刃付け方法及び刃付け装置
【課題】高硬度の刃物を、高い再現性、高い量産性で製造する。
【解決手段】レーザー光源11は、概ね5ps(5×10−12s)より短い時間幅を持ち、単位パルス出力の面密度が1J/cm2より小さな、超短パルスのパルスレーザー光、いわゆる非熱的レーザー光を発振することができる。このパルスレーザー光を刃先面22上で集光する集光光学系12が設けられている。刃先面22上の凸部をこの照射箇所221としてこのパルスレーザー光を照射することにより、凸部を除去物30として除去することができ、刃先面22の平坦化を行うことができる。また、流体を刃先面22上に噴出する噴出口13が設けられている。この流体は照射箇所221上を刃先面22に沿って通過するため、パルスレーザー光の照射によって発熱があった場合でも、この流体によって速やかに冷却が行われる。
【解決手段】レーザー光源11は、概ね5ps(5×10−12s)より短い時間幅を持ち、単位パルス出力の面密度が1J/cm2より小さな、超短パルスのパルスレーザー光、いわゆる非熱的レーザー光を発振することができる。このパルスレーザー光を刃先面22上で集光する集光光学系12が設けられている。刃先面22上の凸部をこの照射箇所221としてこのパルスレーザー光を照射することにより、凸部を除去物30として除去することができ、刃先面22の平坦化を行うことができる。また、流体を刃先面22上に噴出する噴出口13が設けられている。この流体は照射箇所221上を刃先面22に沿って通過するため、パルスレーザー光の照射によって発熱があった場合でも、この流体によって速やかに冷却が行われる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削具となる刃物の刃先を加工する刃付け方法、及びこれに用いられる刃付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を加工して製造される刃物は、特に切削具として様々な用途に用いられている。刃物において一番重要となるのはその刃先であり、その機能が充分に発揮できるような鋭利な形状に刃先は形成される。例えば高精度な包丁、ナイフ等の製造においては、この刃先の加工は、専門の職人が手作業で流水と砥石を用いて手作業で行っている。これによって鋭利で高い切れ味をもつ刃先を形成することができることはよく知られているが、再現性やその量産性の観点からは問題があり、同じ刃物であっても、量産品である包丁やナイフ等を製造する際にはこの方法は用いられていない。
【0003】
こうした量産品である刃物に対し、機械を用いて刃先の加工を自動的に行う方法(刃付け方法)が、多数提案されている。例えば、特許文献1、2には、砥石を用いた研削条件を制御して最適化することによって加工を行う技術が記載されている。これらの方法においては、従来職人の手によって行われてきた刃先の加工を、機械を用いた制御によって再現性、制御性よく行うことができる。しかしながら、刃先を含む刃物全体には高い機械的強度が要求されるため、刃物の材料としては、機械的強度の高い鍛造鋼が用いられている。
【0004】
一方、例えば切削加工にレーザー光を用いる技術(レーザー加工)が、近年多方面で用いられており、高い精度と高い量産性が得られている。刃先を形成する際においても、例えば特許文献3に、レーザー加工を応用した技術が記載されている。この技術においては、レーザー光によって刃先を局所的に溶融させると共に、溶融した追加材料をこの箇所に供給し、固化させることによって、刃先を形成する。この箇所においては、追加材料を含んだ高硬度の合金が形成されるため、耐久性が高い刃先を得ることができる。また、強度や照射位置の制御が容易であるレーザー光を用いるため、その再現性は良好であり、レーザー光の強度を高くすることにより処理時間を短くすることもできるため、量産性も良好である。ただし、この方法によっては刃先自身を所望の鋭い形状とすることはできず、その後に前記の機械的研磨を行うことが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−106467号公報
【特許文献2】特表平8−507002号公報
【特許文献3】特開2001−38534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の通り、刃先を含む刃物全体には、鍛造鋼が用いられる。鍛造鋼は、素材となる金属に対して繰り返しの衝撃によって圧力を加えることで得られ、高硬度かつ高剛性であるが、これらの特性は、高温での熱処理によって失われる。特許文献3に記載の技術においては、レーザー光が照射された箇所及びその近傍は高温となり、合金が形成された箇所(追加材料が供給された箇所)では、前記の通り、高硬度となる。これに対して、この箇所の近傍でかつ追加材料が供給されない箇所においては、高温となるだけで合金は形成されず、鍛造鋼のもつ高硬度特性は失われる。あるいは、短時間の加熱であれば、結晶が細かくなるために若干の強度向上効果はあるが、元の鍛造鋼の特性ほどには回復しない。従って、高硬度となるのは刃先におけるレーザー光の照射によって溶融した箇所のみであり、刃物全体を高硬度とすることは困難であった。
【0007】
また、レーザー光を用いる場合だけではなく、機械的研磨を行う特許文献1、特許文献2に記載の技術においても、研磨の際の摩擦熱によって刃先の温度が上昇する。この温度上昇は、研磨速度を高めた場合には特に顕著である。従って、レーザー光を用いる特許文献3に記載の技術を用いる場合だけでなく、機械的研磨のみを行った場合でも、鍛造鋼が本来もつ高硬度特性は、上記と同様に失われる。
【0008】
こうした状況は、刃先が鋭利である場合に、特に顕著である。刃先が鋭利であれば、刃先近傍における金属(鍛造鋼)は薄くなるため、レーザー加工や機械的研磨の際の局所的な温度上昇は特に大きく、鍛造鋼のもつ高硬度特性は失われやすい。また、この場合には刃先全体の機械的強度が低くなり、刃こぼれを生じやすくなるため、機械的研磨自身が困難であることも明らかである。
【0009】
すなわち、従来の刃付け方法においては、高硬度の刃物を、高い再現性、高い量産性で製造することは困難であった。
