。
【0027】
一度、RCBが角膜上でシート化されると、ヒアルロナーゼ(hyaluronase)が前房内に注入され、切開が閉じられる。ヒアルロナーゼは、ヒアルロン酸ポリマーディスク支持マトリックスの分解を促進する酵素触媒として作用する。好ましい実施態様において、ディスクは24時間以内に溶かされ、患者の角膜にしっかりと接着した新しい内皮細胞が残る。
【0028】
受容者内でなされる切片のサイズや形の大きさおよびドナーの角膜組織は、なされ得る手術の種類を代表するだけであることを理解すべきである。したがって、ポケット(pocket)、フラップ(flap)、カップ(cap)、および角膜ドナーまたは受容者ディスク(recipient disk)の大きさおよび形の多様性は予測されるべきであり、全ては、本発明の権利範囲内に維持される。
【0029】
公知技術のいかなるタイプの再吸収可能なポリマーもRCBのための支持マトリックスとして用いられ得ることが、一般的に予期される。ポリマーは、存在する内皮細胞層の上に直接に置かれ得るか、または、存在する内皮細胞が最初に剥がされ得る。別の実施態様では、存在する内皮細胞層は、24時間で、打ち負かされ得(化学的に、またはRFカレント(RF current)を用いて)、ポリマーフィルムの吸収を可能にし、デュアル前房のリスクを取り除く。
【0030】
別の実施態様では、ポリマー担体は、哺乳動物の羊膜、または羊膜およびコラーゲンの組み合わせからなることができる。角膜内皮細胞が回収され、それから、インビトロで培養され、増殖されることを教示する米国特許出願2005/0214259(Sanoら)参照。高細胞密度の細胞懸濁は、増殖された細胞のサブカルチャーおよびそれらを適切な遠心にかけることにより製造され得た。そして、基質(担体)として、主成分としてコラーゲンを含む羊膜を採用し、細胞懸濁をそれらの上に置き、予め決められた時間培養された。結果として、角膜内皮細胞由来の細胞が、生体のと同様の形態を有することができる、単層の細胞層が、形成され得る。これらの細胞層が、生体の角膜内皮細胞と同等の細胞密度を有することができ、六角形の細胞が規則正しく並び、単一層構造を形成する形態を有し得ることが、見出されてきた。
【0031】
様々な生体材料が角膜および眼性障害および損傷を処置し、治療するために用いられてきており、多くがRCBのための支持マトリックスとしての使用に適していることも予期される。例えば、角膜細胞外マトリックスは、コラーゲンおよびグリコサミノグリカン類が豊富である(Robert et al 2001, Pathol Biol (Paris); 49(4):353-63)。グリコサミノグリカン、ヒアルロナンは、間質および内皮細胞層の試験による評価として、ラットおよびウサギモデルで角膜内皮の傷を治すことが見出されてきた(Nakamura et al 1997, Exp Eye Res; 64(6):1043-50; Chung et al 1999, Ophthalmic Res; 31(6):432-9)。Tsengらは、多様な癌疾患の処置に始めて羊膜を使用した(米国特許番号6,152,142)。羊膜は極性化され、「間質」サイドおよび「基底膜」サイドを有する。間質サイドは、コラーゲンIおよびIIIおよびフィブロネクチンを含み、基底膜は、コラーゲンタイプIV、ラミニンおよびヘパリン硫酸プロテオグリカンの分布を有する。羊膜の基底膜サイドは内皮細胞の成長を支持し、一方、間質サイドはコラーゲンと同様に線維芽細胞の成長を支持する。羊膜は、人間の胎盤から分離されて、低温保存されて、そして、眼内障害の外科的修繕のために使われる。
【0032】
羊膜の作用メカニズムは、不完全に理解されたままである。しかしながら、培養での羊膜の存在が、線維芽細胞によるTGF(Lee et al 2000, Curr Eye Res; 20(4):325-334)、および内皮細胞によるインターロイキン1αおよびインターロイキン1(Solomon et al 2001, Br J Ophthalmol; 85(4): 444-449)の発現を抑制するというインビトロの証拠がある。
【0033】
