説明

切断形状検査方法、切断形状測定器具、及び切断形状検査システム

【課題】パイプの先端切断形状について短い時間で簡易に検査することができる切断形状検査方法、切断形状測定器具、及び切断形状検査システムを提供する。
【解決手段】第1、第2球体20a、20bと、一組の球体20a、20b間に被接合物の湾曲面と同形状の接触面28が形成されたダミー体22と、取付けによってパイプPの先端部を接触面28に案内する取付部24と、を備えた切断形状測定器具12に、パイプPを取付けて検査空間に配置する。その後、第1、第2球体20a、20bの中心点位置をそれぞれ測定し、測定した第1、第2球体20a、20bの中心点位置とパイプPの配置状態から、切断形状測定器具12の位置状態を特定することで、パイプPの先端切断形状を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合物の湾曲面に接合するために、当該湾曲面に沿うように切断したパイプの先端切断形状を検査する切断形状検査方法、切断形状測定器具、及び切断形状検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
被接合物であるパイプの延在方向側面に、接合する側のパイプの先端部を突き合わせて接合する場合、継手部品等を用いずに、二つのパイプの接触部分を直接的に溶接することがある。この溶接接合方法においては、被接合物であるパイプ(以下、接合する側のパイプと区別するため単に被接合物という)の湾曲面に沿うように、接合する側のパイプ(以下、単にパイプという)の先端部を予め切断する工程が営まれる。
【0003】
パイプの切断工程では、切断後のパイプの先端部が被接合物と所定の接合角度で密接するように、パイプの先端切断形状を所望の湾曲状に形成することが重要となる。すなわち、切断したパイプの先端切断形状は、被接合物の湾曲面に精度よく一致していることが求められる。
【0004】
ここで、切断したパイプの先端切断形状が、被接合物の湾曲面に対して形状誤差を有している場合、接合角度がずれた状態で被接合物にパイプを接合させることとなり、溶接完成品が不良品となってしまう。また、形状誤差を放置したまま接合角度を保って被接合物にパイプを接合しようとすると、被接合物との溶接範囲を拡大させる結果を招き、溶接量や溶接時間を増やすなどの後工程の作業効率を低下させる原因となる。さらに、被接合物とパイプとの接合箇所に隙間が残る等の接合不良の原因ともなる。
【0005】
このような不良品の発生や作業効率の低下等を回避するために、通常、パイプの切断工程後に、形成した先端切断形状を検査する工程が営まれている。検査工程では、切断後のパイプの先端部が検査され、正規品の形状に応じて精度よく形成されているか否かが判別される。この検査工程によって、パイプの先端切断形状の精度を高めることができ、その後の溶接工程における作業効率の向上や溶接完成品の高品質化をはかることができる。
【0006】
パイプの先端切断形状の検査においては、作業員が被接合物に模したダミーパイプに対し切断したパイプの先端部をあてて、その隙間をスケール、ノギス、或いは目視等によって検査することが一般的な方法であった。しかし、このような検査方法では、検査員の熟練度等によって検査精度が安定しない、又は人為的なミスによって形状誤差を見逃す等の問題があった。このため、近年は、特許文献1に開示されている三次元スキャナを用い、当該三次元スキャナによってパイプの先端切断形状を読み取り、読み取った形状データと設定データとを比較して、形状誤差等を判別する検査方法が実施されることもある。
【0007】
また、パイプの先端切断形状の検査とは異なるが、湾曲状のゴシックアーク溝が形成されたワークを測定する方法として、特許文献2が開示されている。この測定方法では、測定治具として複数の断面形状が異なるボールをゴシックアーク溝に当接させて、各ボールの中心位置を測定し、この測定中心位置データと複数のボールの径寸法に基づいて演算処理を施すことで、ゴシックアーク溝の形状を測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−219733号公報
【特許文献2】特開2004−93359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、特許文献1の三次元スキャナによってパイプの先端切断形状を読み取る検査方法は、三次元スキャナが高価な装置であることから、単に検査のみに用いるには非常にコストが高くなる。また、三次元スキャナは複数方向から対象物をスキャンする必要があるため、パイプの先端切断形状の読み取りに時間がかかり、さらに読み取った形状データと設定データとの比較にも時間が費やされるため、パイプ一本当たりの検査時間が長くなるという新たな問題が生じる。
【0010】
一方、特許文献2のゴシックアーク溝の形状測定方法は、ゴシックアーク溝に対して、複数の断面形状が異なるボールを当接させることが条件となる。したがって、溝を有していないパイプの先端部を検査する場合は、検査するパイプ毎にボールを交換する必要が生じる。結局、特許文献2の測定方法を利用してパイプの先端切断形状を検査することは、作業量の増加を招き、現実的な検査方法とはならない。
【0011】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、パイプの先端切断形状について短い時間で簡易に検査することができるとともに、高精度且つ安定的に検査することができる切断形状検査方法、切断形状測定器具、及び切断形状検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、被接合物の湾曲面に接合するために、当該湾曲面に沿うように切断したパイプの先端切断形状を検査する切断形状検査方法であって、一組の球体と、前記一組の球体間に前記被接合物の湾曲面と同形状の接触面が形成されたダミー体と、取付けによって前記パイプの先端部を前記接触面に案内する取付部と、を備えた切断形状測定器具を、前記パイプに取付ける取付工程と、前記パイプを配置する配置工程と、前記一組の球体の中心点位置をそれぞれ測定する位置測定工程と、前記測定した一組の球体の中心点位置に基づいて、前記切断形状測定器具の位置状態を特定することで、前記パイプの先端切断形状を判別する形状精度判別工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
