説明

切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れたアルミニウム合金めっき鋼板

【課題】切断端面耐食性と加工部耐食性の両方に優れ、長期間にわたり腐食せず、かつ、構造材として汎用性のあるアルミニウム系合金めっき被膜を有する鋼材を提供する。
【解決手段】質量%で、Fe:1〜75%、Mg:0.02〜50%及びCa:0.02〜1%のうち1種又は2種、及び、残部:Al及び不可避的不純物からなるめっき被膜を有することを特徴とする切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れた表面処理鋼材、特に、切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼材表面に、Zn或いはZn系合金のめっきを施したZn系めっき鋼材は、自動車、家電、建材等、幅広い分野で使用されているが、Znには価格の高騰や資源枯渇等の問題があるため、Znに替わるめっき用金属が求められている。
【0003】
一方、アルミニウムは安価で埋蔵量も豊富であり、これをめっきしたアルミニウムめっき鋼板は、耐食性及び耐熱性に優れていることから、Zn系めっき鋼材同様、家電、建築、自動車用構造材として広く用いられている。
【0004】
しかし、Alをめっきとして使用した場合は、犠牲防食作用が比較的小さいという問題がある。これは、特に乾燥した環境において、Alが不動態化し易いという特性をもち、この不動態皮膜の生成により、犠牲防食能が低下するためである。このため、従来のアルミニウムめっきでは、優れた犠牲防食能を持つ亜鉛系めっきの代替は困難である。
【0005】
そして、近年、腐食性の高い環境下でも、長期間(例えば、数年間)にわたり、腐食、例えば、孔あき腐食が起きない高耐食性鋼材が強く求められていることから、溶融アルミニウムめっき鋼板の耐食性を高める提案が数多くなされている(例えば、特許文献1〜4、参照)。
【0006】
これら提案は、鋼板組成や、めっき浴組成を工夫し、溶融アルミニウムめっき鋼板の総合的な耐食性の向上を図るものであるが、最近に至り、溶融アルミニウムめっき鋼板の用途が多様化し、所要の形状に切断したり、強加工して使用する頻度が増加する中、切断端面や、加工部における耐食性を高めること、つまり、犠牲防食能の改善が強く求められている。
【0007】
特許文献5には、加工部及び端面耐食性に優れたAl系めっき鋼板が開示されているが、めっき層は高価なZnを含有するので、上記鋼板は、家電、建築、自動車用構造材として、コスト的に不利である。
【0008】
特許文献6には、加工後の耐食性に優れた溶融アルミめっき鋼板が開示されているが、めっき後のスキンパス圧延が必須であること、また、特許文献7には、加工部耐食性に優れた高強度Al系めっき鋼板が開示されているが、プレス加工後の焼入れが必須であり、いずれも汎用を欠くものである。
【0009】
【特許文献1】特開昭62−176021号公報
【特許文献2】特開平05−287492号公報
【特許文献3】特開平05−311379号公報
【特許文献4】特開2004−250734号公報
【特許文献5】特開2002−012959号公報
【特許文献6】特開2002−317256号公報
【特許文献7】特開2004−244704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、溶融アルミニウムめっき鋼板の耐食性に係る限界に鑑み、切断端面耐食性と加工部耐食性の両方に優れ、長期間にわたり腐食せず、かつ、構造材として汎用性のあるアルミニウム系合金めっき被膜を有する鋼材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、アルミニウム系合金を溶融めっきした鋼材において、切断端面耐食性と加工部耐食性の両方を高める手法について鋭意検討した。
【0012】
その結果、鋼材の表面に、所要量のMg及びCaの1種又は2種を含有するFe−Al合金を溶融めっきすると、切断端面耐食性及び加工部耐食性がともに向上し、長期間にわたり赤錆が発生しないことを見出した。
【0013】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0014】
(1) 質量%で、Fe:1〜75%、Mg:0.02〜50%及びCa:0.02〜1%のうち1種又は2種、及び、残部:Al及び不可避的不純物からなるめっき被膜を有することを特徴とする切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼材。
