説明

分注装置

【課題】より効率的に分注処理をでき得る分注装置を提供する。
【解決手段】分注装置は、互いに独立して駆動可能な複数のノズルユニットを備えている。各ノズルユニットは、それぞれ、液体を吸引吐出するノズルを備えている。制御部には、各ノズルユニットに、元液体容器から液体を吸引する吸引工程、子液体容器へ液体を吐出する吐出工程、および、吸引工程の開始可能な状態にする準備工程を順に繰り返し実行させる。このとき、制御部は、ノズルヘッド(ノズルユニット)間で実行する工程をシフトさせるとともに、2以上のノズルヘッドによる吸引工程の並行実行および2以上のノズルヘッドによる吐出工程の並行実行を阻害するべく、先行するノズルヘッドによる吸引工程が終了するまで後続のノズルヘッドによる吸引工程を待機させ、先行するノズルヘッドによる吐出工程が終了するまで後続のノズルヘッドによる吐出工程を待機させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、元液体容器に収容された液体を子液体容器に小分けする分注装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、元液体容器に収容された液体(例えば血液検体や薬液など)をノズルユニットに設けられたノズルで吸引し、この吸引した液体を子液体容器に吐出して、小分けする分注装置が広く知られている。こうした分注装置のなかには、複数のノズルを備えた多連ノズル型の分注装置がある(例えば特許文献1,2など)。このような多連ノズル型の分注装置の場合、複数の液体の吸引吐出を同時に行うことができるため、分注処理の高速化が図れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−317330号公報
【特許文献2】特開2008−145194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の多連ノズル型の分注装置では、複数のノズルが連動して同じ動作を行うようになっていた。すなわち、従来の多連ノズル型の分注装置では、複数のノズルが、同時に液体吸引を行い、また、同時に液体吐出動作を行うようになっていた。かかる構成の場合、状況によっては、十分な処理速度が得られない場合があった。例えば、使用の度にノズルを廃棄交換するディスポーザブル式ノズルを用いた場合は、1回の分注処理の度に、当該ノズル廃棄交換するリムーブ工程や装着工程が必要となる。複数のノズルは、このリムーブ工程および装着工程も同時に行うが、複数のノズルのうち、一つのノズルのリムーブ動作等が、何らかの事情により他のノズルのリムーブ動作等よりも時間がかかったとする。この場合、他のノズルは、リムーブ動作等が完全に終了していたとしても、当該一つのノズルのリムーブ動作等が終了するまで次の工程に移行することができず、待機しなければならない。換言すれば、従来の多連ノズル型の分注装置では、一つのノズルで生じた時間延長が、他のノズルにまで影響を与えることがあった。そして、結果として、分注処理に要する時間が長くなり、分注処理の効率が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明では、より効率的に分注処理をでき得る分注装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の分注装置は、元液体ラインに沿って、複数の元液体容器を保持する元液体ラックを搬送する元液体搬送ユニットと、元液体ラインと平行に設置された子液体ラインに沿って、複数の子液体容器を保持する子液体ラックを搬送する子液体搬送ユニットと、それぞれが液体を吸引するノズルを有する複数のノズルユニットであって、互いに独立して水平方向および垂直方向に移動可能な複数のノズルユニットと、前記複数のノズルユニットの駆動を制御する制御手段であって、元液体容器から液体を吸引する吸引工程、子液体容器へ液体を吐出する吐出工程、および、吸引工程の開始可能な状態にする準備工程を順に繰り返し実行させる制御手段と、を備え、前記制御手段は、ノズルユニット間で実行する工程をシフトさせるとともに、2以上のノズルユニットによる吸引工程の並行実行および2以上のノズルユニットによる吐出工程の並行実行を阻害するべく、先行するノズルユニットによる吸引工程が終了するまで後続のノズルユニットによる吸引工程を待機させ、先行するノズルユニットによる吐出工程が終了するまで後続のノズルユニットによる吐出工程を待機させる、ことを特徴とする。
【0007】
好適な態様では、前記ノズルユニットの個数は、前記元液体ラックが保持する前記元液体容器の個数以上である。
【0008】
