説明

出力安定性に優れた振動型ジャイロ

【課題】検出質量体が駆動質量体と弾性的に分離されており、駆動質量体の駆動振動によって検出質量体が駆動変位相当の変位を伴わない構造を有し、かつ、製造ばらつきに起因する構造的非対称性により発生する検出質量体の変位を相殺する手段を有する振動型ジャイロの提供。
【解決手段】X−Y平面の第3象限内及び第4象限内には、それぞれ、検出質量体14の櫛歯電極44に対向する第1の補正用櫛歯電極50及び第2の補正用櫛歯電極52が基板2に固定配置される。第1の補正用櫛歯電極50及び第2の補正用櫛歯電極52にAC電圧を印加して静電引力を発生させることにより、角速度入力がゼロのときに発生する漏れ回転変位を相殺することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動型ジャイロに関し、特には、MEMS技術によって製造された振動型ジャイロに関する。
【背景技術】
【0002】
1990年代から急速に発展したいわゆるマイクロマシニング技術によって、例えば、絶縁膜を有するシリコン基板やガラス基板上に接合されたバルクシリコンウェハを、湿式エッチングやドライエッチング等の化学的なエッチングにより処理し、メカニカルなセンサ構造体を形成して、一度のプロセスで大量のセンサ構造を製造する手法が確立されている。このような微小電気機械システム(MEMS)技術によるセンサとしては、加速度センサ及び振動型ジャイロ等があり、例えば自動車、慣性ナビゲーション、デジタルカメラ、ゲーム機他、多くの分野において利用されている。
【0003】
中でも振動型ジャイロは、一方向に振動する可動物体が回転運動を受けるときに発生するコリオリ加速度を利用している。振動する可動質量体が回転運動を伴うとき、該可動質量体は振動方向及び回転軸方向の双方に直交する方向に作用するコリオリ力を受け、この結果該可動質量体はコリオリ力の作用方向に変位する。該可動質量体は、この方向の変位を可能にするばねにより支持され、該可動質量体の変位量からコリオリ力及びそれを生じさせる角速度の値を検出することができる。可動質量体の変位は、例えば、一方が固定されかつ他方が可動質量体ともに変位可能な一対の平行平板構造又は櫛歯構造を備えた、平行平板型コンデンサ又は櫛歯型コンデンサを使用し、その容量変化から求めることができる。
【0004】
振動型ジャイロの出力安定性を向上させるための1つの手段として、いわゆる漏れ出力(クワドラチャーエラー)を低減又は排除する手段を設けることが挙げられる。以下に示す先行技術文献には、バイアス安定性改善のために、クワドラチャーエラーを抑制する補正手段を備えた振動型ジャイロが開示されている。
【0005】
特許文献1には、第1共振器(1)を有し、上記第1共振器(1)が第1および第2の線形発振器(3,4)からなる結合系として設計されており、上記第1発振器(3)が、第1バネ素子(5−5)によって上記コリオリの角速度計の角速度計フレームに取り付けられており、上記第2発振器(4)が、第2バネ素子(6,6)によって上記第1発振器(3)に取り付けられているコリオリの角速度計が開示されている。この角速度計は、上記双方の発振器(3,4)のアライメントを相互に変更することのできる静電場(11’,11’,10−10)を生成し、この静電場は、上記角速度計フレーム(7,7)に対する上記第1バネ素子(5−5)のアライメント角度、および/または、上記第1発振器(3)に対する上記第2バネ素子(6,6)のアライメント角度を変更する定荷重(Gleichkraft)を生成する装置と、コリオリの角速度計の直交バイアスを決定するための装置(45,47)と、上記決定された直交バイアスが最小になるように、上記静電場の強度を上記決定された直交バイアスに応じて制御する制御ループ(55,56,57)とを有する、とされている。
【0006】
特許文献1よりも前に登録査定となっている特許文献2のFIG.4には、中央アンカー202及び適当な固定具によって基板201に支持されたリング状のドライブマス210及びディスク状のセンスマス211を有するジャイロ200が記載されており、ここでは、ドライブマス210はZ軸回りに第1の周波数で振動可能であるとともにコリオリ力を受けてXY面に対して第2の周波数で傾斜し、センスマス211はY軸回りに振動可能であるとともにドライブマス210からの力を受けて第2の周波数で共振する、とされている。
