分析装置
【課題】
ダイオキシンや有機ニトロ化合物等を容易かつ高感度に測定する。
【解決手段】
試料を負のコロナ放電を用いて効率的にイオン化し、生成した負イオンを質量分析計を用いて測定する。ダイオキシンやニトロ化合物等を容易に分析できる。
ダイオキシンや有機ニトロ化合物等を容易かつ高感度に測定する。
【解決手段】
試料を負のコロナ放電を用いて効率的にイオン化し、生成した負イオンを質量分析計を用いて測定する。ダイオキシンやニトロ化合物等を容易に分析できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分析装置に関し、詳しくは、焼却施設などから発生する猛毒なダイオキシンを分析するのに特に好適であり、ニトロ化合物に代表される爆発物など危険物から気化した蒸気、および塩素やリン元素を含む農薬の測定も可能な分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオキシンを分析するための従来技術としては、高分解能の磁場型質量分析計を用いたガスクロマトグラフ質量分析計による方法が知られている。この方法は、複雑な前処理過程を経て濃縮されたダイオキシン混合物を、ガスクロマトグラフに導入して分離した後、電子線を照射してダイオキシンを正のイオンとし、高分解能の磁場型質量分析計により検出する方法である。この方法は、検出されたイオンの質量数からダイオキシンの定性分析(塩素がいくつ結合したダイオキシンであるかや、ジベンゾパラジオキシンあるいはジベンゾフラン骨格を有するのか、などダイオキシンの種類を知る)を行うことができるばかりでなく、検出されたイオンの強度からダイオキシンの定量分析もできるという特徴がある。
【0003】
一方、危険物探知装置における従来技術の一つとして、図18に示す方法が、オーガニック・マス・スペクトロメトリー(Organic Masspectrometry)、16巻、275−278頁に開示されている。この方法は、メタノールなどの溶媒に溶けたジニトロベンゼンを細管54に通し、この細管54に同軸に設けられた管55に窒素などのガス通過して噴霧させ、液滴58を大量に生成させる。このとき、生成した液滴58は、加熱管ヒータ57によって加熱された加熱管56により微細化され、一部は気化する。その後、気化した分子はコロナ放電用針電極59による負のコロナ放電領域に導入されて、電子付着やイオン分子反応により試料分子に関する負のイオンが生成する。
【0004】
生成したイオンは、細孔を通して高真空中に存在する四重極質量分析計から構成された質量分析部60に導入され、検出される。この方法でも、上記ガスクロマトグラフ質量分析計による方法と同様に、検出されたイオンの質量数からどのような危険物があるかを推定でき、また、検出されたイオンの強度から危険物の量を推定できる。
【0005】
【非特許文献1】オーガニック・マス・スペクトロメトリー(Organic Masspectrometry)、16巻、275−278頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の高分解能磁場型質量分析計を用いたダイオキシン分析では、電子線の照射によってダイオキシンを正にイオン化して分析を行っていた。しかし、この方法は、ダイオキシン分子からの正イオンの生成効率が十分高くないため検出感度が低く、従って、分析を行う前には、複雑な前処理を行って高倍率にダイオキシンを濃縮する必要があった。また、複雑で長時間を要する前処理が必要のため、時間と分析コストもかかるという問題があった。
【0007】
一方、上記従来の危険物探知装置は、固体試料をメタノール等の溶媒に溶かして導入しているため、固体試料の蒸気を直接分析できないばかりでなく、イオン源におけるニトロ化合物のイオン生成効率が低いため、試料の量が微量である場合は検出が困難であるという欠点を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来技術の問題を解決するため、本発明の分析装置は、測定すべき気体試料を導入する試料導入部と、導入された上記気体試料を負のコロナ放電するコロナ放電部と、上記コロナ放電によって生じたイオンを質量分析する質量分析部を有している。
【0009】
すなわち、本発明によれば、有機塩素化合物の一種であるダイオキシンやニトロ化合物に代表される危険物が負のイオンになりやすい性質を利用して、負のコロナ放電を用いてイオン化され、生成された負のイオンは質量分析計によって測定される。負のコロナ放電による負イオンの生成効率は、正イオンの生成効率よりはるかに高いので検出感度も十分高く、そのため、上記従来技術のような煩雑な前処理は不要である。
【0010】
上記試料導入部は、上記気体試料を所定の温度に加熱するための加熱部を有している。
【0011】
すなわち、負のコロナ放電によって負イオンの生成を効率的に行うためには、イオン源に導入される気体試料の温度を高温にしたり、コロナ放電用針電極が加熱されるようにするのが効果的である。気体試料が高温、例えば100℃以上であると、導入された気体試料の水分も気化されて、コロナ放電によるイオン化が効率的に、しかも安定に行われる。また、針電極の温度が上がるとコロナ放電開始電圧が下がり、同じコロナ放電電圧でも高いコロナ放電電流が得られるため、イオンの生成効率が上昇するので、加熱部を設けて気体試料の温度を上昇させるのは有効である。
【0012】
この加熱部は上記気体試料を導入するための気体試料導入ポンプの前段に配置され、上記気体試料が通る内管と当該内管の外側に配置された外管からなる二重構造を有し、上記気体試料を加熱するためのヒーターが当該内管と外管の間に配置されるようにしてもよい。また、上記加熱部を上記気体試料を導入するための気体試料導入ポンプの前段に配置され、上記気体試料が通る内管と当該内管の外側に配置された外管からなる二重構造を有し、上記気体試料を加熱するためのヒーターが当該内管の内部に配置されているようにしてもよい。
【0013】
また、上記加熱部を上記気体試料を導入するための気体試料導入ポンプと上記コロナ放電部の間に配置し、導入された上記気体試料と接するように配置されたヒータによって上記気体試料の加熱が行われるようにしてもよい。
【0014】
上記コロナ放電部で発生したイオンは、上記コロナ放電部と上記質量分析部の間に設けられた細孔を介して上記質量分析部へ導入されて質量分析される。
【0015】
上記コロナ放電部には、当該コロナ放電部内の圧力を所望の圧力に制御する機構を設けることができる。そのため、上記コロナ放電部には、当該コロナ放電部内の余剰ガスを外部へ出すための出口を設けることができ、当該出口には軽い重りを設けて余剰ガスの排出量が自動的に制御されるようにしてもよく、気体用バルブを上記バルブに設けてもよい。
【0016】
上記コロナ放電部を加熱する手段を設け、高温度に保たれた試料をコロナ放電するようにすれば、上記のように好ましい結果が得られる。
【0017】
上記質量分析計としてイオントラップ型質量分析計を使用すれば、極めて高い感度が得られ、上記ガスクロマトグラフによる煩雑な前処理は不要になるので、極めて好ましい。
【0018】
さらに、コロナ放電による放電領域は、通常はほぼ大気圧であるが、この領域を密閉状態にしてコロナ放電領域における分子密度を上げることによって、コロナ放電領域でのイオン生成効率を高くすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、有機塩素化合物の一種であるダイオキシンやニトロ化合物に代表される危険物が負のイオンになりやすい性質を利用して、負のコロナ放電を用いてイオン化され、生成された負のイオンは質量分析計によって測定される。負のコロナ放電による負イオンの生成効率は、正イオンの生成効率よりはるかに高いので検出感度も十分高く、そのため、上記従来技術のような煩雑な前処理は不要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明によれば、有機塩素化合物であるダイオキシン(塩素数の異なるダイオキシン、塩素を含むジベンゾパラオキシンおよびジベンゾフラン骨格を有する有機化合物)およびニトロ基を三つ以上有する有機化合物など有機ニトロ化合物の検出や定量を行うことができる。したがって、本発明はダイオキシンのみではなく、塩素やリンを含む農薬を検出する農薬分析装置にも適用可能であることはいうまでもない。
