説明

切刃付き容器およびその製造方法

【課題】切刃の端寄りの部位を容器本体に固定しても、容器から切刃を引き剥がし易くする。
【解決手段】紙製の容器本体10と切刃20とを備え、切刃20は容器本体10から剥離方向に剥がすことが可能であり、固定するための複数の固定部22を有する。これらの固定部22は、間隔をほぼ等しくする中央領域の固定部と、切刃20の端20bからその端20bに最も近い最近接の固定部22(1)までの距離が前記間隔よりも短い最近接の固定部22(1)を少なくとも含む両側の端部領域F1の固定部とからなり、そのうちの少なくとも一方の端部領域F1に含まれる固定部20(1)が、4つの三角片23、24、25、26のうち剥離方向Dの端に近い1つの三角片26を他の3つの三角片よりも食い込み深さを浅くすることにより、剥離方向の端20bに近い2つの三角片25、26の引き抜き強度を、端20bから遠い2つの三角片23、24の引き抜き強度よりも小さくするように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば軸部材に巻回した樹脂フィルムを内蔵するとともに、解いた樹脂フィルムを切断する切刃を備えた切刃付き容器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上述した切刃付き容器は、内蔵する樹脂フィルムが無くなると廃棄される。その廃棄に際して、リサイクルにより省資源化を図るべく紙製容器本体から金属製切刃を分離している。その分離の仕方として、切刃が固定された紙製容器本体の一部を、切刃と一緒に紙製容器本体から切り落す方式が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−171177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した提案方式による場合には、金属製切刃を紙製容器本体の一部と一緒に廃棄することになるため、切刃と容器本体の一部との材質分離が不十分でリサイクル上問題があった。そこで、金属製切刃のみを紙製容器本体から引き剥がすことが考えられる。これにより、紙と金属とを完全に分離させることが可能になる。
【0005】
しかしながら、金属製切刃の長手方向に一定間隔をあけてカシメ固定部を形成し、そのカシメ固定部で紙製容器本体の縁に切刃を固定する場合にあっては、切刃の長手方向の端が容器本体から浮き上がるのを防止するために切刃の端寄りの部位にカシメ固定部を配設するので、切刃の端を把持して切刃を容器本体から引き剥がすとき、剥がし開始時において引き剥がし強度が大きくなり、引き剥がし難くなる虞があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、切刃の端寄りの部位を容器本体に固定しても切刃を引き剥がし易くすることができる切刃付き容器およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の切刃付き容器は、巻回した樹脂フィルムを内蔵する紙製の容器本体と、その容器本体のフィルム引出し口の縁部近傍であって引出し口の縁に沿う状態で剥離可能に設けられ、所望長さ分だけ引出した樹脂フィルムを切断する切刃とを備え、前記切刃は、ほぼ一定幅の薄肉金属板であって、容器本体から離れるように引くことにより引出し口の縁に沿う剥離方向に剥がすことが可能であり、前記剥離方向に沿って設けられていて容器本体へ固定するための複数の固定部を有し、これらの固定部が、隣り合うもの同士の間隔をほぼ等しくする中央領域の固定部と、前記切刃の剥離方向の端からその端に最も近い最近接の固定部までの距離が前記中央領域における前記間隔よりも短い当該最近接の固定部を少なくとも含む両側の端部領域の固定部とからなり、各固定部のそれぞれが、前記金属板をクロス状に切断して折り曲げてなる4つの三角片を、前記剥離方向の上流側と下流側とにそれぞれ2つずつ配した状態に有するとともに、前記4つの三角片のそれぞれが、前記クロス状に切断された交点に対応する頂点部分を容器本体に食い込ませて折り返された構成であって、前記両側の端部領域のうちの少なくとも一方の端部領域に含まれる固定部が、前記4つの三角片のうち前記剥離方向の端に近い1つの三角片を他の3つの三角片よりも食い込み深さを浅くすることにより、前記剥離方向の端に近い2つの三角片の引き抜き強度を、前記端から遠い2つの三角片の引き抜き強度よりも小さくするように形成されていることを特徴とする。本発明による場合には、少なくとも一方の端部領域において、切刃の剥離方向の端に最も近い最近接の固定部から前記切刃の端までの距離が短くても、その固定部では前記端に近い2つの三角片の引き抜き強度が、端から遠い2つの三角片の引き抜き強度よりも小さいので、前記端部領域から剥離させていくと、その端部領域における固定部の容器本体からの引き剥がし強度を小さくすることが可能になり、切刃の端寄り部位を容器本体に固定しても、容器から切刃を引き剥がし易くすることができる。
