説明

分布系の電気ネットワーク表現

【課題】多重材料物体を電気ネットワークの形で表現し解析する方法を提供すること。
【解決手段】多重材料物体の特性を決定するための方法(12)を提供する。本方法は、多重材料物体を取り囲む電極に個々の電気信号パターンをもつ印加電気信号組を提供することによって回転電界を発生させるステップ(122)を含む。本方法はさらに、印加した各電気信号パターンに対応する電極から電気信号の計測電気信号を取得するステップ(124)を含む。電気ネットワークは、印加電気信号組、計測電気信号組及び印加電気信号組の逆行列に基づいて決定される。本方法はさらに、電気ネットワークを解析することによって多重材料物体の特性を決定するステップ(128)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には多重材料物体内の個々の材料の組成及び特性を決定するための方法に関し、また具体的には、多重材料物体を電気ネットワークの形で表現し解析することに関する。
【背景技術】
【0002】
電気インピーダンス断層撮像法(EIT)は、多重材料物体内部の材料分布に関する定量的マッピングに使用可能な侵害性を最小とした計測技法の1つである。EITでは、導電率と誘電率のマップを使用し当該物体内部の様々な材料からなる分布を推定する。物体を取り囲む電極を介して物体に対して様々な電流パターンまたは電圧パターンが印加され、これに対応する電圧や電流が計測される。この電流−電圧の関係に基づいて、内部インピーダンスまたは内部アドミッタンス分布が決定される。
【0003】
多重材料物体の一例は、パイプやコンジットの内部を少なくとも2つの材料または相が一緒に流れているような混相流(multiphase flow)である。混相流処理は、例えば石油業界、薬品業界、食品業界、化学業界を含む多種多様な産業分野にとって重要である。これらの種類の混相流処理では既存の処理装置や新規の処理装置に対する設計の改善及び動作効率の上昇を可能にするためにその内部特性に関する直接的な知見が必要である。混相処理のパフォーマンスの予測に使用される特性には例えば、空間的な相分布(空間体積相比率)、フローレジーム(flow regime)、界面面積、並びに絶対速度及び相間や材料間での相対速度を含むことがある。材料の分布が不均一であると化学変化や変換に利用可能な材料間の界面面積を低減させる傾向となると共に空間的に不均一な反応ゾーンや濃度を生成させるような再循環フローを生じさせることがあるため、材料の空間分布を知ることは特に有用である。さらに体積相比率及び速度が、混相流の適正かつ適時の制御を可能にする重要なパラメータである。
【0004】
EIT技法の1つでは、一方の電極に電流が流入しかつもう一方の電極では電流が流出しているような対となった境界電極対に1度に1対ずつ電流が印加されると共に、これらの電極のすべてにおいて電圧が計測される。類似の一技法では、境界電極対に対して1度に1対ずつ電圧が印加されると共に、すべての電極において電流が計測される。これらの技法に関連する問題点の1つは、信号対雑音比が低いことである。さらに、比誘電率や導電率の変動が小さい材料を対象とする場合、分解能が低下する。
【0005】
別のEIT技法では、計測完了に必要なデータを生成するように電極のすべてに同時に電流または電圧が印加される。電極に印加される電流または電圧はすべて、互いに電気的に同相でありかつ異なる振幅を有している。しかしこの技法では、電極に印加する電流または電圧パターンの数が多くなる(典型的には、電極数より1つだけ少ない)ためそれだけ時間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7167009号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、上述の問題に対処するような方法及びシステムを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態では、多重材料物体の特性を決定する方法を提供する。本方法は、多重材料物体内部に回転電界を発生させるために多重材料物体を取り囲む電極に個々の電気信号パターンをもつ印加電気信号組を提供するステップと、各印加電気信号パターンに対応する電極から電気信号の計測電気信号組を取得するステップと、を含む。本方法はさらに、印加電気信号組、計測電気信号組及び印加電気信号組の逆行列に基づいて電気ネットワークを決定するステップを含む。本方法はさらに、電気ネットワークを解析することによって多重材料物体の特性を決定するステップを含む。
