説明

分光測定装置、分光測定方法、及び分光測定プログラム

【課題】 分光器内で発生する迷光の影響を低減することが可能な分光測定装置、測定方法、及び測定プログラムを提供する。
【解決手段】 試料Sが内部に配置される積分球20と、試料Sからの被測定光を分光して波長スペクトルを取得する分光分析装置30と、データ解析装置50とを備えて分光測定装置1Aを構成する。解析装置50は、波長スペクトルにおいて励起光に対応する第1対象領域、及び試料Sからの発光に対応する第2対象領域を設定する対象領域設定部と、試料Sの発光量子収率を求める試料情報解析部とを有し、リファレンス測定及びサンプル測定の結果から発光量子収率の測定値Φを求めるとともに、リファレンス測定での迷光に関する係数β、γを用い、Φ=βΦ+γによって迷光の影響を低減した発光量子収率の解析値Φを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積分球を備える分光測定装置、及び分光測定装置を用いて実行される分光測定方法、分光測定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料から発せられる光の強度を測定するために積分球が用いられている。積分球の内壁は、高い反射率を有しかつ拡散性に優れたコーティングまたは材料からできており、内壁面に入射した光は多重拡散反射される。そして、この拡散された試料からの光が、積分球の所定位置に設けられた出射開口部を介して光検出器に入射されて検出され、それによって試料における発光の強度などの情報を、試料での発光パターン、発光の角度特性などに依存することなく高精度で取得することができる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
積分球を用いた測定の対象となる試料の一例として、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子がある。有機EL素子は、一般に、ガラスや透明な樹脂材料からなる基板上に陽極、発光層を含む有機層、及び陰極が積層された構造を有する発光素子である。陽極から注入される正孔と陰極から注入される電子とが発光層において再結合することで光子が発生し、発光層が発光する。
【0004】
有機EL素子の発光特性の測定、評価においては、注入された電子数に対する素子外部に放出された光子数の割合で定義される外部量子効率などが重要となる。また、有機EL素子で使用される発光材料の測定、評価においては、試料が吸収する励起光の光子数に対する試料からの発光の光子数の割合で定義される発光量子収率(内部量子効率)が重要となる。積分球を用いた光測定装置は、このような有機EL素子における量子効率の評価にも好適に用いることができる。
【特許文献1】特許第3287775号公報
【特許文献2】特開2007−33334号公報
【特許文献3】特開2007−86031号公報
【特許文献4】特開平11−30552号公報
【特許文献5】特開平5−60613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、次世代ディスプレイや次世代照明の研究開発において、低消費電力化という観点で有機EL素子などの発光素子の発光効率を上げるため、発光素子に用いられる発光材料の発光量子収率の評価の重要性が増してきている。このような発光量子収率の評価方法として、上記した積分球を備える光測定装置を用い、フォトルミネッセンス(PL)法によって発光材料の絶対発光量子収率を測定する方法がある。
【0006】
具体的には、PL法による発光量子収率の評価では、積分球内に配置された発光材料の試料に対して所定波長の励起光を照射し、試料が吸収する励起光の光子数に対する試料からの発光の光子数の割合で定義される発光量子収率を測定する。この場合、試料からの発光は、例えば励起光の照射によって励起された試料から発せられる蛍光であり、通常、励起光よりも長波長の光となる。また、積分球から出射された被測定光の検出では、分光器を用いて被測定光の波長スペクトルを測定する構成を用いることにより、励起光と試料からの発光とを分離して測定することができる(特許文献1参照)。
【0007】
ここで、上記した試料の量子収率測定においては、例えば酸素の影響等によって長時間の励起光の照射ができない試料など、様々な種類の試料が測定対象となる。このため、分光器を用いた量子収率測定では、励起光を照射した状態でモータ駆動等によって分光器の構成を変えて測定波長を走査する構成よりも、測定すべき全波長領域について同時に測定を行うことが可能なマルチチャンネル型の分光器を用いる構成の方が適している。
【0008】
しかしながら、このようなマルチチャンネル分光器を用いた分光測定装置では、分光器の構造等により比較的迷光の発生が多く、測定結果への迷光の影響が問題となる(特許文献4、5参照)。例えば、積分球内の試料に励起光を照射して行われる発光量子収率の測定では、励起光が分光器に入射すると、その内側での励起光の乱反射などによって迷光が発生する。このような励起光による迷光は、励起光以外の波長成分として誤って検出されることにより、測定結果から求められる発光量子収率の精度が低下する原因となる。
【0009】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、分光器内で発生する迷光の影響を低減することが可能な分光測定装置、分光測定方法、及び分光測定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明による分光測定装置は、(1)測定対象の試料が内部に配置され、試料に照射される励起光を入射するための入射開口部、及び試料からの被測定光を出射するための出射開口部を有する積分球と、(2)積分球の出射開口部から出射された被測定光を分光して、その波長スペクトルを取得する分光手段と、(3)分光手段によって取得された波長スペクトルに対してデータ解析を行うデータ解析手段とを備え、(4)データ解析手段は、波長スペクトルにおける測定全波長領域のうちで、励起光に対応する第1対象領域、及び試料からの発光に対応し第1対象領域とは異なる波長領域である第2対象領域を設定する対象領域設定手段と、第1対象領域及び第2対象領域を含む波長領域での波長スペクトルを解析することで、試料の発光量子収率を求める試料情報解析手段とを有し、(5)上記試料情報解析手段は、積分球の内部に試料無しの状態で励起光を供給して測定を行うリファレンス測定において取得された第1対象領域での測定強度をIR1、第2対象領域での測定強度をIR2、測定全波長領域での測定強度をIR0とし、積分球の内部に試料有りの状態で励起光を供給して測定を行うサンプル測定において取得された第1対象領域での測定強度をIS1、第2対象領域での測定強度をIS2、測定全波長領域での測定強度をIS0としたときに、発光量子収率の測定値Φ