【0010】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の刃付け装置は、金属で構成された刃物の刃先を加工する刃付け装置であって、前記刃物における前記刃先を構成する刃先面に対して非熱的レーザー光を照射するレーザー光源と、流体を噴出し、前記非熱的レーザー光の前記刃先面における照射箇所において前記刃先面に沿って流れる流体を噴出する噴出口と、を具備することを特徴とする。
本発明の刃付け装置は、前記流体を排出し、前記照射箇所から見て前記レーザー光源と反対側に位置する排出口を具備することを特徴とする。
本発明の刃付け装置は、2つの刃先面で構成される刃先を具備する刃物の刃先を加工する刃付け装置であって、前記2つの刃先面のそれぞれに対応して、2つの前記レーザー光源、及び2つの前記噴出口を具備することを特徴とする。
本発明の刃付け装置において、前記流体は、不活性ガスを含むことを特徴とする。
本発明の刃付け装置において、前記流体は、水を含むことを特徴とする。
本発明の刃付け方法は、金属で構成された刃物の刃先を加工する刃付け方法であって、非熱的レーザー光を、前記刃物における前記刃先を構成する刃先面に対して照射し、前記非熱的レーザー光の前記刃先面における照射箇所において前記刃先面に沿って流体を流すことを特徴とする。
本発明の刃付け方法は、前記照射箇所から見て前記非熱的レーザー光を発するレーザー光源と反対側に位置する排出口から前記流体を排出することを特徴とする。
本発明の刃付け方法は、2つの刃先面で構成される刃先を具備する刃物の刃先を加工する刃付け方法であって、前記2つの刃先面のそれぞれにおいて、前記非熱的レーザー光を照射し、かつ前記流体を流すことを特徴とする。
本発明の刃付け方法において、前記流体は、不活性ガスを含むことを特徴とする。
本発明の刃付け方法において、前記流体は、水を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以上のように構成されているので、高硬度の刃物を、高い再現性、高い量産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る刃付け装置によって刃先の加工が行われる際の構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る刃付け装置によって加工される刃物の形状を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る刃付け装置によって刃先の加工が行われる際の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る刃付け方法、刃付け装置につき説明する。ここでは、刃先を構成する刃先面に対して、非熱的レーザー光を用いた加工が行われる。なお、ここでいう刃先とは、金属あるいは非金属で構成された試料の機械的加工を行なう際に、試料に当接させて用いられる箇所であり、刃物とは、金属で構成され、この刃先を具備するものであると定義され、刀、ナイフだけでなく、ヤスリ等も含むものとする。
【0015】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る刃付け装置によって刃先の加工が行われる際の構成を図1に示す。
【0016】
この刃付け装置によって、刃物20の刃先21の加工が特に好ましく行われる。この刃物20の形態を図2に示す。図2において、(a)はこの刃物20の正面図、(b)は側面図、(c)は背面図、(d)は斜視図をそれぞれ示す。この刃物20を構成する面は、刃先面22、前面23、背面24、側面25となっており、いずれも平面となっている。刃先面22と背面24とが鋭角をもって交差する線状の箇所が刃先21となっている。この刃先21を鋭利にするためには、刃先面22と背面24の平面度を高めることが必要である。
【0017】
刃物20は、鍛造鋼で形成される。鍛造鋼は、素材となる鋼(例えばステンレス鋼)に例えば熱間又は冷間で鍛造ハンマーを用いて高い圧力を加えることによって得られる。鍛造鋼の金属組織は緻密となるため、内部欠陥のない、高い硬度、高い剛性が得られる。刃先21を構成する刃先面22、前面23、背面24は、例えば鍛造ハンマーを用いて鍛造の際に粗く形成することができる。ただし、鍛造の直後ではこれらの面の平面度は低く、粗いため、これらによって形成される刃先21の形状精度は低く、鋭利とはならず、刃付け、仕上げ研磨後に初めてその機能(試料の切断)を充分な性能で発揮することができる。ここでは、この刃先21を形成する仕上げ作業を刃付けと呼ぶ。この刃付け作業は、刃先面22を平坦化する(研磨加工する)ことによって行われる。この刃付け装置は、この加工に特に好ましく用いられる。
【0018】
図1は、この刃付け装置が刃先面22の加工を行なう際の形態を示している。この刃付け装置においては、刃先面22を非熱的レーザー光によって照射するレーザー光源11が用いられる。レーザー光源11は、例えばチタンサファイアレーザーであり、波長800nmのレーザー光を発振する。特に、例えば特許3283265号公報に記載されているような、概ね5ps(5×10−12s)より短い時間幅を持ち、単位パルス出力の面密度が1J/cm2より小さな、超短パルスのパルスレーザー光、いわゆる非熱的レーザー光を発振することができる。刃物20(刃先面22)に非熱的レーザーが照射された場合、刃先面22における照射箇所221の表面は熱によって直接蒸発、昇華し、金属原子が除去物30となって除去される。しかしながら、レーザーのパルス幅が小さくレーザーで加熱される時間が極めて短いため、この熱がレーザー照射箇所221の周辺領域に伝達される前にオフとなる。従って、熱伝達がなく、実質的に発熱がない場合と同様の状況となる。更に、その持続時間が極めて短く、かつ後述されるように流体によって冷却されるため、その照射による発熱を無視できる程度に低減することができる。従って、レーザー照射箇所221の周辺への熱の伝達を伴わない非熱的加工を行うことができる。なお、非熱的加工を行うためには、刃先面22上におけるレーザー光のエネルギー強度が高く、エネルギー面密度が低いことが必要であり、このために、このパルスレーザー光を刃先面22上で集光する集光光学系12が設けられている。刃先面22上の凸部をこの照射箇所221としてこのパルスレーザー光を照射することにより、凸部を除去物30として除去することができ、刃先面22の平坦化を行うことができる。あるいは、単なる平坦化だけでなく、刃先面22を所望の形状(曲面を含む)とすることもできる。
