分散イオン源加速カラム
イオンを加速し、同時に分散イオン源における電界を弱く維持し、それによって分解能を向上させるために、イオン・ビーム・システムが、抵抗管などの別個の加速電極を使用する。イオン源として磁気光学トラップを使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照によって本明細書に組み込まれる2009年9月18日に出願した米国特許仮出願第61/243,572号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は荷電粒子ビーム・システムに関し、特に、分散イオン源を含むイオン・ビーム・システムにおいて有用である。
【背景技術】
【0003】
約30年の間、高分解能集束イオン・ビーム(FIB)は、顕微鏡法、リソグラフィ、微細機械加工(イオン・ミリングおよび材料の付着)、ドーパント注入などのさまざまな作業に役立つことが証明されてきた。長年にわたり、気相電界イオン化源、プラズマ源および液体金属源を含む、集束イオン・ビーム用のいくつかのイオン源が開発された。これまでに開発された全ての源の中で、液体金属イオン源(LMI)は最も有用な源であることが証明されており、現在、最も広範囲に使用されている。液体金属イオン源の有用性は基本的に、10nm程度のスポット・サイズを有し、同時に1pAから10pAの範囲の電流を維持している集束イオン・ビームの生成を可能にする、その非常に高い輝度に基づいている。これらの特性は、ある範囲の最新技術のナノテクノロジ作業を実行するのに必要な分解能およびイオン電流を、集束イオン・ビームに与える。
【0004】
広範囲に使用されているにもかかわらず、既存のイオン源は、より幅広い用途およびより高い分解能に向けた進歩を妨げる限界を有する。タングステン・チップを液体金属で濡らす必要があるため、液体金属イオン源で実現することができるイオン種の数はやや限られている。使用されている元素の中でGaが卓越した元素であることは明らかだが、Au、Al、BeおよびCsを含む他の種も実証されている。数eVを超える極めて大きなエネルギー幅(energy spread)も、液体金属イオン源の欠点である。この極めて大きなエネルギー幅は一般に、放出器の表面の非常に小さな放出エリアの近くで生じる空間電荷効果に起因していると考えられている。このエネルギーの広がりは、集束イオン・ビームを形成する集束光学部品内での色収差につながり、それによって達成可能な分解能を制限し、ビーム電流と分解能の間のトレードオフを強いる。気相電界イオン化源は、軽い元素を用いて動作することができ、1eV程度のより狭いエネルギー幅を有することで、これらの問題のうちのいくつかを解決するが、電流がかなり小さく、重い元素では機能せず、動作がより複雑である。プラズマ源も、液体金属イオン源の諸問題のうちのいくつかの問題を解決するが、プラズマ源の輝度は他の2つの源よりも数桁低い。液体金属源および気相源に関連した実用上の他の問題は、既存の源が高い輝度を有するためには有効源サイズがナノメートル規模である必要があることによって、源の位置の安定性に対する感度が非常に厳しくなることであり、この問題は、集束イオン・ビーム・システムの構造の問題になる。
【0005】
したがって、イオン、特に、例えばサイト・アナリシス(site analysis)、材料の付着または注入、材料のアブレーション、イオン顕微鏡法、2次イオン質量分析(SIMS)、イオン・ナノ機械加工などの幅広い多数の用途に適した集束イオン・ビームを発生させる改良されたシステムおよび方法が求められている。
【0006】
「Magneto−optical Trap Ion Source」という名称の米国特許出願公開第2008/0296483号明細書は、集束イオン・ビーム・システム向けの磁気光学トラップ・イオン源を記載している。米国特許出願公開第2008/0296483号明細書は、磁気光学トラップ(MOT)と、イオン化レーザと、引出し要素とを備えるシステムを記載している。磁気光学トラップは、極低温の(supercold)中性原子の集団または「雲(cloud)」を生成する。本明細書で使用するとき、「極低温の」は、10ミリケルビンよりも低温であることを意味する。図1は、一般的なMOT100を概略的に示す。レーザ・ビーム102が中性原子を減速させ、互いに反対方向に電流が流れている電磁石104が中性原子を捕獲して、雲106とする。
【0007】
磁気光学トラップ・イオン源(MOTIS)のイオン源としてMOTが使用されるときには、イオン化レーザがトラップ内の中性原子をイオン化し、それらのイオンが電界によって引き出され、イオン・ビームの形でターゲットに向かって加速される。雲の中の低温は、理論的には10nm以下のビーム分解能を可能にする優れた特性を有するイオン・ビームを与える。この源から生成される電流は、磁気光学トラップの動作パラメータに依存し、シングル・イオンズ・オンデマンド(single ions on demand)から100pA超までの範囲にわたることがある。この範囲は、従来のイオン源を使用することによって可能な範囲よりもはるかに広い。さらに、磁気光学トラップを使用することによって幅広い範囲の元素をレーザ冷却することができることにより、発生させ、イオン・ビームに集束させることができるイオン種のタイプおよび範囲は大幅に広がる。図9は、各種イオン源において使用することができる元素を示す周期表である。
【0008】
非点状源からのイオンを、結果として生じるビームのエネルギー幅を大きくすることなく加速することは難しい。イオン源の空間的な広がりが大きければ大きいほど、イオンを一点に集束させることは困難になる。プローブのサイズをより小さくし、このようなシステムが生み出すことができる理論上の分解能を達成するためには、システムの改良が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許仮出願第61/243,572号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0296483号明細書
【特許文献3】米国特許第5,444,256号明細書
【特許文献4】米国特許第7,154,086号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、集束荷電粒子ビームを形成する方法および装置、特に、分散イオン源から集束イオン・ビームを形成する方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
好ましい一実施形態は、分散イオン源からのイオンを最大数十キロボルト(kV)のエネルギーまで加速する静電位を生み出し、同時にエネルギー幅を小さく維持する電極構成を含む。この電極構成は、長い距離にわたってイオンを加速する。いくつかの実施形態では、この電極構成が、ビーム内のイオンを収束または発散させる静電レンジング(lensing)を低減させて、イオンが実質的に平行に電極を出るようにする。他の実施形態では、この電極構成がビームを収束または発散させ、所与の用途において分解能を最適化するのに必要な事項に応じて、長いまたは短い、正または負の焦点距離を提供することができる。
【0012】
以上では、以下の本発明の詳細な説明をより十分に理解できるように、本発明の特徴および技術上の利点をかなり広く概説した。以下では、本発明の追加の特徴および利点を説明する。開示される着想および特定の実施形態を、本発明の同じ目的を達成するために他の構造を変更しまたは設計するベースとして容易に利用することができることを当業者は理解すべきである。さらに、このような等価の構造は、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨および範囲を逸脱しないことを当業者は理解すべきである。
【0013】
次に、本発明および本発明の利点のより完全な理解のため、添付図面に関して書かれた以下の説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】中性イオン用の先行技術の磁気光学トラップを概略的に示す図である。
【図2】本発明の磁気光学イオン源および電極の好ましい一実施形態を示す図である。
【図3】クロム原子の捕獲および光イオン化に関連したエネルギー準位を示す図である。
【図4】イオン・ビームを偏向させ、試料の表面に集束させるイオン光学カラムの諸部分を示す図である。
【図5】図2の源および図4のイオン光学カラムの諸部分を使用した本発明の好ましいイオン・カラムを示す図である。
【図6A】クロム・イオン源を使用する本発明の一実施形態を使用して撮影した顕微鏡写真である。
【図6B】クロム・イオン源を使用する本発明の一実施形態を使用して撮影した顕微鏡写真である。
【図7A】リチウム・イオン源を使用する本発明の一実施形態を使用して撮影した顕微鏡写真である。
【図7B】リチウム・イオン源を使用する本発明の一実施形態を使用して撮影した顕微鏡写真である。
【図8】本発明の一実施形態について、スポットの標準偏差の幅を、ビーム・エネルギーに対して示すグラフである。
【図9】各種イオン源とともに容易に使用することができる元素を示すために印が付けられた周期表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
MOTISでは、イオン化レーザを、イオン・ビームの軸に平行に、またはイオン・ビームの軸に垂直に導くことができる。イオン化レーザをイオン・ビームの軸に対して垂直に向けた場合、イオンは、ビーム軸に垂直な線に沿って生成され、一部のイオンが光軸から離れた位置に生成されるため、試料上の一点にイオンを集束させることがより困難になる。イオン化レーザをビーム軸に沿って向けた場合、イオンは光軸に沿って生成されるが、雲を横切る電位の勾配があるため、トラップ内の異なる位置で生成されたイオンは、トラップを出るときに異なるエネルギーを有する。異なるエネルギーを有するイオンは異なる位置に集束し、すなわち、ビームが色収差を示し、これによってターゲットにおけるスポット・サイズが大きくなり、それにより分解能が低下する。
