説明

切削油が使用される工具を保持する工具保持具構成材料、及び切削油が使用される工具を保持する工具保持具

【課題】切削油(クーラント液)による寸法変化率が小さく、かつ、機械的強度に富み、更には廃棄処分性(リサイクル性)に優れた切削油が使用される工具を保持する工具保持具を提供することである。
【解決手段】切削油が使用される工具を保持する保持具の構成材料であって、前記工具保持具の構成材料は、バイオマス由来のフェノール系樹脂と、非バイオマス由来のフェノール系樹脂と、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維とを含む組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、切削油が使用される工具を保持する工具保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は様々な工作が可能となる装置に発展して来た。この為、工作機械に装着される加工用の工具も様々なものが必要である。そして、工作機械による加工作業に際しては、様々な形態・構造・形状の工具が、必要に応じて、交換される。この交換作業は、俊敏で効率良いことが望まれる。工作機械に用いられる工具は、通常、工具保持具(例えば、フドー株式会社製のツールポット(登録商標))に収納保持されている。工具保持具は、例えば図1の如きの構造である。図1中、Aは工具、Bは工具Aが収納保持される工具保持具である。そして、例えば複数の工具保持具Bがチェーンで繋がれている。使用する工具Aが必要な場合、チェーンが作動し、工具取出位置に搬送される。そして、工具保持具Bから工具Aが引き抜かれ、加工場所に移送される。加工は、通常、工具Aが回転して行われる為、工具Aは、通常、断面が円形である。従って、工具保持具Bの工具収納部も、通常、断面が円形である。
【0003】
ところで、工具保持具Bは、近年、金属製のものからフェノール樹脂製のものに代わって来ている。すなわち、工具保持具は、取扱時(工具交換時)における金属音が軽減されることや軽量性の観点から、金属に代わって熱硬化性樹脂で構成することが提案され、市場に供給されて来た。特に、フェノール樹脂は、自己潤滑性が有り、摺動性に優れており、更には耐水性、耐久性、耐油性に優れていることから、フェノール樹脂製工具保持具は金属製工具保持具に代わって大きなシェアを占めるに至った。
【0004】
さて、上述の通り、フェノール樹脂は、工具保持具構成材料として優れた特性を数多く持っている。しかしながら、使用により工具保持具に磨耗が生じ、工具保持具を交換する必要が起きた場合のリサイクル性(廃棄処分性)に劣る問題点が指摘され出した。すなわち、昨今までは、このリサイクル性は大きな問題点で無かったものの、CO問題や廃棄処分のコストの観点から、リサイクル性が大きな問題点として浮上して来た。
【0005】
このリサイクル性の観点を鑑みたならば、バイオマス由来の材料を使用することが考えられる。
【0006】
さて、上記工具保持具を構成する為に開発されたものでは無いものの、バイオマスフェノール樹脂(バイオマス由来のフェノール系樹脂)が知られている。
【0007】
例えば、澱粉系物質を酸触媒の存在下、100〜220℃においてフェノール類と反応させて液化した後、中和し、得られるフェノール系樹脂に硬化剤および充填剤を混合することにより調製されるフェノール系樹脂含有組成物が、提案(特開2001−123012号公報)されている。
【0008】
或いは、フェノール化バイオマス物質および融点が100℃以下の反応性物質からなるバイオマス樹脂組成物(バイオマス樹脂組成物用のバイオマス組成物であって、フェノール化バイオマス物質および融点が100℃以下のフェノール以外の反応性物質を含み、該反応性物質の配合量が、バイオマス樹脂組成物全体に対して3〜50重量%であり、該反応性物質が、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ベンジルフェノール、ベンジルフェニルエーテル、不飽和結合を有する脂肪族鎖を含有するオイルまたは乾性油であるバイオマス組成物)が、提案(特開2004−352978号公報:特許第3911614号公報)されている。
【0009】
若しくは、フェノール化バイオマス樹脂、硬化剤、および紙基材積層板の粉砕物である充填材からなる熱硬化性バイオマス樹脂組成物(フェノール化バイオマス樹脂、硬化剤、および紙基材積層板の粉砕物である充填材からなり、前記フェノール化バイオマス樹脂が、酸触媒の存在下、バイオマス物質をフェノール類でフェノール化させることにより得られる生成物であり、前記バイオマス物質が、リグノセルロース物質であり、前記硬化剤が、ヘキサメチレンテトラミンであり、ヘキサメチレンテトラミンの配合量は、フェノール化バイオマス樹脂100重量部に対し、12〜25重量部であり、前記紙基材積層板の粉砕物の配合量は、フェノール化バイオマス樹脂100重量部に対し、60〜150重量部である熱硬化性バイオマス樹脂組成物)が、提案(特開2005−281556号公報:特許第4402499号公報)されている。
