説明

分析装置および分析方法

【課題】テラヘルツ波の波長以下の微小な試料でも、ペレットを使用することなくテラヘルツ波を用いて短時間で分光情報が得られる分析装置を提供する。
【解決手段】パルス状のテラヘルツ波からなる第1の電磁波を試料15に照射する第1の照射系21と、第1の電磁波の照射により試料15から放射される第2の電磁波を伝播する電気光学結晶14と、電気光学結晶14における第2の電磁波の伝播領域に、該伝播領域における第2の電磁波の伝播タイミングに合わせて、第1の電磁波よりも波長が短いパルス状の第3の電磁波を照射する第2の照射系22と、電気光学結晶14と相互作用した伝播領域における第3の電磁波の偏光状態を検出する検出部23と、検出部23の出力に基づいて試料15の分光情報を取得する処理部24と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を使用する分析装置および分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フェムト秒パルスレーザを利用した、テラヘルツ波時間領域分光法(terahertz time-domain spectroscopy, THz−TDS)が確立されたことで、テラヘルツ波の分光測定が簡易に、かつ高いS/Nで行えるようになった。テラヘルツ波は、波長が数百μm程度(1THzの場合、波長300μm)の赤外光であり、その周波数帯に半導体材料や巨大生体高分子、超伝導材料などに特異な吸収スペクトルを有することから、これらのセンシングへの応用が期待されている。
【0003】
このTHz−TDSでは、フェムト秒レーザパルスをポンプ光とプローブ光とに分岐し、ポンプ光を非線形光学結晶などのテラヘルツ波発生素子に照射することでパルス状のテラヘルツ波を発生させる。発生したテラヘルツ波は、試料に照射され、試料を透過または試料で反射されたテラヘルツ波は電気光学結晶などのテラヘルツ波センサに導光される。
【0004】
テラヘルツ波が電気光学結晶に入射すると、ポッケルス効果によって結晶内に複屈折が誘起される。これと同時に、プローブ光が電気光学結晶を透過すると、テラヘルツ波電場で誘起された複屈折によってプローブ光の偏光状態が変化する。この偏光の変化を検出することでテラヘルツ波電場を検出し、試料の情報を得ることができる。
【0005】
ここで、テラヘルツ波電場のパルス幅は、一般に数ピコ秒程度であり、プローブ光は100フェムト秒程度である。そのため、テラヘルツ波パルスの結晶内でプローブ光と時間的に重なっている時間領域のみが検出されることになる。したがって、テラヘルツ波パルスの全ての時間領域を検出するためには、電気光学結晶に入射するテラヘルツ波パルスとプローブ光との相対的時間差を変化させる必要がある。その方法として、例えば遅延光路にプローブ光を通し、それを走査するという方法が知られている。これによりテラヘルツ波電場の時間波形を取得すれば、その時間波形をフーリエ変換することにより、位相や振幅の周波数情報、すなわち分光情報を得ることができる。
【0006】
しかし、上記の遅延光路を使用する方法は、走査に時間を要することになる。その解決策として、例えば、プローブ光とテラヘルツ波とを非同軸に電気光学結晶に入射させる方法や、テラヘルツ波もしくはプローブ光のパルス面を傾斜させて両者を同軸に電気光学結晶に入射させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
前者の方法では、ビーム径が拡大されたプローブ光とテラヘルツ波とを非同軸に電気光学結晶に入射させ、プローブ光とテラヘルツ波との時間的重なり位置が、プローブ光の空間位置によって異なるようにしている。すなわち、テラヘルツ波の時間情報を、プローブ光の空間情報に変換している。そして、このプローブ光を1次元光検出器で検出することにより、テラヘルツ波電場の時間波形をワンショットで検出するようにしている。
【0008】
また、後者の方法では、テラヘルツ波もしくはプローブ光で、そのパルス面を傾斜させるようにしている。すなわち、ビーム内で空間的に遅延を持たせるようにしている。これにより、上記の前者の方法の場合と同様に、プローブ光とテラヘルツ波との時間的重なり位置がプローブ光の空間位置によって異なるようにして、ワンショットでテラヘルツ波電場波形を検出可能としている。このような方法を採用することにより、走査機構を必要とせず、短時間でテラヘルツ波電場の時間波形を検出することが可能となる。
