説明

冶金スラグのクロム還元方法

鉄浴上に装荷された液状の冶金スラグからクロムを還元する方法であって、該クロムの還元がC含有量2〜4wt%の鉄浴によって行なわれる方法において、a)Cr含有量が2〜20wt%のCr含有スラグを、C含有量が1wt%未満の鉄浴上に装荷する工程、b)エネルギー供給と共に炭素源を添加して鉄浴の炭素含有量を約2〜4wt%にまで上昇させる工程、c)Crの還元後に、Cr含有量が約0.1wt%である液状スラグを除去する工程、d)冷却材、望ましくはスクラップを鉄溶湯に添加し、該溶湯のC含有量を1wt%未満にまで低下させる工程、およびe)Cr含有溶湯の一部を液状で除去し、一方、残部は以降の溶湯処理のために転炉内に液状で残す工程を特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄浴上に装荷された液状の冶金スラグからクロムを還元する方法であって、該クロムの還元がC含有量2〜4wt%の鉄浴によって行なわれる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼の製造に際しては、多量のスラグが生成し、このスラグ中のクロム含有量が多いので経済的な観点から還元することが適当である。更に、環境保護の観点でも、このような冶金スラグのクロム含有量を低減することは長期的に望ましい。
【0003】
例えばWO01/055461A1には、炭素含有鉄浴による還元によってスラグのCr含有量を約0.05〜0.2wt%に低減することが記載されている。
【0004】
しかし、この方法は実用化は問題が多いため、これまで適用されていない。
【0005】
上記特許公報によると、還元を行なうには鉄浴のC含有量は少なくとも3wt%必要である。スラグのCr含有量4〜6wt%である。
【0006】
液状のCr含有スラグを銑鉄浴上に装荷する。銑鉄とはC含有量が約4wt%の鉄を指す。
【0007】
上記公報の方法はもう一つの欠点として、スラグから還元されたクロムは高C含有量の合金中に含有された状態である。そのため、C含有量を低減するために電気炉で再度精錬しなくてはならず、プロセス全体としては不利である。
【0008】
WO01/055459A1には、FeO含有量が5wt%より多い液状スラグは、銑鉄浴上に装荷されると活発な反応を開始することが指摘されている。そのため、このFeO含有スラグを装荷する前に、鉄浴のC含有量を0.5wt%未満に低下させておく必要がある。しかし、高C含有量の鉄浴上に酸化クロム含有量が2wt%より多いCrO含有スラグを装荷した場合にも、上記と同様な反応が起きる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の欠点を排除する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による冶金スラグのクロム還元方法は、下記の工程の組み合わせによって行なう。
【0011】
a)Cr含有量が2〜20wt%のCr含有スラグを、C含有量が1wt%未満の鉄浴上に装荷する工程、
b)エネルギー供給と共に炭素源を添加して鉄浴の炭素含有量を約2〜4wt%にまで上昇させる工程、
c)Crの還元後に、Cr含有量が約0.1wt%である液状スラグを除去する工程、
d)冷却材、望ましくはスクラップを鉄溶湯に添加し、該溶湯のC含有量を1wt%未満、望ましくは0.5wt%未満にまで低下させる工程、および
e)Cr含有溶湯の一部を液状で除去し、一方、残部は以降の溶湯処理のために転炉内に液状で残す工程。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
反応ガスを高温空気で後燃焼させる下吹き転炉が、本発明の方法を実施するのに特に適している。この方法はエネルギー供給による高効率が得られるので、石炭の所要量が少なくて、経済的な操業が可能である。
【0013】
本発明の方法では、Cr還元後に高C含有量の鉄浴からスラグを分離することが必要である。そして少量のスラグのみが転炉内に残り、その後の鉄浴中のC含有量の低下中にCr含有量が再度増加する。しかし、ここでスラグ化するCrの量は非常に少ないので、Crバランスには殆ど影響しない。スラグが転炉内に残り、Crは以降のチャージにより新たに還元される。
【0014】
例えば、ステンレス鋼の製造に通常30wt%の量で用いられる非合金スクラップを鉄溶湯の精錬中に冷材として用いることができる。この場合、非合金スクラップを用いることにより、鉄溶湯のCr含有量を低く維持できるので、スラグの還元時間を短縮できるという利点がある。更に、廃材処理中に生ずるリサイクルの残材や、AODまたはレードル脱ガス設備で生成するスラグから生ずる材材も、一緒に溶解させて良い。
【0015】
