説明

列車制御装置、その制御方法及び列車制御システム

【課題】地上システム主体の制御の替わりに車上システム主体の列車の運行制御を提案し、列車のルート設定(進路設定)の円滑化、輸送能力の向上、設備コスト及び設備メンテナンスコストの低減を図ることが可能な列車制御装置、その制御方法及び列車制御システムを提供する。
【解決手段】ルート設定要求部は、自列車の位置情報を基準に、列車制御用ダイヤデータ記憶部に記憶された自列車の前記運行予定情報と路線形情報と分岐器の通過順序に基づいて、自列車の走行予定ルート情報を取得し、当該走行予定ルート上に位置する前記分岐器を前記自列車の走行方向に転換するよう前記伝送手段を介して地上装置に要求する。地上装置では、分岐器転換制御手段が、列車側からの転換要求指令に基づいて、転てつ装置を介して分岐器の転換・鎖錠を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車の運行を管理する列車制御装置、その制御方法及び列車制御システムに係り、特に、安全に確保される列車の走行ルートの自動設定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の鉄道を走行する列車の運行制御として、地上側において、各列車の位置を検出し、適切なタイミングで分岐器に対して転換指令を下すことで、列車の走行ルートの設定を要求する。すなわち、これにより、実際に分岐器の転換及び鎖錠が行われ、実際に走行ルートが設定される。また、このようなルート設定と共に、当該ルートを走行すべき列車に対して、安全確保の上で必要とされる情報等(信号情報等の列車の走行許可に関する情報)を提供しつつ、当該列車の運行を制御する。
【0003】
ここで、各列車の位置の把握には、軌道回路を用いて当該軌道回路単位に列車の位置を検出する方法が一般的に採用される。すなわち、列車の走行路を所定の長さの各ブロック(数百メートルから数キロメートルの長さを持つ区間)に電気的に分割し、この各ブロックに設置された電気回路が車輪及び車軸により短絡される現象を利用することで、列車の位置を検知している。
【0004】
つまり、列車の運行は、軌道回路単位で列車の位置を把握し、これに基づき地上側において、各ルートの設定の可否(分岐器転換・鎖錠の可否)を判断することで、当該ルートの安全確保及び列車運行の円滑化を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−44998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような地上側による制御を主体とする設備では、設備コスト及び設備のメンテナンスコストが高く、さらには設備保全を担当する技術者の育成及び技術継承が難しいといった問題が生じる。
【0007】
また、上記のような列車の位置検出は、軌道回路による所定の区間やトランスポンダによる所定の地点でしか行われないので、列車の位置をより詳細に監視できないことから、所定の停止位置から分岐器に至るまでの保安距離を長く設定しなければならず、これにより、ルート設定(分岐器転換・鎖錠)のタイミングに必要以上の余裕が取られ無駄が生じる。
【0008】
なお、安全確保の立場から、1軌道回路又は1ルート(1進路)には1列車しか存在することを許容できないため、上記のような設備では列車相互の間隔に必要以上の余裕時間が設定される。そのため、地上側の設備の簡素化を図るべく、特許文献1のような自列車及び先行列車の位置情報の関係と簡単な到着駅における使用番線の決定ルールに基づいて、走行ルートを決定する発明が提案されている。
【0009】
しかしながら、実際には、自列車及び先行列車の位置と簡単なルールだけでは、安全を確保しつつ、円滑なルート設定を実現し、輸送能力が向上するような列車の運行制御を実現することは難しい。すなわち、駅出発時刻、駅停車時刻、駅通過、等のより詳細な列車の運行予定情報であるダイヤデータを加味したルート設定が必要となる。
【0010】
また、このような発明は、列車が遅延した場合等に対応しておらず、実際に列車が遅れた場合にはルート上で渋滞が発生し、著しく輸送能力を低下させてしまう。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解消するために提案されたものであって、その目的は、地上システム主体の制御の替わりに車上システム主体の列車の運行制御を提案し、列車のルート設定(進路設定)の円滑化、輸送能力の向上、設備コスト及び設備メンテナンスコストの低減を図ることが可能な列車制御装置、その制御方法及び列車制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成するために、本発明は、地上装置との間で無線伝送による情報の送受信を行う伝送手段を備え、列車の走行を制御する列車制御装置において、列車の運行予定情報が記憶されたダイヤデータ記憶部と、前記列車の走行路に設けられた各分岐器の列車の通過順序が記憶された通過順序記憶部と、各走行路に設けられた前記分岐器の位置、転換方向、分岐又は合流に関する情報を含む路線形情報が記憶された路線形情報記憶部と、自列車の位置及び速度情報を取得する取得手段と、取得された自列車の位置情報を基準に、前記ダイヤデータ記憶部に記憶された自列車の前記運行予定情報と、前記路線形情報記憶部に記憶された路線形情報と、前記通過順序記憶部に記憶された分岐器の通過順序と、に基づいて、この自列車の走行予定ルート情報を取得し、当該走行予定ルート上に位置する前記分岐器を前記自列車の走行方向に転換するよう前記伝送手段を介して地上装置に要求する要求手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、前記要求手段により転換が要求された分岐器手前の所定位置までの自列車の減速パターンを作成する減速パターン作成手段を備え、前記要求手段は、前記取得手段により取得した自列車の位置情報が当該減速パターンの開始位置に一致し始める場合に、前記分岐器を前記自列車の走行方向に転換するよう前記伝送手段を介して地上装置に要求する点も本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0014】
