説明

冷却用圧電アクチュエーター駆動回路

【課題】新たな電子部品や回路を付加することなく、冷却の必要なときに自動的に作動する冷却用圧電アクチュエーター駆動回路を構成する。
【解決手段】圧電アクチュエーター駆動回路は、冷却用ファンを振動させる圧電アクチュエーターに対する電圧印加に応じて生じる検出信号を増幅して前記圧電アクチュエーターに正帰還させる正帰還回路を備える。圧電アクチュエーターのインピーダンスの温度特性は負特性であり、圧電アクチュエーターの周囲温度が所定温度を超えない状態では圧電アクチュエーターのインピーダンスが高く、ループゲインが1未満(0dB未満)である。そのため、冷却が必要な温度に達したときにのみ自励発振して圧電アクチュエーターが駆動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却用ファンを振動させる圧電アクチュエーターの駆動回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のパソコン等の電子機器においては演算処理能力の増大に伴って消費電力の大きなプロセッサー等の発熱部品が搭載されている。このような発熱部品を冷却する小型の冷却装置として、例えば特許文献1が開示されている。
【0003】
図1は特許文献1に示されている圧電ファン(冷却用圧電アクチュエーター)の構成を示す斜視図である。この圧電ファンは、圧電素子201の先端に送風プレート202を接合して、圧電素子201を支持体203に固定した圧電ファンであり、圧電素子201に通電駆動することにより、送風プレート202が上下に振動して、冷却対象物に空気を送る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−191123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、冷却対象物に空気を送って冷却する装置においては、送風する空気と冷却対象物との温度差及び冷却対象物の表面熱伝導率が一定であるとすると、送風量に応じて冷却熱量が定まる。冷却の目的は冷却対象物の温度が規定値を超えて異常動作しないようにすることであるから、冷却が不要なほど冷却対象物の温度が低い場合には送風を停止することが低消費電力化の観点から望ましい。
【0006】
しかし、そのためには冷却対象物の温度を検知する温度センサと、その検知結果に応じて冷却装置を制御する制御回路が必要になる。そもそも冷却用圧電アクチュエーターは小型且つ高効率な冷却装置として用いられるが、前記温度センサや制御回路を設けることは小型化を阻む要因となる。
【0007】
そこで、本発明は新たな電子部品や回路を付加することなく、冷却の必要なときに自動的に作動する冷却用圧電アクチュエーター駆動回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、この発明の圧電アクチュエーター駆動回路は、冷却用フィンを振動させる圧電アクチュエーターに対する電圧印加に応じて生じる検出信号を増幅して前記圧電アクチュエーターに正帰還させる正帰還回路を備えた、冷却用圧電アクチュエーターの駆動回路において、
前記正帰還回路は、前記圧電アクチュエーターに直列接続された電流検出抵抗と、当該電流検出抵抗の降下電圧を増幅して前記圧電アクチュエーターに駆動電圧を印加する増幅回路とを備え、
前記圧電アクチュエーターは、そのインピーダンスの温度特性が負の特性であり、前記圧電アクチュエーターを駆動させる温度であるときに、前記正帰還回路のループゲインが1(0dB)以上となるように前記正帰還回路の特性が設定されている。
【0009】
この構成により、圧電アクチュエーターの周囲温度が所定温度より低いときには圧電アクチュエーターが駆動されず、周囲温度が高くなり冷却が必要になると圧電アクチュエーターが自動的に駆動されるという動作を、温度センサ及び温度制御回路を用いることなく実現できる。
【0010】
また、必要に応じて前記正帰還回路のループゲインを調整する調整手段を備える。これにより、圧電アクチュエーターを組み込み先の電子機器に適した所望の温度で駆動するように設定できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新たな電子部品や回路を付加することなく、冷却の必要なときに自動的に作動する、圧電アクチュエーターを備えた冷却装置が構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は特許文献1に示されている圧電ファン(冷却用圧電アクチュエーター)の構成を示す斜視図である。
