説明

凍結乾燥有用菌末の減少抑制剤及び凍結乾燥有用菌末の減少抑制方法。

【課題】
医薬品、飲食品、飼料に適用することが可能であって、凍結乾燥有用菌末に添加するだけで凍結乾燥有用菌末の減少を抑制することができる凍結乾燥有用菌末減少抑制剤を提供すること、及び凍結乾燥有用菌末の減少を抑制する保存方法を提供すること。
【解決手段】
テアニンを有効成分として含有する凍結乾燥有用菌末の減少抑制剤、及び凍結乾燥有用菌末にテアニンを添加し、混合し、保存することを特徴とする凍結乾燥有用菌末の減少を抑制する保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テアニンを有効成分として含有する凍結乾燥有用菌末の減少抑制剤及び凍結乾燥有用菌末の減少抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凍結乾燥有用菌末とは、有用細菌の生菌あるいは有用細菌の生菌を培養したものを凍結乾燥したものである。細菌類は、保存安定性を高めるために水分含量(水分活性)を低くして保存することが多い。そこで、水分含量を低減する方法としてよく用いられているのが、凍結乾燥法である。
【0003】
凍結乾燥は、例えば次の通りに行うことができる。すなわち、所望の菌種を常法により大量培養し、培養液から分離した菌に必要に応じて各種の糖類、アミノ酸、デンプン、ゼラチン、脱脂粉乳等の保護作用を有する分散媒を添加し、凍結乾燥し、乾燥菌末を調製する。
【0004】
なお、有用細菌とは、一般的に、人間や動物の健康や体調維持に重要な役割を果たすものを指し、ビフィズス菌、乳酸菌、糖化菌、納豆菌、酪酸菌、酵母菌、枯草菌等が含まれる。
【0005】
有用細菌の中には、プロバイオティクスが含まれる。本明細書におけるプロバイオティクスは、Fullerの定義、「腸内細菌叢のバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える生きた菌体」の条件を満たす細菌を指す(Fuller R.: Journal of Applied Bacteriology,66: 365-378,1989)。プロバイオティクスには、ビフィズス菌、乳酸菌、糖化菌、納豆菌、酪酸菌、酵母菌等の細菌が含まれるが、ビフィズス菌や乳酸菌を特に好ましい態様としている。
【0006】
ビフィズス菌は、人や動物の体内に生息する有用な腸内細菌として広く一般に知られており、その生理学的意義については多数の報告がある。例えば、腸内において乳酸、酢酸等の有機酸を生産して有害菌の増殖を抑制する作用や、ビタミンの産生作用、免疫賦活作用等が明らかになっている。また、健康の維持促進を目的として、ビフィズス菌を含有するヨ−グルト等の乳製品、飲料類、打錠食品、菓子類等が開発されている(例えば、非特許文献1)。
【0007】
乳酸菌は、食品の風味、組織、栄養価の改善または保存性付与等の目的からチ−ズ、ヨ−グルト、発酵バタ−等の乳製品、発酵サラミ・ソ−セ−ジ等の畜肉製品、あるいはパンのスタ−タ−としても利用されている。また、日本の伝統食品であるみそ、しょうゆ、漬物等の製造においても乳酸菌は重要な役割を果たしている。その他、乳酸菌の生理的効果として、生きた乳酸菌の接種による腸内菌叢の改善効果または整腸作用等が明らかとなっており、医薬品として乳酸菌製剤も開発されている。
【0008】
このように有用細菌の用途は多岐に渡っており、有用細菌を培養等により増殖促進し、効能・効果を最大限に発揮させることは極めて重要である。
【0009】
ビフィズス菌の増殖促進効果を有する組成物や方法については多数の報告がある。例えば、牛ラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とするビフィズス菌増殖促進組成物が開示されている(特許文献1)。また、茶から抽出可能なビフィズス菌増殖促進剤及びその製造方法が開示されている(特許文献2)。
【0010】
