説明

分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤及びその利用

【課題】高い汎用性を有し、滲みを抑制し、且つ、良好な風合いの布帛とする、インクジェット捺染に供される布帛の前処理剤を提供する。
【解決手段】ポリアミンと、水と、を含み、ポリアミンは、一分子中に下記式(1)で示される構造単位を含み、他のアミン、アンモニウム塩構造単位のうち少なくとも一方をさらに当該一分子中に含む。


(R及びRは、水素又はアルキル基である。Xはハロゲンイオンである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は昇華型の分散染料によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
分散染料(昇華型)によりインクジェット捺染される布帛を、前処理剤を用いて予め前処理することによって、滲みを防止することを目的とした技術が特許文献1に記載されている。
【0003】
具体的には、特許文献1には、染料に対して実質的に非染着性である水溶性高分子等が付着しているインクジェット染色用布帛が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−31594号公報(1988年6月24日公告)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤は汎用性が低いため、分散染料(昇華型)及び分散剤によって、前処理剤を選択して使用する必要がある。そのため、インクジェット捺染の工程が煩雑になるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みて、より多くの分散染料(昇華型)及び分散剤に適用できる高い汎用性を有し、滲みを抑制し、且つ、良好な風合いの布帛とする、インクジェット捺染に供される布帛の前処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来のインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤によって滲みが発生した分散染料(昇華型)及び分散剤を用いたインクジェット捺染において、滲みを防止して鮮明な画像を得ることができ、且つ、高発色性および良好な風合いを同時に達することができる前処理剤を鋭意研究した結果、下記に示す特定構造のポリアミンを水溶性樹脂成分として用いることにより、従来の前処理剤によって滲みが発生した分散染料(昇華型)及び分散剤であっても滲みの防止効果が向上し、鮮明で、高発色性および良好な風合いを有する高品位画像を得ることができることを見出した。
【0008】
即ち、本発明に係る分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤は、上記の課題を解決するために、ポリアミンと、水と、を含み、上記ポリアミンは、一分子中に下記式(1)で示される構造単位を含み、下記式(2)で示される構造単位及び下記式(3)で示される構造単位のうち少なくとも一方をさらに当該一分子中に含むことを特徴とする。
【0009】
【化1】

【0010】
(R及びRは、水素又はアルキル基であり、RとRとは同一であっても異なってもよく、Xはハロゲンイオンである。)
【0011】
【化2】

【0012】
(R及びRは水素、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルキレン基であり、RとRとは同一であっても異なっていてもよく、Rはアルキレン基又は−R−[NR−R]n−基であり、R及びRはアルキレン基であり、RとRとは同一であっても異なっていてもよく、Rは水素、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルキレン基であり、nは1〜4である。)
【0013】
【化3】