【0021】
上記有機塩素化合物や有機ニトロ化合物は、負のイオンになりやすく、負のコロナ放電によって容易に負のイオンが生成される。従来は負ではなく正のイオンを利用していたため、検出感度が低く、そのため煩雑で長時間を要するガスクロマトグラフによる前処理によって測定対象を濃縮した後、高感度の質量分析を行う必要があった。
【0022】
しかし、本発明では、負のコロナ放電によって負のイオンが形成され、この負のイオンガ測定されるので、正のイオンを測定に利用した上記従来の場合より高い感度が得られる。しかも、質量分析計として、イオンを内部に溜め込むことができるイオントラップ型質量分析計を用いることにより、試料の高倍率濃縮を行うことができるので、ダイオキシンのように測定対象の濃度が極めて低い(0.1ppt以下)場合でも、確実に分析を行うことができ、もっとも好ましい。ただし、四重極型質量分析計や磁場型質量分析計を用いることも可能である。
【0023】
〈実施例1〉
図1は本発明の第1の実施例の分析装置の構成を示す図である。後記のように、本発明においては、負のコロナ放電を行うに先立って試料を加熱することが実用上有効であるが、本実施例は、気体試料導入ポンプ11の前段に設けた気体試料導入プローブによって、試料の加熱を行った例である。
【0024】
この気体試料導入プローブの二つの例を、それぞれ図2および図3に示した。まず、図2の場合について説明する。気体試料を気体試料導入口1から導入するための気体試料導入ポンプ11としては、導入流量が毎分数リットルから数十リットル程度の、ダイアフラムポンプのようなメカニカルな機構を有する気体導入ポンプを用いた。気体試料導入ポンプ11の能力は、気体試料導入パイプ8の長さに強く依存し、気体試料導入パイプ8が長くなれば、能力が高い気体試料導入ポンプ11を用いる必要がある。
【0025】
気体試料導入パイプ8の内壁への気体試料の吸着を防止するためには、気体試料を導入する際の気体試料導入パイプ8の内部の温度を上げる必要がある。そのため、図2に示したように、気体試料導入パイプ8にヒータ10を巻いて試料の温度を上昇できるようにした。通常、気体試料導入パイプ8の温度は室温(10〜30℃)以上とし、100〜200℃程度になるようにした。本実施例では、気体試料導入パイプ8としてテフロン(登録商標)のような柔軟なパイプを用い、その周りに蛇腹パイプのような硬いが折り曲げ可能なパイプ9を設けて、気体試料導入パイプ8を機械的に補強した。
【0026】
気体試料導入ポンプ11を用いて気体試料を導入する場合、気体試料導入プローブの先端には、手で持ちやすくするために取っ手3を設けたり、気体試料導入ポンプ11のスイッチ2を取っ手3の近傍に設けることもできる。気体試料導入プローブの先端には、プローブ先端加熱ヒータ4を設けて、気体試料導入プローブの先端部分での気体試料の吸着を防止したり、大きな粒子やゴミが気体試料導入パイプ11内に吸引されるのを防ぐために、フィルタ6を設けることもできる。この場合、フィルタ6に吸着されたゴミを取り出すためのゴミ取り出し口7を設けることが好ましい。
【0027】
さらに、固体試料中のダイオキシンなどを測定する場合は、固体試料を加熱して蒸気を発生させた方が、ダイオキシンなどの蒸気が発生して検出が容易になるので、赤外線ランプやハロゲンランプなどのような加熱部5を設けることが実用上有用である。
【0028】
一方、図2に示した構造では、気体試料導入パイプ8の長さが数メートルを越えるような場合は、ヒータ10もそれだけ長くなるので、価格が上昇する。そこで、図3に示したように、多重に巻いた金属線ヒータ12aを気体試料導入パイプ8内に設けて、通過する気体試料を直接加熱するようにした。図3に示したように、複数の金属線ヒータ12a、12bを使用してもよく、気体試料導入パイプ8が長い場合には、その数をさらに増加させることもできる。実際に使用する際は、気体試料導入ポンプ11によって気体試料の吸引を開始してから、金属線ヒータ12の通電加熱を開始し、金属線ヒータ12が十分に加熱された一定時間後に、測定を開始する。
【0029】
このようなシーケンスにすることによって、温度の低い気体状試料が気体試料導入パイプ8の内壁に吸着するなどの問題も軽減される。また、長い気体試料導入パイプ8を使用する場合でも、ある一定距離毎に金属線ヒータ12を配置すればよいので、価格の上昇も僅かである。また、通電加熱なので金属線ヒータの温度は数秒程度の短時間で所定の温度に上昇するので、金属線ヒータ12を常に加熱しておく必要はなく、運転コストも低い。さらに、高温に加熱された金属線ヒータ12が気体試料導入口1の直後に配置されてあれば、水分を含む粒子も加熱されて気化するので、このような水分を含む大きな粒子の導入は防止される。図2に示したようにフィルタ6やゴミ取り出し口7を設けてもよい。
【0030】
気体試料導入プローブを経て導入された試料は、負のコロナ放電を行うためのコロナ放電部(図1には図示が省略されている)に入り、ここで生成された負のイオンは、第1、第2および第3細孔24、25、26、静電レンズ27、スリット28および偏向器29およびゲート電極30などを経て、エンドキャップ電極31aおよびリング電極32などを有するイオントラップ型質量分析計に導入され、所定の質量分析が行われる。
【0031】
〈実施例2〉
本実施例は試料加熱部を試料導入ポンプ11の後段に設けた例であり、図4〜9を用いて説明する。測定すべき気体試料は、気体試料導入ポンプ11によって気体試料導入パイプ8から気体試料加熱炉13内に導入される。この気体試料加熱炉13は、金属製のブロックの中に、石英のような高温に耐える材質製の絶縁パイプ14が設けられ、その中に置かれた金属線ヒータ15によって、この領域を通過する気体試料が高温に加熱される。金属線ヒータ15としては、ニクロム線などの金属製のワイヤを多重に巻いたものを使用した。絶縁パイプの径は、流入する気体量にも依存するが、毎分2リットル程度の気体が導入される場合では、5mm程度である。絶縁パイプ14の長さは10cm程度とした。上記金属線ヒータ15の代わりに、図5に示したように、衝突板加熱ヒータ42を設け、気体試料をこの加熱された複数の衝突板43に衝突させて加熱してもよい。
【0032】
このようにして試料を加熱すれば、粒子が導入されても、金属線ヒータ15や衝突板加熱ヒータ42に衝突し気化して、粒子や水分などがコロナ放電領域に直接導入するのは防止されるので、コロナ放電が不安定になることはない。この金属線ヒータ15は、金属線ヒータ加熱電源16によって所望の温度に制御され、この領域の温度は50から400℃程度に保たれる。
【0033】
試料加熱炉13を通過した気体試料は、コロナ放電部17に導入されて負のイオン化される。導入された気体試料が効率的にコロナ放電用針電極21先端のコロナ放電領域に送られるように、コロナ放電用針電極21の近傍に気体試料の導入経路18の先端が位置するようにした。
【0034】
上記導入経路18としては、図6に示したように、先端の径が小さい導入経路45を用いてもよい。例えば、途中までの経路の内径を5mm程度にし、先端の内径を1mm程度にすれば、導入された気体試料を確実にしかも効率的にコロナ放電用針電極21先端のコロナ放電領域に導入できた。このとき、気体試料導入経路18の長さは5cm程度とした。コロナ放電用針電極21近傍の導入経路18は、コロナ放電用針電極21先端での電界を弱めないように、テフロン、マコールガラス、セラミック等の絶縁材製とした。この領域も気体試料加熱炉13と同様に、コロナ放電部加熱ヒータ19によって加熱することもできる。通常、この領域の温度は、コロナ放電部加熱ヒータ電源20によって50から300℃程度に保たれる。
【0035】
コロナ放電部17には、コロナ放電用針電極21を設け、コロナ放電用電源22によって負の高電圧(−2から−5kV程度)が印加できるようにした。まわりの対向電極17との距離は数mm程度とした。
【0036】
コロナ放電部17から第1細孔24を介して導入された試料は第2細孔25を介して質量分析計へ送られるが、イオンや分子以外の余剰ガスは、余剰ガス出口23より外部へ排出される。
