説明

分光撮像装置

【課題】焦点合わせに要する時間を短縮できる分光撮像装置を提供する。
【解決手段】被写体からの光を集光する集光レンズ10と、集光された光のうち、被写体のライン状領域からの光を通過させるスリット21aが形成された遮光部材21と、分光手段22と、光の強度をライン状領域の長手方向の位置及び波長ごとに検出することにより、ライン状領域の画像を取得する光検出手段26と、光検出手段からライン状領域の画像を順次受け付けて、撮像領域の画像を取得する画像取得部41と、被写体に対する集光レンズ、スリット、分光手段又は光検出手段の光軸方向の相対距離を変更して、画像の焦点を合わせる焦点合わせ手段30とを具備し、画像取得部が、焦点を合わせようとする部分を含み被写体における撮像領域よりも狭い領域の画像を、相対距離を設定して取得し、狭い領域の画像の焦点が合うときの相対距離で、撮像領域の画像を取得するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体からの光を分光して検出することにより、被写体の分光反射率、分光透過率及び分光放射輝度といった分光情報を記録した画像(以下、分光画像ともいう)を取得する分光撮像装置に関する。
【0002】
この種の分光撮像装置として、被写体の画像を一度に取得するのではなく、あたかもスキャナで読み取るかのように、被写体のライン状領域の画像を順次取得して、被写体の画像を取得するものが考えられている(特許文献1)。
【0003】
具体的に説明する。被写体からの光は、集光レンズによって集光される。集光された光のうち、被写体のライン状領域からの光が、遮光部材に形成されたスリットを通過して、分光手段で波長ごとに分光され、二次元イメージセンサに到達する。二次元イメージセンサは、分光された光の強度を、ライン状領域の長手方向の位置及び波長ごとに検出する。これにより、被写体のライン状領域の分光画像が取得される。
【0004】
さらに、被写体を支持するステージが、光軸方向と直交する走査方向に1ライン分駆動した後、前記同様に被写体の別のライン状領域の分光画像が取得される。この動作を繰り返して、被写体の複数のライン状領域の分光画像が取得され、これら各ライン状領域の分光画像を合わせて被写体の分光画像が取得される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−216531号公報
【特許文献2】特開2009−39280号公報
【特許文献3】特開2006−322710号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、このような分光画像には、焦点合わせに非常に時間がかかるという問題がある。焦点を合わせるには、例えばレンズやスリット等の位置を調整し、その度に被写体の分光画像を取得して確認することが考えられる。しかしながら、上述したように、被写体の分光画像を取得するには、被写体のライン状領域の分光画像を順次取得する必要があり、時間がかかる。従って、焦点が合うまで被写体の分光画像を何枚も取得するとなると、非常に時間がかかってしまうのである。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決すべく図ったものであり、焦点合わせに要する時間を短縮できる分光撮像装置を提供することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る分光撮像装置は、被写体からの光を集光する集光レンズと、当該集光レンズによって集光された光のうち、前記被写体のライン状領域からの光を通過させるスリットが形成された遮光部材と、当該スリットを通過した前記ライン状領域からの光を分光する分光手段と、当該分光手段によって分光された光の強度を、前記ライン状領域の長手方向の位置及び波長ごとに検出することにより、前記ライン状領域の画像を取得する光検出手段と、当該光検出手段から前記ライン状領域の画像を順次受け付けて、受け付けた前記各ライン状領域の画像を合わせた撮像領域の画像を取得する画像取得部とを具備するものであって、前記被写体に対する前記集光レンズ、前記スリット、前記分光手段又は前記光検出手段の光軸方向の相対距離を変更して、前記画像取得部が取得する前記撮像領域の画像の焦点を合わせる焦点合わせ手段をさらに具備し、前記画像取得部が、焦点を合わせようとする部分を含み前記被写体における前記撮像領域よりも狭い領域の画像を、前記相対距離を設定して取得し、前記狭い領域の画像の焦点が合うときの前記相対距離で、前記撮像領域の画像を取得するものであることを特徴とするものである。
