説明

制御弁式鉛蓄電池

【課題】制御弁式鉛蓄電池を電槽化成する場合、注液電解液濃度は比較的高く、さらに化成効率を上昇させる酸化鉛へ配合する鉛丹は、量および性状により正極活物質の剥離脱落を生じるとともに寿命特性に大きく影響する。
【解決手段】極板群構成時のセパレータ繊維密度が0.10g/cm3以上で、30質量%〜34質量%の硫酸を用いて電槽化成を行う際、鉛丹化率90質量%以下の鉛丹を3質量%〜10質量%鉛粉とともに混練して得られるペーストを正極活物質の作成に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御弁式鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車の補機電源として、自動車のトランクルーム内に車両外部への排気パイプを有した制御弁式鉛蓄電池が用いられる。この電池は、電解液硫酸中の水分を充電中の電気分解により消失させないためカルシウム、錫を含有した鉛合金を用いた鋳造方式による格子もしくは圧延シートを網目状に展開したエキスパンド格子により、電池内にアンチモン等の水素過電圧の低い金属を含有せず、充電中の水の電気分解を抑制する方式を採用している。
【0003】
さらに、充電中に発生した酸素ガスを負極活物質に吸収することで、負極活物質は放電により水を生成するため電解液中の水分の循環サイクルがなされ、電池の充放電使用時における水分減少を抑制している。そのためにセパレータは、電解液を包含したガラス繊維を主体としたマットを用いることにより酸素サイクルを容易にしている。
【0004】
鉛蓄電池の正極板、負極板は、一般的に原料鉛粉(酸化鉛)に希硫酸、水、その他添加剤を加え、混練にてペースト状にし、鉛合金の格子集電体に充填した後、熟成乾燥工程を経て未化成の極板が作成される。未化成極板は電池電槽内にセパレータと組合せた極板群を収納し、未充電状態の電池が作成される。この電池に希硫酸を注液し、通電処理(電槽化成)を行うことで電池が完成される。この一連の工程における化成プロセスは、正極板は酸化鉛を二酸化鉛に、負極板は酸化鉛をスポンジ状鉛に変化させるが、このプロセスは、正極板の二酸化鉛化の反応効率が劣り、電池全体の化成プロセスの速度は正極律速になり、正極の酸化鉛に鉛丹(Pb34)を添加し、化成効率を高める手法が広く用いられている。
【0005】
さらに、化成プロセスの速度は注液電解液の濃度にも関係しており、一般的の鉛蓄電池は、フリーな電解液を有しており電解液量を比較的多くセル内に保有することが可能なため、絶対硫酸量を確保することができるが、制御弁式鉛蓄電池は実質的にフリー電解液が存在せず、反応に必要な電解液量はセパレータが保持するため、電槽化成では高い硫酸濃度の電解液を注液する必要があった。
【0006】
一方、化成プロセスを促進する鉛丹は、熟成反応で鉛合金格子と鉛との溶解析出反応において密着能力が低く、正極活物質に鉛丹を配合したペーストを用いた場合、電池の寿命特性が低下することが知られている。
【0007】
例えば、特許文献1には、この鉛丹を90%以下の鉛酸化物とすることで化成効率と寿命を両立させる鉛蓄電池が提案されているが、電解液量の少なく高濃度の制御弁式鉛蓄電池においては、寿命特性を十分に発揮できないという課題があった。
【特許文献1】特開昭63−318071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記したように、正極活物質中の鉛丹含有量、電槽化成時の電解液の注液濃度および電解液を保持するセパレータを改良することにより、正極板活物質の剥離脱落を抑制し、寿命特性の改善を図る制御弁式鉛蓄電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、二酸化鉛を正極活物質とする正極板と、スポンジ状鉛を負極活物質とする負極板と、電池構成時の繊維密度が0.10g/cm3以上のガラス繊維を主体とするマット状のセパレータとからなり、かつ30質量%〜34質量%の濃度の硫酸を用いて電槽化成を行う制御弁式鉛蓄電池において、前記正極活物質を生成するペーストは、鉛丹を3質量%〜10質量%含む鉛粉と、水および希硫酸を主成分として混練することで得ることを特徴とした制御弁式鉛蓄電池を示すものである。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記鉛丹は、鉛丹化率90%以下を使用する制御弁式鉛蓄電池を示すものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の制御弁式鉛蓄電池は、上記の構成を有し、セパレータの電池構成時の繊維密度を増加させ、電槽化成前に注液する際の電解液濃度を一定の範囲に設定し、正極活物質を作成する際のペースト中の鉛丹量を規制することにより、正極板における正極活物質の格子体からの脱落を減少させ、電池のサイクル寿命が向上するという顕著な効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の制御弁式鉛蓄電池のセル要部の断面図である。
