説明

処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板上のガスピン欠陥を抑制する方法

【課題】 合金化溶融亜鉛めっき鋼板のカチオン電着塗装時におけるガスピン欠陥を抑制するための鋼板の処理手段を提供すること。
【解決手段】 溶融亜鉛めっき層、この溶融亜鉛めっき層の上に形成されたリン酸亜鉛化成処理層、およびこのリン酸亜鉛化成処理層の表面上に電気的に析出された金属、を有する、処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の処理に関し、特に合金化溶融亜鉛めっき鋼板のカチオン電着塗装時におけるガスピン欠陥を抑制するための処理に関する。
【背景技術】
【0002】
熱延鋼板または冷延鋼板などの鋼板は、加工性等に優れるため工業材料として汎用されている。しかしこれらの鋼板は鉄であり錆が生じる。そのため、自動車用途など耐食性が要求される用途においては、亜鉛めっきが施された亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき処理を施した亜鉛−ニッケルめっき鋼板などが用いられている。そして自動車用途などに用いられる鋼板は、さらに耐食性を高めるために、カチオン電着塗装がなされることが多い。このカチオン電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。
【0003】
ところで鋼板のカチオン電着塗装においては、被塗物電着時に発生した水素ガスが原因と見られる「ガスピンホール」(ガスピンと略称する。)が発生することがある。これが発生すると、電着塗膜の外観悪化が起こり好ましくない。このガスピンの発生を抑制する方法として、一般に、電着塗料組成物中に含まれる高沸点溶剤の含有量を高めたり、電着塗料組成物中に含まれる顔料濃度を低くする方法などが用いられている。しかしながら、これらの方法はつきまわり性の低下を招く恐れがあるため、方法の使用においては十分な配慮が必要とされる。
【0004】
特開平8−49096号公報(特許文献1)には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、クロムの酸素酸、リンの酸素酸、およびマンガンの酸素酸、ならびにそれらの塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を0.01g/L以上含有する水溶液中で、周波数10〜1000Hzの交流電流にて、印加電圧1〜300V、印加時間1〜100秒で電解することを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の電解後処理法が記載されている。これは、加工性と塗装後耐食性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得るための、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の後処理法であると記載されている。一方、ガスピンの発生を抑制することについては記載されていない。
【0005】
特開平8−296014号公報(特許文献2)には、鋼板を溶融亜鉛浴または溶融亜鉛アルミニウム合金浴に浸漬して、溶融めっきを施した後、めっき表面が溶融状態にあるうちに、ニッケルイオンを含有する水溶液をめっき表面に噴霧して、めっき表面に金属ニッケルを1〜50mg/m析出させた後、更にリン酸亜鉛系化成処理を行う、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が記載されている。この方法は、金属めっきを行った後にリン酸亜鉛系化成処理を行う点において本発明と相違する。また、この方法が主として耐黒変性を改善することを目的としている点においても本発明と相違する。
【0006】
【特許文献1】特開平8−49096号公報
【特許文献2】特開平8−296014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、特に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のカチオン電着塗装時におけるガスピン欠陥を抑制するための鋼板の処理手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
溶融亜鉛めっき層、
この溶融亜鉛めっき層の上に形成されたリン酸亜鉛化成処理層、および
このリン酸亜鉛化成処理層の表面上に電気的に析出された金属、
を有する処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0009】
上記の電気的に析出された金属は、7族、8族、9族、10族、11族および12族の元素、および希土類元素からなる群から選択される1種以上の金属あるいはその金属の水酸化物であるのが好ましい。さらには、上記の電気的に析出された金属が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、セリウム、ネオジムからなる群から選択される1種以上の金属あるいはその金属の水酸化物であるのがより好ましい。
【0010】
上記の電気的に析出された金属は、リン酸亜鉛化成処理層の表面上に0.1〜10g/mの量で電気的に析出されているのが好ましい。