【0009】
このようなものであれば、画像取得部が、焦点を合わせようとする部分を含み被写体における撮像領域よりも狭い領域の画像を、前記相対距離を設定して取得し、当該狭い領域の画像の焦点が合うときの前記相対距離で、撮像領域の画像を取得するので、撮像領域全体の画像で焦点を合わせる場合よりも画像の取得に要する時間を短縮でき、焦点合わせに要する時間を短縮できる。また、画像のデータ量を低減することができ、その画像を処理する演算装置への負荷を抑制できる。本発明に係る分光撮像装置と特許文献1−3に記載の発明とを比較すると、少なくとも焦点合わせに要する時間を短縮する機構が設けられている点において、本発明に係る分光撮像装置は、特許文献1−3に記載の発明と全く異なる。
【0010】
前記狭い領域を適切に設定して、確実に焦点を合わせるには、前記画像取得部が、前記相対距離を任意の距離とした状態で、前記被写体の一部又は全部の画像をプリ画像として取得するものであり、当該プリ画像に基づいて前記狭い領域が設定されるものが望ましい。
【0011】
焦点が合っているかどうかを自動的に判別して、焦点合わせに要する時間をさらに短縮するには、前記画像取得部が、前記被写体における撮像領域よりも狭い領域の各画像上の距離に対する、光の強度の変化が最も急激であるときの前記相対距離を、前記狭い領域の画像の焦点が合うときの前記相対距離とするものが望ましい。
【0012】
前記遮光部材、前記分光手段、及び前記光検出手段を有する分光撮像系をさらに具備し、前記焦点合わせ手段が、当該分光撮像系を光軸方向に駆動させて、前記被写体に対する前記分光撮像系の光軸方向の相対距離を変更するものであれば、特許文献2のように集光レンズとして焦点合わせ機能を有するレンズを用いる必要がなく、様々なレンズを用いることができる。また、特許文献1のように、被写体を支持するステージを駆動して、画像を撮像する撮像装置では、風景や重量物等のように、ステージに載せたり移動させたりすることが困難な被写体を撮像することが難しい。これに対し、このようなものであれば、様々な被写体を容易に撮像することができる。
【0013】
この分光撮像装置の分光撮像方法もまた、本発明の一形態である。具体的にこの分光撮像方法は、被写体からの光を集光する集光レンズと、当該集光レンズによって集光された光のうち、前記被写体のライン状領域からの光を通過させるスリットが形成された遮光部材と、当該スリットを通過した前記ライン状領域からの光を分光する分光手段と、当該分光手段によって分光された光の強度を前記ライン状領域の長手方向の位置及び波長ごとに検出することにより、前記ライン状領域の画像を取得する光検出手段と、当該光検出手段から前記ライン状領域の画像を順次受け付けて、受け付けた前記各ライン状領域の画像を合わせた撮像領域の画像を取得する画像取得部とを具備する分光撮像装置の動作方法であって、前記被写体に対する前記集光レンズ、前記スリット、前記分光手段又は前記光検出手段の光軸方向の相対距離を変更して、前記画像取得部が取得する前記撮像領域の画像の焦点を合わせる焦点合わせステップと、前記画像取得部が、焦点を合わせようとする部分を含み前記被写体における前記撮像領域よりも狭い領域の画像を、前記相対距離を設定して取得し、前記狭い領域の画像の焦点が合うときの前記相対距離で、前記撮像領域の画像を取得する画像取得ステップとを具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
上述した構成の本発明によれば、被写体の撮像領域よりも狭い領域の画像で、画像の焦点を合わせるので、焦点合わせに要する時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態における分光撮像装置の全体斜視図。
【図2】同実施形態における分光撮像装置を模式的に示す構成図。
【図3】同実施形態における分光撮像装置の動作を示すフローチャート。
【図4】同実施形態における分光撮像装置の動作を示すフローチャート。
【図5】同実施形態における分光撮像装置により取得された画像を示す図。
【図6】同実施形態における分光撮像装置により取得された画像及び各画像の光強度の変化を示す図。
【図7】他の実施形態における分光撮像装置を模式的に示す構成図。
【図8】さらに他の実施形態における分光撮像装置を模式的に示す構成図。
【図9】さらに他の実施形態における分光撮像装置を模式的に示す構成図。
