説明

再生方法、および再生装置

【課題】特殊再生においてIピクチャのみを順次表示させていく場合、1フレーム当たりの平均データ量が通常再生に比べて格段に増え、またIピクチャデータのみを記録媒体から選択して読み出すため記録媒体からデータ読み出し開始迄にかかる時間が通常再生に比べ増えるため、状況により一時的にSystem Target Decoder (STD)のバッファが枯渇してしまい、Iピクチャ表示時間が理想的な表示タイミングから不定期に遅延する現象が発生するため、視聴者に違和感を与えるといった問題が生じる。
【解決手段】再生処理開始前に記録媒体から任意のIピクチャを読み出す時間を計算するために用いる各種値を取得し、Iピクチャのみを表示する特殊再生時に本測定値を用いながら実際に記録媒体から次に読み出すべきIピクチャを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトランスポートストリーム再生装置及び再生手法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビ放送をハードディスク(以降、HDDと略す)やブルーレイディスクなどの記録媒体に記録し、後から視聴を行うことが可能なテレビ放送受信機やパーソナルコンピュータ等のデジタル機器が多く出回っている。テレビ放送のように膨大なデータを効率よく処理するためにはデータの圧縮・伸張する技術が不可欠である。日本の放送においては圧縮・伸張方式の国際標準規格であるMPEG(Moving Picture Experts Group)の中でも通信システムや放送システムへの適用が考慮されているMPEG2システムが規格として採用されており、中でも伝送時に誤りの発生する環境での伝送・蓄積に適したMPEG2トランスポートストリーム(以降、MPEG2-TSと略す)と呼ばれる形式が用いられている。MPEG2-TSには送信側が意図したとおりに受信側で再生可能となるようにシステムの基準参照値プログラムクロックリファレンス(PCR)が埋め込まれて送信される。同様に、再生時に参照される時刻管理情報プログラムタイムスタンプ(PTS)、デコード時に参照される時刻管理情報デコーディングタイムスタンプ(DTS)などのデータも埋め込まれて送信される。
【0003】
受信機で放送波を受信し再生する動作は次の通りである。つまり、入力されるトランスポートストリーム(TS)からプログラムアソシエーションテーブル(PAT) / プログラムマップテーブル(PMT)を取得し、目的のプログラム識別子(PID)を判別する。判明したPIDを持つTSパケットを取得し、映像、音声、PCRに分離する。受信したPCRを使用してシステムタイムクロック(STC)の初期値を設定し、また定期的に受信されるPCRの値とSTC値を比較し、デコードのタイムベースとなる27MHzのシステムクロック周波数の誤差を調節する。再生装置内部でクロックを作成するSTCカウンタがシステムクロック周波数に応じてSTC値を一定で増加させる。STC値と各映像データに付随しているDTSが一致した時刻にデコードを行い、映像または音声データに付随するPTSが一致した時刻に表示を行う。
【0004】
記録媒体ではMPEG2-TSの形式に則って複数の番組が多重化された状態で送信されるストリームから、記録したいコンテンツのTSパケットのみを抽出して記録を行う。記録媒体から再生を行うために、映像と音声のデータを記録することは元より、それに付随している表示時刻を示すPTS、復号時刻を示すDTSといった時刻情報、発信側の時刻情報であるPCRを記録することが必要である。それにより放送波の再生と同様に記録媒体からの再生が可能である。
【0005】
記録媒体からTSを再生する場合、上記のように記録された時刻情報によって、記録時のTSの入力タイミングと同様なタイミングでTSの出力を行い、再生を行うことが可能である。また、デコーダのバッファに蓄積されたデータ量を監視し、それに合わせて記録媒体からの入力を調整する再生方式によって再生を行う技術が公開されている(特許文献1)。後者の再生手法ではデコーダが持つSTC値を動作の基準値として用いており、MPEG(Moving Picture Encoding Group)規格で定められている特殊再生に有効である。例えば、Iピクチャのみを順次表示させる場合には、本来連続的に増加するSTC値をIピクチャの持つ時刻間隔に合わせて段階的に増加させることで容易に実現する。
【0006】
【特許文献1】特開平8−331560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