Φ=(IS2−IR2)/(IR1−IS1
によって求めるとともに、リファレンス測定での迷光に関する係数β、γを
β=IR1/IR0
γ=IR2/IR0
として定義し、発光量子収率の解析値Φを
Φ=βΦ+γ
によって求めることを特徴とする。
【0011】
また、本発明による分光測定方法は、(1)測定対象の試料が内部に配置され、試料に照射される励起光を入射するための入射開口部、及び試料からの被測定光を出射するための出射開口部を有する積分球と、(2)積分球の出射開口部から出射された被測定光を分光して、その波長スペクトルを取得する分光手段とを備える分光測定装置を用い、(3)分光手段によって取得された波長スペクトルに対してデータ解析を行う分光測定方法であって、(4)波長スペクトルにおける測定全波長領域のうちで、励起光に対応する第1対象領域、及び試料からの発光に対応し第1対象領域とは異なる波長領域である第2対象領域を設定する対象領域設定ステップと、第1対象領域及び第2対象領域を含む波長領域での波長スペクトルを解析することで、試料の発光量子収率を求める試料情報解析ステップとを備え、(5)上記試料情報解析ステップは、積分球の内部に試料無しの状態で励起光を供給して測定を行うリファレンス測定において取得された第1対象領域での測定強度をIR1、第2対象領域での測定強度をIR2、測定全波長領域での測定強度をIR0とし、積分球の内部に試料有りの状態で励起光を供給して測定を行うサンプル測定において取得された第1対象領域での測定強度をIS1、第2対象領域での測定強度をIS2、測定全波長領域での測定強度をIS0としたときに、発光量子収率の測定値Φ
Φ=(IS2−IR2)/(IR1−IS1
によって求めるとともに、リファレンス測定での迷光に関する係数β、γを
β=IR1/IR0
γ=IR2/IR0
として定義し、発光量子収率の解析値Φを
Φ=βΦ+γ
によって求めることを特徴とする。
【0012】
また、本発明による分光測定プログラムは、(1)測定対象の試料が内部に配置され、試料に照射される励起光を入射するための入射開口部、及び試料からの被測定光を出射するための出射開口部を有する積分球と、(2)積分球の出射開口部から出射された被測定光を分光して、その波長スペクトルを取得する分光手段とを備える分光測定装置に適用され、(3)分光手段によって取得された波長スペクトルに対するデータ解析をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、(4)波長スペクトルにおける測定全波長領域のうちで、励起光に対応する第1対象領域、及び試料からの発光に対応し第1対象領域とは異なる波長領域である第2対象領域を設定する対象領域設定処理と、第1対象領域及び第2対象領域を含む波長領域での波長スペクトルを解析することで、試料の発光量子収率を求める試料情報解析処理とをコンピュータに実行させ、(5)上記試料情報解析処理は、積分球の内部に試料無しの状態で励起光を供給して測定を行うリファレンス測定において取得された第1対象領域での測定強度をIR1、第2対象領域での測定強度をIR2、測定全波長領域での測定強度をIR0とし、積分球の内部に試料有りの状態で励起光を供給して測定を行うサンプル測定において取得された第1対象領域での測定強度をIS1、第2対象領域での測定強度をIS2、測定全波長領域での測定強度をIS0としたときに、発光量子収率の測定値Φ
Φ=(IS2−IR2)/(IR1−IS1
によって求めるとともに、リファレンス測定での迷光に関する係数β、γを
β=IR1/IR0
γ=IR2/IR0
として定義し、発光量子収率の解析値Φを
Φ=βΦ+γ
によって求めることを特徴とする。
【0013】
上記した分光測定装置、測定方法、及び測定プログラムにおいては、励起光入射用の開口部、及び被測定光出射用の開口部が設けられてPL法による測定が可能に構成された積分球と、励起光及び試料からの発光を波長スペクトルによって区別可能なように被測定光を分光測定する分光手段とを用いて分光測定装置を構成する。
【0014】
そして、波長スペクトルを用いた試料情報の解析において、試料無しの状態でのリファレンス測定と、試料有りの状態でのサンプル測定との2回の測定結果を用いるとともに、発光量子収率の測定値Φに対し、リファレンス測定の結果から迷光に関する係数β、γを上記のように定義し、これらの係数を用いて計算式Φ=βΦ+γによって、発光量子収率の解析値Φを求めている。このような構成によれば、測定値Φを上記の式で補正して、発光量子収率の真値に相当する解析値Φを求めることにより、測定結果に含まれる分光器内での迷光の影響を確実に低減することが可能となる。
【0015】
ここで、被測定光の波長スペクトルを取得する分光手段については、被測定光を波長成分に分解する分光器と、分光器によって分解された被測定光の各波長成分を検出するための複数チャンネルの検出部を有する光検出器とを有し、マルチチャンネル分光器として構成されていることが好ましい。マルチチャンネル分光器を用いた構成では、上述したように比較的迷光の発生が多いが、係数β、γによって補正された解析値Φを求める方法によれば、そのような構成においても、迷光の影響が低減された発光量子収率の値を好適に求めることができる。また、このような方法は、マルチチャンネル分光器以外の分光器を用いた場合にも、同様に有効に適用することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の分光測定装置、分光測定方法、及び分光測定プログラムによれば、積分球と、被測定光を分光測定して波長スペクトルを取得する分光手段とを用いて分光測定装置を構成し、試料情報の解析において、リファレンス測定と、サンプル測定との2回の測定結果を用いるとともに、発光量子収率の測定値Φに対し、リファレンス測定の結果から迷光に関する係数β、γを定義し、補正式Φ=βΦ+γによって発光量子収率の真値に相当する解析値Φを求めることにより、測定結果に含まれる分光器内での迷光の影響を確実に低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面とともに本発明による分光測定装置、分光測定方法、及び分光測定プログラムの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0018】