羊膜は、また、幅広い角膜および眼疾患の治療に成功的に使用されてきた。例えば、深い角膜および強膜潰瘍は、間質層、基底膜を満たすため、そして、損傷のカバーとして多重層の羊膜を使用することにより治療されてきた(Hanada et al 2001, Am J Opthalmol; 131(3):324-31)。羊膜は、間質の炎症および免疫関与疾患であるHIV-1角膜炎の潰瘍化を低減することが見出されてきた(Heiligenhaus et al 2001, Invest Ophthalmol Vis Sci; 42(9):1969-1974)。重度の神経栄養性角膜潰瘍は、また、羊膜で処置されてきた(Chen et al 2000, Br J Ophthalmol; 84(8): 826-833)。羊膜は、角膜及び結膜表面を回復し、急性の化学的または温度火傷に起因する輪部間質炎症を低減する(Meller et al 2000, Ophthalmology; 107(5): 980-989)。羊膜は、また、部分的に輪部幹細胞欠損を有する患者における輪部自己移植片または同種移植片の代替物として使用された(Anderson et al 2001, Br J Ophthalmol; 85(5):567-575)。羊膜は、また、強膜に付着して結膜から角膜へ翼様に膜が拡大するプテリジア(pterygia)の外科的処置に使用されてきた(Solomon et al 2001, Ophthalmology: 108(3):449-460)。羊膜は、結膜の代替物として、遅発性緑内障フィルタリングベッドの漏れ(late onset glaucoma filtering bed leaks)を成功的に治療するため(Budenz et al 2000, Am J Ophthalmol; 130(5): 580-588; Barton et al 2001, Invest Ophthalmol Vis Sci; 42(8):1762-1768)、並びに、安定的な角膜上皮の回復を改善するため、そして、帯状角膜症の外科的処置に使用されるときの眼痛を軽減させるために、サルコイドーシス、慢性的なブドウ膜炎および他の原因の二次的な角膜基底膜におけるカルシウムの沈着(Anderson et al 2001, 角膜; 20(4): 354-361)に使用された。
【0034】
他の基質が、RCBのための支持マトリックスとして角膜内皮細胞と共に使用され得ることも、また、予期される。他の実施態様において、キトサンが支持マトリックスとして使用され得る。
【0035】
キトサンは、生物接着性能を有し、そして、鼻腔等の粘膜表面を通る、ある種の薬物化合物の全身的なバイオアベイラビリティーを改善することが示されてきた、グルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンを含むカチオン性バイオポリマーである(Illum, Drug Discovery Today, 7:1184-1189 (2002)参照)。
【0036】
「キトサン」という用語によって、我々は、全てのキチンの誘導体、または、全てのポリグルコサミン類および異なる分子量のグルコサミン物質のオリゴマー類を含むポリ−N−アセチル−D−グルコサミン(ここで、N−アセチル基の大部分は加水分解を介して除去される(脱アセチル化))を含む。本発明に従って、脱アセチル化を介して取り除かれるN−アセチル基の割合を示す、脱アセチル化の程度は、約40-97%の範囲、より好ましくは、約60-96%の範囲、そして、最も好ましくは約70-95%の範囲であるべきである。
【0037】
本発明で使用される、キトサン、キトサン誘導体または塩は、好ましくは、約10,000から1,000,000 Daの範囲、より好ましくは約15,000から750,000 Daの範囲、そして、最も好ましくは約20,000から500,000 Daの範囲の分子量を有する。
【0038】
キトサンの塩が、本発明において好適に使用される。多様な有機および無機酸の塩が好適である。かかる好適な塩には、限定はされないが、硝酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、乳酸塩、シトラート、塩酸塩および酢酸塩塩類が挙げられる。好適な塩類は、塩酸およびグルタミン酸の酸性塩である。
【0039】
キトサン誘導体およびそれらの塩もまた、本発明において好適に使用される。好適なキトサン誘導体には、限定はされないが、キトサンのアミノ基ではなく水酸基と、アシルおよび/またはアルキル基の結合により形成される、エステル類、エーテル類または他の誘導体を含む。キトサンのO−アルキルエーテル類およびキトサンのO−アシルエステル類を例に含む。修飾されたキトサン類、例えば、ポリエチレングリコールに結合されたものは、本発明において、使用され得る。キトサンおよびポリエチレングリコールの結合物は、国際出願公開公報WO99/01498に記載されている。