HDDなどの媒体に記録されたTSに対して、放送波を再生する場合と同じ手順で再生を実行する場合、HDD からのTSの出力方法がデコーダのバッファに蓄積されたデータ量を監視し、それに合わせて記録媒体からの入力を調整する再生方式(以降、フロー制御再生と呼ぶ)であると、問題が生じる。このことについて、図1を用いて説明を行う。
【0008】
図1は、記録時のTSの入力タイミングと同様なタイミングでHDD からTSの出力を行う再生方式(以降、タイムスタンプ再生と呼ぶ)と、フロー制御再生との差異を示した模式図である。101は、MPEGデコーダが再生を行う動作に対して、タイムスタンプ再生とフロー制御再生での入力の違いを示している。上部に記されている矢印が、MPEGデコーダが再生を行う手順を時系列として示しており、その下にタイムスタンプ再生でのデータの出力タイミングを右斜線で示している。タイムスタンプ再生では記録時の入力タイミングと同様に小刻みにデータが出力される。対して、さらに下に左斜線によって示したようにフロー制御再生の場合はデコーダの要求が続く限りは常にデータを出力しつづけている。102は記録媒体から出力されるTSをパケットの並びで模式的に表した図である。右に記したTSパケット1から順に記録媒体から出力されているものとして、タイムスタンプ再生の場合には矢印Aで示す部分までにSTCにPCRを設定する準備が出来て、PCRのデータであるTSパケットXがデコーダに入力されたタイミングでSTC値にPCRを代入するのに対して、フロー制御再生の場合にはデータの入力速度が速いために矢印Bで示す部分まで出力され、PCRデータであるTSパケットYが入力されるとSTC値に設定を行う。その結果としてデコードを開始した際に、パケットY以前にバッファリングしたTSパケット1からY-1までの映像・音声データは設定されたSTCカウンタ値よりもDTS・PTSが小さいため、デコードされない状態になる、もしくは正しい時刻情報を取得できないまま強引にデコード・出力が行われて映像と音声の同期が取れない状態で出力してしまい、視聴者が違和感を覚える原因となる。また、フロー制御再生においてMPEGデコーダのバッファが破綻するデータ量 よりも パケットy-1までのデータ量の方が大きい場合を表した図が103である。103中の(1)から(2)に示すように、ニアリーオーバーフローを検出すると、MPEGデコーダは記録媒体からの出力を制御する部にTSの入力停止を要求する。すると、記録媒体が出力を停止してしまうため、デコーダはSTC値にPCRを設定できずに再生動作が止まってしまうことも考えられる。そのため再生開始時や、例えば早送りから普通再生へというように映像と音声の同期を取る必要がある再生へと状態を変更する場合、記録媒体からの再生をタイムスタンプ再生とすることで放送波を再生するのと同様にTSの入力が行われるため、STDバッファがオーバーフローしてデコードを止めてしまうという問題を回避する。また、入力されるTSのデータ量に対して適切なタイミングでSTC値にPCRが設定され、出力開始時からAV同期の確立された再生を行う。
【0009】
しかしその一方、特殊再生においてIピクチャのみを順次表示させていく場合、1フレーム当たりの平均データ量が通常再生に比べて格段に増え、またIピクチャデータのみを記録媒体から選択して読み出すため記録媒体からデータ読み出し開始迄にかかる時間が通常再生に比べ増えるため、状況により一時的にSystem Target Decoder (STD)のバッファが枯渇してしまい、Iピクチャ表示時間が理想的な表示タイミングから不定期に遅延する現象が発生するため、視聴者に違和感を与えるといった問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、再生処理開始前に記録媒体から任意のIピクチャを読み出す時間を計算するために用いる各種値を取得し、Iピクチャのみを表示する特殊再生時に本測定値を用いながら実際に記録媒体から次に読み出すべきIピクチャを選択する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、記録媒体に記録されたTSを読み出し、AV同期を取る必要がある再生を行う時に、STDバッファのオーバーフローによる入力ストリームの停止を回避し、かつ番組を構成する要素(映像・音声)の同期を良好に保ちながら再生を行う事を、フロー制御専用の手順を用意することなく、またデコーダの使用するメモリ量を増やすことなく可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下の実施例では現行放送の伝送に用いられているMPEG2-TSをハードディスクドライブ(以下、HDDと略す)へ記録、再生する装置を例に説明を行う。尚、以下は本発明の説明のための例示であって、本発明の範囲をこの変形例にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、下記実施例以外の種々のデジタル記録再生装置でも実施することが可能である。