【0007】
特許文献3には、慣性センサのリフト効果を打ち消すための電極を使用したMEMS型ジャイロスコープが開示されており、その〔0011〕には、「駆動システム内の不要な運動を減少させるために、直交方向の運動が生じたときに、1又は複数のプルーフ・マスの各々に隣接して配置された1又は複数の直交方向ステアリング電圧部材を選択的に荷電して、プルーフ・マスを検出電極の方向へ静電気的に引き付けることができる」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2007−513344号公報
【特許文献2】米国特許第6370937号明細書
【特許文献3】特開2007−304099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の角速度計では、第1発振器がX方向へ互いに逆位相で駆動されるとき、各構成要素の製造ばらつき等による構造的アンバランスにより、内部の第2発振器がコリオリ力の検出方向であるY方向に振動してしまう。この原因は、駆動方向(X方向)と検出方向(Y方向)との直交性が保たれていないこととされており、故に引用文献1では、第2発振器の中央付近に、上記直交性を維持できるように(すなわち振動方向のアライメントを調整するために)励起電極による補正構造を採用している。具体的には、センサ信号処理回路を経て得られるバイアス出力電圧に応じた補正用のDC電圧を励起電極に加えることで、静電力により上記アライメントが補正される。但し、引用文献1では、第1発振器の駆動振動によって、その振動体内部に懸架されている第2の発振器も、第1発振器と同量だけX方向に励振されるため、製造ばらつきを伴う構造では、Y方向変位を検出するための検出用固定電極とのギャップすなわち形成容量が変化してしまう。従って引用文献1の構造は、アライメント誤差がなく直交性が維持されているという理想的状況でも、不安定なバイアス発生要因を内包するものとなっており、補正誤差の要因となっている。
【0010】
特許文献2に記載のジャイロでは、リング状のドライブマス210がZ軸回りに回転振動励起され、その内部にあるディスク状のセンスマス211が検出方向であるY軸回りに回転振動するようになっており、特許文献1のものとは一見異なる構造ではある。しかし、特許文献2には、製造ばらつきにより発生するZ軸とY軸との直交性誤差を補正できるようにZ軸アライメントをDC的な静電力で補正するための手段が記載されており、故に引用文献1と同様、駆動振動により生じる誤差要因を内包している。
【0011】
一方、特許文献3に記載のジャイロスコープは、特許文献1及び2に記載のものとは異なり、駆動される振動体(プルーフ・マス)と検出に対応する振動体とが共通であり、検出方向は支持基板面に垂直なZ方向である。ここで、逆相で駆動される左右の振動体が製造ばらつき等によって構造的に非対称であったり、駆動用固定電極と振動体との間の電界分布が駆動平面の駆動軸(X軸)に対して非対称であったりすると、駆動振動方向(X方向)に直交する検出方向(Z方向)にも駆動力が発生してZ方向にも振動体の駆動変位が生じ、いわゆるクワドラチャーエラーとなる。そこで特許文献3では、支持基板上であって左右の振動体の駆動方向端部の近傍にステアリング電圧部材を設け、該ステアリング電圧部材にDC電位を与えて、Z方向の変位を調整又は抑制している。しかし特許文献3でも特許文献1及び2と同様、検出振動体が駆動振動と同量に駆動することになるので、製造ばらつきに伴う検出方向の変位が発生する。
【0012】
すなわち、いずれの引用文献でも、クワドラチャーエラーの発生は複数の要因(構造的非対称性、Z方向の駆動力(levitation効果、X方向駆動による検出電極間の静電容量変化)に依存している。さらに特許文献3では、特許文献1の図3に記載の実施例と共通の課題として、左右の振動体に対応する補正電極が必要であり、また補正のための調整も容易ではない。
【0013】
