説明

分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法、分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体、及び、無機微粒子分散ペースト組成物

【課題】基板に対する密着性に優れ、低温であっても脱脂処理が可能な無機微粒子分散ペースト組成物に用いられる分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法、該分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法により製造される分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体、及び、該分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体を用いてなる無機微粒子分散ペースト組成物を提供する。
【解決手段】水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を用いて(メタ)アクリル系モノマーを重合させることにより分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体を製造する方法であって、前記水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を重合途中で添加する分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に対する密着性に優れ、低温であっても脱脂処理が可能な無機微粒子分散ペースト組成物に用いられる分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法、該分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法により製造される分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体、及び、該分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体を用いてなる無機微粒子分散ペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性粉末、セラミック粉末等の無機微粒子をバインダー樹脂に分散させたペースト組成物が、様々な形状の焼結体を得るために用いられている。特に、無機微粒子として蛍光体をバインダー樹脂に分散させたペースト組成物は、例えば、プラズマディスプレイパネル(PDP)等に用いられ、近年需要が高まりつつある。
例えば、PDPの誘電体膜の形成には、誘電体微粒子としてガラス粉末をバインダー樹脂中に分散させたガラスペースト組成物が用いられている。このようなガラスペースト組成物は、例えば、スクリーン印刷法、ドクターブレード法等を用いた塗布法、シート状に加工するためのキャスティング法、ダイコート法等の塗工法等により所定の形状に加工した後、脱脂及び焼成することで必要な形状の焼結体とすることができる。
【0003】
従来、ガラスペースト組成物を用いた焼結体の生産性及び作業性を高めるために、バインダー樹脂として、基板に対する密着性に優れるエチルセルロースを用いることが検討されていた。しかしながら、エチルセルロースは熱分解性に劣るため、エチルセルロースを用いたペースト組成物は、低温で脱脂及び焼成を行うことができないという問題があった。
このような問題に対し、近年、エチルセルロースよりも熱分解性に優れるアクリル樹脂やエーテル樹脂を用いることが検討されており、例えば、特許文献1には、アクリル樹脂を用いたペースト組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、アクリル樹脂を用いてなるガラスペースト組成物は、ガラス等の基板に対して密着性に劣るという問題があった。そのため、例えば、アクリル樹脂を用いてなるガラスペースト組成物をPDPの製造で基板に成膜すると、ペースト乾燥後に基板から剥がれるという問題があった。
このような問題に対し、特許文献2には、添加剤としてシラン化合物及び/又はその加水分解縮合物を用いることにより、密着性を向上させる方法が開示されている。しかし、この方法ではシラン化合物の種類によって、レベリング性や焼結性に影響を与えるという問題があった。
【特許文献1】特開2004−315719号公報
【特許文献2】特開2005−281026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、基板に対する密着性に優れ、低温であっても脱脂処理が可能な無機微粒子分散ペースト組成物に用いられる分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法、該分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法により製造される分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体、及び、該分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体を用いてなる無機微粒子分散ペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を用いて(メタ)アクリル系モノマーを重合させることにより分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体を製造する方法であって、上記水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を重合途中で添加する分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法である。
以下に本発明について詳述する。
【0007】
本発明者らは、これまでに、水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を用いて(メタ)アクリル系重合体に水素結合性官能基を導入することで、該(メタ)アクリル系重合体を用いてなる無機微粒子分散ペースト組成物の基板に対する密着性を向上させることを検討してきた。しかしながら、(メタ)アクリル系重合体を構成するモノマーの重合開始時のみに連鎖移動剤を添加していたため、水素結合性官能基を有する連鎖移動剤が初期に消費され、水素結合性官能基を有する連鎖移動剤自体が(メタ)アクリル系重合体中に取り込まれてしまい、水素結合性官能基の性能が発揮されなかったり、高分子量重合体の主鎖末端にしか水素結合性官能基が導入されなかったり、反応後期に生じる低分子量重合体に水素結合性官能基が導入されなかったり、導入量を増やそうと水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を大量に使用した場合は、得られる(メタ)アクリル系重合体の数平均分子量が小さすぎたりし、その結果、充分な密着性が得られないという問題があった。
