説明

凍結しないDNAリガーゼ反応組成物

【課題】本発明の目的は、添加剤を検討し、−30℃保存で少なくとも一週間凍結しないリガーゼ組成物、および使用方法を提供することである。また、それらを含有する試薬・キットおよび製造法を提供することである。
【解決手段】−30℃保存で少なくとも1週間凍結しない、DNAリガーゼ反応組成物であって、好ましくはベタイン及びグリセロールを含有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その組成物が−30℃で少なくとも一週間凍結しないという性質を有する、DNAの相補末端を連結するための新規DNAリガーゼ反応組成物に関する。さらには、本組成物を含有する試薬・キットにも関する。
【背景技術】
【0002】
DNAリガーゼは、隣接したDNAの5’側のリン酸基と3’側の水酸基をホスホジエステル結合によって連結する酵素であり、様々な生物由来のものが知られている。その中でも、分子生物学実験で頻繁に用いられているのが、T4バクテリオファージに由来する「T4 DNAリガーゼ(E.C.6.5.1.1)」である。この酵素は、反応にMgイオンとATPを要求し、平滑末端、及び突出末端の2本鎖DNAの連結や、2本鎖DNAのニック部分の修復に働くことが知られている。この他にも大腸菌に由来するE. coli DNA リガーゼや好熱性菌由来のDNAリガーゼなども頻繁に使用されている。
【0003】
T4 DNA リガーゼとE. Coli DNAリガーゼが主に分子生物学実験におけるDNAの連結反応に使用される一方、好熱性菌由来のDNAリガーゼは、リガーゼチェインリアクション法などの診断用途に用いられることが多い。
【0004】
近年、様々な分子生物学用試薬やキットが販売されるに至っている。その中、リガーゼ試薬も様々な工夫がなされてきている。特に、DNA以外の反応に必要な全ての成分を含んだ組成物(DNAリガーゼ反応組成物)、すなわち1液タイプのリガーゼ試薬が世に出て久しい。1液タイプのリガーゼ試薬は、一般的には連結したいDNAを含むDNA溶液と2:1〜1:0.5の比率で混合してライゲーション反応を行う。しかし、現在販売されているそれらの試薬は、保存安定性のことを考えて凍結状態(通常−20℃〜−30℃)で供給され、使用直前に融解して使用する煩雑さがある。また、リガーゼは凍結融解には強いが、凍結融解を繰り返すうちに、徐々に活性が低くなってしまう試薬も見られるようである。本発明において、1液タイプ、かつ−30℃の保存でも凍結しないライゲーション試薬の検討を行った理由は、ここにある。
【0005】
DNAリガーゼ試薬には、反応バッファーと酵素が別々に供給される場合もあり、そのときDNAリガーゼは50%グリセロールなどを含む保存液で供給され、その時のDNAリガーゼ溶液は−20℃〜−30℃で凍結しないが、本発明はそのような現象を意図しているのではない。本発明においては、DNA成分以外のライゲーションに必要な成分をすべて含むDNAリガーゼ反応組成物が凍結しないことが重要である。
【0006】
凍結しない状況を作り出すためには、添加剤等を工夫することが考えられるが、反応を阻害しないという条件を満たす必要がある。そこで文献調査により、添加剤開発を調査した。分子生物学実験におけるT4 DNA リガーゼの使用の歴史は古く、1970年代まで遡ることができる。また、添加剤の検討も種々行われており、歴史は古い。以下に例を列挙する。
【0007】
特許文献1には、ポリエチレングリコールなどの体積排除効果があり、かつDNAと相互作用しないポリマーを、ライゲーション反応に添加することによる反応促進効果が記載されている。しかし、この組成を用いて調製したDNAリガーゼ組成物は冷蔵庫での−30℃〜−30℃での保存中に容易に凍結してしまう。
【特許文献1】US4582802
【0008】
また、特許文献2には、(A)ポリエチレングリコール、(B)ポリアミン、一価カチオン及び二価カチオンから成る群から選択した少なくとも1種のもの、が添加剤として挙げられており、(A)と(B)をリガーゼと共存させることにより、反応効率を格段に向上させることができることが記載されている。しかし、この組成を用いても、−20℃〜−30℃での保存中に凍結してしまうことが我々の実験から分かっていた。
【特許文献2】特開昭62−36187
【0009】
