説明

冷間圧延多相鋼製品の製造のための鋼組成物

【課題】被覆されていない、電気ガルバナイジングされた又は熱浸漬ガルバナイジングされたTRIP鋼製品の製造のための、冷間圧延工程を含む方法に使用されることを意図される鋼組成物、さらに、前記鋼製品の製造方法および鋼製品を提供する。
【解決手段】最大Si及びAl含有量を制限しながら従来技術のレベルを越えてPを加える。Pは炭素含有量を十分に減らすことによって良好な溶接性を維持しながら所望の機械的特性(高い伸びと組み合わせた高い引張強度)を達成するために加えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はTRIP鋼製品の製造のために使用される、燐を含む鋼組成物に関する。また、本発明は前記製品の製造方法、及び最終製品自体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業では、重量減少の必要性があり、それは安全性及び機能性の要求をあきらめずに部品の厚さを減少することができるためにより高い強度の材料の使用を意味する。高い強度及び良好な二次成形適性の顕著な組み合わせを示す、超高強度鋼(UHSS)シート製品、特にTRIP鋼製品は、この問題に対する解決策を与えることができる。さらに、電気又は熱浸漬ガルバナイジングによってこれらの鋼シート製品の増大した耐腐食性が求められることが多い。
【0003】
幾つかの文献はかかるUHSS製品を記載している。EP−A 1096029は調質されたマルテンサイトTRIP鋼の製造に関し、その化学組成はシリコン−マンガンに基づき、0.05〜0.20重量%のC,0.3〜1.8重量%のSi及び1.0〜3.0重量%のMn並びに一つ以上の次の成分(重量%):0.05〜1%のCr+Mo,≦0.003%のB,0.01〜0.1%のTi+Nb+V及び≦0.01%のCa+REMを含有する。冷間圧延製造法は三つの連続した焼なまし工程からなる。第一工程では、シートは少なくとも5秒間、完全にオーステナイト化され、続いてラスマルテンサイトを製造するためにMs(マルテンサイト開始)温度以下に迅速に冷却される(>10℃/秒)。第二及び第三工程は連続焼なまし又はガルバナイジングラインで組み合わされ、5〜120秒間、臨界(intercritical)領域(Acl<T<Ac3)でシートを再加熱し、500℃以下に冷却し(>5℃/秒)、次いでシートをガルバナイジング又はガルバニーリング処理に供することからなる。この発明と関連して二つの主な欠点がある。第一の欠点はラスマルテンサイトを開始するミクロ組織を製造するために要求される追加の焼なまし工程である。この余分の製造工程は全体の製造コストを増加するだけでなく、連続焼なまし又は熱浸漬ガルバナイジングラインの入口での溶接性並びにロジスティックスを複雑にするだろう。溶接又は熱影響領域で開始されるクラックは硬い及び脆いマルテンサイト構造中に容易に伝搬され、二つのコイル間の溶接の完全な破断に対する高い危険に導く。第二の主要な欠点はこれらの鋼におけるかなり高いSi含有量に関する。約0.5%Si以上から、これらの高いSi含有量は不規則性及び極めて高い粗さを有する表面を酸洗い後に作るSi酸化物の存在のために表面品質に関して問題を起こすことが良く知られている。さらに、腐食保護に照らして、かかる高Si含有基体の熱浸漬ガルバナイジングは一般に、自動車用途のために不十分な表面外観に導き、さらに表面上の裸スポットについて極めて高い危険を持つ。
【0004】
EP−A 0922782はまた、0.05〜0.40重量%のC,1.0〜3.0重量%のSi,0.6〜3.0重量%のMn,0.02〜1.5重量%のCr,0.01〜0.20重量%のP及び0.01〜0.3重量%のAlを含有する冷間圧延Si−MnベースのTRIP鋼の製造を記載する。前の発明とは対照的に、この製品は追加の焼なまし工程の使用を要求しない。Crはベイナイト形成を遅らせかつ針状フェライト及びマルテンサイト形成を促進するために分析に加えられる。なぜならばベイナイトはSi−MnベースのTRIP鋼におけるクラッシュ挙動に有害であると発明者によって考えられているからである。Pはパーライト形成を避けるため及びフェライト相の強度を増大するために加えられる。最大P含有量は溶接性のため0.2%に制限される。しかしながら、この発明の高Si含有量は再び、熱浸漬ガルバナイジング性を損ない、結果として不十分な表面外観及び裸スポットについての極めて高い危険を生じる。高Si含有量によるホットストリップ上で除去することが難しい赤スケールの発生はまた、処理困難性を起こすことが予想される。
【0005】
EP−A 0796928は0.05〜0.3重量%のC,0.8〜3.0重量%のMn,0.4〜2.5重量%のAl及び0.01〜0.2重量%のSiを含有するAlベースの二相鋼の製造を記載する。さらに、その鋼は次の要素の一つを含有することができる:<0.05重量%のTi,<0.8重量%のCr,<0.5重量%のMo,<0.5重量%のNi,<0.05重量%のNb及び<0.08重量%のP。40%より高い減少率で冷間圧延後、材料は740〜850℃の温度で臨界的に(intercritically)焼なましされ、次いで10〜50K/秒の冷却速度でZn浴温度に冷却される。両方の前の分析と比較すると、後者、ほとんどSiを含有しない分析は鋼に熱浸漬ガルバナイジングを容易に可能とさせ、有害な赤スケールの形成を避ける。しかしながら、AlはSiとは対照的に強い固溶体補強効果を生成しない。これは適度に高い強度レベル(例えば、Rm=700MPa)を達成するためにかなり高いAl含有量の使用を意味する。しかしながら、これらの高いAlレベルは、連続鋳造時にしみつきを生じ、溶接領域におけるAl酸化物の存在による溶接性を損なうことが知られている。これは特に溶接された構造のクラッシュ挙動に対して特に有害である。鋳造問題を避けるために健康問題を生じうる適応された極めて微細な鋳造粉末が要求される。それゆえ製鋼所は一般に、この種の組成物を生成しようとしない。なぜならば労働者はマスクを付けなければならず、しかも多くの特別な注意を払わなければならないからである。
【0006】