他の好適な態様では、前記ノズルは、ディスポーザブル式ノズルである場合に、前記準備工程は、前記ノズルユニットから使用済みノズルを取り外す除去工程、および、前記ノズルユニットに新たなノズルを装着する装着工程を含む。この場合、さらに、各ノズルユニットごとに設けられ、対応するノズルユニットに装着されたノズルを当該ノズルユニットから離脱させる複数のリムーバと、各ノズルユニットごとに設けられ、対応するノズルユニットに装着される未使用のノズルを保持する複数のノズルラックと、を備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、各ノズルユニットが互いに独立して移動可能であるため、一つのノズルユニットで生じた遅延の影響を他のノズルユニットが受けにくい。その結果、より効率的に分注処理をできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態である分注装置の概略構成図である。
【図2】分注装置の要部の略上面イメージ図である。
【図3】複数のノズルヘッドが行う工程の実行タイミングを示すイメージ図である。
【図4A】各タイミングでのノズルヘッドの位置を示すイメージ図である。
【図4B】各タイミングでのノズルヘッドの位置を示すイメージ図である。
【図4C】各タイミングでのノズルヘッドの位置を示すイメージ図である。
【図4D】各タイミングでのノズルヘッドの位置を示すイメージ図である。
【図4E】各タイミングでのノズルヘッドの位置を示すイメージ図である。
【図5】複数のノズルヘッドが行う工程の実行タイミングの他の例を示すイメージ図である。
【図6】従来の多連ノズルの要部の概略上面イメージ図である。
【図7】多連ノズルでの各ノズルが行う工程の実行タイミングを示すイメージ図である。
【図8】多連ノズルでの各ノズルが行う工程の実行タイミングの他の例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である分注装置の概略ブロック図である。また、図2は、分注装置の要部を上面から見た際のイメージ図である。
【0012】
この分注装置は、元液体容器100に収容された液体をノズルA42a〜E42e(以下、特に区別しない場合はアルファベットの添字を省略し、単に「ノズル42」と呼ぶ。他部材も同じ)で吸引し、この吸引した液体を1以上の子液体容器110に吐出して小分け分注する装置である。本実施形態の分注装置では、この分注処理の高速化などを目的として、互いに独立して駆動可能な複数のノズルユニット20を設けており、これら複数のノズルユニット20を特殊な態様で駆動制御している。以下、この分注装置について詳説する。
【0013】
本実施形態の分注装置は、元液体搬送ユニット12や子液体搬送ユニット14、複数のノズルユニット20、チップ廃棄部16、チップ装着部18、制御部22などを備えている。元液体搬送ユニット12は、元液体容器100を搬送するためのユニットである。元液体容器100は、試験管などからなる容器で、その内部には液体が収容されている。液体は、当該分注装置により吸引・小分けされる液体で、例えば、血液などの体液や、薬液などが該当する。元液体容器100は、元液体ラック102に起立保持された状態で収容されている。元液体ラック102は、規定個数(本実施形態では五個)の元液体容器100を、一列に並べた状態で起立保持する。なお本実施形態では、上端が完全開口された元液体容器100を用いているが、上端がゴム栓やアルミシール等で蓋された容器を元液体容器100として用いてもよい。かかる容器を元液体容器100として用いる場合には、ノズル42として当該栓又はシールを突き破ることができる金属製で鋭利な先端を備えた穿刺用ノズルを用いればよい。
【0014】
元液体ラック102により保持された元液体容器100は、元液体搬送ユニット12の構成要素である元液体ライン24に沿って搬送される。この元液体ライン24に沿った搬送を実現するために、元液体搬送ユニット12には、モータやローラなどからなるライン駆動機構26も設けられている。このライン駆動機構26は、制御部22からの指示に従って、元液体ラック102を元液体ライン24に沿って搬送するもので、その具体的構成は、公知の周知技術を適用できるため、ここでの詳説は省略する。
【0015】
