説明

分散型電源、配電設備及び電力供給方法

【課題】分散型電源と既存の配電系統とが連系して負荷に電力を供給する場合において、分散型電源から出力される有効電力に起因する連系点電圧の変動を抑制する。
【解決手段】既存の電力系統と連系して電力を負荷に供給する分散型電源であって、有効電力及び無効電力を発生して連系点に出力する電力発生手段と、前記有効電力に起因する連系点電圧の変動を抑制する無効電力の最適値を求め、有効電力に応じて前記最適値を出力するように前記電力発生手段を制御する制御手段とを具備し、前記制御手段は、前回の検出機会と今回の検出機会に取得した有効電力を基に有効電力が上昇状態にあると判定した場合、前記連系点に出力する無効電力を順次変化させて連系点電圧を検出し、該検出した連系点電圧が前記前回の検出機会に取得した連系点電圧と等しくなる無効電力を前記最適値として探索する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、分散型電源、配電設備及び電力供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、風力発電装置や太陽電池等の分散型電源が既存の配電系統と連系して需要者に電力を供給することが行われている。そして、このような分散型電源を電力系統に連系する場合の技術要件のうち、電圧、周波数等の電力品質を確保していくために必要な事項が、経済産業省から「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」として、策定されている。
【0003】
一方、電気事業者には、供給する電気の電圧が電気事業法及び経済産業省令によって維持すべき値として規定されており、上記ガイドラインでは、低圧需要家の電圧を適正値に維持するための対策として、分散型電源からの逆潮流により低圧需要家の電圧が適正値を逸脱して上昇するおそれがあるときは、分散型電源の進相無効電力制御機能または出力制御機能により自動的に電圧を調整する対策を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン(資源エネルギー庁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、既存の電力系統では、周知のように系統電圧を適正値に維持するために無効電力補償装置が用いられている。無効電力補償装置は、系統電流と系統電圧との位相差を調節することにより系統電力中の無効電力を調節して系統電圧を制御するものである。しかし、このような無効電力補償装置は比較的高価なものであり、上記ガイドラインでは、低コストが要求される分散型電源に無効電力補償装置を具備するのではなく、分散型電源の進相無効電力制御または出力制御機能による簡単な(低コストな)方法で連系点電圧を制御する手段を採用している。
【0006】
進相無効電力制御機能によれば、分散型電源自身の無効電力を利用して電圧を適正値に維持する制御を行うことが可能であるが、分散型電源の容量は一般的に小さいため、1つの分散電源のみでは容量の限界に達してしまい効果的に系統電圧の変動を抑制することができない。すなわち、負荷変動や系統運用状態の変化に起因する電圧変動を補償しようとして、分散型電源の出力限界に達してしまい、制御不能になる。
また、多数の分散型電源で分担して無効電力制御を行うためには、無効電力出力を最適に分担させるために、分散型電源間の通信及び多数の分散型電源を制御するための中央制御装置が必要となり、通信設備や中央制御装置の設置のためにコストがかかる。
一方、出力制御機能によれば、分散型電源の出力を抑制することになるため、負荷に対して電力を供給するという分散型電源の本来の機能を果たすことができず、分散型電源の設置に要した資金を回収することができなくなり、分散型電源の経済性を損なうことになる。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、以下の点を目的とするものである。
(1)分散型電源と既存の電力系統とが連系して負荷に電力を供給する場合において、分散型電源から出力される有効電力に起因する連系点電圧の変動を抑制する。
(2)分散型電源に連系点電圧を規定電圧範囲内に維持させるための低コストな機能を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、分散型電源に係わる第1の解決手段として、既存の電力系統と連系して電力を負荷に供給する分散型電源であって、有効電力及び無効電力を発生して連系点に出力する電力発生手段と、前記有効電力に起因する連系点電圧の変動を抑制する無効電力の最適値を求め、有効電力に応じて前記最適値を出力するように前記電力発生手段を制御する制御手段とを具備し、前記制御手段は、前回の検出機会と今回の検出機会に取得した有効電力を基に有効電力が上昇状態にあると判定した場合、前記連系点に出力する無効電力を順次変化させて連系点電圧を検出し、該検出した連系点電圧が前記前回の検出機会に取得した連系点電圧と等しくなる無効電力を前記最適値として探索する、という手段を採用する。
【0009】
また、分散型電源に係わる第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記制御手段は、前記探索によって得られた前記無効電力の最適値を前記連系点に出力させ、この時に得られる有効電力と前記無効電力の最適値との関係を記憶部に記憶し、以降は検出した有効電力に対応する無効電力の最適値を前記記憶部から検索し、該検索によって得られた無効電力の最適値を前記連系点に出力するよう前記電力発生手段に指示する、という手段を採用する。
【0010】
また、分散型電源に係わる第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記制御手段は、前記探索によって得られた前記無効電力の最適値を前記連系点に出力させ、この時に得られる有効電力と連系点電圧と前記無効電力の最適値との関係を記憶部に記憶し、前回の検出機会と今回の検出機会に取得した有効電力を基に有効電力が一定状態もしくは降下状態にあると判定した場合、有効電力に対応する前記無効電力の最適値を出力したときの連系点電圧が前記記憶部に記憶された連系点電圧と相違した場合に、前記記憶部における連系点電圧を書き換えるとともに、現在の有効電力より大きい有効電力に関する前記記憶部におけるデータを削除し、有効電力が再び上昇状態となったときには、書き換えた前記連系点電圧に基づき、有効電力に対する無効電力の最適値を再探索する、という手段を採用する。
【0011】
一方、本発明では、配電設備に係わる第1の解決手段として、負荷に電力を供給する既存の電力系統と、該既存の電力系統と連系して負荷に電力を供給し、上記第1〜第3のいずれか1つの解決手段を有する分散型電源とを具備する、という手段を採用する。
【0012】