【0009】
別の本発明の実施形態では、多重材料物体の電気ネットワークを決定するための方法を提供する。本方法は、回転電界を発生させるために個々の電気信号パターンをもつ印加電気信号組を電極に提供するステップを含む。本方法はさらに、各印加電気信号パターンに対応する電極から電気信号の計測電気信号組を取得するステップと、印加電気信号組、計測電気信号組及び印加電気信号組の逆行列に基づいて電気ネットワークを決定するステップと、を含む。
【0010】
さらに別の本発明の実施形態では、多重材料検知システムを提供する。本システムは、物体内部に回転電界を発生させるように多重材料物体を取り囲む電極に個々の電気信号パターンをもつ印加電気信号組を提供するための電源と、各印加電気信号パターンに対応する電極から電気信号の計測電気信号組を取得するための計測ユニットと、を含む。本システムはさらに、印加電気信号組、計測電気信号組及び印加電気信号組の逆行列に基づいて多重材料物体の特性を評価するための処理回路を含む。
【0011】
本発明に関するこれらの特徴、態様及び利点、並びにその他の特徴、態様及び利点については、同じ参照符号が図面全体を通じて同じ部分を表している添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むことによってより理解が深まるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】例示の一実施形態による石油産生施設のブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態で使用される電気インピーダンス断層撮像(EIT)式の混相流量計の概要図である。
【図3】本発明の一実施形態による電圧印加型EITシステムのブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態による回転磁場パターンを表した図である。
【図5】本発明の一実施形態によるコンジット内の多重材料物体を取り囲む電極の概要並びに基準正弦波形を表した図である。
【図6】本発明の一実施形態による電気抵抗断層撮像(ERT)技法を用いて多重材料物体の特性を決定する方法を表した流れ図である。
【図7】本発明の一実施形態によるEIT技法を用いて多重材料物体の特性を決定する方法を表した流れ図である。
【図8】本発明の一実施形態による図6のERT技法を用いて多重材料物体の特性を決定する別の方法を表した流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下で詳細に検討するように、本発明の実施形態は多重材料物体の特性を計測するためのシステム及び方法を提供するように機能する。混相流の一例における物体の特性には、コンジット内を流れる石油、水及び気体(このコンテキストでは、気体状の炭化水素について言及)に関する体積率及び流量を含むことがある。本発明について石油/気体/水の計測値の使用に関連して記載しているが、本発明はこうした用途に限定されるものではなく、本発明の態様は例えば、がん診断や水処理などの広く多種多様な産業上の処理、ヘルスケア処理及び化学処理に用途を見出すことができる。こうした多重材料物体の特性は混相流に関して得られる例とかなり異なることがある。
【0014】
図1は、例示の一実施形態に従った石油産生施設10を表している。この石油産生施設は典型的には、その各々が配管系14に相互接続された複数の油井12を含む。配管系14は混相流量計(MPFM)18に結合させた産生物分岐管16を含む。混相流量計は、油井の非常に近くにおける未処理の油井ストリームの計測を可能にし、これによりリザーバ管理の向上に使用し得る油井パフォーマンスの連続監視の提供が可能となる。油井12から汲み出された流体は、産生物分岐管16を通して不純物分離装置20に送られる。施設10内において追加的な試験分離装置(図示せず)がMPFMに加えて用いられること、あるいはこれに代えて用いられることがあることに留意すべきである。試験分離装置に対するMPFMの利点の1つは、計測実行に要する時間が短縮されることである。試験分離装置では油井が変化したときに充填及び安定化をさせなければならないが、MPFMでは油井流体の変化により迅速に応答できると共に安定化に要する時間がより短い。
【0015】