図1は、分光測定装置の一実施形態の構成を模式的に示す図である。本実施形態による分光測定装置1Aは、励起光供給部10と、積分球20と、分光分析装置30と、データ解析装置50とを備え、発光材料などの試料Sに対して所定波長の励起光を照射し、フォトルミネッセンス法(PL法)によって試料Sの蛍光特性などの発光特性を測定、評価することが可能なように構成されている。
【0019】
励起光供給部10は、積分球20に収容された測定対象の試料Sに対し、試料Sの発光特性を測定するための励起光を供給する励起光供給手段である。図1に示す構成例では、励起光供給部10は、励起光源11と、光源11からの光を積分球20へと導くライトガイド13とによって構成されている。また、励起光源11と、ライトガイド13との間には、励起光として用いられる光の波長成分を選択するための波長選択部12が設置されている。このような波長選択部12としては、例えば分光器を用いることができる。なお、波長選択部12については、不要であれば設けない構成としても良い。また、波長選択部12において励起光の波長を可変に切り替える構成としても良い。
【0020】
積分球20は、内部に配置される試料Sの発光特性の測定に用いられるものであり、試料Sに照射される励起光を積分球20内に入射するための入射開口部21と、試料Sからの被測定光を外部へと出射するための出射開口部22と、積分球20の内部に試料Sを導入する試料導入用の開口部23とを有して構成されている。試料導入開口部23には試料ホルダ40が固定されている。また、この試料ホルダ40の先端部には、積分球20内で試料Sを所定位置に保持する試料容器(試料セル)400が設けられている。
【0021】
積分球20の入射開口部21には、励起光入射用のライトガイド13の出射端部が固定されている。このライトガイド13としては、例えば光ファイバを用いることができる。また、積分球20の出射開口部22には、試料Sからの被測定光を後段の分光分析装置30へと導光するライトガイド25の入射端部が固定されている。このライトガイド25としては、例えばシングルファイバ、またはバンドルファイバを用いることができる。
【0022】
分光分析装置30は、積分球20の出射開口部22からライトガイド25を介して出射された試料Sからの被測定光を分光して、その波長スペクトルを取得するための分光手段である。本構成例においては、分光分析装置30は、分光部31と、分光データ生成部32とを有して構成されている。
【0023】
分光部31は、被測定光を波長成分に分解する分光器と、分光器によって波長分解された被測定光の各波長成分を検出するための複数チャンネル(例えば1024チャンネル)の検出部を有する光検出器とによって、マルチチャンネル分光器として構成されている。光検出器としては、具体的には例えば複数チャンネルの画素が1次元に配列されたCCDリニアセンサを用いることができる。また、分光部31によって波長スペクトルが取得される測定全波長領域は、具体的な構成等に応じて適宜設定して良いが、例えば200nm〜950nmである。また、分光データ生成部32は、分光部31の光検出器の各チャンネルから出力される検出信号に必要な信号処理を行って、分光された被測定光の波長スペクトルのデータを生成する分光データ生成手段である。分光データ生成部32で生成、取得された波長スペクトルのデータは、後段のデータ解析装置50へと出力される。
【0024】
データ解析装置50は、分光分析装置30によって取得された波長スペクトルに対して必要なデータ解析を行って、試料Sについての情報を取得するデータ解析手段である。解析装置50での具体的なデータ解析の内容については後述する。また、このデータ解析装置50には、データ解析等についての指示の入力、解析条件の入力等に用いられる入力装置61と、データ解析結果の表示等に用いられる表示装置62とが接続されている。
【0025】
なお、励起光供給部10、及び積分球20等の構成については、具体的には図1に示した構成以外にも、様々な構成を用いることが可能である。図2は、分光測定装置の他の実施形態の構成を示す図である。図2に示す変形例では、励起光供給部10は、励起光源11と、ライトガイド13と、励起光源11からの光のうちで所定の波長成分を選択して試料Sへと照射する励起光とする干渉フィルタなどの光フィルタ14とによって構成されている。また、積分球20は、入射開口部21と、出射開口部22と、試料導入用の開口部24とを有して構成されている。また、この構成例では、試料導入開口部24には試料ホルダ240が固定されており、この試料ホルダ240上に試料Sが載置されている。
【0026】
図3は、図1に示した分光測定装置1Aに用いられる積分球20の構成の一例を示す断面図であり、励起光の照射光軸Lに沿った積分球20の断面構成を示している。本構成例における積分球20は、取付ねじ285によって架台280に取り付けられた積分球本体200を備えている。また、架台280は、互いに直交する2つの接地面281、282を有するL字形状に形成されている。また、照射光軸Lは、積分球本体200の中心位置を通り、接地面281に平行で接地面282に直交する方向に伸びている。
【0027】
積分球本体200には、図1に示した入射開口部21、出射開口部22、及び試料導入開口部23が設けられている。入射開口部21は、光軸Lの一方側の積分球本体200の所定位置に設けられている。また、出射開口部22は、積分球本体200の中心位置を通り光軸Lに直交する面上の所定位置に設けられている。また、試料導入開口部23は、積分球本体200の中心位置を通り光軸Lに直交する面上で中心位置からみて出射開口部22とは90°ずれた位置に設けられている。また、図3に示す構成例では、開口部23に加えて、第2試料導入開口部24が設けられている。この試料導入開口部24は、光軸Lの他方側であって入射開口部21と対向する位置に設けられている。