【図10】さらに他の実施形態における分光撮像装置により取得された画像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る分光撮像装置100について、図面を参照して説明する。この分光撮像装置100は、例えば果実の成熟度の測定、工業製品の検査、生体の病巣の分析、細胞や天体の分析等、種々の分光測定に用いられるものである。分光撮像装置100は、図1、図2に示すように、集光レンズ10と、分光撮像系20と、駆動機構30と、演算機構40と、これら各部材を収容する概略直方体形状をなし遮光性材料からなる筺体50とを具備する。
【0017】
集光レンズ10は、被写体Sと分光撮像系20との間に設けられており、被写体Sが反射する光、被写体Sを透過する光及び被写体Sが発する光等の、被写体Sからの光を集光して分光撮像系20に導くものである。ここでは集光レンズ10を単一のレンズとしたが、複数のレンズを組み合わせて構成してもよい。
【0018】
分光撮像系20は、概略直方体形状をなし、被写体Sのライン状領域からのライン状の光を一度に分光して検出し、被写体Sのライン状領域の画像を取得するものである。分光撮像系20は、筺体50内の収容空間に収容されている。筺体50内の収容空間は、後述する画像取得及び焦点合わせに支障がない程度に分光撮像系20を駆動できるように、分光撮像系20と比較して大きく設定されている。分光撮像系20は、スリット21aが形成された遮光部材21と、分光手段22と、光検出手段26とを有している。
【0019】
遮光部材21は、概略直方体形状をなし遮光性材料からなるケースである。遮光部材21は、集光レンズ10によって集光された光のうち、被写体Sのライン状領域からの光を通過させるスリット21aと、集光レンズ10によって集光された光の他の部分及び迷光を遮光して、内部に収容した分光手段22及び光検出手段26に入射しないようにする遮光壁21bとを有する。スリット21aは、集光レンズ10によって光が集光する位置に配置された細長い矩形状の孔である。スリット21aは被写体Sからの光の光軸と直交する方向に所定長さ延びており、また光軸及びスリット21aの長手方向と直交する方向(以下、走査方向ともいう)に所定幅開口している。
【0020】
分光手段22は、スリット21aを通過した光を分光して波長ごとに集光するものである。具体的にこの分光手段22は、スリット21aを通過した光を平行化する平行化レンズ23と、平行化された光を分光する回折格子24と、分光された光を波長ごとに集光して光検出手段26の受光面に結像させる結像レンズ25とを有する。この結像レンズ25は、スリット21aの長手方向と直交する方向(以下、波長方向ともいう)に沿って、波長の短い光から波長の長い光をそれぞれ集光する。
【0021】
光検出手段26は、分光手段22によって分光された光の強度を、ライン状領域の長手方向の位置及び波長ごとに検出することにより、ライン状領域の画像を取得するものである。具体的にこの光検出手段26は、光検出素子を平面状に並べた2次元イメージセンサであり、ここではCCDイメージセンサとしたが、CMOSイメージセンサや、近赤外領域の光の検出に適したInGaAsイメージセンサ等であってもよい。光検出手段26の受光面は、波長方向及びスリット21aの長手方向に沿って配置されている。そして、異なる波長の光が、波長方向に沿ってそれぞれ異なる光検出素子に入射するようにしてある。また、被写体Sのライン状領域における異なる位置からの光が、波長方向に沿ってそれぞれ異なる光検出素子に入射するようにしてある。
【0022】
駆動機構30は、分光撮像系20を走査方向及び光軸方向に駆動するものであり、ここではアクチュエータである。駆動機構30は、分光撮像系20を光軸方向に駆動することにより、被写体Sに対する分光撮像系20の光軸方向の相対距離を変更して、被写体Sの画像の焦点を合わせる焦点合わせ手段として機能する。駆動機構30を用いた焦点合わせについては後述する。
【0023】
演算機構40は、汎用又は専用のコンピュータであり、メモリに所定のプログラムを格納し、当該プログラムに従ってCPUがその周辺機器を協働動作させることによって、画像取得部41としての機能を発揮する。この画像取得部41には、分光画像を、例えば数値、グラフ又は波長ごとの画像として、あるいは分光画像から変換されたRGB画像として表示する表示部42たるディスプレイが接続されている。
【0024】
