説明

制御装置

【課題】第二係合装置の発熱量を小さく抑えつつ所望の電力量を確保することができると共に、状況に応じて望ましい走行状態を実現可能な制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、第二係合装置、及び出力部材、が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置。制御装置は、第一係合装置及び第二係合装置の双方の直結係合状態で回転電機に発電を行わせる第一制御モードから、第一係合装置の直結係合状態且つ第二係合装置のスリップ係合状態で回転電機に発電を行わせる第二制御モードを経て、第一係合装置及び第二係合装置の双方のスリップ係合状態で回転電機に発電を行わせる第三制御モードへと移行させるモード移行制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、第二係合装置、及び出力部材、が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような車両用駆動装置を制御対象とする制御装置として、例えば特開2008−7094号公報(特許文献1)に記載されたものが既に知られている。以下、この背景技術の欄の説明では、〔〕内に特許文献1における部材名を引用して説明する。特許文献1の制御装置〔コントローラ1,2,5,7,10等〕は、車両用駆動装置を制御することによって複数の走行モードを実現可能に構成されている。これら複数のモードには、WSCクリープモード、CL2過熱時モード、及びWSC積極的発電モードが含まれている。
【0003】
制御装置は、WSCクリープモードでは、第一係合装置〔第1クラッチCL1〕を直結係合状態とすると共に第二係合装置〔第2クラッチCL2〕をスリップ係合状態とし、内燃機関〔エンジンE〕のトルクにより車両をクリープ走行させる。CL2過熱時モードでは、第一係合装置及び第二係合装置の双方をスリップ係合状態に制御し、内燃機関のトルクにより車両をクリープ走行させる。WSC積極的発電モードでは、第一係合装置を直結係合状態とすると共に第二係合装置をスリップ係合状態とし、内燃機関のトルクにより、回転電機〔モータジェネレータMG〕に発電を行わせながら車両を走行させる。そして、制御装置は、WSCクリープモードとCL2過熱時モードとの間、又は、WSCクリープモードとWSC積極的発電モードとの間で、モード移行させることが可能とされている(特許文献1の図6等を参照)。
【0004】
特許文献1の制御装置は、蓄電装置〔バッテリ4〕の蓄電量が低い状態での低速走行中には、回転電機に発電を行わせるためにWSC積極的発電モードを実現する。しかし、WSC積極的発電モードでは第二係合装置のみがスリップ係合状態とされるため、第二係合装置の両側の係合部材間の差回転速度が大きい状態が長く継続する。よって、第二係合装置の発熱量が増大して、当該第二係合装置が過熱する可能性がある。すなわち、低車速走行中等の特定の走行状態において、第二係合装置の発熱量を小さく抑えつつ所望の電力量を確保することが困難であった。
【0005】
一方、低速走行中であってもある程度車速が高い状態では、第二係合装置の両側の係合部材間の差回転速度は比較的小さく、第二係合装置が過熱する可能性は相対的に低い。そのため、第二係合装置単独での過熱抑制よりも、両係合装置による総合的な発熱量や回転電機の発電効率、或いは車両に伝達されるショックの軽減等、車両走行に関する他の効果の達成を優先させる方が良い場合もある。このような点に関して、特許文献1では特段の認識がなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−7094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、低車速走行中等の特定の走行状態において、第二係合装置の発熱量を小さく抑えつつ所望の電力量を確保することができると共に、状況に応じて望ましい走行状態を実現可能な制御装置が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る、内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、第二係合装置、及び出力部材、が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置の特徴構成は、前記第一係合装置及び前記第二係合装置の双方の直結係合状態で前記回転電機に発電を行わせる第一制御モードから、前記第一係合装置の直結係合状態且つ前記第二係合装置のスリップ係合状態で前記回転電機に発電を行わせる第二制御モードを経て、前記第一係合装置及び前記第二係合装置の双方のスリップ係合状態で前記回転電機に発電を行わせる第三制御モードへと移行させるモード移行制御を実行する点にある。
【0009】
なお、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
また、「直結係合状態」は、対象となる係合装置の両側の係合部材が一体回転する状態で係合されている状態を表す。「スリップ係合状態」は、両側の係合部材が回転速度差を有する状態で駆動力を伝達可能に係合されている状態を表す。なお、「解放状態」は、両側の係合部材間で回転及び駆動力が伝達されない状態を表す。
【0010】
上記の特徴構成によれば、第一制御モードでの走行中に車速が所定速度以下まで低下したとしても、第二制御モードにおいて第二係合装置をスリップ係合状態とすることで、自立運転を継続させることが可能な回転速度で内燃機関を駆動させつつ車両を走行させることができる。このとき、第二係合装置をスリップ係合状態とすることで、回転電機の回転速度を出力部材の回転速度に応じた回転速度よりも高く維持させることができる。よって、そのような回転速度で回転する回転電機に発電を行わせて、所望の電力量を確保することができる。また、第一制御モードから第二制御モードにかけて第一係合装置を直結係合状態に維持するので、損失の少ない状態で内燃機関のトルクを回転電機側へと伝達させて、回転電機の発電効率を向上させることができる。更に、例えば第三制御モードのように第一係合装置及び第二係合装置の双方をスリップ係合状態とする場合と比較して、相対的に伝達トルクが大きい第一係合装置の両側の係合部材間の差回転速度をゼロとして、両係合装置による総合的な発熱量を低減することができる。
【0011】
また、上記の特徴構成では、第三制御モードにおいて第一係合装置及び第二係合装置の双方をスリップ係合状態とするので、例えば第二制御モードのように第一係合装置を直結係合状態とすると共に第二係合装置をスリップ係合状態とする場合と比較して、第二係合装置の両側の係合部材間の差回転速度を小さくすることができる。よって、第二係合装置の係合部材の発熱量を小さく抑えることができる。また、この第三制御モードにおいても第二係合装置をスリップ係合状態とするので、回転電機の回転速度を出力部材の回転速度に応じた回転速度よりも高く維持させることができ、所望の電力量を確保することができる。そして、モード移行制御の実行により、状況に応じて適切に、第一制御モードから第二制御モードへ、更には第二制御モードから第三制御モードへとモード移行させることができる。第二制御モードから第三制御モードへのモード移行時には第一係合装置が直結係合状態からスリップ係合状態へと移行されるが、この第一係合装置の状態移行は第二係合装置のスリップ係合状態で行われるので、当該状態移行時のショックが車両に伝達されることを抑制することができる。