そこで、本発明者らは、更に鋭意検討の結果、水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を(メタ)アクリル系モノマーの重合途中で添加することで、得られる(メタ)アクリル系重合体の数平均分子量に影響を与えることなく、作製される高分子量から低分子量までの(メタ)アクリル系重合体に対して、効率よく水素結合性官能基を導入することができ、このような(メタ)アクリル系重合体を用いた無機微粒子分散ペースト組成物は、シラン化合物等の添加剤を用いなくても基板に対して良好な密着性を示すとともに、低温であっても脱脂処理が可能であるということを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法は、(メタ)アクリル系モノマーを重合させる工程を有する。
具体的には、(メタ)アクリル系モノマー単独、又は、(メタ)アクリル系モノマーと上記(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能なモノマーとを適当な有機溶剤中に分散させ、連鎖移動剤と、重合開始剤とを添加し、加熱する方法等が挙げられる。
【0009】
上記(メタ)アクリル系モノマーとしては特に限定されないが、炭素数が1〜12の(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、具体的には例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、炭素数が10以下の(メタ)アクリレートモノマーを1種又は2種以上用いることが好ましい。
ここで、本明細書において、例えば(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0010】
上記(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能なモノマーとしては特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基含有モノマー;ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマー、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、n−メチロールアクリルアミド等の水酸基含有モノマー;グリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー等が挙げられる。
【0011】
上記ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとしては特に限定されず、例えば、ポリメチレングリコール、ポリアセタール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。なかでも、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステルが好適に用いられ、ポリプロピレングリコールの(メタ)アクリル酸エステルは、より低温で分解するため、特に好適に用いられる。
【0012】
重合開始時に添加する上記連鎖移動剤としては特に限定されず、例えば、n−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、β−メルカプトプロピオン酸、β−メルカプトプロピオン酸オクチル、β−メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)、チオグリコール酸ブチル;プロパンチオール類;ブタンチオール類;チオホスファイト類等が挙げられる。なかでも、水素結合性官能基を有する連鎖移動剤が好ましく、例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等を有するメルカプタン系の連鎖移動剤等が好適に用いられる。
【0013】
重合開始時に添加する上記連鎖移動剤の添加量としては特に限定されないが、好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は10重量%である。0.01重量%未満であると、製造される分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の分子量が高くなりすぎ、ゲル化することがあり、10重量%を超えると、製造される分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の分子量が低くなりすぎ、レベリング性に影響を与えることがある。
【0014】
上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、アゾイソブチロイルニトリル、パーオキサイド系重合開始剤等の熱重合開始剤;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾフェノン等の光重合開始剤等が挙げられる。
また、これらの重合開始剤を用いる際には、紫外線照射や電子線照射等を適宜用いればよい。
【0015】
上記重合開始剤の添加量としては特に限定されないが、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は10重量%である。0.1重量%未満であると、重合反応が充分に進行せず、モノマーが大量に残ることがあり、10重量%を超えると、重合開始剤の残渣や、開始剤に含まれる不純物が、ペースト物性に影響を与えることがある。
【0016】
上記有機溶剤としては特に限定されず、後述する無機微粒子分散ペースト組成物に用いる有機溶剤と同様のものを用いることができる。
【0017】
上記加熱の温度としては特に限定されないが、好ましい下限は50℃、好ましい上限は150℃である。50℃未満であると、重合開始剤が効率よく働かず、反応がうまく進行しないことがあり、150℃を超えると、重合開始剤が急激に分解され、反応がうまく進行しないことがある。
【0018】
上記重合反応させる時間としては特に限定されないが、2〜12時間であることが好ましい。
【0019】
本発明の分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法においては、上記水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を重合途中で添加する。
上記水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を重合開始時のみに添加した場合、重合初期から(メタ)アクリル系モノマーと水素結合性官能基を有する連鎖移動剤とが反応し、水素結合性官能基を有する連鎖移動剤自体が(メタ)アクリル系重合体に取り込まれてしまい、水素結合性官能基の性能が発揮されなかったり、高分子量重合体の主鎖末端にしか水素結合性官能基が導入されなかったり、反応後期に生じる低分子量重合体に水素結合性官能基が導入されなかったりした。このような(メタ)アクリル系重合体を用いてなる無機微粒子分散ペースト組成物は、基板に対して充分な密着性が得られないという問題があった。
