説明

冷却水性状測定装置及び冷却塔

【課題】冷却塔に簡易に設置して冷却塔における付着物を精度良く検出することができる冷却水性状測定装置と、この冷却水性状測定装置を備えた冷却塔を提供する。
【解決手段】冷却塔30内の水がポンプ32、熱交換器34を通って冷却塔30に戻り、散水管36から充填材40に注ぎかけられる。充填材40を伝わり落ちてきた水は、上開容器状の集水部41で集水され、配管42を介して上開容器状の受水部43に注ぎ込まれ、配管44から計測チャンバ45に導入され、配管46を介して流出する。計測チャンバ45にセンサ1が設置されており、計測チャンバ45内に導入された冷却水と接触する。このセンサ1の検出温度T,Tによって、この循環冷却水系におけるスライム発生状況が検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環式冷却水系などの冷却塔におけるスライムやスケールの検知に好適に用いられる冷却水性状測定装置と、この冷却水性状測定装置を備えた冷却塔に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却塔等の循環水中に発生する微生物によって熱交換器や配管等の壁面に形成される微生物膜厚さの増加量を検知する方法として、特開昭61−26809号には、配管内や配管外部に設けた発熱部を発熱させ、配管周囲に設けられた感温部(熱伝対等)で計測した伝熱部の温度と、予め計測された配管内の流体温度から伝熱量を計測し、配管内側壁面に付着した微生物膜(スライム)や析出物(スケール)等による伝熱阻害を前記伝熱量の変化より検出する方法が記載されている。
【0003】
この特開昭61−26809号の方法は、配管内側壁面に付着する付着物によって生じる伝熱阻害を配管管肉内部に埋め込んだ測温体の温度上昇によって検出する方法であり、経時的な観察が可能であり、付着の短時間での検出が可能な方法である。しかしながら、(1)水温を計測する計測部を別途用意する必要がある。(2)測温体を埋め込んだ特別な配管を通常の配管以外に別途用意する必要がある。(3)加熱部を前記配管内に埋め込む又は配管外部に固定し、配管側への熱供給量を安定化させるために、配管外への放熱量を一定に保つ(外気温を一定にしたり保温する等)といった操作が必要となるため、計測のための手段の準備は容易ではない。
【0004】
特開平10−332610号には、平板上に白金等の抵抗体をパターン状に形成したヒーターを発熱させた時の抵抗変化から、前記平板上に形成されたスライムによって阻害される放熱量の減少を、計測温度の上昇(抵抗値の増加)によって計測する方法が記載されている。この方法によれば、小型の計測部を循環水系に浸漬することができ、ゴム板法や特開昭61−26809号の方法に比べて計測操作は容易になる。しかしながら、特開平10−332610号では、水温や水流速度を計測していないために、水温や流速の変動による放熱量の変化と、スライム付着による放熱量の変化の区別が不可能であり、前記水温や流速の変化を別途計測する手段を設ける必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−26809号
【特許文献2】特開平10−332610号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特開昭61−26809のように、ヒーターを発熱させた時の配管に埋め込んだ測温体の出力と、予め計測された配管内を流れる流体の温度から放熱量を計測する方法により、配管壁面等への付着物を常時検出することは可能である。しかしながら、循環水系においては、循環水ポンプによって冷却塔内の水が熱交換器に通水されて冷却塔に戻される様になっており、この冷却塔に上記特開昭61−26809のような方法でセンサを設置しようとした場合には、センサを埋め込んだ新たな配管を追加する工事を必要とするため、大きなコストがかかる。
【0007】
また、特開昭61−26809及び特開平10−332610号にあっては、流速による放熱量が流速変動により変化する場合、付着物による温度の変動と流速による変動との識別が困難であり、安定した計測のためには水流の影響を軽減する必要がある。特に特開平10−332610号の計測手段を用いる場合、水の流れが直接計測手段にあたるときには、水流速の変化の影響を直接受けることとなる。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、冷却塔に簡易に設置して冷却塔における付着物を精度良く検出することができる冷却水性状測定装置と、この冷却水性状測定装置を備えた冷却塔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の冷却水性状測定装置は、冷却塔内部を流下する冷却水を集水する集水部と、該集水部からの冷却水が通過する通水部と、該通水部に設置された、冷却水の性状を計測するセンサと、を備えたものである。