EP−A 1170391は処理工程に窒化工程(0.03−2重量%のN)を加えることによって得られた、低炭素(<0.08重量%)、低シリコン(<0.5重量%)、及び低アルミニウム(<0.3重量%)TRIP鋼の製造を記載する。Al及びSi含有量は窒化物の析出、従って遊離Nの損失を避けるために低く維持されなければならない。さらにSi含有量は熱浸漬ガルバナイジング性のため0.2重量%より低いことが好ましい。炭素含有量は溶接性のため及び鋼中の窒素の存在がまた保持されたオーステナイトを安定するため極めて低く維持される。この窒素は熱間仕上圧延時又は直後、再結晶焼なまし時、臨界的(intercritical)焼なまし時又は一以上のこれらの処理工程の組み合わせによって鋼シート中に混入される。それらの全ては鋼シートが550〜800℃の温度範囲で2%以上のアンモニアを含有する雰囲気で2秒〜10分間保持されることを要求する。この窒化工程は処理工程をさらに困難にさせ、存在する設備に対して複雑な技術的変更を要求することは明らかである。現在、この方法は工業的に実行できるとは国際的に考えられていない。さらに、この鋼グレードの極めて低い合金含有量は650MPa以上の引張強度レベルを達成できない。
【0007】
US−A 5470529は幅広い種類の組み合わされたAl−Si分析に基づいた冷間圧延TRIP鋼の製造を取扱う。炭素含有量の範囲は0.05〜0.3重量%、より好ましくは0.1〜0.2重量%として設定される。Si含有量は赤スケール形成を避けるために1.0重量%以下に維持されるが、より好ましくは0.2〜0.9重量%の範囲である。マンガンは0.005〜4.0重量%で加えられるが、より好ましくは0.5〜2.0重量%である。伝統的なSi−Mn TRIP組成物と比較すると、Siの一部は様々な理由のためAlによって置換される。Siのように、Alはまた、ベイナイト保持時にセメンタイト析出を避ける。これは低いSiレベルを使用して赤スケール形成を避けることを可能にする。さらに、Alの添加はAr3温度を増加し、臨界的(intercritical)焼なまし時に形成されるオーステナイト相の増大した炭素濃度に導く。これは次に、保持されたオーステナイトを安定化し、低応力領域で応力誘導変態を受けにくい鋼を作り、改良された穴拡大比に導く。それゆえAl範囲は0.1〜2.0重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%として設定される。しかしながら、Al及びSiはともにフェライト安定化剤であるので、それらの合計量は保持されたオーステナイトの過度の安定化を避けるために制限される。Al+Si含有量は0.5〜3.0重量%、より好ましくは1.5〜2.5重量%の範囲であるべきである。この発明ではPはできるだけ多く制限されるべき付随的な不純物として考えられる。P制限量は0.1重量%以下、好ましくは0.02重量%未満で設定される。Cuは赤スケールの除去を容易にするため、冷間圧延製品の耐腐食性を改良するため、及び溶融Znによる濡れ性を改良するため分析に加えられる。それゆえCuの範囲は0.1〜2.0重量%、より好ましくは0.1〜0.6重量%である。Cuを使用するときの熱脆性の問題を避けるために、Niは同様に加えられる。経済性のためその含有量は1.0重量%、好ましくは0.5重量%に制限される。次の制約も適用する:Cu>0.5重量%及びMn+Ni>0.5重量%のとき、Ni(重量%)>Cu(重量%)/3。Crは保持されたオーステナイトを安定化するため及び耐腐食性をさらに改良するために加えられてもよい。それは0.5〜5.0重量%、より好ましくは0.6〜1.6重量%の範囲で加えられる。引張強度をさらに増大するためにTi,Nb及びVが同様に加えられてもよい。それらの上限はNb及びTiに対して0.05重量%、Vに対して0.10重量%であることが好ましい。この発明における最大Si含有量は赤スケール形成を避けるために<1重量%に制限されるが、冷間圧延された例の鋼のほとんどは0.5〜1.1重量%の範囲のSi含有量を持つ。この鋼は熱浸漬ガルバナイジングの困難性(溶融Znによる劣った濡れ性)及び劣化した表面外観(裸スポット)を生じると考えられる。これらの例の鋼のいずれも高Si−TRIP鋼のように微小合金添加物を含んでいないので、これらはホットストリップ硬度を顕著に増大し、強く増大した冷間圧延力に導く。低Si(0.2〜0.4重量%)の例の鋼は他方、高降伏応力(570〜590MPa)及び適度な極限引張強度(≦700MPa)及び全体の伸び値(A50≦30%)を示した。この鋼ではPはさらに加えられなかった。これらの組成物の大きな欠点はCu及びNiを加える必要性であり、それらの元素はバルクフラット炭素鋼製造における不純物として考えられている。もし製鋼所がこれを鋳造しなければならないなら、スクラップリサイクルでの余分のロジスティック問題が起こる。さらに、Ni,Cu及びCrの使用は合金コストをずっと高いものにする。
【0008】
EP−A 1154028はP合金、低Al、低SiのTRIP鋼の製造を記載し、それは0.06〜0.17%のC,1.35〜1.80重量%のMn,0.35〜0.50重量%のSi,0.02〜0.12重量%のP,0.05〜0.50重量%のAl、最大0.07重量%のNb、最大0.2重量%のV、最大0.05重量%のTi、最大30ppmのB及び100〜350ppmのNを含有する。炭化物を形成する元素Ti,Nb又はVが加えられるとき、炭素含有量は0.16重量%であることが好ましい。残留オーステナイトの量は10%の最大値に制限される。低いSi含有量とかなり低いC含有量の組み合わせは極めて低い引張強度値(<600MPa)を生じる。微小合金元素が加えられるとき、強度レベルは顕著に改良されるが(800MPa)、伸びが劇的に低下する(A80<17%)。伸び値は全ての場合においてかなり低く、それは保持されたオーステナイトを安定にしないAl及びCの制限された添加によって説明されることができる。
【0009】
