説明

分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンの製造方法

【課題】分子量及び粘度の制御が容易で、安定的に所望の低分子量及び低粘度を有する分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンの製造方法を提供する。
【解決手段】シラノール基末端オルガノシラン又はオルガノポリシロキサンを有機溶剤中、開環重合時に非特異的な縮合反応が起らないアルキルリチウム触媒又はリチウムシラノレート触媒と重合促進剤の存在下に、トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンをリビング重合により共重合させて分子鎖末端シラノール基(又はそのリチウム塩)封鎖の共重合体を調製後、該触媒に対して弱酸による中和処理を行い、有機溶剤を留去後に、トリオルガノシリルトリフラート又は強酸とヘキサオルガノジシラザンにより分子鎖末端シラノール基のトリオルガノシロキシ基による封鎖を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主鎖が基本的に(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルシロキサン単位の繰り返しからなり、末端がトリオルガノシロキシ基によって封鎖された、分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロシリコーンポリマーは、精密機械用潤滑油のほか、作動油、消泡剤、離型剤、フッ素ゴム用可塑剤、液状フルオロシリコーンゴム組成物の主剤など広く利用されている。
【0003】
近年、オルガノシロキシ末端停止ジオルガノポリシロキサンを用いた液状フルオロシリコーンゴム組成物が開発され、ミラブルタイプと同等の耐燃料性、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性を持ち、ミラブルタイプでは難しいとされる小型、高精度の成型及び薄膜コーティングなどへ対応できることから、自動車、航空機等の輸送機部品や石油関連機部品としての用途に使用し得る。
【0004】
各種用途に求められる成型条件及びゴム物性を満たすため、精度の高いフロロシリコーンオイルの重合方法が必要とされる。
【0005】
従来、オルガノシロキシ末端停止ジオルガノポリシロキサンとしては、トリオルガノシラノールを末端源とし、有機ナトリウム化合物のシロキサンオリゴマーを重合触媒としてトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンを開環重合し、ヘキサオルガノジシラザンにより封鎖する特許(特許文献1:米国特許出願公開第2008/0090985号明細書)、線状窒化塩化リン触媒存在下、ヘキサオルガノジシロキサンを反応させ末端封鎖する特許(特許文献2:米国特許第6492479号明細書、特許文献3:特開2000−256464号公報、特許文献4:英国特許第2345292号明細書)がある。しかしながらこれらの特許は下記問題を有する。
【0006】
(1)有機ナトリウム化合物を触媒としているために、トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンの開環重合中に、ポリシロキサン末端シラノールによる縮合反応が生じ、低重合度の分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンの製造は困難である。
【0007】
(2)末端源であるトリオルガノシラノールは、熱時における安定性が低く容易に脱水縮合を起こしヘキサオルガノジシロキサンになるので、低重合度の分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンの製造は困難である。
【0008】
(3)トリフルオロプロピル基を持つ分子末端シラノールの活性が低いことからヘキサオルガノジシラザン単独では、末端がオルガノシリル基で完全に封鎖されているとは言い難い。
【0009】
(4)ヘキサオルガノジシロキサンを線状窒化塩化リン触媒と反応させた場合、触媒活性が高いことから、分子末端シラノールはオルガノシリル基で十分に封鎖されるが、線状窒化塩化リン分解残渣である窒化物、リン化合物が残留すると、液状ゴム組成物に用いた際の加硫阻害剤となる。高重合度(高粘度)オイルから線状窒化塩化リン分解残渣の減圧除去は困難であり、特殊な装置により除去を行う必要がある。また、ヘキサオルガノジシロキサンを末端源とし、トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンを線状窒化塩化リンにより合成する方法(特許文献5:特開2000−248066号公報)も同様の問題を有する。そのため、粘度及び鎖長が抑制され、末端停止精度に優れるオルガノシリル基末端停止フルオロシリコーンポリマーを製造することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0090985号明細書
【特許文献2】米国特許第6492479号明細書
【特許文献3】特開2000−256464号公報
【特許文献4】英国特許第2345292号明細書
【特許文献5】特開2000−248066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、主鎖が基本的に(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルシロキサン単位の繰り返しからなり、末端がトリオルガノシロキシ基によって封鎖された、特に、分子量(即ち、重合度)及び粘度の制御が容易で、安定的に所望の低分子量(低重合度)及び低粘度を有する分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、シラノール基末端オルガノシラン又はオルガノポリシロキサンを有機溶剤中、開環重合時に非特異的な縮合反応が起らないアルキルリチウム触媒又はリチウムシラノレート触媒と、重合促進剤の存在下に、トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンをリビング重合により共重合させて分子鎖末端シラノール基(又はそのリチウム塩)封鎖の共重合体を調製後、該触媒に対して弱酸による中和処理を行い、有機溶剤を留去後に、トリオルガノシリルトリフラート又は強酸とヘキサオルガノジシラザンにより分子鎖末端シラノール基のトリオルガノシロキシ基による封鎖を行うことで、従来法で製造されたフルオロシリコーンポリマーに比べ、加硫特性に優れた低鎖長(低重合度)のフルオロシリコーンポリマーとなり得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
従って、本発明は、下記に示す分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンの製造方法を提供する。
〔請求項1〕
下記一般式(1)
【化1】


