説明

分流制御装置

【課題】本発明は、応答速度に優れた分流制御装置を提供することを目的としている。
【解決手段】単一の流路を流通するガスを複数の2次流路に夫々設けられた流量検出器および制御弁と、前記制御弁を操作するための情報が記憶された記憶手段を備え、前記流量検出器が検出した実流量に対応する検出信号が入力されるとともに前記2次流路における指令された目標分流比および前記検出信号に基づき、分流比の制御が開始された後の実分流比の立ち上がり時における立上初期、立上初期に引き続く立上中期、立上中期に引き続く立上終期の各時期で、前記制御弁の開度を操作する弁開度信号値を算出し、当該弁開度信号値を開度信号として前記制御弁に出力する制御部とを有する分流制御装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一の流路を流通するガスを複数の2次流路に分流する分流制御装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
記憶素子や演算素子などの半導体デバイスは、研磨処理、洗浄処理、エッチング処理、成膜処理などの各種の処理を半導体ウエハに施して製造される。半導体ウエハにこれらの処理を行う処理チャンバには、その処理室に、正確に計量された不純物を含まない処理に応じたプロセスガスを供給する必要がある。なお、以下、本発明に係わる従来技術について、その課題を明らかにするため半導体デバイスの製造に適用される分流制御装置を例にして説明するが、本発明は半導体デバイスの製造にのみ適用が限定されるものではない。
【0003】
上記処理チャンバにプロセスガスを供給する従来のガス供給システムは、図19(a)に示すように、単一の流路P0を通じてガス供給部81に接続された1つのシャワーノズル88cから処理チャンバ88の内部に供給する態様が通例であった。しかしながら、近年の半導体ウエハの大径化にともない、半導体ウエハの表面上における各種処理の均一性の観点から、図19(b)に示すように、ガス供給部91から延びる単一の流路P0から複数の2次流路P1・P2を分岐させ、流路P1・P2を流通するプロセスガスの流量が所定の比率(分流比)となるよう分流する分流制御装置93を備え、一方の流路P1に接続された第1のシャワーノズル98cから半導体ウエハWの中央部に、他方の管路P2に接続された第2のシャワーノズル98dから半導体ウエハWの周辺部に、プロセスガスを供給するガス供給システムも開発されている。
【0004】
このような分流制御装置に関連する技術の一例が下記特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された分流制御装置は、単一のガス流を複数の二次流路に所定の目標分流比で分流させる分流制御装置であって、二次流路のそれぞれに設けられたマスフローコントローラと、マスフローコントローラに接続された共通のコントローラとを具え、複数の二次流路のいずれかが全開とされ、当該全開とされた二次流路の流量に対する残りの二次流路の流量の比が1以下の数値となる目標分流比が設定され、コントローラは、全開とされた二次流路の検出流量に前記目標分流比を掛けた信号を残りのマスフローコントローラに設定信号として与えることで、残りの二次流路の流量を制御することを特徴とする分流制御装置である。
【0005】
かかる特許文献1の分流制御装置によれば、二次流路のそれぞれに設けられたマスフローコントローラを、共通のコントローラによって制御することで、分流範囲を大きくすることが可能になると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−280788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の分流制御装置には、目標分流比が指令されて分流比の制御が開始された後、実際の分流比(実分流比)が目標分流比に到達して安定した分流比でガスを流せるまでの静定期間が長いという実分流比の立ち上がりの応答性に関する問題がある。すなわち、特許文献1の分流制御装置は、全開とする設定信号を一方の流路のマスフローコントローラに与え、当該一方の流路の検出流量に目標分流比を掛けた設定信号を他方のマスフローコントローラに与えるという他方のマスフローコントローラから見るとオープンな分流制御方式であり、双方の流路を実際に流れるガスの実分流比をフィードバックした分流比の制御が考慮されていない。そのため、分流比制御の立上終期において実分流比が振動または発振しやすく、目標分流比に対し実分流比が静定するまでプロセス上許容できる期間を超える場合や著しい場合には制御不能となる場合がある。また、特許文献1の分流制御装置は、マスフローコントローラなど機械式制御弁において開度を操作する信号が入力されたときから実際に弁が動作するまでの初期の応答性の悪さが考慮されておらず、その点においても応答速度を低下させる懸念がある。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を鑑みてなされたものであり、フィードバックされた実分流比に基づき実分流比の立上終期における振動や発振の発生を抑制するという第1の課題を解決し、さらに機械式制御弁の初期応答性を改善するという第2の課題を解決し、もって応答速度に優れた分流制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記第1の課題を解決する本発明に係わる分流制御装置は、単一の流路を流通するガスを複数の2次流路に所定の分流比で分流する分流制御装置であって、前記2次流路に夫々設けられた流量検出器および制御弁と、前記制御弁を操作するための情報が記憶された記憶手段を備え、前記流量検出器が検出した実流量に対応する検出信号が入力されるとともに前記2次流路における指令された目標分流比および前記検出信号に基づき、分流比の制御が開始された後の実分流比の立ち上がり時における立上初期、立上初期に引き続く立上中期、立上中期に引き続く立上終期の各時期で、前記制御弁の開度を操作する弁開度信号値を算出し、当該弁開度信号値を開度信号として前記制御弁に出力する制御部とを有し、前記制御部は、前記流量検出器から入力された検出信号を読み込み、当該2次流路における実分流比を算出し、前記記憶手段に記憶する実分流比演算部と、前記指令された目標分流比を読み込み、当該目標分流比と前記実分流比演算部で算出された実分流比との偏差を算出し、前記記憶手段に記憶する比較部と、前記比較部で算出された偏差を読み込み、所定の演算式で前記弁開度信号値を算出し、前記記憶手段に記憶する開度演算部とを有し、 前記記憶手段には、前記目標分流比を基準とし前記実分流比の立上終期に設定された判定領域に関する設定情報が記憶され、前記記憶手段から判定領域の設定情報を読み込み、前記実分流比算出部で算出された実分流比が前記判定領域の中に含まれるか否かを判断し、前記実分流比が前記判定領域の中に含まれない場合には、前記実分流比の立上終期において前記実分流比が前記目標分流比と一致するように前記弁開度信号値を補正する第1の調整部とを有する分流制御装置である。
【0010】
かかる分流制御装置は以下の作用を奏する。すなわち、単一の流路から複数の2次流路に分流された各々のガスは、各々の2次流路に設けられた流量検出器で実流量が検出される。そして、制御部は、流量検出器で検出した2次管路を流れるガスの実流量に対応する検出信号および当該2次流路における指令された目標分流比に基づき、各々の2次流路に設けられた制御弁の弁開度を操作する弁開度信号値を算出し、弁開度信号値を開度信号として各制御弁へ出力する。制御部から出力された開度信号により各制御弁の弁開度が操作され、2次流路を流れるガスの流量が調整され、その結果2次流路を流れるガスの分流比が制御される。この弁開度信号値は、実分流比演算部で算出された実分流比と指令された目標分流比とを比較部で比較し両者の偏差を求め、この偏差に基づき開度演算部で算出される。
【0011】
ここで、第1の調整部は、前記目標分流比を基準とし実分流比の立上終期に設定された判定領域に関する設定情報を記憶手段から読み込み、その判定領域の中に実分流比が含まれるか否かを判断し、実分流比の立上終期において実分流比が判定領域の中に含まれない場合には、実分流比が目標分流比に一致するよう弁開度信号値を調整する。このように、実分流比が静定すべき領域である立上終期に設定された判定領域から実分流比が逸脱する場合には、実分流比が目標分流比に一致するよう弁開度信号値を調整するので、実分流比の立上終期における振動や発振の発生が抑制され、所定の静定期間で実分流比を立ち上げることができ、応答性に優れた分流制御装置を構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係わる分流制御装置によれば、上記のように構成されているので、フィードバックされた実分流比に基づき目標分流比付近における実分流比の振動や発振の発生を抑制するという第1の課題を解決し、応答速度に優れた分流制御装置を提供することができる。なお、分流制御装置の好ましい態様及びその効果は以下で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係わる一実施態様の分流制御装置が組み込まれた半導体製造システムの概略構成を示す図である。