【0011】
また、上記の電気的に析出された金属は、リン酸亜鉛化成処理層の表面に対して50〜100%を被覆するのが好ましい。
【0012】
また、本発明は、
リン酸亜鉛を含む化成処理剤を用いて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を化成処理する、化成処理工程、および
化成処理された鋼板の表面上に、金属を電気的に析出させる、電気めっき工程、
を包含する、処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法も提供する。
【0013】
上記の電気めっき工程は、7族、8族、9族、10族、11族および12族の元素、および希土類元素からなる群から選択される1種以上の金属を含むめっき水溶液中に、化成処理された鋼板を浸漬して、金属を電気的に析出させる工程であるのが好ましい。
【0014】
さらには、上記の電気めっき工程は、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、セリウム、ネオジムからなる群から選択される1種以上の金属を含むめっき水溶液中に、化成処理された鋼板を浸漬して、金属を電気的に析出させる工程であるのが好ましい。
【0015】
また、めっき水溶液中に含まれる1種以上の金属の総含有量が、10〜100mmol/Lであるのが好ましい。
【0016】
さらには、上記電気めっき工程において、印加電圧1〜20Vおよび印加時間1〜15分で金属を電気的に析出させるのが好ましい。
【0017】
また、上記電気めっき工程において、化成処理された鋼板の表面上に金属を0.1〜10g/m析出させるのが好ましい。
【0018】
さらには、本発明の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を、カチオン電着塗装時におけるガスピン欠陥が抑制された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するために用いることができる。
【0019】
また、本発明は、リン酸亜鉛を含む化成処理剤を用いて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を化成処理する、化成処理工程、および
化成処理された鋼板の表面上に、金属を電気的に析出させる、電気めっき工程、
を包含する、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のカチオン電着塗装時におけるガスピン欠陥を抑制する方法も提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を電着塗装する際のガスピン発生を抑制することができ、電着塗装性能を向上させることができる。また、本発明においては、電着塗料組成物の組成を変えることなく、電着塗装時におけるガスピン発生を抑制することができる。そのため、電着塗料組成物の付きまわり性を低下させることなく、ガスピン発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
まず本発明に至る経緯について簡単に説明する。亜鉛めっきが施された亜鉛めっき鋼板は、耐食性に優れることから、自動車用途などで多く使用されている。しかしながら、亜鉛めっき鋼板は、電着塗装時にガスピン(GAクレタリングともいわれる。)が発生しやすいという欠点がある。例えば、亜鉛めっき処理される前の鋼板である、冷延鋼板の電着塗装時におけるガスピン発生電圧は350V程である。それに対して、電気亜鉛めっき鋼板のガスピン発生電圧は280V程、そして合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)のガスピン発生電圧は200V程である。合金化溶融亜鉛めっき鋼板のガスピン発生電圧が著しく低くなる原因の1つとして、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面は電気的に不均一な表面であり、電気抵抗の小さい部分に電流が集中するために、ガスピン発生電圧が低くなることが考えられる。そして、リン酸亜鉛を含む化成処理剤で処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、ガスピン発生電圧がさらに低くなることが、予備的試験で確認された。
【0022】
リン酸亜鉛系の化成処理剤で合金化溶融亜鉛めっき鋼板を処理することは、耐食性、めっき外観の特性などを向上させる点において有用である。従って本発明においては、有用性の高い、リン酸亜鉛系の化成処理剤で処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の電着塗装性能を高めることを目的とする。以下、本発明について順次説明する。
【0023】
本発明の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、リン酸亜鉛を含む化成処理剤を用いて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を化成処理し、そしてこの鋼板の表面上に金属を電気的に析出させることによって得ることができる。