で示される環状三量体のトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンと、下記一般式(2)
【化2】


(式中、pは0<p≦100の整数である。)
で示されるオルガノシラン又はオルガノポリシロキサンを有機溶剤中、アルキルリチウム触媒又はリチウムシラノレート触媒と重合促進剤の存在下に共重合させて分子鎖末端シラノール基(又はそのリチウム塩)封鎖の共重合体を調製し、そこに弱酸を添加して該触媒に対する中和処理を行い、次いで有機溶剤を留去後に、トリオルガノシリルトリフラート又は強酸とヘキサオルガノジシラザンを添加して、分子鎖末端のシラノール基をトリオルガノシロキシ基で封鎖し、加熱減圧により加硫阻害物質を取り除くことによって、下記一般式(3)
【化3】


(式中、R1は炭素数1〜8の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R2〜R6は炭素数1〜8の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基であり、mは0≦m≦100の整数、nは1≦n≦500の整数である。)
で示されるオルガノポリシロキサンを得ることを特徴とする分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンの製造方法。
〔請求項2〕
弱酸が、酢酸、トリフロロ酢酸及びトリストリメチルシリルホスフェートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
〔請求項3〕
有機溶剤が、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル及び酢酸エチルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
〔請求項4〕
重合促進剤が、テトラヒドロフラン、ジグライム、テトラグライム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びジメチルアセトアミドから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1,2又は3記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
〔請求項5〕
リチウムシラノレート触媒として、下記一般式(4)
【化4】


(式中、qは0<q≦100の整数である。)
で示されるリチウムシラノレート触媒及び/又は下記一般式(5)
【化5】


(式中、R2,R3,R6は炭素数1〜8の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基であり、rは0<r≦100の整数である。)
で示される有機リチウム化合物のシロキサンオリゴマーを使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
〔請求項6〕
ヘキサオルガノジシラザンが、ヘキサメチルジシラザン及び1,3−ジビニルテトラメチルジシラザンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
〔請求項7〕
トリオルガノシリルトリフラートが、トリメチルシリルトリフラート及びジメチルビニルシリルトリフラートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
〔請求項8〕
強酸が、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、濃硫酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体及び線状塩化窒化リンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
〔請求項9〕
トリオルガノシリルトリフラートがジメチルビニルシリルトリフラートであり、ヘキサオルガノジシラザンが1,3−ジビニルテトラメチルジシラザンであり、一般式(3)で示されるオルガノポリシロキサンが下記一般式(6)
【化6】


