制振材を吐出するノズル、制振材塗布装置、及び、制振材塗布方法。
【課題】従来の制振材塗方法では、ノズルの移動速度を調整することで、塗布される制振材の厚さを調整していた。しかし、このように制振材の厚さを調整する場合、ワーク上に制振材が波状に折れ重なって塗布される。波状に折れ重なって塗布されると、制振材中に気泡が混入する。
【解決手段】本発明の制振材を吐出するノズルは、スリット状の吐出口と、吐出口のスリット幅を調整する調整機構を備える。吐出口のスリット幅を調整することによって、塗布される制振材の厚さを調整することができる。したがって、波状に制振材を塗布することなく、制振材の厚さを調整できる。これによって、塗布後の制振材中に気泡が混入することを抑制する。
【解決手段】本発明の制振材を吐出するノズルは、スリット状の吐出口と、吐出口のスリット幅を調整する調整機構を備える。吐出口のスリット幅を調整することによって、塗布される制振材の厚さを調整することができる。したがって、波状に制振材を塗布することなく、制振材の厚さを調整できる。これによって、塗布後の制振材中に気泡が混入することを抑制する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材を吐出するノズル、制振材塗布装置、及び、制振材塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
制振性が要求される構造体に対して、その表面に制振材層を形成する技術が知られている。例えば、自動車においては、フロアパネル上に制振材層を形成することによって、車室内の制振性の向上を図っている。
制振材層を形成する際には、制振材層を形成する対象物であるワークの表面に、未硬化状態の制振材を塗布する。そして、塗布した制振材を硬化させることで、ワークの表面に制振材層を形成する。
【0003】
図13は、従来の制振材塗布方法を示している。ノズル200の吐出口202は、図13の奥行き方向(紙面に対して垂直方向)に長いスリット状に形成されており、奥行き方向の広い範囲に制振材を吐出することができる。従来の制振材塗布方法では、ノズル200を矢印210に示す方向に移動させながら、ノズル200からワーク204に向けて制振材を吐出する。これによって、ワーク204の表面全体に、制振材を塗布していく。
制振材は、所定の厚さで形成する必要がある。従来の制振材塗布方法では、吐出口の幅(ノズルの移動方向の幅)が狭いノズルを用い、ノズル200の移動速度を調整して、図13に示すようにワーク204上に制振材が波状に折れ重なって塗布されるようにしている。これによって、制振材を厚く塗布している。すなわち、ノズル200の移動速度によって、塗布される制振材の厚さ(図13の厚さT0)を調整している。なお、図13では、制振材の折れ重なった形状を明確に示しているが、制振材は粘性を有するので、実際には折れ重なって塗布された制振材はある程度均質化する。
【0004】
なお、特許文献1には、高粘度材料の塗布装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−262011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図13の制振材塗布方法では、ワーク204上に制振材が折れ重なって塗布される。したがって、塗布後の制振材中に多量の気泡が混入する。このため、塗布した制振材を硬化させて形成した制振材層中にも多量の気泡が存在することになり、制振材層の剛性が低くなる。したがって、制振材層の制振性能が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した実情に鑑みて創作されたものであり、気泡の混入を抑制しながら、制振材を塗布することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の制振材塗布装置は、ワーク上に制振材を塗布する。この制振材塗布装置は、ノズルと、相対移動手段と、吐出手段と、制御手段を有する。ノズルは、スリット状の吐出口を有し、その吐出口から制振材を吐出する。相対移動手段は、ノズルをワークの表面に沿って相対移動させる。吐出手段は、ノズルから制振材を吐出させる。制御手段は、ワークの表面に対するノズルのスリット幅方向の相対移動速度V1と、ノズルによる制振材の吐出速度V2が、V1≧V2の関係を満たすように相対移動手段と吐出手段を制御する。
この制振材塗布装置は、ワークの表面に対するノズルのスリット幅方向の相対移動速度V1を、制振材の吐出速度V2以上の速度とする。したがって、塗布される制振材が折れ重なることがない。これによって、塗布された制振材中に気泡が混入されることを抑制することができる。
【0009】
上述した制振材塗布装置は、ノズルが、吐出口のスリット幅を調整する調整機構を備えていることが好ましい。
このような構成によれば、スリット幅を調整することで、塗布される制振材の厚さを調整することができる。
【0010】
また、本発明は、制振材塗布方法をも提供する。この方法では、スリット状の吐出口を有するノズルを用いて、ワーク上に制振材を塗布する。この方法では、ワークの表面に対するノズルのスリット幅方向の相対移動速度V1と、ノズルによる制振材の吐出速度V2が、V1≧V2の関係を満たすように、ノズルをワークの表面に沿って相対移動させながらノズルから制振材を吐出する。
この方法によれば、塗布された制振材中に気泡が混入されることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、気泡が混入されることを抑制しながら、ワーク上に制振材を塗布することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
下記に詳細に説明する実施例の構成を最初に列記する。
(特徴1)調整機構は、吐出口の側面を、スリット幅方向に平行移動させる。その平行移動方向は、制振材の吐出方向(吐出される制振材の速度方向)に対して斜めである。
(特徴2)吐出口のスリット幅は、吐出口のスリット長さ方向(吐出口の伸びる方向)の位置によらず一定である。
(特徴3)ノズルは、吐出口のスリット長さ(吐出口が伸びる方向における吐出口の寸法)と略同一の範囲に制振材が吐出されるように形成されている。