【0019】
除去物30は、固体の飛散物や昇華物(気体)等、様々な形態をとる。除去物30を構成する材料は、鍛造鋼を構成する元素(Fe、Cr等)だけでなく、これらの元素と雰囲気中の酸素とが結合した酸化物となる場合もある。また、除去物30はパルスレーザー光が反射する方向に強く反跳される。入射するパルスレーザー光がこの除去物30を照射すると、除去物30がパルスレーザー光により反跳され、或いはパルスレーザー光の照射によって気化し、刃先面22等に再付着することがある。これを抑制するためには、入射するパルスレーザー光によって除去物30が照射される可能性が低くなるように、刃先面22に対するパルスレーザー光の入射角度θを好ましくは90°よりも充分小さくする。
【0020】
また、刃先面22に存在する凸部の分布に応じ、刃先面22上をパルスレーザー光が走査できるように、レーザー光源11、集光光学系12は制御される。このため、レーザー光源11や集光光学系12の位置や取り付け角度は、パーソナルコンピュータ等で構成される制御部(図示せず)によって適宜制御され、この位置や取り付け角度が移動する速度も、適宜制御される。パルスレーザー光の発振幅や、強度も同様に制御される。
【0021】
また、流体を刃先面22上に噴出する噴出口13が設けられている。この流体は、図1中の白矢印で示されるように、刃先面22に沿って図1中の上側、すなわち、刃先21の方向に向かって流れる。この流体は、刃先面22を構成する材料と反応を生じないアルゴン等の不活性ガスで構成される。あるいは、気体ではなく、刃先面22を構成する材料と反応を生じない液体である水をこの流体として用いてもよい。ただし、この流体が気体、液体のいずれであっても、パルスレーザー光の透過率が充分に高く、上記の加工を刃先面22に対して行えることが必要である。また、刃先面22の冷却が充分に行われるように、熱伝導率の高い流体であることが好ましい。なお、この流体の温度は常温もよいが、冷却効率を高めるために常温より低く設定してもよい。
【0022】
また、この流体は照射箇所221上を刃先面22に沿って通過するため、パルスレーザー光の照射によって発熱があった場合でも、この流体によって速やかに冷却が行われる。
【0023】
その後、この流体は、刃先21を通過した後、刃先21の上部に設けられた排出口14から排出(排気)される。この際に、除去物30も同時に排出される。従って、除去物30が刃物20の表面(刃先面22を含む)に再付着することが抑制される。この流体の流量や流速は、この効果を奏する範囲内で任意である。
【0024】
加工中の刃先面22は、刃先面モニター15によって観察される。刃先面モニター15は、非接触で刃先面22の形状や粗さをモニターし、様々な形態のものを使用することができる。例えば、CCD等の撮像素子を用いたカメラを用い、これに接続されたディスプレイで利用者がこれらの表面を観察できる設定としてもよく、刃先面22の表面形状や粗さを測定用レーザー光を用いて計測するだけの非接触粗さ計を用いることもできる。あるいは、これらを結合させて用いることもできる。また、カメラを用いる場合には、刃先面モニター15に対応した照明用光源を設けることもできる。
【0025】
刃先面モニター15の出力に応じ、制御部は、例えば刃先面22における凸部にパルスレーザー光が照射されるようにレーザー光源11を制御することができる。これにより、凸部を除去物30に変換して除去し、刃先面22を平坦に加工することができる。特に、刃先21の近傍においてもこの加工を行うことができるため、刃先21近傍の刃先面22の平面度を向上させることにより、刃先21を鋭利かつ精密に加工することができる。
【0026】
この構成においては、刃先面22が、レーザー光源11が発したパルスレーザー光によって非熱的に加工される。パルスレーザー光によって照射された照射箇所221における金属結合は、パルスレーザー光のもつ光エネルギーによって蒸発・昇華させられることによって切断されるため、この箇所から除去物30が飛散する。この除去物30は、噴出口13から噴出した流体の流れに乗って、刃先面22から除去され、最終的には排出口14から流体と共に排出される。
【0027】
一方、このパルスレーザー光の持続時間は前記の通り極めて短く、かつ照射箇所221は除去物30が形成された極狭い範囲である。しかも、この照射箇所221は、噴出口13から噴出された流体によって速やかに冷却される。従って、除去物30が発生した領域は、蒸発温度以上で蒸発・昇華し、その隣合う近傍は、相変化を起こさず、その温度上昇は無視できる程度に小さく、刃物20を構成する材料(鍛造鋼)に対する熱の影響を無視できる程度に小さくすることができる。従って、鍛造鋼の高硬度等の特性が損なわれることがなく、刃物20全体の硬度を高く保つことができる。また、機械的研磨を行う場合のように、刃物20に対して熱ひずみなど引張残留応力を発生させることもないため、刃先や刃先端部に割れや亀裂を発生させることもない。
【0028】
前記の通り、パルスレーザー光の強度、照射位置等の制御は、制御部によって再現性よく行うことができる。また、刃先面22における凸部を除去物30として除去する動作は、超短パルスのレーザー光が発振されている極めて短い時間に行われるため、その処理速度を高くすることは容易である。従って、この刃付け装置によれば、高い再現性、高い量産性で刃先21の加工を行うことができる。
【0029】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る刃付け装置によって刃先の加工が行われる際の構成を図3に示す。この刃付け装置は、刃物50において刃先51を構成する2つの刃先面52、53の平坦化を共に行うことによって、刃先51を鋭利に加工する。図3は、この際の構成を刃先面52、53に垂直な断面方向において示した図である。
【0030】