上記のように、切断したパイプを切断形状測定器具に取付けて所定方向に配置した後、この切断形状測定器具が備える一組の球体の中心点位置を測定する構成としたことで、作業員が簡易な手順に従って測定することができる。また、測定した一組の球体の中心点位置に基づいて、切断形状測定器具の位置状態(例えば、座標点や傾き)を求めることができる。ここで、切断形状測定器具は、切断したパイプの先端切断形状に僅かな形状誤差があっても、切断形状測定器具の位置状態の変化として、その誤差が表面化する。このため、切断形状測定器具の位置状態を特定することで、パイプの先端切断形状を精度よく判別することが可能となる。すなわち、上記の切断形状検査方法は、パイプの先端切断形状を短時間に検査することができ、しかも、パイプの先端切断形状を安定的且つ精度よく判別することができる。
【0014】
また、前記ダミー体は、前記一組の球体間において、円柱形状からなる被接合物と同一断面の円柱形状に形成されて延在するとともに、当該円柱形状の軸心が前記一組の球体の中心点を結ぶ仮想軸線と同軸に位置しており、前記形状精度判別工程は、前記仮想軸線上における所定の基準点位置を算出することで、前記切断形状測定器具の位置状態を特定することができる。
【0015】
上記の構成によれば、一組の球体の中心点を結ぶ仮想軸線上に対して基準点位置を設定することで、一組の球体の中心点位置からこの基準点位置を容易に算出することが可能となる。このため、切断形状測定器具の位置状態を容易に特定することができる。
【0016】
また、前記基準点位置は、前記一組の球体の中心点位置間を結ぶ仮想軸線の中間点位置とすることが好ましい。このように、基準点位置を仮想軸線の中間点位置にすることで、一組の球体の中心点位置から容易に基準点位置を割り出すことができる。
【0017】
さらに、前記位置測定工程における測定は、前記球体に2次元レーザを照射するレーザ測定装置により行い、当該レーザ測定装置によって測定した少なくとも二箇所の球体の2次元形状データに基づいて、前記球体の中心点位置を算出することができる。このように、2次元形状を測定するレーザ測定装置を用いることで、短時間に球体の中心点位置を容易に算出することができる。レーザ測定装置による測定方法は、三次元スキャナを用いた測定方法よりも、低いコストでパイプの先端切断形状を検査することができる。
【0018】
また、前記の目的を達成するために、本発明は、被接合物の湾曲面に接合するために、当該湾曲面に沿うように切断したパイプの先端切断形状を検査する切断形状測定器具であって、一組の球体と、前記一組の球体間に前記被接合物の湾曲面と同形状の接触面が形成されたダミー体と、前記接触面の外径方向に突出し、取付けによって前記パイプの先端部を前記接触面に案内する取付部と、を備えることを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、切断したパイプを切断形状測定器具に取付ける際に、取付部を利用してパイプの先端部をダミー体の接触面に容易に案内することができ、作業員の熟練度等に影響を受けることなくパイプの先端切断形状の安定的な検査が可能となる。また、切断形状測定器具とパイプを取付けた状態で、一組の球体の中心点位置を測定し、切断形状測定器具の位置状態を特定することで、パイプの先端切断形状を容易に判別することができる。
【0020】
前記取付部は、前記接触面に対して突出する角度を自在に設定可能とすることで、実際に溶接接合するときの被接合物とパイプの接合角度に容易に合わせることができる。これにより、様々な接合角度に応じて切断したパイプの先端切断形状について検査することが可能となる。
【0021】
また、前記取付部は、前記ダミー体に着脱自在に取付けられる構成とすることで、被接合物やパイプの大きさに合わせて、取付部を交換することができる。すなわち、切断形状測定器具は種々のパイプの検査に適用可能な汎用性を有することになる。
【0022】
さらに、前記の目的を達成するために、本発明は、上述した切断形状測定器具を用いて、被接合物の湾曲面に接合するために、前記被接合物の湾曲面に沿うように切断したパイプの先端切断形状を検査する切断形状検査システムであって、前記パイプを配置する配置手段と、前記一組の球体の中心点位置をそれぞれ測定する位置測定手段と、前記測定した一組の球体の中心点位置に基づいて、前記切断形状測定器具の位置状態を特定することで、前記パイプの先端切断形状を判別する形状精度判別手段と、を備えることを特徴とする。
【0023】
上記のように、切断したパイプを切断形状測定器具に取付け、配置手段によって配置した後、位置測定手段によって切断形状測定器具にある一組の球体の中心点位置を測定する構成としたことで、作業員が簡易な手順に従って測定することができる。また、この切断形状検査システムは、パイプの先端切断形状を短時間に検査することができ、しかも、パイプの先端切断形状を安定的且つ精度よく判別することができる。
【0024】
前記位置測定手段は、前記球体に2次元レーザを照射するレーザ測定装置が設けられ、当該レーザ測定装置によって測定した少なくとも二箇所の球体の2次元形状データに基づいて、前記球体の中心点位置を算出することができる。かかる構成によれば、2次元形状から球体の中心点位置を容易に算出することができる。しかも、レーザ測定装置による測定方法は、三次元スキャナを用いた測定方法よりも、低いコストでパイプの先端切断形状を検査することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、パイプの先端切断形状について短い時間で簡易に検査することができるとともに、高精度且つ安定的に検査することができる。その結果、パイプの先端切断形状を検査する作業量が減少するとともに、溶接工程に高品質なパイプを提供することが可能となり、被接合物とパイプの溶接接合の作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る切断形状検査システムの全体構成図である。
【図2】切断形状測定器具の斜視図である。
【図3】図3A及び図3Bは、切断形状測定器具と取付部の着脱状態を説明するための平面図であり、図3Aは切断形状測定器具と取付部の取付状態、図3Bは切断形状測定器具と取付部の取外状態を示す図である。