【0010】
又は、バイオマスフェノール樹脂及び石化フェノール樹脂を併用して調製されたことを特徴とする熱硬化バイオマスフェノール樹脂成形材料が、提案(特開2009−221279号公報)されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−123012号公報
【特許文献2】特許第3911614号公報
【特許文献3】特許第4402499号公報
【特許文献4】特開2009−221279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1,2,3においては、石炭・石油系に由来のフェノール樹脂(非バイオマス由来のフェノール系樹脂)の代わりに用いるバイオマス由来のフェノール系樹脂は、生分解性に富むと謳われている。
【0013】
そして、特許文献1のフェノール系樹脂含有組成物は、接着剤、成形材料、衝撃吸収材、食品梱包用材料の分野で用いられることが開示されている。
【0014】
特許文献2のバイオマス樹脂組成物は、有機質または無機質の基材のバインダ(接着剤)や、ワニスの分野で用いられることが開示されている。又、特許文献2のバイオマス樹脂組成物から得られる成形体は、機械、自動車、電気・電子、通信機器などの部品、建材、合成漆器などの雑貨などに用いられる旨の一般記載も有る。
【0015】
特許文献3のバイオマス樹脂組成物は、機械・自動車部品、漆器・食器などの日常雑貨・家庭雑貨などに用いられる旨の記載が有る。
【0016】
さて、上記特許文献1,2,3における組成物は、数多くの分野で好適に用いられると謳われている。しかしながら、接着剤としての用途、機械部品としての用途、漆器・食器などの何れの用途にあっても全て好適と言ったことは、常識的に考えて、考えられない。要求特性が異なるにも拘わらず、何れの分野においても好ましいと言ったことは考えられない。逆に言うならば、何れも、中途半端な特長のものしか得られてないとしか謂わざるを得ない。
【0017】
実際、石油系に由来のフェノール樹脂(非バイオマス由来のフェノール系樹脂)に代わってバイオマス由来のフェノール系樹脂のみを用いて成形された工具保持具、特に、水溶性切削油が使用される工具を保持する工具保持具は、寸法変化率が大きく、かつ、機械的強度も乏しく、実用に耐えることが出来ない代物であった。
【0018】
このことは、特許文献4が、バイオマス由来のフェノール系樹脂は、(1)材料化する際の混練作業性が悪い、(2)吸水率が大きい、(3)成形収縮率が大きい問題が有ると指摘していることとも合致する。更に、特許文献4は、バイオマス由来のフェノール系樹脂は成形材料としての実用化に至って無いとも指摘している。そして、上記特許文献1,2,3のものとは異なり、特許文献4は、非バイオマス由来のフェノール系樹脂(石油系に由来のフェノール樹脂)とバイオマス由来のフェノール系樹脂とを併用した場合、非バイオマス由来のフェノール系樹脂と同等以上の性能を有しながら、環境負荷の低減が出来たと謳っている。
【0019】
しかしながら、この特許文献4が提案した組成物(非バイオマス由来のフェノール系樹脂とバイオマス由来のフェノール系樹脂とを併用した組成物)を用い、工具保持具(水溶性切削油が使用される工具を保持する工具保持具)を成形してみても、これ、また、併用されて無い組成物が用いられた場合と同様に、寸法変化率が大きく、かつ、機械的強度も乏しく、実用に耐えることが出来ない代物であった。
【0020】
ここで、切削油に対する耐性が要求されるのは、次のような現象に基づく。工具Aの使用(加工)時には発熱が生じる。刃の磨耗を防止する為、工具Aはアルカリ性の油であるクーラント液(水溶性切削油)で冷却される。この為、切削油が工具Aには付着する。付着した切削油が工具Aの挿入時に工具保持具Bに付着する。そうすると、切削油に対する耐性が乏しいと、工具保持具Bには劣化が生ずる。例えば、切削油によって工具保持具Bは膨潤が生ずる。そうすると、工具挿入部(工具保持部)の寸法精度が低下する。場合によっては、工具Aを保持でき難くなる。従って、切削油によって劣化が起き難い材料で工具保持具を構成することは実に大事である。
【0021】
従って、本発明が解決しようとする課題は、廃棄処分性(リサイクル性)に優れ、かつ、機械的強度に富み、更には切削油(クーラント液)による寸法変化率が小さくて、工具交換に支障が起き難い工具保持具(切削油が使用される工具を保持する工具保持具)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記の課題は、
切削油が使用される工具を保持する保持具の構成材料であって、
前記工具保持具の構成材料は、バイオマス由来のフェノール系樹脂と、非バイオマス由来のフェノール系樹脂と、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維とを含む組成物である
ことを特徴とする工具保持具構成材料によって解決される。
【0023】
前記の課題は、