この刃付け装置においては、刃先面52、53をそれぞれパルスレーザー光によって照射するレーザー光源41、42が用いられる。レーザー光源41、42は、前記のレーザー光源11と同様であり、非熱的レーザーを刃先面52、53にそれぞれ照射する。従って、刃先面52、53上における凸部を除去物30として除去することができ、刃先面52、53の平坦化を行うことができる。従って、刃先51を鋭利に加工することができる。この際、刃先面52、53に対するパルスレーザー光の入射角度θを90°よりも0°に近い角度にすることが好ましい点についても、第1の実施の形態と同様である。レーザー光源41、42に対応して集光光学系43、44が設けられている点、パルスレーザー光が刃先面52、53上を走査できるように制御部によって走査される点についても同様である。ただし、この実施の形態においては、レーザー光源41が発するパルスレーザー光と、レーザー光源42が発するパルスレーザー光とは独立に制御される。従って、刃先面52における凸部と刃先面53における凸部とをそれぞれ独立して除去することができる。
【0031】
また、刃先面52、53に対応して、流体をそれぞれ刃先面52、53上に噴出する噴出口45、46が設けられている。これらの流体は、図3中の白矢印で示されるように、刃先面52、53に沿って図3中の上側、すなわち、刃先51の方向に向かって流れる。この流体についても、第1の実施の形態と同様である。
【0032】
これらの流体はそれぞれ照射箇所521、531上を通過した後で、刃先51で合流し、刃先51の上部に設けられた排出口47から排出(排気)される。この際に、除去物30も同時に排出される。従って、除去物30が刃物50の表面(刃先面52、53を含む)に再付着することが抑制される。刃先51の角度(刃先面52と刃先面53とがなす角度)が小さい場合、刃先面52上の流体の流れる方向と刃先面53上の流体の流れる方向とが近づくため、排出口47からこれらの流体を排出することが容易である。従って、鋭利な刃先51の加工を行う場合にこの刃付け装置は特に有効である。
【0033】
加工中の刃先面52、53は、それぞれ刃先面モニター48、49によって観察される。刃先面モニター48、49は、第1の実施の形態における刃先面モニター15と同様であり、それぞれ刃先面52、53における凸部を認識することができる。従って、刃先面52、53をそれぞれ独立に平坦化する作業を独立に行うことができる。なお、刃先面モニター48、49として、カメラを用いる場合には、刃先面モニター48、49のそれぞれに対応した照明用光源を2個設けることもできる。
【0034】
以上の構成により、この刃付け装置により、刃先51の近傍において刃先面52、53の平面度を向上させることができ、刃先51を鋭利に加工することができる。この際、第1の実施の形態に係る刃付け装置と比べて、特に刃先51が鋭利である場合の加工を容易に行うことができる。また、機械的研磨の場合と比べて、刃物50全体に引張残留応力が発生しないため、刃物50全体に対する刃付け作業の悪影響を除去することができる。
【0035】
なお、上記の例では、鍛造鋼からなる刃物の刃先を加工する方法について記載したが、鍛造鋼に限らず、熱によってその特性が損なわれる素材については同様に本発明を適用することができる。この場合においても、刃付け後にもその素材の特性を維持できるという効果を奏することは明らかである。
【0036】
また、上記の例では、刃先を構成する刃先面は平面である場合につき記載したが、刃先面の形態はこれに限定されない。例えば、刃先が針状であり、この刃先を頂点とする円錐形状面を刃先面とすることもできる。すなわち、刃先の形状やこれに応じた刃先面の形状は適宜設定することができ、いずれの場合にも、本発明の刃付け装置、刃付け方法を適用することができることは明らかである。また、切れ味を確保するために刃先の角度は鋭角である場合が一般的であるが、この角度が鋭角でない場合にも、本願発明が適用できることも明らかである。
【符号の説明】
【0037】
11、41、42 レーザー光源
12、43、44 集光光学系
13、45、46 噴出口
14、47 排出口
15、48、49 刃先面モニター
20、50 刃物
21、51 刃先
22、52、53 刃先面
23 前面
24 背面
25 側面
30 除去物
221、521、531 照射箇所
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削具となる刃物の刃先を加工する刃付け方法、及びこれに用いられる刃付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を加工して製造される刃物は、特に切削具として様々な用途に用いられている。刃物において一番重要となるのはその刃先であり、その機能が充分に発揮できるような鋭利な形状に刃先は形成される。例えば高精度な包丁、ナイフ等の製造においては、この刃先の加工は、専門の職人が手作業で流水と砥石を用いて手作業で行っている。これによって鋭利で高い切れ味をもつ刃先を形成することができることはよく知られているが、再現性やその量産性の観点からは問題があり、同じ刃物であっても、量産品である包丁やナイフ等を製造する際にはこの方法は用いられていない。
【0003】
こうした量産品である刃物に対し、機械を用いて刃先の加工を自動的に行う方法(刃付け方法)が、多数提案されている。例えば、特許文献1、2には、砥石を用いた研削条件を制御して最適化することによって加工を行う技術が記載されている。これらの方法においては、従来職人の手によって行われてきた刃先の加工を、機械を用いた制御によって再現性、制御性よく行うことができる。しかしながら、刃先を含む刃物全体には高い機械的強度が要求されるため、刃物の材料としては、機械的強度の高い鍛造鋼が用いられている。
【0004】
