説明

分離膜用洗浄剤及び洗浄方法

【課題】 本発明は、酸化剤を有効成分とする分離膜用の洗浄剤であって、更に洗浄力を高めた洗浄剤及び、これを用いる洗浄方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 酸化剤と化1の化学式(I)で表されるアザアダマンタン型ニトロキシルラジカルを含むことを特徴とする分離膜用洗浄剤。
【化1】


(但し、RおよびRは、水素原子または炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化剤とアザアダマンタン型ニトロキシルラジカルを含有する分離膜用洗浄剤及び、これを用いる分離膜の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、膜を用いる分離技術は、食品工業や医療分野、水処理分野等をはじめとして様々な方面で利用されている。分離膜にはその目的や用途によって精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、浸透気化膜等いくつかの種類があり、膜の形態も平膜型、管状型、中空糸型等様々である。
【0003】
ところで、分離膜を用いて濾過を行うと、被処理液中に懸濁している不溶解物や被処理液から析出する固形物が、分離膜の表面や内部に付着・堆積して目詰まり(ファウリング)を起こし、濾過流量の低下や膜間差圧の上昇が生じる等の問題があった。
【0004】
そこで、分離膜に付着・堆積する目詰まり物質を除去して、分離膜の濾過能力を回復する為の手段が種々提案されている。
例えば特許文献1には、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸やシュウ酸、クエン酸等の有機酸の水溶液で分離膜を洗浄した後、過酸化水素や次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤の水溶液で洗浄する方法が提案されている。
また特許文献2には、ヒポハライト(注:例えば次亜塩素酸、次亜臭素酸や、これらの塩)の酸化分解作用を増進して洗浄剤の洗浄力を高める為に、ヒポハライトと共に、
2,2,6,6−テトラ−メチルピペリジン−N−オキシル、
4−オキソ−2,2,6,6−テトラ−メチルピペリジン−N−オキシル、
4−ヒドロキシル−2,2,6,6−テトラ−メチルピペリジン−N−オキシル、
4,4−ジメチルオキサゾリジン−N−オキシルや、
2,2,5,5−テトラ−メチルピロリジン−N−オキシル等の環状ニトロキシルラジカルを触媒として使用する洗浄剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−307407号公報
【特許文献2】特表2000−511218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酸化剤を有効成分とする分離膜用の洗浄剤であって更に洗浄力を高めた洗浄剤及び、これを用いる分離膜の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、洗浄剤の有効成分である酸化剤の酸化分解作用を増進して洗浄剤の洗浄力を高める為に、酸化剤と共に化1の化学式(I)で示されるアザアダマンタン型ニトロキシラジカルを併用することにより、所期の目的を達成し得ることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
【化1】