切削油が使用される工具を保持する保持具の構成材料であって、
前記工具保持具の構成材料は、バイオマス由来のフェノール系樹脂と、非バイオマス由来のフェノール系樹脂と、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維とを含む組成物であり、
前記非バイオマス由来のフェノール系樹脂は、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、30〜100重量部であり、
前記1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維は、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、20〜120重量部である
ことを特徴とする工具保持具構成材料によって解決される。
【0024】
前記の課題は、
切削油が使用される工具を保持する保持具の構成材料であって、
前記工具保持具の構成材料は、好ましくは、バイオマス由来のフェノール系樹脂と、非バイオマス由来のフェノール系樹脂と、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維と、1mm×1mm未満の大きさの粉状繊維とを含む組成物であり、
前記非バイオマス由来のフェノール系樹脂は、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、30〜100重量部であり、
前記1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維は、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、20〜120重量部であり、
前記1mm×1mm未満の大きさの粉状繊維は、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、30〜130重量部である
ことを特徴とする工具保持具構成材料によって解決される。
【0025】
前記の課題は、
切削油が使用される工具を保持する保持具の構成材料であって、
前記工具保持具の構成材料は、好ましくは、バイオマス由来のフェノール系樹脂と、非バイオマス由来のフェノール系樹脂と、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維と、1mm×1mm未満の大きさの粉状繊維とを含む組成物であり、
前記非バイオマス由来のフェノール系樹脂は、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、30〜100重量部であり、
前記1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維は、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、20〜120重量部であり、
前記1mm×1mm未満の大きさの粉状繊維は、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、30〜130重量部であり、
前記布状繊維と前記粉状繊維との総量が、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、60〜200重量部である
ことを特徴とする工具保持具構成材料によって解決される。
【0026】
又、上記の工具保持具構成材料であって、該工具保持具構成材料は、好ましくは、更に、長さが0.5〜30mmの炭素繊維および/またはカーボン繊維を含む組成物であり、前記炭素繊維および/またはカーボン繊維の総量が、バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、20〜50重量部であることを特徴とする工具保持具構成材料によって解決される。
【0027】
前記の課題は、
切削油が使用される工具を保持する工具保持具であって、
上記の工具保持具構成材料を用いて成形されてなる
ことを特徴とする工具保持具によって解決される。
【発明の効果】
【0028】
本発明にあっては、切削油が使用される工具を保持する工具保持具の構成材料として、バイオマス由来のフェノール系樹脂と非バイオマス由来のフェノール系樹脂とを併用するのみでは無く、バイオマス由来のフェノール系樹脂と非バイオマス由来のフェノール系樹脂と1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維とを含む組成物を用いた。この三成分を用いたことによって、二成分の場合には奏することが出来なかった大きな相乗効果が奏された。
【0029】
すなわち、硬化性樹脂としてバイオマス由来のフェノール系樹脂のみを用いた場合では、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維が用いられても、機械的強度が乏しく、かつ、切削油による寸法変化の程度が大きいものであった。
【0030】