【0028】
入射開口部21には、励起光入射用のライトガイド13を接続するためのライトガイドホルダ210が挿入されて取り付けられている。出射開口部22には、被測定光出射用のライトガイド25を接続するためのライトガイドホルダ220が挿入されて取り付けられている。なお、図3においては、ライトガイド13、25の図示を省略している。
【0029】
第1試料導入開口部23には、試料ホルダ40を固定する試料ホルダ固定部材230が取り付けられている(図1参照)。試料ホルダ40は、試料Sが収容される中空(例えば四角柱形状)の試料容器400と、試料容器400から伸びる容器支持部401とによって構成されている。容器400は、積分球本体200の中心に配置された状態で、支持部401及び固定部材230を介して本体200に固定されている。試料容器400は、励起光及び被測定光を含む光を透過する材質で形成されていることが好ましく、例えば合成石英ガラス製の光学セルが好適に用いられる。容器支持部401は、例えば管状に延在する棒状の枝管等によって構成される。また、第2試料導入開口部24には、試料Sを載置するための第2試料ホルダ240が取り付けられている(図2参照)。
【0030】
開口部23及び試料ホルダ40は、例えば発光材料が溶解された溶液が試料Sである場合に好適に用いることができる。また、試料Sが固形試料、粉末試料等である場合にも、このような試料ホルダ40を用いることができる。また、開口部24及び試料ホルダ240は、例えば試料Sが固形試料、粉末試料である場合に好適に用いることができる。この場合、試料容器として、例えば試料保持基板、あるいはシャーレ等が用いられる。
【0031】
これらの試料ホルダは、試料Sの種類、分光測定の内容等に応じて使い分けられる。試料ホルダ40を用いる場合、光軸Lが水平線に沿うように架台280の接地面281を下にした状態で積分球20がセットされる。また、試料ホルダ240を用いる場合、光軸Lが鉛直線に沿うように架台280の接地面282を下にした状態で積分球20がセットされる。また、試料容器400無しの状態での測定が必要な場合には、例えば図4に示すように、遮光カバー405をかぶせた状態で測定が行われる。
【0032】
励起光入射用のライトガイド13は、ライトガイドホルダ210のライトガイド保持部211によって位置決めされた状態で保持されている。励起光源11(図1参照)からの光は、ライトガイド13によって積分球20へと導光され、ライトガイドホルダ210内に設置された集光レンズ212によって集光されつつ、積分球20内に保持された試料Sに照射される。また、被測定光出射用のライトガイド25は、ライトガイドホルダ220によって位置決めされた状態で保持されている。
【0033】
励起光が照射された試料Sからの光は、積分球本体200の内壁に塗布された高拡散反射粉末によって多重拡散反射される。この拡散反射された光は、ライトガイドホルダ220に接続されたライトガイド25に入射され、ライトガイド25を介して被測定光として分光分析装置30へと導かれる。これによって、試料Sからの被測定光について分光測定が行われる。被測定光となる試料Sからの光としては、励起光の照射によって試料Sで生じた蛍光などの発光、及び励起光のうちで試料Sに吸収されずに積分球20内で散乱、反射等された光成分がある。
【0034】
図5は、図1に示した分光測定装置1Aに用いられるデータ解析装置50の構成の一例を示すブロック図である。本構成例におけるデータ解析装置50は、分光データ入力部51と、試料情報解析部52と、対象領域設定部53と、解析データ出力部56とを有して構成されている。
【0035】
分光データ入力部51は、分光分析装置30によって取得された試料Sについての分光データである波長スペクトルのデータを入力する入力手段である。分光データ入力部51から入力された波長スペクトルのデータは、試料情報解析部52へと送られる。試料情報解析部52は、入力された波長スペクトルを解析して、試料Sについての情報を取得する試料情報解析手段である。
【0036】
対象領域設定部53は、取得された波長スペクトルに対し、データ解析に用いる波長領域である対象領域を設定する対象領域設定手段である。具体的には、対象領域設定部53は、被測定光に励起光と試料Sからの発光とが含まれていることに対応して、波長スペクトルにおける測定全波長領域のうちで、励起光に対応する短波長側の第1対象領域と、試料Sからの発光に対応し第1対象領域とは異なる長波長側の第2対象領域とを設定する。このような対象領域の設定は、所定の設定アルゴリズムによって自動で、または操作者による入力装置61からの入力内容に基づいて手動で実行される。また、解析部52は、対象領域が設定された波長スペクトルに対し、第1対象領域及び第2対象領域を含む波長領域での波長スペクトルを解析することで、試料Sの発光量子収率を求める。
【0037】
解析データ出力部56は、試料情報解析部52での解析結果を示すデータを出力する出力手段である。解析部52による解析結果のデータが出力部56を介して表示装置62へと出力されると、表示装置62は、その解析結果を操作者に対して所定の表示画面で表示する。また、出力部56によるデータの出力先については、表示装置62に限らず、その他の装置にデータを出力しても良い。図5においては、解析データ出力部56に対して、表示装置62に加えて外部装置63が接続された構成を示している。このような外部装置63としては、例えば印刷装置、外部記憶装置、他の端末装置などが挙げられる。
【0038】
図1及び図5に示したデータ解析装置50において実行される分光測定方法に対応する処理は、分光手段の分光分析装置30によって取得された波長スペクトルに対するデータ解析をコンピュータに実行させるための分光測定プログラムによって実現可能である。例えば、データ解析装置50は、分光測定の処理に必要な各ソフトウェアプログラムを動作させるCPUと、上記ソフトウェアプログラムなどが記憶されるROMと、プログラム実行中に一時的にデータが記憶されるRAMとによって構成することができる。このような構成において、CPUによって所定の分光測定プログラムを実行することにより、上記したデータ解析装置50、及び分光測定装置1Aを実現することができる。