【0009】
しかし、上記のようなワンショットのテラヘルツ波検出方法は、試料を透過または試料で反射されたテラヘルツ波を検出するため、試料がテラヘルツ波の波長と同程度もしくはそれよりも小さい場合、その検出が困難である。例えば、アミノ酸結晶であるチロシン結晶は、大きさが数百μm程度であり、テラヘルツ波の波長と同程度、もしくはそれより小さい場合もある。
【0010】
一方、テラヘルツ波を用いて微小な試料を測定する方法として、試料をパウダー状に粉砕してテフロン(登録商標)またはポリエチレンのパウダーと混合してペレット状に加工し、その加工物にテラヘルツ波を照射して測定する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。この測定法によれば、チロシン結晶のような微小な試料においてもテラヘルツ波を試料に透過もしくは反射させて測定を行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−096210号公報
【特許文献2】特開2005−172775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2に開示のペレットを作製する方法では、微小な結晶を単結晶で測定して、その偏光特性を調べるなどの場合は、測定が困難となる。また、開発段階の微小な半導体材料や超伝導材料などを測定する場合は、材料の個数を多く準備できず、ペレットの作製自体が難しくなって、ペレットを使用した測定方法を採用できないことも想定される。
【0013】
したがって、かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、テラヘルツ波の波長以下の微小な試料でも、ペレットを使用することなくテラヘルツ波を用いて短時間で分光情報を得ることが可能な分析装置および分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成する本発明に係る分析装置の発明は、
パルス状のテラヘルツ波からなる第1の電磁波を試料に照射する第1の照射系と、
前記第1の電磁波の照射により前記試料から放射される第2の電磁波を伝播する電気光学結晶と、
該電気光学結晶における前記第2の電磁波の伝播領域に、該伝播領域における前記第2の電磁波の伝播タイミングに合わせて、前記第1の電磁波よりも波長が短いパルス状の第3の電磁波を照射する第2の照射系と、
前記電気光学結晶と相互作用した前記伝播領域における前記第3の電磁波の偏光状態を検出する検出部と、
該検出部の出力に基づいて前記試料の分光情報を取得する処理部と、
を備えることを特徴とするものである。
【0015】
前記電気光学結晶は、前記第2の電磁波として、前記第1の電磁波の照射により前記試料から自由誘導減衰によって再放射される電磁波を伝播する、
ことを特徴とするものである。
【0016】
前記検出部は固体撮像カメラを備え、該固体撮像カメラにより前記第3の電磁波の偏光状態を前記伝播領域の2次元画像として検出する、
ことを特徴するものである。
【0017】
前記処理部は、前記試料の分光情報として、前記検出部の出力を前記電気光学結晶の屈折率に基づいて時間領域情報に変換した後、該時間領域情報をフーリエ変換して周波数情報を取得する、
ことを特徴するものである。
【0018】
前記電気光学結晶は、前記第3の電磁波の振動面において複屈折が生じるように配置されている、
ことを特徴するものである。
【0019】
前記電気光学結晶は、前記第2の電磁波が前記第1の電磁波の振動面と直交する面内で振動することにより、前記第3の電磁波の振動面において複屈折が生じるように配置されている、
ことを特徴するものである。
【0020】
さらに、上記目的を達成する本発明に係る分析方法の発明は、
パルス状のテラヘルツ波からなる第1の電磁波を試料に照射して、該試料から放射される第2の電磁波を電気光学結晶に伝播させるステップと、
該電気光学結晶における前記第2の電磁波の伝播領域に、該伝播領域における前記第2の電磁波の伝播タイミングに合わせて、前記第1の電磁波よりも波長が短いパルス状の第3の電磁波を照射するステップと、