不純物分離装置20は、油井から汲み出された石油、気体及び水を分離させる。不純物分離装置20は、1つまたは複数の計測機器を含むことがある。この計測機器には例えば、油井から抽出される水の量または流量を計測するための水メーターや、油井から抽出される石油の量を計測するためのエマルジョン(emulsion)メーターを含むことがある。さらに計測機器は、油井ヘッド圧力センサ、温度計、塩分計、pH計など油井パフォーマンスの監視に典型的に利用されるような別の機器を含むことがある。
【0016】
図2は、電気インピーダンス断層撮像(EIT)式のMPFMシステム40を表している。EITでは、物体を取り囲む電極を介して実施した電気計測から多重材料物体内部の導電率または誘電率分布が推定される。多重材料物体の周りに導電性の電極が取り付けられ、この電極の幾つかまたはすべてに交番電流または電圧が印加される。得られる電気ポテンシャルまたは電流が計測されると共に、印加する電流及び/または電圧の構成またはパターンを異ならせて処理が反復される。
【0017】
図2のMPFMシステム40は、コンジット46の周りに分布させた多数の電極44を備えた電極アレイ42を含む。このコンジットは複数の材料やその内部の相を保持するパイプやタンクなどの容器を成すことがあり、またこのコンジットは人体の一部や人の全身など別の受け容れ体を成すことがある。より具体的な実施形態ではその電極数は、コンジットのサイズ及び必要とする確度に応じて8個、12個または16個とすることがある。これらの電極は、良好な電気的接触を保証するのに適したコーティングの必要に応じた使用を含むような一実施形態によるコンジットの内部壁に直接取り付けられることがある。電極とコンジット壁の間には、適当な電気絶縁材料を設けることがある。これらの電極は、電流または電圧源、D−A変換器、A−D変換器、差動増幅器、濾過器、ディジタルマルチプレクサ、アナログマルチプレクサ、クロック、及び/またはコンピュータ50に結合させたディジタルI/Oユニットなどの構成要素を含み得る電子コンディショニング回路48に接続されている。一実施形態ではコンピュータ50は、画像再構成処理で使用されるディジタル信号プロセッサカード及び画像の表示に適したディスプレイ52を装備したパーソナルコンピュータを含む。別の実施形態では、現場プログラム可能ゲートアレイ(field−programmable gate array:FPGA)やプログラム可能複合論理デバイス(complex programmable logic device:CPLD)などの別の処理回路を使用することもある。本発明の一実施形態では電極44は、コンジット内の多重材料物体内部に回転電界を生成するような電圧パターンからなる電圧の組を電極の両端に印加することによって付勢を受ける。ある任意の時点において、1つまたは複数の電圧源を用いて電極にある電圧パターンを印加しており、電極の各々において対応する電流信号の組が計測される。一実施形態では、電圧の印加に代えて1つまたは複数の電流源を用い電流を電極内に注入することによりこれを付勢させており、その電極の両端において対応する電圧が計測される。
【0018】
図3は、L個の電極を有する電圧印加型EITシステムのブロック図60である。各電極61は、印加電圧を発生させるための電圧源62、電流を計測する電流計、並びに印加電圧を直接計測する電圧計を含む回路に接続されている。システム全体に対する単一の基準に合わせた較正を可能とさせるために、切替ネットワーク63によって、電圧源/電流計/電圧計回路のいずれに対しても単一の較正回路64を接続することを可能としている。電圧源(電流計及び電圧計を伴う)並びにスイッチに対してディジタル制御器(図示せず)がインタフェースされることがあり、また較正回路によってシステム構成が設定されると共に電圧及び電流のディジタル計測値が収集される。電極に対して電圧に代えて電流が印加されるような別の実施形態では、例えば直流源または電圧対電流変換器系を備え得る電流源を用いて電流を発生させている。
【0019】
電流源と電圧源のいずれの実施形態においても、得られた計測値はコンピュータ50(図2)により処理されると共に、多重材料物体内部の電気インピーダンスまたはアドミッタンス分布に関する表現が決定される。この電気インピーダンスまたはアドミッタンス分布は次いで、多重材料物体の特性を提供するようにコンピュータ50によってさらに解析を受ける。多重材料物体の特性は例えば、システムの材料の組成や分布を含むことがある。またこの電気インピーダンスまたはアドミッタンス分布は、多重材料物体の個々の材料のフローレジーム、相比率及び速度を決定するためにさらに解析を受けることもある。フローレジームは、例えばバブリー(bubbly)フロー、チャーン(churn)フロー、スラグ(slug)フロー、アニュラー(annular)フロー(ただし、これらに限らない)を含むことがある。