又、バイオマス由来のフェノール系樹脂と非バイオマス由来のフェノール系樹脂とが併用されていても、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維が用いられない場合、或いは布状繊維の含有量が少ない場合には、やはり、機械的強度が乏しく、かつ、切削油による寸法変化の程度が大きいものであった。
【0031】
これに対して、バイオマス由来のフェノール系樹脂と非バイオマス由来のフェノール系樹脂と1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維が用いられた場合には、機械的強度に富み、かつ、切削油による寸法変化の程度が小さいものであり、このことは、上記三成分による相乗効果が発揮されたことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】工具保持具の断面図
【発明を実施するための形態】
【0033】
第1の発明は、切削油が使用される工具を保持する保持具の構成材料である。工具保持具で保持される工具は、必ず、切削油が使用されるものばかりでは無い。しかしながら、工具には水溶性切削油が使用されるケースが非常に多い。従って、本発明では、特に、水溶性切削油が使用される工具を対象とし、この工具を保持する工具保持具をターゲットとした。
【0034】
前記工具保持具の構成材料は、バイオマス由来のフェノール系樹脂、非バイオマス由来のフェノール系樹脂、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維を少なくとも含む組成物である。
【0035】
本発明において、非バイオマス由来のフェノール系樹脂は、石炭化学あるいは石油化学に由来のフェノール類とアルデヒド類とが用いられて構成された熱硬化型のフェノール樹脂である。例えば、ベンゼンからクメン法などにより製造されたフェノールとホルムアルデヒドとを酸又は塩基の存在下で反応させることによって得られるノボラック型フェノール樹脂やレゾール型フェノール樹脂が挙げられる。このタイプのフェノール樹脂は周知とも言えるので詳細な説明は省略される。
【0036】
本発明におけるバイオマス由来のフェノール系樹脂は、上記非バイオマス由来のフェノール系樹脂の場合に用いたアルデヒド類の代わりに、アルデヒド基(−CHO)を持つバイオマス材料(例えば、糖類(デンプン)やセルロース)を用いた点に特徴が有る。セルロース源やデンプン源として、例えば木粉、木材繊維、木材チップ、間伐材、単板屑樹皮等を粉砕したリグノセルロース類、ワラ、モミガラ等の植物繊維、古古米、食品廃棄物などが挙げられる。この種のセルロース源やデンプン源(バイオマス)と液化媒体と液化調整剤と酸触媒との混合物を、還流装置等を備えた密閉容器内において110〜160℃で5〜200分間加熱することによって、バイオマス由来のフェノール系樹脂が得られる。このバイオマス由来のフェノール系樹脂は、非バイオマス由来のフェノール系樹脂(石炭化学あるいは石油化学に由来のフェノール系樹脂)に比べて、環境負荷が少ない。例えば、生分解が起き易い。液化媒体としては、例えば活性基を有するフェノール類、多価アルコール類、ε−カプロラクトン等の環状エステル、乳酸等のオキシ酸、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート、グリシジル化合物などが挙げられる。液化調整剤としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、カプリルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール(ドデシルアルコール)、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール、アリルアルコール、クロチルアルコール、プロパルギルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、シンナミルアルコール、フルフリルアルコール等が挙げられる。酸触媒としては、例えば硫酸、フェノールスルフォン等のプロトン酸などが挙げられる。バイオマス由来のフェノール系樹脂も、今日では、周知とも言えるものであるから、詳細は省略される。バイオマス由来のフェノール系樹脂は、上記特許文献1,2,3,4にも開示が有る。
【0037】