そこで本発明は、検出質量体が駆動質量体と弾性的に分離されており、駆動質量体の駆動振動によって検出質量体が駆動変位相当の変位を伴わない構造を有し、かつ、製造ばらつきに起因する構造的非対称性により発生する検出質量体の変位(クワドラチャーエラー)を相殺する手段を有する振動型ジャイロを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本願第1の発明は、第2の支持梁により支持基板に固定され、角速度により発生するコリオリ力よって平面に直交する軸線回りに回転励振されるように構成された検出質量体と、前記平面内の一方向に駆動振動できるように、前記検出質量体の内側に第1の支持梁によって懸垂支持された左右の駆動質量体と、を備えた振動型ジャイロであって、前記左右の駆動質量体は、互いに逆相で振動する逆相振動モードを有するように、前記駆動振動の方向に弾性を有する連結ばねによって互いに連結され、前記検出質量体は、前記左右の駆動質量体の駆動振動によっては前記駆動振動の方向に励振されないように構成され、前記左右の駆動質量体の駆動振動により前記検出質量体に作用する回転トルクを打ち消すために、前記検出質量体に対して逆相の静電力を作用させるように構成された補正電極をさらに有する、振動型ジャイロを提供する。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、前記振動型ジャイロのバイアス成分を求めるための位相検波回路と、前記バイアス成分を最小化するために前記補正電極に電圧を供給する制御器を含むフィードバック系と、をさらに有する、振動型ジャイロを提供する。
【0016】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、クワドラチャーエラーを補正すべく前記検出質量体に回転トルクを与えるように構成された2つの補正電極が前記検出質量体の近傍に配置され、前記2つの補正電極のうち一方が時計回り方向の回転トルクを発生させ、他方が反時計回り方向の回転トルクを発生させるように構成される、振動型ジャイロを提供する。
【0017】
第4の発明は、第1〜第3の発明のいずれか1つにおいて、前記第1の支持梁は直線状の梁である、振動型ジャイロを提供する。
【0018】
第5の発明は、第1〜第4の発明のいずれか1つにおいて、前記左右の駆動質量体の変位を測定する駆動モニタ用櫛歯電極が、前記左右の駆動質量体を駆動振動させるための駆動用櫛歯電極よりも前記基板の中央寄りに配置されている、振動型ジャイロを提供する。
【0019】
第6の発明は、第5の発明において、前記駆動モニタ用櫛歯電極は差動構成を有し、前記左右の駆動質量体は、該駆動モニタ用櫛歯電極による構造的不釣合を解消するためのダミー櫛歯電極を有する、振動型ジャイロを提供する。
【0020】
第7の発明は、第1〜第6の発明のいずれか1つにおいて、前記連結ばねの一端が前記基板に固定されている、振動型ジャイロを提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、左右の駆動質量体の駆動振動により検出質量体が直接駆動されない構造において、構造的アンバランスによる検出質量体の検出方向の回転変位を相殺する補正用電極を設けることにより、製造ばらつき等に起因する構造的非対称性により発生する漏れ出力(クワドラチャーエラー)を排除又は抑制することができる。
【0022】
左右の駆動質量体を支持する第1の支持梁を直線状の梁とすることにより、梁の長手方向の剛性を大きく向上させ、駆動力の漏れ成分や他の慣性力による変位を抑制することができる。
【0023】
左右の駆動質量体の変位を測定する駆動モニタ用櫛歯電極を、左右の駆動質量体を駆動振動させるための駆動用櫛歯電極よりも基板の中央寄りに配置することにより、左右の駆動質量体とその変位を検出する駆動モニタ用櫛歯電極との位置関係の変化を最小化し、モニタ出力への影響を抑制することができる。
【0024】
左右の駆動質量体にダミー電極を設けることにより、駆動モニタ用櫛歯電極を差動構成にしたことに起因する左右の非対称性を解消することができる。
【0025】