【0016】
電荷を持つイオンは互いに反発するため、イオンは、ビーム軸に垂直な速度成分を獲得し、これにより、非常に弱い引出し電界でイオンが集束することはますます困難になる。この機構が、源領域内で弱い電界を使用することによってエネルギー幅および関連する収差をどの程度まで低減することができるのかの下限を設定する。
【0017】
イオン源における電界を弱く維持することによって、小さなエネルギー幅および高い分解能を得ることができる。しかしながら、大部分の集束イオン・ビーム用途で求められる数keVまでイオンを加速する場合、MOTにおける電界を弱くすると、長い距離にわたって加速を実施すること、またはビーム経路に沿って源から離れるにつれて電界を強くすることが必要となる。良導体でできた従来の静電電極を使用して長距離にわたって加速を実施する場合、電界の均一性を保証するため、これらの電極の面積は、これらの電極を隔てる距離の2乗程度でなければならない。この電極構造は、多くの用途において非実用的に大きくなると思われるため、このことは好ましくない。その代わりに、より短い距離にわたってイオンを加速する場合には、ビームが強い静電レンジングを受ける。レンジングによって、イオンが、ターゲットよりも前のビーム経路上で集束する場合(いわゆる「クロスオーバ(cross−over)」)には、イオン間のクーロン力によってイオン・ビームの質が低下し、この場合も、ビームが再び集束したときのスポット・サイズが大きくなる。クロスオーバが生じることは望ましいことではないが、いくつかの実施形態では許容しうる設計上の妥協である。
【0018】
本発明の実施形態は、これらの問題に対処し、分散イオン源から高分解能ビームを生成する。本発明の実施形態は、源からイオンを引き出し、それらのイオンを好ましくは数keVまたは数十keVまで加速する電極構造を提供する。いくつかの実施形態では、好ましくは、源から出来するイオンが実質的に平行である、すなわち収束もまたは発散もしない。
【0019】
実質的に平行であるというのは、+250mmよりも大きい焦点距離または−250mmよりも小さい焦点距離が得られ、それでもイオンが2000eVまで加速されることを意味する。他の実施形態では、+1000mmよりも大きい焦点距離もしくは−1000mmよりも小さい焦点距離、または+10,000mmよりも大きい焦点距離もしくは−10,000mmよりも小さい焦点距離が得られ、同時にイオン・ビームが2000eVまで加速される。他の実施形態では、電極が、最後のレンズの前でビームをより強く発散させるレンズの働きをする。他の実施形態では、電極が、収束レンズの働きをする。
【0020】
いくつかの実施形態では、中性原子の雲を横切る源電界と、イオンが源領域を出た後でイオンを加速し続ける延長電界(extension electric field)とを提供することによって、分解能の向上が達成される。延長電界を源電界と本質的に等しくすることによって、等電位線の曲がりを減らし、または排除し、それによってレンジングを低減し、または排除することができる。「本質的に等しい」というのは、約30パーセント以内、より好ましくは約20パーセント以内、より好ましくは約10パーセント以内、最も好ましくは約5パーセント以内の差で、延長電界の強度が源電界の強度と同じであることを意味する。
【0021】
好ましい一実施形態では、イオン源が、2枚の平らな、好ましくは円盤形の電極間にある。これらの電極の表面は、全体にわたり均一な電位が印加される。この電位が、円盤を貫通する穴を有する一方の円盤に向かってイオンを加速する均一な電界を発生させるように、これらの円盤は十分に大きな直径を有する。穴を有する円盤は引出し電極と呼ばれる。もう一方の円盤は源電極と呼ばれる。これらの2枚の円盤形電極間の領域は源領域と呼ばれる。穴を通過した後、イオンは延長電界領域に入る。この延長電界領域は、長い管形の抵抗電極(resistive electrode)によって生成されることが好ましい。この電極は例えば、0でない低い導電率を有するドープされたガラスでできた管、または好ましくは均一な抵抗コーティングを内側または外側の表面に有する絶縁管を含むことができる。管の両端間に電位が印加されると、抵抗コーティングは、管の長さに沿って均一な電界を発生させる。管の長さは、円盤離隔距離の何倍もある。好ましい実施形態では、管の長さが、円盤離隔距離の5倍超、円盤離隔距離の10倍超、円盤離隔距離の20倍超または円盤離隔距離の25倍超である。
【0022】
装置の全長にわたって弱い均一な電界を維持することによって、源内におけるエネルギー幅を小さく維持することができ、レンジングが回避される。抵抗要素の使用は、均一な電界を発生させ、同時に、電極構造を、ビームの伝播方向に垂直な方向に沿ってコンパクトに保つことを可能にする。他の実施形態では、ほぼ均一な電界を発生させ、レンジングを低減するために、電位が徐々に低下する一連の電極が使用される。
【0023】
電界が半径方向に不均一であり、すなわち光軸に沿った電界と光軸から離れた位置の電界とが異なり、そのため、ビームの縁に近いイオンが光軸上のイオンとは異なる偏向を示し、それによって光軸から離れた位置のイオンが収束または発散するときに、荷電粒子は集束する。集束は例えば、電極の穴の周囲におけるフリンジング効果(fringing effect)によって起こる。より長い距離にわたって電圧降下を分散させ、試料の電位に近い電位まで電位を徐々に低下させることにより、加速電極はフリンジングを低減させ、または排除する。
【0024】
したがって、好ましい実施形態は、分散イオン源を加速し、同時にエネルギー幅を小さく維持し、いくつかの実施形態ではクロスオーバを防ぐことができるため、先行技術のシステムよりも高い分解能を提供することができる。好ましい実施形態は、イオン源が数百ナノメートルよりも大きい他のイオン・ビーム・システムで使用することもできる。
【0025】
好ましい実施形態は、サイズが10μmのイオン源について、リチウム・イオンを10keV以上のエネルギーまで加速し、同時にビームを平行に維持し、源のエネルギー幅を0.4eV未満に維持することを可能にする。
【0026】
MOTIS200の一実施形態のイオン生成領域およびイオン加速領域の概略図を図2に示す。MOTIS200は、原子ビームからのクロム原子、リチウム原子などの中性原子を捕捉し、冷却するMOTを含む。MOTISは、例えば参照によって本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2008/0296483号明細書に、より詳細に記載されている。MOTは、6本のレーザ・ビーム202(そのうちの4本が示されており、図示されてないビームは、図面に入り込む方向および図面から出て行く方向に入射する)と、逆向きに配置された一対のリング形高磁界永久NdFeB磁石(図示せず)によって形成された4重極磁界の零点とが交わることによって形成される。一実施形態では、これらの磁石の外径が75mm、内径が38mm、厚さが25mm、B1=1.3Tである。215mm離して配置したとき、これらの磁石は、磁化軸に沿って0.16Tm−1、磁化軸に垂直な平面内で0.08Tm−1の勾配を生み出す。
【0027】
レーザ光は、ダイオード励起固体レーザ(図示せず)によって励起(pumping)されたTi:サファイア・レーザ(図示せず)の出力の第2高調波発生によって生成される。原子トラップを形成するためには、公称1/e2直径4mmの6本のレーザ・ビームがそれぞれ数ミリワットであれば十分である。レーザ・ビームは、冷却に使用されている電子エネルギー遷移準位よりもほんの少し低く調整される。例えば図3は、冷却および光イオン化に関連したクロムのエネルギー準位を示す。クロム・イオンを捕獲するとき、レーザ・ビームは、425nmにおけるCrの7S3→7P4遷移よりもほんの少し低く調整される。捕獲された低温のクロム原子集団または雲204は概ね球状の対称形であり、磁界勾配、レーザ・ビームの強度、離調およびアライメントに応じて50μmから500μmの標準偏差半径を有するガウス密度プロファイルに近い密度プロファイルを有する。捕獲された原子の温度は、レーザ光をオフにし、しばらくの間、原子を自由に膨張させることによって測定することができる。原子分布の膨張速度から推測した一実施形態における温度は100±15μKであった。イオン化レーザ・ビーム206を集束させて、イオン・ビーム軸に沿ってMOTに通す(軸方向イオン化)。イオン化レーザ・ビーム206は、標準偏差5μm(1/e2直径20μm)の本質的にガウス・ビームのウェスト(waist)を有する。
【0028】
イオン210は、15mm隔てられた平行な2枚の極板によって生成された電界の中に引き出される。第1の極板である源電極220は、酸化インジウムスズ(ITO)などの材料でできた透明な導電性コーティング222を有する溶融シリカ窓からなる。第2の極板である引出し極板224は、反射アルミニウムコーティング226を有する厚さ約100μmのケイ素電極を含む。引出し極板224は中心に、イオンが通過する穴228を有する。イオンは、抵抗管(resistive tube)230などの加速電極内で、その最終的なエネルギーまで加速される。加速電極の始まりは、ケイ素電極224の内側の表面のすぐ下にあり、加速電極の遠端は接地されている。抵抗管は公知であり、例えば、ドープされたガラスを使用することによって、または絶縁ガラス管の内側に抵抗コーティングを付着させることによって製作することができる。抵抗管電極は例えば、Nagai他の「Electrostatic Lens and Method for Producing the Same」という名称の米国特許第5,444,256号明細書、およびLapradeの「Conductive Tube for Use as a Reflectron Lens」という名称の米国特許第7,154,086号明細書に記載されている。クロム・イオン・ビームを形成する一実施形態では、管230の長さが約265mm、外径が約25mm、内径が約125mmである。穴228の直径は4mmであり、管230の端は、極板224の内側の表面から0.4mm下に配置される。いくつかの実施形態では、管230の近端が極板224の内側の表面に電気的に接続される。他の実施形態では、管230の近端が別個の電源に接続されうる。