【0037】
気体試料加熱炉13中の気体試料を加熱した場合(150℃)と加熱しない場合(30℃)の場合における、コロナ放電によって得られる全電流値を図8に示した。試料としてはクロロベンゼンを使用し、室温の試料からの蒸気を気体試料吸引ポンプ11で吸引した。
【0038】
図8から明らかなように、コロナ放電電圧が同じ(−2.5kV)でも、加熱した場合(a)の方が加熱しない場合(b)より電流値が2.5倍程度増加した。しかも、電流の安定度も加熱した場合の方がはるかに良好であった。気体試料の温度が高温、例えば100℃以上であると、導入された気体状試料の水分も気化し、コロナ放電によるイオン化は効率的に、しかも安定に行われた。また、高温に加熱された気体試料によって、間接的にコロナ放電用針電極21の温度が上昇するとコロナ放電開始電圧が低下し、放電電圧が同じであっても高いコロナ放電電流が得られるため、イオンの生成効率も上昇した。
【0039】
温度のみではなく、コロナ放電によってイオンが生成される領域の圧力も重要であることが認められた。通常、コロナ放電を利用するような大気圧イオン源では、イオンを真空中に取り込む細孔から流入されない余剰ガスをイオン源の外に出すための余剰ガス出口23が設けられる。従って、この余剰ガス出口23は常に開状態であり、コロナ放電領域はほぼ大気圧(760Torr程度)になっている。しかし、実際には、大気圧以上に、コロナ放電領域における分子密度が高い方がイオン化効率が高くなり、コロナ放電領域の圧力の最適値は大気圧の760Torrより高かった。
【0040】
一方、イオンを質量分析計の真空中に取り込む細孔25(直径0.2〜0.5mm程度)付近における圧力が高すぎると、この細孔25を通って高真空下の質量分析部に流入する分子の数が多くなりすぎ、質量分析部を高真空に維持するのが困難になる。そこで、例えば図4に示した余剰ガス出口23を塞ぎ、気体試料導入ポンプ11によって気体を連続的に導入して、コロナ放電部17の内部の圧力を高めるようにした。しかし、このままではイオンを真空中に取り込むための第1細孔24からの気体の流入量が多すぎるので、図7(a)に示したように、余剰ガス出口にコンダクタンスを低下させるための軽い重り46を置き、コロナ放電部17内部の圧力が高くなりすぎると、重り46が浮いて余剰ガスが余剰ガス出口より外部へ出るようにした。これにより、コロナ放電部17に流入する気体量と重り46の重さの関係で、コロナ放電部17の圧力を所望の値に制御することができた。また、図7(b)に示すように、重り46の代わりに、余剰ガス出口のところに気体用バルブ47を設け、気体試料導入ポンプ11が作動している間、この気体用バルブ47を周期的に開閉して、コロナ放電領域の圧力を制御してもよい。
【0041】
余剰ガス出口に上記重り46を置き、コロナ放電領域の圧力を高くした場合の電流値の時間依存性(密閉状態)および余剰ガス出口をオープンにしてほぼ大気圧下で測定した場合(開放状態)を比較した結果を図9に示した。試料としてはクロロベンゼンを用い、室温での試料からの蒸気を気体試料吸引ポンプ11で吸引して得られたピークを比較した。その結果、図9から明らかなように、前者の方が後者の場合より感度は3倍程度高く、コロナ放電部17内部の圧力を高くすることが感度の上昇に有効であることが認められた。
【0042】
〈実施例3〉
コロナ放電部17で生成したイオンを分析するには、各種質量分析計を使用できるが、イオン溜め込み型のイオントラップ質量分析計を用いた場合について、図1を用いて説明する。四重極質量分析計や磁場型質量分析計などの他の質量分析計を用いた場合でも同様である。
【0043】
コロナ放電部(図1には図示されていない)で生成したイオンは、ヒータ19によって加熱された差動排気部の第1細孔24(直径0.3mm程度、長さ20mm程度)、第2細孔25(直径0.2mm程度、長さ0.5mm程度)、第3細孔26(直径0.3mm程度、長さ0.5mm程度)を通過する課程で、加熱や中性分子との衝突などによってクラスターイオンの開裂が起こり、試料分子のイオンが生成する。また、第1細孔24と第2細孔25、第2細孔25と第3細孔26間には電圧が印加できるようになっており、イオン透過率を向上させると同時に、残留する分子との衝突によってクラスタの開裂が行われる。
【0044】
差動排気部は、通常、ロータリポンプ、スクロールポンプ、またはメカニカルブースタポンプなどの荒引きポンプ40によって排気される。この領域の排気にターボ分子ポンプを使用することもできる。第2細孔25と第3細孔26間の圧力は0.1〜10Torrとした。生成したイオンは第3細孔26を通過した後、静電レンズ27によって収束される。この静電レンズ27としては、3枚の電極からなるアインツエルレンズを用いた。
【0045】
イオンはスリット28を通過した後、偏向器29で偏向され、ゲート電極30を経て、一対の椀状のエンドキャップ電極31a、31bとリング電極32よりなるイオントラップ質量分析計に導入される。スリット28はスキマーから流入する中性粒子などを含むジェットの立体角を制限し、不要な粒子等がイオントラップ質量分析計内に導入されるのを防ぐ。偏向器29は、スキマーを通過した中性粒子が、エンドキャップ電極31aの細孔を通して直接イオントラップ質量分析部に導入されるのを防止するために設けた。本実施例では、多数の開口部が設けられた内筒および外筒よりなる二重円筒型の偏向器29を用い、内筒の開口部から滲みだした外筒の電界を用いて偏向した。ゲート電極30は、イオントラップ質量分析部内に溜め込んだイオンを系外に取り出す際に、イオンが外部から質量分析部内に導入されるのを防止する役目をする。
【0046】
このイオントラップ質量分析部内に導入されたイオンは、イオントラップ質量分析部内に導入されたヘリウムなどのガスと衝突して、その軌道が小さくなった後、リング電極32に印加された高周波電界を走査することによって系外に排出され、引き出しレンズ33を経てイオン検出器によって検出される。ヘリウムなどのガスは、ボンベ38などの供給源からレギュレータ39を通して供給される。 イオントラップ質量分析計の利点の一つは、イオンを溜め込む特性を有しているので、試料の濃度が希薄な場合でも、溜め込む時間を伸ばせば検出が可能である点である。従って、ダイオキシン分析のように、試料濃度が低い場合でも、イオントラップ質量分析部においてイオンの高倍率濃縮が可能であるので、試料の前処理を簡便化できる。イオントラップ質量分析部より取り出されたイオンの検出に当たっては、コンバージョンダイノード34でイオンが電子に変換され、その電子をシンチレーションカウンタ35で検出される。得られた信号は増幅器36で増幅した後、データ処理装置37に送られる。
【0047】
静電レンズ27、スリット28、偏向器29、ゲート電極30、イオントラップ質量分析部、イオン検出器が配置されたチャンバーは、ターボ分子ポンプ41で排気される。なお、ターボ分子ポンプ41には背圧側に補助ポンプが必要となるが、これを差動排気部に用いている荒引きポンプ40と兼用することが可能である。本実施例では、差動排気部に排気容量900リットル/分程度のスクロールポンプを、チャンバー用の排気装置として200リットル/秒程度のターボ分子ポンプを使用し、このターボ分子ポンプの補助ポンプとしてスクロールポンプを兼用した。このような系にすることによって、複雑になりがちな大気圧イオン化質量分析装置の排気系を極めて単純化することができた。なお、本実施例では偏向器26を用いたが、イオンを偏向しない場合も可能である。
【0048】