あるいは、飲食品中のビフィズス菌の生残性改善のために、エリスリトールをビフィズス菌の培地または培養物に添加することを特徴とするビフィズス菌の生残性改善方法が開示されている(特許文献3)。ここで、本明細書における「生残性」は、有用細菌の生菌数が保存期間を経過した後であっても生菌として生き残る性質を示す。また、保存期間開始時点の生菌数に対する保存期間経過後に生き残った生菌数の百分率を「生残率」という。なお、「生残率」は「生存率」と言い換えることができる。
【0011】
乳酸菌の増殖促進効果を有する物質としては、シス−バクセン酸という脂肪酸を有効成分とする乳酸菌増殖剤が開示されている(特許文献4)。また、乳酸菌の死菌体を有効成分とすることを特徴とする乳酸菌の増殖促進剤及び生残性向上剤が開示されている(特許文献5)。
このように、有用細菌の増殖促進物質や増殖促進方法に関しては鋭意研究されている。
【0012】
一方、有用細菌には熱や光に弱いものが多く、液状で長期間保存することが困難であるため、有用細菌を保存する場合は凍結乾燥後に保存することが多い。この場合は凍結乾燥工程、及び凍結乾燥品の保存工程における生残率の減少が問題となる。
【0013】
また、有用細菌の凍結乾燥菌末は、一般に生菌数の規格をクリアすることが使用の条件である。そのため、菌数の減少抑制が可能になれば、凍結乾燥菌末の製造効率が向上し、賞味期限の延長等が可能である。
【0014】
乳酸菌やビフィズス菌を始めとする有用細菌の凍結乾燥菌体は、特定の温度で長期間放置すると、自然に劣化して生菌数が減少するという問題を有していた。
【0015】
有用細菌の生残率に関しては、ビフィズス菌を凍結乾燥する際、あるいは凍結乾燥後の生菌の生残率を向上させる方法として、イヌリン型フルクタンを有効成分として含有する凍害保護剤及びイヌリン型フルクタンを用いた凍結保存方法が開示されている(特許文献6)。この方法では、イヌリン型フルクタンを希釈液中の凍害保護剤として使用することにより、凍結保存時や凍結乾燥時においてもビフィズス菌の死滅が抑制されることが知られている。
しかし、この方法では、凍害保護剤をビフィズス菌の凍結乾燥前に添加する必要があった。
【0016】
【特許文献1】特公平7−79684
【特許文献2】特開平5−276937
【特許文献3】特開平6−253734
【特許文献4】特開2006−262778
【特許文献5】特開2008−5811
【特許文献6】特開平7−99965
【非特許文献1】「ビフィズス菌の研究」、光岡知足編著、財団法人日本ビフィズス菌センター、1994年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、凍結乾燥有用菌末に添加するだけで凍結乾燥有用菌末における生菌数の減少を抑制することが可能な凍結乾燥有用菌末減少抑制剤を提供することを課題としている。
また、本発明は、凍結乾燥有用菌末の減少抑制方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決する本願第一の発明は、テアニンを有効成分として含有する凍結乾燥有用菌末の減少抑制剤である。
【0019】
前記課題を解決する本願第二の発明は、凍結乾燥有用菌末にテアニンを添加し、混合し、保存することを特徴とする凍結乾燥有用菌末の減少抑制方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により奏される効果は以下の通りである。
(1)凍結乾燥有用菌末の保存時等、菌末が増殖不可能な環境での保存性が向上するため、菌末を配合する製品の品質向上に寄与する。
(2)テアニンはお茶に含まれる成分であり、食品添加物であることから極めて安全に使用することができる。
(3)テアニンはお茶等の比較的安価な原料から得られるため、大量生産が可能である。また、飲食品、医薬品、飼料にも適用できることから、汎用性の高い凍結乾燥有用菌末減少抑制剤を提供できる。
(4)凍結乾燥有用菌末とテアニンを混合するだけで菌末の保護効果が得られるため、簡便な方法として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。なお、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0022】