【0029】
いくつかの実施形態では、抵抗管内の電界が、源電極220と引出し電極224の間の均一な電界と同じになるように、源電極220、引出し電極224および管230の両端に印加する電圧が選択される。これらの2つの領域の電界は等しく、反射アルミニウム電極と抵抗管の始まりとの間の間隔は小さいため、本質的に、極板間の領域から抵抗管内へイオンが移動するときにレンジングは起こらない。しかしながら、イオンは、抵抗管を出るときに、比較的に弱い発散レンズにさらされる。一実施形態では、管出口と集束光学部品の間の自由飛行距離が100mm未満である。したがって、集束レンズにおけるイオン・ビームの直径は、一般に10μmに設定された源幅のそれに非常に近いはずである。
【0030】
イオンの加速は、イオンが生成される原子集団の領域とターゲットの間の電位差によって決まる。管電極の遠端は一般に、ターゲットと同じ電位、すなわちグランド電位にある。ただし、管電極の遠端に印加される電圧は、用途によって異なることがある。電圧降下の一部、したがって加速の一部は、源と引出し電極の間で起こり、一部は、引出し電極と管230の遠端の間で起こる。一実施形態では、源と引出し電極の間の距離、管電極の長さおよび電極に印加される電圧が、加速電極を出るイオンが実質的に平行になるような電界を発生させるように調整される。当業者は、特定の用途に対して適当な電圧および寸法を、シミュレーション、光線追跡、計算および実験によって容易に決定することができる。
【0031】
上述のシステム幾何形状の1つの用途では、源電極220と引出し電極226の間の電圧が100Vであり、そのため、電極間の平均的な中間部分(average midway)で生成されたイオンは、50eVの平均エネルギーで穴228から出てくる。管の両端間の電圧は例えば2000Vである。源電極は2100Vにバイアスされ、そのため、引出し電極および管230の上端の電圧は2000Vであり、管230の遠端は接地される。
【0032】
好ましい一実施形態では、イオンの加速の大部分が、引出し電極の外側であって加速電極内で起こる。いくつかの実施形態では、加速の50%超、75%超、90%超、95%超または97.5%超が引出し電極の外側で起こる。
【0033】
図4は、好ましい集束光学部品400が、3つの部分、すなわち2軸ダイポール偏向器402、3要素アインツェル・レンズ404および2次電子検出用のチャンネル−電子増倍管406からなることを示している。イオン・ビーム経路上にはビーム制限絞りがないことが好ましい。一実施形態では、偏向器極板電圧402が、範囲100V、整定時間50μsの高速増幅器によって供給される。増幅器上のこの電圧範囲は、数ナノメートルから数ミリメートルまでの範囲でビームを偏向させる。
【0034】
図5は、本発明を具体化する集束イオン・ビーム・システムを概略的に示す。MOTIS502内の極低温の原子集団の中でイオンが生成され、それらのイオンは、加速電極504内で、ターゲット512を画像化しまたは処理する所望のエネルギーまで加速される。加速電極504からイオン・ビーム506が出現し、このイオン・ビームは、偏向器508によってターゲット上に位置決めされ、走査される。対物レンズ510、好ましくは静電アインツェル・レンズが、試料ステージ514、好ましくは3軸精密ステージ上に配置されたターゲット512上にイオン・ビーム506を集束させる。イオン・ビーム506が衝突すると、ターゲットから、電子およびイオンである2次荷電粒子520が放出され、これらの2次粒子が、シンチレータ−光電子増倍管、マルチチャンネル・プレートなどの粒子検出器516によって検出される。
【0035】
1つの実験では、マイクロチャンネル・プレートおよび蛍光面を備えるターゲット上に、レンズの近い方の表面からターゲットまでの距離と定義される作動距離28mmでイオンを投射し、または作動距離が17mmになるように取り付けられた試料ステージ上にイオンを投射した。これらのターゲットからの2次イオンのカウント数は、0.2pAのイオン・ビームで最大2×105s−1であった。
【0036】
図6Aおよび6Bは、本発明の一実施形態に従ってクロム・イオン・ビームを使用して異なる2つの倍率で形成した10μmの細孔を有するマイクロチャンネル・プレートの画像を示す。ビーム・エネルギーは2keV、ビーム・サイズは250nmである。この画像は300×300画素であり、90秒かけて撮影した。プレートの10μmの細孔がはっきりと分解されており、分解能およびコントラストが良好であることを示している。図7Aおよび7Bは、ビーム・エネルギー2keVのリチウム・イオン・ビームを使用して異なる2つの倍率で形成したプレートの画像を示す。
【0037】
上述の好ましい実施形態はクロム源を使用しているが、他の好ましい実施形態はさまざまなタイプのイオンを使用する。MOTISは、レーザ冷却に適した電子遷移を有する元素として図9に示した元素、すなわちMOTISで容易に使用することができる元素のうちの任意の元素を使用することができる。
【0038】
リチウム源は、イオン・ビーム画像を形成するのに特に有用であると考えられる。上述の好ましい実施形態はMOT源を使用しているが、本発明は、仮想(virtual)イオン源が数百ナノメートルよりも大きい分散源、すなわち非点イオン源を使用する他のイオン・ビーム・システムにおいても有用であると考えられる。
【0039】
したがって、本発明の一態様は、試料ステージ上の試料へと導かれる集束イオン・ビームにイオンを供給するイオン源であって、
極低温の中性原子を含む源領域と、
源領域の一方の側にある源電極と、
源電極から見て源領域の反対側にあり、穴を有する引出し電極とを備え、源電極および引出し電極が、ある源電界強度を有する源電界を源領域に亘って発生させ、
極低温の中性原子の少なくとも一部をイオン化してイオンを生成するエネルギー源を備え、これらのイオンが、源電界によって加速されて前記穴を通過し、
引出し電極の穴からイオンを受け取り、それらのイオンを加速する抵抗管であり、この管に沿って電位が異なる抵抗管を備えるイオン源を含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、抵抗管の一方の端が、引出し電極と実質的に同じ電位にあり、抵抗管のもう一方の端が、ターゲットと実質的に同じ電位にある。
【0041】
いくつかの実施形態では、抵抗管を出るイオンが実質的に平行である。
【0042】
いくつかの実施形態では、引出し電極と抵抗管が共同して共同してイオンを収束または発散させて、絶対値が250mmよりも大きい、1000mmよりも大きい、または10,000mmよりも大きい正または負のイオン焦点距離を提供することによって、実質的に平行なイオンが生成される。
【0043】
いくつかの実施形態では、イオンが、源領域内で加速され、抵抗管内でさらに加速され、抵抗管内の電界によって生じるイオンのエネルギー変化が、源領域内の電界によって生じるエネルギー変化の少なくとも10倍である。
【0044】
いくつかの実施形態では、源領域が、中性原子を減速し、捕獲する磁気光学トラップを含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、抵抗管が、引出し電極の5mm以内のところから、源電極の方向から遠ざかる方向へ延びる。
【0046】
いくつかの実施形態では、抵抗管が、抵抗コーティングを有する絶縁管を含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、引出し電極と抵抗管が共同してイオンを収束もしくは発散させ、または絶対値が50mmよりも大きい正もしくは負のイオン焦点距離を与える。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態は、試料ステージ上の試料へと導かれる集束イオン・ビームにイオンを供給するイオン源であって、
極低温の中性原子を含む源領域と、
源領域の一方の側にある源電極と、
源電極から見て源領域の反対側にあり、穴を有する引出し電極とを備え、源電極および引出し電極が、ある源電界強度を有する源電界を源領域に亘って発生させ、
極低温の中性原子の少なくとも一部をイオン化してイオンを生成するエネルギー源を備え、これらのイオンが、源電界によって加速されて前記穴を通過し、
穴を有する引出し電極から延び、延長電界を発生させる少なくとも1つの延長電極であり、穴を過ぎた直後の延長電界の強度と源電界の強度の差が30パーセント未満であり、それによってイオンが源領域を出るときの集束効果を低減させ、または排除する、少なくとも1つの延長電極を備えるイオン源を含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、源領域が、中性原子を減速し、捕獲する磁気光学トラップを含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つの加速電極が、引出し電極の近くから、源電極から遠ざかる方向へ延びる抵抗管を含む。
【0051】
いくつかの実施形態では、抵抗管の引出し電極に最も近い端の電位と引出し電極の電位との差が20パーセント未満である。