【図4】図4A及び図4Bは、切断形状測定器具にパイプを取付ける取付工程の説明図であり、図4Aは取付前、図4Bは取付後を示す図である。
【図5】図5A及び図5Bは、切断形状測定器具に取付けたパイプを配置する配置工程の説明図であり、図5Aはパイプを配置した状態の平面図、図5Bはパイプを配置した状態の側面図である。
【図6】一対の球体を測定する位置測定工程の説明図である。
【図7】図7A及び図7Bは、球体の2次元形状データから座標点を算出する方法を示す説明図であり、図7Aは測定した2次元形状データの図、図7Bは球体の中心点位置を算出する原理を示す図である。
【図8】図8A及び図8Bは、切断形状測定器具の位置状態を特定する原理を示す説明図であり、図8Aは切断形状測定器具が正常な位置状態を示す図、図8Bは切断形状測定器具が傾いた状態を示す図である。
【図9】図9A及び図9Bは、他の実施形態として角度設定機構を備えた取付部を示す説明図であり、図9Aは基軸によって取付部が回転可能になった状態を示す図、図9Bは取付部と着脱可能とした状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る切断形状検査方法、切断形状測定器具、及び切断形状検査システムについて好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
本実施の形態に係る切断形状検査システム10は、被接合物の湾曲面に接合するために、当該湾曲面に沿うように切断したパイプPの先端切断形状を検査するシステムである。図1に示すように、切断形状検査システム10は、切断形状測定器具12と、配置用治具14と、位置測定装置16と、検査用コンピュータ18と、を備える。
【0029】
また、本実施の形態における被接合物とパイプPの溶接完成品は、直線状に延在する被接合物に、中間部P1から先端部P2にかけて上方にやや湾曲したパイプPが直交方向に接合された状態、すなわち平面T字状に形成されたものを想定している。したがって、パイプPは、被接合物の側面の湾曲面に対して直交する角度で密接するように、湾曲状に切断される。
【0030】
切断形状測定器具12は、パイプPの先端切断形状を検査するために、検査対象のパイプPの先端部P2に直接取付ける測定器具であり、図2に示すように、一対の球体20(第1球体20a、第2球体20b)と、ダミー体22と、取付部24と、を備える。
【0031】
第1、第2球体20a、20bは、アルミニウム材を用いて、同一の形状及び同一の重さの球形状に形成される。第1、第2球体20a、20bはアルミニウム以外にも、例えば、金属、合成樹脂、セラミック等の材質を選択して形成することができる。特に軽量な材質を選択して形成することで、切断形状測定器具12の軽量化を図ることも可能である。
【0032】
第1、第2球体20a、20bは、球体表面から法線方向に突き出る円柱形状の接続棒26a、26bをそれぞれ有する。この接続棒26a、26bは軸心を仮想的に延長すると球体20の中心点を通過する。第1球体20aは、ダミー体22の一方の端面に接続棒26aを介して接続され、第2球体20bは、ダミー体22の他方の端面に接続棒26bを介して接続される。
【0033】
切断形状測定器具12のダミー体22は、軸方向に所定長さ延在するブロック体であり、被接合物と同一の断面形状を有した円柱形状に形成されている。すなわち、ダミー体22の側部表面は、被接合物の湾曲面と同一の曲率からなる湾曲面を有しており、この側部表面がパイプPの先端部P2の接触する接触面28として機能する。
【0034】
ダミー体22は、両端面(円形)の中心点に、図示しない差込孔がそれぞれ形成されている。各差込孔には、第1、第2球体20a、20bの接続棒26a、26bが挿入される。これにより、第1、第2球体20a、20bはダミー体22の両端面から突き出した状態で接続保持される。ダミー体22に第1、第2球体20a、20bを接続した状態では、ダミー体22の円柱形状の軸心が第1、第2球体20a、20bの中心点30a、30bを結ぶ仮想軸線32と同軸に位置することとなり、切断形状測定器具12全体としての重心が安定する。なお、第1、第2球体20a、20bとダミー体22の接続は、上記のように単に接続棒26a、26bを挿入して保持する構造だけでなく種々の構造を採用することができる。例えば、接続棒26a、26bに雄ねじを形成するとともに、差込孔に雌ねじを形成して互いに螺合させる構造としてもよい。
【0035】
ダミー体22は、パイプPの形状や被接合物の形状等に合わせて数種類用意される。検査においてパイプPの形状や被接合物の形状が変更となる場合は、ダミー体22を適宜交換する。このとき、第1、第2球体20a、20bは、接続棒26a、26bをダミー体22から取外して、別のダミー体22に接続する。すなわち、切断形状測定器具12は、検査するパイプPの形状や被接合物の形状に応じて第1、第2球体20a、20bを着脱することができ、ダミー体22を容易に交換することができる。
【0036】
切断形状測定器具12の取付部24は、直径がパイプPの内径と略一致する円柱形状に形成され、接触面28から直交方向に一定長さ突き出すようにダミー体22に取付けられる。この取付部24の突出位置は、ダミー体22の両端面から等距離の位置、すなわち、ダミー体22の中間点である。取付部24は、切断形状検査時の取付工程において、パイプPに挿入する。取付部24の挿入にともなって、パイプPの先端部P2はダミー体22の接触面28まで案内される。
【0037】
図3Aに示すように、取付部24は、ダミー体22と別部品によって構成されており、取付部24及びダミー体22には、取付部24が着脱自在に取付けられる着脱機構34が設けられている。図3Bに示すように、着脱機構34は、取付部24に形成された凸部34aと、ダミー体22の側面に形成された凹部34bとからなり、これら凸部34aと凹部34bの嵌合によって、ダミー体22に取付部24を取付けることができる。このように着脱機構34を設けることで、検査においてパイプPの形状や被接合物の形状が変更となり、ダミー体22を交換する場合に、取付部24とダミー体22の着脱を容易に行うことができる。なお、ダミー体22と取付部24は、着脱機構34を設けずに一体形成されていてもよいことは勿論である。また、着脱機構34は、凸部34aと凹部34bが嵌合する構造だけでなく、例えば、雄ねじと雌ねじを形成して互いに螺合させる構造としてもよい。