[凍結乾燥有用菌末減少抑制剤]
本発明における凍結乾燥有用菌末減少抑制剤は、凍結乾燥菌末の生菌数の減少を抑制することができる。
【0023】
具体的には、本発明の減少抑制剤は、凍結乾燥有用菌末の保存期間での生菌数の減少または死滅を抑制し、保存期間中の菌末を生菌として保持することができる。実際は、保存期間中の細菌は仮死状態であるが、これらの細菌を仮死状態のまま維持する。すなわち、仮死状態の細菌は、保存期間終了後に培養することにより、再び生菌を得ることができる。
【0024】
本発明の凍結乾燥有用菌末減少抑制剤の効果は、例えば、加速試験と呼ばれるような45℃、1週間の保存試験における生残率によって確認することができる。なお、45℃で試験を行うことによって、試験結果を早期に確認することが可能である。この保存試験において、生残率は次の式で表すことができる。
【0025】
『生残率(%)=(保存期間終了後の生菌数/保存開始時点の生菌数)×100』
【0026】
本発明において「減少抑制」とは、菌末の生菌数の減少を抑制するものをいう。例えば45℃、1週間の保存期間における生残率が65%〜100%であれば、好ましい減少抑制効果であるということができる。本発明の減少抑制の指標である生残率は、70%〜100%であることが好ましく、75%〜100%であることがより好ましく、80%〜100%であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明の「減少抑制」の効果は、別の指標によっても確認することができる。
すなわち、本発明の凍結乾燥有用菌末減少抑制剤を添加、混合した凍結乾燥有用菌末と、同じ凍結乾燥有用菌末単品の2種類を同時に保存したときの生残率を比較する方法である。本発明の凍結乾燥有用菌末減少抑制剤を添加、混合した有用菌末の生残率が、有用菌末単独の菌末の生残率を上回っていれば、好ましい減少抑制効果であるということができる。
【0028】
ここで、凍結乾燥菌末の状態では菌末中の生菌は増殖できない仮死状態であることが知られている。
よって、本発明における凍結乾燥有用菌末の生菌数の減少を抑制し、生菌を仮死状態のままで維持するという効果は、培養等によって有用細菌の生菌数を増加させる増殖促進効果とは異質なものである。
【0029】
[テアニン]
テアニンは、茶葉に含まれるグルタミン酸誘導体であり、茶の旨みの主成分である。また、テアニンは食品添加物に登録されている安全な物質として知られる。
【0030】
テアニンの製造法には、有機合成法(ケム.ファーム.ブル.(Chem.Pharm.Bull.)1971年、第19巻、第7号、第1301−1307頁)、発酵法(特開平5−68578号、特開平5−328986号)、ピログルタミン酸をエチルアミン塩酸塩と反応させる方法(特開平9−263573)、植物細胞培養(特開平5−123166)、茶葉より抽出する方法等が挙げられるが、市販品を購入することもできる。ここで、茶葉とは、緑茶、ウーロン茶、紅茶等の茶(カメリア・シネンシス)を起源とする各種のお茶である。
【0031】
本発明に使用されるテアニンは、L−テアニンの他、光学異性体のD−テアニン、DL−テアニンのいずれでもよく、これらの混合物であってもよい。中でも、食品添加物として使用可能なL−テアニンが好ましい。テアニンは精製品、粗精製品の粉末が好適に用いられる。また、テアニンを他の成分と併せて使用することもできる。
【0032】
テアニンの純度は50%〜100%であることが好ましく、テアニン以外の成分の混入を抑制できることから、90%〜100%がさらに好ましい。
【0033】
凍結乾燥有用菌末とテアニンを混合する際、凍結乾燥有用菌末の減少抑制のために必要なテアニンの添加量(有効量)は、凍結乾燥後の有用菌末に対し、質量比で0.1〜0.35の範囲で添加されることが好ましく、0.15〜0.35の範囲で添加されることがさらに好ましい。
【0034】
本発明において、菌末の原料となる有用細菌の中ではプロバイオティクスが好ましい。