一方、例えば切削加工にレーザー光を用いる技術(レーザー加工)が、近年多方面で用いられており、高い精度と高い量産性が得られている。刃先を形成する際においても、例えば特許文献3に、レーザー加工を応用した技術が記載されている。この技術においては、レーザー光によって刃先を局所的に溶融させると共に、溶融した追加材料をこの箇所に供給し、固化させることによって、刃先を形成する。この箇所においては、追加材料を含んだ高硬度の合金が形成されるため、耐久性が高い刃先を得ることができる。また、強度や照射位置の制御が容易であるレーザー光を用いるため、その再現性は良好であり、レーザー光の強度を高くすることにより処理時間を短くすることもできるため、量産性も良好である。ただし、この方法によっては刃先自身を所望の鋭い形状とすることはできず、その後に前記の機械的研磨を行うことが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−106467号公報
【特許文献2】特表平8−507002号公報
【特許文献3】特開2001−38534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の通り、刃先を含む刃物全体には、鍛造鋼が用いられる。鍛造鋼は、素材となる金属に対して繰り返しの衝撃によって圧力を加えることで得られ、高硬度かつ高剛性であるが、これらの特性は、高温での熱処理によって失われる。特許文献3に記載の技術においては、レーザー光が照射された箇所及びその近傍は高温となり、合金が形成された箇所(追加材料が供給された箇所)では、前記の通り、高硬度となる。これに対して、この箇所の近傍でかつ追加材料が供給されない箇所においては、高温となるだけで合金は形成されず、鍛造鋼のもつ高硬度特性は失われる。あるいは、短時間の加熱であれば、結晶が細かくなるために若干の強度向上効果はあるが、元の鍛造鋼の特性ほどには回復しない。従って、高硬度となるのは刃先におけるレーザー光の照射によって溶融した箇所のみであり、刃物全体を高硬度とすることは困難であった。
【0007】
また、レーザー光を用いる場合だけではなく、機械的研磨を行う特許文献1、特許文献2に記載の技術においても、研磨の際の摩擦熱によって刃先の温度が上昇する。この温度上昇は、研磨速度を高めた場合には特に顕著である。従って、レーザー光を用いる特許文献3に記載の技術を用いる場合だけでなく、機械的研磨のみを行った場合でも、鍛造鋼が本来もつ高硬度特性は、上記と同様に失われる。
【0008】
こうした状況は、刃先が鋭利である場合に、特に顕著である。刃先が鋭利であれば、刃先近傍における金属(鍛造鋼)は薄くなるため、レーザー加工や機械的研磨の際の局所的な温度上昇は特に大きく、鍛造鋼のもつ高硬度特性は失われやすい。また、この場合には刃先全体の機械的強度が低くなり、刃こぼれを生じやすくなるため、機械的研磨自身が困難であることも明らかである。
【0009】
すなわち、従来の刃付け方法においては、高硬度の刃物を、高い再現性、高い量産性で製造することは困難であった。
【0010】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の刃付け装置は、金属で構成された刃物の刃先を加工する刃付け装置であって、前記刃物における前記刃先を構成する刃先面に対して非熱的レーザー光を照射するレーザー光源と、流体を噴出し、前記非熱的レーザー光の前記刃先面における照射箇所において前記刃先面に沿って流れる流体を噴出する噴出口と、を具備することを特徴とする。
本発明の刃付け装置は、前記流体を排出し、前記照射箇所から見て前記レーザー光源と反対側に位置する排出口を具備することを特徴とする。
本発明の刃付け装置は、2つの刃先面で構成される刃先を具備する刃物の刃先を加工する刃付け装置であって、前記2つの刃先面のそれぞれに対応して、2つの前記レーザー光源、及び2つの前記噴出口を具備することを特徴とする。
本発明の刃付け装置において、前記流体は、不活性ガスを含むことを特徴とする。
本発明の刃付け装置において、前記流体は、水を含むことを特徴とする。
本発明の刃付け方法は、金属で構成された刃物の刃先を加工する刃付け方法であって、非熱的レーザー光を、前記刃物における前記刃先を構成する刃先面に対して照射し、前記非熱的レーザー光の前記刃先面における照射箇所において前記刃先面に沿って流体を流すことを特徴とする。
本発明の刃付け方法は、前記照射箇所から見て前記非熱的レーザー光を発するレーザー光源と反対側に位置する排出口から前記流体を排出することを特徴とする。
本発明の刃付け方法は、2つの刃先面で構成される刃先を具備する刃物の刃先を加工する刃付け方法であって、前記2つの刃先面のそれぞれにおいて、前記非熱的レーザー光を照射し、かつ前記流体を流すことを特徴とする。
本発明の刃付け方法において、前記流体は、不活性ガスを含むことを特徴とする。
本発明の刃付け方法において、前記流体は、水を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以上のように構成されているので、高硬度の刃物を、高い再現性、高い量産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る刃付け装置によって刃先の加工が行われる際の構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る刃付け装置によって加工される刃物の形状を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る刃付け装置によって刃先の加工が行われる際の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る刃付け方法、刃付け装置につき説明する。ここでは、刃先を構成する刃先面に対して、非熱的レーザー光を用いた加工が行われる。なお、ここでいう刃先とは、金属あるいは非金属で構成された試料の機械的加工を行なう際に、試料に当接させて用いられる箇所であり、刃物とは、金属で構成され、この刃先を具備するものであると定義され、刀、ナイフだけでなく、ヤスリ等も含むものとする。
【0015】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る刃付け装置によって刃先の加工が行われる際の構成を図1に示す。
【0016】
