制振ブレース接合構造
【課題】 座屈拘束ブレースやダンバ−付きブレース等の制振用のブレースの接合構造において、制振用のブレースに長期荷重を入力させないブレース接合構造を提供する。
【解決手段】 この制振ブレース接合構造は、制振用のブレース1の先端を、ガセットプレート2を介して、梁30、または柱と梁の両方に接合する接合構造である。ガセットプレート2と、梁30の下面または上面との間に隙間Gを介在させる。梁30に固定され、または柱と梁の両方に固定されたローラ支持部材3により、ガセットプレート2を鉛直方向に滑動自在に支持する。
【解決手段】 この制振ブレース接合構造は、制振用のブレース1の先端を、ガセットプレート2を介して、梁30、または柱と梁の両方に接合する接合構造である。ガセットプレート2と、梁30の下面または上面との間に隙間Gを介在させる。梁30に固定され、または柱と梁の両方に固定されたローラ支持部材3により、ガセットプレート2を鉛直方向に滑動自在に支持する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、座屈拘束ブレースやダンバ−付きブレース等の制振用のブレースの先端を、ガセットプレートを介して、梁、または梁と柱の両方に接合する制振ブレース接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物に使用される斜材として、建築物に作用する地震や風等による外力に抵抗する制振用のブレースが知られている。制振用のブレースとしては、座屈拘束ブレースやダンパー装置付きブレース等が用いられる。この制振用のブレースは、本来、長期荷重を入力させない状態で、外力が作用することを前提としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−18951号公報
【特許文献2】特開2009−249833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制振用のブレースは、歪みゼロの状態から外力(地震、風圧、その他)を受けて行くという前提で設計され、長期荷重をブレースに入力してはならない。しかし、この条件は、実際の施工においては必ずしも具現化されていない。すなわち、固定荷重に関しては、例えばブレースの先端の接合部における高力ボルトの本締めを、床スラブコンクリートの打設後に行うことで具現化されている。しかし、積載荷重に関しては、現実的な解決策がなく、特に対策が取られていないのが現状である。積載荷重が小さいホテルや事務所などの建築物の場合には、制振用のブレースに入力される長期荷重は無視できるレベルであるとも考えられる。しかし、倉庫などの物流施設のような建築物に入力される大きな積載荷重や、多雪地帯の建築物に入力される積雪荷重などは無視できないレベルのものとなっている。
【0005】
この発明の目的は、制振ブレースに長期荷重を入力させない制振ブレース接合構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の制振ブレース接合構造は、制振用のブレースの先端を、ガセットプレートを介して、梁、または柱と梁の両方に接合する制振ブレース接合構造であって、前記ガセットプレートと、前記梁の下面または上面との間に隙間を介在させ、前記梁に固定され、または柱と梁の両方に固定されたローラ支持部材により、前記ガセットプレートを鉛直方向に滑動自在に支持したことを特徴とする。前記制振用のブレースは、座屈拘束ブレースであっても良いし、中間部にダンパー装置を介在させたものであっても良い。
【0007】
この構造によると、ガセットプレートは梁や柱に直接に接合されず、梁との間に隙間が設けられて、ローラ支持部材によって、鉛直方向に滑動自在なローラ支持構造で支持されている。そのため、積載荷重や多雪地帯における積雪荷重等の長期荷重により梁の上下方向の撓みが生じても、その撓みが前記ローラ支持部材とガセットプレートの間の滑動で逃がされ、制振ブレースには長期荷重が作用しない。ガセットプレートは、ローラ支持部材によって鉛直方向に滑動自在なローラ支持構造で支持されるが、ブレースからの水平力は、ガセットプレートからローラ支持部材に伝達され、梁に伝えられる。したがって、上記ローラ支持構造であっても、制振用のブレースとしての機能が損なわれることがない。
【0008】
この発明において、前記ローラ支持部材が梁に固定されたものであって、前記ガセットプレートの両端を支持するものとしても良い。