(特徴4)制振材塗布時には、ノズルとワークのスリット幅方向の相対移動速度V1と、ノズルによる制振材の吐出速度V2を、等しい速度とする。そして、ノズルの吐出口のスリット幅を、塗布される制振材の目標厚さと同一とする。
【0013】
(実施例)
本発明を適用した制振材塗布装置について説明する。図1は、実施例の制振材塗布装置80を示している。図1は、制振材塗布装置80により、ワーク90上に制振材を塗布する様子を示している。図示するように、制振材塗布装置80は、ノズル10と、吐出装置20と、移動装置30と、制御装置40を備えている。
【0014】
図1に示すように、ノズル10は、扁平形状を有している。ノズル10の上端には、配管22が接続されている。配管22の他端は、吐出装置20に接続されている。ノズル10は、その偏平形状を平面視したときに、配管22の接続部から下方に向かうに従って広がる略台形形状を備えている。
図2は、ノズル10をその偏平面に沿って断面視した縦断面図である。また、図3は、ノズル10をその偏平面と直交する方向に沿って断面視した縦断面図である。また、図4は、ノズル10を下面側から見た平面図を示している。
図2〜4に示すように、ノズル10の下端には、一対の板状部材16、17が設置されている。板状部材16、17の間には、スリット状に伸びる隙間12が形成されている。図2、3に示すように、隙間12は、ノズル10の内部空間を介して配管22に連通している。後に詳述するが、吐出装置20は、配管22を介してノズル10に制振材(未硬化状態の制振材)を送り込む。したがって、隙間12からは、送り込まれた制振材が吐出される。すなわち、隙間12は、ノズル10の吐出口である。以下では、吐出口12が伸びる方向(スリット長さ方向)をX方向といい、吐出口12のスリット幅方向(X方向と直交する方向)をY方向という。板状部材16と板状部材17は、その側面16aと側面17aが平行となるように設置されている。したがって、吐出口12のスリット幅(Y方向の寸法)は、何れの位置でも一定となっている。
また、ノズル10は、図2の矢印70に示すように、吐出口12から制振材が真っ直ぐ吐出されるように設計されている。すなわち、吐出される制振材が、X方向に広がらないように設計されている。
【0015】
図3の矢印72は、吐出口12から吐出される制振材の吐出方向を示している。図3に示すように、板状部材16、17は、吐出方向70に対して、傾斜(本実施例では、45度の傾斜)した状態で取り付けられている。すなわち、板状部材16、17は、吐出口12側が下側に位置し、反吐出口12側が上側に位置するように取り付けられている。
板状部材16は、図3の矢印74に示すように平行移動することができる。板状部材17は、図3の矢印76に示すように平行移動することができる。したがって、板状部材16、17を移動させることで、吐出口12のスリット幅を変更することができる。
【0016】
吐出装置20は、配管22を介してノズル10に制振材を送り込む。
移動装置30は、ノズル10と機械的に接続されており、ノズル10を移動させる。
制御装置40は、吐出装置20と移動装置30の動作を制御する。
【0017】
次に、制振材塗布装置80の動作について説明する。
制振材塗布装置80により制振材を塗布する際には、ノズル10の板状部材16、17の位置を調整することによって、ノズル10の吐出口12のスリット幅を調整する。このとき、吐出口12のスリット幅を、ワーク90上に塗布すべき制振材の目標厚さと一致させる。
次に、固定したワーク90上の塗布開始位置にノズル10を移動させる。そして、図1に示すように、吐出装置20を作動させてノズル10から制振材を吐出しながら、移動装置30によってノズル10をY方向に移動させる。これによって、ワーク90上に制振材を塗布していく。このとき、制御装置40は、ノズル10をY方向に移動させる速度V1が、ノズル10が吐出する制振材の吐出速度V2と一致するように、吐出装置20と移動装置30を制御する。
【0018】
図5と図6は、塗布時の制振材の状態を説明する説明図である。
図5は、時刻t0における状態を示している。図5の例では、ノズル10から吐出された制振材は、そのΔt秒後にワーク90と接触する。図5の点P1は、時刻t0よりΔt秒前にノズル10から吐出された制振材を示している。Δt秒前に吐出された制振材であるので、点P1の制振材は、ワーク90に対して非接触状態の制振材と、接触状態の制振材との境界部に位置している。また、図5の点P2は、時刻t0においてノズル10の吐出口12に存在する制振材(すなわち、吐出する瞬間の制振材)を示している。図5の範囲Sは、点P1と点P2の間の範囲に存在する制振材を示している。すなわち、時刻t0の直前のΔt秒の間にノズル10から吐出された制振材の範囲を示している。したがって、図5の長さL1はV2Δtである。
図6は、時刻t0からさらにΔt秒(上記のΔt秒と同じ時間)が経過した後の状態を示している。この状態では、点P2の制振材が、ワーク90に対して非接触状態の制振材と、接触状態の制振材との境界部に位置する。また、点P1と点P2の間の距離L2は、Δt秒の間にノズル10が移動した距離に等しい。したがって、距離L2はV1Δtである。本実施例では、速度V1が速度V2に等しいので、距離L2は、図5の距離L1に等しい。
上述した距離L2が距離L1より短い場合には、ワーク90上に塗布される制振材は、図13に示すように、波状に折れ重なる。一方、距離L2が距離L1以上である場合には、ワーク90上に塗布される制振材が図13のように折れ重なることはない。したがって、本実施例の制振材塗布装置80によれば、波状に折れ重なることなくワーク90上に制振材を塗布することができる。
また、距離L2が距離L1に等しい場合、図6に示すように、塗布される制振材の厚さT2は、吐出口12のスリット幅T1と略等しくなる。上述したように、吐出口12のスリット幅T1は、塗布すべき制振材の目標厚さに調整されている。したがって、目標厚さと略等しい厚さでワーク90上に制振材を塗布することができる。
【0019】
また、上述したように、ノズル10は、吐出口12から吐出される制振材が、X方向に広がらないように設計されている。したがって、X方向に厚さのばらつきをほとんど生じさせないで、制振材をワーク90上に塗布することができる。