【0038】
以上のように構成した切断形状測定器具12は、切断したパイプPを取付ける際に、取付部24を介して、パイプPの先端部P2をダミー体22の接触面28に容易に案内することができ、作業員の熟練度等に影響を受けることなくパイプPの先端切断形状の安定的な検査を可能にする。また、本実施の形態のように、切断形状測定器具12とパイプPが直交して平面T字状の取付状態となる場合は、パイプPの先端切断形状に形状誤差があれば、切断形状測定器具12が直交せずに第1、第2球体20a、20bの傾きとして顕著に現れることがある。このため、第1、第2球体20a、20bの傾きについて指標等を用いて測定し、パイプPの先端切断形状の形状誤差を判別することもできる。
【0039】
図1に示すように、切断形状検査システム10の配置用治具14は、パイプPを検査空間に対して位置決めする構成として、基台36と、固定用治具38と、支持用治具40と、を備える。基台36は、パイプPの切断形状検査時に、検査空間に載置される。この基台36の上面の所定位置には、固定用治具38及び支持用治具40が配設されている。
【0040】
固定用治具38は、パイプPの中間部P1を固定することで、検査時におけるパイプPの移動や回転を規制する。固定用治具38は、多数のパイプPを検査することを想定し、容易に固定及び取外し可能な工具を選択することが好ましく、例えば、挟持体を開閉動作させることで、パイプPの一部分を簡単に挟持することができる挟持工具(万力等)を適用することができる。
【0041】
本実施の形態における固定用治具38は、図5Aに示すように、可動挟持体38aと、固定挟持体38bと、支持体38cを備える。可動挟持体38aは、ねじ棒38dを介して支持体38cに支持されており、このねじ棒38dは、可動挟持体38aと反対側の端部にハンドル38eが取付けられている。可動挟持体38aは、ハンドル38eの回転操作によって、固定挟持体38bに対して近接及び離間自在となっている。一方、固定挟持体38bは、可動挟持体38aと対向する位置に支持体38cを介して配設される。
【0042】
ここで、本実施の形態のパイプPは、中間部P1に位置決め孔39a、39bが形成されている。一方、固定用治具38の可動挟持体38a、固定挟持体38bには、位置決め突起部38f、38gが形成されている。固定用治具38は、パイプPの中間部P1を挟持する際に、位置決め突起部38f、38gを位置決め孔39a、39bに差し込むことで、パイプPの3次元座標上の移動及び軸中心の回転を規制することができる。
【0043】
なお、固定用治具38は、挟持工具に限定されるものではなく、例えば、パイプPの側周面を締め付けることで固定するベルト等を適用してもよい。また、パイプPに位置決め孔39a、39bが形成されていない場合は、予め固定箇所にマーク等を付しておくことで、このマークを目印として固定用治具38に固定するようにしてもよい。
【0044】
支持用治具40は、検査空間において、パイプPの中間部P1を固定する固定用治具38よりもパイプPの先端部P2寄りに配設される。パイプPは、この支持用治具40に下面が当接することで、検査空間の中空上に先端部P2が支持される。このため、パイプPとの当接部分には、パイプPをガイドする溝等が形成されていてもよい。また、支持用治具40は、パイプPの配置姿勢を固定するために、パイプPの当接面が傾斜して形成されている。パイプPは、支持用治具40の当接面に隙間なく当接支持されることで、先端部P2の高さ位置が位置決めされる。
【0045】
パイプPは、固定用治具38と支持用治具40により2部分が支持されることで、実際に被接合物にパイプPを溶接接合した状態の姿勢となるように位置決めされる。すなわち、図1に示すように検査空間として3次元座標を設定すると、配置用治具14は、基台36上の固定用治具38及び支持用治具40の配設位置に基づいて、パイプPの先端部P2を3次元座標上における所定の座標位置に位置決めすることができる。
【0046】
切断形状検査システム10の位置測定装置16は、二つの2次元レーザ測定装置42と、各2次元レーザ測定装置42の移動を制御する駆動装置44と、を備える。2次元レーザ測定装置42は、パイプPの配置方向と2次元レーザ(以下、単にレーザともいう)の照射方向が平行となる位置に配置される。2次元レーザ測定装置42は、球体20に2次元レーザを照射し、その反射光を受光することで、球体20の2次元的変位量を測定する機能を有している。
【0047】
ここで、本実施の形態の切断形状検査システム10は、図1に示すように検査空間として3次元座標を設定すると、2次元レーザ測定装置42が、球体20に対しx軸方向に垂直な2次元レーザを照射しその反射光を測定することで、奥行(y軸方向)と高さ(z軸方向)からなる半円(y−z軸平面)の変位量(2次元形状)を測定データとして得ている。また、2次元レーザ測定装置42は、球体20の中心点を挟んだ2箇所の変位量(2次元形状)の測定を行う。すなわち、一度目のレーザ照射によって得られた2次元形状データと、一度目の測定位置から2次元レーザ測定装置42を駆動装置44によりx軸方向に移動して、二度目のレーザ照射によって得られた2次元形状データと、を用いて球体20の中心点位置30(第1球体20aの中心点位置30a、第2球体20bの中心点位置30b)を算出する。この球体20の中心点位置30の算出方法については、後述の検査方法の説明において詳述する。
【0048】
なお、本実施の形態に係る第1、第2球体20a、20bは、アルミニウムからなる表面が陽極酸化処理(アルマイト加工)されており、各球体の表面は、酸化等が防止されるとともに、均一の金属光沢を放つことが可能となっている。このため、第1、第2球体20a、20bにレーザを照射すると計測誤差の少ない変位量を測定することができ、測定精度の安定化を図ることができる。
【0049】
二つの2次元レーザ測定装置42は、第1、第2球体20a、20bを測定できるように、第1、第2球体20a、20bの対向位置にそれぞれ配置される。これにより第1、第2球体20a、20bを各2次元レーザ測定装置42が同時に測定することができ、短い測定時間で第1、第2球体20a、20bの中心点位置を求めることができる。この2次元レーザ測定装置42による測定方法は、従来の三次元スキャナを用いた測定方法よりも、低いコストでパイプPの先端切断形状を検査することができる。