【0008】
ここで、引き抜き強度とは、三角片を容器本体から垂直方向に引き抜くときに要する力をいい、引き剥がし強度とは、切刃の長手方向の端を把持して切刃を引き剥がすときに要する力をいう。
【0009】
この構成の切刃付き容器において、前記端部領域の固定部には、前記最近接の固定部の他に、その最近接の固定部に対する離隔距離が前記最近接の固定部と前記端との間隔よりも長く、前記中央領域における前記間隔よりも短い、1または2以上の固定部も含まれ、当該固定部が前記最近接の固定部と同様な構成にすることができる。この構成にあっても、容器から切刃を引き剥がし易くすることができる。
【0010】
この構成の切刃付き容器において、前記両側の端部領域は、各端部領域の固定部が、前記4つの三角片の食い込み深さの形態を対称にして形成されていて、前記剥離方向を正逆2方向とする引き剥がしに対応する構成としてもよい。この構成による場合には、切刃の一方の端から引き剥がしても、切刃のもう一方の端から引き剥がしても、切刃を引き剥がし易くすることができる。
【0011】
この構成の切刃付き容器において、前記端に近い2つの三角片のうち、食い込み深さが浅い方の三角片がもう一つの三角片よりも前記切刃の刃先に近い側に配されている構成にすることが好ましい。この構成による場合には、フィルムを切断する際に、引出し口の縁を支点として刃先から遠い側に配されている三角片に、フィルムを引っ張る力が大きく作用するが、刃先から遠い側に食い込み深さが大きい三角片を配し、刃先に近い側に食い込み深さが浅い方の三角片を配しておくことで、フィルム切断に伴って切刃が容器本体から剥離するのを防止することが可能になる。
【0012】
本発明の切刃付き容器の製造方法は、先端が四角錐状に尖っていて、4つの傾斜面のうちの1つが他の3つよりも軸心に対する傾斜角を小さくしたピンを用い、前記端部領域に含まれる固定部を形成するとともに、前記ピンの前記傾斜角が小さい傾斜面で前記食い込み深さの浅い前記三角片を形成することを特徴とする。この発明による場合には、食い込み深さの浅い前記三角片を簡単に形成することが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による場合には、少なくとも一方の端部領域において、切刃の剥離方向の端に最も近い最近接の固定部から前記切刃の端までの距離が短くても、その固定部では前記端に近い2つの三角片の引き抜き強度が、端から遠い2つの三角片の引き抜き強度よりも小さいので、前記端部領域から剥離させていくと、その端部領域における固定部の容器本体からの引き剥がし強度を小さくすることが可能になり、切刃の端寄り部位を容器本体に固定しても、容器から切刃を引き剥がし易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る切刃付き容器を示す外観斜視図、(b)は(a)のH−H線による断面図である。
【図2】図1の切刃付き容器の展開図である。
【図3】切刃の固定状態を示す図である。
【図4】切刃の引き剥がし状態の説明図である。
【図5】図3における切刃の右側端部を示す図である。
【図6】図3における切刃の左側端部を示す図である。
【図7】切刃の右側端部領域に含まれる固定部を示す図である。
【図8】切刃の左側端部領域に含まれる固定部を示す図である。
【図9】切刃の固定部を形成するピンを示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図10】図9のピンの先端部の説明図(拡大図)である。
【図11】図9のピンによる端部領域に含まれる固定部の形成過程を示す図である。
【図12】図11に示すようにして形成された三角片のかしめ過程を示す図である。