子液体搬送ユニット14は、子液体容器110を子液体ライン28に沿って搬送するためのユニットである。子液体容器110は、試験管などからなる容器で、ノズルユニット20は当該子液体容器110に吸引した元検体を小分け分注する。この子液体容器110は、子液体ラック112に起立保持された状態で収容されている。子液体ラック112は、規定個数(本実施形態では五個)の子液体容器110を、一列に並べた状態で起立保持する。子液体ラック112により保持された子液体容器110は、子液体搬送ユニット14の構成要素である子液体ライン28に沿って搬送される。子液体ライン28は、元液体ライン24とほぼ平行に配設されたラインである。この子液体ライン28に沿った搬送を実現するために、子液体搬送ユニット14にも、制御部22からの指示に従って駆動し、モータやローラなどからなるライン駆動機構30が設けられている。
【0016】
ノズルユニット20は、ノズル42を介して元液体容器100から液体を吸引し、子液体容器110に吐出するユニットである。このノズルユニット20は、元液体ラック102での元液体容器100の保持数以上(本実施形態であれば五つ以上)、設けられることが望まれる。本実施形態では、元液体ラック102での元液体容器100の保持数と同じ数(すなわち五つ)のノズルユニット20を設けている。
【0017】
各ノズルユニット20は、ノズル42を保持するノズルヘッド40や、当該ノズルヘッド40を水平移動させる水平移動機構38、当該ノズルヘッド40を垂直移動させる垂直移動機構39、液体の吸引吐出のためにノズル内の気圧を可変させる吸引吐出機構36などを備えている。なお、本実施形態では、液体を吸引吐出するノズル42として、使用のたびに廃棄・交換できるディスポーザブル式のノズル、いわゆる、ノズルチップを用いている。このノズルチップは、ノズルヘッド40に着脱自在のノズルで、プラスチック等の比較的安価な材料から構成されている。
【0018】
水平移動機構38は、ノズルヘッド40を、水平方向、より具体的には元液体ライン24および子液体ライン28を横断する方向(図2におけるy方向)に移動させる機構で、モータやプーリ、スクリューなどから構成されている。この水平移動機構38は、各ノズルヘッド40ごと(各ノズルユニット20ごと)に一つずつ設けられている。換言すれば、複数のノズルヘッド40は、互いに独立して水平移動できるようになっている。
【0019】
垂直移動機構39は、ノズルヘッド40を、昇降させる機構で、モータやプーリ、スクリューなどから構成されている。この垂直移動機構39も、各ノズルヘッド40ごと(各ノズルユニット20ごと)に一つずつ設けられており、複数のノズルヘッド40は、互いに独立して昇降できるようになっている。
【0020】
吸引吐出機構36は、ポンプやノズル42内部に連通された配管、バルブなどからなる機構で、ノズル42内の気圧を適宜、変更する。この気圧変化に伴いノズル42内に液体が吸引されたり、ノズル42内の液体が吐出されたりする。この吸引吐出機構36も、各ノズルユニット20ごとに一つずつ設けられており、複数のノズル42は互いに独立して、換言すれば、全く別々のタイミングで液体の吸引吐出が出来るようになっている。なお、本実施形態では、吸引吐出機構36を、各ノズルユニット20ごとに設けているが、場合によっては、複数のノズルユニット20で、一つの吸引吐出機構36を共有するようにしてもよい。この場合、ポンプとノズル42とを連結する配管上に複数のバルブを設けておき、当該バルブの開閉によりポンプと連通するノズル42が適宜切り替えられるようにする。
【0021】
チップ廃棄部16は、ノズルヘッド40に装着された使用済みノズル42(ノズルチップ)を、当該ノズルヘッド40から取り外し、廃棄する部位である。このチップ廃棄部16は、複数のリムーバ32(ただし図1では一つのみを図示)を備えている。リムーバ32は、ノズルヘッド40に装着された使用済みノズル42の一部と干渉することで当該ノズル42をノズルヘッド40から取り外す器具で、各ノズルユニット20ごとに一つずつ設けられている。このリムーバ32の具体的構成は、公知の周知技術で得ることができるため、ここでの詳説は省略する。
【0022】
複数のリムーバ32は、元液体ライン24や子液体ライン28と平行な方向に一列に配設されており、各リムーバ32は、対応するノズルヘッド40の移動経路上に配置されている。ノズルヘッド40は、対応するリムーバ32の真上まで移動した後、下降して、ノズル42の一部を対応するリムーバ32に引っ掛けることで、ノズル42の取り外し、廃棄を実行する。リムーバ32の下側には、この取り外され、重力により落下してきたノズル42を収容するダストボックス(図示せず)が設置されている。
【0023】
チップ装着部18は、ノズル廃棄後のノズルヘッド40に新たなノズル42を装着する部位である。このチップ装着部18は、複数のチップラック34と各チップラック34の位置を調整する位置調整機構(図示せず)と、を備えている。チップラック34は、複数の使用前ノズル42を起立保持するラックである。複数のチップラック34は、元液体ライン24や子液体ライン28と平行な方向にほぼ一列に配設されている。位置調整機構は、未使用のノズル42が常にノズルヘッド40の移動経路の真下に位置するべく、このチップラック34をx方向に移動させる機構で、例えばコンベアなどから構成される。