【0012】
ここで、前記第三制御モードにおいて、前記車輪を駆動するための要求駆動力に応じたトルクを伝達するように、スリップ係合状態の前記第二係合装置の伝達トルクを制御すると共に、前記第二係合装置が直結係合状態であると仮定して前記出力部材の回転速度を前記回転電機に伝達された場合の回転速度に換算して得られる換算回転速度に対して、所定の差回転速度を加算して得られる回転速度を目標として前記回転電機の回転速度を制御する構成とすると好適である。
【0013】
この構成によれば、第三制御モードにおいてスリップ係合状態とされる第二係合装置を介して、要求駆動力に応じたトルクを出力部材側に伝達することができる。よって、要求駆動力を適切に満足させることができる。
また、出力部材の回転速度に応じた換算回転速度よりも所定の設定差回転速度だけ高い回転速度を目標として回転電機の回転速度を制御することで、第二係合装置のスリップ係合状態を適切に実現することができる。
【0014】
また、前記第三制御モードにおいて、前記第二係合装置の温度が予め定められた高温判定しきい値以上となった場合には、前記第二係合装置が直結係合状態であると仮定して前記出力部材の回転速度を前記回転電機に伝達された場合の回転速度に換算して得られる換算回転速度と、前記回転電機の回転速度との差回転速度を減少させるように前記回転電機の回転速度を制御する構成とすると好適である。
【0015】
この構成によれば、第二係合装置の温度と高温判定しきい値との大小関係に基づいて、第二係合装置が過熱しつつあることを検知することができる。そして、そのような状況を検知した場合には、第二係合装置の両側の係合部材間の差回転速度を小さくすることができ、当該第二係合装置の発熱量を低減することができる。よって、第二係合装置の温度が高温判定しきい値を超えて更に上昇するのを抑制することができ、第二係合装置の過熱を抑制することができる。
【0016】
また、前記第二係合装置の温度が前記高温判定しきい値を超えて高くなるに従って前記差回転速度を小さくする構成とすると好適である。
【0017】
この構成によれば、高温判定しきい値に対する第二係合装置の温度の超過量が大きくなるに従って、より有効に第二係合装置の温度上昇を抑えることができる。また、この構成では、高温判定しきい値に対する第二係合装置の温度の超過量が比較的小さい場合には、当該超過量に応じて上記差回転速度の低下量が小さくなる。よって、第二係合装置の過熱が特に問題とならない範囲内で第二係合装置の両側の係合部材間の差回転速度を大きくして、両係合装置による総合的な発熱量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係る車両用駆動装置及びその制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】制御装置が実現可能な走行モードを示す表である。
【図3】発電停車制御を実行する際の各部の動作状態の一例を示すタイムチャートである。
【図4】発電停車制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】発電停車制御を実行する際の各部の動作状態の他の一例を示すタイムチャートである。
【図6】過熱回避制御の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態に係る制御装置4は、内燃機関11及び回転電機12の双方を備えた車両(ハイブリッド車両)6を駆動するための駆動装置1を制御対象とする駆動装置用制御装置である。以下、本実施形態に係る駆動装置1及び制御装置4について、順に説明する。
【0020】
なお、以下の説明では、「駆動連結」は、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を意味し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材には、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等)が含まれる。ここで、「駆動力」は「トルク」と同義で用いている。
【0021】
また、各係合装置についての「係合圧」は、例えば油圧サーボ機構等により当該係合装置の一方の係合部材と他方の係合部材とを相互に押し付け合う圧力を表す。また、「解放圧」は、当該係合装置が定常的に解放状態となる圧を表す。「解放境界圧」は、当該係合装置が解放状態とスリップ係合状態との境界のスリップ境界状態となる圧(解放側スリップ境界圧)を表す。「係合境界圧」は、当該係合装置がスリップ係合状態と直結係合状態との境界のスリップ境界状態となる圧(係合側スリップ境界圧)を表す。「完全係合圧」は、当該係合装置が定常的に直結係合状態となる圧を表す。
【0022】
1.駆動装置の構成
本実施形態に係る制御装置4による制御対象となる駆動装置1は、いわゆる1モータパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている。図1に示すように、この駆動装置1は、内燃機関11に駆動連結される入力軸Iと車輪15に駆動連結される出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路に、内燃機関11及び入力軸Iの側から順に、発進クラッチCS、回転電機12、変速機構13、及び出力軸O、を備えている。変速機構13には後述するように変速用の第一クラッチC1が備えられており、これにより、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路に、入力軸Iの側から順に、発進クラッチCS、回転電機12、第一クラッチC1、及び出力軸O、が設けられている。これらは、ケース(駆動装置ケース)内に収容されている。本実施形態では、出力軸Oが本発明における「出力部材」に相当する。
【0023】
内燃機関11は、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機である。内燃機関11としては、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等を用いることができる。内燃機関11は入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。本例では、内燃機関11のクランクシャフト等の出力軸が入力軸Iに駆動連結されている。内燃機関11は、発進クラッチCSを介して回転電機12に駆動連結されている。
【0024】
発進クラッチCSは、内燃機関11と回転電機12との間の駆動連結を解除可能に設けられている。発進クラッチCSは、入力軸Iと中間軸M及び出力軸Oとを選択的に駆動連結する摩擦係合装置であり、内燃機関切離用クラッチとして機能する。発進クラッチCSとしては、湿式多板クラッチや乾式単板クラッチ等を用いることができる。本実施形態では、発進クラッチCSが本発明における「第一係合装置」に相当する。
【0025】