本発明の方法は、従来技術に対して下記の利点がある。
【0016】
◎ Cr含有スラグを処理するのに必要な鉄浴は、先行する溶湯から回収される。
【0017】
◎ 転炉中でCr含有スラグの還元により生成する合金はC含有量が低いので、液状で電気炉に添加できる。
【0018】
◎ 非合金スクラップは低コストで溶解できるので、電気炉の生産性を高めることができる。
【0019】
以下に実施例により本発明の方法を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
100トン電気炉にて、Cr含有量18wt%、Ni含有量8wt%のステンレス鋼を製造した。従来の製造法により、合金スクラップ60トン、非合金スクラップ35トン、FeCr15トンを電気炉で溶落させた。フェロシリコンでスラグの還元をした後に、18wt%Cr、8wt%Ni、0.5wt%Cの溶鋼100トンをスラグ10トンと一緒に出湯させた。スラグはCr含有量5wt%、FeO含有量1.5wt%であった。
【0021】
本発明により、先行する溶湯から引き継いだ0.5wt%C、3wt%Crの鉄溶湯20トンを収容している転炉内に、上記のスラグを液状で装入した。
【0022】
転炉底部から吹き込み速度5,000Nm/hrで酸素を導入し、酸素を25wt%に濃化した高温空気を吹き込み速度25,000Nm/hrで上吹きした。総量5トンの粉状石炭を底部羽口から吹き込んだ。
【0023】
第1工程として、C含有量および鉄浴温度の上昇と、スラグからのCr還元のために、2トンの石炭が必要であった。第1工程において、廃材の処理により生ずるスラグと合金スクラップも同時に溶落させることが適当であり、該スラグおよび合金スクラップの量は鋼の製造量の約4wt%になる。その後、Cr含有量が約0.1wt%のスラグを出湯させる。この除滓の前に、必要に応じて、FeSiを4kg/スラグトン添加することによりCr含有量を約0.01wt%にまで低下させることができる。
【0024】
C含有量3wt%、Cr含有量7wt%の鉄浴に、非合金スクラップ30トンを装入した。このスクラップを溶落させるために、石炭3トンが必要であり、そのうちの2.5トンは粉状で吹き込み、残りの量はC含有量が精錬により3wt%から0.5wt%に低下した鉄浴から供給された。転炉内にあるCr含有量3wt%の合金のうち30トンを液状で電気炉に出湯した。残り20トンは以降の処理のために転炉内に残した。
【0025】
上記の各量は広い範囲で変わり得る。例えば、付加的に精錬するスクラップの量を約15トンに低下させることができる。これにより、電気炉内で用いるためのCr含有量7wt%の合金を生成できる。しかし、その結果、鉄浴中のCr含有量が大幅に増加するため、スラグからのCr還元に必要な時間が長くなる。個々の工程において、鉄浴のCr含有量が10wt%になるようにプロセスを制御する。
【0026】
本発明は、適当な造滓材を添加することにより、スラグの組成を変えて、セメント製造に使用できるようにすることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄浴上に装荷された液状の冶金スラグからクロムを還元する方法であって、該クロムの還元がC含有量2〜4wt%の鉄浴によって行なわれる方法において、
a)Cr含有量が2〜20wt%のCr含有スラグを、C含有量が1wt%未満の鉄浴上に装荷する工程、
b)エネルギー供給と共に炭素源を添加して鉄浴の炭素含有量を約2〜4wt%にまで上昇させる工程、
c)Crの還元後に、Cr含有量が約0.1wt%である液状スラグを除去する工程、
d)冷却材、望ましくはスクラップを鉄溶湯に添加し、該溶湯のC含有量を1wt%未満にまで低下させる工程、および
e)Cr含有溶湯の一部を液状で除去し、一方、残部は以降の溶湯処理のために転炉内に液状で残す工程
を特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、上記冷却材を添加することにより、上記溶湯のC含有量を0.5wt%未満に低下させることを特徴とする方法。

【公表番号】特表2007−538156(P2007−538156A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517483(P2007−517483)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【国際出願番号】PCT/IB2005/001342
【国際公開番号】WO2005/113840
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(501405018)ホルシム リミティド (1)
【Fターム(参考)】