【図13】本発明の一実施形態による場合に切刃を容器から引き剥がし易くすることができる理由の説明図である。
【図14】中央領域に含まれる固定部で、4つの三角片を全て同一条件で形成したものを示す図である。
【図15】本発明の一実施形態による場合における切刃の引き剥がし強度の変化を示す図で、(a)は正方向に引き剥がしたとき、(b)は逆方向に引き剥がしたときである。
【図16】従来技術における切刃の引き剥がし強度の変化を示す図である。
【図17】図2に示す切刃付き容器の製造ラインの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態につき具体的に説明する。
【0016】
図1(a)は本発明の一実施形態に係る切刃付き容器を示す外観斜視図、図1(b)は(a)のH−H線による断面図であり、図2は図1の切刃付き容器の展開図、図3は切刃の固定状態を示す図、図4は切刃の引き剥がし状態の説明図、図5は図3における切刃の右側端部を示す図、図6は図3における切刃の左側端部を示す図、図7は切刃の固定部を示す図である。なお、図1では、切り取り部Eを切り取った状態を表している。
【0017】
この切刃付き容器1は、軸部材2に巻回した樹脂フィルム3を内蔵する紙製の容器本体10と、樹脂フィルムを切断する切刃20とを備える。容器本体10は、図示例では、5つの広面10a、10b、10c、10d、10eのうち、2つの広面10a、10eが互いに対向しかつ貼着されている。また、一方の広面10aの内面側には切刃20が取付けられるとともに、広面10aの切刃20よりも外側が切り取り部Eとなっている(図2参照)。そして、使用するに際して、図1に示すように、切刃20の刃先21を露出させるべく、前記切り取り部Eが切り取られる。また、切り取り部Eの切り取りにより、切刃20の刃先21が露出するとともに容器本体10が開封される。その開封により、前記2つの広面10a、10eの間に、フィルム3を引き出すための引出し口11が形成される。
【0018】
前記切刃20は、ほぼ一定幅の薄肉金属板、例えばブリキ板であって、引出し口11の縁(切り取り部Eが切り取られた後の広面10aの端)11aに沿って設けられ、切刃20の長さは引出し口11の縁11aの長さよりも少し短くなっている。前記刃先21は引出し口11から少し露出(突出)させてあって、引出し口11から引き出したフィルム3を切断し得るように構成されている。
【0019】
前記切刃20は、容器本体10へ固定するための複数の固定部22を有するとともに(図3参照)、容器本体10から離れるように引き剥がすことが可能である。本実施形態における切刃20は、図4に示すように、引出し口11を開いて切刃20を上向きかつ手前側にした状態で右方から左方へ向かう方向Dに切刃20の全体を引き剥がすことができ、また方向Dとは反対方向にも切刃20の全体を引き剥がすことができるように構成しているが、以下においては、方向Dを剥離方向Dとして説明する。
【0020】
上記固定部22は、図3に示すように剥離方向Dに沿って、例えば20個設けられている。一方(右方)の端20bから1番目の最近接の固定部22(1)は、端部領域F1の固定部を構成し、もう一方(左方)の端20cから1番目の最近接の固定部22(20)は、端部領域F2の固定部を構成する。また、端20bから2番目の固定部22(2)より端20cから2番目の固定部22(19)までのものは、中央領域Gの固定部を構成し、この中央領域Gの固定部は、隣り合う固定部の中心間の間隔K1をほぼ等しくするように同一ピッチで形成されている。なお、固定部22の括弧内の数字は、端20bからの順番を示すものである。
【0021】
一方、端部領域F1の固定部22(1)は、その中心と固定部22(2)の中心との間隔K2が中央領域Gにおける間隔K1よりも小さく、端20bから固定部22(1)の中心までの離隔距離K3が前記間隔K2よりも更に小さく設定されている。また、端部領域F2の固定部22(20)は、その中心と固定部22(19)の中心との間隔K4が中央領域Gにおける間隔K1よりも小さく、端20cから固定部22(20)の中心までの離隔距離K5が前記間隔K4よりも更に小さく設定されている。なお、固定部22の中心とは、後述する交点Oに相当する位置であり、矩形領域Aの中心である。また、間隔K2と離隔距離K3との和は間隔K1にほぼ等しく、間隔K4と離隔距離K5との和は間隔K1にほぼ等しくなっている。