バイオマス由来のフェノール系樹脂および非バイオマス由来のフェノール系樹脂と共に本発明の必須成分として用いられるのは布状繊維(布:例えば、綿布)である。この布状繊維は、例えば天然繊維を用いて織られた二次元的な広がりを持つ布(例えば、綿布:使用済み綿布)が裁断あるいは粉砕されることで得られる。その大きさは1mm×1mm〜30mm×30mmである。本発明において、布状繊維を必須要件としたのみならず、その大きさをも必須要件としたのは、次の理由による。すなわち、布状繊維が小さ過ぎた場合には、機械的強度・水溶性切削油耐性の向上効果が乏しかった。大きな布状繊維の方が、機械的強度・水溶性切削油耐性の向上効果が大きかった。しかしながら、大きくなり過ぎると、布状繊維が組成物(樹脂)中に均一に分散し難く、その存在が偏倚したものとなる。この為、機械的強度・水溶性切削油耐性の特長が低下するであろうと考えられる。すなわち、こうした場合、本発明の目的が達成され難いであろうと思われる。酷い場合には、成形すら出来ないものであった。そして、成形可能とする為、布状繊維を均一に分散させようとすると、長時間に亘っての混錬が必要であり、生産性が極度に低下してしまった。このような観点から、本発明では、30mm×30mm以下のものとした。尚、機械的強度および水溶性切削油耐性の向上効果の観点から、好ましくは、1mm×1mm〜10mm×10mm、更に好ましくは1mm×1mm〜6mm×6mmの大きさの布状繊維であった。本明細書では、1mm×1mm未満のものを粉状繊維と言う。布は好ましくは綿布であった。
【0038】
上記必須の三成分の割合は次の通りである。すなわち、本組成物において、前記非バイオマス由来のフェノール系樹脂は、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、30〜100重量部である。より好ましくは、35重量部以上である。すなわち、35重量部以上の場合に、機械的強度・水溶性切削油耐性が一層向上していた。非バイオマス由来のフェノール系樹脂の割合が多くなると、それだけ、リサイクル性・廃棄処分性が低下する。このような観点から、60重量部以下の場合が一層好ましかった。前記1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維は、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、20〜120重量部である。すなわち、布状繊維の量が少な過ぎた場合、機械的強度・水溶性切削油耐性の向上効果が少なかった。従って、20重量部以上とした。30重量部以上の場合には、機械的強度・水溶性切削油耐性が一層向上していた。多い場合には、樹脂中に均一に分散させるのが困難となった。このような観点から、より好ましくは、110重量部以下であった。
【0039】
本発明の組成物は、上記成分の他にも、粉状繊維(1mm×1mm未満の布(繊維))を含む場合が多い。それは、古布を裁断・粉砕した場合、どうしても、1mm×1mm未満のものも含まれてしまうからである。勿論、この種の小さなものを取り除くことも出来る。しかしながら、共に含まれていた場合では、大きな性能低下が引き起こされるものではなかった。粉状繊維としては、布を裁断・粉砕することで得られる他にも、木粉を用いることも出来る。尚、この種の小さな粉状繊維が含まれたに過ぎない場合には、強度は小さく、寸法変化率は大きなものであった。本成分は、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、好ましくは、30〜130重量部である。そして、前記布状繊維と前記粉状繊維との総量が、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、好ましくは、60〜200重量部である。
【0040】
本発明の組成物は、上記成分の他にも、好ましくは、補強用の繊維を含む。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、金属繊維などを用いることが出来る。しかしながら、強度、寸法精度などの観点からすると、ガラス繊維や炭素繊維が特に好ましいものであった。中でも、ガラス繊維が好ましいものであった。該繊維は、その長さが、好ましくは0.5〜30mmである。該繊維の量は、バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、好ましくは、20〜50重量部である。
【0041】
本発明の組成物は、上記成分の他にも、必要に応じて、各種の添加剤を含む。例えば、ヘキサミンなどの硬化剤、炭酸カルシウムや水酸化アルミニウムなどの無機充填材、スピリットブラックなどの着色剤、ステアリン酸カルシウム等の滑剤、水酸化カルシウム等の硬化助剤、シリコーン系吸水防止剤(旭化成ワッカ・シリコーンケミカル社製のBC2103)等である。
【0042】
そして、上記必須成分、その他の好ましい成分、更にはメタノール等の溶剤を、例えばヘンシェルミキサ、スーパーミキサ等の高速回転翼式造粒機、或いは加圧ニーダ、若しくはオープンニーダ、又は2軸押出機などに投入し、室温〜80℃程度の温度で混練して造粒する。このようにして得られた造粒物を用いて、例えば圧縮成形、射出成形、又はトランスファー成形によって、本発明になる工具保持具が得られる。このようにして成形された本発明の工具保持具は、破壊引張強度が900kgf以上であった。かつ、水溶性切削油(株式会社タイユ製のシンセティックタイプのpH9〜10の水溶性切削油:アルカリ性クーラント液)に50℃で150日間に亘っての浸漬後の寸法変化率(工具保持具の工具挿入部(円錐台形状部)の開口部の口径の寸法変化率)が0.7%以下であった。尚、アルカリ性クーラント液に対する耐性が乏しいと、例えば膨潤による変形が起き、工具の収納が上手く行かない。