梁の柱間の中間位置等に制振用のブレースを接合する場合、ガセットプレートは、梁長さ方向の端部となる両端をローラ支持部材で鉛直方向に滑動自在に支持することで、長期荷重による梁の上下方向の撓み等に対して、その撓みをガセットプレートの鉛直方向の滑動で逃がす作用が円滑に行える。
【0009】
この発明において、柱と梁の接合部に制振用のブレースの先端が接合される場合に、前記ローラ支持部材が柱に固定され、このローラ支持部材で前記ガセットプレートの一端を支持するものとしても良い。
【0010】
この発明において、前記ローラ支持部材は、前記梁の幅方向に延びる垂直姿勢の横片と前記梁の長手方向に延びる垂直姿勢の縦片とでなる水平断面がT字形のT形リブと、このT形リブの前記横片から突出し水平断面がT字形の案内突部とでなり、前記ガセットプレートに、前記ローラ支持部材の案内突部に対して鉛直方向に滑動自在に係合する受け金具を固定しても良い。
前記ローラ支持部材を前記T形リブを有する構成とすることで、ブレースからの水平力をガセットプレートからの支圧力で梁に伝えるにつき、必要な強度を確保しながら、ローラ支持部材による鉛直方向に滑動自在なローラ支持構造とできる。
【0011】
この発明において、前記ローラ支持部材は、前記梁の幅方向に延びる垂直姿勢の横片と前記梁の長手方向に延びる垂直姿勢の縦片とを有し、前記横片に縦長のボルト挿通孔を有する水平断面がT字形のT形リブからなり、前記ガセットプレートに、前記ローラ支持部材を構成するT形リブの横片に対面し、前記横片のボルト挿通孔に整合する縦長のボルト挿通孔を有する接合プレートを固定し、前記横片のボルト挿通孔と前記接合プレートのボルト挿通孔に挿通したボルトでガセットプレートを前記ローラ支持部材に接合しても良い。
この構成の場合も、前記ローラ支持部材を前記T形リブを有する構成とすることで、ブレースからの水平力をガセットプレートからの支圧力で梁に伝えるにつき、必要な強度を確保しながら、ローラ支持部材による鉛直方向に滑動自在なローラ支持構造とできる。
【0012】
なお、前記制振用のブレースは座屈拘束ブレースであっても良いし、中間部にダンパー装置を介在させたものであっても良い。
【発明の効果】
【0013】
この発明の制振ブレース接合構造は、制振用のブレースの先端を、ガセットプレートを介して、梁、または柱と梁の両方に接合する制振ブレース接合構造であって、前記ガセットプレートと、前記梁の下面または上面との間に隙間を介在させ、前記梁に固定され、または柱と梁の両方に固定されたローラ支持部材により、前記ガセットプレートを鉛直方向に滑動自在に支持したため、制振用のブレースに長期荷重が入力せず、かつブレースを地震や風などの水平方向の外力に抵抗する斜材として有効に働かせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の一実施形態にかかる制振ブレース接合構造が適用されるK型ブレースを組み込んだ架構体の概略正面図である。
【図2】同制振ブレース接合構造を示す正面図である。
【図3】同制振ブレース接合構造の一例を示す部分拡大正面図である。
【図4】同制振ブレース接合構造の一例の部分拡大水平断面図である。
【図5】(A)は同制振ブレース接合構造に用いられる制振用のブレースの一例であ る座屈拘束ブレースの斜視図、(B)は同座屈拘束ブレースの断面図である。
【図6】同制振ブレース接合構造に用いられる制振用のブレースの他の例を示す正面図である。
【図7】同制振ブレース接合構造の他の例を示す部分拡大正面図である。
【図8】同制振ブレース接合構造の他の例を示す部分拡大水平断面図である。
【図9】この発明の他の実施形態にかかる制振ブレース接合構造が適用されるV型ブレースを組み込んだ架構体の正面図である。
【図10】同制振ブレース接合構造を示す正面図である。
【図11】この発明のさらに他の実施形態にかかる制振ブレース接合構造を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図1ないし図8と共に説明する。図1は、この実施形態の制振ブレース接合構造が適用されるK型ブレースを組み込んだ鉄骨の架構体の概略正面図を示す。この架構体は、例えば物流施設の倉庫等の建築物となる架構体である。この例の制振ブレース接合構造は、同図のA部に示すように、2本の制振用のブレース1,1の上側の先端が、1つのガセットプレート2を介して、梁30の中央位置の下面で接合される部分に適用される。図2は、図1におけるA部を拡大して示す。
【0016】