回転電機12は、ロータとステータとを有して構成され(図示せず)、モータ(電動機)としての機能とジェネレータ(発電機)としての機能とを果たすことが可能とされている。回転電機12のロータは中間軸Mと一体回転するように駆動連結されている。また、回転電機12は、インバータ装置27を介して蓄電装置28に電気的に接続されている。蓄電装置28としては、バッテリやキャパシタ等を用いることができる。回転電機12は、蓄電装置28から電力の供給を受けて力行し、或いは、内燃機関11の出力トルク(内燃機関トルクTe)や車両6の慣性力により発電した電力を蓄電装置28に供給して蓄電する。中間軸Mは、変速機構13に駆動連結されている。すなわち、回転電機12のロータの出力軸(ロータ出力軸)としての中間軸Mは、変速機構13の入力軸(変速入力軸)となっている。
【0026】
変速機構13は、変速比の異なる複数の変速段を切替可能に有する自動有段変速機構である。変速機構13は、これら複数の変速段を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構と、この歯車機構の回転要素の係合又は解放を行うクラッチやブレーキ等の複数の係合装置(本例では摩擦係合装置)とを備えている。これら複数の係合装置としては、湿式多板クラッチ等を用いることができる。また本実施形態では、これら複数の係合装置には第一クラッチC1が含まれ、これ以外にも他のクラッチ、ブレーキ等が含まれている。本実施形態では、第一クラッチC1が本発明における「第二係合装置」に相当する。
【0027】
変速機構13は、変速用の複数の係合装置の係合状態に応じて形成される各変速段についてそれぞれ設定された変速比に基づいて、中間軸Mの回転速度を変速すると共にトルクを変換して、変速機構13の出力軸(変速出力軸)としての出力軸Oに伝達する。なお、「変速比」は、出力軸O(変速出力軸)の回転速度に対する中間軸M(変速入力軸)の回転速度の比である。変速機構13から出力軸Oに伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置14を介して左右2つの車輪15に分配されて伝達される。これにより、駆動装置1は、内燃機関11及び回転電機12の一方又は双方のトルクを車輪15に伝達して車両6を走行させることができる。
【0028】
本実施形態では、駆動装置1は、中間軸Mに駆動連結された機械式のオイルポンプ(図示せず)を備えている。オイルポンプは、回転電機12及び内燃機関11の一方又は双方の駆動力により駆動されて作動し、油圧を発生させる。オイルポンプからの油は、油圧制御装置25により所定油圧に調整されてから、発進クラッチCSや第一クラッチC1等に供給される。このオイルポンプとは別に、電動オイルポンプを備えた構成としても良い。
【0029】
図1に示すように、車両6の各部には、複数のセンサSe1〜Se5が備えられている。入力軸回転速度センサSe1は、入力軸Iの回転速度を検出するセンサである。入力軸回転速度センサSe1により検出される入力軸Iの回転速度は、内燃機関11の回転速度に等しい。中間軸回転速度センサSe2は、中間軸Mの回転速度を検出するセンサである。中間軸回転速度センサSe2により検出される中間軸Mの回転速度は、回転電機12のロータの回転速度に等しい。出力軸回転速度センサSe3は、出力軸Oの回転速度を検出するセンサである。制御装置4は、出力軸回転速度センサSe3により検出される出力軸Oの回転速度に基づいて、車両6の走行速度である車速を導出することもできる。
【0030】
アクセル開度検出センサSe4は、アクセルペダル17の操作量を検出することによりアクセル開度を検出するセンサである。充電状態検出センサSe5は、SOC(state of charge:充電状態)を検出するセンサである。制御装置4は、充電状態検出センサSe5により検出されるSOCに基づいて蓄電装置28の蓄電量を導出することもできる。これらの各センサSe1〜Se5による検出結果を示す情報は、制御装置4へ出力される。
【0031】
2.制御装置の構成
図1に示すように、本実施形態に係る制御装置4は、駆動装置制御ユニット40を備えている。駆動装置制御ユニット40は、主に回転電機12、発進クラッチCS、及び変速機構13を制御する。また、車両6には、駆動装置制御ユニット40とは別に、主に内燃機関11を制御する内燃機関制御ユニット30が備えられている。
【0032】
内燃機関制御ユニット30と駆動装置制御ユニット40とは、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。また、内燃機関制御ユニット30及び駆動装置制御ユニット40に備えられる各機能部も、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。また、内燃機関制御ユニット30及び駆動装置制御ユニット40は、各センサSe1〜Se5による検出結果の情報を取得可能に構成されている。
【0033】
内燃機関制御ユニット30は、内燃機関制御部31を備えている。
内燃機関制御部31は、内燃機関11の動作制御を行う機能部である。内燃機関制御部31は、内燃機関トルクTe及び回転速度の制御目標としての目標トルク及び目標回転速度を決定し、この制御目標に応じて内燃機関11を動作させる。本実施形態では、内燃機関制御部31は、車両6の走行状態に応じて内燃機関11のトルク制御と回転速度制御とを切り替えることが可能である。トルク制御は、内燃機関11に目標トルクを指令し、内燃機関トルクTeをその目標トルクに追従させる(一致するように近づける)制御である。回転速度制御は、内燃機関11に目標回転速度を指令し、内燃機関11の回転速度をその目標回転速度に追従させるように目標トルクを決定する制御である。
【0034】
駆動装置制御ユニット40は、走行モード決定部41、要求駆動力決定部42、回転電機制御部43、発進クラッチ動作制御部44、変速機構動作制御部45、及び発電発進制御部46を備えている。
【0035】
走行モード決定部41は、車両6の走行モードを決定する機能部である。走行モード決定部41は、例えば車速やアクセル開度、蓄電装置28の蓄電量等に基づいて、所定のマップ(モード選択マップ)を参照する等して駆動装置1が実現すべき走行モードを決定する。
【0036】
図2に示すように、本実施形態では、走行モード決定部41が選択可能な走行モードには、電動走行モード、パラレル走行モード、スリップ走行モード、及び停車発電モードが含まれる。ここで、パラレル走行モードには、パラレルアシストモード及びパラレル発電モードが含まれる。スリップ走行モードには、スリップアシストモード、第一スリップ発電モード、及び第二スリップ発電モードが含まれる。なお、図2において、各クラッチCS,C1についての「○」は直結係合状態とされることを表し、「△」はスリップ係合状態とされることを表し、「×」は解放状態とされることを表している。また、回転電機12についての「力行」は、車両6に対してトルクアシストを行っていること、又は単に空転していることを表している。
【0037】
