説明

冷間加工性と耐結晶粒粗大化特性に優れた肌焼き用鋼の製造方法

【課題】 冷間加工性に優れ、かつ伸線減面率の高い加工を行なった場合でも、熱処理後の結晶粒粗大化が抑制されたボルト等の製造に最適な肌焼き用鋼の製造方法を提供する。
【解決手段】 質量%で(以下同じ)、C:0.10〜0.25%、Si:0.5%以下(0%を含まない)、Mn:0.3〜1.0%、P:0.03%以下(0%を含む)、S :0.03%以下(0%を含む)、Cr:0.3〜1.5%、Al:0.02〜0.1%、N:0.005〜0.02%を満たし、残部が鉄及び不可避不純物からなる鋼材を用いて、700〜850℃未満の温度で熱間仕上げ圧延または熱間仕上げ鍛造を行った後、600℃までの冷却を0.5℃/sec以下の冷却速度で行い、引き続いて室温まで放冷し、その後に行う伸線の減面率を20%未満に抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばボルト、ギア等の冷間加工部品に好ましく使用される肌焼き用鋼の製造方法に関するものであって、殊に、冷間加工性と耐結晶粒粗大化特性に優れた肌焼き用鋼を製造するのに有用な方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボルトやギア等の複雑形状の冷間加工部品は、例えば肌焼き用鋼を熱間圧延または熱間鍛造した後、軟化処理を行って伸線加工を施し、その後、所定の形状に冷間加工または切削加工し、最後に浸炭処理(熱処理)を施し表面を硬化することによって得られるが、優れた特性を発揮するボルトやギア等の鋼部品を効率よく得るには、製造工程において幾つか改善すべき点がある。
【0003】
上記浸炭処理では、鋼材が長時間高温に曝されるため結晶粒の粗大化が進みやすく、鋼部品の靭延性の劣化が懸念される。この様な課題を解決すべく、例えば特許文献1には、Al量とN量を規定し、鋼を熱間圧延前に所定の温度に加熱すると共に、圧延終了温度およびその後の冷却速度をコントロールして、圧延材の組織をフェライト−パーライト組織とすればよいことが示されている。
【0004】
また特許文献2には、用いる鋼材の成分組成を規定すると共に、熱間圧延における最終仕上げ加工率と最終仕上げ終止温度を規定し、更に熱間圧延後の冷却速度を規定することによって、圧延後における品質のバラツキが少なく、かつその後の浸炭処理または浸炭窒化処理などの高温における表面硬化処理においても、結晶粒の粗大化あるいは混粒などの異常組織が生成されない安定な特性を有する肌焼用鋼が得られる旨示されている。
【0005】
特許文献3や特許文献4にも、熱間圧延したままの状態で微細な組織を有し、その後の浸炭時にも結晶粒の粗大化が抑制された鋼材を得るべく、用いる鋼材の成分組成を規定すると共に、熱間圧延条件とその後の冷却速度を制御することが提案されている。
【0006】
しかしこれらの文献で提案されているように成分組成と熱間加工時とその後の冷却条件を規定しただけでは、部品形状に冷間加工する際の加工量やその後の熱処理の条件により結晶粒の粗大化が生じる場合があるため、結晶粒の粗大化を確実に抑えるには、更なる改善を図る必要があると思われる。
【0007】
また従来法では、部品成形前に軟化処理が施される場合が多いが、これは、冷間加工時の変形抵抗を低減して金型のコストアップを抑える他、結晶粒の粗大化を抑制することを目的とする。しかし近年では、コストダウンの観点からこの軟化処理工程を省略することが求められている。
【0008】
上記特許文献1には、冷間加工前の熱処理を省略または簡略化して圧延ままでも冷間加工できることが示されており、その具体的な方法として、圧延温度を低くして圧延組織を微細化することが示されている。しかし、特許文献1の方法では圧延温度を十分に低くしているとは言い難く、伸線加工後にそのまま冷間加工できるほどの優れた冷間加工性は実現されていないと思われる。また上記特許文献2〜4は、結晶粒粗大化の抑制に加えて冷間加工性を確保することまで考慮したものではない。
【特許文献1】特開平2−43319号公報