さらに、本発明では、電力供給方法に係わる第1の解決手段として、既存の電力系統と分散型電源とが連系して負荷に電力を供給する方法であって、前記分散型電源は、前記負荷に出力する無効電力を変動させた場合の連系点電圧を検出することにより、前記負荷に出力する有効電力に起因する連系点電圧の変動を抑制する無効電力の最適値を求め、前記有効電力及び当該有効電力に応じた前記無効電力の最適値を負荷に出力し、前回の検出機会と今回の検出機会に取得した有効電力を基に有効電力が上昇状態にあると判定した場合、前記連系点に出力する無効電力を順次変化させて連系点電圧を検出し、該検出した連系点電圧が前記前回の検出機会に取得した連系点電圧と等しくなる無効電力を前記最適値として探索する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、既存の電力系統と連系して負荷に電力を供給する分散型電源が有効電力に起因する連系点電圧の変動を抑制する無効電力を最適値として求め、前記有効電力及び当該有効電力に応じた前記最適値を負荷に出力するので、有効電力に起因する連系点電圧の変動をより確実に抑制することができる。
【0014】
また、本発明によれば、分散型電源の力率制御によって有効電力に対する最適値(無効電力)の設定が可能なので、従来の無効電力補償装置を必要とすることなく、低コストで連系点電圧の変動を抑制することができる。すなわち、連系点電圧の変動を抑制するための機能を実現するためのコストが低いので、低コストが要求される分散型電源に容易に導入することができる。
【0015】
また、本発明によれば、分散型電源自身の有効電力に起因する連系点の電圧変動のみを補償するので、小容量の分散型電源の能力を効果的に活用することができる。また、多数の分散型電源間での通信が不要なため、通信設備のためのコストが不要である。さらに、分散型電源の有効電力出力を抑制することがないので、分散型電源の経済性を損なうことがない。
【0016】
さらに、本発明によれば、既存の電力系統と連系する分散型電源が自ら出力した有効電力に起因する連系点電圧の変動を抑制するので、既存の電力系統側で無効電力補償装置を用いて連系点電圧の補償する場合よりも、連系点電圧を規定電圧範囲内に効果的に維持することができる。例えば、複数の分散型電源が既存の電力系統と連系する場合には、既存の電力系統側で全ての連系点の連系点電圧を補償することは困難である。しかしながら、本発明では、各分散型電源が自立的に連系点電圧を補償するので、複数の連系点の連系点電圧をより確実に規定電圧範囲内に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係わる配電設備の系統図である。
【図2】本発明の各実施形態における無効電力Qによる連系点電圧Vの変動抑制原理を説明するための模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態における周期変動法の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態における最適値探索法の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態における最適値探索法の詳細処理手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1実施形態における分散型電源PW1を複数連系した配電系統の構成図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係わる配電設備の系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係わる配電設備の系統図である。本第1実施形態は、自らが出力する有効電力Pを実質的に制御し得ないタイプの分散型電源PW1を具備する配電設備に関する。
【0019】
この図1において、符号Sは配電用変電所、C1は高圧配電線、T1、T2は配電用変圧器(柱上変圧器)、C2は低圧配電線、PW1は分散型電源、Lは負荷である。配電用変電所Sは高圧配電線C1を介して配電用変圧器T1、T2の一次側に接続されている。高圧配電線C1は、上記配電用変電所Sから出力された高圧電力(例えば6600V)を配電用変圧器T1、T2まで伝送する。配電用変圧器T1、T2は、高圧配電線C1を介して供給された高圧電力を例えば200Vの低圧電力に電圧変換し低圧配電線C2に供給する。低圧配電線C2は、配電用変圧器T1、T2と負荷Lとの間に設けられており、低圧電力を負荷Lに供給する。
【0020】
ここで、上記配電用変電所S、高圧配電線C1、配電用変圧器T1、T2及び低圧配電線C2は、市中にネットワーク状に敷設された既存の配電系統を構成している。これに対して、分散型電源PW1は、連系点において低圧配電線C2と接続されており、上記既存の配電系統と連系して負荷Lに低圧電力を供給するものである。また、負荷Lは、既存の配電系統に接続された全ての負荷である。
【0021】
このような分散型電源PW1は、図示するように、主な機能構成要素として電圧計1、電流計2、検出電力演算部3、最適出力演算部4、記憶部5、出力電流設定部6、出力電流制御部7、インバータ8、直流電源9及び連系リアクトル10を備えている。電圧計1は、低圧配電線C2の連系点における電圧(連系点電圧V)を検出して検出電力演算部3に出力する。電流計2は、本分散型電源PW1の出力電流を検出して検出電力演算部3に出力する。
【0022】
検出電力演算部3は、上記電圧計1から入力された連系点の電圧瞬時値及び上記電流計2から入力された出力電流瞬時値に基づいて分散型電源PW1から連系点に出力される出力電力(つまり有効電力P及び無効電力Q)を演算し、検出電力として最適出力演算部4に出力すると共に、電圧計1から入力された連系点の電圧瞬時値に基づいて当該連系点の電圧の実効値演算を行い、連系点電圧の実効値(連系点電圧V)として最適出力演算部4に出力する。
【0023】
最適出力演算部4は、検出電力演算部3から入力される検出電力(有効電力P及び無効電力Q)と連系点電圧Vとを記憶部5に出力して記憶させる一方、当該記憶部5に記憶された連系点電圧Vと有効電力Pあるいは無効電力Qとに基づいてインバータ8の出力電力を電力指令値として出力電流設定部6に出力する。この電力指令値は、インバータ8の出力電力、つまり有効電力Pと無効電力Qとを個別に指示するものである。
【0024】
詳細は後述するが、最適出力演算部4は、無効電力Qを出力電流設定部6に指示する無効電力指令値を生成する際に、上記既存の配電系統の系統インピーダンスZを推定し、この推定値を前提として、有効電力Pを連系点に出力することに起因する連系点電圧Vの変動を抑制する無効電力Qを最適値として求め、該最適値の出力を指示する無効電力指令値を出力電流設定部6に出力する。記憶部5は、無効電力が最適に調整されたときの検出電力(有効電力P及び無効電力Q)と連系点電圧Vとを1つのレコードとして有効電力Pの大きさの順に順序をつけて記憶すると共に、必要時に当該レコードを読み出して最適出力演算部4に出力する。