この制振ブレース接合構造では、前記ガセットプレート2と、梁30の下面との間に隙間Gを介在させ、梁30の下面に固定された2つのローラ支持部材3,3により、ガセットプレート2の左右両端を鉛直方向に滑動自在に支持している。隙間Gは、架構体の構築時には生じているが、構築後に、この架構体に想定される長期荷重となる積載荷重が作用して梁30が撓んだ状態では、ガセットプレート2に梁30が接触、つまりメタルタッチとなる隙間寸法に設計されている。図3および図4に拡大正面図および拡大水平断面図で示すように、ローラ支持部材3は、梁30の幅方向に延びる垂直姿勢の横片5と、梁30の長手方向に延びる垂直姿勢の縦片6とでなる水平断面がT字形のT形リブ4と、このT形リブ4の前記横片5から突出し水平断面がT字形の2つの案内突部7とでなる。2つの案内突部7は、梁30の幅方向に並べて設けられる。T形リブ4およびT字形の案内突部7は、例えばT形鋼の切片とされる。ガセットプレート2の前記ローラ支持部材3に対向する左端には、ローラ支持部材3の案内突部7に対して鉛直方向に滑動自在に係合する2つの溝8を有する受け金具9が固定される。溝8の断面形状は、T字形の2つの案内突部7の断面形状に沿うT字形の断面形状である。ガセットプレート2の右端も、図3,4と同様の機構(例えば、図3,4と左右対称の機構)により、もう一方のローラ支持部材3で鉛直方向に滑動自在に支持される。なお、図2および図3では、梁30とガセットプレート2との間の隙間Gを、ハッチングを施して示している。
【0017】
図5は、制振用として用いられるブレース1の一例を示す。この制振用のブレース1は座屈拘束ブレースであって、図5(A)に斜視図で、図5(B)に断面図で示すように、芯材10と、この芯材10の両面に沿って一対の拘束材11,11を配置してなる。図6は、制振用として用いられるブレース1の他の例を示す。この制振用のブレース1は、2分割されたブレース材1aの中間位置にダンパー装置1bを介在させてなる。
【0018】
この構成の制振ブレース接合構造によると、前記ガセットプレート2と、梁30の下面との間に隙間Gを介在させ、梁30の下面に固定された2つのローラ支持部材3,3により、ガセットプレート2の左右両端を鉛直方向に滑動自在に支持している。そのため、積載荷重や多雪地帯における積雪荷重等の長期荷重により梁30に上下方向の撓みが生じても、その撓みがローラ支持部材3,3とガセットプレート2の間の滑動で逃がされ、制振用のブレース1には長期荷重が作用しない。ガセットプレート2は、ローラ支持部材3,3によって鉛直方向に滑動自在なローラ支持構造で支持されるが、ブレース1からの水平力は、ガセットプレート2からローラ支持部材3に伝達され、梁30に伝えられる。したがって、上記ローラ支持構造であっても、ブレース1は制振用としての機能が損なわれることがなく、地震や風などの水平方向の外力に抵抗する斜材として有効に働かせることができる。ガセットプレート2は、長期荷重による梁30の前記撓みで、梁30に対してメタルタッチとなるが、このとき梁30とガセットプレート2との間に音鳴り等が生じないように、例えば前記隙間Gに対面する梁30の下面にアンボンド材(図示せず)などを貼り付けても良い。
【0019】
図7および図8は、図1およ図2に示したK型ブレースにおける制振ブレース接合構造の他の構成例を示す。この構成例では、ローラ支持部材3が、梁30の幅方向に延びる垂直姿勢の横片5と、梁30の長手方向に延びる垂直姿勢の縦片6とを有し、前記横片5に複数の縦長のボルト挿通12を有する水平断面がT字形のT形リブ4からなる。ボルト挿通孔12は、前記横片5の幅方向に2列、上下に2列並べて合計4つ設けられている。このT形リブ4の前記横片5に対向するガセットプレート2の一端には、前記横片5に対面し、横片5のボルト挿通孔12に整合する複数の縦長のボルト挿通孔13を有する接合プレート19を固定する。ローラ支持部材3を構成するT形リブ4の横片5のボルト挿通孔12と前記接合プレート19のボルト挿通孔13にボルト14を挿通し、このボルト14にナット15を螺合させることで、ガセットプレート2がローラ支持部材3に締付け接合される。T形リブ4の横片5と接合プレート19との間には、接触面の滑りや相対移動を可能とする処理である絶縁処理のために、フッソ樹脂シートやブチルゴムなどの絶縁材16が介在させられる。このほか、絶縁材16として、例えばモリブデングリスを塗布しても良い。
【0020】
この構成例の制振ブレース接合構造の場合にも、ガセットプレート2と、梁30の下面との間に隙間Gが介在し、ローラ支持部材3により、ガセットプレート2が鉛直方向に滑動自在に支持されるので、長期荷重が梁30からガセットプレート2を経て制振用のブレース1に入力されない。このため、制振用のブレース1を、地震や風などの水平方向の外力に抵抗する斜材として有効に働かせることができる。