【0022】
図5に示す端部領域F1の固定部22(1)と、図6に示す端部領域F2の固定部22(20)とは、線対称に形成されている。その対称軸は、切刃20の剥離方向Dの中央位置にあって、剥離方向Dとは垂直な線である。
【0023】
また、端部領域F1の固定部22(1)は、図7に示すように、矩形領域Aを2つの対角線B1、B2でクロス状に交差するように切断して設けられた4つの三角片23、24、25、26を有し、剥離方向Dの上流側(端20bに近い側)には三角片25、26が、下流側(端20bから遠い側)には三角片23、24がそれぞれ2つずつ配されている。前記4つの三角片23、24、25、26のそれぞれは、図5および図7に示すように前記2つの対角線B1、B2の交点Oに対応する頂点部分23a、24a、25a、26aを交点Oとは反対側に向け、紙製の容器本体10に食い込むように折り返されるとともに、前記4つの三角片23〜26のうちの1つであって端20bに近いもの26が、他の3つの三角片23〜25よりも食い込み深さを浅くなしている。そして、その食い込み深さが浅い三角片26を有する上流側(端20bに近い側)の2つの三角片25、26の引き抜き強度が、下流側(端20bから遠い側)の2つの三角片23、24の引き抜き強度よりも小さくなっている。なお、上記2つの三角片25、26(または23、24)の引き抜き強度とは、剥離方向Dに引き剥がしていくとき、一緒に引き剥がされる2つの三角片25、26(または23、24)についての引き抜き強度である。また、上記食い込みについては、後述する。
【0024】
一方、端部領域F2の固定部22(20)は、固定部22(1)とは対称に構成されている。すなわち、固定部22(20)は、図8に示すように、矩形領域Aを2つの対角線B1、B2でクロス状に交差するように切断して設けられた4つの三角片23、24、25、26を有し、剥離方向Dの上流側(端20cから遠い側)には三角片23、24が、剥離方向Dの下流側(端20cに近い側)には三角片25、26がそれぞれ2つずつ配されている。前記4つの三角片23、24、25、26のそれぞれは、図6および図8に示すように前記2つの対角線B1、B2の交点Oに対応する頂点部分23a、24a、25a、26aを交点Oとは反対側に向け、紙製の容器本体10に食い込むように折り返されるとともに、前記4つの三角片23〜26のうちの1つであって端20cに近いもの26が、他の3つの三角片23〜25よりも食い込み深さを浅くなしている。そして、その食い込み深さが浅い三角片26を有する下流側(端20cに近い側)の2つの三角片25、26の引き抜き強度が、上流側(端20cから遠い側)の2つの三角片23、24の引き抜き強度よりも小さくなっている。
【0025】
このような構成の4つの三角片23〜26は、図9及び図10に示すピン30により図11に示すような「切り起こし」と、図12に示すような容器本体10への「かしめ」とにより形成される。
【0026】
ピン30は、断面が矩形状、本実施形態では正方形状の金属棒の先端(上端)が四角錐状に尖った切起部(先端部)31を有し、4つの切起面33、34、35、36を備える。ここで、ピン30を切刃の素材に刺し通すことにより、切起面33と切起面34の間の峰37cと、切起面35と切起面36の間の峰37dとが、前記対角線B1の箇所を切断し、切起面34と切起面35の間の峰37bと、切起面36と切起面33の間の峰37aとが、前記対角線B2の箇所を切断する。この切断に伴って切起面33により三角片23が形成され、切起面34により三角片24が、切起面35により三角片25が、切起面36により三角片26がそれぞれ形成される。
【0027】
上記ピン30は、切起面36の軸心Mに対する第1傾斜角θ1を、同じ角度である他の3つの切起面33、34、35の軸心Mに対する第2傾斜角θ2よりも小さくしている(図10参照)。なお、図10中の二点鎖線は第2傾斜角θ2と同じ角度を表している。よって、切起面36の長さL1が、他の3つの切起面33、34、35の長さL2よりも長くなっている。また、第1傾斜角θ1は24゜〜29゜の範囲内で選ばれ、第2傾斜角
θ2は、第1傾斜角θ1よりも2゜以上大きく、かつ26゜〜32゜の範囲内で選ばれる。
【0028】
