説明

切削工具

【課題】工具本体の係合溝に対して切削用チップを強固に備えた切削工具を構成する。
【解決手段】工具本体1の長手方向に沿って溝状に形成された切屑ポケット2から切削反力の作用方向に複数の係合溝10を形成する。この係合溝10は、溝底部の溝幅が開口縁の溝幅より広いアリ溝状であり、かつ、開口縁の始端部より終端部が幅狭となる先窄まりの形状に成形する。この係合溝10に対して断面形状が台形となる周面チップAを係合支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状の工具本体の係合溝に対して切削用チップを嵌め込む形態で備え、回転軸芯周りでの回転により切削を行う切削工具に関し、詳しくは、工具本体に対して切削用チップを取り付ける技術に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された切削工具として特許文献1には、カッターボディに対して切削用チップ(文献中ではスローアウェイチップ)を支持するチップ取付座が切屑ポケットに隣接して形成した構成が示されている。このチップ取付座は平面状に形成され、チップ取付座の両側壁面の開放端を内側に閉じる傾斜姿勢に形成することでアリ溝が構成されている。切削用チップは、かまぼこ状であり、両側の端面を両側壁面と同じ傾斜状に形成し、これをチップ取付座に挿入し、カッターボディのねじ孔に螺合する止めネジの頭部を、切削用チップの側面に係合させることで抜け止めを行う構成が示されている。
【0003】
特許文献1と同様にアリ溝に切削用チップを備えたものとして特許文献2には、カッターボディの外面で長手方向に沿う領域に、溝底より外周面側の開口へ向かって狭幅になる断面形状のアリ溝状のブレード取付溝を形成し、これに対して切削用チップ(文献では切刃チップ)を有するブレードを挿入する構成が示されている。この特許文献2では、ブレードはブレード取付溝に挿入可能となる台形の断面形状を備えており、ブレードのねじ孔に貫通するクランプねじの先端をブレード取付溝の溝底に突き当てブレードが取付溝の両内壁面に強固にクランプされる点が記載されている。
【0004】
また、工具本体に切削チップを備える構成として特許文献3には、係合溝に切削用チップを備える構成ではないが、工具本体に複数のチップポケットが形成されると共に、このチップポケットにおけるチップ取付座に対して切削用チップをセットし、この切削用チップの挿通孔を貫通するクランプボルトを工具本体に螺合させる形態で取り付ける構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6‐315818号公報
【特許文献2】特開平9‐225722号公報
【特許文献3】特開2002−219608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
工具本体に切削用チップを嵌め込む形態で備えるための構造として、特許文献3に記載されるものは広く採用されており、クランプボルトの着脱により切削用チップの交換も容易に行えるものである。しかしながら、比較的小型の多数の切削用チップを工具本体に備えた工具を考えると、ボルト類で切削用チップを固定するものでは切削用チップの小型化が困難な面がある。
【0007】
そこで、特許文献1や特許文献2に記載されるもののようにアリ溝を用いることも考えられる。しかしながらアリ溝を介して切削用チップを工具本体に備えるものは切削用チップの脱落を抑制すると云う良好な面があるものの、アリ溝の形成方向での切削用チップの位置を決めるためのボルト等を必要とする点において改善の余地がある。
【0008】
本発明の目的は、工具本体の係合溝に対して切削用チップを強固に備えた状態で回転による切削が可能な切削工具を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、棒状の工具本体の係合溝に対して切削用チップを嵌め込む形態で備え、回転軸芯周りでの回転により切削を行う切削工具であって、
前記工具本体の外周に対して、この工具本体の先端から基端側に亘って溝状の切屑ポケットが形成され、この切屑ポケットから切削反力の作用方向に分岐する前記係合溝が複数形成され、
前記係合溝が、開口縁の溝幅より溝底側の溝幅が広くなる溝形状を有し、かつ、前記開口縁の溝幅が、前記切削反力の作用方向の下流側ほど幅狭となる先窄まり形状を有している点にある。
【0010】
この構成によると、切削用チップは係合溝に係合していることから、工具本体から分離し難い状態にあり、しかも、加工時には切削用チップに対して作用する切削反力によって切削用チップは係合溝において先窄まりの開口縁に押し付けられ摩擦による自己保持力が作用するため、切削用チップが係合溝から脱落することはない。