【0010】
請求項2の冷却水性状測定装置は、請求項1において、前記通水部は、前記集水部からの冷却水を満水又はオーバーフローの状態を保ちながら受け入れる、上部が開口した受水部と、該受水部からの冷却水が通過する計測チャンバとを備え、該計測チャンバに前記センサが設置されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の冷却水性状測定装置は、請求項1又は2において、前記センサは、金属管と、該金属管内に挿入された発熱体及び測温体と、該発熱体及び測温体と該金属管の内面との間に充填された充填物とを備えていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4の冷却水性状測定装置は、請求項3において、前記発熱体への通電制御手段と、前記測温体の計測温度から該金属管外面への付着物の付着判定を行う判定手段とを備え、該判定手段は、該発熱体への通電量を変化させた際に該測温体で計測される温度の変化に基づいて該金属管外面への付着物の付着を判定するものであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5の冷却水性状測定装置は、請求項4において、前記発熱体に定電流iを所定時間t通電した後、所定時間tだけ非通電とするか、または、所定時間tだけ定電流iよりも小さい定電流iとするサイクルを繰り返し行い、該金属管外面への付着物の付着を判定するよう構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6の冷却水性状測定装置は、請求項5において、該所定時間tの開始時または該所定時間tの終期における測温体の計測温度Tと、該所定時間tの終期または該所定時間tの開始時における測温体の計測温度Tとの温度差の経時変化に基づいて、該金属管外面への付着物の付着を判定することを特徴とするものである。
【0015】
請求項7の冷却塔は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の冷却水性状測定装置を備えた冷却塔であって、前記集水部は、冷却塔内に設置された充填材に接して設けられ、充填材に沿って流下する冷却水を集水することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の冷却水性状測定装置では、冷却塔上部からの冷却水を集水部で集水して通水部に通水し、この通水部に設けたセンサで冷却水の性状を測定する。
【0017】
一般に、冷凍機の運転に連動して、循環ポンプによって冷却塔ピット内に溜まった冷却水が冷凍機内の熱交換器を通って冷却塔上部に供給され、冷却塔の上部からは、充填材を伝わって再び冷却塔ピットに戻ってくる。冷却塔上部から落下してくる冷却水を集水部で集めて通水部に供給することにより、無動力で通水部に冷却水を通水し、センサと接触させることができる。集水部からの水を受け入れる受水部がオーバーフローするなど満水位にあるときには、通水部に対し一定の流速で冷却水を通水することができ、冷却水の性状を精度よく測定することができる。
【0018】
この集水部は冷却塔の充填材に接して設置されるのが好ましい。冷却塔の循環ポンプが運転を開始し、冷却塔上部に冷却水が供給されると、冷却水は充填材を伝わって落下する。集水部が充填材壁面を伝わり流れ落ちる冷却水を受ける。集水部の開口面積に比べて十分に小さくしておくと、通常の冷却塔の運転時における冷却塔上部からの落水が集水部を介して導入される受水部は満水またはオーバーフロー状態となり、通水部には一定流速にて冷却水が流れる。これにより、センサによって冷却水の性状を精度よく測定することができる。
【0019】
本発明の冷却水性状測定装置に用いるセンサとしては、金属管内部に発熱体と測温体を設置したものが好ましい。通水部に通水して冷却水と該センサとを接触させ、一定時間毎に該発熱体への通電電流量を増減させる。そして、通電量をゼロとした又は少なくしたときに水温に依存した温度を計測し、また、通電量を多くしたときに発熱量に依存した温度を計測する。これにより、一つのセンサーで水温と発熱時の内部温度を計測し、これに基づいてプローブへの付着物の付着状況を検知し、水系におけるスライムの発生状況を精度よく検知することが可能となる。
【0020】