また、軸心M上の位置から、その位置を通る軸心Mに対する垂線が切起面36を横切る位置までの距離N1が、同じ軸心M上の位置から、その位置を通る軸心Mに対する垂線が切起面34を横切る位置までの距離N2よりも小さくなる。
【0029】
図11は、このピン30による切り起こし過程を示し、(a)は初期状態を、(b)は途中状態を、(c)は終盤状態を、(d)は最終的に三角片が形成された状態を示す。なお、図11の左側は三角片26の形成過程を表し、同右側は三角片24の形成過程を表す。
【0030】
図11(a)の初期状態では、矩形領域Aの中心である交点Oに、対角線B1、B2に沿った十字状(クロス状)の切り目が形成される。
【0031】
続いて、図11(b)の途中状態では、ピン30の進入に伴って対角線B1、B2に沿った十字状の切り目が徐々に大きくなる。つまり、形成途中の三角片26の大きさと、形成途中の三角片24の大きさが徐々に大きくなる。このとき、前記距離N1が距離N2よりも小さいので、図右側の形成途中の三角片24に対して図左側の形成途中の三角片26はサイズ的に小さく、カーブ(曲がり)が大きい。
【0032】
続いて、図11(c)の終盤状態では、切起面34の終端での切り起こしがほぼ終了しているものの、切起面36ではその後においても切り起こしが続行される状態となっている。つまり、図右側の三角片24はそれ以上大きくなることがないが、図左側の三角片26はこのタイミングでは形成途中であって、対角線B1、B2に沿った十字状の切り目が更に形成されるために、これ以降においても大きくなる。
【0033】
続いて、図11(d)の最終状態では、図右側の三角片24は少し外側(矩形領域Aの外側)に倒れ加減となった切り起こし姿勢になり、図左側の三角片26は三角片24よりも大きく外側に倒れた状態の切り起こし姿勢になる。その後、ピン30は引き抜かれる。上述の三角片26の切り起こし姿勢の傾きは、切起面36の角度、つまり第1傾斜角θ1の大きさに基づいて決まり、一方の三角片24の切り起こし姿勢の傾きは、切起面34の角度、つまり第2傾斜角θ2の大きさに基づいて決まる。よって、三角片26を三角片24よりも大きく外側に倒れた状態の切り起こし姿勢にすべく、第1傾斜角θ1を第2傾斜角θ2よりも小さくしている。
【0034】
なお、他の2つの三角片23、25は、三角片26に近い部分では三角片26の影響を受け、三角片24に近い部分では三角片24の影響を受けるため、三角片26寄りの部分と三角片24寄りの部分とで形状が少し異なるものの、三角片23と三角片25は軸心Mを通る対称面を挟んで面対称に形成される。また、三角片23と三角片25の切り起こし姿勢は、三角片24にほぼ近い状態に形成される。
【0035】
図12に、切刃に対して容器本体を相対的に接近させ、容器本体に対して三角片をかしめる過程を示す。なお、この図12では、便宜上、三角片26と24をかしめる場合を示す。この図において、(a)、(c)、(e)は三角片26をかしめる場合で、(b)、(d)、(f)は三角片24をかしめる場合である。また、(b)は容器本体10に三角片24が当接した状態を表し、(a)は三角片24が容器本体10に当接したタイミングにおける三角片26の状態を表し、(c)、(d)はかしめの途中状態を表し、(e)、(f)はかしめが終了した状態を表している。また、容器本体の切刃とは反対側(図12の上側)には、図示しない押し当て部材が押し当てられている。
【0036】
この図12より理解されるように、(a)、(b)に示すように、容器本体10に三角片24が当接したとき、三角片24よりも大きく倒れた切り起こし姿勢の三角片26は容器本体10との間に隙間がある。その後、容器本体10と切刃とを接近させると、その接近に伴って三角片24が徐々に外側に倒れていき、容器本体10に三角片24の先端が食い込んでいく((d)参照)。このように三角片の先端が容器本体10の中を通ることを食い込みといい、図12中の12が食い込み部分である。一方、始めから三角片24よりも大きく倒れた切り起こし姿勢の三角片26は、その先端が容器本体10へ向かずに容器本体10に若干平行な状態に近づいて容器本体10に食い込み始める。このとき、三角片26の方が三角片24よりも容器本体10に平行に近いので、三角片26の容器本体10への食い込み深さが三角片24の場合よりも極めて浅い状態になる。したがって、かしめが終了した状態において、三角片24は容器本体10への食い込み深さが大きく(食い込み部分12の量が大きく)、引き抜き強度が大きい。一方の三角片26は、容器本体10への食い込み深さが浅く(食い込み部分12の量が小さく)、引き抜き強度が小さい。なお、説明は省略するが、三角片23、25の容器本体10への食い込み深さは、三角片24の容器本体10への食い込み深さよりも小さく、三角片26の容器本体10への食い込み深さよりも大きくなり、三角片23、25の引き抜き強度は、三角片24の引き抜き強度と、三角片26の引き抜き強度との間の値になる。