プロバイオティクスの中では、ビフィズス菌及び乳酸菌が好ましい。
【0035】
〔ビフィズス菌〕
本発明に使用されるビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属のグラム陽性の嫌気性桿菌で、現在、32菌種に分類されている。ビフィズス菌は、具体的には、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンチス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ブレ−ベ(Bifidobacterium breve)等であり、複数のビフィズス菌を組み合わせて利用することもできる。
これらのビフィズス菌はいずれも市販品(例えば、森永乳業社製)又は寄託機関から入手可能な菌株を用いることが好ましい。
【0036】
[乳酸菌]
本発明に使用される乳酸菌は、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ワイセラ(Weissella)属などの乳酸桿菌、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属等の乳酸球菌のいずれの乳酸菌であっても効果があり、複数の乳酸菌を組み合わせて利用することもできる。
これらの乳酸菌はいずれも市販品(例えば、森永乳業社製)又は寄託機関から入手可能な菌株を用いることが好ましい。
【0037】
本発明に使用される菌末はいずれも凍結乾燥有用菌末である。凍結乾燥方法は、市販の凍結乾燥機を用いて凍結乾燥する等、通常使用される凍結乾燥方法を使用することができ、菌末の水分活性は0.3以下であることが好ましい。水分活性は、例えば、市販の水分活性測定システム(ロトロニック社製、商品名:ハイグロスコープ)を用いて測定することができる。
水分活性とは微生物の生育や酵素活性に必要な水分を表す。細菌等の微生物はそれぞれ生育可能な水分活性範囲があり、水分活性が0.5以下である場合には微生物は増殖できないことが知られている。なお、本発明において水分活性は次式によって表すことができる。
【0038】
『水分活性(Aw)=飼料を入れた密閉容器内の水蒸気圧(P)/その温度における純水の水蒸気圧(Po)』
【0039】
凍結乾燥した菌末の生菌数はいずれも限定されるものではないが、乳酸菌末やビフィズス菌末であれば、10億個/g〜5000億個/gであることが好ましい。
【0040】
〔その他の原料〕
テアニンを有効成分として含有する本発明の凍結乾燥有用菌末減少抑制剤は、テアニン以外の原料と共に凍結乾燥有用菌末に混合することもできる。例えば、デキストリン等の糖類、高機能ペプチドやラクトフェリン等の機能性蛋白質、アスコルビン酸や葉酸等のビタミン類、香料、着色料等をテアニンと共に使用することができる。
【0041】
本発明の凍結乾燥有用菌末減少抑制剤として用いられるテアニンはお茶等の成分であり、L−テアニンは食品添加物に指定されている。テアニンは副作用が殆どなく、投与対象は特に制限されるものではない。
【0042】
[製品形態]
本発明の凍結乾燥末減少抑制剤は、凍結乾燥有用菌末と混合した形態で、医薬品、飲食品、飼料等として既存の凍結乾燥有用菌末と同様に使用することができる。
【0043】
[医薬品]
医薬品の形態としては、凍結乾燥有用菌末とテアニンを、薬学的に許容され得る賦形剤等の任意の添加剤を用いて製剤化することができる。
製剤中のテアニンの含有量は特に限定されるものではない。基本的に凍結乾燥有用菌末及びテアニン粉末による副作用はほとんどないと考えられるが、凍結乾燥有用菌末の含有量としては、通常0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜50質量%テアニン粉末の含有量としては、通常0.001〜50質量%、好ましくは0.01〜17質量%である。
【0044】
