説明

分析装置

【課題】
従来の酸化触媒の酸化効率の劣化の判定に必要とした試験専用の2種類の試験用ガスの前準備および試験時の各試験用ガスのつなぎ換えなどの煩雑な前準備、測定、判定法を改善し、試験工数・試験費用を低減する。
【解決手段】
燃焼部21を切替弁22、切替弁25および、燃焼炉3Nと燃焼炉3N内の新規触媒を充填したA触媒槽23、B触媒槽24で構成し、切替弁22、切替弁25の操作により最初にA触媒槽23側の流路を開きA触媒槽23を使用して測定を行い、あらかじめ定めた使用時間後にB触媒槽24に切り替えて同一試料により短時間の試験測定を行い、A触媒槽23を使用した場合の測定値と規定の差が認められた場合は酸化触媒の劣化と判定し、使用者に交換を促すかB触媒槽24を使用する測定に切り替える処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分析計測分野において使用される、揮発性有機炭素分析計などの触媒式分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
以下、検出器としてNDIR(非分散赤外分析計)を用いた触媒酸化方式の揮発性有機炭素分析計(以下、揮発性有機炭素をVOC、揮発性有機炭素分析計をVOC計と記載する)を例として従来の触媒酸化式分析計の技術を説明する(たとえば特許文献1、非特許文献1参照)。この方式のVOC計は、最初に試料ガス(以下、試料と略記する)を高温に加熱された酸化物触媒中を通過させ、試料中の揮発性有機炭素(以下、VOCと略記する)の全量を二酸化炭素(以下、COと記載する)に変換し、生じたCO濃度をNDIRにより検出し、VOC濃度に換算して出力としている。NDIRはCOに光源から赤外線を照射し、CO固有の波長の赤外線吸収量を測定する検出方法である。この方法により、VOCの高感度の連続測定が行われる。
【0003】
図2によって基本的なVOC計の構成と作動を説明する。1は試料導入口で、試料はここからVOC計に導入され、ポンプ6の吸引力により図の右方に流れる。切替弁2は試料導入口1からの流路を流路A方向または流路B方向の何れかに切り替える。切替弁2から流路Aのポンプ6、および流路Bのポンプ8に到る部分は試料前処理部Pを構成する。
【0004】
切替弁2の流路A側の下流には、たとえば白金系などの酸化物触媒を封入した触媒槽を内蔵(図示せず)した燃焼炉3があり、測定時は燃焼炉3は規定の温度に加熱され、試料中のVOCは高温に加熱された触媒槽を通過する際にCOに変換される。このとき試料によっては燃焼炉3内で測定に影響を及ぼす塩化水素・フッ化水素が生成するが、これらの成分はハロゲンスクラバ4で除去される。気液分離器5は冷却器を内蔵し、試料中の水分を除去する。ポンプ6を通過した試料はNDIR9内のセル9B(検出器を含む、以下同様)に導入される。セル9B内の試料にはIR光源9Aからの赤外(IR)光が照射され、CO固有の波長で生じる赤外線吸収量が測定される。切替弁2が流路B側に切り替えられているときには試料は燃焼炉3による変化を受けることなく、気液分離器7およびポンプ8を通過してNDIR9内のセル9Bに導入される。
【0005】
測定時は切替弁2の切り替えにより、試料をまず流路Bを経由してNDIR9に導き、測定値を演算部10に記憶する。この工程により、試料中に最初から含まれているCOが測定・記憶される。この測定値をバックグラウンド値とする。次に試料を流路Aを経由してNDIR9に導き、測定値を演算部10に記憶する。この測定値をトータル値とする。さらに演算部10において、トータル値からのバックグラウンド値の差し引き、差し引き後の測定値のVOC濃度への換算を行うことにより、試料中のVOC濃度に対応した出力が得られる。この出力は記録計11に表示・記録される。なお、切替弁2の周期的な自動切り替え(チョッピング)を行い、演算部10内で切替弁2の自動切り替えに同期した信号処理を行って、トータル値からのバックグラウンド値の差し引きを常時自動的に行い連続的に出力することも可能である。
【0006】
【特許文献1】特開平8−338835公報
【非特許文献1】揮発性有機化合物濃度の測定法に関する環境省告示第61号(平成17年6月10日)の別表第1の別紙
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の触媒酸化式ガス分析計の構造は以上のとおりであるが、この構造では酸化触媒の劣化度の試験方法が煩雑で試験工数・試験費用が増大する。すなわち、酸化触媒の酸化効率が低下するとVOCの成分によって酸化効率が異なる値を示すようになり混合成分の正確な測定ができなくなるため酸化効率は95%以上が必要と規定(下記参考文献参照)されているが、この酸化効率は試料に含まれるたとえばシリコンなどの成分によって顕著に劣化するので、使用期間中には劣化(酸化効率の低下)を繰り返し試験することが必要である。
