説明

冷却液組成物

本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金、鋳鉄、鋼等の腐食防止機能に優れるとともに、リン酸塩存在下においても硬水安定性に優れる冷却液組成物を提供することを課題とし、グリコール類を主成分とする冷却液組成物において、(a)0.1〜10重量%のアルキル安息香酸類またはそれらの塩の少なくとも1種と、(b)0.01〜0.5重量%の2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸又はその塩と、(c)0.0001〜0.1重量%のストロンチウム化合物と、(d)0.01〜0.5重量%の炭素数4〜6の不飽和モノエチレンジカルボン酸またはその塩の重合体および共重合体、炭素数4〜6の不飽和モノエチレンモノカルボン酸またはその塩の重合体および共重合体、あるいは前記炭素数4〜6の不飽和モノエチレンジカルボン酸またはその塩と炭素数4〜6の不飽和モノエチレンモノカルボン酸またはその塩の共重合体の中から選ばれる少なくとも1種と、を含有した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、主として、長期に渡って内燃機関の冷却系統に使用されるアルミニウム又はアルミニウム合金、鋳鉄、鋼等の腐食防止効果に優れ、また、リン酸塩が含有している場合においても硬水安定性に優れる冷却液組成物に関する。
【背景技術】
従来より、エンジン等の内燃機関の冷却系統には、アルミニウムまたはアルミニウム合金、鋳鉄、鋼、黄銅、はんだ、銅などの金属が使用されている。とくに近年自動車車体の軽量化を目的として冷却系統部品にはアルミニウムまたはアルミニウム合金が多用されるに至っている。
これらの金属は、水あるいは空気との接触により腐食を生じる。これを防止するため、エンジン等の内燃機関の冷却系統に使用される冷却液組成物には、リン酸塩、アミン塩、ホウ酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、ケイ酸塩、有機酸塩などの腐食防止剤が含まれていた。特に、リン酸塩はアルミニウムまたはアルミニウム合金の腐食に優れることから、多くの冷却組成物に使用されていた。たとえば、アルコール類またはグリコール類から選ばれる融点降下剤と、リン酸塩と、2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸と、カルシウム化合物とを含むことを特徴とするものがあった(特開平2002−322467号公報参照)。
ところが、リン酸塩を含有する冷却液組成物にあっては、リン酸が冷却液中の硬水成分と反応して沈殿を生じることから、硬水で希釈した場合には、多量の沈殿物が生成していた。沈殿物の生成は、冷却液の腐食防止機能を低下させるだけではなく、生成した沈殿物が冷却系統の循環路に堆積し冷却系統を閉塞してしまうという事態を引き起こしていた。
これに対して、リン酸塩を含まない非リン系の冷却液組成物も提案されている。例えば、グリコール類を主成分とし、セバシン酸又はそのアルカリ金属塩のうち少なくとも1を0.5〜4.0wt%、p−tert−ブチル安息香酸又はそのアルカリ金属塩のうち少なくとも1を0.5〜3.0wt%、トリアゾール類を0.05〜1.0wt%の範囲で含有しており、その成分中にリン酸塩を含有しない不凍液(冷却液組成物)について提案されている。この冷却液組成物にあっては、硬水で希釈しても、リン酸塩が存在しないため沈殿が生成することがない(例えば、特開平4−117481号公報参照)。
しかし、この冷却液組成物にあっては、流水下でのアルミの腐食防止機能が低く、アルミが腐食するという不具合があった。
一方、硬水で希釈した場合の沈殿物の生成を抑制するために、スケール防止剤を添加した冷却液組成物も提案されている。この冷却液組成物は、(a)モノエチレン性不飽和C〜C−モノカルボン酸およびその塩のホモおよびコポリマー;(b)モノエチレン性不飽和C〜C−モノカルボン酸およびその塩のホモポリマー(ポリマーは第二級アルコールで変性されている。);(c)モノエチレン性不飽和C〜C−ジカルボン酸およびその塩からなるモノマー単位および少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和置換モノマー(置換基はアルキルビニルエーテル、オレフィンおよびビニルエステルおよびカルボン酸のアミドからなる群から選択される)を含有するコポリマー;(d)モノエチレン性不飽和C〜C−ジカルボン酸およびその塩からなるコポリマーからなる群から選択される約1200〜約250000の分子量範囲を有する少なくとも1つのポリカルボキシレートを含有する、ことを特徴とするものである。
この冷却液組成物にあっては、(a)〜(d)からなる群から選択される少なくとも1つのポリカルボキシレートが、硬水沈殿を減少または除去するようになっている。