通常、データ処理装置37では、質量数/電荷とイオン強度の関係(マススペクトル)や、ある質量数/電荷のイオン強度の時間変化(マスクロマトグラム)などが表示される。図10に1、2、3トリクロロベンゼン、図11に1、2、3トリクロロジベンゾパラジオキシン(ダイオキシンの一種)のマススペクトル測定例を、それぞれ示した。いずれの場合も、電子が付着した分子イオンM-が強く観測されており、本発明がこれらの物質を測定するのに有効であることがわかる。なお、図10、11に、1、2、3トリクロロベンゼンおよび1、2、3トリクロロジベンゾパラジオキシンの分子構造を示した。ジベンゾパラジオキシンの骨格から酸素が一つ脱離したものはジベンゾフランと呼ばれ、ジベンゾパラジオキシン同様に毒性が強い。この物質も本発明によって高感度で測定できた。なお、観測される1、2、3トリクロロベンゾパラジオキシンの分子イオン領域を詳細にみたものを、図19に示した。左の実測値からわかるように、塩素のふたつの安定同位体(質量数34.9688527と36.965903のもので、その存在比はそれぞれ75.77%と24.23%)に由来する複雑なピーク群となっている。このピーク群は、負のコロナ放電における主反応である電子付加により生成した負イオン(M-)に加えて、脱水素反応により生成したイオン(M−H)-)の重ねあわせとして説明できることが、図19に示した実測値と計算値の比較により確認できた。逆に、この特徴を生かすことにより、複数のピーク、例えば、286と288のピークの強度比を観測することにより、定性がより確実になる。
【0049】
このように、ジベンゾパラジオキシンとジベンゾフランの骨格にハロゲンが入った有機物は、負のコロナ放電によって負のイオンになりやすい、すなわち負のコロナ放電によるイオン生成効率が高いので、本発明によって高感度で測定できる。1、2、3トリクロロベンゼンを試料として用いて得られたマスクロマトグラムの測定例を図12に示した。気体試料導入ポンプ11によって気体試料を分析計内部に導入すると、被測定成分が検出されてシグナルが上昇し、停止させるとシグナルが消えるので、これを利用すればオンラインのモニタリングが可能となる。
【0050】
危険物の探知で問題となるニトロ化合物の場合も同様であり、図13に示したモノニトロトルエンおよびトリニトロトルエン、図14に示したアールディーエックスとピーイーティーエヌのように、三つ以上のニトロ基を有し、蒸気圧の低いニトロ化合物も高感度に測定できた。これは、有機塩素化合物と同様に、負のコロナ放電によるニトロ化合物の負イオン生成効率が高いためである。
【0051】
ニトロ化合物の場合は、ニトロ基の数が増えると負イオンの生成効率が高くなる傾向がある。図12、13には、室温(20−30℃)にある固体試料の蒸気を気体試料導入ポンプ11によって吸引し、これを負のコロナ放電によってイオン化した後、質量分析計に導入して検出されたマスクロマトグラムを示した。本発明によれば、ニトロ基が一つ(例えば図13に示したモノニトロベンゼンなど)、あるいは二つのニトロ化合物でも高感度に測定できることは言うまでもない。
【0052】
データ処理装置37には、最終的な表示をマススペクトルやマスクロマトグラムではなく、さらに簡略化されたものを示すようにしてもよい。すなわち、危険物探知装置のような場合には、問題となるニトロ化合物が検出されたかどうかを表示するだけでもよい。例えば、図15のように、ある検出すべき特定のイオンにおけるノイズレベルがあった場合に、そのレベル以上にシグナルが検出されたとき、このイオンが検出されたとする。このとき、単なるスパイクノイズと区別するために、ある一定時間以上観測されれば、それをシグナルとみなすようなアルゴリズムを用いる。このようなアルゴリズムを加えることによって、誤作動を減少させることができる。このとき、最終表示として例えば図16に示したものを使用できる。表示器48に、ある検出すべきイオンに対応する物質のインジケータ49を表示しておき、上記アルゴリズムによって、例えばAが検出されたときはAを点滅させて、Aが検出されたことを知らせる。このとき、どの程度の濃度か(簡単には、量が多いか少ないかといった程度の情報でよい)を知らせる量のインジケータ50や、アラーム51を同時に設けてもよい。
【0053】
〈実施例4〉
上記各実施例では、気体試料導入ポンプ11により気体試料を連続的に導入する場合を示したが、図17に示したように、シリンジ53によって気体試料を気体試料導入ポート52から、オフラインで導入することも可能である。
【0054】
また、気体試料のみではなく、溶液試料であっても(ダイオキシンでは有機溶媒に溶けている場合もある)、ガスによる霧化器や加熱による霧化器を用いて溶液試料を霧化し、これを例えば図2に示した気体試料加熱炉13に導入して分析することも可能である。この場合は、霧化器からは高速のジェットが生成するので、気体試料導入ポンプを使用する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例1および実施例3を説明するための装置構成図。
【図2】本発明の実施例1を説明するための図。
【図3】本発明の実施例1を説明するための図。
【図4】本発明の実施例2を説明するための装置構成図。
【図5】本発明の実施例2を説明するための装置構成図。
【図6】本発明の実施例2を説明するための装置構成図。
【図7】本発明の実施例2を説明するための図。
【図8】加熱の効果を示す図。
【図9】圧力の影響を示す図。
【図10】得られたマススペクトルの例を示す図。
【図11】得られたマススペクトルの例を示す図。
【図12】検出されたイオン強度の例を示す図。
【図13】検出されたイオン強度の例を示す図。
【図14】検出されたイオン強度の例を示す図。
【図15】ノイズとシグナルの関係を示す。
【図16】表示器の例を示す図。
【図17】装置構成の例を示す図。
【図18】従来の装置の例を示す図。
【図19】1、2、3トリクロロパラベンジオキシンの分子領域を示す図。
【符号の説明】
【0056】
1…気体試料導入口、2…スイッチ、3…取っ手、4…プローブ先端加熱ヒータ、5…固体試料加熱部、6…フィルタ、7…ゴミ取り出し口、8…気体試料導入パイプ、9…折り曲げ可能なパイプ、10…気体試料導入パイプ用ヒータ、11…気体試料導入ポンプ、12a、b…金属線ヒータ、13…気体試料加熱炉、14…絶縁パイプ、15…気体試料加熱用金属線ヒータ、16…金属線ヒータ加熱電源、17…コロナ放電部、18…気体試料導入経路、19…コロナ放電部加熱ヒータ、20…コロナ放電部加熱ヒータ電源、21…コロナ放電用針電極、22…コロナ放電用電源、23…余剰ガス出口、24…第1細孔、25…第2細孔、26…第3細孔、27…静電レンズ、28…スリット、29…偏向器、30…ゲート電極、31a、b…エンドキャップ電極、32…リング電極、33…引き出しレンズ、34…コンバージョンダイノード、35…シンチレーションカウンタ、36…増幅器、37…データ処理装置、38…ボンベ、39…レギュレータ、40…荒引きポンプ、41…ターボ分子ポンプ、42…衝突板加熱ヒータ、43…衝突板、44…衝突板加熱ヒータ電源、45…気体試料導入経路、46…重り、47…気体用バルブ、48…表示器、49…物質のインジケータ、50…量のインジケータ、51…アラーム、52…気体試料導入ポート、53…シリンジ、54…細管、55…細管に同軸に設けられた管、56…加熱管、57…加熱管ヒータ、58…液滴、59…コロナ放電用針電極、60…質量分析部。
【技術分野】
【0001】
本発明は分析装置に関し、詳しくは、焼却施設などから発生する猛毒なダイオキシンを分析するのに特に好適であり、ニトロ化合物に代表される爆発物など危険物から気化した蒸気、および塩素やリン元素を含む農薬の測定も可能な分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオキシンを分析するための従来技術としては、高分解能の磁場型質量分析計を用いたガスクロマトグラフ質量分析計による方法が知られている。この方法は、複雑な前処理過程を経て濃縮されたダイオキシン混合物を、ガスクロマトグラフに導入して分離した後、電子線を照射してダイオキシンを正のイオンとし、高分解能の磁場型質量分析計により検出する方法である。この方法は、検出されたイオンの質量数からダイオキシンの定性分析(塩素がいくつ結合したダイオキシンであるかや、ジベンゾパラジオキシンあるいはジベンゾフラン骨格を有するのか、などダイオキシンの種類を知る)を行うことができるばかりでなく、検出されたイオンの強度からダイオキシンの定量分析もできるという特徴がある。
【0003】