【0024】
化成処理
本発明においては、リン酸亜鉛を含む化成処理剤(以下、「リン酸亜鉛処理剤」ということもある。)を用いて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を化成処理する。リン酸亜鉛を含む化成処理剤は、特に限定されず、例えば通常用いられる酸性リン酸亜鉛化成処理液などを使用することができる。好ましい化成処理剤は、亜鉛イオン0.5〜2g/L、好ましくは0.7〜1.2g/L、リン酸イオン5〜30g/L、好ましくは10〜20g/L、マンガンイオン0.2〜2g/L、好ましくは0.3〜1.2g/Lを含むものである。
【0025】
上記のリン酸亜鉛処理液に、さらに、ニッケルイオン0.3〜2g/L、好ましくは0.5〜1.5g/L、および/またはHF換算でフッ素化合物0.05〜3g/L、好ましくは0.3〜1.5g/Lを、含めてもよい。これらを含めることによって、耐食性をさらに向上させることができる。なお、リン酸亜鉛処理剤中における、上記亜鉛イオン、マンガンイオン、ニッケルイオン及びフッ化イオンなどの含有量の測定は、ICP発光分析法で行う。
【0026】
亜鉛イオンが0.5g/L未満では、リン酸塩皮膜にスケや黄錆が発生し、塗装後の耐食性が低下する恐れがある。また2g/Lを越えると亜鉛系金属表面を有する金属成型物に対しては、塗装密着性が低下する恐れがある。リン酸イオンが5g/L未満では浴組成の変動が大きくなり、安定して良好な皮膜を形成できなくなる恐れがある。また30g/Lを越えても、より以上の格別の効果の向上は期待できず、薬品の使用量が多くなって経済的に不利である。
【0027】
マンガンイオンが0.2g/L未満では、亜鉛系金属表面を有する場合、塗装密着性、塗装後の耐食性が低下する恐れがある。一方2g/Lを越えても、格別の効果が得られず経済的に不利なものとなる。ニッケルイオンをマンガンイオンと併用することによって化成皮膜性能が更に向上し、塗装の密着性および耐食性がマンガンイオン単独使用の場合に比べて更に向上する。フッ化合物の含有量(HF換算)が0.05g/L未満であると、浴組成の変動が大きくなり、安定して良好な皮膜を形成できなくなる恐れがある。また含有量が3g/Lを越えても、より以上の格別の効果の向上がない恐れがあり、経済的に不利なものとなる。
【0028】
上記リン酸亜鉛処理液は、硝酸イオンが3〜30g/L含まれるものであってもよい。しかし硝酸イオンの含有量が30g/Lを超える場合は、リン酸塩皮膜にスケや黄錆が発生することがあり好ましくない。
【0029】
さらに、これらのリン酸亜鉛処理剤に亜硝酸亜鉛を含めてもよい。これを含めることによって、皮膜形成を促進することができるからである。亜硝酸亜鉛を含むリン酸亜鉛処理剤の調製およびこれによる処理方法は、例えば特開2001−323384号公報および特開2002−212751号公報に記載される公知の方法により行うことができる。
【0030】
本発明に用いられるリン酸亜鉛処理剤の遊離酸度は0.5〜2.0ポイントであることが好ましい。処理液の遊離酸度は処理液を10ml採取し、ブロムフェノールブルーを指示薬として、0.1N苛性ソーダで滴定することにより求めることができる。0.5ポイント未満であると処理液の安定性が低下する。また、2.0ポイントを越えるとソルトスプレーテストにおける耐食性が低下する恐れがある。
【0031】
上記のリン酸亜鉛処理剤を用いて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を化成処理することができる。この化成処理は、通常浸漬処理で行われる。この時の処理温度は、一般的な処理温度を採用することができる。例えば20〜70℃の範囲内で適宜選択することができる。処理時間としては、通常、10秒以上でよく、好ましくは30秒以上であり、より好ましくは1〜3分である。自動車車体のように袋部構造を多く持つ複雑な成型物を処理する場合には、上記のように浸漬処理を行った後、2秒間以上、好ましくは5〜45秒スプレー処理することが好ましい。浸漬処理時に付着したスラッジを洗い落とすために、スプレー処理は長時間であることが好ましい。本明細書において化成処理は、浸漬処理のみならず、その後にスプレー処理を行うことも含むものである。
【0032】
また必要に応じて、上記のリン酸亜鉛処理剤を用いる化成処理を行う前に、表面調整剤などを用いて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面を前処理してもよい。この前処理を行うことによって、溶融亜鉛めっき層の上にリン酸亜鉛化成処理層を良好に形成することができる。表面調整剤として、例えば日本ペイント社製サーフファイン5N−10などを使用することができる。
【0033】
電気めっき
上記の化成処理により形成されたリン酸亜鉛化成処理層の表面上に、金属を電気的に析出させる。金属を電気的に析出させる方法として、通常の電気めっき方法、すなわち、被めっき物である化成処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、金属を含むめっき水溶液(以下、単に「めっき水溶液」ということもある。)中に浸漬し、電気を通電することによって、水溶液中に含まれる金属イオンを鋼板表面上に析出させる方法、を用いる。
【0034】