【0020】
電圧源の実施形態では、ある電極から別の電極まで流れる電流は、すべての電極両端に印加された相対電圧並びにすべての電極同士の間に存在する材料の導電率及び誘電率の関数である。この材料は例えば、石油だけのことや、石油と気体の混合体のこともある。材料とその分布に応じて、すべての電極同士の間のインピーダンスまたはアドミッタンスは異なると共に、電極間を流れる電流も異なる。したがって、印加した電圧組と計測した電流組から、各電極対間のインピーダンス組または該インピーダンスからなるインピーダンス行列を計算することが可能である。同様に別法としてあるいは追加として、印加した電圧組と計測した電流組から各電極対間のアドミッタンス組またはインピーダンスからなるアドミッタンス行列を計算することが可能である。インピーダンスやアドミッタンスは電極間の材料の導電率や誘電率の関数であり、インピーダンスまたはアドミッタンスネットワークの解析によって、材料分布及びその特性を決定することができる。
【0021】
電圧パターンからなる電圧組によってコンジット内に回転電界が生成される。回転電界は、印加信号周波数またはその整数倍に対応する一定の角速度でその方向が変化する電界である。このことは、その回転磁界が一定の角速度で方向を変化させる多相交流モータを動作させる基本原理である回転磁界と同様である。
【0022】
図4は、様々な空間高調波パターンに関してパイプ内部のシミュレーションを行った幾つかの例示的な電界を表している。プロット56、57、58及び59はそれぞれ、第1、第2、第4及び第8高調波に関する電界を示している。第1高調波パターンの電界は、平行の直線からなり、第2高調波パターンの電界は直角の双曲線の群からなり、第4及び第8高調波パターンの電界曲線は、双曲線ではないがこれと幾らか類似したものとなる。
【0023】
電圧パターンからなる電圧組を電極に印加することによって回転電界を生成させることがある。パイプ全体にわたりL個の電極があると仮定すると、これら電極間に印加される電圧パターンは次式で表すことが可能である。
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
【数3】

上式において、
【0027】
【数4】


【0028】
【数5】

の励起パターンで第k番目の電極に印加される電圧であり、
【0029】
【数6】

はピーク印加電圧であり、tは時間であり、またωは正弦波の角周波数である。式(2)及び(3)は式(1)についてプラスとマイナスの関係を分離して展開させたものである。式(2)は物体内部に時計回りの回転電界を発生させる順電圧パターンであり、一方式(3)は物体内部に逆時計回りの回転電界を発生させる逆電圧パターンである。各励起パターンは、式(1)及び(2)で与えられるすべてのパターン組が完了するまで順次電極に印加される。その励起パターンに対応する変数
【0030】
【数7】

は1からNまで変化する(ここで、Lが偶数の場合はN=L/2であり、またLが奇数の場合はN=(L−1)/2である)。一実施形態では電気抵抗断層撮像法(ERT)の場合、全部でN個の順電圧パターンまたはN個の逆電圧パターンが印加される。別の実施形態では、多重材料物体に関するより完全な情報を取得するために、順パターンと逆パターンの両方が電極に印加される。順電圧パターンと逆電圧パターンが一体となって、多重材料物体のネットワーク表現内の電気的要素の実数成分と虚数成分に関する情報が提供される。式(1)、(2)及び(3)と同様の方式で、順電流パターンと逆電流パターンを記述し計算することも可能である。
【0031】
図5は、コンジットの周囲に沿って配置させた電極の概要図80並びに振幅
【0032】
【数8】

の波形組82を表している。波形組82の内部には互いからの位相シフト範囲を等しくした8つの正弦波が存在していることに留意されたい。これらの波形にはV1〜V8の記号を付けており、その対応電極に印加される電圧信号に対応している。例えばV1は電極1に印加される電圧信号に対応し、またV7は電極7に印加される電圧信号を意味している。波形組82は1つの電圧パターンに対応する。こうしたパターンの幾つかを、式(1)に従って計算し電極に印加することがある。8個の電極の使用は単に一例であり、別に所望の任意の数の電極を使用し得る。一実施形態ではそのパイプ84は、石油86と水88などの材料または相を含む。