図2に示すように、電動走行モードでは、発進クラッチCSの解放状態且つ第一クラッチC1の直結係合状態で回転電機12が力行する。制御装置4は、この電動走行モードを選択することにより、回転電機12の出力トルク(回転電機トルクTm)のみにより車両6を走行させる。パラレル走行モードでは、発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方の直結係合状態で、回転電機12は力行又は発電する。制御装置4は、このパラレル走行モードを選択することにより、少なくとも内燃機関トルクTeにより車両6を走行させる。その際、回転電機12は、パラレルアシストモードでは力行して内燃機関トルクTeによる駆動力を補助し、パラレル発電モードでは内燃機関トルクTeにより発電する。
【0038】
スリップアシストモードでは、発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方のスリップ係合状態で回転電機12が力行する。制御装置4は、このスリップアシストモードを選択することにより、少なくとも内燃機関トルクTeにより車両6を走行させる。第一スリップ発電モードでは、発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方のスリップ係合状態で回転電機12が発電する。第二スリップ発電モードでは、発進クラッチCSの直結係合状態且つ第一クラッチC1のスリップ係合状態で回転電機12が発電する。制御装置4は、これら2つのスリップ発電モードのいずれかを選択することにより、内燃機関トルクTeを利用して回転電機12に発電させつつ車両6を走行させる。停車発電モードでは、発進クラッチCSの直結係合状態且つ第一クラッチC1の解放状態で回転電機12が発電する。制御装置4は、この停車発電モードを選択することにより、車両6の停止状態で内燃機関トルクTeにより回転電機12に発電させる。
【0039】
本実施形態では、第一スリップ発電モードが本発明における「第三制御モード」に相当し、第二スリップ発電モードが本発明における「第二制御モード」に相当する。また、パラレル発電モードが本発明における「第一制御モード」に相当する。なお、少なくとも第一スリップ発電モード、第二スリップ発電モード、及びパラレル発電モードを含む一部の走行モードのみを選択可能とし、或いは上記以外の走行モードを更に選択可能としても良い。
【0040】
要求駆動力決定部42は、車両6を走行させるべく車輪15を駆動するために必要とされる要求駆動力Tdを決定する機能部である。要求駆動力決定部42は、車速とアクセル開度とに基づいて、所定のマップ(要求駆動力決定マップ)を参照する等して要求駆動力Tdを決定する。決定された要求駆動力Tdは、内燃機関制御部31、回転電機制御部43、及び発電発進制御部46等に出力される。
【0041】
回転電機制御部43は、回転電機12の動作制御を行う機能部である。回転電機制御部43は、回転電機トルクTm及び回転速度の制御目標としての目標トルク及び目標回転速度を決定し、この制御目標に応じて回転電機12を動作させることにより、回転電機12の動作制御を行う。本実施形態では、回転電機制御部43は、車両6の走行状態に応じて回転電機12のトルク制御と回転速度制御とを切り替えることが可能である。ここで、トルク制御は、回転電機12に目標トルクを指令し、回転電機トルクTmをその目標トルクに追従させる制御である。また、回転速度制御は、回転電機12に目標回転速度Nmtを指令し、回転電機12の回転速度をその目標回転速度Nmtに追従させるように目標トルクを決定する制御である。回転電機制御部43は、このような目標回転速度Nmtを設定する機能部として、目標回転速度設定部43aを備えている。
【0042】
発進クラッチ動作制御部44は、発進クラッチCSの動作制御を行う機能部である。ここで、発進クラッチ動作制御部44は、油圧制御装置25を介して発進クラッチCSに供給される油圧を制御し、発進クラッチCSの係合圧を制御することにより、当該発進クラッチCSの動作制御を行う。例えば、発進クラッチ動作制御部44は、発進クラッチCSに対する油圧指令を出力し、その油圧指令に応じて発進クラッチCSへの供給油圧を解放圧とすることにより、発進クラッチCSを定常的に解放状態とする。また、発進クラッチ動作制御部44は、発進クラッチCSへの供給油圧を完全係合圧とすることにより、発進クラッチCSを定常的に直結係合状態とする。また、発進クラッチ動作制御部44は、発進クラッチCSへの供給油圧を解放境界圧以上係合境界圧未満のスリップ係合圧とすることにより、発進クラッチCSをスリップ係合状態とする。
【0043】
発進クラッチCSのスリップ係合状態では、入力軸Iと中間軸Mとが相対回転する状態で、これらの間で駆動力が伝達される。なお、発進クラッチCSの直結係合状態又はスリップ係合状態で伝達可能なトルクの大きさは、発進クラッチCSのその時点での係合圧に応じて決まる。このときのトルクの大きさが、発進クラッチCSの「伝達トルク容量」である。この伝達トルク容量に応じて、発進クラッチCSの「伝達トルク」が定まる。本実施形態では、発進クラッチCSに対する油圧指令に応じて、比例ソレノイド等で発進クラッチCSへの供給油量及び供給油圧の大きさを連続的に制御することにより、係合圧及び伝達トルク容量の増減が連続的に制御可能である。なお、スリップ係合状態にある発進クラッチCSを介して伝達されるトルクの伝達方向は、入力軸Iと中間軸Mとの間の相対回転の向きに応じて決まる。
【0044】
また、発進クラッチ動作制御部44は、車両6の走行状態に応じて発進クラッチCSのトルク制御と回転速度制御とを切り替えることが可能である。ここで、トルク制御は、発進クラッチCSに目標伝達トルク容量を指令し、発進クラッチCSの伝達トルク(伝達トルク容量)をその目標伝達トルク容量に追従させる制御である。また、回転速度制御は、発進クラッチCSの一方の係合部材に連結された回転部材(ここでは、中間軸M)の回転速度と他方の係合部材に連結された回転部材(ここでは、入力軸I)の回転速度との間の差回転速度を所定の目標差回転速度に追従させるように、発進クラッチCSへの油圧指令又は発進クラッチCSの目標伝達トルク容量を決定する制御である。なお、発進クラッチCSの回転速度制御では、中間軸Mの回転速度が定まれば、上記差回転速度が目標差回転速度に一致することで入力軸Iの回転速度も定まる。そのため、発進クラッチCSの回転速度制御は、入力軸Iの目標回転速度を指令し、入力軸Iの回転速度をその目標回転速度に追従させるように発進クラッチCSへの油圧指令又は発進クラッチCSの目標伝達トルク容量を決定する制御であるとも言える。
【0045】
変速機構動作制御部45は、変速機構13の動作制御を行う機能部である。変速機構動作制御部45は、アクセル開度及び車速に基づいて、所定のマップ(変速マップ)を参照する等して目標変速段を決定する。そして、変速機構動作制御部45は、決定された目標変速段に基づいて、変速機構13内に備えられる所定のクラッチ及びブレーキ等への供給油圧を制御して目標変速段を形成する。
【0046】
変速機構13に備えられる第一クラッチC1は、本例では、同じく変速機構13に備えられる第二ブレーキと協働して第1速段を形成する。変速機構動作制御部45のうち、第一クラッチC1の動作制御を行う機能部を、ここでは特に第一クラッチ動作制御部45aとする。第一クラッチ動作制御部45aは、油圧制御装置25を介して第一クラッチC1に供給される油圧を制御し、第一クラッチC1の係合圧を制御することにより、当該第一クラッチC1の動作制御を行う。第一クラッチ動作制御部45aによる第一クラッチC1の動作制御に関しては、制御対象及びそれに付随する事項が一部異なるだけで、発進クラッチ動作制御部44による発進クラッチCSの動作制御と基本的には同様である。