【0015】
(2) 前記Feが1〜25%未満であることを特徴とする前記(1)に記載の切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼材。
【0016】
(3) 前記めっき被膜が、さらに、質量%で、Si:0.02〜2%及びREM:0.02〜1%の1種又は2種を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼材。
【0017】
(4) 前記REMが、La−Ce合金であることを特徴とする前記(3)に記載の切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼材。
【0018】
(5) 前記(1)〜(4)のいずれかに記載のアルミニウム系合金めっき鋼材に、塗装を施したことを特徴とする切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼材。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐食性、特に切断端面耐食性と加工部耐食性の両方に優れ、長期間にわたり腐食せず、かつ、構造材として汎用性のあるアルミニウム系合金めっき被膜を有する鋼材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明のアルミニウム系合金めっき鋼材(本発明鋼材)は、質量%で、Fe:1〜75%、Mg:0.02〜50%及びCa:0.02〜1%のうち1種又は2種、及び、残部:Al及び不可避的不純物からなるめっき被膜を有するので、切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れた鋼材である。
【0022】
本発明鋼材においては、上記組成のめっき被膜が、優れた切断端面耐食性及び加工部耐食性を担うので、下地鋼材は、特定の鋼材に限定されない。下地鋼材として、熱間圧延材、冷間圧延材を問わず使用できるし、また、普通鋼材を始めとし、極低炭素鋼材、Si、Mn、Alを多量に含有する高強度鋼材や、ステンレス鋼材、電磁鋼材も使用することができる。また、鋼材は、鋼板、鋼管、構造材、及び、線材のいずれでもよい。
【0023】
めっき方法は、Fe−Al合金系めっき被膜を形成することができる方法であればよい。工業的な見地から、溶融めっき法が好ましいが、水溶液または非水溶媒からの電気めっき、蒸着、CVD、溶射なども用いることができる。
【0024】
なお、めっきの前工程で、鋼材を、アルカリで脱脂した後、無酸化炉−還元炉方法、全還元炉方法、フラックス法、サンドブラスト、ショットブラスト等のいずれかの方法で鋼材の表面を活性化する前処理を行うことが好ましい。
【0025】
溶融めっき法を用いる場合、めっき層中のFeは、(Mg、Ca)-Al系合金溶融めっき浴に、直接、Feを添加するか、又は、Feを殆ど含まない(Mg、Ca)-Al系合金溶融めっき浴により、(Mg、Ca)-Al系めっきを付着させた後、めっき浴の熱、又は、めっき後の熱処理により、地鉄から導入する(以下、「合金化」と称する)。
【0026】
具体的には、前処理しない鋼材、又は、前処理した鋼材を、所要のFe濃度、及び、Mg及び/又はCa濃度のFe−(Mg、Ca)−Al合金めっき浴、又は、Feを殆ど含まない、所要のMg及び/又はCa濃度の(Mg、Ca)−Al合金めっき浴に、3〜60秒程度浸漬して、鋼材表面に、所要厚のFe−(Mg、Ca)−Al合金系めっき被膜、又は、(Mg、Ca)−Al合金系めっき被膜を形成する。
【0027】
Feを殆ど含まない(Mg、Ca)−Al合金めっき浴を用いる場合には、浴温は、600〜700℃が好ましく、この温度で、めっき被膜の合金化が進行し、Fe−(Mg、Ca)−Al系合金めっき被膜が生成する。また、鋼材をめっき浴から引き上げた後、めっき被膜を加熱し、Fe−(Mg、Ca)−Al系合金層の形成を促進してもよい。
【0028】
次に、めっき被膜の成分組成に係る限定理由について説明する。なお、%は、質量%を意味する。
【0029】
めっき被膜中のFeが1%未満であると、鋼材をめっき浴から引き上げた後、めっき被膜を加熱しても、切断端面耐食性と加工部耐食性に優れたFe−(Mg、Ca)−Al系合金めっき被膜が生成しない。鋼材と密着するFe−Al系合金めっき被膜を形成するためには、1%以上のFeが必要であるので、Feの下限を1%とした。