【図2】図1の分流制御装置の概略構成図である。
【図3】図2の分流制御装置の制御部のハードウエアの構成図およびそのRAMの記憶領域の構成図である。
【図4】図3のROMに記憶されたプログラムの構成を説明する図である。
【図5】本発明の原理を説明する図である。
【図6】図4の主制御部により実行される処理の流れを示すフロー図である。
【図7】図4の初期開度演算部により実行される処理の流れを示すフロー図である。
【図8】図7の初期開度情報値を求める近似式を示す図である。
【図9】図4の初期開度演算部の動作を説明する図である。
【図10】図4の開度演算部により実行される処理の流れを示すフロー図である。
【図11】図10の補正値を求めるデータテーブルを示す図である。
【図12】図4の第2の調整部の動作を説明する図である。
【図13】図4の第2の調整部により実行される処理の流れを示すフロー図である。
【図14】図13の調整値を求めるデータテーブルを示す図である。
【図15】図4の第1の調整部の動作を説明する図である。
【図16】図4の第1の調整部の動作を説明する別の図である。
【図17】図4の第1の調整部により実行される処理の流れを示すフロー図である。
【図18】図17の調整値を求めるデータテーブルを示す図である。
【図19】本発明に係わる従来の技術水準を説明する図である。
【図20】PID係数に近似式の傾きを乗じた値と実分流比の関係を示す図である。
【図21】他の実施の形態における主制御部により実行される処理の流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係わる分流制御装置について図1〜図18を参照しつつ説明する。なお、半導体デバイスの製造システムに組み込まれた分流制御装置を例にして説明するが、本発明は半導体デバイスの製造システムにのみ関連するものではなく、例えば薬品、化学製品、バイオ製品、機械、素形材その他種々の製品の製造システムに適用することが可能である。
【0015】
[分流制御装置の構成] まず、本発明に係わる一実施態様の分流制御装置が組み込まれる半導体ウエハの処理システム10について、その概略構成を示す図1を参照して説明する。図1において符号11は、ガス供給系の上流に置かれたプロセスガスの供給源であるガス供給手段である。ガス供給手段11は、4本の流路11i〜11Lと、流路11i〜11Lの左端に接続されアルゴン、窒素、二酸化炭素、シラン、HF(フッ化水素)などの各種のプロセスガスを各々貯留するガスボンベ11a〜11dと、流路11i〜11Lに介設され流路11i〜11Lを流れるプロセスガスの流量を制御するマスフローコントローラ11e〜11hとを備えており、4本の流路11i〜11Lの右端は全て単一の流路P0に接続されている。ここで、ガス供給手段11は、処理システム10の全体の動作を統括する上位のシステム制御手段20に電気通信回線20aを介して接続されており、システム制御手段20は、マスフローコントローラ11e〜11hの流量モニターから出力される流量検出信号を監視しつつその流量制御弁を操作して各流路11i〜11Lを流れるプロセスガスの流量および圧力を調整する。これにより、単一のプロセスガスまたは複数のプロセスガスが所定の割合で混合された混合ガスが所定の圧力で単一の流路P0に供給されることとなる。なお、符号12は、単一流路P0に介設された開閉弁であり、その弁操作も電気通信回線20cを介して接続されたシステム制御手段20で制御されている。
【0016】
図において符号18はプロセスガスが供給される処理室18eを有する処理チャンバである。処理チャンバ18は、密閉された処理室18eを画成する筐体18aと、処理室18eの底面に配置され半導体ウエハが載置されるテーブル18bと、テーブル18bに載置された半導体ウエハWの中央部にプロセスガスを供給するため処理室18eにおいて上方中央部に配置されたシャワーノズル18cと、その半導体ウエハWの外周部にプロセスガスを供給するため処理室18eにおいて上方外周部に円環状に配置されたシャワーノズル18dとを有している。そして、上記ガス供給手段11から伸びた単一流路P0の下流で分岐した2本の2次流路のうち第1の流路P1がシャワーノズル18cに、第2の流路P2がシャワーノズル18dに接続されている。なお、符号19は処理チャンバ18の処理室18eから下流側に延びる流路に接続された開閉弁、符号21は開閉弁19の下流側に配置された処理室18eを減圧するための真空ポンプであり、いずれの操作も電気通信回線20bを介して接続されたシステム制御手段20で制御されている。
【0017】
図において符号13は、ガス供給手段11と処理チャンバ18の間に配置された分流制御装置であり、単一流路P0から分岐された第1の流路P1・第2の流路P2が接続されている。分流制御装置13は、システム制御手段20から目標分流比αsptを表す設定信号S0が入力されると、その目標分流比αsptに一致するように流路P1・P2を流れるプロセスガスの分流比を制御し、プロセスガスを所定の分流比で処理チャンバ18に供給する。なお、分流比αとは、単一流路P0を流量Q0で流れるプロセスガスを、第1の流路P1に流量Q1、第2の流路P2に流量Q2で分流した場合に、式α=Q1/Q2で表される無次元数である。
【0018】
分流制御装置13は、流路P1・P2において上流側に介設された流量検出器14・15と、流量検出器14・15の下流側に介設された制御弁16・17と、制御弁16・17の開度を操作して分流比を制御する制御部1を有している。制御部1は、下記で詳細に説明するとおり、流路P1・P2を流れるプロセスガスの実流量Q1・Q2に対応する流量検出器14・15が検出した検出信号S1・S2と、システム制御手段20から入力された目標分流比を表す設定信号S0に基づき制御弁16・17の開度を操作する開度信号S3・S4を求め、その開度信号S3・S4を制御弁16・17に出力して各々の弁開度を操作することにより、流路P1・P2を流れるプロセスガスの分流比を制御する。
【0019】
ここで、分流制御装置13について、その全体構成を示す図2を参照して説明する。なお、以下の説明では、第1の流路P1に介設された流量検出器14および制御弁16ならびに制御部1のハードウエア的な構成について説明するが、第2の流路P2に介設された流量検出器15、制御弁17の構成についても同様である。
【0020】
分流制御装置13はその内部に流路P1・P2を構成する管路が形成されたガス管Pを有し、単一流路P0から分岐した流路P1・P2の下流端は分流制御装置13の流路P1・P2の上流端に接続され、処理チャンバ18に接続される流路P1・P2の上流端は分流制御装置13の流路P1・P2の下流端に接続されている。
【0021】
上記したように流路P1の上流側に設けられた流量検出器14は、複数のバイパス管が束ねられたバイパス管群14aと、バイパス管群14aの上流側に形成された開口から流路P1を流れるプロセスガスの一部を導入し、ガス管Pの外側に迂回させて流し、バイパス管群14aの下流側に形成された開口から排出するセンサ管14bを有している。このセンサ管14bは、バイパス管群14aを流れるガス流量に対して常に一定の比率の流量が流れるよう構成されている。
【0022】
流量検出器14において符号14cは、直列に接続された一対の電気抵抗線であり、いずれもセンサ管14bの外面に巻回されている。この電気抵抗線14cは不図示の基準電気抵抗線と共にブリッジ回路を構成しており、当該ブリッジ回路に一定の電流が流されると、電気抵抗線14cは発熱する。そして、センサ管14bにプロセスガスが流れると、プロセスガスによって電気抵抗線14cの熱が奪われ、双方の電気抵抗線14cに温度差が生じ、双方の電気抵抗線14cの間に電位差が生じる。符号14dは、電気抵抗線14cの間に発生した電位差を検出し、電気通信回路13eを介して検出信号S1として制御部1に出力するセンサ回路である。
【0023】
流量検出器14・15から検出信号S1・S2が入力された制御部1は、検出信号S1・S2を制御部1のRAM(記憶手段)1bに書き込み(図3参照)、下記で詳述するように検出信号S1・S2に基づき所定の演算処理を行い、制御弁16・17の弁開度を操作する開度信号S3・S4を求め、開度信号S3・S4を制御弁16・17に出力する。
【0024】
流路P1において流量検出器14の下流に設けられた制御弁16は、例えばNi−Co合金等で構成される屈曲可能な薄板状のダイヤフラム16bと、ダイヤフラム16bに対向する位置に配置されプロセスガスが流通する弁口16aを有している。ダイヤフラム16bは弁口16aに向けて屈曲自在に構成されており、弁口16aの弁開度を操作する。