前記左右の駆動質量体を互いに連結する連結ばねの一端を基板に固定することにより、検出質量体の回転軸方向(Z方向)の共振モード周波数を向上させることができ、外力による不要なZ方向変位を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の好適な実施形態に係る振動型ジャイロを示す平面図である。
【図2】図1のジャイロのII−II線に沿う断面図である。
【図3】図1のジャイロのIII−III線に沿う断面図である。
【図4】(a)駆動質量体の支持梁を折り曲げ式とした例を示す図であり、(b)駆動質量体の支持梁を直線式とした例を示す図である。
【図5】図4の支持梁について、Y方向の剛性を構造解析シミュレーションにより求めた結果を示すグラフである。
【図6】図1のジャイロにおいて使用される、検出系回転振動を抑制するためのフィードバック系回路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る振動型ジャイロ1の基本構造を示す平面図であり、図2及び図3はそれぞれ、図1のII−II線及びIII−III線に沿った切断面を示す断面図である。
【0028】
各図において、参照符号2はガラス等の絶縁材料からなる支持基板を示しており、振動型ジャイロ1の他の構造部材はシリコンの単結晶から作製される。図1に示す振動型ジャイロにおいて、支持基板2の上に、シリコンの単結晶からなる左右の駆動質量体4及び6(左側を4とする)の各々が、Y方向に直線状に延びる少なくとも1つ(図示例では4つ)の駆動支持梁8及び10に支持される。駆動支持梁8及び10は、駆動質量体4及び6が基板2の面内方向かつ左右方向である駆動方向(X方向)に可動となるように、その剛性が他方向の剛性に比べ低くなるように構成されている。また左右の駆動質量体4及び6は、弾性結合要素である中央連結ばね12により互いに結合されている。
【0029】
駆動質量体4及び6に接続されていない駆動支持梁8及び10の他端は、駆動質量体4及び6を囲繞するように設けられた略リング形状の検出質量体14に接続されている。検出質量体14は、少なくとも1つ(図示例では4つ)の検出支持梁16に支持され、各支持梁16の他端は基板2に接合された周辺部アンカー18に接続されている。なお図中において、黒く塗り潰した部分は基板2に固定されている部分を示し、他の部分(白抜き等)は基板に固定されていない又は可動部分を示す。
【0030】
検出質量体14を支持する検出支持梁16は、基板2の面に垂直なZ方向回りに回転振動が可能となるように、その回転方向の剛性が他方向の剛性に比べ低くなるように構成されている。なおこの場合、図示例の中央連結ばね12は上下各3つの梁からなり、上下それぞれにおける3つの梁のうちの中央の梁が、基板2の中央部に固定された中央アンカー20に接続されている。このように中央連結梁12の中央部の梁を中央アンカー20に固定することにより、Z方向の共振モード周波数を向上させることができ、外力による不要なZ方向変位を抑制できる。なお、断面図2及び3に示すように、駆動質量体4及び6、駆動支持梁8及び10、中央連結梁12、検出質量体14、並びに検出支持梁16は、基板2と所定の間隔を有して対向配置されている。
【0031】
図1に示すように、左側の駆動質量体4は、略矩形の枠状部材であり、その外側寄りの側(中央に遠い側)から中央側に向けて延びる櫛歯状の電極22を有し、これに対向する左側駆動用櫛歯固定電極24が基板2に固定配置されており、これにより左側の質量駆動体4を左右方向(X方向)に駆動振動させることができる。同様に、右側の駆動質量体6は、略矩形の枠状部材であり、その外側寄りの側(中央に遠い側)から中央側に向けて延びる櫛歯状の電極26を有し、これに対向する右側駆動用櫛歯固定電極28が基板2に固定配置されており、これにより右側の質量駆動体6を左右方向(X方向)に駆動振動させることができる。
【0032】
左側の駆動質量体4は、その中央寄りの側から反中央側に向けて延びる櫛歯状の電極30を有し、これに対向する左側駆動モニタ用櫛歯固定電極32が基板2に固定配置されており、これにより左側の駆動質量体4の変位量を測定できる。また右側の駆動質量体4は、その中央寄りの側に設けられたフレーム34の反中央側から中央側に向けて延びる櫛歯状の電極36を有し、これに対向する右側駆動モニタ用櫛歯固定電極38が基板2に固定配置されており、これにより右側の駆動質量体6の変位量を測定できる。