【0024】
液体の吸引に先立って、ノズルヘッド40は、このチップ装着部18まで移動して、新たな未使用ノズル42を受け取る。具体的には、ノズルヘッド40は、対応するチップラック34の真上位置において下降し、これにより、ノズルヘッド40に設けられた取付部に、チップラック34に保持されたノズル42を嵌合させることで、ノズル42の装着を図る。
【0025】
制御部22は、上述した元液体搬送ユニット12や、子液体搬送ユニット14、複数のノズルユニット20などの駆動を制御する。具体的には、制御部22は、分注処理の進行状況に応じて、元液体ラック102や子液体ラック112を適切な位置に搬送するべく、各種ライン駆動機構26,30の駆動を制御する。また、分注処理の進行状況に応じて、複数のノズルユニット20の駆動も制御する。この複数のノズルユニット20の駆動制御について図3、図4A〜図4Dを用いて詳説する。
【0026】
図3は、複数のノズルヘッド40(ノズルユニット20)が行う工程の実行タイミングを示すイメージ図であり、図4A〜図4Dは、各タイミングでのノズルヘッド40の位置を示すイメージ図である。なお、この図3、図4では、分注処理の開始に先立って、全てのノズルヘッド40に予め未使用のノズル42が装着されている場合を想定している。
【0027】
はじめに、一つのノズルヘッド40、具体的には、ノズルヘッドA40aの動きについてのみ説明する。分注処理を行う場合、図3の上段に示すように、制御部22は、水平移動機構38aおよび垂直移動機構39aを駆動して、ノズルヘッドA40aに、吸引工程、吐出工程、準備工程を順に繰り返し実行させる。このとき、後に詳説する理由により、制御部22は、吸引工程、吐出工程、準備工程の合間に待機工程を実行させる。
【0028】
ここで、吸引工程とは、ノズルヘッドA40aに装着されたノズルA42a内に液体を吸引する工程である。この場合、制御部22は、元液体搬送ユニット12を駆動して、吸引対象である液体を収容した元液体容器100を、ノズルヘッドA40aの移動経路上に位置させる。また、水平移動機構38aを駆動して、ノズルヘッドA40aを、元液体ライン24の真上に移動させた後、垂直移動機構39aを駆動してノズルヘッドA40aを、元液体容器100内に進入させるべく下降させる。その後、吸引吐出機構36aを駆動して、ノズルヘッドA40aに装着されたノズルA42a内に液体を吸引する。吸引後は、再び、垂直移動機構39aを駆動してノズルヘッドA40aを、元液体容器100と干渉しない高さまで上昇させる。
【0029】
この吸引工程が終了すれば、続いて、吐出工程が実行される。吐出工程は、ノズルA42a内に吸引した液体を、子液体容器110に吐出する工程である。ここでは、説明の簡易化のために、一つの子液体容器110に吐出する場合のみを例示するが、実際には、1回の吐出工程で、複数の子液体容器110に吐出するようにしてもよい。
【0030】
吐出工程を行う場合、制御部22は、子液体搬送ユニット14を駆動して、吐出対象である子液体容器110を、ノズルヘッドA40aの移動経路上に位置させる。また、水平移動機構38aを駆動して、ノズルヘッドA40aを、子液体ライン28の真上に移動させた後、垂直移動機構39aを駆動してノズルヘッドA40aを、子液体容器110に近接させるべく下降させる。その後、吸引吐出機構36aを駆動して、ノズルヘッドA40aのノズルA42a内の液体を吐出させる。吐出後は、再び、垂直移動機構39aを駆動してノズルヘッドA40aを、子液体容器110と干渉しない高さまで上昇させる。
【0031】
吐出工程が終了すれば、続いて、準備工程が実行される。準備工程は、次の吸引工程のために必要な準備を行う工程で、リムーブ工程および装着工程を含む。リムーブ工程は、吸引吐出に用いられたノズルA42aを、ノズルヘッドA40aから取り外して、廃棄する工程である。このリムーブ工程を行う場合、制御部22は、水平移動機構38aを駆動して、ノズルヘッドA40aを対応するリムーバ32aの真上まで移動させる。その後、垂直移動機構39aを駆動して、ノズルヘッドA40aを下降させ、ノズルA42aをリムーバ32aに引っ掛けさせる。この引っ掛けにより、ノズルA42aがノズルヘッドA40aから取り外されれば、制御部22は、垂直移動機構39aを駆動して、ノズルヘッドA40aを再び上昇させる。
【0032】