一方、危険物探知装置における従来技術の一つとして、図18に示す方法が、オーガニック・マス・スペクトロメトリー(Organic Masspectrometry)、16巻、275−278頁に開示されている。この方法は、メタノールなどの溶媒に溶けたジニトロベンゼンを細管54に通し、この細管54に同軸に設けられた管55に窒素などのガス通過して噴霧させ、液滴58を大量に生成させる。このとき、生成した液滴58は、加熱管ヒータ57によって加熱された加熱管56により微細化され、一部は気化する。その後、気化した分子はコロナ放電用針電極59による負のコロナ放電領域に導入されて、電子付着やイオン分子反応により試料分子に関する負のイオンが生成する。
【0004】
生成したイオンは、細孔を通して高真空中に存在する四重極質量分析計から構成された質量分析部60に導入され、検出される。この方法でも、上記ガスクロマトグラフ質量分析計による方法と同様に、検出されたイオンの質量数からどのような危険物があるかを推定でき、また、検出されたイオンの強度から危険物の量を推定できる。
【0005】
【非特許文献1】オーガニック・マス・スペクトロメトリー(Organic Masspectrometry)、16巻、275−278頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の高分解能磁場型質量分析計を用いたダイオキシン分析では、電子線の照射によってダイオキシンを正にイオン化して分析を行っていた。しかし、この方法は、ダイオキシン分子からの正イオンの生成効率が十分高くないため検出感度が低く、従って、分析を行う前には、複雑な前処理を行って高倍率にダイオキシンを濃縮する必要があった。また、複雑で長時間を要する前処理が必要のため、時間と分析コストもかかるという問題があった。
【0007】
一方、上記従来の危険物探知装置は、固体試料をメタノール等の溶媒に溶かして導入しているため、固体試料の蒸気を直接分析できないばかりでなく、イオン源におけるニトロ化合物のイオン生成効率が低いため、試料の量が微量である場合は検出が困難であるという欠点を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来技術の問題を解決するため、本発明の分析装置は、測定すべき気体試料を導入する試料導入部と、導入された上記気体試料を負のコロナ放電するコロナ放電部と、上記コロナ放電によって生じたイオンを質量分析する質量分析部を有している。
【0009】
すなわち、本発明によれば、有機塩素化合物の一種であるダイオキシンやニトロ化合物に代表される危険物が負のイオンになりやすい性質を利用して、負のコロナ放電を用いてイオン化され、生成された負のイオンは質量分析計によって測定される。負のコロナ放電による負イオンの生成効率は、正イオンの生成効率よりはるかに高いので検出感度も十分高く、そのため、上記従来技術のような煩雑な前処理は不要である。
【0010】
上記試料導入部は、上記気体試料を所定の温度に加熱するための加熱部を有している。
【0011】
すなわち、負のコロナ放電によって負イオンの生成を効率的に行うためには、イオン源に導入される気体試料の温度を高温にしたり、コロナ放電用針電極が加熱されるようにするのが効果的である。気体試料が高温、例えば100℃以上であると、導入された気体試料の水分も気化されて、コロナ放電によるイオン化が効率的に、しかも安定に行われる。また、針電極の温度が上がるとコロナ放電開始電圧が下がり、同じコロナ放電電圧でも高いコロナ放電電流が得られるため、イオンの生成効率が上昇するので、加熱部を設けて気体試料の温度を上昇させるのは有効である。
【0012】
この加熱部は上記気体試料を導入するための気体試料導入ポンプの前段に配置され、上記気体試料が通る内管と当該内管の外側に配置された外管からなる二重構造を有し、上記気体試料を加熱するためのヒーターが当該内管と外管の間に配置されるようにしてもよい。また、上記加熱部を上記気体試料を導入するための気体試料導入ポンプの前段に配置され、上記気体試料が通る内管と当該内管の外側に配置された外管からなる二重構造を有し、上記気体試料を加熱するためのヒーターが当該内管の内部に配置されているようにしてもよい。
【0013】
また、上記加熱部を上記気体試料を導入するための気体試料導入ポンプと上記コロナ放電部の間に配置し、導入された上記気体試料と接するように配置されたヒータによって上記気体試料の加熱が行われるようにしてもよい。
【0014】
上記コロナ放電部で発生したイオンは、上記コロナ放電部と上記質量分析部の間に設けられた細孔を介して上記質量分析部へ導入されて質量分析される。
【0015】
上記コロナ放電部には、当該コロナ放電部内の圧力を所望の圧力に制御する機構を設けることができる。そのため、上記コロナ放電部には、当該コロナ放電部内の余剰ガスを外部へ出すための出口を設けることができ、当該出口には軽い重りを設けて余剰ガスの排出量が自動的に制御されるようにしてもよく、気体用バルブを上記バルブに設けてもよい。
【0016】
上記コロナ放電部を加熱する手段を設け、高温度に保たれた試料をコロナ放電するようにすれば、上記のように好ましい結果が得られる。
【0017】
上記質量分析計としてイオントラップ型質量分析計を使用すれば、極めて高い感度が得られ、上記ガスクロマトグラフによる煩雑な前処理は不要になるので、極めて好ましい。
【0018】
さらに、コロナ放電による放電領域は、通常はほぼ大気圧であるが、この領域を密閉状態にしてコロナ放電領域における分子密度を上げることによって、コロナ放電領域でのイオン生成効率を高くすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、有機塩素化合物の一種であるダイオキシンやニトロ化合物に代表される危険物が負のイオンになりやすい性質を利用して、負のコロナ放電を用いてイオン化され、生成された負のイオンは質量分析計によって測定される。負のコロナ放電による負イオンの生成効率は、正イオンの生成効率よりはるかに高いので検出感度も十分高く、そのため、上記従来技術のような煩雑な前処理は不要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明によれば、有機塩素化合物であるダイオキシン(塩素数の異なるダイオキシン、塩素を含むジベンゾパラオキシンおよびジベンゾフラン骨格を有する有機化合物)およびニトロ基を三つ以上有する有機化合物など有機ニトロ化合物の検出や定量を行うことができる。したがって、本発明はダイオキシンのみではなく、塩素やリンを含む農薬を検出する農薬分析装置にも適用可能であることはいうまでもない。
【0021】
上記有機塩素化合物や有機ニトロ化合物は、負のイオンになりやすく、負のコロナ放電によって容易に負のイオンが生成される。従来は負ではなく正のイオンを利用していたため、検出感度が低く、そのため煩雑で長時間を要するガスクロマトグラフによる前処理によって測定対象を濃縮した後、高感度の質量分析を行う必要があった。
【0022】
しかし、本発明では、負のコロナ放電によって負のイオンが形成され、この負のイオンガ測定されるので、正のイオンを測定に利用した上記従来の場合より高い感度が得られる。しかも、質量分析計として、イオンを内部に溜め込むことができるイオントラップ型質量分析計を用いることにより、試料の高倍率濃縮を行うことができるので、ダイオキシンのように測定対象の濃度が極めて低い(0.1ppt以下)場合でも、確実に分析を行うことができ、もっとも好ましい。ただし、四重極型質量分析計や磁場型質量分析計を用いることも可能である。
【0023】
〈実施例1〉
図1は本発明の第1の実施例の分析装置の構成を示す図である。後記のように、本発明においては、負のコロナ放電を行うに先立って試料を加熱することが実用上有効であるが、本実施例は、気体試料導入ポンプ11の前段に設けた気体試料導入プローブによって、試料の加熱を行った例である。
【0024】
この気体試料導入プローブの二つの例を、それぞれ図2および図3に示した。まず、図2の場合について説明する。気体試料を気体試料導入口1から導入するための気体試料導入ポンプ11としては、導入流量が毎分数リットルから数十リットル程度の、ダイアフラムポンプのようなメカニカルな機構を有する気体導入ポンプを用いた。気体試料導入ポンプ11の能力は、気体試料導入パイプ8の長さに強く依存し、気体試料導入パイプ8が長くなれば、能力が高い気体試料導入ポンプ11を用いる必要がある。
【0025】