すなわち、図14に示すように、従来の制振材塗布用ノズル200は、矢印222に示すようにX方向に広がって制振材を塗布するように設計されていた。この場合、X方向の位置によって制振材の吐出量にばらつきが生じる。したがって、ワーク90上に塗布される制振材の厚さが、X方向の位置によってばらついてしまう。
本実施例のノズル10によれば、塗布される制振材の、X方向の位置によるばらつきも低減することができる。
【0020】
以上のようにして、ワーク90上の必要な範囲に制振材を塗布したら、ワーク90を加熱処理することによって、塗布した制振材を硬化させる。これによって、ワーク90上に制振材層が形成される。
【0021】
以上に説明したように、本実施例の制振材塗布装置80によれば、制振材を波状に折り重ねることなく、ワーク90上に制振材を塗布することができる。したがって、塗布された制振材中に気泡が混入することを抑制することができる。すなわち、気泡の混入量が少ない制振材層を形成することができる。これにより、制振材層の剛性を向上させて、制振材層の制振性能を向上させることができる。
【0022】
また、従来のように制振材を波状に折り重ねて塗布した場合、塗布した制振材の表面にはY方向に沿って凹凸が形成される。すなわち、塗布後の制振材のY方向の位置による厚さのばらつきが非常に大きい。また、従来のノズルでは、制振材をX方向に広がるように吐出するので(図14参照)、塗布後の制振材のX方向の位置による厚さのばらつきも非常に大きい。
本実施例の制振材塗布装置80によれば、塗布された制振材が波状に折り重なることがないので、Y方向の位置による厚さのばらつきは非常に小さい。また、ノズル10は、制振材をX方向に広がらないように吐出するので、X方向の厚さのばらつきも非常に小さい。すなわち、本実施例の制振材塗布装置80によれば、厚さのばらつきをほとんど生じさせないで、制振材を塗布することができる。また、このように、位置による厚さのばらつきがほとんどなくなるので、塗布後の制振材の厚さを正確に測定することが可能となる。したがって、塗布される制振材の厚さを非常に厳密に管理することが可能となる。これによって、塗布される制振材の、工程毎のばらつきも非常に小さくなる。
【0023】
また、従来のように制振材を波状に折り重ねて塗布し、ノズルの移動速度によって制振材の厚さを管理する場合、ノズルの移動速度のばらつきが大きいために、これによっても塗布される制振材に厚さのばらつきが生じていた。
上述した実施例では、ノズル10の吐出口12の幅によって塗布される制振材の厚さを調整する。ノズル10の吐出口12の幅は、正確に調整することが可能である。したがって、これによっても塗布される制振材の厚さのばらつきが抑制される。特に、上述した実施例のノズル10では、板状部材16、17が、ノズル10の制振材吐出方向(図3の矢印72)に対して斜め(約45度の方向)に移動する。したがって、板状部材16、17の移動量に対して吐出口12の幅の変化量が小さくなる(約ルート2分の1になる)。したがって、吐出口12の幅をより正確に調整することが可能となっている。すなわち、塗布される制振材の厚さをより正確に調整することができる。
【0024】
また、従来のように制振材を波状に折り重ねて塗布する方法では、ワークに対して制振材を吐出する角度が、重要なパラメータの一つである。吐出する角度が適切でないと、制振材が安定して波状に折り重ならないためである。
本実施例の制振材塗布装置80では、制振材を波状に折り重ねないために、ワークに対する制振材の吐出角度はそれほど問題とならない。上述した実施例のように、ワークに対してノズル10の制振材吐出方向を直角としても問題はない。したがって、ノズルをY方向の何れの向き(すなわち、+Yの向きと−Yの向き)に移動させても、制振材を好適に塗布することができる。したがって、制振材塗布工程の作業効率が向上し、より短時間で工程を終了させることが可能となる。
【0025】
制振材層に含まれる気泡の減少、及び、制振材層の厚さのばらつきの低減による制振性能の変化について検証した結果を、以下に説明する。
図7は、実施例の方法で塗布して形成した制振材層Aと、従来の方法で塗布して形成した制振材層Bの曲げ剛性を示している。この実験では、厚さが異なる複数の制振材層A、Bについて、曲げ剛性を測定した。図7に示すように、何れの厚さであっても、制振材層Aの方が、制振材層Bより曲げ剛性が高い結果となった。また、厚さが厚いほど、制振材層AとBの曲げ剛性の差が顕著となることが分かる。制振材層Aが制振材層Bより曲げ剛性が高いのは、制振材層A中に存在する気泡が制振材層Bより少ないためであると考えられる。
【0026】
図8は、ワーク上に制振材層Aを形成したテストピースA1とワーク上に制振材層Bを形成したテストピースB1について、シミュレーション(CAE)による振動実験の結果を示している。なお、テストピースA1とテストピースB1は、ワークの厚さ及び制振材層の厚さは等しい。図8の横軸は振動周波数を示しており、縦軸は振動時のイナータンスを示している。なお、イナータンスとは、入力する力Fと、測定点における加速度Aにより、A/Fで示される値である。イナータンスが高いことは、高い振動(ノイズ)が発生していること(すなわち、制振性能が低いこと)を意味する。
図8に示すように、テストピースA1とテストピースB1を比較すると、一部の周波数範囲を除く大部分の周波数範囲において、テストピースA1の方がテストピースB1よりイナータンスが低い。特に、自動車においてはイナータンスのピーク値が問題となるが、図8に示すように、テストピースA1ではテストピースB1よりイナータンスのピーク値が約1.4dB低くなるという結果が得られた。テストピースA1がテストピースB1よりイナータンスが低い(すなわち、制振性能が高い)のは、図7でも説明したように、制振材層Aに含まれる気泡が少なく、制振材層Aの剛性が高いためであると考えられる。
【0027】