前記電気光学結晶と相互作用した前記伝播領域における前記第3の電磁波の偏光状態を検出して、該偏光状態に基づいて前記試料の分光情報を取得するステップと、
を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、テラヘルツ波の波長以下の微小な試料でも、ペレットを使用することなくテラヘルツ波を用いて短時間で分光情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る分析装置の全体の概略構成図である。
【図2】図1の破線部分の拡大図である。
【図3】図1の固体撮像カメラにより取得されるテラヘルツ波電場振幅分布画像を模式的に示す図である。
【図4】図3のテラヘルツ波電場振幅分布画像におけるラインプロファイルを示す図である。
【図5】図4のラインプロファイルに基づくパワースペクトルを示す図である。
【図6】図1の固体撮像カメラにより取得されたテラヘルツ波電場振幅分布画像の一例を示す写真である。
【図7】図6のテラヘルツ波電場振幅分布画像におけるラインプロファイルを示す図である。
【図8】図7のラインプロファイルに基づくパワースペクトルを示す図である。
【図9】本発明の第2実施の形態に係る分析装置の全体の概略構成図である。
【図10】図9の破線部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0024】
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る分析装置の全体の概略構成図である。この分析装置は、近赤外のフェムト秒レーザパルス(第3の電磁波)を射出するレーザ光源11と、該レーザ光源11からのフェムト秒レーザパルスを2つの光束に分岐するビームスプリッタ12と、該ビームスプリッタ12で分離された一方のフェムト秒レーザパルスをポンプ光としてテラヘルツ波(第1の電磁波)を発生するテラヘルツ波発生部13と、電気光学結晶14とを備える。
【0025】
さらに、分析装置は、テラヘルツ波発生部13で発生したテラヘルツ波を試料15に照射する第1の照射系21と、ビームスプリッタ12で分離された他方のフェムト秒レーザパルスをプローブ光として電気光学結晶14に照射する第2の照射系22と、電気光学結晶14におけるフェムト秒レーザパルスの偏光状態を検出する検出部23と、検出部23の出力に基づいて試料15の分光情報を取得する処理部24と、全体の動作を制御する制御部25とを備える。試料15は、電気光学結晶14上に載置される。
【0026】
テラヘルツ波発生部13は、反射ミラー31,32,33と、集光レンズ34と、テラヘルツ波発生素子35とを備える。そして、テラヘルツ波発生部13は、ビームスプリッタ12で分岐されたフェムト秒レーザパルスを、反射ミラー31,32,33で順次反射させて、集光レンズ34によりテラヘルツ波発生素子35に集光し、これによりテラヘルツ波発生素子35からテラヘルツ波パルスを放射させる。テラヘルツ波発生素子35は、公知の非線形光学結晶や光伝導アンテナ等から構成される。なお、図1では、3枚の反射ミラー31,32,33を用いているが、光学素子のレイアウトによっては、省略あるいは適宜の枚数とすることができる。
【0027】
第1の照射系21は、照射レンズ系41およびダイクロイックミラー42を備え、テラヘルツ波発生素子35から放射されるテラヘルツ波を、照射レンズ系41によりダイクロイックミラー42を透過させて試料15に照射する。
【0028】
第2の照射系22は、1/2波長板51と、光路長調整光学系52と、反射ミラー53と、ビームエキスパンダ54とを備える。光路長調整光学系52は、光路を平行に折り返す2つの反射ミラーを有し、制御部25による制御のもとに両矢印方向に移動可能に構成される。そして、第2の照射系22は、ビームスプリッタ12で分岐されたフェムト秒レーザパルスを、1/2波長板51、光路長調整光学系52および反射ミラー53を経てビームエキスパンダ54によりビーム径を拡大し、その後、ダイクロイックミラー42で反射させて、試料15の極近傍の電気光学結晶14の領域に照射する。
【0029】
