説明

分子結合方法及び分子結合装置

金線からなる支持体12に固定された、中間励起媒体としての光増感分子であるN−[3−{3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−メルカプトベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}ベンジルオキシ}−プロピオニール−4−ニトロ−1−ナフチルアミン18aに対して外部エネルギーを供給して励起三重項状態の光増感分子18bとすることにより、当該光増感分子から結合性残基を有する第1の分子28aに対して励起三重項エネルギー移動を発生させる。こうして、励起三重項エネルギー
移動によって励起された第1の分子28bと当該第1の分子と結合されるべき被結合対象物である結合性残基を有する第2の分子30とを結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、分子同士の結合や分子の配置を1分子単位の分解能で実現可能な、分子結合装置及び分子結合方法に関する。
【背景技術】
半導体デバイス分野では、さらなる微細化及び高密度化を実現するための技術が嘱望されている。
従来より、半導体デバイスの回路設計に基づいて、例えば、レジストパターンを形成するに当たり、フォトリソグラフィ法や電子線リソグラフィ法、あるいは走査プローブ顕微鏡や近接場プローブを用いた微細加工技術が用いられている。
具体的には、直接描画法を用いるフォトリソグラフィ法あるいは電子線リソグラフィ法では、光あるいは電子が照射された分子同士を選択的に重合させてレジストパターンを形成する(例えば、非特許文献1参照)。
走査プローブ顕微鏡を用いる方法では、(1):電気的な励起による重合や酸化(例えば、非特許文献2参照)、(2):触媒反応(例えば、非特許文献3参照)、(3):ディップペン方式(例えば、非特許文献4参照)等を利用して、レジストパターンを形成する。また、近接場光プローブを用いる方法では、近接場光が照射された分子同士を光重合させてレジストパターンを形成する(例えば、非特許文献5参照)。
【非特許文献1】 「ナノテクノロジーと高分子」(社)高分子学会編、エヌ・ティ・エス、第2講「ナノファブリケーションに果たす高分子の役割」
【非特許文献2】 Y.Okawa and M.Aono,Nature 409,683(2001);Y.Okawa and M.Aono,J Chem.Phys.115,2317(2001);G.Dujardrin,R.E.Walkup,Ph.Avouris,Science 255,1232(1992)
【非特許文献3】 B.J.McIntyre,M.Salmeron and G.A.Somorjai,Science 265,1415−1418(1994)
【非特許文献4】 R.D.Piner,J.Zhu,F.Xu,S.Hong and C.A.Mirkin,Science 283,661−663(1999)
【非特許文献5】 T.Ono and M.Esashi,Jpn.J.Appl.Phys.37,6745−6749(1998);S.Tanaka,et al.,Jpn.J.Appl.Phys.37,6739−6744(1998);Y.Yamamoto,et al.,Appl.Phys.Lett.76,2173(2000)
しかしながら、例えば、近年の半導体デバイスに対する微細化及び高密度化の要求に対して、上述した方法によってレジストパターンを1分子単位の分解能で微細加工することは、以下に説明する問題の発生によりこれまで困難であった。
例えば、上述したフォトリソグラフィ法を用いた光重合法の場合には、レジストパターンの分解能は照射光の半波長程度に制限される。また、電子線リソグラフィ法を用いた重合法の場合には、レジストパターンの分解能は電子線の焦点形状(直径5nm程度)に制限される。
また、走査プローブ顕微鏡を用いたレジストパターン形成法の場合には、上述した(1)〜(3)に対応して、それぞれ以下のような問題がある。(1):プローブの先端形状の変形に伴って導電特性が変化するため、高い分解能を再現性良く得ることは困難である。(2):(1)と同様にプローブの先端形状によって分解能が制限されるうえに、触媒反応は反応源の存在下で常に起こることから触媒反応場の制御が困難である。(3):この場合の分解能は、プローブから滴下する液の液量と当該液が滴下された基板の濡れ性との関係によって制限される。
また、近接場光プローブを用いた場合には、レジストパターンの分解能は近接場光サイズに制限される。
上述した種々の問題により、これまで、レジストパターンを1分子単位の分解能で形成することができる方法の出現が望まれていた。
その一方で、これまでの半導体デバイスに代わり、1分子単位の寸法で動作可能な機能性分子を複数精密に配置させた、分子デバイス等の新たなデバイスの開発も進められている。しかし、現状では、特定の機能分子を所定位置に1分子単位で配置するための技術的課題も多い。
そこで、この発明の目的は、半導体デバイスや分子デバイス等の製造に用いて好適な、1分子単位の分解能で分子を配置或いは分子同士を結合可能とする、分子結合装置及び分子結合方法を提供することにある。
【発明の開示】
そこで、この発明の分子結合方法は、以下のようにして行う。
すなわち、支持体に固定されている中間励起媒体に対し外部エネルギーを供給して、中間励起媒体を励起させることにより、励起された中間励起媒体の周辺にある結合性残基を有する第1の分子と、当該第1の分子と結合されるべき被結合対象物とを結合させる。
このような分子結合方法によれば、第1の分子と被結合対象物との結合を、中間励起媒体の安定した励起状態を介して行うことができるうえに、中間励起媒体に基づいて1分子単位(すなわち、ナノメートルサイズ)の分解能を制御性良く得ることができる。
また、好ましくは、この結合を、結合性残基を有する第1の分子及び被結合対象物の双方またはいずれか一方を固定部材に固定して行うのが良い。
また、好ましくは、この結合を、固定部材に対して支持体を、当該結合が実現できる程度の精度で位置決めして行うのが良い。
このようにすると、より確実に、中間励起媒体に基づく第1の分子と被結合対象物との結合を行うことができる。
また、好ましくは、この結合を、固定部材に対する支持体の位置決め精度を、1nm以下で行うのが良い。
例えば、中間励起媒体や後述する機能性分子が芳香族系分子である場合には、ベンゼン環1個当たりの大きさが約0.28nmであることから、複数個のベンゼン環で構成された中間励起媒体や機能分子の大きさは1nm前後となる。そのため、中間励起分子に基づく分子精度の結合や機能性分子の精密な配置を行うためには、その1/10である0.1nmの位置決め精度が必要になると推測される。また、中間励起媒体が、大きさが10nm程度である量子ドット等のナノ粒子である場合には、同様に、その1/10である1nmの位置決め精度が必要になると推測される。以上のことから、固定部材に対する支持体の位置ずれを、最大でも1nmとすることによって、分子単位の精度で結合を行うことができる。
また、好ましくは、この結合は、励起された中間励起媒体から第1の分子へ移動する結合用エネルギーによって行われるのが良い。
このようにすると、励起された中間励起媒体から結合用エネルギーの到達範囲内にある第1の分子と、当該第1の分子と結合されるべき被結合対象物とを結合させることができる。このようにして結合させることにより、中間励起媒体に基づく1分子単位の分解能を制御性良く得ることができる。
また、好ましくは、中間励起媒体から第1の分子への結合用エネルギー移動を、励起三重項エネルギー移動により行うのが良い。
このようにすると、結合エネルギーの到達範囲を約1nm以下に抑えることができるので配置精度を高めることができるうえに、低い外部エネルギー(或いは、励起エネルギーとも称する。)で第1分子と結合対象物とを結合させることができる。
また、好ましくは、この結合は、励起された中間励起媒体と第1の分子との間の電子の移動に起因して行われるのが良い。
このようにすると、励起された中間励起媒体と第1の分子との間の電子の授受によってラジカルイオン化した第1分子と、当該第1の分子と結合されるべき被結合対象物とを結合させることができる。このようにして結合させることにより、中間励起媒体に基づく1分子単位の分解能を制御性良く得ることができる。
また、好ましくは、外部エネルギーの供給は、光、電子又はイオンを中間励起媒体に供給して行うのが良い。
また、好ましくは、中間励起媒体が光増感分子である場合には、外部エネルギーを、光の照射によって供給するのが良い。
このようにすると、この結合に、光増感分子に起因する光増感反応である光励起エネルギー移動や光励起電子移動を利用することができる。
また、好ましくは、光増感分子として、N−アセチル−4−ニトロ−1−ナフチルアミン誘導体を用いるのが良い。
また、好ましくは、中間励起媒体が光触媒である場合には、外部エネルギーを、光の照射によって供給するのが良い。
このようにすると、この結合に、光触媒による光触媒反応を利用することができる。
また、好ましくは、光触媒として、二酸化チタンを用いるのが良い。
また、好ましくは、被結合対象物として、結合性残基を有する第2の分子を用いるのが良い。
また、好ましくは、被結合対象物として、分子以外の物体を用いるのが良い。
また、この発明の分子結合装置は、以下の構成を有している。
すなわち、支持体と、この支持体に固定されている中間励起媒体と、中間励起媒体を励起させることにより、該励起された中間励起媒体の周辺にある結合性残基を有する第1の分子と該第1の分子と結合されるべき被結合対象物とを結合させるための外部エネルギーを、中間励起媒体に供給する外部エネルギー供給源とを具えている。
このような分子結合装置によれば、第1の分子と被結合対象物との結合を、中間励起媒体の安定した励起状態を介して行うことができるうえに、中間励起媒体に基づいて1分子単位の分解能を制御性良く得ることができる。
また、この分子結合装置によれば、従来の直接励起によるリソグラフィ法の場合のように光や電子によって分解能が制限される懸念や、また走査プローブ顕微鏡や近接場プローブの場合のようにプローブの先端形状によって分解能が制限される懸念もない。
そのため、この分子結合装置によれば、従来よりも微細化及び高密度化が実現された半導体デバイスを製造することができる。
さらに、この分子結合装置によれば、1分子単位の寸法で動作可能な機能性分子を所定位置に高精度で配置することが可能であることから、分子デバイス等の新たなデバイスを製造することができる。
また、好ましくは、第1の分子及び被結合対象物の双方またはいずれか一方は、固定部材に固定されているのが良い。
また、好ましくは、支持体は、固定部材に対し、結合が実現できる程度の精度で位置決めされているのが良い。
このようにすると、第1の分子と被結合対象物との結合を、より確実に行うことができる。
また、好ましくは、固定部材に対する支持体の位置決め精度は、1nm以下であるのが良い。
例えば、中間励起媒体や後述する機能性分子が芳香族系分子である場合には、ベンゼン環1個当たりの大きさが約0.28nmであることから、複数個のベンゼン環で構成された中間励起媒体や機能分子の大きさは1nm前後となる。そのため、中間励起分子に基づく分子精度の結合や機能性分子の精密な配置を行うためには、その1/10である0.1nmの位置決め精度が必要になると推測される。また、中間励起媒体が、大きさが10nm程度である量子ドット等のナノ粒子である場合には、同様に、その1/10である1nmの位置決め精度が必要になると推測される。以上のことから、固定部材に対する支持体の位置ずれを、最大でも1nmとすることによって、分子単位の精度で結合を行うことができる。
また、好ましくは、励起された中間励起媒体は、当該励起された中間励起媒体から第1の分子へ移動してこの結合を行わせる、結合用エネルギーを発生するのが良い。
このようにすると、励起された中間励起媒体から結合用エネルギーの到達範囲内にある第1の分子と、当該第1の分子と結合されるべき被結合対象物とを結合させることができる。このようにして結合させることにより、中間励起媒体に基づく1分子単位の分解能を制御性良く得ることができる。
また、好ましくは、励起された中間励起媒体は、励起された中間励起媒体と前記第1の分子との間で電子移動を行い、この結合を行わせるのが良い。
このようにすると、励起された中間励起媒体と第1の分子との間の電子の授受によってラジカルイオン化した第1分子と、当該第1の分子と結合されるべき被結合対象物とを結合させることができる。このようにして結合させることにより、中間励起媒体に基づく1分子単位の分解能を制御性良く得ることができる。
また、好ましくは、外部エネルギーは、光、電子又はイオンであるのが良い。
また、好ましくは、中間励起媒体が光増感分子である場合に、外部エネルギーは光であるのが良い。
このようにすると、光増感分子による光増感反応である光励起エネルギー移動や光励起電子移動を利用した構成とすることができる。
また、好ましくは、光増感分子は、N−アセチル−4−ニトロ−1−ナフチルアミン誘導体であるのが良い。
また、好ましくは、中間励起媒体が光触媒である場合に、外部エネルギーは光であるのが良い。
このようにすると、光触媒による光触媒反応を利用した構成とすることができる。
また、好ましくは、光触媒は、二酸化チタンであるのが良い。
また、好ましくは、被結合対象物は、結合性残基を有する第2の分子であるのが良い。
また、好ましくは、被結合対象物は、分子以外の物体であるのが良い。
また、好ましくは、中間励起媒体は、支持体に化学結合によって固定されているのが良い。
このようにすると、中間励起媒体を、接着剤ではなく、配位結合や共有結合やイオン結合等の選択的な化学結合(或いは、化学吸着とも称する。)によって支持体に固定させることができるので、接着剤の劣化によって信頼性が低下する懸念がない。
また、好ましくは、結合性残基は、不飽和二重結合又は不飽和三重結合を有する脂肪族系残基であるのが良い。
また、好ましくは、結合性残基は、不飽和二重結合又は不飽和三重結合を有する芳香族系残基であるのが良い。
また、好ましくは、不飽和二重結合を有する芳香族系残基が桂皮酸基である場合に、中間励起媒体は、N−[3−{3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−メルカプトベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}ベンジルオキシ}−プロピオニール−4−ニトロ−1−ナフチルアミンであるのが良い。
【図面の簡単な説明】
第1図(A)及び(B)は、この発明の第1の実施の形態の分子結合装置の説明に供する概略部分断面図である。
第2図(A)、(B)及び(C)は、この発明の第1の実施の形態の分子結合方法の説明に供する概略部分断面図である。
第3図(A)及び(B)は、この発明の第2の実施の形態の分子結合装置の説明に供する概略部分断面図である。
第4図(A)、(B)及び(C)は、この発明の第2の実施の形態の分子結合方法の説明に供する概略部分断面図である。
第5図(A)及び(B)は、この発明の第3の実施の形態の分子結合装置の説明に供する概略部分断面図である。
第6図(A)から(C)は、この発明の第3の実施の形態の分子結合方法の説明に供する概略部分断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、第1図から第6図を参照して、この発明の実施の形態につき説明する。また、各図は、この発明が理解できる程度に各構成成分の形状、大きさ及び配置関係を概略的に示してあるに過ぎず、この発明をこれら図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の材料及び条件等を用いることがあるが、これら材料及び諸条件は単なる好適例に過ぎず、従って、何らこれらに限定されない。
<第1の実施の形態>
第1図及び第2図を参照して、この発明の第1の実施の形態につき説明する。第1図(A)及び(B)は、この実施の形態の分子結合装置及びその主要部の構成を概略的に示す部分断面図である。第2図は、この実施の形態の分子結合方法を説明する概略部分断面図である。
第1図(A)に示すように、この実施の形態の分子結合装置10は、主として、支持体70と、中間励起媒体72aと、外部エネルギー供給部60とを具えている。中間励起媒体72aは支持体70に固定されていて、この支持体70と中間励起媒体72aは、分子結合装置10のマスク部55を構成している(第1図(B)参照)。
第1図(A)に示す構成例では、分子結合装置10は、さらに、固定部材として、基板24と、基板24の固定装置64とを具えている。
外部エネルギー供給部60は、外部エネルギー供給源としての光源16、レンズ62、フィルタ(ここでは、バンドパスフィルタとする。)51及びミラー52を具えている。外部エネルギー供給部60は、マスク部55が具える後述する中間励起媒体72aを励起させる外部エネルギー(或いは、励起エネルギーとも称する。)を、当該中間励起媒体72aに供給する。具体的には、レンズ62で集光された光源16からの励起光(hν)を、フィルタ51を介してミラー52で反射させた後、中間励起媒体72aに照射する。ここでの光源16は、例えば、水銀キセノンランプとする。
基板24の固定装置64は、ステージ66及び真空ポンプ68を具えている。固定装置64は、真空ポンプ68を駆動して、基板24をステージ66上に固定するとともに基板24とマスク部55とを所定間隔で対向配置させる、真空チャックとして機能する。
続いて、この実施の形態のマスク部55について、以下に詳細に説明する。
このマスク部55の支持体70は、金(Au)の単結晶基板で形成する。Au基板の、基板24と対向する側の面に、電子線リソグラフィによって、この構成例では、幅20nm及び高さ10nmの凹凸パターンを形成してある。尚、この凹凸パターンは、基板24上に形成すべき所望のレジストパターン形状に基づいて設計し、形成しておけばよい。
また、中間励起媒体72aとは、外部エネルギーを吸収して励起することにより、所定の反応に間接的に寄与する媒体のことをいう。
この実施の形態の構成例では、中間励起媒体72aとして、下記(1)式で示されるN−(7−メルカプトヘキサノイル)−4−ニトロ−1−ナフチルアミンを用いる。すなわち、ここでの中間励起媒体72aとして、N−アセチル−4−ニトロ−1−ナフチルアミン誘導体からなる光増感分子を用いる。尚、光増感分子であるN−アセチル−4−ニトロ−1−ナフチルアミン誘導体のうち、N−アセチル−4−ニトロ−1−ナフチルアミン部分が光増感作用を示すが、ここでは、光増感作用を示す部分を構成部分とする誘導体全体を総じて光増感分子と称する場合もある。