【0043】
以下、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限られ無い。
【0044】
[実施例および比較例]
[バイオマス由来のフェノール系樹脂1]
木片、フェノール、ホルマリンが用いられて製造された。バイオ比率は30%であった。
[バイオマス由来のフェノール系樹脂2]
砂糖、フェノール、ホルマリンが用いられて製造された。バイオ比率は45%であった。
[非バイオマス由来のフェノール系樹脂]
群栄化学工業社製のノボラック型フェノール樹脂
[布状繊維]
綿布を裁断して製造された。この布状繊維の大きさは1mm×1mm〜5mm×5mmであった。
[粉状繊維]
綿布を裁断・粉砕して製造された。この粉状繊維の大きさは1mm×1mm未満のものであった。
[ガラス繊維]
繊維長が1〜6mm、繊維径が6〜13μmで、アミノシランカップリング剤で表面処理されたガラス繊維である。
【0045】
[実施例1]
70重量部の上記バイオマスバイオマス由来のフェノール系樹脂1と、30重量部の上記非バイオマス由来のフェノール系樹脂と、73重量部の上記布状繊維と、41重量部の上記粉状繊維と、19重量部の上記ガラス繊維と、15重量部のヘキサミンと、8重量部の炭酸カルシウム(無機充填材)と、3重量部のスピリットブラック(着色剤)と、3重量部のステアリン酸カルシウム(滑剤)と、3重量部の水酸化カルシウム(硬化助剤)とを、ヘンシェルミキサに投入し、40℃の温度で混練して造粒した。この造粒物を用いての圧縮成形により、図1の如きの工具保持具が得られた。
【0046】
[実施例2]
実施例1において、バイオマスバイオマス由来のフェノール系樹脂1を55重量部、非バイオマス由来のフェノール系樹脂を45重量部とした以外は同様に行い、図1の如きの工具保持具が得られた。
【0047】
[実施例3]
実施例1において、布状繊維を23重量部、粉状繊維を91重量部とした以外は同様に行い、図1の如きの工具保持具が得られた。
【0048】
[実施例4]
実施例1において、バイオマスバイオマス由来のフェノール系樹脂1の代わりにバイオマスバイオマス由来のフェノール系樹脂2を用いた以外は同様に行い、図1の如きの工具保持具が得られた。
【0049】
[実施例5]
実施例3において、バイオマスバイオマス由来のフェノール系樹脂1の代わりにバイオマスバイオマス由来のフェノール系樹脂2を用いた以外は同様に行い、図1の如きの工具保持具が得られた。
【0050】
[比較例1]
実施例1において、上記布状繊維の量を0重量部、上記粉状繊維の量を114重量部とした以外は同様に行い、図1の如きの工具保持具が得られた。
【0051】
[比較例2]
実施例1において、上記布状繊維の代わりに、40mm×40mm〜50mm×50mmの大きさに綿布を裁断して得た布状繊維を用いた以外は同様に行った。しかしながら、この場合は、図1の如きの工具保持具は成形できなかった。
【0052】
[比較例3]
実施例1において、上記バイオマスバイオマス由来のフェノール系樹脂1の量を100重量部、上記非バイオマス由来のフェノール系樹脂の量を0重量部とした以外は同様に行い、図1に示される如きの工具保持具を成形した。
【0053】
[比較例4]
実施例1において、上記バイオマスバイオマス由来のフェノール系樹脂1の量を0重量部、上記非バイオマス由来のフェノール系樹脂の量を100重量部とした以外は同様に行い、図1に示される如きの工具保持具を成形した。
【0054】
[特性]
上記各例で得られた工具保持具に関して、破壊引張強度、及び株式会社タイユ製のシンセティックタイプのpH9〜10の水溶性切削油(アルカリ性クーラント液)に50℃で150日間に亘って浸漬した後、工具保持具の工具挿入部(円錐台形状部)の開口部の口径の寸法変化率を調べたので、その結果を下記の表−1に示す。
【0055】
表−1
破壊引張強度 アルカリ性クーラント液浸漬寸法変化率
実施例1 1000Kgf 0.59%
実施例2 1000Kgf 0.55%
実施例3 980Kgf 0.62%
実施例4 950Kgf 0.66%
実施例5 930Kgf 0.68%
比較例1 725Kgf 0.73%
比較例2 成形不可
比較例3 750Kgf 1.98%
比較例4 800Kgf 0.90%
【0056】
表−1から、バイオマス由来のフェノール系樹脂と、非バイオマス由来のフェノール系樹脂と、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維とを含む組成物で構成された工具保持具は、機械的強度に富み、かつ、水溶性切削油による寸法変化が起き難いことが判る。特に、バイオマス由来のフェノール系樹脂と、非バイオマス由来のフェノール系樹脂と、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維とを含み、非バイオマス由来のフェノール系樹脂がバイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して30〜100重量部、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維がバイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して20〜120重量部である組成物で構成された工具保持具は、機械的強度に富み、かつ、水溶性切削油による寸法変化が起き難いことが判る。