【0052】
いくつかの実施形態では、引出し電極に最も近い抵抗管が、引出し電極とほぼ同じ電位にある。
【0053】
いくつかの実施形態では、システムがさらに、試料にイオン・ビームを集束させるイオン集束レンズを備え、引出し電極から最も遠い抵抗管の電位端が、試料とほぼ同じ電位にある。
【0054】
いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つの加速電極が一連の電極を含み、イオン源がさらに、源領域から電極が遠くなるにつれて小さくなる電圧を前記一連の電極に供給する電圧源をさらに備える。
【0055】
いくつかの実施形態では、本発明が、試料ステージ上の試料へと導かれる集束イオン・ビームにイオンを供給するイオン源であって、
イオンを供給する源領域と、
分散源領域に電位を与える1つまたは複数の電極と、
穴を有し、源領域からイオンを引き出す電界を発生させる引出し電極と、
引出し電極の穴からイオンを受け取り、それらのイオンを加速する加速電極であり、この電極管に沿った異なる点の電位が異なる加速電極とを備えるイオン源を含む。
【0056】
いくつかの実施形態では、加速電極が、源領域のサイズの5倍よりも大きな距離にわたってイオンを加速する。
【0057】
本発明はさらに、上記のイオン源のうちの任意のイオン源と、源領域から引き出されたイオン・ビームを偏向させる偏向電極と、試料ホルダ上の試料にイオン・ビームを集束させる集束レンズとを備える集束イオン・ビーム・システムを含む。いくつかの実施形態では、集束イオン・ビーム・システムが、引出し電極と試料ホルダの間に配置されたビーム画定絞りを持たない。
【0058】
本発明および本発明の利点を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲によって定義された本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に、さまざまな変更、置換および改変を加えることができることを理解すべきである。さらに、本出願の範囲が、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法およびステップの特定の実施形態に限定されることは意図されていない。当業者なら本発明の開示から容易に理解するように、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を実行し、または実質的に同じ結果を達成する既存のまたは今後開発されるプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを、本発明に従って利用することができる。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、このようなプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを含むことが意図されている。
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照によって本明細書に組み込まれる2009年9月18日に出願した米国特許仮出願第61/243,572号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は荷電粒子ビーム・システムに関し、特に、分散イオン源を含むイオン・ビーム・システムにおいて有用である。
【背景技術】
【0003】
約30年の間、高分解能集束イオン・ビーム(FIB)は、顕微鏡法、リソグラフィ、微細機械加工(イオン・ミリングおよび材料の付着)、ドーパント注入などのさまざまな作業に役立つことが証明されてきた。長年にわたり、気相電界イオン化源、プラズマ源および液体金属源を含む、集束イオン・ビーム用のいくつかのイオン源が開発された。これまでに開発された全ての源の中で、液体金属イオン源(LMI)は最も有用な源であることが証明されており、現在、最も広範囲に使用されている。液体金属イオン源の有用性は基本的に、10nm程度のスポット・サイズを有し、同時に1pAから10pAの範囲の電流を維持している集束イオン・ビームの生成を可能にする、その非常に高い輝度に基づいている。これらの特性は、ある範囲の最新技術のナノテクノロジ作業を実行するのに必要な分解能およびイオン電流を、集束イオン・ビームに与える。
【0004】
広範囲に使用されているにもかかわらず、既存のイオン源は、より幅広い用途およびより高い分解能に向けた進歩を妨げる限界を有する。タングステン・チップを液体金属で濡らす必要があるため、液体金属イオン源で実現することができるイオン種の数はやや限られている。使用されている元素の中でGaが卓越した元素であることは明らかだが、Au、Al、BeおよびCsを含む他の種も実証されている。数eVを超える極めて大きなエネルギー幅(energy spread)も、液体金属イオン源の欠点である。この極めて大きなエネルギー幅は一般に、放出器の表面の非常に小さな放出エリアの近くで生じる空間電荷効果に起因していると考えられている。このエネルギーの広がりは、集束イオン・ビームを形成する集束光学部品内での色収差につながり、それによって達成可能な分解能を制限し、ビーム電流と分解能の間のトレードオフを強いる。気相電界イオン化源は、軽い元素を用いて動作することができ、1eV程度のより狭いエネルギー幅を有することで、これらの問題のうちのいくつかを解決するが、電流がかなり小さく、重い元素では機能せず、動作がより複雑である。プラズマ源も、液体金属イオン源の諸問題のうちのいくつかの問題を解決するが、プラズマ源の輝度は他の2つの源よりも数桁低い。液体金属源および気相源に関連した実用上の他の問題は、既存の源が高い輝度を有するためには有効源サイズがナノメートル規模である必要があることによって、源の位置の安定性に対する感度が非常に厳しくなることであり、この問題は、集束イオン・ビーム・システムの構造の問題になる。
【0005】
したがって、イオン、特に、例えばサイト・アナリシス(site analysis)、材料の付着または注入、材料のアブレーション、イオン顕微鏡法、2次イオン質量分析(SIMS)、イオン・ナノ機械加工などの幅広い多数の用途に適した集束イオン・ビームを発生させる改良されたシステムおよび方法が求められている。
【0006】
「Magneto−optical Trap Ion Source」という名称の米国特許出願公開第2008/0296483号明細書は、集束イオン・ビーム・システム向けの磁気光学トラップ・イオン源を記載している。米国特許出願公開第2008/0296483号明細書は、磁気光学トラップ(MOT)と、イオン化レーザと、引出し要素とを備えるシステムを記載している。磁気光学トラップは、極低温の(supercold)中性原子の集団または「雲(cloud)」を生成する。本明細書で使用するとき、「極低温の」は、10ミリケルビンよりも低温であることを意味する。図1は、一般的なMOT100を概略的に示す。レーザ・ビーム102が中性原子を減速させ、互いに反対方向に電流が流れている電磁石104が中性原子を捕獲して、雲106とする。
【0007】
磁気光学トラップ・イオン源(MOTIS)のイオン源としてMOTが使用されるときには、イオン化レーザがトラップ内の中性原子をイオン化し、それらのイオンが電界によって引き出され、イオン・ビームの形でターゲットに向かって加速される。雲の中の低温は、理論的には10nm以下のビーム分解能を可能にする優れた特性を有するイオン・ビームを与える。この源から生成される電流は、磁気光学トラップの動作パラメータに依存し、シングル・イオンズ・オンデマンド(single ions on demand)から100pA超までの範囲にわたることがある。この範囲は、従来のイオン源を使用することによって可能な範囲よりもはるかに広い。さらに、磁気光学トラップを使用することによって幅広い範囲の元素をレーザ冷却することができることにより、発生させ、イオン・ビームに集束させることができるイオン種のタイプおよび範囲は大幅に広がる。図9は、各種イオン源において使用することができる元素を示す周期表である。
【0008】
非点状源からのイオンを、結果として生じるビームのエネルギー幅を大きくすることなく加速することは難しい。イオン源の空間的な広がりが大きければ大きいほど、イオンを一点に集束させることは困難になる。プローブのサイズをより小さくし、このようなシステムが生み出すことができる理論上の分解能を達成するためには、システムの改良が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許仮出願第61/243,572号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0296483号明細書
【特許文献3】米国特許第5,444,256号明細書
【特許文献4】米国特許第7,154,086号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、集束荷電粒子ビームを形成する方法および装置、特に、分散イオン源から集束イオン・ビームを形成する方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
好ましい一実施形態は、分散イオン源からのイオンを最大数十キロボルト(kV)のエネルギーまで加速する静電位を生み出し、同時にエネルギー幅を小さく維持する電極構成を含む。この電極構成は、長い距離にわたってイオンを加速する。いくつかの実施形態では、この電極構成が、ビーム内のイオンを収束または発散させる静電レンジング(lensing)を低減させて、イオンが実質的に平行に電極を出るようにする。他の実施形態では、この電極構成がビームを収束または発散させ、所与の用途において分解能を最適化するのに必要な事項に応じて、長いまたは短い、正または負の焦点距離を提供することができる。