以上のような本発明によれば、ダイヤデータ記憶部に記憶されている列車の運行予定情報(駅出発時刻、駅停車時刻、駅通過、駅折り返し、走行経路に関わる駅番線等についてのスケジュールデータを含む)と、路線形情報記憶部に記憶された路線形情報(分岐器位置、分岐及び合流に関する線形データを含む)から、自列車が走行する予定のルートを車上制御装置側にて取得及び要求することが可能な列車制御装置、その制御方法及び列車制御システムを提供することができる。これにより、ルート設定の要求に関する処理を車上側主体で行うことができるので、設備コスト及び設備メンテナンスコストの低減を図ることが可能となり、また、駅出発時刻、駅停車時刻、駅通過等のより詳細な列車の運行予定情報であるダイヤデータを考慮して走行ルートの設定要求を行っているので、列車のルート設定(進路設定)の円滑化を図ることが可能となる。
【0015】
さらに、各列車が列車固有のブレーキ性能に合わせた処理を行うことができるので、車両性能を最大限に活かした走行が可能となり、輸送能力の維持・向上に寄与する。加えて、列車制御装置では、更新される障害情報を基にブレーキパターンを更新し、適切なタイミングで地上装置に対してルート設定を要求しながら走行を続けるので、無駄な減速をすることなく安全な走行を保証することが可能となる。
【0016】
また、列車順序の入れ替えに関する処理を列車側主体で行なうことができるので、列車が遅延した場合であっても、遅延対策として車両性能を最大限に活かした走行が可能となり、それ故に輸送能力の維持・向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る全体構成を示すブロック図
【図2】本発明の第1の実施形態に係るルート設定要求部の具体的な構成を示すブロック図
【図3】本発明の第1の実施形態に係るブレーキパターンを示す図
【図4】本発明の第1の実施形態に係る減速パターン作成部の具体的な構成を示すブロック図
【図5】本発明の第1の実施形態に係る走行予定ルートの要求手順を示すをフローチャート(列車側)
【図6】本発明の第1の実施形態に係る障害情報の抽出手順を示すフローチャート(地上側)
【図7】本発明の第1の実施形態に係るブレーキパターンの作成及び分岐器の転換要求手順を示すフローチャート(列車側)
【図8】本発明の第1の実施形態に係る分岐器の転換制御手順を示すフローチャート(地上側)
【図9】本発明の第1の実施形態に係る列車A、B、Cによる作用の一例を示す図(1)
【図10】本発明の第1の実施形態に係る列車A、B、Cによる作用の一例を示す図(2)
【図11】本発明の第2の実施形態に係る全体構成を示すブロック図
【図12】本発明の第2の実施形態に係る運行乱れ監視及び通過順序入替部の具体的な構成を示すブロック図
【図13】本発明の第2の実施形態に係る列車順序入替情報の生成手順を示すをフローチャート(列車側)
【図14】本発明の第2の実施形態に係る列車順序入替情報の管理手順を示すフローチャート(地上側)
【図15】本発明の第2の実施形態に係る制御用列車ダイヤの更新手順を示すフローチャート(列車側)
【図16】本発明の第2の実施形態に係る列車A、B、Cによる作用の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
[本実施形態]
[1.第1の実施形態]
[1.1.全体構成]
次に、本発明の第1の実施形態に係る全体構成を図1を参照して以下に説明する。
列車側には、図1に示す通り、走行ルートの設定要求等の列車側の各種機能を制御する列車制御装置1と、速度発電機又はパルスジェネレータ等により列車の位置及び速度を検出する列車位置・速度検出装置2と、地上側との間で無線伝送による情報の送受信を行う車上無線局3と、を備えている。
【0019】
一方、地上側は、列車に対する各種情報を制御する地上装置4と、分岐器5の転換及び鎖錠を制御する転てつ装置6と、列車側との間で無線伝送による情報の送受信を行う無線基地局7と、を備えている。
【0020】
[1.2.列車制御装置の構成]
ここで、列車制御装置1が備える具体的な構成について、以下に説明する。
図1に示す通り、101は、列車位置・速度検出装置2により検出された自列車の位置及び速度に基づいて列車位置情報及び速度情報を演算し決定する列車位置・速度決定部(「取得手段」に対応する)である。102は、列車制御用のダイヤデータ記憶部であり、駅出発時刻、駅停車時刻、駅通過時刻、駅折り返し時刻等の列車の運行予定情報が記憶される。
【0021】
103は、走行路の線形データベース(以下、走行路線形DBと称する)(「路線形情報記憶部」に対応する)であり、走行路に配設された分岐器5の位置及び状態情報(分岐器の絶対位置及び転換方向等)、分岐又は合流に関する線形情報(分岐器5での分岐又は合流情報)に加え、走行路の傾斜(勾配)や直線・曲線度合い等の情報が記憶される。104は、車両性能に関するデータベース(以下、車両性能DBと称する)であり、各ノッチの牽引力及びブレーキ力等の速度制御情報に加え、車両重量や車両長等も記憶される。
【0022】
105は、走行路上の各分岐器5において、列車が通過する順序、及び通過する方向でを示す分岐器5の転換方向を決定する分岐器通過順序及び転換方向決定部である。この分岐器通過順序及び転換方向決定部105は、ダイヤデータ記憶部102に記憶された列車の運行予定情報と、走行路線形DB103に記憶された走行路に設けられた分岐器の位置及び状態等から、対象走行路上に存在する分岐器5をどの方向にどのような順序で列車が通過するかを決定し、この情報を後述する下記分岐器通過順序及び転換方向テーブル106(「通過順序記憶部」に対応する)に登録する。
【0023】
106は、分岐器通過順序及び転換方向決定部105により決定された各分岐器5を列車が通過する順序及び通過する方向を示す転換方向を登録しておくデータテーブル(以下、分岐器通過順序及び転換方向テーブルと称する)である。
【0024】