【0050】
駆動装置44は、2次元レーザ測定装置42の移動手段として配設される。この駆動装置44は、検査空間(3次元座標)のx−z軸平面上を横行及び縦行移動する。駆動装置44は、後述する検査用コンピュータ18によって移動量及び移動方向がフィードバック制御される。2次元レーザ測定装置42は、この駆動装置44によって、検査空間のx−z軸平面上を移動し、第1、第2球体20a、20bの対向位置に配置される。
【0051】
切断形状検査システム10の検査用コンピュータ18は、モニタ18aと、本体18bとを含み、本体18b内部には図示しない演算処理部、記憶部、及び入出力部等を有する。検査用コンピュータ18は、2次元レーザ測定装置42及び駆動装置44と接続しており、駆動装置44の移動を制御するとともに、2次元レーザ測定装置42による測定を実施する。そして、得られた第1、第2球体20a、20bの2次元形状のデータから、各球体20の中心点位置30を算出する。算出された第1、第2球体20a、20bの中心点位置30a、30bは、3次元座標上の位置情報として記憶される。
【0052】
また、検査用コンピュータ18は、算出した第1、第2球体20a、20bの中心点位置30a、30bに基づいて基準点位置32aを算出する。本実施の形態では、基準点位置32aを第1、第2球体20a、20bの中心点位置30a、30b間を結ぶ仮想軸線32上の中間点に設定している。したがって、算出した基準点位置32aは、ダミー体22の中間位置にある取付部24の軸心24a(図4A参照)と仮想軸線32との交点に一致する。このように基準点位置32aを仮想軸線32上の中間点に設定することで、第1、第2球体20a、20bの中心点位置30a、30bから容易に基準点位置32aを割り出すことができる。
【0053】
検査用コンピュータ18は、算出した第1、第2球体20a、20bの中心点位置30a、30bから、切断形状測定器具12の位置状態、すなわち検査空間(3次元座標)内の切断形状測定器具12の傾きと基準点位置32aを特定する。そして、切断形状測定器具12の位置状態によって、パイプPの先端切断形状が正常に形成されているか否かを判断する。これにより、パイプPの先端切断形状を安定的且つ精度よく判別することができる。
【0054】
以上のように、切断形状検査システム10は、切断形状測定器具12に切断したパイプPに取付けて、第1、第2球体20a、20bの中心点位置30a、30bを測定する構成としたことで、パイプPの先端切断形状を、作業員が簡易な手順に従って検査することができる。
【0055】
次に、上記切断形状検査システム10によって実施する切断形状検査方法について説明する。
【0056】
図4A及び図4Bに示すように、切断形状検査方法では、まず取付工程を実施する。図4Aに示すように、取付工程では、切断形状測定器具12の取付部24をパイプPの先端部P2に対して挿入する。挿入時には、切断形状測定器具12の取付部24がパイプPの内径に対して摺動し、パイプPの先端部P2がダミー体22の接触面28に案内される。図4Bに示すように、この先端部P2が接触面28に接触すると挿入が完了し、切断形状測定器具12とパイプPの取付状態を形成する。
【0057】
なお、以降の工程において、パイプPから切断形状測定器具12が脱落することを防止するため、取付部24には、脱落防止手段を設けることが好ましい。この脱落防止手段としては、検査するパイプPが磁気に反応するものであれば、取付部24の内部にマグネットを内蔵する構成等を適用することができる。また、取付部24にプランジャを設けておき、パイプPの取付に応じて、プランジャがパイプPを内部から押圧することで、パイプPと切断形状測定器具12の取付けを保持する構成とすることもできる。
【0058】
図5A及び図5Bに示すように、切断形状検査方法は、取付工程の後に配置工程を実施する。本実施の形態では、検査空間を3次元座標として設定しており、配置用治具14の基台36上に配設された固定用治具38及び支持用治具40によって、パイプPを3次元座標のy軸方向に延在するように位置決めする構成となっている。
【0059】
配置工程では、切断形状測定器具12を取付けたパイプPの中間部P1を、固定用治具38によって狭持することで固定する。この挟持の際は、パイプPの位置決め孔39a、39bに、固定用治具38の位置決め突起部38f、38gを差し込む。これにより、パイプPの3次元座標上の移動及び軸中心の回転を規制する。
【0060】
また、パイプPは、固定用治具38の挟持とともに、支持用治具40の当接面に隙間なく当接支持されることで、先端部P2の高さ位置が3次元座標上に位置決めされる。パイプPは、固定用治具38及び支持用治具40によって、2部分が支持されることとなり、先端部P2が3次元座標上における所定の座標位置に確実に位置決めされる。このように、配置用治具14は、検査毎にパイプPを交換しても、パイプの先端部P1を、3次元座標上の同じ位置に位置決めすることができる。
【0061】
なお、取付工程と配置工程は、実施の順序が逆になってもよい。すなわち、先に配置工程を実施してパイプPを位置決めし、その後、取付工程を実施して切断形状測定器具12をパイプPに取付ける手順とすることもできる。
【0062】
図6に示すように、切断形状検査方法は、配置工程の後に位置測定工程を実施する。位置測定工程では、まず3次元座標上のx−z軸平面に設けた二つの2次元レーザ測定装置42を、駆動装置44によって切断形状測定器具12の第1、第2球体20a、20bとほぼ対向する位置にそれぞれ移動させる。各2次元レーザ測定装置42、42は、作業員が操作することで第1、第2球体20a、20bの対向位置に移動させてもよいが、位置測定工程の実施にともなって、自動的に第1、第2球体20a、20bの対向位置に配置させることが好ましい。例えば、検査用コンピュータ18を利用して、検査するパイプPに基づいた第1、第2球体20a、20bの対向位置のデータを予め記憶するとともに、位置測定工程の開始時にデータを読み出すように設定し、この読み出したデータに基づいて駆動装置44を制御することで、各2次元レーザ測定装置42、42を第1、第2球体20a、20bの対向位置に移動する構成としてもよい。
【0063】
