説明

分離膜及びその製造方法並びに物質の分離方法

【課題】形状選択性を制御可能なゼオライト膜を用いた分離膜及びその製造方法並びにその分離膜を用いた物質の分離方法を提供すること。
【解決手段】分離膜が多孔質支持体上に形成された分離層を有し、その分離層が多孔質支持体上に順次積層されたゼオライト膜とシリカ膜とを含む。結晶構造に制限されることなくゼオライト膜の細孔径を変化させることが可能であり、形状選択性に優れた分離膜を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜及びその製造方法並びにその分離膜を用いた物質の分離方法に関し、さらに詳しくは、ゼオライト膜を含み優れた形状選択性を有する分離膜及びその製造方法並びにその分離膜を用いた物質の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは直径0.5nm程度の細孔及び非常に高い表面積を有する結晶性テクトシリケートで、通常は粉末で天然あるいは合成によって得られる。表面積が高く、表面の極性などを制御できるので吸着剤(例えば空気からの窒素の分離や、混合物からの脱水)や、化学反応性を付与して触媒として用いられている。さらに、ゼオライトは分子レベルの細孔を持っているため、分子ふるいとしても用いられている。
【0003】
ところがゼオライトの細孔径は結晶構造によって一義的に決まるため、ゼオライトの細孔径を自由に制御することはできない。細孔径を自由に制御することができれば、例えばキシレンの異性体同士の分離のように、わずかな幾何学的形状の差異によって異性体同士を分離することが可能となる、すなわち高度の形状選択性を発現させることができる。これに対し、本発明者らは、ゼオライト粉末粒子の表面にCVD法によりシリカ膜を形成することにより、ゼオライト粉末粒子の形状選択性を制御できることを報告している(例えば、非特許文献1,2)。
【0004】
ところで前述のように、ゼオライトは通常、粉末としてしか得られないため、吸着剤や触媒として用いる場合には球状や顆粒状の成型体として用いている。しかし、成型体として用いる場合、バインダーを添加する必要があり、成型体作製プロセスが複雑となり、またゼオライトの分離特性を低下させる等の問題がある。また粉末あるいはバインダーを添加した球状あるいは顆粒状の成型体を吸着分離に用いるためには、圧力スイング法などの複雑な工程を利用する必要があり、運転に要するエネルギーや装置に対するコストが高くなる問題がある。
【0005】
これに対し、ゼオライトを膜として利用できれば、細孔に入る分子だけが透過する極めて高選択性かつエネルギー消費の小さい分離膜を得ることが可能であり、実用的な価値は大きい。そのため、膜状のゼオライトを得るための多くの研究がなされている。例えば、直径数μmの孔を有するマクロポーラスな円盤又は円柱を支持体として用い、その支持体の孔をゼオライトの原料ゲルで満たし、水熱合成などによってこのゲルをゼオライトに変換する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2)。また、ゼオライトの結晶粒子同士又は結晶粒子と支持体との間に隙間(ピンホール)が存在すると、これがゼオライトの細孔よりはるかに大きいため、分子はそのピンホールを流れる。その結果、ゼオライトの有する高選択性を発現させることができないという問題がある。この問題に対し、例えば、支持体とゼオライト膜からなる分離層に同質の材料を用いることにより、熱膨張差による欠陥を抑制してピンホールの生成を抑える方法が提案されている(非特許文献3)。
【特許文献1】特開平5-105420号公報
【特許文献2】特開2000-225327号公報
【非特許文献1】M.Niwa, S.Morimoto, T.Hattori and Y.Murakami, Chem. Lett., (1983)737
【非特許文献2】T.Hibino, M.Niwa and Y.Murakami, J.Catal.,128(1991)551
【非特許文献3】Preprints for 21st Meeting for Research Presentations of Japan Zeolite Association,2005,p.53
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ゼオライト膜の場合もその細孔径は結晶構造により一義的に決まるものであり、その形状選択性を制御する方法については全く知られていなかった。
【0007】