【0047】
発電停車制御部46は、発電停車制御を実行する機能部である。発電停車制御部46は、内燃機関制御部31、回転電機制御部43、発進クラッチ動作制御部44、及び第一クラッチ動作制御部45a等を協調制御して発電停車制御を実行することで、回転電機12に発電させながら車両6を停止させる。以下、この発電停車制御部46を中核として実行される発電停車制御の内容について、詳細に説明する。
【0048】
3.発電停車制御の内容
発電停車制御は、例えばパラレル走行モード(本例ではパラレル発電モード)にて車両6が走行している状態、且つ、アクセルオフの状態で、低車速状態となったことをトリガーとして開始される。ここで「低車速状態」は、変速機構13において最大変速比の変速段(本例では第1速段)が形成されている場合において発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方が直結係合状態であると仮定した場合における入力軸Iの推定回転速度が、低車速判定閾値(低車速判定しきい値)X1未満の状態である。入力軸Iと一体回転するように駆動連結された内燃機関11は、所定の内燃機関トルクTeを出力して自立運転を継続するためには一定速度以上で回転する必要がある。本例では、内燃機関11がある程度余裕をもって自立運転を継続可能な回転速度として、低車速判定閾値X1が設定されている。
【0049】
発電停車制御部46は、低車速状態にある期間、発電停車制御を実行する。本実施形態では、発電停車制御部46は、発電停車制御において、車両6の走行モードをパラレル発電モードから第二スリップ発電モードへと移行させる。発電停車制御部46は、まず発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方の直結係合状態で回転電機12に発電を行わせ、その後、発進クラッチCSの直結係合状態且つ第一クラッチC1のスリップ係合状態で回転電機12に発電を行わせる。
【0050】
更に本実施形態では、発電停車制御部46は、低車速状態のうち特に特定低車速状態にある期間では、車両6の走行モードを第二スリップ発電モードから第一スリップ発電モードへと移行させる。発電停車制御部46は、発進クラッチCSの直結係合状態且つ第一クラッチC1のスリップ係合状態で回転電機12に発電を行わせ、その後、車速の低下に伴って特定低車速状態となると、発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方のスリップ係合状態で回転電機12に発電を行わせる。本実施形態では、発電停車制御が本発明における「モード移行制御」に相当する。
【0051】
ここで、「特定低車速状態」は、変速機構13において最大変速比の変速段が形成されている場合において発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方が直結係合状態であると仮定した場合における入力軸Iの推定回転速度が、低車速判定閾値X1よりも小さい値に設定された特定低車速判定閾値(特定低車速判定しきい値)X2未満の状態である。上記のとおり、内燃機関11は自立運転を継続するためには一定速度以上で回転する必要がある。また、こもり音や振動の発生を抑制する点からも、内燃機関11は一定速度以上で回転する必要がある。そのため、本例ではこれらの点を考慮して、特定低車速判定閾値X2が設定されている。なお、所定の余裕分を加味して特定低車速判定閾値X2を設定しても良い。
【0052】
図3及び図4を参照して、発電停車制御の内容について更に詳細に説明する。なお、以下の説明では、発電停車制御部46からの指令に基づいて各機能部がそれぞれの処理を行うものとする。また、変速機構13において第1速段が形成されているものとする。
【0053】
本例では、初期状態においてパラレル発電モードが実現され、内燃機関トルクTeにより回転電機12が発電しつつ、車両6が走行している(時刻T01以前,ステップ#01)。パラレル発電モードでは、発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方が直結係合状態とされる。また、内燃機関11のトルク制御及び回転電機12のトルク制御が実行される。
【0054】
より具体的には、回転電機制御部43は、所定の目標発電量を発電するために必要なトルク(負トルク)を目標トルクとして、回転電機12のトルク制御を行う。ここで、目標発電量は、車両6に備えられる補機類であって電力を用いて駆動されるもの(例えば、車載用エアコンディショナーのコンプレッサ、灯火類等)の定格消費電力や実消費電力等に基づき、必要に応じて蓄電装置28の蓄電量等にも基づいて決定される。目標発電量を発電するために必要なトルクは、車速に応じて決まる回転電機12の回転速度に応じて、目標発電量をその回転速度で除算し、符号変換して得られる。
【0055】
内燃機関制御部31は、要求駆動力Tdに応じたトルクと回転電機12に発電させるためのトルクとを加算して得られるトルクを目標トルクとして、内燃機関11のトルク制御を行う。ここで、要求駆動力Tdに応じたトルクは、要求駆動力Tdを第1速段の変速比で除算して得られる。回転電機12に発電させるためのトルクは、回転電機12の目標トルクと大きさ(絶対値)が等しい正トルクである。なお、図示の例では、要求駆動力Tdはほぼゼロの状態となっており、それに応じて内燃機関制御部31は、実質的には回転電機12に発電させるためのトルクを目標トルクとして、内燃機関11のトルク制御を行う。
【0056】
パラレル発電モードで、時刻T01において特定低車速状態となったことが検知されると(ステップ#02:Yes)、パラレル発電モードから第二スリップ発電モードへのモード移行が行われる。このモード移行に際しては、第一クラッチ動作制御部45aは第一クラッチC1に対する供給油圧を徐々に低下させる(時刻T01〜T02)。第一クラッチC1に対する供給油圧が徐々に低下されている状態で、第一クラッチC1のスリップ開始判定が行われる(ステップ#03)。
【0057】
発電停車制御部46は、変速機構13において第1速段が形成されている(この場合には、少なくとも第一クラッチC1が直結係合状態である)と仮定した場合における出力軸Oの回転速度に応じた中間軸Mの回転速度(本実施形態では、これを「換算回転速度Noc」と称する)と、内燃機関11及び回転電機12の回転速度との差回転速度が、第一スリップ開始判定閾値(第一スリップ開始判定しきい値)Z1以上となったか否かにより第一クラッチC1のスリップ開始判定を行う。なお、換算回転速度Nocは、第1速段が形成されていると仮定して、出力軸Oの回転速度Noを、回転電機12に伝達された場合の回転速度に換算して得られる仮想の回転速度である(図3において「同期線」と併記)。具体的には、換算回転速度Nocは、出力軸Oの回転速度Noに第1速段の変速比を乗算して得られる仮想の回転速度である。やがて時刻T02において上記差回転速度が第一スリップ開始判定閾値Z1以上となると(ステップ#03:Yes)、パラレル発電モードから第二スリップ発電モードへのモード移行が完了する(ステップ#04)。
【0058】