【0033】
ここで、振動型ジャイロ1にZ軸回りの角速度が入力された場合、検出質量体14とともに左右の駆動質量体も回転振動するため、左右の駆動質量体に設けた櫛歯電極30及び36も回転変位し、駆動モニタ用櫛歯電極32及び38との位置関係が変化し、それに伴い対向する櫛歯間の容量も変化してモニタ出力に影響する。従って上述の左右駆動質量体のモニタ機構(すなわち櫛歯電極30、32、36及び38)は、検出質量体14の中央に可能な限り近い位置に設けることが好ましい。
【0034】
また図1からわかるように、左側の駆動質量体4におけるモニタ機構すなわち櫛歯電極30及び32と、右側の駆動質量体6におけるモニタ機構すなわち櫛歯電極36及び38とは、左右対称(Y軸に関して対称)とはなっていない。これは、左右のモニタ機構をいわゆる差動式とするためであり、具体的に言えば、左右の駆動質量体が中央側に移動したときは左側のモニタ機構では対向する櫛歯間の距離が拡大し、逆に右側のモニタ機構では対向する櫛歯間の距離が縮小する。駆動用櫛歯固定電極24及び28に駆動AC電圧が印加されると、周囲に存在する浮遊容量によってカップリング電流としてモニタ用櫛歯電極に流れ、不要なモニタ出力として現れることがあるが、このような影響を上記差動式の構成によって排除又は抑制することができる。
【0035】
また上述のように左右のモニタ電極を左右対称の構造としなかったことにより、左右の駆動質量体のモーメントに差異が生じるので、図1に示すように、左側の質量駆動体4にもフレーム34と左右対称となるフレーム40を設け、さらに左右の駆動質量体が左右対称構造となるように、電圧印加されないダミー櫛歯電極42を設けることが好ましい。
【0036】
図1に示すように、検出質量体14は径方向外側に延びる櫛歯状の電極44を有し、これに対向する検出モニタ用櫛歯固定電極46及び48が基板2に固定配置されている。詳細には、X−Y平面の第1象限(図1の右上部)の領域に、該第1象限内の櫛歯電極44に対向する検出モニタ用櫛歯固定電極46が固定配置され、X−Y平面の第2象限(図1の左上部)の領域に、該第2象限内の櫛歯電極44に対向する検出モニタ用櫛歯固定電極48が固定配置される。さらに、検出モニタ用櫛歯固定電極46及び48は、差動式モニタ機構を構成しており、具体的に言えば、検出質量体14がZ軸回りに時計方向に回転したときは、第1象限内では対向する櫛歯間の距離が拡大し、逆に第2象限内では対向する櫛歯間の距離が縮小する。このような構成により、検出質量体の回転駆動に起因するノイズを相殺することができ、より高精度の測定を行うことができる。
【0037】
またX−Y平面の第3象限(図1の左下部)内及び第4象限(図1の右下部)内には、それぞれ、検出質量体14の櫛歯電極44に対向する第1の補正用櫛歯電極50及び第2の補正用櫛歯電極52が基板2に固定配置される。該補正用櫛歯電極の形状自体は上述の検出モニタ用櫛歯固定電極と同等でよいが、その機能はクワドラチャーエラー(クワドラチャー変位)の相殺である。これについては後述する。
【0038】
上述のように構成された振動型ジャイロは、以下のようなマイクロマシニングプロセスを適用して作製することができる。
【0039】
先ず、ガラス支持基板2とジャイロの可動部材との間に所定の間隙(図2、図3参照)が形成されるように、RIE(反応性イオンエッチング)装置等を利用したドライエッチング処理をシリコン基板に施す。但し、ドライエッチングされてはいけない領域として、間隙を形成する部分以外については、半導体フォトリソグラフィ技術等を適用して、例えばレジストマスクを予め形成しておく。
【0040】
次に、ガラス支持基板とシリコン基板とを陽極接合手法等により接合する。この段階で、シリコン基板側から研磨を行い、該シリコン基板を所定の厚さにするとともに、ボンディング用パッドとして必要とされる領域に、Cr&Au等の導電性メタルの選択的スパッタリングを行い、電極パッド(図示せず)を形成する。
