説明

分光蛍光光度計、および液体クロマトグラフ用蛍光検出器

【課題】分光蛍光光度計において、効率良く三次元傾向スペクトルを取得することによる測定時間の短縮と、試料劣化の低減と、取得データサイズの低減を実現する。
【解決手段】成分分析対象の試料を収納する試料セル、試料セルへ予め定められた波長の励起光を照射させる励起光側分光器、試料セルからの蛍光を予め定められた範囲の波長を走査して分光する蛍光側分光器、蛍光側分光器からの蛍光を検知する蛍光検知器、励起光側分光器で試料セルへ照射する励起光の波長を変えながら、蛍光検知器で検知された蛍光の波長と強度に基づいて、試料の蛍光強度の三次元蛍光スペクトルを得るコンピュータを備え、該コンピュータは、励起光側分光器で分光される励起光の波長の範囲と、蛍光側分光器で分光される蛍光の波長の範囲との組合せを複数種類設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光蛍光光度計、および液体クロマトグラフ用蛍光検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
分光蛍光光度計は、試料が封入された試料セルと、光源で発生した光を分光する励起光側分光器と、励起光側分光器で分光された励起光が試料に照射されて発生する蛍光を分光する蛍光側分光器と、蛍光側分光器から送られた蛍光を検出する検知器とを備えている。そして、試料の成分を特定するために、蛍光波長を決定する手法として、励起光の波長と蛍光の波長をそれぞれ走査して、励起光波長と蛍光波長と蛍光強度をプロットした三次元蛍光スペクトルを求め、予め求めておいた標準試料の三次元蛍光スペクトルと比較して、試料固有の励起光波長と蛍光波長を決定する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−109542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術において、三次元蛍光スペクトルの取得に際しては、例えば走査波長範囲を300nmから800nmとした場合は、励起光波長300nmに固定し、蛍光波長を300nmから800nmまで走査しながら検知器で蛍光強度を検知する。次に、励起光波長を例えば10nm増やして310nmに固定し、蛍光波長を300nmから800nmまで走査しながら検知器で蛍光強度を検知する。同様にして、励起光波長800nmまで、蛍光強度を検知し、蛍光強度の三次元蛍光スペクトルを求める。このようにして、励起光波長域の各波長について順次蛍光波長を走査しながら測定することで、試料の蛍光強度の三次元蛍光スペクトルを得ることができる。
【0005】
しかし、例えば、操作者が、上記の全部の波長範囲でなく、任意の波長範囲のデータを取得したい場合、従来の装置では、波長走査の開始波長と終了波長しか設定できないため、ひとつの波長範囲毎に、開始波長と終了波長を入力し、設定し、少なくとも1分程度の時間をかけて蛍光強度の三次元スペクトルを得ることになる。したがって、操作者が希望するすべての測定を実施するには、長時間を要してしまう。
【0006】
また、三次元蛍光スペクトル測定中、試料には常に励起光が照射されているため、化学的安定度が低い試料では、測定時間が長いと励起光の照射エネルギーによる劣化や分解が進行する恐れがある。
【0007】
さらに、取得した三次元蛍光スペクトルのデータには、励起光の走査波長,蛍光の走査波長,蛍光強度が含まれるため、データ量が大きく、データ処理に要する演算装置の負荷が大きくなり、処理時間が長くなってしまう。
【0008】
本発明の目的は、試料の三次元蛍光スペクトルの測定に要する時間の短縮をはかった分光蛍光光度計、および液体クロマトグラフ用蛍光検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の実施例は、成分分析対象の試料を収納する試料セル、試料セルへ予め定められた波長の励起光を照射させる励起光側分光器、試料セルからの蛍光を予め定められた範囲の波長を走査して分光する蛍光側分光器、蛍光側分光器からの蛍光を検知する蛍光検知器、励起光側分光器で試料セルへ照射する励起光の波長を変えながら、蛍光検知器で検知された蛍光の波長と強度に基づいて、試料の蛍光強度の三次元蛍光スペクトルを得るコンピュータを備え、該コンピュータは、励起光側分光器で分光される励起光の波長の範囲と、蛍光側分光器で分光される蛍光の波長の範囲との組合せを複数種類設定するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、試料の三次元蛍光スペクトルの測定に要する時間を短縮できる分光蛍光光度計、および液体クロマトグラフ用蛍光検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】分光蛍光光度計の主要な構成を示す構成図である。