【0025】
制御弁16において符号16cは、上記ダイヤフラム16bを屈曲変形させる略柱形状のアクチュエータである。アクチュエータ16cは、その下端部が直接的または間接的にダイヤフラム16bの中央に接するようにダイヤフラム16bの上方に配置されている。本態様のアクチュエータ16cは、複数の圧電素子が上下に積層されてなる積層型圧電アクチュエータであり、アクチュエータ16cに電圧が印加されると上下方向に圧電素子が変位し、アクチュエータ16cは全体として伸縮する。そのアクチュエータ16cの伸縮により生じる推力がダイヤフラム16bに作用し、ダイヤフラム16bを屈曲変形させる。なお、上記ダイヤフラム16bおよびアクチュエータ16cは筐体16eに収容されている。
【0026】
制御弁16において符号16dは、制御部1から出力された開度信号S3をアクチュエータ16cが実際に駆動する電圧に変換し、当該電圧をアクチュエータ16cに印加する弁駆動回路である。すなわち、弁駆動回路16dは、開度信号S3をアクチュエータ16cに変位を発生させるための実際の電圧値に変換し、この電圧値を表す弁駆動電圧信号としてアクチュエータ16cに出力する。この弁駆動電圧信号の示す実際の電圧値に応じてアクチュエータ16cは屈曲変形し、弁口16aの弁開度が変化し、流路P1を流れるプロセスガスの流量が制御される。
【0027】
[制御部の構成] 分流制御装置13の制御部1の構成について、図3および4を参照しつつ詳細に説明する。例えばCPUを備えたマイクロコンピュータ、通信用インターフェース部品その他の電子部品で構成された制御基板である制御部1は、その概略構成を図3(a)に示すように、分流制御装置13の動作を制御するプログラムを実行するCPU1aが、ROM2、RAM1b、A/D変換回路1c・1d、D/A変換回路1e・1f、通信用インターフェース回路1g・1hにバス1iで接続されている。なお、ROM2、RAM1b、A/D変換回路1c・1d、D/A変換回路1e・1fとバス1iとの間は、不図示の入出力用インターフェース回路で接続されている。
【0028】
EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、あるいはフラッシュメモリ等で構成されたROM2には、分流制御装置13の動作を制御するためCPU1aに実行させる処理プログラムが記憶されている。CPU1aは、ROM2に記憶されているプログラムを実行し、分流制御装置13を動作せしめる。
【0029】
RAM1bは、CPU1aがプログラムを実行する際に演算処理するための計算領域、及びプログラムを実行する際に必要な各種の情報を予め記憶させておくための記憶領域を有する記憶手段であるメモリである。なお、RAM1bの記憶領域の構成については、下記で詳細に説明する。
【0030】
A/D変換回路1c・1dは、それぞれ電気通信回線を介して流量検出器14・15に接続され、流量検出器14・15から入力されたアナログ信号である検出信号S1・S2をデジタル信号である検出流量情報に変換する。その変換された検出流量情報はバス1iを通じてRAM1bに記憶される。また、D/A変換回路1e・1fは、それぞれ電子通信回線を介して制御弁16・17(具体的には図2に示した弁駆動回路16d・17d)に接続され、制御部1で算出されたデジタル信号である弁開度信号値をアナログ信号である開度信号S3・S4に変換する。開度信号S3・S4は制御弁16・17に出力される。
【0031】
通信用インターフェース回路1g・1hは、それぞれ電気通信回線を介してシステム制御手段20および表示装置に接続され、システム制御手段20からの設定信号S0を制御部1に入力し、流路P1・P2における実分流比を示す出力信号Soutを表示装置に出力する際に使用される。
【0032】
[分流比制御の原理]
ここで、上記RAM1bの記憶領域に記憶された分流制御装置13を制御する際に利用される情報およびROM2に記憶された分流制御装置13の動作を制御するプログラムの構成ならびに当該プログラムによる分流制御装置13の動作フローを説明する前に、各々の構成要素の相互関係の理解のため、まず分流制御装置13の動作原理について図5を参照して説明する。
【0033】
図5に示すとおり、目標分流比αsptを示す設定信号S0がシステム制御手段20から分流制御装置13に入力されると、分流制御装置13は、開始時刻t0を起点として現在の分流比から目標分流比αsptに向け分流比の制御を開始する。そして、プロセスガスが分流して流れる複数の2次流路における実際の実分流比αtは、制御開始時刻t0の直後の立上初期の期間T1および期間T1に引き続く立上中期の期間T2の間において目標分流比αsptに向けて時間の経過とともに一定の傾斜で立ち上がり、期間T2に引き続く立上終期の期間T3において目標分流比αsptに到達すると一定の振幅で変化しながら時間の経過とともに目標分流比αsptに収束し、開始時刻t0から一定の期間T(静定期間)が経過した所定の時刻t3で静定し、時刻t3以降、プロセスガスは所定の目標分流比αsptで2次流路P1・P2を安定して流通する。なお、以下、上記期間T1を立上初期、期間T2を立上中期、期間T3を立上終期と言う場合がある。
【0034】
ここで、上記したように機械的制御弁を用いたプロセスガスの流量制御においては、指令(開度信号)に対する系全体の応答性が低いため、その指令に応じた出力(弁開運動)が即座に表れ難く、立上初期T1及び中期T2における実分流比の立上傾斜が大きくなるよう分流比を制御すると、過大なオーバーシュートが発生し立上終期T3における実分流比αtが振動して静定期間Tが遅延し、これが著しい場合には発振して制御不能となる(図16(a)符号αt1、αt2参照)。したがって、従来技術においては、立上初期T1及び中期T2における実分流比αtの立上傾斜を抑制するよう分流比を制御する必要がある。しかしながら、実分流比の立上傾斜を抑制するとプロセスガスの供給が不安定な静定期間Tが全体として延びるため、半導体ウエアの品質が劣化する恐れがある。
【0035】
そこで、本発明に係わる分流制御装置13では、1.(1)立上初期T1においては、所定の初期目標分流比αsptfに対応した弁開度まで制御弁を短時間で開閉し、立上初期T1の完了時刻t1において実分流比αtを目標分流比αsptに近接させるとともに、(2)当該完了時刻t1後の立上中期T2の間においては実分流比αtの立上傾斜を立上初期T1よりも抑制し、立上終期T3における実分流比αtの過度な振動や発振を防止し、2.立上中期T2の途中に設定した所定時刻taで予定分流比αsptmと実分流比αtとを比較し、実分流比αtの立上傾斜を抑制した立上中期T2において予定分流比に対し実分流比αtが剥離している場合には、実分流比αtが予定分流比に一致するように制御パラメータを修正し、立上中期T2の完了時刻t2で予定分流比に対し遅れることなく実分流比αtを到達せしめ、3.立上中期T2の完了時刻t2後の立上終期T3においては、上記1−(2)の制御を維持しつつ、目標分流比αsptを基準として立上終期T3に設けた判定領域Hと実分流比αtとを比較し、実分流比αtが判定領域Hから逸脱した場合には、実分流比αtが目標分流比αsptに一致するように制御パラメータを修正し、立上終期T3における実分流比αtの過度な振動や発振を防止し、立上終期T3の完了時刻t3(静定時刻)において確実に実分流比αtを静定する、ことを原理として構成されている。なお、これら1〜3の原理は、いずれも実分流比αtの静定の遅延を抑制し、分流比の立ち上がりの応答性を改善するために有効であり、各原理は単独にまたはいずれかと組み合わせて構成することができる。また、図5では、現在の分流比から高い目標分流比αsptに向い実分流比αtを制御する場合を示しているが、低い目標分流比に向い制御する場合でも原理的には同様である。
【0036】
[RAMの記憶領域の構成]
上記原理1〜3に対応するプログラムをCPU1aに実行させるにあたり、プログラムの実行のために必要な各種情報を記憶しているRAM1bの主な記憶領域について、図3(b)を参照して説明する。なお、以下の説明では、図1に示す第2の流路P2に設けられた制御弁17の弁開度を常に全開とし、第1の流路P1に設けられた制御弁16の弁開度のみを操作して分流比を制御する場合、すなわち制御弁17に出力される開度信号S4が常に全開で、制御弁16に出力される開度信号S3が各ステップで変化する場合を例とし、プログラムの構成およびその動作について説明する。しかしながら、本発明に係わる分流制御装置はこの態様に限定されず、複数の2次流路に設けられた制御弁の弁開度を同時に操作して分流比を制御する場合にも、適用可能である。
【0037】
RAM1bにおいて符号1jは、主に制御部1に入出力される情報の記憶領域である。その目標分流比情報領域にはシステム制御手段20から入力された設定信号S0である目標分流比αsptが、検出流量情報領域には検出信号S1・S2がデジタル変換された検出流量値Q1・Q2が、弁開度情報領域にはプログラムを実行して算出された弁開度信号値R3a〜R3dおよびR4が記憶されている。