気体試料導入パイプ8の内壁への気体試料の吸着を防止するためには、気体試料を導入する際の気体試料導入パイプ8の内部の温度を上げる必要がある。そのため、図2に示したように、気体試料導入パイプ8にヒータ10を巻いて試料の温度を上昇できるようにした。通常、気体試料導入パイプ8の温度は室温(10〜30℃)以上とし、100〜200℃程度になるようにした。本実施例では、気体試料導入パイプ8としてテフロン(登録商標)のような柔軟なパイプを用い、その周りに蛇腹パイプのような硬いが折り曲げ可能なパイプ9を設けて、気体試料導入パイプ8を機械的に補強した。
【0026】
気体試料導入ポンプ11を用いて気体試料を導入する場合、気体試料導入プローブの先端には、手で持ちやすくするために取っ手3を設けたり、気体試料導入ポンプ11のスイッチ2を取っ手3の近傍に設けることもできる。気体試料導入プローブの先端には、プローブ先端加熱ヒータ4を設けて、気体試料導入プローブの先端部分での気体試料の吸着を防止したり、大きな粒子やゴミが気体試料導入パイプ11内に吸引されるのを防ぐために、フィルタ6を設けることもできる。この場合、フィルタ6に吸着されたゴミを取り出すためのゴミ取り出し口7を設けることが好ましい。
【0027】
さらに、固体試料中のダイオキシンなどを測定する場合は、固体試料を加熱して蒸気を発生させた方が、ダイオキシンなどの蒸気が発生して検出が容易になるので、赤外線ランプやハロゲンランプなどのような加熱部5を設けることが実用上有用である。
【0028】
一方、図2に示した構造では、気体試料導入パイプ8の長さが数メートルを越えるような場合は、ヒータ10もそれだけ長くなるので、価格が上昇する。そこで、図3に示したように、多重に巻いた金属線ヒータ12aを気体試料導入パイプ8内に設けて、通過する気体試料を直接加熱するようにした。図3に示したように、複数の金属線ヒータ12a、12bを使用してもよく、気体試料導入パイプ8が長い場合には、その数をさらに増加させることもできる。実際に使用する際は、気体試料導入ポンプ11によって気体試料の吸引を開始してから、金属線ヒータ12の通電加熱を開始し、金属線ヒータ12が十分に加熱された一定時間後に、測定を開始する。
【0029】
このようなシーケンスにすることによって、温度の低い気体状試料が気体試料導入パイプ8の内壁に吸着するなどの問題も軽減される。また、長い気体試料導入パイプ8を使用する場合でも、ある一定距離毎に金属線ヒータ12を配置すればよいので、価格の上昇も僅かである。また、通電加熱なので金属線ヒータの温度は数秒程度の短時間で所定の温度に上昇するので、金属線ヒータ12を常に加熱しておく必要はなく、運転コストも低い。さらに、高温に加熱された金属線ヒータ12が気体試料導入口1の直後に配置されてあれば、水分を含む粒子も加熱されて気化するので、このような水分を含む大きな粒子の導入は防止される。図2に示したようにフィルタ6やゴミ取り出し口7を設けてもよい。
【0030】
気体試料導入プローブを経て導入された試料は、負のコロナ放電を行うためのコロナ放電部(図1には図示が省略されている)に入り、ここで生成された負のイオンは、第1、第2および第3細孔24、25、26、静電レンズ27、スリット28および偏向器29およびゲート電極30などを経て、エンドキャップ電極31aおよびリング電極32などを有するイオントラップ型質量分析計に導入され、所定の質量分析が行われる。
【0031】
〈実施例2〉
本実施例は試料加熱部を試料導入ポンプ11の後段に設けた例であり、図4〜9を用いて説明する。測定すべき気体試料は、気体試料導入ポンプ11によって気体試料導入パイプ8から気体試料加熱炉13内に導入される。この気体試料加熱炉13は、金属製のブロックの中に、石英のような高温に耐える材質製の絶縁パイプ14が設けられ、その中に置かれた金属線ヒータ15によって、この領域を通過する気体試料が高温に加熱される。金属線ヒータ15としては、ニクロム線などの金属製のワイヤを多重に巻いたものを使用した。絶縁パイプの径は、流入する気体量にも依存するが、毎分2リットル程度の気体が導入される場合では、5mm程度である。絶縁パイプ14の長さは10cm程度とした。上記金属線ヒータ15の代わりに、図5に示したように、衝突板加熱ヒータ42を設け、気体試料をこの加熱された複数の衝突板43に衝突させて加熱してもよい。
【0032】
このようにして試料を加熱すれば、粒子が導入されても、金属線ヒータ15や衝突板加熱ヒータ42に衝突し気化して、粒子や水分などがコロナ放電領域に直接導入するのは防止されるので、コロナ放電が不安定になることはない。この金属線ヒータ15は、金属線ヒータ加熱電源16によって所望の温度に制御され、この領域の温度は50から400℃程度に保たれる。
【0033】
試料加熱炉13を通過した気体試料は、コロナ放電部17に導入されて負のイオン化される。導入された気体試料が効率的にコロナ放電用針電極21先端のコロナ放電領域に送られるように、コロナ放電用針電極21の近傍に気体試料の導入経路18の先端が位置するようにした。
【0034】
上記導入経路18としては、図6に示したように、先端の径が小さい導入経路45を用いてもよい。例えば、途中までの経路の内径を5mm程度にし、先端の内径を1mm程度にすれば、導入された気体試料を確実にしかも効率的にコロナ放電用針電極21先端のコロナ放電領域に導入できた。このとき、気体試料導入経路18の長さは5cm程度とした。コロナ放電用針電極21近傍の導入経路18は、コロナ放電用針電極21先端での電界を弱めないように、テフロン、マコールガラス、セラミック等の絶縁材製とした。この領域も気体試料加熱炉13と同様に、コロナ放電部加熱ヒータ19によって加熱することもできる。通常、この領域の温度は、コロナ放電部加熱ヒータ電源20によって50から300℃程度に保たれる。
【0035】
コロナ放電部17には、コロナ放電用針電極21を設け、コロナ放電用電源22によって負の高電圧(−2から−5kV程度)が印加できるようにした。まわりの対向電極17との距離は数mm程度とした。
【0036】
コロナ放電部17から第1細孔24を介して導入された試料は第2細孔25を介して質量分析計へ送られるが、イオンや分子以外の余剰ガスは、余剰ガス出口23より外部へ排出される。
【0037】
気体試料加熱炉13中の気体試料を加熱した場合(150℃)と加熱しない場合(30℃)の場合における、コロナ放電によって得られる全電流値を図8に示した。試料としてはクロロベンゼンを使用し、室温の試料からの蒸気を気体試料吸引ポンプ11で吸引した。
【0038】
図8から明らかなように、コロナ放電電圧が同じ(−2.5kV)でも、加熱した場合(a)の方が加熱しない場合(b)より電流値が2.5倍程度増加した。しかも、電流の安定度も加熱した場合の方がはるかに良好であった。気体試料の温度が高温、例えば100℃以上であると、導入された気体状試料の水分も気化し、コロナ放電によるイオン化は効率的に、しかも安定に行われた。また、高温に加熱された気体試料によって、間接的にコロナ放電用針電極21の温度が上昇するとコロナ放電開始電圧が低下し、放電電圧が同じであっても高いコロナ放電電流が得られるため、イオンの生成効率も上昇した。
【0039】
温度のみではなく、コロナ放電によってイオンが生成される領域の圧力も重要であることが認められた。通常、コロナ放電を利用するような大気圧イオン源では、イオンを真空中に取り込む細孔から流入されない余剰ガスをイオン源の外に出すための余剰ガス出口23が設けられる。従って、この余剰ガス出口23は常に開状態であり、コロナ放電領域はほぼ大気圧(760Torr程度)になっている。しかし、実際には、大気圧以上に、コロナ放電領域における分子密度が高い方がイオン化効率が高くなり、コロナ放電領域の圧力の最適値は大気圧の760Torrより高かった。
【0040】