【図2】三次元蛍光スペクトル取得条件設定画面の一例を示す画面図である。
【図3】励起光波長と蛍光波長の走査領域を示すグラフである。
【図4】励起光波長と蛍光波長の走査領域を示すグラフである。
【図5】液体クロマトグラフの主要な構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、分光蛍光光度計の主要な構成を示す構成図である。図1に示すように、分光蛍光光度計100は、光度計部110,データ処理部120,操作表示部130を含んで構成される。光度計部110では、光源111から発せられた連続光が、励起側分光器112により単色の励起光として分光され、ビームスプリッタ113を経て試料設置部115に設置された測定試料に照射される。ビームスプリッタ113では、励起光の一部が分光され、モニタ検知器114により、その光の強度が測定され、データ処理部120で、光源111から発せられた連続光の光強度の変動のモニタリングと、変動の補正のために用いられる。励起光の照射により、測定試料から蛍光が放出される。放出された蛍光は、蛍光側分光器116により単色光に分光され、検知器117によって検知され、その蛍光の光強度に応じた電気信号として送信される。検知器117から送信された蛍光の強度信号は、データ処理部120のA/D変換器121を介してディジタル信号に変換され、コンピュータ122に取り込まれる。コンピュータ122は、取得した蛍光強度の信号を、励起側分光器112で連続光を分光したときの励起光の波長と、蛍光側分光器116で蛍光を分光したときの蛍光の波長とに対応付けたデータとして、コンピュータ122の内部に設けられた記憶装置に保存する。また、これらのデータは、操作者が操作表示部130の操作装置132を用いることによって、表示装置131に表示させることができる。
【0014】
励起側分光器112や蛍光側分光器116は、入射光をスペクトル分解する回折格子と、スペクトル分解された入射光を受けて、スペクトル分解された入射光のうち特定の波長の光、すなわち単色光を選択的に取り出すスリットとを含んで構成されている。スリットが透過させる光の波長は、スペクトル分解された入射光を受けるスリットの位置によって決まる。通常の分光器では、スリットの位置を固定しておき、回折格子を少しずつ回転させていくことによって、スリットが透過させる光の波長が定められる。励起側分光器112の回折格子は、ギヤやカムなどを介して、励起側パルスモータ118により回転させられる。また、蛍光側分光器116の回折格子は、ギヤやカムなどを介して、蛍光側パルスモータ119により回転させられる。
【0015】
操作表示部130の操作装置132から光度計部110での測定試料の蛍光測定が指示されると、データ処理部120のコンピュータ122は、図示しない記憶装置に格納された測定プログラムに従って、励起側パルスモータ118を駆動する。これにより励起側分光器112の回折格子が回転し、励起側分光器112によって取り出される励起光の波長、つまり、分光される単色光の波長が設定される。
【0016】
同様に、データ処理部120のコンピュータ122は、図示しない記憶装置に格納された測定プログラムに従って、蛍光側パルスモータ119を駆動する。これにより蛍光側分光器116の回折格子が回転し、蛍光側分光器116によって取り出される蛍光の波長、つまり、分光される単色光の波長が設定される。このような単色光の波長を設定する機構部は、波長駆動系と呼ばれる。
【0017】
分光蛍光光度計の測定では、はじめに、励起光の波長の走査範囲と、蛍光の波長の走査範囲が設定される。図2は、三次元蛍光スペクトル取得条件設定画面の一例を示す画面図である。
【0018】
本実施例では、操作者が、測定試料の種類や性質に基づいて、励起光の波長の測定域と蛍光の波長の測定域とを予測し、設定した事例を示している。ここで、No.1の事例1では、励起光の波長が300nmから400nmまで、蛍光の波長が300nmから400nmまでの事例、No.2の事例では、励起光の波長が500nmから700nmまで、蛍光の波長が700nmから800nmまでの事例を示している。測定試料が複数成分の混合試料である場合や、測定試料の性質によって複数の励起光波長や蛍光波長を持つことが予測される場合には、走査波長域の組合せを複数設定することが可能である。このように、測定条件を設定するときに、励起光の波長の測定域と蛍光の波長の測定域のそれぞれの開始波長と終了波長の組合せを1セットとし、複数のセットについて設定することができるようにした。分光蛍光光度計はこの設定内容にしたがって自動測定し、取得した三次元蛍光スペクトルのデータを図示しない記憶装置へ記憶させる。本発明の実施例によれば、波長範囲の指定を予め測定前にでき、複数の波長範囲の測定を自動実行するので、従来装置よりもはるかに測定時間を短縮することができる。