時刻T02〜T04に実現される第二スリップ発電モードでは、第一クラッチ動作制御部45aは、車輪15を駆動するための要求駆動力Tdに応じたトルクを伝達するように、スリップ係合状態の第一クラッチC1の伝達トルクを制御する。すなわち、第一クラッチ動作制御部45aは、要求駆動力Tdが車輪15に伝達されるように、中間軸Mと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路における第一クラッチC1の位置に応じたトルクを目標伝達トルク容量として、第一クラッチC1のトルク制御を行う。なお、図示の例では、要求駆動力Tdはほぼゼロの状態となっており、それに応じて第一クラッチ動作制御部45aは、実質的にはゼロのトルク(ゼロトルク)を目標トルクとして、第一クラッチC1のトルク制御を行う。この場合、第一クラッチC1に対する油圧指令は、解放境界圧相当となる。
【0059】
回転電機制御部43は、目標回転速度Nmtに基づいて回転電機12の回転速度制御を行う。ここで、目標回転速度設定部43aは、第二スリップ発電モードにおける目標回転速度Nmtを、本例では特定低車速判定閾値X2に等しい回転速度であって、経時変化しない一定値に設定する。内燃機関制御部31は、パラレル発電モードと同様の態様で内燃機関11のトルク制御を行う。
【0060】
この第二スリップ発電モードでは、第一クラッチC1をスリップ係合状態とするので、回転電機12の回転速度を換算回転速度Nocよりも高く維持させることができる。よって、そのような回転速度で回転する回転電機12に発電を行わせて、目標発電量を確保することができる。このとき、発進クラッチCSをスリップ係合状態ではなく直結係合状態とするので、内燃機関トルクTeをそのまま回転電機12側へと伝達させることができる。よって、発進クラッチCSを介したトルク伝達の際のエネルギ損失を低減して、回転電機12の発電効率を向上させることができる。また、回転電機12に発電させるためのトルク分だけ相対的に伝達トルクが大きい発進クラッチCSの、両側の係合部材間の差回転速度(以下、単に「発進クラッチCSの差回転速度」と称する)をゼロとしてその発熱を抑制することができる。よって、発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方をスリップ係合状態とする第一スリップ発電モードと比較して、両クラッチCS,C1による総合的な発熱量を低減することができる。特に、本例のようにゼロトルクを目標トルクとして第一クラッチC1のトルク制御が行われる状況では、両クラッチCS,C1による合計発熱量をほぼゼロにまで低減することができる。
【0061】
第二スリップ発電モードでは、上記換算回転速度Nocが低下している状態で、第二スリップ発電モードにおける目標回転速度Nmt(特定低車速判定閾値X2に等しい)と換算回転速度Nocとの差回転速度が予め設定された設定差回転速度ΔN1以上となったか否かが判定される。そして、時刻T03において上記差回転速度が設定差回転速度ΔN1以上となると、第二スリップ発電モードから第一スリップ発電モードへのモード移行が行われる。このモード移行に際しては、発進クラッチ動作制御部44は発進クラッチCSに対する供給油圧を徐々に低下させる(時刻T03〜T04)。発進クラッチCSに対する供給油圧が徐々に低下されている状態で、発進クラッチCSのスリップ開始判定が行われる(ステップ#05)。
【0062】
発電停車制御部46は、発進クラッチCSの差回転速度、すなわち本例における内燃機関11と回転電機12との間の差回転速度が、第二スリップ開始判定閾値(第二スリップ開始判定しきい値)Z2以上となったか否かにより発進クラッチCSのスリップ開始判定を行う。そして、やがて時刻T04において発進クラッチCSの差回転速度が第二スリップ開始判定閾値Z2以上となると(ステップ#05:Yes)、第二スリップ発電モードから第一スリップ発電モードへのモード移行が完了する(ステップ#06)。
【0063】
時刻T04以降に実現される第一スリップ発電モードでは、第一クラッチ動作制御部45aは、第二スリップ発電モードと同様の態様で第一クラッチC1のトルク制御を行う。すなわち、第一クラッチ動作制御部45aは、車輪15を駆動するための要求駆動力Tdに応じたトルクを伝達するように、スリップ係合状態の第一クラッチC1の伝達トルクを制御する。また、内燃機関制御部31は、パラレル発電モード及び第二スリップ発電モードと同様の態様で内燃機関11のトルク制御を行う。
【0064】
発進クラッチ動作制御部44は、特定低車速判定閾値X2に等しい回転速度を内燃機関11の目標回転速度として、発進クラッチCSの回転速度制御を行う。これにより、こもり音や振動の発生が抑制された状態で内燃機関11が自立運転を継続することを可能としつつ、内燃機関11のトルク制御の結果として出力される内燃機関トルクTeをそのまま回転電機12側へと伝達している。
【0065】
回転電機制御部43は、目標回転速度Nmtに基づいて回転電機12の回転速度制御を行う。目標回転速度設定部43aは、第一スリップ発電モードにおける目標回転速度Nmtを、上記換算回転速度Nocに対して、予め定められた設定差回転速度ΔN1を加算して得られる回転速度に設定する。このような設定差回転速度ΔN1は、上記目標発電量に基づいて設定されている。すなわち、回転電機12が出力可能なトルクの範囲内で目標発電量を確保できるような回転速度として、設定差回転速度ΔN1が設定されている。このような設定差回転速度ΔN1を設けることにより、出力軸Oの回転速度の瞬時的な変動によらずに回転電機12の実回転速度が換算回転速度Nocよりも有意に高い状態を維持できる。よって、目標発電量を確保しつつ、確実に第一クラッチC1をスリップ係合状態とすることが可能となっている。なお、本例では、図3に示すように、時刻T04〜T05において、車速の低下(または、出力軸Oの回転速度の低下)に伴って目標回転速度Nmtも次第に低下している。また、車両6が停止した時刻T05以降は、目標回転速度Nmtは設定差回転速度ΔN1に維持されている。なお、この時刻T05以降は、停車中にも第一スリップ発電モードが継続して実現されているだけであって、停車発電モードが実現されているわけではない。
【0066】
この第一スリップ発電モードでは、第二スリップ発電モードに引き続き第一クラッチC1をスリップ係合状態とするので、回転電機12の回転速度を換算回転速度Nocよりも高く維持させることができ、目標発電量を確保することができる。また、発進クラッチCS及び第一クラッチC1の双方をスリップ係合状態とするので、本実施形態のように自立運転を継続させることが可能な回転速度で内燃機関11を駆動させつつ特定低車速状態で車両6を走行させるような状況で、第一クラッチC1の両側の係合部材間の差回転速度(以下、単に「第一クラッチC1の差回転速度」と称する)を小さくすることができる。ここでは特に、発進クラッチCSを直結係合状態として第一クラッチC1のみをスリップ係合状態とする場合と比較して、第一クラッチC1の差回転速度を小さくすることができる。よって、第一クラッチC1の発熱量を小さく抑えることができる。
【0067】
なお、本例では車両6が停止した後も第一スリップ発電モードが実現されているので、その後運転者による発進操作(アクセルオン操作やブレーキオフ操作等)が検知された場合に、回転電機12に発電させながら迅速に車両6を発進させることができるという利点がある。