本発明においては、電気めっきで用いられるめっき水溶液中には、7族、8族、9族、10族、11族および12族の元素、および希土類元素からなる群から選択される1種以上の金属が含まれる。より好ましくは、めっき水溶液中には、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、セリウム、ネオジムからなる群から選択される1種以上の金属が含まれる。これらの金属は単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。これらの金属は容易に電気めっきを行うことができることからも好ましい。
【0035】
上記の1種以上の金属は、10〜100mmol/Lの濃度で、めっき水溶液中に含まれるのが好ましい。上記金属の総含有量が10mmol/Lより少ない場合は、均一なめっき表面を得ることが困難となる恐れがある。また100mmol/Lを超える場合は、水洗性、経済性が劣ることとなる。
【0036】
本発明において、化成処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、上記のめっき水溶液中に陰極として浸漬し、電圧を印加することによって、化成処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面上に電気めっきを施すことができる。この電気めっき工程において、印加電圧は1〜20Vであるのが好ましく、5〜15Vであるのがより好ましい。印加電圧が1V未満である場合は、低電流密度のため、十分なめっきを施すことができない恐れがある。また印加時間は、1〜15分であるのが好ましく、3〜10分であるのがより好ましい。印加時間が1分未満である場合は十分に均一な電析を得ることが困難となる恐れがあり、また15分を超える場合は、他工程の処理時間に影響を与えるため実用が困難となる恐れがある。まためっき水溶液の温度は10〜70℃程で行うことができる。
【0037】
電気めっき工程では、化成処理された鋼板の表面上、つまりリン酸亜鉛化成処理層の表面上に、0.1〜10g/mの量で金属をめっきさせるのが好ましい。めっきされる金属の量が、0.1g/m未満である場合は、十分なガスピン抑制効果が得られない恐れがある。
【0038】
なお、本発明においては、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のリン酸亜鉛化成処理層の表面全てを、電気めっきされた金属で被覆する必要はない。もちろん合金化溶融亜鉛めっき鋼板のリン酸亜鉛化成処理層の表面全てを、電気めっきにより金属で被覆してもよいが、しかし全てを被覆しなくても効果が十分に発揮されるからである。本発明の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板においては、亜鉛めっき層上に電気めっきされた金属は、リン酸亜鉛化成処理層の表面に対して下限50%上限100%を被覆するのが好ましい。この下限は60%であるのがより好ましく、70%であるのがさらに好ましい。
【0039】
リン酸亜鉛化成処理層の表面に対する、電気めっきされた金属の被覆割合は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)等を用いてめっき層の表面の状態を解析することによって得ることができる。
【0040】
このようにして、処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。この処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、表面上の電気的不均一部分が電気めっきにより改善されており、電着塗装時においてガスピン発生による不具合が改善されたものである。さらに、この処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を電着塗装される基材として用いる場合は、電着塗料組成物中に含まれる高沸点溶剤の含有量を高めたり、電着塗料組成物中に含まれる顔料濃度を低くしたりするなどといった電着塗料組成物におけるガスピンの発生を抑制する手段を講じなくてもよい。そのため、電着塗膜のつきまわり性の低下を防ぐことができ、それにより構造物内部の防錆性に優れた被塗物を提供することができる。
【実施例】
【0041】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断らない限り、「部」は重量部を表わす。
【0042】
製造例1 化成処理剤の調製
下記成分を、下記濃度となるようにイオン交換水に溶解させて、リン酸亜鉛を含む化成処理剤を調製した。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例1 ネオジムが電気めっきされた溶融亜鉛鋼板の作製
合金化溶融亜鉛めっき鋼板(SGCC−F06MO、JIS G 3302規格品、70×150×0.8mm)の表面を、表面調整剤(日本ペイント社製サーフファイン5N−10)を用いて前処理した。この鋼板を、製造例1の化成処理剤に40℃で2分間浸漬し、水洗した後、取り出して乾燥させた。
【0045】