【0030】
めっき被膜中のFeが、75%を超えると、Fe3Alが生成し、めっき被膜が脆くなり、下地鋼材に達するクラックが増大し、加工時に、めっき被膜が破壊し、剥離脱落するため、所要の耐食性と加工部耐食性が得られないことがある。それ故、Feの上限を75%にした。
【0031】
Feは、より優れた切断端面耐食性と加工部耐食性を得ることができる点で、1〜60%が好ましいが、より好ましくは、1〜25%未満である。
【0032】
Mg及び/又はCaは、切断端面耐食性と加工部耐食性を高めるために添加するが、0.02%未満であると、上記耐食性向上効果が得られないので、ともに、下限を0.02%とする。
【0033】
一方、Mgが50%を超えると、めっき被膜自体が活性化し、耐食性が低下するので、Mgの上限を50%とする。より好ましくはMg:15〜40%である。このMg含有範囲では、塩水噴霧試験より厳しい腐食環境であるサイクル腐食試験において、安定な腐食生成物が生成すると推定され、良好な切断端面耐食性と加工部耐食性を示す。また、Caが1%を超えると、めっき被膜の加工性、切断性が低下するので、Caの上限を1%とする。
【0034】
本発明鋼材のめっき被膜は、Feの他、Si:0.02〜2%、及び、REM(希土類元素):0.02〜1%の1種又は2種を含有する。
【0035】
めっき被膜中にSi及び/又はREMが存在すると、耐食性、特に、切断端面耐食性と加工部耐食性がより向上するとともに、裸耐食性や塗装後の耐食性についての改善効果も認められるが、いずれも、0.02%未満では、上記耐食性向上効果が発現しないので、Si及びREMの下限は、0.02%とする。
【0036】
一方、めっき被膜中にSiが多量に存在すると、Fe−(Mg、Ca)−Alの合金化を抑制するように作用し、その結果、加熱に長時間を要することになるので、Siの上限は2%とする。
【0037】
また、めっき被膜中のREM量を増大しても、切断端面耐食性と加工部耐食性は、1%を超えると、増量に応じて向上せず、飽和するので、REMの上限は1%とする。
【0038】
REMとしては、工業的に安価であるミッシュメタルとしてめっき浴に添加することできるLa−Ce合金が好ましいが、他のREM、例えば、Sc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなども、上記耐食性向上効果を発現するので、添加材として使用することができる。
【0039】
本発明鋼材においては、耐食性、特に、切断端面耐食性と加工部耐食性に優れており、裸使用で、十分、耐食性能を発揮するが、塗装をすることで、さらに、製品寿命を延長することができる。塗装する塗料は、特定の塗料に限られない。ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂などを用いることができる。塗装方法については、例えば、ロールコーター、バーコーター、スプレー、カーテンフロー、電着のいずれを用いてもよく、特定の塗装方法に限定されない。
【0040】
また、必要に応じ、塗装下地処理として、クロメートフリー系化成処理、クロメート系化成処理、燐酸亜鉛系化成処理等を施してもよい。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0042】
(実施例1)
板厚0.8mmの低炭素アルミキルド鋼板を、N2−15%H2雰囲気中、800℃で還元し、焼鈍し、次いで、浴温650℃のめっき浴に3秒浸漬し、引き上げ後、エアワイピングで、付着量を、片面40g/m2に調整し、700〜800℃にて5〜60秒加熱した後、窒素ガスにて、直ちに冷却して、上記鋼板の表面にめっき被膜を形成した。
【0043】
めっき被膜を化学分析した結果を、表1〜3に示す。
【0044】
めっき被膜を有する鋼板から、寸法:150mm×70mmの試料片を切り出し、長手部の切断端面を露出させたまま、塩水噴霧試験(JIS−Z2371)を1000時間行い、試験後に、切断端面の赤錆発生面積を測定した。切断端面の露出面積に対する端面赤錆発生面積を端面赤錆発生率として評価した。
【0045】
評価は、下記に示す5段階の評価基準(評点)を設定して行い、評点3以上を合格とした。結果を、表1〜3に併せて示す。
【0046】
評点:端面赤錆発生率
5:5%未満
4:5%以上10%未満
3:10%以上20%未満
2:20%以上30%未満
1:30%以上