また、切削時には切削用チップに作用する切削反力により、先窄まり形状の係合溝の開口縁に押圧力が作用し、この開口縁を拡大させる方向の力が発生する。この力は隣接する係合溝の開口縁の溝幅を縮小する方向に変位させることになるので、隣接する係合溝に備えられた切削用チップの確実な支持を現出する。
その結果、工具本体の係合溝に対して切削用チップを強固に備えた状態で回転による切削が可能な切削工具が構成された。
【0011】
本発明は、前記工具本体が、円柱状素材の外周に前記切屑ポケットと前記係合溝とが形成され、前記工具本体の外周の周方向において前記係合溝を基準にして前記切屑ポケットと反対側に、前記係合溝の終端より広幅で、前記係合溝の溝深さより深い開放部が形成されても良い。
これによると、例えば、外面視において係合溝がV字状に形成されたものと比較すると、係合溝において先窄まり方向の端部に開放部が形成された構造となるので、係合溝の開口縁の拡大方向への弾性変形を容易に行わせ、切削用チップの柔軟な支持を可能にすると共に、切削用チップから切削反力が作用した場合に隣接する係合溝の溝幅の縮小を容易に行わせ、その係合溝に支持された切削用チップの確実な支持を現出する。
【0012】
本発明は、前記係合溝がアリ溝形状に形成され、前記切削用チップの基端部が、前記係合溝のアリ溝形状に対応する台形状となる断面形状に成形され、前記切削用チップの前記係合溝に沿う方向での寸法が、前記係合溝の長さより長く設定され、前記切削用チップを前記係合溝に備えた状態で、この切削用チップの一方の端部が前記切屑ポケット側に突出し、この切削用チップの他方の端部が前記開放部に突出しても良い。
係合溝の開口縁の長手方向に全長に亘る領域を切削用チップに接触させて安定的な支持が可能になる。
【0013】
本発明は、前記工具本体のうち、複数の前記係合溝の並び方向で隣接する係合溝に挟まれる部位が突出領域として形成され、この突出領域の前記切屑ポケット側の端面において外周側での前記並び方向の幅が、前記係合溝において前記切屑ポケットに面する端部における外周側での前記開口縁の溝幅より狭く設定されても良い。
これによると、突出領域において切屑ポケットに面する端面の外周部分の幅が、係合溝において切屑ポケットに面する端部における開口縁の溝幅より狭いため、切削用チップから切削反力が作用した場合には、切削用チップからの押圧力による弾性変形を容易に行わせて隣接する切削用チップに係合溝を強力に圧接させ、係合溝の溝底に対して切削用チップを押し付けることになり確実な支持を現出する。
【0014】
本発明は、前記工具本体のうち、複数の前記係合溝の並び方向で隣接する係合溝に挟まれる部位が突出領域として形成され、この突出領域の前記切屑ポケット側の端面において基端側での前記並び方向の幅が、前記端面における高さより小さく設定されても良い。
これによると、突出領域において切屑ポケットに面する端面の基端部分の幅より、この端面における高さが高いものにでき、切削用チップから切削反力が作用した場合には、切削用チップからの押圧力による弾性変形を容易に行わせて隣接する切削用チップに係合溝を強力に圧接させ、係合溝の溝底に対して切削用チップを押し付けることになり確実な支持を現出する。
【0015】
本発明は、前記切屑ポケットにおいて、複数の係合溝に隣接する位置に凹部が形成されても良い。
これによると、凹部に対して、例えば、ロッド状のツールの先端を挿入し、このツールの一部を切削用チップに接触させた状態でツールを回転させることや、傾斜させる等の操作を行うことで、凹部の内面に対するツールの接触位置を支点とした状態で、切削用チップに対して挿入方向に力を作用させることも可能となる。
【0016】
本発明は、前記切屑ポケットが、前記回転軸芯と直交する方向視において前記回転軸芯に対して傾斜することにより前記工具本体の外周において螺旋状に形成され、一対の前記開口縁のうちの一方が前記切屑ポケットに対して直交する姿勢で形成しても良い。
この種の切削工具において、例えば、切屑ポケットから分岐する形状で係合溝を切削する順序で製造するものを想定すると、係合溝を形成する際には切屑ポケットの部位から切削用ツールを、切屑ポケットと直交する方向に移動させた場合には最短距離の移動で係合溝の溝開口の一方を形成できるものとなり、作業時間の短縮が可能となる。
【0017】
本発明は、前記工具本体の先端に切削部を形成することでエンドミルとして構成されても良い。
これによると、多数の切削用チップを工具本体に備えた小型のエンドミルを構成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】周面チップを分離したエンドミルの全体図である。