L.Barbeらは純粋なSi−TRIP鋼から組み合わされたAl−Si TRIP鋼を経て純粋なAl−TRIP鋼までの範囲の幾つかのTRIP組成に対する燐添加の影響を研究している(“Effect of phosphorus on the properties of a cold rolled and intercritically annealed TRIP−aided steel”,Int.Conf.on TRIP−Aided High Strength Ferrous Alloys,Ghent,June 19−21,2002)。彼らは0.24重量%のC,1.66重量%のMn,0.6重量%のAl,0.4重量%のSi及び0.073重量%のPを含有するTRIP支援鋼組成物が機械的特性の優れた組み合わせ(A80=28.4%及びUTS=788MPa)を生じることを見出した。しかしながら、本発明の発明者による実験室の実験は0.6重量%の低いAl添加が得られた機械的特性をラインスピード及び過時効温度の如き工程パラメータ変数に対して極めて敏感にすることを示した。これは異なるガルバナイジングライン(490−460℃付近のレベリング領域の異なる長さによる)間の非適合性又は強く厚さに依存する機械的特性に導きうる。これは極めて低いAl添加による最適な過時効時間からそれより顕著に長い時間へのシフト及び保持されたオーステナイトの不十分な安定化によって説明されることができる。
【0010】
O.Yakubovskyらは純粋なSi−TRIP鋼から組み合わされたAl−Si TRIP鋼を経て純粋なAl−TRIP鋼までの範囲の幾つかのTRIP組成の応力歪挙動及びベーク硬化挙動を研究している(“Stress−strain behaviour and bake hardening of TRIP and TRIP−aided multiphase steels”,Int.Conf.on TRIP−Aided High Strength Ferrous Alloys,Ghent,June 19−21,2002)。全ての場合において炭素含有量は0.15重量%に制限され、マンガン含有量は1.5重量%に制限された。特に研究された鋼はまた、0.25〜0.45重量%のSi,1.5〜2.0重量%のAl及び0.05〜0.10重量%のPのTRIP鋼であった。この組成に対して論文には機械的特性は全く述べられていなかった。本発明の発明者による実験室の研究及び工業的製造から確立された引張強度対炭素含有量の関係に基づいて、提案された化学組成は700〜850MPaの範囲の引張強度を達成するために炭素に不十分に合金されている。さらに、高Al含有量は健康問題を生じうる適応された極めて微細な鋳造粉末の使用を要求する。さらに、溶接性は溶接された領域のAl酸化物の存在、高いAl含有量の結果のために損ないうる。
【0011】
S.Papaefthymiouらは臨界的焼なまし直後に様々な歪レベルに一軸変形された二つのAl−Si−TRIP鋼の機械的挙動及びミクロ組織の発達を研究している(“Microstructure development and mechanical behaviour of Al−containing TRIP−steels”,Int.Conf.on TRIP−Aided High Strength Ferrous Alloys,Ghent,June 19−21,2002)。この特別な処理の結果として及び標準的でない試料ジオメトリーのため、この論文に述べられた機械的特性は比較できない。研究された二つのAl含有TRIP鋼は低Al及び高Al鋼に分割されることができる。これらは低Al鋼では0.19重量%のC,1.5重量%のMn,0.26重量%のSi,0.086重量%のP及び0.52重量%のAlを含有し、高Al鋼では0.17重量%のC,1.46重量%のMn,0.26重量%のSi,0.097重量%のP及び1.81重量%のAlを含有する。前に既に説明されたように、低Al鋼はラインスピード及び過時効温度の如き工程パラメータ変数に極めて敏感な機械的特性を悪くするだろう。これは異なるガルバナイジングライン間の非適合性又は強く厚さに依存する機械的特性に導きうる。高Al鋼は他方、再び健康問題を生じうる適応された鋳造粉末の使用を要求する。さらに、溶接性は溶接された領域のAl酸化物の存在のため損なわれるだろう。
【0012】
A.Pichlerらは〜0.2重量%のC,〜1.6重量%のSi+Al,〜1.5重量%のMn,<0.5重量%のCr+Mo,<0.04重量%のP,<0.01重量%のS及び<0.05重量%のTi+Nbを含有する低合金TRIP鋼の機械的特性及び保持されたオーステナイト安定性についての様々な焼なまし工程パラメータの影響を研究している(“Correlation between thermal treatment,retained austenite stability and machanical properties of low−alloyed TRIP steels”,Int.Conf.on TRIP−Aided High Strength Ferrous Alloys,Ghent,June 19−21,2002)。この分析においてAl/Si比に関する仕様が全く与えられていないので、ガルバナイジング性について結論づけることはできない。述べられたP含有量は良好な溶接性(十分な炭素含有量減少)を維持しながら、所望の機械的特性(高い伸びと組み合わされた高い引張強度)を得るためには不十分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は容易にガルバナイジングをすることができる冷間圧延によって製造された鋼製品の製造のための高強度、低Si、高Al、P合金TRIP鋼組成物を提供することである。
【0014】
さらに本発明の目的はかかる製品の製造方法を提案すること、及び最終製品自体を提案することであり、前記組成物、前記方法及び前記製品は従来技術の問題を被らないものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は被覆されていない、電気ガルバナイジングされた又は熱浸漬ガルバナイジングされた材料として使用されることを意図される冷間圧延Al−Si、P合金TRIP鋼組成物に関する。前記組成物は下記のものを含むことを特徴とする。
− C:1300ppm〜2600ppm
− Mn:10000ppm〜22000ppm
− Al:8000ppm〜15000ppm
− Si:2000ppm〜6000ppm
− P:400ppm〜1000ppm
− S:最大120ppm
− N:最大200ppm
− Ti:最大1000ppm
− Nb:最大1000ppm
− V:最大1000ppm
− B:最大10ppm
残りは実質的に鉄及び付随的な不純物である。
【0016】
この組成物の新規性及び進歩性は元素P,Si,Al及びCの特定の組み合わせにある。特に、最大Si及びAl含有量を制限しながら従来技術のレベルを越えてPを加えることは、良好な溶接性と組み合わせて、特定の強度レベルを達成するためにC含有量を減少することを可能にする。