【図2】図2(A)は、圧電ファンを構成する圧電アクチュエーター1の斜視図である。図2(B)は、その圧電アクチュエーター1を備えた冷却ユニットの斜視図である。
【図3】図3は第1の実施形態に係る冷却用圧電アクチュエーター駆動回路の回路図である。
【図4】図4は、図3に示した圧電アクチュエーター1の第1の端子への印加電圧Va、第2の端子への印加電圧Vb、及び圧電アクチュエーター1の両端子間の印加電圧Vabのそれぞれの波形図である。
【図5】図5は圧電アクチュエーター1の温度変化に対するインピーダンスの周波数特性の変化を示す図である。
【図6】図6は、図3に示した駆動回路において、圧電アクチュエーター1のインピーダンスを変化させたときのループゲインの特性を示す図である。
【図7】図7は第2の実施形態に係る圧電アクチュエーター駆動回路において、図3に示した圧電アクチュエーター1に流れる電流検出用の抵抗R11の抵抗値を変化させたときのループゲインの特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《第1の実施形態》
図2(A)は、圧電ファンを構成する圧電アクチュエーター1の斜視図である。図2(B)は、その圧電アクチュエーター1を備えた冷却ユニットの斜視図である。
【0014】
図2(A)に示すように、圧電アクチュエーター1はステンレス板などの薄肉金属板よりなる振動板2を備えており、振動板2の長さ方向の一端側に平板状の基板部2aが設けられ、この基板部2aの表裏面に圧電素子3,3を貼り付けることで、バイモルフ型の圧電アクチュエーターが構成されている。振動板2は90°の折り曲げ部2bで折り曲げられている。振動板2の長さ方向の他端側には複数(ここでは7つ)のフィン2dが分割形成されている。
【0015】
フィン2dは圧電素子3の主面方向に対して直交方向に延びている。振動板2の基板部2aの終端側、つまり折り曲げ部2bとは逆側の端部には、圧電素子3が貼り付けられていない延長部2cが形成されている。この延長部2cは図示しない固定部に固定された支持部材5によって保持されている。2個の圧電素子3,3及び振動板2は圧電アクチュエーター駆動回路6に電気的に接続されている。
【0016】
図2(B)に示すように、冷却ユニットは、圧電アクチュエーター1とヒートシンク10とで構成されている。ヒートシンク10は、間隔をあけて並設された複数枚(ここでは8枚)の放熱フィン11を備えている。ヒートシンク10は、例えば回路基板上に実装された発熱素子(CPU等)の上面に熱的に結合された状態で取り付けられている。
【0017】
圧電アクチュエーター1の各フィン2dは各放熱フィン11の間にヒートシンク10の底面と直角方向に非接触で挿入されている。振動板2の基板部2a及び圧電素子3で構成される圧電アクチュエーターは、ヒートシンク10の上端にそって平行に配置されている。
【0018】
圧電アクチュエーターにより、振動板2が振動すると、フィン2dが放熱フィン11の側面に対して平行な方向に振動し、放熱フィン11近傍の暖気をフィン2dで掻き取るので、ヒートシンク10が効率よく冷却される。
【0019】
図3は第1の実施形態に係る冷却用圧電アクチュエーター駆動回路6の回路図である。
電源回路PSは、電源電圧DC12Vを抵抗R31,R32により例えば等分圧し、DC6Vにした電圧を、オペアンプOP5による電圧フォロア回路に入力することによって安定した基準電位VM(例えばDC6V)を発生する。
【0020】
フィルタ回路A21は、オペアンプOP1を備え、フィードバック回路A24から出力される信号を増幅し、非反転増幅回路A23へ与える。非反転増幅回路A23はフィルタ回路A21の出力電圧を所定ゲインで増幅し、抵抗R11を介して圧電アクチュエーター1の第1の端子に印加する。反転増幅回路A22は非反転増幅回路A23の出力電圧をゲイン1で反転増幅し、圧電アクチュエーター1の第2の端子に印加する。非反転増幅回路A23及び反転増幅回路A22によって平衡駆動回路A25を構成している。
【0021】
フィードバック回路A24は、圧電アクチュエーター1に対する電圧印加に応じて圧電アクチュエーター1に流れる電流(検出信号)を抵抗R11の両端から取り出し、差動増幅し、フィルタ回路A21の非反転入力端子へ与える。
【0022】
抵抗R11の両端には、圧電アクチュエーター1に流れる電流に比例した電圧が現れる。フィードバック回路A24は抵抗R11の両端電圧を増幅して不平衡信号を出力する。このとき、A24→A21→A25の経路で、作動時にループゲインが1を超える正帰還回路が構成されるように、フィードバック回路A24の出力電圧が定められている。すなわち、圧電アクチュエーター1に流れる電流が増大する程、圧電アクチュエーター1への印加電圧が増大する関係にある。