【0039】
また、分光測定のための各処理をCPUによって実行させるための上記プログラムは、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録して頒布することが可能である。このような記録媒体には、例えば、ハードディスク及びフレキシブルディスクなどの磁気媒体、CD−ROM及びDVD−ROMなどの光学媒体、フロプティカルディスクなどの磁気光学媒体、あるいはプログラム命令を実行または格納するように特別に配置された、例えばRAM、ROM、及び半導体不揮発性メモリなどのハードウェアデバイスなどが含まれる。
【0040】
励起光供給部10、積分球20、及び分光分析装置30によって実行される分光測定、及び分光分析装置30で取得された波長スペクトルに対してデータ解析装置50において実行されるデータ解析について、さらに具体的に説明する。
【0041】
試料Sの発光量子収率をPL法によって求める場合、一般に、積分球20の内部に試料S無しの状態で励起光を供給して測定を行うリファレンス測定と、積分球20の内部に試料S有りの状態で励起光を供給して測定を行うサンプル測定とを行い、それらの2回の測定結果から発光量子収率を求める方法が用いられる。具体的には、リファレンス測定は、例えば、試料Sを収容していない状態の試料容器(試料セル、試料保持基板等)を積分球20内に配置した状態で行われる。また、サンプル測定は、試料Sを収容した試料容器を積分球20内に配置した状態で行われる。
【0042】
図6は、リファレンス測定及びサンプル測定において取得される波長スペクトルの一例を示すグラフである。図6において、グラフ(a)はリニアスケールでの波長スペクトルを示し、グラフ(b)はログスケールでの波長スペクトルを示している。また、図6のグラフ(a)、(b)において、グラフGRは、試料S無しのリファレンス測定で励起光について取得された波長スペクトルを示している。また、グラフGSは、試料S有りのサンプル測定で取得された励起光+発光の波長スペクトルを示している。
【0043】
このような波長スペクトルに対し、データ解析装置50の対象領域設定部53は、励起光に対応する短波長側の第1対象領域R1と、試料Sからの発光に対応する長波長側の第2対象領域R2とを設定する。図6のグラフでは、第1対象領域R1について、その短波長側領域端をC1、長波長側領域端をC2として示している。また、第2対象領域R2について、その短波長側領域端をC3、長波長側領域端をC4として示している。
【0044】
また、試料情報解析部52は、対象領域R1、R2を含む波長領域での波長スペクトルを解析して、試料Sの発光量子収率Φを求める。具体的には、試料S無しでのリファレンス測定において取得された第1対象領域R1での測定強度(励起光強度)をIR1、第2対象領域R2での測定強度(発光強度、励起光の迷光等の強度)をIR2、分光分析装置30の測定全波長領域での測定強度をIR0とする。また、試料S有りでのサンプル測定において取得された第1対象領域R1での測定強度(励起光強度、試料による吸収後での強度)をIS1、第2対象領域R2での測定強度(発光強度)をIS2、測定全波長領域での測定強度をIS0とする。このとき、試料Sが吸収する励起光の光子数に対する試料Sからの発光の光子数の割合で定義される発光量子収率の測定値Φは、下記の式
【数1】


によって求められる。
【0045】
ここで、図1に示したように分光分析装置30においてマルチチャンネル分光器を用いた分光測定装置1Aでは、分光器の構造等により比較的迷光の発生が多く、測定結果への迷光の影響が問題となる。図7は、マルチチャンネル分光器における迷光の発生について示す図である。このマルチチャンネル分光器は、入射スリット311、コリメーティング光学系312、分散素子である回折格子313、及びフォーカシング光学系314を有して構成されている。図7では、迷光の例として、回折格子313で発生した迷光SLが、フォーカシング光学系314を介して波長スペクトル出力面315において、本来とは異なる波長成分として出力される場合を示している。
【0046】
このような迷光については、例えば分光器のサイズを大きくするなどの方法で迷光の影響を減らすことが考えられる。しかしながら、そのような構成では、迷光対策を施すことによる分光器の構造の複雑化、コストの上昇等の問題がある(特許文献5:特開平5−60613号公報参照)。また、上記のように物理的に迷光を減らす方法には限界があり、また、分光器毎の個体差等により迷光の低減効果が充分に得られない場合がある。
【0047】
これに対して、上記実施形態の分光測定装置1Aでは、リファレンス測定及びサンプル測定によって取得された波長スペクトルに対してデータ解析装置50で実行されるデータ解析において、計算によって迷光の影響を低減して、正確な発光量子収率を求める。すなわち、リファレンス測定、サンプル測定での測定結果、及び発光量子収率の測定値Φに対し、解析部52において、リファレンス測定での迷光に関する係数β、γを
β=IR1/IR0
γ=IR2/IR0
として定義する。そして、これらの係数β、γを用い、迷光の影響が低減された発光量子収率の解析値Φを
Φ=βΦ+γ
によって求める方法を用いている。ここで、係数βは、励起光が分光器の迷光によって測定全波長領域に広がっていると仮定して、全波長領域に対して第1対象領域(励起光波長領域)で観測される光子数の割合を示している。また、係数γは、同様に、全波長領域に対して第2対象領域(発光波長領域)で観測される光子数の割合を示している。
【0048】
発光量子収率の解析値Φの導出について、図8〜図10のグラフを用いて具体的に説明する。図8〜図10は、積分球20の内部に試料S無しの状態で励起光を供給するリファレンス測定で取得される波長スペクトルを示すグラフである。この例では、分光分析装置30による測定全波長領域は、200nm〜950nmである。図8に示すように、この測定全波長領域で取得された波長スペクトルに対し、データ解析装置50の対象領域設定部53において、励起光に対応する第1対象領域R1の領域端C1、C2、及び試料Sからの発光(例えば蛍光)に対応する第2対象領域R2の領域端C3、C4が設定される。ここで、試料S無しの状態で行われるリファレンス測定では、第2対象領域R2で検出される光成分は、例えば励起光に起因する迷光等である。