【0012】
以上では、以下の本発明の詳細な説明をより十分に理解できるように、本発明の特徴および技術上の利点をかなり広く概説した。以下では、本発明の追加の特徴および利点を説明する。開示される着想および特定の実施形態を、本発明の同じ目的を達成するために他の構造を変更しまたは設計するベースとして容易に利用することができることを当業者は理解すべきである。さらに、このような等価の構造は、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨および範囲を逸脱しないことを当業者は理解すべきである。
【0013】
次に、本発明および本発明の利点のより完全な理解のため、添付図面に関して書かれた以下の説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】中性イオン用の先行技術の磁気光学トラップを概略的に示す図である。
【図2】本発明の磁気光学イオン源および電極の好ましい一実施形態を示す図である。
【図3】クロム原子の捕獲および光イオン化に関連したエネルギー準位を示す図である。
【図4】イオン・ビームを偏向させ、試料の表面に集束させるイオン光学カラムの諸部分を示す図である。
【図5】図2の源および図4のイオン光学カラムの諸部分を使用した本発明の好ましいイオン・カラムを示す図である。
【図6A】クロム・イオン源を使用する本発明の一実施形態を使用して撮影した顕微鏡写真である。
【図6B】クロム・イオン源を使用する本発明の一実施形態を使用して撮影した顕微鏡写真である。
【図7A】リチウム・イオン源を使用する本発明の一実施形態を使用して撮影した顕微鏡写真である。
【図7B】リチウム・イオン源を使用する本発明の一実施形態を使用して撮影した顕微鏡写真である。
【図8】本発明の一実施形態について、スポットの標準偏差の幅を、ビーム・エネルギーに対して示すグラフである。
【図9】各種イオン源とともに容易に使用することができる元素を示すために印が付けられた周期表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
MOTISでは、イオン化レーザを、イオン・ビームの軸に平行に、またはイオン・ビームの軸に垂直に導くことができる。イオン化レーザをイオン・ビームの軸に対して垂直に向けた場合、イオンは、ビーム軸に垂直な線に沿って生成され、一部のイオンが光軸から離れた位置に生成されるため、試料上の一点にイオンを集束させることがより困難になる。イオン化レーザをビーム軸に沿って向けた場合、イオンは光軸に沿って生成されるが、雲を横切る電位の勾配があるため、トラップ内の異なる位置で生成されたイオンは、トラップを出るときに異なるエネルギーを有する。異なるエネルギーを有するイオンは異なる位置に集束し、すなわち、ビームが色収差を示し、これによってターゲットにおけるスポット・サイズが大きくなり、それにより分解能が低下する。
【0016】
電荷を持つイオンは互いに反発するため、イオンは、ビーム軸に垂直な速度成分を獲得し、これにより、非常に弱い引出し電界でイオンが集束することはますます困難になる。この機構が、源領域内で弱い電界を使用することによってエネルギー幅および関連する収差をどの程度まで低減することができるのかの下限を設定する。
【0017】
イオン源における電界を弱く維持することによって、小さなエネルギー幅および高い分解能を得ることができる。しかしながら、大部分の集束イオン・ビーム用途で求められる数keVまでイオンを加速する場合、MOTにおける電界を弱くすると、長い距離にわたって加速を実施すること、またはビーム経路に沿って源から離れるにつれて電界を強くすることが必要となる。良導体でできた従来の静電電極を使用して長距離にわたって加速を実施する場合、電界の均一性を保証するため、これらの電極の面積は、これらの電極を隔てる距離の2乗程度でなければならない。この電極構造は、多くの用途において非実用的に大きくなると思われるため、このことは好ましくない。その代わりに、より短い距離にわたってイオンを加速する場合には、ビームが強い静電レンジングを受ける。レンジングによって、イオンが、ターゲットよりも前のビーム経路上で集束する場合(いわゆる「クロスオーバ(cross−over)」)には、イオン間のクーロン力によってイオン・ビームの質が低下し、この場合も、ビームが再び集束したときのスポット・サイズが大きくなる。クロスオーバが生じることは望ましいことではないが、いくつかの実施形態では許容しうる設計上の妥協である。
【0018】
本発明の実施形態は、これらの問題に対処し、分散イオン源から高分解能ビームを生成する。本発明の実施形態は、源からイオンを引き出し、それらのイオンを好ましくは数keVまたは数十keVまで加速する電極構造を提供する。いくつかの実施形態では、好ましくは、源から出来するイオンが実質的に平行である、すなわち収束もまたは発散もしない。
【0019】
実質的に平行であるというのは、+250mmよりも大きい焦点距離または−250mmよりも小さい焦点距離が得られ、それでもイオンが2000eVまで加速されることを意味する。他の実施形態では、+1000mmよりも大きい焦点距離もしくは−1000mmよりも小さい焦点距離、または+10,000mmよりも大きい焦点距離もしくは−10,000mmよりも小さい焦点距離が得られ、同時にイオン・ビームが2000eVまで加速される。他の実施形態では、電極が、最後のレンズの前でビームをより強く発散させるレンズの働きをする。他の実施形態では、電極が、収束レンズの働きをする。
【0020】
いくつかの実施形態では、中性原子の雲を横切る源電界と、イオンが源領域を出た後でイオンを加速し続ける延長電界(extension electric field)とを提供することによって、分解能の向上が達成される。延長電界を源電界と本質的に等しくすることによって、等電位線の曲がりを減らし、または排除し、それによってレンジングを低減し、または排除することができる。「本質的に等しい」というのは、約30パーセント以内、より好ましくは約20パーセント以内、より好ましくは約10パーセント以内、最も好ましくは約5パーセント以内の差で、延長電界の強度が源電界の強度と同じであることを意味する。
【0021】
好ましい一実施形態では、イオン源が、2枚の平らな、好ましくは円盤形の電極間にある。これらの電極の表面は、全体にわたり均一な電位が印加される。この電位が、円盤を貫通する穴を有する一方の円盤に向かってイオンを加速する均一な電界を発生させるように、これらの円盤は十分に大きな直径を有する。穴を有する円盤は引出し電極と呼ばれる。もう一方の円盤は源電極と呼ばれる。これらの2枚の円盤形電極間の領域は源領域と呼ばれる。穴を通過した後、イオンは延長電界領域に入る。この延長電界領域は、長い管形の抵抗電極(resistive electrode)によって生成されることが好ましい。この電極は例えば、0でない低い導電率を有するドープされたガラスでできた管、または好ましくは均一な抵抗コーティングを内側または外側の表面に有する絶縁管を含むことができる。管の両端間に電位が印加されると、抵抗コーティングは、管の長さに沿って均一な電界を発生させる。管の長さは、円盤離隔距離の何倍もある。好ましい実施形態では、管の長さが、円盤離隔距離の5倍超、円盤離隔距離の10倍超、円盤離隔距離の20倍超または円盤離隔距離の25倍超である。
【0022】
装置の全長にわたって弱い均一な電界を維持することによって、源内におけるエネルギー幅を小さく維持することができ、レンジングが回避される。抵抗要素の使用は、均一な電界を発生させ、同時に、電極構造を、ビームの伝播方向に垂直な方向に沿ってコンパクトに保つことを可能にする。他の実施形態では、ほぼ均一な電界を発生させ、レンジングを低減するために、電位が徐々に低下する一連の電極が使用される。
【0023】
電界が半径方向に不均一であり、すなわち光軸に沿った電界と光軸から離れた位置の電界とが異なり、そのため、ビームの縁に近いイオンが光軸上のイオンとは異なる偏向を示し、それによって光軸から離れた位置のイオンが収束または発散するときに、荷電粒子は集束する。集束は例えば、電極の穴の周囲におけるフリンジング効果(fringing effect)によって起こる。より長い距離にわたって電圧降下を分散させ、試料の電位に近い電位まで電位を徐々に低下させることにより、加速電極はフリンジングを低減させ、または排除する。
【0024】
したがって、好ましい実施形態は、分散イオン源を加速し、同時にエネルギー幅を小さく維持し、いくつかの実施形態ではクロスオーバを防ぐことができるため、先行技術のシステムよりも高い分解能を提供することができる。好ましい実施形態は、イオン源が数百ナノメートルよりも大きい他のイオン・ビーム・システムで使用することもできる。
【0025】
好ましい実施形態は、サイズが10μmのイオン源について、リチウム・イオンを10keV以上のエネルギーまで加速し、同時にビームを平行に維持し、源のエネルギー幅を0.4eV未満に維持することを可能にする。
【0026】
MOTIS200の一実施形態のイオン生成領域およびイオン加速領域の概略図を図2に示す。MOTIS200は、原子ビームからのクロム原子、リチウム原子などの中性原子を捕捉し、冷却するMOTを含む。MOTISは、例えば参照によって本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2008/0296483号明細書に、より詳細に記載されている。MOTは、6本のレーザ・ビーム202(そのうちの4本が示されており、図示されてないビームは、図面に入り込む方向および図面から出て行く方向に入射する)と、逆向きに配置された一対のリング形高磁界永久NdFeB磁石(図示せず)によって形成された4重極磁界の零点とが交わることによって形成される。一実施形態では、これらの磁石の外径が75mm、内径が38mm、厚さが25mm、B1=1.3Tである。215mm離して配置したとき、これらの磁石は、磁化軸に沿って0.16Tm−1、磁化軸に垂直な平面内で0.08Tm−1の勾配を生み出す。