【特許文献2】特開昭56−9326号公報
【特許文献3】特開平5−163525号公報
【特許文献4】特開平10−152754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、冷間加工性と耐結晶粒粗大化特性に優れた肌焼き用鋼の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る冷間加工性と耐結晶粒粗大化特性に優れた肌焼き用鋼の製造方法は、
C :0.10〜0.25%(質量%の意味)、
Si:0.5%以下(0%を含まない)、
Mn:0.3〜1.0%、
P :0.03%以下(0%を含む)、
S :0.03%以下(0%を含む)、
Cr:0.3〜1.5%、
Al:0.02〜0.1%、
N :0.005〜0.02%
を満たし、残部が鉄及び不可避不純物からなる鋼材を用いて、700〜850℃未満の温度で熱間仕上げ圧延または熱間仕上げ鍛造を行った後、600℃までの冷却を0.5℃/sec以下の冷却速度で行い、引き続いて室温まで放冷し、その後に行う伸線の減面率を20%未満に抑えるところに特徴を有する。
【0011】
上記鋼材として、更にMo:0.05〜0.5%および/またはNi:0.05〜1.2%を含むものや、V、Nb、TiおよびWよりなる群から選択される1種以上を合計で0.5%以下含むもの、更にB:0.0005〜0.003%を含む鋼材を用いてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法で得られた肌焼き用鋼を用いて、ボルトやギア等の機械構造用鋼部品を製造すれば、冷間加工(部品成形)の前に行われていた軟化処理を省略してコストの低減を図ることができると共に、複雑な形状に部品成形後、浸炭等の熱処理を高温で行なった場合でも、結晶粒の粗大化が抑えられ靭延性の確保された鋼部品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らは、部品形状に冷間加工する前に軟化処理を行わなくとも、冷間加工時の変形抵抗を増大させることなく良好に冷間加工を行なうことができ、かつ複雑形状の鋼部品を冷間で成形加工した後、浸炭等の熱処理を高温で行なった場合でも、結晶粒の粗大化が全域に亘って抑制された(以下、この様な特性を「耐結晶粒粗大化特性」ということがある)鋼部品が得られるように、その原材料となる肌焼き用鋼を製造する方法について検討を行った。
【0014】
本発明者らは、まず伸線減面率(加工の程度)と熱処理による結晶粒粗大化の関係について調べ、伸線減面率がゼロに近い場合に結晶粒粗大化が著しくなることを確認した。また伸線減面率が一定値以上となった場合にも、伸線減面率に比例して結晶粒粗大化が著しくなることを確認した。
【0015】
そこで、この様な傾向をもとに結晶粒の粗大化を抑制し、かつ冷間加工時の変形抵抗を増大させることなく良好に冷間加工を行なうことのできる方法について検討したところ、下記の通り、用いる鋼材の化学成分組成を制御すると共に、製造条件として、熱間圧延または熱間鍛造時の加熱条件とその後の冷却速度を制御し、更に熱間圧延または熱間鍛造後に行う伸線の減面率を制御すればよいことを見出した。
【0016】
まず、本発明において用いる鋼材の化学成分組成を規定した理由について詳述する。
【0017】
〈C:0.10〜0.25%〉
Cは、鋼の焼入性と強度確保のために必要な元素であり、本発明では0.10%以上含有させる。好ましくは0.13%以上、より好ましくは0.15%以上である。しかしC含有量が過剰になると、鋼材の靭性が低下するだけでなく、冷間加工性も劣化するので、軟化処理工程の簡略や省略を実現することができない。従ってC量の上限を0.25%とする。好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.18%以下である。
【0018】
〈Si:0.5%以下(0%を含まない)〉