各2次元レーザ測定装置42は、対向位置への移動後に、一度目の2次元レーザを照射し、その反射光から第1、第2球体20a、20bのy−z軸の各変位量(2次元形状)を測定する。一度目の測定によって得られた第1、第2球体20a、20bの2次元形状データは検査用コンピュータ18に記憶される。
【0064】
一度目の測定が終了した後は、各2次元レーザ測定装置42、42をx軸方向に移動する。このとき、各2次元レーザ測定装置42、42は、各駆動装置44、44によって一度目の照射位置から、第1、第2球体20a、20bの中心点をx軸方向に越えた位置まで移動する。そして、二度目の2次元レーザを照射し、その反射光から第1、第2球体20a、20bのy−z軸の変位量(2次元形状)を測定する。二度目の測定によって得られた第1、第2球体20a、20bの2次元形状データも、一度目と同様に、検査用コンピュータ18に記憶される。
【0065】
検査用コンピュータ18は、記憶された第1球体20aの二つの2次元形状データに基づいて中心点位置30aを3次元座標上の位置情報(座標点)として算出する。同様に、第2球体20bの二つの2次元形状データに基づいて中心点位置30bを3次元座標上の位置情報(座標点)として算出する。具体的には、検査用コンピュータ18が記憶された二つの2次元形状データから演算処理によって、第1、第2球体20a、20bを球形状として特定する。その後、特定した球形状の3次元座標上の位置を導出して、実際の球体20の各中心点位置30を算出することができる。
【0066】
また、検査用コンピュータ18は、より効率的に第1、第2球体20a、20bの各中心点位置30a、30bの3次元座標上の座標点を得るために、以下の算出原理を利用して算出することもできる。
【0067】
すなわち、2次元レーザの照射によって得られる2次元形状データは、図7Aに示すように、球体20の照射方向の前面側をy−z軸に平行な断面形状として表され、照射方向面の反対面側を無視した形状に表される。したがって、図7Aの半円(実線)から伸びる二本の直線(実線)は、球体断面のz軸上の頂点から伸びる接線にあたる。このため、接線と曲線の切り替わる二つの座標点1α(X1α、Y1α、Z1α)、1β(X1β、Y1β、Z1β)は、z軸座標点のみが異なり、x軸、y軸座標点は一致する。また、二つのy軸座標点Y1α、Y1βは、球体20の中心点位置30の座標点γ(Xγ、Yγ、Zγ)のy軸座標点Yγと一致する。さらに、z軸座標点Z1α、Z1βは、両点の中間点が中心点位置の座標点γのz軸座標点Zγを示すことになる。結局、一度目の2次元レーザの照射によって得られた2次元形状データによって、球体20の中心点位置30の座標点γ(Xγ、Yγ、Zγ)のうちy軸座標点Yγ、z軸座標点Zγを求めることができる。
【0068】
さらに、図7Bに示すように、二度目の2次元レーザの照射によって得られた2次元形状データによって、上記と同様に二つの座標点2α(X2α、Y2α、Z2α)、2β(X2β、Y2β、Z2β)が求まる。この二つの座標点2α、2βもz軸座標点のみが異なり、x軸、y軸座標点は一致する。また、二つのy軸座標点Y2α、Y2βは、上記のy軸座標点Y1α、Y1βと一致し、同時に球体20の中心点位置30の座標点γ(Xγ、Yγ、Zγ)のy軸座標点Yγと一致する。さらに、z軸座標点Z2α、Z2βも、z軸座標点Z1α、Z1βと同様に、両点の中間点が中心点位置30の座標点γのZγを示すことになる。
【0069】
球体20の中心点位置30の座標点γにおいて未確定のX軸座標点Xγは、以下の方法によって求める。まず、予め得ることができる球体20の半径rと、z軸座標軸点Z1α、Z1βの中間点までの距離rを用いて、下記の式(1)によって、座標点1α、1βのx軸座標点から中心点位置のx軸座標点Xγまでの距離aを算出する。次に、球体の半径rと、z軸座標軸点Z2α、Z2βの中間点までの距離rを用いて、下記の式(2)によって、座標点2α、2βのx軸座標点から中心点位置のx軸座標点Xγまでの距離aを算出する。算出した距離aはx軸座標点X1α(又はX1β)から中心点までの距離であり、距離aはx軸座標点X2α(又はX2β)から中心点までの距離であるため、最後に、これら二つの距離a、aから球体の中心点位置のX軸座標点Xγを求めることができる。
=(r−r1/2 …(1)
=(r−r1/2 …(2)
【0070】
以上の算出原理によって、検査用コンピュータ18は、2次元レーザ測定装置42によって測定した二箇所の球体20の2次元形状データに基づいて、中心点位置30の3次元座標の座標点γ(Xγ、Yγ、Zγ)を算出することができる。
【0071】
図8A及び図8Bに示すように、切断形状検査方法は、位置測定工程の後に形状精度判別工程を実施する。形状精度判別工程では、検査用コンピュータ18において、算出した第1、第2球体20a、20bの中心点位置30a、30bの座標点γ1、γ2から、各球体20a、20b間を結ぶ仮想軸線32の中間点の座標点δ(Xδ、Yδ、Zδ)を算出する。この中間点の座標点δ(Xδ、Yδ、Zδ)は、切断形状測定器具12の基準点位置32aとなる。
【0072】
検査用コンピュータ18には、パイプPの先端切断形状、及び先端部P2の3次元座標上の位置決め位置に基づいた標準座標点データが予め記憶されている。この標準座標点データは、先端切断形状が正常に形成され、且つパイプPが配置用治具14により検査空間内に正確に位置決めされたパイプPに対して、取付られた切断形状測定器具12の基準点位置32aの座標点δに一致する。
【0073】
図8Aに示すように、パイプPに切断形状測定器具12が正常な角度で取付けられている場合(本実施の形態では、パイプPと切断形状測定器具12が直交した取付状態)、第1、第2球体20a、20bの中心点位置30a、30bの座標点γ1、γ2から算出した基準点位置32aの座標点δ(Xδ、Yδ、Zδ)は、記憶されている標準座標点データと一致することになる。したがって、検査用コンピュータ18は、パイプPに切断形状測定器具12が正常な角度で取付けられていることを検出し、パイプPの先端切断形状が精度よく形成されていると判別することができる。
【0074】
一方、図8Bに示すように、パイプPに切断形状測定器具12が正常な角度から傾いて取付けられている場合、第1、第2球体20a、20bの中心点位置30a、30bの座標点γ1、γ2から算出した基準点位置32aの座標点δ(Xδ、Yδ、Zδ)は、記憶されている標準座標点データと不一致を示す。したがって、検査用コンピュータ18は、パイプPに切断形状測定器具12が正常な角度から傾いて取付けられていることを検出し、パイプPの先端切断形状に形状誤差があると判別することができる。