この刃付け装置によって、刃物20の刃先21の加工が特に好ましく行われる。この刃物20の形態を図2に示す。図2において、(a)はこの刃物20の正面図、(b)は側面図、(c)は背面図、(d)は斜視図をそれぞれ示す。この刃物20を構成する面は、刃先面22、前面23、背面24、側面25となっており、いずれも平面となっている。刃先面22と背面24とが鋭角をもって交差する線状の箇所が刃先21となっている。この刃先21を鋭利にするためには、刃先面22と背面24の平面度を高めることが必要である。
【0017】
刃物20は、鍛造鋼で形成される。鍛造鋼は、素材となる鋼(例えばステンレス鋼)に例えば熱間又は冷間で鍛造ハンマーを用いて高い圧力を加えることによって得られる。鍛造鋼の金属組織は緻密となるため、内部欠陥のない、高い硬度、高い剛性が得られる。刃先21を構成する刃先面22、前面23、背面24は、例えば鍛造ハンマーを用いて鍛造の際に粗く形成することができる。ただし、鍛造の直後ではこれらの面の平面度は低く、粗いため、これらによって形成される刃先21の形状精度は低く、鋭利とはならず、刃付け、仕上げ研磨後に初めてその機能(試料の切断)を充分な性能で発揮することができる。ここでは、この刃先21を形成する仕上げ作業を刃付けと呼ぶ。この刃付け作業は、刃先面22を平坦化する(研磨加工する)ことによって行われる。この刃付け装置は、この加工に特に好ましく用いられる。
【0018】
図1は、この刃付け装置が刃先面22の加工を行なう際の形態を示している。この刃付け装置においては、刃先面22を非熱的レーザー光によって照射するレーザー光源11が用いられる。レーザー光源11は、例えばチタンサファイアレーザーであり、波長800nmのレーザー光を発振する。特に、例えば特許3283265号公報に記載されているような、概ね5ps(5×10−12s)より短い時間幅を持ち、単位パルス出力の面密度が1J/cm2より小さな、超短パルスのパルスレーザー光、いわゆる非熱的レーザー光を発振することができる。刃物20(刃先面22)に非熱的レーザーが照射された場合、刃先面22における照射箇所221の表面は熱によって直接蒸発、昇華し、金属原子が除去物30となって除去される。しかしながら、レーザーのパルス幅が小さくレーザーで加熱される時間が極めて短いため、この熱がレーザー照射箇所221の周辺領域に伝達される前にオフとなる。従って、熱伝達がなく、実質的に発熱がない場合と同様の状況となる。更に、その持続時間が極めて短く、かつ後述されるように流体によって冷却されるため、その照射による発熱を無視できる程度に低減することができる。従って、レーザー照射箇所221の周辺への熱の伝達を伴わない非熱的加工を行うことができる。なお、非熱的加工を行うためには、刃先面22上におけるレーザー光のエネルギー強度が高く、エネルギー面密度が低いことが必要であり、このために、このパルスレーザー光を刃先面22上で集光する集光光学系12が設けられている。刃先面22上の凸部をこの照射箇所221としてこのパルスレーザー光を照射することにより、凸部を除去物30として除去することができ、刃先面22の平坦化を行うことができる。あるいは、単なる平坦化だけでなく、刃先面22を所望の形状(曲面を含む)とすることもできる。
【0019】
除去物30は、固体の飛散物や昇華物(気体)等、様々な形態をとる。除去物30を構成する材料は、鍛造鋼を構成する元素(Fe、Cr等)だけでなく、これらの元素と雰囲気中の酸素とが結合した酸化物となる場合もある。また、除去物30はパルスレーザー光が反射する方向に強く反跳される。入射するパルスレーザー光がこの除去物30を照射すると、除去物30がパルスレーザー光により反跳され、或いはパルスレーザー光の照射によって気化し、刃先面22等に再付着することがある。これを抑制するためには、入射するパルスレーザー光によって除去物30が照射される可能性が低くなるように、刃先面22に対するパルスレーザー光の入射角度θを好ましくは90°よりも充分小さくする。
【0020】
また、刃先面22に存在する凸部の分布に応じ、刃先面22上をパルスレーザー光が走査できるように、レーザー光源11、集光光学系12は制御される。このため、レーザー光源11や集光光学系12の位置や取り付け角度は、パーソナルコンピュータ等で構成される制御部(図示せず)によって適宜制御され、この位置や取り付け角度が移動する速度も、適宜制御される。パルスレーザー光の発振幅や、強度も同様に制御される。
【0021】
また、流体を刃先面22上に噴出する噴出口13が設けられている。この流体は、図1中の白矢印で示されるように、刃先面22に沿って図1中の上側、すなわち、刃先21の方向に向かって流れる。この流体は、刃先面22を構成する材料と反応を生じないアルゴン等の不活性ガスで構成される。あるいは、気体ではなく、刃先面22を構成する材料と反応を生じない液体である水をこの流体として用いてもよい。ただし、この流体が気体、液体のいずれであっても、パルスレーザー光の透過率が充分に高く、上記の加工を刃先面22に対して行えることが必要である。また、刃先面22の冷却が充分に行われるように、熱伝導率の高い流体であることが好ましい。なお、この流体の温度は常温もよいが、冷却効率を高めるために常温より低く設定してもよい。
【0022】
また、この流体は照射箇所221上を刃先面22に沿って通過するため、パルスレーザー光の照射によって発熱があった場合でも、この流体によって速やかに冷却が行われる。
【0023】
その後、この流体は、刃先21を通過した後、刃先21の上部に設けられた排出口14から排出(排気)される。この際に、除去物30も同時に排出される。従って、除去物30が刃物20の表面(刃先面22を含む)に再付着することが抑制される。この流体の流量や流速は、この効果を奏する範囲内で任意である。
【0024】
加工中の刃先面22は、刃先面モニター15によって観察される。刃先面モニター15は、非接触で刃先面22の形状や粗さをモニターし、様々な形態のものを使用することができる。例えば、CCD等の撮像素子を用いたカメラを用い、これに接続されたディスプレイで利用者がこれらの表面を観察できる設定としてもよく、刃先面22の表面形状や粗さを測定用レーザー光を用いて計測するだけの非接触粗さ計を用いることもできる。あるいは、これらを結合させて用いることもできる。また、カメラを用いる場合には、刃先面モニター15に対応した照明用光源を設けることもできる。
【0025】