しかし、このような冷却液組成物は沈殿生成の抑制又は防止に対しては、効果的であっても、アルミの腐食防止機能が低く、特に高温でのアルミ伝熱面腐食性試験では腐食量が多いという不具合があった(例えば、特開平5−247433号公報参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、アルミニウムまたはアルミニウム合金、鋳鉄、綱等の腐食防止機能に優れるとともに、リン酸塩存在下においても硬水安定性に優れる冷却液組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、グリコール類を主成分とする冷却液組成物において、(a)0.1〜10重量%のアルキル安息香酸類またはそれらの塩の少なくとも1種と、
(b)0.01〜0.5重量%の2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸又はその塩と、(c)0.0001〜0.1重量%のストロンチウム化合物と、(d)0.01〜0.5重量%の炭素数4〜6の不飽和モノエチレンジカルボン酸またはその塩の重合体および共重合体(以下「モノエチレンジカルボン酸類」という。)、炭素数4〜6の不飽和モノエチレンモノカルボン酸またはその塩の重合体および共重合体(以下「モノエチレンものカルボン酸類」という。)、あるいは前記炭素数4〜6の不飽和モノエチレンジカルボン酸またはその塩と炭素数4〜6の不飽和モノエチレンモノカルボン酸またはその塩の共重合体(以下「カルボン酸類」という。)の中から選ばれる少なくとも1種と、を含有することを特徴とする冷却液組成物をその要旨とした。
本発明の冷却液組成物は、グリコール類を主成分としている。グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。その中でもエチレングリコールあるいはプロピレングリコールが、化学的安定性、取り扱い性、価格、入手容易性などの点から好ましい。
本発明の冷却液組成物は、上記主成分であるグリコール類中に上記(a)〜(d)の4成分を含有しており、これら成分の相乗効果によって、アルミニウムまたはアルミニウム合金、鋳鉄及び鋼等の腐食防止効果を有している。また、アルミニウムまたはアルミニウム合金においては、100℃を超える高温域において腐食防止性に優れるという効果を導き出せるようになっている。
本発明の冷却液組成物の成分であるアルキル安息香酸としては、p−トルイル酸、p−エチル安息香酸、p−プロピル安息香酸、p−ブチル安息香酸、p−イソプロピル安息香酸、p−tertブチル安息香酸、またはこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などを挙げることができる。
カルボン酸の中でも、アルキル安息香酸を用いることにより、長期に渡ってアルミニウム、アルミニウム合金、鋳鉄及び鋼に対する腐食防止機能を確保することができる。中でも、p−トルイル酸、p−tertブチル安息香酸は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の腐食防止性能に優れており、これらの少なくとも1種が含まれていることが望ましい。また、アルキル安息香酸は、液中の硬水成分との反応による沈殿生成を抑制する機能を有している。
アルキル安息香酸又はその塩の含有量を0.1〜10重量%としたのは、0.1重量%未満であっては、十分な腐食防止機能が発現できず、一方、10重量%を越えて含有しても、腐食防止機能は向上しないばかりか、経済的に無駄だからである。
2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸またはその塩は、アルミニウムまたはアルミニウム合金、鋳鉄及び鋼等の腐食防止、特には高温域における腐食防止性の向上効果をもたらすことができる。2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸の塩としては、そのナトリウム塩、カリウム塩などを挙げることができる。2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸は、0.01〜0.5重量%の範囲で含まれている。この範囲以外の含有量では上記の効果が発揮されなかったり、不経済になったりするからである。
本発明の冷却液組成物の成分であるストロンチウム化合物としては、例えば、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、弗化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、チタン酸ストロンチウム、ホウ酸ストロンチウム、タングステン酸ストロンチウム、燐酸ストロンチウム、燐酸二水素ストロンチウム、蟻酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、プロピオン酸ストロンチウム、酪酸ストロンチウム、吉草酸ストロンチウム、ラウリン酸ストロンチウム、ステアリン酸ストロンチウム、オレイン酸ストロンチウム、グルタミン酸ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、コハク酸ストロンチウム、リンゴ酸ストロンチウム、酒石酸ストロンチウム、マレイン酸ストロンチウム、クエン酸ストロンチウム、蓚酸ストロンチウム、マロン酸ストロンチウム、セバシン酸ストロンチウム、安息香酸ストロンチウム、フタル酸ストロンチウム、サリチル酸ストロンチウム、マンデル酸ストロンチウムなどを挙げることができる。