【0025】
出力電流設定部6は、上記電力指令値に準じた有効電力P及び無効電力Qをインバータ8から出力させるように力率を設定し、その設定値(力率設定値)を出力電流制御部7に出力する。出力電流制御部7は、上記力率設定値に基づいてインバータ8を制御するための制御信号、例えばPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成してインバータ8に出力する。インバータ8は、直流電源9から供給された直流電圧を上記制御信号に基づいてスイッチングすることにより交流電圧に変換する。
【0026】
直流電源9は、例えば太陽電池であり、所定の直流電圧をインバータ8に出力する。ここで、直流電源9は発電電力が太陽から照射される光の光量に依存するので、インバータ8は、一定の値に制御された有効電力Pを連系点に出力することができない。すなわち、本配電設備における分散型電源PW1は、有効電力Pを一定の値に制御できず、ランダムに変動する有効電力Pを出力するものである。なお、連系リアクトル10は、インダクタンスを付与するためにインバータ8の出力端に設けられている。
【0027】
ここで、分散型電源PW1は、上述したように主な機能構成要素として、電圧計1、電流計2、検出電力演算部3、最適出力演算部4、記憶部5、出力電流設定部6、出力電流制御部7、インバータ8、直流電源9及び連系リアクトル10を備えているが、これら機能構成要素のうち、インバータ8、直流電源9及び連系リアクトル10は、有効電力P及び無効電力Qを発生して連系点に出力する電力発生手段を構成している。
【0028】
また、電圧計1、電流計2、検出電力演算部3、最適出力演算部4、記憶部5、出力電流設定部6及び出力電流制御部7は、有効電力Pに起因する連系点電圧Vの変動を抑制するような無効電力Qを系統インピーダンスZに基づいて求め、当該無効電力Qを発生するように上記電力発生手段を制御する制御手段を構成している。このような分散型電源PW1は、本配電設備の特徴的な構成要素である。
【0029】
次に、このように構成された配電設備の動作について詳しく説明する。
本配電設備では、既存の配電系統と分散型電源PW1とが電力を連係して負荷Lに供給する。ここで、連系点電圧Vは、一般的には分散型電源PW1から出力される有効電力Pに依存して変動することになるが、本配電設備の分散型電源PW1は、自らが連系点に出力する有効電力Pに起因する連系点電圧Vの変動を抑制するように無効電力Qを最適化して連系点に出力する。
【0030】
図2は、このような無効電力Qによる連系点電圧Vの変動抑制原理を説明するための模式図である。この模式図では、系統インピーダンスZを「R+jX」、配電用変電所Sの出力電圧を「E」、分散型電源PW1から出力される電力を「P+jQ」、また連系点から負荷Lが消費する負荷電力を「P+jQ」としている。負荷電力P+jQのうち、「P」は負荷実効電力を、また「Q」は負荷無効電力をそれぞれ示している。
【0031】
本配電設備には、このような各値を変数あるいは定数とする以下の近似式(1)が成立する。
【0032】
【数1】

【0033】
この近似式(1)は、連系点における電圧変動ΔVが負荷Lの変動に起因する電圧変動ΔV1(=R・P+X・Q)と分散型電源PW1から出力される有効電力Pに起因する電圧変動ΔV2(=R・P+X・Q)とからなることを示している。
【0034】
すなわち、分散型電源PW1の有効電力Pに起因する電圧変動ΔV2は、分散型電源PW1の無効電力Qを最適化することにより、つまり条件式:R・P+X・Q=0を満足するように無効電力Qを設定することにより、最小化することが可能である。この電圧変動ΔV2は、分散型電源PW1の有効電力Pが既存の配電系統に流入すること及び当該有効電力Pが変動することによって生じるものである。そして、このような電圧変動ΔV2を最小化するための無効電力Q(つまり無効電力Qの最適値)を求めるためには、系統インピーダンスZを求める必要がある。
【0035】
さて、連系点電圧Vの変動抑制原理は以上の通りであるが、このような変動抑制原理に基づいて無効電力Qを最適値に設定するためには、系統インピーダンスZを知る必要がある。既存の配電系統の構成に変更がなく系統インピーダンスZが固定である場合は、計測によって得られた系統インピーダンスZを用いて無効電力Qを最適設定することが考えられるが、実際の配電系統は種々に事情で構成が変更されることが多く、よって実際には固定値と考えることができない。
【0036】
このような事情から、最適出力演算部4は、電力P+jQのうち無効電力Qを意図的に変動させた場合の連系点の連系点電圧Vと求めることによって系統インピーダンスZを推定する。なお、本配電設備における分散型電源PW1の場合、上述したように有効電力Pについて実効的な制御ができないので、無効電力Qのみを意図的に変動させる。
【0037】
すなわち、最適出力演算部4は、負荷電力P+jQが変動しないような比較的短期間内の3時刻t1、t2、t3について無効電力Qを指定値QG1〜QG3に設定させる無効電力指令値を出力電流設定部6に出力し、このときの連系点電圧V〜V、有効電力PG1〜PG3及び無効電力QG1〜QG3を検出電力演算部3から取得する。そして、最適出力演算部4は、これら連系点電圧V〜V、有効電力PG1〜PG3及び無効電力QG1〜QG3を上式(1)に代入して得られる連立方程式(2)〜(4)を解くことにより系統インピーダンスZの実部R及び虚部Xを求める。
【0038】
【数2】

【0039】
式(3)から式(2)を引くことにより下式(5)が得られ、また式(4)から式(2)を引くことにより下式(6)が得られる。
【0040】
【数3】

【0041】
ここで、ΔP=PG1−PG2、ΔP=PG1−PG3、ΔQ=QG1−QG2、ΔQ=QG1−QG3、またΔV=V−V、ΔV=V−Vと置くと、上式(5)、(6)は以下の行列式(7)として表される。
【0042】
【数4】

【0043】
そして、この行列式(7)から系統インピーダンスZの実部R及び虚部Xは下式(8)によって求められる。上記最適出力演算部4には、この式(8)に検出電力演算部3から取得される連系点電圧V〜V、有効電力PG1〜PG3及び無効電力QG1〜QG3を代入することにより系統インピーダンス実部R及び虚部Xを求める。
【0044】
【数5】

【0045】
ここで、上述したように分散型電源PW1は有効電力Pを実質的に制御することはできない。したがって、3つの時刻t1、t2、t3について得られる連系点電圧V〜V、有効電力PG1〜PG3及び無効電力QG1〜QG3を上式(8)に代入することによって系統インピーダンスZを求めることになる。しかしながら、有効電力PG1と有効電力PG2とが等しい場合には、系統インピーダンスZの虚部Xを上式(8)よりも簡単な式(9)によって求めることができる。