【0014】
(R、R10、R11は水素、アルキル基であり、RとR10とR11とは同一であっても異なっていてもよく、Xはハロゲンイオンである。)
本発明に係る分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染の前処理剤では、上記ポリアミンは、一分子中に上記式(1)で示される構造単位及び上記式(2)で示される構造単位を含むものであり、分子量が10,000以上、500,000以下であってもよい。
【0015】
本発明に係る分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤では、上記ポリアミンは、一分子中に上記式(1)で示される構造単位及び上記式(3)で示される構造単位を含むものであり、分子量が10,000未満であってもよい。
【0016】
本発明に係る分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤では、上記前処理剤の全量に対する上記ポリアミンの含有量が10重量%以上であることがより好ましい。
【0017】
本発明に係る分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤では、上記分散染料(昇華型)を分散させる分散剤がアニオン性基を備えているものであるときにより好適に用いることができる。
【0018】
本発明に係る分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤では、上記分散剤の酸価は1mgKOH/g以上、20mgKOH/g以下であるときにより好適に用いることができる。
【0019】
また、本発明には、上記の本発明に係る分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染の前処理剤により前処理された布帛も包含される。
【0020】
また、本発明に係るインクジェット捺染方法は、上記の本発明に係る分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染の前処理剤によって、布帛を前処理する前処理工程と、上記前処理工程において前処理された布帛に分散染料(昇華型)によってインクジェット捺染する捺染工程と、を含む。
【0021】
また、本発明に係る分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤では、上記布帛がポリエステル繊維からなるものであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、より多くの種類の分散染料(昇華型)及び分散剤に適用できる高い汎用性を有し、且つ、滲みを抑制し、且つ、良好な風合いの布帛とする、インクジェット捺染に供される布帛の前処理剤を提供できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤(以下、説明の簡単のため「本発明に係る前処理剤」という。)は、ポリアミンと、水と、を含み、上記ポリアミンは、一分子中に上記式(1)で示される構造単位を含み、上記式(2)で示される構造単位及び上記式(3)で示される構造単位のうち少なくとも一方をさらに当該一分子中に含む。
【0024】
本発明に係る前処理剤を用いれば、様々な種類の分散染料(昇華型)及び分散剤において、滲みの防止及び良好な風合いを達成することできる。例えば、後述の実施例のように、従来のクエン酸を用いた前処理剤では滲みが防止できなかった分散剤を用いたときにも滲みを防止できている。
【0025】
このように、本発明に係る前処理剤にて前処理した後に使用する分散染料(昇華型)及び分散剤の種類は特に限定されないが、分散染料(昇華型)を分散させる分散剤としては、アニオン性基を備えているものを、より好適に用いることができる。アニオン性基としては、例えば、カルボニル基、スルホン基が挙げられる。
【0026】
また、本発明に係る前処理剤で前処理した後に、分散染料(昇華型)を分散させる分散剤の酸価が1mgKOH/g以上、20mgKOH/g以下の範囲であるものを、より好適に用いることができる。さらに好ましくは酸価が6mgKOH/g以上、14mgKOH/g以下であるものをより好適に用いることができる。
【0027】
また、本発明に係る前処理剤による前処理の対象の布帛としては、特に限定されず様々な種類の布帛を対象とできるが、中でも、ポリエステル繊維からなる布帛に好適に用いることができる。
【0028】
本発明に係る前処理剤に含まれるポリアミンは、一分子中に、上記式(1)で示される構造単位を含み、さらに上記式(2)で示される構造単位及び上記式(3)で示される構造単位のうち少なくとも一方を含む。
【0029】
つまり、本発明に係る前処理剤に含まれるポリアミンは上記式(1)で示される構造単位及び上記式(2)で示される構造単位を含む分子であってもよく、上記式(1)で示される構造単位及び上記式(3)で示される構造単位を含む分子であってもよく、上記式(1)で示される構造単位、上記式(2)で示される構造単位及び上記式(3)で示される構造単位の全てを含む分子であってもよい。
【0030】
より好適には、本発明に係る前処理剤に含まれるポリアミンは、上記式(1)で示される構造単位及び上記式(2)で示される構造単位を含む分子、又は、上記式(1)で示される構造単位及び上記式(3)で示される構造単位を含む分子である。さらに好ましくは、本発明に係る前処理剤に含まれるポリアミンは、上記式(1)で示される構造単位及び上記式(3)で示される構造単位からなる分子である。
【0031】
本発明に係る前処理剤に含まれるポリアミンが、上記式(1)で示される構造単位及び上記式(2)で示される構造単位である場合、当該ポリアミンの分子量は、10,000以上、500,000以下であることがより好ましい。さらに、好ましくは、50,000以上、400,000以下である。分子量が10,000以上であることにより、より優れた滲み防止効果を得ることができる。分子量が500,000以下あれば粘度が高くならず、製品の取り扱いが容易となる。
【0032】
本発明に係る前処理剤に含まれるポリアミンが、上記式(1)で示される構造単位及び上記式(3)で示される構造単位である場合、当該ポリアミンの分子量は、10,000未満であることがより好ましい。下限値は特に限定されないが、例えば、500以上であればよい。さらに好ましくは、500以上8,000以下である。分子量が10,000以下であれば優れた風合いの布帛を得ることができる。
【0033】
上記式(1)で示される構造単位中のRは水素又はアルキル基である。当該アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピル基、n―ブチル基、イソブチル基、sec―ブチル基、tert―ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ラウリル基、ステアリル基などが挙げられる。中でもメチル基、エチル基が好ましい。
【0034】
また、Rは水素又はアルキル基である。当該アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピル基、n―ブチル基、イソブチル基、sec―ブチル基、tert―ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ラウリル基、ステアリル基などが挙げられる。中でもメチル基、エチル基が好ましい。
【0035】
とRとは同一であっても異なっていてもよい。
【0036】
上記式(1)中のXはハロゲンイオンであればよいが、中でも塩素イオンが好ましい。
【0037】
上記式(1)で示される構造単位の好ましい態様の一つは、Rはメチル基、エチル基であり、Rはメチル基、エチル基であり、Xが塩素イオンである。
【0038】