(但し、RおよびRは、水素原子または炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を表す。)
【0009】
即ち、第1の発明は、酸化剤と化学式(I)で示されるアザアダマンタン型ニトロキシルラジカルを含有することを特徴とする分離膜用洗浄剤である。
第2の発明は、臭化物またはヨウ化物を含有することを特徴とする第1の発明に記載の分離膜用洗浄剤である。第3の発明は、第1の発明または第2の発明に記載の分離膜用洗浄剤を、分離膜と接触させることを特徴とする分離膜の洗浄方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、洗浄剤の有効成分である酸化剤が分離膜の目詰まり物質を化学的に酸化分解する際に、アザアダマンタン型ニトロキシルラジカルが触媒として作用するので、洗浄剤の洗浄力を高めることができる。この結果、分離膜に強固に付着・堆積した目詰まり物質の除去が促進される他、酸化剤の使用量を低減したり、洗浄時間を短くすることも可能となり、更には膜濾過装置への負荷が軽減され同装置の寿命を長くすることも期待される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の実施においては、酸化剤と前記の化学式(I)で示されるアザアダマンタン型ニトロキシラジカルまたは、これらと臭化物あるいはヨウ化物を溶媒に溶解させて洗浄剤を調製するが、溶媒としては水が好ましく使用され、有機溶剤や、有機溶剤と水の混合溶剤の使用も可能である。
【0012】
本発明の実施において使用される酸化剤としては、発生期の酸素を生成し、これにより酸化反応が進行するとされているものであれば特に制限なく使用可能であるが、例えば、
(a)酸素、オゾン、過酸化水素、二酸化マンガン;
(b)過マンガン酸ナトリウムや同カリウムなどの過マンガン酸塩、重クロム酸ナトリウムや同カリウムなどの重クロム酸塩;
(c)塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子;
(d)ClO、ClO2、Cl26、BrO2、Br37などのハロゲン酸化物;
(e)NO、NO2、N23などの窒素酸化物;
(f)次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、またはこれらのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩やマグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩;
(g)過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸水素ナトリウム、過硫酸水素カリウム、モノ過硫酸水素カリウム複塩(デュポン社製、商品名「OXONE」)等の過硫酸塩;
(h)過炭酸アンモニウム、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム等の過炭酸塩;
(i)過ホウ酸ナトリム一水塩、同四水塩等の過ホウ酸塩;
(j)硫酸ナトリウムやケイ酸ナトリウムの過酸化水素付加物、過リン酸塩;
(k)1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、1−ブロモ−3−クロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、3−ブロモ−1−クロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジクロロ−5−エチル−5−メチルヒダントイン等のハロゲン化ヒダントイン化合物;
(l)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸、トリブロモシアヌル酸、ジブロモシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、ジブロモイソシアヌル酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの水和物、ジクロロイソシアヌル酸カリウム等のハロゲン化イソシアヌル酸化合物、
(m)N−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド;
(n)トリクロロメラミン、トリブロモメラミン、N−クロロ−p−トルエンスルホンアミドのナトリウム塩(クロラミンT);
(o)過酢酸、ペルオキシ安息香酸、ペルオキシ−α−ナフトエ酸、ペルオキシラウリン酸、ペルオキシステアリン酸、フタルイミドペルオキシカプロン酸、1,12−ジペルオキシドデカン二酸、1,9−ジペルオキシアゼライン酸、ジペルオキシブラシル酸、ジペルオキシセバシン酸、ジペルオキシイソフタル酸、2−デシルジペルオキシブタン−1,4−ジオイン酸、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル、過フタル酸ナトリウム等の有機過酸化物などを好ましく使用することができ、これらから選択される2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
なお、これらの内、取り扱い易さや薬剤コストの観点から何れかを選択するならば、水溶液として市販されて安価に入手可能な次亜塩素酸ナトリウムが好ましく使用される。
洗浄剤中に含有する酸化剤の割合は、例えば有効塩素換算で、100〜10000mg/lの濃度が好ましく、500〜7500mg/lの濃度がより好ましい。この濃度が100mg/lより低い場合には、満足すべき洗浄力が得られず、10000mg/lより高くしても、使用量に見合う洗浄力が得られず、徒に薬剤コストが嵩むばかりである。
【0014】
本発明の実施において使用されるアザアダマンタン型ニトロキシラジカルは、前記の化学式(I)で示される物質であり、例えば、
2−アザアダマンタン−N−オキシル、
1−メチル−2−アザアダマンタン−N−オキシル、
1,3−ジメチル−2−アザアダマンタン−N−オキシル等を好ましく使用することができる。
【0015】
洗浄剤中に含有するアザアダマンタン型ニトロキシルラジカルの割合は、0.01〜150mg/lの濃度が好ましく、0.1〜30mg/lの濃度がより好ましい。
この濃度が0.01mg/lより低い場合には、満足すべき触媒効果が得られず、150mg/lより高くしても、使用量に見合う触媒効果が得られず、徒に薬剤コストが嵩むばかりである。
【0016】
本発明の実施において使用するアザアダマンタン型ニトロキシラジカルは、臭化物またはヨウ化物との共存下において、更に触媒効果を発揮し、洗浄剤の洗浄力を高めることができる。
この臭化物またはヨウ化物としては、水中で臭素またはヨウ素の陰イオンを発生する物質であれば特に限定されないが、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等を好ましく使用することができる。洗浄剤中に含有する臭化物またはヨウ化物の割合は、0.1〜1000mg/lの濃度が好ましく、1〜200mg/lの濃度がより好ましい。
この濃度が0.1mg/lより低い場合には、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルの更なる触媒効果を十分に発揮させることができず、1000mg/lより高くしても、使用量に見合う更なる触媒効果が得られず、徒に薬剤コストが嵩むばかりである。
【0017】
本発明の洗浄剤においては、界面活性剤、キレート剤や、pH調整剤として酸やアルカリを併用してもよい。
【0018】
本発明の洗浄剤を膜濾過装置に使用する分離膜と接触させることにより、分離膜の目詰まり物質が酸化分解し、分離膜の目詰まりを解消させることができる。
洗浄剤と分離膜を接触させる方法に特に制限はないが、例えば、浸漬または通液による接触方法が挙げられる。浸漬とは、分離膜を洗浄剤(液)に浸すことを指し、通液とは、通常の濾過運転と同様にして、分離膜に被処理液の代わりに洗浄液を通すことを指す。
なお、本発明の洗浄方法の実施前または実施後において、従来のアルカリ洗浄、酸洗浄、酵素洗浄などの化学的な手段による分離膜の洗浄や、エア−バブリング、超音波照射などによる物理的な手段による分離膜の洗浄を実施してもよい
【0019】
本発明の洗浄方法における洗浄条件、例えば洗浄温度、洗浄時間等は、洗浄しようとする分離膜の目詰まり度合い、目詰まり物質の種類や性質、また洗浄剤の洗浄力や寿命等に応じて、当業者が適宜決定すればよい。
【0020】
本発明は、膜濾過装置の種類や同装置が使われる分野に依らず、様々な仕様・型式や用途の分離膜に適応可能であるが、製造工程中に占める固液分離工程のウェイトが高く、種々の夾雑物に由来する目詰まり物質が確実に除去されて、風味や香りの如き高レベルの品質管理が求められる牛乳、乳製品、ビール、醤油、日本酒、焼酎、蜂蜜、果汁・野菜飲料等の食品製造分野において好適なものである。
【0021】
本発明を適用し得る分離膜としては、孔径のサイズによって分類される逆浸透膜、限外濾過膜、精密濾過膜や、形状の違いによって分類される平膜、中空糸膜、管状膜、袋状膜等、更には、それらの膜がケ−シング内やハウジングに固定されて、モジュール化されているようなものが挙げられるが、固液分離の為に使用されるものであれば特に限定されない。
【0022】
また分離膜の材質としては、例えばポリオレフィン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリカーボネート、ナイロン、ポリビニルアルコール、セルロース系、シリコン系、フッ素ポリマー系、セラミック等の材質が挙げられるが、特に限定されない。
【0023】
本発明の実施において使用するアザアダマンタン型ニロトキシラジカルは、従来知られている環状ニトロキシルラジカルに比べて構造が堅牢であることから、化学的に安定であり、その結果、環状ニトロキシルラジカルに比べて少量の使用であっても、高い触媒効果を発揮していると推測される。
その他、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルの環状ニトロキシルラジカルに対する優位点として、疎水性の目詰まり物質の内部への強い浸透力や、アルカリ領域での安定性なども期待される。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例において使用した原材料と評価試験方法は次のとおりである。
【0025】
[原材料]
・分離膜:旭化成ケミカルズ社製中空糸膜モジュール、商品名「マイクローザMFモジュールUMP−053」、材質ポリフッ化ビニリデン、内径2.6mm、公称孔径0.2μm、有効膜面積70cm
・無濾過ビール:麒麟麦酒社製、商品名「ザ・プレミアム無濾過」
・次亜塩素酸ナトリウム(NaOClと略記することがある):水溶液、和光純薬工業社製
・2−アザアダマンタン−N−オキシル(AZADOと略記する):和光純薬工業社製
・2,2,6,6−テトラ−メチルピペリジン−N−オキシル(TEMPOと略記する):シグマアルドリッチ社製
【0026】
[分離膜の洗浄試験]
イオン交換水を用いて、25℃/膜間差圧35kPaにて分離膜を水洗し、純水透過流束(PWFと略記する)を測定した(このPWFを使用前PWFと云う)。
続いて、この分離膜を膜濾過試験機に装着し、予め炭酸ガスを脱気した無濾過ビールを用いて、該ビールの循環濾過運転を30分間行った。その後、15分間水洗してPWFを測定した(このPWFを洗浄前PWFと云う)。
次いで、洗浄剤を膜濾過試験機内で循環させて分離膜の洗浄を行い、15分ごとにPWFを測定した(このPWFを洗浄後PWFと云う)。
前記の使用前PWF、洗浄前PWFおよび洗浄後PWFから、次式に従って洗浄回復率を算出し、表1に示した。なお、このパラメータは分離膜の濾過性の回復度合いを表し、数値が大きい程、洗浄剤の洗浄力が優れていると判定される。