【0040】
本発明において好適に使用されるキトサン類は、多様な供給元から入手できる、それらには、Primex, Haugesund, ノルウェー; NovaMatrix, Drammen, ノルウェー; Seigagaku America Inc., MD, USA; Meron (India) Pvt, Ltd., インド; Vanson Ltd, VA, USA;およびAMS Biotechnology Ltd., 英国を含む。好適な誘導体は、Roberts, Chitin Chemistry, MacMillan Press Ltd., London (1992)に開示されているものである。
【0041】
RCBのための支持マトリックスまたは「担体」は、また、キトサンを含む水含有ポリマーゲルからなることができる、そして、水含有ゲルの表面は、コラーゲンおよび/またはアルギン酸で被覆される。さらに、他の実施態様によれば、本発明のRCBのための「担体」は、キトサンおよびゲル層に隣接して与えられる無機層を含むことができる。
【0042】
本明細書で使用される用語「RCBのための担体」は、細胞培養の間の担体または支持体として役目を果たすことができる要素を意味し、そして、この用語は、制限的に解釈されるべきではない。例えば、細胞培養のための担体は、日本出願公開公報第2001-120267号に記載されており、その中で、細胞接着成分ゲル層としてのアルギン酸層および細胞外マトリックス成分ゲル層は、多孔質膜上で、ラミネート加工される、そして、本発明のRCBのための担体は、上記特許文書に記載された細胞培養のための担体のものと同様に同じ技術分野で使用されることができる。
【0043】
用語「キトサン含有ゲル」は、主成分としてキトサンゲルを含むゲルを意味する。キトサンを含む水含有ポリマーゲルは、主成分として「キトサンゲル」を含む水含有ポリマーゲルを意味する(本明細書において、キトサンを含む水含有ポリマーゲルは、また、以降、「キトサンゲル」と言われることもある)。キトサンゲルとして、細胞培養が実施される中性領域で溶解されないゲルが使用され得る。例えば、細胞培養が実施される中性領域で溶解されないゲルとしてキトサン分子中でアミノ基を中性化することにより形成されるキトサンゲル、ゲルトしてキトサンおよびアニオン性残基を有する有機ポリマー化合物の塩形成により形成される形成されるキトサンゲル、架橋剤と架橋することによりゲルトして形成されるキトサンゲル等を利用することができる。アニオン性残基を有する有機ポリマー化合物として、例えば、ポリアスパラギン酸、アルギン酸、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリスチレンスルホン酸等の天然または合成ポリマー化合物を使用することができる。架橋剤の例として、グルタルアルデヒド、ジビニルスルホン、およびハロゲン化トリアジン等のアミノ基またはヒドロキシル基と反応する2以上の基を有する化合物、あらかじめ活性化エステル類に組み込まれた2以上のカルボン酸を有する化合物等を含む。
【0044】
キトサン(ポリD−グルコサミン)は、キチン(ポリ−N−アセチル−D−グルコサミン)と濃縮アルカリ溶液と加熱するか、キチンをカリウム融合させるかし、そして、その結果物を脱アセチル化することにより得ることができる。いずれのキトサンも本発明のRCBのための担体の製造のために使用することができる。例えば、高い膜強度を有する幕の形成という観点から、好ましいものは、60から100%の脱アセチル化の程度を有し、1重量%(mass %)酢酸溶液中に0.5重量%で溶解したとき、10から10000 cPの溶液粘度が得られるキトサンである。より好ましいものは、70から100%の脱アセチル化の程度を有し、40から5000 cPの溶液粘度が得られるキトサンである。
【0045】