【実施例1】
【0013】
放送波では1つのTSに複数の番組が多重化されて送信されているため、含まれている番組とTSを構成しているエレメンタリーストリームとの関係を表すPSI(Program Specific Information)を含んでいる。デコーダではPSIを解析することで任意の一番組を取り出すことが可能である。TSをHDDにどのように記録するかについては明確な規定が無いために様々な方法が考えられるが、本実施例では上記のようにMPEG2-TSの形式に則って複数の番組が多重化された放送波から、記録したい1つの番組を構成するストリームのみを抽出した形式(以降、パーシャルTSと呼ぶ)で記録を行っているものとする。
【0014】
図2は再生装置の構成の一例を示すブロック図である。この図を用いて本実施例における記録媒体から所定のTSをデコードするまでの動作について説明する。
【0015】
図2において再生装置は記録媒体201、出力制御部202、分離部203、MPEGデコーダ204、制御部205、システムバス206からなる。
【0016】
さらに出力制御部202は読み出し部2021、復号部2022、出力部2023、カウンタ2024から成る。さらに図には明記していないが各処理ユニットの前段には処理速度の誤差を吸収するためのバッファが存在する。MPEGデコーダ204はPCR取得部2041、STCカウンタ2042、オーディオパーサ2043、オーディオバッファ2044、オーディオデコーダ2045、ビデオパーサ2046、ビデオバッファ2047、ビデオデコーダ2048から成る。図には明記していないが、出力段の前段にバッファが存在する。
【0017】
本実施例では図2に示していない入力部において放送波を受信し、記録媒体201には暗号化を施されたパーシャルTS形式で記録されているとする。
【0018】
201はパーシャルTSを記録する記録媒体であるが、同時に保存するストリームのGOPの先頭位置を記録し管理することで、普通再生だけではなくたとえばIピクチャのみを連続して表示するといった、様々な特殊再生が行えるように記録を行う。
【0019】
202は記録媒体からパーシャルTSを出力するための出力制御部を示している。記録媒体201から再生を行うTSを読み出し、分離部203に送出する。記録媒体201から読み出し部2021によって任意のパーシャルTSを後段に転送する。復号部2022において復号する。出力部2023は復号したデータをタイムスタンプ再生、若しくはフロー制御再生のいずれかで出力する。カウンタ2024は再生時に時刻情報をカウントアップしていき、タイムスタンプ再生の基準時刻となる。
【0020】
タイムスタンプ再生の場合には、再生するパーシャルTSの時刻情報とカウンタ2024が生成する時刻情報とを比較して、時間が一致したPESを順次出力する。
【0021】
フロー制御再生の場合には、MPEGデコーダ204から制御部205を通してパーシャルTS出力の要求が来たら記録媒体からデータを順次読み出す。この場合には付加されているタイムスタンプを無視し、記録媒体と出力制御部の持てる最高の出力速度で出力を行う。MPEGデコーダ204からパーシャルTS出力停止の要求があった場合には記録媒体からの読み出しを止める。これを繰り返すことで、MPEGデコーダ204の再生処理能力に応じたデータ出力を実現する。
【0022】
分離部203では、記録/出力制御部202から送られてくるTSを解析し、映像、音声、時刻情報、その他付加的な情報に分離する。分離したデータをMPEGデコーダ204に送る。
【0023】
MPEGデコーダ204では、分離部203によって分離された各データの信号を入力として以下に示す処理を行う。PCR取得部2041で、TSが有するタイムスタンプを取得し、システムの時間情報にセットする。STCカウンタ2042ではセットされた時間情報を定期的にカウントアップしていき、オーディオデコード部2045とビデオデコード部2048に送信する。ビデオPESパーサ2046で入力された映像データを解析した後にビデオバッファ2047に蓄え、ビデオデコード部2048では、STCカウンタ2042から送信された時刻情報と、映像データの持つDTSが一致するとデコードを行い、PTSと一致すると後続の映像出力段に出力する。音声データはオーディオPESパーサ2043で解析し、オーディオバッファ2044に貯められる。オーディオデコード部2045ではSTCカウンタ2042から送信される時刻情報と音声データの持つPTSが一致したら音声出力を行う。
【0024】