【0047】
表1〜3に示す端面赤錆発生率から、本発明鋼材は、切断端面耐食性に優れていることが解る。
【0048】
(実施例2)
実施例1で得ためっき鋼板から、寸法:50mm×50mmの試料片を切り出し、180度曲げを施して、試験片を作製した。この試験片に対し、塩水噴霧試験(JIS−Z2371)を2000時間行い、加工部における赤錆発生面積を測定した。加工部面積に対する赤錆発生面積を加工部赤錆発生率として評価した。
【0049】
評価は、下記に示す5段階の評価基準(評点)を設定して行い、評点3以上を合格とした。結果を、表1〜3に併せて示す。
【0050】
評点:加工部赤錆発生率
5:5%未満
4:5%以上10%未満
3:10%以上20%未満
2:20%以上30%未満
1:30%以上
【0051】
表1〜3に示す加工部赤錆発生率から、本発明鋼材は、加工部耐食性に優れていることが解る。
【0052】
(実施例3)
実施例1で得ためっき被膜表面に、Cr6+を含まない化成被膜を2g/m2施した後、プライマーとして、エポキシ変性ポリエステル塗料(日本ペイント製 P−02)をバーコーターで塗布し、熱風乾燥炉にて、板温200℃で焼き付け、膜厚5μmの塗膜を形成した。さらに、ポリエステル塗料(日本ペイント製 NSC−300HQ)を塗布し、熱風乾燥炉にて、板温220℃で焼き付けて、膜厚20μmの塗膜を形成した。
【0053】
寸法:150mm×70mmの試料を切り出し、該試料の表面に、カッターナイフで、50mm長さの、互いに交差するカット疵を付与した。この試料につき、塩水噴霧試験(JIS−Z2371)を2500時間行い、試験後、疵部からの塗膜膨れ幅の最大値を測定した。
【0054】
さらに、上記塗膜を形成した鋼板から、寸法:150mm×70mmの試料片を切り出し、カッターナイフで、50mm長さの、互いに交差するカット疵を付与した後、サイクル腐食試験(JASO M 609−91)を500サイクル行い、試験後、疵部からの塗膜膨れ幅の最大値を測定した。
【0055】
評価は、下記に示す5段階の評価基準(評点)を設定して行い、評点3以上を合格とした。結果を、表1〜3に併せて示す。
【0056】
評点:塗膜膨れ幅
5:1mm未満
4:1mm以上2mm未満
3:2mm以上5mm未満
2:5mm以上10mm未満
1:10mm以上
【0057】
表1〜3に示す塗膜膨れ幅から、本発明鋼材は、塗装後耐食性にも優れていることが解る。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0061】
前述したように、本発明によれば、切断端面耐食性と加工部耐食性の両方に優れ、長期間にわたり腐食せず、かつ、構造材として汎用性のあるアルミニウム系合金めっき被膜を有する鋼材を提供することができる。したがって、本発明は、各種製造産業や建築産業において、汎用構造材として利用可能性が大きいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Fe:1〜75%、Mg:0.02〜50%及びCa:0.02〜1%のうち1種又は2種、及び、残部:Al及び不可避的不純物からなるめっき被膜を有することを特徴とする切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼材。
【請求項2】
前記Feが1〜25%未満であることを特徴とする請求項1に記載の切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼材。
【請求項3】
前記めっき被膜が、さらに、質量%で、Si:0.02〜2%及びREM:0.02〜1%の1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼材。
【請求項4】
前記REMが、La−Ce合金であることを特徴とする請求項3に記載の切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム系合金めっき鋼材に、塗装を施したことを特徴とする切断端面耐食性及び加工部耐食性に優れたアルミニウム系合金めっき鋼材。

【公開番号】特開2009−120942(P2009−120942A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256736(P2008−256736)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】