【0033】
本発明の一実施形態では、多重材料物体を成した材料のうちの幾つかまたはすべての誘電率または透磁率の効果は導電率と比べてかなり小さいことがアプリオリに知られることがあり、またこうしたケースにおいて多重材料物体を表現する電気ネットワークは抵抗性要素のみから構成されるものと云うことが可能である。これは、電気抵抗断層撮像法(ERT)と呼ぶEITの1つの特異的ケースである。ERTのみが実行されるような実施形態では、相分布に関する完全な情報を取得するために印加される電圧または電流パターンの総数はNである。このN個のパターンは時計回りの回転電界を発生させる順パターンと逆時計回りの回転電界を発生させる逆パターンのいずれにもなり得る。
【0034】
図6は、ERTにおけるインピーダンスまたはアドミッタンス行列の決定のための方法100を表している。ステップ102では、N個のパターンからなる第1の電気信号組が電極に印加される。印加した各第1の電気信号パターンに関するそれぞれの第2の電気信号パターンを有する対応する第2の電気信号組がステップ104で計測される。一実施形態では、第1の電気信号パターンが電圧組を成すことがあり、かつ第2の電気信号パターンが電流組を成すことがある。別の実施形態では、第1の電気信号パターンが電流組を成すことがあり、かつ第2の電気信号パターンが電圧組を成すことがある。例えば第1の電気信号組が電圧組でありかつ第2の電気信号組が電流組であるような実施形態では、N個の電圧パターンだけが電極に印加されるため、印加された電圧パターン組を表現する電圧行列と計測された対応する電流パターン組を表現する電流行列とを構築することができる。この電圧行列及び電流行列は、L個の横列とN個の縦列を有することになる。第n番目のパターンに関する第m番目の電極における電圧または電流は、電圧または電流行列の要素(m,n)によって与えられることになる。さらに同じ実施形態に関する一例として、印加されたN個の電圧パターンからなる組が式(2)で与えられる順回転パターンであると仮定してみる。Lが奇数であるケースでは、電圧行列の残りのエントリーを式(3)から決定することが可能であり、また得られた新たな電圧行列はL個の横列とL−1個の縦列を有することになる。Lが偶数であるケースでは、式(3)を使うことによって1つの追加の電圧パターンが得られると共に、新たな電圧行列がL個の横列とL個の縦列を有することになる。ここで、式(3)を用いて算定した第1のパターンは電圧パターンの印加電圧組における最終パターンである式(2)によって算定した最終パターンと事実上同じである。したがって、式(3)を用いて算定した第1のパターンに対応する縦列は除去され得る、またしたがって新たな電圧行列はL個の横列とL−1個の縦列を有する。同様に新たな電流行列の残りのエントリーは、ERTのケースではインピーダンスまたはアドミッタンスネットワーク内の要素がすべて純抵抗性であるため第i番目の印加電圧信号パターンに由来する計測電流パターン内の個々の電流が第(L+1−i)番目の電流パターンに対応する同じ電極における電流の複素共役になるということによって決定することができる。したがってステップ104では、第1と第2の電気信号行列が修正される。
【0035】
ステップ108ではフル印加電気信号組、得られたフル電気信号組及びフル印加電気信号組の逆行列に基づいて、多重材料物体内部の材料分布を表現するインピーダンス行列またはアドミッタンス行列が決定される。一実施形態では、印加信号組の逆行列を決定するために擬似逆行列(Pseudo inverse)計算が利用されることがある。こうして計算された行列は、物体内部の材料分布に関する電気ネットワーク表現となる。これは、複素エントリーからなる対称行列である。換言すると、インデックスi及びjのすべてについて、行列aの第i横列で第j縦列の要素は該行列aの第j横列で第i縦列の要素に等しい。
【0036】
【数9】

上式において、ai,jは電極番号i及びjの間の等価インピーダンスまたはアドミッタンスである。次いでステップ110において、多重材料物体の特性を決定するために計算したインピーダンスまたはアドミッタンス行列が解析される。アドミッタンス行列では、電流を通過させる漏洩経路が存在ないとき、各横列ごとの横列総和はゼロでありかつ各縦列ごとの縦列総和はゼロである。このことを利用して、電極並びにそれ自体の付属回路から離れているシステム内に存在する任意の電流経路を検出することができる。