【0046】
【数6】

【0047】
また、上記3つの時刻t1、t2、t3は、負荷電力P+jQが変動しない比較的短期間のうち、つまり負荷Lの運転点が変動することなく一定と見なせる期間内に設定されているので、無効電力Qの最適値は、上述した電圧変動ΔV2を0とした条件式:R・P+X・Q=0を変形して得られる下式(10)によって表される。
【0048】
【数7】

【0049】
すなわち、最適出力演算部4は、式(8)に基づいて求めた系統インピーダンスZ及び有効電力Pを式(10)に代入することによって無効電力Qの最適値、つまり連系点への有効電力Pの出力に起因する連系点電圧Vの電圧変動ΔVを抑制する無効電力Q(つまり最適値)の出力を電流設定部6に指示する。この結果、連系点電圧Vの電圧変動ΔVは最小限に抑制される。なお、最適出力演算部4は、このような系統インピーダンスZの推定処理を一定時間間隔で行うことにより、既存の配電系統の構成変更による系統インピーダンスZの変動に対して常に適切な最適値を推定する。
【0050】
なお、上記のように連立方程式(2)〜(4)に基づいて系統インピーダンスZを推定する場合、負荷Lの運転点が変動することなく一定と見なせる期間について連系点電圧Vを検出する必要があるが、実際の配電系統に接続される負荷Lには、常時ある周期で変動しているものや、または瞬間的に変動するものが存在する。このような負荷Lが接続されている場合、連系点電圧Vの電圧変動ΔVには、意図的に無効電力Qを変動させた場合の電圧変動に加え、上記のような負荷Lの変動に起因する電圧変動が重畳することになり、結果として系統インピーダンスZの推定値に誤差が生じることになる。また、連系点電圧Vを検出する際の計測ノイズも系統インピーダンスZの推定値に誤差を生じる原因になる。
【0051】
このような負荷Lの変動に起因する連系点電圧Vの電圧変動及び連系点電圧Vの計測ノイズの影響を除去するために、無効電力Qを変動させた時に検出する連系点電圧Vをローパスフィルタに通した値に基づいて系統インピーダンスZを推定する。これにより、高周波の負荷変動に起因する連系点電圧Vの電圧変動のみならず連系点電圧Vの計測ノイズの影響を除去し、系統インピーダンスZの推定値の誤差を軽減できる。
【0052】
また、他の方法として、系統インピーダンスZの推定値を時系列データとして記憶部5に記憶しておき、それら時系列データの平均値を求め、その値を最終的な系統インピーダンスZの推定値として用いることによっても高周波の負荷変動に起因する連系点電圧Vの電圧変動のみならず連系点電圧Vの計測ノイズの影響を除去し、系統インピーダンスZの推定値の誤差を軽減できる。なお、系統インピーダンスZの推定値の時系列データにデジタルローパスフィルタをかけることで平均化処理を行っても良い。
【0053】
一方、負荷Lの負荷変動が予めわかっている場合には、以下の方法により系統インピーダンスZの虚部Xの推定精度を上げることができる。
【0054】
図1において、負荷L(ここでは誘導機とする)の起動時に生じる突入電流をΔIとする。ここで、負荷Lの起動時の突入電流ΔIは無効成分がほとんどであると考えると、上記突入電流ΔIによって生じる連系点電圧Vの電圧変動ΔVを検出することで系統インピーダンスZの虚部XをX=ΔV/ΔIによって求めることができる。
【0055】
従って、負荷Lの起動時の突入電流ΔIの値が予めわかっていれば、分散型電源PW1の記憶部5に突入電流ΔIを記憶しておき、常時連系点電圧Vを検出して、突入電流ΔIに起因する電圧変動ΔVが検出された時に最適出力演算部4は記憶部5から突入電流値ΔIを読み出し、系統インピーダンスZの虚部X=ΔV/ΔIを算出する。ここで突入電流ΔIに起因する電圧変動ΔVは、スパイク状の大きな電圧変動であるので、予め最適出力演算部4に閾値を設定しておき、最適出力演算部4はその閾値を超えた電圧変動ΔVを検出した場合に突入電流ΔIに起因する電圧変動ΔVと判断し、系統インピーダンスZの虚部Xを算出する。
【0056】
突入電流ΔIの値は負荷Lの定格容量の数倍に達し、突入電流ΔIによる連系点の電圧変動ΔVは無効電力Qの出力による連系点電圧Vの電圧変動幅よりはるかに大きいため、計測ノイズ等の外乱の影響を受けず、系統インピーダンスZの虚部Xの推定精度を上げることができる。よって、連立方程式(2)〜(4)に基づいて系統インピーダンスZを推定する場合、上記の方法で求めた虚部Xを用いることにより虚部Xについて推定精度を上げることができる。
【0057】
なお、このように突入電流ΔIによって生じるスパイク状の電圧変動ΔVによって系統インピーダンスZの虚部Xを推定する場合、上記で説明したローパスフィルタを用いることはできない。従って、系統インピーダンスZの実部Rを求める際には、連立方程式(2)〜(4)に基づいて推定した実部Rを時系列データとして記憶しておき、その時系列データの平均値を実部Rの最終値とする。これにより、実部Rについても精度の良い推定値とすることができる。
【0058】
ところで、上述したように連立方程式(2)〜(4)を解くことにより系統インピーダンスZを求め、そして当該系統インピーダンスZと式(10)を用いて無効電力Qの最適値を求める方法に代えて、系統インピーダンスZを以下に説明する周期変動法を用いて求めること、また系統インピーダンスZを求めることなく無効電力Qの最適値を求める方法として以下に説明する最適値探索法を採用しても良い。
【0059】
周期変動法によれば、処理が複雑になるものの上述したようなローパスフィルタや平均化処理を行う必要がなく、外乱(負荷変動及び計測ノイズ)による連系点電圧Vの変動の影響を除去することが可能であり、精度良く系統インピーダンスZを求めることができる。
また、最適値探索法によれば、同様に処理が複雑になるものの系統インピーダンスZを推定することなく、また近似式である式(10)を用いることなく無効電力Qの最適値を直接求めるので、無効電力Qの最適値を上記周期変動法を用いる場合よりもさらに正確に求めることができる。
【0060】
図3は、上記周期変動法の処理手順を示すフローチャートである。
この図に示すように、最適出力演算部4は、規定時刻になると(ステップS1)、直流電源9の出力変動に応じてランダムに変動する有効電力Pと連系点電圧Vとを検出電力演算部3から時系列的に順次取得する(ステップS2)。
【0061】
ここで、有効電力Pは、三相平衡の状況では一定値(実効値)となるため、有効電力の時間変化は有効電力Pの実効値の変化となり、連系点電圧Vも同様の時間変化を示す。しかしながら、三相不平衡であったり、単相電力の場合には、実効値が変化しなくても、有効電力Pは系統周波数の2倍の周波数で振動する。すなわち、一定値(実効値)、つまり直流成分である有効電力Pに系統周波数の倍周波の振動が重畳してしまうことになる。従って、このような実効値の変化とは無関係の振動の影響を排除するために、ステップS2で取得した有効電力Pの時系列データにフィルタをかけることで系統周波数の倍周波成分を除去する。