20mM硝酸ネオジム水溶液を調製し、さらに硝酸を加え、これをめっき水溶液とした。得られた、化成処理された鋼板を、このめっき水溶液に陰極として浸漬し、陽極としてSUS304電極を用い、めっき浴20℃、10Vで3分間電気めっきを施した。電気めっきにより析出した電析物の量は、6.0g/mであった。得られた、処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、以下の試験を行った。
【0046】
めっき析出した金属の表面積被覆%の測定
処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面を、EDX(EDX−800島津社製)を用いて解析し、亜鉛めっき層表面の表面積に対する、めっきにより析出した金属の被覆%を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
電着塗装時におけるガスピン発生抑制性能試験
電着浴に、カチオン電着組成物であるPN−120M(日本ペイント社製)を入れた。実施例1の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を陰極として浸漬し、極比+/−:1/2、極間距離:15cm、液温28℃に調整した。5秒で所定の電圧となるよう印加電圧を上げ、所定の電圧に達した後、175秒間印加電圧を保持した。焼付け乾燥後の電着塗膜にピンホールが発生する最低電圧を限界電圧とした。この限界電圧が高いほど、ガスピン発生電圧が高く、耐ガスピン性能に優れているということができる。
【0048】
実施例2 マンガンが電気めっきされた溶融亜鉛鋼板の作製
めっき水溶液として20mM酢酸マンガン(II)水溶液に、さらに酢酸を加えたものを用いた。実施例1と同様にして得られた、化成処理された鋼板を、このめっき水溶液に陰極として浸漬し、陽極としてSUS304電極を用い、めっき浴20℃、10Vで3分間電気めっきを施した。電気めっきにより析出した電析物の量は、5.5g/mであった。得られた鋼板について、実施例1と同様に試験した。結果を表1に示す。
【0049】
実施例3 鉄が電気めっきされた溶融亜鉛鋼板の作製
めっき水溶液として20mM硫酸鉄水溶液に、さらに硫酸を加えたものを用いた。実施例1と同様にして得られた、化成処理された鋼板を、このめっき水溶液に陰極として浸漬し、陽極としてSUS304電極を用い、めっき浴20℃、10Vで3分間電気めっきを施した。電気めっきにより析出した電析物の量は、6.4g/mであった。得られた鋼板について、実施例1と同様に試験した。結果を表1に示す。
【0050】
実施例4 コバルトが電気めっきされた溶融亜鉛鋼板の作製
めっき水溶液として20mM酢酸コバルト(II)水溶液に、さらに酢酸を加えたものを用いた。実施例1と同様にして得られた、化成処理された鋼板を、このめっき水溶液に陰極として浸漬し、陽極としてSUS304電極を用い、めっき浴20℃、10Vで3分間電気めっきを施した。電気めっきにより析出した電析物の量は、4.2g/mであった。得られた鋼板について、実施例1と同様に試験した。結果を表1に示す。
【0051】
実施例5 銅が電気めっきされた溶融亜鉛鋼板の作製
めっき水溶液として20mM酢酸銅水溶液に、さらに酢酸を加えたものを用いた。実施例1と同様にして得られた、化成処理された鋼板を、このめっき水溶液に陰極として浸漬し、陽極としてSUS304電極を用い、めっき浴20℃、10Vで3分間電気めっきを施した。電気めっきにより析出した電析物の量は、4.4g/mであった。得られた鋼板について、実施例1と同様に試験した。結果を表1に示す。
【0052】
実施例6 亜鉛が電気めっきされた溶融亜鉛鋼板の作製
めっき水溶液として20mM酢酸亜鉛水溶液に、さらに酢酸を加えたものを用いた。実施例1と同様にして得られた、化成処理された鋼板を、このめっき水溶液に陰極として浸漬し、陽極としてSUS304電極を用い、めっき浴20℃、10Vで3分間電気めっきを施した。電気めっきにより析出した電析物の量は、6.8g/mであった。得られた鋼板について、実施例1と同様に試験した。結果を表1に示す。
【0053】
比較例1
合金化溶融亜鉛めっき鋼板(SGCC−F06MO、JIS G 3302規格品、70×150×0.8mm)を脱脂したものを、表面調整剤(日本ペイント社製サーフファイン5N−10)を用いて前処理した。この鋼板を、製造例1の化成処理剤に40℃で2分間浸漬し、水洗した後、取り出して乾燥させた。この化成処理された鋼板に、実施例1の記載と同様に電着塗装を行い、実施例1と同様に試験した。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

*実施例6は、下地が亜鉛であるため被覆率を測定することができなかった。
【0056】
上記実施例および比較例に示されるとおり、実施例により得られた処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、ガスピン性能が優れるものであった。一方、比較例により得られた処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、ガスピン性能が劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のカチオン電着塗装時におけるガスピン欠陥を抑制するための鋼板の処理手段を提供することができる。本発明により得られる処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、電着塗装性能に優れるものである。このような鋼板は、自動車用途などの、耐食性および良好な外観の両方が求められる被塗物の作製に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛めっき層、
該溶融亜鉛めっき層の上に形成されたリン酸亜鉛化成処理層、および
該リン酸亜鉛化成処理層の表面上に電気的に析出された金属、
を有する、処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記電気的に析出された金属が、7族、8族、9族、10族、11族および12族の元素、および希土類元素からなる群から選択される1種以上の金属あるいはその金属の水酸化物である、請求項1記載の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記電気的に析出された金属が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、セリウム、ネオジムからなる群から選択される1種以上の金属あるいはその金属の水酸化物である、請求項1記載の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記電気的に析出された金属は、リン酸亜鉛化成処理層の表面上に0.1〜10g/mの量で電気的に析出されている、請求項1〜3いずれかに記載の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
前記電気的に析出された金属が、リン酸亜鉛化成処理層の表面に対して50〜100%を被覆する、請求項1〜4いずれかに記載の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
リン酸亜鉛を含む化成処理剤を用いて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を化成処理する、化成処理工程、および
化成処理された鋼板の表面上に、金属を電気的に析出させる、電気めっき工程、
を包含する、処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記電気めっき工程が、7族、8族、9族、10族、11族および12族の元素、および希土類元素からなる群から選択される1種以上の金属を含むめっき水溶液中に、化成処理された鋼板を浸漬して、金属を電気的に析出させるめっき工程である、請求項6記載の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記電気めっき工程が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、セリウム、ネオジムからなる群から選択される1種以上の金属を含むめっき水溶液中に、化成処理された鋼板を浸漬して、金属を電気的に析出させるめっき工程である、請求項6記載の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記水溶液中に含まれる1種以上の金属の総含有量が、10〜100mmol/Lである、請求項7または8記載の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記電気めっき工程において、印加電圧1〜20Vおよび印加時間1〜15分で金属を電気的に析出させる、請求項6〜9いずれかに記載の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記電気めっき工程において、化成処理された鋼板の表面上に金属を0.1〜10g/m析出させる、請求項6〜10いずれかに記載の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
カチオン電着塗装時におけるガスピン欠陥が抑制された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための、請求項6〜11いずれかに記載の処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
請求項6〜11いずれかに記載の製造方法により得られる、処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項14】
リン酸亜鉛を含む化成処理剤を用いて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を化成処理する、化成処理工程、および
化成処理された鋼板の表面上に、金属を電気的に析出させる、電気めっき工程、
を包含する、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のカチオン電着塗装時におけるガスピン欠陥を抑制する方法。

【公開番号】特開2006−28550(P2006−28550A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206072(P2004−206072)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】