MPEGデコーダ204においては、フロー制御再生に使用するフロー制御信号を送信する/しないの設定を行う。再生の手順は、フロー制御信号の送信する/しないによって違いは無く、再生手順開始後、始めに取得したPCRをSTC値に設定すると、以降はSTCカウンタが一定速度でカウントアップしていく。デコード部ではそのSTCカウンタの時刻情報を基準としてデコード・出力を行う。フロー制御信号を送信する場合、MPEGデコーダの持つビデオバッファ2047、オーディオバッファ2044の一方あるいは両方のデータ量を常に監視し、バッファにたまっているデータ量が一定の閾値より大きく、あるいは閾値以上になった場合には制御部205を通じて出力制御部202へパーシャルTS出力停止要求を出す。同様にバッファ内のデータ量がある一定の閾値以下或いは閾値未満になった場合に出力制御部202へTS出力開始要求を出す。上記動作を交互に繰り返すことで常にデコード可能な状態を保ち、映像と音声を同期させて出力する。
【0025】
制御部205は以上の各モジュールを統括し、システム全体の制御を行う。タイムスタンプ再生とフロー制御の切換についても制御部から命令を送り実行する。
【0026】
システムバス206により、制御部から各ユニットへの命令や各ユニットからの情報を伝達する。
【0027】
以上で説明した装置を使用し、記録媒体201から入力されたパーシャルTSが映像と音声の同期を取って出力するための再生手順を説明する。
【0028】
以上の再生装置において通常再生を開始する動作について説明する。
【0029】
図3は再生開始時の装置の動作を示すフローチャートである。例えばリモコンなどの外部入力機器などから記録媒体201に記録されている任意のパーシャルTSの再生が指示された場合、制御部が目的とするストリームの情報を出力制御部202へ通知する。
【0030】
ステップ(以下、Sと略す)301では、出力制御部202でタイムスタンプ再生の設定を行い、S302へ遷移する。記録媒体201ではIピクチャ位置を管理しており、パーシャルTSはIピクチャから出力が行われる。
【0031】
S302で出力制御部202は上位タスクから受け取った情報を元に再生すべき番組を判断し、記録媒体201からタイムスタンプ再生でパーシャルTSの出力を開始して、フロー制御再生への切り換えを行うためのタイマを設定してS303へ遷移する。設定する待ち時間は次にMPEGデコーダが再生を開始するまでの動作時間以上の値を設定する。記録媒体からの再生についてデコード開始に掛かる処理時間に規定は無いが、確実にデコードを行える時間をあらかじめ調査し、たとえば一秒間といった一定の待ち時間を設定する。
S303では制御部205からMPEGデコーダ204へ再生開始命令を出す。MPEGデコーダ204では、映像と音声のデコード・出力を開始してS304へ遷移する。
【0032】
S304では、S302において設定したタイマの分だけ時間が経過したら、制御部205が、出力制御部202の動作をタイムスタンプ再生からフロー制御再生へ切換を行い、処理を終了する。
【0033】
上記のフローチャートでは、出力制御部202で待ち時間を設け、出力制御部202とMPEGデコーダ204とが非同期で動作しているが、この動作に代わりMPEGデコーダ204で映像と音声を同期して出力開始したことを制御バス206/制御部205を通じて出力制御部202に通知し、それを受信して後にパーシャルTSの出力方法をフロー制御再生に切り換えても同じ効果が実現できる。処理を置き換えた場合のフローチャートを図4に示す。
【0034】
S401においてはS301と同様の動作を行う。
S402で出力制御部202はタイマを設定せずにS403へ遷移する。
S403はS303と同様の制御を行い、MPEGデコーダ204からの出力を開始してS404に遷移する。
S404ではMPEGデコーダ204で映像と音声が同期を取って再生したことを制御部205へ通知する。
S405ではS304と同様に制御部205から出力制御部202の動作をフロー制御再生に切り換えて処理を終了する。
【0035】
上記、記録媒体201からの出力が開始された後MPEGデコーダ204が非デコード状態を長く続けていると、ビデオバッファ2044・オーディオバッファ2047のいずれかが、もしくはいずれもがオーバーフローしてしまう。オーバーフローした場合、超過したデータを古いものから順次破棄してしまい、結果として出力する映像や音声にノイズが発生したりコマ飛び等が起こったりして視聴に不具合が生じる事が考えられる。しかし記録媒体201からの出力がタイムスタンプ再生で開始されるならば、入力のビットレートはほぼ放送波と同様になり、制御部205とMPEGデコーダ204の再生開始動作が放送波を再生する場合と同様のシーケンスであれば、ビデオバッファ2044とオーディオバッファ2047のサイズを変更しなくとも、バッファが破綻することなく再生が可能である。