【0027】
レーザ光は、ダイオード励起固体レーザ(図示せず)によって励起(pumping)されたTi:サファイア・レーザ(図示せず)の出力の第2高調波発生によって生成される。原子トラップを形成するためには、公称1/e2直径4mmの6本のレーザ・ビームがそれぞれ数ミリワットであれば十分である。レーザ・ビームは、冷却に使用されている電子エネルギー遷移準位よりもほんの少し低く調整される。例えば図3は、冷却および光イオン化に関連したクロムのエネルギー準位を示す。クロム・イオンを捕獲するとき、レーザ・ビームは、425nmにおけるCrの7S3→7P4遷移よりもほんの少し低く調整される。捕獲された低温のクロム原子集団または雲204は概ね球状の対称形であり、磁界勾配、レーザ・ビームの強度、離調およびアライメントに応じて50μmから500μmの標準偏差半径を有するガウス密度プロファイルに近い密度プロファイルを有する。捕獲された原子の温度は、レーザ光をオフにし、しばらくの間、原子を自由に膨張させることによって測定することができる。原子分布の膨張速度から推測した一実施形態における温度は100±15μKであった。イオン化レーザ・ビーム206を集束させて、イオン・ビーム軸に沿ってMOTに通す(軸方向イオン化)。イオン化レーザ・ビーム206は、標準偏差5μm(1/e2直径20μm)の本質的にガウス・ビームのウェスト(waist)を有する。
【0028】
イオン210は、15mm隔てられた平行な2枚の極板によって生成された電界の中に引き出される。第1の極板である源電極220は、酸化インジウムスズ(ITO)などの材料でできた透明な導電性コーティング222を有する溶融シリカ窓からなる。第2の極板である引出し極板224は、反射アルミニウムコーティング226を有する厚さ約100μmのケイ素電極を含む。引出し極板224は中心に、イオンが通過する穴228を有する。イオンは、抵抗管(resistive tube)230などの加速電極内で、その最終的なエネルギーまで加速される。加速電極の始まりは、ケイ素電極224の内側の表面のすぐ下にあり、加速電極の遠端は接地されている。抵抗管は公知であり、例えば、ドープされたガラスを使用することによって、または絶縁ガラス管の内側に抵抗コーティングを付着させることによって製作することができる。抵抗管電極は例えば、Nagai他の「Electrostatic Lens and Method for Producing the Same」という名称の米国特許第5,444,256号明細書、およびLapradeの「Conductive Tube for Use as a Reflectron Lens」という名称の米国特許第7,154,086号明細書に記載されている。クロム・イオン・ビームを形成する一実施形態では、管230の長さが約265mm、外径が約25mm、内径が約125mmである。穴228の直径は4mmであり、管230の端は、極板224の内側の表面から0.4mm下に配置される。いくつかの実施形態では、管230の近端が極板224の内側の表面に電気的に接続される。他の実施形態では、管230の近端が別個の電源に接続されうる。
【0029】
いくつかの実施形態では、抵抗管内の電界が、源電極220と引出し電極224の間の均一な電界と同じになるように、源電極220、引出し電極224および管230の両端に印加する電圧が選択される。これらの2つの領域の電界は等しく、反射アルミニウム電極と抵抗管の始まりとの間の間隔は小さいため、本質的に、極板間の領域から抵抗管内へイオンが移動するときにレンジングは起こらない。しかしながら、イオンは、抵抗管を出るときに、比較的に弱い発散レンズにさらされる。一実施形態では、管出口と集束光学部品の間の自由飛行距離が100mm未満である。したがって、集束レンズにおけるイオン・ビームの直径は、一般に10μmに設定された源幅のそれに非常に近いはずである。
【0030】
イオンの加速は、イオンが生成される原子集団の領域とターゲットの間の電位差によって決まる。管電極の遠端は一般に、ターゲットと同じ電位、すなわちグランド電位にある。ただし、管電極の遠端に印加される電圧は、用途によって異なることがある。電圧降下の一部、したがって加速の一部は、源と引出し電極の間で起こり、一部は、引出し電極と管230の遠端の間で起こる。一実施形態では、源と引出し電極の間の距離、管電極の長さおよび電極に印加される電圧が、加速電極を出るイオンが実質的に平行になるような電界を発生させるように調整される。当業者は、特定の用途に対して適当な電圧および寸法を、シミュレーション、光線追跡、計算および実験によって容易に決定することができる。
【0031】
上述のシステム幾何形状の1つの用途では、源電極220と引出し電極226の間の電圧が100Vであり、そのため、電極間の平均的な中間部分(average midway)で生成されたイオンは、50eVの平均エネルギーで穴228から出てくる。管の両端間の電圧は例えば2000Vである。源電極は2100Vにバイアスされ、そのため、引出し電極および管230の上端の電圧は2000Vであり、管230の遠端は接地される。
【0032】
好ましい一実施形態では、イオンの加速の大部分が、引出し電極の外側であって加速電極内で起こる。いくつかの実施形態では、加速の50%超、75%超、90%超、95%超または97.5%超が引出し電極の外側で起こる。
【0033】
図4は、好ましい集束光学部品400が、3つの部分、すなわち2軸ダイポール偏向器402、3要素アインツェル・レンズ404および2次電子検出用のチャンネル−電子増倍管406からなることを示している。イオン・ビーム経路上にはビーム制限絞りがないことが好ましい。一実施形態では、偏向器極板電圧402が、範囲100V、整定時間50μsの高速増幅器によって供給される。増幅器上のこの電圧範囲は、数ナノメートルから数ミリメートルまでの範囲でビームを偏向させる。
【0034】
図5は、本発明を具体化する集束イオン・ビーム・システムを概略的に示す。MOTIS502内の極低温の原子集団の中でイオンが生成され、それらのイオンは、加速電極504内で、ターゲット512を画像化しまたは処理する所望のエネルギーまで加速される。加速電極504からイオン・ビーム506が出現し、このイオン・ビームは、偏向器508によってターゲット上に位置決めされ、走査される。対物レンズ510、好ましくは静電アインツェル・レンズが、試料ステージ514、好ましくは3軸精密ステージ上に配置されたターゲット512上にイオン・ビーム506を集束させる。イオン・ビーム506が衝突すると、ターゲットから、電子およびイオンである2次荷電粒子520が放出され、これらの2次粒子が、シンチレータ−光電子増倍管、マルチチャンネル・プレートなどの粒子検出器516によって検出される。
【0035】
1つの実験では、マイクロチャンネル・プレートおよび蛍光面を備えるターゲット上に、レンズの近い方の表面からターゲットまでの距離と定義される作動距離28mmでイオンを投射し、または作動距離が17mmになるように取り付けられた試料ステージ上にイオンを投射した。これらのターゲットからの2次イオンのカウント数は、0.2pAのイオン・ビームで最大2×105s−1であった。
【0036】
図6Aおよび6Bは、本発明の一実施形態に従ってクロム・イオン・ビームを使用して異なる2つの倍率で形成した10μmの細孔を有するマイクロチャンネル・プレートの画像を示す。ビーム・エネルギーは2keV、ビーム・サイズは250nmである。この画像は300×300画素であり、90秒かけて撮影した。プレートの10μmの細孔がはっきりと分解されており、分解能およびコントラストが良好であることを示している。図7Aおよび7Bは、ビーム・エネルギー2keVのリチウム・イオン・ビームを使用して異なる2つの倍率で形成したプレートの画像を示す。
【0037】
上述の好ましい実施形態はクロム源を使用しているが、他の好ましい実施形態はさまざまなタイプのイオンを使用する。MOTISは、レーザ冷却に適した電子遷移を有する元素として図9に示した元素、すなわちMOTISで容易に使用することができる元素のうちの任意の元素を使用することができる。
【0038】
リチウム源は、イオン・ビーム画像を形成するのに特に有用であると考えられる。上述の好ましい実施形態はMOT源を使用しているが、本発明は、仮想(virtual)イオン源が数百ナノメートルよりも大きい分散源、すなわち非点イオン源を使用する他のイオン・ビーム・システムにおいても有用であると考えられる。
【0039】
したがって、本発明の一態様は、試料ステージ上の試料へと導かれる集束イオン・ビームにイオンを供給するイオン源であって、
極低温の中性原子を含む源領域と、
源領域の一方の側にある源電極と、
源電極から見て源領域の反対側にあり、穴を有する引出し電極とを備え、源電極および引出し電極が、ある源電界強度を有する源電界を源領域に亘って発生させ、
極低温の中性原子の少なくとも一部をイオン化してイオンを生成するエネルギー源を備え、これらのイオンが、源電界によって加速されて前記穴を通過し、
引出し電極の穴からイオンを受け取り、それらのイオンを加速する抵抗管であり、この管に沿って電位が異なる抵抗管を備えるイオン源を含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、抵抗管の一方の端が、引出し電極と実質的に同じ電位にあり、抵抗管のもう一方の端が、ターゲットと実質的に同じ電位にある。
【0041】
いくつかの実施形態では、抵抗管を出るイオンが実質的に平行である。