このストロンチウム化合物を含有することで、アルミニウムまたはアルミニウム合金の腐食防止機能の向上、特に高温下におけるアルミニウムまたはアルミニウム合金に対する腐食防止機能が高まり、より効果的な腐食防止がなされることになる。このストロンチウム化合物は、0.0001〜0.1重量%の範囲で含まれている。含有量が前記範囲外の場合、十分なアルミニウムまたはアルミニウム合金の腐食防止、特には、高温域における腐食防止性の向上効果が得られなかったり、不経済になったりするからである。また、このストロンチウム化合物は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の黒変を防止し、かつ、2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸と協動して腐食を抑制する働きがある。
また、このストロンチウム化合物に代えて、又はストロンチウム化合物に加えてカルシウム化合物を用いることもできる。カルシウム化合物としては、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酪酸カルシウム、吉草酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、乳酸カルシウム、コハク酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、酒石酸カルシウム、マレイン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、マロン酸カルシウム、セバシン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フタル酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、マンデル酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、過マンガン酸カルシウム、クロム酸カルシウム、弗化カルシウム、ヨウ化カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、チタン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム、ホウ酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウムを挙げることができる。
このカルシウム化合物も含有することで、アルミニウムまたはアルミニウム合金の腐食防止機能の向上、特に高温下におけるアルミニウムまたはアルミニウム合金に対する腐食防止機能を有する。このカルシウム化合物又はストロンチウム化合物との総量は、上記ストロンチウムと同様の理由で0.0001〜0.1重量%の範囲で含まれている。
(d)成分であるポリカルボン酸類としては、マレイン酸やフマル酸など、またそれらのアルカリ金属塩やアンモニウム塩などのモノエチレンジカルボン酸類の重合体又は共重合体、メタクリル酸など、またはそれらのアルカリ金属塩やアンモニウム塩などのモノエチレンモノカルボン酸類の重合体又は共重合体、あるいは前記モノエチレンジカルボン酸類とモノエチレンモノカルボン酸類とからなる共重合体の中から選ばれる少なくとも1種からなる。具体的にはポリマレイン酸、ポリアクリル酸、マレイン酸/アクリル酸などの重合体又は共重合体などがある。
これらポリカルボン酸類は、前記2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸とともに、アルミニウムまたはアルミニウム合金に対して優れた腐食防止機能を有し、特には高温時のアルミの伝熱面腐食の抑制にきわめて有効に作用する。なお、上記ポリカルボン酸類と、上記2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボンが共存することで、リン酸塩存在下においても硬水安定性に優れた機能を発揮する。すなわち、冷却液中に含まれる硬水成分とリン酸塩とが反応して沈殿を生じるのを効果的に抑制する機能を有しており、硬水希釈時の安定性に優れた分散剤として機能する。特に、ポリマレイン酸、またはそのナトリウム塩、カリウム塩、またはアンモニウム塩は硬水希釈時の安定性に優れている。
さらに、これらポリカルボン酸類は、前記2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸とストロンチウム化合物又は/及びカルシウム化合物との共存により、長期間高温下においてアルミニウムまたはアルミニウム合金に対する防錆性能を向上させることができる。
上記ポリカルボン酸類等における重合体又は共重合体の分子量は、好ましくは1000〜20000である。分子量が1000を下回る場合十分な腐食防止機能が得られなくなり、分子量が20000を上回る場合には、該組成物中に溶解しがたくなるからである。また前記ポリマーは、ランダム重合やブロック重合といった重合形態となっている。