【0038】
符号1kは、原理1−(1)に対応するプログラムが利用する初期開度演算情報の記憶領域であり、立上初期T1における弁開度信号値R3aを定める初期開度情報Aが記憶されている。また、符号1Lは、原理1−(2)に対応するプログラムが利用する開度演算情報の記憶領域であり、弁開度信号値R3bを演算するのに使用されるPID係数(Kp:比例係数、Ki:積分係数、Kd:微分係数)および当該PID係数を補正するために使用される立上初期T1の完了時刻t1、初期目標分流比αsptfおよび補正情報Bが記憶されている。
【0039】
符号1nは、原理2に対応するプログラムが利用する第2の調整情報の記憶領域であり、立上中期T2において指定される時刻ta、その時刻taにおける予定分流比αsptmおよび弁開度信号値R3bを補正し弁開度信号値R3dを求めるために使用される第2の調整情報Cが記憶されている。
【0040】
符号1mは、原理3に対応するプログラムが利用する第1の調整情報の記憶領域であり、判定領域Hの設定情報である上限値Hmax・下限値Hminおよび時間軸に沿う方向の判定領域の幅である期間T3、弁開度信号値R3bを補正し弁開度信号値R3cを求めるための第1の調整情報Dが記憶されている。
【0041】
符号1oは、プログラムが実行された結果が記憶される領域であり、実分流比情報の記憶領域には実分流比αtが、偏差情報の記憶領域には偏差εが記憶されている。実分流比情報領域に記憶された実分流比αtは表示装置に表示するための出力信号Soutとしても利用される。なお、上記以外の例えば検出流量情報Q1・Q2の経時的な変更履歴その他の情報も必要に応じ適宜RAM1bに記憶領域を設け、記憶させることができる。
【0042】
[プログラムの構成]
上記RAM1bに記憶された情報を利用し、分流制御装置13の動作を制御するための処理をCPU1aに実行させるプログラムの主要な構成について、図4を参照して説明する。なお、図4に示すプログラムの各部は主要部のみを示しているが、例えばシステム制御手段20や表示装置と制御部1との間の情報通信も図示しない通信制御部で制御されている。また、分流制御装置13の制御は、ROM2に記憶されたソフトウエアであるプログラムで実行されるが、プログラムの各部の一部または全部を例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用ICに組み込み、当該専用ICを制御基板に搭載することもできる。
【0043】
図4において符号2aはメインプログラムである主制御部であり、システム制御手段20からの設定信号S0の入力をトリガーとして起動し、下記説明するサブプログラムである各部の動作を統括する。すなわち、CPU1aは主制御部2aを実行することにより、プログラムの各部をROM2から読み出し、各部を実行して分流制御装置13の動作を制御する。
【0044】
符号2bは、実分流比演算部であり、RAM1bの検出流量情報領域から検出流量値Q1・Q2を読み込み、演算式αt=Q1/Q2で演算して実分流比αtを算出し、RAM1bの実分流比情報領域に記憶する処理をCPU1aに実行させる。また、符号2cは比較部であり、RAM1bの実分流比情報領域から実分流比αt、目標分流比情報領域から目標分流比αsptを読み込み、演算式ε=αspt−αtで演算して偏差εを算出し、RAM1bの偏差情報領域に記憶する処理をCPU1aに実行させる。
【0045】
符号2dは初期開度演算部であり、上記原理1−(1)に対応するプログラムである。初期開度演算部2dは、RAM1bの目標分流比情報領域から目標分流比αsptおよび初期開度演算情報領域から初期開度情報Aを読み込み、目標分流比αsptおよび初期開度情報Aに基づいて弁開度信号値R3aを求め、RAM1bの弁開度情報領域に記憶する処理をCPU1aに実行させる。
【0046】
符号2eは開度演算部であり、上記原理1−(2)に対応するプログラムである。開度演算部2eは、RAM1bの開度演算情報領域からPID係数並びに立上初期T1の完了時刻t1、初期目標分流比αsptfおよび補正情報Bを読み込み、所定の論理により弁開度信号値R3bを求め、RAM1bの弁開度情報領域に記憶する処理をCPU1aに実行させる。
【0047】
符号2fは第1の調整部であり、上記原理3に対応するプログラムである。第1の調整部2fは、RAM1bの第1の調整情報領域から判定領域Hの設定情報である上限値Hmax・下限値Hminおよび期間T3並びに第1の調整情報Dを読み込み、上記開度演算部2eで算出された弁開度信号値R3bを所定の論理で補正し弁開度信号値R3cとし、RAM1bの弁開度情報領域に記憶する処理をCPU1aに実行させる。
【0048】
符号2gは第2の調整部であり、上記原理2に対応するプログラムである。第2の調整部2gは、RAM1bの第2の調整情報領域から予定分流比αsptm、設定時刻taおよび第2の調整情報Cを読み込み、上記開度演算部2dで算出された弁開度信号値R3bを所定の論理で補正し弁開度信号値R3dとし、RAM1bの弁開度情報領域に記憶する処理をCPU1aに実行させる。符号2hは信号出力部であり、RAM1bの弁開度情報領域から弁開度信号値R3a〜R3dおよびR4を読み込み、制御弁16および17を操作する実際の電圧値に対応した開度信号S3a〜S3dおよびS4に変換し、制御弁16および17へ出力する処理をCPU1aに実行させる。
【0049】
[プログラムの動作]
上記構成のプログラムの動作について、その動作フローを示す図6〜図18を参照して説明する。
【0050】
[主制御部の動作]
図6は、主制御部2aが実行する処理の流れを示すフロー図である。主制御部2aは、ステップS1においてシステム制御手段20から設定信号S0が入力されると、システム制御手段20から停止指令が入力されるまで、例えば10msの一定の周期で作動する監視タイマーのタイマー制御(ステップS2)により無限ループで実行する基本フローを有している。この基本フローは、実分流比演算ステップS3から偏差演算ステップS4および開度演算ステップS7を経て、信号出力ステップS16に至る流れであり、この基本フローにより制御弁16を制御するための基本情報である弁開度信号値R3bを求めるよう構成されている。
【0051】
そして、主制御部2aは、上記基本フローに加え、分流比の制御を開始した直後の実分流比αtの立ち上がり期間Tにおいては、RAM1bに記憶された情報に基づき、ステップS5、ステップS10、ステップS14で立上初期T1〜終期T3の各期間に現在時刻tが含まれているか否かを判断する。この判断の後に、主制御部2aは、初期開度演算部2d、第1の調整部2f、第2の調整部2gをCPU1aに実行させ、初期開度演算ステップS6、第1の調整ステップS11、第2の調整ステップS15で立上初期T1〜終期T3の各期間に応じた弁開度信号値R3a・R3c・R3dを求める。以下、図6の各ステップS1〜S16について詳細に説明する。
【0052】
実分流比演算部2bは、実分流比演算ステップS3において、RAM1bの検出流量情報領域を参照し検出流量値Q1・Q2を読み込み、演算式α=Q1/Q2で演算し、実分流比αtを算出し、RAM1bの実分流比情報領域に記憶する。
【0053】
比較部2cは、偏差演算ステップS4において、RAM1bの目標分流比情報領域から目標分流比αsptを、実分流比情報領域から実分流比αtを読み込み、目標分流比αsptと実分流比αtを演算式ε=αspt−αtで演算し、偏差εを算出し、偏差情報領域に記憶する。この偏差εは、開度演算部2eが実行させる開度演算ステップS7で利用される。
【0054】
[初期開度演算部の動作]
主制御部2aは、ステップS1においてシステム制御手段20から設定信号S0が制御部1に入力され、ステップS2〜S4を経た後、ステップS5において開度信号S3・S4を出力するための最初の処理であると判断した場合に、ROM2から初期開度演算部2dを読み出しCPU1aに実行させる。初期開度演算部2dは、初期開度演算ステップS6において、RAM1bの目標分流比情報領域および初期開度演算情報領域に記憶された情報を利用し、立上初期T1における制御弁16を操作する開度信号S3である弁開度信号値R3aを算出する処理を行う。以下、初期開度演算ステップS6について、その詳細な動作フローである図7を参照して説明する。
【0055】
図7に示すように、初期開度演算部2dは、ステップS6aにおいてRAM1bの目標分流比情報領域から目標分流比αsptを読み込み、ステップS6bにおいて初期開度演算情報領域から初期開度情報Aを読み込み、目標分流比αsptに対応する初期開度情報値aを選択する。
【0056】