107は、自列車の次の停車駅までの走行予定ルートを抽出し、この予定ルートを地上側へ設定要求するルート設定要求部(「要求手段」に対応する)である。さらに、ルート設定要求部107は、このような走行予定ルートを抽出する機能を備えるほか、自列車が走行する予定のルート上に存在する各分岐器5の転換及び鎖錠を地上装置4に対して要求する機能を有している。なお、具体的な処理は後述する。
【0025】
108は、ルート設定要求部107により抽出された走行予定ルート上に存在する各分岐器5手前の限界停止位置に、列車を確実に停止させる減速パターンを作成する減速パターン作成部であり、具体的な処理は後述する。
【0026】
[1.2.1.ルート設定要求部]
次に、ルート設定要求部107の具体的な構成について、図2を参照して以下に詳述する。図2に示す通り、ルート設定要求部107は、まず、列車位置・速度決定部101により決定した列車の位置及び速度情報と、ダイヤデータ記憶部102に記憶された列車の運行予定情報と、走行路線形DB103に記憶された分岐器5の位置及び状態情報等と、分岐器通過順序及び転換方向テーブル106に登録された対象走行路に存在する各分岐器5での列車の通過順序及び当該分岐器5の転換方向と、に基づいて自列車の次の停車駅までの走行予定ルートを抽出する走行予定ルート抽出手段107aを備えている。
【0027】
また、後述するが、地上装置4を経て決定された走行ルート上の分岐器5に対して転換要求を行う機能として、列車位置・速度決定部101により決定された列車の位置及び速度情報を基に、走行列車が当該分岐器5毎に減速パターン作成部108により作成された減速パターンに抵触するかを判定する抵触判定手段107bを備えている。より詳細には、図3に示すように、この抵触判定手段107bは、列車位置・速度決定部101により決定された列車の位置及び速度情報を基に、現在位置からT秒先(あるいはLメートル先)において、走行ルート上の分岐器5前方に設定される限定停止位置に確実に停止させるために減速パターン作成部108により作成された減速パターン(常用最大ブレーキパターン)と抵触し始めるかを判定する。
【0028】
そして、抵触判定手段107bにより抵触すると判定された場合に、その減速パターンが作成された限界停止位置下流の分岐器5に対して、自列車の走行と同じ方向の転換要求指令を行う転換指令要求手段107cを備えている。実際には、地上側へ当該分岐器5の転換要求指令を送信する。
【0029】
[1.2.2.減速パターン作成部]
次に、減速パターン作成部108の具体的な構成について、図4を参照して以下に説明する。
図4に示す通り、減速パターン作成部108は、後述するが、地上装置4から送られた走行予定ルート上の障害情報を受信すると、分岐器通過順序及び転換方向テーブル106に登録された各分岐器5の列車の通過順序及び転換方向に基づいて、この走行予定ルート上で当該障害情報より手前に存在する分岐器5のうち、自列車に通過の際の優先権があり(通過順序が最優先)、かつ、未だ自列車の走行方向に転換及び鎖錠されていない(専有されていない)分岐器5を抽出する分岐器抽出手段108aを備えている。すなわち、この分岐器抽出手段108aは、受信した障害情報より手前で、通過する際の優先権があり、かつ、未だ自列車用に転換又は鎖錠されていない分岐器5を抽出する。
【0030】
また、分岐器抽出手段108aにより抽出された分岐器5と、走行予定ルート上の先行列車尾端の位置情報とに基づいて、現時点で走行許可済みの走行予定ルートを決定する走行ルート決定手段108bを備えている。特に、この走行ルート決定手段108bは、先行列車の位置情報等の障害情報が更新されるに従って、このような走行許可済み走行予定ルートの決定を繰り返し、次の停車駅までの走行予定ルートの全ての設定が完了したかを判断する。なお、具体的な処理に関しては、[1.4.作用]の項目において詳述する。
【0031】
減速パターン作成部108は、さらに、ブレーキパターンを作成する機能として、分岐器抽出手段108aにより抽出された各分岐器5に対して、手前に保安制御余裕距離を有する限界停止位置を設定する限界停止位置設定手段108cと、当該限界停止位置毎に、所定のブレーキパターンを作成するブレーキパターン作成手段108dと、を備えている。このブレーキパターン作成手段108dは、走行路線形DB103に記憶された走行路の勾配等の情報や、車両性能DB104に記憶された各ノッチの牽引力及びブレーキ力等の速度制御情報等を参照にして、図3に示す通り、限界停止位置設定手段108cより設定された限界停止位置毎に、非常ブレーキパターンと常用最大ブレーキパターンを作成する。
【0032】
なお、各ブレーキパターンは、非常ブレーキあるいは常用最大ブレーキを使用して限界停止位置を超えないように対象列車を停止させるまでの位置と速度との関係を示す曲線であり、非常ブレーキパターンが限界停止位置に停止するまでのパターンで、常用最大ブレーキパターンが限界停止位置の手前(所定の距離だけ手前)に停止するまでのパターンである。
【0033】
[1.3.地上装置の構成]
次に、地上装置4の具体的な構成について、以下に説明する。
401は、走行路の線形データベース(以下、走行路線形DBと称する)であり、列車側と同様に、走行路に配設された分岐器5の位置及び状態情報(分岐器の絶対位置及び転換方向等)、分岐又は合流に関する線形情報(分岐器5での分岐又は合流情報)に加え、走行路の傾斜(勾配)や直線・曲線度合い等の情報が記憶される。
【0034】
402は、各列車の位置情報を無線基地局7を介して受信することにより、当該各列車の在線状態を取得する列車在線位置取得手段である。403は、列車制御装置1のルート設定要求部107からの走行予定ルートの設定要求に基づいて、当該走行予定ルート上に存在する分岐器5等の障害物の抽出や、必要な分岐器を転換制御する等のルート設定に関わる処理を実行するルート設定部である。
【0035】
具体的には、このルート設定部403は、列車位置・速度決定部101により決定された各列車の位置情報である在線状態、及び転てつ装置6から送られる分岐器5の開通方向表示信号を基に、列車制御装置1のルート設定要求部107から要求される当該走行予定ルート上に存在する先行列車の尾端位置情報や当該先行列車のために使用されている分岐器5等といった障害情報を抽出する障害情報抽出手段403aを備えている。