【0062】
これにより有効電力Pの実効値の変動分のみが抽出できるので、次に最適出力演算部4は、このようなフィルタリング後の有効電力Pの時系列データをFFT(Fast Fourier Transform)処理し、該時系列データの周波数成分の中から1つだけ特定の周波数成分P(ω)を選択する(ステップS3)。
【0063】
また、最適出力演算部4は、連系点電圧Vの時系列データを有効電力Pの周波数成分P(ω)に関してDFT(Discrete Fourier Transform)処理することにより、上記有効電力Pの周波数成分P(ω)と同一の周波数成分V(ω)を抽出する(ステップS4)。ここで、連系点電圧Vに対する負荷P、Qの同一周波数成分による影響を無視できるとし、無効電力Qを当該期間中一定に保持しておけば、連系点電圧Vの時系列データについて抽出された上記同一周波数成分V(ω)は、有効電力Pの影響によるものだけとなるため、V(ω)≒R・P(ω)となる。最適出力演算部4は、このようにして抽出された有効電力Pの周波数成分P(ω)と、これに一致する連系点電圧Vの周波数成分V(ω)とに基づいて、系統インピーダンスZの実部Rを算出する(ステップS5)。
【0064】
続いて、最適出力演算部4は、無効電力Qを所定周期で変動させる無効電力指令値を出力電流設定部7に出力してインバータ8から連系点に出力される無効電力Qを所定周期で変動させ(ステップS6)、このときの連系点電圧Vを検出電力演算部3から時系列的に順次取得する(ステップS7)。そして、最適出力演算部4は、この連系点電圧Vの時系列データをDFT処理することにより、無効電力Qの変動周波数と同一周波数の成分を抽出し(ステップS8)、このように抽出した連系点電圧Vの周波数成分に基づいて系統インピーダンスZの虚部Xを算出する(ステップS9)。
【0065】
そして、最適出力演算部4は、上記ステップS1〜S9の一連の処理が完了すると、処理をステップS1に戻し、次の規定時刻になると(ステップS1)、ステップS2以降の処理を繰り返すことにより所定時間間隔で系統インピーダンスZを推定する。このような周期変動法によれば、有効電力P及び無効電力Qの変動周波数に合致する周波数の連系点電圧Vを用いて系統インピーダンスZを推定するので、外乱を排除して系統インピーダンスZをより正確に推定することができる。推定された系統インピーダンスZに基づき式(10)より最適な無効電力Qを求めて出力する。なお、FFT処理やDFT処理に代えてフィルタ(例えばバンドパスフィルタ)を用いても良い。
【0066】
次に、図4は、上記最適値探索法の処理手順を示すフローチャートである。
最適出力演算部4は、最初に処理における制御変数iを「0」に初期化し(ステップSa1)、さらに有効電力P及び無効電力Qを一瞬だけ「0」に設定させる有効・無効電力指令値を出力電流設定部7に出力してインバータ8から連系点に出力される電力を強制的に「0」に設定させる(ステップSa2)。そして、最適出力演算部4は、このときの連系点電圧Vを検出電力演算部3から取得し(ステップSa3)、当該連系点電圧Vを上記有効電力P及び無効電力Qの値(つまり「0」)と共に1つのレコードとして有効電力Pの大きさの順に記憶部5内に設定した対応表テーブルに登録させる(ステップSa4)。
【0067】
これ以降、最適出力演算部4は、上記制御変数iをインクリメントを繰り返して(ステップSa5)、分散型電源PW1の通常運転状態における有効電力P、無効電力Q及び連系点電圧Vを時系列的に順次取得し(ステップSa6)、有効電力Pの変化状態を判断し(ステップSa7)、この変化状態に応じて無効電力Qの最適値を求める最適値探索処理(ステップSa8)、上記対応表テーブルの書換処理(1)(ステップSa9)、あるいは対応表テーブルの書換処理(2)(ステップSa10)を実行する。なお、ステップSa7における有効電力Pの変化状態の判定処理は、有効電力Pの今回値(有効電力今回値Ppre)と前回値(有効電力前回値Plast)の大小関係を比較することによって行われる。
【0068】
すなわち、有効電力今回値Ppreが有効電力前回値Plastよりも大きい場合つまり有効電力Pが上昇状態にある場合に最適値探索処理(ステップSa8)が実行される。また、有効電力今回値Ppreが有効電力前回値Plastと等しい場合つまり有効電力Pが一定状態にある場合には対応表テーブルの書換処理(1)(ステップSa9)が実行され、さらに有効電力今回値Ppreが有効電力前回値Plastよりも小さい場合つまり有効電力Pが下降状態にある場合には対応表テーブルの書換処理(2)(ステップSa10)が実行されることになる。
【0069】
図5は、上記最適値探索処理(ステップSa8)、対応表テーブルの書換処理(1)(ステップSa9)及び対応表テーブルの書換処理(2)(ステップSa10)の詳細を示すフローチャートである。この図5において、(a)は最適値探索処理を、(b)は対応表テーブルの書換処理(1)を、また(c)は対応表テーブルの書換処理(2)をそれぞれ示している。
【0070】
図5(a)に示すように、最適値探索処理(ステップSa8)では、最初に連系点電圧Vの今回値(連系点電圧今回値Vpre)と前回値(連系点電圧前回値Vlast)とが等しくなる無効電力Qを探索する(ステップSa81)。すなわち、最適出力演算部4は、無効電力Qを順次変化させる無効電力指令値を出力電流設定部7に出力してインバータ8から連系点に出力する無効電力Qを順次変化させ、この際の連系点電圧Vを検出電力演算部3から順次取得することによって連系点電圧今回値Vpreと連系点電圧前回値Vlastとが等しくなる無効電力Qを探索する。
【0071】
そして、最適出力演算部4は、このようにして得られた無効電力Qの探索値の出力を指示する無効電力指令値を出力電流設定部7に再度出力してインバータ8から連系点に上記探索された最適値を出力させ(ステップSa82)、このときに検出電力演算部3から得られた有効電力今回値Ppre、無効電力Qの探索値及び連系点電圧今回値Vpreを対応表テーブルに新規登録する(ステップSa83)。
【0072】
このような有効電力Pが上昇状態に実行される最適値探索処理(ステップSa8)によって、対応表テーブルには分散型電源1の出力容量範囲に亘ってステップSa6でサンプリングされた複数の有効電力Pに関する無効電力Qの最適値とそのときの連系点電圧Vとが上記有効電力Pに対応する多数のレコードとして蓄積される。
【0073】
このように対応表テーブルが記憶部3に構築された以降において、最適出力演算部4は、検出電力演算部3から取得した有効電力Pに基づいて対応表テーブルを検索することにより当該有効電力Pに対応する無効電力Qの最適値を取得し、この最適値の出力させる無効電力指令値を出力電流設定部7に出力することにより連系点電圧Vの変動を抑制する無効電力Qをインバータ8から連系点に出力させる。