Siは脱酸剤として作用する元素であり、0.15%以上含まれていてもよいが、Si量が過剰になると、冷間加工性が低下する傾向にあるためSiの上限を0.5%と定めた。好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.2%以下であり、Siによる脱酸効果よりもより優れた冷間加工性の確保を重んじる場合には0.1%以下に抑えることが更に好ましい。
【0019】
〈Mn:0.3〜1.0%〉
Mnは焼入性向上元素であり、強度を高めるのに大変有用な元素であるため、0.3%以上含有させる。好ましくは0.4%以上、より好ましくは0.5%以上、更に好ましくは0.6%以上である。しかしMnが多量に含まれていると、熱間圧延後の冷却時に変態が促進されて冷間加工性が劣化し、軟化工程の簡略や省略を実現できなくなる。よってMn量は1.0%以下とする。好ましくは0.85%以下、より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.7%以下である。
【0020】
〈P:0.03%以下(0%を含む)〉
Pは、粒界偏析を起こして鋼材の靭延性を劣化させる元素である。よって可能な限り低減することが望ましく、本発明ではP量を0.03%以下に抑える。好ましくは0.025%以下、より好ましくは0.02%以下、更に好ましくは0.015%以下、特に好ましくは0.01%以下に抑えるのがよい。
【0021】
〈S:0.03%以下(0%を含む)〉
Sは、鋼中でMnSを形成して冷間加工時の変形能に悪影響を及ぼす元素である。そこで、本発明ではS量を0.03%以下に抑えることとした。好ましくは0.025%以下、より好ましくは0.02%以下、更に好ましくは0.015%以下、特に好ましくは0.01%以下に抑える。
【0022】
〈Cr:0.3〜1.5%〉
Crは、焼入性を高めて高強度を達成するのに有用な元素であり、この様な作用を、冷間鍛造性(特に変形能)を確保したまま発揮させることができるため、本発明では0.3%以上含有させる。好ましくは0.7%以上、より好ましくは0.85%以上である。しかし過剰に含まれていると、鋼中の炭化物が安定化して冷間加工性が低下する原因となるので、Cr量の上限を1.5%と定めた。好ましくは1.1%以下、より好ましくは1.0%以下である。
【0023】
〈Al:0.02〜0.1%〉
Alは、Nと結合してAlNを形成し、結晶粒を微細化する効果を発揮する。また結晶粒の微細化により耐遅れ破壊性の向上にも寄与する。この様な効果を十分に発揮させるにはAlを0.02%以上含有させる必要がある。好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.035%以上である。しかし過剰に含まれていると、酸化物系介在物が生成して鋼材の靭延性を低下させるので、Al量の上限を0.1%と定めた。好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.045%以下である。
【0024】
〈N:0.005〜0.02%〉
Nは、上記の通りAlと結合してAlNを形成し、結晶粒を微細化する効果を発揮する。この様な効果を発揮させるには、Nを0.005%以上含有させる必要がある。好ましくは0.007%以上であり、より好ましくは0.01%以上である。しかしN量が過剰になると、連続鋳造時や分塊圧延時に割れが表面に生じるので、上限を0.02%と定めた。好ましくは0.016%以下である。
【0025】
本発明で規定する元素は上記の通りであり、残部成分は実質的にFeであるが、該鋼材中に、上記説明したものの他、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避的不純物、更には、本発明の課題達成に悪影響を与えない範囲で更なる特性を付与するため、下記の通り、MoやNi、V、Nb、Ti、W、Bが含まれる場合も、本発明で用いる鋼材に包含される。
【0026】
〈Mo:0.05〜0.5%および/または
Ni:0.05〜1.2%〉