また、このような問題を解決するために、上記水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を大量に反応初期に添加してしまうと、重合反応自体が阻害されてしまい、得られる(メタ)アクリル系重合体を無機微粒子分散ペースト用ポリマーとして用いることができなくなる。
そこで、上記水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を重合途中で添加することで、反応の阻害を抑えつつ、(メタ)アクリル系重合体の分子末端に効率よく水素結合性官能基を導入することができる。
【0020】
上述した、「重合途中」とは、具体的には、重合反応率が50%以上、99%以下の場合を意味する。
重合反応率が50%未満の時に上記水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を添加してしまうと、分子量が低下するといった不具合が生じる場合があり、また、重合反応率が99%を超えた後に上記水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を添加すると、水素結合性官能基を有する連鎖移動剤がポリマー中に取り込まれないといった不具合が生じることがある。
また、重合途中であれば複数回に分けて水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を添加してもよい。
【0021】
上記水素結合性官能基は、得られる(メタ)アクリル系重合体を用いてなる無機微粒子分散ペースト組成物の基板等に対する密着性を向上させる役割を有する。
上記水素結合性官能基としては特に限定されないが、具体的には例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等が挙げられ、なかでもカルボキシル基、水酸基が特に好ましい。
【0022】
上記水素結合性官能基を有する連鎖移動剤としては特に限定されないが、カルボキシル基及び/又は水酸基を有するメルカプタン系の連鎖移動剤が好ましく、具体的には例えば、チオフェノール、メルカプト酢酸、炭素数が1〜12のヒドロキルアルキルメルカプタン類等が挙げられる。
【0023】
重合途中における上記水素結合性官能基を有する連鎖移動剤の添加量としては特に限定されないが、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は10重量%である。0.1重量%未満であると、(メタ)アクリル系重合体に導入される水素結合性官能基の数が少なく、基板に対する密着性が不充分となることがあり、10重量%を超えると、反応系中に連鎖移動剤が残留し、レベリング性や臭気等へ悪影響を与える原因となったりする。より好ましい下限は1重量%、より好ましい上限は7重量%である。
【0024】
本発明の分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法における重合方法としては特に限定されず、通常の(メタ)アクリル系モノマーの重合に用いられる方法が挙げられ、例えば、フリーラジカル重合法、リビングラジカル重合法、イニファーター重合法、アニオン重合法、リビングアニオン重合法等が挙げられる。
具体的には例えば、攪拌機、冷却器、温度計、湯浴、及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラブルフラスコに、(メタ)アクリル系モノマー、上記(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能なモノマー、ドデシルメルカプタン等の通常の連鎖移動剤、及び、有機溶剤を投入し、窒素ガスを用いてバブリングし、重合開始剤を添加し加熱して反応を開始させ、反応が開始した後、上記水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を添加して反応を続け、室温まで冷却し重合を終了させる方法等が挙げられる。
【0025】
本発明の分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法により製造される分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体もまた、本発明の1つである。
【0026】
本発明の分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算数平均分子量としては特に限定されないが、好ましい下限は2000、好ましい上限は10万である。ポリスチレン換算数平均分子量が上記範囲を外れると、本発明の分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体を用いてなる無機微粒子分散ペースト組成物のレベリング性が不充分となることがある。
特に、ガラス転移温度が室温よりも高い分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体においては、ポリスチレン換算数平均分子量の好ましい上限は5万、より好ましい上限は15000である。
なお、GPCによりポリスチレン換算数平均分子量を測定する際のカラムとしてはSHOKO社製カラムLF−804等が挙げられる。
【0027】
本発明の分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体を用いて無機微粒子分散ペースト組成物を製造することができる。
分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体、無機微粒子、及び、有機溶剤を含有する無機微粒子分散ペースト組成物もまた、本発明の1つである。
【0028】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物における、上記分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の含有量としては特に限定されないが、印刷可能な限り少量であることが好ましく、好ましい下限は1重量%、好ましい上限は15重量%である。1重量%未満であると、無機微粒子分散ペースト組成物の成形性が劣ることがあり、15重量%を超えると、焼成後の残炭量が増加することで焼成後の品質に影響が出たり、焼成により厳しい環境が必要となったりして好ましくない。
【0029】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、無機微粒子を含有する。
上記無機微粒子としては特に限定されないが、例えば、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウム、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素;ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、CaO・Al・SiO系無機ガラス、MgO・Al・SiO系無機ガラス、LiO・Al・SiO系無機ガラスの低融点ガラス;種々のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、金属錯体、YS:Eu、(SrCaBaMg)(POCl:Eu、LaPO:Ce,Tb、Y:Eu、Ca10(POFCl:Sb,Mn、BaMgAl1017:Eu、ZnSiO:Mn、(Y,Gd)BO:Eu、CaWO、GdS:Tb、(Y,Sr)TaO:Nb等の蛍光体等からなる群より選択される少なくとも1種を原料とするものが好適に用いられる。