【0037】
したがって、剥離方向Dの上流側に位置する端部領域F1では、図13に示すように同一の固定部22(1)において、端20bから三角片25、26までの距離は前記離隔距離K3よりも少し短く、端20bから三角片23、24までの距離は前記離隔距離K3よりも少し長くなっていても、端20bに近い2つの三角片25、26の引き抜き強度Yを、端20bから遠い2つの三角片23、24の引き抜き強度Y1に対して小さくしているので、三角片25、26の引き剥がし強度X1と三角片23、24の引き剥がし強度X2をほぼ同じ値にすることが可能になる。
【0038】
よって、切刃20の端20b寄りの部位を固定部22(1)で固定しても、従来技術の場合とは異なり、前記固定部22(1)を小さな引き剥がし強度で引き剥がすことが可能になる。即ち、従来技術の場合には、剥離方向上流側の端(端20bに相当)に近い固定部では、その端に近い2つの三角片の引き抜き強度と、前記端から遠い2つの三角片の引き抜き強度とが同一になるため、端に近い2つの三角片を引き剥がすときに、剥離方向上流側の端から支点までの距離が短いため、大きな引き剥がし強度を要することになるが、本実施形態では、端20bに近い2つの三角片25、26の引き剥がし強度を、端20bから遠い2つの三角片23、24の引き剥がし強度と同等の小さな力にすることができるからである。なお、図13中の支点1は、2つの三角片25、26を引き剥がすときの支点を示し、同支点2は2つの三角片23、24を引き剥がすときの支点を示す。
【0039】
一方、中央領域Gの固定部22(2)〜22(19)においては、図14に示すように各固定部の4つの三角片27を全て、同じ傾斜角度の図示しないピン(30A)を用いて、同一の状態になるように形成した。また、中央領域Gのいずれの固定部22でも同じ構成となるようにした。
【0040】
図15(a)は、本実施形態の切刃付き容器1において、切刃20を剥離方向Dに引き剥がした場合のグラフであり、10個のサンプルを検査対象としており、同(b)は切刃20を剥離方向Dとは逆の方向に引き剥がした場合のグラフであり、同じく10個のサンプルを検査対象としている。また、図16は、従来技術の切刃付き容器において、切刃を剥離方向Dに引き剥がした場合のグラフであり、29個のサンプルを検査対象としている。
【0041】
なお、図15、図16中の縦線は測定値のバラツキを示し、縦線の上端と下端に付した横線は最大値と最小値を示す。また、図16のグラフが得られた従来技術の切刃付き容器は、本実施形態の切刃付き容器1と同じ個数、同じ位置関係に固定部を配置したもので、各固定部を構成する4つの三角片が同じ引き抜き強度となるように構成されている。
【0042】
図15(a)および図16から理解されるように、従来技術の切刃付き容器においては、切刃を剥離方向に引き剥がすとき、その開始時に非常に大きい引き剥がし強度を必要とするが、本実施形態の切刃付き容器1においては、切刃20を剥離方向Dに引き剥がすとき、その開始時に引き剥がし強度を小さくすることができる。また、本実施形態の切刃付き容器1においては、引き剥がし強度のバラツキを小さくすることができる。更に、本実施形態の切刃付き容器1においては、端部領域F1とF2に関し、固定部22の形態を線対称に形成しているので、図15(b)から理解されるように、剥離方向Dとは逆の方向に引き剥がすときも、その開始時に引き剥がし強度を小さくすることができる。
【0043】
なお、上述した実施形態では、切刃の引き剥がしを剥離方向Dとそれとは逆の方向の2方向を想定した構成としているが、本発明はこれに限らず、切刃の引き剥がしを剥離方向Dまたは剥離方向Dとは逆の方向の1方向を想定した構成としてもよい。その場合には、引き剥がしを行う方向の上流側における端部領域の固定部では、4つの三角片のうち、端に近い側の2つの三角片の引き抜き強度を小さく、端から遠い側の2つの三角片の引き抜き強度を大きくする構成が要求されるが、引き剥がしを行う方向の下流側の端部領域の固定部に関しては、中央領域Gの固定部と同様の構成などにしてもよい。