上記式(2)で示される構造単位中のRは、水素、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルキレン基である。当該アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピル基、n―ブチル基、イソブチル基、sec―ブチル基、tert―ブチル基、当該ヒドロキシアルキル基の例としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、当該ヒドロキシアルキレン基の例としては、ヒドロキシメチレン基、ヒドロキシエチレン基、ヒドロキシプロピレン基、ヒドロキシブチレン基、ヒドロキシペンチレン基、ヒドロキシヘキシレン基が挙げられる。中でも水素、メチル基、ヒドロキシプロピレン基が好ましい。
【0039】
また、Rは、水素、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルキレン基である。当該アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピル基、n―ブチル基、イソブチル基、sec―ブチル基、tert―ブチル基、当該ヒドロキシアルキル基の例としては、ヒドロキシメチレン基、ヒドロキシエチレン基、ヒドロキシプロピレン基、ヒドロキシブチレン基、ヒドロキシペンチレン基、ヒドロキシヘキシレン基、当該ヒドロキシアルキレン基の例としては、ヒドロキシメチレン基、ヒドロキシエチレン基、ヒドロキシプロピレン基、ヒドロキシブチレン基、ヒドロキシペンチレン基、ヒドロキシヘキシレン基が挙げられる。中でも水素、メチル基、ヒドロキシプロピレン基が好ましい。
【0040】
とRとは同一であっても異なっていてもよい。
【0041】
はアルキレン基又は−R−[NR−R]n−基である。当該アルキレン基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、が挙げられる。また、Rが−R−[NR−R]n−基であるとき、Rはアルキレン基である。当該アルキレン基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。また、Rはアルキレン基である。当該アルキレン基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。RとRとは同一であっても異なっていてもよい。Rは水素、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルキレン基であり、その例としては、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピル基、n―ブチル基、イソブチル基、sec―ブチル基、tert―ブチル基、ヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシアルキレン基としては、ヒドロキシメチレン基、ヒドロキシエチレン基、ヒドロキシプロピレン基、ヒドロキシブチレン基、ヒドロキシペンチレン基、ヒドロキシヘキシレン基が挙げられる。中でも水素、メチル基、ヒドロキシプロピレン基が好ましい。なお、nは1〜4の整数であり、より好ましい範囲は1〜2である。
【0042】
上記式(3)で示される構造単位中のRは水素又はアルキル基である。当該アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピル基、n―ブチル基、イソブチル基、sec―ブチル基、tert―ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ラウリル基、ステアリル基が挙げられる。中でもメチル基、エチル基が好ましい。
【0043】
また、R10は水素又はアルキル基である。当該アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピル基、n―ブチル基、イソブチル基、sec―ブチル基、tert―ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ラウリル基、ステアリル基が挙げられる。中でもメチル基、エチル基が好ましい。
【0044】
また、R11は水素又はアルキル基である。当該アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピル基、n―ブチル基、イソブチル基、sec―ブチル基、tert―ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ラウリル基、ステアリル基が挙げられる。中でもメチル基、エチル基が好ましい。RとR10とR11とは同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
上記式(3)中のXはハロゲンイオンであればよいが、中でも塩素イオンが好ましい。
【0046】
以上に示した、一分子中に上記式(1)の構造単位を分子中に含み、さらに上記式(2)及び(3)のうち少なくとも一方を当該一分子中に含むポリアミンは従来公知の方法で合成することができる。
【0047】
本発明に係る前処理剤におけるポリアミンの含有量としては、特に限定されないが、前処理剤の全量に対するポリアミンの含有量が10重量%以上であることが滲みをより抑制することができるためより好ましい。
【0048】
本発明に係る前処理剤において、ポリアミン以外の成分は水であればよい。
【0049】
本発明は、本発明に係る前処理剤で処理された布帛を提供する。本発明に係る布帛は、本発明に係る前処理剤で前処理されているので、様々な分散染料(昇華型)及び分散剤を用いてインクジェット捺染しても、滲むことを抑制できる。
【0050】
ここで、前処理の具体的な態様は、本発明に係る前処理剤を布帛に含ませればよく、例えば、布帛を本発明に係る前処理剤に浸せばよい。また、例えば、布帛を本発明に係る前処理剤に浸し、ローラ等により均一に絞り、乾燥させる等の方法で前処理してもよい。
【0051】
本発明に係るインクジェット捺染方法は、本発明に係る前処理剤によって、布帛を前処理する前処理工程と、前処理工程において前処理された布帛に分散染料(昇華型)によってインクジェット捺染する捺染工程と、を含む。
【0052】
前処理工程は、布帛を本発明に係る前処理剤で前処理すればよく、前処理の方法については上述したとおりである。
【0053】
捺染工程は、前処理工程において前処理された布帛に、分散染料(昇華型)を分散剤によって分散させて作製したインクを用いてインクジェット捺染すればよい。インクジェット捺染の方法としては、例えば、従来公知のインクジェット捺染方法をいずれも好適に用いることができる。
【0054】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された特許文献及び非特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0055】
<実施例1>
〔1.従来の前処理剤の性質の確認〕
まず、従来の前処理剤の性質を下記の表1(高粘度タイプ)および表2(低粘度タイプ)に示すインクを用いて確認した。前処理剤にはクエン酸の0.6重量%水溶液を用いた。
【0056】
インクは下記表1の高粘度タイプ及び下記表2の低粘度タイプのものを用いた。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
下記の表3では、表1および表2に示すインクについて、(1)ゲル化・安定性の評価、及び、(2)上述の従来の前処理剤を用いて前処理した布帛(ポリエステル/ポンジ)における滲みを評価した。
【0060】
ゲル化・安定性の評価については、インクをガラスビンに入れ、60℃環境にて24日間静置させた後、評価を行った。具体的には、粘度/東機産業株式会社製TV−33粘度計と、粒径の変化/Microtrac Inc.製粒度分布計で評価し、増大すれば×とし、変化がなければ○とした。
【0061】
また、滲みについては、布帛を前処理剤に浸し、ローラで均一に絞り、室温で乾燥させたのち評価を行った。具体的には、目視で滲みの有無を確認し、滲みが確認されれば×とし、確認されなければ○とした。
【0062】
結果を表3に示す。なお、表1のインク及び表2のインク共に同じ結果であった。
【0063】
【表3】