なお、図1では、ダイクロイックミラー42が、第1の照射系21のテラヘルツ波パルスは透過させ、第2の照射系22のフェムト秒レーザパルスは反射させるように構成されているが、光学系のレイアウトによっては、反射と透過とが逆であってもよい。また、反射ミラー53は、光学素子のレイアウトに応じて、省略あるいは適宜の枚数とすることできる。
【0030】
検出部23は、反射ミラー61、結像レンズ系62、1/4波長板63、偏光子64および固体撮像カメラ65を備える。そして、検出部23は、電気光学結晶14と相互作用して電気光学結晶14を透過したフェムト秒レーザパルスを、反射ミラー61、結像レンズ系62、1/4波長板63および偏光子64を経て固体撮像カメラ65に入射させる。これにより、電気光学結晶14内の面の2次元画像を撮像して、電気光学結晶14によるフェムト秒レーザパルスの偏光状態を検出する。なお、固体撮像カメラ65は、制御部25によって撮影動作が制御される。
【0031】
処理部24は、固体撮像カメラ65からの画像信号を入力し、その画像信号に基づく空間領域情報を電気光学結晶14の屈折率に基づいて時間領域情報に変換した後、該時間領域情報をフーリエ変換して、試料15の分光情報である周波数情報を取得する。
【0032】
以下、本実施の形態に係る分析装置の動作について更に詳細に説明する。
【0033】
図2は、図1の破線部分の拡大図である。上述したように、電気光学結晶14上に試料15を載置して、その上方からテラヘルツ波パルス(第1の電磁波)を試料15に照射する。また、試料15の近傍の領域において、フェムト秒レーザパルス(第3の電磁波)を電気光学結晶14に照射する。なお、フェムト秒レーザパルスの照射領域は、試料15を含んでいても良い。そして、電気光学結晶14を透過したフェムト秒レーザパルスを、反射ミラー61、結像レンズ系62、1/4波長板63および偏光子64を経て固体撮像カメラ65に入射させる。そして、結像レンズ系62により、図2に破線で示すように、電気光学結晶14内の面を固体撮像カメラ65で撮像する。
【0034】
ここで、試料15がテラヘルツ波周波数帯に吸収ピークを有している場合、試料15にテラヘルツ波パルスが照射されると、吸収ピークに応じた分極が誘起され、テラヘルツ波パルスが吸収を受ける。この際、試料15内に誘起された分極が振動することで、試料15から新たに微弱なテラヘルツ波(第2の電磁波)が再放射される。この現象は、自由誘導減衰と呼ばれる。この再放射されるテラヘルツ波の周波数は、試料15の分極振動の周波数、つまり吸収ピークに一致する。例えば、アミノ酸のチロシン結晶は、0.97THzに吸収ピークを有しているので、この場合、プローブ光の照射後に自由誘導減衰によって0.97THzのテラヘルツ波が再放射される。
【0035】
この自由誘導減衰によって再放射されるテラヘルツ波の放射方向は、試料15内の分極振動の方向に依存し、図2に示すように、入射するテラヘルツ波(第1の電磁波)とは異なる方向にも出射される。なお、図2に示す3次元座標軸X,Y,ZにおけるZ軸は、試料15に対する第1の照射系21および第2の照射系22の光軸方向を示している。そして、再放射されたテラヘルツ波が電気光学結晶14に入射すると、その電場による電気光学効果によって電気光学結晶14内に複屈折が生じる。その結果、再放射されたテラヘルツ波(第2の電磁波)が電気光学結晶14を伝播する領域を、フェムト秒レーザパルス(第3の電磁波)が透過すると、その偏光が変化する。この偏光の変化は、1/4波長板63および偏光子64を経て固体撮像カメラ65により2次元画像として検出される。これにより、フェムト秒レーザパルスが電気光学結晶14を透過した領域のテラヘルツ波電場振幅分布を画像として得ることができる。
【0036】
なお、図1に示した第2の照射系22に配置された1/2波長板51は、電気光学結晶14内に生じる複屈折によってフェムト秒レーザパルスの偏光が変化するように、予めフェムト秒レーザパルスの偏光状態を設定するために使用される。また、ビームエキスパンダ54は、フェムト秒レーザパルスの光束径を適切な大きさに調整するために使用される。
【0037】