【0075】
このように、検査用コンピュータ18は、切断形状測定器具12の位置状態(傾き)を特定し、パイプPの先端切断形状を判別することができる。ただし、パイプPの配置時に3次元座標上の位置決め等にずれが生じる可能性があり、記憶されている標準座標点データと、算出した基準点位置32aの座標点δ(Xδ、Yδ、Zδ)が正確に一致するとは限らないため、検査用コンピュータ18には、記憶されている標準座標点データに予め許容範囲が設定されている。検査用コンピュータ18は、算出した基準点位置32aの座標点δ(Xδ、Yδ、Zδ)が、この許容範囲を超えているか否かを判別する。許容範囲内の基準点位置32aの座標点δが算出された場合は、パイプPの先端切断形状が精度よく形成されていると判別して、検査用コンピュータ18のモニタ18aに検査上問題がないことを知らせるメッセージを表示する。逆に、許容範囲外の基準点位置32aの座標点δが算出された場合は、パイプPの先端切断形状が不良であると判別して、検査用コンピュータ18のモニタ18aに不良を知らせるメッセージを表示する。
【0076】
また、検査用コンピュータ18は、算出した第1、第2球体20a、20bの中心点位置30a、30bの座標点γ1、γ2と、基準点位置32aの座標点δとを比較し、パイプPの先端部P2がどのような先端切断形状となっているかを切断形状測定器具12の位置状態から把握することもできる。例えば、本実施の形態のようにパイプPと切断形状測定器具12が直交した取付状態においては、パイプPの先端切断形状が精度よく形成されていれば、第1球体20aの中心点位置30aの座標点γ1(Xγ1、Yγ1、Zγ1)と、第2球体20bの中心点位置30bの座標点γ2(Xγ2、Yγ2、Zγ2)と、基準点位置32aの座標点δ(Xδ、Yδ、Zδ)とは、各x軸座標点のみが異なり、各y軸座標点、各z軸座標点が略一致した座標点を示すことになる。このため、検査用コンピュータ18は、基準点位置32aのy軸座標点Yδに対する中心点位置30a、30bのy軸座標点Yγ1、z軸座標点Yγ2、及び準点位置32aのz軸座標点Zδに対する中心点位置30a、30bのz軸座標点Zγ1、z軸座標点Zγ2の3次元座標上のずれ量を比較するだけで、パイプPの先端切断形状の形状を求めることができる。
【0077】
以上のように、本切断形状検査方法を用いることで、測定した第1、第2球体20a、20bの中心点位置30a、30bに基づいて、切断形状測定器具12の位置状態を容易に特定し、パイプPの先端切断形状を検査することができる。切断形状検査システム10において使用した切断形状測定器具12は、切断したパイプPの先端切断形状に僅かな形状誤差があっても、切断形状測定器具12の位置状態の変化として、その誤差が3次元座標上に表面化する。このため、切断形状測定器具12の位置状態を特定することで、パイプPの先端切断形状を精度よく判別することが可能となる。また、この切断形状検査方法は、作業員が簡易な手順に従って測定することができ、パイプPの先端切断形状を短時間で検査することができる。しかも、パイプPの先端切断形状を安定的且つ精度よく判別することができる。
【0078】
その結果、パイプの先端切断形状を検査する作業量が減少するとともに、溶接工程に高品質なパイプを提供することが可能となり、被接合物とパイプの溶接接合の作業効率を向上させることができる。
【0079】
なお、上述した実施の形態では、位置測定工程において、2次元レーザ測定装置42を用いて、第1、第2球体20a、20bの中心点位置30a、30bを算出したが、位置測定手段は2次元レーザ測定装置42に限定されないことは勿論である。例えば、3次元座標のx軸、y軸、z軸方向に変位自在なプローブを備え、このプローブの先端部の位置を検出する接触型位置測定装置を適用することができる。この場合、接触型位置測定装置は、第1、第2球体20a、20bの表面に対し、例えば3回接触位置を変えてプローブの先端部を接触させ、3点の接触点の座標点位置を検出する。この検出した各接触点、及び予め判明している第1、第2球体20a、20bの直径から演算処理によって、各球体20a、20bを球形状として特定する。そして、各接触点の座標点位置に基づき、特定した球形状の3次元座標位置を導出して、実際の第1、第2球体20a、20bの各中心点位置30a、30bを算出することができる。このような接触型位置測定装置としては、例えば、x軸、y軸、z軸の3つの移動軸を有する直交機構によりプローブを変位させることで、接触点の座標点位置を検出する構成を採用することができる。また、例えば、3次元座標上を自在に移動する多関節アーム等によりプローブを変位させることで、接触点の座標点位置を検出する構成を採用することもできる。ただし、このような接触型位置測定装置は、第1、第2球体20a、20bにプローブの先端を接触させる操作に時間がかかることがある。これに対し、本実施の形態では、2次元レーザ測定装置42を用いることで、短時間に第1、第2球体20a、20bの各中心点位置30a、30bを算出することができる。
【0080】
さらに、位置測定手段は、二つの発光素子及び受光素子を用い、互いに照射方向が直交するように配設することで、第1、第2球体20a、20bの各中心点位置30a、30bを算出する構成としてもよい。すなわち、二つの発光素子によって第1、第2球体20a、20bを2方向から照射し、得られた2方向の球体の射影(2次元形状)を二つの受光素子によって測定して球形状を特定し、各球体20a、20bの中心点位置30a、30bを算出することができる。
【0081】
上述した実施の形態では、切断形状測定器具12に取付ける一組の球体20を、一対の第1、第2球体20a、20bとして同一形状に形成したが、これら第1、第2球体20a、20bは異なる大きさに形成してもよい。切断形状測定器具12の位置状態は、第1、第2球体20a、20bの中心点位置30a、30bを算出し、二つの中心点位置30a、30b間の基準点位置32aを求めることによって特定する。したがって、第1、第2球体20a、20bの大きさが異なっても、中心点位置30a、30bの算出できれば、切断形状測定器具12の位置状態を特定することができる。