【0019】
図3は、励起光波長と蛍光波長の走査領域を示すグラフである。横軸は励起光波長Ex、縦軸は蛍光波長Emである。測定者が、図2に示した波長走査領域の蛍光強度のみを取得したい場合、従来の装置では、領域301,302,303,304の全ての領域、すなわち、励起光の波長が300nmから700nmまでの波長を走査し、蛍光の波長が300nmから800nmまでの波長を走査して、蛍光強度のデータを取得する必要があった。
【0020】
これに対して、本実施例では、図2に示した波長走査領域の設定を入力し指示すると、領域303,304のみの範囲の波長の走査と、蛍光強度のデータの取得を行うことができるように、コンピュータ122が光度計部110の機器へ指令を出す。
【0021】
蛍光の波長は、励起光の波長よりも小さくなるので、図3の励起光の波長が300nmから400nmまでの波長域と、蛍光の波長が300nmから400nmまでの波長域で囲まれた領域のうち、励起光波長が蛍光波長より小さい領域303のみを走査、データ取得することで、時間の短縮をはかっている。
【0022】
上記のように、本実施例によれば、従来と比較して、操作者がデータ取得を希望する波長領域を任意に分割指定できるので、データを取得する時間が短くなり、取得データの量が少なくなる効果を得ることができる。
【0023】
また、波長の走査を10nm毎に行う場合が多いが、そうすると蛍光強度データは、横軸,縦軸ともに10nm毎のマトリックスで表され、図示しない記憶装置へ記憶される。このとき、この記憶装置へ記憶されるデータ群について、図3に示す波長走査しない領域301,302のマトリックスのセルには、未測定でデータが無いことを示す値、例えば「ゼロ」を書き込むようにしておく。これにより、測定データを表示装置131へ表示させた場合に、「ゼロ」が書き込まれたセルが未測定波長領域であることを利用して、未測定波長領域がひとめでわかるように表示させたり、これによって操作者が未測定波長領域の測定の必要性を判断したりできるようになる。
【0024】
図4は、図3と同じく、励起光波長と蛍光波長の走査領域を示すグラフである。図3と異なるのは、励起光波長が蛍光波長よりも大きい領域301のうち、領域405で波長を走査する点である。図3に示した事例の場合、領域405の波長走査を行わないので、時間を短縮できる利点がある。しかし、励起光波長と蛍光波長が同一の線に沿って、蛍光波長の走査開始の波長を変更するように蛍光側パルスモータ119を動作させる制御を行う必要がある装置の場合は、コンピュータ122で実行するプログラムのうち、蛍光側パルスモータ119の制御プログラムを書き換える。
【0025】
これに対して、図4に示した事例では、蛍光波長の走査は300nmから開始し、データの取り込みだけ領域403のみ行うようにしている。したがって、コンピュータ122で実行するプログラムのうち、蛍光側パルスモータ119の制御プログラムは変更せず、コンピュータ122で実行されるデータ取り込みのタイミングだけを変えればよい。これにより、波長走査の時間は、図3に示した事例よりやや長くなるが、従来の波長領域前面を走査し、データを取り込む場合と比較すれば、格段に時間の短縮をはかることができる。
【0026】
以上述べたように、本発明の実施例によれば、試料の三次元蛍光スペクトルの測定に要する時間が短縮され、試料の劣化を防止でき、データ量を低減できる分光蛍光光度計を得ることができる。
【0027】
図5は、液体クロマトグラフの主要な構成を示す構成図である。液体クロマトグラフ装置は、試料を溶離液で送液しつつ、分離カラムで試料を成分分離し、順に送られる成分を検出器で検出することで、試料の成分を分析する装置である。その一例として、図5に示した構成を説明する。試料を搬送するための溶離液を格納する溶離液容器501からシリンジポンプなどの送液装置502で溶離液を送液する。溶離液には試料注入部503で試料が一定量注入され、カラム504へ送られる。カラム504では、管の内部に充填された充填材の作用により、溶離液中の試料の成分の種類によって流れる速度が異なるので、カラム504からは、分離された成分が順に流れ出てくる。この成分を試料セルとしてフローセルに流しながら、この成分を検出する検出器505として、例えば、本発明の実施例の図1に示した分光蛍光光度計を使用して、成分の蛍光波長を検出し、三次元蛍光スペクトルを作成することにより、試料の成分を特定することができる。
【0028】