(式中、R2〜R6は炭素数1〜8の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基であり、mは0≦m≦100の整数、nは1≦n≦500の整数である。)
で示されるものである請求項1〜8のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
〔請求項10〕
加硫阻害物質を150℃以上の高温、減圧下で除去する請求項1〜9のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法により製造された、主鎖が基本的に(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルシロキサン単位の繰り返しからなり、末端がトリオルガノシロキシ基によって封鎖された、分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンは、シラノール基末端オルガノポリシロキサンを有機溶剤中、開環反応時に非特異的な縮合反応が起こらないアルキルリチウム触媒又はリチウムシラノレート触媒及び重合促進剤を用いることで、分子量(即ち、重合度)及び粘度の制御が容易になり、アルキルリチウム触媒又はリチウムシラノレート触媒を弱酸により中和し、有機溶剤を除去した後、ヘキサオルガノジシラザンにトリオルガノシリルトリフラート又は強酸を触媒として働かせることで、分子鎖末端シラノール基を効率よくトリオルガノシロキシ基で封鎖することができる。更に、反応残渣が少ないため、加熱減圧により容易に加硫阻害物質を取り除くことができることから、加硫特性に優れた低分子量(低重合度)の分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンを安定的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明で得られるオルガノポリシロキサンは、下記一般式(3)で示される分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖されたオルガノポリシロキサンである。
【化7】


(式中、R1は炭素数1〜8の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R2〜R6は炭素数1〜8の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基であり、mは0≦m≦100の整数、nは1≦n≦500の整数である。)
【0016】
ここで、R1は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基等で置換したクロロメチル基、クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基等の、炭素数1〜8の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜6の脂肪族不飽和基であり、より好ましくはビニル基である。
【0017】
2〜R6は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基等で置換したクロロメチル基、クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基等の、炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜6の、脂肪族不飽和基を除く非置換又は置換の一価炭化水素基である。R2〜R5としては、メチル基であることが好ましく、R6としては、メチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基であることが好ましい。
【0018】
また、mは、0≦m≦100の整数であり、好ましくは0≦m≦50の整数、より好ましくは0≦m≦30の整数、更に好ましくは0≦m≦20の整数、最も好ましくは0≦m≦10の整数であり、nは、1≦n≦500の整数であり、好ましくは5≦n≦400の整数、より好ましくは10≦n≦350の整数、更に好ましくは10≦n≦300の整数、最も好ましくは30≦n≦300の整数である。(m+n)は、好ましくは5≦m+n≦550の整数、より好ましくは10≦m+n≦450の整数、更に好ましくは20≦m+n≦350の整数、最も好ましくは30≦m+n≦330の整数である。
【0019】
上記式(3)で示されるオルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)
【化8】


で示される環状三量体のトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンと、下記一般式(2)
【化9】