【0049】
このような波長スペクトルに対し、試料情報解析部52において、リファレンス測定における各波長領域での測定強度が算出される。まず、図9のグラフに示すように、波長スペクトルの測定全波長領域について、その全体での測定強度(波長領域内での測定強度の積分値)IR0が求められる。また、図10のグラフ(a)、(b)に示すように、第1対象領域R1、第2対象領域R2について、それぞれ対応する測定強度IR1、IR2が求められる。なお、サンプル測定における各波長領域での測定強度IS0、IS1、IS2についても、同様の方法によって算出することができる。
【0050】
また、これらのリファレンス測定での測定強度IR0、IR1、IR2により、上記した迷光に関する係数β=IR1/IR0、γ=IR2/IR0が求められる。これらの迷光補正用の係数は、β>0、γ>0、β+γ≦1を満たす。また、リファレンス測定では、ほとんどの励起光は第1対象領域R1で検出されると考えられるため、βは1に近い値となり、一方、γは0に近い値となる。具体的に、図8〜図10に示した例では、β=0.93、γ=0.02である。
【0051】
ここで、リファレンス測定での励起光の全強度をI(=IR0)、サンプル測定での励起光の全強度をI、サンプル測定での蛍光の全強度をFとし、また、試料Sの発光量子収率の真値をΦとする。また、試料Sでの励起光透過率をαとすると、透過率αは
α=I/I
によって求められる。リファレンス測定及びサンプル測定において迷光の影響が無く、迷光に関する係数がβ=1、γ=0であれば、試料Sの発光量子収率の値Φは、
【数2】


によって正しく求められる。
【0052】
実際の測定では、分光器内で発生する迷光の影響により、係数γは0にはならない。このとき、リファレンス測定での励起光強度IR1、蛍光強度IR2、サンプル測定での励起光強度IS1、蛍光強度IS2は、それぞれ
R1=βI
R2=γI
S1=βI=αβI
S2=F+γI=F+αγI
となる。
【0053】
また、これらの測定強度から求められる発光量子収率の測定値Φは、
【数3】


となる。この式において、第1項のΦ/βは、迷光の影響で試料Sに吸収された励起光の光子数が小さめに測定されるため、発光量子収率が1/β(≧1)倍で大きく計算されることを示している。また、第2項の−γ/βは、蛍光のバックグラウンド減算が与える誤差と考えることができる。
【0054】
上記した発光量子収率の測定値Φにおいて、迷光の影響が小さくβ→1、γ→0であれば、発光量子収率の真値Φに対して測定値はΦ→Φとなる。また、補正による迷光の影響の低減が必要な場合には、上記式を逆に解いて得られる下記の式
【数4】


を用いることにより、発光量子収率の真値に相当する解析値Φを求めることができる。
【0055】
上記実施形態による分光測定装置、分光測定方法、及び分光測定プログラムの効果について説明する。
【0056】
図1〜図10に示した分光測定装置1A、測定方法、及び測定プログラムにおいては、励起光入射用の開口部21、及び被測定光出射用の開口部22が設けられてPL法による測定が可能に構成された積分球20と、励起光及び試料Sからの発光を波長スペクトルによって区別可能なように被測定光を分光測定する分光分析装置30とを用いて分光測定装置1Aを構成する。
【0057】
そして、波長スペクトルを用いた試料情報の解析において、試料S無しの状態でのリファレンス測定と、試料S有りの状態でのサンプル測定との2回の測定結果を用いるとともに、発光量子収率の測定値Φに対し、リファレンス測定の結果から迷光に関する係数β=IR1/IR0、γ=IR2/IR0を定義し、これらの係数を用いて計算式Φ=βΦ+γによって発光量子収率の解析値Φを求めている。
【0058】
このような構成によれば、測定値Φを上記の式で補正して、発光量子収率の真値に相当する解析値Φを求めることにより、測定結果に含まれる分光器内での迷光の影響を確実に低減することが可能となる。特に、このような構成では、迷光除去によるスペクトル波形の補正等を行うことがなく、波長スペクトルに対するデータ解析において計算によって迷光の影響を低減して、簡単かつ正確に発光量子収率を求めることができる。また、分光器の改良などによる迷光除去を行う必要がないため、分光測定装置を低コストで実現することが可能である。また、このように計算によって迷光の影響を低減する構成を、物理的に迷光を減らす構成と併用することも可能である。
【0059】
また、被測定光の波長スペクトルを取得する分光手段については、分光分析装置30に関して上述したように、分光器と、複数チャンネルの検出部を有する光検出器とを有するマルチチャンネル分光器を含む構成とすることが好ましい。この場合、励起光及び試料Sからの発光の分光測定に必要な全波長領域について、波長の走査等を行うことなく同時に測定することが可能となる。また、係数β、γによって補正された解析値Φを求める上記方法によれば、このように比較的迷光の発生が多いマルチチャンネル分光器を用いた構成においても、迷光の影響が低減された発光量子収率を好適に求めることができる。また、このような方法は、マルチチャンネル分光器以外の構成の分光器を用いた場合にも、同様に有効に適用することが可能である。
【0060】
ここで、特許文献4(特開平11−30552号公報)には、分光光度計における迷光の影響を除去することについての記載がある。しかしながら、文献4に記載された構成では、分光光度計に対して基準分光器を含む基準光出力手段を別に用意し、それによって迷光の影響を装置定数として見積もる方法を用いている。このような構成では、多くのステップを経ることで迷光の補正を行う必要があり、分光測定装置の構成、及び迷光補正を含む測定方法ともに複雑化する。これに対して、上記実施形態の分光測定装置1Aでは、励起光に対応する第1対象領域R1、及び試料Sの発光に対応する第2対象領域R2のそれぞれでの測定強度を用いて係数β、γを定義し、計算によって迷光の影響を低減することで、発光量子収率の導出を簡単かつ正確に行うことが可能である。
【0061】
図1に示した分光測定装置1Aにおいて実行される分光測定方法の具体例について、図11、図12を参照して説明する。
【0062】