刃先面モニター15の出力に応じ、制御部は、例えば刃先面22における凸部にパルスレーザー光が照射されるようにレーザー光源11を制御することができる。これにより、凸部を除去物30に変換して除去し、刃先面22を平坦に加工することができる。特に、刃先21の近傍においてもこの加工を行うことができるため、刃先21近傍の刃先面22の平面度を向上させることにより、刃先21を鋭利かつ精密に加工することができる。
【0026】
この構成においては、刃先面22が、レーザー光源11が発したパルスレーザー光によって非熱的に加工される。パルスレーザー光によって照射された照射箇所221における金属結合は、パルスレーザー光のもつ光エネルギーによって蒸発・昇華させられることによって切断されるため、この箇所から除去物30が飛散する。この除去物30は、噴出口13から噴出した流体の流れに乗って、刃先面22から除去され、最終的には排出口14から流体と共に排出される。
【0027】
一方、このパルスレーザー光の持続時間は前記の通り極めて短く、かつ照射箇所221は除去物30が形成された極狭い範囲である。しかも、この照射箇所221は、噴出口13から噴出された流体によって速やかに冷却される。従って、除去物30が発生した領域は、蒸発温度以上で蒸発・昇華し、その隣合う近傍は、相変化を起こさず、その温度上昇は無視できる程度に小さく、刃物20を構成する材料(鍛造鋼)に対する熱の影響を無視できる程度に小さくすることができる。従って、鍛造鋼の高硬度等の特性が損なわれることがなく、刃物20全体の硬度を高く保つことができる。また、機械的研磨を行う場合のように、刃物20に対して熱ひずみなど引張残留応力を発生させることもないため、刃先や刃先端部に割れや亀裂を発生させることもない。
【0028】
前記の通り、パルスレーザー光の強度、照射位置等の制御は、制御部によって再現性よく行うことができる。また、刃先面22における凸部を除去物30として除去する動作は、超短パルスのレーザー光が発振されている極めて短い時間に行われるため、その処理速度を高くすることは容易である。従って、この刃付け装置によれば、高い再現性、高い量産性で刃先21の加工を行うことができる。
【0029】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る刃付け装置によって刃先の加工が行われる際の構成を図3に示す。この刃付け装置は、刃物50において刃先51を構成する2つの刃先面52、53の平坦化を共に行うことによって、刃先51を鋭利に加工する。図3は、この際の構成を刃先面52、53に垂直な断面方向において示した図である。
【0030】
この刃付け装置においては、刃先面52、53をそれぞれパルスレーザー光によって照射するレーザー光源41、42が用いられる。レーザー光源41、42は、前記のレーザー光源11と同様であり、非熱的レーザーを刃先面52、53にそれぞれ照射する。従って、刃先面52、53上における凸部を除去物30として除去することができ、刃先面52、53の平坦化を行うことができる。従って、刃先51を鋭利に加工することができる。この際、刃先面52、53に対するパルスレーザー光の入射角度θを90°よりも0°に近い角度にすることが好ましい点についても、第1の実施の形態と同様である。レーザー光源41、42に対応して集光光学系43、44が設けられている点、パルスレーザー光が刃先面52、53上を走査できるように制御部によって走査される点についても同様である。ただし、この実施の形態においては、レーザー光源41が発するパルスレーザー光と、レーザー光源42が発するパルスレーザー光とは独立に制御される。従って、刃先面52における凸部と刃先面53における凸部とをそれぞれ独立して除去することができる。
【0031】
また、刃先面52、53に対応して、流体をそれぞれ刃先面52、53上に噴出する噴出口45、46が設けられている。これらの流体は、図3中の白矢印で示されるように、刃先面52、53に沿って図3中の上側、すなわち、刃先51の方向に向かって流れる。この流体についても、第1の実施の形態と同様である。
【0032】
これらの流体はそれぞれ照射箇所521、531上を通過した後で、刃先51で合流し、刃先51の上部に設けられた排出口47から排出(排気)される。この際に、除去物30も同時に排出される。従って、除去物30が刃物50の表面(刃先面52、53を含む)に再付着することが抑制される。刃先51の角度(刃先面52と刃先面53とがなす角度)が小さい場合、刃先面52上の流体の流れる方向と刃先面53上の流体の流れる方向とが近づくため、排出口47からこれらの流体を排出することが容易である。従って、鋭利な刃先51の加工を行う場合にこの刃付け装置は特に有効である。
【0033】
加工中の刃先面52、53は、それぞれ刃先面モニター48、49によって観察される。刃先面モニター48、49は、第1の実施の形態における刃先面モニター15と同様であり、それぞれ刃先面52、53における凸部を認識することができる。従って、刃先面52、53をそれぞれ独立に平坦化する作業を独立に行うことができる。なお、刃先面モニター48、49として、カメラを用いる場合には、刃先面モニター48、49のそれぞれに対応した照明用光源を2個設けることもできる。
【0034】
以上の構成により、この刃付け装置により、刃先51の近傍において刃先面52、53の平面度を向上させることができ、刃先51を鋭利に加工することができる。この際、第1の実施の形態に係る刃付け装置と比べて、特に刃先51が鋭利である場合の加工を容易に行うことができる。また、機械的研磨の場合と比べて、刃物50全体に引張残留応力が発生しないため、刃物50全体に対する刃付け作業の悪影響を除去することができる。
【0035】
なお、上記の例では、鍛造鋼からなる刃物の刃先を加工する方法について記載したが、鍛造鋼に限らず、熱によってその特性が損なわれる素材については同様に本発明を適用することができる。この場合においても、刃付け後にもその素材の特性を維持できるという効果を奏することは明らかである。
【0036】