さらに、特許文献3には、ベタインを添加することによるTAクローニングの効率の向上の効果が記載されている。TAクローニングとは、Taq DNA ポリメラーゼなどを使用したPCR(Polymerase chain reaction)での増幅DNA断片の3’末端にアデニン(dA)が一塩基付加されることを利用するクローニング方法である。この一塩基付加は、Taq DNA ポリメラーゼなどが有する、Terminal deoxynucleotidyl transferase(TdT)活性による。通常3’端にチミン(dT)の一塩基突出を有するベクター(通常Tベクターと呼ばれる)とPCRプロダクトを混合し、リガーゼを反応させことによって行うことにより、ベクターとDNA断片を連結させる。本方法は、従来の制限酵素付着末端や、平滑末端を利用する方法にくらべ、迅速で簡便であるという利点があり、従来の方法に加えて頻繁に利用される方法のひとつとなっている。この方法は付着末端を用いる方法のカテゴリーに分類されるが、手法的には特許文献1及び2の時代にはなかった方法である。
この発明に用いられているベタインの高濃度溶液は、−20℃〜−30℃での保存で凍結しにくいことが分かっている。しかし、その凍結しにくい濃度は4M以上と、かなり飽和濃度に近く、現実的な濃度とはいえない。実際に、その濃度でDNAリガーゼ反応組成物を調製した場合、ライゲーション反応が阻害されてしまうことが我々の検討で明らかになっている。
【特許文献3】特開2006−25637
【0010】
上記をまとめると、様々な添加剤の検討を行われてきたが、ほとんどが使用時に添加するものであり、かつライゲーションの効率を向上させる目的で検討されているようである。また、それらを添加した状態でのライゲーション効率や液の形状(凍結するか否か)については、ほとんど検討されていない。また、我々の事前の調査から、上記発明を用いても−20℃〜−30℃保存で凍結せず、かつ実際の1液タイプのライゲーション試薬として使用できる発明は皆無であると考えられた。
【0011】
よって、本発明においては、様々な添加剤を加えたリガーゼ組成物(DNA成分のみ添加せず)を調製し、−30℃保存で凍結するか否かに加え、反応効率についても検討をおこなった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、添加剤を検討し、−30℃保存で少なくとも一週間凍結しないリガーゼ組成物、および使用方法を提供することである。また、それらを含有する試薬・キットおよび製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
今まで様々なライゲーションの効率化方法や1液試薬の検討がなされてきたが、上でも述べたように、ライゲーション組成物の保存方法や液状形状(すなわちマイナス温度で液状を保つ)についての検討は皆無であるといえる。
【0014】
よって、本発明においては、様々な添加剤を用いて、液の形状とDNAの連結効率について評価を行った。今回、主に−30℃で凍結しない性質について調べたが、これは一般手Kに用いられている−20℃のフリーザーでの長期保存を念頭においたためである。
【0015】
様々な条件を検討した結果、ベタインとグリセロールを共存させることで、少なくとも−30℃で一週間凍結せず、かつ効率を保つ組成を見出すことができた。
【0016】
本発明は以下の構成からなる。
[項1]−30℃保存で少なくとも1週間凍結しない、DNAリガーゼ反応組成物
[項2]ベタイン及びグリセロールを含有する、項1に記載のDNAリガーゼ反応組成物
[項3]2M以上のベタイン及び5%(V/V)以上のグリセロールを含有する、項2に記載のDNAリガーゼ反応組成物
[項4]項1に記載の組成物を用いてリガーゼ反応を行う、ライゲーション反応方法。
[項5]項1に記載の組成物を含有する試薬および/またはキット。
[項6]項1に記載の組成物を1液で供給することを特徴とする、試薬および/またはキット。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、リガーゼ活性を低下させない温度(すなわち−20℃〜−30℃保存)で凍結しない1液タイプのDNAリガーゼ反応組成物を供給できるようになる。使用に当たっての煩雑性を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、−30℃保存で少なくとも1週間凍結しないことを特徴とする、DNAリガーゼ反応組成物である。ここでいうリガーゼ反応組成物とは、DNA成分のみを含まない、リガーゼ反応に必要な成分を含む組成物を指す。
【0019】
DNAリガーゼ反応組成物の保存容器としては、特に限定されないが、一般的に用いられるプラスチック製のチューブやボトル類が好ましく用いられる。更に好ましくは、ポリプロピレン製のチューブやボトル類が用いられる。実際に、本発明においては、ポリプロピレン製の1.5mlマイクロチューブを用いて検討を行った。
【0020】
本発明におけるDNAリガーゼ反応組成物は、ベタイン及びグリセロールを含有する。グリセロールは、別名グリセリン。ベタインはトリメチルグリシンを指す。本発明は、好ましくは、2M以上のベタイン及び5%(V/V)以上のグリセロールをDNAリガーゼ反応組成物である。さらに好ましくは、2〜2.5Mベタイン、5〜10%(V/V)グリセロールが用いられる。