【図2】周面チップを分離したエンドミルの側面図である。
【図3】エンドミルの先端部の斜視図である。
【図4】係合溝の形状を示す図である。
【図5】係合溝、開放部等の配置を示す拡大斜視図である。
【図6】係合溝、開放部等の配置を示す拡大斜視図である。
【図7】周面チップの形状を示す斜視図である。
【図8】周面チップが係合する係合溝の拡大図である。
【図9】図8のIX-IX線断面図である。
【図10】周面チップと係合溝との関係を示す断面図である。
【図11】係合溝部分の寸法関係を示す図である。
【図12】ツールによる周面チップの係合時の操作形態を示す図である。
【図13】ツールによる周面チップの取り外し時の操作形態を示す図である。
【図14】別実施の形態(a)の係合溝部分を示す図である。
【図15】別実施の形態(b)の係合溝部分を示す断面図である。
【図16】別実施の形態(c)の係合溝部分を示す断面図である。
【図17】別実施の形態(d)の係合溝部分を示す断面図である。
【図18】別実施の形態(e)の係合溝部分を示す断面図である。
【図19】別実施の形態(f)の係合溝部分を示す断面図である。
【図20】別実施の形態(g)のエンドミルの工具本体を示す斜視図である。
【図21】別実施の形態(h)のエンドミルの工具本体を示す斜視図である。
【図22】別実施の形態(i)の係合溝と周面チップとを示す断面図である。
【図23】別実施の形態(j)の係合溝と周面チップとを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔エンドミルの構造〕
図1〜図3には切削工具としてのエンドミルを示している。このエンドミルは、鉄や鉄合金製で円柱状に成形された棒状材で成る工具本体1の先端部1Aの外周に複数の螺旋状の切屑ポケット2が形成され、この切屑ポケット2に沿ってスローアウェイチップで成る複数の周面チップA(切削用チップの一例)が等間隔で備えられ、工具本体1の先端位置にはスローアウェイチップで成る2つの端面チップBが備えられている。そして、この工具本体1の後端部1Bには先端部1Aより大径のシャンクが形成されている。尚、周面チップA及び端面チップBは超硬合金、サーメット、セラミックス、CBN等の硬質材料が用いられる。
【0020】
端面チップBは、工具本体先端のチップポケット1Pに嵌め込まれた状態で固定ビス3の締め付けにより工具本体1に固定されている。切屑ポケット2は、工具本体1の外面に対して、回転軸芯Xと同軸芯となる螺旋状の溝状で工具本体1の先端部から基端側に亘って形成されている。切屑ポケット2は4条形成され、夫々の切屑ポケット2から切削反力の作用方向に分岐する複数の係合溝10が形成され、これらの係合溝10に対して周面チップAが嵌め込まれる形態で係合支持されている。
【0021】
係合溝10を基準にして工具本体1の周方向で切屑ポケット2と反対側に凹状の開放部4が係合溝10に連なる形態で形成されている。この開放部4は、係合溝10の終端部(反切屑ポケット側)より広幅で、前記係合溝10の溝深さより深い形状を有している。更に、切屑ポケット2の底部のうち係合溝10に近接する位置に、この底部に対して窪む形状となる凹部5が形成されている。
【0022】
この実施の形態では、係合溝10のうち切屑ポケット2に隣接する部位を「始端部」と称し、係合溝10のうち切屑ポケット2から離間する部位を「終端部」と称している。このエンドミルでは図3に矢印Fで示す方向への回転で切削が行われ、この切削時に周面チップAに対して作用する切削反力の作用方向が前述した始端部から終端部に向かうことになる。
【0023】
〔係合溝〕
係合溝10は、図4〜図6、図10、図11に示すように、溝部分の断面形状が台形となるアリ溝形状に形成されると共に、始端部の溝幅に対して終端部の溝幅が狭くなる先窄まり形状に形成されている。
【0024】
つまり、係合溝10は、平坦な溝底部11と一対の側壁部12とを有しており、一対の側壁部12のうち、工具本体1の外周側の端部が係合溝10の開口縁13となる。一対の側壁部12の対向する部位の幅が、工具本体1の外周側(溝底部11から離れる側)ほど狭くなる傾斜姿勢に設定されている。つまり、アリ溝とは、係合溝10の開口縁13の溝幅より溝底側の溝幅が広くなる形状を指すものである。これにより係合溝10は、アリ溝形状となる。また、溝底部11において始端部の溝幅が、終端部の溝幅より広く設定されている。これにより、一対の側壁部12の対向する幅も始端部が終端部より広く設定され、結果として、係合溝10は、切削反力の作用方向の下流側ほど幅狭となる先窄まり形状となる。
【0025】