【0023】
フィルタ回路A21の負帰還ループNFL中には帯域阻止フィルタBEFが接続されている。この帯域阻止フィルタBEFは圧電装置の基本波共振周波数の信号成分の挿入損失が大きく、高次共振周波数の信号成分の挿入損失は小さい。すなわち高次共振周波数におけるループゲインを低下させるように作用する。
【0024】
前記非反転増幅回路A23及び反転増幅回路A22の出力電圧の振幅は何れも電源電圧に等しく、且つ逆位相であるので、圧電アクチュエーター1は電源電圧の2倍の電圧で駆動されることになる。
【0025】
フィルタ回路A21の帯域通過フィルタBPFは正帰還ループPFL中に接続されている。この帯域通過フィルタBPFは前記基本周波数を通過し、高調波成分を抑圧する。すなわち、圧電装置の高次共振周波数の信号を抑制する高調波抑制フィルタとして作用する。そのため、高調波の周波数成分は正帰還が掛からず、高調波の周波数帯でのループゲインが1以下となり、高調波では発振しない。すなわち圧電アクチュエーター1が取り付けられた圧電装置の基本周波数で発振する。
【0026】
前記非反転増幅回路A23はオペアンプOP3、抵抗R7,R8で構成され、所定ゲインで非反転増幅する。
反転増幅回路A22はオペアンプOP4、抵抗R9,R10で構成され、ゲイン1で反転増幅する。すなわち反転増幅回路A22は前記増幅回路A23の出力信号を等振幅で反転増幅する。
【0027】
フィードバック回路A24は、オペアンプOP2と抵抗R3,R4,R5,R6,R11で構成され、抵抗R11の両端電圧を差動増幅する。
前記フィルタ回路A21は、自励発振のための正帰還ループの位相量を調整する機能を兼ねている。すなわち、正帰還ループの位相量が0°となるように帯域通過フィルタBPFの特性が定められている。
【0028】
図4は、図3に示した圧電アクチュエーター1の第1の端子への印加電圧Va、第2の端子への印加電圧Vb、及び圧電アクチュエーター1の両端子間の印加電圧Vabのそれぞれの波形図である。増幅回路A22,A23は正電源が+12V、負電源が0Vで動作するので、圧電アクチュエーター1の第1の端子には0V〜+12Vの範囲の電圧が印加され、圧電アクチュエーター1の第2の端子には+12V〜0Vの範囲の電圧が印加される。そのため、圧電アクチュエーター1の両端間への印加電圧Vabは(Va−Vb)となる。すなわちピークtoピークの電圧として24Vp−pが印加されることになる。
【0029】
図5は圧電アクチュエーター1の温度変化に対するインピーダンスの周波数特性の変化を示す図である。図5において各特性曲線Ta〜Teと温度との対応関係は次のとおりである。Ta:0℃、Tb:25℃、Tc:35℃、Td:50℃、Te:70℃
このように、温度が高くなる程圧電アクチュエーターのインピーダンスは低くなる。すなわち圧電アクチュエーターのインピーダンスの温度特性は負特性である。
【0030】
図5において、周波数frは圧電アクチュエーターの共振周波数、周波数faは圧電アクチュエーターの反共振周波数である。図3に示した圧電アクチュエーター駆動回路6の発振周波数は、共振周波数frまたはそれより少し高い周波数である。この例では圧電アクチュエーター1は約41〜42Hzで発振駆動される。この発振周波数でのインピーダンスは70℃で約7kΩ〜約8kΩ、0℃で約11kΩ〜約12kΩとなっている。
【0031】
図6は、図3に示した駆動回路において、圧電アクチュエーター1のインピーダンスを変化させたときのループゲインの特性を示す図である。図6において各特性曲線Ra〜Reと圧電アクチュエーター1のインピーダンスとの対応関係は次のとおりである。Ra:8kΩ、Rb:9kΩ、Rc:10kΩ、Rd:11kΩ、Re:12kΩ
このように、圧電アクチュエーター1のインピーダンスが低くなる程ループゲインは大きくなる。この例では、発振周波数が約42Hzの時に圧電アクチュエーター1のインピーダンスが約11kΩ未満のインピーダンスでループゲインが0dB以上となり、約11kΩ以上ではループゲインが0dB未満となる。発振条件の一つはループゲインが1以上(0dB以上)であることなので、圧電アクチュエーター1のインピーダンスが約11kΩ以上であると発振しない(発振が停止する。)。
【0032】
図5に示した特性の圧電アクチュエーター1を、図6のような特性を持つ駆動回路に接続し、約42Hzで発振駆動させた場合、圧電アクチュエーター1の周囲温度が0℃付近のとき、圧電アクチュエーター1のインピーダンスは12kΩ程度となり、駆動回路のループゲインは0dB以下となるため、圧電アクチュエーター1は発振駆動されない。周囲温度が上昇し、約25℃以上になると、圧電アクチュエーター1のインピーダンスは11kΩ以下となり、駆動回路のループゲインが0dB以上となって圧電アクチュエーター1は発振駆動されるようになる。