そして、従来の検出器では、励起光波長の走査域と蛍光波長の走査域を開始と終了の値しか設定できなかったが、本発明による分光蛍光光度計を液体クロマトグラフの検出器として用いることで、操作者の必要な波長のみの走査とデータの取り込みを設定し実行されることで、波長走査の開始から終了までの時間が短くなるので、成分の流速が高速である超高速液体クロマトグラフにおいても、成分がフローセルを通過する間の波長走査回数が増加し、成分特定精度が向上する。
【0029】
以上述べたように、本発明の実施例によれば、試料の三次元蛍光スペクトルの測定に要する時間が短縮され、成分特定精度が向上する液体クロマトグラフ用蛍光検出器を得ることができる。
【符号の説明】
【0030】
100 分光蛍光光度計
110 光度計部
111 光源
112 励起側分光器
113 ビームスプリッタ
114 モニタ検出器
115 試料設置部
116 蛍光側分光器
117 検知器
118 励起側パルスモータ
119 蛍光側パルスモータ
120 データ処理部
121 A/D変換器
122 コンピュータ
130 操作表示部
131 表示装置
132 操作装置
501 溶離液容器
502 送液装置
503 試料注入部
504 カラム
505 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分分析対象の試料を収納する試料セル、
該試料セルへ予め定められた波長の励起光を照射させる励起光側分光器、
前記試料セルからの蛍光を予め定められた範囲の波長を走査して分光する蛍光側分光器、
該蛍光側分光器からの蛍光を検知する蛍光検知器、
前記励起光側分光器で前記試料セルへ照射する励起光の波長を変えながら、前記蛍光検知器で検知された蛍光の波長と強度に基づいて、前記試料の蛍光強度の三次元蛍光スペクトルを得るコンピュータを備えた分光蛍光光度計であって、
前記コンピュータは、前記励起光側分光器で分光される励起光の波長の範囲と、前記蛍光側分光器で分光される蛍光の波長の範囲との組合せを、複数種類設定することを特徴とする分光蛍光光度計。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記コンピュータは、前記設定された前記励起光側分光器で分光される励起光の波長の範囲と、前記蛍光側分光器で分光される蛍光の波長の範囲との組合せに基づいて、前記試料の蛍光強度の三次元蛍光スペクトルを得ることを特徴とする分光蛍光光度計。
【請求項3】
請求項1の記載において、
前記励起光側分光器で分光される励起光の波長の範囲と、前記蛍光側分光器で分光される蛍光の波長の範囲との組合せを1セットとし、複数セットについて取得した三次元蛍光スペクトルのデータを構成するデータ群を記憶する記憶装置を備えたことを特徴とする分光蛍光光度計。
【請求項4】
請求項3の記載において、
前記三次元蛍光スペクトルのデータは、前記記憶装置のセルに記憶されることを特徴とする分光蛍光光度計。
【請求項5】
請求項4の記載において、
前記記憶装置の前記取得した三次元蛍光スペクトルのデータが記憶されたセルを除くセルには、データが無いことを示す値が記憶されることを特徴とする分光蛍光光度計。
【請求項6】
請求項4の記載において、
前記記憶装置の未測定波長領域に対応するセルには、未測定であることを示す値が記憶されることを特徴とする分光蛍光光度計。
【請求項7】
溶離液へ試料を注入し、分離カラムで前記試料をその成分に分離させ、該成分を検知して前記試料の成分分析を行う液体クロマトグラフに用いられる液体クロマトグラフ用蛍光検出器において、
前記試料の成分が流れる試料セル、
該試料セルへ予め定められた波長の励起光を照射させる励起光側分光器、
前記試料セルからの蛍光を予め定められた範囲の波長を走査して分光する蛍光側分光器、
該蛍光側分光器からの蛍光を検知する蛍光検知器、
前記励起光側分光器で前記試料セルへ照射する励起光の波長を変えながら、前記蛍光検知器で検知された蛍光の波長と強度に基づいて、前記試料の蛍光強度の三次元蛍光スペクトルを得るコンピュータを備え、
該コンピュータは、前記励起光側分光器で分光される励起光の波長の範囲と、前記蛍光側分光器で分光される蛍光の波長の範囲との組合せを、複数種類設定することを特徴とする液体クロマトグラフ用蛍光検出器。
【請求項8】
請求項7の記載において、前記コンピュータは、前記設定された前記励起光側分光器で分光される励起光の波長の範囲と、前記蛍光側分光器で分光される蛍光の波長の範囲との組合せに基づいて、前記試料の蛍光強度の三次元蛍光スペクトルを得ることを特徴とする液体クロマトグラフ用蛍光検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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