尚、中間励起媒体72aはN−アセチル−4−ニトロ−1−ナフチルアミン誘導体のみに限定されず、光増感分子として機能するものを任意好適に選択することができる。また、中間励起媒体72aとしては、光増感分子のほかに、光触媒である結晶粒子等を用いることができる。光触媒である無機物は、光増感分子である有機物に比べて、光に対する耐性、化学的安定性及び熱的安定性等に優れている。中間励起媒体としてどのような物質を用いるかについては、目的や結合条件等に応じて任意好適に選択すれば良い。
この構成例では、中間励起媒体72aの末端のメルカプト基(−SH基)と支持体70の金結晶とが結合、すなわち、Au−S結合することによって、中間励起媒体72aは支持体70に固定されている。すなわち、中間励起媒体72aを選択的な化学吸着によって支持体70に固定しているので、例えば、合成樹脂等の接着剤を用いて支持体に固定する場合のように、接着剤の劣化による信頼性の低下の懸念がない。尚、選択的な化学吸着としては、配位結合や共有結合やイオン結合等のなかから目的や設計に応じて任意好適に選択することができる。
以下に、中間励起媒体であるN−(7−メルカプトヘキサノイル)−4−ニトロ−1−ナフチルアミンの製造方法の一例につき説明する。尚、この例では、以下のステップ(A)〜ステップ(C)を順次行って製造する。
(A)7−ブロモ−ヘキサノイルクロリドの製造
下記(2)式で示される7−ブロモヘキサン酸1.0gと塩化チオニル(SOCl)5.7gとをベンゼン(C)30mlに溶解し、5時間還流した。

その後、ベンゼン及び塩化チオニルを減圧下で留去した後、下記(3)式で示される褐色液体である7−ブロモ−ヘキサノイルクロリドを得た。

(B)N−(7−ブロモヘキサノイル)−4−ニトロ−1−ナフチルアミンの製造
下記(4)式で示される1−アミノ−4−ニトロナフタレン0.7gとトリエチルアミン((CN)とをジクロロメタン(CHCl)溶液に溶解し、窒素気流下で0℃に冷却した。その後、この溶液に、(A)で得られた7−ブロモ−ヘキサノイルクロリド1.0gを含有するジクロロメタン溶液5mlを滴下して2時間撹拌後、さらに室温にて8時間撹拌した。このとき析出した塩を濾過した後、溶媒を減圧留去した。こうして得られた粗生成物を再結晶させて、下記(5)式で示される黄色固体であるN−(7−ブロモヘキサノイル)−4−ニトロ−1−ナフチルアミン1.1gを得た。