そこで、本発明は、形状選択性を制御可能なゼオライト膜を用いた分離膜及びその製造方法並びにその分離膜を用いた物質の分離方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ゼオライト粉末とゼオライト膜では、全体の結晶構造は同じであるが、微細構造と性質が相違する。例えば、膜を構成する結晶の粒子径は一般的な合成法で調製した粉末よりも大きい。このことは、膜の外表面(結晶の外表面)の微細構造(例えば、水酸基の濃度や原子配列等)が粉末のものとは異なる可能性を示す。CVD法によるシリカ膜の形成は外表面で起きる化学反応であり、外表面の微細構造に大きく影響される。本発明者らは、当初、粉末の場合とは異なり、膜の全外表面においてシリカ膜の形成が起きることは全く予想していなかった。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、ゼオライト膜の表面全面にCVD法によりシリカ膜を形成することが可能であり、それにより形状選択性の制御可能な分離膜が得られることを見出して本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の分離膜は、多孔質支持体上に形成された分離層を有し、該分離層が上記多孔質支持体上に順次積層されたゼオライト膜とシリカ膜とからなることを特徴とする。
【0009】
本発明の分離膜においては、ゼオライト膜にMFI型シリカライトを用いることができる。さらに、多孔質支持体にもMFI型シリカライトを用いることができる。
【0010】
また、MFI型シリカライトにはドライゲル転化法により調製されたものを用いることができる。
【0011】
本発明の分離膜は、以下の方法を用いて製造することができる。
すなわち、本発明の分離膜の製造方法は、多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜の表面に、CVD法によりシリカ膜を形成することを特徴とする。
【0012】
本発明の製造方法においては、ゼオライト膜がMFI型シリカライトからなり、多孔質支持体上に水熱合成によりゼオライト膜を形成することができる。
【0013】
また、多孔質支持体がMFI型シリカライトからなり、ドライゲル転化法により多孔質支持体を調製することができる。
【0014】
本発明の分離膜は、以下の分離方法に用いることができる。
すなわち、本発明の物質の分離方法は、多孔質支持体上に形成された分離層を有し、該分離層が上記多孔質支持体上に順次積層されたゼオライト膜とシリカ膜とからなる分離膜を用い、分離層に目標物質を含む試料流体を供給し、分離層及び多孔質支持体を通過した目標物質を回収することを特徴とする。
【0015】
例えば、試料流体がキシレン異性体を含み、キシレン異性体からパラ異性体を分離する分離方法に用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、多孔質支持体上に順次積層されたゼオライト膜とシリカ膜とからなる分離層を有する分離膜を提供する。従来、ゼオライト膜の細孔径はその結晶構造により一義的に決定され、その細孔径を変化させることは不可能であった。これに対し、本発明の分離膜は、ゼオライト膜の上に積層されたシリカ膜により、細孔を均一に狭くすることが可能となる。これにより、従来のゼオライト膜では分離が困難な分子であっても、その分子サイズのわずかな違いにより分離することが可能となる。また、ゼオライト膜を用いた分離プロセスは、蒸留法のように多くのエネルギーを消費することもなく、また、吸着法のように多くの処理装置を必要とすることもない。したがって、本発明の分離膜を用いることにより、高選択性かつエネルギー消費の小さい分離プロセスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
本発明の分離膜は、多孔質支持体上に形成された分離層を有し、該分離層が上記多孔質支持体上に順次積層されたゼオライト膜とシリカ膜とからなる。
本発明に用いるゼオライト膜は実質的に結晶と結晶の間の粒界が存在しないものをいう。ここで、実質的に粒界が存在しないとは、細孔径より大きな粒界が実質的に存在しないことをいう。
【0018】
ゼオライト膜を構成するゼオライトは、