【0064】
表3に示すように青色ではゲル化・安定性が×となった。
【0065】
〔2.別の分散剤〕
次に、分散剤をゲル化しない物に変更して上記〔1.従来の前処理剤の性質の確認〕と同様にして青色のインクを用いて、ゲル化評価・安定性、及び滲みを評価した。インクは表1のBと同じインクを用いた。結果を表4に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
以上のことから、分散剤を変えると、従来の前処理剤では滲むことが分かった。
【0068】
〔3.本発明の前処理剤〕
次に、上記〔2.別の分散剤〕の項で使用した分散剤に対して、本発明に係る前処理剤によって、滲みが抑えられるか確認した。
【0069】
本発明に係る前処理剤は、一分子の構造単位が上記式(1)及び上記式(2)からなり、Rはメチル基、Rはメチル基、Xは塩素イオン、Rは水素、Rは水素、Rは−R−[NR−R]n−であり、Rはエチレン基、Rはエチレン基、Rは水素、n=1であるポリアミンを10重量%含む水溶液を用いた。その他の操作及び評価は上記〔1.従来の前処理剤の性質の確認〕の項の記載と同じ方法で行なった。
【0070】
結果を表5に示す。
【0071】
【表5】

【0072】
表5に示すように、従来の前処理剤では滲みが確認された分散剤においても、本発明に係る前処理剤を用いれば滲みが確認されないことが分かった。
【0073】
<実施例2>
本実施例では、ポリアミンの濃度と風合い及び滲みとの関係を確認した。ポリアミンとしては、実施例1で使用した本発明に係る前処理剤に含まれるポリアミン(以下、「ポリアミンA」という。)と、一分子の構造単位が上記式(1)及び上記式(3)からなり、Rはメチル基、Rはメチル基、X(式(1)のもの)は塩素イオン、Rはメチル基、R10はメチル基、R11はメチル基、X(式(3)のもの)は塩素イオン、であるポリアミン(以下、「ポリアミンB」という。)とを用いた。また、比較のために、日東紡社製のPAS−J−81(以下、「ポリアミンC」という。)と、日東紡社製のPAS−410C(以下、「ポリアミンD」という。)とを用いた。また、比較例1としてクエン酸の0.6重量%水溶液を用いた。
【0074】
ポリアミンA、ポリアミンB、ポリアミンC及びポリアミンDを、後述の表6に示す濃度で水に溶解して前処理剤とした以外は、実施例1と同じ操作を行ない、風合い及び滲みを評価した。インクは表1のBの青色インクを用いた。
【0075】
風合いの評価は、布帛(ポリエステル/ポンジ)の手触りで行ない、最も悪いものを「1」、最も良いものを「5」として5段階で評価した。
【0076】
滲みの評価は目視で行ない、最も悪いものを「1」、最も良いものを「5」として5段階で評価した。
【0077】
結果を表6に示す。
【0078】
【表6】