【0036】
また、列車側のルート設定要求部107内の転換指令要求手段107cから送られた転換要求指令に基づいて、転てつ装置6を介して分岐器5の転換及び鎖錠を制御する分岐器転換制御手段403bを備えている。さらに、分岐器転換制御手段403bにより制御された最新の分岐器5の転換又は鎖錠の状態を、後述するルート構成要素使用状態テーブル404に対して更新する分岐器使用状態更新手段403cを備えている。
【0037】
404は、走行路上に存在する分岐器5がどの列車により使用されているかの最新情報を登録しておくテーブル(以下、ルート構成要素使用状態テーブルと称する)である。特に、各列車の在線状態(先端位置及び尾端位置に関する情報)及びどの分岐器5がどの列車のために転換及び鎖錠されているか(分岐器使用状態)に関する情報が登録される。
【0038】
[1.4.作用効果]
次に、上記のような構成を有する第1の実施形態に係る作用について、図5〜10を参照して以下に説明する。なお、列車位置・速度決定部101では、列車位置・速度検出装置2を介して列車の位置及び速度情報が決定され、当該列車の位置及び速度情報が車上無線局3及び無線基地局7を経由して地上装置4の列車在線位置決定部402へ送られているものとする。
【0039】
また、この列車在線位置決定部402は、列車側から受信した、列車の位置及び速度情報を基に、各列車の在線状態(先端位置及び尾端位置に関する情報)及びどの分岐器5がどの列車のために転換又は鎖錠されているか(分岐器使用状態)をルート構成要素使用状態テーブル404に登録しているものとする。なお、列車制御装置1の分岐器通過順序及び転換方向決定部105は、ダイヤデータ記憶部102に記憶された列車の運行予定情報と、走行路線形DB103に記憶された走行路に設けられた分岐器の位置及び状態等から、対象走行路上に存在する分岐器5をどの方向にどのような順序で列車が通過するかを把握し、この情報を分岐器通過順序及び転換方向テーブル106に登録しているものとする。
【0040】
[(1)走行予定ルートの設定要求(列車側)]
このような状況下で、まず、図5に示す通り、列車制御装置1のルート設定要求部107の走行予定ルート抽出手段107aは、駅出発前に、制御用列車ダイヤデータ記憶部102が有する列車の運行予定情報、列車位置・速度決定部101により決定された自列車の位置及び速度情報、走行路線形DB103に記憶された走行路に配設された分岐器5の位置及び状態情報等、及び分岐器通過順序及び転換方向テーブル106に登録された各分岐器5の通過順序及び転換方向に基づいて、次の停車駅までの走行予定ルートを抽出する(S501)。
【0041】
例えば、図9(a)を用いて説明すると、ルート設定要求部107の走行予定ルート抽出手段107aは、駅Yを停車しない自列車Cを基準とすれば、駅Xを出発する前に次の停車駅である駅Zまでの走行予定ルートを抽出する。そして、駅を出発し次の停車駅到着までの駅間処理が開始され、ルート設定要求部107は、この抽出された走行予定ルートを地上側へ設定要求、すなわち、車上無線局3及び無線基地局7を介して地上装置4へ送信する(S502)。なお、駅出発から次の停車駅到着までの間、これ以降の処理が繰り返し実行される。なお、各図面のフローチャートにおいて、実線は処理の流れを示し、点線は情報を流れを示すものとする。
【0042】
[(2)障害情報抽出(地上側)]
図6に示す通り、地上装置4において、列車制御装置1のルート設定要求部107により抽出された走行予定ルートを受信すると(S601)、ルート設定部403の障害情報抽出手段403aは、列車位置・速度決定部101により決定された各列車の位置情報である在線状態、及び転てつ装置6から送られる分岐器5の開通方向表示信号を基に、当該走行予定ルート上に存在する先行列車の尾端位置情報や先行列車のために使用されている分岐器5等といった障害情報を抽出する(S602)。
【0043】
例えば、図9(b)で言えば、この障害情報抽出手段403aは、自列車Cに先行する列車の尾端位置情報として、列車B及び列車Aを抽出し、先行列車のために使用されている分岐器5としては、分岐器5−4及び5−5を抽出する。そして、ルート設定部403は、この抽出された走行予定ルート上の障害情報を、無線基地局7及び車上無線局3を経由して、列車制御装置1へ送信する(S603)。
【0044】
[(3)減速パターン作成(列車側)]
そして、図7に示す通り、車上無線局3を介して列車制御装置1にて、この障害情報を受信すると(S701)、減速パターン作成部108の分岐器抽出手段108aは、分岐器通過順序及び転換方向テーブル106に登録された各分岐器5の列車の通過順序及び転換方向に基づいて、走行予定ルート上で当該障害情報より手前に存在する分岐器5のうち、自列車に通過の際の優先権があり(通過順序が最優先)、かつ、未だ自列車の走行方向に転換及び鎖錠されていない(専有されていない)分岐器5を抽出する(S702)。
【0045】
例えば、図9(c)で言えば、この分岐器抽出手段108aは、通過順序の優先権が列車Cにあり、未だ列車Cの走行方向に専有されていない分岐器5−2及び5−3を抽出する(この分岐器5−2及び5−3が、自列車Cのために転換可能な分岐器候補となる)。
【0046】
なお、S602の地上装置4の障害情報抽出手段403aによる障害情報の抽出処理に関して、図9(a)において、列車Bがまだ分岐器5−4を使用していない場合には、
当該障害情報抽出手段403aは、先行列車の尾端位置情報として、列車B及び列車Aを抽出し、先行列車のために使用されている分岐器5としては、分岐器5−5のみを抽出する。そのため、走行予定ルート上で最も手前にある障害物としては、列車Aが抽出され、分岐器5−4は抽出されない。しかしながら、上述した列車制御装置1の分岐器抽出手段108aにより、分岐器通過順序及び転換方向テーブル106に登録された各分岐器5の列車の通過順序及び転換方向を参照して、分岐器5−4の通過順序(列車B→C)を取得し、当該分岐器5−4に自列車Cの優先権がないことを認識する。
【0047】