【0068】
ところで、第二スリップ発電モードから第一スリップ発電モードへのモード移行時には、上記のとおり発進クラッチCSが直結係合状態からスリップ係合状態へと移行される。この発進クラッチCSの状態移行は、第一クラッチC1のスリップ係合状態で行われるので、当該状態移行時の解放ショック(直結解除ショック)が車両6に伝達されることを抑制することができる。
【0069】
このように本実施形態では、発電停車制御部46は、発電停車制御を実行することにより、車両6が減速している状態で、パラレル発電モード、第二スリップ発電モード、及び第一スリップ発電モード、を記載の順に実現させる。すなわち発電停車制御部46は、車速の低下に伴ってパラレル発電モードから第二スリップ発電モードへとモード移行させた後、更なる車速の低下に伴って第二スリップ発電モードから第一スリップ発電モードへとモード移行させる。これにより、これまで説明してきたように、目標発電量を確保することができると共に、状況に応じて両クラッチCS,C1による総合的な発熱量や回転電機12の発電効率、或いは車両6に伝達されるショックの軽減等に関して望ましい走行状態を実現することが可能となっている。
【0070】
4.その他の実施形態
最後に、本発明に係る制御装置の、その他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0071】
(1)上記の実施形態において、第三スリップ発電モードで、第一クラッチC1の温度にも基づいて回転電機12の回転速度を制御する構成としても好適である(図5及び図6を参照)。例えば上記の実施形態のように設定された目標回転速度Nmtに基づいて回転電機12の回転速度制御を行っている状態で(ステップ#11)、第一クラッチC1の温度が許容上限温度Y2に近づいてきたことが検知された場合に、第一クラッチC1の差回転速度を減少させるように回転電機12の回転速度を制御する構成とすることができる。この場合、例えば図1において破線ブロックで示すように、第一クラッチC1の温度を監視する温度状態監視部51を制御装置4が備える構成とする。温度状態監視部51は、例えば第一クラッチC1の温度を検出するクラッチ温度センサからの情報に基づいて第一クラッチC1の温度を直接的に取得する構成とすることができる。或いは、温度状態監視部51は、第一クラッチC1の伝達トルク容量と差回転速度とに基づいて第一クラッチC1の発熱量を算出し、この発熱量に基づいて第一クラッチC1の推定温度を取得する構成とすることができる。なお、その他公知の手法に基づいて第一クラッチC1の温度を取得する構成としても良い(ステップ#12)。
【0072】
温度状態監視部51により取得される第一クラッチC1の温度が予め定められた高温判定閾値(高温判定しきい値)Y1未満のうちは(時刻T14〜T16,ステップ#13:No)、目標回転速度設定部43aは、その時点で設定されている目標回転速度Nmtをそのまま維持する(ステップ#15)。一方、第一クラッチC1の温度が高温判定閾値Y1以上となった場合には(時刻T16以降,ステップ#13:Yes)、目標回転速度設定部43aは、回転電機12の回転速度と換算回転速度Nocとの差回転速度を減少させるように目標回転速度Nmtを変更する(低下させる)。その際、目標回転速度設定部43aは、第一クラッチC1の温度が高温判定閾値Y1を超えて高くなるに従って上記差回転速度を小さくするように、目標回転速度Nmtをより小さく変更する(ステップ#14)。以上の処理は、発電停車制御の実行中、逐次繰り返して実行される。このような処理を、ここでは過熱回避制御と称する。
【0073】
このような過熱回避制御によれば、第一クラッチC1の温度と高温判定閾値Y1との大小関係に基づいて、第一クラッチC1が過熱しつつあることを検知することができる。そして、そのような状況を検知した場合には、第一クラッチC1の差回転速度を小さくして当該第一クラッチC1の発熱量を低減することができる。その際、高温判定閾値Y1に対する第一クラッチC1の温度の超過量が大きくなるに従って、より有効に第一クラッチC1の発熱量を低減することができ、第一クラッチC1の過熱を有効に抑制することができる。図5に示す例では、過熱回避制御の実行により、第一クラッチC1の温度は許容上限温度Y2に達する前の時刻T17以降低下し、やがて高温判定閾値Y1未満の所定温度に収束している。なお、この例のように第一クラッチC1の温度がその後低下する場合等、高温判定閾値Y1に対する第一クラッチC1の温度の超過量が比較的小さくなる場合には、第一クラッチC1の差回転速度の低下量を小さくすることができる。よって、第一クラッチC1の過熱が特に問題とならない範囲内で第一クラッチC1の差回転速度を大きくしつつ発進クラッチCSの差回転速度を小さくして、両クラッチCS,C1による総合的な発熱量を低減することができる。
【0074】
なお、目標回転速度設定部43aが、高温判定閾値Y1に対する第一クラッチC1の温度の超過量によらずに一律に、回転電機12の回転速度と換算回転速度Nocとの差回転速度を所定量だけ小さくする構成としても良い。
また、上記のように第一クラッチC1の温度は第一クラッチC1の発熱量に基づいて推定可能である。そこで、過熱回避制御において、例えば温度状態監視部51が第一クラッチC1の温度に代えて第一クラッチC1の発熱量を監視する構成とし、その発熱量が所定の高発熱判定閾値(高発熱判定しきい値)以上となった場合に上記と同様の処理を行うように構成しても実質的に同じであり、上記と同様の効果を得ることができる。
【0075】
(2)上記の実施形態では、第一スリップ発電モードにおいて、目標回転速度設定部43aが、換算回転速度Nocに対して設定差回転速度ΔN1を加算して得られる回転速度を目標回転速度Nmtに設定する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば目標回転速度設定部43aが、設定差回転速度ΔN1よりも大きい値に予め設定された設定回転速度Np(図示せず)と、換算回転速度Noc及び予め設定された設定差回転速度ΔN1とに基づいて目標回転速度Nmtを設定する構成としても良い。より具体的には、目標回転速度設定部43aは、上記設定回転速度Npと、換算回転速度Nocに対して設定差回転速度ΔN1を加算して得られる回転速度とのうち、いずれか高い方を目標回転速度Nmtに設定する構成とすることができる。このような目標回転速度Nmtに基づいて、回転電機制御部43は、換算回転速度Nocに対して設定差回転速度ΔN1を加算して得られる回転速度を第一の目標として回転電機12の回転速度制御を行い、設定回転速度Npと換算回転速度Nocとの差回転速度が設定差回転速度ΔN1以上となった後は、設定回転速度Npを第二の目標として回転電機12の回転速度制御を行う構成とすることができる。
【0076】
ここで、設定回転速度Npは、例えば中間軸Mと一体回転するように駆動連結されたオイルポンプにより、発進クラッチCS及び第一クラッチC1を含む全ての係合装置に必要とされる供給油圧を確保可能な回転速度に基づいて設定することができる。また、その他の狙いに応じて設定回転速度Npが設定された構成としても良い。このような構成では、回転電機12の回転速度を、設定回転速度Np以上に維持することができる。よって、この設定回転速度Npを各種の狙いに応じて適切に設定することで、回転電機12の回転速度をそれぞれ必要とされる回転速度以上に維持することができる。