【0008】
従来の酸化効率の試験方法の1例は図3に示すごとく、燃焼炉3とハロゲンスクラバ4の中間に試験のための切替弁Cを設けておき、最初に外方から切替弁Cに二酸化炭素試験用ガスを供給してNDIR9の出力を測定し、次に試料導入口1にメタン試験用ガスを供給してNDIR9の出力を測定し、各試験用ガスの既知の濃度と両出力の大きさから酸化効率を算出する方法であった。したがって酸化効率の判定のためには事前に特別に試験用以外には使用しない2種類の試験用ガスを準備し、試験の都度2種類の試験用ガスのつなぎ換えをして測定を行う必要があり、煩雑な前準備、測定、判定に多くの試験工数・試験費用を要していた。(参考資料:環境省環境管理局大気環境課策定資料:(1)[「揮発性有機化合物濃度の測定法」における「分析計の性能試験方法の策定」について]、および(2)同資料の別添資料[VOC分析計性能試験方法])
【0009】
従来の劣化試験の他の簡易的方法として、たとえば装置の毎日点検に使用する既知濃度の点検用プロパンガスにより感度チェックを行い劣化度を推測する方法があるが、この方法は酸化触媒の劣化以外にも分析装置を構成する他の要素の特性変化や、環境温度や気圧などの周囲環境の変化が影響するので、酸化触媒のみの劣化試験としては不十分である。したがって精度の高い酸化触媒の劣化試験方法としては前記の2種類の試験用ガスを使用した試験が必要であり、前記のように煩雑な前準備、測定、判定に多くの試験工数・試験費用を要していた。本発明はこのような問題点を解決する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、流体試料の流路に配設された触媒処理用の触媒槽と、その下流に配設された検出器部を備え触媒槽で流体試料を化学的に反応させ反応した試料を検出器で光学的に分析する分析装置において、流路を複数個並設してそれぞれの流路に触媒槽を配設するとともに、1の触媒槽のみを検出器側流路に配設して常時使用し、触媒槽の触媒効率の劣化度の判定試験時に他の触媒槽を常時使用中の触媒槽と切り替えて検出器側流路に配設する切り替え手段を設ける。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数系列の触媒槽の内、常時使用中の触媒槽を使用していない触媒層と切り替え比較することにより、特別な試験用ガスを準備することなく、毎日点検に使用する既知濃度の点検用プロパンガスなどを使用して迅速に使用中の触媒槽の劣化を精度良く検出することが可能になるので、従来、前準備、測定、判定に要していた多くの試験工数・試験費用の低減が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明が提供する分析装置の特徴は、流体試料の流路に配設された触媒処理用の触媒槽と、その下流に配設された検出器部を備え触媒槽で流体試料を化学的に反応させ反応した試料を検出器で光学的に分析する分析装置において、流路を並設してそれぞれの流路に触媒槽を配設するとともに、1方の触媒槽のみを流路に配設して常時使用し、触媒槽の触媒効率の劣化度の判定試験時に他の触媒槽を常時使用中の触媒槽と切り替えて流路に配設する切り替え手段を設けるように構成された点であり、この特徴を備えた形態が最良の形態である。
【実施例】
【0013】
以下図示例にしたがって説明する。図1(A)は本発明の実施例の構成を示す図、図1(B)は図1(A)の燃焼部21の詳細構成を示す図である。図1において図2と同一符号の部品の構造および作動は図2と同一である。図1(A)において試料導入口1から導入された試料は切替弁2により流路A方向または流路B方向の何れかに切り替えられる。たとえば切替弁2が流路A側に切り替えられている場合には、試料はポンプ6で吸引されて高温に加熱された酸化物触媒を封入した燃焼部21に導かれ、試料中のVOCは燃焼部21を通過する際にCOに変換される。ポンプ6を通過した試料はNDIR9に導入され、CO固有の波長で生じる赤外線吸収量が測定される。切替弁2が流路B側に切り替えられているときには試料は燃焼部21による変化を受けることなく、気液分離器7およびポンプ8を通過してNDIR9に導入される。
【0014】