【0017】
三つの特別な例は同じ化学組成に関するが、下記のことを目的とする強度レベルに関する炭素についての三つの異なる範囲を有する:
− UTS(極限引張強度)≧590MPa:1300ppm〜1900ppmの炭素。二つの特別な例はそれぞれ1350ppm〜1900ppm及び1400ppm〜1900ppmの炭素含有量を特徴とする。
− UTS≧690MPa:1700ppm〜2300ppmの炭素。
− UTS≧780MPa:2000ppm〜2600ppmの炭素。
【0018】
同様に三つの特別な例は目的とする強度レベルに関する炭素含有量について同じ範囲に関するが、下記の特別な化学組成をさらに有する:
− Mn:13000ppm〜22000ppm
− Al:8000ppm〜14000ppm
− Si:2500ppm〜4500ppm
− P:600ppm〜1000ppm
− S:最大120ppm
− N:最大150ppm
− Ti:最大200ppm
− Nb:最大100ppm
− V:最大100ppm
− B:最大5ppm
残りは実質的に鉄であり、付随的な不純物である。
【0019】
同様に三つのさらに特別な例は目的とする強度レベルに関する炭素含有量について同じ範囲に関するが、アルミニウムについて9000−13000ppmの特定の範囲をさらに有する。他の合金元素の範囲は段落[0017]と同じに維持される。
【0020】
本発明はまた、下記工程を含む、冷間圧延TRIP鋼製品の製造方法に関する:
− 本発明による組成を有する鋼スラブを作る;
− 前記スラブを熱間圧延して熱間圧延された基体を形成する、但し仕上げ圧延温度はAr3温度より高い;
− 前記基体を500℃〜680℃のコイル温度(CT)に冷却する;
− 前記基体を前記コイル温度でコイルする;
− 前記基体を酸洗いして酸化物を除去する;
− 前記基体を冷間圧延して40%の最大減少を有する厚さの減少を得る。
【0021】
第一例によれば、本発明の方法は下記工程をさらに含む:
− 760℃〜850℃の温度で前記基体をソーキングする;
− 360℃〜450℃の範囲の温度に2℃/秒より高い冷却速度で前記基体を冷却する;
− 700秒より短い時間、前記温度範囲で前記基体を保持する;
− 1℃/秒より高い冷却速度で室温に前記基体を冷却する;
− 前記基体を最大1.5%のスキンパス減少に供する。
【0022】
第二例によれば、本発明の方法は電気亜鉛被覆工程をさらに含む。
【0023】
第三例によれば、本発明の方法は冷間圧延工程後に下記工程をさらに含む:
− 760℃〜850℃の温度で前記基体をソーキングする;
− Zn浴の温度に2℃/秒より高い冷却速度で前記基体を冷却する;
− 200秒より短い時間、490℃〜460℃の温度範囲で前記基体を保持する;
− 前記Zn浴に前記基体を熱浸漬ガルバナイジングをする;
− 2℃/秒より高い冷却速度で室温に前記基体を冷却する。
【0024】
熱浸漬ガルバナイジング工程を含む方法は最大1.5%のスキンパス減少に前記基体を供する工程をさらに含んでもよい。
【0025】
本発明はまた、30〜75%のフェライト、10〜40%のベイナイト、0〜20%の保持されたオーステナイト及び所望により0〜10%のマルテンサイトを含むミクロ組織を有する本発明の方法に従って製造された鋼製品に関する。
【0026】
本発明はまた、1300ppm〜1900ppmの炭素含有量を有する本発明の方法に従って製造された鋼製品に関する。前記製品は320MPa〜480MPaの降伏強度、590MPa以上の引張強度、26%より高い伸びA80、及び0.2より高いn値(これは10%と均一な伸びの間で計算された歪硬化係数である)を有する。
【0027】
本発明はさらに、1700〜2300ppmの炭素含有量を有する本発明の方法に従って製造された鋼製品に関する。前記製品は350MPa〜510MPaの降伏強度、700MPa以上の引張強度、24%より高い伸びA80及び0.19より高いn値(10%と均一な伸びの間で計算される)を有する。
【0028】
本発明はさらに、2000〜2600ppmの炭素含有量を有する本発明の方法に従って製造された鋼製品に関する。前記製品は400MPa〜600MPaの降伏強度、780MPa以上の引張強度、22%より高い伸びA80及び0.18より高いn値(10%と均一な伸びの間で計算される)を有する。
【0029】
本発明はまた、2000〜2600ppmの炭素含有量を有する本発明の方法に従って製造された鋼製品に関する。前記製品は450MPa〜700MPaの降伏強度、980MPa以上の引張強度、18%より高い伸びA80及び0.14より高いn値(10%と均一な伸びの間で計算される)を有する。
【0030】
本発明による鋼製品は縦及び横方向の両方で40MPaより高いベーク硬化(bake hardening)BH2を有する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明によれば、鋼組成物はP合金Al−Si TRIP鋼製品の製造のために提案されている。示される最も広い化学組成の範囲の適用は正しい工程パラメータと組み合わせると、所望のTRIPミクロ組織、良好な溶接性並びに優れた機械的特性を有する製品を生じることができ、これは引張強度及び全伸び(この値はクラッシュの場合の高いエネルギー吸収能力についての特性である)の極めて高い値の製品を持つことができる。好ましい範囲はより狭い範囲の機械的特性、例えば780MPaの保証された最小引張強度、又は溶接性についてのさらに厳しい条件(C範囲の最大値、次のパラグラフ参照)に関する。
【0032】
C:1300ppm〜2600ppm。第一の好ましい範囲は1300〜1900ppmである。第二の好ましい範囲は1700〜2300ppmである。第三の好ましい範囲は2000〜2600ppmである。それらの範囲の最小炭素含有量は強度レベルを確保するために必要とされる。なぜならば炭素は焼入性のために最も重要な元素であるからである。クレームされた範囲の最大値は溶接性に関連する。機械的特性についての炭素の効果は例示組成A,E及びF及び参照組成B,C及びD(表1,3〜8)によって示される。スポット溶接性についての炭素含有量の効果は参照組成B,C及びD(表2)によって示される。炭素についての特定の範囲は1350〜1900ppm及び1400〜1900ppmの二つの特定の例についての特徴である。これらの範囲は少なくとも600MPaの極限引張強度を確保することを目的とする。