装着工程は、ノズルヘッドA40aに未使用のノズルA42aを装着する工程である。この装着工程を行う場合、制御部22は、水平移動機構38aを駆動して、ノズルヘッドA40aを対応するチップラック34aの真上まで移動させる。また、必要に応じて、制御部22は、位置調整機構を駆動して、未使用ノズルをノズルヘッドA40aの移動経路上に位置させる。その後、垂直移動機構39aを駆動して、ノズルヘッドA40aを下降させ、ノズルヘッドA40aの取り付け部に未使用のノズルA42aを嵌合させる。ノズルA42aが嵌合によりノズルヘッドA40aに装着されれば、制御部22は、垂直移動機構39aを駆動して、ノズルヘッドA40aを再び上昇させる。
【0033】
ここで、本実施形態では、使用のたびに廃棄交換するディスポーザブル式ノズルを用いているため、準備工程としてリムーブ工程および装着工程が含まれる。しかし、ディスポーザブル式ノズルに替えて、使用のたびに洗浄して繰り返し使用するノンディスポーザブル式ノズル(金属製ノズルなど)を用いる場合には、この準備工程には、当該ノズルを洗浄する洗浄工程や乾燥させる乾燥工程などが含まれることになる。
【0034】
待機工程は、その名のとおり、ノズルヘッドA40aを待機させておく工程である。すなわち、後に詳説するように、各ノズルヘッド40は、他のノズルヘッド40での分注処理の進行状況に応じて、適宜、待機する必要がある。この待機工程において、ノズルヘッド40は、静止していてもよいし、次の工程の開始位置まで移動していてもよい。
【0035】
なお、図3の上段の図示例では、装着工程の後、次の吸引工程の前に待機工程を設けているが、最終的に次の吸引工程や吐出工程の開始タイミングが調整できるのであれば、他のタイミングで待機工程を設けてもよい。例えば、リムーブ工程の前や、装着工程の前に待機工程を設けてもよい。また、後に、図5を用いて説明するように、吸引工程の後、吐出工程の前に待機工程を設けてもよい。
【0036】
次に、複数のノズルヘッド40の動きの連携について説明する。本実施形態では、ノズルヘッド40間で実行する工程をシフトさせるとともに、2以上のノズルヘッド40による吸引工程の並行実行および2以上のノズルヘッド40による吐出工程の並行実行を阻害するべく、先行するノズルヘッド40による吸引工程が終了するまで後続のノズルヘッド40による吸引工程を待機させ、先行するノズルヘッド40による吐出工程が終了するまで後続のノズルヘッド40による吐出工程を待機させている。換言すれば、複数のノズルヘッド40のうち吸引工程を実行しているノズルヘッド40が常に一つだけとなり、複数のノズルヘッド40のうち吐出工程を実行しているノズルヘッド40が常に一つだけとなるように、各ノズルヘッド40での工程の実行タイミングを調整している。
【0037】
具体的に図3の上段、図4A〜図4Dを参照して複数のノズルヘッド40の動きを説明する。分注処理を行う場合、まずは、図4Aに図示するように、ノズルヘッドA40aが吸引工程を実行する。ノズルヘッドA40aが吸引工程を実行している間、他のノズルヘッドB40b〜E40eは、その場で待機している。
【0038】
ノズルヘッドA40aによる吸引工程が終了すれば、図4Bに図示するように、ノズルヘッドA40aは吐出工程を開始する。また、ノズルヘッドB40bは吸引工程を実行する。
【0039】
ノズルヘッドB40bによる吸引工程が終了すれば、続いて、図4Cに図示するように、ノズルヘッドC40cが吸引工程を開始する。また、この時点でノズルヘッドA40aによる吐出工程が終了し、ノズルヘッドA40aがリムーブ工程に移行していれば、ノズルヘッドB40bは吐出工程を開始する。
【0040】
ノズルヘッドC40cによる吸引工程が終了すれば、続いて、図4Dに図示するように、ノズルヘッドD40dが吸引工程を開始する。また、この時点で、ノズルヘッドB40bによる吐出工程が終了し、ノズルヘッドB40bがリムーブ工程に移行していれば、ノズルヘッドC40cは吐出工程を開始する。ノズルヘッドA40aは、リムーブ工程が終了すれば、装着工程を開始し、ノズルヘッドB40bは、吐出工程が終了すれば、リムーブ工程を開始する。なお、リムーブ工程や装着工程は、吸引工程や吐出工程と異なり、2以上のノズルヘッドでの重複実行が許容されている。したがって、ノズルヘッドB40bは、ノズルヘッドA40aによるリムーブ工程が終了するまえであっても、リムーブ工程に移行できる。
【0041】
ノズルヘッドD40dによる吸引工程が終了すれば、続いて、図4Eに図示するように、ノズルヘッドE40eが吸引工程を開始する。また、この時点で、ノズルヘッドC40cによる吐出工程が終了し、ノズルヘッドC40cがリムーブ工程に移行していれば、ノズルヘッドD40dは吐出工程を開始する。このとき、ノズルヘッドA40aは、リムーブ工程終了後は、ノズルヘッドE40eによる吸引工程終了まで、待機している。また、ノズルヘッドB40bは、リムーブ工程が終了すれば装着工程に、ノズルヘッドC40cは吐出工程が終わればリムーブ工程に、それぞれ移行する。
