説明

凝集濾過方法

【課題】良好な水質の凝集濾過水を低コストにて得ることができる凝集濾過方法を提供することを目的とする。
【解決手段】被処理水に対してカチオン系凝集剤を添加して凝集処理を行い、その後、濾材の少なくとも一部をカチオン交換樹脂とした濾過器にて濾過する凝集濾過方法において、該カチオン交換樹脂として弱酸性交換樹脂を用いる。濾過器からの濾過水の水質が所定値を超えた場合に、弱酸性カチオン交換樹脂の再生を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濁度含有水を凝集及び濾過処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
純水装置補給水などとして清澄な水が要求される場合、原水中の濁質を除去する方法として、凝集濾過方法が広く用いられている。また、RO膜による排水回収再利用の場合において、RO膜前の除濁処理として凝集濾過処理が行われることがある。
【0003】
この凝集濾過法では、SS捕捉量が所定量以上になると、通水量確保のために通水圧を増加させるので濁質がリークする。このため、定期的な逆洗が必要である。この逆洗により、系外への水の排出量が増加し、水の回収率が悪化する。また、凝集濾過法では、線速度を大きくすると、濾材が濁質を捕捉し切れずに、処理水の濁度が悪化する。
【0004】
特許第3460324の0007段落には、凝集濾過法において、強酸性カチオン交換樹脂を濾過器濾材として用いることにより、濾過器のSS捕捉能力を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3460324
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
濾材として強酸性カチオン交換樹脂を用いた方法では、カチオン交換樹脂の再生のための薬剤量が多く、トータルの凝集濾過処理コストが高くなる。
【0007】
本発明は、良好な水質の凝集濾過水を低コストにて得ることができる凝集濾過方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の凝集濾過方法は、被処理水に対してカチオン系凝集剤を添加して凝集処理を行い、その後、濾材の少なくとも一部をカチオン交換樹脂とした濾過器にて濾過する凝集濾過方法において、該カチオン交換樹脂として弱酸性交換樹脂を用いることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の凝集濾過方法は、請求項1において、濾過器は、濾材として弱酸性カチオン交換樹脂とその他の濾材とを用いた複層濾過器であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の凝集濾過方法は、請求項1又は2において、凝集処理後かつ濾過前に、固液分離処理を行うことを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の凝集濾過方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記濾過器からの濾過水の水質が所定値を超えた場合に前記弱酸性カチオン交換樹脂の再生を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
濾材としてカチオン交換樹脂を用いた場合、カチオン交換樹脂の官能基がHにあるときに、水酸化アルミや水酸化鉄などのフロックの捕捉機能が増す。しかしながら、工業用水や河川水などを被処理水とした場合、被処理水中のアルカリ成分(Na、Ca、Mgなど)によりカチオン交換樹脂の官能基のHが交換され、Na、Ca、Mgなどに置き換わる。これにより、SS捕捉機能が低下するので、カチオン交換樹脂を再生する。
【0013】
本発明では、濾材のカチオン交換樹脂として弱酸性カチオン樹脂を用い、好ましくは給水pHを4〜8に調整して運転することにより、被処理水中のNa、Ca、Mgとの積極的なイオン交換を行わせず、カチオン交換樹脂の官能基のHが多量に残存した状態で濾過を継続して行う。このように、弱酸性カチオン交換樹脂を用いると、官能基にHが多く残った状態で濾過が継続するのでカチオン交換樹脂を再生する頻度が減少する。このため、再生剤の使用量が大幅に低減される。なお、弱酸性カチオン樹脂でも強酸性カチオン樹脂同等の濾過捕捉機能を有することが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【図2】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0016】
本発明は、SSまたはコロイダル成分を含有する被処理水に対して、PAC(ポリ塩化アルミ)や塩化第二鉄などのカチオン系凝集剤を添加した後、濾過処理を行う方法において、濾材に弱酸性イオン交換樹脂を用い、好ましくは濾過器への給水のpHを4〜8、特に好ましくは5〜7とする。
【0017】
[被処理水]
被処理水としては、河川水、工業用水、鉄鋼、機械、化学、食品など各種産業分野から発生し、回収再利用される排水などが例示されるが、これに限定されない。被処理水のSS濃度は1〜100mg/L特に1〜20mg/L程度が好適であるが、これに限定されない。
【0018】
[凝集剤]
カチオン系凝集剤としては例えばPAC(ポリ塩化アルミ)や塩化第二鉄が好適である。凝集剤による凝集効果を補助する有機系カチオン凝集剤を単独または併用してもよい。また、カチオン系凝集剤で凝結された凝結物のフロック性を高めるため、アニオンポリマー併用してもよい。
【0019】
[pH調整]
pH調整方法は、塩酸、硫酸、苛性ソーダなどを添加すればよいが、これに限定されない。
【0020】
[弱酸性カチオン樹脂]
弱酸性酸基を官能基として有する弱酸性カチオン交換樹脂を用いる。弱酸性カチオン交換樹脂としてはカルボン酸を有するものが好適であり、例えばアクリル酸系弱酸性イオン交換樹脂(三菱化学/WK40L)またはメタクリル酸系弱酸性イオン交換樹脂(三菱化学/WK10)などを用いることができるが、これに限定されない。カチオン交換樹脂として廃カチオン交換樹脂を用いてもよい。廃カチオン交換樹脂を用いることにより、濾材コストを低下させることができる。
【0021】
[その他の濾材]
弱酸性カチオン交換樹脂の捕捉機能を補助する目的で、アンスラサイトなどを併用した複層濾過層を用いることにより、SS捕捉能力を増大させても良い。
【0022】
[カチオン交換樹脂の再生]
濾材が弱酸性カチオンであっても濾過を継続すると、官能基のHが徐々にNa、Ca、Mg等と交換されるので、ある程度以上イオン交換が進行した段階でカチオン交換樹脂を再生する。このカチオン交換樹脂の再生には塩酸や硫酸を用いるが、その他の酸を用いても良い。また後段にイオン交換樹脂塔があれば、その再生液を利用しても良い。なお、再生率を上げるため、アルカリ剤で逆再生してから酸による再生を行ってもよい。酸による再生に先立って、又は酸による再生を行っているときに空気及び/又は水による逆洗を行い、濾材に付着したSSを排出してもよい。
【0023】
[再生の時期]
カチオン交換樹脂の再生を行う時期は、カチオン交換樹脂がブレークする前とし、例えば、濾過器から流出する濾過水のpHが所定値(例えば5〜6の間から選定される)以上となったときとすることができる。また、濾過水の濁度や導電率が所定値以上となったときに再生を行うようにしてもよい。
【0024】
[濁質の粗分離処理]
被処理水中の濁質濃度が高い場合、凝集処理の後、弱酸性カチオン樹脂による濾過前に、沈澱池、加圧浮上装置、繊維濾過装置などの固液分離装置によって濁質の粗分離処理を行っても良い。
【0025】
[前処理]
濾過器への通水に際して、活性炭処理や酸化還元処理を行い、イオン交換樹脂への不可逆な吸着汚染の低減や、酸化還元劣化の防止を図るようにしてもよい。
【0026】
[後段処理]
濾過処理水を、強酸性カチオン交換樹脂装置、アニオン交換樹脂、混床式イオン交換樹脂、RO膜、電気脱イオン装置などでさらに処理してもよい。
【実施例】
【0027】
<実施例1,比較例1>
表1に示す水質の工業用水を下記のSS粗分離処理後、下記条件にてカチオン交換樹脂塔に通水した。
【0028】
【表1】