【0074】
一方、有効電力Pが一定(変化しない)状態及び下降状態には、対応表テーブルの書換(つまりメンテナンス)が行われる。このメンテナンスは、上述したように既存の配電系統の構成変更を考慮して行われるものである。例えば有効電力Pが一定状態の場合には、図5(b)に示す書換処理(1)(ステップSa9)が実行される。この書換処理において、最適出力演算部4は、無効電力Qの前回値(無効電力前回値Qlast)を出力させる無効電力指令値を出力電流設定部7に出力してインバータ8から連系点に出力する無効電力Qを無効電力前回値Qlastに設定させ(ステップSa91)、この際の連系点電圧Vを検出電力演算部3から取得する(ステップSa92)。
【0075】
そして、最適出力演算部4は、このように取得した連系点電圧Vが連系点電圧今回値Vpreと等しくない場合には、既存の配電系統に接続関係の変更等の何らかの変化が生じことが原因と考えられるので、対応表テーブルの該当するレコードを上記連系点電圧今回値Vpreに書き換える(ステップSa93)。
【0076】
さらに、有効電力Pが下降状態のときには、図5(c)に示すように、対応表テーブルの書換処理(2)(ステップSa10)において、最適出力演算部4は、対応表テーブルから有効電力今回値Ppreに対応する無効電力Qを検索し(ステップSa101)、当該検索結果として得られた検索値を出力させる無効電力指令値を出力電流設定部7に出力してインバータ8から連系点に出力する無効電力Qを検索値に設定させる(ステップSa102)。
【0077】
そして、最適出力演算部4は、このときの連系点電圧Vを検出電力演算部3から新たに取得し(ステップSa103)、当該連系点電圧Vが対応表テーブルにおいて上記検索値に対応する連系点電圧Vと異なっている場合には、対応表テーブルの該当レコードの連系点電圧Vを検出電力演算部3から取得した新たな連系点電圧Vに書き換える(ステップSa104)。このような連系点電圧Vの不一致は、上述したように既存の配電系統に接続関係の変更等、何らかの変更が生じた場合である。
【0078】
また、最適出力演算部4は、上記最適値探索処理(ステップSa8)で取得した対応表テーブルのうち有効電力今回値Ppreよりも大きい有効電力Pに対応するレコードを消去する(ステップSa105)。このように対応表テーブルのうち有効電力今回値Ppreよりも大きい有効電力Pに対応するレコードが消去されると、対応表テーブルの消去された部分は、次に有効電力Pが上昇状態に実行される時に実行される最適値探索処理(ステップSa8)によって再構築される。
【0079】
ステップSa10の実行に至るための有効電力Pの下降は、例えば太陽光発電の場合は、日の陰りに相当する。また、有効電力Pの下降は必ず発生するとは限らず、しかも有効電力P=0まで下降するとは限らないので、一定の時間間隔で強制的に有効電力P=0、無効電力Q=0とし、上記の過程を繰り返すことにより、負荷変動や系統運用状態の変化に起因する電圧変動の要因を取り除き、より正確な最適値を探索することが可能となる。
【0080】
以上が本第1実施形態の分散型電源PW1の構成及び動作説明であるが、上記では説明の簡略化のため、既存の配電系統に1つの分散型電源PW1が接続されている場合について説明した。しかし、実際には図6に示すように複数の分散型電源が既存の配電系統に連系される場合もあり得る。
【0081】
図6において、図1と同一の構成要素については同一符号を付し、説明を省略する。分散型電源PW11、PW12及びPW13は、それぞれ連系点1、2及び3において低圧配電線C2と接続されており、既存の配電系統と連系して負荷L1、L2、及びL3に低圧電力を供給している。これらの分散型電源PW11、PW12及びPW13は、各連系点からみた既存の配電系統の系統インピーダンスZを上述した方法により推定し、最適な無効電力Qを求めて出力する。なお、図6では省略したが、高圧配電線C1には、配電用変圧器T1、低圧配電線C1、負荷L1、L2及びL3等で構成されるような低圧電力系統が複数接続されている。
【0082】
このような構成の配電系統において、複数の分散型電源PW11、PW12及びPW13が同時に系統インピーダンス推定処理を行った場合には以下のような問題がある。
【0083】
まず、分散型電源PW11、PW12及びPW13が連立方程式(2)〜(4)を解くことにより系統インピーダンスZを推定する場合、各分散型電源は負荷L1、L2及びL3が変動することなく一定とみなせる短期間の3つの時刻について無効電力Qを意図的に変動させ、連系点1、2及び3での電圧変動ΔVを検出することになる。このような動作が同時に行われると、各連系点電圧Vの電圧変動ΔVの値は、各分散型電源が出力する無効電力Qに起因する電圧変動が重畳することになり、各連系点からみた系統インピーダンスZの推定値に大きな誤差が生じることになる。
【0084】
そこで、上記のような場合では、無効電力Qを変動させる時刻を各分散型電源で異なるように設定する。例えば、各分散型電源をオンラインで接続し、他の分散型電源の無効電力Qを変動させる時刻を検出して、その時刻が自己の分散型電源と同じ時刻であれば、自立的に自己の無効電力Qを変動させる時刻を変更するようにする。
【0085】
このようにすれば、他の分散型電源が無効電力Qを変動させる時刻と同期することがなくなり、系統インピーダンス推定処理を行った分散型電源自身の無効電力Qの変動に起因する連系点電圧Vの電圧変動ΔVのみを抽出することができる。その結果、系統インピーダンスZの推定値の誤差を軽減することができる。
【0086】
一方、分散型電源PW11、PW12及びPW13が周期変動法により系統インピーダンス推定処理を行った場合にも、各分散型電源が無効電力Qを周期的に変動させるため、変動周期が他の分散型電源と一致した場合に系統インピーダンスZの推定値に大きな誤差が生じることになる。
【0087】
そこで、このように各分散型電源が周期変動法により系統インピーダンス推定処理を行った場合、無効電力Qを変動させる周期を各分散型電源で異なるように設定する。例えば、上記と同様に、各分散型電源をオンラインで接続し、他の分散型電源の無効電力Qの変動周期を検出し、他の分散型電源と変動周期が一致すれば自立的に自己の変動周期を変更するようにする。
【0088】
このようにすれば他の分散型電源による無効電力Qの変動周期と一致することなく、系統インピーダンス推定処理を行った分散型電源自身の無効電力Qの変動周期に起因する連系点電圧Vのみを抽出することができるので、その結果、系統インピーダンスZの推定値の誤差を軽減することができる。
【0089】
以上のように、図6のような複数の分散型電源が連系されている配電系統においても、上述したような系統インピーダンスZの推定を行うことにより無効電力Qの最適値を求め、各連系点の電圧変動を抑制することができる。