【0042】
そして、これ以降、各ノズルヘッド40は、指定の数の分注処理が終了するまで、複数のノズルヘッド40による吸引工程、吐出工程の並行実行を避けつつ、吸引・吐出、準備、待機工程を繰り返し実行する。
【0043】
以上の説明から明らかなとおり、本実施形態では、各ノズルヘッド40間で実行工程をシフトさせて、各工程の開始タイミングをずらしている。かかる構成とする理由について、従来技術と比較して説明する。
【0044】
図6は、従来から広く知られている多連ノズルの概略構成図である。特許文献1,2などに開示されているように、複数のノズルを備えた多ノズル式の分注装置は従来からも知られている。ただし、従来の多ノズル式の分注装置は、図6に図示するように、複数のノズルA42a〜E42eが一つのノズルヘッド40に組み込まれ、複数のノズルA42a〜E42eが連動して同じ動きをする多連ノズル式となっている。
【0045】
かかる多連ノズルでは、複数のノズルA42a〜E42eの配設ピッチが、元液体容器100や子液体容器110の配設ピッチと等しくなるように固定又は可変に設計されており、当該複数のノズルA42a〜E42eを同時に下降させることで、複数の元液体容器100や子液体容器110に進入または近接させることが出来るようになっている。
【0046】
そして、分注処理時には、図7の上段に図示するように、複数のノズルA42a〜E42eが、同一工程を同時に実行する。すなわち、複数のノズルA42a〜E42eで同時に吸引工程を実行した後、複数のノズルA42a〜E42eで同時に吐出工程を実行する。そして、その後、複数のノズルA42a〜E42eで同時に準備工程を実行する。かかる構成は、一度にノズル42の数分の液体を吸引・吐出できるため、各ノズル42間で工程の実行時間に差が無い場合には、処理の効率化には非常に有効である。
【0047】
しかし、その一方で、一つのノズル42で生じた遅れが、他のノズル42にも悪影響を与えるという問題もある。これについて図7の下段を参照して説明する。
【0048】
図7下段に図示するように、複数のノズルA42a〜E42eのうち、ノズルC42cによるリムーブ工程の実行時間が、何らかの事情で標準の実行時間より時間tだけ延びたとする。この場合、他のノズル42によるリムーブ工程が完了していたとしても、ノズルA42a,B42b,D42d,E42eは、当該リムーブ工程の完了後、ノズルC42cによるリムーブ工程が終了するまで待機する必要がある。同様に、ノズルA42aによる装着工程の実行時間が標準時間より時間tだけ延びた場合、標準時間内で装着工程が終了したノズルB42b〜E42eは、当該装着工程の完了後、ノズルA42aによる装着工程が終了するまで待機する必要がある。
【0049】
そして、最終的に、時間t分の遅延が二回生じている、この場合、二回目の吸引工程の開始タイミングが時間2t分だけ遅れることになる。
【0050】
このように、複数のノズル42が連動して同じ動きをする多連ノズルの場合、一つのノズル42での処理遅延が、他のノズル42にも悪影響を与える。その結果、分注処理の効率が必要以上に低下するという問題があった。
【0051】
一方、本実施形態では、既述したとおり、複数のノズルヘッド40が、互いに独立して駆動可能となっている。そのため、一部のノズルヘッド40における処理遅延が他のノズルヘッド40に与える悪影響を小さく抑えることができる。
【0052】
例えば、図7下段の例と同様に、ノズルヘッドC40cによるリムーブ工程の実行時間と、ノズルヘッドA40aによる装着工程の実行時間と、が標準の実行時間より、それぞれ時間tだけ延びた場合を考える。この場合、本実施形態における各ノズルヘッド40の動作タイミングは図3の下段に図示するようなタイミングとなる。
【0053】
すなわち、本実施形態では、複数のノズルヘッド40が互いに独立して駆動可能である。また、2以上のノズルヘッド40間で吸引工程の並行実行および吐出工程の並行実行が禁止されているだけで、その他の工程の並行実行については許容されている。そのため、ノズルヘッドA40aが装着工程を実行している間であっても、ノズルヘッドB40b〜E40eは、リムーブ工程や装着工程を実行することができる。その結果、ノズルヘッドA40aによる装着工程の実行時間が時間tだけ延びたとしても、ノズルヘッドB40b〜E40eは、通常通りのタイミングで、各工程を実行することができる。換言すれば、ノズルヘッドAによる装着工程の遅延は、他のノズルヘッドB40b〜E40eの工程実行に影響を与えない。