(C)中間励起媒体である、N−(7−メルカプトヘキサノイル)−4−ニトロ−1−ナフチルアミンの製造
(B)で得られたN−(7−ブロモヘキサノイル)−4−ニトロ−1−ナフチルアミン0.8gとチオ酢酸ナトリウム(CHCOSNa)、0.2gとをエタノール30mlに溶解して24時間還流した後、室温まで冷却した。冷却後、析出している固形物を酢酸エチル(CHCOOC)で洗浄して黄色固体を得た。この黄色固体と水酸化カリウム(KOH)0.1gとをイソプロピルアルコール((CHCHOH)20mlに溶解して3時間還流した後、室温まで冷却した。冷却後、さらに水を加えて、粗成生物をジクロロメタン(CHCl)で抽出した。その後、溶媒を減圧留去後、再結晶させることにより上記(1)式で示される黄色固体であるN−(7−メルカプトヘキサノイル)−4−ニトロ−1−ナフチルアミン0.5gを得た。
続いて、中間励起媒体72aであるN−(7−メルカプトヘキサノイル)−4−ニトロ−1−ナフチルアミンの支持体70への固定を、以下の手順で行う。
先ず、N−(7−メルカプトヘキサノイル)−4−ニトロ−1−ナフチルアミンのクロロホルム(CHCl)溶液0.5mmol/Lを調製した。そして、このクロロホルム溶液を、支持体70の凹凸パターン表面に、ディップコート法によって塗布した。その後、凹凸パターン表面をクロロホルムで洗浄する。洗浄後、支持体70の金表面と結合、すなわち、Au−S結合しているメルカプト基を具える中間励起媒体72aは、当該支持体70に固定された状態で残留している。
こうして、支持体70の凹凸パターン表面に中間励起媒体72aが複数固定されたマスク部(或いは、励起三重項マスクとも称する。)55が得られる。尚、支持体70は上述の構成のみに限られず、例えば、所望のレジストパターン形状に対応する領域に、中間励起媒体と選択的な化学吸着(共有結合や配位結合やイオン結合等)を形成する材料からなるパターンが形成されていれば良い。そのため、例えば、ガラス(SiO)基板表面に、この実施の形態における支持体70の凸部に対応する金パターンが設けられた構成であっても良い。また、光源16としては、その他にも超高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯、気体レーザ、液体レーザ、固体レーザ等を用いることができる。また、光としては、紫外線、可視光線、赤外線、X線等を用いることができる。これら光源及び光は、波長及び光強度の観点から適切に選定すれば良い。
続いて、この分子結合装置10を用いた分子結合方法について、第2図(A)、(B)及び(C)を参照して説明する。
この実施の形態では、支持体70に固定された中間励起媒体72aによる光増感反応を利用する。具体的には、光増感反応のうち、励起された中間励起媒体からのエネルギー移動(或いは光励起エネルギー移動とも称する。)によって結合反応が起こる例につき説明する。尚、ここでは、中間励起媒体からの物理的作用のうち、励起三重項エネルギー移動を利用した重合反応について説明するが、これに限定されず、例えば、励起一重項エネルギー移動を利用することができる。
先ず、この構成例では、基板24表面上に、下記一般式(6)で定義される化合物(単量体)の単分子膜(LB膜)を形成する。

(式中、m及びnは、それぞれ互いに独立して、1から10までの自然数である。)
具体的には、サファイヤ基板である基板24上に、好ましくは、上記一般式(6)において、例えば、m=n=3である下記(6’)式で示される単量体、N,N,N’,N’−テトラ[N″,N″−ビス{N’’’N’’’−ジ−((シンナモイルオキシ−エチル)−カルバモイル−エチル)−アミノ−エチルカルバモイル−エチル}アミノ−エチルカルバモイル−エチル]エチレンジアミン26を塗布して固定するのがよい。以下、この化合物26を用いる例につき説明する。