【0033】
Mn:10000ppm〜22000ppm、好ましくは13000〜22000ppm。マンガンはオーステナイト安定化剤として作用し、従って保持されたオーステナイトのMs温度を低下する。さらにMnはパーライト形成を抑制し、また固溶体硬化によって鋼の全体の強度レベルに貢献する。過剰のMnを加えることは他方、ソーキング温度からの冷却で不十分なフェライト形成を生じ、従って保持されたオーステナイトにおいて不十分な炭素濃度を生じ、オーステナイトを不安定にする。多すぎるMnは溶接の硬度を増大し、有害な帯状ミクロ組織の形成を強めるだろう。
【0034】
Al:8000〜15000ppm、好ましくは8000〜14000ppm、最も好ましくは9000〜13000ppm。アルミニウムはSiよりかなり多い程度まで加えられる。なぜならばそれはフェライト安定化剤であり、従ってソーキング中及びソーキング温度からの冷却中のフェライト形成を増強し、それによって保持されたオーステナイトを安定化する。オーステナイトはAlが過時効工程時の保持されたオーステナイトからの炭素の析出を抑制するという事実によってさらに安定化される。Siとは違って、Alはガルバナイジング性について有害な影響を持たない。しかしながら、15000ppm以上のAl含有は健康問題を生じうる適応された極めて微細な鋳造粉末の使用を要求することが知られている。さらに溶接性は溶接された領域のAl酸化物の存在によって低下しうる。しかしながら、最小のAl含有は、材料が異なる長さのレベリング領域を有する異なる熱浸漬ガルバナイジングライン上で処理されることを可能とし、かつ高い工程頑強性を確保することを要求される。
【0035】
Si:2000ppm〜6000ppm、好ましくは2500〜4500ppm。ケイ素はわずかな差はあるがAlと本質的に同じ機能を有する。即ち、Siはフェライト安定化剤であり、過時効工程時の炭化物析出を防止し、それによって室温で保持されたオーステナイトを安定化する。これに加えて、Siはまた、固溶体硬化によって鋼の全体の強度レベルに貢献する。しかしながら、最大Si含有量は制限される。なぜならばSiは酸洗い後に不規則性及び極めて大きい粗さを有する表面を作るSi酸化物の存在のため表面品質に関する問題を起こすことが良く知られている。さらに、腐食保護に照らして、高Si含有基体の熱浸漬ガルバナイジングは一般に、自動車用途のために不十分な表面外観に導き、さらに表面上の裸スポットの存在について高い危険を有する。
【0036】
P:400ppm〜1000ppm、好ましくは600〜1000ppm。燐は主に同じ引張強度レベルを維持しながら改良された溶接性を得るために炭素含有量を減少可能にするために加えられる。さらに、PはSiと組み合わせて過時効工程時の炭化物析出を抑制することによって保持されたオーステナイト安定性を増強することが知られている。この点に関して400ppm以下のPの添加はC含有量の十分に大きな減少を可能としない。1000ppmより多いPを添加するとき、偏析欠陥についての危険が増大し、溶接性は再び低下される。
【0037】
S:最大120ppm。S含有量は極めて高い含有レベルが二次成形適性を低下しうるので制限されなければならない。
【0038】
N:最大200ppm、好ましくは最大150ppm。そうでなでれば極めて多すぎるAlN及び/又はTiN析出物が形成され、それは二次成形適性に対して有害である。
【0039】
Ti:最大1000ppm、好ましくは980MPa以下の引張強度を有する本発明に従って製造された製品について200ppm以下。チタンは細粒化及び析出強化によって鋼の引張強度を増大するために加えられることができる。しかしながら、980MPa以下の引張強度に対しては、Tiを加えなくても、適切な工程パラメータを使用すれば、炭素範囲に対して目的とする機械的特性を生じ、従って分析コスト又は余分な工程の困難性(例えば圧延力)の増加を避けるだろう。
【0040】
Nb:最大1000ppm、好ましくは980MPa以下の引張強度を有する本発明に従って製造された製品について100ppm以下。ニオブは細粒化及び析出強化によって鋼の引張強度を増大するために加えられることができる。しかしながら、980MPa以下の引張強度に対しては、Nbを加えなくても、適切な工程パラメータを使用すれば、炭素範囲に対して目的とする機械的特性を生じ、従って分析コストの増加を避けるだろう。
【0041】
V:最大1000ppm、好ましくは980MPa以下の引張強度を有する本発明に従って製造された製品について100ppm以下。バナジウムは細粒化及び析出強化によって鋼の引張強度を増大するために加えられることができる。しかしながら、980MPa以下の引張強度に対しては、Vを加えなくても、適切な工程パラメータを使用すれば、炭素範囲に対して目的とする機械的特性を生じ、従って分析コストの増加を避けるだろう。
【0042】
B:最大10ppm、好ましくは最大5ppm。硼素はフェライト核生成についてのその有害な影響のため避けられる。
【0043】
本発明はまた、前記鋼製品を製造するための方法に関する。この方法は下記工程を含む:
− 上で規定したような本発明による組成を有する鋼スラブを作る;
− もし必要なら、前記スラブを1000℃より高い温度、好ましくは1200℃以上の温度に再加熱する;
− スラブを熱間圧延する、但し熱間圧延の最後のスタンド(stand)における仕上げ圧延温度FTはAr3温度より高い;
− 冷却温度CTに、好ましくはCTに、典型的には40〜50℃/秒で連続的に冷却することによって冷却する、但し段階的冷却を同様に使用してもよい;
− 500℃〜680℃、好ましくは600℃〜680℃の冷却温度CTで前記基体の熱間圧延ミル冷却、但しこの温度範囲は冷間圧延を促進するためにできるだけ柔らかいホットバンド(hot band)を作るように選択される;
− 酸化物を除去するために基体を酸洗いする;
− 厚さの減少を得るために冷間圧延する、但し冷間圧延減少は好ましくは40%より多いことが好ましい。
【0044】
本発明の第一例によれば、これらの工程の後、次の工程を含む連続焼なましラインでの焼なまし処理が行なわれる:
− フェライト及びオーステナイトからなるミクロ組織を作るために760℃〜850℃の温度範囲に前記酸洗いされた冷間圧延基体をソーキングする。もしソーキング温度が850℃以上で選択されるなら、形成されたオーステナイトの量は極めて多く、それは最終製品において不安定に保持されたオーステナイトに導くだろう。低下したオーステナイト安定性のため、それの実質的な部分はまた、室温への最終冷却時にマルテンサイトへ変態することができ、それは伸び特性を劣化する。もし他方、ソーキング温度が極めて低く選択されるなら、ソーキング時に不十分なオーステナイトが形成されるだろう。これは保持されたオーステナイトの過剰な安定に導き、それは再び機械的特性を低下する。
− 前記基体を2℃/秒より高い冷却速度で360℃〜450℃の範囲の保持温度に冷却する。前記温度範囲での保持時間は700秒未満である。保持温度が360℃以下で選択されるとき、保持されたオーステナイトの実質的な部分はマルテンサイトに変態し、最終製品のDP様挙動(増大する歪の関数として減少する高い初期n値)に導くだろう。450℃以上の保持温度は他方、炭素析出によって保持されたオーステナイトの分解に導くだろう。これは再び伸び特性を低下するだろう。
− 1℃/秒より高い冷却速度で150℃以下の温度への前記基体の最終冷却。
− 最後に前記基体は好ましくは0.3%〜1.5%の範囲であるスキンパス減少に供されることができる。
【0045】
第二の好ましい例は上述と同じ処理工程を含むが、さらに電気亜鉛被覆工程を含む。
【0046】
本発明の第三例によれば、冷間圧延工程後、下記工程を含む連続熱浸漬ガルバナイジングラインの焼なまし処理が行なわれる:
− フェライト及びオーステナイトからなるミクロ組織を作るために760℃〜850℃の温度範囲に前記酸洗いされた冷間圧延基体をソーキングする。もしソーキング温度が850℃以上で選択されるなら、形成されたオーステナイトの量は極めて多く、それは最終製品において不安定に保持されたオーステナイトに導くだろう。低下したオーステナイト安定性のため、それの実質的な部分はまた、室温への最終冷却時にマルテンサイトへ変態することができ、それは伸び特性を劣化する。もし他方、ソーキング温度が極めて低く選択されるなら、ソーキング時に不十分なオーステナイトが形成されるだろう。これは保持されたオーステナイトの過剰な安定に導き、それは再び機械的特性を低下する。
− 2℃/秒より高い冷却速度でZn浴の温度に前記基体を冷却する。
− 200秒未満の間、好ましくは5秒〜80秒の間、490℃〜460℃の温度範囲で前記基体を保持する。
− 前記Zn浴で前記基体を熱浸漬ガルバナイジングする。
− 2℃/秒より高い冷却速度で室温へ最終冷却する。
− 最後に前記基体は好ましくは0.3%〜1.5%の範囲であるスキンパス減少に供されることができる。
【0047】
冷間圧延後の本発明の鋼基体の厚さは十分に高いレベルで冷間圧延を行なうために冷間圧延ミルの能力及び初期熱間圧延シート厚さによって1mmより低くすることができる。従って、0.3〜2.5mmの厚さが実行可能である。
【0048】
生じた冷間圧延製品は30〜75%のフェライト、10〜40%のベイナイト、0〜20%の保持されたオーステナイト、及び所望により室温で存在するマルテンサイトの量(0〜10%)を有する多相組織を持つ。しかしながら、室温でのマルテンサイトの量はTRIP鋼についての特性である機械的特性及びn値挙動(一定又は歪とともに増加)を維持するために制限されるべきである。工程パラメータの関数としての特定の機械的特性は実施例に与えられる。
【0049】
冷間圧延非調質圧延製品は全ての場合において降伏点伸びを示し、それはTRIP鋼に対して典型的であり、ミクロ組織にマルテンサイトが全く存在しないか又は極めて少量しか存在しないことを示す。この降伏点伸びは最終製品を調質圧延することによって抑制されることができる。少ない調質圧延減少は降伏点伸びの発生を避けるために十分であり、1.5%以上の調質圧延減少は極めて大きい降伏強度増加を防止するために避けられるべきである。
【0050】
最終冷間圧延製品は増大する歪とともに増大するか又は一定のn値を示すことがさらに好ましい。この挙動は保持されたオーステナイトが引張試験を行っている際に徐々にマルテンサイトへ変態され、それによってくびれの発生を遅らせ、引張強度と全伸びの優れた組み合わせに導くことを意味する。
【0051】
本発明に従って製造されたTRIP鋼製品の頑健性は好ましくは8000〜14000ppm、最も好ましくは9000〜13000ppmの範囲のAl範囲で特定された最小Al含有量によって確保される。少ないAlを加えることは保持されたオーステナイトを不安定にする。これは炭素析出によるオーステナイト分解によって機械的特性の低下の危険を増加し、他方不安定に保持されたオーステナイトは歪形成時にマルテンサイトに容易に変形し、材料の二次成形適性を制限するだろう。少ないAlを加えることはまた、ベイナイト変態動力学を妨げるだろう。結果として機械的特性は実際のラインレイアウト(短い又は長い過時効区域)での過時効温度及びラインスピードの如き工程条件に対してより多く依存するだろう。好ましい範囲でAl含有量を使用することはかかるライン依存性及び頑健性の損失を回避する。
【0052】
得られた冷間圧延製品の溶接性に関して、燐の追加は同じ引張強度レベルのP不含Al−Si TRIP鋼と比較して炭素含有量を減少することができる。調査された炭素範囲では、溶接性は炭素含有量を低下することによって改良されるので、P添加によるかかる炭素含有量の減少は本発明の主要な利点として考えることができる。
【0053】
従来の文献に記載された組成に関して上述された様々な欠点は本発明の組成が適用されるときには遭遇しない:
− Siは熱浸漬ガルバナイジング性を確保するために制限される。本発明の熱浸漬ガルバナイジングされた冷間圧延鋼の表面外観は自動車の未露出用途のために十分であるが、高Si含有量を有する基体は一般に自動車用途のために不十分な表面外観に導き、さらに表面上の裸スポットの存在についてずっと高い危険を有する。
− Siはクラック形成を防止するためにスラブをホットチャージ(hot charging)する必要性を避けるためにさらに制限される。
− 熱間圧延基体の表面上の赤スケールの存在はまた、Si含有量を制限することによって避けられる。
− 熱浸漬ガルバナイジングと適合するSiの少量が目標とする引張強度レベルをより容易に達成するために加えられる。Si不含Al TRIP鋼と比較して、これは低いC含有量又は低いAl含有量を使用することを可能にする。