画像取得部41は、光検出手段26から被写体Sのライン状領域の画像を順次受け付けて、受け付けた各ライン状領域の画像を合わせた撮像領域A1の画像を取得するものである。より詳しくは、画像取得部41が、光検出手段26から1の被写体Sのライン状領域の画像を受け付けて、メモリ(図示しない)に格納する。次に、画像取得部41が駆動機構30に制御信号を送信し、駆動機構30が分光撮像系20を走査方向に1又は複数のライン分駆動した後、画像取得部41が別のライン状領域の画像を受け付けて、メモリに格納する。この動作を繰り返して、被写体Sの複数のライン状領域の画像が取得され、撮像領域A1の画像が取得される。
【0025】
しかして、本実施形態では、画像取得部41が、焦点を合わせる機能を有している。画像取得部41は、被写体Sの撮像領域A1全ての画像で焦点を合わせるのではなく、焦点を合わせようとする部分を含み被写体Sにおける撮像領域A1よりも狭い領域である焦点合わせ領域A2の画像を用いて、焦点を合わせるものである。画像取得部41は、被写体Sに対する分光撮像系20の光軸方向の相対距離を設定して、焦点合わせ領域A2の画像を1又は複数取得し、焦点合わせ領域A2の画像の焦点が合うときの前記相対距離で、撮像領域A1の画像を取得する。
【0026】
画像取得部41の動作説明を兼ねて、図3、4のフローチャート及び図5、6に示す画像を参照して、分光撮像装置100の動作を説明する。ここでは、分光撮像系20の光軸方向の位置Lが、0からLtまで駆動可能であるとして説明する。まず、図3に示すように、画像取得部41が、分光撮像系20を任意の位置(ここでは分光撮像系20の駆動可能範囲における中央位置Lt/2)に配置する(S1)。次に、被写体Sの一部の画像(ここでは、被写体Sにおけるライン状領域と平行なストライプ状の領域の画像)を、プリ画像として取得して表示部42に表示する(S2、図5A)。ここでは、画像取得部41は、取得した画像からRGB3波長における画像を抜き出し、RGB画像を合成して表示部42に表示する。ユーザは、プリ画像で被写体Sの全体像を確認し、焦点を合わせようとする焦点合わせ領域A2を設定する(S3、図5B)。
【0027】
焦点合わせ領域A2の入力を受け付けると、画像取得部41は、分光撮像系20を被写体Sに最も近い開始位置に配置し(S4)、焦点合わせ領域A2の一部の画像(ここでは、焦点合わせ領域A2のうち、プリ画像として画像を取得した領域の画像)を取得し、メモリに格納する(S5、図5C)。続いて、画像取得部41は、分光撮像系20を予め定められた第1ステップ幅(ここではLt/n)だけ、被写体Sから離間する方向に駆動した後(S6)、同様に焦点合わせ領域A2の一部の画像を取得して格納する。これを繰り返して、分光撮像系20が被写体Sから最も遠い終了位置までくると(S7)、画像の取得は一旦終了する。
【0028】
画像取得部41は、取得した各焦点合わせ領域A2の一部の画像を比較して、最も焦点が合っている画像を選び出し、その画像を取得したときの分光撮像系20の光軸方向の位置を、大まかに焦点が合う位置である粗焦点位置として算出する(S8)。ここでは、画像取得部41が、各焦点合わせ領域A2の一部の画像について、画像上の距離に対する光の強度の変化を算出し、その変化が最も急激であるときの分光撮像系20の光軸方向の位置を、粗焦点位置として算出する。
【0029】
具体的に説明する。画像取得部41は、取得した各焦点合わせ領域A2の一部の画像から、任意の画像(ここでは、分光撮像系20の駆動した範囲における中央位置(Lt/2)での画像)を選び、その画像の各ライン状領域から、光強度の変化幅が最も大きいものを抽出する。画像取得部41は、抽出されたライン状領域の画像について、光強度が最大値となる座標近傍での、光の強度の変化を算出する(図6)。同様に、画像取得部41は、他の各焦点合わせ領域A2の一部の画像における、同一座標近傍での光の強度の変化をそれぞれ算出する。画像取得部41は、それらの変化を比較して、変化を示す波形が最も矩形波に近い形状であり、つまり変化が最も急激であるときの画像(ここでは、図6C)を取得したときの、分光撮像系20の位置(ここではL=2Lt/n)を、粗焦点位置として算出する。
【0030】