【0030】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物における上記無機微粒子の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限が20重量%、好ましい上限が95重量%である。上記無機微粒子の含有量が20重量%未満であると、充分な粘度が得られず印刷性が低下することがあり、95重量%を超えると、無機微粒子を分散させることが困難となることがある。上記無機微粒子の含有量のより好ましい下限は40重量%、より好ましい上限は90重量%である。
また、特に上記無機微粒子がガラス粉末である場合、ガラス粉末の含有量の好ましい下限は40重量%、好ましい上限は90重量%であり、より好ましい下限は50重量%、より好ましい上限は85重量%である。
【0031】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤の沸点は特に限定されないが、好ましい下限は150℃、好ましい上限は350℃である。上記有機溶剤の沸点が150℃未満であると、塗工する際に有機溶剤が揮発してしまうため、安定した塗工ができないことがある。上記有機溶剤の沸点が350℃を超えると、有機溶剤の乾燥工程の作業効率が低下することがある。
【0032】
上記有機溶剤としては特に限定されず、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールドデシルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールドデシルエーテルアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノオレエート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノオレエートアセテート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノラウレート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールジアセタート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノステアレート、トリエチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコール、フェニルプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセタート、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートテトラエチレングリコール、テトラエチレングリコールドデシルエーテル、テトラエチレングリコールモノオクチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ペンタエチレングリコールドデシルエーテル、ヘプタエチレングリコールドデシルエーテル、ヘキサエチレングリコールドデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテルブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、ターピネアセテート、ジヒドロターピネオール、テキサノール、ベンジルアセテート、イソホロン、乳酸ブチル、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ベンジルアルコール、クレゾール等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
また、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。上記添加剤としては特に限定されず、例えば、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び、ノニオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0034】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物の粘度としては特に限定されないが、20℃においてB型粘度計を用いプローブ回転数を5rpmに設定して測定したときの粘度の好ましい下限が10Pa・s、好ましい上限が1000Pa・sである。上記粘度が10Pa・s未満であると、ダイコート法等により塗工した後に無機微粒子分散ペースト組成物が所定の形状を維持することが困難となることがあり、1000Pa・sを超えると、塗布又は塗工等の印刷性に劣ることがある。上記粘度のより好ましい下限は25Pa・sである。
【0035】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物の製造方法としては特に限定されず、分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体、有機溶剤、無機微粒子、及び、各種添加剤を従来公知の攪拌方法、具体的には例えば、3本ロール等で混練を行えばよい。
【0036】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体を用いてなることにより、シラン化合物等の添加剤等を用いなくても基板に対して良好な密着性を示すとともに、低温であっても脱脂処理が可能である。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、基板に対する密着性に優れ、低温であっても脱脂処理が可能な無機微粒子分散ペースト組成物に用いられる分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法、該分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法により製造される分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体、及び、該分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体を用いてなる無機微粒子分散ペースト組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
(1)(メタ)アクリル系重合体の作製
攪拌機、冷却器、温度計、湯浴、及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラブルフラスコに、メチルメタクリレート(MMA)80重量部、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPP−1000)20重量部、有機溶剤としてターピネオール50重量部を混合し、モノマー混合液を得た。