【0042】
いくつかの実施形態では、引出し電極と抵抗管が共同して共同してイオンを収束または発散させて、絶対値が250mmよりも大きい、1000mmよりも大きい、または10,000mmよりも大きい正または負のイオン焦点距離を提供することによって、実質的に平行なイオンが生成される。
【0043】
いくつかの実施形態では、イオンが、源領域内で加速され、抵抗管内でさらに加速され、抵抗管内の電界によって生じるイオンのエネルギー変化が、源領域内の電界によって生じるエネルギー変化の少なくとも10倍である。
【0044】
いくつかの実施形態では、源領域が、中性原子を減速し、捕獲する磁気光学トラップを含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、抵抗管が、引出し電極の5mm以内のところから、源電極の方向から遠ざかる方向へ延びる。
【0046】
いくつかの実施形態では、抵抗管が、抵抗コーティングを有する絶縁管を含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、引出し電極と抵抗管が共同してイオンを収束もしくは発散させ、または絶対値が50mmよりも大きい正もしくは負のイオン焦点距離を与える。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態は、試料ステージ上の試料へと導かれる集束イオン・ビームにイオンを供給するイオン源であって、
極低温の中性原子を含む源領域と、
源領域の一方の側にある源電極と、
源電極から見て源領域の反対側にあり、穴を有する引出し電極とを備え、源電極および引出し電極が、ある源電界強度を有する源電界を源領域に亘って発生させ、
極低温の中性原子の少なくとも一部をイオン化してイオンを生成するエネルギー源を備え、これらのイオンが、源電界によって加速されて前記穴を通過し、
穴を有する引出し電極から延び、延長電界を発生させる少なくとも1つの延長電極であり、穴を過ぎた直後の延長電界の強度と源電界の強度の差が30パーセント未満であり、それによってイオンが源領域を出るときの集束効果を低減させ、または排除する、少なくとも1つの延長電極を備えるイオン源を含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、源領域が、中性原子を減速し、捕獲する磁気光学トラップを含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つの加速電極が、引出し電極の近くから、源電極から遠ざかる方向へ延びる抵抗管を含む。
【0051】
いくつかの実施形態では、抵抗管の引出し電極に最も近い端の電位と引出し電極の電位との差が20パーセント未満である。
【0052】
いくつかの実施形態では、引出し電極に最も近い抵抗管が、引出し電極とほぼ同じ電位にある。
【0053】
いくつかの実施形態では、システムがさらに、試料にイオン・ビームを集束させるイオン集束レンズを備え、引出し電極から最も遠い抵抗管の電位端が、試料とほぼ同じ電位にある。
【0054】
いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つの加速電極が一連の電極を含み、イオン源がさらに、源領域から電極が遠くなるにつれて小さくなる電圧を前記一連の電極に供給する電圧源をさらに備える。
【0055】
いくつかの実施形態では、本発明が、試料ステージ上の試料へと導かれる集束イオン・ビームにイオンを供給するイオン源であって、
イオンを供給する源領域と、
分散源領域に電位を与える1つまたは複数の電極と、
穴を有し、源領域からイオンを引き出す電界を発生させる引出し電極と、
引出し電極の穴からイオンを受け取り、それらのイオンを加速する加速電極であり、この電極管に沿った異なる点の電位が異なる加速電極とを備えるイオン源を含む。
【0056】
いくつかの実施形態では、加速電極が、源領域のサイズの5倍よりも大きな距離にわたってイオンを加速する。
【0057】
本発明はさらに、上記のイオン源のうちの任意のイオン源と、源領域から引き出されたイオン・ビームを偏向させる偏向電極と、試料ホルダ上の試料にイオン・ビームを集束させる集束レンズとを備える集束イオン・ビーム・システムを含む。いくつかの実施形態では、集束イオン・ビーム・システムが、引出し電極と試料ホルダの間に配置されたビーム画定絞りを持たない。
【0058】
本発明および本発明の利点を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲によって定義された本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に、さまざまな変更、置換および改変を加えることができることを理解すべきである。さらに、本出願の範囲が、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法およびステップの特定の実施形態に限定されることは意図されていない。当業者なら本発明の開示から容易に理解するように、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を実行し、または実質的に同じ結果を達成する既存のまたは今後開発されるプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを、本発明に従って利用することができる。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、このようなプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを含むことが意図されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ステージ上の試料へと導かれる集束イオン・ビームにイオンを供給するイオン源であって、
極低温の中性原子を含む源領域と、
前記源領域の一方の側にある源電極と、
前記源電極を形成する前記源領域の反対側にあり、穴を有する引出し電極と
を備え、前記源電極および前記引出し電極が、ある源電界強度を有する源電界を前記源領域に亘って発生させ、
前記極低温の中性原子の少なくとも一部をイオン化してイオンを生成するエネルギー源を備え、前記イオンが、前記源電界によって加速されて前記穴を通過し、
前記引出し電極の前記穴からイオンを受け取り、前記イオンを加速する抵抗管であり、この管に沿って電位が異なる抵抗管を備えるイオン源。
【請求項2】
前記抵抗管の一方の端が、前記引出し電極と実質的に同じ電位にあり、前記抵抗管のもう一方の端が、前記ターゲットと実質的に同じ電位にある、請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記抵抗管を出るイオンが実質的に平行である、請求項1に記載のイオン源。
【請求項4】
前記引出し電極と前記抵抗管が共同して前記イオンを収束または発散させて、絶対値が250mmよりも大きい正または負のイオン焦点距離を与える、請求項3に記載のイオン源。
【請求項5】
前記引出し電極と前記抵抗管が共同して前記イオンを収束もしくは発散させ、または絶対値が1000mmよりも大きい正もしくは負のイオン焦点距離を与える、請求項3に記載のイオン源。
【請求項6】
イオンが、前記源領域内で加速され、前記抵抗管内でさらに加速され、前記抵抗管内の電界によって生じる前記イオンのエネルギー変化が、前記源領域内の前記電界によって生じるエネルギー変化の少なくとも10倍である、請求項1に記載のイオン源。
【請求項7】
前記源領域が、前記中性原子を減速し、捕獲する磁気光学トラップを含む、請求項1に記載のイオン源。
【請求項8】
前記抵抗管が、前記引出し電極の5mm以内のところから、源電極の方向から遠ざかる方向へ延びる、請求項1に記載のイオン源。
【請求項9】
前記抵抗管が、抵抗コーティングを有する絶縁管を含む、請求項1に記載のイオン源。
【請求項10】
前記引出し電極と前記抵抗管が共同して前記イオンを収束もしくは発散させ、または絶対値が50mmよりも大きい正もしくは負のイオン焦点距離を与える、請求項1に記載のイオン源。
【請求項11】
請求項1に記載のイオン源と、
前記源領域から引き出された前記イオン・ビームを偏向させる偏向電極と、
試料ホルダ上の試料に前記イオン・ビームを集束させる集束レンズと
を備える集束イオン・ビーム・システム。
【請求項12】
前記引出し電極と前記試料ホルダの間にビーム画定絞りが配置されていない、請求項11に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項13】
試料ステージ上の試料へと導かれる集束イオン・ビームにイオンを供給するイオン源であって、
極低温の中性原子を含む源領域と、
前記源領域の一方の側にある源電極と、
前記源電極から見て前記源領域の反対側にあり、穴を有する引出し電極と
を備え、前記源電極および前記引出し電極が、ある源電界強度を有する源電界を前記源領域に亘って発生させ、
前記極低温の中性原子の少なくとも一部をイオン化してイオンを生成するエネルギー源を備え、前記イオンが、前記源電界によって加速されて前記穴を通過し、
前記穴を有する前記電極から延び、延長電界を発生させ、前記穴を過ぎた直後の前記延長電界の強度と前記源電界の強度の差が30パーセントレンズであり、それによってイオンが前記源領域を出るときの集束効果を低減させ、または排除する、少なくとも1つの延長電極を備えるイオン源。
【請求項14】
前記源領域が、前記中性原子を減速し、捕獲する磁気光学トラップを含む、請求項13に記載のイオン源。
【請求項15】
前記少なくとも1つの加速電極が、前記引出し電極の近くから、前記源電極から遠ざかる方向へ延びる抵抗管を含む、請求項13に記載のイオン源。
【請求項16】