S702において分岐器抽出手段108aにより所定の分岐器5が抽出されると、走行ルート決定手段108bは、まず、受信した障害情報である先行列車の尾端位置情報を基に、自列車の最も手前に位置する先行列車尾端及び自列車が専有していない分岐器を支障位置候補として決定し、そのうち、自列車の最も手前にある障害物を、支障位置である
現時点で走行許可済みの位置である支障位置として決定する(S703)。これにより、現時点で走行許可済みの走行予定ルートが決定される
【0048】
例えば、図10(a)で言えば、自列車Cを基準として、最も手前にある先行列車尾端としては、列車Aが支障位置候補となり、最も手前にある自列車Cが専有していない分岐器5としては、分岐器5−2が支障位置候補となり、結果として、最も手前の分岐器5−2が支障位置として決定される。
【0049】
そして、この走行ルート決定手段108bは、次の停車駅までの走行予定ルートの全ての設定が完了したかを判断する(S704)。具体的には、例えば、図9(c)のように、次の停車駅Zまで走行予定ルート上に存在する分岐器5−2、5−3、5−4、5−5を列車Cが通過したかを判断する。列車Cがこれらの分岐器5を専有した段階で、次の停車駅Zまでの走行予定ルートは全て設定を完了したことになる。
【0050】
走行ルート決定手段108bにより、次の停車駅までの走行予定ルートの全ての設定が完了していないと判断された場合には(S704のNO)、減速パターン作成部108の限界停止位置設定手段108cが、分岐器抽出手段108aにより抽出された各分岐器5に対して、手前に保安制御余裕距離を有する限界停止位置を設定する(S705)。
【0051】
例えば、図10(b)で言えば、自列車Cは、既に駅Xを出発し駅Yに向かって走行しており、このような状態では、自列車Cに優先権(分岐器通過順序して最優先の権利)があり、かつ、自列車Cが未だ専有していない分岐器5として分岐器5−3及び分岐器5−4が分岐器抽出手段108aにより抽出される。そのため、限界停止位置設定手段108cは、限界停止位置を、分岐器5−3の手前及び分岐器5−4の手前に各々設定する。
【0052】
そして、減速パターン作成部108のブレーキパターン作成手段108dは、限界停止位置設定手段108cにより設定された限界停止位置毎に、走行路線形DB103に記憶された走行路の勾配等の情報や、車両性能DB104に記憶された各ノッチの牽引力及びブレーキ力等の速度制御情報等を参照にして、非常ブレーキパターンと常用最大ブレーキパターンを作成する(S706)。例えば、図10(b)で言えば、分岐器5−3及び分岐器5−4の手前の、限界停止位置設定手段108cにより各々設定された限界停止位置に、自列車Cが確実に停止するまでのブレーキパターンが作成される。
【0053】
[(4)分岐器転換要求]
S706において、ブレーキパターン作成手段108dにより、非常ブレーキパターンと常用最大ブレーキパターンを作成されると、ルート設定要求部107の抵触判定手段107bは、列車位置・速度決定部101により決定される自列車の位置及び速度情報を基に、所定の時間後(例えば、図3で言えばT秒後)に自列車がこの常用最大ブレーキパターンに抵触するかを判定する(S707)。抵触判定手段107bにより抵触しないと判定された場合には(S707のNO)、図5に示したS502の走行予定ルートの送信処理に戻り、それ以降の図6のS601〜603及び図7のS701〜706までの処理が繰り返される。
【0054】
抵触判定手段107bにより抵触すると判定された場合には(S707のYES)、転換指令要求手段107cが、この常用最大ブレーキパターンの限界停止位置下流側の最も近い分岐器5に関し、地上装置4に対して、車上無線局3及び無線基地局7を介して転換要求指令を送信する(S708)。この転換要求指令を送信後には、図5に示したS503の走行予定ルートの送信処理に戻り、それ以降の図6のS601〜603及び図7のS701〜707までの処理が繰り返される。
【0055】
[(5)ルート設定]
次に、図8に示すように、無線基地局7を経由して地上装置4において、分岐器5の転換要求指令を受信すると(S801)、ルート設定部403の分岐器転換制御手段403bは、転てつ装置6から送られる分岐器開通方向表示信号に基づいて、要求された分岐器5の使用状態を再度チェックする(S802)。そして、この分岐器転換制御手段403bは、列車側から受信した分岐器5の転換要求指令を転てつ装置6に送信する(S803)。
【0056】
転てつ装置6は、地上装置4からの転換指令制御信号に基づいて、対象となる分岐器5に必要な転換制御を行い、分岐器開通方向表示信号(開通方向を示す信号)を地上装置4に対して送信し、これを地上装置4において受信する(S804)。これにより、対象となった分岐器5の転換制御は完了し、地上装置4のルート設定部403は、その旨を把握することができる。
【0057】
なお、ルート設定部403の分岐器使用状態更新手段403cは、分岐器転換制御手段403bにより制御された最新の分岐器5の使用状態を、ルート構成要素使用状態テーブル404に対して更新する。
【0058】
[(6)ルート設定完了]
ここで、列車制御装置1の減速パターン作成部108では、地上側から受信する障害情報が更新される毎にブレーキパターンを更新し、最終的に支障位置が、次の停車駅までの走行予定ルートの終端位置に達するまで更新が続けられる。そして、S704において、走行ルート決定手段108bにより、次の停車駅までの走行予定ルートの全ての設定が完了していると判断された場合には(S704のYES)、次の停車駅までの走行予定ルートが全て設定完了されているとして(S709)、次の停車駅に向けて前述の同様の処理が繰り返される。
【0059】
以上のような第1の実施形態によれば、ルート設定の要求に関する処理を車上側で行うことができるので、設備コスト及び設備メンテナンスコストの低減を図ることが可能な列車制御装置、列車制御システム及びその制御方法を提供することができる。また、各列車が列車固有のブレーキ性能に合わせた処理を行うことができるので、車両性能を最大限に活かした走行が可能となり、輸送能力の維持・向上に寄与する。
【0060】