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながらモノマー混合溶液温が95℃に達するまでに昇温した。モノマー混合溶液の温度が95℃に達した後、重合開始剤を酢酸エチルで希釈した溶液を加えた。また、重合開始剤を含む酢酸エチル溶液を数回添加しつつ、重合途中である重合反応率が80%となった時点で水素結合性官能基を有する連鎖移動剤としてメルカプト酢酸を5重量部添加した。重合開始から7時間後、室温まで冷却し重合を終了させた。
なお、重合反応率は、予め予備試験として同様の重合を行い、一定のタイミングで一部重合しているモノマー混合物を抜き取り、それぞれの重合反応率を確認しておき、実試験で重合反応率が80%となっているタイミングで連鎖移動剤を投入した。
得られた(メタ)アクリル系重合体について、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、GPCによる分析を行い、ポリスチレン換算による数平均分子量を測定した。以下同様である。結果を表1に示した。
【0040】
(2)無機微粒子分散ペースト組成物の作製
得られた(メタ)アクリル系重合体のターピネオール溶液に対して、シリカ粉末(S.C.R.SIBELCO社製、シベライトM6000)66.7重量部を配合し、(メタ)アクリル系重合体が全体に対して4重量%含まれるようにターピネオールを添加して調節し、高速拡販装置を用いて充分混練し、3本ロールミルにてなめらかになるまで処理を行い、無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0041】
(実施例2〜4)
重合途中に添加する水素結合性官能基を有する連鎖移動剤の量を表1のように変えたこと以外は、実施例1と同様にして(メタ)アクリル系重合体及び無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0042】
(比較例1)
水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を重合途中で添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして(メタ)アクリル系重合体及び無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0043】
(比較例2)
反応初期の連鎖移動剤量を変更したこと以外は、比較例1と同様にして(メタ)アクリル系重合体及び無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0044】
(比較例3)
(メタ)アクリル系重合体の変わりにエチルセルロースを用いたこと以外は、実施例1と同様にして無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0045】
<評価>
実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた無機微粒子分散ペースト組成物について以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0046】
(1)レベリング性
容器に充填したガラスペースト組成物の表面から10mmの深さまで、先端が鋭利な直径2.6mmのステンレスピックを突き刺し、ステンレスピックを垂直に引き上げた。ステンレスピックとともに5mmの高さまで引き上げられたガラスペースト組成物が、容器内のガラスペースト組成物の表面にまで落ち平滑な状態に戻るまでの時間を測定した。以下の基準でレベリング性を評価した。
○:表面が平滑な状態に戻るまでの時間が3秒未満
×:表面が平滑な状態に戻るまでの時間が3秒以上
【0047】
(2)基板密着性評価
ガラス基板上にダイコート法により50μmの無機微粒子分散ペースト組成物膜を作製し、それをアルカリ溶液に1時間付け置きし、変化がなかったものを密着性○、基板から剥がれたものを密着性×とした。
【0048】
(3)脱脂性評価
ガラス基板上にダイコート法により50μmの無機微粒子分散ペースト組成物膜を作製し、窒素雰囲気下300℃で30分焼成した。焼成後、樹脂の残りを確認し、残っていないものを脱脂性○、残っているものを脱脂性×とした。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、基板に対する密着性に優れ、低温であっても脱脂処理が可能な無機微粒子分散ペースト組成物に用いられる分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法、該分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法により製造される分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体、及び、該分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体を用いてなる無機微粒子分散ペースト組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を用いて(メタ)アクリル系モノマーを重合させることにより分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体を製造する方法であって、
前記水素結合性官能基を有する連鎖移動剤を重合途中で添加する
ことを特徴とする分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法。
【請求項2】
水素結合性官能基を有する連鎖移動剤の添加量が0.1〜10重量%であることを特徴とする請求項1記載の分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法。
【請求項3】
(メタ)アクリル系モノマーは、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリルモノマーであることを特徴とする請求項1又は2記載の分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法により製造されることを特徴とする分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体。
【請求項5】
請求項4記載の分子末端に水素結合性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体、無機微粒子、及び、有機溶剤を含有することを特徴とする無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項6】
無機微粒子は、ガラス粉末であり、前記ガラス粉末の含有量が40〜95重量%であることを特徴とする請求項5記載の無機微粒子分散ペースト組成物。

【公開番号】特開2009−67822(P2009−67822A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234483(P2007−234483)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】