【0021】
図9および図10は、この発明の他の実施形態を示す。図9は、この実施形態の制振ブレース接合構造が適用されるV型ブレースを組み込んだ架構体の正面図を示す。制振ブレース接合構造は、同図のB部に示すように、2本の制振用のブレース1,1の下側の先端が、1つのガセットプレート2を介して、梁30の中央位置の上面で接合される部分に適用される。図10は、図9におけるB部を拡大して示す。
【0022】
この実施形態の制振ブレース接合構造では、前記ガセットプレート2と、梁30の上面との間に隙間Gを介在させ、梁30の上面に固定された2つのローラ支持部材3,3により、ガセットプレート2の左右両端を鉛直方向に滑動自在に支持している。ローラ支持部材3,3によるガセットプレート2の支持構造の具体例は、図3および図4に示した構成例のものであっても、図7および図8に示した構成例のものであっても良い。
【0023】
この制振ブレース接合構造の場合にも、ガセットプレート2と、梁30の上面との間に隙間Gが介在し、ローラ支持部材3により、ガセットプレート2が鉛直方向に滑動自在に支持されるので、長期荷重が梁30からガセットプレート2を経て制振用のブレース1に入力されない。このため、制振用のブレース1を、地震や風などの水平方向の外力に抵抗する斜材として有効に働かせることができる。
【0024】
図11は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の制振ブレース接合構造は、例えばK形ブレースとして組み立てられる制振用のブレース1の下側の一端を梁30と柱31の接合部に接合した例に適用したものである。ガセットプレート2の下向きの一端は梁30の上面に隙間Gを介して配置される。ガセットプレート2の柱31に対面する左端は、柱31に固定されたローラ支持部材3によ鉛直方向に滑動自在に支持される。また、ガセットプレート2の右端は、梁30の上面に固定されたもう1つのローラ支持部材3により鉛直方向に滑動自在に支持される。ローラ支持部材3,3によるガセットプレート2の支持構造の具体例は、図3および図4に示した構成例のものであっても、図7および図8に示した構成例のものであっても良い。
【0025】
この構成例の制振ブレース接合構造の場合にも、ガセットプレート2と、梁30の上面との間に隙間Gが介在し、ローラ支持部材3により、ガセットプレート2が鉛直方向に滑動自在に支持されるので、長期荷重が梁30からガセットプレート2を経て制振用のブレース1に入力されない。このため、制振用のブレース1を、地震や風などの水平方向の外力に抵抗する斜材として有効に働かせることができる。なお、図11において、例えば梁30に固定されるローラ支持部材3は省略しても良い。
【符号の説明】
【0026】
1…制振用のブレース
2…ガセットプレート
3…ローラ支持部材
4…T形リブ
5…横片
6…縦片
7…案内突部
8…溝
9…受け金具
12,13…ボルト挿通孔
19…接合プレート
30…梁
31…柱
【技術分野】
【0001】
この発明は、座屈拘束ブレースやダンバ−付きブレース等の制振用のブレースの先端を、ガセットプレートを介して、梁、または梁と柱の両方に接合する制振ブレース接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物に使用される斜材として、建築物に作用する地震や風等による外力に抵抗する制振用のブレースが知られている。制振用のブレースとしては、座屈拘束ブレースやダンパー装置付きブレース等が用いられる。この制振用のブレースは、本来、長期荷重を入力させない状態で、外力が作用することを前提としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−18951号公報
【特許文献2】特開2009−249833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制振用のブレースは、歪みゼロの状態から外力(地震、風圧、その他)を受けて行くという前提で設計され、長期荷重をブレースに入力してはならない。しかし、この条件は、実際の施工においては必ずしも具現化されていない。すなわち、固定荷重に関しては、例えばブレースの先端の接合部における高力ボルトの本締めを、床スラブコンクリートの打設後に行うことで具現化されている。しかし、積載荷重に関しては、現実的な解決策がなく、特に対策が取られていないのが現状である。積載荷重が小さいホテルや事務所などの建築物の場合には、制振用のブレースに入力される長期荷重は無視できるレベルであるとも考えられる。しかし、倉庫などの物流施設のような建築物に入力される大きな積載荷重や、多雪地帯の建築物に入力される積雪荷重などは無視できないレベルのものとなっている。