製剤化にあたっては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。具体的製剤として、錠剤(糖衣錠、腸溶性コ−ティング錠、バッカル錠を含む。)、散剤、カプセル剤(腸溶性カプセル、ソフトカプセルを含む。)、顆粒剤(コ−ティングしたものを含む。)、丸剤、トロ−チ剤、封入リポソーム剤、液剤、又はこれらの製剤学的に許容され得る徐放製剤等を例示することができる。
【0045】
[飲食品]
本発明において適用できる飲食品は、凍結乾燥有用菌末と本発明の凍結乾燥有用菌末減少抑制剤との混合品を粉末のまま使用する形態として、粉末状やタブレット状のサプリメント等が例示され、具体的には、栄養飲料や果実飲料等の調整用粉末、錠菓、スープ、シチューの素;経腸栄養食等を挙げることができる。
このような飲食品は、例えば、凍結乾燥有用菌末と本発明の凍結乾燥有用菌末減少抑制剤との混合品を、飲食品原料と粉末混合等によって配合し、製造することができる。
【0046】
また、凍結乾燥有用菌末と本発明の凍結乾燥有用菌末減少抑制剤との混合品を、一旦溶解等して使用する形態として、凍結乾燥有用菌末を本発明の凍結乾燥有用菌末減少抑制剤とともに配合した清涼飲料、乳飲料等又はこれらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末;加工乳、発酵乳等の乳製品;経腸栄養食;機能性食品等が挙げられる。
さらに、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、餃子の皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物、パン;経腸栄養食等を挙げることができる。
このような飲食品は、例えば、凍結乾燥有用菌末に、テアニン、デキストリン、デンプン等の糖類;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類等を配合することにより、製造することができる。
【0047】
[飼料]
飼料の形態としては、凍結乾燥有用菌末と凍結乾燥有用菌末減少抑制剤を含有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、凍結乾燥有用菌末に、テアニン、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、マイロ等の穀類;大豆油粕、ナタネ油粕、ヤシ油粕、アマニ油粕等の植物性油粕類;フスマ、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;魚粉、脱脂粉乳、ホエイ、イエローグリース、タロー等の動物性飼料類;トルラ酵母、ビール酵母等の酵母類;第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;単体アミノ酸;糖類等を配合することにより製造できる。飼料の形態としては、例えば、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。
【0048】
〔保存方法〕
本発明の凍結乾燥有用菌末の減少抑制方法は、凍結乾燥有用菌末にテアニン粉末を添加し、混合した後に保存することによって例示される。
テアニン粉末は、菌末中で混合・分散されることにより、菌末の減少を抑制する効果を発揮する。粉末同士で混合されることから、作業は容易である。混合工程は粉末混合用の容器を使用し、これに予め計量した凍結乾燥有用菌末、テアニン粉末、必要であればその他の原料を投入し、混合、攪拌する。容器の代わりに粉末混合用の各種ミキサーを使用してもよい。前記の菌末混合品は、十分に攪拌混合した後、ポリエチレンやポリプロピレン、アルミなどの袋や缶等の容器に充填し、保存する。特に乳酸菌やビフィズス菌の場合は光や酸素に弱いため、遮光性及び気密性のあるものが好ましい。また、充填の際に容器内部を窒素置換しておき、空気に触れないようにすることがさらに好ましい。
【0049】
充填量は、年齢、性別、用途、摂取量、容器の形状などによって適宜の態様をとることができる。例えば、使い切り用の個包装としては1g〜30g、一定期間内に使用する態様としては100g〜3000g等とすることができるが、これらに限定されるものではない。使用可能な期間は容器の構造や菌末の形状によって影響するが、凍結乾燥菌末の水分活性が0.3を越えるまでに消費される範囲で充填量を決定することが好ましい。