【0090】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態ついて説明する。
上記第1実施形態は分散型電源PW1が自らが出力する有効電力Pを実質的に制御し得ないタイプのものである場合に関するものであったが、本第2実施形態は、自らが出力する有効電力Pを実質的に制御し得るタイプの分散型電源PW2を備える配電設備に関するものである。
【0091】
図7は、第2実施形態に係わる配電設備の系統図である。なお、図7では、上記第1実施形態と同一の構成要素については同一符号が付してある。以下の説明では、第1実施形態と共通する部分の説明を省略し、本第2実施形態の特徴的部分のみについて説明する。
【0092】
図示するように、本第2実施形態における分散型電源PW2は、電圧計1、電流計2、検出電力演算部3、最適出力演算部4A、記憶部5、出力設定部11、ガバナ12、励磁電流制御部13、原動機14、発電機15及び連系リアクトル10を備えている。電圧計1は、低圧配電線C2の連系点における電圧(連系点電圧V)を検出して検出電力演算部3に出力する。電流計2は、本分散型電源PW2の出力電流を検出して検出電力演算部3に出力する。
【0093】
なお、発電機15は回転機でなくてもよく、例えば燃料電池のような出力を制御可能な直流電源とインバータとの組み合わせでも良い。この場合、ガバナ12は燃料電池への燃料の供給制御装置、原動機14は燃料電池、発電機15はインバータ、励磁電流制御部13はインバータの出力電流制御装置に相当する。
【0094】
最適出力演算部4Aは、第1実施形態における最適出力演算部4と同様の演算機能を有するが、演算処理の内容が最適出力演算部4とは多少異なる。この最適出力演算部4Aの演算処理については後で詳しく説明する。出力設定部11は、最適出力演算部4Aから入力される出力指示に基づいて有効電力P及び無効電力Qの値をそれぞれ設定し、このうち有効電力Pの設定値についてはガバナ12に、一方無効電力Qの設定値については励磁電流制御部13にそれぞれ出力する。
【0095】
ガバナ12は、上記有効電力Pの設定値に基づいて原動機14への燃料供給量を制御する。一方、励磁電流制御部13は、無効電力Qの設定値に基づいて発電機15に供給する励磁電流を制御する。原動機14は、ガバナ12から供給された燃料によって動力を発生させて発電機15を回転駆動する。発電機15は、上記励磁電流制御部13による励磁電流に応じた力率の電力つまり有効電力P及び無効電力Qを発生し連系リアクトル10を介して連系点に出力する。
【0096】
ここで、これら分散型電源PW2の機能構成要素のうち、原動機14、発電機15及び連系リアクトル10は、有効電力P及び無効電力Qを発生して連系点に出力する電力発生手段を構成しており、また電圧計1、電流計2、検出電力演算部3、最適出力演算部4A、記憶部5、出力設定部11、ガバナ12及び励磁電流制御部13は制御手段を構成している。
【0097】
このように構成された分散型電源PW2では、自らが連系点に出力する有効電力P及び無効電力Qを実質的に制御することができるので、最適出力演算部4Aにおける演算処理の内容が以下のようになる。
【0098】
(1)連立方程式による系統インピーダンスZの推定処理
上記連立方程式(2)〜(4)に基づいて系統インピーダンスZを推定する場合に、無効電力Qだけではなく有効電力Pも規定することができるので、最適出力演算部4Aは、有効電力P及び無効電力Qを意図的に変動させた場合の連系点の連系点電圧Vと求めることによって系統インピーダンスZを推定する。
【0099】
すなわち、最適出力演算部4Aは、負荷電力P+jQが変動しない短期間内の3つの時刻t1、t2、t3について無効電力QGを指定値QG1〜QG3に設定させると共に有効電力Pを指定値PG1〜PG3に設定させる電力指令値を出力設定部11に出力し、このときの連系点電圧V〜V、有効電力PG1〜PG3及び無効電力QG1〜QG3を検出電力演算部3から取得する。そして、最適出力演算部4Aは、これら連系点電圧V〜V、有効電力PG1〜PG3及び無効電力QG1〜QG3を上式(1)に代入して得られる連立方程式(2)〜(4)を解くことにより、系統インピーダンスZの実部R及び虚部Xを求める。
【0100】
本第2実施形態では、このように無効電力Qだけではなく有効電力Pも意図的に設定することができるので、式(8)の構成からも分かるように各時刻t1、t2、t3における有効電力PG1〜PG3及び無効電力QG1〜QG3をどのような値に設定するかによって簡単に系統インピーダンスZの実部R及び虚部Xを求めることができる。
また、有効電力Pを一定にして無効電力Qのみを変化させるモードと、無効電力Qを一定にして有効電力Pのみを変化させるモードとを交互に実施することにより系統インピーダンスZの実部R及び虚部Xを別々に、交互に求めることが可能である。
【0101】
また、高周波の負荷変動に起因する連系点電圧Vの電圧変動及び連系点電圧Vの計測ノイズの影響を除去する方法は、第1実施形態と同様である。さらに、負荷Lの突入電流ΔIが既知の場合の、系統インピーダンスZの虚部Xの推定精度を向上する方法についても第1実施形態と同様である。
【0102】
(2)周期変動法による系統インピーダンスZの推定処理
無効電力Qだけではなく有効電力Pも意図的に設定することができるので、最適出力演算部4Aは、系統インピーダンスZの実部Rの推定を有効電力Pを所定周期で変動させて得られる連系点電圧Vに基づいて推定する。
【0103】
(3)最適値探索法による無効電力Qの最適値の推定処理
基本的には第1実施形態における分散型電源PW1の場合と同様であるが、分散型電源PW2の運転中における有効電力Pの変動が分散型電源PW1よりも小さいので、探索処理は分散型電源PW2の起動時や有効電力Pが変化した場合にのみ行うことになる。また、既存の配電系統の変化あるいは負荷電力P+jQの変動を考慮して所定の時間間隔で探索処理を行うようにしても良い。
【0104】
また、既存の配電系統に複数の分散型電源PW2が連系されている場合、第1実施形態と同様の系統インピーダンスZの推定を行うことによって、精度の良い系統インピーダンスZを求めることができる。
【0105】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
【0106】
(1)上記各実施形態では、既存の配電系統の低圧側に分散電源を連系させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、配電系統の高圧側や送電系統等、既存の電力系統や商用電力系統に分散電源を連系させる場合についても適用可能である。
【0107】