【0036】
以上の動作によって一度再生方法をフロー制御再生に設定したら、ユーザによる再生停止操作や、再生方法の切換によって再び同期を取り直す必要が生じるまで、もしくは記録媒体からのパーシャルTS入力が停止しない限り、以降の再生はフロー制御再生で動作する。
【0037】
通常再生を開始した後、ユーザからのリモコン操作などにより、再生状態を切り換える場合の制御について示す。通常再生から音声出力を行わないIピクチャの映像のみ表示するサーチ動作へ遷移する場合の手順を図5に示す。
【0038】
S501では現在の再生方法がタイムスタンプ再生である場合S502へ遷移し、フロー制御再生である場合S503へ遷移する。
【0039】
S502では出力制御部202の動作をフロー制御再生に切り換えてS503へ遷移する。S503では制御部205から出力制御部202が持つバッファとMPEGデコーダ内のビデオバッファ2044とオーディオバッファ2047をクリアしてS504へ遷移する。S504では出力制御部202が記録媒体からのTSの出力方法を変更してS505へ遷移する。毎回次に出力するIピクチャの位置を取得し、得られた位置からIピクチャ一枚を含むサイズのデータをデコーダに出力するように変更する。
【0040】
S505では制御部205からMPEGデコーダの再生方法を映像はIピクチャのみデコード・出力するように変更し、音声はデコード・出力を行わないように変更して処理を終了する。
【0041】
上記以外の特殊再生へ遷移する場合においても、すなわち映像と音声の同期を取って再生を実行している状態から同期を取る必要がない再生状態に遷移する時は同様の処理手順でフロー制御再生へと切り換える。
【0042】
図6は音声出力無しでIピクチャのみ出力している特殊再生から通常再生に切り換える手順を示すフローチャートである。
【0043】
S601ではパーシャルTSの出力を止めて、S602へ遷移する。
【0044】
S602では出力制御部202が持つバッファとMPEGデコーダ内のバッファをクリアしてS603へ遷移する。バッファのクリアを行わずに普通再生に切り換えてしまうと切換時にバッファ内に残存しているIピクチャのみのストリームがデコード・出力され、視聴者に違和感を与えてしまう。そのため、バッファのクリアを行うことで、残存しているデータを無くしてスムーズにI,B,Pピクチャ全てをデコード・出力する普通再生への遷移を実現する。
【0045】
S603では出力制御部202の動作をタイムスタンプ再生に切り換えてS604へ遷移する。
【0046】
S604では出力制御部202が記録媒体201からのパーシャルTSの出力方法をI、P、Bピクチャ全てを出力するように設定を変更してS605へ遷移する。
【0047】
S605ではパーシャルTSの出力を開始してS606へ遷移する。
【0048】
S606では制御部205からMPEGデコーダ204の再生方法を通常のデコードを行うよう設定を変更して処理を終了する。
【0049】
例えばI,Pピクチャのみを用いた高速再生や音声出力を伴わないスロー再生などを含む上記以外の映像と音声の同期を取らない特殊再生状態から、映像と音声の同期を取る必要がある再生状態に遷移する場合は同様の処理手順でタイムスタンプ再生へと切り換える。
【0050】
これまでに示した例以外、例えば通常再生から音声付の1.5倍速早送り再生といったように映像と音声の同期を取って出力している状態はそのままに再生速度のみ変更するような遷移では、出力するピクチャの種類・順番に変更が無いため、バッファをクリアする必要が無く、かつ映像と音声の同期を取り直す必要も無い。よって、この場合はフロー制御再生からタイムスタンプ再生にする必要は無い。ただしタイムスタンプ再生に変更することも厭わない。
【0051】
また、例えばIピクチャのみ表示させる順方向のサーチから、Iピクチャのみ表示させる逆方向のサーチのように、映像と音声の同期を取らない再生状態から同期を取る必要がない再生状態へ遷移する場合は、フロー制御のままで必要に応じてバッファクリアを行い、再生方法を変更すれば良い。
【0052】
以上のように、動作前と動作後の再生状態を考慮することでタイムスタンプ再生とするかどうかの判断が可能である。再生状態として「一時停止」という状態を持った場合、遷移前の再生状態をチェックするだけでは再生時にタイムスタンプ再生に変更すべきかどうかは判断が出来ない。例えば、ユーザの操作が「再生」→「一時停止」→「再生」ならば、バッファクリアせずにフロー制御再生のままで構わないが、「サーチ」→「一時停止」→「再生」という遷移であれば、バッファクリアを行いタイムスタンプ再生を開始しなければならない。よって「一時停止」を状態として認識しない作りにするか、或いは「一時停止」状態の時にはさらに一つ前の状態を管理する作りにしておく。