先ず、N,N,N’,N’−テトラ[N″,N″−ビス{N’’’N’’’−ジ−((シンナモイルオキシ−エチル)−カルバモイル−エチル)−アミノ−エチルカルバモイル−エチル}アミノ−エチルカルバモイル−エチル]エチレンジアミンのクロロホルム溶液0.1mmol/Lを調製した。そして、このクロロホルム溶液を水面に適量を滴下した後クロロホルムを蒸発させて、水面上にN,N,N’,N’−テトラ[N″,N″−ビス{N’’’N’’’−ジ−((シンナモイルオキシ−エチル)−カルバモイル−エチル)−アミノ−エチルカルバモイル−エチル}アミノ−エチルカルバモイル−エチル]エチレンジアミンの単分子膜を形成した。この単分子膜を洗浄済みの基板24上に移し取り、基板24上にラングミュア・ブロジェット(LB:Langmuir Blodgett)膜を形成した。
この例では、化合物26を、LB膜として基板24上に成膜する例を説明したが、これに限定されず、、上述の化合物26の0.1mmol/Lクロロホルム溶液を、例えば、スピンコート法により、基板24上に塗布することによって、成膜することもできる。
この化合物26の膜は、レジストパターンを形成するためのレジスト膜として機能する。
単量体であるN,N,N’,N’−テトラ[N″,N″−ビス{N’’’N’’’−ジ−((シンナモイルオキシ−エチル)−カルバモイル−エチル)−アミノ−エチルカルバモイル−エチル}アミノ−エチルカルバモイル−エチル]エチレンジアミン26は、励起三重項エネルギー移動によって励起される結合性残基を有する、第1の分子28a(以下、単に、第1の分子と称する場合もある。)、又は励起された第1の分子28bの被結合対象物である結合性残基を有する第2の分子30(以下、単に、第2の分子と称する場合もある。)となる。
また、結合性残基としては、この実施の形態のN,N,N’,N’−テトラ[N″,N″−ビス{N’’’N’’’−ジ−((シンナモイルオキシ−エチル)−カルバモイル−エチル)−アミノ−エチルカルバモイル−エチル}アミノ−エチルカルバモイル−エチル]エチレンジアミンが有する桂皮酸基の他に、例えば、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基のような不飽和二重結合を有する脂肪族系残基や、α−シアノ桂皮酸基、クマリン基、カルコン基、シンナミリデンアセテート基、p−フェニレンジアクリルレート基、ジスチリルピラジン基のような不飽和二重結合を有する芳香族系残基や、アセチレン基、ジアセチレン基のような不飽和三重結合を有する脂肪族系残基や、ジフェニルアセチレン基、フェニルアジド基、ジピリジルジアセチレン基のような不飽三重結合を有する芳香族系残基、及びこれら残基から誘導される基とすることができる(以下の、各実施の形態についても同様である。)。
その後、基板固定部64によって、N,N,N’,N’−テトラ[N″,N″−ビス{N’’’N’’’−ジ−((シンナモイルオキシ−エチル)−カルバモイル−エチル)−アミノ−エチルカルバモイル−エチル}アミノ−エチルカルバモイル−エチル]エチレンジアミン26からなるLB膜を有する基板24をステージ66(第1図(A)参照)上に固定するとともに、基板24上のN,N,N’,N’−テトラ[N″,N″−ビス{N’’’N’’’−ジ−((シンナモイルオキシ−エチル)−カルバモイル−エチル)−アミノ−エチルカルバモイル−エチル}アミノ−エチルカルバモイル−エチル]エチレンジアミン26とマスク部55のN−(7−メルカプトヘキサノイル)−4−ニトロ−1−ナフチルアミン72aとを所定間隔で対向配置させる(第2図(A))。中間励起媒体72aに外部エネルギーを供給していないこの段階では、励起三重項エネルギー移動は発生しない。また、このときの基板24表面と、支持体70の凸部に固定された中間励起媒体72aとの間隔は、励起三重項エネルギー移動を有効に行うために最大でも2nmとするのが好ましく、励起一重項エネルギー移動の場合には最大でも10nmとするのが好ましい。
その後、光源である水銀キセノンランプ16から、中間励起媒体72aに外部エネルギーとなる励起光を供給(すなわち、照射)する。ここでは、中間励起媒体72aに対して、通過可能波長域365nm及び半値幅10nmのバンドパスフィルタ51を通過させた水銀キセノンランプ16からの照射光を、2mW/cmの照射光強度で10秒間連続して照射する。このときの照射光強度は、最少でも、1つの中間励起媒体72aに対し1個のフォトンが当たって励起されるような強度とすれば良く、装置構成や材料等によって任意好適に設定できる。
外部エネルギーが照射されると、支持体70に固定されている中間励起媒体72aは励起して、励起一重項状態を経て励起三重項状態の中間励起媒体72bとなる。
その結果、励起三重項状態の中間励起媒体72bから、この中間励起媒体72bの周辺にある第1の分子28aに、結合用エネルギーの移動である励起三重項エネルギー移動が起こる。具体的には、中間励起媒体72bから、励起三重項エネルギーの到達範囲内、すなわち2nm以内の距離にある第1の分子28aに対して、励起三重項エネルギー移動が起こる。すなわち、中間励起媒体72aが1回励起される毎に、第1の分子28aが有する結合性残基の1つが励起されて、励起状態の結合性残基を有する第1の分子28bとなる。ここでは、中間励起媒体72aの1回の励起によって、第1の分子28aが有する複数の桂皮酸基のうちの1つが励起される(第2図(B))。
しかし、このとき、支持体70の凹部に固定されている中間励起媒体72bと第1の分子28aとは10nm程度離間しているため、エネルギーの移動範囲が2nm程度とされる励起三重項エネルギー移動は起こらない。すなわち、この実施の形態によれば、中間励起媒体72bから励起三重項エネルギーの到達範囲内にある第1の分子28aに対してのみ、励起三重項エネルギー移動を選択的に起こすことができる。
その結果、励起三重項状態である第1の分子28bと、当該第1の分子28bの周辺にある、第1の分子28bと結合されるべき被結合対象物である第2の分子30とが重合反応によって結合する。
詳細には、単量体26間或いは単量体26内で、ベンジル位の二重結合が付加重合してシクロブタン化しシクロブタン環を有する重合体(ポリマー)となる。
すなわち、この構成例では、1回の中間励起媒体72aの励起によって励起された、第1の分子28aの複数の桂皮酸基のうちの1つが、第2の分子30が有する複数の桂皮酸基のうちの1つと結合する。又は、第2の分子30が第1の分子28a自体である場合には、1回の中間励起媒体72aの励起によって励起された、第1の分子28aの桂皮酸基のうちの1つが、当該第1の分子28aの他の桂皮酸基のうちの1つと結合する。尚、重合体パターンは重合条件等によって相違するため、目的や設計に応じて任意好適な重合体パターンを選択することができる。
こうして、基板24上に、支持体70の凸部パターンと実質的に同じ形状のレジストパターンである重合体パターン76を形成することができる(第2図(C))。
この構成例では、中間励起媒体72aに励起光を照射しない限り励起三重項エネルギー移動は起こらない。そのうえ、中間励起媒体72aと第1の分子28aとを十分に接近させた状態で、すなわち、第1の分子28aを、中間励起媒体72aから発生する結合用エネルギーによって励起状態にすることができる距離に配置して、励起光の照射を行っている。
その結果、この構成例では、励起三重項エネルギー移動を有効に行うことができるうえに、基板24上での重合体パターン76の位置精度及び分解能を、中間励起媒体に基づいて1分子単位で制御することができる。
その後、重合体パターン76のみを基板上に残存させてレジストパターン形状とするに当たり、単量体と重合体との物性値(例えば、溶解度や昇華温度等)の違いを利用することができる。そこで、例えば、クロロホルムで基板24表面を洗浄して単量体であるN,N,N’,N’−テトラ[N″,N″−ビス{N’’’N’’’−ジ−((シンナモイルオキシ−エチル)−カルバモイル−エチル)−アミノ−エチルカルバモイル−エチル}アミノ−エチルカルバモイル−エチル]エチレンジアミン26を溶解させ、重合体パターン76のみを基板24上に残存させる。こうして、励起光の照射に対応して形成された重合体パターン76を、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)によって確認することができる。
上述した説明から明らかなように、この実施の形態によれば、支持体に固定された中間励起媒体が励起することによって発生するエネルギー移動を利用して、分子同士を選択的に結合させることができる。また、例えば、高精度の原子間力顕微鏡が具えているステージと同様の構成を有するステージ66、すなわちピエゾXY移動ステージ等の位置決め機構を用いて、基板と支持体とを接触をさせる前に予め位置決めしておくことにより、基板に対する支持体の位置決めを結合が実現できる程度の精度で制御することができる。特に、基板に対する支持体の位置決め精度を1nm以下で行うことにより、1分子単位の分解能を再現性良く得ることができる。なぜなら、例えば、中間励起媒体や後述する機能性分子が芳香族系分子である場合には、ベンゼン環1個当たりの大きさが約0.28nmであることから、複数個のベンゼン環で構成された中間励起媒体や機能分子の大きさは1nm前後となる。そのため、中間励起分子に基づく分子精度の結合や機能性分子の精密な配置を行うためには、その1/10である0.1nmの位置決め精度が必要になると推測される。また、中間励起媒体が、大きさが10nm程度である量子ドット等のナノ粒子である場合には、同様に、その1/10である1nmの位置決め精度が必要になると推測される。以上のことから、固定部材に対する支持体の位置ずれを、最大でも1nmとすることによって、1分子単位の精度で結合を行うことができる。
よって、この分子結合方法を、レジストパターンの作製等の微細加工技術に適用することにより、従来よりも微細化及び高密度化が実現された高信頼性な半導体デバイスを得ることができる。
尚、この実施の形態の中間励起媒体72aは、単量体26の結合性残基の三重項エネルギーレベルよりも高い三重項エネルギーレベルを有するものであれば良く、中間励起媒体及び単量体の組み合わせは、目的や設計に応じて任意好適に選択することができる。さらに、中間励起媒体72aとしては、支持体70との間で配位結合や共有結合やイオン結合などの選択的化学吸着が起こる官能基を有する材料を選択することができる。そのため、支持体としては、金の他に、例えば、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、水銀(Hg)、鉄(Fe)、酸化鉄(Fe)、ヒ化ガリウム(GaAs)、リン化インジウム(InP)等を任意好適に使用することができる。尚、支持体及び中間励起媒体の選択的化学吸着の組み合わせに関する詳細については、(1)H.Wolf,et al.,J.Phys.Chem.99,7102(1995)、(2)P.E.Laibinis and G.M.Whitesides,J.Am.Chem.Soc.114,1990(1992)、(3)A.Ulman,Chem.Rev.96,1533(1996)、(4)M.R.Linford and C.E.D.chidsey,J.Am.Chem.Soc.115,12630(1993)、(5)M.R.Linford,P.Fenter,P.M.Eisenberger,C.E.D.Chindsey,J.Am.Chem.Soc.117,3145(1995)、(6)J.Sagiv,J.Am.Chem.Soc.102,92(1980)、(7)H.Lee,et al.,J.Phys.Chem.92,2597(1988)、(8)D.L.Allara and R.G.Nuzzo,Langmuir 1,52(1985)に記載されている。
また、第1の分子と当該第1の分子と結合されるべき被結合対象物とを、重合反応、架橋反応、ラジカル反応等のいずれかの反応によって選択的に結合させる場合が含まれる。
また、中間励起媒体が選択的化学吸着によって支持体に固定されていることから、上述した結合反応を、結合用エネルギーが移動可能であれば、液中、真空中、ガス雰囲気中をはじめ、結合用エネルギーが表面から移動可能な範囲内の固体内部でも行うことができる。
また、単量体26は、LB膜として基板24に固定されている場合のみに限定されない。単量体26が、基板24と中間励起媒体72aとの間に、適量供給されていれば良い。また、励起された中間励起媒体72aからのエネルギー移動の対象は、上述したN,N,N’,N’−テトラ[N″,N″−ビス{N’’’N’’’−ジ−((シンナモイルオキシ−エチル)−カルバモイル−エチル)−アミノ−エチルカルバモイル−エチル}アミノ−エチルカルバモイル−エチル]エチレンジアミン26のような単量体分子のみに限定されず重合体であっても良い。
<第2の実施の形態>
第3図及び第4図を参照して、この発明の第2の実施の形態につき説明する。第3図(A)及び(B)は、この実施の形態の分子結合装置及びその主要部の構成を概略的に示す部分断面図である。第4図は、この実施の形態の分子結合方法を説明する概略部分断面図である。この実施の形態では、分子結合装置100が具える支持体をプローブ構造として形成して、限定数の中間励起媒体によって基板上方を走査可能にした点が第1の実施の形態との主な相違点である。尚、第1の実施の形態で既に説明した構成要素と同一の構成要素については、その具体的な説明を省略する。
第3図(A)に示すように、この実施の形態の分子結合装置100は、主として、プローブ25と、中間励起媒体18aと、外部エネルギー供給部27とを具えている。中間励起媒体18aは、プローブ25を構成している。
第3図(A)に示す構成例では、分子結合装置100は、さらに、固定部材としての基板24、スキャナ36、カンチレバ38、ピエゾ加振部40、レーザ42、光検出部44、制御装置46及び発振器48を具えている。
外部エネルギー供給部27は、外部エネルギー供給源としての光源16、シャッタ50、フィルタ(ここでは、バンドパスフィルタとする。)51、ミラー52及びレンズ54を具えている。ここでの制御装置46は、スキャナ36、光検出部44及び発振器48と電気的に接続されている。発振器48は、ピエゾ加振部40及びシャッタ50と電気的に接続されている。スキャナ36は、基板24を支持すると共に、制御装置46からの信号に応じて、基板24を当該基板24の主表面の面方向(直交するX及びY方向)及び基板24の主表面に対して垂直方向(Z方向)に移動可能である。この構成により、プローブ25は、基板24上を走査することが可能となる。また、このスキャナ36は、制御装置46で制御されており、基板24のXY座標位置を、プローブ25のプローブの先端に対して後述する結合が実現できる程度の位置精度で設定することができる。特に、基板24に対する支持体の位置ずれを最大でも1nmとすることにより、分子レベルの精度で当該結合を行うことができる(詳細については後述する。)。
光検出部44は、レーザ42からカンチレバ38に照射した光の反射光を検知して、これに基づく信号を制御装置46に出力する。ピエゾ加振部40は、一端にプローブ25が取り付けられたカンチレバ38の他端に取り付けられており、発振器48からの信号に基づいてカンチレバ38を振動させることによりプローブ25を振動させる。この振動の振幅や位相、周波数変化を信号として取り出し、プローブ25と基板24との間隔の制御を行う。ここでは、光てこ方式を用いるが、プローブ25と基板24との間隔の制御方式はこれに限られるものではなく、例えば光干渉方式を用いても良い。シャッタ50は、発振器48からの信号に基づいて光源16からの励起光を遮断或いは通過させる。外部エネルギー供給部27は、プローブ25が具える後述する中間励起媒体18aを励起させる外部エネルギー(或いは、励起エネルギーとも称する。)を、当該中間励起媒体18aに供給する。具体的には、光源16からの励起光をミラー52で反射させた後、レンズ54で集光させて中間励起媒体18aに照射する。
続いて、この実施の形態のプローブ25について、以下に詳細に説明する。
第3図(B)に示すように、プローブ25は、主として、支持体12と、支持体12に固定された中間励起媒体18aとを具えている。尚、以下の説明において、中間励起媒体18aをプローブ分子構造体と称する場合もある。
この実施の形態の支持体12は、外径4nmの金線で形成してある。この金線をガラスからなるキャピラリーチューブ22に挿入して、2重構造のプローブ本体23を構成している。このプローブ本体23は、例えば、外径0.05mmの金線が挿入されたガラスからなる外径1mmのキャピラリーチューブをピペットプラー(サッター社製P2000)で引き延ばした後、マイクロピペットベベラー(サッター社製BV−10)を用いた直径0.05μmのアルミナ(Al)等による機械的研磨、又は40wt%のフッ化水素(HF)水溶液等による化学的研磨、又は集束イオンビームによるエッチングによってガラスの先端を内径4nmの太さにし、金端面を露出して得られる。尚、詳細については、″nanometer−sized electrochemical sensors,″Y.shao,et al.,Anal.Chem.69,1627(1997)に記載されている。
また、この実施の形態では、中間励起媒体18aとして、下記(7)式で示されるデンドリマー構造体である、N−[3−{3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−メルカプトベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}ベンジルオキシ}−プロピオニール−4−ニトロ−1−ナフチルアミンを用いる。すなわち、ここでは、中間励起媒体18aとして、光増感分子であるN−アセチル−4−ニトロ−1−ナフチルアミン誘導体を用いている。