【0041】
さらに、接合されたシリコン基板の表面側(研磨側)に、フォトレジスト等のマスク材料を利用して、図1の平面図で示されるレジストパターンを、フォトリソグラフィ技術を利用して作製する。この場合も、エッチングされてはいけない領域がレジストマスクにより保護される。
【0042】
次に、RIE装置等を利用したドライエッチングにより、シリコン基板の厚さ方向に貫通エッチングを行う。以上のようなマイクロマシニング技術を適用した製造プロセスにより、振動型ジャイロの基本構造を作製することができる。
【0043】
このようにジャイロを構成する材料として必要なものはシリコン基板及びガラス基板のみであり、シリコン基板とほぼ同一の線膨張係数を有するガラス材料を使用することで、温度変化に対して構造的ひずみ(熱ひずみ)や応力(熱応力)が発生しにくくなり、構造的に安定かつ特性的にも優れた振動型ジャイロが提供可能となる。
【0044】
次に、振動型ジャイロの動作について説明する。例えば、X軸方向に速度Vxで振動する質量Mの検出質量体にZ軸回りの回転(回転角速度Ωz)が加わった場合に生じるY軸方向のコリオリ力Fyの絶対量は、
Fy=2ΩzMVx
で表される。このため、コリオリ力Fyによる該検出質量体の変位を検出することで角速度を検出する振動型ジャイロでは、駆動質量体を速度Vxで励振させる必要がある。このための方式として、例えば静電力によるコームドライブ方式が利用される。
【0045】
左側駆動質量体4と左側駆動用櫛歯電極24との間、及び右側駆動質量体6と右側駆動用櫛歯電極28との間に、DC電圧VDCとAC電圧VACとの和を印加すると、VACの電圧周期と等しい駆動力が発生する。一方、左右の駆動質量体4及び6は弾性の中央連結ばね12により互いに連結されているので、互いにX方向に近づき又は離れる、いわゆる逆相振動の共振モードを有する。従って、VACの周波数をこの逆相振動モードの共振周波数と一致させて振動させることで、駆動質量体4及び6は、互いに接離する逆相振動を呈する。この振動の速度Vxは、左右の駆動モニタ用櫛歯電極32及び38により、静電容量変化として電気回路を通じて検出され、駆動振動振幅を一定にするためのAGC制御(Auto Gain Control)に利用される。
【0046】
左右の駆動質量体4及び6が上記のようにX方向に逆相振動する場合、角速度Ωzが図1の紙面に垂直な方向(Z方向)に作用すると、左右の駆動質量体には逆相のコリオリ力FyがY方向に生じる。このコリオリ力によって検出質量体14にはZ軸回りの回転トルクが作用し、検出質量体14はZ軸回りに回転変位振動する。この結果、検出質量体14に設けた櫛歯電極44と第1及び第2の検出用固定櫛歯電極46及び48との間の静電容量が差動で変化し、その差動容量変化を電気的に読み出し、後述する位相検波回路で処理を行うことで、角速度Ωzを検出することができる。
【0047】
図1に示す振動型ジャイロは、特許文献1〜3に示したような構造のものとは異なり、左右の駆動質量体の駆動振動によって検出質量体が類似の振幅で振動するものではない。詳細には、特に特許文献1及び3では、第1発振器又は第1のプルーフ・マス(駆動質量体)の駆動振動により第2発振器又は第2のプルーフ・マス(検出質量体)が駆動質量体と同程度に変位し、さらに検出質量体は固定電極と挟ギャップを形成して対向配置され、検出用の静電容量を形成している。このような構造では、ジャイロの製造プロセス、特にシリコンエッチングの誤差等により、上記狭ギャップにばらつきが生じ、駆動振動による容量変化によってクワドラチャーエラー(漏れ出力)が発生する。これに対し本実施形態では、駆動振動と検出振動とは実質的に分離されているため、角速度入力がないときの漏れ出力を大きく低減することができ、漏れ出力によるバイアス値やその変動を抑制することができる。
【0048】
また特許文献1及び3では、例えば図4(a)に模式的に示すように、駆動質量体に相当する構造体Mを支持する支持梁として少なくとも1つの屈曲部を有する折り曲げ式の梁B1を使用しているので、駆動力の漏れ成分により駆動質量体Mが検出方向(Y方向)に変位し易い構造となっている。これに対し図1に示す実施形態では、図4(b)に模式的に示すように、駆動質量体及び検出質量体の支持梁として直線状の梁B2を使用しているので、梁の長手方向の剛性を大きく向上させることができる。