【0053】
また、ランダムアクセス可能な記録媒体からの再生においては、再生中にユーザ操作によって指定された位置に移動して通常再生を再開するという動作も可能である。指定した位置から通常再生を行う場合には、確実に時刻情報が飛ぶために操作前がどのような再生状態かに拠らず操作後の再生開始時に映像と音声の同期を取る必要があるため、タイムスタンプ再生で再開しなければならない。図7はフロー制御で再生を行っている普通再生中、あるいは特殊再生中に、パーシャルTSを任意の位置から再生開始する動作を説明するフローチャートである。
【0054】
S701では、制御部205が指定された時刻の近傍のIピクチャを検索する。目的のIピクチャが見つかった場合にはS702へ遷移する。指定の時刻がストリームの存在の範囲外であるなどして、目的のIピクチャが見つからなかった場合には何もせず処理を終了する。
【0055】
S702では、図6で示したフローチャートと同様の操作を行ってタイムスタンプ再生を開始し、処理を終了する。
【0056】
次に先に示した特殊再生においてIピクチャをユーザに違和感を与えず滑らかに表示するために有効なデータ転送制御方式について説明する。
【0057】
本データ転送制御を行うために、図8に示されるように再生装置はビデオストリーム再生処理S803前にデータ再生にかかる時間を計算可能とする各種値を計測S801する。本計測値は記録媒体の物理的に離れた2点の位置でのデータの読み出し時間から導出される。本測定のために再生処理開始までの時間が増えることを防ぐため、再生装置が従来再生処理を開始するまでに必要な処理に併せて本測定を行うことも可能である。
【0058】
例えば記録媒体上のファイルを管理するファイルシステムの一種であるUDF(Universal Disc Format)のAVDP(Anchor Volume Descriptor)はファイルシステムの読み出し開始位置として使用される。UDFでは有効なAVDPはLBA(Logical Block Address)256、最終LBA、又は「最終LBA−256」の内、少なくても2箇所以上に記録される。
【0059】
従って、UDFをファイルシステムとして使用する再生装置では通常記録媒体からのストリームの読み出しの前に本アドレスへのアクセスが生じる。
【0060】
この際、LBA0からのデータ出力と、最終LBA又は「最終LBA−256」のデータ出力との時間差、最終LBAと「最終LBA−256」のデータ出力との時間差を計測しておく。このように取得された時間を記録媒体からのデータ読み出し開始迄にかかるオーバーヘッド時間として利用する。具体的な例として、LBA256と最終LBAからのデータ出力の時間差が100msとし、最終LBAと「最終LBA−256」からのデータ出力の時間差が10msであった場合には、LBAaのデータを読み出した後にLBAbのデータを読み出す際に想定されるオーバーヘッド時間は、一定の固定時間として考えられる時間と距離に比例する時間の和、つまり
10+(100−10)×(|LBAb−LBAa|)/最終LBA[ms]
と概算できる。
【0061】
またLBA256と「最終LBA−256」又は最終LBAのAVDSの読み出しに併せてそれぞれのLBA付近で数100Kバイト程度(記録媒体の持つ最小データ再生単位、つまりECCブロックの倍数)のデータを再生し、それぞれのデータの転送レートを計測する。具体例としては、LBA256から連続して500Kバイトのデータを再生し、このデータ再生に100msかかり、「最終LBA−256」から連続して500Kバイトのデータを再生し、このデータ再生に200msかかった場合には、LBAc近傍のデータを読み出す際に想定されるデータ転送レートは、
500K/200+(500K/100−500K/200)×(最終LBA−LBAc)/最終LBA[バイト/ms]
と概算できる。
【0062】
図9は特殊再生でのSTCカウンタとIピクチャデータの読み出し、及びIピクチャの表示の関係を示している。先に述べたとおり、読み出しの対象となるストリーム内のIピクチャの表示時間、位置やサイズは記録媒体で管理され、特殊再生時にはこの管理情報を元に表示するIピクチャを選択する。例えば、10倍速再生で1秒間に平均20枚のIピクチャを表示させる場合には、PTS=n[ms]のIピクチャを読み出した次に読み出すべきIピクチャはPTS=(n+500)[ms]又はその近傍のIピクチャとなる。また対象となるIピクチャ読み出しのために使用できる時間は50ms程度である。従って、Iピクチャ読み出しに50msより多くの時間がかかる場合、そのIピクチャの読み出しにかかる時間がなめらかな映像の再生を妨げる恐れがある。そのため管理情報から次に読み出すべきIピクチャを検索した際、そのIピクチャが予め決められた時間内に読み出すことができるか否かを判断する処理を加え、読み出すことが可能であれば実際に記録媒体からの読み出しを行い、読み出すことが不可能であれば、そのIピクチャを記録媒体から読み出すことを断念し、さらに次に読み出すべきPTS=(N+1000)[ms]又はその近傍のIピクチャを検索する処理を行う。