【0037】
図7は、電圧源の実施形態のEITにおいてインピーダンスまたはアドミッタンス行列を決定するための方法120を表している。一実施形態ではEITの場合に、多重材料物体内部の材料に関する誘電率が既知でないとき、ステップ122において電極に対して順電圧パターンと逆電圧パターンの両方が印加される。ステップ124では、その電極から得られる電流信号が計測される。電圧パターンの印加ではなく、電流パターンを印加することも可能であり、電圧パターンが計測されることもあり得ることに留意すべきである。印加する電圧パターンの総数は電極数より1少ない数である(残りのパターンは事実上冗長性であるため)。したがって、電極がL個の場合、印加される総電圧パターンはL−1となる。次いでステップ126において、第1の電気信号組、第2の電気信号組並びに第1の電気信号組の逆行列に基づいて電気ネットワークが決定される。この電気ネットワークは、多重材料物体の特性を決定するためにステップ128においてさらに解析を受ける。
【0038】
図8は、EITにおいてインピーダンスまたはアドミッタンス行列を決定するための別の方法140を表している。この実施形態では、図6で説明したようなERT手順が先ず実行される。ステップ142においてN個の電圧パターンからなる電圧組が電極に印加されると共に、ステップ144において得られる電流組が計測される。ステップ146では、サイズが(L,L−1)のフルの電圧及び電流行列にさせるように図6に関連して上述したようにして行列のうちの残り半分を満たすことによって電圧組と電流組が修正される。ステップ148では、印加電圧組、計測電流組並びに印加電圧組の逆行列に基づいて、アドミッタンス行列またはインピーダンス行列が決定される。さらに、ERTにより決定した電気ネットワーク内の純抵抗性要素の値に基づいて、物体内部の異なる材料の導電率及び分布は、数値モデルからの事前算定結果並びに純抵抗性要素のみを有するインピーダンスまたはアドミッタンス行列を用い、このステップ(行列内の実数)が容量性または誘導性要素(行列内の複素数)を有する新たなインピーダンスまたはアドミッタンス行列になるように新たに修正され終わるまで評価される。例えばERTが物体内部の3つの異なる箇所において3つの異なる導電率値を提供していれば、導電率値が10−6ジーメンス/メートルの範囲にあれば、その材料は石油と同様でありしたがってその比誘電率は1〜5の範囲となり得ることを評価し得る。同様に導電率値が10−3ジーメンス/メートル以上の範囲にあれば、その材料は水でありしたがってその比誘電率は75と80の間の値とし得ると決定し得る。比誘電率を評価し終えると、電気ネットワーク要素のうちの容量性部分を評価することが可能である。次いでこの新たなインピーダンスまたはアドミッタンス行列を既知の印加電圧パターンを用いてシミュレーションし、シミュレーション電流が決定される。この新たな電気ネットワークは、ステップ149において計測電流組とシミュレーション電流組の間の誤差に対する反復最小化によって完成させる。上で説明したように、完成させたこの電気ネットワークを次いで、ステップ150において解析し多重材料物体の特性が決定される。導電率値に基づいて、並びに別法または追加として例えば密度計からの情報の利用など別のセンサ情報の利用によって材料の比誘電率を評価する別の方法も存在し得る。さらに、例えば人の頭部内など多重材料物体内部の異なる材料の空間分布に関して事前の知見が存在することがある。ステップ149はこうした情報を用いてインピーダンスまたはアドミッタンス行列を、その要素に容量性または誘導性部分が追加されるように適当に修正している。
【0039】
コンピュータ50(図2)は、印加電圧パターン、計測電流信号並びに計算したインピーダンスまたはアドミッタンス行列に関する情報の保存、処理並びに通信を行う。電圧パターンは全体で1つの電圧組または印加信号組を形成しており、また計測電流は1つの電流組または計測信号組を形成している。上述したように別の実施形態では、電極内に電流が注入されることがあり、かつ電圧が計測されることがある。印加信号組が電圧組でありかつ計測信号組が電流組である場合、行列Pによって印加信号組を表現し得、また行列Qによって計測信号組を表現し得る。次いでそのインピーダンスネットワークが次式のような行列Zによって表現される、
Z=P*Q−1 (4)