【0029】
<SS粗分離処理>
PAC50mg/L、凝集pH6.5の条件で凝集操作を行い、その凝集した水を加圧浮上処理でSSを粗分離した。加圧浮上処理水のpHは6.5、SS濃度は3.8mg/Lであった。
【0030】
<カチオン交換樹脂塔の充填樹脂>
実施例1:弱酸性カチオン樹脂(三菱化学/WC−10)
カラム径400mm、樹脂充填高さ800mm、充填量1L
比較例1:強酸性カチオン樹脂(三菱化学/PK228)
カラム径400mm、樹脂充填高さ800mm、充填量1L
【0031】
<カチオン交換樹脂塔への通水流量>
加圧浮上処理水を通水流量として38L/Hrにて通水した。
【0032】
<処理水水質の評価>
カチオン交換樹脂塔での濾過処理水の水質を評価する指標として、MFF値を採用し、MFF値が1.1未満であれば濾過水水質は良好であると判定した。
【0033】
MFF値は、水の0.45μmフィルターへの膜閉塞速度により算定される。具体的には、直径47mm、ポアサイズ0.45μmのフィルターに対し、吸引圧500mmhgにて500mLの2回の濾過を行い、第1回目の通水時間Tと第2回目の通水時間Tをそれぞれ測定し、MFF値=T/Tにて算出する。例えばRO膜などに通水する場合、清澄な濾過水が要求され、そのMFFは<1.1である。
【0034】
MFF値の経時変化を示すためにMFF値を積算BV(Bed Volume)に対しプロットした。結果を図1に示す。なお、積算BV=通水積算量/濾材充填量である。
【0035】
<処理水のpHの経時変化>
処理水のpHの経時変化を測定した。結果を図2に示す。
【0036】
<採水可能BV、イオン吸着量、必要再生剤量、再生剤効率>
濾過水の濁質リークを示すMFFが上昇した時点(800BV)でイオン交換樹脂を濃度10%のHClで再生した。採水可能BV、イオン吸着量、必要再生剤量、再生剤効率の測定結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
<考察>
表2及び図1の通り、良好な処理水を得られる採水量は比較例1の方が多い。一方、図2の通り、処理水pHは実施例1の方が高く、実施例1の方が濾材として用いたカチオン交換樹脂に吸着するカチオン量が少ないことが分かる。再生効率は強酸性カチオン交換樹脂を用いた比較例1よりも弱酸性カチオン交換樹脂を用いた実施例1の方が優れている。表2の通り、良好な濾過水を得る単位採水量あたりの要求される酸量(再生用酸量)は実施例1の方がはるかに少ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に対してカチオン系凝集剤を添加して凝集処理を行い、その後、濾材の少なくとも一部をカチオン交換樹脂とした濾過器にて濾過する凝集濾過方法において、該カチオン交換樹脂として弱酸性交換樹脂を用いることを特徴とする凝集濾過方法。
【請求項2】
請求項1において、濾過器は、濾材として弱酸性カチオン交換樹脂とその他の濾材とを用いた複層濾過器であることを特徴とする凝集濾過方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、凝集処理後かつ濾過前に、固液分離処理を行うことを特徴とする凝集濾過方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記濾過器からの濾過水の水質が所定値を超えた場合に前記弱酸性カチオン交換樹脂の再生を行うことを特徴とする凝集濾過方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−176357(P2012−176357A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40405(P2011−40405)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】