(式中、pは0<p≦100の整数である。)
で示されるオルガノシラン又はオルガノポリシロキサンを有機溶剤中、アルキルリチウム触媒又はリチウムシラノレート触媒と重合促進剤の存在下に共重合させて分子鎖末端シラノール基(又はそのリチウム塩)封鎖の共重合体を調製する。即ち、リビング重合することによってトリフルオロプロピルメチルポリシロキサンの鎖長延長を行う。
【0020】
上記式(2)中、pは0<p≦100の整数であり、好ましくは1≦p≦70の整数、より好ましくは2≦p≦50の整数である。
【0021】
上記重合において、上記式(1)で示される環状三量体のトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンと、上記式(2)で示されるオルガノシラン又はオルガノポリシロキサンとの割合は、上記式(1)で示されるトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン1モルに対して上記式(2)で示されるオルガノシラン又はオルガノポリシロキサンを、通常0.0001〜1モル、好ましくは0.005〜1モル程度とすることができる。
【0022】
本発明においては、有機溶剤中で共重合させる。本発明における有機溶剤は、重合反応に影響を与えることなく、上記式(1)で示される環状三量体のトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン、及び上記式(2)で示されるオルガノシラン又はオルガノポリシロキサンを溶解させるために用いられる。
有機溶剤としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、4−メチル−2−ペンタノン(メチルイソブチルケトン)などを用いることができるが、溶媒和による重合触媒の反応性並びに分散制御が容易なエーテル系有機溶剤であるテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンがより好ましい。
なお、上記例示の有機溶剤のうち、テトラヒドロフランは、後述する重合促進剤としても作用するものである。
【0023】
有機溶剤の添加量は、使用する環状三量体のトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンの量に対し、0.001〜1,000質量%、特に0.005〜800質量%が適当である。有機溶剤が少なすぎると重合触媒の分散が不十分となり、過度に高分子量化(高重合度化)及び高粘度化する場合があり、多すぎると過分散となってしまうため、重合反応性が低下してしまう場合がある。
【0024】
本発明においては、重合促進剤の存在下で共重合させる。本発明における重合促進剤は、上記式(1)で示される環状三量体のトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンと上記式(2)で示されるオルガノシラン又はオルガノポリシロキサンの開環重合を促進させるために用いられる。
重合促進剤としては、テトラヒドロフラン、ジグライム(即ち、ビス(2−メトキシエチル)エーテル)、テトラグライム(即ち、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、又はジメチルアセトアミドなどを用いることができるが、上記式(1)で示される環状三量体のトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンと相溶性が高く、低分子シロキサン留去時に同時に除去できるため、ジグライムがより好ましい。
なお、上述したように、テトラヒドロフランは、重合促進剤としても溶剤としても作用するものであるため、有機溶剤としてテトラヒドロフランを使用する場合には、これとは別個に重合促進剤を添加する必要はない。
【0025】
重合促進剤の添加量は、使用する環状三量体のトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンの量に対し、0.0001〜50質量%、特に0.0005〜30質量%が適当である。重合促進剤が少なすぎると重合反応性が著しく低下し、定量的に重合が進行しない場合があり、多すぎると重合触媒の分散が阻害され、過度に高分子量化(高重合度化)及び高粘度化する場合がある。
なお、テトラヒドロフランを使用する場合にはこの限りではなく、前記した有機溶剤としての添加量の好適範囲内で適用することができる。
【0026】
アルキルリチウム触媒又はリチウムシラノレート触媒において、リチウムシラノレート触媒としては、下記一般式(4)
【化10】


(式中、qは0<q≦100の整数である。)
で示される、ジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる主鎖骨格(分子鎖)の両末端がリチウムイオンで封鎖された、2官能性のリチウムシラノレート触媒、あるいは下記一般式(5)
【化11】