【0021】
ここで言うDNAリガーゼ反応組成物は、連結させたいDNA溶液と任意の比率で混合して連結反応(ライゲーション反応)を起こさせる組成物を指し、その組成物は1液から校正される。その混合比率は特に限定されないが、DNA:組成物比が、1:4〜1:0.5の間で用いられることが好ましく、さらに好ましくは、1:2〜1:0.5で用いられる。よって、実際の反応を行う溶液中でのベタインやグリセロールの濃度は混合比率によって変化する。例えば、2Mベタインを含む反応組成物を1:1の混合比率でDNA溶液と混合した場合、反応時のベタイン濃度は1Mとなる。0.5:1の場合は、0.33Mとなる。
【0022】
本発明においてDNAリガーゼの種類は、特に限定されるものではないが、好ましくはT4ファージ由来のT4 DNA リガーゼを用いる。この酵素は、ファージを感染させた大腸菌の破砕物から調製したものや、T4ファージのリガーゼ遺伝子を大腸菌に組み換えて発現させ、その破砕物から調製されたものなど様々なものを用いることができる。特に、DNA分解酵素などの混入の少ない高純度の高度を用いることが重要である。
【0023】
本発明における-30℃でのDNAリガーゼ反応組成物の保存方法は一般的な研究室でしようされているフリーザーを用いることができる。本発明においては、三洋電機社製のフリーザー(BIOMEDICAL FREEZER MDF−U537(商標))を−30℃に設定して用いたが、同等の性能を示すフリーザーであれば特に限定されない。凍結試験時には極力温度変化を少なくするために、ドアの開閉を極力少なくする必要があり、必要に応じて温度を定期的にモニターしても良い。また、冷気の噴出し口やファンの近くは設定温度よりも温度が低下する可能性があり、正確な評価ができないので、気をつける。
【0024】
本組成物に含まれる成分は、ライゲーション反応の必須成分、バッファー・塩成分に加えて、様々な添加剤を加えてよい。必須成分としては、DNAリガーゼ、ATP、及びマグネシウム、バッファー・塩成分としては、バッファー、塩化ナトリウムなどの塩、及び還元剤などを挙げることができるが、限定されるものではない。
【0025】
本発明においてDNAリガーゼの種類は、特に限定されるものではないが、好ましくはT4ファージ由来のT4 DNA リガーゼを用いる。この酵素は、ファージを感染させた大腸菌の破砕物から調製したものや、T4ファージのリガーゼ遺伝子を大腸菌に組み換えて発現させ、その破砕物から調製されたものなど様々なものを用いることができるが、高度に精製された高純度のものを用いることが重要である。特に、DNA分解酵素などの混入の少ないものを用いることが重要である。
【0026】
本発明に用いられるATP(アデノシン5’−三リン酸)は、アデノシンのリボースの5’位の水酸基にリン酸が3分子連続して結合したヌクレオチドのことを指す。ATPの濃度としては、反応時の濃度として、0.01〜0.2mMが好ましく用いられる。最も好ましくは、0.02〜0.1mMが好適に用いられる。
【0027】
本発明に用いられるマグネシウムは、様々な塩を用いることができ、特に限定されない。好ましくは、塩化マグネシウムを用いる。塩化マグネシウムの濃度は、反応時の濃度として、1〜10mMが好ましく用いられる。最も好ましくは、2〜4mMが好適に用いられる。
【0028】
緩衝液成分はpHを至適条件に保つのに重要である。T4 DNA リガーゼの反応は、pH7.5前後が最も至適とされており、pH7.5前後のpHを保つことのできるバッファー成分を含むことが好ましい。バッファーとしては特に限定されるものではないが、トリス緩衝液やHEPES緩衝液が好適に用いられる。特に、トリス−塩酸緩衝液が最も好ましい。緩衝液の濃度は、反応時の濃度として、10〜100mMが好適に用いられるが、20〜50mMが用いられる。
【0029】
塩成分としては、塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの一般的なアルカリ土類金属の塩を用いることができる。特に、塩化ナトリウムが好適に用いることができる。塩化ナトリウムの濃度は、反応時の濃度として、10〜100mMが好適に用いられ、特に、好ましくは20〜50mMが用いられる。
【0030】
還元剤成分としては、2−メルカプトエタノールやジチオスレイトール(DTT)など、一般的に生化学実験で用いられている還元成分を用いることができ、特に限定されない。特に好ましくは、還元維持能力の高いDTTが用いられる。DTTの濃度は、反応時の濃度として、0.5〜10mMが好適に用いられる。特に好ましくは、1〜5mMが用いられる。
【0031】
本発明における添加剤としては、ポリエチレングリコール、スペルミジン、ベタイン、及びグリセロールなどを挙げることができるが、限定されるものではない。上で述べたようにポリエチレングリコール、スペルミジン、ベタインは、ライゲーション反応の効率を向上させることのできる成分である。