【0033】
上述の作用により、圧電アクチュエーター1の周囲温度が低い時は圧電アクチュエーター1の動作が停止し、周囲温度が高くなって冷却が必要になると圧電アクチュエーター1が動作するという制御を、特別な温度センサ及び温度制御回路を設けることなく自動的に行うことができる。
【0034】
《第2の実施形態》
第2の実施形態に係る圧電アクチュエーター駆動回路は、ループゲインの調整手段を備えたものである。第2の実施形態に係る圧電アクチュエーター駆動回路は図3に示した圧電アクチュエーター駆動回路6の抵抗R11を可変抵抗器で構成したものである。
【0035】
図7は第2の実施形態に係る圧電アクチュエーター駆動回路において、図3に示した圧電アクチュエーター1に流れる電流検出用の抵抗R11の抵抗値を変化させたときのループゲインの特性を示す図である。ここでは、圧電アクチュエーター1の周囲温度を約25℃(圧電アクチュエーター1のインピーダンスが約11kΩ)のときの特性である。図7において各特性曲線R11a〜R11eと抵抗R11の抵抗値との対応関係は次のとおりである。R11a:70Ω、R11b:60Ω、R11c:50Ω、R11d:40Ω、R11e:30Ω
このように、電流検出用の抵抗R11の抵抗値が大きくなる程ループゲインは大きくなる。この例では、発振周波数が約42Hzの時に抵抗R11の抵抗値が50Ω以上であればループゲインが0dB以上となり、約50Ω以下となるとループゲインが0dB未満となる。そのため、抵抗R11の抵抗値が約50Ω以下となると発振しない(発振が停止する。)。したがって、抵抗R11の抵抗値を約50Ωに設定すれば、約25℃以上でループゲインが0dB以上となって、圧電アクチュエーター1は発振駆動される。抵抗R11の抵抗値を50Ωより小さくすれば25℃では未だ停止したままであり、それより高い温度で発振駆動されることになる。
【0036】
このようにして、圧電アクチュエーター1に流れる電流検出用の抵抗R11を設定することによって、圧電アクチュエーターの駆動開始温度を所定温度に定めることができる。
【0037】
圧電アクチュエーター駆動回路のループゲインを調整する手段としては、電流検出用抵抗(R11)を設定すること以外に、フィードバックループのゲインに関与する回路定数を可変としてもよい。例えば、図3中の抵抗R5,R6の抵抗値を可変にすることによってフィードバック回路A24のゲインを可変としてしてもよい。また、図3中の抵抗R7,R8の抵抗値を可変にすることによって非反転増幅回路A23のゲインを可変としてもよい。
【符号の説明】
【0038】
A21…フィルタ回路
A22…反転増幅回路
A23…非反転増幅回路
A24…フィードバック回路
A25…平衡駆動回路
BEF…帯域阻止フィルタ
BPF…帯域通過フィルタ
NFL…負帰還ループ
OP1〜OP5…オペアンプ
PFL…正帰還ループ
PS…電源回路
R11…電流検出用抵抗
1…圧電アクチュエーター
2…振動板
2a…基板部
2c…延長部
2d…フィン
3…圧電素子
5…支持部材
6…圧電アクチュエーター駆動回路
10…ヒートシンク
11…放熱フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却用フィンを振動させる圧電アクチュエーターに対する電圧印加に応じて生じる検出信号を増幅して前記圧電アクチュエーターに正帰還させる正帰還回路を備えた、冷却用圧電アクチュエーターの駆動回路において、
前記正帰還回路は、前記圧電アクチュエーターに直列接続された電流検出抵抗と、当該電流検出抵抗の降下電圧を増幅して前記圧電アクチュエーターに駆動電圧を印加する増幅回路とを備え、
前記圧電アクチュエーターは、そのインピーダンスの温度特性が負の特性であり、前記圧電アクチュエーターを駆動させる温度であるときに、前記正帰還回路のループゲインが1以上となるように前記正帰還回路の特性が設定された冷却用圧電アクチュエーター駆動回路。
【請求項2】
前記正帰還回路のループゲインを調整する調整手段を備えた、請求項1に記載の冷却用圧電アクチュエーター駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−38788(P2012−38788A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174962(P2010−174962)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】