すなわち、この実施の形態における中間励起媒体である光増感分子18aは、プローブ枝部182aと結合枝部181とを具えている。具体的には、この光増感分子18aは、幹であるプローブ枝部182aから結合枝部181が有する複数の結合枝が放射状に枝分かれしたツリー構造を有している。
具体的には、この構成例では、ツリー構造の幹側のプローブ枝部182aは、光増感分子として機能する部分であるとともに基板24に向かって延びており、プローブの先端部分を構成している。また、ツリー構造の結合枝部181が有する複数の結合枝は、一端がプローブ枝部182aの端部であるコア(核)C(第3図(B)参照)、すなわち、上述の式(7)の化合物における−CH−O−基に結合されているとともに、他端が支持体12に向かって支持体12を覆うように放射状に三次元的に広がっている。その結果、光増感分子18aと支持体12との結合がより確実に行われ、よって、光増感分子18aの1分子を、しっかりと支持体12に固定することが可能である。
すなわち、この構成例における光増感分子18aは、中心骨格であるコアCから支持体12に向かって放射状に広がった結合枝としての複数の置換基と、コアCから基板24に向かって延びているとともに、結合枝である置換基とは異なる構造のプローブ枝としての1つの置換基とを有している。
また、光増感分子18aのうち支持体12と結合される結合枝部181側が放射状に広がった構造であるため、支持体12のうち光増感分子18aが固定される領域を、プローブ枝程度の微小サイズにまで高度な加工技術によって形成せずとも良い。その結果、当該領域をプローブ枝部182a程度のサイズにまで加工することが技術的に困難な場合でも、支持体12に対して光増感分子を所望数固定することができる。また、高度な加工技術を用いなくても良いことから、製造コストを低減することができる。
例えば、支持体12のうち、結合枝部181に結合する領域の大きさを、結合枝部181の末端の円錐状の広がりの底面の面積を考慮して、1つの支持体12に対して1つの光増感分子18aを結合させることもできる。また、2以上の任意の数の光増感分子18aを支持体12に結合させる場合には、結合枝部181に結合する領域の大きさを、結合枝部181の末端の円錐状の広がりの底面の面積を考慮して、任意の数の結合枝部181が結合できるような面積とすればよい。このようにすれば、支持体12に対して光増感分子を任意の所望の個数で固定することができる。
すなわち、ここでの中間励起媒体18aは、放射状の末端にメルカプト基(−SH基)を有する開脚長約4nmの円錐型デンドリマー構造体としてのプローブ分子構造体である。そして、第1の実施の形態と同様に、中間励起媒体18aの末端のメルカプト基と支持体12の金とが結合、すなわち、Au−S結合することによって、中間励起媒体18aは支持体12に固定されている。すなわち、中間励起媒体は、選択的な化学吸着によって支持体に固定されているため、中間励起媒体を合成樹脂等の接着剤を用いて支持体12に固定する場合のように、接着剤の劣化によって信頼性が低下する懸念がない。尚、中間励起媒体18aは上述のみに限定されず、光増感分子として機能するものを任意好適に選択することができる。
以下に、中間励起媒体である、N−[3−{3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−メルカプトベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}ベンジルオキシ}−プロピオニール−4−ニトロ−1−ナフチルアミンの製造方法の一例につき説明する。尚、この例では、以下のステップ(A)〜ステップ(L)の手順を順次行って製造する。
(A)3,5−ビス(ジメチルチオカルバモイルオキシ)安息香酸メチルの製造
下記(8)式で示される3,5−ジヒドロキシ安息香酸メチルを16.8g、下記(9)式で示されるジメチルチオカルバモイルクロライドを22.0g、及び炭酸カリウム(KCO)30.0gを、500mlのアセトン(CHCOCH)に混合して撹拌しながら、30℃〜35℃の範囲の温度で24時間反応させた。反応終了後、減圧下でアセトンを留去した。こうして得られた残渣に氷水500mlを加えて析出される結晶を濾別してから、さらにエタノール(COH)によって再結晶させて、下記(10)式で示される3,5−ビス(ジメチルチオカルバモイルオキシ)安息香酸メチル32.2gを得た。

(B)3,5−ビス(ジメチルカルバモイルチオ)安息香酸メチルの製造
(A)で得られた3,5−ビス(ジメチルチオカルバモイルオキシ)安息香酸メチル32.0gを、下記(11)式で示される1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン200mlに還流撹拌させながら加え、220℃〜226℃の範囲の温度で保持して転位反応を行った。その後、還流撹拌をさらに2時間行った後、減圧下で1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを留去した。こうして得られた残渣に氷水500mlを加えて析出される結晶を濾別し、アセトンにより再結晶させて、下記(12)式で示される3,5−ビス(ジメチルカルバモイルチオ)安息香酸メチル25.3gを得た。

(C)3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)−安息香酸メチルの製造
(B)で得られた3,5−ビス(ジメチルカルバモイルチオ)安息香酸メチル25.0gをアセトン300mlに溶解した後、2.1倍当量のナトリウムメトキシド(CHONa)を加えて室温で2時間撹拌した。撹拌終了後の溶液に、さらに、下記(13)式で示される4−ジメチルカルバモイルチオベンジルクロリドを34.0g加えて3時間反応させた。反応終了後、減圧下でアセトンを留去した。こうして得られた残渣に氷水500mlを加えて析出される結晶を濾別した後、さらにメタノールによって再結晶させて、下記(14)式で示される3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)安息香酸メチル19.8gを得た。

(D)3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルアルコールの製造
(C)で得られた3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)安息香酸メチル19.5gをトルエン(CCH)300mlに溶解した後、この溶液に、乾燥窒素(N)気流下及び5℃〜10℃の範囲の温度で、1.2倍当量のナトリウム水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムを含有する70%トルエン溶液を撹拌しながら30分間で滴下した。滴下終了後、乾燥窒素気流下及び5℃〜10℃の範囲の温度でさらに1時間反応させた。反応終了後、この溶液を、0℃〜5℃の範囲の温度に冷却した10%塩酸(HCl)溶液500mlに撹拌しながら加えた後、酢酸エチル(CHCOOC)200mlで2回抽出した。抽出後、有機層を、飽和食塩水(Sat.NaClaq)、飽和重曹水(Sat.NaHCOaq)で順次洗浄した後、硫酸マグネシウム(MgSO)で乾燥させた。そして、減圧下で酢酸エチルを留去させた後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:クロロホルム)によって精製して、下記(15)式で示される3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルアルコール18.0gを得た。

(E)3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルクロリドの製造
(D)で得られた3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルアルコール18.0gを四塩化炭素(CCl)300mlに溶解した後、この溶液に、乾燥窒素気流下で5℃〜10℃の範囲の温度で、1.2倍当量のポリスチレンに坦持させたトリフェニルホスフィン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)を撹拌しながら加えた。その後、温度を除々に上昇させて還流撹拌を2時間行い、室温まで冷却してポリスチレン樹脂を除去した。除去した樹脂をクロロホルム(CHCl)200mlで2回洗浄した後、減圧下で濃縮させた。残渣をカラムクロマトグラフィによって精製して、下記(16)式で示される3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルクロリド17.5gを得た。

(F)3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]安息香酸メチルの製造
(B)によって得られた3,5−ビス(ジメチルカルバモイルチオ)安息香酸メチル5.0gをアセトン300mlに溶解した後、さらに2.1倍当量のナトリウムメトキシドを加えて室温で2時間撹拌した。撹拌終了後、この溶液に、(E)で得られた3,5−ビス−(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)−ベンジルクロリドを17.0g加えて3時間反応させた。反応終了後、減圧下でアセトンを留去する。こうして得られた残渣をカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:クロロホルム)によって精製して、下記(17)式で示される3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]安息香酸メチル14.2gを得た。

(G)3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルアルコールの製造
(F)で得られた3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]安息香酸メチル14.0gをトルエン200mlに溶解した後、乾燥窒素気流下及び5℃〜10℃の範囲の温度で、1.2倍モルのナトリウム水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムを含有する70wt%トルエン溶液を30分間で滴下した。滴下終了後、乾燥窒素気流下及び5℃〜10℃の範囲の温度でさらに1時間反応させた。反応終了後、この溶液を、0℃〜5℃の範囲の温度に冷却した10wt%塩酸溶液300mlに撹拌しながら加えた後、酢酸エチル150mlで2回抽出した。抽出後、有機層を、飽和食塩水及び飽和重曹水で順次洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。そして、減圧下で酢酸エチルを留去した後、残渣をカラムクロマトグラフィによって精製して、下記(18)式で示される3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルアルコール12.6gを得た。

(H)3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルクロリドの製造
(G)で得られた3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルアルコール12.5gを四塩化炭素200mlに溶解した後、この溶液に、乾燥窒素気流下及び5℃〜10℃の範囲の温度で、1.2倍当量のPS−トリフェニルホスフィンを撹拌しながら加えた。その後、温度を除々に上昇させて還流撹拌を2時間行い、室温まで冷却して樹脂を除去した。除去した樹脂をクロロホルム200mlで2回洗浄した後、減圧下で留去させた後、残渣をカラムクロマトグラフィによって精製して下記(19)式で示される3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルクロリド12.0gを得た。