【0032】
本発明におけるポリエチレングリコールは、様々な分子量のものを使用することができるが、好ましくは分子量が200−20,000、好ましくは5,000−10,000、最も好ましくは6,000を用いる。ポリエチレングリコールの濃度は、反応時の濃度として、0.5〜3%(W/V)が好ましく用いられる。最も好ましくは0.75〜1.5%の濃度で使用するのが良い。
【0033】
本発明におけるスペルミジンは、ポリアミンの一種であり、様々な由来のものが販売されているが起源は特に限定されない。スペルミジンの濃度は、反応時の濃度として、0.1〜10mMが好ましく用いられる。最も好ましくは、0.5〜2mMで使用するのが良い。
【0034】
本発明におけるベタインは、具体的にはトリメチルグリシンを指す。この分子は、グリシンのアミノ基にメチル基が3つ結合した構造を持つ。ベタインの濃度としては、反応時の濃度として、0.1〜1.5Mが好ましく用いられる。最も好ましくは、0.5〜1.25Mが好適に用いられる。さらにベタインは、ライゲーション反応組成物の凍結を妨げる成分であり、反応組成物中で2.5〜3Mの濃度で用いることが好ましい。
【0035】
また本特許は、上記組成物を用いてリガーゼ反応を行うことを特徴とする、ライゲーション反応方法をも含むものである。
【0036】
具体的には、上記組成物に連結させたいDNA断片を混合し、反応させる。DNA断片は、基本的には2本鎖であり、末端が相補的である必要がある。様々なパターンの連結反応が予想されるが、大きく分けると、突出末端を有するDNA同士、及び平滑末端を有するDNA同士の連結が考えられる。突出末端には、5’側のDNA鎖の突出したものと、3’側のDNA鎖の突出したものの2種類が考えられる。それらの多くは、制限酵素によって作り出される末端である。一方、平滑末端を有する断片は、末端の配列に関わらず連結することが可能である。
【0037】
また、DNAポリメラーゼの作用により作り出される、3’末端にアデニンが一塩基基突出したDNA断片を、3’側にチミンが一塩基基突出したベクター(Tベクター)に連結するクローニング方法(TAクローニング)が近年盛んに行われるようになっている。この方法にも本発明を用いることができる。
【0038】
上でも述べたが、リガーゼによる連結反応が生じるには、DNAの5’側の末端がリン酸化されている必要がある。2本鎖の連結が連結されるには、最低片方の鎖が連結される必要がある(片方のみが連結された場合は、もう片方は連結されないが、DNA断片としては連結されたことになる)。少なくとも片方のDNA断片の5’末端がリン酸化されていることが、2本鎖DNAの連結反応には必要である。多くの場合、片方だけが連結されたDNAは、大腸菌などへ導入すると、大腸菌の修復機構で連結されることが知られている。
【0039】
本発明は、上記組成物を含有する試薬・キットにも関する。
【0040】
また、本発明の実施の一態様としては、DNA以外のライゲーション反応に必要な上述の成分を含む1液のライゲーション試薬を挙げることができる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例を挙げることにより、本発明による効果をより一層明瞭なものとする。ただし、これらの実施例によって本発明の範囲は限定されるものではない。
【0042】
実施例1:添加剤の効果の検討(TAクローニングによる評価)
50mM Tris−HCl(pH7.5)、8mM 塩化マグネシウム(ナカライテスク製)、0.1mM ATP(東洋紡製)、4mM DTT(ナカライテスク製)、100mM NaCl(ナカライテスク製)、2.5%(W/V)PEG6,000、1mM スペルミジン、0.1U/μl T4 DNA リガーゼ(東洋紡製)からなる基本組成に、表1に示す様々な添加剤を添加したDNAリガーゼ反応組成物を調製した。調製したDNAリガーゼ組成物(200μl)を−30℃に設定した冷凍庫(三洋電機社製BIOMEDICAL FREEZER MDF−U537(商標))で1ヶ月保存した後、以下の方法を用いてTAクローニング効率の評価を行った。DNAリガーゼ反応組成物の保存は、ポリプロピレン製の1.5mlマイクロチューブ(エッペンドルフ社製)を用いた。また同時に、保存期間中の各組成物の、凍結の有無についての確認を行った。