【0050】
このように好適な条件にて混合充填し、保存することにより、テアニンによる生菌の減少抑制効果を最大限に発揮することができる。
また、凍結乾燥有用菌末等は熱に対して弱いため、保存時の温度は10℃以下であることが好ましい。また、凍結乾燥菌末等に対して温度変化の影響を与えないために、保存中の温度変化は少ないことが好ましく、温度が一定であることがさらに好ましい。
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
[試験例1]
本試験では、凍結乾燥有用菌末の保存性に対するテアニンの効果を確認することを目的とした。
1.試料の調製
原料として、ビフィズス菌乾燥菌末(森永乳業社製)31.0g、L−テアニン粉末(太陽化学社製)5.0g、デキストリン(松谷化学工業社製)62.5g、アスコルビン酸(三栄源エフ・エフ・アイ社製)0.5g、香料(三栄源エフ・エフ・アイ社製)1.0gを計量し、混合、攪拌したものを試験試料とした(表1、試験試料)。混合、攪拌は全体が均一になるように十分に行った。
一方、対照試料として、L−テアニン粉末をデキストリンに置き換えた以外はすべて同じ配合で計量し、各粉末を同様の方法で混合、攪拌したものを使用した(表1、対照試料)。
【0052】
【表1】

【0053】
2.試験方法
(1)保存試験
試験試料、対照試料はそれぞれ遮光性、気密性を備えたアルミ袋に入れ、恒温室で45℃、1週間の条件で静置保存した。保存前に、試料の一部をビフィズス菌生菌数測定用に分取した。保存期間経過後、速やかに試料を回収した。回収した試料の一部はビフィズス菌生菌数測定用に分取した。
【0054】
(2)菌数測定
測定用に分取した試料を秤量し、生理食塩水で希釈した後、希釈液をシャーレに分注した。シャーレに分注した希釈液はBL寒天培地(ニッスイ社製)を用いて混釈した。培地が固化した後、シャーレを嫌気条件に調製し、37℃で3日間培養した。培養後、形成されたコロニーの生菌数を測定した。
【0055】
3.試験結果
本試験の結果を表2に示す。保存性を示す指標として生残率を用いた。本試験での「生残率」は保存試験の開始前及び開始後に採取した試料をそれぞれ培養し、培養後のビフィズス菌の生菌数を測定して、以下の式から得られる数値である。
【0056】
『生残率(%)=(保存試験終了時の生菌数/保存試験開始時の生菌数)×100』
【0057】
保存開始時の生菌数は、試験試料、対照試料共に大きな差はみられなかった。
45℃、1週間の保存期間経過後の試験試料では、ビフィズス菌の生菌数が5.6×1010個であった。これにより、保存試験開始前のビフィズス菌生菌の8割が保存期間経過後にも生残することが明らかとなった。
【0058】
一方、対照試料では、保存試験後のビフィズス菌の生菌数は4.5×1010個となり、試験前の6割程度に減少した。
【0059】
保存試験の結果から、凍結乾燥ビフィズス菌末にテアニンを添加することにより、凍結乾燥ビフィズス菌末の生菌数減少が抑制されることが判明した。つまり、テアニンは凍結乾燥ビフィズス菌末の生菌数の減少抑制剤としての働きを持つことが明らかになった。
【0060】
【表2】

【0061】
[参考例]
本試験では、テアニンによる有用細菌に対する増殖促進効果の有無を確認することを目的とした。
1.試料の調製
試料の調製は試験例1の方法に従い、テアニンを配合する参考試料(試験試料と同組成)及びテアニンを配合しない参考対照試料(対照試料と同組成)を得た。
【0062】
2.試験方法
参考試料及び参考対照試料をそれぞれ秤量し、生理食塩水で希釈した後、希釈液をシャーレに分注した。シャーレに分注した希釈液を、BL寒天培地(ニッスイ社製)を用いて混釈した。培地が固化した後、シャーレを嫌気条件に調製し、37℃で3日間培養した。
培養後、形成されたコロニーの生菌数を測定した。
【0063】