前述した溝幅とは、溝底部11から一対の開口縁13に至る溝深さ方向での領域において一対の側壁部12の間隔を示す概念である。従って、前述した先窄まり形状とは、係合溝10の溝深さ方向で何れの部位においても、始端部の溝幅に対して終端部の溝幅が狭くなることを意味している。
【0026】
複数の係合溝10の並び方向で隣接する係合溝10に挟まれる部位を突出領域1Sと称しており、この突出領域1Sでは、図6、図11に示すように、切屑ポケット側の端面で工具本体1の外周側での外端幅Ws(係合溝10の並び方向での幅)が、係合溝10の始端部側の開口縁13の開口縁幅Wg(係合溝10の始端部側で外周側の溝幅)より小さく設定(Ws<Wg)されている。尚、並び方向とは複数の係合溝10の形成方向と直交する方向であり、切屑ポケット2の長手方向と一致する。
【0027】
更に、突出領域1Sにおいて、切屑ポケット側の端面で工具本体1の基端側での基端幅Wb(係合溝10の並び方向での幅)が、この突出領域1Sの端面側の領域高Hsより小さく設定(Wb<Hs)されている。
【0028】
このエンドミルでは、切屑ポケット毎に回転軸芯Xの方向で所定の間隔で周面チップAが配置され、周面チップAの中間領域の切削不能領域が存在する。このような理由から、切屑ポケット2に対応して備えられる周面チップAを切削不能領域に他の周面チップAを通過させて切削を行うように複数の切屑ポケット2に対応する周面チップAを互いにオフセットする位置関係に配置することで切削不能領域を無くしている。
【0029】
切屑ポケット2、係合溝10、開放部4、凹部5夫々は工具本体1(棒状材の一例)の外周を切削することにより形成されている。切屑ポケット2は溝幅方向の中央部が滑らかに窪む断面形状となるように切削され、この切屑ポケット2のうち係合溝10に隣接する部位に凹部5が切削により形成されている。係合溝10は切削により前述したように傾斜姿勢となる側壁部12と平坦な溝底部11とが形成され、この切削時において開放部4も切削により形成される。
【0030】
図4には係合溝10と切屑ポケット2との関係を示しており、一対の開口縁13に沿う仮想直線gは係合溝10の終端部側で角度θで交差する姿勢に設定され、この角度θとしては6°〜20°が想定されている。開口縁13のうちの一方が切屑ポケット2の形成方向(長手方向)に対して直交する姿勢に設定されている。尚、同図には仮想直線gを開口縁13に沿う形態で示しているが、この仮想直線gを溝底部11の溝幅方向の端部に沿って示しても良い、何れの形態で仮想直線gを示した場合でも、この仮想直線gの一方が切屑ポケット2に直交する姿勢となる。
【0031】
このように、切屑ポケット2に対して一方の仮想直線gを直交する姿勢に設定する理由は、切削加工を容易に行うためであり、本発明では係合溝10の開口縁13に沿う姿勢の2つの仮想直線gが切屑ポケット2に対して等しい角度で交差するものや、直交しない角度で交差するものであっても良い。
【0032】
〔周面チップ〕
周面チップA(切削用チップの一例)は、図7に示すように、平坦な底壁21と、この底壁21に対向する位置で底壁21より幅が狭い上壁22と、底壁21と上面に対して斜め姿勢となる一対の姿勢の側壁23とを有している。これにより、周面チップAは、底壁21を下側にした姿勢での基端部が係合溝10のアリ溝に対応するように、断面形状が台形となる。また、底壁21に対して直交する方向視において底壁21と上壁22とは一方の端部の幅が広く他方の幅が狭くなる形状に成形され、周面チップAのうち幅が広い側に先端壁24が形成され、幅が狭い側に後端壁25が形成され、先端壁24と上壁22との境界位置に刃部26が形成される。
【0033】
図8に示すように、この周面チップAの長手方向の寸法(先端壁24から後端壁25に至る長さ)が、係合溝10の溝長さ(始端部から終端部に至る長さ)より長い寸法に設定されている。また、上壁22は、底壁21を基準にした高さが刃部側より後端壁側が低くなる傾斜面に成形され、この傾斜面が逃げ面として機能する。
【0034】
この周面チップAを係合溝10に係合させた状態では、図8に示す如く周面チップAの先端壁24が切屑ポケット2の内部に突出し、後端壁25が開放部4の内部に突出する位置関係となる。後端壁25が開放部4の内部に突出した状態では、開放部4の内周面のうち後端壁25に対向する領域と、後端壁25との間には空間が確保される。図面には示していないが、周面チップAが係合溝10に支持される状態では、係合溝10の切屑ポケット2の側の端部(始端部側の端部)において周面チップAの上壁22に最も強く圧接する形態で周面チップAを係合保持する状態となるように寸法関係が設定され、これにより周面チップAの姿勢を安定化させている。
【0035】