【0079】
表6に示すように、本発明に係る前処理剤によれば、比較例1に比べて良好に滲みを抑えること、及び、比較例1と同様又はそれ以上の風合いが得られることが分かった。また、比較例2〜5に比べて良好な風合いとなった。これらのことから、本発明に係る前処理剤を用いれば、良好な風合いの布帛を得ることと、滲みの抑制とを共に達成することができることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、インクジェット捺染を使用する繊維産業等の様々な分野に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミンと、
水と、を含み、
上記ポリアミンは、一分子中に下記式(1)で示される構造単位を含み、下記式(2)で示される構造単位及び下記式(3)で示される構造単位のうち少なくとも一方をさらに当該一分子中に含むことを特徴とする分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤。
【化1】

(R及びRは、水素又はアルキル基であり、RとRとは同一であっても異なってもよく、Xはハロゲンイオンである。)
【化2】

(R及びRは水素、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルキレン基であり、RとRとは同一であっても異なっていてもよく、Rはアルキレン基又は−R−[NR−R]n−基であり、R及びRはアルキレン基であり、RとRとは同一であっても異なっていてもよく、Rは水素、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルキレン基であり、nは1〜4である。)
【化3】

(R、R10、R11は水素、アルキル基であり、RとR10とR11とは同一であっても異なっていてもよく、Xはハロゲンイオンである。)
【請求項2】
上記ポリアミンは、一分子中に上記式(1)で示される構造単位及び上記式(2)で示される構造単位を含むものであり、分子量が10,000以上、500,000以下であることを特徴とする請求項1に記載の分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤。
【請求項3】
上記ポリアミンは、一分子中に上記式(1)で示される構造単位及び上記式(3)で示される構造単位を含むものであり、分子量が10,000未満であることを特徴とする請求項1に記載の分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤。
【請求項4】
上記前処理剤の全量に対する上記ポリアミンの含有量が10重量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤。
【請求項5】
上記分散染料(昇華型)を分散させる分散剤がアニオン性基を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤。
【請求項6】
上記分散剤の酸価は1mgKOH/g以上、20mgKOH/g以下であることを特徴とする請求項5に記載の分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤により前処理された布帛。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤によって、布帛を前処理する前処理工程と、
上記前処理工程において前処理された布帛に分散染料(昇華型)によってインクジェット捺染する捺染工程と、
を含むインクジェット捺染方法。
【請求項9】
上記布帛がポリエステル繊維からなるものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の分散染料(昇華型)によるインクジェット捺染に供される布帛の前処理剤。


【公開番号】特開2012−82546(P2012−82546A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228959(P2010−228959)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】