一般式:(SiO2)x(Al2O3)y(M2/nO)z(H2O)w、で表される結晶性テクトシリケートであり、分子レベルの細孔を有する。実質的にアルミナ成分を含まないゼオライトがシリカライトである。なお、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、nはMの価数を表す。MはNa又はKが好ましい。また、ゼオライトの結晶構造は特に限定されるものではなく、IUPAC名称による、LTR、FER、LTA、MFI、MEL、MOR、BEA、FAU、EMT、DON、CFI等があり、分離目的に応じて選択することができる。好ましくは、MOR、LTA、MFI、より好ましくはMFIである。例えば、MFI型のゼオライトは、キシレン異性体中、パラキシレンを選択的に分離することができる。また、組成は、シリカライトが好ましい。結晶構造と組成の好ましい組合せは、MFI型のシリカライトである。その理由はアルミナ成分を含まず、触媒活性を持たないため、パラキシレンを分離するに際し、触媒反応によってパラキシレンを分解することがないからである。
【0019】
ゼオライト膜の膜厚は、1nm以上、より好ましくは1nm〜10μmである。1nmより小さいと、ゼオライトの構造を形成せず、均一なサイズの細孔が生成しない。また10μmより大きいとゼオライト膜を分子が通過するのに抵抗が大きくなるからである。
【0020】
ゼオライト膜は、ゼオライト前駆体に多孔質支持体を含浸させて水熱合成してゼオライト前駆体を結晶化させる方法(水熱合成法)や、ゼオライト前駆体を多孔質支持体の表面にコーティングして後乾燥し、その後水蒸気で処理してゼオライト前駆体を結晶化させる方法(ドライゲル転化法)を用いることができる。水熱合成法やドライゲル転化法の回数には制限がなく、複数回繰り返して行うことができる。これにより、より緻密なゼオライト膜を得ることができる。
【0021】
本発明に用いる多孔質支持体には、アルミナ、ムライト、ジルコニア、シリカ、チタニア、ゼオライト等の金属酸化物や、ステンレス性の焼結金属を用いることができる。好ましくは、アルミナ、ムライト又はゼオライト、さらに好ましくはゼオライトである。ゼオライト膜と同質のゼオライトを用いることにより、ゼオライト膜作製時の熱処理や高温での使用による熱膨張によってゼオライト膜と支持体との間に欠陥が発生するのを防止することができるからである。ゼオライトからなる支持体は、ドライゲル転化法を用いて作製することができる。
【0022】
多孔質支持体の細孔径は、0.1〜10μm、より好ましくは0.1〜3.0μmである。ゼオライト膜を構成するゼオライト結晶の大きさは、水熱合成によれば通常0.1〜10μmであり、多孔質支持体の細孔径が0.1μmより小さいと、ゼオライト結晶を細孔内に充填するのが困難であり、また多孔質支持体の細孔径が10μmより大きいと、細孔内をゼオライトの結晶を緻密に充填することが困難だからである。
【0023】
また、多孔質支持体の形状は特に限定されず、円盤状、円柱状、平板状等の所望の形状のものを用いることができる。
【0024】
本発明に用いるシリカ膜は、化学気相蒸着法(CVD法)を用いて作製することができる。本発明に用いるCVD法は、シリカ源となる原料を気体状態で熱分解させ、シリカ膜を形成できるものであれば特に限定されない。原料は、熱分解によりシリカを生成するものであれば良く、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン等の金属アルコキシド、より好ましくはテトラメトキシシランを用いることができる。
【0025】
以下、本発明の分離膜の製造方法について説明する。
図1は、本発明の分離膜の製造工程の一例を示す模式図であり、ドライゲル転化法を用いて作製したゼオライトからなる多孔質支持体を用いた例を示している。ドライゲル転化法によりドライゲル1からゼオライト支持体2を作製し(図1(a)及び(b))、水熱合成法により支持体2上にゼオライト膜3を作製し(図1(c))、そしてCVD法によりシリカ膜5をゼオライト膜3上に作製し、積層されたゼオライト膜とシリカ膜とからなる分離層6を形成する(図1(d)及び(e))。ここで、4はゼオライト粒子の堆積層を示している。
【0026】
(多孔質支持体の作製)
前述のように、本発明に用いる多孔質支持体には、ゼオライトを用いることが好ましい。ゼオライトからなる多孔質支持体は、ドライゲル転化法(DGC法)を用いて作製することができる。DGC法は、ゼオライト原料と、有機構造指向剤と、水とで原料組成物となるゲルを調製した後乾燥させてドライゲルとし、得られたドライゲルを飽和蒸気圧の水蒸気と接触させてゼオライトに転化(結晶化)させる方法である(例えば、M. Matsukata, N. Nishiyama and K. Ueyama, Micro-. Mesoporous Mater., 1 (1993) 219.)