− 最大Al含有量は健康問題を生じうる適応された極めて微細な鋳造粉末の使用を避けるために制限される。さらに高Al含有量(>1.5%)の場合には溶接性は溶接された領域におけるAl酸化物の存在のために低下することができるだろう。しかしながら、最小のAl含有量は高い工程頑健性及び連続焼なまし又は熱浸漬ガルバナイジングラインのラインスピード、過時効温度及びレイアウトの変化に対する少ない感受性を確保する。
− 所定の引張強度レベルに対して、C含有量はPの添加によって及びミクロ合金の必要性なしで溶接性を改良するために他のAl−Si TRIP鋼と比較して制限される。
− 本発明の鋼製品にはNi,Cu又はCrは加えられない。これはスクラップリサイクルでのロジスティック問題を避け、分析のコストを減らす。
【実施例】
【0054】
1.実施例組成
表1は本発明によるP合金Al−Si TRIP鋼製品の実験室鋳造の組成(符号A,E及びF)、及びクレームされた範囲より高いC含有量を有するか及び/または意図的に加えられた燐を有しない参照組成(符号B,C及びD)の例を示す。実験室熱サイクルシミュレーション及び引張試験はこれらの例の組成の試験標本の機械的特性を得るために行なわれた。以下においては全ての述べられた引張試験の機械的特性は標準規格EN10002−1に従って測定されることが注意されるべきである。
【0055】
1.1 冷間圧延及び連続焼なまし製品
処理工程は下記の通りである:
− 鋳造
− 1250℃で1時間再加熱する、
− オーステナイト領域において3.5mmの最終厚さに熱間圧延する、
− 600℃のコイル温度に水冷する、
− 1mmの最終厚さに冷間圧延する。
【0056】
前の処理工程後、圧延方向に平行な80mmゲージ長さを有する引張標本をシートから機械加工した。これらの標本を二工程熱サイクル後に二つの塩浴で熱処理した。所定時間(IAt)、臨界的領域(IAT)において焼なまし後、試料は低温で塩浴で急冷され、所定時間(BHt)、恒温で保持された(BHT)。機械的特性は表3に掲載され、TRIP700グレードに対する仕様が確認される。調質圧延は適用されなかった。表3に述べられた機械的特性(本発明組成A)を表5に述べられたもの(特に参照組成C)と比較するとき、本発明の鋼におけるPの添加が引張強度レベルを維持しながら炭素含有量を500ppm減らすことができることが明らかになる。このC減少は溶接性をかなり改良するだろう(表2の0.25Cと0.20Cの差を参照)。
表7は組成E及びFの鋼標本へ幾つかの連続焼なましシミュレーションを適用した後に得られた機械的特性を含有する。表5及び7のデータ(特にBと比較したE)を見ると、引張強度は600ppm以上の炭素を有しかつ意図的に添加された燐を有しない参照組成と比較して本発明の組成の方がずっと高いことが明らかである。
【0057】
1.2 冷間圧延及び熱浸漬ガルバナイジングされた製品
処理工程は下記の通りである:
− 鋳造
− 1250℃で1時間再加熱する、
− オーステナイト領域において3.5mmの最終厚さに熱間圧延する、
− 600℃のコイル温度に水冷する、
− 1mmの最終厚さに冷間圧延する。
【0058】
前の処理工程後、圧延方向に平行な80mmゲージ長さを有する引張標本をシートから機械加工した。これらの標本を二工程熱サイクル後に二つの塩浴で熱処理した。臨界的領域において焼なまし後、試料は低温で塩浴で急冷され、恒温で保持された。温度及び保持時間は熱浸漬工程を含む処理工程を綿密にシミュレートするように適応された。機械的特性は表4に掲載され、本発明は極めて頑健な熱浸漬ガルバナイジングされたTRIP700製品に導くことを明らかに示す:広い範囲の工程パラメータ(IAT,IAt,BHT,BHt)は全て匹敵しうる機械的特性を有する製品を生じる。調質圧延は適用されなかった。表4に述べられた機械的特性(本発明組成A)を表6に述べられたもの(特に参照組成C)と比較するとき、本発明の鋼におけるPの添加が引張強度レベルを維持しながら炭素含有量を500ppm減らすことができることが明らかになる。このC減少は溶接性をかなり改良するだろう(表2参照)。
【0059】
表8は組成E及びFの鋼標本へ幾つかの熱浸漬ガルバナイジングシミュレーションを適用した後に得られた機械的特性を含有する。表6及び8のデータ(特にBと比較したE)を見ると、引張強度は600ppm以上の炭素を有しかつ意図的に添加された燐を有しない参照組成と比較して本発明の組成の方がずっと高いことが明らかである。
【0060】
【表1】

表1:Al−Si TRIP鋼の組成(ppm)
組成A,E,Fは本発明による組成であり、組成B,C及びDは参照組成である。
【0061】
【表2】

表2:AFNOR−A87001に従ったスポット溶接上の十字引張試験(cross−tensile test)において測定された最大力の平均
【0062】
【表3】

表3:本発明による冷間圧延及び連続焼なましされたP合金Al−Si TRIP鋼、組成Aの機械的特性
調質圧延は適用されなかった。厚さ1mm。
【0063】
【表4】

表4:本発明による冷間圧延及び熱浸漬ガルバナイジングされたP合金Al−Si TRIP鋼、組成Aの機械的特性
調質圧延は適用されなかった。厚さ1mm(BH=ベイナイト保持=亜鉛浴の通過前の保持)。
【0064】
【表5】

表5:冷間圧延及び連続焼なましされた参照Al−Si TRIP鋼(RD:圧延方向;TD:横断方向)
【0065】
【表6】

表6:熱浸漬ガルバナイジングされた参照Al−Si TRIP鋼の機械的特性(RD:圧延方向;TD:横断方向)
【0066】
【表7】

表7:本発明による冷間圧延及び連続焼なましされたP合金Al−Si TRIP鋼、組成E及びFの機械的特性
調質圧延は適用されなかった。厚さ1mm。
【0067】
【表8】

表8:本発明による冷間圧延及び熱浸漬ガルバナイジングされたP合金Al−Si TRIP鋼、組成E及びFの機械的特性
調質圧延は適用されなかった。厚さ1mm(BH=ベイナイト保持=亜鉛浴の通過前の保持)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆されていない、電気ガルバナイジングされた又は熱浸漬ガルバナイジングされたTRIP鋼製品の製造のために、冷間圧延工程を含む方法で使用されることを意図される鋼組成物であって、下記のものを含むことを特徴とする鋼組成物:
− C:1300ppm〜2600ppm
− Mn:10000ppm〜22000ppm
− Al:8000ppm〜15000ppm
− Si:2000ppm〜6000ppm
− P:400ppm〜1000ppm
− S:最大120ppm
− N:最大200ppm
− Ti:最大1000ppm
− Nb:最大1000ppm
− V:最大1000ppm
− B:最大10ppm
残りは実質的に鉄及び付随的な不純物である。
【請求項2】
1300ppm〜1900ppmの炭素を含むことを特徴とする請求項1に記載の鋼組成物。
【請求項3】
1350ppm〜1900ppmの炭素を含むことを特徴とする請求項2に記載の鋼組成物。
【請求項4】
1400ppm〜1900ppmの炭素を含むことを特徴とする請求項2に記載の鋼組成物。
【請求項5】
1700ppm〜2300ppmの炭素を含むことを特徴とする請求項1に記載の鋼組成物。
【請求項6】
2000ppm〜2600ppmの炭素を含むことを特徴とする請求項1に記載の鋼組成物。
【請求項7】
下記のものを含むことを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の鋼組成物:
− Mn:13000ppm〜22000ppm
− Al:8000ppm〜14000ppm
− Si:2500ppm〜4500ppm
− P:600ppm〜1000ppm
− S:最大120ppm
− N:最大150ppm
− Ti:最大200ppm
− Nb:最大100ppm
− V:最大100ppm
− B:最大5ppm
【請求項8】
9000〜13000ppmのアルミニウムを含むことを特徴とする請求項7に記載の鋼組成物。
【請求項9】
下記工程を含むことを特徴とする冷間圧延TRIP鋼製品の製造方法:
− 請求項1〜8のいずれかに記載の組成を有する鋼スラブを作る;
− 前記スラブを熱間圧延して熱間圧延された基体を形成する、但し仕上げ圧延温度はAr3温度より高い;
− 前記基体を500℃〜680℃のコイル温度(CT)に冷却する;
− 前記基体を前記コイル温度でコイルする;
− 前記基体を酸洗いして酸化物を除去する;
− 前記基体を冷間圧延して40%の最小減少を有する厚さの減少を得る。
【請求項10】
下記工程をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の方法:
− 760℃〜850℃の温度で前記基体をソーキングする;
− 360℃〜450℃の範囲の温度に2℃/秒より高い冷却速度で前記基体を冷却する;
− 700秒より短い時間、前記温度範囲で前記基体を保持する;
− 1℃/秒より高い冷却速度で室温に前記基体を冷却する;
− 前記基体を最大1.5%のスキンパス減少に供する。
【請求項11】
電気亜鉛被覆工程をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
下記工程をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の方法:
− 760℃〜850℃の温度で前記基体をソーキングする;
− Zn浴の温度に2℃/秒より高い冷却速度で前記基体を冷却する;
− 200秒より短い時間、490℃〜460℃の温度範囲で前記基体を保持する;
− 前記Zn浴に前記基体を熱浸漬ガルバナイジングする;
− 2℃/秒より高い冷却速度で室温に前記基体を冷却する。
【請求項13】
前記基体を最大1.5%のスキンパス減少に供する工程をさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
30〜75%のフェライト、10〜40%のベイナイト、0〜20%の保持されたオーステナイト、及び所望により0〜10%のマルテンサイトを含むミクロ組織を有することを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の方法に従って製造された鋼製品。
【請求項15】
1300ppm〜1900ppmの炭素を含む請求項10〜13のいずれかに記載の方法に従って製造された鋼製品であって、320MPa〜480MPaの降伏強度、590MPa以上の引張強度、26%より高い伸びA80、及び0.2より高い、10%と均一な伸びの間で計算された歪硬化係数を有することを特徴とする鋼製品。
【請求項16】
1700〜2300ppmの炭素を含む請求項10〜13のいずれかに記載の方法に従って製造された鋼製品であって、350MPa〜510MPaの降伏強度、700MPa以上の引張強度、24%より高い伸びA80、及び0.19より高い、10%と均一な伸びの間で計算される歪硬化係数を有することを特徴とする鋼製品。
【請求項17】
2000〜2600ppmの炭素を含む請求項10〜13のいずれかに記載の方法に従って製造された鋼製品であって、400MPa〜600MPaの降伏強度、780MPa以上の引張強度、22%より高い伸びA80、及び0.18より高い、10%と均一な伸びの間で計算される歪硬化係数を有することを特徴とする鋼製品。
【請求項18】
2000〜2600ppmの炭素を含む請求項10〜13のいずれかに記載の方法に従って製造された鋼製品であって、450MPa〜700MPaの降伏強度、980MPa以上の引張強度、18%より高い伸びA80、及び0.14より高い、10%と均一な伸びの間で計算される歪硬化係数を有することを特徴とする鋼製品。
【請求項19】
縦及び横方向の両方で40MPaより高いベーク硬化BH2を有することを特徴とする請求項14〜18のいずれかに記載の鋼製品。

【公開番号】特開2011−231406(P2011−231406A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125041(P2011−125041)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【分割の表示】特願2004−560925(P2004−560925)の分割
【原出願日】平成15年11月6日(2003.11.6)
【出願人】(591000986)アルセロールミタル フランス (9)
【氏名又は名称原語表記】ArcelorMittal France
【Fターム(参考)】