初期開度情報Aの概念を図8に示す。目標分流比αsptと初期開度情報aとの関係を定める初期開度情報Aは、横軸に目標分流比αspt、縦軸に制御弁16の初期開度情報値aを設定した線図を考えた場合に、設定される目標分流比αsptの範囲(図8の場合は目標分流比が0〜20)を複数に分割してなる区間α1〜α4ごとに設定された、図において符号L1〜L4で示す直線で表される一次式である。初期開度情報値aは、この一次式L1〜L4に目標分流比αsptを代入して算出される。具体的に説明すると、目標分流比αsptが「6」の場合には、目標分流比αsptの範囲が4〜10である区間α3に設定された一次式L3に「6」が代入され、初期開度情報値aが求められる。
【0057】
ここで、目標分流比αsptと初期開度情報値aの関係を示す一次式L1〜L4である初期開度情報Aは、分流制御装置13を組み立てた後、この分流制御装置13を半導体製造システム10に組み込んで、または半導体製造システム10と同等な環境および条件の下で、2次流路である流路P1およびP2に例えば窒素ガスなどの確認用ガスを流しつつ制御弁16を操作して求めている。なお、実際に流路P1・P2を流れる実際のプロセスガスは上記確認用ガスとは異なる場合があるので、実際のプロセスガスの初期開度情報値は確認用ガスで求めた初期開度情報値aを補正値(コンバージョンファクタ)で補正して算出される。この補正値はROM2に記憶しておき、プロセスガスの種類により読み出して利用すればよい。
【0058】
初期開度情報値aの設定方法について説明する。図1に示すように組み立てられた分流制御装置13において、流路P1およびP2に確認用ガスを流し、制御弁17の弁開度を全開とし、制御弁16の弁開度を全閉の状態から開きつつ流路P1・P2それぞれの流量Q1・Q2を流量検出器14・15で測定すると、図8において符号Gで示す曲線で表される制御弁16の弁開度と実分流比の実関係式を得ることができる。この実関係式Gを例えばデータテーブル化し、初期開度情報Aとして利用してもよい。
【0059】
しかしながら、分流制御装置13は個体ごとに特性が微妙に異なること、またプロセスガス供給系には劣化などにより経時的な変化が生じることを考慮すると、上記のような実関係式Gそのものを初期開度情報Aとして利用することは工業生産上好ましくない。また、立上初期T1で発生する誤差は、その後の立上中期T2において修正することができる。そこで、本発明においては、分流制御装置13の調整の容易な一次式を実関係式Gの近似式とし、実関係式Gに対する一次式の誤差を少なくするため、実関係式Gにおける実分流比の範囲を複数の区間α1〜α4に分割し、その分割区間α1〜α4ごとに区切られた実関係式G1〜G4の両端を結んだ一次式L1〜L4を初期開度情報Aとした。この区間の分割方法は特に限定されないが、実関係式Gが比較的直線的に変化する分流比が高い領域は分割範囲を広く(図8の場合は目標分流比4〜20)、実関係式Gが曲線的に変化する分流比が小さい領域(図8の場合は目標分流比0〜4)は分割区間を細かく設定することが、誤差を少なくするとともに一次式の数を減らしてプログラムの演算速度を高めるために望ましい。また、実関係式Gに近似させる式は一次式に限らず、また一次式の設定方法も上記に限定されないが、分流制御装置13の調整を容易にするため概ね2〜3次程度の低次の項を含む近似式で設定することが好ましい。
【0060】
制御弁16・17が全く同じ特性を有している場合は、どちらの制御弁を制御するかによらず図8に示される目標分流比と初期開度情報値の関係は同じになる。したがって、一方の制御弁における、目標分流比と初期開度情報値の関係から導かれた一つの近似式を使用して初期開度情報値aを求めることが可能である。しかし、制御弁16・17が異なる特性を有している場合には、どちらの制御弁を制御するかによって、図8に示される関係が異なることになるので、一方の制御弁に対応する近似式のみによって初期開度情報値を求めるのでは問題がある場合がある。よって、このような場合には、制御される制御弁ごとにそれぞれ対応する近似式が設定されることが好ましい。特に、大流量を制御する制御弁(例えばフルスケール流量が2000sccmの制御弁)を制御弁16・17として使用する場合、大流量用制御弁は小流量制御用のものに比して、小流量域における特性差が装置ごとに生じやすいので、この場合には制御弁ごとに異なる近似式を設定することが好ましい。近似式の設定方法は、前述の方法により、制御弁ごとに取得した実関係式から近似式を設定しても良いし、制御弁16・17が制御可能流量範囲の等しいものであれば、一方の制御弁で設定した近似式を弁開度についてオフセットさせて用いても良い。
【0061】
ついで、初期開度演算部2dは、図7に示すステップS6cにおいて選択された初期開度情報値aを弁開度信号値R3aに変換し、ステップS6dにおいて弁開度信号値R3aをRAM1bの弁開度情報領域に記憶し、図6に示すメインフローに戻る。信号出力部2hは、信号出力ステップS16において、RAM1bの弁開度情報領域から弁開度信号R3aを読み込み、制御弁16の弁開度を操作する実際の電圧値に対応する開度信号S3aに変換し、開度信号S3aを開度信号S3として制御弁16へ出力する。なお、上記したように制御弁17へ出力される開度信号S4は、制御弁17の弁開度が常に全開となるように設定されている。
【0062】
このように初期開度演算部2dが初期開度演算ステップS6を実行すると、図5に示すように、実分流比αtは、分流比制御の開始時刻t0から立上初期T1の間、目標分流比αsptに向かい比較的大きな傾斜で立ち上がり、完了時刻t1において目標分流比αsptの50〜60%程度に設定された初期目標分流比αsptfに到達する。そして、この完了時刻t1が経過すると、開度演算部2eを中心とした分流比制御が引き続き実行される。
【0063】
[開度演算部の動作]
開度演算部2eが実行する開度演算ステップS7について図10を参照して説明する。上記したように、開度演算ステップS7は、立上初期T1の完了時刻t1以降、分流制御の停止指令が入力されるまでの全ての期間において実行される基本的な処理であり、RAM1bの偏差情報領域に記憶された偏差εと開度演算情報領域に記憶されたPID係数(比例係数Kp・積分係数Ki・微分係数Kd)を読み込み、PID制御理論に基づく演算式(以下PID演算式と言う。)に代入して演算を実行し、弁開度信号値R3bを算出する。なお、弁開度信号値R3bを算出する演算式はPID演算式に限定されず、比例制御・サーボ制御その他各種制御理論に基づく種々の演算式を利用することができるが、制御調整の容易で立上終期T3における過大な振動や発振を防止可能なPID演算式を用いることが望ましい。また、演算式がPID演算式の場合には、微分係数Kdを利用せず比例係数Kpと積分係数Kiのみを利用することが、立上終期T3以降における系の安定性を向上させる点で好ましい。
【0064】
流量制御弁16・17に小流量制御用の制御弁(例えばフルスケール流量が500sccmの制御弁)を使用した場合には、小流量の流量を制御する際にも応答速度が速いので、前述の近似式の設定に用いた実分流比の複数の区間α1〜α4の各点において、各区間における近似式の傾きをPID係数(比例係数Kp・積分係数Ki・微分係数Kd)に乗じたものをPID制御における係数として使用することができる。ここで、PID係数(比例係数Kp・積分係数Ki・微分係数Kd)に各区間における近似式の傾きを乗じたものは図20(a)に示されるようなステップ状の変動になる。
一方、流量制御弁16・17に大流量制御用の制御弁を使用した場合には、応答速度が遅いために、図20(a)に示されるステップ状の係数を、区間α1〜α4の各点にけるPID制御に使用すると制御時間が長くなるので好ましくない。そこで、図20(a)のステップ状の係数を直線補間して、図20(b)に示すように実分流比とともに連続的に変化するようにすることで、区間α1〜α4の各点でより適当な係数が選択されるので制御時間を短くすることが可能になる。
【0065】
図10(a)に示すように、立上初期T1の完了時刻t1が経過すると、主制御部2aはROM2から開度演算部2eを読み出し、CPU1aに実行させる。開度演算部2eは、ステップS7aにおいてRAM1bの開度演算情報領域から立上初期T1の完了時刻である設定時刻t1を読み込み、ステップ7bにおいて監視タイマーから入力された現在時刻tと設定時刻t1を比較する。開度演算部2eは、ステップS7cにおいて現在時刻tと設定時刻t1とが一致するか否かを判断し、現在時刻tが立上初期T1の完了時刻t1と一致しない場合(つまり立上初期T1の完了時刻t1以降の分流制御装置13を制御する期間)においては、ステップS7dに進み、RAM1bの開度演算情報領域からPID係数(比例係数Kp・積分係数Ki・微分係数Kd)と偏差情報領域から偏差εを読み込み、ステップS7eにおいて読み込んだPID係数と偏差εをそのままPID演算式に代入して演算し、弁開度信号値R3bを算出し、ステップS7fにおいてRAM1bの弁開度情報領域に記憶する。なお、PID係数は、立上中期T2の実分流比αtが適宜な立上傾斜を有し、立上終期T3における振動や発振を防止し所望の時間内に静定期間Tが収まるよう、上記初期開度情報Aの場合と同様に実際の分流制御装置13を調整しつつ求めることが望ましい。以上が、立上初期T1の完了時刻t1以降において、制御弁16の開度信号S3bを設定するための弁開度信号値R3bを求める基本的な処理フローとなる。