また、制振材層の厚さのばらつきも、制振材層の制振性能に影響を与えることが分かっている。図9と図10は、制振材層A、Bの厚さが異なる複数のテストピースについて、図8と同様の振動実験を行った結果を示している。上述したように、本実施例の制振材塗布装置80を用いて形成される制振材層Aは、従来の制振材層Bよりも厚さのばらつきが少なくなる。従来の製造実績を考慮すると、制振材層Bに生じる厚さのばらつきは約1.5mmである。これに対し、制振材層Aでは、厚さのばらつきを約0.5mmに抑えることができる。本実験は、制振材層A、Bの厚さのばらつきによる制振性能を評価するものである。すなわち、図9は、テストピースA1と、テストピースA1より制振材層Aの厚さを0.5mm増加させたテストピースA2と、テストピースA3より制振材層Aの厚さを0.5mm減少させたテストピースA3について、図8と同様の実験を行った結果を示している。また、図10は、テストピースB1と、テストピースB1より制振材層Bの厚さを1.5mm増加させたテストピースB2と、テストピースB3より制振材層Aの厚さを1.5mm減少させたテストピースB3について、図8と同様の実験を行った結果を示している。
図9と図10を比較することで明らかなように、テストピースA1〜A3の間で生じるイナータンスのばらつきは、テストピースB1〜B3の間で生じるイナータンスのばらつきより非常に小さくなる。特に、イナータンスのピーク値について見ると、図9のテストピースA3についてのピーク値Paは、図10のテストピースB3についてのピーク値Pbより約3.6dB小さい。このように、本実施例の制振材塗布方法によって制振材層の厚さばらつきが低減されることによって、制振材層の制振性能が向上する。
【0028】
以上に説明したように、実施例の制振材塗布装置80を用いて制振材層を形成することで、制振材層の制振性能を向上させることができる。このため、従来と同じ制振性能を発揮しようとする場合、制振材層を薄く形成することができる。例えば、上述した図9と図10の例では、テストピースB1の制振性能は、テストピースA3の制振性能と略一致する。テストピースA3の制振材層Aの厚さは、テストピースB1の制振材層Bより0.5mm薄い。すなわち、制振材層Aにより制振材層Bと同等の制振性能を発揮させる場合、制振材層Bより0.5mm薄い制振材層Aを形成すれば足りる。これを自動車に適用した場合を考えると、従来に比べて800gの軽量化を実現することができる。
【0029】
以上、実施例について説明した。
なお、上述した実施例では、ノズル10の移動速度V1を制振材の吐出速度V2と等しい速度とした。しかしながら、移動速度V1を吐出速度V2より大きくしてもよい。この場合、図6の長さL2が図5の長さL1より長くなるので、制振材は吐出時より引き伸ばされた状態でワーク90上に塗布されることになる。この場合にも、制振材が波状に折れ重なって塗布されることが防止される。なお、この場合には、ノズル10の吐出口12のスリット幅T1より塗布される制振材の厚さT2(図6参照)は薄くなる。この場合には、ノズル10の移動速度V1に応じて、適宜、吐出口12のスリット幅T1を調整することで、制振材の厚さT2を目標厚さに調整することができる。
また、上述した実施例では、図3に示すように、ノズル10の吐出口12の両側に可動式の板状部材16、17が設置されていた。しかしながら、図11に示すように、吐出口12の片側のみに可動式の板状部材16を設置し、吐出口12の他方の壁面部19は非可動(固定)としてもよい。このような構成によっても、板状部材16を矢印78に示すように移動させることで、吐出口12の幅(Y方向寸法)を変更することができる。また、壁面19は、板状部材16に合わせて矢印79に示すように上下に移動可能としてもよい。
また、上述した実施例では、ノズル10をY方向(スリット幅方向)に移動させたが、図12の矢印100に示すように、ノズル10をY方向に対して斜めに移動させてもよい。このときのノズル10の移動速度をVとすると、ノズル10のY方向(スリット幅方向)の移動速度V1はVcosθとなる(θは、Y方向とノズル10の移動方向との間の角度)。Vcosθで表されるノズル10のY方向の移動速度V1が制振材の吐出速度V2以上であれば、塗布される制振材が波状に折れ重なることを防止することができる。
また、上述した実施例では、ノズル10をY方向に移動させながら制振材を塗布したが、ノズル10とワーク90をY方向に相対移動させるのであれば、ノズル10とワーク90の何れを移動させてもよい。また、ノズル10とワーク90の双方を移動させてもよい。
【0030】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】制振材塗布装置80の構成を示す図。
【図2】ノズル10のX方向に沿った縦断面図。
【図3】ノズル10のY方向に沿った縦断面図。
【図4】ノズル10の下面図。
【図5】時刻t0において塗布されている制振材の説明図。
【図6】時刻t0+Δtにおいて塗布されている制振材の説明図。
【図7】制振材層A、Bの曲げ剛性を示すグラフ。
【図8】振動実験におけるテストピースA1、B1のイナータンスを示すグラフ。
【図9】振動実験におけるテストピースA1〜A3のイナータンスを示すグラフ。
【図10】振動実験におけるテストピースB1〜B3のイナータンスを示すグラフ。
【図11】変形例のノズルの図3に対応する縦断面図。
【図12】ノズル10を斜めに移動させるときの速度V1の説明図(ノズル10を上側から見た図)。
【図13】従来の塗布方法により塗布された制振材を示す図。
【図14】従来の塗布方法に使用されるノズルを示す図。
【符号の説明】
【0032】
10:ノズル
12:吐出口
16:板状部材
16a:側面
17:板状部材
17a:側面
19:壁面
20:吐出装置
22:配管
30:移動装置
40:制御装置
80:制振材塗布装置
90:ワーク
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材を吐出するノズル、制振材塗布装置、及び、制振材塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
制振性が要求される構造体に対して、その表面に制振材層を形成する技術が知られている。例えば、自動車においては、フロアパネル上に制振材層を形成することによって、車室内の制振性の向上を図っている。
制振材層を形成する際には、制振材層を形成する対象物であるワークの表面に、未硬化状態の制振材を塗布する。そして、塗布した制振材を硬化させることで、ワークの表面に制振材層を形成する。
【0003】