(式中、R2,R3,R6は炭素数1〜8の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基であり、rは0<r≦100の整数である。)
で示される有機リチウム化合物のシロキサンオリゴマー(即ち、分子鎖の片末端がリチウムイオンで封鎖されている、単官能性のリチウムシラレート触媒)であることが好ましい。
【0027】
ここで、上記式(4)中のqは、0<q≦100の整数であり、好ましくは1≦q≦100の整数、より好ましくは1≦q≦70の整数、更に好ましくは2≦q≦50の整数である。
【0028】
上記式(5)中のR2,R3,R6は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基等で置換したクロロメチル基、クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基等の、炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜6の、脂肪族不飽和基を除く非置換又は置換の一価炭化水素基である。R2,R3としては、メチル基であることが好ましく、R6としては、メチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基であることが好ましい。
また、rは、値が増加にするにつれて、ポリマーの耐燃料性、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性の低下につながることから、0<r≦100の整数であり、好ましくは0<r≦50の整数、より好ましくは0<r≦20の整数、更に好ましくは1≦r≦10の整数である。
【0029】
また、アルキルリチウム触媒におけるアルキル基としては、炭素数1〜6、特には炭素数1〜4程度の低級アルキル基であることが好ましく、アルキルリチウム触媒としては、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム等が挙げられる。
【0030】
アルキルリチウム触媒又はリチウムシラノレート触媒の添加量としては、いわゆる触媒量とすればよく、特に制限されるものではないが、環状三量体のトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン1モルに対して、通常、0.0001〜0.005モル、好ましくは0.0002〜0.002モル程度とすることができる。
【0031】
リビング重合条件としては、高温での重合は有機溶剤が揮発してしまうので加熱は好ましくなく、例えば、室温(25±10℃)条件下、10分〜12時間程度の反応時間で行うことができる。
【0032】
リビング重合によって得られた分子鎖末端がシラノール基(又はそのリチウム塩)で封鎖されたトリフルオロプロピルメチルポリシロキサンを、該アルキルリチウム触媒又は該リチウムシラノレート触媒に対し弱酸で中和処理し、末端を不活性化させてから有機溶剤を除去することが好ましい。
【0033】
上記中和を行う際に用いられる弱酸は、低分子シロキサン留去時に同時に除去できるものが好ましい。このような弱酸としては、酢酸、トリフロロ酢酸、トリストリメチルシリルホスフェート等を用いることができるが、有機溶剤の除去、並びに低分子シロキサン留去時に同時に除去できることから酢酸が好ましい。
【0034】
弱酸の添加量は、該アルキルリチウム触媒又は該リチウムシラノレート触媒に対して過剰量であれば特に制限はないが、具体的には、該アルキルリチウム触媒又はリチウムシラノレート触媒1モルに対して約1.0〜50モル、好ましくは1.1〜20モル程度で添加することができる。
【0035】
上記中和を行う際の反応条件は、例えば室温(25±10℃)条件下、10分〜24時間、好ましくは30分〜12時間、より好ましくは1〜6時間程度反応させることによって該アルキルリチウム触媒又は該リチウムシラノレート触媒を不活性化することができる。
【0036】
本発明において、上記ポリシロキサンの中和を行った後、加熱減圧により有機溶剤を取り除くのが好ましい。高温減圧ストリップについては有機溶剤が留去できればよく、真空に引いて適度加熱を行う。別法として減圧、加熱条件下、窒素パージ、その他これに相当する手段を用いてもよい。減圧度は500mmHg以下(即ち、0〜500mmHg)、特に300mmHg以下(0〜300mmHg)とすることが好ましい。また、加熱条件としては、50〜200℃、特に80〜180℃とすることが好ましい。
【0037】
加熱減圧後に得られた分子鎖末端がシラノール基(又はそのリチウム塩)で封鎖されたトリフルオロプロピルメチルポリシロキサンを、触媒量のトリオルガノシリルトリフラート又は強酸と、ヘキサオルガノジシラザンとにより、分子鎖末端シラノール基(又はそのリチウム塩)のトリオルガノシロキシ基による封鎖を行うことで、ポリシロキサンの末端が効率よく安定的にトリオルガノシロキシ基で封鎖された、分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンが得られる。
【0038】
トリオルガノシリルトリフラートは、通常、公知のものを使用することができ、特に制限されるものではないが、トリメチルシリルトリフラート、ジメチルビニルシリルトリフラート等が好適に使用できる。
【0039】
トリオルガノシリルトリフラートを使用する場合の添加量は、いわゆる触媒量とすればよく、特に制限されるものではないが、環状三量体のトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン1モルに対して、通常、0.0001〜0.006モル、好ましくは0.0002〜0.004モル程度とすることができる。
【0040】
また、強酸としては、通常、公知のものを使用することができ、特に制限されるものではないが、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、濃硫酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、線状塩化窒化リン等が例示され、酸性度の高さからトリフルオロメタンスルホン酸が好ましい。例えばトリフルオロメタンスルホン酸使用時には、ヘキサオルガノジシラザンの活性化後、活性化過程で生成するトリオルガノシリルトリフラートに代表される活性中間体がシリル化剤として働くと考えられる。トリフラートの脱離基としての反応性からもトリフルオロメタンスルホン酸の使用が好ましい。
【0041】
強酸を使用する場合の添加量は、いわゆる触媒量とすればよく、特に制限されるものではないが、環状三量体のトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン1モルに対して、通常、0.0001〜0.006モル、好ましくは0.0002〜0.004モル程度とすることができる。
【0042】
ヘキサオルガノジシラザンとしては、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニルテトラメチルジシラザン、1,3−ジメチルテトラビニルジシラザン、ヘキサビニルジシラザン等が例示される。好ましくはヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニルテトラメチルジシラザンである。
【0043】
ヘキサオルガノジシラザンの使用量としては、前記トリフルオロプロピルメチルポリシロキサンポリマーの分子鎖末端に存在するシラノール基(即ち、ケイ素原子に結合した水酸基)1モルに対して、約1〜50モル量、好ましくは約1〜20モル量程度で添加することができる。
【0044】
上記末端封鎖を行う際の反応条件は、加熱下(例えば、60〜150℃、好ましくは80〜120℃程度)において、10分〜24時間、好ましくは30分〜12時間、より好ましくは1〜6時間程度反応させることによって、ヘキサオルガノジシラザンを活性化することで、末端シラノール基がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、上記式(3)で示される分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンを得ることができる。
【0045】
本発明においては、上記ポリシロキサンの末端封鎖を行った後、加熱減圧により加硫阻害物質(アンモニウム塩などの中和副生物)を取り除く。
分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンの揮発分は、一般に1質量%未満であることが望ましく、高温減圧ストリップにより揮発分を除去し得る。高温減圧ストリップについては特段の制限はないが、得られた分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンを真空に引いて、150℃以上の温度に加熱することによって達成し得る。別法として減圧、加熱条件下、窒素パージ、その他これに相当する手段を用いてもよい。好ましくは温度は150〜200℃、特に160〜200℃、減圧度は500mmHg以下(即ち、0〜500mmHg)、特に300mmHg以下(0〜300mmHg)とすることが好ましい。
【0046】
本発明においては、トリオルガノシリルトリフラートが、ジメチルビニルシリルトリフラートであり、ヘキサオルガノジシラザンが、1,3−ジビニルテトラメチルジシラザンであり、これにより得られるオルガノポリシロキサンが、下記一般式(6)
【化12】