【0005】
この発明の目的は、制振ブレースに長期荷重を入力させない制振ブレース接合構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の制振ブレース接合構造は、制振用のブレースの先端を、ガセットプレートを介して、梁、または柱と梁の両方に接合する制振ブレース接合構造であって、前記ガセットプレートと、前記梁の下面または上面との間に隙間を介在させ、前記梁に固定され、または柱と梁の両方に固定されたローラ支持部材により、前記ガセットプレートを鉛直方向に滑動自在に支持したことを特徴とする。前記制振用のブレースは、座屈拘束ブレースであっても良いし、中間部にダンパー装置を介在させたものであっても良い。
【0007】
この構造によると、ガセットプレートは梁や柱に直接に接合されず、梁との間に隙間が設けられて、ローラ支持部材によって、鉛直方向に滑動自在なローラ支持構造で支持されている。そのため、積載荷重や多雪地帯における積雪荷重等の長期荷重により梁の上下方向の撓みが生じても、その撓みが前記ローラ支持部材とガセットプレートの間の滑動で逃がされ、制振ブレースには長期荷重が作用しない。ガセットプレートは、ローラ支持部材によって鉛直方向に滑動自在なローラ支持構造で支持されるが、ブレースからの水平力は、ガセットプレートからローラ支持部材に伝達され、梁に伝えられる。したがって、上記ローラ支持構造であっても、制振用のブレースとしての機能が損なわれることがない。
【0008】
この発明において、前記ローラ支持部材が梁に固定されたものであって、前記ガセットプレートの両端を支持するものとしても良い。
梁の柱間の中間位置等に制振用のブレースを接合する場合、ガセットプレートは、梁長さ方向の端部となる両端をローラ支持部材で鉛直方向に滑動自在に支持することで、長期荷重による梁の上下方向の撓み等に対して、その撓みをガセットプレートの鉛直方向の滑動で逃がす作用が円滑に行える。
【0009】
この発明において、柱と梁の接合部に制振用のブレースの先端が接合される場合に、前記ローラ支持部材が柱に固定され、このローラ支持部材で前記ガセットプレートの一端を支持するものとしても良い。
【0010】
この発明において、前記ローラ支持部材は、前記梁の幅方向に延びる垂直姿勢の横片と前記梁の長手方向に延びる垂直姿勢の縦片とでなる水平断面がT字形のT形リブと、このT形リブの前記横片から突出し水平断面がT字形の案内突部とでなり、前記ガセットプレートに、前記ローラ支持部材の案内突部に対して鉛直方向に滑動自在に係合する受け金具を固定しても良い。
前記ローラ支持部材を前記T形リブを有する構成とすることで、ブレースからの水平力をガセットプレートからの支圧力で梁に伝えるにつき、必要な強度を確保しながら、ローラ支持部材による鉛直方向に滑動自在なローラ支持構造とできる。
【0011】
この発明において、前記ローラ支持部材は、前記梁の幅方向に延びる垂直姿勢の横片と前記梁の長手方向に延びる垂直姿勢の縦片とを有し、前記横片に縦長のボルト挿通孔を有する水平断面がT字形のT形リブからなり、前記ガセットプレートに、前記ローラ支持部材を構成するT形リブの横片に対面し、前記横片のボルト挿通孔に整合する縦長のボルト挿通孔を有する接合プレートを固定し、前記横片のボルト挿通孔と前記接合プレートのボルト挿通孔に挿通したボルトでガセットプレートを前記ローラ支持部材に接合しても良い。
この構成の場合も、前記ローラ支持部材を前記T形リブを有する構成とすることで、ブレースからの水平力をガセットプレートからの支圧力で梁に伝えるにつき、必要な強度を確保しながら、ローラ支持部材による鉛直方向に滑動自在なローラ支持構造とできる。
【0012】
なお、前記制振用のブレースは座屈拘束ブレースであっても良いし、中間部にダンパー装置を介在させたものであっても良い。
【発明の効果】
【0013】
この発明の制振ブレース接合構造は、制振用のブレースの先端を、ガセットプレートを介して、梁、または柱と梁の両方に接合する制振ブレース接合構造であって、前記ガセットプレートと、前記梁の下面または上面との間に隙間を介在させ、前記梁に固定され、または柱と梁の両方に固定されたローラ支持部材により、前記ガセットプレートを鉛直方向に滑動自在に支持したため、制振用のブレースに長期荷重が入力せず、かつブレースを地震や風などの水平方向の外力に抵抗する斜材として有効に働かせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の一実施形態にかかる制振ブレース接合構造が適用されるK型ブレースを組み込んだ架構体の概略正面図である。