さらに、図4に示すように、画像取得部41は、分光撮像系20を、粗焦点位置よりも第1ステップ幅だけ被写体Sに近い位置から、粗焦点位置よりも第1ステップ幅だけ被写体Sから遠い位置まで、移動させながら、同様に焦点合わせ領域A2の一部の画像を取得して格納する(S9〜S12、図5C)。このとき、画像取得部41は、分光撮像系20を第1ステップ幅(Lt/n)よりも短い第2ステップ幅ずつ(Lt/(n×m))移動させながら、画像を取得するので、より細かく焦点を合わせることができる。なお、粗焦点位置が開始位置である場合には、分光撮像系20の駆動する範囲を、開始位置から、第1ステップ幅だけ被写体Sよりも遠い位置までとする(0<L<Lt/n)。また、粗焦点位置が終了位置である場合には、分光撮像系20の駆動する範囲を、終了位置から第1ステップ幅だけ被写体Sに近い位置から、終了位置までとする(Lt(n−1)/n<L<Lt)。焦点合わせ領域A2の一部の画像の取得が終了すると、S8での手順と同様に、画像取得部41は、各焦点合わせ領域A2の一部の画像に基づいて、粗焦点位置よりも精度よく焦点が合う位置である高精度焦点位置を算出する(S13)。
【0031】
画像取得部41は、分光撮像系20を高精度焦点位置に配置して(S14)、焦点合わせ領域A2全ての画像を取得して、表示部42に表示する(S15、図5D)。ユーザは、表示された画像の焦点が合っているかどうかを確認する(S16)。表示された画像の焦点が合っている場合には、画像取得部41は被写体Sの撮像領域A1全ての画像(ここでは被写体S全ての画像)を取得し、分光撮像装置の画像取得フローが終了する(S17、図5E)。このとき、集光レンズ10によって光が集光する位置と、スリット21aの位置とが略一致しているとともに、分光手段22の結像レンズ25によって光が集光する位置と、光検出手段26の受光面とが略一致している。
【0032】
表示された画像の焦点が合っていない場合には、マニュアルモードに入る。ユーザが、入力インターフェースたる入力バー(図示しない)を操作することにより、分光撮像系20の位置を入力すると(S18)、画像取得部41は、分光撮像系20を入力された位置に配置して、焦点合わせ領域A2の一部の画像を取得して表示する(S19)。表示された画像の焦点が合っていなければ、再びユーザが分光撮像系20の位置を設定して、焦点合わせ領域A2の一部の画像を取得する。表示された画像の焦点が合っていれば、画像取得部41は被写体Sの撮像領域A1全ての画像を取得し、画像取得フローが終了する(S17)。
【0033】
本実施形態の分光撮像装置100によれば、画像取得部41が、焦点を合わせようとする部分を含み被写体Sにおける撮像領域A1よりも狭い焦点合わせ領域A2の画像を、前記相対距離を設定して取得し、当該焦点合わせ領域A2の画像の焦点が合うときの前記相対距離で、撮像領域A1の画像を取得するので、撮像領域A1全体の画像で焦点を合わせる場合よりも画像の取得に要する時間を短縮でき、焦点合わせに要する時間を短縮できる。また、画像のデータ量を低減することができ、その画像を処理する演算機構40への負荷を抑制できる。
【0034】
さらに、粗く焦点位置の見当をつけてから、細かく焦点位置を探すようにして、複数段階で画像の焦点を合わせているので、1段階で画像の焦点を合わせる場合と比較して、より少ない枚数の画像で精度良く焦点を合わせることができる。
【0035】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。例えば、分光手段22は回折格子24を用いたものに限られない。例えば、プリズム27を用いた分光手段22(図7)や、回折格子28a及びプリズム28bを組み合わせた光学部材28を用いた分光手段22を用いてもよい。この光学部材28としては、例えば、図8に示すように、グリズムとも呼ばれる、2つのプリズム28bの間に回折格子28aを組み合わせたものがある。これにより、光学部材28から射出される光の光軸が屈折することなく、元の光軸に沿って進むようにしてある。また、透過型の分光手段22ではなく、2つの凹面鏡29及び回折格子24を用いた分光手段22のような、反射型の分光手段22を用いてもよい(図9)。また、収差を低減するためには、凹面鏡ではなく放物面鏡等を用いることが好ましい。
【0036】
前記実施形態では、焦点合わせ領域の画像の焦点を合わせるときに、画像取得部が、各焦点合わせ領域の一部の画像における、1の座標近傍での光の強度の変化をそれぞれ算出して、それら変化を比較するようにしたが、これに限られるものではない。例えば、画像取得部が、複数の座標近傍での光の強度の変化を示す値を算出して、それらの値を比較してもよい。複数の座標は、焦点合わせ領域の一部の画像における、同一のライン状領域の画像から選択してもよいし、異なるライン状領域の画像から選択してもよい。また、変化を示す値を比較するときには、各座標における光強度の変化を示す値の平均値を用いてもよいし、座標の重要度ごとに適宜重み付けした値を用いてもよい。
【0037】