(式中、R2〜R6、m、nは上記と同じ。)
で示される分子鎖両末端にビニル基を有するオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0048】
[実施例1]
フルオロシリコーンポリマー(I)の合成
5Lのセパラブルフラスコに、トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン2,686.3g(5.74モル)及び下記平均分子式(7)
【化13】


で示される分子鎖両末端がシラノール基で封鎖されたオルガノポリシロキサン487.4g(0.17モル)、1,4−ジオキサン317.4gを加え、室温、窒素ガス雰囲気下で撹拌し、下記式(8)
【化14】


で示される有機リチウム化合物のシロキサンオリゴマー1.7g(0.003モル)、ジグライム1.6g(0.01モル)を撹拌しながら添加し、室温で6時間重合反応を行った。酢酸0.2g(0.004モル)を加え、室温で1時間中和反応を行い、加熱減圧にて1,4−ジオキサン、酢酸を留去させてオルガノポリシロキサンを得た。100℃まで加熱した後、該オルガノポリシロキサンにトリフルオロメタンスルホン酸0.9g(0.006モル)と1,3−ジビニルテトラメチルジシラザン151.7g(0.82モル)を添加し、100℃で3時間撹拌して、シロキサンポリマー末端をジメチルビニルシロキシ基で封鎖して160℃で窒素パージを行い、8,000Paで3時間減圧ストリップを行うことで、フルオロシリコーンポリマー(I)を3,187.9g得た。1H−NMR、29Si−NMR測定を行ったところ、下記平均分子式(9)、(10)の混合物であることが確認された。
【0049】
【化15】

【0050】
[実施例2]
フルオロシリコーンポリマー(II)の合成
1Lのセパラブルフラスコに、トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン537.3g(1.15モル)及び上記平均分子式(7)で示される分子鎖両末端がシラノール基で封鎖されたオルガノポリシロキサン97.5g(0.03モル)、テトラヒドロフラン63.5gを加え、室温、窒素ガス雰囲気下で撹拌し、上記式(8)で示される有機リチウム化合物のシロキサンオリゴマー0.4g(0.0006モル)を撹拌しながら添加し、室温で6時間重合反応を行った。酢酸0.05g(0.001モル)を加え、室温で1時間中和反応を行い、加熱減圧にてテトラヒドロフラン、酢酸を留去させてオルガノポリシロキサンを得た。100℃まで加熱した後、該オルガノポリシロキサンにトリフルオロメタンスルホン酸0.2g(0.001モル)と1,3−ジビニルテトラメチルジシラザン30.5g(0.16モル)を添加し、100℃で3時間撹拌して、シロキサンポリマー末端をジメチルビニルシロキシ基で封鎖して160℃で窒素パージを行い、8,000Paで3時間減圧ストリップを行うことで、フルオロシリコーンポリマー(II)を610.6g得た。1H−NMR、29Si−NMR測定を行ったところ、下記平均分子式(11)、(12)の混合物であることが確認された。
【0051】
【化16】