【0066】
ここで、初期開度設定ステップS6の実行後、図9に示すように、立上初期T1の完了時刻t1における初期目標分流比αsptfと実分流比α1との間に、ε1=αsptf−α1の演算式で演算して求められる偏差ε1が生じている場合がある。この偏差ε1がε1<εs(εsは偏差許容値)の場合には立上初期T1において実分流比αtの立ち上がりが遅延しており、静定期間Tが長くなる可能性がある。一方で、偏差ε1がε1>εsの場合には立上初期T1において実分流比αtの立上傾斜が過大であり、立上終期T3において過大な振動や発振が生じ、同様に静定期間Tが長くなる可能性がある。そこで、主制御部2aは、偏差ε1が生じている場合には、立上中期T2において偏差ε1を解消して予定分流比に一致するように上記PID係数の補正処理を行うため、開度演算部2eのサブプログラムである初期分流比補正部をCPU1aに実行させる。
【0067】
すなわち、主制御部2aは、図10(a)に示すステップS7cにおいて現在時刻tと設定時刻t1とが一致すると判断した場合には、初期分流比補正部をCPU1aに実行させる(ステップS7g)。初期分流比補正部は、図10(b)に示すように、ステップS7hにおいてRAM1bの実分流比情報領域から設定時刻t1における実分流比α1を読み込むとともに、ステップS7iで開度演算情報領域から初期目標分流比αsptfを読み込み、ステップS7jで両者を比較する。ステップS7kにおいて実分流比α1と初期目標分流比αsptfとが一致すると判断した場合には、ステップS7Lを実行し、図10(a)のステップS7dへ進む。一方で、ステップS7kにおいて、実分流比α1と初期目標分流比αsptfとが相違すると判断した場合には、以下のステップS7m〜S7oでPID係数を補正する処理を実行する。なお、上記初期目標分流比αsptfは、目標分流比αsptに対し例えば50%などの一定の割合を乗じて設定した値であってもよい。
【0068】
PID係数の補正処理について説明する。初期分流比補正部は、ステップS7mにおいてRAM1bの開度演算情報領域からPID係数を読み込み、ステップS7nにおいて実分流比αtの立上傾斜に関係するPID係数の比例係数Kpおよび積分係数Kiを補正するための補正情報Bを同領域から読み込む。この補正情報Bは、例えば図11に示すように偏差ε1に対応した補正値bを有するデータテーブルであり、初期目標分流比αsptfに対する偏差ε1の比率に対応して補正値bが設定されている。そして、初期分流比補正部は、ステップS7oにおいて、偏差ε1が0未満の場合には比例係数Kpおよび積分係数Kiに補正値bを乗じ、0を超える場合には補正値bで除する補正をし、その後、図10(a)に示すステップS7eに進み、補正されたPID係数と偏差εが代入されたPID演算式に基づき弁開度信号値R3bを算出する。
【0069】
このように開度演算部2fが、開度演算ステップS7を実行することにより、立上中期T2における実分流比αtの立上傾斜を立上初期T1よりも抑制して、立上終期T3における実分流比αtの過度な振動や発振を防止することが可能となる。なお、初期分流比補正ステップが実行する処理は、後述する第2の調整部2gがCPU1aに実行させる処理と類似しており、初期分流比補正部は必ずしも設定する必要はないが、初期開度設定ステップS6の実行後の設定時刻t1において実行すれば、立上中期T2の全期間において偏差ε1を除々に修正できるので、実分流比αtの急激な変化が少なく有利である。
【0070】
[第2の調整部の動作]
上記開度演算ステップS7が終了すると、主制御部2aは、上記原理2および3に対応し、第1の調整部2fおよび第2の調整部2gをCPU1aに実行させることにより、立上中期T2および終期T3において開度演算ステップS7で算出された弁開度信号値R3bを補正し、弁開度信号値R3cおよびR3dを算出する。すなわち、図6に示すように、開度演算ステップS7の後、現在時刻tが立上中期T2と立上終期T3のいずれかに属するかについて判断するため、ステップS8においてRAM1bの第1の調整情報領域から立上終期の設定期間T3(立上中期T2の完了時刻t2を起点とし立上終期T3の完了時刻t3に至る期間)を読み込み、ステップS9において現在時刻tと設定期間T3とを比較し、ステップS10において設定期間T3の中に現在時刻tが含まれるか否かを判断する。そして設定期間T3の範囲外であると判断した場合には、ステップS12へ進み、その後ステップS13およびS14を経た後に、制御部2aは第2の調整部2gをCPU1aに実行させる。また、上記ステップS10において、現在時刻tが設定期間T3の範囲内であると判断した場合には、制御部2aは第1の調整部2fをCPU1aに実行させる。以下、まず第2の調整部2gの実行に関連する処理について説明し、その後第1の調整部2fが実行する処理について説明する。
【0071】
第2の調整部2gは、上記原理2に対応する処理が実行されるように構成されたプログラムである。すなわち、上記した開度演算部2eは、立上終期T3における振動や発振を防止するため、実分流比αtの立上傾斜が立上初期T1よりも抑制された分流比の制御を実現している。このため開度演算部2eで算出された弁開度信号値R3bは比較的低くなるように設定されており、図12に示すように、立上中期T2における想定した予定分流比に対し実分流比αtが低目になる場合がある。そこで、第2の調整部2gは、立上中期T2において設定した時刻ta(制御開始時刻t0または立上初期T1の完了時刻t1を起点として一定の期間Taを経過した時点として設定される。)における実分流比αaと、当該設定時刻taにおける予定分流比αsptmとの間に、演算式εa=αsptm−αaで演算される偏差εaが生じた場合、立上中期T2の期間中に実分流比αtが予定分流比に一致するように弁開度信号値R3bを補正し、偏差εaを解消するよう構成されている。
【0072】
図6に示すように、上記ステップS10において現在時刻tが設定期間T3の範囲外と判断された場合、主制御部2aは、ステップS12においてRAM1bの第2の調整情報領域から立上中期の設定期間T2(立上初期T1の完了時刻t1を起点とし立上中期T2の完了時刻t2に至る期間)を読み込み、ステップS13において現在時刻tと設定期間T2とを比較し、ステップS14において現在時刻tが設定期間T2の範囲内に含まれるか否かを判断する。ここで、ステップS14において現在時刻tが設定期間T2の範囲外であると判断される場合は、制御開始初期における実分流比αtの立ち上がりの期間T(立上初期T1〜立上終期T3)の中に現在時刻tは含まれず、プロセスガスが安定して供給されている期間に入っている。したがって、主制御部2aは信号出力部2hを実行させ、信号出力ステップS16において、開度演算ステップS7で算出された弁開度信号値R3bをそのまま開度信号S3bに変換し、制御弁16に出力する。
【0073】
上記ステップS14において、現在時刻tが設定期間T2の範囲内であると判断される場合は、主制御部2aは、ROM2から読み出した第2の調整部2gをCPU1aで実行させ、第2の調整ステップS15により開度演算部2eで算出された弁開度信号値R3bを補正する。第2の調整ステップS15の詳細な動作フローである図13に示すように、第2の調整部2gは、ステップS15aにおいてRAM1bの実分流比情報領域から設定時刻taにおける実分流比αaを読み込むとともに、その後のステップS15bにおいて第2の調整情報領域から当該設定時刻taにおける予定分流比αsptmを読み込み、ステップS15cにおいて実分流比αaと予定分流比αsptmとを比較する。そして、ステップS15dにおいて両者が一致していると判断した場合には、予定分流比に対し実分流比αtが想定通りに到達しており、弁開度信号値R3bを補正する必要がないので、ステップS15iを実行し、図6のメイン動作フローの信号出力ステップS16へ進み、上記と同様に開度信号S3bを出力する。
【0074】
一方で、ステップS15dにおいて実分流比αaと予定分流比αsptmが相違すると判断した場合には、以下のステップS15e〜S15hで弁開度信号値R3bを補正し、弁開度信号R3dを算出する処理を実行する。まず、第2の調整部2gは、ステップS15eにおいてRAM1bの第2の調整情報領域から第2の調整情報Cを読み込み、偏差εaに対応する調整値cを選択する。
【0075】