【0082】
上述した実施の形態では、パイプPの先端部に円柱状の取付部24を差し込む構成としたが、この構成とは逆に、取付部24を円筒状に形成して、この筒内にパイプPの先端部を差し込むようにしてもよい。
【0083】
図9は、本発明の他の実施形態に係る切断形状測定器具12である。上述した実施の形態では、取付部24は、ダミー体22から直交方向に突き出していたが、図9Aに示すように、取付部24は、ダミー体22の接触面28に対して突出する角度を自在に設定可能とする角度設定機構48を備えることもできる。例えば、角度設定機構48は、ダミー体22の内部の中間点に基軸48aを形成し、この基軸48aに軸受等を介して、取付部24を取付ける構造とすることができる。取付部24は、この基軸48aを基点として回転し、ダミー体22の接触面28から突出する角度を設定することができる。このとき基軸48aが中間点に位置していることで、切断形状測定器具12に設定される基準点位置32aを変更することなく、取付部24の突出する角度を変更することができる。したがって、実際に溶接接合するときの被接合物とパイプPの接合角度と同じ角度となるように取付部24の角度を合わせることで、取付工程においては、取付部24の設定角度に従って、パイプPの先端部を接触面28に案内することができる。すなわち、角度設定機構48を備えることで、様々な接合角度に応じて切断したパイプPの先端切断形状について検査することが可能となる。
【0084】
なお、角度設定機構48は、上記のように取付部24が基軸48aによって回転する構造だけでなく、図9Bに示すように、取付部24の着脱機構34に合わせて、中間点に向かって穿設された複数の凹部34b(図9Bでは三つ)に対し、接合角度に応じて取付部24の凸部34aを適宜取付けるようにしてもよい。
【0085】
上記において、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0086】
10…切断形状検査システム 12…切断形状測定器具
14…配置用治具 16…位置測定装置
18…検査用コンピュータ 20…球体
22…ダミー体 24…取付部
38…固定用治具 40…支持用治具
42…2次元レーザ測定装置 P…パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合物の湾曲面に接合するために、当該湾曲面に沿うように切断したパイプの先端切断形状を検査する切断形状検査方法であって、
一組の球体と、前記一組の球体間に前記被接合物の湾曲面と同形状の接触面が形成されたダミー体と、取付けによって前記パイプの先端部を前記接触面に案内する取付部と、を備えた切断形状測定器具を、前記パイプに取付ける取付工程と、
前記パイプを配置する配置工程と、
前記一組の球体の中心点位置をそれぞれ測定する位置測定工程と、
前記測定した一組の球体の中心点位置に基づいて、前記切断形状測定器具の位置状態を特定することで、前記パイプの先端切断形状を判別する形状精度判別工程と、を備える
ことを特徴とする切断形状検査方法。
【請求項2】
請求項1記載の切断形状検査方法において、
前記ダミー体は、前記一組の球体間において、円柱形状からなる被接合物と同一断面の円柱形状に形成されて延在するとともに、当該円柱形状の軸心が前記一組の球体の中心点を結ぶ仮想軸線と同軸に位置しており、
前記形状精度判別工程は、前記仮想軸線上における所定の基準点位置を算出することで、前記切断形状測定器具の位置状態を特定する
ことを特徴とする切断形状検査方法。
【請求項3】
請求項2記載の切断形状検査方法において、
前記基準点位置は、前記一組の球体の中心点位置間を結ぶ仮想軸線の中間点位置に設定される
ことを特徴とする切断形状検査方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の切断形状検査方法において、
前記位置測定工程における測定は、前記球体に2次元レーザを照射するレーザ測定装置により行い、
当該レーザ測定装置によって測定した少なくとも二箇所の球体の2次元形状データに基づいて、前記球体の中心点位置を算出する
ことを特徴とする切断形状検査方法。
【請求項5】
被接合物の湾曲面に接合するために、当該湾曲面に沿うように切断したパイプの先端切断形状を検査する切断形状測定器具であって、
一組の球体と、
前記一組の球体間に前記被接合物の湾曲面と同形状の接触面が形成されたダミー体と、
前記接触面の外径方向に突出し、取付けによって前記パイプの先端部を前記接触面に案内する取付部と、を備える
ことを特徴とする切断形状測定器具。
【請求項6】
請求項5記載の切断形状測定器具において、
前記取付部は、前記接触面に対して突出する角度を自在に設定可能である
ことを特徴とする切断形状測定器具。
【請求項7】
請求項5又は6記載の切断形状測定器具において、
前記取付部は、前記ダミー体に着脱自在に取付けられる
ことを特徴とする切断形状測定器具。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の切断形状測定器具を用いて、被接合物の湾曲面に接合するために、前記被接合物の湾曲面に沿うように切断したパイプの先端切断形状を検査する切断形状検査システムであって、
前記パイプを配置する配置手段と、
前記一組の球体の中心点位置をそれぞれ測定する位置測定手段と、
前記測定した一組の球体の中心点位置に基づいて、前記切断形状測定器具の位置状態を特定することで、前記パイプの先端切断形状を判別する形状精度判別手段と、を備える
ことを特徴とする切断形状検査システム。
【請求項9】
請求項8記載の切断形状検査システムにおいて、
前記位置測定手段は、前記球体に2次元レーザを照射するレーザ測定装置が設けられ、
当該レーザ測定装置によって測定した少なくとも二箇所の球体の2次元形状データに基づいて、前記球体の中心点位置を算出する
ことを特徴とする切断形状検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−7908(P2012−7908A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141695(P2010−141695)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】