さらに、列車制御装置では、更新される障害情報を基にブレーキパターンを更新し、適切なタイミングで地上装置に対してルート設定を要求しながら走行を続けるので、無駄な減速をすることなく安全な走行を保証することが可能となる。加えて、第1の実施形態によれば、駅出発時刻、駅停車時刻、駅通過、等のより詳細な列車の運行予定情報であるダイヤデータを考慮して走行ルートの設定要求を行っているので、列車のルート設定(進路設定)の円滑化を図ることが可能となる。
【0061】
[2.第2の実施形態]
[2.1.全体構成]
次に、本発明の第2の実施形態の構成について、図11を参照して以下に説明する。
第2の実施形態では、第1の実施形態の列車制御装置1及び地上装置4に対して、分岐部5の列車通過順序を変更する際に必要な機能を付加した下記のような構成を有している。
【0062】
図11に示す通り、第2の実施形態に係る列車制御装置1では、走行予定ルート上の分岐器5の通過において、より優先度の高い列車の遅延状況を監視し、必要に応じて列車順序の入れ替えを行う運行乱れ監視及び通過順序入替部109を備えており、それ以外は第1の実施形態と同様の構成を有する。なお、具体的な運行乱れ監視及び通過順序入替部109の構成は後述する。
【0063】
また、地上装置4は、各列車からの列車順序入替情報を受けて、列車の通過順序を管理する列車通過順序管理部405を備えている。この列車通過順序管理部405は、無線基地局7を介して列車側から受信した列車順序の入替情報を、送信元の列車を含む各列車の列車通過順序管理部405に対して送信する。
【0064】
[2.2.運行乱れ監視及び通過順序入替部の構成]
次に、運行乱れ監視及び通過順序入替部109の具体的な構成について、図12を参照して説明する。
まず、この運行乱れ監視及び通過順序入替部109は、ルート設定要求部107により要求される次の停車駅までの走行予定ルートと走行路線形DB103に記憶された分岐器5の位置及び状態情報等から、次の停車駅までの走行予定ルート上に存在する分岐器5を抽出する分岐器抽出手段109aを備えている。
【0065】
また、分岐器通過順序及び転換方向テーブル106に登録された各分岐器5の列車の通過順序及び転換方向を参照して、この分岐器抽出手段109aにより抽出された各分岐器5を通過する際の列車通過順序が自列車よりも早い列車(優先度の高い列車)を抽出する優先列車抽出手段109bを備えている。さらに、地上装置4のルート設定部403から送信される障害情報である走行予定ルート上の分岐器5の使用状態を参照して、優先列車抽出手段109bにより抽出された優先度の高い列車が、既に当該分岐器5を使用しているかを判定する使用状態判定手段109cを備えている。
【0066】
また、この運行乱れ監視及び通過順序入替部109は、制御用列車ダイヤデータ記憶部102からの列車の運行予定情報と、地上装置4の列車在線位置決定部402から無線基地局7及び車上無線局3を経由して送られてくる列車の在線状態と、に基づいて、優先列車抽出手段109bにより抽出された優先度の高い列車の遅延時間を検出する遅延時間検出手段109dを備えている。加えて、この遅延時間検出手段109dにより検出された遅延時間が、列車の通過順序の入れ替えに相当する所定の閾値を上回るかを判定する遅延度合い判定手段109eも備えている。
【0067】
さらに、遅延度合い判定手段109eにより遅延時間が所定の閾値を上回ると判定された場合に、基準とした自列車と、この遅延時間を有する優先列車抽出手段により抽出された優先度の高い列車との分岐器5の通過順序を入れ替えるといった列車順序入替情報を生成する列車順序入替情報生成手段109fを備えている。なお、この運行乱れ監視及び通過順序入替部109は、列車順序入替情報が地上装置4の列車通過順序管理部405から送られてきた場合に、受信した当該列車順序入替情報を制御用列車ダイヤデータ記憶部102に登録する入替情報登録手段109gも備えている。
【0068】
[2.3.作用効果]
次に、上記のような構成を有する第2の実施形態の列車順序の入替手順について、図13〜16を参照して、以下に説明する。
【0069】
[(1)入替情報生成(列車側)]
まず、図13に示す通り、列車制御装置1が備える運行乱れ監視及び通過順序入替部109の分岐器抽出手段109aは、ルート設定要求部107により要求される次の停車駅までの走行予定ルートと走行路線形DB103に記憶された分岐器5の位置及び状態情報等から、次の停車駅までの走行予定ルート上に存在する分岐器5を抽出する(S1301)。なお、一例として、列車Aが駅の本線を通過した後に列車Bが側線から出発するような制御用列車ダイヤが組まれている状況下において、列車Aの遅延が発生した際に、列車Bを先行して出発させるような列車順序入替を行う処理を想定する図16のようなケースで言えば、側線に位置する列車Bの列車制御装置1の分岐器抽出手段109aが、次の停車駅までの走行予定ルート上に存在する分岐器5を抽出する。
【0070】
そして、優先列車抽出手段109bは、分岐器通過順序及び転換方向テーブル106に登録された各分岐器5の列車の通過順序及び転換方向を参照して、この分岐器抽出手段109aにより抽出された各分岐器を通過する際の列車通過順序が自列車よりも早い列車(優先度の高い列車)を抽出する(S1302)。例えば、図16によれば、優先列車抽出手段109bにより抽出される自列車Bよりも優先度の高い列車として列車Aが相当する。
【0071】
優先列車抽出手段109bにより自列車よりも優先度の高い列車が抽出されると、使用状態判定手段109cが、地上装置4のルート設定部403から送信される障害情報である走行予定ルート上の分岐器5の使用状態を参照して、この優先度の高い列車が既に当該分岐器5を使用しているかを判定する(S1303)。
【0072】
使用状態判定手段109cにより当該分岐器5が使用されていないと判定された場合には(S1303のNO)、遅延時間検出手段109dが、制御用列車ダイヤデータ記憶部102からの列車の運行予定情報と、地上装置4の列車在線位置決定部402から無線基地局7及び車上無線局3を経由して送られてくる列車の在線状態と、に基づいて、この優先度の高い列車の遅延時間を検出する(S1304)。すなわち、図16で言えば、この遅延時間検出手段109dは、優先度の高い列車Aの遅延時間を検出する。