本発明では、上記のように通水部に冷却水を定量的に通水させることにより、センサからの放熱量は水の温度と、センサへのスライム等の付着物量のみに依存するようになる。このため、通電量をゼロとした(又は少なくした)ときの、水温に依存した内部温度と、通電量を多くしたときの、発熱に依存した内部温度を計測し、この2つの温度の差を算出すれば、スライム付着による伝熱阻害により上昇する内部温度上昇を正確に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】循環冷却水系の系統図である。
【図2】図1の一部の拡大図である。
【図3】計測チャンバを含む通水部の断面図である。
【図4】実施の形態に用いられるセンサの断面図である。
【図5】実施の形態に係る測定装置の回路ブロック図である。
【図6】センサへの通電パターン及び検出温度変化パターン図である。
【図7】センサへの通電パターン及び検出温度変化パターン図である。
【図8】管壁付近の温度分布図である。
【図9】センサ出力と流速との関係を示すグラフである。
【図10】センサの出力特性図である。
【図11】測定結果を示すグラフである。
【図12】比較例に係る循環冷却水系の系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0023】
第1図は実施の形態に係る冷却水性状測定装置を備えた冷却塔の概略的な縦断面図及び開放式循環冷却水系の系統図である。第2図は第1図の一部を拡大した冷却水性状測定装置の側面図、第3図は通水部の断面図、第4図はセンサの断面図、第5図は測定装置のブロック図、第6図及び第7図はセンサの作動説明図、第8図は伝熱壁の模式的な断面図である。
【0024】
第1図の通り、冷却塔30内の水が配管31、ポンプ32、配管33、熱交換器34及び配管35を通って冷却塔30に戻り、散水管36から冷却塔30内の充填材40に注ぎかけられる。冷却水は充填材40に沿って伝わり落ち、この間に水の一部が蒸発し、冷却水が冷却される。
【0025】
第2,3図の通り、充填材40を伝わり落ちてきた水は、上開容器状の集水部41で集水され、配管42を介して上開容器状の受水部43に注ぎ込まれる。受水部43内の冷却水は、配管44から計測チャンバ45に導入され、この計測チャンバ45の上部の配管46を介して流出する。計測チャンバ45にセンサ1が設置されており、計測チャンバ45内に導入された冷却水と接触する。このセンサ1の検出温度T,Tによって、この循環冷却水系におけるスライム発生状況が検出される。
【0026】
なお、充填材40は、多数枚のポリ塩化ビニルなどの合成樹脂等よりなる板状体を板面が略鉛直となるように間隙を介して積層状に配列したものである。集水部41は、この充填材40に対し留付部材によって固定されている。集水部41は、上方に向って開放した容器状である。集水部41は、充填材40を伝わり落ちてきた冷却水を受け入れるように上縁の一辺部が充填材40の板面に接している。配管42は、その上端が集水部41の底部に接続されており、下端は受水部43の上方に位置している。
【0027】
受水部43は、上方に向って開放した容器状であり、充填材40又は冷却塔30に取り付けられている。受水部43の底面に配管44の上端が接続されており、配管44の下端が計測チャンバ45の側面の上下方向途中部分に接続されている。計測チャンバ45は、筒軸心方向を上下方向とした筒形であり、その上部に配管46の基端が接続されている。配管46は、下向きU字状ないし略円弧状に湾曲しており、配管46の先端側は下方を指向している。
【0028】
センサ1は、細長いプローブ状であり、ホルダ47に保持されて計測チャンバ45内に下方から挿入されている。ホルダ47は、パッキン48及びナット49によってチャンバ45に保持されている。
【0029】
なお、受水部43、配管44、計測チャンバ45及び配管46によって通水部が構成されている。
【0030】
集水部41の上面の開口面積及び配管42の断面積を配管44又は配管46の断面積よりも大きくとっておくと、集水部41から配管42を介して受水部43に注ぎ込まれる水量は、通水部の通過水量よりも多くなるので、受水部43はオーバーフロー状態となる。そうすると、計測チャンバ45内には、受水部43の上縁と配管46の先端との水頭差hに応じた定流速にて冷却水が通水されることになる。
【0031】
このように、この実施の形態では、定量ポンプ等の高機能機器を用いることなく、一定の水頭差を利用する簡易な機構にて計測チャンバ45に冷却水を定流量にて通水することができる。
【0032】
なお、配管44又は46に流量調節弁を設け、計測チャンバ45への流量を調節するようにしてもよい。
【0033】
次に、第4図を参照してセンサ1の構造について説明する。
【0034】