図13は、従来の制振材塗布方法を示している。ノズル200の吐出口202は、図13の奥行き方向(紙面に対して垂直方向)に長いスリット状に形成されており、奥行き方向の広い範囲に制振材を吐出することができる。従来の制振材塗布方法では、ノズル200を矢印210に示す方向に移動させながら、ノズル200からワーク204に向けて制振材を吐出する。これによって、ワーク204の表面全体に、制振材を塗布していく。
制振材は、所定の厚さで形成する必要がある。従来の制振材塗布方法では、吐出口の幅(ノズルの移動方向の幅)が狭いノズルを用い、ノズル200の移動速度を調整して、図13に示すようにワーク204上に制振材が波状に折れ重なって塗布されるようにしている。これによって、制振材を厚く塗布している。すなわち、ノズル200の移動速度によって、塗布される制振材の厚さ(図13の厚さT0)を調整している。なお、図13では、制振材の折れ重なった形状を明確に示しているが、制振材は粘性を有するので、実際には折れ重なって塗布された制振材はある程度均質化する。
【0004】
なお、特許文献1には、高粘度材料の塗布装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−262011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図13の制振材塗布方法では、ワーク204上に制振材が折れ重なって塗布される。したがって、塗布後の制振材中に多量の気泡が混入する。このため、塗布した制振材を硬化させて形成した制振材層中にも多量の気泡が存在することになり、制振材層の剛性が低くなる。したがって、制振材層の制振性能が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した実情に鑑みて創作されたものであり、気泡の混入を抑制しながら、制振材を塗布することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の制振材塗布装置は、ワーク上に制振材を塗布する。この制振材塗布装置は、ノズルと、相対移動手段と、吐出手段と、制御手段を有する。ノズルは、スリット状の吐出口を有し、その吐出口から制振材を吐出する。相対移動手段は、ノズルをワークの表面に沿って相対移動させる。吐出手段は、ノズルから制振材を吐出させる。制御手段は、ワークの表面に対するノズルのスリット幅方向の相対移動速度V1と、ノズルによる制振材の吐出速度V2が、V1≧V2の関係を満たすように相対移動手段と吐出手段を制御する。
この制振材塗布装置は、ワークの表面に対するノズルのスリット幅方向の相対移動速度V1を、制振材の吐出速度V2以上の速度とする。したがって、塗布される制振材が折れ重なることがない。これによって、塗布された制振材中に気泡が混入されることを抑制することができる。
【0009】
上述した制振材塗布装置は、ノズルが、吐出口のスリット幅を調整する調整機構を備えていることが好ましい。
このような構成によれば、スリット幅を調整することで、塗布される制振材の厚さを調整することができる。
【0010】
また、本発明は、制振材塗布方法をも提供する。この方法では、スリット状の吐出口を有するノズルを用いて、ワーク上に制振材を塗布する。この方法では、ワークの表面に対するノズルのスリット幅方向の相対移動速度V1と、ノズルによる制振材の吐出速度V2が、V1≧V2の関係を満たすように、ノズルをワークの表面に沿って相対移動させながらノズルから制振材を吐出する。
この方法によれば、塗布された制振材中に気泡が混入されることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、気泡が混入されることを抑制しながら、ワーク上に制振材を塗布することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
下記に詳細に説明する実施例の構成を最初に列記する。
(特徴1)調整機構は、吐出口の側面を、スリット幅方向に平行移動させる。その平行移動方向は、制振材の吐出方向(吐出される制振材の速度方向)に対して斜めである。
(特徴2)吐出口のスリット幅は、吐出口のスリット長さ方向(吐出口の伸びる方向)の位置によらず一定である。
(特徴3)ノズルは、吐出口のスリット長さ(吐出口が伸びる方向における吐出口の寸法)と略同一の範囲に制振材が吐出されるように形成されている。
(特徴4)制振材塗布時には、ノズルとワークのスリット幅方向の相対移動速度V1と、ノズルによる制振材の吐出速度V2を、等しい速度とする。そして、ノズルの吐出口のスリット幅を、塗布される制振材の目標厚さと同一とする。
【0013】
(実施例)
本発明を適用した制振材塗布装置について説明する。図1は、実施例の制振材塗布装置80を示している。図1は、制振材塗布装置80により、ワーク90上に制振材を塗布する様子を示している。図示するように、制振材塗布装置80は、ノズル10と、吐出装置20と、移動装置30と、制御装置40を備えている。
【0014】
図1に示すように、ノズル10は、扁平形状を有している。ノズル10の上端には、配管22が接続されている。配管22の他端は、吐出装置20に接続されている。ノズル10は、その偏平形状を平面視したときに、配管22の接続部から下方に向かうに従って広がる略台形形状を備えている。
図2は、ノズル10をその偏平面に沿って断面視した縦断面図である。また、図3は、ノズル10をその偏平面と直交する方向に沿って断面視した縦断面図である。また、図4は、ノズル10を下面側から見た平面図を示している。
図2〜4に示すように、ノズル10の下端には、一対の板状部材16、17が設置されている。板状部材16、17の間には、スリット状に伸びる隙間12が形成されている。図2、3に示すように、隙間12は、ノズル10の内部空間を介して配管22に連通している。後に詳述するが、吐出装置20は、配管22を介してノズル10に制振材(未硬化状態の制振材)を送り込む。したがって、隙間12からは、送り込まれた制振材が吐出される。すなわち、隙間12は、ノズル10の吐出口である。以下では、吐出口12が伸びる方向(スリット長さ方向)をX方向といい、吐出口12のスリット幅方向(X方向と直交する方向)をY方向という。板状部材16と板状部材17は、その側面16aと側面17aが平行となるように設置されている。したがって、吐出口12のスリット幅(Y方向の寸法)は、何れの位置でも一定となっている。