【0073】
この遅延時間検出手段109dにより遅延時間が検出されると、遅延度合い判定手段109eは、この遅延時間が列車の通過順序の入れ替えに相当する所定の閾値を上回るかどうかを判定する(S1305)。ここで、遅延度合い判定手段109eにより遅延時間が所定の閾値を上回ると判定された場合には(S1305のYES)、列車順序入替情報生成手段109fは、基準とした自列車と当該遅延時間を有する優先度の高い列車との分岐器5の通過順序を入れ替える列車順序入替情報を生成し(S1306)、車上無線局3及び無線基地局7を経由して地上装置4の列車通過順序管理部405に送信する(S1307)。
【0074】
例えば、図16で言えば、遅延度合い判定手段109eにより列車Aの遅延時間が所定の閾値を上回ると判定された場合に、列車順序入替情報生成手段109fは、列車Bが列車Aよりも優先して分岐器5を通過するような列車順序入替情報を生成し、これを地上装置4に対して送信する。
【0075】
一方、S1303において、使用状態判定手段109cにより当該分岐器5が使用されていると判定された場合や(S1303のYES)、S1305において、遅延度合い判定手段109eにより遅延時間が所定の閾値を上回らないと判定された場合には(S1305のNO)、列車順序入替情報生成手段109fによる列車順序の入れ替えを実施せず、後述するS1501の処理に移行する。
【0076】
[(2)列車通過順序管理(地上側)]
地上装置4では、図14に示す通り、無線基地局7を介して、列車側の運行乱れ監視及び通過順序入替部109により送られた列車順序入替情報を受信する(S1401)。そして、列車通過順序管理部405が、この受信した列車順序入替情報を送信元である列車を含め各列車の運行乱れ監視及び通過順序入替部109に、無線基地局7及び車上無線局3を経由して送信する(S1402)。すなわち、図16で言えば、地上装置4の列車通過順序管理部405は、受信した列車順序入替情報を、列車Bに加え、その他の各列車の運行乱れ監視及び通過順序入替部109に送信する。
【0077】
[(3)ダイヤ登録及び分岐器通過順序及び転換方向テーブル更新]
地上装置4の列車通過順序管理部405から列車順序入替情報が送信されると、図15に示す通り、各列車の列車制御装置1の運行乱れ監視及び通過順序入替部109は、車上無線局3を介してこれを受信し(S1501)、当該運行乱れ監視及び通過順序入替部109の入替情報登録手段109gが受信した当該列車順序入替情報を制御用列車ダイヤデータ記憶部102に登録する(S1502)。
【0078】
さらに、各列車制御装置1の分岐器通過順序及び転換方向決定部105では、走行路線形DB、及び更新された制御用列車ダイヤデータ記憶部102を基に、走行予定ルート上に存在する分岐器5をどの方向にどのような順序で各列車が通過するかに関する情報を変更し(分岐器5の列車通過優先度を変更し)、分岐器通過順序及び転換方向テーブル106を更新する(S1503)。
【0079】
以上のような第2の実施形態によれば、列車順序の入れ替えに関する処理を列車側主体で行なうことができるので、列車が遅延した場合であっても、遅延対策として車両性能を最大限に活かした走行が可能となり、それ故に輸送能力の維持・向上を図ることができる。また、第2の実施の形態は、第1の実施の形態の上に成り立っているため、列車による各分岐器の専有時間は、各車両性能に合わせて必要最小限に抑えられており、分岐器通過順序の入れ替えを容易に行うことが可能である。
【0080】
[他の実施形態]
本発明は、上記のように第2の実施形態に係り、列車順序の入替が行われた後に、列車制御装置1のルート設定要求部107から地上装置4に対して、ルート設定要求を行う場合において、制御用列車ダイヤのバージョン番号の照合を行うことにより、全列車が同一の制御用列車ダイヤを基に走行しているか確認する機能を有する構成態様も包含する。このような構成を有することにより、本発明は、走行予定ルート上に存在する各列車が最新バージョンの制御用列車ダイヤを有するかを確認すること可能となり、特に、列車装置1からのルート設定要求の際に、付加情報である制御用列車ダイヤバージョン情報が、地上装置4が記憶している最新のバージョン情報と合致しない場合に、ルート設定要求を拒否することでき、それ故不安全は分岐器5の転換が行われないようにすることが可能となる。
【0081】
また、本発明は、第1、2の実施の形態を示す図1、図11において、列車制御装置1が有する構成のうち、制御用列車ダイヤデータ記憶部102と、分岐器通過優順序および転換方向の決定部105と、分岐器通過順序及び転換方向テーブル106と、ルート設定要求部107と、を地上側に移行した構成態様も包含する。
【符号の説明】
【0082】
1…列車制御装置
101…列車位置・速度決定部
102…制御用列車ダイヤデータ記憶部
103…走行路線形DB
104…車両性能DB
105…分岐器通過順序及び転換方向決定部
106…分岐器通過順序及び転換方向テーブル
107…ルート設定要求部
107a…走行予定ルート抽出手段
107b…抵触判定手段
107c…転換指令要求手段
108…減速パターン作成部
108a…分岐器抽出手段
108b…走行ルート決定手段
108c…限界停止位置設定手段
108d…ブレーキパターン作成手段
109…運行乱れ監視及び通過順序入替部
109a…分岐器抽出手段
109b…優先列車抽出手段
109c…使用状態判定手段
109d…遅延時間検出手段
109e…遅延度合い判定手段
109f…列車順序入替情報生成手段
109g…入替情報登録手段
2…列車位置・速度検出装置
3…車上無線局
4…地上装置
402…列車在線位置決定部
403…ルート設定部
403a…障害情報抽出手段
403b…分岐器転換制御手段
403c…分岐器使用状態更新手段
404…ルート構成要素使用状態テーブル
405…列車通過順序管理部
5、5−1〜5−5…分岐器
6…転てつ装置
7…無線基地局

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上装置との間で無線伝送による情報の送受信を行う伝送手段を備え、列車の走行を制御する列車制御装置において、