【0027】
ゼオライト原料には、アルミナ源とシリカ源を用いるが、シリカライトを調製する場合には、シリカ源のみを用いることができる。アルミナ源には、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミナ等を用いることができる。シリカ源には、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、水ガラス、シリコンアルコキシド等を用いることができるが、コロイダルシリカを用いることが好ましい。
【0028】
有機構造指向剤は、ゼオライトの細孔を形成するための型剤であり、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の4級アンモニウム水酸化物あるいは塩を単独あるいは複数組み合わせて用いることができる。好ましくは、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドとテトラプロピルアンモニウムブロマイドの組合せである。
【0029】
ここで、上記の原料組成物には以下の組成(モル比)を用いることができる。ゼオライト原料に、アルミナ源とシリカ源を用いる場合、シリカ/アルミナ=2〜2000、水/シリカ=3〜1000、有機構造指向剤/シリカ=0.01〜1である。また、ゼオライト原料にシリカ源のみを用いる場合、水/シリカ=3〜1000、有機構造指向剤/シリカ=0.01〜1である。
【0030】
原料組成物溶液を攪拌混合してゾルとし、このゾルを323K〜373K、好ましくは343K〜368Kに乾燥してドライゲルを調製する。図1(a)ではドライゲルを一度粉砕した後、円盤状に成型した例を示している。
【0031】
次いで、ドライゲルを水蒸気の存在下で、413K〜523K、好ましくは433K〜483Kで加熱してゼオライトに転化させる。加熱時間は特に限定されないが、6時間〜800時間、好ましくは75〜200時間である。このようにして、ゼオライトからなる多孔質支持体(以下、ゼオライト支持体という)を得る(図1(b))。
【0032】
(ゼオライト膜の作製)
得られたゼオライト支持体を、反応容器の底部に接触しないように、ゼオライト膜用原料組成物中に浸漬保持し、413K〜523K、好ましくは433K〜483Kで水熱合成する。図1(c)に示すように、結晶化したゼオライト粒子は沈降してゼオライト支持体の液面側の面に堆積する。これに対し、液面側とは反対の面には、緻密なゼオライト膜が成長する。反応時間を変えることにより、ゼオライト膜の厚さを調整することが可能である。
【0033】
次いで、ゼオライト膜を成長させたゼオライト支持体を、乾燥後、723K〜1073K、好ましくは753K〜823Kで酸化雰囲気下で、焼成して有機構造指向剤を除去する。ここで、昇温は1Kmin-1以下の速度で行う必要がある。ゼオライト膜は急激な昇温により、ピンホールやクラックが生成する可能性があるからである。
【0034】
ここで、上記のゼオライト膜用原料組成物には以下の組成(モル比)を用いることができる。ゼオライト原料に、アルミナ源とシリカ源を用いる場合、シリカ/アルミナ=2〜2000、水/シリカ=3〜1000、有機構造指向剤/シリカ=0.01〜1である。また、ゼオライト原料にシリカ源のみを用いる場合、水/シリカ=3〜1000、有機構造指向剤/シリカ=0.01〜1である。
【0035】
(シリカ膜の作製)
次いで、ゼオライト膜を有するゼオライト支持体をCVD用反応容器内に配置し、シリカ原料として、例えばテトラメトキシシランを用い、573K〜823K、好ましくは753〜793 Kで、蒸着を行う。次いで、酸素雰囲気下で673K〜823Kで焼成して有機物を除去する。これらの過程で、昇温は1Kmin-1以下の速度で行う必要がある。ゼオライト膜は急激な昇温により、ピンホールやクラックが生成する可能性があるからである。これにより、図1(d)に示すように、ゼオライト膜3の上にシリカ膜5が積層された分離層6を形成することができる。また、図1(e)は、分離層6の部分拡大図であり、シリカ膜5がゼオライト膜3の細孔を狭くしている状態を模式的に示したものである。
【0036】