【0044】
図17は、上述した切刃付き容器1の製造ラインを示す模式図である。
【0045】
紙から所定の形状に形成された容器本体10を搬送する第1ライン40と、巻回されたブリキコイル41を解きつつ第1ライン40の下側に配した切断機42に逆方向から導く第2ライン43と、ブリキコイル41の幅方向の片方の端部に貼着される樹脂テープ44を、第2ライン43の切断機42よりも上流側に案内する第3ライン45とを備える。上記樹脂テープ44は、図2及び図4に示すように切刃20の片端に取付けてあり、これを把持して切刃を引き剥がすためのものである。切断機42は一定高さ位置に設けた固定刃42aと、昇降可能に設けた移動刃42bとを有して構成され、移動刃42bは昇降部材46により昇降される。また、昇降部材46における第2ライン43の搬送方向上流側に、ブリキコイル41の幅方向に複数のピン30が設けられていて、これら複数のピン30は、昇降台47の上に一列に配置されている。このとき、端部領域F1、F2の固定部22の形成には前記ピン30を用い、中央領域Gの固定部22の形成には前記ピン30Aを用いた。
【0046】
この製造ラインにあっては、第2ライン43により搬送されてきたブリキコイル41の先端部に、昇降台47を上昇させてピン30によりブリキコイル41の幅方向に複数の固定部を形成する。この段階では、各固定部の4つの三角片は切り起こされた状態にまで形成されている。続いて、ブリキコイル41を少し送り出して、昇降部材46を上昇させて切断機42によりブリキコイル41を切断し、切刃20を作製する。固定刃42aと移動刃42bには、ギザギザ状の刃先21を形成する刃が設けられている。続いて、昇降部材46を更に上昇させる。この上昇以前に、第1ライン40により搬送された所定の形状の容器本体10が第1ライン40に設けたストッパ48により所定位置に止められていて、上記昇降部材46の上昇により、固定部の4つの切り起こされた状態の三角片をかしめる。上記ストッパ48は、容器本体10を前記所定位置に止めるときに降下し、その他のときは上昇する。第1ライン40におけるライン上側には、ストッパ48で止められた容器本体10を上側から押し当てる前述した押し当て部材49が設けられている。
【0047】
この製造ラインにより、本実施形態の切刃付き容器1を連続して製造することが可能になる。
【0048】
また、本実施形態では、図3に示したように、端20bに近い2つの三角片25、26のうち、食い込み深さの浅い三角片26が、もう一つの三角片25よりも切刃20の刃先21に近い側に配されている。この理由は、フィルム3を切断する際に、刃先21にフィルム3を切断する力が作用するが、その力が、引出し口11の縁11aを支点として各々の三角片23、24、25、26に対し引き抜く力として作用するので、刃先21から遠い側に食い込み深さが最も大きい三角片24を配し、刃先21に近い側に食い込み深さが浅い三角片26を配しておくことで、フィルム切断に伴って切刃20が容器本体10から外れるのを防止することが可能になるからである。
【0049】
なお、上述した実施形態では、端部領域F1、F2に1つの固定部が含まれる構成としているが、本発明はこれに限らず、2または3以上としてもよい。この構成において、端部領域F1または端部領域F2に含まれる固定部の形態は、最近接の固定部22(1)または22(20)と同様な構成、つまり端に近い2つの三角片の引き抜き強度が、端から遠い2つの三角片の引き抜き強度よりも小さい構成とされる。このように端部領域F1または端部領域F2の複数の固定部が含まれていても、剥離方向上流側での切刃の引き剥がしを容易にできる。
【0050】
また、上述した実施形態では、図9に示すように概略四角錐状に尖っている切起部(先端部)31に繋がる部分の四隅に位置する角部32を丸く形成しているが、その理由は、以下の通りである。即ち、このピン30による場合には、図7、図8、図14等に示すように、形成された固定部22の上流側と下流側との最小幅の部分28が円弧状になり、その円弧状の部分28で切刃20に屈曲が発生し難くすることが可能になるからである。
【0051】