【0063】
またIピクチャを記録媒体から読み出すか否かを判定する別の方法として、管理情報から次に読み出すべきIピクチャを検出した際、そのIピクチャ読み出しが終了するまでにかかる時間を計算し、現在のSTCカウンタが示す時間に「計算で求められた読み出し終了までの時間×再生倍速」を加えた読み出し完了予想時間とそのIピクチャのPTSを比較する方法がある。この制御方法では図10が示すようにIピクチャの読み出し完了予想時間がそのIピクチャのPTS以下である場合にはIピクチャの読み出しを行い、Iピクチャの読み出し完了予想時間がPTSよりも大きい場合にはそのIピクチャの読み出しを中止し、次に読み出すべきIピクチャを検索処理に移行する。
【0064】
尚、ここで用いるIピクチャ読み出しの時間は、先に示したデータ読み出しのためのオーバーヘッド時間と記録媒体からIピクチャ分のデータを読み出すために必要な時間の和である。Iピクチャ分のデータを読み出すために必要な時間はIピクチャの管理情報で管理されるIピクチャのサイズとデータの転送レートから容易に求めることが可能である。
【0065】
また上記ではUDFをファイルシステムとして使用する記録媒体からのAVDSの読み出しを利用したIピクチャ読み出し時間のためのオーバーヘッド時間やデータ転送レートの測定を例にして説明したが、AVDSの読み出しに併せて測定を実施する必要はなく、特殊再生実行前にIピクチャ読み出し時間を予測する計算のために必用な測定値が求まっていれば良い。また本説明ではLBA間のオーバーヘッド時間や任意のLBAでのデータ転送レートを、2点間を一次曲線で繋いだ中点として捕らえた場合の例での説明を行ったが、記録媒体の回転制御方式や記録媒体の内外周における記録密度を考慮した近似を行なうことでより精度の高い制御が可能となる。
【0066】
以上の実施例に示した再生手法によって、記憶媒体に記録されたパーシャルTS再生においてAV同期を保つことが可能である。
【0067】
デコーダのビデオバッファ2044とオーディオバッファ2047のサイズを大きくしてやることもHDDからのパーシャルTS入力時にオーバーフローを防ぐ点で効果がある。そのため、上記実施例と組み合わせる事でS302にて設定する待ち時間を減らすことが可能である。究極的にはS302で設定する待ち時間無し、すなわち最初から入力をフロー制御再生として出力制御部を動作させることも含まれる。また、MPEGデコーダ204のデコード手順中にフロー制御用の手順を用意して処理時間を短くしておくことでも、同様にS302にて設定する待ち時間を短縮できる。しかし、用意する資源が増加する、或いは新規のプログラムを組むため、開発工数が増えるなどの欠点が挙げられる。
【0068】
以上で示した処理はデコーダに入力されるTSが時刻情報を持ち、タイムスタンプ再生を実行可能であるという条件において、どんな種類の記録媒体であるかに関わらず有効である。上記実施例ではHDDからの再生を用いたが、その他の例としてDVDディスクやBlu-Rayディスクからの再生など挙げられる。またテレビ放送受信機に限定せず、同様の構成を持って映像と音声を再生することの出来る機器全てに適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の解決する課題を説明するための模式図である。
【図2】本発明の一実施例における再生装置のシステム構成を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施例における再生開始方法を示したフローチャートである。
【図4】図2に示したフローチャートの一部の処理を変更しても同じ効果を上げることを説明したフローチャートである。
【図5】本発明の一実施例におけるフロー制御再生への移行手順を示したフローチャートである。
【図6】本発明の一実施例におけるタイムスタンプ再生への移行手順を示したフローチャートである。
【図7】本発明の一実施例におけるパーシャルTSの任意の場所からの再生開始手順を示したフローチャートである。