列車の運行予定情報が記憶されたダイヤデータ記憶部と、
前記列車の走行路に設けられた各分岐器の列車の通過順序が記憶された通過順序記憶部と、
各走行路に設けられた前記分岐器の位置、転換方向、分岐又は合流に関する情報を含む路線形情報が記憶された路線形情報記憶部と、
自列車の位置及び速度情報を取得する取得手段と、
取得された自列車の位置情報を基準に、前記ダイヤデータ記憶部に記憶された自列車の前記運行予定情報と、前記路線形情報記憶部に記憶された路線形情報と、前記通過順序記憶部に記憶された分岐器の通過順序と、に基づいて、この自列車の走行予定ルート情報を取得し、当該走行予定ルート上に位置する前記分岐器を前記自列車の走行方向に転換するよう前記伝送手段を介して地上装置に要求する要求手段と、
を備えることを特徴とする列車制御装置。
【請求項2】
前記要求手段により転換が要求された分岐器手前の所定位置までの自列車の減速パターンを作成する減速パターン作成手段を備え、
前記要求手段は、前記取得手段により取得した自列車の位置情報が当該減速パターンの開始位置に一致し始める場合に、前記分岐器を前記自列車の走行方向に転換するよう前記伝送手段を介して地上装置に要求することを特徴とする請求項1に記載の列車制御装置。
【請求項3】
前記ダイヤデータ記憶部に記憶された運行予定情報と前記路線形情報記憶部に記憶された路線形情報に基づいて、走行路に位置する各分岐器における列車の通過順序及び当該分岐器の転換方向を決定する決定手段を備え、
前記決定手段により決定された列車の通過順序及び当該分岐器の転換方向に関する情報は、前記通過順序記憶部に記憶されることを特徴とする請求項1に記載の列車制御装置。
【請求項4】
前記自列車の走行予定ルート上に設けられた各分岐器において、当該自列車よりも通過順序が早い列車の遅延に相当する運行乱れを、前記ダイヤデータ記憶部に記憶された運行予定情報に基づき監視する監視手段と、
前記通過順序の早い列車に運行乱れが生じている場合に、前記自列車の前記分岐器での通過順序が前記通過順序の早い列車よりも優先する通過順序入替情報を生成し、当該通過順序入替情報を前記伝送手段を介して前記地上装置に送信する列車通過順序入替手段と、
を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の列車制御装置。
【請求項5】
前記監視手段は、前記通過順序の早い列車の在線状態と前記ダイヤデータ記憶部に記憶された運行予定情報を対比することにより、この通過順序の早い列車の遅延時間が所定の閾値を上回る場合に、当該通過順序の早い列車に運行乱れが生じていると判断することを特徴とする請求項4に記載の列車制御装置。
【請求項6】
前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の列車制御装置と、
当該列車制御装置の前記要求手段による前記分岐器の転換要求に基づき、当該分岐器を前記自列車の走行方向に転換する転換制御手段を備えた地上装置と、
からなることを特徴とする列車制御システム。
【請求項7】
前記請求項4又は5に記載の列車制御装置と、
当該列車制御装置の前記要求手段による前記分岐器の転換要求に基づき、当該分岐器を前記自列車の走行方向に転換する転換制御手段と、
各列車の前記取得手段により取得された列車の位置及び速度情報に基づき、当該列車の在線状態を検出する検出手段と、
前記通過順序入替情報を管理し、自列車以外を含む各列車の制御装置に対して
前記伝送手段を介して送信する入替情報管理手段と、を備えた地上装置と、
からなることを特徴とする列車制御システム。
【請求項8】
地上装置との間で無線伝送による情報の送受信を行う伝送手段を備え、列車の走行を制御する列車制御装置の制御方法において、
列車の運行予定情報が記憶されたダイヤデータ記憶部と、
前記列車の走行路に設けられた各分岐器の列車の通過順序が記憶された通過順序記憶部と、
各走行路に設けられた前記分岐器の位置、転換方向、分岐又は合流に関する情報を含む路線形情報が記憶された路線形情報記憶部と、を備え、
コンピュータが、
自列車の位置及び速度情報を取得する取得ステップと、
自列車の位置情報を基準に、前記ダイヤデータ記憶部に記憶された自列車の前記運行予定情報と、前記路線形情報記憶部に記憶された路線形情報と、前記通過順序記憶部に記憶された分岐器の通過順序と、に基づいて、この自列車の走行予定ルート情報を取得し、当該走行予定ルート上に位置する前記分岐器を前記自列車の走行方向に転換するよう前記伝送手段を介して地上装置に要求する要求ステップと、
を実行することを特徴とする列車制御装置の制御方法。
【請求項9】
前記コンピュータは、前記要求ステップで転換が要求された分岐器手前の所定位置までの自列車の減速パターンを作成する減速パターン作成ステップを実行し、
前記要求ステップでは、前記取得ステップで取得した自列車の位置情報が当該減速パターンの開始位置に一致し始める場合に、前記分岐器を前記自列車の走行方向に転換するよう前記伝送手段を介して地上装置に要求することを特徴とする請求項8に記載の列車制御装置の制御方法。
【請求項10】
前記コンピュータは、
前記自列車の走行予定ルート上に設けられた各分岐器において、当該自列車よりも通過順序が早い列車の遅延に相当する運行乱れを、前記ダイヤデータ記憶部に記憶された運行予定情報に基づき監視する監視ステップと、
前記通過順序の早い列車に運行乱れが生じている場合に、前記自列車の前記分岐器での通過順序が前記通過順序の早い列車よりも優先する通過順序入替情報を生成し、当該通過順序入替情報を前記伝送手段を介して前記地上装置に送信する列車通過順序入替ステップと、
を実行することを特徴とする請求項8又は9に記載の列車制御装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−213383(P2010−213383A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53936(P2009−53936)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】