【0049】
図5は、折り曲げ式の梁B1と直線状の梁B2との比較例として、梁B1及びB2のそれぞれについて剛性をシミュレーションにより求めた結果を表すグラフである。図5の例では、梁B2の剛性(グラフb)は梁B1の剛性(グラフa)よりも約13倍大きくなっている。従って直線状の梁を採用することにより、駆動力の漏れ成分や他の慣性力による変位を抑制でき、外乱力による変位制御に加え、特に検出方向の漏れ変位制御による駆動力変動(振幅と方向性)、さらにはクワドラチャーエラーも抑制できることがわかる。
【0050】
本実施形態では、従来技術に関して述べたような要因に基づくクワドラチャーエラーは大きく抑制されるが、それでも尚、各構成要素の製造ばらつき等により、左右の駆動質量体4及び6の振動方向や駆動力の発生方向が、X方向から僅かにずれる場合がある。XY平面内でこのずれが生じると、検出質量体14を回転振動させようとするトルクが生じ、結果としてクワドラチャーエラーが発生する。そこで本願発明では、この回転トルクを相殺する逆トルクを検出質量体14に与えるために、上述の第1の補正用櫛歯電極50及び第2の補正用櫛歯電極52を利用する。
【0051】
詳細には、第1の補正用櫛歯電極50及び第2の補正用櫛歯電極52にAC電圧を印加して静電引力を発生させることにより、角速度入力がゼロのときに発生する漏れ回転変位を相殺することができる。なお図1に示すように、本実施形態では第3象限(左下)及び第4象限(右下)にそれぞれ補正用櫛歯電極を設けているが、該補正用櫛歯電極にAC電圧を印加したときに、第3象限内では反時計回り、逆に第4象限内では時計回りのトルクが発生するように補正用櫛歯と検出質量体の櫛歯との位置関係が規定されており、これにより検出質量体の両方向の回転変位振動を効率よく抑制できるようになっている。
【0052】
図6は、図1に示した振動型ジャイロに適用可能な、検出系回転振動を抑制するためのフィードバック系回路を示すブロック図である。駆動系制御回路60(PLL(phase locked loop)&AGC)は駆動用櫛歯電極24及び28に関連付けられており、第1CV変換器62はモニタ用櫛歯固定電極32及び38に関連付けられている。駆動系制御回路60及び第1CV変換器62により、駆動質量体4及び6が、規定された逆相周波数及び振幅で駆動制御される。検出質量体14の回転変位に伴う櫛歯電極44と検出モニタ用櫛歯固定電極46及び48との間の容量変化は、第2CV変換器64によって電圧に変換され、アンプ66によって増幅された後、第1位相検波回路68及び第2位相検波回路70のそれぞれにおいて位相検波される。
【0053】
第1位相検波回路68では、第2CV変換器64でCV変換されアンプ66で増幅された容量変化が、駆動系制御回路60からの駆動速度信号によって位相検波され、一方第2位相検波回路70では、第2CV変換器64でCV変換されアンプ66で増幅された容量変化が、駆動系制御回路60からの駆動変位信号によって位相検波される。第1位相検波回路68によって駆動速度位相で検波された出力(信号)は、第1ローパスフィルタ(LPF)72によって帯域周波数制限がなされ、角速度信号(レート)として出力される。
【0054】
一方、第2位相検波回路70によって駆動変位振動位相で位相検波される出力(信号)は、バイアス成分を表すのであるが、第2CV変換器64からの容量変化と駆動系制御回路60からの駆動速度信号とは、位相が90度ずれている。そこで、参照符号74で示すように、適当な手段を用いて駆動系制御回路60からの信号を位相シフトさせて、第2CV変換器64からの容量変化と位相を合わせる処理を行った後、第2位相検波回路での位相検波を行う。得られたバイアス成分は、第2ローパスフィルタ(LPF)76によって帯域周波数制限がなされた後、制御器78に送られる。制御器78は、第2ローパスフィルタ76からのバイアス信号を最小化すべく、駆動周波数と逆位相となるように変調された逆相のペアのAC電圧を発生させ、このAC電圧が上述の補正用電極50及び52に印加されるような制御を行う。