図3は、図1に示した固体撮像カメラ65により取得されるテラヘルツ波電場振幅分布画像を模式的に示す図である。図3に示す画像は、取得画像の領域外の左側に試料が位置して、該試料からテラヘルツ波が放射されてX+方向に伝播している中の、ある時間におけるテラヘルツ波電場分布を示している。ここで、図1に示した第2の照射系22に配置された光路長調整光学系52によりフェムト秒レーザパルスの光路長を調整して、フェムト秒レーザパルスとテラヘルツ波(第2の電磁波)とが電気光学結晶14に入射する際の相対的時間差を変化させると、異なる時間でのテラヘルツ波の空間分布画像を取得することができる。つまり、試料15から再放射されるテラヘルツ波が観測されるように光路調整光学系52を調節すれば、図3に示すような画像を得ることができる。
【0038】
図4は、図3に示したテラヘルツ波電場振幅分布画像の破線位置におけるラインプロファイルを示すものである。横軸はX方向の空間座標位置を示し、縦軸は信号強度を示す。つまり、図4は、空間座標位置でのある時間におけるテラヘルツ波電場振幅の空間分布を示している。
【0039】
したがって、処理部24において、固体撮像カメラ65からのテラヘルツ波電場振幅分布画像(空間座標)を、電気光学結晶14のテラヘルツ波帯の屈折率および光速に基づいて時間領域情報に変換し、その時間領域情報をフーリエ変換すれば、図5に示すようなスペクトルを得ることができる。このスペクトルのピーク周波数は、試料15から自由誘導減衰によって再放射されるテラヘルツ波の周波数を表している。つまり、このピーク周波数は、試料15のテラヘルツ波吸収ピークに一致し、試料15の分光情報を示している。
【0040】
なお、本実施の形態においては、処理部24によりテラヘルツ波電場をフーリエ変換してスペクトル情報を得るため、検出部23の固体撮像カメラ65からテラヘルツ波電場振幅強度に比例した画像信号を得るのが望ましい。そのため、図1では、偏光子64の入射側に1/4波長板63を配置して光ヘテロダイン検出を行うように検出部23を構成している(T. Hattori, and M. Sakamoto, “Deformation corrected real-time terahertz imaging,” Appl. Phys. Lett. 90, 261106 (2007).参照)。しかし、検出部23は、テラヘルツ波電場振幅強度に比例した画像信号が取得できれば、光ヘテロダイン検出以外の公知の構成とすることができる。
【0041】
また、電気光学結晶14は、図2に示すように、X方向に振動するテラヘルツ波を入射し、Z方向に振動するテラヘルツ波を検出する場合、Z方向に感度を持つZnTe結晶(100面)やLiNbO結晶(Z−cut)などを使用することが望ましい。また、X方向もしくはY方向に振動するテラヘルツ波を検出する場合は、ZnTe結晶(110面)やLiNbO結晶(X−cut)などを使用することが望ましい。この場合、検出するテラヘルツ波に感度が最適となるように結晶のXY面内での回転角を調整することが望ましい。
【0042】
また、試料15から放射されるテラヘルツ波は、伝播方向がXY平面上で伝播するものだけではなく、Z方向に成分を有するものもある。つまり、XY平面からZ方向にある角度を有して出射されて検出される成分もある。そのため、XY平面のテラヘルツ波電場振幅分布画像を取得すると、XY平面からZ方向にある角度を有して出射された成分は、XY平面への投影として検出されることになる。したがって、この場合は、光路長に誤差が生じて、フーリエ変換したスペクトルに誤差が生じることになるが、このような誤差は、電気光学結晶14を薄くすることで無視できる程度に低減することができる。また、図2において、試料15をXY平面で回転させる、もしくは照射するテラヘルツ波の偏光を変化させれば、試料15のテラヘルツ波に対する偏光特性を調べることもできる。
【0043】
図6は、図1に示した固体撮像カメラ65により取得されたテラヘルツ波電場振幅分布画像の一例を示す写真である。この例では、中心周波数が約0.8THz、スペクトル幅が0.1THz〜2THzでY方向に偏光したテラヘルツ波を試料15に照射した。また、電気光学結晶14は、厚さ(Z方向)が20μmのLiNbO結晶(X−cut)を使用し、図6のY方向に偏光したテラヘルツ波を検出するようにXY平面での回転角が調整されている。試料15は、20μm×150μmのチロシン結晶であり、中央の黒い破線で囲まれた部分に配置されている。図6の画像から、チロシン結晶から自由誘導減衰によってテラヘルツ波が放射されていることが分かる。