また、上記の例では、刃先を構成する刃先面は平面である場合につき記載したが、刃先面の形態はこれに限定されない。例えば、刃先が針状であり、この刃先を頂点とする円錐形状面を刃先面とすることもできる。すなわち、刃先の形状やこれに応じた刃先面の形状は適宜設定することができ、いずれの場合にも、本発明の刃付け装置、刃付け方法を適用することができることは明らかである。また、切れ味を確保するために刃先の角度は鋭角である場合が一般的であるが、この角度が鋭角でない場合にも、本願発明が適用できることも明らかである。
【符号の説明】
【0037】
11、41、42 レーザー光源
12、43、44 集光光学系
13、45、46 噴出口
14、47 排出口
15、48、49 刃先面モニター
20、50 刃物
21、51 刃先
22、52、53 刃先面
23 前面
24 背面
25 側面
30 除去物
221、521、531 照射箇所
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属で構成された刃物の刃先を加工する刃付け装置であって、
前記刃物における前記刃先を構成する刃先面に対して非熱的レーザー光を照射するレーザー光源と、
流体を噴出し、前記非熱的レーザー光の前記刃先面における照射箇所において前記刃先面に沿って流れる流体を噴出する噴出口と、
を具備することを特徴とする刃付け装置。
【請求項2】
前記流体を排出し、前記照射箇所から見て前記レーザー光源と反対側に位置する排出口を具備することを特徴とする請求項1に記載の刃付け装置。
【請求項3】
2つの刃先面で構成される刃先を具備する刃物の刃先を加工する刃付け装置であって、
前記2つの刃先面のそれぞれに対応して、2つの前記レーザー光源、及び2つの前記噴出口を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の刃付け装置。
【請求項4】
前記流体は、不活性ガスを含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の刃付け装置。
【請求項5】
前記流体は、水を含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の刃付け装置。
【請求項6】
金属で構成された刃物の刃先を加工する刃付け方法であって、
非熱的レーザー光を、前記刃物における前記刃先を構成する刃先面に対して照射し、
前記非熱的レーザー光の前記刃先面における照射箇所において前記刃先面に沿って流体を流すことを特徴とする刃付け方法。
【請求項7】
前記照射箇所から見て前記非熱的レーザー光を発するレーザー光源と反対側に位置する排出口から前記流体を排出することを特徴とする請求項6に記載の刃付け方法。
【請求項8】
2つの刃先面で構成される刃先を具備する刃物の刃先を加工する刃付け方法であって、
前記2つの刃先面のそれぞれにおいて、前記非熱的レーザー光を照射し、かつ前記流体を流すことを特徴とする請求項6又は7に記載の刃付け方法。
【請求項9】
前記流体は、不活性ガスを含むことを特徴とする請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載の刃付け方法。
【請求項10】
前記流体は、水を含むことを特徴とする請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載の刃付け方法。
【請求項1】
金属で構成された刃物の刃先を加工する刃付け装置であって、
前記刃物における前記刃先を構成する刃先面に対して非熱的レーザー光を照射するレーザー光源と、
流体を噴出し、前記非熱的レーザー光の前記刃先面における照射箇所において前記刃先面に沿って流れる流体を噴出する噴出口と、
を具備することを特徴とする刃付け装置。
【請求項2】
前記流体を排出し、前記照射箇所から見て前記レーザー光源と反対側に位置する排出口を具備することを特徴とする請求項1に記載の刃付け装置。
【請求項3】
2つの刃先面で構成される刃先を具備する刃物の刃先を加工する刃付け装置であって、
前記2つの刃先面のそれぞれに対応して、2つの前記レーザー光源、及び2つの前記噴出口を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の刃付け装置。
【請求項4】
前記流体は、不活性ガスを含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の刃付け装置。
【請求項5】
前記流体は、水を含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の刃付け装置。
【請求項6】
金属で構成された刃物の刃先を加工する刃付け方法であって、
非熱的レーザー光を、前記刃物における前記刃先を構成する刃先面に対して照射し、
前記非熱的レーザー光の前記刃先面における照射箇所において前記刃先面に沿って流体を流すことを特徴とする刃付け方法。
【請求項7】
前記照射箇所から見て前記非熱的レーザー光を発するレーザー光源と反対側に位置する排出口から前記流体を排出することを特徴とする請求項6に記載の刃付け方法。
【請求項8】
2つの刃先面で構成される刃先を具備する刃物の刃先を加工する刃付け方法であって、
前記2つの刃先面のそれぞれにおいて、前記非熱的レーザー光を照射し、かつ前記流体を流すことを特徴とする請求項6又は7に記載の刃付け方法。
【請求項9】
前記流体は、不活性ガスを含むことを特徴とする請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載の刃付け方法。
【請求項10】
前記流体は、水を含むことを特徴とする請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載の刃付け方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2010−253654(P2010−253654A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109057(P2009−109057)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】
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