【0054】
また、ノズルヘッドA40aそのものは、当該ノズルヘッドA40aによる装着工程の遅延時間t分だけ、当該ノズルヘッドA40aにおける待機時間(待機工程の実行時間)を短縮すれば、遅延が発生しない場合と同じタイミングで、2回目の吸引工程を開始することができる。換言すれば、ノズルヘッドA40aで生じた装着工程の延長の影響を、当該ノズルヘッドA40aだけで解消することができる。
【0055】
同様に、ノズルヘッドC40cによるリムーブ工程の実行時間が延びたとしても、他のノズルヘッドA40a,B40b,D40d,E40eは、通常通りのタイミングで、各工程を実行することができる。そして、ノズルヘッドC40cそのものは、当該ノズルヘッドC40cによる装着工程の遅延時間t分だけ、当該ノズルヘッドC40cにおける待機時間を短縮すれば、遅延が発生しない場合と同じタイミングで、2回目の吸引工程を開始することができる。
【0056】
このように、複数のノズルヘッド40を独立して駆動可能とし、各ノズルヘッド40間で実行工程をシフトさせることにより、一つのノズルヘッド40で生じた準備工程の実行時間の延びの影響を小さく抑えることができる。その結果、分注処理の効率低下を効果的に防止することができる。
【0057】
ところで、準備工程だけでなく、吸引工程や吐出工程の実行時間も標準の実行時間より長くなることがある。例えば、図5に示すように、ノズルヘッドB40bによる吐出工程が、標準の実行時間より時間tだけ長くなった場合を考える。
【0058】
これまで繰り返し述べたように、本実施形態では、2以上のノズルヘッド40間での吸引工程の並行実行および吐出工程の並行実行が禁止されている。したがって、この場合、図5の上段に図示するように、ノズルヘッドC40cは、吸引工程が終了したとしても、ノズルヘッドB40bの吐出工程が終了するまで、吐出工程を開始できず、待機しなければならない。換言すれば、ノズルヘッドB40bによる吐出工程の終了タイミングが遅延すれば、ノズルヘッドCによる吐出工程の終了タイミングも遅延することになる。同様に、ノズルヘッドC40cによる吐出工程の終了タイミングの遅延分だけ、その後に行われるノズルヘッドD40d,E40eの1回目の吐出工程の終了タイミングも遅延することになる。そして、ノズルヘッドE40eの1回目の吐出工程の終了タイミングの遅延は、ノズルヘッドA40aなどの2回目以降の吐出工程の終了タイミングの遅延も招くことになる。つまり、一つの吐出工程の遅延の悪影響は、待機時間の短縮などでは吸収できないまま残ることになる。
【0059】
これは、複数のノズル42が連動して同じ動きをする多連ノズルの場合も同様である。すなわち、図8の上段に図示するように、ノズルB42bの吐出工程が延長された場合、その影響を他のノズルA42a,C42c〜E42e全てが受けてしまい、その後に行う全ての工程が遅れることになる。
【0060】
つまり、吐出工程および吸引工程のいずれかの実行時間が通常より延びた場合、本実施形態であっても、従来技術であっても、その実行時間延長の影響を他のノズル42も受けることになる。したがって、この場合、本実施形態と従来技術とで、大きな差はない。
【0061】
ただし、本実施形態の場合、吐出工程および吸引工程のいずれかの実行時間延長により新たに生じる待機工程W1(図5の上段参照)の時間を、他の遅延吸収に利用できるという利点がある。
【0062】
例えば、図5の下段に図示するように、ノズルB40bの1回目の吐出工程と、ノズルD42dの1回目の吸引工程との実行時間が通常より時間tだけ延びた場合を考える。
【0063】
ノズルヘッドB40bによる吐出工程の終了タイミングが時間tだけ延びると、図5の上段の場合と同様に、以降に行われる全ての吐出工程の終了タイミングも時間tだけ遅れることになる。この場合、本来であれば、ノズルヘッドD40dの吸引工程の後に、時間t分の待機工程w1が生じる(図5の上段参照)。
【0064】
しかし、この図5の下段に示すように、ノズルヘッドD40dの吸引工程が時間tだけ時間延長した場合、この本来生じていたはずの待機工程w1の実行時間に、この吸引工程が行われることになる。
【0065】
ノズルヘッドD40dによる吸引工程の終了後に実行されるノズルヘッドE40eによる吸引工程の開始タイミングは、このノズルヘッドD40dによる吸引工程の時間延長分tだけ遅れて開始することになる。ただし、この遅れは、本来であれば当該吸引工程の後に生じていたはずの待機工程w1を省略することで吸収することができる。そして、結果として、吐出工程と吸引工程の両方が遅延した場合(図5の下段の場合)における2回目の吐出工程の開始タイミングは、吐出工程しか遅延しない場合(図5の上段の場合)における2回目の吐出工程の開始タイミングと同じになる。