【0044】
ここで、処理部24において、図6の白い破線で示した範囲でのラインプロファイルを取り、電気光学結晶14の屈折率と光速とに基づいて空間軸を時間軸に変換すると、図7に示すような信号強度の時間波形が得られる。このラインプロファイルの時間ステップは、固体撮像カメラ65で取得された画像の空間座標の画素ステップに依存し、画素ステップが小さいほど時間分解能が高くなり、高周波成分を検出できる。そして、図7のテラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換すると、図8に示すようなパワースペクトルが得られる。このスペクトルからチロシン結晶の自由誘導減衰の周波数、すなわちテラヘルツ波吸収ピークである0.97THzでピークが得られていることが分かる。これにより、固体撮像カメラ65で取得された一枚の画像から、テラヘルツ波波長よりも十分小さい試料15の分光情報が得られることが分かる。
【0045】
このように、本実施の形態に係る分析装置は、試料15にテラヘルツ波を照射することによって、試料15から自由誘導減衰によって再放射されるテラヘルツ波を検出するので、試料15がテラヘルツ波の波長程度もしくはそれ以下の微小なものであっても、その分光情報を取得することができる。しかも、固体撮像カメラ65で取得される一枚のテラヘルツ波電場振幅分布画像を解析して分光情報を取得するので、測定に要する時間が非常に短くて済む。これにより、チロシン結晶のような微小な試料でも、ペレットを作製することなく、短時間で分光情報を得ることができる。
【0046】
また、光路長調整光学系52を固定し、固体撮像カメラ65から得られるテラヘルツ波電場振幅分布画像に基づいて、上記のラインプロファイルの取得処理、時間領域への変換処理、フーリエ変換処理をリアルタイムで実行すれば、試料15の自由誘導減衰の放射のスペクトルをリアルタイムで取得することができる。これにより、時間とともに変化する試料における変化の様子をリアルタイムで検出することができる。
【0047】
(第2実施の形態)
図9および図10は、本発明の第2実施の形態に係る分析装置を示すもので、図9は全体の概略構成図であり、図10は図9の破線部分の拡大図である。この分析装置は、図1に示した構成において、電気光学結晶14に対して、第3の電磁波であるフェムト秒レーザパルス(プローブ光)を試料15の載置面とは反対側の面から照射し、電気光学結晶14で反射されるフェムト秒レーザパルスにより、検出部23においてテラヘルツ波電場振幅分布画像を取得するようにしたものである。
【0048】
そのため、第1の照射系21では、テラヘルツ波発生素子35から放射されるテラヘルツ波を照射レンズ系41により試料15に照射する。また、第2の照射系22では、1/2波長板51を透過したフェムト秒レーザパルスを、反射ミラー71で反射させた後、光路長調整光学系52、ビームエキスパンダ54および反射ミラー72を経てビームスプリッタ73に入射させ、該ビームスプリッタ73を透過したフェムト秒レーザパルスを試料15の極近傍の電気光学結晶14の領域に照射する。
【0049】
そして、電気光学結晶14と相互作用して電気光学結晶14で反射されたフェムト秒レーザパルスを、ビームスプリッタ73で反射させて、検出部23により電気光学結晶14内の面を撮像し、これにより電気光学結晶14によるフェムト秒レーザパルスの偏光状態を検出する。なお、電気光学結晶14の試料15の載置面には、フェムト秒レーザパルスを反射させる多層膜等からなる反射膜75がコートされている。その他の構成および動作は、第1実施の形態と同様なので、同一作用を成す構成要素には同一参照符号を付して説明を省略する。
【0050】
本実施の形態によれば、第1実施の形態と同様の効果が得られる。特に、本実施の形態では、フェムト秒レーザパルスが試料15に入射しないので、試料15によりフェムト秒レーザパルスが変化したり、フェムト秒レーザパルスにより試料15が変化したりすることがない。したがって、試料15に何ら影響を与えることなく、試料15のより高精度の分光情報を取得することが可能となる。