RCBの担体で使用するためのゲル表面上のコラーゲン、アルギン酸、およびキトサンを含む多様な他のポリマー化合物を連続的にコーティングする方法は、特に限定されない。例えば、好ましくは、layer-by-layer法(Gero Decher, Science, No. 277, pp.1232-1237, Aug. 29, 1997)が用いられる。layer-by-layer法は、多様なポリマー化合物のいずれか1つの水溶液に膜を浸漬し、その後水で洗浄し、そして、もう一つのポリマー化合物への浸漬することを繰り返すことを含む。本発明のRCBのための担体を製造するために、キトサンを含む水含有ポリマーゲルの表面のための表面修飾を、両面または水含有ポリマーゲルの1つの側面で実施することができる。本出願に基づく上記修飾方法または浸漬に基づく上記修飾方法の間に、1つの側面の修飾を実施するために、1つの側面上で覆いを付着させる方法を、該側面が浸漬溶液と接触させないように、好ましくは、使用する。必要であれば、ゲル化のために、ゲル化剤が使用され得る。
【0046】
他の実施態様において、RCBのための支持マトリックスは、架橋されたコラーゲンマトリックス由来のフィルムから作成され得る。かかる物質は、哺乳動物からコラーゲンをベースとする生物組織の製造;ポリエポキシ化合物で生物組織を処置し、架橋コラーゲン構造を有する生物組織を得ること;生物組織を脱細胞化して、よって無細胞組織を得ること;および、ヒアルロン酸を含む凍結防止溶液中で無細胞組織を浸漬し、そして該組織を凍結乾燥すること、の工程を含む過程を用いることで製造されることができる。コラーゲンをベースとする組織は、これらに限定はされないが、好ましくは、筋膜、羊膜、胎盤または哺乳動物の皮膚を含む。ポリエポキシ化合物は、これらに限定はされないが、好ましくは、ポリグリセロール ポリグリシジル エーテル、ポリエチレン グリコールグリシジルエーテル、または他の商業的に入手可能なポリエポキシ化合物類を含む。好ましくは、1-7% (w/v)のポリエポキシ化合物が、pH 8-11、30-45℃、10-20時間の条件で、生物組織上で処置される。さらに、凍結乾燥された無細胞組織は、好ましくは、物理的手段により粉砕され、例えば、粉砕は、操作過程で発生する熱による損傷から保護するために、液体窒素環境下で、粉砕機内で実施される。方法は、さらに、冷凍粉砕(cryo-pulverization)の前に、液体窒素環境下で、凍結乾燥された無細胞組織を小さく粉砕する工程、または凍結乾燥された無細胞組織を水和させ、そして水和された組織を切る工程を含み得る。
【0047】
コラーゲンの構造を安定化し、一方、移植のためのコラーゲン組織の機械強度および特有の性質を保つために、多様な架橋技術が知られている。架橋技術に付け加えて、脱細胞化技術の研究が、移植の間に移植片に対する免疫拒絶を減らすため、移植片内で細胞を増殖させるため、そして、組織工学のための新しい生物物質の開発のために、活発に実施されている。グルタルアルデヒドに関する多くの研究は、組織構造の安定化を増加させるためになされ、人体におけるグルタルアルデヒドの高い毒性という重大な問題を表面化した。この点において、コラーゲン組織の架橋のための代替的な技術が、本分野で開発され、それは、ポリエポキシ化合物類を用いたコラーゲン組織の架橋技術である。
【0048】
架橋は、本分野で何年も知られてきており、そして、化学的および物理的(照射(irradiation))法の両方の多様な方法がある。本分野で知られる、選択される化学的架橋の例は、グルタルアルデヒドおよび他の関連した非物理的薬剤を有する。これらの架橋剤は、コラーゲン分子のアミノ酸残基と反応し、分子内架橋を形成する。しかしながら、これらの過酷な薬剤は、コラーゲン分子の構造において代替物になること、架橋剤が染み出ることによる架橋されたコラーゲンベースの生物産物の生物学的適合性および生物活性に負の作用を与え得る。よって、非物理的薬剤により架橋されたコラーゲン産物は、宿主組織にほとんど許容されず、中に組み込まれない。さらに、局所的炎症およびより複雑な全身反応が、グルタルアルデヒド架橋コラーゲン産物の不利益な副作用である。
【0049】
米国特許番号4,971,954(Brodskyら)は、D(−)リボースまたは他の生理的な還元糖の、糖化工程による架橋コラーゲンマトリックスのための生理的薬剤として開示している。しかしながら、Brodskyらが開示している方法は、コラーゲン構造が天然のコラーゲン線維からなるときに効率的であるが、再構成された線維状コラーゲンから製造されたコラーゲンマトリックス、とりわけコラーゲンがアテロペプチドコラーゲンであるとき、部分的にのみ効率的である。アテロコラーゲンは、天然コラーゲンをペプシン-可溶化することにより製造される。ペプシンは抗原性であるコラーゲン分子のテロペプチドを切り離すので、ペプシン可溶化コラーゲンは生物医学産業において、最も使用されているコラーゲンの形態である。