Moは、焼入れ性を向上させるのに有用な元素であり、その効果は0.05%以上、より好ましくは0.1%以上含有させることによって有効に発揮される。尚、焼入れ性をより向上させるには、Moを0.35%以上とするのが更に好ましく、特に好ましくは0.4%以上である。しかしMoが多量に含まれていると微細な炭化物が析出し、冷間加工性が著しく低下するので、Mo量は0.5%以下に抑えるのが好ましい。Moによる焼入れ性の確保よりも更に優れた冷間加工性の確保を重んじる場合には、Mo量を0.3%以下とすることがより好ましく、更に好ましくは0.25%以下である。
【0027】
Niも、焼入れ性を向上させるのに有用な元素であり、その効果は0.05%以上含有させることによって有効に発揮される。好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.35%以上、更に好ましくは0.4%以上である。しかしNiが多量に含まれていると、冷間加工性が低下するのでその上限を1.2%とするのが好ましい。より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.75%以下、特に好ましくは0.7%以下である。
【0028】
〈V、Nb、TiおよびWよりなる群から選択される1種以上:
合計で0.5%以下(0%を含まない)〉
VやNb、Ti、Wは、微細な窒化物、炭化物、炭窒化物を形成して結晶粒の微細化を図るのに有効な元素である。この様な効果を発揮させるには、V、Nb、TiおよびWよりなる群から選択される1種以上を合計で0.02%以上含有させるのが好ましく、より好ましくは合計で0.05%以上である。しかし過剰に含まれていると冷間加工性を阻害するので、これらの元素を含有させる場合であっても、合計で0.5%以下に抑えるのが好ましく、より好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.15%以下である。
【0029】
〈B:0.0005〜0.003%〉
Bは、圧延材の強度を上げることなく、熱処理時に鋼の焼入性を向上させることのできる有用な元素である。この様な効果を十分に発揮させるには、0.0005%以上のBを添加することが好ましく、より好ましくは0.001%以上である。しかし、過剰にBを添加するとかえって靭性を阻害するので、0.003%以下に抑える。好ましくは0.0025%以下である。
【0030】
本発明では、上記成分組成を満足する鋼材を用い、次の条件を満たすように肌焼き用鋼を製造することによって、冷間加工性と耐結晶粒粗大化特性を兼備させることができる。
【0031】
〈熱間圧延または熱間鍛造時の仕上げ(圧延または鍛造)温度:700〜850℃未満〉
熱間圧延または熱間鍛造時の仕上げ(圧延または鍛造)温度は700℃〜850℃未満となるようにする。該温度が低すぎると、熱間圧延または熱間鍛造時の変形抵抗が増大して加工荷重が高くなり、適切な形状に圧延または鍛造できなくなるため700℃以上とする。好ましくは750℃以上、より好ましくは800℃以上である。一方、該温度が高すぎるとAlNが固溶してしまい、その後の熱処理(浸炭)時に結晶粒の粗大化を招くため850℃未満に抑える。好ましくは820℃以下である。
【0032】
〈熱間圧延または熱間鍛造後の600℃までの冷却速度:0.5℃/sec以下〉
熱間圧延または熱間鍛造後の冷却速度を速くすると、部分的にベイナイトやマルテンサイト組織が形成され冷間加工性が低下する。よって本発明では、600℃までの冷却速度を0.5℃/sec以下と緩やかに冷却する。好ましくは0.3℃/sec以下、より好ましくは0.2℃/sec以下、特に好ましくは0.1℃/sec以下で冷却するのがよい。尚、生産性の観点からは、0.2℃/sec以上で冷却することが望ましい。
【0033】
〈熱間圧延または熱間鍛造後の伸線加工:伸線減面率20%未満〉