【0066】
一方、複数のノズル42が連動して同じ動きをする多連ノズルの場合、図8の下段に示すように、ノズルB42bの吐出工程の遅延時間tと、ノズルD42dの吸引工程の遅延時間tの両方が吸収されることなく、そのまま、以降の工程に影響を与えている。その結果、吐出工程と吸引工程の両方が遅延した場合(図8の下段の場合)における2回目の吐出工程の開始タイミングは、吐出工程しか遅延しない場合(図8の上段の場合)における2回目の吐出工程の開始タイミングに比べて時間tだけ遅れることになる。
【0067】
つまり、各ノズルヘッド40が互いに独立して駆動可能な本実施形態の場合、一つのノズルヘッドで生じた吐出工程または吸引工程の遅延を、他のノズルヘッドで生じた吸引工程または吐出工程の遅延により生じた待機時間で吸収できる場合がある。その結果、複数のノズル42が連動して同じ動きをする多連ノズル式に比べて、効率低下をより効果的に低減することができると言える。
【0068】
なお、ここで説明した構成は一例であり、複数のノズルヘッド40が互いに独立して駆動可能であり、吸引工程の並行実行および吐出工程の並行実行を避けるように各工程がシフトされ、必要に応じて待機工程が実行されるのであれば、他の構成であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
12 元液体搬送ユニット、14 子液体搬送ユニット、16 チップ廃棄部、18 チップ装着部、20 ノズルユニット、22 制御部、24 元液体ライン、26 ライン駆動機構、28 子液体ライン、30 ライン駆動機構、32 リムーバ、34 チップラック、36 吸引吐出機構、38 水平移動機構、39 垂直移動機構、40 ノズルヘッド、42 ノズル、100 元液体容器、102 元液体ラック、110 子液体容器、112 子液体ラック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
元液体ラインに沿って、複数の元液体容器を保持する元液体ラックを搬送する元液体搬送ユニットと、
元液体ラインと平行に設置された子液体ラインに沿って、複数の子液体容器を保持する子液体ラックを搬送する子液体搬送ユニットと、
それぞれが液体を吸引するノズルを有する複数のノズルユニットであって、互いに独立して水平方向および垂直方向に移動可能な複数のノズルユニットと、
前記複数のノズルユニットの駆動を制御する制御手段であって、元液体容器から液体を吸引する吸引工程、子液体容器へ液体を吐出する吐出工程、および、吸引工程の開始可能な状態にする準備工程を順に繰り返し実行させる制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、ノズルユニット間で実行する工程をシフトさせるとともに、2以上のノズルユニットによる吸引工程の並行実行および2以上のノズルユニットによる吐出工程の並行実行を阻害するべく、先行するノズルユニットによる吸引工程が終了するまで後続のノズルユニットによる吸引工程を待機させ、先行するノズルユニットによる吐出工程が終了するまで後続のノズルユニットによる吐出工程を待機させる、
ことを特徴とする分注装置。
【請求項2】
請求項1に記載の分注装置であって、
前記ノズルユニットの個数は、前記元液体ラックが保持する前記元液体容器の個数以上である、ことを特徴とする分注装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の分注装置であって、
前記ノズルは、ディスポーザブル式ノズルである場合に、
前記準備工程は、前記ノズルユニットから使用済みノズルを取り外す除去工程、および、前記ノズルユニットに新たなノズルを装着する装着工程を含む、
ことを特徴とする分注装置。
【請求項4】
請求項3に記載の分注装置であって、さらに、
各ノズルユニットごとに設けられ、対応するノズルユニットに装着されたノズルを当該ノズルユニットから離脱させる複数のリムーバと、
各ノズルユニットごとに設けられ、対応するノズルユニットに装着される未使用のノズルを保持する複数のノズルラックと、
を備えることを特徴とする分注装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−102735(P2011−102735A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257273(P2009−257273)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】