ここで、Q−1は行列Qの逆行列を意味している。しかし行列Qは計測信号組であり、また数学的に非適切な行列であるのが一般的である。したがって、この行列の逆行列を見出すのは困難である。したがってこのケースでは、次式で与えられるようにしてアドミッタンス行列を計算可能であるため、アドミッタンス行列の計算がより容易である。
【0040】
Y=Q*P−1 (5)
印加信号組は計測信号組と比べて忠実度がより良好である。さらに、印加信号組は事前によく分かっているため、これをコンピュータ内に格納しておくことが可能であり、またその逆行列もコンピュータ内に格納しておくことが可能である。したがって、アドミッタンス行列を決定するためには、この利用可能な印加電圧信号の逆行列が計測信号組に対して直接乗算される。一実施形態ではさらに、印加信号組が電流組Mでありかつ計測信号組が電圧組Sであれば物体はインピーダンス行列Zによって表現し計算され得る。このケースではインピーダンス行列Zは次式で与えられる。
【0041】
Z=S*M−1 (6)
ここでも、M−1は行列Mの逆行列を意味している。ここでも同じく、印加信号組Mの逆行列の計算は計測信号組Sの逆行列計算と比べてより容易である。
【0042】
式(5)と(6)のいずれにおいても、一実施形態では行列P及びMの逆行列の計算のために擬似逆行列が利用される。擬似逆行列技法は例えば、片側(one−sided)逆行列、Drazin逆行列、グループ(Group)逆行列、Bott−Duffin逆行列、またはMoore−Penrose擬似逆行列を含むことがある。したがって数値方式や反復法を使用することなくインピーダンス行列またはアドミッタンス行列の直接計算を得るように逆行列計算技法が用いられる。次いで、式(5)及び(6)のアドミッタンス行列Yとインピーダンス行列Zを次式のように計算することができる。
【0043】
Y=Q*((PP)−1*P) (6)
Z=S*((MM)−1*M) (7)
上式において、P及びMは行列P及びMの共役転置行列である。
【0044】
幾つかの処理システムでは、多重材料系の電気ネットワーク表現におけるアドミッタンスまたはインピーダンス行列要素は時間と共に変動することがある。しかし、印加信号組は一定でありかつ計測信号組がリアルタイムで計測されるため、時変動するアドミッタンス行列またはインピーダンス行列も計算することができる。一実施形態では、異なるランダムフローレジームモデルに関する様々な事前算定のテーブルまたは行列をコンピュータ内に保存しておき、システムが電気ネットワーク表現を決定するときに単にこれを保存済みの行列と比較することによって多重材料物体内部のフローレジーム及び材料分布が特定される。別の実施形態では、多重材料物体の材料分布その他の特性を決定するためにヒューリスティックアルゴリズムによってアドミッタンスまたはインピーダンス行列が解析される。ヒューリスティックアルゴリズムは例えば、ファジィ論理アルゴリズムや遺伝的なアルゴリズムあるいはニューラルネットワークアルゴリズムを含むことがある。ファジィ論理アルゴリズムは、漠然とした情報、曖昧な情報、不明瞭な情報、雑音性の情報あるいは散逸した入力情報に基づいて結論に至るための簡便な方法を提供する。ファジィ論理アルゴリズムの結果は厳密ではなく近似である。さらにニューラルネットワークは、物体に関するもっとも確からしい材料分布その他の特性を特定するように多重材料物体の挙動履歴に基づいてトレーニングさせることがある。
【0045】
本発明のある種の特徴についてのみ本明細書において図示し説明してきたが、当業者によって多くの修正や変更がなされるであろう。したがって添付の特許請求の範囲が、本発明の真の精神の範囲に属するこうした修正や変更のすべてを包含させるように意図したものであることを理解されたい。
【符号の説明】
【0046】
10 石油産生施設
12 油井
14 配管系
16 産生物分岐管
18 混相流量計(MPFM)
20 不純物分離装置
40 電気インピーダンス断層撮像方式のMPFMシステム
42 電極アレイ
44 電極
46 コンジット
48 電子コンディショニング回路
50 コンピュータ
52 ディスプレイ
60 電圧印加型EITシステムのブロック図
61 電極
62 電圧源
63 切替ネットワーク
64 較正回路
56 電界プロット
57 電界プロット
58 電界プロット
59 電界プロット
80 コンジットの周囲に沿って配置させた電極の概要図
82 電極に印加される波形組
84 パイプ
86 石油
88 水
100 ERTにおけるインピーダンスまたはアドミッタンス行列の決定方法