特に、この構成によると、係合溝10のうち開放部4の方向に周面チップAの端部が突出することになるので、この周面チップAの端部が係合溝10の側壁部12に接触することがなく、工具本体1より硬質の周面チップAの端部が側壁部12に接触して係合溝10の側壁部12を傷つける不都合がない。
【0036】
係合溝10に対して周面チップAが係合する部位を、幅方向に沿う平面で切断した断面を図9に示している。この図面では多少誇張した寸法関係で示したものであるが、周面チップAの底壁21の幅Wxが、係合溝10の溝底部11の幅Wyより僅かに狭くなる。これにより、係合溝10の溝底部11と周面チップAの底壁21とは接触するものの、係合溝10の側壁部12と周面チップAの側壁23とは接触しない場合にあり得る。よって主として係合溝10の開口縁13が周面チップAの側壁23に接触することにより係合状態が維持される。
【0037】
〔ツール〕
このエンドミルでは、図12、図13に示すツール30を用いた人為操作により周面チップAを係合溝10に係合させることが可能である。これとは逆に、ツール30を用いた人為操作により周面チップAを係合溝10から取り外すことも可能である。このツール30は、全体的にロッド状となる材料を「L」字状に屈曲した形状であり、長寸となる第1アーム部31と、これより短寸となる第2アーム部32とを有すると共に、第1アーム部31の端部に断面形状が小判型となるカム状の接当部31Aが形成され、第2アーム部32の端部に断面形状が小判型となるカム状の接当部32Aとが形成されている。尚、接当部31Aと接当部32Aとの硬度が工具本体1の硬度より低くすることで、開放部4や凹部5を傷付け難くしている。
【0038】
このツール30を用いて周面チップAを係合溝10に係入させる場合には、図12(a)、(b)に示すように、先ず係合溝10に周面チップAを挿入する。次に、ツール30の第1アーム部31の端部の接当部31Aを凹部5に嵌め込み、この接当部31Aを周面チップAの先端壁24に接当させ、第2アーム部32を握って操作することにより接当部31Aが凹部5において回転して挿入を行える。この操作を行うことにより、接当部31Aを刃部26に接触させることなく、この接当部31Aからの押圧力で周面チップAを係合溝10の終端部側に沿って移動させ、係合溝10の開口縁13が周面チップAの側壁23に強く接触する位置まで挿入できるのである。
【0039】
このツール30を用いて周面チップAを係合溝10から取り外す場合には、図13(a)、(b)に示すように、開放部4にツール30の第2アーム部32の端部の接当部32Aを挿入する。次に、接当部32Aを周面チップAの後端壁25に接当させ、第1アーム部31を握って操作することにより接当部32Aが開放部4において回転して挿入を行える。この操作を行うことにより、接当部32Aからの押圧力で周面チップAを係合溝10の始端部側に移動させ、周面チップAの係合を解除して取り外しが実現するのである。
【0040】
このように長さが異なるアーム部を有したツール30を用い、周面チップAを挿入する際には短い第2アーム部32により軽い操作が可能となり、周面チップAを取り外す場合には、長い第1アーム部31により強い操作が可能となる。更に、凹部5における切屑ポケット2の長手方向の寸法より、開放部4における切屑ポケット2の長手方向の寸法が長く設定されているので、接当部31Aの寸法を、凹部5には挿入不能で、開放部4には挿入可能な値に設定することで、適正な使用を行えるもとなる。
【0041】
〔切削反力の作用〕
このエンドミルで切削を行う際には、工具本体1を回転軸芯Xを中心として矢印Fの方向に回転させることにより、周面チップAに作用する切削反力が矢印Fと逆向きに作用する。この切削反力は周面チップAを係合溝10の終端部の方向に変位させる力として作用するため、周面チップAは一層強固に係合すことになる。
【0042】
また、係合溝10の一対の開口縁13が、切削反力の作用方向の下流側を先窄まりとなる形状で形成されている。従って、周面チップAに切削反力が作用した場合には、この切削反力が周面チップAの側壁23から開口縁13に作用し、この開口縁13から係合溝10の並び方向に押圧力として作用する。
【0043】
前述したように、突出領域1Sにおいて、切屑ポケット側の端面で工具本体1の外周側での外端幅Wsが、係合溝10の始端部側で開口縁幅Wgより小さく設定(Ws<Wg)され、しかも、突出領域1Sにおいて、切屑ポケット側の端面で工具本体1の基端側での基端幅Wbが、この突出領域1Sの端面側の領域高Hsより小さく設定(Wb<Hs)されている(図6等を参照)。従って、この突出領域1Sに対して押圧力が作用した場合には、前述した寸法関係から突出領域1Sが、係合溝10の並び方向に容易に弾性変形する現象を招くものとなり、隣接する周面チップAを係合溝10の開口縁13で強力に挟み込んで挟圧力を作用させるばかりでなく、係合溝10の溝底部11に対して周面チップAを押し付ける圧力も作用させることになり確実な支持を現出するのである。