【0057】
これに対して、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維が少ない組成物で構成された工具保持具は、比較例1から判る通り、機械的強度に劣り、かつ、水溶性切削油による寸法変化が大きい。
【0058】
又、布状繊維を含む組成物で構成されていても、この布状繊維が1mm×1mm未満の小さな場合には、この組成物で構成された工具保持具は、比較例1から判る通り、機械的強度に劣り、かつ、水溶性切削油による寸法変化が大きい。
【0059】
布状繊維を含む組成物が用いられても、この布状繊維が大き過ぎた場合には、工具保持具を成形することが出来なかった。これは、布状繊維が大き過ぎた為、布状繊維が組成物中で均一に分散しておらず、成形に支障が起きたものと思われる。尚、仮に、成形できたとしても、布状繊維が組成物中で均一に分散してないことから、結果的に、布状繊維が存在しない箇所も多々有り、機械的強度や寸法変化の特性が低下しているであろうと思われる。
【0060】
1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維が適量含まれていても、バイオマスバイオマス由来のフェノール系樹脂と非バイオマス由来のフェノール系樹脂とが併用されて無い組成物で構成された工具保持具は、比較例3から判る通り、機械的強度に劣り、かつ、水溶性切削油による寸法変化が大きい。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削油が使用される工具を保持する保持具の構成材料であって、
前記工具保持具の構成材料は、バイオマス由来のフェノール系樹脂と、非バイオマス由来のフェノール系樹脂と、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維とを含む組成物であり、
前記非バイオマス由来のフェノール系樹脂は、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、30〜100重量部であり、
前記1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維は、前記バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、20〜120重量部である
ことを特徴とする工具保持具構成材料。
【請求項2】
工具保持具構成材料は、更に、1mm×1mm未満の大きさの粉状繊維を含む組成物であり、
前記1mm×1mm未満の大きさの粉状繊維は、バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、30〜130重量部である
ことを特徴とする請求項1の工具保持具構成材料。
【請求項3】
工具保持具構成材料は、更に、長さが0.5〜30mmのガラス繊維および/またはカーボン繊維を含む組成物であり、
前記ガラス繊維および/またはカーボン繊維の総量が、バイオマス由来のフェノール系樹脂100重量部に対して、20〜50重量部である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2の工具保持具構成材料。
【請求項4】
布状繊維が綿布製である
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかの工具保持具構成材料。
【請求項5】
切削油が使用される工具を保持する保持具の構成材料であって、
前記工具保持具の構成材料は、バイオマス由来のフェノール系樹脂と、非バイオマス由来のフェノール系樹脂と、1mm×1mm〜30mm×30mmの大きさの布状繊維とを含む組成物である
ことを特徴とする工具保持具構成材料。
【請求項6】
切削油が使用される工具を保持する工具保持具であって、
請求項1〜請求項5いずれかの工具保持具構成材料を用いて成形されてなる
ことを特徴とする工具保持具。



【図1】
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【公開番号】特開2012−30329(P2012−30329A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173043(P2010−173043)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000236609)フドー株式会社 (12)
【Fターム(参考)】