(I)3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}安息香酸メチルの製造
(B)によって得られた3,5−ビス(ジメチルチオカルバモイルチオ)安息香酸メチル3.21gをアセトン300mlに溶解した後、さらに2.1倍当量のナトリウムメトキシドを加えて室温で2時間撹拌した。撹拌終了後、この溶液に、(H)で得られた3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルクロリドを12.0g加えて3時間反応させた。反応終了後、減圧下でアセトンを留去した。こうして得られた残渣をカラムクロマトグラフィによって精製して、下記(20)式で示される3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}安息香酸メチル9.81gを得た。

(J)3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}ベンジルアルコールの製造
(I)で得られた3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}安息香酸メチル9.50gをトルエン100mlに溶解した後、乾燥窒素気流下及び5℃〜10℃の範囲の温度で、1.2倍モルのナトリウム水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムを含有する70wt%トルエン溶液を30分間で滴下した。滴下終了後、乾燥窒素気流下及び5℃〜10℃の範囲の温度でさらに1時間反応させた。反応終了後、この溶液を0℃〜5℃の範囲の温度に冷却した10%塩酸溶液150mlに撹拌しながら加えた後、酢酸エチル100mlで2回抽出した。抽出後、有機層を、飽和食塩水及び飽和重曹水で順次洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させる。そして、減圧下で酢酸エチルを留去させた後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:クロロホルム:ヘキサン=1:1)によって精製して、下記(21)式で示される3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}ベンジルアルコール7.20gを得た。

(K)N−(3−ブロモプロピオニール)−4−ニトロ−1−ナフチルアミンの製造
乾燥テトラヒドロフラン溶液50mlに、4−ニトロナフチルアミン3.23gを溶解した後、この溶液に、乾燥窒素気流下及び5℃〜10℃の範囲の温度で、乾燥テトラヒドロフラン10mlに溶解した1.1倍当量の3−ブロモプロピオニールクロリドを撹拌しながら滴下する。滴下終了後、乾燥窒素気流下及び5℃〜10℃の範囲の温度でさらに2時間反応させた。反応終了後、減圧下で氷水50mlを加えて、酢酸エチル50mlで2回抽出した。抽出後、有機層を、飽和食塩水及び飽和重曹水で順次洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、減圧下で酢酸エチルを留去した後、残渣を少量のエタノールにより再結晶させて、下記(22)式で示される淡黄色のN−(3−ブロモプロピオニール)−4−ニトロ−1−ナフチルアミン2.65gを得た。

(L)中間励起媒体である、N−[3−{3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−メルカプトベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}ベンジルオキシ}プロピオニール]−4−ニトロ−1−ナフチルアミンの製造
(J)で得られた3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−ジメチルカルバモイルチオベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}ベンジルアルコールを、乾燥テトラヒドロフラン50mlに溶解した。その後、この溶液に、乾燥窒素気流下及び0℃〜5℃の範囲の温度で、1当量の水素化ナトリウム(NaH)を含有する60wt%オイルサスペンジョンを加えて、30分間撹拌した。その後、乾燥窒素気流下及び0℃〜5℃の範囲の温度で、この溶液に、(K)で得られた2倍当量のN−(3−ブロモプロピオニール)−4−ニトロ−1−ナフチルアミンを加えて、室温で2時間反応させた。反応終了後、さらにクロロホルム50mlを加えてから飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。そして、減圧下で濃縮させた後、残渣をアセトン50mlに溶解してから9.0倍当量のナトリウムメトキシドを加えて、室温で2時間撹拌した。撹拌後、減圧下でアセトンを留去した。こうして得られた残渣に氷水50mlを加えて、クロロホルム30mlで2回抽出した。抽出後、有機層を、飽和食塩水及び飽和重曹水で順次洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。そして、減圧下でクロロホルムを留去した後、残渣をカラムクロマトグラフィによって精製して、上記(7)式で示されるN−[3−{3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−メルカプトベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}ベンジルオキシ}−プロピオニール]−4−ニトロ−1−ナフチルアミン0.62gを得た。
続いて、中間励起媒体18aであるN−[3−{3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−メルカプトベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}ベンジルオキシ}−プロピオニール]−4−ニトロ−1−ナフチルアミンの支持体12への固定を、以下の手順で行う。
先ず、N−[3−{3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−メルカプトベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}ベンジルオキシ}−プロピオニール]−4−ニトロ−1−ナフチルアミンの0.1mmol/Lクロロホルム溶液を調製する。そして、このクロロホルム溶液を、支持体12の金表面にディップコート法によって塗布する。その後、金表面をクロロホルムで洗浄する。洗浄後、支持体12の金表面と結合している、メルカプト基を具えるプローブ分子構造体である中間励起媒体18aは、当該支持体12に固定された状態で残留している。こうして支持体12の先端に、中間励起媒体18aが1個固定されたプローブ(或いは、光励起三重項プローブとも称する。)25が得られる。尚、この構成例では、支持体12の先端に1個の中間励起媒体を固定させたが、複数個の中間励起媒体を固定しても良い。また、中間励起媒体18aを支持体12に固定させる方法は上述に限定されず、例えば、露出させた端面に金粒子をさらに吸着させて支持体12の表面積をより一層縮小させた後、この金粒子に中間励起媒体18aを固定するなどの任意好適な方法を用いることができる。
また、この分子結合装置100は、主として、プローブ25、基板24、スキャナ36、カンチレバ38、レーザ42及び光検出部44を具えていることからAFMとしての機能を併せて具えているが、この限りではない。
続いて、この分子結合装置100を用いた分子結合方法について、第4図(A)、(B)及び(C)を参照して説明する。
この実施の形態では、支持体12に固定された中間励起媒体18aによる光増感反応を利用する。具体的には、光増感反応のうち、第1の実施の形態と同様に、励起三重項エネルギー移動を利用した重合反応について説明する。
先ず、基板24上に、第1の実施の形態の方法と同様の方法により、単量体である、N,N,N’,N’−テトラ[N″,N″−ビス{N’’’N’’’−ジ−((シンナモイルオキシ−エチル)−カルバモイル−エチル)−アミノ−エチルカルバモイル−エチル}アミノ−エチルカルバモイル−エチル]エチレンジアミン26を塗布して固定する。これら単量体26は、プローブ25で走査されるプローブ走査対象物質である。
その後、N,N,N’,N’−テトラ[N″,N″−ビス{N’’’N’’’−ジ−((シンナモイルオキシ−エチル)−カルバモイル−エチル)−アミノ−エチルカルバモイル−エチル}アミノ−エチルカルバモイル−エチル]エチレンジアミン26からなるLB膜が形成される。基板24をスキャナ36(第3図(A)参照)に設置して、基板24上のN,N,N’,N’−テトラ[N″,N″−ビス{N’’’N’’’−ジ−((シンナモイルオキシ−エチル)−カルバモイル−エチル)−アミノ−エチルカルバモイル−エチル}アミノ−エチルカルバモイル−エチル]エチレンジアミン26とプローブ25のN−[3−{3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−メルカプトベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}ベンジルオキシ}−プロピオニール]−4−ニトロ−1−ナフチルアミン18aとを所定間隔で対向配置させる(第4図(A))。中間励起媒体18aに外部エネルギーを供給していないこの段階では、励起三重項エネルギー移動は発生しない。また、このときの基板24表面、従って単量体26と、支持体12に固定された中間励起媒体18aとの間隔を、励起三重項エネルギー移動を有効に行うために最大でも2nmとするのが好ましく、励起一重項エネルギー移動の場合には最大でも10nmとするのが好ましい。このような間隔に設定することによって、中間励起媒体と第1の分子間のエネルギー移動を効果的に行える。
その後、光源である水銀セキノンランプ16から、中間励起媒体18aに外部エネルギーとなる励起光を供給(すなわち、照射)する。
具体的には、中間励起媒体18aに励起光を照射するに当たり、制御装置46は、光検出部44が検知するプローブ25の変位に関する信号に基づいて、発振器48によってピエゾ加振部40とシャッタ50とを連動させ、プローブ25の先端とN,N,N’,N’−テトラ[N″,N″−ビス{N’’’N’’’−ジ−((シンナモイルオキシ−エチル)−カルバモイル−エチル)−アミノ−エチルカルバモイル−エチル}アミノ−エチルカルバモイル−エチル]エチレンジアミン26とが所定距離接近したときに励起光が中間励起媒体18aに照射されるように制御する。すなわち、制御装置46によって、プローブ25を基板24に対して鉛直方向に振動させるとともに、プローブ25の先端にある中間励起媒体18aと単量体26とが最も接近した時に、中間励起媒体18aに励起光を照射させる。ここでは、中間励起媒体18aに対して、通過可能波長域365nm及び半値幅10nmのバンドパスフィルタ51を通過させた水銀キセノンランプ16からの照射光を、2mW/cmの照射強度でパルス的、すなわち断続的に照射する。このときの照射光強度は、最小でも、1つの中間励起媒体18aに対し1個のフォトンが当たって励起されるような強度とすれば良く、装置構成や材料等によって任意好適に設定できる。
尚、発振器48の発振周波が中間励起媒体18aの励起状態の緩和時間よりも十分に短い場合には、励起光を断続的に照射する必要はない。
外部エネルギーが照射されると、支持体12に固定されている中間励起媒体18aは励起して、一重項励起状態を経て励起三重項状態の中間励起媒体18bとなる。詳細には、中間励起媒体18bのうち、光増感分子としての機能を有するプローブ枝部182aが励起状態のプローブ枝部182bとなる。
その結果、励起三重項状態の中間励起媒体18bから、この中間励起媒体18bの周辺にある第1の分子28aに、結合用エネルギーの移動である励起三重項エネルギー移動が起こる。具体的には、中間励起媒体18bから、励起三重項エネルギーの到達範囲内、すなわち2nm以内の距離にある第1の分子28aに対して、励起三重項エネルギー移動が起こる。すなわち、中間励起媒体18aが1回励起される毎に、第1の分子28aが有する結合性残基の1つが励起されて、励起状態の結合性残基を有する第1の分子28bとなる。ここでは、中間励起媒体18aの1回の励起によって、第1の分子28aが有する複数の桂皮酸基のうちの1つが励起される(第4図(B))。
すなわち、この実施の形態によれば、中間励起媒体18bから励起三重項エネルギーの到達範囲内にある第1の分子28aに対してのみ、励起三重項エネルギー移動を選択的に起こすことができる。
その結果、励起三重項状態である第1の分子28bと、当該第1の分子28bの周辺にある、第1の分子28bと結合されるべき被結合対象物である第2の分子30とが重合反応によって結合する。
詳細には、単量体26間或いは単量体26内で、ベンジル位の二重結合が付加重合してシクロブタン化しシクロブタン環を有する重合体となる。すなわち、この構成例では、1回の中間励起媒体18aの励起によって励起された、第1の分子28aの複数の桂皮酸基のうちの1つが、第2の分子30が有する複数の桂皮酸基のうちの1つと結合する。又は、第2の分子30が第1の分子28a自体である場合には、1回の中間励起媒体18aの励起によって励起された、第1の分子28aの桂皮酸基のうちの1つが、当該第1の分子28aの他の複数の桂皮酸基のうちの1つと結合する。尚、重合体パターンは重合条件等によって相違するため、目的や設計に応じて任意好適な重合体パターンを選択することができる。
こうして、基板24上に、重合体32を形成することができる(第4図(C))。
この構成例では、中間励起媒体18aに励起光を照射しない限り励起三重項エネルギー移動は起こらない。そのうえ、中間励起媒体18aと第1の分子28aとを十分に接近させた状態で、すなわち、第1の分子28aを、中間励起媒体18aから発生する結合用エネルギーによって励起状態にすることができる距離に配置して、励起光の照射を行っている。
その結果、この構成例では、励起三重項エネルギー移動を有効に行うことができるうえに、基板24上での重合体パターン32の位置精度及び分解能を、1分子単位で制御することができる。
さらに、この実施の形態では、プローブ25を、基板24上方の他の位置に移動すなわち走査させて上述と同様の方法を繰り返し行うことにより、基板24上に所定の重合体パターンを形成することができる。
その後、第1の実施の形態と同様の方法により、重合体パターン32のみを基板24上に残存させる。こうして、励起光の照射に対応して形成された重合体パターン32を、分子結合装置100が具えるAFM機能によって確認することができる。
上述した説明から明らかなように、この実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を期待することができる。すなわち、第1の実施の形態と同様に、基板に対する支持体の位置決め精度を1nm以下で行うことにより、1分子単位の分解能を再現性良く得ることができる。
そのため、この実施の形態では、プローブ25を基板24上で走査させることにより、例えば、1分子幅の分子線からなる分子配線を作製することができる。尚、分子配線を作製する場合には、1回の中間励起媒体の励起によって、基板上の分子同士が次々となだれ的に重合するような中間励起媒体18a及び単量体26の組み合わせを選択するのが場合によっては効果的である。
さらに、この実施の形態によれば、プローブ25の先端に、プローブ本体23よりも柔らかい中間励起媒体18aが固定されている。そのため、プローブ本体23自体が基板24に直接接触することによって、プローブ本体23が劣化するのを防止できる。
<第3の実施の形態>
第5図及び第6図を参照して、この発明の第3の実施の形態につき説明する。この実施の形態では、中間励起媒体としての光触媒を具えるプローブであるとともに、光励起電子移動によるラジカル反応を利用して分子を所望位置に配置する点が第2の実施の形態との主な相違点である。
第5図(A)に示すように、この実施の形態の分子結合装置200は、プローブ85の構成以外は、第2の実施の形態で説明した分子結合装置100の構成と同様であるので、その具体的な説明を省略する。
この実施の形態の分子結合装置200のプローブ85について、以下詳細に説明する。
第5図(B)に示すように、プローブ85は、主として、プローブ本体である支持体86と、当該支持体86に固定された中間励起媒体88aとを具えている。
この実施の形態の支持体86は、ガラスからなる内径8nmのナノピペットプローブである。このプローブは、例えば、ガラスからなる外径1mmのキャピラリーチューブをピペットプラー(サッター社製P2000)で引き延ばして得られる。
また、この実施の形態では、中間励起媒体88aとして、光触媒である(或いは光活性触媒とも称する。)粒径約10nmの二酸化チタン(TiO)(以下、チタニアとも称する。)粒子を用いる。尚、中間励起媒体88aはこれに限定されず、光触媒として機能するものを任意好適に選択することができる。また、中間励起媒体88aとして、光触媒のほかに光増感分子を用いることができる。
続いて、中間励起媒体であるチタニア粒子88aの支持体86への固定を、以下の手順で行う。
先ず、チタニア粒子の分散水溶液0.1wt%を調整する。そして、この分散水溶液中に、前述したナノピペットプローブ86の一端を浸し、他端から真空ポンプによって分散水溶液を吸引する。これにより、ナノピペットプローブ86の先端にチタニア粒子が物理吸着によって1粒子だけ固定された、プローブ(光励起電子移動プローブとも称する。)85が得られる。尚、この構成例のプローブ85は、プローブ本体としての支持体86の先端に中間励起媒体であるチタニア粒子88aを1粒子固定させたが、複数個の粒子を支持体86に固定しても良い。また、中間励起媒体88aを支持体86に固定させる方法は上述に限定されず、任意好適な方法を用いることができる。
続いて、この分子結合装置200を用いた分子結合方法について、第6図(A)、(B)及び(C)を参照して説明する。
この実施の形態では、支持体86に固定された中間励起媒体88aによる光増感反応を利用する。具体的には、光増感反応のうち、励起された中間励起媒体と後述する第1の分子との間の電子移動(或いは、光励起電子移動とも称する。)によって結合反応が起こる例につき説明する。尚、光触媒を用いた光触媒反応の一つである光励起電子移動に関する詳細ついては、″Solar light induced carbon−carbon bond formation via TiO photocatalysis″,Laura Cermenati,Christoph Richter and Angelo Albini,Chem.Commun.,805−806(1998)に記載されている。
先ず、固定部材(支持部材とも称する。)である基板24上に、下記(23)式で示されるシランカップリング剤である3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製 信越シリコーン)90を固定する。