一方、イオンを質量分析計の真空中に取り込む細孔25(直径0.2〜0.5mm程度)付近における圧力が高すぎると、この細孔25を通って高真空下の質量分析部に流入する分子の数が多くなりすぎ、質量分析部を高真空に維持するのが困難になる。そこで、例えば図4に示した余剰ガス出口23を塞ぎ、気体試料導入ポンプ11によって気体を連続的に導入して、コロナ放電部17の内部の圧力を高めるようにした。しかし、このままではイオンを真空中に取り込むための第1細孔24からの気体の流入量が多すぎるので、図7(a)に示したように、余剰ガス出口にコンダクタンスを低下させるための軽い重り46を置き、コロナ放電部17内部の圧力が高くなりすぎると、重り46が浮いて余剰ガスが余剰ガス出口より外部へ出るようにした。これにより、コロナ放電部17に流入する気体量と重り46の重さの関係で、コロナ放電部17の圧力を所望の値に制御することができた。また、図7(b)に示すように、重り46の代わりに、余剰ガス出口のところに気体用バルブ47を設け、気体試料導入ポンプ11が作動している間、この気体用バルブ47を周期的に開閉して、コロナ放電領域の圧力を制御してもよい。
【0041】
余剰ガス出口に上記重り46を置き、コロナ放電領域の圧力を高くした場合の電流値の時間依存性(密閉状態)および余剰ガス出口をオープンにしてほぼ大気圧下で測定した場合(開放状態)を比較した結果を図9に示した。試料としてはクロロベンゼンを用い、室温での試料からの蒸気を気体試料吸引ポンプ11で吸引して得られたピークを比較した。その結果、図9から明らかなように、前者の方が後者の場合より感度は3倍程度高く、コロナ放電部17内部の圧力を高くすることが感度の上昇に有効であることが認められた。
【0042】
〈実施例3〉
コロナ放電部17で生成したイオンを分析するには、各種質量分析計を使用できるが、イオン溜め込み型のイオントラップ質量分析計を用いた場合について、図1を用いて説明する。四重極質量分析計や磁場型質量分析計などの他の質量分析計を用いた場合でも同様である。
【0043】
コロナ放電部(図1には図示されていない)で生成したイオンは、ヒータ19によって加熱された差動排気部の第1細孔24(直径0.3mm程度、長さ20mm程度)、第2細孔25(直径0.2mm程度、長さ0.5mm程度)、第3細孔26(直径0.3mm程度、長さ0.5mm程度)を通過する課程で、加熱や中性分子との衝突などによってクラスターイオンの開裂が起こり、試料分子のイオンが生成する。また、第1細孔24と第2細孔25、第2細孔25と第3細孔26間には電圧が印加できるようになっており、イオン透過率を向上させると同時に、残留する分子との衝突によってクラスタの開裂が行われる。
【0044】
差動排気部は、通常、ロータリポンプ、スクロールポンプ、またはメカニカルブースタポンプなどの荒引きポンプ40によって排気される。この領域の排気にターボ分子ポンプを使用することもできる。第2細孔25と第3細孔26間の圧力は0.1〜10Torrとした。生成したイオンは第3細孔26を通過した後、静電レンズ27によって収束される。この静電レンズ27としては、3枚の電極からなるアインツエルレンズを用いた。
【0045】
イオンはスリット28を通過した後、偏向器29で偏向され、ゲート電極30を経て、一対の椀状のエンドキャップ電極31a、31bとリング電極32よりなるイオントラップ質量分析計に導入される。スリット28はスキマーから流入する中性粒子などを含むジェットの立体角を制限し、不要な粒子等がイオントラップ質量分析計内に導入されるのを防ぐ。偏向器29は、スキマーを通過した中性粒子が、エンドキャップ電極31aの細孔を通して直接イオントラップ質量分析部に導入されるのを防止するために設けた。本実施例では、多数の開口部が設けられた内筒および外筒よりなる二重円筒型の偏向器29を用い、内筒の開口部から滲みだした外筒の電界を用いて偏向した。ゲート電極30は、イオントラップ質量分析部内に溜め込んだイオンを系外に取り出す際に、イオンが外部から質量分析部内に導入されるのを防止する役目をする。
【0046】
このイオントラップ質量分析部内に導入されたイオンは、イオントラップ質量分析部内に導入されたヘリウムなどのガスと衝突して、その軌道が小さくなった後、リング電極32に印加された高周波電界を走査することによって系外に排出され、引き出しレンズ33を経てイオン検出器によって検出される。ヘリウムなどのガスは、ボンベ38などの供給源からレギュレータ39を通して供給される。 イオントラップ質量分析計の利点の一つは、イオンを溜め込む特性を有しているので、試料の濃度が希薄な場合でも、溜め込む時間を伸ばせば検出が可能である点である。従って、ダイオキシン分析のように、試料濃度が低い場合でも、イオントラップ質量分析部においてイオンの高倍率濃縮が可能であるので、試料の前処理を簡便化できる。イオントラップ質量分析部より取り出されたイオンの検出に当たっては、コンバージョンダイノード34でイオンが電子に変換され、その電子をシンチレーションカウンタ35で検出される。得られた信号は増幅器36で増幅した後、データ処理装置37に送られる。
【0047】
静電レンズ27、スリット28、偏向器29、ゲート電極30、イオントラップ質量分析部、イオン検出器が配置されたチャンバーは、ターボ分子ポンプ41で排気される。なお、ターボ分子ポンプ41には背圧側に補助ポンプが必要となるが、これを差動排気部に用いている荒引きポンプ40と兼用することが可能である。本実施例では、差動排気部に排気容量900リットル/分程度のスクロールポンプを、チャンバー用の排気装置として200リットル/秒程度のターボ分子ポンプを使用し、このターボ分子ポンプの補助ポンプとしてスクロールポンプを兼用した。このような系にすることによって、複雑になりがちな大気圧イオン化質量分析装置の排気系を極めて単純化することができた。なお、本実施例では偏向器26を用いたが、イオンを偏向しない場合も可能である。
【0048】
通常、データ処理装置37では、質量数/電荷とイオン強度の関係(マススペクトル)や、ある質量数/電荷のイオン強度の時間変化(マスクロマトグラム)などが表示される。図10に1、2、3トリクロロベンゼン、図11に1、2、3トリクロロジベンゾパラジオキシン(ダイオキシンの一種)のマススペクトル測定例を、それぞれ示した。いずれの場合も、電子が付着した分子イオンM-が強く観測されており、本発明がこれらの物質を測定するのに有効であることがわかる。なお、図10、11に、1、2、3トリクロロベンゼンおよび1、2、3トリクロロジベンゾパラジオキシンの分子構造を示した。ジベンゾパラジオキシンの骨格から酸素が一つ脱離したものはジベンゾフランと呼ばれ、ジベンゾパラジオキシン同様に毒性が強い。この物質も本発明によって高感度で測定できた。なお、観測される1、2、3トリクロロベンゾパラジオキシンの分子イオン領域を詳細にみたものを、図19に示した。左の実測値からわかるように、塩素のふたつの安定同位体(質量数34.9688527と36.965903のもので、その存在比はそれぞれ75.77%と24.23%)に由来する複雑なピーク群となっている。このピーク群は、負のコロナ放電における主反応である電子付加により生成した負イオン(M-)に加えて、脱水素反応により生成したイオン(M−H)-)の重ねあわせとして説明できることが、図19に示した実測値と計算値の比較により確認できた。逆に、この特徴を生かすことにより、複数のピーク、例えば、286と288のピークの強度比を観測することにより、定性がより確実になる。
【0049】
このように、ジベンゾパラジオキシンとジベンゾフランの骨格にハロゲンが入った有機物は、負のコロナ放電によって負のイオンになりやすい、すなわち負のコロナ放電によるイオン生成効率が高いので、本発明によって高感度で測定できる。1、2、3トリクロロベンゼンを試料として用いて得られたマスクロマトグラムの測定例を図12に示した。気体試料導入ポンプ11によって気体試料を分析計内部に導入すると、被測定成分が検出されてシグナルが上昇し、停止させるとシグナルが消えるので、これを利用すればオンラインのモニタリングが可能となる。
【0050】
危険物の探知で問題となるニトロ化合物の場合も同様であり、図13に示したモノニトロトルエンおよびトリニトロトルエン、図14に示したアールディーエックスとピーイーティーエヌのように、三つ以上のニトロ基を有し、蒸気圧の低いニトロ化合物も高感度に測定できた。これは、有機塩素化合物と同様に、負のコロナ放電によるニトロ化合物の負イオン生成効率が高いためである。
【0051】