【0013】
正極板1は、酸化鉛(PbO)を高温度にて焼成酸化することにより酸化鉛を鉛丹(Pb34)に変化させた鉛丹粉末と鉛粉(酸化鉛粉末)とを、希硫酸と水と混練したペーストを、カルシウム−錫−鉛合金シートを網状に展開したエキスパンド格子に充填し、熟成乾燥して作成する。鉛蓄電池の正極板1の活物質は二酸化鉛(PbO2)であるため、鉛丹は二酸化鉛よりも高酸化度の状態にあるため、完全に鉛丹へ変化させなくても他の鉛粉に作用し、化成時に正極活物質に変化することを助長する。そのため、正極板1に用いる元の酸化鉛(PbO)が鉛丹(Pb34)に変化した比率(鉛丹化率)は、必ずとも100%でなくとも十分に用いることができる。
【0014】
負極板2は、上記同様の鉛粉、希硫酸、水および微量の負極添加剤(リグニンスルフォン酸ナトリウムや硫酸バリウム)を加え混練し、密度4.5g/cm3のペーストを製造し、正極板1と同様にエキスパンド格子に充填し、熟成乾燥プロセスを経て作成した。次にセパレータ3は、ガラス繊維を主体とし、シリカ粉体を添加した不織布のマット状セパレータよりなり、これを正極板1と負極板2との間に配置した。
【0015】
正極板1と負極板2のそれぞれ同極性同士を並列接続し、極板群4を構成し、セル室5を構成する電槽6のリブ7の高さで調整されたセル幅dに極板群4が挿入された状態で、極板群4が加圧され、電池構成時のセパレータ3の繊維密度が設定される。
【0016】
蓋8は、注液口9を有するとともに注液口9の上部には制御弁10が装着される構造を有し、電槽6へ溶着一体化することにより未充電状態の電池構成が得られ、注液口9より電解液が注液され、制御弁10を注液口9の上部に取り付けて充電を開始することにより電槽6の化成を行い、制御弁式鉛蓄電池を得る。
【実施例1】
【0017】
本発明の鉛蓄電池に用いる正極板は、鉛丹化率を70質量%、80質量%、90質量%および100質量%に調整した鉛丹の粉末材料を用意し、鉛粉末を酸化させて75%を酸化鉛化した酸化鉛粉末に対する前記鉛丹の粉末材料の配合量(鉛丹配合率)を3質量%、7質量%、10質量%および13質量%と変化させた各種鉛粉末材料を用意した。
【0018】
次に、前記各種鉛粉末材料に濃度50質量%の希硫酸と蒸留水および微量のポリエチレン繊維を加え、ミキサーにて混練してペーストを製造した後、カルシウム0.06質量%、錫1.6質量%の鉛合金圧延シートから網目状に展開したエキスパンド格子に前記ペーストを充填し、40℃で10時間および60℃で20時間の熟成乾燥を行い、正極板を作成した。
【0019】
負極板は、ペースト練合前に鉛粉中に負極添加剤を配合しておき、希硫酸と水にて混練したペーストを、正極板と同合金のカルシウム0.06質量%、錫0.3質量%からなるエキスパンド格子に充填して、正極板と同様に熟成乾燥して作成した。
【0020】
前記正極板と負極板を用い、ガラス繊維が主体の不織布のマット状セパレータにおいてガラス繊維やシリカ粉体の配合量を変化させ、正極板と負極板間の距離を1.0mmと一定にして、電池構成圧縮時のセパレータの密度を0.05g/cm3、0.10g/cm3および0.25g/cm3の3水準による極板群を形成し、6セル構成のモノブロック電槽内に挿入した後に、蓋を装着して未充電の電池を表1のような組み合わせで作成した。
【0021】
電池の電槽化成は、注液電解液として濃度28質量%、30質量%、32質量%および34質量%の希硫酸を所定量各セルに注液し、注液口上に制御弁を載置した後、正極板の未充電活物質量に対し電流密度25mA/gの電流にて、理論化成通電量の250%の定電流通電を実施し制御弁式鉛蓄電池を製造した。
【0022】
上記No.1〜35の電池について、電槽化成後に分解を行い、正極活物質の格子からの剥離状態を観察した。正極活物質の剥離状態の欄において、○は剥離なし、△は表面に若干の活物質脱落あり、×は活物質の格子からの剥離あり、を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1より、電解液濃度30%以上、かつマットセパレータ密度が0.1g/cm3以上で、かつ鉛丹配合率10%より多い領域で、化成後の正極活物質の顕著な剥離の発生が見られた。
【0025】
これは、マットセパレータの密度が増加するに従い、化成時に正極板から発生する酸素や負極板より発生する水素ガスがセパレータ内に滞留することで、化成時に極板表面における硫酸が排除され化成反応の抵抗が増加してしまう。その結果、正極板表面の化成反応速度が遅くなることで化成電流が、正極活物質と鉛合金格子界面の酸化劣化反応に使用されてしまうものと推定される。これは、セパレータ密度が0.1g/cm3以下では本現象は生じ難いことから推測されるものである。また、この現象は、硫酸濃度が高くなり、二酸化鉛反応が遅くなるに従い発生し易くなるため、化成効率が悪くなる硫酸濃度30%および鉛丹配合率10%を境に、上記セパレータ密度の範囲である0.1g/cm3以下においては、正極活物質の剥離現象が見られた。