上記第2の調整情報Cについて説明する。第2の調整情報Cは、実分流比αtの立上傾斜に関係するPID係数の比例係数Kpおよび積分係数Kiを補正するための情報である。この第2の調整情報Cは、例えば図14に示すように偏差εaに対応した調整値cを有するデータテーブルであり、予定分流比αsptmに対する偏差εaの比率に対応して調整値cが設定されている。なお、予定分流比に対する実分流比αtが異なるか否かの確認は、当該立上中期T2において複数の時刻で行うことが好ましく、第2の調整情報Cである図14に示すデータテーブルは、時間の経過の順に設定された複数の設定時刻ta1〜ta5およびその設定時刻ta1〜ta5ごとに設定された予定分流比に対する偏差εaの比に対応した調整値cを有する構造となっている。この調整値cは、図示するように偏差εaが大であるほど大きく、時間の経過とともに小となるように設定されており、立上終期T3に近い立上中期T2の後半における実分流比αtの急激な変化を抑制しつつ立上中期T2において予定分流比に実分流比αtを一致させる。なお、上記初期目標分流比αsptmは、目標分流比αsptに対し一定の割合を乗じて設定した値であってもよい。
【0076】
次いで、第2の調整部2gは、ステップS15fにおいてRAM1bの開度情報領域から比例係数Kp、積分係数Kiおよび微分係数Kdを読み込むとともに、比例係数Kpおよび積分係数Kiに調整値cを乗じて補正し、ステップS15gにおいて比例係数Kpおよび積分係数Kiが補正されたPID係数と偏差εaをPID演算式に代入して演算し、弁開度信号値R3dを算出し、ステップS15hにおいてRAM1bの弁開度情報領域に記憶する。その後、図6に示すメイン動作フローの信号出力ステップS16に進み、上記ステップS15gで算出された弁開度信号値R3dを開度信号S3dに変換し、制御弁16に出力する。
【0077】
ここで、予定分流比に対する実分流比αtが異なるか否かを立上中期T2において複数の時刻で確認する場合には、その都度、第2の調整ステップS15が実行され、予定分流比に対し実分流比αtが一致するように弁開度信号値R3bが補正される。一方で、例えば立上中期T2の中心の時刻でのみ一点で確認する場合には、その後弁開度信号値R3bを補正する機会がなく、偏差εaを解消するように補正された弁開度信号値R3dのために補正後の実分流比αtの立上傾斜が過大になる恐れがある。このような場合には、第2の調整情報領域に補正実行期間を記憶しておき、当該補正実行期間を信号出力部2hが読み込み、その補正実行期間の間だけ補正後の弁開度信号値R3dを変換した開度信号S3dを制御弁16に出力し、補正実行期間を経過した後は補正前の弁開度信号値R3bを変換した開度信号S3bを出力するようにプログラムを構成することが望ましい。
【0078】
以上のように第2の調整部2gが第2の調整ステップ15を実行し、立上中期T2の途中の所定時刻taで予定分流比αsptmと実分流比αtとを比較して両者の間に偏差εaが生じている場合には、実分流比αtが予定分流比に一致するように、立上中期T2の期間中に当該偏差εaを解消するため弁開度信号値R3bの補正をするので、立上中期T2の完了時刻t2における予定分流比に対し遅れることなく実分流比αtを到達せしめることが可能となる。
【0079】
[第1の調整部の動作] 次に、第1の調整部2fの実行する第1の調整ステップS11の動作フローについて説明する。図6に示すステップS10において、現在時刻tが設定期間T3の範囲内であると判断した場合に、ROM2から読み出されCPU1aで実行される第1の調整部2fは、上記原理3に対応する処理を実行するプログラムである。すなわち、図16(a)に示すように、例えば目標分流比αsptをオーバーシュートする実分流比αt1の最初の波n1のオーバーシュート量が大きな場合には、立上終期T3における実分流比αtの振動が過大となり、実分流比αt1の静定時刻が予定された完了時刻t3を超過してしまう場合があり、これが著しいと図において符号αt2で示すように実分流比αt2が発振して制御不能となる。
【0080】
そこで、第1の調整部2fは、立上終期T3に生じる実分流比αtの過大な振動や発振を防止するため、図15に示すように、目標分流比αsptを基準として立上終期T3に設けられた判定領域Hと実分流比αtとを対比し、実分流比αtが判定領域Hから逸脱した場合には、実分流比αtが目標分流比αsptに一致するように開度演算部2eで算出された弁開度信号値R3bを補正する第1の調整ステップ11が実行されるように構成されている。
【0081】
第1の調整部2fは、図17に示すように、ステップS11aにおいて第1の調整情報領域から判定領域Hの設定情報である上限値Hmaxおよび下限値Hminを読み込み、ステップS11bにおいてこの上限値Hmaxおよび下限値Hminと実分流比情報領域から読み込んだ実分流比αtとを比較し、ステップS11cにおいて実分流比αtが上限値Hmaxおよび下限値Hminを超過しているか否かを判断する。そして、上限値Hmaxおよび下限値Hminを実分流比αtが超過しておらず判定領域Hの範囲内である場合には、立上終期T3において振動や発振が生じる可能性が低いので、第1の調整部2fは、ステップS11hを実行し、図6のメイン動作フローの信号出力ステップS16へ進み、開度演算部2eで算出された弁開度信号値R3bをそのまま開度信号S3bに変換し、制御弁16に出力する。なお、本態様の判定領域Hの時間軸方向の範囲は、下記説明するように立上終期T3と同一の範囲に設定されており(図15参照)、上記ステップS8〜S10において現在時刻tが当該期間T3に含まれるか否かは判断されているので、上記ステップ11aでは判定領域Hの設定情報としては読み込んでいない。しかしながら、時間軸方向における判定領域Hの範囲と立上終期T3とが相違する場合には、ステップ11aにおいて当該範囲に係わる設定情報を読み込み、別途判断すればよい。また、判定領域Hの始点は、立上終期T3の範囲のみならず、立上中期T2の範囲にまで延びた状態で設定されていてもよく、少なくとも立上終期T3の一部を含んでいればよい。すなわち、第1の調整ステップS11と上記第2の調整ステップS15は、別個独立して実行されるステップであり、立上終期T3の中で第1の調整ステップS11が行われた後に、第2の調整ステップS15が実行されてもよい。
【0082】
一方で、ステップS11cにおいて、上限値Hmaxおよび下限値Hminを実分流比αtが超過していると判断した場合には、第1の調整部2fは、ステップS11dにおいて第1の調整情報領域から第1の調整情報Dを読み込んで、開度演算部2eで算出された弁開度信号値R3bを補正するための調整値dを選択するとともに、ステップS11eにおいて弁開度情報領域から弁開度信号値R3bを読み込む。この第1の調整情報Dは、図18に示すように、時刻th1における判定領域Hからの実分流比αtの逸脱量εh(図15参照)に対応した調整値dを有するデータテーブルである。このデータテーブルにおいて、調整値dは、目標分流比αsptから上限値Hmaxまたは下限値Hmaxまでの大きさαh1・αh2に対する逸脱量εhの比率に対応し、d<1となるよう設定されている。
【0083】
次いで、第1の調整部2fは、弁開度信号値R3bに調整値dを乗じて弁開度信号値R3cを算出し、RAM1bの弁開度情報領域に記憶する。その後、図6に示す信号出力ステップS16に進み、上記と同様に弁開度信号値R3cは開度信号S3cに変換され、予め設定された所定の期間だけ制御弁16に出力される。その期間が経過した後は、開度信号部1hは、補正前の弁開度信号値R3bに対応する開度信号S3bを再度制御弁16に出力する。
【0084】
上記ステップS11cにおいて実分流比αtの振動状態の判断に利用される判定領域Hは、図15に示すように、立上終期T3において矩形枠状に境界が設定されている。その境界4辺の設定値が判定領域Hの設定情報であり、時間軸方向において判定領域Hの左方境界である始点の設定値は立上中期T2の完了時刻t2、右方境界である終点の設定値は立上終期T3の完了時刻t3である。また、分流比の軸に沿う方向において判定領域Hの上方境界である上限値Hmaxの設定値は目標分流比αsptに分流比αh1を加えた値、下方境界である最小値Hminの設定値は目標分流比αsptから分流比αh2(αh2はαh1と同量である。)を減じた値である。なお、時間軸方向における判定領域Hの境界は本態様のように立上終期T3の範囲と一致する必要はなく、立上終期T3における実分流比αtの状態を考慮し、立上終期T3の範囲の中で適宜設定すればよい。また、分流比の軸の方向における判定領域Hの境界である上限値Hmaxおよび下限値Hminも適宜な位置に設定すればよい。
【0085】
ここで、判定領域Hは、上記した初期開度情報AやPID係数と同様に、分流制御装置13を実際の半導体製造システムに組み込んでまたは半導体製造システムと同様な条件・環境下で、その2次流路である流路P1およびP2に所定のプロセスガスを流しつつ制御弁16を操作して求めている。すなわち、図16(b)において符合αt3で示す破線のように、実分流比αtを静定させるべき所定の完了時刻t3を経過した時点で実分流比が静定するようにPID係数を設定した条件で分流制御装置13を動作させる。なお、目標分流比αsptをオーバーシュートする実分流比αt3の最初の山の頂部のオーバーシュート量αnが目標分流比αsptに対し概ね3〜10%となるようPID係数を設定することにより、完了時刻t3よりも僅かに遅れて実分流比αt3が静定する状態を実現することができ、振動の発生を適確に判断し、実分流比αtの過剰な変化を伴わずに振動や発振を抑制できるので望ましい。