ニトロ化合物の場合は、ニトロ基の数が増えると負イオンの生成効率が高くなる傾向がある。図12、13には、室温(20−30℃)にある固体試料の蒸気を気体試料導入ポンプ11によって吸引し、これを負のコロナ放電によってイオン化した後、質量分析計に導入して検出されたマスクロマトグラムを示した。本発明によれば、ニトロ基が一つ(例えば図13に示したモノニトロベンゼンなど)、あるいは二つのニトロ化合物でも高感度に測定できることは言うまでもない。
【0052】
データ処理装置37には、最終的な表示をマススペクトルやマスクロマトグラムではなく、さらに簡略化されたものを示すようにしてもよい。すなわち、危険物探知装置のような場合には、問題となるニトロ化合物が検出されたかどうかを表示するだけでもよい。例えば、図15のように、ある検出すべき特定のイオンにおけるノイズレベルがあった場合に、そのレベル以上にシグナルが検出されたとき、このイオンが検出されたとする。このとき、単なるスパイクノイズと区別するために、ある一定時間以上観測されれば、それをシグナルとみなすようなアルゴリズムを用いる。このようなアルゴリズムを加えることによって、誤作動を減少させることができる。このとき、最終表示として例えば図16に示したものを使用できる。表示器48に、ある検出すべきイオンに対応する物質のインジケータ49を表示しておき、上記アルゴリズムによって、例えばAが検出されたときはAを点滅させて、Aが検出されたことを知らせる。このとき、どの程度の濃度か(簡単には、量が多いか少ないかといった程度の情報でよい)を知らせる量のインジケータ50や、アラーム51を同時に設けてもよい。
【0053】
〈実施例4〉
上記各実施例では、気体試料導入ポンプ11により気体試料を連続的に導入する場合を示したが、図17に示したように、シリンジ53によって気体試料を気体試料導入ポート52から、オフラインで導入することも可能である。
【0054】
また、気体試料のみではなく、溶液試料であっても(ダイオキシンでは有機溶媒に溶けている場合もある)、ガスによる霧化器や加熱による霧化器を用いて溶液試料を霧化し、これを例えば図2に示した気体試料加熱炉13に導入して分析することも可能である。この場合は、霧化器からは高速のジェットが生成するので、気体試料導入ポンプを使用する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例1および実施例3を説明するための装置構成図。
【図2】本発明の実施例1を説明するための図。
【図3】本発明の実施例1を説明するための図。
【図4】本発明の実施例2を説明するための装置構成図。
【図5】本発明の実施例2を説明するための装置構成図。
【図6】本発明の実施例2を説明するための装置構成図。
【図7】本発明の実施例2を説明するための図。
【図8】加熱の効果を示す図。
【図9】圧力の影響を示す図。
【図10】得られたマススペクトルの例を示す図。
【図11】得られたマススペクトルの例を示す図。
【図12】検出されたイオン強度の例を示す図。
【図13】検出されたイオン強度の例を示す図。
【図14】検出されたイオン強度の例を示す図。
【図15】ノイズとシグナルの関係を示す。
【図16】表示器の例を示す図。
【図17】装置構成の例を示す図。
【図18】従来の装置の例を示す図。
【図19】1、2、3トリクロロパラベンジオキシンの分子領域を示す図。
【符号の説明】
【0056】
1…気体試料導入口、2…スイッチ、3…取っ手、4…プローブ先端加熱ヒータ、5…固体試料加熱部、6…フィルタ、7…ゴミ取り出し口、8…気体試料導入パイプ、9…折り曲げ可能なパイプ、10…気体試料導入パイプ用ヒータ、11…気体試料導入ポンプ、12a、b…金属線ヒータ、13…気体試料加熱炉、14…絶縁パイプ、15…気体試料加熱用金属線ヒータ、16…金属線ヒータ加熱電源、17…コロナ放電部、18…気体試料導入経路、19…コロナ放電部加熱ヒータ、20…コロナ放電部加熱ヒータ電源、21…コロナ放電用針電極、22…コロナ放電用電源、23…余剰ガス出口、24…第1細孔、25…第2細孔、26…第3細孔、27…静電レンズ、28…スリット、29…偏向器、30…ゲート電極、31a、b…エンドキャップ電極、32…リング電極、33…引き出しレンズ、34…コンバージョンダイノード、35…シンチレーションカウンタ、36…増幅器、37…データ処理装置、38…ボンベ、39…レギュレータ、40…荒引きポンプ、41…ターボ分子ポンプ、42…衝突板加熱ヒータ、43…衝突板、44…衝突板加熱ヒータ電源、45…気体試料導入経路、46…重り、47…気体用バルブ、48…表示器、49…物質のインジケータ、50…量のインジケータ、51…アラーム、52…気体試料導入ポート、53…シリンジ、54…細管、55…細管に同軸に設けられた管、56…加熱管、57…加熱管ヒータ、58…液滴、59…コロナ放電用針電極、60…質量分析部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定すべき気体試料を導入する試料導入部と、
前記試料導入部により導入された前記気体試料をイオン化するための針状電極を備えたコロナ放電部と、
前記コロナ放電部で生成された前記気体試料に関するイオンを分析する質量分析部とを有し、
前記試料導入部には、前記気体試料の流路を制限する絞りが設けられ、前記絞りを介して前記気体試料が前記針電極の先端に向けて吹き付けられることを特徴とする分析装置。
【請求項2】
測定すべき気体試料を導入する試料導入部と、
前記試料導入部に設置されたフィルタと、
前記試料導入部により導入された前記気体試料を加熱する加熱部と、
前記加熱部によって加熱された前記気体試料を負のコロナ放電するコロナ放電部と、
前記負のコロナ放電によって生じたイオンを質量分析する質量分析部とを有し、
前記試料導入部は、前記気体試料が通る内管と前記内管の外側に配置された外管からなる二重構造を有し、前記加熱部が前記内管と前記外管の間に設置されているとともに、前記内管及び前記外管が折り曲げ可能な柔軟な素材で構成され、
前記試料導入部の一端に赤外線照射により固体試料を加熱する固体試料加熱部を有することを特徴とする分析装置。
【請求項1】
測定すべき気体試料を導入する試料導入部と、
前記試料導入部により導入された前記気体試料をイオン化するための針状電極を備えたコロナ放電部と、
前記コロナ放電部で生成された前記気体試料に関するイオンを分析する質量分析部とを有し、
前記試料導入部には、前記気体試料の流路を制限する絞りが設けられ、前記絞りを介して前記気体試料が前記針電極の先端に向けて吹き付けられることを特徴とする分析装置。
【請求項2】
測定すべき気体試料を導入する試料導入部と、
前記試料導入部に設置されたフィルタと、
前記試料導入部により導入された前記気体試料を加熱する加熱部と、
前記加熱部によって加熱された前記気体試料を負のコロナ放電するコロナ放電部と、
前記負のコロナ放電によって生じたイオンを質量分析する質量分析部とを有し、
前記試料導入部は、前記気体試料が通る内管と前記内管の外側に配置された外管からなる二重構造を有し、前記加熱部が前記内管と前記外管の間に設置されているとともに、前記内管及び前記外管が折り曲げ可能な柔軟な素材で構成され、
前記試料導入部の一端に赤外線照射により固体試料を加熱する固体試料加熱部を有することを特徴とする分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2006−267129(P2006−267129A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175051(P2006−175051)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【分割の表示】特願平10−109016の分割
【原出願日】平成10年4月20日(1998.4.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【分割の表示】特願平10−109016の分割
【原出願日】平成10年4月20日(1998.4.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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