【0050】
さらに意図されるRCBのための支持マトリックスは、含脂肪細胞(adipocyte)または脂肪細胞(fat cell)由来のものである。脂肪由来幹細胞または「脂肪由来間質細胞」は、脂肪組織を起源とする細胞を言う。「脂肪」は、脂肪組織を意味する。脂肪組織は、皮下、大網/内臓、乳房、性腺、または他の脂肪組織部位由来の褐色または白色脂肪組織であり得る。好ましくは、脂肪は、皮下白色脂肪組織である。かかる細胞は、初代細胞培養または不死化細胞株を含み得る。脂肪組織は、脂肪組織を有するいずれの器官の由来であり得る。好ましくは、脂肪組織は哺乳類であり、最も好ましくは、脂肪組織はヒトである。脂肪組織の簡便な源は、脂肪吸引術手術由来であるが、脂肪組織の起源または脂肪組織の単離方法は、本発明に重要ではない。
【0051】
成人ヒト髄外脂肪組織由来間質細胞は、患者に最小限のリスクまたは不快で、ルーチンに回収されることができる間質幹細胞起源を示す。病理学的な証拠は、脂肪由来間質細胞が、多様な系統経路に沿って分化することができることを示唆する。脂肪組織は、多くの個人において、容易に近づくことができ、そして豊富である。肥満は米国において蔓延している症状であり、50%を超える成人が身長に基づく推薦されたBMIを超える。
【0052】
含脂肪細胞は、補給されることができる細胞集団であることがよく報告されている。脂肪吸引または他の操作による外科的な除去の後でさえ、個人において、時間経過により、含脂肪細胞の再出現がみられることが一般的である。このことは、脂肪組織が、自己新生可能な間質幹細胞を含むことを示唆する。
【0053】
脂肪組織は、本発明のRCBのような組織工学適応に対し、多くの実践的な利益を与える。第一に、それは豊富である。第二に、患者に最小限のリスクで回収する方法に近づくことができる。第三に、それは補給可能である。間質細胞は、骨髄の核となる細胞集団の0.01%未満であるが、脂肪組織のグラム当たり、8.6.X104個に至る間質細胞が存在する(Sen et al 2001, Journal of Cellular Biochemistry 81:312-319)。2から4週間に渡るエクスビボ拡大は、0.5kgの脂肪組織から5億個に至る間質細胞を産生する。これらの細胞は、すぐに使用されるか、または更なる自家または他家適用のために凍結保存されることができる。
【0054】
ヒト脂肪組織由来細胞の単離、拡大および分化のための方法は報告されている。例えば、Burris et al 1999, Mol Endocrinol 13:410-7; Erickson et al 2002, Biochem Biophys Res Commun. Jan. 18, 2002;290(2):763-9; Gronthos et al 2001, Journal of Cellular Physiology, 189:54-63; Halvorsen et al 2001, Metabolism 50:407-413; Halvorsen et al 2001, Tissue Eng. 7(6):729-41; Harp et al 2001, Biochem Biophys Res Commun 281:907-912; Saladin et al 1999, Cell Growth & Diff 10:43-48; Sen et al 2001, Journal of Cellular Biochemistry 81:312-319; Zhou et al 1999, Biotechnol. Techniques 13: 513-517を参照。脂肪組織由来間質細胞は、コラーゲナーゼ消化および分画遠心法により細かくされたヒト脂肪組織より得られる(Halvorsen et al 2001, Metabolism 50:407-413; Hauner et al 1989, J Clin Invest 84:1663-1670; Rodbell et al 1966,. J Biol Chem 241:130-139)。他は、ヒト脂肪組織由来間質細胞が、含脂肪細胞、