【図2】同制振ブレース接合構造を示す正面図である。
【図3】同制振ブレース接合構造の一例を示す部分拡大正面図である。
【図4】同制振ブレース接合構造の一例の部分拡大水平断面図である。
【図5】(A)は同制振ブレース接合構造に用いられる制振用のブレースの一例であ る座屈拘束ブレースの斜視図、(B)は同座屈拘束ブレースの断面図である。
【図6】同制振ブレース接合構造に用いられる制振用のブレースの他の例を示す正面図である。
【図7】同制振ブレース接合構造の他の例を示す部分拡大正面図である。
【図8】同制振ブレース接合構造の他の例を示す部分拡大水平断面図である。
【図9】この発明の他の実施形態にかかる制振ブレース接合構造が適用されるV型ブレースを組み込んだ架構体の正面図である。
【図10】同制振ブレース接合構造を示す正面図である。
【図11】この発明のさらに他の実施形態にかかる制振ブレース接合構造を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図1ないし図8と共に説明する。図1は、この実施形態の制振ブレース接合構造が適用されるK型ブレースを組み込んだ鉄骨の架構体の概略正面図を示す。この架構体は、例えば物流施設の倉庫等の建築物となる架構体である。この例の制振ブレース接合構造は、同図のA部に示すように、2本の制振用のブレース1,1の上側の先端が、1つのガセットプレート2を介して、梁30の中央位置の下面で接合される部分に適用される。図2は、図1におけるA部を拡大して示す。
【0016】
この制振ブレース接合構造では、前記ガセットプレート2と、梁30の下面との間に隙間Gを介在させ、梁30の下面に固定された2つのローラ支持部材3,3により、ガセットプレート2の左右両端を鉛直方向に滑動自在に支持している。隙間Gは、架構体の構築時には生じているが、構築後に、この架構体に想定される長期荷重となる積載荷重が作用して梁30が撓んだ状態では、ガセットプレート2に梁30が接触、つまりメタルタッチとなる隙間寸法に設計されている。図3および図4に拡大正面図および拡大水平断面図で示すように、ローラ支持部材3は、梁30の幅方向に延びる垂直姿勢の横片5と、梁30の長手方向に延びる垂直姿勢の縦片6とでなる水平断面がT字形のT形リブ4と、このT形リブ4の前記横片5から突出し水平断面がT字形の2つの案内突部7とでなる。2つの案内突部7は、梁30の幅方向に並べて設けられる。T形リブ4およびT字形の案内突部7は、例えばT形鋼の切片とされる。ガセットプレート2の前記ローラ支持部材3に対向する左端には、ローラ支持部材3の案内突部7に対して鉛直方向に滑動自在に係合する2つの溝8を有する受け金具9が固定される。溝8の断面形状は、T字形の2つの案内突部7の断面形状に沿うT字形の断面形状である。ガセットプレート2の右端も、図3,4と同様の機構(例えば、図3,4と左右対称の機構)により、もう一方のローラ支持部材3で鉛直方向に滑動自在に支持される。なお、図2および図3では、梁30とガセットプレート2との間の隙間Gを、ハッチングを施して示している。
【0017】
図5は、制振用として用いられるブレース1の一例を示す。この制振用のブレース1は座屈拘束ブレースであって、図5(A)に斜視図で、図5(B)に断面図で示すように、芯材10と、この芯材10の両面に沿って一対の拘束材11,11を配置してなる。図6は、制振用として用いられるブレース1の他の例を示す。この制振用のブレース1は、2分割されたブレース材1aの中間位置にダンパー装置1bを介在させてなる。
【0018】
この構成の制振ブレース接合構造によると、前記ガセットプレート2と、梁30の下面との間に隙間Gを介在させ、梁30の下面に固定された2つのローラ支持部材3,3により、ガセットプレート2の左右両端を鉛直方向に滑動自在に支持している。そのため、積載荷重や多雪地帯における積雪荷重等の長期荷重により梁30に上下方向の撓みが生じても、その撓みがローラ支持部材3,3とガセットプレート2の間の滑動で逃がされ、制振用のブレース1には長期荷重が作用しない。ガセットプレート2は、ローラ支持部材3,3によって鉛直方向に滑動自在なローラ支持構造で支持されるが、ブレース1からの水平力は、ガセットプレート2からローラ支持部材3に伝達され、梁30に伝えられる。したがって、上記ローラ支持構造であっても、ブレース1は制振用としての機能が損なわれることがなく、地震や風などの水平方向の外力に抵抗する斜材として有効に働かせることができる。ガセットプレート2は、長期荷重による梁30の前記撓みで、梁30に対してメタルタッチとなるが、このとき梁30とガセットプレート2との間に音鳴り等が生じないように、例えば前記隙間Gに対面する梁30の下面にアンボンド材(図示せず)などを貼り付けても良い。