【0086】
そして、分流制御装置13を動作させつつ判定領域Hの上方境界および下方境界の位置を適宜調整し、上記第1の調整ステップS11を実行する。すると、判定領域Hの上方境界および下方境界が適切な位置αh1およびαh2に設定されたときに、図において符号αt4の実線で示すように、立上終期T3における実分流比の振動が抑制され完了時刻t3で静定することを確認することができる。このようにして求めた判定領域Hの上端境界および下端境界の位置αh1およびαh2を、上限値Hmaxおよび下限値Hminとして利用して判定領域Hを設定すればよい。また、これら判定領域Hの境界を定める設定値である上限値Hmaxおよび下限値Hminおよび設定期間T3は、今回の目標分流比αspt、前回と今回の目標分流比αsptの差異その他の条件により相違するので、これらの条件と判定領域Hの設定値とが対応したデータテーブルとし、第1の調整情報領域に記憶させておき、条件ごとに最適な判定領域Hで判断することが望ましい。
【0087】
上記の実施の形態では、図10のステップ7kで実分流比α1と初期目標分流比αsptfとが一致すると判断されたときと、図13のステップ15dで実分流比αaと予定分流比αsptmとが一致すると判断されたときに、信号出力ステップS16を経てステップS2に移行するが、図6のメインフローにおける監視タイマー(ステップS2)の設定値が長く設定されていた場合、次の制御ステップ(ステップS3)に進むのに待ち時間が発生してしまい、全体の制御時間が長くなり所定時間内で処理が完了しない場合がある。このような場合には、図21に示すように、ステップ17で『実分流比α1と初期目標分流比αsptfとが一致しているか』、『実分流比αaと予定分流比αsptmとが一致しているか』を判断し、どちらか一方でも一致すると判断された場合には、ステップ2ではなくステップS3へ移行させてもよい。このようにすることで、無駄な待ち時間を生じさせることが防止できるので、全体の制御時間の短縮を図ることができる。
【0088】
また、上記監視タイマーよりも設定値の短い監視タイマー(センサ監視タイマ)をさらに設け、センサ監視タイマーで設定された時間間隔で、『実分流比と初期目標分流比との比較』および『実分流比と予定分流比』との比較をメインフローによる制御と並行して行い、この比較で『実分流比α1と初期目標分流比αsptfとが一致』または『実分流比αaと予定分流比αsptmとが一致』したときには、監視タイマー(ステップ2)で設定された時間を待たずにメインフローにおける次のステップ(ステップ3)に移行させてもよい。こうすることでも、監視タイマー(ステップS2)の設定値が長く設定されることに起因する無駄な制御待ちが防止でき全体の制御時間の短縮を図ることができる。
【符号の説明】
【0089】
1 制御部
2 ROM
10 半導体製造システム
11 ガス供給手段
12 開閉弁
13 分流制御装置
14 流量検出器
15 流量検出器
16 制御弁
17 制御弁
18 処理チャンバ
19 開閉弁
20 システム制御手段
21 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の流路を流通するガスを複数の2次流路に所定の分流比で分流する分流制御装置であって、前記2次流路に夫々設けられた流量検出器および制御弁と、前記制御弁を操作するための情報が記憶された記憶手段を備え、前記流量検出器が検出した実流量に対応する検出信号が入力されるとともに前記2次流路における指令された目標分流比および前記検出信号に基づき、分流比の制御が開始された後の実分流比の立ち上がり時における立上初期、立上初期に引き続く立上中期、立上中期に引き続く立上終期の各時期で、前記制御弁の開度を操作する弁開度信号値を算出し、当該弁開度信号値を開度信号として前記制御弁に出力する制御部とを有し、
前記制御部は、
前記流量検出器から入力された検出信号を読み込み、当該2次流路における実分流比を算出し、前記記憶手段に記憶する実分流比演算部と、
前記指令された目標分流比を読み込み、当該目標分流比と前記実分流比演算部で算出された実分流比との偏差を算出し、前記記憶手段に記憶する比較部と、
前記比較部で算出された偏差を読み込み、所定の演算式で前記弁開度信号値を算出し、前記記憶手段に記憶する開度演算部とを有し、
前記記憶手段には、前記目標分流比を基準とし前記実分流比の立上終期に設定された判定領域に関する設定情報が記憶され、
前記記憶手段から判定領域の設定情報を読み込み、前記実分流比算出部で算出された実分流比が前記判定領域の中に含まれるか否かを判断し、前記実分流比が前記判定領域の中に含まれない場合には、前記実分流比の立上終期において前記実分流比が前記目標分流比と一致するように前記弁開度信号値を補正する第1の調整部とを有する分流制御装置。
【請求項2】
前記記憶手段には、前記実分流比が前記判定領域から逸脱した逸脱量と前記弁開度信号値を補正する調整値の関係を定めたデータテーブルが記憶されており、前記実分流比が前記判定領域から逸脱した場合には、前記第1の調整部は前記記憶手段から前記データテーブルを読み込み、当該実分流比の逸脱量に基づいて選択された調整値で前記弁開度信号値を補正する請求項1に記載の分流制御装置。
【請求項3】
前記判定領域の設定情報は分流比に関する設定値である上限値および下限値を含み、前記上限値および下限値は、前記2次流路にガスを流し、目標分流比に対する実分流比のオーバーシュート量が3〜10%となるよう前記制御弁のうちのいずれかの弁開度を操作し、その状態において所望の静定期間で実分流比が静定するよう調整して求めた値である請求項1または2のいずれかに記載の分流制御装置。
【請求項4】
前記記憶手段には、前記実分流比の立上初期における前記制御弁の初期開度情報が記憶されており、前記制御部は、前記制御弁に出力する開度信号が最初の開度信号か否かを判断し、最初の開度信号であると判断した場合には、前記記憶手段から初期開度情報を読み込み、指令された目標分流比に対応する初期開度情報値を求め、当該初期開度情報値に基づいて前記制御弁の初期開度信号値を算出する初期開度演算部を有し、前記実分流比の立上初期において前記初期開度演算部で算出された初期開度信号値を開度信号として前記制御弁に出力する請求項1乃至4のいずれかに記載の分流制御装置。
【請求項5】
前記初期開度情報は、前記2次流路にガスを流し、前記制御弁のうちのいずれかの弁開度を一定の範囲で操作したときに、当該弁開度に対する前記実分流比演算部により算出された実分流比の一定の範囲の変化を示す、弁開度と実分流比との実関係式を近似した、弁開度と目標分流比との関係を示す近似式であり、前記近似式は、前記一定の範囲で変化する実分流比を複数の区間に分割し、分割された区間ごとに設定されている請求項4に記載の分流制御装置。
【請求項6】
前記近似式は、制御される前記制御弁ごとに設定されている請求項5に記載の分流制御装置。
【請求項7】
前記開度演算部の演算式はPID制御に基づく演算式であり、前記記憶手段には前記実分流比の立上中期において予定される予定分流比が記憶されており
前記制御部は、前記実分流比の立上中期または立上終期において所定の時刻で前記実分流比算出部が算出した実分流比を確認するとともに、前記記憶手段から当該時刻における予定分流比を読み込み、前記実分流比と前記予定分流比とを比較し、前記実分流比と前記予定分流比が異なる場合には、前記実分流比が前記予定分流比と一致するように前記開度演算部の前記演算式に指定されたPID係数(比例係数Kp、積分係数Ki、微分係数Kd)を補正し、弁開度信号値を演算式で改めて算出する第2の調整部を有する請求項1乃至5のいずれかに記載の分流制御装置。
【請求項8】
前記演算部の演算式は、前記PID係数(比例係数Kp、積分係数Ki、微分係数Kd)に前記近似式の傾きを乗じた、実分流比の変化に対して階段状に変化する値を、前記PID制御の係数として用いる請求項7に記載の分流制御装置。
【請求項9】
前記PID係数(比例係数Kp、積分係数Ki、微分係数Kd)に前記近似式の傾きを乗じた、実分流比の変化に対して階段状に変化する値を、各実分流比の変化とともに連続して変化する値となるように補正し、
前記演算部の演算式は、その補正された値を前記PID制御の係数として用いる請求項7に記載の分流制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−53862(P2012−53862A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283914(P2010−283914)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】