図11は、測定モードにおける分光測定装置の動作例を示すフローチャートである。この測定モードの動作例では、まず、試料S無しの状態でのリファレンス測定を開始するかどうかが確認され(ステップS101)、測定開始が指示されていればリファレンス測定を行って、その波長スペクトルを取得する(S102)。また、リファレンス測定の波長スペクトルに対し、第1、第2対象領域R1、R2の設定、及び迷光に関する係数β、γの導出が行われる(S103)。なお、これらの対象領域の設定及び係数の導出については、サンプル測定の実行後に発光量子収率の算出と合わせて行う構成としても良い。
【0063】
次に、積分球20の試料ホルダに測定対象の試料Sをセットし、試料S有りの状態でのサンプル測定を行って、その波長スペクトルを取得する(S104)。続いて、次の試料Sについて測定を行うかどうかが確認され(S105)、測定を行う場合にはステップS104が繰り返して実行される。試料Sの測定をすべて終了している場合には、測定を終了した試料Sが積分球20から取り出される(S106)。
【0064】
試料Sの分光測定が終了したら、リファレンス測定及びサンプル測定で取得された波長スペクトルに対して、発光量子収率を求めるために必要なデータ解析が行われる。本実施例では、上述した方法によって、リファレンス、サンプル測定で取得された波長スペクトルにおける各波長領域での測定強度から、発光量子収率の測定値Φを算出する(S107)。そして、ステップS103で導出された係数β、γを用い、式Φ=βΦ+γによって、発光量子収率の真値に相当する解析値Φを求める(S108)。以上により、測定モードにおける試料Sの分光測定及び発光量子収率の導出を終了する。
【0065】
図12は、調整モードにおける分光測定装置の動作例を示すフローチャートである。このような調整モードは、例えば、図1に示したように励起光供給部10に分光器などの波長選択部12を用いた構成において、励起光の照射条件を設定するために用いられる。
【0066】
この調整モードの動作例では、まず、波長選択部12等の設定を調整することで励起光の波長が調整され(S201)、その波長が決定される(S202)。次に、設定された励起光の特性等を参照して、試料Sに対して励起光を照射する最適露光時間が決定される(S203)。続いて、分光測定装置の動作モードを調整モードから測定モードに切り替えるかどうかが確認され(S204)、切り替えが指示されれば動作モードが測定モードに切り替えられる(S205)。また、切り替えの指示がなければ、励起光の照射条件の設定が繰り返して実行される。
【0067】
ここで、量子収率の測定では、上述したようにリファレンス測定及びサンプル測定において励起光、発光、蛍光などの光成分の測定を行うが、これらの光成分はそれぞれ異なる配光特性を有する。このため、蛍光光度計等を用いた量子収率測定では、それらの被測定光を完全に捕捉して検出器へと導くことが難しい。これに対して、積分球を用いた上記の分光測定装置では、リファレンス測定及びサンプル測定を同じ条件で測定することが可能であり、補正式Φ=βΦ+γによって発光量子収率の解析値Φを求める上記方法は、このような測定装置に適した方法であるといえる。
【0068】
本発明による分光測定装置、分光測定方法、及び分光測定プログラムは、上記した実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、試料Sに対する分光測定に用いられる積分球については、図3及び図4に示した積分球20はその一例を示すものであり、具体的には様々な構成のものを用いて良い。また、分光測定の具体的な手順についても、図11、図12に示した動作例に限らず、具体的には様々な手順で分光測定を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、分光器内で発生する迷光の影響を低減することが可能な分光測定装置、測定方法、及び測定プログラムとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】分光測定装置の一実施形態の構成を模式的に示す図である。
【図2】分光測定装置の他の実施形態の構成を模式的に示す図である。
【図3】積分球の構成の一例を示す断面図である。
【図4】積分球の構成の一例を示す断面図である。
【図5】データ解析装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図6】リファレンス測定及びサンプル測定で取得される波長スペクトルの一例を示すグラフである。
【図7】マルチチャンネル分光器における迷光の発生について示す図である。
【図8】リファレンス測定で取得される波長スペクトルを示すグラフである。
【図9】リファレンス測定で取得される波長スペクトルを示すグラフである。
【図10】リファレンス測定で取得される波長スペクトルを示すグラフである。
【図11】測定モードにおける分光測定装置の動作例を示すフローチャートである。
【図12】調整モードにおける分光測定装置の動作例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0071】
1A…分光測定装置、10…励起光供給部、11…励起光源、12…波長選択部、13…ライトガイド、14…光フィルタ、20…積分球、200…積分球本体、21…入射開口部、210…ライトガイドホルダ、22…出射開口部、220…ライトガイドホルダ、23、24…試料導入開口部、230…試料ホルダ固定部材、240…試料ホルダ、25…ライトガイド、30…分光分析装置、31…分光部、32…分光データ生成部、40…試料ホルダ、400…試料容器、401…容器支持部、405…遮光カバー、50…データ解析装置、51…分光データ入力部、52…試料情報解析部、53…対象領域設定部、56…解析データ出力部、61…入力装置、62…表示装置、63…外部装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の試料が内部に配置され、前記試料に照射される励起光を入射するための入射開口部、及び前記試料からの被測定光を出射するための出射開口部を有する積分球と、
前記積分球の前記出射開口部から出射された前記被測定光を分光して、その波長スペクトルを取得する分光手段と、