シリカの蒸着量は蒸着時間を変えることにより変化させることができる。蒸着量の増加とともに、ゼオライト膜の細孔は狭くなる。分離対象の分子の大きさにより蒸着量を変化させて、細孔径を調整することができる。例えば、キシレン異性体からパラキシレンを分離する場合、シリカの蒸着量は分離膜全体の0.8重量%以上であることが好ましい。
【0037】
なお、図1では、円盤状支持体の片面にゼオライト膜を有する分離膜の例を示したが、両面にゼオライト膜を設けた分離膜を用いることもできる。この場合、例えば、ゼオライト膜作製時に、支持体の液面側の面をマスクして水熱合成を行い、次いで、支持体を反転させてゼオライト膜を有する面を液面側とし、そのゼオライト膜をマスクして水熱合成して作製することができる。円盤状支持体の両面に分離層を有する分離膜は、例えば、分離層に試料流体を供給し、分離層と支持体を通過して外周面から流出する目標物質を回収する分離方法に用いることができる。もちろん、他の形状の支持体を用いることも可能である。例えば、円柱状支持体を用い、その円柱状支持体の外周面にゼオライト膜を作製することも可能である。例えば、円柱状支持体を長手方向に直立させた状態で原料組成物中に浸漬保持する。ここで、円柱状支持体の上面及び底面の両端面をマスクすることにより、外周面のみにゼオライト膜を成長させることができる。円柱状支持体の外周面に分離層を有する分離膜は、例えば、分離層に試料流体を供給し、分離層と支持体を通過して支持体の両端面から流出する目標物質を回収する分離方法に用いることができる。
【0038】
本発明の分離膜は形状選択性を要求される種々の分離方法に用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)の原料であるパラキシレンは、トルエンをゼオライト触媒に接触させる不均化反応により製造されているが、パラキシレンの選択性が十分ではないので、生成物を結晶化させて抽出している。しかし、本発明の分離膜を用いれば、キシレン分離膜を高純度で分離することができるので、結晶化及び抽出工程が不要となる。また、エタノール水溶液からの水とエタノールの分離や、空気からの窒素と酸素の分離等にも適用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1.
(分離膜の作製)
以下の組成を持つ原料組成物を調製し、353Kで乾燥させた。
SiO2:(C3H7)4NOH:(C3H7)4NBr:H2O=1:0.07:0.03:10(モル比)
得られた乾燥ゲル0.5gを粉砕し、49MPaの圧力をかけて直径1cm、厚さ5mmの円盤に成型してドライゲルを得た。このドライゲルを耐圧容器中、453Kで18時間、水0.5gの共存下で加熱することによりMFI型のシリカライトに転化させ、円盤形状のシリカライト支持体を得た。
【0040】
次に、シリカライト支持体をテフロン(登録商標)製の耐圧容器内に、容器に直接接触しないように固定した状態で、以下の組成を有するシリカライト膜作製用の原料組成物溶液中に浸漬し、453Kで100時間かけて水熱合成を行い、シリカライト支持体上にシリカライト膜を成長させた。
SiO2:(C3H7)4NOH:(C3H7)4NBr:H2O=1:0.25:0.25:125(モル比)
次に、耐圧容器から取り出したシリカライト支持体を、乾燥空気流中で4時間、773Kで焼成した。
【0041】
次に、シリカライト膜を有するシリカライト支持体を真空容器中で、773Kで2時間脱気した。次に、773Kの温度のまま、真空容器内にSi(OCH3)4蒸気(蒸気圧約3Torr)を導入して、シリカの蒸着を行った。このとき石英微小バネばかりを用いて重量増加をモニタした。蒸着時間を変えて試料を作製した。最後に、200Torrの酸素中で10時間焼成して、シリカライト膜上にシリカ膜を成長させた分離膜を得た。
【0042】
なお、分離膜の作製においては、熱ショックによる割れを避けるため、473K以上における加熱速度は常に1Kmin-1以下を保った。
【0043】
(透過速度の測定)
キシレン異性体の透過速度は、図2に示す測定装置を用いて473Kで測定した。測定装置は、分離膜を固定するとともに、測定対象ガスを供給及び排気する一対のステンレス管7,8からなる。ステンレス管7は、内管と外管の二重管からなり、内管から測定対象ガスを分離膜に供給し、外管から排気する。具体的には、上流側から混合ガス(各キシレン異性体を1.07mol%含み、残部は窒素ガス)を1atmで300cm3min-1流し、分離膜側を0.1Torr以下となるように真空ポンプで吸引し、分離膜を通過したガスを液体窒素でトラップし、その後ガスクロマトグラフにより分析した。