軟骨細胞、および骨芽細胞系統経路に沿って分化できることを示した(Erickson et al 2002, Biochem Biophys Res Commun. Jan. 18, 2002; 290(2): 763-9; Gronthos et al 2001, Journal of Cellular Physiology, 189:54-63; Halvorsen et al 2001, Metabolism 50:407-413; Halvorsen et al, 2001, Tissue Eng. Dec. 7, 2001(6):729-41; Harp et al 2001, Biochem Biophys Res Commun 281:907-912; Saladin et al 1999, Cell Growth & Diff 10:43-48; Sen et al 2001, Journal of Cellular Biochemistry 81:312-319; Zhou et al 1999, Biotechnol. Techniques 13: 513-517; Zuk et al 2001, Tissue Eng. 7: 211-228)。
【0055】
WO 00/53795(ピッツバーグ大およびカリフォルニア大)および米国特許出願番号2002/0076400(ピッツバーグ大に譲渡された)は、含脂肪細胞由来幹細胞および含脂肪細胞、および赤血球および結合組織幹細胞のクローン集団が実質的に存在しない格子(lattice)を開示する。細胞は、単独で、または、生物学的に適合性の組成物中で使用され得て、インビボおよびインビトロの両方で分化された組織および構造を生成する。さらに、細胞は、拡大され、培養されることができ、ホルモンを生産し、他の細胞集団を成長させ、拡大させることを支持する培養上清を提供する。他の実施態様において、これらの刊行物は、細胞外マトリックス物質形態脂肪組織(extracellular matrix material form adipose tissue)を含む実質的に細胞のない脂肪由来格子を開示する。格子は、インビボまたはインビトロであっても、原基または成熟組織または構造への細胞の成長および分化を促進するための基質として使用されることができる。いずれの刊行物も、眼球内間質細胞(intra-ocular stromal cell)の少なくとも1つの表現型、または遺伝子型の特徴を表現することを促された脂肪組織由来間質細胞を開示しない。
【0056】
Artecel Sciencesに譲渡された米国特許番号6,429,013は、少なくとも1つの軟骨細胞の特徴を表現することを促された単離された脂肪組織由来間質細胞に向けられた組成物お開示する。また、これら細胞の分化方法も開示される。
【0057】
非限定的な例として、脂肪組織由来間質細胞を単離する1つの方法において、脂肪組織は、0.01から0.5%、好ましくは 0.04から0.2%の間、最も好ましくは 0.1%の濃度のコラゲナーゼで、0.01から0.5%、好ましくは 0.04から0.04%の間、最も好ましくは 0.2%の濃度のトリプシンで、25℃から50℃の間、好ましくは33℃から40℃の間、最も好ましくは37℃の温度で、10分から3時間の間、好ましくは30分から1時間の間、最も好ましくは45分の期間、処置される。細胞は、20 μmから800 μmの間、より好ましくは40から400 μmの間、最も好ましくは 70 μmのナイロンまたはチーズクロスメッシュフィルターを通過させる。そして、細胞を、培地中で直接、またはフィコールまたはパーコールまたは他の特定のグラジエントの上で、分画遠心法にかけられる。細胞を、100から3000xgの間、より好ましくは200から1500xg、最も好ましくは500xgの速さで、1分から1時間の間、より好ましくは 2から15分、最も好ましくは 5分の期間、4℃から50℃の間、好ましくは20℃から40℃、最も好ましくは25℃の温度で、遠心することができる。
【0058】
本分野において、アルギン酸ゲルは、イオン性ゲルを形成するためのCa2+やMg2+のような二価のカチオンと混合することにより形成されうることは本分野で知られている。このゲルは、機械的な強度を失うことができ、周りの培地へイオンを失うことによって素早く溶解することができる。Jon A. Rowley, Gerard Madlambayan, David J. Mooney, Biomaterials 20 (1999) 45-53参照。このタイプのゲルは、また、RCBのための担体のために使用されることができる。