このセンサ1は、基端側が開放し先端側が閉じた真鍮、ステンレス等の耐食性金属よりなる金属管2と、該金属管2内に配置した発熱体3及び測温体4と、金属管2の内周面と該発熱体3及び測温体4との間のスペースに充填された電気絶縁性かつ熱良導性の酸化マグネシウム(マグネシア)粒子などの充填物5等を有する。センサ1の基端側はエポキシ樹脂等の樹脂6で封止されている。
【0035】
金属管2の肉厚は0.05〜0.5mm程度が好適である。金属管2の直径は2〜5mm程度が好適である。
【0036】
発熱体3としては、絶縁性基板上に白金薄膜を形成したものなどが好適である。測温体4としては、熱電対やサーミスタ等が好適である。ただし、発熱体3及び測温体4としてはこれら以外のものを用いてもよい。
【0037】
発熱体3は、金属管2の軸心部に配置されるのが好ましい。測温体4は、発熱体3と金属管2の内周面との間において金属管2の内周面と接するように設けられるのが好ましい。
【0038】
発熱体3への通電用リード線3a,3bのうち、一方のリード線3aはセンサ1外にまで延在し、他方のリード線3bは金属管2に半田付け等により接続され、金属管2を介してリード線3cに導通しているが、リード線3bもリード線3aと同様にセンサ1外にまで延在してもよい。なお、リード線3cは金属管2の基端に半田付け等により接続されている。測温体4からの2本のリード線4a,4bは、センサ1外に引き出されている。これらのリード線には絶縁被覆が施されている。
【0039】
このセンサ1は、管状ホルダ47の先端に取り付けられている。センサ1の金属管2がホルダ47の先端から計測チャンバ45内に突出している。
【0040】
前述の通り、このホルダ47は、パッキン48及びナット49によって計測チャンバ45に固定されている。センサ1の金属管2の先端は、配管44と計測チャンバ45との接続部(流入口)よりも上方に位置している。配管44からの冷却水の流入口にはホルダ47が対面している。
【0041】
センサ1への付着物の検出装置は、この発熱体3への通電制御手段と、測温体4の出力信号を処理して付着物の付着状況の判定を行う判定手段とを有する。この付着物検出装置の回路の構成について第5図を参照して説明する。
【0042】
この付着物検出装置は、発熱体3に電流を出力する電流出力部21と、測温体4からの温度信号を入力してデジタル信号に変換する温度入力部22と、温度入力部22からの信号を入力して、測温体の温度情報に基づいて電流出力部21が出力すべき電流値を演算すると共に、スライムの付着判定を行う演算部23より構成される。この演算部23はマイクロコンピュータ(μ−CPU)や大規模集積回路(LSI)によって構成された演算処理回路である。演算部23は、発熱体3への通電電流値を周期的に変動させながら、測温体4からの温度データに基づき、センサ1の表面に付着する付着物によって発生する伝熱抵抗の上昇から付着物の付着状況を判定する。
【0043】
この付着物検出装置を用いて水系のスライム発生状況を観察するには、集水部41で集水した冷却水を定流速にて計測チャンバ45内に通水する。そして、第6図のように発熱体3にパルス状に通電を行い、測温体4の計測温度を検出し、この結果に基づいてセンサ1へのスライムの付着量を判定し、水系におけるスライムの発生状況(発生し易さ)を判定する。
【0044】
第6図のように、発熱体3に通電を開始すると、発熱体3の発熱が測温体4に伝熱することにより、測温体4の検出温度がTから上昇を開始する。測温体4の検出温度は、発熱体3からの発熱量と、センサ1の表面からの放熱量とがバランス(平衡)するまで上昇する。
【0045】
通電時間tを、測温体4の検出温度がほぼ平衡温度Tに達するのに十分な時間となるように選定しておく。この時間tは、予め通電試験を行って決定すればよい。ただし、tを過度に長くすると、測定のリアルタイム性が乏しくなるので、実質的に平衡温度とみなせる温度(例えば、最終的な平衡温度との差が0.1℃以内となる温度)まで昇温するのに要する時間をtとして設定すればよい。通常の場合、tは5〜60秒特に5〜20秒程度が好ましい。
【0046】
発熱体3への通電を停止すると、センサ1から周囲の水中に放熱することにより、測温体4の検出温度が低下し始める。通電停止時間tを、センサ1にスライムが付着している場合でも測温体4の検出温度が周囲水温とほぼ等しい平衡温度Tに達するのに十分な時間となるように選定しておく。この時間tは、予め通電試験を行って決定すればよい。ただし、tを過度に長くすると、測定のリアルタイム性が乏しくなるので、実質的に平衡温度とみなせる温度(例えば、水温との差が0.1℃以内となる温度)まで低下するのに要する時間をtとして設定すればよい。通常の場合、tは20〜300秒特に60〜300秒程度が好ましい。
【0047】
なお、第6図ではt時間帯では通電量をゼロとしているが、t時間帯の通電量iに比べて微量の定電流iを通電するようにしてもよい。ただし、i=0とするのが好ましい。