熱間圧延または熱間鍛造後であって部品成形前に行う伸線加工を、伸線減面率:20%未満の範囲で行なう。伸線減面率がこれより高いと、冷間加工時に変形抵抗が高くなり、良好に冷間加工できないだけでなく、冷間加工で生じたひずみ量の高い箇所で、その後の熱処理時に結晶粒の著しい粗大化が生じるためである。好ましくは伸線減面率を15%以下、より好ましくは10%以下に抑えて伸線を行なうのがよい。尚、伸線減面率が著しく低い場合には、伸線時にダイスの片当たりを起こし真円とならないので、減面率が好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上となるよう伸線加工を行なうのがよい。
【0034】
本発明の肌焼き用鋼は、上記の通り熱間圧延を行った後、上記減面率で伸線加工を行って得られるものであるが、上記以外の製造条件まで規定するものでなく、溶製や鋳造については一般的な製造条件を採用することができる。また複雑形状部品を製造する場合には、熱間圧延または熱間鍛造後で伸線加工前に軟化処理を行うことが推奨されるが、この場合も一般的な条件で軟化処理行えばよく、具体的には、600〜800℃で1〜10時間加熱保持後に10〜30℃/hrで徐冷すればよい。
【0035】
鋼部品を得るには、前記肌焼き用鋼を用いて、所定の部品形状とすべく冷間加工を行うが、前述の通り伸線加工後から冷間加工までの間に行う軟化処理を省略し、また加工条件を特に限定せずとも、良好に冷間加工を行なうことができる。部品成形後には、浸炭や窒化等の表面硬化処理に供されるが、その際の処理条件についても限定されず、例えば、一般的な浸炭雰囲気や窒化雰囲気下、約850〜950℃で約2〜6時間保持して表面の硬化を図る場合であっても、耐結晶粒粗大化特性が発揮されて、高強度であると共に靭延性にも優れた鋼部品が得られる。
【0036】
本発明の製造方法で得られる肌焼き用鋼は、その形状が線状または棒状の様々なサイズのものとして得ることができる。また得られる肌焼き用鋼は、様々な機械構造用部品の製造に用いることができ、例えばボルトやギア等の自動車用部品の他、歯車、摺動部品、軸類、軸受等のその他の自動車用部品、建設機械及び産業機械等における鋼部品にも適用することができる。
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0038】
表1に示す化学成分組成の供試鋼を用いて、表2に示す圧延条件でφ15mmにまで圧延した後、表2に示す通り、伸線減面率を変えて1度目の伸線を行いφ13.0〜φ14.3mmの伸線材を得た。そして、これらの伸線材を用いて冷間加工性を評価した。
【0039】
冷間加工性の評価は次の様にして行った。即ち、線径(D)と高さ(H)の比:H/Dが1.5となる形状の試験片を切り出し(例えばφ14.3mm×H21.45mm)、端面拘束圧縮試験で、圧下率が80%の圧縮加工を行ったときの変形抵抗を求めた。そして、該変形抵抗が750N/mm2以下である場合を冷間加工性に優れていると評価した。
【0040】
耐結晶粒粗大化特性の評価は、前記変形抵抗が750N/mm2以下と冷間加工性に優れているもののみを対象に行なった。上記伸線加工したφ13.0〜φ14.3mmの伸線材を用い、部品成形加工を模擬して、伸線減面率が0%(鋼線まま)、約10%、約25%、約50%または約75%である2度目の伸線を行い、その後、熱処理を想定して880℃で3時間加熱してから水冷した後、結晶粒のサイズを測定して結晶粒粗大化の程度を求めた。また高温での熱処理を想定して、930℃で3時間加熱してから水冷した場合についても結晶粒のサイズを測定して結晶粒粗大化の程度を求めた。具体的に結晶粒粗大化の程度(結晶粒粗大化率)として、伸線材断面における結晶粒度がNo.5未満である結晶粒の面積率(%)を求めた。そして結晶粒粗大化率が、種々の伸線加工率で伸線したときに全て5%以下である場合を、耐結晶粒粗大化特性に優れていると評価した。これらの結果を表2に併記する。尚、本実施例では、熱間圧延の際の仕上げ圧延温度を変えて特性への影響を調べているが、同様に鍛造仕上げ温度を変えて熱間鍛造を行なった場合にも、熱間圧延の場合と同じ傾向がみられる。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表1および表2から次の様に考察できる(尚、下記のNo.は、表2中の実験No.を示す)。No.1〜3,12〜21は、本発明で規定する要件を満たすように鋼を製造したので、得られた鋼は、冷間加工時の変形抵抗が小さく、熱間加工後に軟化処理を行わなくとも良好に冷間加工することができる。また、2度目の伸線を高い減面率で行なった場合でも、880℃で熱処理した場合は勿論のこと、930℃と高温で熱処理した場合にも結晶粒の粗大化が抑制されている。