測定時は切替弁2の切り替えにより、試料をまず流路Bを経由してNDIR9に導き、測定値を演算部10に記憶する。この手順により、試料中に最初から含まれているCOが測定・記憶される。この測定値をバックグラウンド値とする。次に試料を流路Aを経由してNDIR9に導き、測定値を演算部10に記憶する。この測定値をトータル値とする。さらに演算部10において、トータル値からのバックグラウンド値の差し引き、差し引き後の測定値のVOC濃度への換算を行うことにより、試料中のVOC濃度に対応した出力が得られる。この出力は記録計11に表示・記録される。
【0015】
図1(B)は燃焼部21の構成を示している。燃焼部21は切替弁22、切替弁25および、燃焼炉3Nと燃焼炉3N内のA触媒槽23、B触媒槽24から構成されている。測定にあたっては最初にA触媒槽23、B触媒槽24に新規の酸化触媒を充填し、切替弁22、切替弁25の操作によりたとえばA触媒槽23側の流路を切替弁2およびハロゲンスクラバ4に向かって開き、B触媒槽24側の流路は閉止し、A触媒槽23を使用して通常の測定を行う。
【0016】
あらかじめ定めた使用時間、たとえば100時間毎にA触媒槽23側を閉止し、B触媒槽24側を開き、B触媒槽24を使用して同一試料、たとえば点検用プロパンガスにより短時間の試験測定を行い、A触媒槽23を使用した場合の測定値と比較する。両者にたとえば5%に近い差が認められた場合は試験測定の頻度を増加し、5%の差が認められた時点でA触媒槽23の酸化触媒は劣化したと判定し、A触媒槽23を別の新規な触媒槽と交換するよう使用者に促す。この試験方法により、特別な試験用ガスを準備することなく、酸化触媒の劣化を試験することができる。試験にあたっては触媒槽以外の要素および流路は同一であるから、試験結果は分析装置の他の要素および周囲環境の変化などには影響されない。また、B触媒槽24をA触媒槽23が劣化した時の緊急用に予備触媒として使用しても良いが、劣化しても判別できないのでA触媒槽23とB触媒槽24は同時に新品と交換することが必要になる。
【0017】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、さらに種々の変形実施例を挙げることができる。たとえば図1(B)において、燃焼部21内に設置する触媒槽の数は3個以上であっても良い。また燃焼炉3Nは各触媒槽毎に設けても良い。検出器の方式もNDIRに限定されるものではない。また規定時間毎に酸化触媒の劣化試験の必要性を分析装置に表示したり、切替弁22、切替弁25の操作を自動化してA触媒槽23、B触媒槽24の流路変更および試験を自動的に実施させ、結果を分析装置に表示させても良い。さらに上記実施例はガス状のVOCについて説明したが、本発明は液状試料に対しても適用できる。本発明はこれらをすべて包含する。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は分析計測分野において使用される揮発性有機炭素分析計などの触媒式分析計に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)は本発明の実施例の構成を示す図であり、(B)は本発明の実施例の燃焼部の詳細構成を示す図である。
【図2】従来の分析装置の構成を示す図である。
【図3】従来の分析装置の酸化触媒の劣化度の試験方法の1例を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 試料導入口
2 切替弁
3 燃焼炉
3N 燃焼炉
4 ハロゲンスクラバ
5 気液分離器
6 ポンプ
7 気液分離器
8 ポンプ
9 NDIR
9A IR光源
9B セル
10 演算部
11 記録計
21 燃焼部
22 切替弁
23 A触媒槽
24 B触媒槽
25切替弁
C 切替弁
P 試料前処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体試料の流路に配設された触媒処理用の触媒槽と、その下流に配設された検出器部を備え触媒槽で流体試料を化学的に反応させ反応した試料を検出器で光学的に分析する分析装置において、流路を複数個並設してそれぞれの流路に触媒槽を配設するとともに、1の触媒槽のみを検出器側流路に配設して常時使用し、触媒槽の触媒効率の劣化度の判定試験時に他の触媒槽を常時使用中の触媒槽と切り替えて検出器側流路に配設する切り替え手段を設けたことを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−256028(P2007−256028A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79834(P2006−79834)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】