【0019】
図7および図8は、図1およ図2に示したK型ブレースにおける制振ブレース接合構造の他の構成例を示す。この構成例では、ローラ支持部材3が、梁30の幅方向に延びる垂直姿勢の横片5と、梁30の長手方向に延びる垂直姿勢の縦片6とを有し、前記横片5に複数の縦長のボルト挿通12を有する水平断面がT字形のT形リブ4からなる。ボルト挿通孔12は、前記横片5の幅方向に2列、上下に2列並べて合計4つ設けられている。このT形リブ4の前記横片5に対向するガセットプレート2の一端には、前記横片5に対面し、横片5のボルト挿通孔12に整合する複数の縦長のボルト挿通孔13を有する接合プレート19を固定する。ローラ支持部材3を構成するT形リブ4の横片5のボルト挿通孔12と前記接合プレート19のボルト挿通孔13にボルト14を挿通し、このボルト14にナット15を螺合させることで、ガセットプレート2がローラ支持部材3に締付け接合される。T形リブ4の横片5と接合プレート19との間には、接触面の滑りや相対移動を可能とする処理である絶縁処理のために、フッソ樹脂シートやブチルゴムなどの絶縁材16が介在させられる。このほか、絶縁材16として、例えばモリブデングリスを塗布しても良い。
【0020】
この構成例の制振ブレース接合構造の場合にも、ガセットプレート2と、梁30の下面との間に隙間Gが介在し、ローラ支持部材3により、ガセットプレート2が鉛直方向に滑動自在に支持されるので、長期荷重が梁30からガセットプレート2を経て制振用のブレース1に入力されない。このため、制振用のブレース1を、地震や風などの水平方向の外力に抵抗する斜材として有効に働かせることができる。
【0021】
図9および図10は、この発明の他の実施形態を示す。図9は、この実施形態の制振ブレース接合構造が適用されるV型ブレースを組み込んだ架構体の正面図を示す。制振ブレース接合構造は、同図のB部に示すように、2本の制振用のブレース1,1の下側の先端が、1つのガセットプレート2を介して、梁30の中央位置の上面で接合される部分に適用される。図10は、図9におけるB部を拡大して示す。
【0022】
この実施形態の制振ブレース接合構造では、前記ガセットプレート2と、梁30の上面との間に隙間Gを介在させ、梁30の上面に固定された2つのローラ支持部材3,3により、ガセットプレート2の左右両端を鉛直方向に滑動自在に支持している。ローラ支持部材3,3によるガセットプレート2の支持構造の具体例は、図3および図4に示した構成例のものであっても、図7および図8に示した構成例のものであっても良い。
【0023】
この制振ブレース接合構造の場合にも、ガセットプレート2と、梁30の上面との間に隙間Gが介在し、ローラ支持部材3により、ガセットプレート2が鉛直方向に滑動自在に支持されるので、長期荷重が梁30からガセットプレート2を経て制振用のブレース1に入力されない。このため、制振用のブレース1を、地震や風などの水平方向の外力に抵抗する斜材として有効に働かせることができる。
【0024】
図11は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の制振ブレース接合構造は、例えばK形ブレースとして組み立てられる制振用のブレース1の下側の一端を梁30と柱31の接合部に接合した例に適用したものである。ガセットプレート2の下向きの一端は梁30の上面に隙間Gを介して配置される。ガセットプレート2の柱31に対面する左端は、柱31に固定されたローラ支持部材3によ鉛直方向に滑動自在に支持される。また、ガセットプレート2の右端は、梁30の上面に固定されたもう1つのローラ支持部材3により鉛直方向に滑動自在に支持される。ローラ支持部材3,3によるガセットプレート2の支持構造の具体例は、図3および図4に示した構成例のものであっても、図7および図8に示した構成例のものであっても良い。
【0025】