TAクローニングする挿入DNAはPCR法を用いて調製した。具体的には、2種類のプライマー(5’−GAT−GAG−TTC−GTG−TCC−GTA−CAA−CT−3’、および:5’−GGT−TAT−CGA−AAT−CAG−CCA−CAG−CGC−C−3’)を使用し、λファージDNA(東洋紡製)を鋳型として、rTaq DNA polymeraseを用いて増幅し、約0.5kbのDNA断片を準備した(Taq DNA polymeraseを用いて増幅したDNA断片の3’末端には、主にアデニンが一塩基付加されている)。増幅反応は、rTaq DNA polymeraseの取扱い説明書に従い、増幅後、1%アガロースゲルを用いた電気泳動解析でバンドが生じていることを確認した。増幅したDNA断片は、精製キット(MagExtractor −PCR & Gel Clean up−:東洋紡製)を用いて精製し、濃度測定の後、使用した。
一方、クローニングベクターは、TAクローニングキット(TArget Clone:東洋紡製)に添付されているTベクター(pTA2)を用いた。
ライゲーションは、以下のように実施した。上記DNA断片(75 fmol)とベクター(25 fmol)を溶解した7.5μlの溶液に、上記リガーゼ反応組成物7.5μlを添加し、16℃で30分間反応させ実施した。
評価は、連結産物でDH5αを形質転換し、生じてくるコロニー数で評価を行った。今回用いたpTA2ベクターは、目的DNAが挿入された場合、X−Galを含むLB寒天培地上で白いコロニーを形成し、目的DNAが挿入されなかった場合は青いコロニーを形成する性質を有している。
形質転換は、具体的には、以下のように実施した。すなわち、連結反応の終了したベクター溶液10μlを大腸菌DH5αコンピテントセル(東洋紡製)100μlと混和後、氷上に30分間放置した後、42℃で30秒間ヒートショックを行い、その一部を、50μg/mlアンピシリン(ナカライテスク製)、及び0.25%X−Gal(5−Bromo−4−chloro−3−indolyl−β−D−galactosidase:ナカライテスク製)を含むLB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養した後、生じたコロニー数をカウントした。結果を表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
結果、基本組成に加えて、3Mベタイン、2.5Mベタイン+5%(V/V)グリセロール、及び2.5Mベタイン+10%(V/V)グリセロールを添加剤として添加した組成物は、−30℃で少なくとも一週間凍結せず、かつ高効率でTAクローニング可能であることが明らかとなった。
3Mベタインは、−30℃で1ヶ月では凍結した。
一方、酵素の保存などでよく用いられる50%グリセロールは、凍結しないがリガーゼ反応を阻害することが分かった。
また、2.5Mベタイン+5%グリセロール、及び2.5Mベタイン+10%グリセロールを添加したリガーゼ組成物は、−30℃・1ヶ月の保存でも凍結しないことが分かり、試薬としてより有望であることが明らかとなった。
上の検討では、DNA溶液7.5μlに対して、リガーゼ組成物を等量の7.5μl添加して行ったが、半量の3.75μlを用いてもほぼ同等のクローニング効率が得られることも確認した。
また、本実施例では示さなかったが、制限酵素Hind IIIの切断によって生じる突出末端を用いたライゲーション実験、及びHinc IIによる切断によって生じる平滑末端を用いたライゲーション実験においても実証実験を行っており、高い効率を示すことを確かめている。
【産業上の利用可能性】
【0045】
分子生物学実験に用いられるライゲーション試薬・キットに好適に用いられる。特に、1液タイプの高効率ライゲーション試薬・キットは幅広く実験に用いられているものであり、本技術を用いることにより利便性の向上は、産業上の大きな進歩であると考えられる。また、臨床用途などについても好適に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
−30℃保存で少なくとも1週間凍結しない、DNAリガーゼ反応組成物
【請求項2】
ベタイン及びグリセロールを含有する、請求項1に記載のDNAリガーゼ反応組成物
【請求項3】
2M以上のベタイン及び5%(V/V)以上のグリセロールを含有する、請求項2に記載のDNAリガーゼ反応組成物
【請求項4】
請求項1に記載の組成物を用いてリガーゼ反応を行う、ライゲーション反応方法。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物を含有する試薬および/またはキット。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物を1液で供給することを特徴とする、試薬および/またはキット。


【公開番号】特開2008−271834(P2008−271834A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118426(P2007−118426)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】