102 方法ステップ
104 方法ステップ
106 方法ステップ
108 方法ステップ
110 方法ステップ
120 EITにおけるインピーダンスまたはアドミッタンス行列の決定方法
122 方法ステップ
124 方法ステップ
126 方法ステップ
128 方法ステップ
140 EITにおけるインピーダンスまたはアドミッタンス行列の決定方法
142 方法ステップ
144 方法ステップ
146 方法ステップ
148 方法ステップ
150 方法ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重材料物体の特性を決定する方法(120)であって、
回転電界を発生させるために物体を取り囲む電極に個々の電気信号パターンをもつ印加電気信号組を提供するステップ(122)と、
各印加電気信号パターンに対応する電極において電気信号の計測電気信号組を取得するステップ(124)と、
印加電気信号組、計測電気信号組及び印加電気信号組の逆行列に基づいて物体の電気ネットワーク表現を決定するステップ(126)と、
電気ネットワークを解析することによって多重材料物体の特性を決定するステップ(128)と、
を含む方法。
【請求項2】
前記個々の電気信号パターンの最大数が多くとも電極の半数に等しく、かつ前記電気ネットワークが純抵抗性要素からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電気ネットワークを決定する前記ステップは、印加電気信号組をフル印加電気信号組に変換するステップと、計測電気信号組をフル計測電気信号組に変換するステップと、を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
印加電気信号組を変換する前記ステップは既知の電気信号パターンを利用するステップを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
計測電気信号組を変換する前記ステップは電気ネットワークの純抵抗的性質を利用するステップを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
特性を決定する前記ステップは個々の電気信号パターンの最大数が多くとも電極の半数に等しいときに新たな電気ネットワークを決定するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
新たな電気ネットワークを決定する前記ステップは電気ネットワークの抵抗値に基づいて電気ネットワークを修正するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
特性を決定する前記ステップは、印加電気信号組を用いてシミュレーションし実際の計測電気信号組とシミュレーションの計測電気信号組の間の誤差を最小化することによって新たな電気ネットワークを完成させるステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
多重材料物体の電気ネットワーク表現を決定する方法であって、
物体内部に回転電界を発生させるために物体を取り囲む電極に対して個々の電気信号パターンをもつ印加電気信号組を提供するステップと、
各印加電気信号パターンに対応する電極において電気信号の計測電気信号組を取得するステップと、
印加電気信号組、計測電気信号組及び印加電気信号組の逆行列に基づいて多重材料物体の電気ネットワーク表現を決定するステップと、
を含む方法。
【請求項10】
回転電界を発生させるように多重材料物体を取り囲む電極に個々の電気信号パターンをもつ印加電気信号組を提供するための電源(62)と、
各印加電気信号パターンに対応する電極において電気信号の計測電気信号組を取得するための計測ユニット(62)と、
印加電気信号組、計測電気信号組及び印加電気信号組の逆行列に基づいて物体の電気ネットワーク表現を計算し多重材料物体の特性を評価するための処理回路(50)と、
を備える多重材料検知システム(40)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−141275(P2011−141275A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289140(P2010−289140)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】