3.試験結果
結果を表3に示す。培養されたビフィズス菌生菌数を測定したところ、テアニンを配合した参考試料のビフィズス菌生菌数は7.0×1010個、テアニンを配合しない参考対照試料のビフィズス菌生菌数7.4×1010個となった。
この結果から、BL寒天培地を用いた37℃、3日間の培養によっても、テアニンの配合の有無によるビフィズス菌生菌数への影響はみられなかった。すなわち、テアニンは、ビフィズス菌等の有用細菌そのものに対する増殖促進効果はないことが確認された。
【0064】
【表3】

【0065】
[実施例1]
ビフィズス菌乾燥菌末(森永乳業社製)250g、L−テアニン(太陽化学社製)50g、還元麦芽糖水飴(東和化成社製)810g、粉あめ(昭和産業社製)172.5g、コーンスターチ(三栄源エフ・エフ・アイ社製)165g、ステビア甘味料(三栄源エフ・エフ・アイ社製)1.5g、ヨーグルト香料(長谷川香料社製)6g、およびグリセリン脂肪酸エステル(三栄源エフ・エフ・アイ社製)45gを均一に混合して混合粉末を得た。
【0066】
この混合粉末を、打錠機(畑鉄鋼所社製)を使用して、1錠当り1.5g、12錠/分の打錠速度で連続的に打錠し、硬度7.3kgのトローチ剤900錠(約1350g)を製造した。このトローチ剤を室温にて保存試験をしたところ、1年後のビフィズス菌の生残率は60%であった。
【0067】
[実施例2]
ビフィズス菌乾燥菌末(森永乳業社製)190g、L−テアニン(太陽化学社製)65g、マルツデキストリン(松谷化学工業社製)635g、脱脂粉乳(森永乳業社製)85g、ステビア甘味料(三栄源エフ・エフ・アイ社製)1g、ヨーグルト・フレーバー(三栄源エフ・エフ・アイ社製)5g、およびグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン社製)24gを均一に混合して混合粉末を得た。この混合粉末を、打錠機(畑鉄鋼所社製)を使用して、1錠当り1.5g、12錠/分の打錠速度で連続的に打錠し、硬度8.5kgのトローチ剤600錠(約900g)を製造した。このトローチ剤を室温にて保存試験をしたところ、1年後のビフィズス菌の生残率は65%であった。
【0068】
[実施例3]
ビフィズス菌乾燥菌末(森永乳業社製)310g、L−テアニン粉末(太陽化学社製)50g、デキストリン(松谷化学工業社製)625g、アスコルビン酸(三栄源エフ・エフ・アイ社製)5g、香料(三栄源エフ・エフ・アイ社製)10gを均一に混合して混合粉末を得た。この混合粉末をハンディパック充填機(三光機械株式会社製)を使用して、1包当り1.5g、120包/分の充填速度で連続的に充填し、粉末飲料600包(約900g)を製造した。この粉末飲料を室温にて保存試験をしたところ、1年後のビフィズス菌の生残率は68%であった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のテアニンを有効成分とする凍結乾燥有用菌末減少抑制剤、及び凍結乾燥有用菌末の減少抑制方法によれば、凍結乾燥有用菌末を保存する際にテアニン粉末を添加するだけで、簡易に菌末の生菌数の減少を抑制することができる。
【0070】
テアニンはお茶の成分であり、食品添加物として幅広く利用されており、安全に使用することができる。また、凍結乾燥有用菌末の品質向上が達成されることから、医薬品、飲食品、飼料等の分野において有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テアニンを有効成分として含有する凍結乾燥有用菌末の減少抑制剤。
【請求項2】
凍結乾燥有用菌末にテアニンを添加し、混合し、保存することを特徴とする凍結乾燥有用菌末の減少を抑制する方法。

【公開番号】特開2009−284820(P2009−284820A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140533(P2008−140533)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】