【図8】本発明の一実施例における特殊再生でのデータ転送制御の手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明の一実施例における特殊再生でのIピクチャ読み出しの手順1を示したフローチャートである。
【図10】本発明の一実施例における特殊再生でのIピクチャ読み出しの手順2を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
101 タイムスタンプ再生とフロー制御再生との差異を示した模式図
102 入力ストリーム(TSパケット)の模式図
103 フロー制御再生によって入力が停止する手順の説明図
201 記録媒体
202 出力制御部
203 分離部
204 MPEGデコーダ
205 制御部
206 システムバス
2021 読み出し部
2022 復号部
2023 出力部
2024 カウンタ
2041 PCR取得部
2042 STCカウンタ
2043 オーディオPESパーサ
2044 オーディオバッファ
2045 オーディオデコード部
2046 ビデオPESパーサ
2047 ビデオバッファ
2048 ビデオデコード部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から送信される映像・音声を含むストリームを記録媒体に記録する記録ステップと、
前記記録ステップにて記録したストリームの出力を制御する出力制御ステップと、
前記出力制御され出力されたストリームを映像データ、音声データ、時刻情報に分離する分離ステップと、
前記分離された映像データ、音声データをデコードするデコードステップとを有し、
前記出力制御ステップは、前記記録ステップの記録時におけるストリームの入力タイミングと同様なタイミングでストリームの出力を行う制御と、前記デコードステップにおけるデータ要求に応じてストリームの出力を行う制御と、を前記デコード動作中に任意に切り換え、前記ストリームの出力を読み出したストリームの位置と次に読み出すストリームの位置の距離を用いて制御することを特徴とする再生方法。
【請求項2】
前記出力制御ステップは、ストリームの出力が開始される前に前記記録媒体上の2点間以上のデータ出力時間を計測することを特徴とする請求項1に記載の再生方法。
【請求項3】
前記出力制御ステップは、ストリームの出力のために要求される時間と前記計測されたデータ出力時間から推測されるストリームの読み出し時間とを比較し、該比較結果に応じてストリームの読み出し処理を切り替ることを特徴とする請求項2に記載の再生方法。
【請求項4】
前記出力制御ステップは、ストリームの表示時間と前記計測されたデータ出力時間から推測されるストリームの読み出し完了時間とを比較し、該比較結果に応じてストリームの読み出し処理を切り替ることを特徴とする請求項2に記載の再生方法。
【請求項5】
外部から送信される映像・音声を含むストリームを記録する記録媒体と、
前記記録媒体に記録したストリームの出力を制御する出力制御部と、
前記出力制御部により出力制御され出力されたストリームを映像データ、音声データ、時刻情報に分離する分離部と、
前記分離部により分離された映像データ、音声データをデコードするデコーダとを具備し、
前記出力制御部は、前記記録媒体の記録時におけるストリームの入力タイミングと同様なタイミングでストリームの出力を行う制御と、前記デコーダからのデータ要求に応じてストリームの出力を行う制御と、を前記デコーダがデコード動作中に任意に切り換え、前記ストリームの出力を記録媒体上の読み出したストリームの位置と次に読み出すストリームの位置の距離を用いて制御することを特徴とする再生装置。
【請求項6】
前記出力制御部は、ストリームの出力が開始される前に記録媒体上の2点間以上のデータ出力時間を計測することを特徴とする請求項5に記載の再生装置。
【請求項7】
前記出力制御部は、ストリームの出力のために要求される時間と前記計測されたデータ出力時間から推測されるストリームの読み出し時間とを比較し、該比較結果に応じてストリームの読み出し処理を切り替ることを特徴とする請求項6に記載の再生装置。
【請求項8】
前記出力制御部は、ストリームの表示時間と前記計測されたデータ出力時間から推測されるストリームの読み出し完了時間とを比較し、該比較結果に応じてストリームの読み出し処理を切り替ることを特徴とする請求項6に記載の再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−260669(P2009−260669A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107395(P2008−107395)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】