【0048】
集水部41にて集水される冷却水の水温が変動しない場合、センサ1にスライムが付着していない状態では、1つの通電時間t開始前の計測温度Tと、この通電時間t末期の計測温度Tとはいずれも経時的に一定である。なお、TとTとの差が5〜20℃程度となるように発熱体3への通電量を設定するのが好ましい。
【0049】
センサ1にスライムが付着した状態では、通電時間t末期の計測温度Tは、センサ1にスライムが付着してないときに比べて高い温度となる。これは、スライムによってセンサ1から水への伝熱が阻害されるからであり、詳しいメカニズムについては次に述べる。
【0050】
従って、第6図に示すパルス通電を繰り返し行いながら温度T,Tを経時的に測定し、TとTとの差(T−T)の経時的変化からセンサ1へのスライムの付着の有無及び付着量を検知することができる。
【0051】
上記の温度T,Tからスライムの付着厚さを求める算出式は下記の数1の通りである。なお、この式は、第8図に示す伝熱モデルに基づくものである。
【0052】
【数1】

【0053】
第8図において、Tw(水温)はTである。Ts(センサ表面温度)は、センサ内部の熱伝導度がkに比べて無視できる程度に小さい値であるときには、Tに等しい値とすることができる。また、Tw、Ts以外の右辺の項目は、センサの形状、発熱体の抵抗値及び通電量などより求められる定数である。
【0054】
例えば、熱流束qについては、発熱体3の電気抵抗値R、発熱体3への通電電流値i,発熱体3のセンサ長手方向の長さL、金属管2の半径rより次式に従って算出することができる。
【0055】
【数2】

【0056】
従って、TとTを計測することにより、スライム(センサ表面付着物)の厚みを計測することができる。
【0057】
但し、層流境膜伝熱係数を定数と見なすためには、層流境膜の厚みを一定にする必要があり、その為に計測チャンバ45内に水を定流速にて通水する。なお、流速を層流境膜伝熱係数の変動が無視できる速度値以上としてもよい。
【0058】
なお、冷却水を循環させるためのポンプ32が停止した場合には、計測チャンバ45への冷却水流入が停止し、センサ1の出力温度が上昇する。
【0059】
即ち、空調用冷凍機などは、夜間や冬季に停止し、循環ポンプ32が停止される場合がある。循環ポンプ32の停止により冷却塔30上部からの給水(散水)が停止すると、集水部41への水の供給がなくなるので、計測チャンバ45への冷却水の供給は停止し、従って計測チャンバ45内の水の流れは停止する。そのため、センサ1からの放熱量が減少し、第7図の通り、センサ1における加熱時(時間帯t)にセンサ1の出力温度が急激に上昇する。また、一旦停止した循環ポンプ32が再度運転を再開した場合には、再び集水部41から計測チャンバ45に冷却水が供給されることとなるため、計測チャンバ45内に流速が発生し、これによりセンサ1の放熱量が増加するため加熱時のセンサ出力温度がポンプ32の停止時に比べて急激に低下する。従って、定期的に繰り返す加熱時の温度上昇速度を監視することで、計測チャンバ45内に流速が生じているかどうかを判断して、冷却塔の循環ポンプの運転状態(ON/OFF)を検知することが可能となる。すなわち、加熱上昇速度の閾値を設定しておき、その閾値を越える加熱上昇速度が検知された場合に、発熱体3への通電をOFFする制御を行うことが可能である。
【0060】
このように、循環ポンプ32の動作状況をセンサ1の出力から検知し、加温工程でのセンサへの通電量を自動的に制御することが可能となり、無駄な消費電力の削減、および冷却塔の運転状態に影響を受けにくい適切なスライム付着状況のモニタリングが可能となる。
【実施例】
【0061】
[実施例1]
直径3.0mm、肉厚0.1mm、長さ35mmのステンレス製の金属管2内の先端部に、発熱体3として、φ1.7×4.0mmの金属被膜抵抗120Ωを設置した。また、この発熱体3に近接して、測温体4として熱電対を金属管2の内周面に接するように配置した。金属管2の内周面と発熱体3及び測温体4との間に、平均粒径約100μmの酸化マグネシウム粉体を充填した。金属管2の基端はエポキシ樹脂6で封じた。このセンサ1をホルダ47の先端に取り付けた。センサ1のホルダ47からの突出長さは18mmである。
【0062】
このホルダ47を第3図のように計測チャンバ45に取り付け、第5図の如く結線した。計測チャンバ45の内径は20mm、上下方向長さは120mm、ホルダ47の外径は18mmである。試験的にこの計測チャンバ41に冷却水を流し、センサ1の発熱体3に対し、t=60sec,t=60sec、通電時の電流値i=40mAにて通電した。通水流速とT−Tとの関係を第9図に示す。また、このセンサ1に徐々にスライムが付着したときのスライム厚さとT−Tとの関係を第10図に示した。