具体的には、先ず、酢酸水溶液(濃度0.05wt%〜0.1wt%)をよく撹拌しながら、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを濃度0.2wt%となるまでゆっくり滴下した。滴下終了後、さらに60分間撹拌を行った後、孔径0.45μmのフィルターカートリッジで濾過した。
こうして得られた濾液を、基板24上に、ディップコート法によって塗布した後、110℃の温度で5分間乾燥させることにより、基板24上に3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを固定することができる。3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン90は、光励起電子移動によって励起される後述する結合性残基を有する第1の分子92aの被結合対象物である、結合性残基を有する第2の分子90となる。この第1の分子92aは、後の結合反応によって基板24に固定されることから被固定分子と称する場合もある。また、第2の分子90は、予め基板24に固定されていることから固定分子と称する場合もある。
その後、第2の分子90を具える基板24を、スキャナ(図5(A)参照)に設置して、基板24上の第2の分子90とプローブ85のチタニア粒子88aとを所定間隔で対向配置させる(第6図(A))。中間励起媒体であるチタニア粒子88aに外部エネルギーを供給していないこの段階では、光励起電子移動は発生しない。
その後、チタニア粒子88aと基板24との間に、ラジカル生成基を有する第1の分子として、下記(24)式で示される4−メトキシベンジルトリメチルシランを適量供給する。ここでは、例えば、4−メトキシベンジルトリメチルシラン0.2gを40mlのアセトニトリル(CHCN)に溶かした溶液を供給する。