【0059】
ゼラチンおよびその誘導体がRCBのための再吸収可能な支持マトリックスとして使用され得ることが、また、意図される。同様の設定におけるゼラチンの使用がKrishna Burugapalli, Veena Koul, Amit K. Dinda, J Biomed Mater Res 68A:210-218,2004;および Hye-Won Kang, Yasuhiko Tabata, Yoshito Ikada, Biomaterials 20 (1999) 1339-1344に見出されることができる。
【0060】
カルボキシメチルセルロースおよびその誘導体を含む組成物が使用され得、そして、RCBのための再吸収可能な支持マトリックスであることが、また、意図される。錠剤製造における架橋されたカルボキシメチルセルロースの使用は、例えば、Wan and Prasad, Effect of Microcrystalline Cellulose and Crosslinked sodium Carboxymethylcellulosecellulose on the Properties of Tablets with Methyl cellulose as a Binder, International Journal of Pharmaceutics, 41, (1988) 159-167のような、刊行物からよく知られる。実際に、口腔または胃での崩壊錠の製造において、クロスカルメロースナトリウム、タイプA、NFまたは架橋されたポリビニルピロリドンとして同定される酸架橋されたカルボキシメチルセルロースまたはナトリウム澱粉グリコネート(glyconate)を使用することが、本分野で知られている。かかる組成物は、過度の実験なくして、当業者により、本発明での使用に容易に適応させることができる。
【0061】
RCBの移植の前に、内皮細胞層を打ち負かし得る。現存する内皮細胞を打ち負かされ、または除去されなければ、合併症の原因となる可能性を有する。細胞は、間質から体液をくみ上げ続けることができる。この体液汲み上げ作用は、体液が角膜の間で集め、そして、RCBが、角膜に対して強固にシートすることを難しくする可能性がある。細胞を打ち負かすこと(stunning)は、現存する細胞からの汲み上げが問題の原因となる前に、新しい層の細胞が角膜上でコンフルエントになるときを許し得る。
【0062】
本発明の内皮細胞を打ち負かす方法は、多様な波長の電波周波数放射(RF)、UV、ガンマ照射等の放射線の照射に暴露すること、並びに、トリプシン消化、酸、塩基、低張溶液、低イオンを有する緩衝液(Mg, Na, Ca, K)等の化学的手段を含むことが意図される。
【0063】
RCBの移植の前に、内皮細胞層は吸引作用または物理的に剥がすことを用いて取り除かれ得る。
【0064】
本発明を記載してきたように、それへの多くの修飾が、添付された特許請求の範囲により定義される本発明の精神から逸脱しなければ、関連する当業者にとって明らかであろう。本明細書で引用した全ての文献は、引用により、それらの全てが、本明細書において完全に示されるように組み込まれる。
【0065】
引用文献
1.Ko WW, Feldman ST, Frueh BE, et al. Experimental posterior lamellar transplantation of the rabbit cornea. Invest Ophthalmol Vis Sci. 1993; 34(suppl): 1102.
2.Melles GR, Eggink FA, Lander F, et al. A surgical technique for posterior lamellar keratoplasty. cornea. 1998; 17:618-626.
3.Melles GR, Lander F, van Dooren BR, et al. Preliminary clinical results of posterior lamellar keratoplasty through a sclerocorneal pocket incision. Ophthalmology. 2000; 107:1850-1856.