また、ノズル10は、図2の矢印70に示すように、吐出口12から制振材が真っ直ぐ吐出されるように設計されている。すなわち、吐出される制振材が、X方向に広がらないように設計されている。
【0015】
図3の矢印72は、吐出口12から吐出される制振材の吐出方向を示している。図3に示すように、板状部材16、17は、吐出方向70に対して、傾斜(本実施例では、45度の傾斜)した状態で取り付けられている。すなわち、板状部材16、17は、吐出口12側が下側に位置し、反吐出口12側が上側に位置するように取り付けられている。
板状部材16は、図3の矢印74に示すように平行移動することができる。板状部材17は、図3の矢印76に示すように平行移動することができる。したがって、板状部材16、17を移動させることで、吐出口12のスリット幅を変更することができる。
【0016】
吐出装置20は、配管22を介してノズル10に制振材を送り込む。
移動装置30は、ノズル10と機械的に接続されており、ノズル10を移動させる。
制御装置40は、吐出装置20と移動装置30の動作を制御する。
【0017】
次に、制振材塗布装置80の動作について説明する。
制振材塗布装置80により制振材を塗布する際には、ノズル10の板状部材16、17の位置を調整することによって、ノズル10の吐出口12のスリット幅を調整する。このとき、吐出口12のスリット幅を、ワーク90上に塗布すべき制振材の目標厚さと一致させる。
次に、固定したワーク90上の塗布開始位置にノズル10を移動させる。そして、図1に示すように、吐出装置20を作動させてノズル10から制振材を吐出しながら、移動装置30によってノズル10をY方向に移動させる。これによって、ワーク90上に制振材を塗布していく。このとき、制御装置40は、ノズル10をY方向に移動させる速度V1が、ノズル10が吐出する制振材の吐出速度V2と一致するように、吐出装置20と移動装置30を制御する。
【0018】
図5と図6は、塗布時の制振材の状態を説明する説明図である。
図5は、時刻t0における状態を示している。図5の例では、ノズル10から吐出された制振材は、そのΔt秒後にワーク90と接触する。図5の点P1は、時刻t0よりΔt秒前にノズル10から吐出された制振材を示している。Δt秒前に吐出された制振材であるので、点P1の制振材は、ワーク90に対して非接触状態の制振材と、接触状態の制振材との境界部に位置している。また、図5の点P2は、時刻t0においてノズル10の吐出口12に存在する制振材(すなわち、吐出する瞬間の制振材)を示している。図5の範囲Sは、点P1と点P2の間の範囲に存在する制振材を示している。すなわち、時刻t0の直前のΔt秒の間にノズル10から吐出された制振材の範囲を示している。したがって、図5の長さL1はV2Δtである。
図6は、時刻t0からさらにΔt秒(上記のΔt秒と同じ時間)が経過した後の状態を示している。この状態では、点P2の制振材が、ワーク90に対して非接触状態の制振材と、接触状態の制振材との境界部に位置する。また、点P1と点P2の間の距離L2は、Δt秒の間にノズル10が移動した距離に等しい。したがって、距離L2はV1Δtである。本実施例では、速度V1が速度V2に等しいので、距離L2は、図5の距離L1に等しい。
上述した距離L2が距離L1より短い場合には、ワーク90上に塗布される制振材は、図13に示すように、波状に折れ重なる。一方、距離L2が距離L1以上である場合には、ワーク90上に塗布される制振材が図13のように折れ重なることはない。したがって、本実施例の制振材塗布装置80によれば、波状に折れ重なることなくワーク90上に制振材を塗布することができる。
また、距離L2が距離L1に等しい場合、図6に示すように、塗布される制振材の厚さT2は、吐出口12のスリット幅T1と略等しくなる。上述したように、吐出口12のスリット幅T1は、塗布すべき制振材の目標厚さに調整されている。したがって、目標厚さと略等しい厚さでワーク90上に制振材を塗布することができる。
【0019】
また、上述したように、ノズル10は、吐出口12から吐出される制振材が、X方向に広がらないように設計されている。したがって、X方向に厚さのばらつきをほとんど生じさせないで、制振材をワーク90上に塗布することができる。
すなわち、図14に示すように、従来の制振材塗布用ノズル200は、矢印222に示すようにX方向に広がって制振材を塗布するように設計されていた。この場合、X方向の位置によって制振材の吐出量にばらつきが生じる。したがって、ワーク90上に塗布される制振材の厚さが、X方向の位置によってばらついてしまう。
本実施例のノズル10によれば、塗布される制振材の、X方向の位置によるばらつきも低減することができる。
【0020】
以上のようにして、ワーク90上の必要な範囲に制振材を塗布したら、ワーク90を加熱処理することによって、塗布した制振材を硬化させる。これによって、ワーク90上に制振材層が形成される。
【0021】
以上に説明したように、本実施例の制振材塗布装置80によれば、制振材を波状に折り重ねることなく、ワーク90上に制振材を塗布することができる。したがって、塗布された制振材中に気泡が混入することを抑制することができる。すなわち、気泡の混入量が少ない制振材層を形成することができる。これにより、制振材層の剛性を向上させて、制振材層の制振性能を向上させることができる。
【0022】
また、従来のように制振材を波状に折り重ねて塗布した場合、塗布した制振材の表面にはY方向に沿って凹凸が形成される。すなわち、塗布後の制振材のY方向の位置による厚さのばらつきが非常に大きい。また、従来のノズルでは、制振材をX方向に広がるように吐出するので(図14参照)、塗布後の制振材のX方向の位置による厚さのばらつきも非常に大きい。
本実施例の制振材塗布装置80によれば、塗布された制振材が波状に折り重なることがないので、Y方向の位置による厚さのばらつきは非常に小さい。また、ノズル10は、制振材をX方向に広がらないように吐出するので、X方向の厚さのばらつきも非常に小さい。すなわち、本実施例の制振材塗布装置80によれば、厚さのばらつきをほとんど生じさせないで、制振材を塗布することができる。また、このように、位置による厚さのばらつきがほとんどなくなるので、塗布後の制振材の厚さを正確に測定することが可能となる。したがって、塗布される制振材の厚さを非常に厳密に管理することが可能となる。これによって、塗布される制振材の、工程毎のばらつきも非常に小さくなる。