(2)上記各実施形態では、分散型電源PW1、分散型電源PW2について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明における分散型電源は、電力系統に連係される発電設備のうち、系統電圧を単独では決定できる程の影響力を電力系統に対して持たない比較的小容量の電源一般であり、具体的には太陽光発電、風力発電、小水力発電、燃料電池、熱電併給設備あるいはごみ焼却発電等である。
【0108】
(3)上記各実施形態では、条件式:R・P+X・Q=0を満足する無効電力Q、つまり電圧変動ΔV2(=R・P+X・Q)を最小化する無効電力Qを最適値としたが、最適値の定義はこれに限定されるものではない。例えば、電圧変動ΔV2が所定のしきい値Vrefとなるように、つまりR・P+X・Q=Vrefなる条件式を満足する無効電力Qを最適値とすることによっても、分散型電源が連系点に出力する有効電力Pに起因する系統電圧の電圧変動を抑制することができる。
【0109】
(4)複数の分散型電源が同時に連立方程式(2)〜(4)に基づいて系統インピーダンスZを推定する場合において、各分散型電源で無効電力Q(分散型電源PW2ならば有効電力Pも含む)を変動させる時刻を異なるように設定する方法に変えて、その時刻を各分散型電源毎に一定の周期でランダムに変更するようにしても良い。なお、この方法に加えて、系統インピーダンスZの推定値を2回連続して求め、その2つの推定値がある一定の誤差内で同じ値になることを確認する。このようにすれば、無効電力Q及び/または有効電力Pを変動させる時刻が他の分散型電源と一時的に一致した場合であっても、2回連続して一致する可能性は低いので、系統インピーダンスZが2回連続してある一定の誤差内で同じ値になれば、それは系統インピーダンス推定処理を行った分散型電源自身が求めた系統インピーダンスZであると判断できる。
【0110】
(5)また、複数の分散型電源が同時に周期変動法により系統インピーダンスZを推定する場合において、各分散型電源で無効電力Q(分散型電源PW2ならば有効電力Pも含む)を変動させる周期を異なるように設定する方法に変えて、その無効電力Q及び変動させる周期をある一定の期間毎に各分散型電源でランダムに変更するようにしても良い。なお、この方法に加えて、さらに周期を変更して系統インピーダンスZを2回連続して求めるようにする。このようにすれば、無効電力Q及び/または有効電力Pを変動させる周期が他の分散型電源と一時的に一致した場合であっても、2回連続して一致する可能性は低いので、系統インピーダンスZの推定値が2回連続して同じ値になれば、それは系統インピーダンス推定処理を行った分散型電源自身によって求められた系統インピーダンスZであると判断できる。また、配電系統電圧の周波数スペクトルを観測し、系統内に存在しない周波数成分で無効電力Q及び/または有効電力Pを変動させて系統インピーダンスZを推定しても良い。
【符号の説明】
【0111】
S…配電用変電所、C1…高圧配電線、T1、T2…配電用変圧器、C2…低圧配電線、PW1、PW2、PW11、PW12、PW13…分散型電源、L、L1、L2、L3…負荷、1…電圧計、2…電流計、3…検出電力演算部、4、4A…最適出力演算部、5…記憶部、6…出力電流設定部、7…出力電流制御部、8…インバータ、9…直流電源、10…連系リアクトル、11…出力設定部、12…ガバナ、13…励磁電流制御部、14…原動機、15…発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の電力系統と連系して電力を負荷に供給する分散型電源であって、
有効電力及び無効電力を発生して連系点に出力する電力発生手段と、
前記有効電力に起因する連系点電圧の変動を抑制する無効電力の最適値を求め、有効電力に応じて前記最適値を出力するように前記電力発生手段を制御する制御手段と
を具備し、
前記制御手段は、前回の検出機会と今回の検出機会に取得した有効電力を基に有効電力が上昇状態にあると判定した場合、前記連系点に出力する無効電力を順次変化させて連系点電圧を検出し、該検出した連系点電圧が前記前回の検出機会に取得した連系点電圧と等しくなる無効電力を前記最適値として探索することを特徴とする分散型電源。
【請求項2】
前記制御手段は、前記探索によって得られた前記無効電力の最適値を前記連系点に出力させ、この時に得られる有効電力と前記無効電力の最適値との関係を記憶部に記憶し、以降は検出した有効電力に対応する無効電力の最適値を前記記憶部から検索し、該検索によって得られた無効電力の最適値を前記連系点に出力するよう前記電力発生手段に指示することを特徴とする請求項1記載の分散型電源。
【請求項3】
前記制御手段は、前記探索によって得られた前記無効電力の最適値を前記連系点に出力させ、この時に得られる有効電力と連系点電圧と前記無効電力の最適値との関係を記憶部に記憶し、前回の検出機会と今回の検出機会に取得した有効電力を基に有効電力が一定状態もしくは降下状態にあると判定した場合、有効電力に対応する前記無効電力の最適値を出力したときの連系点電圧が前記記憶部に記憶された連系点電圧と相違した場合に、前記記憶部における連系点電圧を書き換えるとともに、現在の有効電力より大きい有効電力に関する前記記憶部におけるデータを削除し、有効電力が再び上昇状態となったときには、書き換えた前記連系点電圧に基づき、有効電力に対する無効電力の最適値を再探索することを特徴とする請求項1または2に記載の分散型電源。
【請求項4】
負荷に電力を供給する既存の電力系統と、
該既存の電力系統と連系して負荷に電力を供給する請求項1〜3のいずれか一項に記載の分散型電源と
を具備することを特徴とする配電設備。
【請求項5】
既存の電力系統と分散型電源とが連系して負荷に電力を供給する方法であって、
前記分散型電源は、前記負荷に出力する無効電力を変動させた場合の連系点電圧を検出することにより、前記負荷に出力する有効電力に起因する連系点電圧の変動を抑制する無効電力の最適値を求め、前記有効電力及び当該有効電力に応じた前記無効電力の最適値を負荷に出力し、前回の検出機会と今回の検出機会に取得した有効電力を基に有効電力が上昇状態にあると判定した場合、前記連系点に出力する無効電力を順次変化させて連系点電圧を検出し、該検出した連系点電圧が前記前回の検出機会に取得した連系点電圧と等しくなる無効電力を前記最適値として探索することを特徴とする電力供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−55705(P2011−55705A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268681(P2010−268681)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【分割の表示】特願2005−168484(P2005−168484)の分割
【原出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】