4.Terry MA, Ousley PJ. Endothelial replacement without surface corneal incisions or sutures: topography of the deep lamellar endothelial keratoplasty procedure. cornea. 2001; 20:14-18.
5.Terry MA, Ousley PJ. Deep lamellar endothelial keratoplasty in the first United States patients: early clinical results. cornea. 2001; 20:239-243.
6.Terry MA, Ousley PJ. Replacing the endothelium without surface corneal incisions or sutures: first US clinical series with the deep lamellar endothelial keratoplasty procedure. Ophthalmology. 2003; 110:755-764.
7.Terry MA. Endothelial replacement: the limbal pocket approach. Ophthalmol Clin North Am. 2003; 16:103-112.
8.Terry MA, Ousley PJ. corneal endothelial transplantation: advances in the surgical management of endothelial dysfunction. Contemporary Ophthalmology. 2002; 1:26:1-9.
9.Terry MA, Ousley PJ. Rapid visual rehabilitation with deep lamellar endothelial keratoplasty. cornea. 2004; 23:143-153.
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】好ましい実施態様の正面図および側面図を示す。
【図2】本発明の実施態様の斜位像を示す。
【図3】角膜解剖の概略図を示す。
【図4】伝統的なDLEK手技の概略図を示す。
【図5A】内皮細胞層が取り除かれ、そして移植片が直接的にデスメ膜上に置かれる、修飾されたDLEK手技の概略図を示す。
【図5B】内皮細胞層が取り除かれず、そして移植片が残される内皮細胞上に置かれる、修飾されたDLEK手技の概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む角膜修復に有用な再吸収可能な角膜ボタン(corneal button):
a)内皮細胞の成長を支持することができる表面および底面を有する生物分解性のポリマー支持マトリックス;
b)該表面に配置された移植のために好適な生存可能な内皮細胞層;および、
c)眼内に移植されると、良好に認容される該再吸収可能な角膜ボタン。
【請求項2】
生物分解性のポリマー支持マトリックスが、ヒアルロン酸、羊膜、キトサン、架橋されたコラーゲン、アルギン酸、脂肪組織、ゼラチン類、カルボキシメチルセルロースおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の再吸収可能な角膜ボタン。
【請求項3】
内皮細胞が、角膜内皮細胞である、請求項1に記載の再吸収可能な角膜ボタン。
【請求項4】
該生物分解性のポリマー支持マトリックスが、ヒアルロン酸を含み、そして、内皮細胞が角膜内皮細胞である、請求項2に記載の再吸収可能な角膜ボタン。
【請求項5】
該生物分解性のポリマー支持マトリックスが、架橋されたコラーゲンを含み、そして、内皮細胞が角膜内皮細胞である、請求項2に記載の再吸収可能な角膜ボタン。
【請求項6】
a)ポリマー支持マトリックスを得ること;
b)移植が必要な患者から角膜内皮細胞を回収するか、または、バンクに預けられた(banked)内皮細胞を使用すること;
c)細胞がコンフルエントになるまで、該ポリマー支持マトリックスの表面上で、回収された、または、預けられた角膜内皮細胞を成長させ、そして拡大することにより再吸収可能な角膜ボタンを作成すること;
d)角膜の前房に接近する(access)ために、標準的なDLEK、移植が必要な眼の角膜−強膜切開を実施すること;
e)移植された内皮細胞が角膜の前房の細胞と密に接触するように、角膜の前房に存在する内皮細胞の上に再吸収可能な角膜ボタンを移植すること;
f)前房にヒアルロナーゼ(hyaluronase)を注入すること;および
g)眼の切開を閉じること、
を含む角膜の修復方法。
【請求項7】
移植工程e)の前に、角膜に在り、再吸収可能な角膜ボタンを受容する内皮細胞が打ち負かされる、請求項6に記載の角膜の修復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2009−511197(P2009−511197A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535703(P2008−535703)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/040053
【国際公開番号】WO2007/047425
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(506121560)セルラー・バイオエンジニアリング・インコーポレイテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】CELLULAR BIOENGINEERING, INC.
【Fターム(参考)】