【0044】
前述したように、切削時には周面チップAに対して作用する切削反力に起因する押圧力が、周面チップAから横方向(切屑ポケット2の長手方向と平行する方向)に作用することになる。この押圧力が作用した場合には、係合溝10の側壁部12から周面チップAの側壁23に押圧力が作用することにより、夫々の面の間における圧力と摩擦係数とに起因した摩擦力が発生する。これと同時に、係合溝10の側壁部12が傾斜姿勢であることから、この押圧力が周面チップAの底壁21を係合溝10の溝底部11に押し当てる力も発生し、底壁21と溝底部11とが圧接することにより、この部位における圧力と摩擦係数とに起因した摩擦力が発生し、周面チップAに対して良好な摩擦保持力を作用させ、脱落が防止されるのである。尚、周面チップAの断面形状が台形である場合における押圧力と摩擦力との説明であるが、例えば、周面チップAの側壁23が例えば、鋸歯状断面(図18を参照)のように複数の傾斜面が形成されている場合にも、この側壁23と対応する鋸歯状断面の側壁部12との間で上下方向に作用する圧力に起因して摩擦保持力が発生し、脱落を防止することも可能となる。
【0045】
このように本発明のエンドミルでは、工具本体1の外面に複数の切屑ポケット2を形成し、夫々の切屑ポケット2から切削反力の作用方向に分岐する形態で複数の係合溝10を形成している。更に、夫々の係合溝10はアリ溝形状と、切削反力の作用方向に先窄まり形状(楔形状)に形成されているので、夫々の係合溝10に対して小型の周面チップAの係合支持を可能にすると共に、ボルト類を用いないものでありながら、脱落し難い状態での支持を実現している。
【0046】
特に、切削時には周面チップAに作用する切削反力が、係合溝10の開口縁13から隣接する係合溝10に作用するものであり、係合溝10が楔形であることから、切削時に一部の周面チップAに対して切削反力が作用する場合には、切削反力に起因する押圧力が隣接する係合溝10に支持されている周面チップAに対して脱落方向に作用するものであるが、前述したように、角度θを適切に設定してあり、しかも、係合溝10の側壁部12と周面チップAの側壁23との間に作用する摩擦力、及び、係合溝10の溝底部11と周面チップAの底壁21との間に作用する摩擦力により、その係合溝10に係合支持されている周面チップAが確実に保持されるのである。
【0047】
〔別実施の形態〕
本発明は、上記した実施の形態以外に以下のように構成しても良い(この別実施の形態では前記実施の形態と同じ機能を有するものには、前記実施の形態と共通の番号、符号を付している)。
【0048】
(a)図14(a)、(b)に示すように、周面チップAを上壁22の方向から見た形状が、直線状の中心線Cを基準として一対の側壁23が対称となる位置関係で形成されると共に、一対の側壁23のうち、先端壁24から後端壁25に近い部位の主領域Pにおいては、後端壁側ほど幅狭に形成され、後端壁25の近傍の規制領域Qでは中心線Cと平行となる等幅に形成されている。
【0049】
このように周面チップAの形状を設定することにより、周面チップAを係合溝10の始端部の方向に移動させる外力が作用する状況でも、規制領域Qの側壁23が係合溝10の開口縁13や側壁部12に接触して抵抗力を作用させることにより脱落が防止されるのである。特に、この別実施形態(a)では、規制領域Qの側壁23を中心線Cと平行となるように成形していたが、この規制領域Qを後端壁側ほど幅広になるように成形することも可能であり、このように成形した場合には一層良好に脱落が防止される。
【0050】
(b)図15に示すように、周面チップAの底壁21のうち、後端壁25に隣接する部位に底壁21から突出する突出部21Aを形成する。この突出部21Aの位置は、周面チップAを係合溝10に係合した状態で、開放部4に嵌り込む位置にあることが最良である。また、突出部21Aは周面チップAの全幅に形成するものを想定しているが、円錐状であっても良く、この円錐状に形成されたものを複数設けても良い。更に、突出部21Aの突出量は、周面チップAを係合溝10に係合させる際において、この突出部21Aと溝底部11との弾性変形により、挿入が可能となる程度に設定すると良い。
【0051】
このような構成から、周面チップAを係合溝10の始端部の方向に移動させる外力が作用する状況では、突出部21Aが係合溝10の溝底部11の終端部に接触して抵抗力を作用させることにより脱落が防止される。
【0052】