この構成例の制振ブレース接合構造の場合にも、ガセットプレート2と、梁30の上面との間に隙間Gが介在し、ローラ支持部材3により、ガセットプレート2が鉛直方向に滑動自在に支持されるので、長期荷重が梁30からガセットプレート2を経て制振用のブレース1に入力されない。このため、制振用のブレース1を、地震や風などの水平方向の外力に抵抗する斜材として有効に働かせることができる。なお、図11において、例えば梁30に固定されるローラ支持部材3は省略しても良い。
【符号の説明】
【0026】
1…制振用のブレース
2…ガセットプレート
3…ローラ支持部材
4…T形リブ
5…横片
6…縦片
7…案内突部
8…溝
9…受け金具
12,13…ボルト挿通孔
19…接合プレート
30…梁
31…柱
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振用のブレースの先端を、ガセットプレートを介して、梁、または柱と梁の両方に接合する制振ブレース接合構造であって、
前記ガセットプレートと、前記梁の下面または上面との間に隙間を介在させ、前記梁に固定され、または柱と梁の両方に固定されたローラ支持部材により、前記ガセットプレートを鉛直方向に滑動自在に支持したことを特徴とする制振ブレース接合構造。
【請求項2】
請求項1において、前記ローラ支持部材が梁に固定されたものであって、前記ガセットプレートの両端を支持する制振ブレース接合構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記ローラ支持部材は、前記梁の幅方向に延びる垂直姿勢の横片と前記梁の長手方向に延びる垂直姿勢の縦片とでなる水平断面がT字形のT形リブと、このT形リブの前記横片から突出し水平断面がT字形の案内突部とでなり、前記ガセットプレートに、前記ローラ支持部材の案内突部に対して鉛直方向に滑動自在に係合する受け金具を固定した制振ブレース接合構造。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記ローラ支持部材は、前記梁の幅方向に延びる垂直姿勢の横片と前記梁の長手方向に延びる垂直姿勢の縦片とを有し、前記横片に縦長のボルト挿通孔を有する水平断面がT字形のT形リブからなり、前記ガセットプレートに、前記ローラ支持部材を構成するT形リブの横片に対面し、前記横片のボルト挿通孔に整合する縦長のボルト挿通孔を有する接合プレートを固定し、前記横片のボルト挿通孔と前記接合プレートのボルト挿通孔に挿通したボルトでガセットプレートを前記ローラ支持部材に接合した制振ブレース接合構造。
【請求項1】
制振用のブレースの先端を、ガセットプレートを介して、梁、または柱と梁の両方に接合する制振ブレース接合構造であって、
前記ガセットプレートと、前記梁の下面または上面との間に隙間を介在させ、前記梁に固定され、または柱と梁の両方に固定されたローラ支持部材により、前記ガセットプレートを鉛直方向に滑動自在に支持したことを特徴とする制振ブレース接合構造。
【請求項2】
請求項1において、前記ローラ支持部材が梁に固定されたものであって、前記ガセットプレートの両端を支持する制振ブレース接合構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記ローラ支持部材は、前記梁の幅方向に延びる垂直姿勢の横片と前記梁の長手方向に延びる垂直姿勢の縦片とでなる水平断面がT字形のT形リブと、このT形リブの前記横片から突出し水平断面がT字形の案内突部とでなり、前記ガセットプレートに、前記ローラ支持部材の案内突部に対して鉛直方向に滑動自在に係合する受け金具を固定した制振ブレース接合構造。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記ローラ支持部材は、前記梁の幅方向に延びる垂直姿勢の横片と前記梁の長手方向に延びる垂直姿勢の縦片とを有し、前記横片に縦長のボルト挿通孔を有する水平断面がT字形のT形リブからなり、前記ガセットプレートに、前記ローラ支持部材を構成するT形リブの横片に対面し、前記横片のボルト挿通孔に整合する縦長のボルト挿通孔を有する接合プレートを固定し、前記横片のボルト挿通孔と前記接合プレートのボルト挿通孔に挿通したボルトでガセットプレートを前記ローラ支持部材に接合した制振ブレース接合構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−246675(P2012−246675A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119133(P2011−119133)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]