【0051】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、試料と電気光学結晶との配置関係は、電気光学結晶上に試料を載置する配置関係に限らず、試料から放射されるテラヘルツ波が電気光学結晶を伝播する配置関係であれば任意の態様で配置することができる。したがって、例えば、電気光学結晶の横に試料を配置し、試料に対して任意の角度からテラヘルツ波を照射して、試料から放射されるテラヘルツ波を電気光学結晶に伝播させる構成も可能である。
【符号の説明】
【0052】
11 レーザ光源
12 ビームスプリッタ
13 テラヘルツ波発生部
14 電気光学結晶
15 試料
21 第1の照射系
22 第2の照射系
23 検出部
24 処理部
25 制御部
34 集光レンズ
35 テラヘルツ波発生素子
41 照射レンズ系
42 ダイクロイックミラー
51 1/2波長板
52 光路長調整光学系
54 ビームエキスパンダ
62 結像レンズ系
63 1/4波長板
64 偏光子
65 固体撮像カメラ
73 ビームスプリッタ
75 反射膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状のテラヘルツ波からなる第1の電磁波を試料に照射する第1の照射系と、
前記第1の電磁波の照射により前記試料から放射される第2の電磁波を伝播する電気光学結晶と、
該電気光学結晶における前記第2の電磁波の伝播領域に、該伝播領域における前記第2の電磁波の伝播タイミングに合わせて、前記第1の電磁波よりも波長が短いパルス状の第3の電磁波を照射する第2の照射系と、
前記電気光学結晶と相互作用した前記伝播領域における前記第3の電磁波の偏光状態を検出する検出部と、
該検出部の出力に基づいて前記試料の分光情報を取得する処理部と、
を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記電気光学結晶は、前記第2の電磁波として、前記第1の電磁波の照射により前記試料から自由誘導減衰によって再放射される電磁波を伝播する、
ことを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記検出部は固体撮像カメラを備え、該固体撮像カメラにより前記第3の電磁波の偏光状態を前記伝播領域の2次元画像として検出する、
ことを特徴する請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記試料の分光情報として、前記検出部の出力を前記電気光学結晶の屈折率に基づいて時間領域情報に変換した後、該時間領域情報をフーリエ変換して周波数情報を取得する、
ことを特徴する請求項1−3のいずれかに記載の分析装置。
【請求項5】
前記電気光学結晶は、前記第3の電磁波の振動面において複屈折が生じるように配置されている、
ことを特徴する請求項1−4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項6】
前記電気光学結晶は、前記第2の電磁波が前記第1の電磁波の振動面と直交する面内で振動することにより、前記第3の電磁波の振動面において複屈折が生じるように配置されている、
ことを特徴する請求項1−4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項7】
パルス状のテラヘルツ波からなる第1の電磁波を試料に照射して、該試料から放射される第2の電磁波を電気光学結晶に伝播させるステップと、
該電気光学結晶における前記第2の電磁波の伝播領域に、該伝播領域における前記第2の電磁波の伝播タイミングに合わせて、前記第1の電磁波よりも波長が短いパルス状の第3の電磁波を照射するステップと、
前記電気光学結晶と相互作用した前記伝播領域における前記第3の電磁波の偏光状態を検出して、該偏光状態に基づいて前記試料の分光情報を取得するステップと、
を含むことを特徴とする分析方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−149930(P2012−149930A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7474(P2011−7474)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】