(c)図16に示すように、係合溝10の溝底部11のうち、始端部に規制部11Aを突出形成する。この規制部11Aは、周面チップAを係合溝10に係合した状態で、先端壁24に接触する位置が最良である。また、規制部11Aは溝底部11の全幅に形成するものを想定しているが、円錐状であっても良く、この円錐状に形成されたものを複数設けても良い。更に、規制部11Aの突出量は、周面チップAを係合溝10に係合させる際には、この規制部11Aと底壁21との弾性変形により、挿入が可能となる程度に設定すると良い。
【0053】
このような構成から、周面チップAを係合溝10の始端部の方向に移動させる外力が作用する状況では、規制部11Aが先端壁24の下端に接触して抵抗力を作用させることにより脱落が防止される。
【0054】
(d)図17に示すように、係合溝10の溝底部11を、終端部側ほど溝深さが深くなるように緩い傾斜面に形成する。この構成では、係合溝10に係合する周面チップAの側壁23の前端側に対して、係合溝10の始端部側の開口縁13が強く接触する。また、係合溝10に係合する周面チップAの側壁23の後端側には係合溝10の終端部側の開口縁13が軽く接触する。
【0055】
このような構成では、係合溝10が楔を抜け止め状態で支持する空間と同様に機能し、周面チップAの抜け止めが実現する。尚、この係合溝10の溝底部11と開口縁13とのうち始端部の領域を周面チップAに圧接させた係合支持も実現する。
【0056】
(e)図18に示すように、係合溝10の側壁部12を鋸歯状断面となるように成形することで、係合溝10を複数のアリ溝を重ね合わせた構造に形成する。このように構成することで、周面チップAが回転軸芯Xから離間する方向への変位を強力に阻止して確実な支持を現出する。
【0057】
(f)図19に示すように、切屑ポケット2の内部で係合溝10の始端部に隣接する位置にバネ材で成るストッパー40を備える。ストッパー40は、切屑ポケット2の長手方向に収容される帯状であり、ビス等で切屑ポケット2の内面に固定されている。このストッパー40では、係合溝10に対応する位置に接当片41が形成されている。
【0058】
このような構成から、係合溝10に周面チップAを係合させる際には、図19(a)に示すように、周面チップAが接触することでストッパー40を弾性変形させる形態での係合が実現する。また、係合溝10に係合させた後には図19(b)に示すように、周面チップAを係合溝10の始端部の方向に移動させる外力が作用する状況では、接当片41が周面チップAの先端壁24に接触して移動阻止方向に力を作用させ脱落が防止される。
【0059】
(g)図20に示すように、切屑ポケット2を回転軸芯Xと平行する直線状に形成する。このように切屑ポケット2を直線状に形成することにより、切屑ポケット2を形成する加工が容易に行える。
【0060】
(h)図21に示すように、開放部4を、切屑ポケット2と平行姿勢で切屑ポケット2と同数設ける。つまり、前述した実施の形態では係合溝10と等しい数の開放部4を形成していたが、この別実施形態では、切屑ポケット2と平行する姿勢で、切屑ポケット2と等しい数で溝状となる開放部4を形成している。この構成により、開放部4を形成する加工が単純化する。
【0061】
(i)図22(a)、(b)に示すように、底壁21側と、上壁22との同じ側の端部に刃部26を形成し、これと逆の位置に後端壁25を形成し、側壁23の上下位置の中央部が最も突出するように周面チップAの形状を設定する。また、係合溝10の側壁部12を周面チップAの側壁23の傾斜に沿う角度に設定することで、この係合溝10の断面形状を台形に形成する。尚、この係合溝10の断面形状は台形に限るものではなく、周面チップAの断面形状(図22(a)に近似する形状)であっても良い。
【0062】
このように構成することにより、図22(b)に示す如く、係合溝10に対して周面チップAを係合させた状態では上壁22の端部に形成された刃部26によって切削が可能となる。また、長期に渡る使用により切れ味が低下した場合には周面チップAを取り外し、この周面チップAの底壁21を上側にして係合溝10に係合させることにより底壁21の端部に形成された刃部26による良好な切削が可能となる。この別実施の形態の係合溝10と周面チップAとは、実施の形態で説明したものと同様に、切削反力の作用方向に先窄まり形状(楔形状)に形成されている。
【0063】