【0077】
なお、目標回転速度設定部43aが、上記の実施形態で説明した手法やここで説明した手法とは異なる手法に基づいて目標回転速度Nmtを設定する構成としても良い。要するに、回転電機12の回転速度制御における目標回転速度Nmtの設定方法としては、任意の形態を採用することができる。
【0078】
(3)上記の実施形態では、パラレル発電モード且つアクセルオフ状態での走行中に低車速状態となった場合に発電停車制御が実行される構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えばパラレルアシストモードでの走行中に低車速状態となった場合に発電停車制御が実行される構成としても良い。また、アクセルオンの状態であっても車速が低下して低車速状態となった場合に発電停車制御が実行される構成としても良い。或いは、それらの場合において、所定の低蓄電状態(例えば、蓄電装置28の蓄電量が、予め定められた低蓄電判定閾値以下の状態)でのみ発電停車制御が実行される構成としても良い。
また、必ずしも車両6が完全に停止する必要はなく、パラレル発電モード、第二スリップ発電モード、第一スリップ発電モードの順にモード移行が行われた後、例えば第一スリップ発電モードのまま車両6が極低車速での走行を継続しても良い。或いは、その後加速して、他の走行モード(例えば、第二スリップ発電モードやパラレル発電モード等)で車両6が走行を継続しても良い。これらの場合、パラレル発電モードから第二スリップ発電モードを経て第一スリップ発電モードにモード移行させるための一連の処理が、本発明における「モード移行制御」に相当する。
【0079】
(4)上記の実施形態では、変速機構13内の変速用の係合装置の1つ(第一クラッチC1)が「第二係合装置」とされた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路において、回転電機12よりも出力軸O側に設けられた係合装置であれば、変速機構13内の他の係合装置を「第二係合装置」としても良い。
また、例えば回転電機12と出力軸Oとの間にトルクコンバータ等の流体継手を備える場合において、当該流体継手が有するロックアップクラッチを「第二係合装置」としても良い。或いは、例えば回転電機12と出力軸Oとの間に専用の伝達クラッチを設け、当該伝達クラッチを「第二係合装置」としても良い。これらの場合には、変速機構13として、自動無段変速機構、手動有段変速機構、及び固定変速機構等を用いることもできる。また、変速機構13の位置も任意に設定することができる。
【0080】
(5)上記の実施形態では、発進クラッチCSや第一クラッチC1が、供給油圧に応じて係合圧が制御される油圧駆動式の係合装置とされた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、これらは係合圧の増減に応じて伝達トルク容量(伝達トルク)を調整可能であれば良く、例えばこれらのうちの一方又は双方を、電磁力に応じて係合圧が制御される電磁式の係合装置としても良い。
【0081】
(6)上記の実施形態では、主に内燃機関11を制御するための内燃機関制御ユニット30と、主に回転電機12、発進クラッチCS、及び変速機構13を制御するための駆動装置制御ユニット40(制御装置4)とが個別に備えられている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば単一の制御装置4が内燃機関11、回転電機12、発進クラッチCS、及び変速機構13等の全てを制御する構成としても良い。或いは、制御装置4が、回転電機12を制御するための制御ユニットと、それ以外の各種構成を制御するための制御ユニットとを更に個別に備える構成としても良い。また、上記の実施形態で説明した機能部の割り当ては単なる一例であり、複数の機能部を組み合わせたり、1つの機能部を更に区分けしたりしても良い。
【0082】
(7)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載されていない構成に関しては、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、内燃機関と回転電機とを備えた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 駆動装置(車両用駆動装置)
4 制御装置
11 内燃機関
12 回転電機
15 車輪
43 回転電機制御部
43a 目標回転速度設定部
44 発進クラッチ動作制御部
45a 第一クラッチ動作制御部
46 発電停車制御部
51 温度状態監視部
I 入力軸
O 出力軸(出力部材)
CS 発進クラッチ(第一係合装置)
C1 第一クラッチ(第二係合装置)
Td 要求駆動力
Nmt 目標回転速度
ΔN1 設定差回転速度
Np 設定回転速度
Y1 高温判定閾値(高温判定しきい値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、第二係合装置、及び出力部材、が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記第一係合装置及び前記第二係合装置の双方の直結係合状態で前記回転電機に発電を行わせる第一制御モードから、
前記第一係合装置の直結係合状態且つ前記第二係合装置のスリップ係合状態で前記回転電機に発電を行わせる第二制御モードを経て、
前記第一係合装置及び前記第二係合装置の双方のスリップ係合状態で前記回転電機に発電を行わせる第三制御モードへと移行させるモード移行制御を実行する制御装置。
【請求項2】
前記第三制御モードにおいて、
前記車輪を駆動するための要求駆動力に応じたトルクを伝達するように、スリップ係合状態の前記第二係合装置の伝達トルクを制御すると共に、
前記第二係合装置が直結係合状態であると仮定して前記出力部材の回転速度を前記回転電機に伝達された場合の回転速度に換算して得られる換算回転速度に対して、所定の設定差回転速度を加算して得られる回転速度を目標として前記回転電機の回転速度を制御する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第三制御モードにおいて、前記第二係合装置の温度が予め定められた高温判定しきい値以上となった場合には、前記第二係合装置が直結係合状態であると仮定して前記出力部材の回転速度を前記回転電機に伝達された場合の回転速度に換算して得られる換算回転速度と、前記回転電機の回転速度との差回転速度を減少させるように前記回転電機の回転速度を制御する請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記第二係合装置の温度が前記高温判定しきい値を超えて高くなるに従って前記差回転速度を小さくする請求項3に記載の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−35419(P2013−35419A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173219(P2011−173219)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】