【0026】
一方、鉛丹の配合率が高いほど、正極板の二酸化鉛の生成率が向上するが、3%以下では酸化鉛との調合の際に鉛丹の酸化度が極端に低下し、添加効果がなくなるため、3%以上の鉛粉に含有させることが必要である。
【実施例2】
【0027】
次に、鉛丹配合率を10質量%で、セパレータ密度が0.25g/cm3、注液硫酸濃度が32質量%で、鉛丹化率が90質量%、100質量%、80質量%および70質量%とした上記No.11、33、34および35の電池について、鉛丹化率と寿命回数との関係をサイクル試験により評価を行った。この試験条件を以下に示す。
・試験温度:40℃
・放電:25A×4分
・充電:14.8V(最大電流25A)×10分
・容量試験:上記充電、放電を480回繰り返した後、356A放電にて30秒間実施し、30秒目電圧が7.2V以下になった時点を寿命と判定した。
【0028】
この結果を表2に示す。また鉛丹化率と寿命回数との関係を、図2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2および図2より、鉛丹化率90%以下にした場合に寿命回数の向上が見られ、鉛丹化率が低下するに従い寿命回数にやや向上が見られた。これは、鉛丹化率100%の場合、鉛丹中に酸化鉛成分が全くないため、鉛粉(酸化鉛粉末)に希硫酸と水を加えて混練して熟成乾燥反応をした際に、鉛丹を含めた酸化鉛成分の粒子間および粒子と鉛合金格子界面の結合が不十分になったことが原因と推察される。
【0031】
本結果より、理想的には鉛丹粒子中の鉛丹成分は90質量%以下が望ましく、酸化鉛成分を有した鉛丹を採用するほうが良好であると考えられる。ただし、鉛丹化率60質量%以下になると、鉛丹粒子表面の鉛丹成分が減少し過ぎるため、鉛丹の化成効率を向上させる効果が低くなるため、実用上は60質量%以上の鉛丹化率にすることが望ましい。
【0032】
以上実施例より、正極活物質が、鉛丹を含む鉛粉、水および希硫酸を主成分として混練したペーストを用いて製造する正極活物質の二酸化鉛を有した正極板と、スポンジ状鉛を負極活物質とする負極板を用い、電池構成時の繊維密度が0.10g/cm3以上のガラス繊維を主体とするマット状のセパレータとからなり、30質量%以上の濃度の硫酸を用いて電槽化成を行った正極板では活物質の剥離や脱落を防止することができる。さらに、鉛丹酸化物の鉛丹化率は鉛丹化率90質量%以下にすることが望ましく、酸化鉛中への鉛丹配合率を3質量%〜10質量%の範囲に設定することにより寿命特性を向上させた制御弁式鉛蓄電池を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、正極板における活物質作成の材料である酸化鉛と鉛丹の性状と配合比、極板群構成時のセパレータ密度および注液硫酸濃度を設定することにより、電槽化成時の正極板における活物質の剥離を抑制し、良好な寿命特性が得られる制御弁式鉛蓄電池を提供することができるため、工業上、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の制御弁式鉛蓄電池のセル要部の断面図
【図2】鉛丹化率と寿命回数との関係を示す図
【符号の説明】
【0035】
1 正極板
2 負極板
3 セパレータ
4 極板群
5 セル室
6 電槽
7 リブ
8 蓋
9 注液口
10 制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化鉛を正極活物質とする正極板と、スポンジ状鉛を負極活物質とする負極板と、電池構成時の繊維密度が0.10g/cm3以上のガラス繊維を主体とするマット状のセパレータとからなり、かつ30質量%〜34質量%の濃度の硫酸を用いて電槽化成を行う制御弁式鉛蓄電池において、前記正極活物質を生成するペーストは、鉛丹を3質量%〜10質量%含む鉛粉と、水および希硫酸を主成分として混練することで得ることを特徴とした制御弁式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記鉛丹は、鉛丹化率90%以下を使用する請求項1記載の制御弁式鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−187776(P2009−187776A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26175(P2008−26175)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】