また、画像取得部は、ライン状領域と平行な画像上の距離に対する光の強度の変化ではなく、ライン状領域に対して斜め又は直交する画像上の距離に対する光の強度の変化を算出するようにしてもよい。
【0038】
さらに、画像取得部は、所定波長での光の強度の変化を算出するようにしてもよいし、複数波長での光の強度の合計値の変化を算出するようにしてもよい。
【0039】
加えて言えば、画像取得部は、焦点合わせ領域の画像を取得したときの分光撮像系の位置(L=0、Lt/n、2Lt/n、3Lt/n、・・・、Lt)の中から、粗焦点位置又は高精度焦点位置を選択するのではなく、それら各位置の間にある位置(例えばL=2.13Lt/nなど)を、光の強度の変化を示す値から粗焦点位置又は高精度焦点位置として算出するようにしてもよい。
【0040】
焦点位置を算出する際に、画像取得部は、焦点合わせ領域の一部の画像として、焦点合わせ領域の複数のライン状領域の画像を取得したが、焦点合わせ領域の1のライン状領域の画像のみを取得するようにしてもよい。また、焦点位置を算出する際に、画像取得部が、焦点合わせ領域全ての画像を取得するようにしてもよい。
【0041】
参照位置を算出する際、画像取得部は、分光撮像系を被写体から離れる方向に駆動するようにしたが、近づく方向に駆動するようにしてもよい。
【0042】
画像取得部は、粗焦点位置及び高精度焦点位置を算出することにより、2段階で画像の焦点を合わせるようにしたが、3以上の複数段階や1段階で焦点を合わせるようにしてもよい。
【0043】
表示された画像の焦点が十分に合っていない場合には、画像取得部はマニュアルモードに入るようにしたが、第2ステップ幅よりもさらに短いステップ幅で分光撮像系を駆動したり、分光撮像系の駆動範囲を変更又は広げたりして、焦点合わせ領域の画像を取得し、焦点位置を算出するようにしてもよい。
【0044】
実施形態では、被写体Sの全ての領域を撮像領域A1としたが、撮像領域A1を被写体Sの一部の領域としてもよい。例えば、図10に示すように、被写体Sであるリンゴの果皮の一部を撮像領域A1として、リンゴの軸部を焦点合わせ領域A2としてもよい。このとき、焦点合わせ領域A2は、撮像領域A1外に設定してもよいし、撮像領域A1内に設定してもよいし、撮像領域A1内から撮像領域A1外にかけて設定してもよい。要は、焦点合わせ領域A2が、撮像領域A1の焦点を合わせようとする部分、又は焦点を合わせようとする部分と光軸方向の位置が略一致する部分を含んでいるとともに、撮像領域A1よりも狭い領域であればよい。
【0045】
前記実施形態では、駆動機構が分光撮像系を駆動するようにしたが、集光レンズや被写体を支持するステージを駆動することにより、被写体に対する集光レンズ、スリット、分光手段、又は/及び光検出手段の光軸方向の相対位置を変更するようにしてもよい。
【0046】
例えば、被写体が白い紙のような色や明るさの差が乏しいものである場合、白黒の棒のような、色や明るさの差が大きい焦点合わせ補助部材を、被写体近傍に配置したり、被写体を支持するステージに設けたりすることが望ましい。
【0047】
前記筐体に、集光レンズを交換可能に保持するレンズ保持部を設けてもよい。このようなものであれば、例えば森林の風景の分光画像と、その森林から採取した葉の分光画像とを同一の分光撮像装置100で取得することができ、分光撮像装置の個体差による誤差を低減することができる。このとき、マクロ撮像用のレンズとスリットとの距離(例えば20mm)よりも、ミクロ撮像用のレンズとスリットとの距離(例えば150mm)を大きく設定することが望ましい。
【0048】
画像取得部は、プリ画像として、被写体の一部の画像を取得するようにしたが、被写体全ての画像を取得するようにしてもよい。また、ユーザがプリ画像を確認して焦点合わせ領域を設定するのではなく、プリ画像の中央領域等が焦点合わせ領域として自動的に設定されるようにしてもよい。
【0049】
さらに、スリットの長さと比較して、集光レンズのレンズ径が大きい場合では、集光レンズが集光する領域すべてを撮像することはできず、特にスリットの長手方向について撮像可能な領域が制限されてしまうという問題がある。これに対し、駆動機構が互いに直交する3つの方向に分光撮像系を駆動するものとし、つまり、走査方向及び光軸方向に加えて、スリットの長手方向に分光撮像系を駆動するものとすることが望ましい。このようなものであれば、スリットの長手方向に撮像可能な領域を広げることができ、集光レンズが集光する領域すべてを撮像することも可能となる。この効果は、特に分光撮像系を小型化した場合に顕著である。その他、本発明は上記の各実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前述した種々の構成の一部又は全部を適宜組み合わせて構成してもよい。