前記分光手段によって取得された前記波長スペクトルに対してデータ解析を行うデータ解析手段とを備え、
前記データ解析手段は、
前記波長スペクトルにおける測定全波長領域のうちで、前記励起光に対応する第1対象領域、及び前記試料からの発光に対応し前記第1対象領域とは異なる波長領域である第2対象領域を設定する対象領域設定手段と、
前記第1対象領域及び前記第2対象領域を含む波長領域での前記波長スペクトルを解析することで、前記試料の発光量子収率を求める試料情報解析手段とを有し、
前記試料情報解析手段は、
前記積分球の内部に前記試料無しの状態で前記励起光を供給して測定を行うリファレンス測定において取得された前記第1対象領域での測定強度をIR1、前記第2対象領域での測定強度をIR2、前記測定全波長領域での測定強度をIR0とし、
前記積分球の内部に前記試料有りの状態で前記励起光を供給して測定を行うサンプル測定において取得された前記第1対象領域での測定強度をIS1、前記第2対象領域での測定強度をIS2、前記測定全波長領域での測定強度をIS0としたときに、
発光量子収率の測定値Φ
Φ=(IS2−IR2)/(IR1−IS1
によって求めるとともに、前記リファレンス測定での迷光に関する係数β、γを
β=IR1/IR0
γ=IR2/IR0
として定義し、発光量子収率の解析値Φを
Φ=βΦ+γ
によって求めることを特徴とする分光測定装置。
【請求項2】
前記分光手段は、前記被測定光を波長成分に分解する分光器と、前記分光器によって分解された前記被測定光の各波長成分を検出するための複数チャンネルの検出部を有する光検出器とを有し、マルチチャンネル分光器として構成されていることを特徴とする請求項1記載の分光測定装置。
【請求項3】
測定対象の試料が内部に配置され、前記試料に照射される励起光を入射するための入射開口部、及び前記試料からの被測定光を出射するための出射開口部を有する積分球と、前記積分球の前記出射開口部から出射された前記被測定光を分光して、その波長スペクトルを取得する分光手段とを備える分光測定装置を用い、前記分光手段によって取得された前記波長スペクトルに対してデータ解析を行う分光測定方法であって、
前記波長スペクトルにおける測定全波長領域のうちで、前記励起光に対応する第1対象領域、及び前記試料からの発光に対応し前記第1対象領域とは異なる波長領域である第2対象領域を設定する対象領域設定ステップと、
前記第1対象領域及び前記第2対象領域を含む波長領域での前記波長スペクトルを解析することで、前記試料の発光量子収率を求める試料情報解析ステップとを備え、
前記試料情報解析ステップは、
前記積分球の内部に前記試料無しの状態で前記励起光を供給して測定を行うリファレンス測定において取得された前記第1対象領域での測定強度をIR1、前記第2対象領域での測定強度をIR2、前記測定全波長領域での測定強度をIR0とし、
前記積分球の内部に前記試料有りの状態で前記励起光を供給して測定を行うサンプル測定において取得された前記第1対象領域での測定強度をIS1、前記第2対象領域での測定強度をIS2、前記測定全波長領域での測定強度をIS0としたときに、
発光量子収率の測定値Φ
Φ=(IS2−IR2)/(IR1−IS1
によって求めるとともに、前記リファレンス測定での迷光に関する係数β、γを
β=IR1/IR0
γ=IR2/IR0
として定義し、発光量子収率の解析値Φを
Φ=βΦ+γ
によって求めることを特徴とする分光測定方法。
【請求項4】
前記分光手段は、前記被測定光を波長成分に分解する分光器と、前記分光器によって分解された前記被測定光の各波長成分を検出するための複数チャンネルの検出部を有する光検出器とを有し、マルチチャンネル分光器として構成されていることを特徴とする請求項3記載の分光測定方法。
【請求項5】
測定対象の試料が内部に配置され、前記試料に照射される励起光を入射するための入射開口部、及び前記試料からの被測定光を出射するための出射開口部を有する積分球と、前記積分球の前記出射開口部から出射された前記被測定光を分光して、その波長スペクトルを取得する分光手段とを備える分光測定装置に適用され、前記分光手段によって取得された前記波長スペクトルに対するデータ解析をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記波長スペクトルにおける測定全波長領域のうちで、前記励起光に対応する第1対象領域、及び前記試料からの発光に対応し前記第1対象領域とは異なる波長領域である第2対象領域を設定する対象領域設定処理と、
前記第1対象領域及び前記第2対象領域を含む波長領域での前記波長スペクトルを解析することで、前記試料の発光量子収率を求める試料情報解析処理とをコンピュータに実行させ、
前記試料情報解析処理は、
前記積分球の内部に前記試料無しの状態で前記励起光を供給して測定を行うリファレンス測定において取得された前記第1対象領域での測定強度をIR1、前記第2対象領域での測定強度をIR2、前記測定全波長領域での測定強度をIR0とし、
前記積分球の内部に前記試料有りの状態で前記励起光を供給して測定を行うサンプル測定において取得された前記第1対象領域での測定強度をIS1、前記第2対象領域での測定強度をIS2、前記測定全波長領域での測定強度をIS0としたときに、
発光量子収率の測定値Φ
Φ=(IS2−IR2)/(IR1−IS1
によって求めるとともに、前記リファレンス測定での迷光に関する係数β、γを
β=IR1/IR0
γ=IR2/IR0
として定義し、発光量子収率の解析値Φを
Φ=βΦ+γ
によって求めることを特徴とする分光測定プログラム。
【請求項6】
前記分光手段は、前記被測定光を波長成分に分解する分光器と、前記分光器によって分解された前記被測定光の各波長成分を検出するための複数チャンネルの検出部を有する光検出器とを有し、マルチチャンネル分光器として構成されていることを特徴とする請求項5記載の分光測定プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−151632(P2010−151632A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330349(P2008−330349)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】