その後、第2の実施の形態と同様の方法で、第2の水銀キセノンランプ16から、チタニア粒子88aに外部エネルギーとなる励起光を供給(すなわち、照射)する。ここでは、通過可能波長域365nm及び半値幅50nmのバンドパスフィルタ51を通過させた水銀キセノンランプ16からの照射光を、2mW/cmの照射強度でパルス的、すなわち断続的に照射する。このときの照射光強度は、最小でも、1つの中間励起媒体18aに対し1個のフォトンが当たって励起されるような強度とすれば良く、装置構成や材料等によって任意好適に設定できる。
外部エネルギーが照射されると、支持体86に固定されているチタニア粒子88aは励起して、励起状態(或いは、活性状態ともいう。)のチタニア粒子88bとなる。
その結果、チタニア粒子88bとこのチタニア粒子88bの周辺にある第1の分子92aとの間で光励起電子移動(ここでは、第1の分子92aから励起状態のチタニア粒子88bへの電子供与の場合について説明するが、逆に、励起状態のチタニア粒子88bから第1の分子92aへの電子供与の場合もある。)が起こる。すなわち、チタニア粒子88bと、当該チタニア粒子88bへ電子の移動が可能な範囲内にある第1の分子92aとの間で、光励起電子移動が起こる。この電子移動により、第1の分子92aは、酸化されて励起状態であるラジカルイオン92bとなる(第6図(B))。尚、ラジカルの生成は、チタニア粒子88aの1回の励起につき1個生成される。
その結果、ラジカルイオンとなった第1の分子92bと、当該ラジカルイオン92bの周辺にある所定の被結合対象物である第2の分子90とがラジカル反応によって結合して結合体94を生成する(第6図(C))。この結合体94は、第1の分子92aとして機能する骨格をもつ分子構造体であることから、この結合によって、第1の分子92aを、基板24上の所定位置に実質的に固定することができる。この構成例では、チタニア粒子88aの1回の励起につき、第1の分子92aの1分子を所定位置に固定することができる。
その後、第2の実施の形態と同様にして、プローブ25を基板24上面の他の位置に移動させて上述と同様の方法を繰り返し行い、基板24上に第1の分子の1分子を順次配置、すなわち固定することができる。尚、このとき固定する第1の分子としては、目的や設計に応じて種々の機能性分子を用いることができる。
その後、第2の実施の形態と同様の方法により、結合体94のみを、基板24上に残存させる。こうして、励起光照射に対応して形成された結合体94を、分子結合装置200が具えるAFM機能によって確認することができる。
上述した説明から明らかなように、この実施の形態によれば、支持体に固定された中間励起媒体を励起させることにより発生する電子移動を利用して、被固定分子を所定位置に配置することができる。
その結果、この実施の形態では、励起状態が安定である中間励起媒体を1回励起させることにより、中間励起媒体から生ずる物理的作用に基づいて、被固定分子1分子を所定位置に高精度で固定することができる。すなわち、この構成例によれば、1分子単位の分解能で分子を配置することが可能である。
したがって、例えば、第1の分子を機能性分子として、当該機能性分子を基板上の所望位置に配置することにより、オプトエレクトロニクス素子等の分子デバイスを作製することができる。
尚、この実施の形態のように、半導体を用いた中間励起媒体88aによる酸化によってラジカルイオン92bを生成する場合には、中間励起媒体88aとして、励起状態の中間励起媒体88bの価電子帯電位がラジカルイオン生成基の酸化電位より高いものを用いれば良い。よって、これら組み合わせは、目的や設計に応じて任意好適に選択することができる。さらに、必要に応じて、第1の分子を供給する際に、光励起によって伝導帯に励起された電子を受け取るアクセプターを、当該第1の分子と併せて供給しても良い。この場合のアクセプターとしては、当該アクセプターの還元電位が中間励起媒体の伝導帯電位よりも低いものであれば良く、中間励起媒体がチタニアの場合には、一例として、マレイン酸を用いることができる。さらに、この実施の形態では、被結合対象物を第2の分子としたが、分子以外の基板等の物体を被結合対象物としても良い。また、ラジカルイオンとなる分子を固定分子とし、被結合対象物を被固定分子とした構成としても良い。
また、中間励起媒体88aとしては、半導体だけでなく光増感分子を用いることもできる。光増感分子を用いた光励起電子移動の場合には、光増感分子の励起状態での還元電位がラジカル生成基の酸化電位よりも高いものを選べば良い。よって、これら組み合わせは、目的や設計に応じて任意好適に選択可能であるが、例えば、光増感分子として1、4−ナフタレンジカルボニトリルを用い、トルエンを第1の分子として配置することができる。また、この場合のアクセプターとしては、アクセプターの還元電位が光増感分子の基底状態の還元電位よりも高い物であれば良い。尚、詳細については、文献1:″Radical addition to alkenesvia electron transfer photosensitization.″M.Fagnoni,M.Mella,and A.Albini,J.Am.Chem.Soc.117,7877(1995)、及び文献2:″Electron−transfer−photosensitized conjugate alkylation.″M.Fagnoni,M.Mella,and A.Albini,J.Org.Chem.63,4026(1998)に記載されている。
以上、この発明は、上述した実施の形態の組み合せのみに限定されない。よって、任意好適な段階において好適な条件を組み合わせ、この発明を適用することができる。
例えば、上述した第1及び第2の実施の形態では光励起エネルギー移動を利用したが、光励起電子移動を利用した構成であっても良い。一方、上述した第3の実施の形態では光励起電子移動を利用したが、光励起エネルギー移動を利用した構成であっても良い。
また、上述した各実施の形態では、中間励起媒体に対する外部エネルギーを光の照射としたが電子やイオン等の照射であっても良く、目的や設計に応じて任意好適に選択することができる。
また、上述した各実施の形態では、固定部材、すなわち基板としてサファイヤ基板を用いる例を説明したが、例えば、シリコン基板、金基板等を用いても良く、これらを用いた場合でも1分子単位の分解能を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
上述した説明から明らかなように、この発明によれば、支持体に固定された中間励起媒体を励起させることにより、励起された中間励起媒体の周辺にある結合性残基を有する第1の分子と、当該第1の分子と結合されるべき被結合対象物とを、選択的に結合させることができる。
その結果、第1の分子と被結合対象物との結合を、中間励起媒体の安定した励起状態を介して行うことができるうえに、中間励起媒体に基づいて1分子単位の分解能を制御性良く得ることができる。
従って、1分子単位の分解能で分子を配置或いは分子同士を結合可能とする、この発明の分子結合装置及び分子結合方法は、半導体デバイスや分子デバイス等の製造に用いて好適である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に固定されている中間励起媒体に対し外部エネルギーを供給して、前記中間励起媒体を励起させることにより、励起された前記中間励起媒体の周辺にある結合性残基を有する第1の分子と該第1の分子と結合されるべき被結合対象物とを結合させることを特徴とする分子結合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の分子結合方法において、前記結合を、前記第1の分子及び前記被結合対象物の双方またはいずれか一方を、固定部材に固定しておいて行うことを特徴とする分子結合方法。
【請求項3】
請求項2に記載の分子結合方法において、前記結合を、前記固定部材に対して前記支持体を、前記結合が実現できる程度の精度で位置決めして行うことを特徴とする分子結合方法。
【請求項4】
請求項3に記載の分子結合方法において、前記結合を、前記精度を1nm以下で行うことを特徴とする分子結合方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の分子結合方法において、前記結合は、励起された前記中間励起媒体から前記第1の分子へ移動する結合用エネルギーによって行われることを特徴とする分子結合方法。
【請求項6】
請求項5に記載の分子結合方法において、前記中間励起媒体から前記第1の分子への結合用エネルギーの移動を、励起三重項エネルギー移動により行うことを特徴とする分子結合方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載の分子結合方法において、前記結合は、励起された前記中間励起媒体と前記第1の分子との間の電子の移動に起因して行われることを特徴とする分子結合方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の分子結合方法において、前記外部エネルギーの供給は、光、電子又はイオンを、前記中間励起媒体に供給して行うことを特徴とする分子結合方法。
【請求項9】
請求項8に記載の分子結合方法において、前記中間励起媒体が光増感分子である場合には、前記外部エネルギーを、前記光の照射によって供給することを特徴とする分子結合方法。
【請求項10】
請求項9に記載の分子結合方法において、前記光増感分子として、N−アセチル−4−ニトロ−1−ナフチルアミン誘導体を用いることを特徴とする分子結合方法。
【請求項11】
請求項7に記載の分子結合方法において、前記中間励起媒体が光触媒である場合には、前記外部エネルギーを前記光の照射によって供給することを特徴とする分子結合方法。
【請求項12】
請求項11に記載の分子結合方法において、前記光触媒として、二酸化チタンを用いることを特徴とする分子結合方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の分子結合方法において、前記被結合対象物として、結合性残基を有する第2の分子を用いることを特徴とする分子結合方法。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか一項に記載の分子結合方法において、前記被結合対象物として、分子以外の物体を用いることを特徴とする分子結合方法。
【請求項15】
支持体と、
該支持体に固定されている中間励起媒体と、
該中間励起媒体を励起させることにより、該励起された中間励起媒体の周辺にある結合性残基を有する第1の分子と該第1の分子と結合されるべき被結合対象物とを結合させるための外部エネルギーを、前記中間励起媒体に供給する外部エネルギー供給源と
を具えていることを特徴とする分子結合装置。
【請求項16】
請求項15に記載の分子結合装置において、前記第1の分子及び前記被結合対象物の双方またはいずれか一方は、固定部材に固定されていることを特徴とする分子結合装置。
【請求項17】
請求項16に記載の分子結合装置において、前記支持体は、前記固定部材に対し、前記結合が実現できる程度の精度で位置決めされていることを特徴とする分子結合装置。
【請求項18】
請求項17に記載の分子結合装置において、前記精度は、1nm以下であることを特徴とする分子結合装置。
【請求項19】
請求項15から18のいずれか一項に記載の分子結合装置において、前記励起された中間励起媒体は、該励起された中間励起媒体から前記第1の分子へ移動して前記結合を行わせる、結合用エネルギーを発生することを特徴とする分子結合装置。
【請求項20】
請求項15から18のいずれか一項に記載の分子結合装置において、前記励起された中間励起媒体は、該励起された中間励起媒体と前記第1の分子との間で電子移動を行い、前記結合を行わせることを特徴とする分子結合装置。
【請求項21】
請求項15から20のいずれか一項に記載の分子結合装置において、前記外部エネルギーは、光、電子又はイオンであることを特徴とする分子結合装置。
【請求項22】
請求項21に記載の分子結合装置において、前記中間励起媒体が光増感分子である場合に、前記外部エネルギーは前記光であることを特徴とする分子結合装置。
【請求項23】
請求項22に記載の分子結合装置において、前記光増感分子は、N−アセチル−4−ニトロ−1−ナフチルアミン誘導体であることを特徴とする分子結合装置。
【請求項24】
請求項21に記載の分子結合装置において、前記中間励起媒体が光触媒である場合に、前記外部エネルギーは前記光であることを特徴とする分子結合装置。
【請求項25】
請求項24に記載の分子結合装置において、前記光触媒は、二酸化チタンであることを特徴とする分子結合装置。
【請求項26】
請求項15から25のいずれか一項に記載の分子結合装置において、前記被結合対象物は、結合性残基を有する第2の分子であることを特徴とする分子結合装置。
【請求項27】
請求項15から25のいずれか一項に記載の分子結合装置において、前記被結合対象物は、分子以外の物体であることを特徴とする分子結合装置。
【請求項28】
請求項15から27のいずれか一項に記載の分子結合装置において、前記中間励起媒体は、前記支持体に化学結合によって固定されていることを特徴とする分子結合装置。
【請求項29】
請求項15から28のいずれか一項に記載の分子結合装置において、前記結合性残基は、不飽和二重結合又は不飽和三重結合を有する脂肪族系残基であることを特徴とする分子結合装置。
【請求項30】
請求項15から28のいずれか一項に記載の分子結合装置において、前記結合性残基は、不飽和二重結合又は不飽和三重結合を有する芳香族系残基であることを特徴とする分子結合装置。
【請求項31】
請求項30に記載の分子結合装置において、前記不飽和二重結合を有する芳香族系残基が桂皮酸基である場合に、前記中間励起媒体は、N−[3−{3,5−ビス{3,5−ビス[3,5−ビス(4−メルカプトベンジルチオ)ベンジルチオ]ベンジルチオ}ベンジルオキシ}−プロピオニール−4−ニトロ−1−ナフチルアミンであることを特徴とする分子結合装置。

【国際公開番号】WO2004/096698
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505876(P2005−505876)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005877
【国際出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】