【0023】
また、従来のように制振材を波状に折り重ねて塗布し、ノズルの移動速度によって制振材の厚さを管理する場合、ノズルの移動速度のばらつきが大きいために、これによっても塗布される制振材に厚さのばらつきが生じていた。
上述した実施例では、ノズル10の吐出口12の幅によって塗布される制振材の厚さを調整する。ノズル10の吐出口12の幅は、正確に調整することが可能である。したがって、これによっても塗布される制振材の厚さのばらつきが抑制される。特に、上述した実施例のノズル10では、板状部材16、17が、ノズル10の制振材吐出方向(図3の矢印72)に対して斜め(約45度の方向)に移動する。したがって、板状部材16、17の移動量に対して吐出口12の幅の変化量が小さくなる(約ルート2分の1になる)。したがって、吐出口12の幅をより正確に調整することが可能となっている。すなわち、塗布される制振材の厚さをより正確に調整することができる。
【0024】
また、従来のように制振材を波状に折り重ねて塗布する方法では、ワークに対して制振材を吐出する角度が、重要なパラメータの一つである。吐出する角度が適切でないと、制振材が安定して波状に折り重ならないためである。
本実施例の制振材塗布装置80では、制振材を波状に折り重ねないために、ワークに対する制振材の吐出角度はそれほど問題とならない。上述した実施例のように、ワークに対してノズル10の制振材吐出方向を直角としても問題はない。したがって、ノズルをY方向の何れの向き(すなわち、+Yの向きと−Yの向き)に移動させても、制振材を好適に塗布することができる。したがって、制振材塗布工程の作業効率が向上し、より短時間で工程を終了させることが可能となる。
【0025】
制振材層に含まれる気泡の減少、及び、制振材層の厚さのばらつきの低減による制振性能の変化について検証した結果を、以下に説明する。
図7は、実施例の方法で塗布して形成した制振材層Aと、従来の方法で塗布して形成した制振材層Bの曲げ剛性を示している。この実験では、厚さが異なる複数の制振材層A、Bについて、曲げ剛性を測定した。図7に示すように、何れの厚さであっても、制振材層Aの方が、制振材層Bより曲げ剛性が高い結果となった。また、厚さが厚いほど、制振材層AとBの曲げ剛性の差が顕著となることが分かる。制振材層Aが制振材層Bより曲げ剛性が高いのは、制振材層A中に存在する気泡が制振材層Bより少ないためであると考えられる。
【0026】
図8は、ワーク上に制振材層Aを形成したテストピースA1とワーク上に制振材層Bを形成したテストピースB1について、シミュレーション(CAE)による振動実験の結果を示している。なお、テストピースA1とテストピースB1は、ワークの厚さ及び制振材層の厚さは等しい。図8の横軸は振動周波数を示しており、縦軸は振動時のイナータンスを示している。なお、イナータンスとは、入力する力Fと、測定点における加速度Aにより、A/Fで示される値である。イナータンスが高いことは、高い振動(ノイズ)が発生していること(すなわち、制振性能が低いこと)を意味する。
図8に示すように、テストピースA1とテストピースB1を比較すると、一部の周波数範囲を除く大部分の周波数範囲において、テストピースA1の方がテストピースB1よりイナータンスが低い。特に、自動車においてはイナータンスのピーク値が問題となるが、図8に示すように、テストピースA1ではテストピースB1よりイナータンスのピーク値が約1.4dB低くなるという結果が得られた。テストピースA1がテストピースB1よりイナータンスが低い(すなわち、制振性能が高い)のは、図7でも説明したように、制振材層Aに含まれる気泡が少なく、制振材層Aの剛性が高いためであると考えられる。
【0027】
また、制振材層の厚さのばらつきも、制振材層の制振性能に影響を与えることが分かっている。図9と図10は、制振材層A、Bの厚さが異なる複数のテストピースについて、図8と同様の振動実験を行った結果を示している。上述したように、本実施例の制振材塗布装置80を用いて形成される制振材層Aは、従来の制振材層Bよりも厚さのばらつきが少なくなる。従来の製造実績を考慮すると、制振材層Bに生じる厚さのばらつきは約1.5mmである。これに対し、制振材層Aでは、厚さのばらつきを約0.5mmに抑えることができる。本実験は、制振材層A、Bの厚さのばらつきによる制振性能を評価するものである。すなわち、図9は、テストピースA1と、テストピースA1より制振材層Aの厚さを0.5mm増加させたテストピースA2と、テストピースA3より制振材層Aの厚さを0.5mm減少させたテストピースA3について、図8と同様の実験を行った結果を示している。また、図10は、テストピースB1と、テストピースB1より制振材層Bの厚さを1.5mm増加させたテストピースB2と、テストピースB3より制振材層Aの厚さを1.5mm減少させたテストピースB3について、図8と同様の実験を行った結果を示している。
図9と図10を比較することで明らかなように、テストピースA1〜A3の間で生じるイナータンスのばらつきは、テストピースB1〜B3の間で生じるイナータンスのばらつきより非常に小さくなる。特に、イナータンスのピーク値について見ると、図9のテストピースA3についてのピーク値Paは、図10のテストピースB3についてのピーク値Pbより約3.6dB小さい。このように、本実施例の制振材塗布方法によって制振材層の厚さばらつきが低減されることによって、制振材層の制振性能が向上する。
【0028】
以上に説明したように、実施例の制振材塗布装置80を用いて制振材層を形成することで、制振材層の制振性能を向上させることができる。このため、従来と同じ制振性能を発揮しようとする場合、制振材層を薄く形成することができる。例えば、上述した図9と図10の例では、テストピースB1の制振性能は、テストピースA3の制振性能と略一致する。テストピースA3の制振材層Aの厚さは、テストピースB1の制振材層Bより0.5mm薄い。すなわち、制振材層Aにより制振材層Bと同等の制振性能を発揮させる場合、制振材層Bより0.5mm薄い制振材層Aを形成すれば足りる。これを自動車に適用した場合を考えると、従来に比べて800gの軽量化を実現することができる。