(j)図23(a)、(b)に示すように、底壁21と、上壁22との同じ側の端部に刃部26を形成し、これと逆の位置に後端壁25を形成すると共に、側壁23に複数の突出部23Aと、複数の凹入部23Bとを形成することで断面形状が鋸歯状となるように周面チップAの形状を設定する。また、係合溝10の側壁部12を周面チップAの側壁23の形状にAを対応させて複数の溝状部分を形成する断面形状を鋸歯状に設定する。このような形状から、係合溝10に周面チップAが係合した状態では、図23(a)に示す如く、係合溝10の溝底部11に、周面チップAの底壁21が接触すると同時に、突出部23Aが側壁部12の溝状部分に接触する状態に達する。
【0064】
このように構成することにより、図23(b)に示す如く、係合溝10に対して周面チップAを係合させた状態では上壁22の端部に形成された刃部26によって切削が可能となる。また、長期に渡る使用により切れ味が低下した場合には周面チップAを取り外し、この周面チップAの底壁21を上側にして係合溝10に係合させることにより底壁21の端部に形成された刃部26による良好な切削が可能となる。この別実施の形態の合溝10と周面チップAとは、実施の形態で説明したものと同様に、切削反力の作用方向に先窄まり形状(楔形状)に形成されている。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、エンドミル以外の切削工具に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 工具本体
1S 突出領域
2 切屑ポケット
4 開放部
5 凹部
10 係合溝
13 開口縁
A 切削用チップ(周面チップ)
Wg 溝幅(開口縁幅)
Ws 幅(外端幅)
Wb 幅(基端幅)
Hs 高さ(領域高)
X 回転軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の工具本体の係合溝に対して切削用チップを嵌め込む形態で備え、回転軸芯周りでの回転により切削を行う切削工具であって、
前記工具本体の外周に対して、この工具本体の先端から基端側に亘って溝状の切屑ポケットが形成され、この切屑ポケットから切削反力の作用方向に分岐する前記係合溝が複数形成され、
前記係合溝が、開口縁の溝幅より溝底側の溝幅が広くなる溝形状を有し、かつ、前記開口縁の溝幅が、前記切削反力の作用方向の下流側ほど幅狭となる先窄まり形状を有している切削工具。
【請求項2】
前記工具本体が、円柱状素材の外周に前記切屑ポケットと前記係合溝とが形成され、前記工具本体の外周の周方向において前記係合溝を基準にして前記切屑ポケットと反対側に、前記係合溝の終端より広幅で、前記係合溝の溝深さより深い開放部が形成されている請求項1記載の切削工具。
【請求項3】
前記係合溝がアリ溝形状に形成され、前記切削用チップの基端部が、前記係合溝のアリ溝形状に対応する台形状となる断面形状に成形され、前記切削用チップの前記係合溝に沿う方向での寸法が、前記係合溝の長さより長く設定され、前記切削用チップを前記係合溝に備えた状態で、この切削用チップの一方の端部が前記切屑ポケット側に突出し、この切削用チップの他方の端部が前記開放部に突出する請求項2記載の切削工具。
【請求項4】
前記工具本体のうち、複数の前記係合溝の並び方向で隣接する係合溝に挟まれる部位が突出領域として形成され、この突出領域の前記切屑ポケット側の端面において外周側での前記並び方向の幅が、前記係合溝において前記切屑ポケットに面する端部における外周側での前記開口縁の溝幅より狭く設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項5】
前記工具本体のうち、複数の前記係合溝の並び方向で隣接する係合溝に挟まれる部位が突出領域として形成され、この突出領域の前記切屑ポケット側の端面において基端側での前記並び方向の幅が、前記端面における高さより小さく設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項6】
前記切屑ポケットにおいて、複数の係合溝に隣接する位置に凹部が形成されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項7】
前記切屑ポケットが、前記回転軸芯と直交する方向視において前記回転軸芯に対して傾斜することにより前記工具本体の外周において螺旋状に形成され、一対の前記開口縁のうちの一方が前記切屑ポケットに対して直交する姿勢で形成されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
前記工具本体の先端に切削部を形成することでエンドミルとして構成されている請求項1〜7のいずれか一項に記載の切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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