この逆相のAC電圧を補正用電極50及び52に印加することにより、構造的アンバランスに起因する検出方向の回転変位を抑制(相殺)することができる。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る振動型ジャイロは、駆動質量体の振動と検出質量体の振動とを分離できる構成であるとともに、さらに構造的アンバランスによる検出質量体の検出方向の回転変位を相殺する補正電極を具備している。従って本願発明によれば、クワドラチャーエラーを抑制したバイアス安定性に優れた振動型ジャイロが提供される。
【符号の説明】
【0056】
2 基板
4、6 駆動質量体
12 中央連結ばね
14 検出質量体
24、28 駆動用櫛歯固定電極
32、38 駆動モニタ用櫛歯固定電極
42 ダミー電極
46、48 検出モニタ用櫛歯固定電極
50、52 補正用櫛歯電極
60 駆動系制御回路
62、64 CV変換器
68、70 位相検波回路
78 制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2の支持梁により支持基板に固定され、角速度により発生するコリオリ力よって平面に直交する軸線回りに回転励振されるように構成された検出質量体と、
前記平面内の一方向に駆動振動できるように、前記検出質量体の内側に第1の支持梁によって懸垂支持された左右の駆動質量体と、を備えた振動型ジャイロであって、
前記左右の駆動質量体は、互いに逆相で振動する逆相振動モードを有するように、前記駆動振動の方向に弾性を有する連結ばねによって互いに連結され、
前記検出質量体は、前記左右の駆動質量体の駆動振動によっては前記駆動振動の方向に励振されないように構成され、
前記左右の駆動質量体の駆動振動により前記検出質量体に作用する回転トルクを打ち消すために、前記検出質量体に対して逆相の静電力を作用させるように構成された補正電極をさらに有する、振動型ジャイロ。
【請求項2】
前記振動型ジャイロのバイアス成分を求めるための位相検波回路と、前記バイアス成分を最小化するために前記補正電極に電圧を供給する制御器を含むフィードバック系と、をさらに有する、請求項1に記載の振動型ジャイロ。
【請求項3】
クワドラチャーエラーを補正すべく前記検出質量体に回転トルクを与えるように構成された2つの補正電極が前記検出質量体の近傍に配置され、前記2つの補正電極のうち一方が時計回り方向の回転トルクを発生させ、他方が反時計回り方向の回転トルクを発生させるように構成される、請求項1又は2に記載の振動型ジャイロ。
【請求項4】
前記第1の支持梁は直線状の梁である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の振動型ジャイロ。
【請求項5】
前記左右の駆動質量体の変位を測定する駆動モニタ用櫛歯電極が、前記左右の駆動質量体を駆動振動させるための駆動用櫛歯電極よりも前記基板の中央寄りに配置されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動型ジャイロ。
【請求項6】
前記駆動モニタ用櫛歯電極は差動構成を有し、前記左右の駆動質量体は、該駆動モニタ用櫛歯電極による構造的不釣合を解消するためのダミー櫛歯電極を有する、請求項5に記載の振動型ジャイロ。
【請求項7】
前記連結ばねの一端が前記基板に固定されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の振動型ジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96801(P2013−96801A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238925(P2011−238925)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000176730)三菱プレシジョン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】