【0044】
(結果)
シリカ蒸着量と、パラキシレン、メタキシレン、オルトキシレンの透過速度、そして選択性を示すパラ/メタ比及びパラ/オルト比の値を表1に示す。シリカ蒸着量と、パラキシレン、メタキシレン、オルトキシレンの透過速度との関係を示すグラフを図3に示す。また、シリカ蒸着量と、パラ/メタ比及びパラ/オルト比との関係を示すグラフを図4に示す。
【0045】
シリカ膜が存在しない場合、キシレンの各異性体の透過速度は、2.39×1010〜2.80×1010 molPa-1m-2s-1であった。また、パラ/メタ比あるいはパラ/オルト比は低く、1.4前後であった。
【0046】
一方、シリカ膜を形成した場合、シリカの蒸着量とともにパラキシレン、メタキシレン及びオルトキシレンの透過速度は徐々に低下する傾向を示した。しかし、蒸着量が0.8wt%以上では、パラキシレンに比べ、メタキシレン及びオルトキシレンの透過速度が大きく低下した。そして、1wt%ではパラ/メタ比24、パラ/オルト比19の高い選択率が得られた。これは、シリカ膜によりシリカライト膜の細孔が均一に狭められたためと考えられる。
【0047】
表1.

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る分離膜の製造方法の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る分離膜のガス透過速度を測定するための装置の構造の一例を示す模式断面図である。
【図3】本発明の一実施例におけるシリカ蒸着量とパラキシレン、メタキシレン、オルトキシレンの透過速度との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施例におけるシリカ蒸着量と、パラ/メタ比及びパラ/オルト比との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0049】
1 円盤状ドライゲル
2 円盤状ゼオライト支持体
3 ゼオライト膜
4 ゼオライト粒子の堆積層
5 シリカ膜
6 分離層
7,8 石英管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体上に形成された分離層を有し、該分離層が上記多孔質支持体上に順次積層されたゼオライト膜とシリカ膜とからなる分離膜。
【請求項2】
上記ゼオライト膜が、MFI型シリカライトからなる請求項1記載の分離膜。
【請求項3】
上記多孔質支持体が、MFI型シリカライトからなる請求項2記載の分離膜。
【請求項4】
上記MFI型シリカライトが、ドライゲル転化法により調製されたものである請求項3記載の分離膜。
【請求項5】
多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜の表面に、CVD法によりシリカ膜を形成する分離膜の製造方法。
【請求項6】
上記ゼオライト膜がMFI型シリカライトからなり、上記ゼオライト膜を上記多孔質支持体上に水熱合成により形成する請求項5記載の分離膜の製造方法。
【請求項7】
上記多孔質支持体がMFI型シリカライトからなり、上記多孔質支持体をドライゲル転化法により調製する請求項5又は6に記載の分離膜の製造方法。
【請求項8】
多孔質支持体上に形成された分離層を有し、該分離層が上記多孔質支持体上に順次積層されたゼオライト膜とシリカ膜とからなる分離膜を用い、分離層に目標物質を含む試料流体を供給し、分離層及び多孔質支持体を通過した目標物質を回収する物質の分離方法。
【請求項9】
上記試料流体がキシレン異性体を含み、キシレン異性体からパラ異性体を分離する請求項8記載の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−203241(P2007−203241A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26951(P2006−26951)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】