【0029】
以上、実施例について説明した。
なお、上述した実施例では、ノズル10の移動速度V1を制振材の吐出速度V2と等しい速度とした。しかしながら、移動速度V1を吐出速度V2より大きくしてもよい。この場合、図6の長さL2が図5の長さL1より長くなるので、制振材は吐出時より引き伸ばされた状態でワーク90上に塗布されることになる。この場合にも、制振材が波状に折れ重なって塗布されることが防止される。なお、この場合には、ノズル10の吐出口12のスリット幅T1より塗布される制振材の厚さT2(図6参照)は薄くなる。この場合には、ノズル10の移動速度V1に応じて、適宜、吐出口12のスリット幅T1を調整することで、制振材の厚さT2を目標厚さに調整することができる。
また、上述した実施例では、図3に示すように、ノズル10の吐出口12の両側に可動式の板状部材16、17が設置されていた。しかしながら、図11に示すように、吐出口12の片側のみに可動式の板状部材16を設置し、吐出口12の他方の壁面部19は非可動(固定)としてもよい。このような構成によっても、板状部材16を矢印78に示すように移動させることで、吐出口12の幅(Y方向寸法)を変更することができる。また、壁面19は、板状部材16に合わせて矢印79に示すように上下に移動可能としてもよい。
また、上述した実施例では、ノズル10をY方向(スリット幅方向)に移動させたが、図12の矢印100に示すように、ノズル10をY方向に対して斜めに移動させてもよい。このときのノズル10の移動速度をVとすると、ノズル10のY方向(スリット幅方向)の移動速度V1はVcosθとなる(θは、Y方向とノズル10の移動方向との間の角度)。Vcosθで表されるノズル10のY方向の移動速度V1が制振材の吐出速度V2以上であれば、塗布される制振材が波状に折れ重なることを防止することができる。
また、上述した実施例では、ノズル10をY方向に移動させながら制振材を塗布したが、ノズル10とワーク90をY方向に相対移動させるのであれば、ノズル10とワーク90の何れを移動させてもよい。また、ノズル10とワーク90の双方を移動させてもよい。
【0030】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】制振材塗布装置80の構成を示す図。
【図2】ノズル10のX方向に沿った縦断面図。
【図3】ノズル10のY方向に沿った縦断面図。
【図4】ノズル10の下面図。
【図5】時刻t0において塗布されている制振材の説明図。
【図6】時刻t0+Δtにおいて塗布されている制振材の説明図。
【図7】制振材層A、Bの曲げ剛性を示すグラフ。
【図8】振動実験におけるテストピースA1、B1のイナータンスを示すグラフ。
【図9】振動実験におけるテストピースA1〜A3のイナータンスを示すグラフ。
【図10】振動実験におけるテストピースB1〜B3のイナータンスを示すグラフ。
【図11】変形例のノズルの図3に対応する縦断面図。
【図12】ノズル10を斜めに移動させるときの速度V1の説明図(ノズル10を上側から見た図)。
【図13】従来の塗布方法により塗布された制振材を示す図。
【図14】従来の塗布方法に使用されるノズルを示す図。
【符号の説明】
【0032】
10:ノズル
12:吐出口
16:板状部材
16a:側面
17:板状部材
17a:側面
19:壁面
20:吐出装置
22:配管
30:移動装置
40:制御装置
80:制振材塗布装置
90:ワーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク上に制振材を塗布する制振材塗布装置であって、
スリット状の吐出口を有し、その吐出口から制振材を吐出するノズルと、
ノズルをワークの表面に沿って相対移動させる相対移動手段と、
ノズルから制振材を吐出させる吐出手段と、
ワークの表面に対するノズルのスリット幅方向の相対移動速度V1と、ノズルによる制振材の吐出速度V2が、
V1≧V2
の関係を満たすように相対移動手段と吐出手段を制御する制御手段を有すること特徴とする制振材塗布装置。
【請求項2】
ノズルが、吐出口のスリット幅を調整する調整機構を備えていることを特徴とする請求項2に記載の制振材塗布装置。
【請求項3】
スリット状の吐出口を有するノズルを用いて、ワーク上に制振材を塗布する方法であって、
ワークの表面に対するノズルのスリット幅方向の相対移動速度V1と、ノズルによる制振材の吐出速度V2が、
V1≧V2
の関係を満たすように、ノズルをワークの表面に沿って相対移動させながらノズルから制振材を吐出することを特徴とする制振材塗布方法。
【請求項1】
ワーク上に制振材を塗布する制振材塗布装置であって、
スリット状の吐出口を有し、その吐出口から制振材を吐出するノズルと、
ノズルをワークの表面に沿って相対移動させる相対移動手段と、
ノズルから制振材を吐出させる吐出手段と、
ワークの表面に対するノズルのスリット幅方向の相対移動速度V1と、ノズルによる制振材の吐出速度V2が、
V1≧V2
の関係を満たすように相対移動手段と吐出手段を制御する制御手段を有すること特徴とする制振材塗布装置。
【請求項2】
ノズルが、吐出口のスリット幅を調整する調整機構を備えていることを特徴とする請求項2に記載の制振材塗布装置。
【請求項3】
スリット状の吐出口を有するノズルを用いて、ワーク上に制振材を塗布する方法であって、
ワークの表面に対するノズルのスリット幅方向の相対移動速度V1と、ノズルによる制振材の吐出速度V2が、
V1≧V2
の関係を満たすように、ノズルをワークの表面に沿って相対移動させながらノズルから制振材を吐出することを特徴とする制振材塗布方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−36110(P2010−36110A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201958(P2008−201958)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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