洗浄回復率(%)=(洗浄後PWF−洗浄前PWF)/(使用前PWF−洗浄前PWF)

【0027】
〔実施例1〕
イオン交換水に次亜塩素酸ナトリウムとAZADOを溶解させて、各々が5000mg/l(有効塩素換算)と15mg/lの濃度で含有する洗浄剤を調製した。この洗浄剤を使用して分離膜の洗浄試験を行い、洗浄回復率を算出して、洗浄剤の洗浄力を評価した。得られた試験データは、表1に示したとおりであった。
【0028】
〔実施例2〜4〕
実施例1と同様にして、表1記載の組成を有する洗浄剤を調製し、分離膜の洗浄試験を行って、洗浄回復率を算出した。得られた試験データは、表1に示したとおりであった。
【0029】
【表1】

【0030】
〔比較例1〜3〕
実施例1と同様にして表2記載の洗浄剤を調製し、分離膜の洗浄試験を行って洗浄回復率を算出した。得られた試験データは、表2に示したとおりであった。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例2は、AZADOと共に臭化ナトリウム使用した例である。
実施例3〜4は、実施例1のAZADOの濃度を低くした例である。
比較例1および2は、実施例1および2のAZADOの代わりにTEMPOを使用した例である。
比較例3は、次亜塩素酸ナトリウムのみで触媒を使用しない例である。
【0033】
これらの試験結果によれば、AZADOが次亜塩素酸ナトリウムの酸化分解作用を増進する触媒効果は、TEMPOを使用した場合に比べて優れているものと認められる。更に、AZADOに臭化ナトリウムを併用した場合の触媒効果は、TEMPOに併用した場合に比べて優れているものと認められる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、洗浄力の優れた分離膜用洗浄剤および分離膜の洗浄方法を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤と化1の化学式(I)で示されるアザアダマンタン型ニトロキシルラジカルを含有することを特徴とする分離膜用洗浄剤。
【化1】


(但し、RおよびRは、水素原子または炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を表す。)
【請求項2】
臭化物またはヨウ化物を含有することを特徴とする請求項1記載の分離膜用洗浄剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の分離膜用洗浄剤を、分離膜と接触させることを特徴とする分離膜の洗浄方法。


【公開番号】特開2011−194315(P2011−194315A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63420(P2010−63420)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000180302)四国化成工業株式会社 (167)
【Fターム(参考)】