前記抵抗管が、抵抗コーティングを有する絶縁管を含む、請求項15に記載のイオン源。
【請求項17】
前記抵抗管の前記引出し電極に最も近い端の電位と前記引出し電極の電位との差が20パーセント未満である、請求項15に記載のイオン源。
【請求項18】
前記抵抗管の前記引出し電極に最も近い端が、前記引出し電極とほぼ同じ電位にある、請求項17に記載のイオン源。
【請求項19】
システムがさらに、前記試料に前記イオン・ビームを集束させるイオン集束レンズを備え、前記抵抗管の前記引出し電極から最も遠い電位端が、前記試料とほぼ同じ電位にある、請求項15に記載のイオン源。
【請求項20】
前記少なくとも1つの加速電極が一連の電極を含み、前記イオン源がさらに、前記電極が前記源領域から離れるにつれて小さくなる電圧を前記一連の電極に供給する電圧源を備える、請求項1に記載のイオン源。
【請求項21】
試料ステージ上の試料へと導かれる集束イオン・ビームにイオンを供給するイオン源であって、
イオンを供給する源領域と、
前記分散源領域に電位を与える1つまたは複数の電極と、
穴を有し、前記源領域からイオンを引き出す電界を発生させる引出し電極と、
前記引出し電極の前記穴からイオンを受け取り、前記イオンを加速する加速電極であり、この電極管に沿った異なる点の電位が異なる加速電極と
を備えるイオン源。
【請求項22】
前記加速電極が抵抗管である、請求項21に記載のイオン源。
【請求項23】
前記抵抗管を出るイオンが実質的に平行である、請求項21に記載のイオン源。
【請求項24】
前記抵抗管を出るイオン・ビームが発散している、請求項21に記載のイオン源。
【請求項25】
前記加速電極が、前記源領域のサイズの5倍よりも大きな距離にわたって前記イオンを加速する、請求項21に記載のイオン源。
【請求項26】
請求項1に記載のイオン源を含む集束イオン・ビーム・システム。
【請求項1】
試料ステージ上の試料へと導かれる集束イオン・ビームにイオンを供給するイオン源であって、
極低温の中性原子を含む源領域と、
前記源領域の一方の側にある源電極と、
前記源電極を形成する前記源領域の反対側にあり、穴を有する引出し電極と
を備え、前記源電極および前記引出し電極が、ある源電界強度を有する源電界を前記源領域に亘って発生させ、
前記極低温の中性原子の少なくとも一部をイオン化してイオンを生成するエネルギー源を備え、前記イオンが、前記源電界によって加速されて前記穴を通過し、
前記引出し電極の前記穴からイオンを受け取り、前記イオンを加速する抵抗管であり、この管に沿って電位が異なる抵抗管を備えるイオン源。
【請求項2】
前記抵抗管の一方の端が、前記引出し電極と実質的に同じ電位にあり、前記抵抗管のもう一方の端が、前記ターゲットと実質的に同じ電位にある、請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記抵抗管を出るイオンが実質的に平行である、請求項1に記載のイオン源。
【請求項4】
前記引出し電極と前記抵抗管が共同して前記イオンを収束または発散させて、絶対値が250mmよりも大きい正または負のイオン焦点距離を与える、請求項3に記載のイオン源。
【請求項5】
前記引出し電極と前記抵抗管が共同して前記イオンを収束もしくは発散させ、または絶対値が1000mmよりも大きい正もしくは負のイオン焦点距離を与える、請求項3に記載のイオン源。
【請求項6】
イオンが、前記源領域内で加速され、前記抵抗管内でさらに加速され、前記抵抗管内の電界によって生じる前記イオンのエネルギー変化が、前記源領域内の前記電界によって生じるエネルギー変化の少なくとも10倍である、請求項1に記載のイオン源。
【請求項7】
前記源領域が、前記中性原子を減速し、捕獲する磁気光学トラップを含む、請求項1に記載のイオン源。
【請求項8】
前記抵抗管が、前記引出し電極の5mm以内のところから、源電極の方向から遠ざかる方向へ延びる、請求項1に記載のイオン源。
【請求項9】
前記抵抗管が、抵抗コーティングを有する絶縁管を含む、請求項1に記載のイオン源。
【請求項10】
前記引出し電極と前記抵抗管が共同して前記イオンを収束もしくは発散させ、または絶対値が50mmよりも大きい正もしくは負のイオン焦点距離を与える、請求項1に記載のイオン源。
【請求項11】
請求項1に記載のイオン源と、
前記源領域から引き出された前記イオン・ビームを偏向させる偏向電極と、
試料ホルダ上の試料に前記イオン・ビームを集束させる集束レンズと
を備える集束イオン・ビーム・システム。
【請求項12】
前記引出し電極と前記試料ホルダの間にビーム画定絞りが配置されていない、請求項11に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項13】
試料ステージ上の試料へと導かれる集束イオン・ビームにイオンを供給するイオン源であって、
極低温の中性原子を含む源領域と、
前記源領域の一方の側にある源電極と、
前記源電極から見て前記源領域の反対側にあり、穴を有する引出し電極と
を備え、前記源電極および前記引出し電極が、ある源電界強度を有する源電界を前記源領域に亘って発生させ、
前記極低温の中性原子の少なくとも一部をイオン化してイオンを生成するエネルギー源を備え、前記イオンが、前記源電界によって加速されて前記穴を通過し、
前記穴を有する前記電極から延び、延長電界を発生させ、前記穴を過ぎた直後の前記延長電界の強度と前記源電界の強度の差が30パーセントレンズであり、それによってイオンが前記源領域を出るときの集束効果を低減させ、または排除する、少なくとも1つの延長電極を備えるイオン源。
【請求項14】
前記源領域が、前記中性原子を減速し、捕獲する磁気光学トラップを含む、請求項13に記載のイオン源。
【請求項15】
前記少なくとも1つの加速電極が、前記引出し電極の近くから、前記源電極から遠ざかる方向へ延びる抵抗管を含む、請求項13に記載のイオン源。
【請求項16】
前記抵抗管が、抵抗コーティングを有する絶縁管を含む、請求項15に記載のイオン源。
【請求項17】
前記抵抗管の前記引出し電極に最も近い端の電位と前記引出し電極の電位との差が20パーセント未満である、請求項15に記載のイオン源。
【請求項18】
前記抵抗管の前記引出し電極に最も近い端が、前記引出し電極とほぼ同じ電位にある、請求項17に記載のイオン源。
【請求項19】
システムがさらに、前記試料に前記イオン・ビームを集束させるイオン集束レンズを備え、前記抵抗管の前記引出し電極から最も遠い電位端が、前記試料とほぼ同じ電位にある、請求項15に記載のイオン源。
【請求項20】
前記少なくとも1つの加速電極が一連の電極を含み、前記イオン源がさらに、前記電極が前記源領域から離れるにつれて小さくなる電圧を前記一連の電極に供給する電圧源を備える、請求項1に記載のイオン源。
【請求項21】
試料ステージ上の試料へと導かれる集束イオン・ビームにイオンを供給するイオン源であって、
イオンを供給する源領域と、
前記分散源領域に電位を与える1つまたは複数の電極と、
穴を有し、前記源領域からイオンを引き出す電界を発生させる引出し電極と、
前記引出し電極の前記穴からイオンを受け取り、前記イオンを加速する加速電極であり、この電極管に沿った異なる点の電位が異なる加速電極と
を備えるイオン源。
【請求項22】
前記加速電極が抵抗管である、請求項21に記載のイオン源。
【請求項23】
前記抵抗管を出るイオンが実質的に平行である、請求項21に記載のイオン源。
【請求項24】
前記抵抗管を出るイオン・ビームが発散している、請求項21に記載のイオン源。
【請求項25】
前記加速電極が、前記源領域のサイズの5倍よりも大きな距離にわたって前記イオンを加速する、請求項21に記載のイオン源。
【請求項26】
請求項1に記載のイオン源を含む集束イオン・ビーム・システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2013−505545(P2013−505545A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529965(P2012−529965)
【出願日】平成22年9月20日(2010.9.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/049525
【国際公開番号】WO2011/035260
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(501419107)エフ・イ−・アイ・カンパニー (78)
【出願人】(512054160)ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ・アズ・リプレゼンテッド・バイ・ザ・セレクタリー・オブ・コマース・ザ・ナショナル・インスティテュート・オブ・スタンダーズ・アンド・テクノロジー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月20日(2010.9.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/049525
【国際公開番号】WO2011/035260
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(501419107)エフ・イ−・アイ・カンパニー (78)
【出願人】(512054160)ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ・アズ・リプレゼンテッド・バイ・ザ・セレクタリー・オブ・コマース・ザ・ナショナル・インスティテュート・オブ・スタンダーズ・アンド・テクノロジー (1)
【Fターム(参考)】
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