【符号の説明】
【0050】
100・・・分光撮像装置
10・・・集光レンズ
20・・・分光撮像系
21・・・遮光部材
21a・・・スリット
22・・・分光手段
26・・・光検出手段
30・・・駆動機構(焦点合わせ手段)
41・・・画像取得部
S・・・被写体
A1・・・撮像領域
A2・・・焦点合わせ領域(狭い領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体からの光を集光する集光レンズと、当該集光レンズによって集光された光のうち、前記被写体のライン状領域からの光を通過させるスリットが形成された遮光部材と、当該スリットを通過した前記ライン状領域からの光を分光する分光手段と、当該分光手段によって分光された光の強度を、前記ライン状領域の長手方向の位置及び波長ごとに検出することにより、前記ライン状領域の画像を取得する光検出手段と、当該光検出手段から前記ライン状領域の画像を順次受け付けて、受け付けた前記各ライン状領域の画像を合わせた撮像領域の画像を取得する画像取得部とを具備するものであって、
前記被写体に対する前記集光レンズ、前記スリット、前記分光手段又は前記光検出手段の光軸方向の相対距離を変更して、前記画像取得部が取得する前記撮像領域の画像の焦点を合わせる焦点合わせ手段をさらに具備し、
前記画像取得部が、焦点を合わせようとする部分を含み前記被写体における前記撮像領域よりも狭い領域の画像を、前記相対距離を設定して取得し、前記狭い領域の画像の焦点が合うときの前記相対距離で、前記撮像領域の画像を取得するものであることを特徴とする分光撮像装置。
【請求項2】
前記画像取得部が、前記相対距離を任意の距離とした状態で、前記被写体の一部又は全部の画像をプリ画像として取得するものであり、当該プリ画像に基づいて前記狭い領域が設定される請求項1記載の分光撮像装置。
【請求項3】
前記画像取得部が、前記各狭い領域の画像上の距離に対する、光の強度の変化が最も急激であるときの前記相対距離を、前記狭い領域の画像の焦点が合うときの前記相対距離とする請求項1又は2記載の分光撮像装置。
【請求項4】
前記遮光部材、前記分光手段、及び前記光検出手段を有する分光撮像系をさらに具備し、前記焦点合わせ手段が、当該分光撮像系を光軸方向に駆動させて、前記被写体に対する前記分光撮像系の光軸方向の相対距離を変更するものである請求項1乃至3いずれかに記載の分光撮像装置。
【請求項5】
前記集光レンズを、交換可能に保持するレンズ保持部をさらに具備する請求項1乃至4いずれかに記載の分光撮像装置。
【請求項6】
被写体からの光を集光する集光レンズと、当該集光レンズによって集光された光のうち、前記被写体のライン状領域からの光を通過させるスリットが形成された遮光部材と、当該スリットを通過した前記ライン状領域からの光を分光する分光手段と、当該分光手段によって分光された光の強度を前記ライン状領域の長手方向の位置及び波長ごとに検出することにより、前記ライン状領域の画像を取得する光検出手段と、当該光検出手段から前記ライン状領域の画像を順次受け付けて、受け付けた前記各ライン状領域の画像を合わせた撮像領域の画像を取得する画像取得部とを具備する分光撮像装置の動作方法であって、
前記被写体に対する前記集光レンズ、前記スリット、前記分光手段又は前記光検出手段の光軸方向の相対距離を変更して、前記画像取得部が取得する前記撮像領域の画像の焦点を合わせる焦点合わせステップと、
前記画像取得部が、焦点を合わせようとする部分を含み前記被写体における前記撮像領域よりも狭い領域の画像を、前記相対距離を設定して取得し、前記狭い領域の画像の焦点が合うときの前記相対距離で、前記撮像領域の画像を取得する画像取得ステップとを具備することを特徴とする分光撮像方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−24637(P2013−24637A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157822(P2011−157822)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(505125945)学校法人光産業創成大学院大学 (49)
【Fターム(参考)】