【0044】
これに対しNo.4〜11,22〜24は、本発明で規定するいずれかの要件を満たしていないため、得られた鋼は、冷間加工性に劣っているか結晶粒の粗大化がみられる。
【0045】
即ちNo.4,5,22,23は、1度目の伸線減面率が規定の上限を超えているため、冷間加工性に劣るか結晶粒の粗大化がみられた。特にNo.4は、880℃で熱処理した場合には、2度目の伸線の減面率に関係なく結晶粒の粗大化が抑えられているのに対し、930℃で熱処理したときには、2度目の伸線の減面率が高い場合に結晶粒の粗大化が確認された。
【0046】
No.6,7,9は、熱間圧延時の仕上圧延温度が高く、かつ圧延後の冷却速度が速いため、冷間加工性に劣るか結晶粒の粗大化がみられた。特にNo.9は、880℃で熱処理した場合には、2度目の伸線の減面率に関係なく結晶粒の粗大化が抑えられているのに対し、930℃で熱処理したときには結晶粒の粗大化が生じているのがわかる。またNo.8は、圧延後の冷却速度が速いため冷間加工性に劣っている。
【0047】
No.10,11,24は、用いる鋼材が本発明で規定する成分組成を満たしていないため不具合が生じている。No.10はN量が不足しており、No.11はAl量が不足しているため、いずれも結晶粒の粗大化が進んでいる。特にNo.10,11は、880℃で熱処理した場合には、2度目の伸線の減面率が75%と高い場合にのみ結晶粒の粗大化が生じたのに対し、930℃で熱処理した場合には、2度目の伸線の減面率が0%、10%、50%の場合にも結晶粒の粗大化が生じている。またNo.24はC量が過剰であるため、加工時の変形抵抗が高く冷間加工性に劣っていることがわかる。
【0048】
尚、本発明で規定する成分組成を満たす鋼材を用いた場合であっても、熱間圧延または熱間鍛造における仕上温度が700℃未満と著しく低い場合には、熱間圧延または熱間鍛造時の変形抵抗が増大し加工が困難となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で(以下同じ)、
C :0.10〜0.25%、
Si:0.5%以下(0%を含まない)、
Mn:0.3〜1.0%、
P :0.03%以下(0%を含む)、
S :0.03%以下(0%を含む)、
Cr:0.3〜1.5%、
Al:0.02〜0.1%、
N :0.005〜0.02%
を満たし、残部が鉄及び不可避不純物からなる鋼材を用いて、700〜850℃未満の温度で熱間仕上げ圧延または熱間仕上げ鍛造を行った後、600℃までの冷却を0.5℃/sec以下の冷却速度で行い、引き続いて室温まで放冷し、その後に行う伸線の減面率を20%未満に抑えることを特徴とする冷間加工性と耐結晶粒粗大化特性に優れた肌焼き用鋼の製造方法。
【請求項2】
更に他の成分として、
Mo:0.05〜0.5%および/または
Ni:0.05〜1.2%
を含む鋼材を用いる請求項1に記載の肌焼き用鋼の製造方法。
【請求項3】
更に他の成分として、
V、Nb、TiおよびWよりなる群から選択される1種以上を
合計で0.5%以下含む鋼材を用いる請求項1または2に記載の肌焼き用鋼の製造方法。
【請求項4】
更に他の成分として、
B:0.0005〜0.003%を含む鋼材を用いる請求項1〜3のいずれかに記載の肌焼き用鋼の製造方法。


【公開番号】特開2006−118014(P2006−118014A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308599(P2004−308599)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】