【0052】
[比較例1]
フルオロシリコーンポリマー(III)の合成
1Lのセパラブルフラスコに、トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン537.3g(1.15モル)及び上記平均分子式(7)で示される分子鎖両末端がシラノール基で封鎖されたオルガノポリシロキサン97.2g(0.03モル)、1,4−ジオキサン54.4gを加え、室温、窒素ガス雰囲気下で撹拌し、上記式(8)で示される有機リチウム化合物のシロキサンオリゴマー0.3g(0.0005モル)を撹拌しながら添加し、室温で6時間重合反応を行った。GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)分析による分子量測定を行ったところ、重合が進行していないことが確認され、フルオロシリコーンポリマー(III)を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】


で示される環状三量体のトリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンと、下記一般式(2)
【化2】


(式中、pは0<p≦100の整数である。)
で示されるオルガノシラン又はオルガノポリシロキサンを有機溶剤中、アルキルリチウム触媒又はリチウムシラノレート触媒と重合促進剤の存在下に共重合させて分子鎖末端シラノール基(又はそのリチウム塩)封鎖の共重合体を調製し、そこに弱酸を添加して該触媒に対する中和処理を行い、次いで有機溶剤を留去後に、トリオルガノシリルトリフラート又は強酸とヘキサオルガノジシラザンを添加して、分子鎖末端のシラノール基をトリオルガノシロキシ基で封鎖し、加熱減圧により加硫阻害物質を取り除くことによって、下記一般式(3)
【化3】


(式中、R1は炭素数1〜8の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R2〜R6は炭素数1〜8の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基であり、mは0≦m≦100の整数、nは1≦n≦500の整数である。)
で示されるオルガノポリシロキサンを得ることを特徴とする分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項2】
弱酸が、酢酸、トリフロロ酢酸及びトリストリメチルシリルホスフェートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項3】
有機溶剤が、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル及び酢酸エチルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項4】
重合促進剤が、テトラヒドロフラン、ジグライム、テトラグライム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びジメチルアセトアミドから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1,2又は3記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項5】
リチウムシラノレート触媒として、下記一般式(4)
【化4】


(式中、qは0<q≦100の整数である。)
で示されるリチウムシラノレート触媒及び/又は下記一般式(5)
【化5】


(式中、R2,R3,R6は炭素数1〜8の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基であり、rは0<r≦100の整数である。)
で示される有機リチウム化合物のシロキサンオリゴマーを使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項6】
ヘキサオルガノジシラザンが、ヘキサメチルジシラザン及び1,3−ジビニルテトラメチルジシラザンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項7】
トリオルガノシリルトリフラートが、トリメチルシリルトリフラート及びジメチルビニルシリルトリフラートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項8】
強酸が、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、濃硫酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体及び線状塩化窒化リンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項9】
トリオルガノシリルトリフラートがジメチルビニルシリルトリフラートであり、ヘキサオルガノジシラザンが1,3−ジビニルテトラメチルジシラザンであり、一般式(3)で示されるオルガノポリシロキサンが下記一般式(6)
【化6】


(式中、R2〜R6は炭素数1〜8の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基であり、mは0≦m≦100の整数、nは1≦n≦500の整数である。)
で示されるものである請求項1〜8のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項10】
加硫阻害物質を150℃以上の高温、減圧下で除去する請求項1〜9のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンの製造方法。

【公開番号】特開2012−241101(P2012−241101A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112392(P2011−112392)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】