【0063】
この計測チャンバ45及び集水部41を第1図のように冷却塔30に設置した。集水部41としては、上面の開口面積200cmのものを用いた。配管42の内径は20mm、配管44の内径は8mm、配管46の内径は8mmである。その結果、計測チャンバ45の通水量は300cm/minの一定流量であった。この通水流速では、センサ1の金属管2の表面に沿う被検水の流れは乱流となり、金属管2の表面からは均一に熱が水に伝達する。
【0064】
センサ1の発熱体3に対し、t=60sec,t=60sec、通電時の電流値i=40mAにて通電した。T−Tの経時変化を第11図に示す。
【0065】
この実施例1より、第10図の如くセンサ1の出力温度からスライム付着厚さが検知可能であることが確認された。また、第11図の通り、センサ1の出力温度に基づいて循環ポンプ32のON/OFFを検知できることも確認された。
【0066】
[比較例1]
第12図に示すように、配管36、ポンプ37、フローセル11及び配管38よりなる計測専用循環ラインを設け、フローセル11にセンサ1を設置した。冷却塔30のピットの水が、採取用配管36、定量ポンプ37を介してフローセル11内に導入され、フローセル11内に設置されたプローブ1と接触した後、配管38を経てピットに返送される。このプローブ1の検出温度T,Tを測定し、第11図に示した。
【0067】
第11図の通り、比較例1では定量ポンプ37を用いて計測チャンバ45に通水するので、循環ポンプ42の停止時でもセンサ1の出力は殆ど変動しない。
【符号の説明】
【0068】
1 プローブ
2 金属管
3 発熱体
4 測温体
5 充填物
10 付着物検出ユニット
11 フローセル
21 電流出力部
22 温度入力部
23 演算部
30 冷却塔
32 循環ポンプ
34 熱交換器
37 定量ポンプ
40 充填材
41 集水部
42,44,46 配管
43 受水部
45 計測チャンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却塔内部を流下する冷却水を集水する集水部と、
該集水部からの冷却水が通過する通水部と、
該通水部に設置された、冷却水の性状を計測するセンサと、
を備えた冷却水性状測定装置。
【請求項2】
請求項1において、前記通水部は、前記集水部からの冷却水を満水又はオーバーフローの状態を保ちながら受け入れる、上部が開口した受水部と、該受水部からの冷却水が通過する計測チャンバとを備え、該計測チャンバに前記センサが設置されていることを特徴とする冷却水性状測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記センサは、金属管と、該金属管内に挿入された発熱体及び測温体と、該発熱体及び測温体と該金属管の内面との間に充填された充填物とを備えていることを特徴とする冷却水性状測定装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記発熱体への通電制御手段と、
前記測温体の計測温度から該金属管外面への付着物の付着判定を行う判定手段とを備え、
該判定手段は、該発熱体への通電量を変化させた際に該測温体で計測される温度の変化に基づいて該金属管外面への付着物の付着を判定するものであることを特徴とする冷却水性状測定装置。
【請求項5】
請求項4において、前記発熱体に定電流iを所定時間t通電した後、所定時間tだけ非通電とするか、または、所定時間tだけ定電流iよりも小さい定電流iとするサイクルを繰り返し行い、該金属管外面への付着物の付着を判定するよう構成されていることを特徴とする冷却水性状測定装置。
【請求項6】
請求項5において、該所定時間tの開始時または該所定時間tの終期における測温体の計測温度Tと、該所定時間tの終期または該所定時間tの開始時における測温体の計測温度Tとの温度差の経時変化に基づいて、該金属管外面への付着物の付着を判定することを特徴とする冷却水性状測定装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の冷却水性状測定装置を備えた冷却塔であって、
前記集水部は、冷却塔内に設置された充填材に接して設けられ、充填材に沿って流下する冷却水を集水することを特徴とする冷却塔。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−237107(P2010−237107A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86821(P2009−86821)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】