更に、上述した実施形態ではピン30に、断面が正方形状のものを用いているが、本発明は正方形状に限らず、断面が矩形状などであってもよい。また、断面が円形で、先の尖った先端部が軸心に対してθ1、θ2で傾斜した切起面33〜36を有するピンを用いてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 切刃付き容器
3 樹脂フィルム
10 容器本体
11 引出し口
20 切刃
21 刃先
22 固定部
23、24、25、26 三角片
30 ピン
D 剥離方向
O 交点
θ1 第1傾斜角
θ2 第2傾斜角
M 軸心
X1、X2 引き剥がし強度
Y、Y1 引き抜き強度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻回した樹脂フィルムを内蔵する紙製の容器本体と、その容器本体のフィルム引出し口の縁部近傍であって引出し口の縁に沿う状態で剥離可能に設けられ、所望長さ分だけ引出した樹脂フィルムを切断する切刃とを備え、
前記切刃は、ほぼ一定幅の薄肉金属板であって、容器本体から離れるように引くことにより引出し口の縁に沿う剥離方向に剥がすことが可能であり、前記剥離方向に沿って設けられていて容器本体へ固定するための複数の固定部を有し、これらの固定部が、隣り合うもの同士の間隔をほぼ等しくする中央領域の固定部と、前記切刃の剥離方向の端からその端に最も近い最近接の固定部までの距離が前記中央領域における前記間隔よりも短い当該最近接の固定部を少なくとも含む両側の端部領域の固定部とからなり、
各固定部のそれぞれが、前記金属板をクロス状に切断して折り曲げてなる4つの三角片を、前記剥離方向の上流側と下流側とにそれぞれ2つずつ配した状態に有するとともに、前記4つの三角片のそれぞれが、前記クロス状に切断された交点に対応する頂点部分を容器本体に食い込ませて折り返された構成であって、
前記両側の端部領域のうちの少なくとも一方の端部領域に含まれる固定部が、前記4つの三角片のうち前記剥離方向の端に近い1つの三角片を他の3つの三角片よりも食い込み深さを浅くすることにより、前記剥離方向の端に近い2つの三角片の引き抜き強度を、前記端から遠い2つの三角片の引き抜き強度よりも小さくするように形成されていることを特徴とする切刃付き容器。
【請求項2】
請求項1に記載の切刃付き容器において、
前記端部領域の固定部には、前記最近接の固定部の他に、その最近接の固定部に対する離隔距離が前記最近接の固定部と前記端との間隔よりも長く、前記中央領域における前記間隔よりも短い、1または2以上の固定部も含まれ、当該固定部が前記最近接の固定部と同様な構成となっていることを特徴とする切刃付き容器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の切刃付き容器において、
前記両側の端部領域は、各端部領域の固定部が、前記4つの三角片の食い込み深さの形態を対称にして形成されていて、前記剥離方向を正逆2方向とする引き剥がしに対応する構成であることを特徴とする切刃付き容器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の切刃付き容器において、
前記端に近い2つの三角片のうち、食い込み深さが浅い方の三角片がもう一つの三角片よりも前記切刃の刃先に近い側に配されていることを特徴とする切刃付き容器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の切刃付き容器を製造する方法であって、
先端が四角錐状に尖っていて、4つの傾斜面のうちの1つが他の3つよりも軸心に対する傾斜角を小さくしたピンを用い、前記端部領域に含まれる固定部を形成するとともに、前記ピンの前記傾斜角が小さい傾斜面で前記食い込み深さの浅い前記三角片を形成することを特徴とする切刃付き容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−12104(P2012−12104A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152839(P2010−152839)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000177911)山下印刷紙器株式会社 (12)
【Fターム(参考)】