ポリカルボン酸類等の含有量としては、好ましくは0.01〜0.5重量%、より好ましくは、0.05〜0.3重量%である。ポリカルボン酸類の含有量が0.01重量%を下回る場合、流水下または高温下におけるアルミニウムまたはアルミニウム合金に対する腐食防止機能および沈殿の生成抑制機能が十分に発揮されず、0.5重量%を上回る場合には上回る分だけの効果がなく、不経済となる。
2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸とポリカルボン酸類の含有比率としては、特に限定されないが、好ましくは3:1〜1:3である。この含有比率とすることで、リン酸塩が存在していても冷却液中の硬水成分とリン酸塩との反応を抑制し、かつ流水下または高温下におけるアルミニウムまたはアルミニウム合金に対する腐食防止機能が確実に発揮されることとなる。
本発明の組成物は、上記(a)〜(d)の成分のほかに、リン酸塩を含有する形態を採ることができる。リン酸塩としては、正リン酸、ピロリン酸、トリメタリン酸、あるいはテトラメタリン酸などを挙げることができ、これらの1種もしくは2種以上を含ませることで、アルミニウムまたはアルミニウム合金に対する腐食防止性はより向上することになる。リン酸塩の含有量としては、0.01〜2.0重量%の範囲が望ましい。このようなリン酸塩存在下においても、本発明の冷却組成物は、上記主成分であるグリコール類中に(a)〜(d)の4成分の相乗効果によって、硬水希釈時の安定性を確保することができる。
本発明の冷却液組成物には、金属、特には銅に対し優れた腐食防止機能を有するトリルトリアゾールやベンゾトリアゾールなどのトリアゾール類を含ませることができる。トリアゾール類の含有量としては、0.05〜1.0重量%が好ましい。
なお、本発明の冷却液組成物には、上記成分のほかに消泡剤、着色剤などを含ませてもよく、また従来公知の腐食防止剤であるモリブデン酸塩、タングステン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、チアゾール類などを使用することもできる。
【発明の効果】
本発明の冷却液組成物にあっては、(a)0.1〜10重量%のアルキル安息香酸類またはそれらの塩の少なくとも1種と、(b)0.01〜0.5重量%の2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸又はその塩と、(c)0.0001〜0.1重量%のストロンチウム化合物と、(d)0.01〜0.5重量%の炭素数4〜6の不飽和モノエチレンジカルボン酸またはその塩の重合体および共重合体、炭素数4〜6の不飽和モノエチレンモノカルボン酸またはその塩の重合体および共重合体、あるいは前記炭素数4〜6の不飽和モノエチレンジカルボン酸またはその塩と炭素数4〜6の不飽和モノエチレンモノカルボン酸またはその塩の共重合体の中から選ばれる少なくとも1種と、を含有することから、アルミニウムまたはアルミニウム合金、鋳鉄、鋼等の腐食防止機能に優れるという効果を有する。また、リン酸塩存在下においても硬水希釈時の安定性に優れるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明の組成物をさらに詳しく説明する。実施例及び比較例として(a)から(d)の成分として、それぞれ(a)トルイル酸、(b)2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸、(c)硝酸ストロンチウム、(d)ポリマレイン酸を用いて以下の実施例及び比較例の組成物を用いて実験を行った。
(実施例1)…(a)〜(d)のすべての成分を含み、かつリン酸を含まない組成物
(実施例2)…(a)〜(d)のすべての成分を含み、かつリン酸を含む組成物
(比較例1)…(a)成分のみを含み(b)〜(d)の成分を含まず、さらにリン酸を含まない組成物
(比較例2)…(a)および(d)の成分を含みかつ(b)および(c)の成分を含まず、さらにリン酸を含む組成物
(比較例3)…(a)及び(c)の成分を含みかつ(b)および(d)の成分を含まず、さらにリン酸を含む組成物
(比較例4)…(b)〜(d)の成分を含みかつ(a)成分を含まず、さらにリン酸を含む組成物
(比較例5)…(a)及び(b)の成分を含みかつ(c)及び(d)の成分を含まず、かつリン酸を含まない組成物
(比較例6)…(a)成分のみを含み(b)〜(d)の成分を含まず、さらにリン酸を含む組成物

上記実施例1および2、並びに比較例1〜6の各サンプルについて硬水希釈水による金属腐食試験を行い、各金属の質量変化(mg/cm)を確認するとともに、外観の異状の有無を確認した。その結果を表2に示した。尚、金属腐食試験は、JIS K2234 金属腐食性の規定に基づいて行い、この試験に供する金属にはアルミニウム鋳物、鋳鉄、鋼、黄銅、はんだ、銅の各試験片を使用した。希釈水は、イオン交換水に塩化カルシウムを加えて全硬度が800mg/Lとなるように調整した調合水を用いた。

表2から実施例1および2に係るサンプルは、いずれも金属に対し、優れた腐食防止性を有していること、特に比較例に対して、アルミニウム系金属に優れた腐食防止性を有していることが確認できるとともに、外観変化も少ないことが確認された。一方、比較例1〜6については、いずれも腐食防止性に乏しいことが確認された。
次に、上記実施例1及び2、並びに比較例1〜6の各サンプルについて、長期金属腐食試験を行い、各金属の質量変化(mg/cm)を確認するとともに、外観の異状の有無を確認した。尚、長期金属腐食試験は、JIS K2234 金属腐食性の規定に基づいて行い、試験時間は、1000時間の条件で行った。

表3から、実施例1及び実施例2のサンプルは、比較例に比べてすべての金属に対し質量変化が少なくしかも外観変化もなかった。特にアルミニウム系金属に対しては、ほとんど質量変化がなく優れた腐食防止性を有していることが確認された。一方比較例は、比較例3及び6を除き、肌あれや局部腐食を起こしており、長期腐食防止性に乏しいことが確認された。
次にリン酸塩を含む実施例2、比較例3、4及び6について、硬水安定性試験を行った。リン酸塩は、硬水成分と反応して沈殿を生成することから、硬水で希釈した場合には多量の沈殿を生じる。沈殿物の生成は、冷却液の腐食防止機能を低下させるだけでなく、生成した沈殿物が冷却系統の循環路に堆積し、冷却系統を閉塞するという事態と引き起こすおそれがある。本試験は、硬水成分との反応抑制機能(硬水安定性)の大小を確認するものであり、硫酸ナトリウム48mg、塩化ナトリウム165mg、炭酸水素ナトリウム138mg、および塩化カルシウム275mgを11の蒸留水に溶解させた合成硬水を用い、該合成硬水で実施例2および比較例3、4及び6の各サンプルを50%濃度の試験液とし、この試験液について88℃、24時間後の試験液の外観の異状(沈殿の有無)を確認した。その結果を表4に示した。

表4から明らかなように、比較例4については沈殿が見られないものの、比較例3、6は沈殿の生成が見られたのに対し、実施例2は沈殿はなく、硬水安定性に優れていることが確認された。
次に、実施例1、比較例1から3、5及び6について、高温アルミニウム伝熱面試験を行い、各金属の腐食量(mg/cm)を確認するとともに、外観の異状の有無を確認した。尚、高温アルミニウム伝熱面試験は、JIS K2234 アルミニウム鋳物伝熱面腐食性試験に準拠して行い、試験温度は160℃とし、試験容器である耐熱性ガラスセルはステンレススチール製のものを使用した。その試験結果を表5に示した。

表5から明らかなように比較例2、5、6については局部腐食又は全面腐食が確認されたのに対し、実施例1はほとんど質量変化もなく高温アルミニウム伝熱面試験においても効果的であることが確かめられた。
以上の実験の結果、硬水希釈水による金属腐食試験、長期金属腐食試験、硬水安定性試験及び高温伝熱面試験のすべてにおいて、良好な実験結果を得られたのは、(a)〜(d)のすべての成分を含んでいる組成物であり、これらの組み合わせによる相乗作用によって、良好な効果をもたらすものであることが証明された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール類を主成分とする冷却液組成物において、
(a)0.1〜10重量%のアルキル安息香酸類またはそれらの塩の少なくとも1種と、
(b)0.01〜0.5重量%の2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸又はその塩と、
(c)0.0001〜0.1重量%のストロンチウム化合物と、
(d)0.01〜0.5重量%の炭素数4〜6の不飽和モノエチレンジカルボン酸またはその塩の重合体および共重合体、炭素数4〜6の不飽和モノエチレンモノカルボン酸またはその塩の重合体および共重合体、あるいは前記炭素数4〜6の不飽和モノエチレンジカルボン酸またはその塩と炭素数4〜6の不飽和モノエチレンモノカルボン酸またはその塩の共重合体の中から選ばれる少なくとも1種と、を含有することを特徴とする冷却液組成物。
【請求項2】
アルキル安息香酸類が、p−トルイル酸またはp−tert−ブチル安息香酸であることを特徴とする請求項1に記載の冷却液組成物。
【請求項3】
ストロンチウム化合物に代えて、又はストロンチウム化合物に加えてカルシウム化合物が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の冷却液組成物。
【請求項4】
ストロンチウム化合物に代えて、又はストロンチウム化合物に加えてカルシウム化合物が含有されていることを特徴とする請求項2に記載の冷却液組成物。
【請求項5】
リン酸塩が含有されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の冷却液組成物。
【請求項6】
不飽和モノエチレンジカルボン酸がポリマレイン酸、あるいはそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の冷却液組成物。
【請求項7】
リン酸塩が含有されていることを特徴とする請求項6に記載の冷却液組成物。

【国際公開番号】WO2005/054396
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511253(P2005−511253)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015329
【国際出願日】平成15年12月1日(2003.12.1)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】